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アルミニウム産業戦略

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アルミニウム産業戦略
アルミニウム産業戦略
1.国際的に通用する競争力の育成
(基本的方向)
・ 我が国のアルミ産業は、1980年代のアルミ製錬事業からの撤退以降、加工(押出・板圧
延)を担う産業として成長してきたが、現状に満足することなく、我が国アルミ産業が
世界に冠たるアルミ産業として将来にわたって持続的に発展していくためには、原料の
需給動向等、取り巻く諸環境を中長期的に見通した上で、垂直統合型(原料から加工ま
での一貫)、加工専業型などビジネスモデルの長所・短所を分析し、最も競争力が発揮
できるビジネスモデルを追求していく姿勢が重要である。
・ 現在の我が国アルミ産業の強みは、品質・納期での要求レベルが高い国内ユーザーを背
景に、高品質、小ロット多品種での“ユーザー対応力”であり、LME制度下でモノの
確保を図った上での賃加工(ロールマージン)方式により、原料価格変動リスクを相当
程度川下に転嫁できるビジネスモデルを業界として作り上げていることである。
・ 一方、弱みとして挙げられる点は、1社単位の企業規模の違いからくる研究開発費の格
差、資本力を活かして規模のメリットを得る欧米の大量生産・専門工場と比較して生産
性で劣ること、成形技術や接合技術などの加工技術が欧米に対して遅れていること等で
あり、原料高騰中の現下においては、賃加工方式が川上を持つ欧米の垂直統合型よりも
業界全体としては利益率が低くならざるをえないことである。
・ 今後の方向性として、諸条件の変化の中で常に最適なビジネスモデルを追求していくと
ともに、常に現下の加工専業型の我が国アルミ産業の前提に立てば、加工工程の競争力
強化に一層磨きをかける観点から、①国内のユーザーとの積極的な連携、②合金開発の
強化、③材料の組成制御から表面処理、成形性、接合などの加工までを視野においた一
連のプロセス技術の強化、④成形性、接合、表面処理の改善などより川下を意識した加
工技術の向上等が期待され、さらに中長期的な産業の発展の視点からの産学官連携が重
要である。
(1)最適なビジネスモデルの追求
我が国アルミ産業の発展の観点から、原料・地金の需給動向、電力価格、川上産業の川下
展開指向やユーザー産業との力関係、業界内プレイヤー数等、諸環境条件を中長期的に見通
した上で、垂直統合型(原料から加工までの一貫)、加工専業型などビジネスモデルの長所・
短所を分析し、常にその時最も競争力が発揮できるビジネスモデルを追求していく姿勢が重
要である。ボーキサイトやアルミナの価格・寡占化の動向、欧米のアルミメジャーの構造変
化(例えば、Alcanによる圧延部門の切り離し)、中国に代表されるアルミ産業の成長等を注
視していくことが不可欠であり、
個々の企業レベルでの戦略的な対応が求められるとともに、
必要に応じ、日本のアルミ産業全体としての対処も検討すべきである。
(2)アルミ基盤技術力の強化
・
現在の“加工”を強みとする我が国アルミ産業に対するブランドの維持・向上を図るた
めには、海外のアルミ材料との差別化が今後一層重要であり、汎用材ではなく、材料の
品質が最終製品のスペックに影響するような素材レベルならびに組成制御などプロセス
レベルから差別化が図られる分野での加工技術力(プロセスイノベーション)を一層高
めることが重要である。
・ 具体的な重要技術分野としては、①アルミ合金設計力、②シミュレーション技術(組織・
材質予測モデルの開発など)、③プロセス技術(モデルによる自動形状、温度制御などの
制御技術、そのためのロール、押出の金型設計・製造技術、プロセス管理技術など)、④
加工技術の4点が重要である。
・ 我が国アルミ産業が更なる発展を遂げていくためには、上記(1)のビジネスモデルの
追求だけでなく、プロセスイノベーションに加え、プロダクトイノベーションが一層重要
であり、アルミ産業において、プロダクトイノベーション力を強化する方策について検討
の深化が必要である。
(3)先駆的な国内ユーザー(リードユーザ)との連携
・
国内ユーザーからの高い品質要求、国内の市場に鍛えられた強みが海外市場での競争力
の源泉となっていることから、国内において、品質力・技術力を磨くことが国内だけで
なく、海外展開の競争力の源泉である。NEDOプロジェクトの活用を含め、自動車メ
ーカー等と一体で、世界に先駆けた新材料の開発を進めていくことが重要である。
・ なお、自動車等新分野へのアルミの適用分野の拡大にあたっては、コスト問題が非常に
大きく影響するが、コストだけでなく、成形性・デザイン性、塗装性・表面処理など、
多角的な観点からアルミ採用が進むための総合的な技術力が必要である。
(4)次世代発展基盤(人材育成・技術)としての産学官連携の推進
・
新しいアルミ材料技術・プロセス技術の創成、将来のアルミ産業を担う人材育成の両面
から、産学官の連携強化は重要である。
・
具体的には、解析力、シミュレーション力で学の協力を得ることによる基盤技術力の強
化、産業界側からアルミに対する魅力の発信等のために、大学出張講座の設置、企業か
らの研究費助成、ポスドクも含めた相互の人材交流の活性化等を積極的に推進すべきで
ある。特に、未来を開拓するような先進的なR&Dプロジェクトの実施等により、学生
に対しアルミ産業に就職した場合の将来展望、夢を与えられることが人材確保を図る上
で重要である。
2.アルミの長所が最大限有効活用される社会制度の構築による需要開拓
(基本的方向)
・国内の経済成長率に限界がある中で、その枠を越えてアルミ需要全体の増大を図るために
は、現在の需要分野を着実に拡大していくだけでなく、社会的要請に基づきアルミが必要と
される社会を積極的に構築していく視点が重要である。
(1)自動車燃費規制
地球温暖化の防止、燃費向上によるユーザー利益の拡大の観点から、自動車の燃費規制に
ついて、ユーザー企業の軽量化努力が一層促進されるような制度設計とされるべきである。
現在の規制では重量が大きくなると燃費基準が低くなり、
大型化促進効果がある。
このため、
現行の重量区分毎の規制に加え、全車的な平均燃費基準を入れることや現行の燃費の階段状
の規制を、総排気量等を基準にすることが考えられる。
(2)容器・建材等のライフサイクル評価
飲料容器、建材などについては、再利用するまでのライフサイクルコストや廃材の処分コ
ストまで含めたトータルのライフサイクルコストを比較して、最終消費者が選択できるよう
な制度設計にすべきである。具体的には、まず素材としてライフリサイクルコストの科学的
な評価を適宜見直すとともに、リサイクルコスト、処分コストを含めた総合的コスト評価を
行うべきである。その上で、ユーザーの選択を促す規制、優遇措置等を推進すべきである。
3.ユーザーと一体となった国際展開の推進
(基本的方向)
①現在の我が国アルミ産業は、家電、自動車等国際的にも競争力のある国内のユーザー企
業の要請に適合した高品質アルミ素材を提供する“ユーザー対応力”が競争力の源泉である
こと、②国内のアルミ総需要の伸びには限界があり、国内のユーザー企業は海外での現地生
産にシフトしていること、等を鑑みれば、今後、我が国アルミ産業が持続的に発展していく
ためには、
ユーザーとの連携を重視した形での国際展開を積極的に推進していく必要がある。
特に、成長途上である中国は、資本財を中心にアルミ需要の大きな伸び(2015年1040万ton
予想で2003年実績の2.3倍(2005年6月世界アルミニウム会議) )が予想されることから、特に留意
が必要である。
(1)押出分野
・ 自動車用熱交換器部品等の押出分野においては、従来は、1990年代中頃まで主に輸出
で対応していたが、取引関係の強い日系の家電メーカー、自動車メーカーの現地会社から
の現地化要請に基づき、現地生産化が進んでいる(2005年12月現在で244プロジェクト(た
だし、ダイキャスト、二次合金製造等も含んだ数字))。この現地化要請に応じた背景と
して、現地生産に必要となる設備投資規模が小さく(約30億程度)、技術移転が容易であ
ったこと等が挙げられるが、逆に、押出に必要な設備装置も外販されていること等の理由
から現地系のアルミ押出企業が急速に成長している。
・ したがって、海外市場でのコモディティ化が急速に進んでいることから、今後は高性能
品や高付加価値品等で差別化を図っていくとともに、日本の押出分野の強みである、合金
設計力、ダイス金型設計・製造力、それらを総合的に製造に結びつけるプロセス技術等の
特許やノウハウの管理の徹底が必要である。
・ 特に、アルミ建材は、国内需要分野の今後の伸びが期待できないことから、今後の成長が
期待できる中国等アジアへ、
汎用品ではなくノンステップレール等の機能化や高機能シス
テム窓製品等の高付加価値品による差別化を一層図っていく必要がある。
(2)板分野
・
板分野においては、日本の圧延メーカーの現在の企業規模・財政基盤から見て、必要と
なる設備投資規模が非常に大きいこと(30万ton規模で600億円程度)、設備投資に経済
的に見合うだけのまとまった規模の板需要が見込めるかについては不透明であることな
ど、投資判断が難しい。
・ したがって、アルミ企業1社での進出は極めて難しく、欧米アルミメジャーの動向も見
定めつつ、国内外のアルミメーカーとの提携等の手段の可能性も含めて、海外市場への参
入機会を戦略的に検討する必要がある。このためには、情報交換等によるアルミ圧延業界
全体としての相場観の形成、国内自動車等ユーザーとの連携強化など、日本の産業全体で
協力してこの課題に取り組む仕掛けが必要である。
・ また、海外に進出する場合、汎用のアルミ板を供給するだけでなく、鋼板でのハイテン
の様に、強みとなる+αの付加価値が必要である。
(3)技術流出の防止
技術流出は、IT等を通じてだけでなく人材や装置等を通じても行われること、一企業か
らの核となる技術の流出は他の企業の競争力にも影響することから、技術流出防止ガイドラ
イン等を参考に各企業レベルにおいて技術流出の防止に引き続き取り組むことが現地生産に
おける日系アルミ企業の競争力の維持・強化になるだけでなく、ひいてはアルミ産業全体に
とって重要である。
(4)海外活動の円滑化等のためのインフラ整備
・
我が国アルミ企業の海外ビジネス活動を円滑にするためには、現地での原材料、電力、
人材等の調達環境や、公害防止、規格、計測等の社会インフラ、直接投資、取引慣行ル
ール等のビジネスインフラ等が重要である。EPAを関税の撤廃・引き下げの視点から
だけでなく、我が国アルミ産業の現地ビジネスの円滑化のためのインフラ整備の観点か
ら、行政手続の効率化・簡素化、基準認証制度の整備、投資に関する規制の自由化、知
的財産の保護、裾野産業の育成の問題等に積極的に取り組む必要がある。
・
現在、日本貿易統計といったデータはあるものの、主要用途別輸出、海外生産での主要
用途別出荷、進出した日系企業からの我が国への輸入(アウトイン)といった海外の日
系事業所での生産・販売活動の状況を把握するためのデータはない。今後、我が国アル
ミ企業が海外からの日本のアルミ需要に応えつつ的確にビジネス展開を図っていくため
のインフラとして、(社)日本アルミニウム協会を中心に、国際活動関連の統計の整備、
国際部門の組織強化が必要である。
・
特に、中国を中心に押出事業に加え板事業が急速に立ち上がりつつあり、世界的に供給
が過剰になることも懸念されることから、日本アルミ製品の差別化が一層重要であると
ともに、日本市場へ不当な安売りによる国内産業への損害が起きないよう輸出入の状況
を的確かつ客観的に把握しておくことが重要である。
4.アルミの資源確保と循環型社会の構築
(基本的方向)
・アルミ原料を海外に100%依存する我が国のアルミ産業にとって、資源の確保と資源循
環は動脈と静脈であり、一体的な戦略と推進が不可欠である。
(1)海外資源の安定確保
・
アルミナ・アルミ地金生産を持つAlcoa等の欧米メジャーは、鉱石から圧延事業までの垂
直統合モデルであるのに対し、我が国アルミ産業は、1980年代のアルミ製錬撤退以降、
アルミ地金を開発輸入(45%)、長期契約(40%)等により調達し圧延加工することでロ
ールマージンを得るビジネスモデルで成長してきた。
・
LME制度はアルミ地金の国際標準価格での現物の確保を保証するものであり、ロール
マージン方式は、原料の価格変動リスクを川下に転嫁する仕組みのため、地金を海外に
依存する我が国はLME制度による現物の確保、価格変動のリスクを極力負わないこと
の恩恵を永く受けてきたが、原料高騰の現下においては、特に原料(ボーキサイト・ア
ルミナ)権益を持つ欧米、ロシアのアルミメジャーが利益率を向上させ、競争力を増し
ている。
・
我が国アルミ産業として、現在の圧延(加工)工程の競争力だけで海外のアルミメジャ
ーに互していけるのか、より上流の原料・地金の権益確保の必要性の有無、製錬事業者
のより川下へのビジネス展開指向等、1.(1)に示すビジネスモデルの検討を行った
上で、資源確保問題に対応していくことが重要である。
・
LME制度の確立以前に、アルミ製錬の国内撤退に伴う資源確保リスク回避の観点から
官民共同の海外アルミ製錬プロジェクトも実施されているが、現時点で改めてその意義
を確認するとともに、海外製錬プロジェクトに権益参加することが地金サプライヤーに
対するバーゲニングパワーを有することにもなること等アルミ地金開発輸入の長所も考
慮に入れて、アルミ資源戦略を検討する必要がある。
・
今後、アルミ地金権益の確保等の開発輸入、更には上流のボーキサイト・アルミナ権益
の確保を実施する場合には、我が国アルミ企業と地金権益を拡大している商社との連携
の強化等民−民ベースの取組を基本としつつ、JBIC等政府系金融機関の活用、OD
Aによる現地の電力・交通インフラ整備との連携等による支援も実施していく必要があ
る。
(2)国内リサイクルの一層の推進
(基本的方向)
・
国内で原料として使用するアルミ再生地金は、全地金需要の約3割を占め、近年増加傾
向にあるが、資源確保及び環境保全の観点から一層リサイクル率を向上させる必要があ
る。
①リサイクル指標の見直し
・
リサイクルは経済合理性に基づき進められるが、規格や表示方法の統一はリサイクルの
し易さに影響し、リサイクル率の計算方法や統計の取り方などもリサイクルの評価に影
響することから、リサイクルが促進されやすい指標の整備を行う必要がある。
・
現在、先行するアルミ缶リサイクル率は86%(2004年)であるが、残りの14%につ
いては、要因をさらに分析し計算精度の向上、及び可能であれば適切な目標設定の見直
しとその実現方策について検討する。
②リサイクルしやすい製品設計と将来の展伸材リサイクル
・
現在、リサイクルによる2次地金は、混入物によって低品位化するため鋳造ダイカスト
用途にそのほとんどがリサイクルされているが、近年の複合材、樹脂等の比率の増大は、
一層の品質の低下をもたらす。
・
したがって、より分別回収が行いやすい製品設計の検討が必要である。
・
今後、自動車リサイクル法の施行等に伴い、展伸材の回収が増大する時期に備え、展伸
材から展伸材へのリサイクル促進の為の環境整備を行う観点から、例えばサッシ及び自
動車パネル材を対象に、まずは、リサイクルルートの構築、異種金属の混入による低品
位化を避けるための合金規格及び表示方法等について、業界内での統一等の対応を事前
に検討しておく必要がある。
③リサイクル統計の整備
・
リサイクル状況の正確な把握の観点から、現在、把握できていないアルミスクラップの
国内需要及び輸出入量等について、通関統計及び需要関連統計の見直しを検討すべき。
(3)海外を含めた資源循環の構築
(基本的方向)
・
現在、アルミスクラップは貴重な有価物資源であることから、価格差等スクラップを取
り巻く環境に応じて経済合理性に基づき国内外を自由に流通させることが原則である。
しかし、アルミスクラップはアルミ資源を保有しない我が国にとって貴重な国内資源で
あること、価格が低下して無価廃棄物となるような場合には国内にスクラップが滞留、
海外へのアルミスクラップ輸出も困難になること等を鑑みれば、国内の消費活動で生じ
たアルミスクラップが経済合理性を損なわない範囲で国内においてリサイクル可能な環
境の整備に努めるべきである。
①国内の資源循環環境の整備
・
国内でのアルミリサイクルが経済合理性を維持できるよう、各企業において、リサイク
ルしやすい製品設計等に取り組むべきである。また、環境配慮コストが反映されないリ
サイクルコストが原因となって、国内におけるリサイクルが不必要に阻害されないよう、
海外でのアルミスクラップ再生が環境配慮を含めた適正なコスト負担で行われるよう、
注視が必要である。
②海外を含めた資源循環の構築
・
海外におけるアルミリサイクル率の向上は、我が国の資源確保にとってもプラスである
ことから、環境配慮を含めた適正なコスト負担の下でのアルミリサイクルに関する能力
構築、リサイクルのためのルール・制度の設計への強力等、我が国としても可能な協力
を行うべきである。
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