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伸銅品製造産業戦略
伸銅品製造産業戦略 1.伸銅品製造産業における個別分野の特徴に応じた戦略の必要性 伸銅品製造産業は、代表的な品種である銅条、銅管、黄銅の個別分野において、そ の市場の特性、我が国の強み、弱み等が異なる一方で、銅資源の確保・リサイクル等 においては横断的な対応が求められることから、個別分野別の対応と横断的な対応の 両面での戦略が必要である。 1−1 銅条分野 (1)基本的方向 現在、海外に対し比較優位を有し高度な技術力を活かした高付加価値分野である銅 条(リードフレーム用板材、コネクタ用板材)分野については、ユーザーへの対応力 を一層強化すること、技術流出を防止すること等を通じ、引き続き、競争力の維持強 化を図る。 銅産業は歴史が深いため業界内でも企業毎に微妙に合金規格や設備が異なるのが 現状であるが、今後、中国や欧州等とグローバルに互していくためには、日本グルー プとしての体力強化が不可欠であり、共同開発、提携等も視野に入れた連携強化が一 層求められる。 (2)ユーザー産業との連携の一層の強化 平坦度や残留歪み応力などの品質面において、ユーザーニーズに対し世界で最高水 準の品質を持つ製品を認定スキームで保証しつつ供給することが我が国の銅条分野 の強みであり、そのユーザーとのスペックインでの共同開発、ユーザーの将来課題を 踏まえた材料サイドからの先行開発等が引き続き重要である。 (3)材料技術での基盤技術力の向上 我が国銅条産業は、製品の品質において世界最高水準であるものの、使用する高機 能材料において海外の材料企業が基本技術を有しているものもあり、今後、自動車分 野や半導体多ピン用材料など新たな高強度材料分野等において、我が国銅条産業の材 料基盤技術力を一層高め、日本発の国際標準として提案していくことが重要である。 その際、銅条メーカーによる共同開発で進めるなど、我が国として連携して取り組む ことが重要である。 (4)技術流出の防止 銅条は、電気銅の溶解から鋳造、圧延、表面処理、スリット加工までに至る一連の 製造プロセスが密接に関連した技術的ノウハウの塊であり、競争力の源泉であること から、国内に維持することが我が国銅条産業全体の競争力の維持上重要である。仮に 海外に生産拠点を移す場合、製造装置や人材を通じて技術の流出が懸念されることか ら、各企業においてその特許を含めたノウハウ管理の徹底が重要である。 1−2 銅管分野 (1)基本的方向 国内外の市場ニーズに適合した品質の銅管が求められており、海外市場に対しては、 現地メーカーとのコスト競争に勝てる品質と価格となる汎用銅管を現地生産等の手 段によって供給することが重要である。 国内市場に対しては、高強度薄肉銅管の開発や新エネルギー・省エネルギー対応や 抗菌対応といった高付加価値銅管について、研究開発の効率化、研究開発の成果が報 われるよう価格交渉力の維持の観点からも、国内メーカー共同で取り組むことが重要 である。 (2)世界に先駆けた国内新需要の開拓 国内における銅管の需要を新たに起こしていくためには、銅の利用が社会システム に組み込まれることが重要であり、銅の機能性を活用することによる、最も先進的な 社会システムの構築を業界一丸となって提案していくべきである。また、住宅関連で の需要の拡大に際しては、職工が不足しており、銅管の簡易な継ぎ手技術等の開発が 重要である。 ①安全安心社会の実現 社会ニーズに対応して銅の機能性が最大限発揮される用途の開拓を進めるべき である。例えば、現在、樹脂管が主流である給水・給湯管分野では、抗菌性があり 環境ホルモンの懸念がない銅の特性が発揮できることから、病院での院内感染の予 防、衛生向上等の観点から、給水・給湯管分野での銅管の利用を促進することが期 待できる。 ②一層の省エネ・新エネ社会の実現 国内メーカーが特殊なダイス技術で製造した溝付き薄肉銅管は、海外製の溝付き 銅管に比し、銅量が少なくて済むだけでなく熱交換性に優れ、これを用いたエアコ ンは省エネ性能も高いことから、省エネルギーを一層促進する観点から、国内での エアコンに関する熱交換効率に対する規制の強化を検討すべきである。床暖房やヒ ートポンプについても、住宅メーカーと組んで省エネパッケージングとして普及の 推進が重要である。 また、新エネルギー分野では、ヒートポンプや燃料電池用バルブ等に銅管が用い られつつあるが、耐久性等を一層向上させることで、更なる普及が期待できる。こ うした銅の新たな普及啓発に関しては、日本銅センターが従前から行ってきたが、 学がその効果を科学的に評価することが必要である。 (3)技術流出の防止 溝付き銅管等の技術は、これまでダイスメーカーや製造装置メーカーとの共同開発 であり、技術的ノウハウが詰まったダイス・製造装置の外販により、競合相手に容易 にコピーされてしまうことがあったが、今後は、こうした競争力の源泉となるハイエ ンドの材料技術、加工・製造技術について特許化が重要であり、特許化が困難なもの についてはノウハウ管理が重要である。これにより、開発費を負担していない海外メ ーカー等の価格競争面での躍進を回避し、開発投資を回収することが重要である。 (4)アジアとの連携と国内グループ化の検討 汎用銅管は既に技術的に差別化が難しいとともにグローバル化していることから、 当該分野で競争力を発揮するためには、アジア需要に応える体制として、日本同士の 連携やアジアとの連携等、規模を重視した現地生産の一層の効率化が重要である。 また、国内銅管ビジネスに大手4社が存在し過当競争であり、研究開発・生産・販 売の各段階において、国内におけるグループ化の検討が必要である。その際、独占禁 止法の運用について、輸入圧力・樹脂管との代替性等に加え、国際的な市場規模での 視点が重要である。 1−3 黄銅分野 (基本的方向) 汎用性が高く、求められる品質や技術力に差が少ない製品が多い黄銅分野では、海 外とのコスト競争が厳しく輸入圧力も高いことから、国際的に通用する競争力の維 持・強化が課題である。 (1)環境規制強化・耐腐食性への対応力強化 RoHS規制等環境負荷の可能性がある金属の削減・フリー化を先取りした環境負 荷削減/フリー伸銅合金の開発など、我が国独自の技術力が発揮できる高付加価値黄 銅分野の競争力の強化が必要である。 また、我が国は耐腐食性について高い合金技術を有しており、この一層の強化が重 要である。 (2)次世代投資のための収益が上げられる業界構造への転換 中国を始めとするアジアでの黄銅の生産・輸出が増加する中、当該分野では付加価 値が他品種に較べて取りにくくなりつつあり、国際的に通用する競争力の維持・強化 の観点から、量をまとめることで生産性を向上させる必要があり、業界の集約化によ る体力の強化が求められる。 (3)取引慣行是正による銅価高騰分の製品価格への転嫁 黄銅製品については、取引の都度相対で値決めが行われるのが一般的で、供給側が 過当競争状態にありユーザー側の力が強いため、地金価格上昇分の製品価格への転嫁 が進んでいない状況にある。これが円滑に行われるよう取引慣行の是正が求められる。 2.分野横断的取り組み (基本的方向) 我が国伸銅品製造産業が持続的に発展していくためには、銅スクラップの国内及び アジア大でのリサイクルシステムの構築、通商戦略、産学官連携、技術流出の防止、 統計等、事業環境の整備が重要である。 (1)国内及びアジア大でのリサイクルシステムの構築 伸銅品製造産業全体での銅スクラップの使用率は56%と高いが、銅条、銅管、黄 銅の分野それぞれで、工場内発生銅スクラップのリサイクルだけでなく、一度市中に 出た銅製品のスクラップまで含めたリサイクルシステムを国内及びアジア大で構築 することが必要である。 現在、経済性の観点から、国内でのリサイクルが困難なシュレーダーダスト等は、 中国等人件費が安い海外において処理され銅分のみ国内に戻されるようなケースも 見受けられるが、原料の安定確保の観点から、銅スクラップが国内において経済合理 性を保ちつつ循環するためには、高品位のまま回収されることが重要である。今後、 廃自動車、廃パソコン、廃家電等からの回収を効率的に行うシステムの構築が必要で あり、そのための銅、銅合金の規格や表示の統一や、低コストで分別できるリサイク ル装置の開発が必要である。また、水道に於ける脱亜鉛腐食のためのビスマスの青銅 鋳造合金への添加は、リサイクルを阻害することから、鍛造業界と伸銅業界での連携 によって、ビスマス入り銅合金のスクラップへの混入の抑止について検討が必要であ る。 (2)伸銅産業の通商戦略・国別通商戦略の検討 我が国伸銅業界がグローバル化の流れに適切に対応できるよう、銅条、銅管、黄銅 等の主要分野及び銅資源確保の両面から、関税を含め、貿易・投資の主要な相手国に ついては国別の課題を整理し、WTO、EPA等の交渉に戦略的に対応していくこと が必要である。 (3)産学官の連携 伸銅を含む材料分野、工学分野に対する学生離れは、伸銅業界にとって次世代の人 材確保、基盤技術の強化の両面で大きな問題であり、中高生段階から工学に接する機 会を増やすことや、銅に対する新たな社会ニーズに関する魅力ある情報発信や銅の社 会実用化に向けた産学共同研究費の助成等、産学の溝を埋める活動を一層推進すべき である。 (4)技術流出の防止 技術流出は、IT等を通じてだけでなく人材や装置等を通じても行われること、一 企業からの核となる技術の流出は他の企業の競争力にも影響することから、技術流出 防止ガイドライン等を参考に、各企業レベルにおいて技術流出の防止に引き続き取り 組むことが産業全体にとっても重要である。 (5)海外活動に関する統計や業界体制の整備 海外での国際競争力を判断するためには海外に進出した生産拠点の生産活動、出荷 状況など海外拠点がどう機能しているかをモニターしていくことが必要であり、業界 団体を中心に、海外生産拠点における生産、出荷統計を国内並に整備するべきである。 その際、IWCCを中心にした世界のメーカー別統計の整備の検討と連携して進める。