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平成25年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業(模倣

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平成25年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業(模倣
平成 25 年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業
(模倣品対策等実態調査)
調査事業報告書
株式会社野村総合研究所
平成 26 年 3 月
平成 25 年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業
(模倣品対策等実態調査)
調査事業報告書 目次
Ⅰ.事業目的 .......................................................................................................................... 1
Ⅱ.調査の実施方法 ............................................................................................................... 1
1.企業、業界団体、専門サービス提供者、公的機関等により講じられている模倣品対
策の収集 .......................................................................................................................... 1
2.事例集の作成 ............................................................................................................... 4
3.産業界との情報共有 .................................................................................................... 6
(別添) ................................................................................................................................. 7
模倣品・海賊版対策事例集................................................................................................. 8
国際知的財産保護フォーラム第 3 プロジェクト 第 4 回情報交換会説明資料 ............ 153
Ⅰ.事業目的
我が国企業の模倣品・海賊版被害は依然として中国をはじめとする世界の広い地域
で発生している。このような中、産業界においては模倣品・海賊版問題についての関
心も高まっており、これらへの対策をとっている企業も多くなっている。また、企業
においてのみならず業界団体や専門家、地方自治体や国など様々な主体により創意あ
る取組みが進められている。一方で、被害があるかを把握していない企業も相当程度
に上るとともに中小企業においては対策を講じていない企業も多いことなどから、本
問題に関する意識醸成と実効的な模倣品等対策についての情報共有の必要性は高い。
本調査では、模倣品対策の実態から、企業をはじめ様々な主体により進められてい
る実効的な対策手法を抽出し、広く共有することにより、我が国企業の模倣品・海賊
版問題に対する実際のアクションにつなげることを目的として実施した。
Ⅱ.調査の実施方法
1.企業、業界団体、専門サービス提供者、公的機関等により講じられている
模倣品対策の収集
(1)
「平成 25 年度模倣品等対策実態調査に係るワーキンググループ(WG)」の設置・運営
本調査では、以下のメンバーに WG 委員を委嘱し、弁護士・弁理士等の有識者、及び
産業界実務家としての立場から、収集するべき対策手法・取組主体等の全体構成や、対
策の取りまとめ方法、分析の視点などについて広く意見を頂きながら実施した。
①WG のメンバー
以下の 4 人のメンバーに参画いただいて、「平成 25 年度模倣品等対策実態調査に係る
ワーキンググループ(WG)」を実施した。
メンバー
榎本 英俊
(4 名)
<50 音順・敬称略>
日本弁理士会
貿易円滑化対策委員会
長(弁理士)
黒須 悟士
株式会社クロス・ディメンション CEO
黒瀬 雅志
協和特許法律事務所 弁理士
中山 喬志
元日本知的財産協会 専務理事
②WG の開催スケジュール・議事
本 WG は以下のようなスケジュール・議事で開催した。
1
委員
回数・開催日時
議事
第1回
(1)本年度事業の趣旨・進め方
平成 25 年 9 月 9 日
(2)意見交換(事例整理の視点、収集すべき事例、対象と
13 時~15 時
すべき企業)
第2回
(1)事例調査の進捗状況について
平成 25 年 11 月 1 日
(2)事例集について
13 時 30 分~17 時 30 分
(3)意見交換(事例整理の視点、収集すべき事例、対象と
すべき企業)
第3回
(1)事例調査の結果(総括)
平成 26 年 1 月 27 日
(2)事例(後半部分)とりまとめの報告
10 時~12 時
(3)意見交換(個別事例への指摘事項の整理)
(4)事例集目次案について
なお、WG の場以外でも、第 2 回と第 3 回の間において、作成途中の事例集について、
専門的な観点から、事例としての整理のあり方や、さらに確認すべき点、表現等で留意
すべき点などについて、WG メンバーより意見を聴取し、事例集のブラッシュアップを
行った。
(2)対策手法の収集
本調査においては、
「平成 25 年度模倣品等対策実態調査に係るワーキンググループ
(WG)」からのアドバイスも受けつつ、以下のような対策手法について、実施している企
業・業界団体・その他機関へヒアリングによって収集を行った。
なお、1 つの企業・組織で複数の対策手法を収集できたこともあることから、“収集し
た対策手法”が複数になっている企業・組織もある。逆に、同一の対策手法類型に含まれ
るものであっても、企業・業界特性や模倣品に係る背景や状況の違いから、具体的な対
策については、かなり異なる対策を取っている場合もあるため、同一の対策手法類型に
ついても複数の企業・組織から把握・整理していることもある。
(収集した対策手法)
No.1:全社モニタリングを実施(消費財等製造業)
No.2:展示会で、模倣品の監視・摘発を実施(輸送機器等製造業)
No.3:顧客の意識向上のための働きかけ(消費財製造業)
No.4:模倣品を扱っていた顧客を啓発して売り込みを実施(部品製造業)
No.5:中国等での“展示会”を活用して、業界の姿勢を効率的に PR(部品等製造業界団体)
2
No.6:現地メディアと連携して大規模摘発の報道で効果的な啓発活動を実現(自動車等
製造業)
No.7:公開処分で模倣品事業者への見せしめ効果と一般消費者啓発(機械器具等製造業
界団体)
No.8:行政機関との信頼関係構築で公開で模倣品の処分を実施(ガス器具等製造業)
No.9:ホログラムシール貼付により、税関での嫌疑品発見率向上(家電等製造業)
No.10:業界団体発行のマークの商標権を利用した海賊版対策(コンテンツ関連団体)
No.11:OEM 製造工場からの横流しを防止(部品も含めた数量管理の徹底)
(アパレル等
製造業)
No.12:偽造防止策を複合的に施すことで真贋判定を容易にする(アパレル等製造業)
No.13:事業範囲を超えて先回りして権利取得し冒認登録を防ぐ(精密機器製造業)
No.14:主要商標は全類出願(生活用品等製造業)
No.15:税関訪問での関係性を強化で差止め件数増(自動車等製造業)
No.16:外資系企業との連携(精密機器等製造業)
No.17:行政機関(税関等)を対象に表彰活動等を実施(自動車等製造業)
No.18:裁判所が地域業者を傍聴に招き啓発活動の一端を担ってくれた事例(楽器等製造
業)
No.19:調査会社へのインセンティブ設計(機械器具等製造業界団体)
No.20:地域ごとに特色を持つ調査会社への包括委託(スポーツ用品製造業)
No.21:玉石混交の調査会社の良し悪しを見分ける調査(機械等製造業)
No.22:調査会社との年間一括契約で状況変化等を正確に把握(調査会社)
No.23:模倣品対策をグローバルな視点でとらえ模倣品流通の源流を叩く(調査会社)
No.24:調査により模倣品流通ネットワーク図を解明、キーの流通事業者を特定(スポー
ツ用品製造業)
No.25:
「地方保護主義」回避のため大都市圏で提訴(楽器等製造業)
No.26:行政摘発の「処罰決定書」を民事訴訟で活用(スポーツ用品製造業)
No.27:
「量から質へ」 案件を“刑事訴訟まで持ち込める案件”に限定(機械器具等製造業
界団体)
No.28:流通事業者のみを対象とすることで市場から模倣品を駆逐(スポーツ用品製造業)
No.29:個人輸入の模倣品対策は、規模の大きな税関を定期訪問して実施(生活用品等製
造業)
No.30:刻印されたマークに着目して模倣品のパターンを分析(文具等製造業)
No.31:著作権活用により、キャラクターを保護(玩具等製造業)
No.32:インターネットサイトでの削除依頼のみならず、追求・特定して摘発(非製造業)
No.33:インターネット上での模倣品販売事業者への基本的な対抗策(楽器等製造業、海
外著名ファッションブランド権利者団体)
3
No.34:インターネット模倣品販売事業者の決済口座を凍結(海外著名ファッションブラ
ンド権利者団体、玩具等製造業)
No.35:税関の差止情報を分析して模倣品関連事業者を分類、悪質事業者の絞込み(機械
部品等製造業界団体)
No.36:取引先顧客と“縦の連携”で情報共有・共同摘発(部品製造業)
No.37:業界横断的に模倣品対策情報共有のためのポータルサイト(模倣品対策共通デー
タベース研究会)
No.38:個社の情報を権利者団体に集約して迅速な対応を可能に(海外著名ファッション
ブランド権利者団体)
No.39:業界団体内の有志企業で共同摘発を実施(機械器具等製造業界団体)
No.40:欧米企業等との共同摘発に参加(生活用品等製造業)
No.41:戦略策定から権利取得、民事訴訟まで一貫した対応をとる(玩具等製造業)
No.42:権利取得に関する協議を行う社内体制を構築(精密機器製造業)
No.43:知的財産の保護とライセンスの組み合わせ活用に関する戦略をもとに対策実施
(輸送機器等製造業)
2.事例集の作成
ヒアリング等で収集した情報について、以下のような観点に着目し、事例集を作成し
た(成果品としての事例集は別添参照)
。
(1)事例集作成の観点
特に、以下の 3 つの観点に留意して事例集を策定した。
着目した観点
ア)先進企業のみなら
説明

ず、中小企業等が
読んでも、
“やる
気”になる事例集


高度な専門性や経験・人材が必要、もしくは多額のコストを投入し
て効果を上げた事例を紹介している。これは、事例集としては当然
のことながら、模倣品対策として一つの完成形・理想形を紹介する
目的で掲載している。
しかし、そのような高度な事例だけではなく、低いコストでも、ま
た必ずしも十分に人的リソースがいなくても、工夫して実施した取
組み等についても紹介している。これは、本事例集を必要とする者
は、必ずしも模倣品対策に係る知識・経験が豊富なものばかりでは
なく、他の業務等と兼務して十分に模倣品対策に時間を取ることが
できる者ばかりではない、ということを前提としている。また、企
業によって模倣品対策に係る考え方には違いがあり、模倣品対策の
予算を必ずしも十分に確保できる企業ばかりではないことにも配慮
したものである。
従って、既に様々な模倣品対策を実施している者にとっては、完成
系・理想形のような事例が参考になることを期待しており、一方で、
まだまだ十分に模倣品対策に取り組めていない者については、基本
的、もしくは必ずしも高度なテクニックやネットワークを前提とし
4
着目した観点
説明

イ)実際に成果の上が

った事例を中心に
構成。成果・効果
についても明示

ウ)事例ごとの模倣品

対策に係る背景・
事情、対策のきっ
かけや、ポイント

をわかりやすく説
明

ないような事例を参考にしていただくことを期待している。
入り口で、
「高度な事例ばかりで参考にならない」と思われないよう
に工夫を行っている。
既に実施後、一定程度の期間が経過し、成否や効果が明らかになっ
た事例を意識して収集し、成果についても可能な限り記載するよう
にした。これは、成否が不明な事例であると、事例集の読み手が取
組みにくかったり、新たな取組に対して周囲を説得しにくかったり
するからである。
但し、もちろん、本事例集のすべての掲載事例について、成果が明
確に分かっている・測定できているものばかりではなく、中には取
組みを開始した段階のもの、結果として成果は客観的には把握しき
れていないものも含まれていることには留意が必要である。
特に「基本事例」については、読み手が、自社の状況との類似性や
特異性、活用できる部分と活用できない部分を明確に読み取れるよ
うに、模倣品対策に至った背景や事情(特に対策に踏みきったきっ
かけ)をできる限りわかりやすく記載することに留意した。
対策の際のポイント、対策事例から得られる「本事例からの示唆」
を付すことで、当該事例から読み取れること、また当該事例の取組
みを踏襲する際に留意すべきことなどについても明確に記載するよ
うにした。
事業者にとって、新たな模倣品対策を導入するためには、何らかの
きっかけや特殊な背景等があることもあり、その点を理解した上で、
紹介されている模倣品対策に取り組む方が、期待と違わない模倣品
対策の成果につながると考えられるためである。
(2)事例集の構成について
事例集は、実際に模倣品対策を実施している企業・業界団体等からのヒアリングに基
づき、模倣品対策に係る事情や考え方・具体的な方策等について、一定の類型に整理し
たものであるが、把握された内容によっては、非常に詳細に事例の内容を詳らかに、ま
たステップ論や図表等を活用して紹介すべき内容もあれば、複雑な事案ではないものの、
情報として模倣品対策に関わる者が知っていると有益である情報などもあった。そこで、
事例集では、事例を以下の 3 類型に分けて整理・掲載することとした。
具体的には、
「基本事例」
、
「テーマ事例」
、
「ミニ事例」の 3 つの類型が収録されている。
類型
基本事例
形式


特徴
見開き含む 4 ページ/
・最も詳細な事例形式。
1事例
・事例のプロフィール、事例の経緯、”問題
全 17 事例
の核心”と”対策のポイント”を、図表等を活
用して整理。
・まとめとして、「実践編」として具体的に
実施するためのステップを一般論として
記載、さらに、
「本事例からの示唆」とし
て、ポイントや留意点も記載。
5
テーマ事例

2 ページ程度/1事例 ・あるテーマ(例:調査会社の有効活用)ご

全 14 事例:7 テーマ
とに、企業・団体等によって、どのような
対策を実施しているのか、その相違点を浮
かび上がらせながら紹介している形式。各
事例2ページ程度。
・問題の背景や対策に至るきっかけ、対策の
際のポイントなどを簡潔に整理。理解を助
けるための、対策に係る構造図等も記載。
ミニ事例


1~2ページ/ 1事
・豆知識として、模倣品対策関係者が知って
例
いると役に立つ、考える際のヒントになる
全 12 事例
ような情報について、コラム形式で解説し
ているもの。
なお、上記3類型以外にも、模倣品対策に関して有益な情報提供について、コラム形式
で 1~数ページ程度で掲載している。
3.産業界との共有
「2013 年度国際知的財産保護フォーラム 第 3 プロジェクト 第 4 回情報交換会」にお
いて、
「経済産業省委託事業 「模倣品等対策事例集」の作成について」と題して、報告・
説明用資料を作成の上、報告・説明した。
日時:2 月 6 日(木) 14:00~15:45
場所:ジェトロ本部 9BC 会議室
講演タイトル:
経済産業省委託事業 「模倣品等対策事例集」の作成について
講演者:
野村総合研究所 公共経営コンサルティング部 主任コンサルタント
水之浦 啓介
以
6
上
(別添)
7
模倣品・海賊版対策事例集
8
対策事例集
平成 26 年 3 月
経済産業省模倣品対策室
政府模倣品・海賊版対策総合窓口
本冊子は、経済産業省が、(株)野村総合研究所に委託した「平成 25 年度知的
財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業(模倣品等対策実態調査)」の
結果をとりまとめたものである。
はじめに
我が国企業の製品・部品の模倣品・海賊版被害は中国をはじめとする世界の広い地域
で発生しています。グローバルに事業を展開する企業における模倣品・海賊版問題への
関心は高く、企業、業界団体、専門家、地方自治体や国などの様々な主体が模倣品対策
を進めています。
一方、模倣事業者の手口は、年々巧妙になっており、有効な対策を講じることが難し
くなっています。また、中小企業などはマンパワーの不足などの理由で対策に手が回っ
ていない、また、被害があるかすら把握していない企業も依然として少なくない状況で
す。
本事例集は、このような現状認識に基づき、効果的な対策を講じている企業等の実践
事例を収集してとりまとめ、広く共有することにより、我が国企業の模倣品・海賊版問
題に対する具体的な行動を促進することを目的として作成しました。
本事例集を作成するにあたって、およそ 30 の企業・業界団体等にヒアリングを実施し、
独自に工夫や改善を重ねた模倣品対策をご紹介いただきました。また、事例集の作成に
あたっては、有識者によるワーキング・グループを設置し、対象テーマの選出や、事例
集の構成方法などについてご助言いただきながら作業を進めました。ご協力いただいた
企業・団体及び有識者の皆様には、この場を借りて、心より感謝を申し上げます。なお、
本事例集は個々の事例を対策実施者に投稿いただいたものではなくヒアリングを基に事
務局にて執筆・編集を行ったものであり、また、記載内容の詳細についてワーキング・
グループに精査をお願いしたものではありません。あり得べき誤りについては事務局の
責に帰すべきものであることを申し添えます。また、本事例集では、必要に応じて、企
業名・団体名を特定できないように配慮し、事例の一部については、詳細の記載を敢え
て省いたり、事例の趣旨を損ねない程度に曖昧な記載にさせていただいたりしています。
本事例集が、模倣品被害に悩みながら、日々、対策を検討・実施されておられる皆様
の一助となれば幸いです。
平成 26 年 3 月
(ワーキンググループ構成員・敬称略、五十音順)
榎本 英俊
日本弁理士会
黒須 悟士
株式会社クロス・ディメンション CEO
黒瀬 雅志
協和特許法律事務所
弁理士
中山 喬志
元日本知的財産協会
専務理事
(事務局)
株式会社野村総合研究所
貿易円滑化対策委員会
委員長(弁理士)
事例集の刊行によせて
国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)
第 3 プロジェクト 副幹事
弁理士 黒瀬雅志
海外へ事業を展開する日本企業にとって、海外市場における自社商品の模倣品・海賊版
の氾濫は、事業計画を左右するリスクとなる。多くの日本企業が、毎年、多大な費用と労
力を費やして模倣対策を行っているが、残念ながら模倣品・海賊版被害の範囲はさらに拡
大し、模倣の手口も巧妙化している。このような状況においては、過去において多くの企
業が実施した模倣対策の経験を学び、その経験を個々の事件に活用することにより、効果
的な対策を採ることが望ましい。
深刻化する模倣品・海賊版被害に共同して対処するため、2002 年に日本の企業と業界団
体で設立された国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)には、メンバー企業、団体が実施し
た模倣対策の経験を公表し、それを参加者が知識として共有するプロジェクト(第 3 プロ
ジェクト)が組織され、活動している。この活動においては、他社の経験を単に事例とし
て知るだけではなく、その事例における問題点を把握し、その問題点がどのような対策を採
ることにより解決されたか、あるいは失敗したかを、事例発表者と参加者との間で議論して
いる。これにより、参加者はその事例における対策のポイントを理解することができ、自社
が遭遇した事件の対策に活用することが可能となる。
本事例集は、これをさらに発展させた形で作成されており、実務においてすぐに役立つ
ものである。すなわち、採り上げられた各事例において、どこに問題があったか、その構造
を分析すると共に、そのポイントが「問題の核心」としてまとめられている。読者はこれに
より事件の背景と問題点を理解することができ、その上でこの事件に対し、具体的にどのよ
うな対策を採ったか、その対策においてのポイントは何であったかを知ることができる。そ
して各事例の最後にまとめられている「実践編」において、自社でこの対策事例を活用する
場合のステップと注意点を理解することができる。
さらにこの事例集では、模倣対策として重要な費用に関しても、その目安が示されている。
まさに実務において即座に有効活用できるよう工夫された事例集であり、この事例集を
活用することにより、模倣品・海賊版対策をより効果的に実施することができるものと期
待される。
目 次
はじめに
事例集の刊行によせて
1.事例集の読み方 .......................................................................................................................... 1
(1)事例集の読み方について..................................................................................................................... 1
(2)事例の具体的な見方について ........................................................................................................... 5
(3)掲載事例について ................................................................................................................................ 11
2.模倣品対策事例集(本編) ................................................................................................. 15
事例No1: 社員も参加する全社モニタリングを実施し、効果的・効率的に市場に流通する模
倣品を発見する。【基本事例】 ................................................................................ 18
事例No2: 展示会で、模倣品の監視・摘発を行う。【基本事例】 ................................................ 22
コラム1: 政府模倣品・海賊版対策総合窓口の概要······················································· 26
事例No3:顧客に対する「協力依頼に関する文書」の配布により、顧客の意識が向上し、顧客
から模倣品発見の知らせを受けることもある。【テーマ事例:取引先・顧客への模
倣品不買に関する啓発】........................................................................................ 27
事例No4: 模倣品を扱っていた顧客に対して、摘発対象とするのではなく、啓発と真正品の
売込みを実施。広告宣伝等も実施し、多面的に顧客を啓発する。【テーマ事例:取
引先・顧客への模倣品不買に関する啓発】 ............................................................ 29
事例No5: 中国等における“展示会”を有効活用して、業界の模倣品対策の姿勢を効率的に
PRする方法。【ミニ事例】 ....................................................................................... 31
事例No6: 現地政府・代理人(調査会社)・メディアと連携、大規模摘発を実施し、新聞記事に
してもらうことで、広く効果的な啓発活動を実現。【基本事例】 ................................. 32
事例No7: 公開処分により、模倣品事業者への見せしめ効果と一般消費者への模倣品問題
の啓発効果を狙う。【テーマ事例:摘発後の模倣品処分を通じた啓発】 ................... 36
事例No8: 行政機関との信頼関係をベースにして、公開破壊などの形で模倣品の処分を実
施。【テーマ事例:摘発後の模倣品処分を通じた啓発】 ........................................... 37
事例No9: ホログラムシールの製品包装段ボールへの貼付により、税関等での嫌疑品発見
率を上げる。【基本事例】 ....................................................................................... 38
事例No10: 著作権だけでなく、業界団体発行のマークの商標権を利用した、コンテンツビジ
ネスにおける海賊版対策。【ミニ事例】.................................................................. 42
コラム2: 日系企業の現地での取組み ·········································································· 43
事例No11: OEM契約の製造工場からの横流しを防止するために、個々の部品も含めて、数
量管理を徹底し、売れ残り品も全数処分を実施。【ミニ事例】 ................................ 46
事例No12: 偽造防止策を複合的に施すことで真贋判定を容易にする。【基本事例】 ................ 48
i
事例No13: 事業範囲を超えて、先回りして権利取得することで冒認登録を防ぐ。【基本事例】
........................................................................................................................... 52
事例No14: 主要商標は全類出願を行い、その他の個別ブランド商標は複数の代理人事務
所に委託して継続的モニタリングを実施する。【基本事例】 ................................... 56
事例No15: 現地スタッフの税関への直接訪問により関係性を強め、差し止め件数を増やし
ている。現地調査会社・弁護士事務所等も有効活用。【テーマ事例:税関との友
好な関係の構築による、水際取り締まりの効率的実施】 ....................................... 60
事例No16: 外資系企業との連携、調査会社の人脈を活用して中国における税関職員への
セミナーに参加。販社にも、税関における対応を優先する意識を持ってもらう。
【テーマ事例:税関との友好な関係の構築による、水際取り締まりの効率的実施】
........................................................................................................................... 62
事例No17: 今後、積極的に取締を行ってほしい行政機関(税関等)を対象に、表彰活動等を
実施。【ミニ事例】................................................................................................. 64
事例No18: 裁判所(地方法院)が地域の製造業者を傍聴に招き、啓発活動の一端を担って
くれた事例。【ミニ事例】 ....................................................................................... 65
コラム3: 調査会社の不正行為にご注意を! ······························································· 66
事例No19: 調査会社に責任ある調査を遂行してもらうためのインセンティブ設計を実施。
【テーマ事例:調査会社の効果的・効率的な活用方法】 ........................................ 67
事例No20: 地域ごとに特色を持つ、小規模で機動的な調査会社に包括委託をすることで、
効果的・効率的な模倣品対策を実施。【テーマ事例:調査会社の効果的・効率
的な活用方法】 .................................................................................................... 68
事例No21: 玉石混交の調査会社の良し悪しを見分けるために、“調査会社に対する調査”
を実施。【ミニ事例】.............................................................................................. 70
事例N022: 調査会社に年間一括契約することで、効果的・効率的委託を実施しつつ、経年
の状況変化等を正確に把握。【ミニ事例】 ............................................................. 71
事例No23: 模倣品対策をグローバルな視点でとらえ、模倣品流通の源流を叩く。【ミニ事例】
........................................................................................................................... 73
事例No24: 地元密着型の小規模調査会社も活用して模倣品流通ネットワーク図を作成。キ
ーとなる流通事業者を特定し、効果的対策を実施。【基本事例】 ........................... 74
事例No25: いわゆる「地方保護主義」を回避するため、販売業者の所在する大都市圏で提
訴する。【基本事例】 ............................................................................................ 78
事例No26: 行政摘発に基づく「処罰決定書」は、民事訴訟の重要な証拠として活用すること
ができる。【ミニ事例】 ........................................................................................... 82
事例No27: 「量から質へ」 実際にアクションをとる案件を“刑事訴訟まで持ち込める案件”
に限定。【テーマ事例:摘発方針の明確化で、効果的・効率的なエンフォースメ
ントを実施】 ......................................................................................................... 83
事例No28: 流通事業者のみを摘発対象とすることにより、市場から模倣品を駆逐し、摘発
後も模倣品が容易に市場に出ないようにする。【テーマ事例:摘発方針の明確
化で、効果的・効率的なエンフォースメントを実施】 ............................................... 85
事例No29: 個人輸入の模倣品対策は、規模の大きな税関を定期訪問して関係構築。個人
輸入業者へは、警告書の送付で模倣品販売をやめさせ、定期訪問でチェックす
ii
る。【ミニ事例】 ..................................................................................................... 87
事例No30: 刻印されたマークに着目して、発見される模倣品のパターンを分析。ターゲットと
すべき製造量の多い模倣品製造業者を特定する。【基本事例】 ............................ 88
事例No31: 著作権活用により、キャラクターを保護する。【基本事例】 ..................................... 92
事例No32: 著名インターネットサイト上の模倣品販売事業者に対し、削除依頼のみならず、
追求・特定して徹底した対策を実施。【基本事例】 ................................................. 96
事例No33: インターネット上で模倣品・海賊版を販売する事業者への基本的な対抗策。【ミ
ニ事例】............................................................................................................... 100
事例No34: インターネットで模倣品を販売する事業者の決済口座を凍結することで、模倣品
被害の拡大を抑制する。【ミニ事例】 ..................................................................... 101
事例No35: 税関の差止情報を収集・分析することで、模倣品関連事業者を分類、特に悪質
な事業者の絞り込みを実現。【基本事例】 ............................................................ 102
コラム4: 中小企業の海外侵害対策に対する支援について(海外侵害対策支援事業)
106
コラム5: 国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)の概要 ··································· 107
事例No36: 顧客と“縦の連携”をして情報共有・共同摘発を行うことで、効果的・効率的な模
倣品対策と顧客との関係強化を同時に実現。【基本事例】.................................... 108
事例No37: 業界横断的に模倣品対策関連情報を共有することを企図してポータルサイトを
立ち上げ。対外的情報発信と企業間情報蓄積の実現を目指す。【テーマ事例:
模倣品関連情報の企業間共有や集約】 ............................................................... 112
事例No38: 個社の情報を権利者団体に集約することで、模倣品を発見した際の迅速な対応
を可能にする。【テーマ事例:模倣品関連情報の企業間共有や集約】 ................... 114
事例No39: 業界団体内の有志企業で共同摘発を実施し、コスト削減と業界としての厳格な
態度を表明。【テーマ事例:共同摘発により、摘発コスト軽減と業界プレゼンス向
上を実現】 ........................................................................................................... 116
事例No40: 欧米企業等との共同摘発に参加することで、摘発コストを下げつつ、欧米企業
の模倣品対策のノウハウを学ぶことができる。【テーマ事例:共同摘発により、
摘発コスト軽減と業界プレゼンス向上を実現】 ...................................................... 118
事例No41: 戦略策定から権利取得、民事訴訟まで一貫した対応をとる。【基本事例】 .............. 120
事例No42: 権利取得に関する協議を行う社内体制を構築する。【基本事例】 .......................... 124
事例No43: 知的財産の保護とライセンスの組合せ活用に関する戦略をもとに対策実施。
【基本事例】 ......................................................................................................... 128
3.インデックス ....................................................................................................................... 132
(1)場面(シーン)に合った事例を探してみよう .................................................................... 132
(2)対策テーマに合った事例を探してみよう .............................................................................. 133
(3)少ないリソースでも実施可能な事例を探してみよう ...................................................... 134
(4)気になるワードで事例を探してみよう ................................................................................... 135
iii
1.事例集の読み方
(1)読み方について
本事例集には、43 事例が掲載されています。
本事例集は、必ずしも、普通の書籍のように、冒頭から終わりまで順序正し
く読んでいく必要はありません。関心のある事例のみ、テーマ(場面)に関連
する事例のみ読むことも可能ですし、まずは簡単にまとめてあるミニ事例やコ
ラム等だけ目を通して、“読み物”として読むことも可能です。
以下、いくつかの、お勧めの読み方をご紹介します。
 お勧めの読み方
①順番に読んでみる
②事例類型ごとに読んでみる
③模倣品対策のテーマ(場面)に着目して読んでみる。
④簡単な事例からチョイスして読んでみる
①順番に読んでみる
もちろん、最初から最後まで順番に読んでみることも問題ありません。
大きな流れとしては、模倣品対策の重要な場面ごとに整理がされており、そ
れぞれの場面における事例は、比較的簡単に取り組める事例から最初に、そし
て、後半に掲載されている事例ほど高度で複雑な事例になるようにならべてあ
りますので、どの程度の事例であれば参考になるのか・自社で取り組めるのか
を考えながら読むのも一つの方法です。
②事例類型ごとに読んでみる。
本事例集には、
「基本事例」、
「テーマ事例」、
「ミニ事例」の3つの類型の事例
が掲載されています。それぞれ、次のような内容・位置付けで記載がされてい
ます。
1
類型
説明
基本事例
・最も詳細な事例形式。
・事例のプロファイル、事例の経緯、”問題の核心”と”対策のポイ
ント”を、図表等を活用して整理。
・まとめとして、「実践編」に具体的に実施するためのステップ
を一般論として記載、さらに、
「本事例からの示唆」にはポイ
ントや留意点も記載。
テーマ事例
・あるテーマ(例:調査会社の有効活用)ごとに、企業・団体等
によって、どのような対策を実施しているのか、その相違点を
浮かび上がらせながら紹介している形式。各事例2ページ程
度。
ミニ事例
・豆知識として、模倣品対策関係者が知っていると役に立つ、考
える際のヒントになるような情報について、1ページ前後の簡
易な事例として紹介。
・詳細な事情・背景、具体的ステップを知りたい場合には基本事例から
・どのような対策が自社に合うのかを比較検討する場合にはテーマ事例から
・気軽に、知識・情報を得たいなら、ミニ事例から
読まれることがお勧めです。
③模倣品対策のテーマ(場面)に着目して読んでみる。
本事例集は、8 つのテーマ(場面)ごとに、事例を整理しており、テーマご
とに複数の事例がひと固まりとして、順番に掲載されています。
具体的には、“8 つの場面”とは以下のようなものです。
場面
模倣品をみつけ
それぞれの場面で説明されていること

模倣品対策は、まず、模倣品が市場やインターネット上
等で販売されていることを知ることから始まります。

誰が、どのような機会を活用すれば、模倣品が販売され
ていることに気づけるでしょうか?

模倣品の違法性に十分に気づいていない消費者もまだた
くさんいます。消費者に、どのように模倣品問題を説明
し、違法性を認識してもらえば良いのでしょうか?
てみよう
模倣品に関する
意識を高めよう
2
場面
模倣品問題を予
防しよう
関係行政機関等
と連携しよう
調査会社を使っ
てみよう
模倣品業者を摘
発しよう
企業間で情報共
有・共同摘発し
よう
模倣品対策の戦
略を立てよう
それぞれの場面で説明されていること

模倣品製造・流通事業者の中にも、模倣品の違法性に対
する認識が無い・甘い事業者は少なくありません。この
ような事業者に認識を改めてもらったり、警鐘をならし
たりするにはどのような方策があるのでしょうか?

そもそも模倣を困難にするために、商品・製品の企画・
開発・製造段階でどのような工夫があるのでしょうか?

また、模倣品が存在するとしても、すぐに真正品との区
別ができるようにしておくためには、どのような工夫が
あるのでしょうか?

模倣品対策では、現地の警察や税関、知財関連機関等と
の良好な関係を構築・維持することが、様々な場面で重
要になります。

どのようにすれば、有効な関係を構築・維持できるので
しょうか?

模倣品の発見、模倣品製造・流通事業者の特定、さらに
は行政機関と協力した摘発に至るまで、模倣品対策にお
いて、現地調査会社や代理人の協力は欠かせません。

真摯で有能な調査会社等をどのように見つけるのか、ど
のようにインセンティブづけやモニタリングするのか、
不正な調査会社等に騙されないようにするにはどうすれ
ば良いのでしょうか?

模倣品製造・流通事業者等にその模倣品関連の事業を停
止してもらうには、警告書の送付、摘発、提訴などが手
段となります。

摘発の際には、どのような手続き・方法によるのが良い
のでしょうか?どのようなコツ・工夫があるのでしょう
か?

模倣品対策の費用や手間、必要なノウハウ等を考えた時、
企業単独で実施する他に、複数企業と連携して実施した
方が効果的・効率的な場合もあります。

どのように、他社等と連携すれば良いのでしょうか?

明確な戦略・方針・目標を持って模倣品対策を実施する
と、効果的・効率的な対策が実現できることがあります。

また、知財部署のみに閉じず、営業部・事業部と連携す
ると、効果が上がることも少なくありません。

どのような戦略を立て・どのような体制で模倣品対策を
企画・実施すると良いのでしょうか?
3
④簡単な事例からチョイスして読んでみる
模倣品対策に本格的に取り組んだことが無い場合、事例を読み解くのも、な
かなか容易ではないかもしれません。その場合は是非、
「ミニ事例」のような1
~2ページ程度の簡易な事例を、またはコラムのような一般情報を読んでみて
ください。少しイメージが湧くかもしれません。
また、テーマ(場面)ごとに比較的簡単な事例から順番に並べてありますの
で、まずは各テーマの冒頭1、2事例を読んでみるのも良いかもしれません。
いずれにせよ、本事例集には、比較的容易で親しみやすい事例から、かなり
高度・複雑な事例も掲載されていますし、事例の模倣品対策が全ての企業にと
って効果的・効率的とも限りません。ですから、自分が読みやすい・親しみや
すい・理解しやすい事例をまず読んで、検討の材料にしてみてください。
4
(2)事例の具体的な見方について
本事例集は、実際に模倣品対策を実施している企業・業界団体等からのヒア
リングに基づき、模倣品対策に係る事情や考え方・具体的な方策等について、
一定の類型に整理したものです。具体的には、既述のように、
「基本事例」、
「テ
ーマ事例」、「ミニ事例」の 3 つの類型が収録されています。
なお、上記3類型以外にも、模倣品対策に関して有益な情報提供について、
コラム形式で、それぞれ 1 ページ程度で掲載しています。
以下、それぞれの類型について、どのように整理されているのかということ
について、具体的な見方や留意点等について解説します。
①基本事例
基本事例は、最も詳細に、基本的には 4 ページにわたり、模倣品対策事例
を紹介している類型です。具体的には、以下のような構成となっています。
図表
「基本事例」の構成(原則、見開きを含む 4 ページ程度)
PAGE-1
PAGE-2
PAGE-3
問題の構造
対策事例
PAGE-4
事例タイトル
対象種別
対象国・地域
対策シーン
対策コスト
所要時間
対策の目標レベル
対策効果
業種
対策手順
事例プロ
ファイル
事案の概要
(経緯まとめ)
対応前
見開き
注意事項
(ここに注意)
対応後
対策のポイント
問題の核心
本事例からの示唆
以下、各ページの構成・位置付けや項目ごとの記載内容、読む上での留意
点について解説します。
5
ア)
ページ1:事例タイトル、事例のプロファイル、経緯まとめ
事例のタイトル。本事例の特徴・中心的な工夫や目
的等を端的に表します。目次にもこちらが掲載され
ています。
No#:社員も参加する全社モニタリングで、
効果的に市場に流通する模倣品を発見する
事例のプロファイル。本事例がどこで、何を、どのよ
うに、どのくらいのコストをかけたのか、最も基礎的
な情報が一覧で見れるようにしています。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
⑧調査・監視(モニタリング)
対策コスト
コスト小(100万円未満)
所要期間
3か月
対策の目標
調査会社を活用しないことによるコス
ト削減
対策効果
月に数件の模倣品の発見と、警告書
による模倣品販売の中止
業種
衣料品等製造業
権利種別。本事例で問題となった/対策のために活
用された主要な権利を記載しています。
経緯まとめ
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
対象国・地域。本事例での模倣品対策が実施され
た国・地域等を記載しています。
対策シーン。どのような模倣品対策のシーンで使わ
れた対策かを記載しています。
対策コスト。対策に要したコストを概算で記載してい
ます。主に直接費を記載しており、人件費等は除か
れている場合もあります。目安としてください。
所要期間。対策に要した期間を概算で記載しています。
対策の目標。事例の事業者が、当初対策を開始した際
に何を目的・目標としたかを記載しています。
対策効果。実際に、対策の効果として何が得られたか
について記載しています。
業種。事例の対象事業者の業種を概要で記載していま
す。業種によって対策の必要性や意味合いが異なりま
すので、参考にしてください。
経緯まとめ。事例の背景や対策のきっかけ・対策の
概要と成果など、事例の概要が簡潔にまとめてあり
ます。

事例集の凡例
 本事例集の事例プロファイルにおけるコストについては、以下のように分
類しています。

対策のコスト
コスト特大
1,000 万円以上
コスト大
300 万円以上 1,000 万円未満
コスト中
100 万円以上 300 万円未満
コスト小
100 万円未満
6
イ)
ページ2、3:問題の構造と問題の核心、対策事例と対策のポイント
模倣品対策に依り、問題構造がどのように変化した
のかを見開きでわかりやすく整理しています。
問題の構造
量販店
模倣品対策
を阻害してい
た要因・構
造・状況等に
ついて、直感
的に分かり
やすく図示し
ています。
量販店
調査会社
スーパー
対策事例
スーパー
調査会社
専門店
専門店
専門店
調査会社
地域・対象商品・調査対象施設別に、複数の調査会社を
依頼すると、かなりの費用がかかる。
企業
問題の核心
対策のポイント
模倣品が世界中で大量にある場合、調査会社等に依存しすぎるとコスト高になる。
 X 社ブランドは非常に著名であり、世界中のいたるところで模倣品が見られ、模倣品が世界
的に氾濫している状況であった。
 (支社の立地国によっては)模倣品の発見を調査会社に委託することもあるが、模倣品が
至る所にあるため、コストが非常に高くつくため、効率的ではないという側面もあった。
対策によって、
何がどのよう
に変わった
のかを分かり
やすく図示。
対策のポイン
トや、実際の
オペレーショ
ンについても
言及していま
す。
全世界的な取組みとして、社員による模倣品発見を奨励する。
 社員が模倣品を発見できるような知識・スキルをある程度有しており、模倣品発見につい
て、大きなリスクが伴わないのであれば、社員に模倣品発見への協力を依頼することは、
調査会社の利用をできるだけ避けつつ、効率的なモニタリングの実現が可能になる。
 営業社員等が多く、また、自社製品について十分な知識を有しており、販売店等に出向く
機会が多い場合には、模倣品発見の可能性が高い。
 同社の製品は、通常の専門店や、量販店などで販売されており、模倣品へのアクセスは非
常に容易な状況であり、リスクや負担が少ない環境で、模倣品に接触することが可能であ
るという特徴があった。
 一方で、社員の多くは、同社のブランドに誇りと共感を覚えて同社に入社して勤務している
者が多かった。特に、営業担当者・マーケティング担当者であれば、独自の専門的な知識・
経験から、“正規品ではない”と判断できる者が多く、また、同社のブランドを守るために、市
場から模倣品を少しでも排除したい、という高い意識を持つ者も少なくなかった。
 このような、優れた人的リソースを模倣品対策でも有効活用することも、期待されていた。
模倣品対策を阻害していた要因・構造・状
況等について、文章で詳細に整理。一般論
としての問題点と、事例の事業者の問題点
の両方がわかるように整理しています。
~今回のケース~
 X 社では、模倣品モニタリングについて、グローバルな取組みとして、社員による模倣品の
発見を推奨しており、営業担当社員が、自分の担当する流通セクターを営業で訪問するタ
イミングを中心に、模倣品発見を行っている。
 年に 1 度の営業会議で模倣品の特徴を伝え、発見した場合には知財部署に連絡してくれ
るように依頼している。この取り組みを継続することで、営業部のみならず、本社機構やマ
ーケティング担当者も模倣品発見に対する意識を持っている。
 模倣品購入費用等はグローバル本社で負担している。模倣品モニタリングにより特段の報
奨等は発生しないが、同社商品への誇りを持つ社員が多いため、報奨等は無くても率先し
て協力が得られている。一方で、模倣品発見に協力した社員に対するお礼メール等は、必
ず当該社員の上司にも CC で送る等して、貢献を PR している。
模倣品対策の何がポイントだったのか、結果
として何が変わったのか、などについて、文章
で詳細に整理。一般論と、事例の事業者の対
策の両方がわかるように整理しています。
7
ウ)
ページ4:実践編(対策の手順・ここに注意)、本事例からの示唆
実践編
対策の手順
STEP
ここに注意
模倣品モニタリングに社員の協
力を願うことについて、可能性と
リスクを検討する。
 商品のラインナップ数、販売店舗の数や場
2
営業担当部署等から、意見を聴
取する。

3


4
模倣品モニタリングをする対象商
品や地域、モニタリングを依頼し
たい社員の範囲を決める。
社員との連絡方法、模倣品購入
時の費用負担、模倣品発見に貢
献してくれた社員への報奨等を
検討する。
Step3
周知・実
施依頼
5
社員によるモニタリングへの協力
依頼を行う。

Step4
モニタリ
ン グ 実
施
6
社員からのモニタリング結果に
基づき、報告を受ける。模倣品発
見時には対応を行う。

※
発見後
のアクシ
ョン

模倣品販売を行っていた店に対
して警告状を送付する。
協力してくれた社員にお礼をす
る。
 販売が権利侵害に当たることを伝え、警告
Step1
準備
Step2
仕組み
づくり
1

実践編。具体的に、事例で取り上げた対策の実施
を検討するとしたらどのようなステップで考えるのが
良いのか、一つの実践例を示しています。


所等を勘案し、①社員が模倣品に触れる可
能性、②社員が模倣品を見分けられる可能
性(わかりやすさ)、③模倣品発見時に購入
等することに関するリスク(例:模倣品と知っ
ての購入に対する販売店側の暴力や違法
行為等の可能性)などを十分に勘案する。
実際に、営業時などに、模倣品モニタリング
を実施することの可能性・妥当性について、
現場の負担感を確認する。
リスクが高い地域などについては避ける。
対象商品があまりに広範な場合は、重点製
品などに的を絞る。
模倣品発見時に誰にどのように連絡するの
か、模倣品購入の判断はどうするのか、費
用負担はどうするのか、協力してくれた社員
に報奨を提供するのかなど、オペレーション
を詳細に定める。
営業会議等、どのような場所で、誰からのメ
ッセージとして依頼を行うのかは明確にして
おく(責任・社員のモチベーションに影響す
るため)。
随時、様子を見ながら、オペレーションの改
善を行う。
社員に危害が及ばないような配慮は十分に
行う。
対策の手順。どのような手順が考えられるか、可能
な限り具体的に記載しています。(この手順通りに
必ず実施しないと成功しない、という趣旨ではなく、
目的や状況・模倣品対策の経験やリソース等に応じ
て、スキップしたり、追加したりする手順もあります。
あくまで一つの例、検討の材料としていただくことを
想定しています)
ここに注意。各手順において、留意すべきことを記
載しています。事例から得られた教訓に加え、一般
論として手順にあることをやる際に注意すべきこと
なども記載してあります。(各事業者の目的や状況
等に依っては、配慮が不要なことも記載してありま
すし、ここに記載していないことでも、注意すべきこ
ともありますので、あくまで一つの例、検討の材料と
していただくことを想定しています)
状を送付する
 社員へのお礼だけでなく、社員の上司等に
もお礼を行うことで、社員の意識の高さ・努
力が評価者に伝わるようにする。
本事例からの示唆
 社員によるモニタリングが一定の効果を挙げることができ、リスクがあまりない場合には、
戦略的に、営業担当部署等、市場モニタリングが可能な部署へ働きかけ、全社的な取組に
することも方策である。
 上記の事例では、基本的には社員の自発的な協力を期待するものとなっており、依頼も必
ずしも多くなく(年 1 回程度)、模倣品が発見された場合のみ対応する運用となっているが、
海外出張等がある場合には可能な限り模倣品チェックを依頼する、税関等での真贋判定も
地理的に近い社員に対応してもらうなど、より積極的に社員に関与してもらうやり方も考え
られる(但し、社員に相当の負担を伴うため、真贋判定のための訓練の実施、明確な報奨
や、本来業務との切り分けの明確化が必要になる)。
 模倣品発見後のフローを明確化したり、模倣品発見・購入の際の費用負担ルールを明確
化したりすることで、社員も協力が容易になる。
8
本事例からの示唆。事例から得られる示唆につい
てまとめています。事例の模倣品対策を実施する際
にポイントとなること、また、事例の模倣品対策に取
り組む場合に留意すべきこと(対策の副作用やリス
クなど)についても記載しています。
②テーマ事例
テーマ事例とは、模倣品対策に関する特定のテーマ(例:「調査会社の効
果的・効率的な活用」、「共同摘発の実施」など)について、複数の事業者が
どのようなアプローチをしているかということについて整理したものです。
同じ模倣品対策のテーマであっても、背景や目的、きっかけや企業リソー
ス等の違いによって、具体的な対策が異なることを示している類型になりま
す。例えば自社・自団体の目的や状況に近い事例を選んで対策を検討する材
料とすることもできますし、複数の事例の参考になる部分だけを選択して独
自の模倣品対策を検討する際の材料としていただくことも想定しています。
図表
テーマ事例の構成(原則 2 ページ程度)
対策概要(続き)
事例テーマ
A社の
事例テーマ
対策概要
事例プロファイル
イメージアップのための図表・
(続き)
関係図など
A社の
・・・
事例プロファイル
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
イメージアップのための図表・
関係図など
・・・
・・・
9
同
一
テ
ー
マ
に
つ
い
て
の
B
社
の
事
例
③ミニ事例
ミニ事例とは、事案の経緯がシンプルであり複雑な構造図等に馴染まない場
合や、事例とまでは言えなくとも、模倣品対策担当者が知識として知ってお
くと有益な情報・事案について簡潔に整理している場合、また、事案の内容
にやや特殊性があったり、自社のコントロールを超えた部分の関係性が前提と
なっていたりと、万人にとって同様に活用することができない可能性もある
が豆知識的に参考となる事案・情報についてまとめているものです。
図表 ミニ事例の構成(原則 1 ページ程度)
事例タイトル
対策概要
・・・
・・・
・・・
イメージアップのための図表・
関係図など
10
(3)掲載事例について
①模倣品対策の整理枠組み
模倣品対策と一口にいっても、目的や態様、実施タイミング等によって様々
なものがあります。例えば、そもそも商標権・意匠権等の出願を包括的に行う
ことにより、模倣をされないようにすることも一つの対策ですし、模倣品が市
場に出回るようになってから模倣品の流通量を減らすために摘発を行ったり、
訴訟を行ったりすることも対策です。
本事例集に掲載する事例の選定と収集及び整理については、一つの試みとし
て、以下の枠組みを活用し、それぞれの模倣品対策テーマについて、いくつか
の事例が収集・整理できるように調査を行いました。以下の模倣品対策の枠組
みは一つの整理例に過ぎず、全ての模倣品対策を抜け漏れ・重複なく網羅でき
るものでもありませんが、本事例集の事例の収集・整理の枠組みとして考え方
を整理したものであり、この分類に基づいて「基本事例」の『事例のプロファ
イル』の“対策シーン”が記載されているため、ここで、考え方を示します。
図表
本事例集における模倣品対策の整理枠組み
事前(予防措置)
①
権利取得・
ブランディング
権利侵害
②
製造と
情報管理
事後(エンフォースメント)
④行政摘発
⑤行政訴訟
③
契約
⑥民事訴訟
⑦刑事訴訟
事前・事後の両方に係る模倣品対策
⑨共同実施
⑧調査・監視(モニタリング)
まず、権利侵害(=模倣)の発生以前(予防措置)と、発生後(エンフォー
11
スメント)に分けて考えています。権利侵害発生前の段階で、模倣されたとき
に対抗できるように権利取得を行ったり、模倣がされにくいような技術的措置
を施したり、製造情報の漏えいを防止するための契約を締結するなどの方策が
予防的対策としては考えられます。
一方で、模倣品が発見されてしまった場合には、警告状の送付や摘発に踏み
出すことになりますし、必要に応じて訴訟を提起することが必要になることも
あるでしょう。
一方で、このような模倣品侵害の発生以前・以後の枠組みとは別に、模倣品
の製造・流通状況を調査したり、模倣品が発生した際には製造元や流通アレン
ジャーの特定を行ったりするための調査・監視(モニタリング)も重要な対策
の課題になります。
さらには、事前・事後、調査などの過程全般に関して、単独で実施する場合
と、複数事業者で連携して実施する場合(共同実施)は特殊な対策になると考
えられるため、テーマとして分けています。
図表
本事例集における模倣品対策の整理枠組みの説明
テーマ
① 権利取得・ブランディ
ング
概要
・模倣品対策まで考えた上での知的財産権(商標
権等)の取得、事業部等と連携した上での知的
財産権活用戦略の策定など、権利取得段階での
対策。
・また、そもそも模倣をされないようにするため
に、自社ブランドの真正品の価値を PR したり、
真正品の安全性・模倣品の危険性を消費者・販
売者等に啓発したりするなどの対策。
② 製造と情報管理
・製造段階で、容易に模倣ができないような技術
的工夫を施したり、真贋判定が容易にできるよ
うなシール、ホログラム等を貼付したりするな
どの対策。
③ 契約
・製造工場・倉庫等から、未完成品などが横流し
されたり、技術情報が流出したりしないように
するための対策。
④ 行政摘発
・模倣品事業者を現地政府等に効果的・効率的に
摘発してもらうための情報提供や関係構築など
に関する対策。摘発後に公開で模倣品処分等を
実施してもらう対策なども含む。
12
テーマ
概要
⑤ 行政訴訟
・行政訴訟を効果的・効率的に実施するための対
策。
⑥ 民事訴訟
・民事訴訟を効果的・効率的に実施するための対
策。
⑦ 刑事訴訟
・刑事訴訟を効果的・効率的に実施するための対
策。
⑧ 調査・監視(モニタリ
ング)
・効果的・効率的な調査会社の活用に関する対策。
・調査情報を活用して、模倣品業者の特定や絞り
込みに活用している対策。
・インターネット上の模倣品売買に対する対策な
ども含む。
⑨ 共同実施
・情報共有、共同摘発、展示会開催等の啓発など、
模倣品対策に関して、業界団体内、もしくは取
引関係等に応じて事業者間連携を行って実施し
ている対策。
13
②本事例集に掲載している事例一覧
上記のような枠組みを前提として、本事例集には以下のような事例を掲載しています。
権利侵害
事前(予防措置)
2 製造と情報管理
1 権利取得・ブランディング
No.3
No.4
事後(エンフォースメント)
4 行政
摘発
No.2
No.7
No.8
No.9
No.15
No.16
No.17
No.24
No.26
No.28
No.29
No.30
No.32
No.36
No.38
No.40
No.11
No.5
No.6
No.7
No.8
No.10
No.12
No.13
No.14
No.11
No.19
5 行政訴訟
No.13
No.41
No.18
No.37
No.20
No.22
6 民事訴訟
No.18
No.25
No.26
No.28
No.41
No.42
No.41
No.43
No.31
No.32
No.41
No.43
No.27
No.32
No.39
No.40
3 契約
No.43
7 刑事訴訟
事前・事後の両方に係る模倣品対策
8
調査・監視(モニタリング)
9 共同実施
No.1
No.2
No.3
No.4
No.8
No.12
No.5
No.7
No.10
No.16
No.19
No.20
No.21
No.22
No.23
No.24
No.19
No.27
No.36
No.37
No.25
No.27
No.29
No.32
No.33
No.34
No.38
No.39
No.40
No.35
No.37
No.38
No.41
は重点対策の領域
14
2.模倣品対策事例集(本編)
本章では、実際の事例を掲載しています。以下のような順序で掲載を行っています。
<模倣品を見つけてみよう>
No.1:社員も参加する全社モニタリングを実施し、効果的・効率的に市場に流通する模倣品を発
見する。【基本事例】。
No.2:展示会で、模倣品の監視・摘発を行う。【基本事例】
コラム 1:政府模倣品・海賊版対策総合窓口の概要
<模倣品に関する意識を高めよう>
No.3:顧客に対する「協力依頼に関する文書」の配布により、顧客の意識が向上し、顧客から模
倣品発見の知らせを受けることもある。【テーマ事例】
No.4:模倣品を扱っていた顧客に対して、摘発対象とするのではなく、啓発と真正品の売込みを
実施。広告宣伝等も実施し、多面的に顧客を啓発する。【テーマ事例】
No.5:中国等における“展示会”を有効活用して、業界の模倣品対策の姿勢を効率的に PR す
る方法。【ミニ事例】
No.6:現地政府・代理人(調査会社)・メディアと連携、大規模摘発を実施し、新聞記事にしてもら
うことで、広く効果的な啓発活動を実現。【基本事例】
No.7:公開処分により、模倣品事業者への見せしめ効果と一般消費者への模倣品問題の啓発
効果を狙う。【テーマ事例】
No.8:行政機関との信頼関係をベースにして、公開破壊などの形で模倣品の処分を実施。【テー
マ事例】
<模倣品問題を予防しよう>
No.9:ホログラムシールの製品包装段ボールへの貼付により、税関等での嫌疑品発見率を上げ
る。【基本事例】
No.10:著作権だけでなく、業界団体発行のマークの商標権を利用した、コンテンツビジネスにお
ける海賊版対策。【ミニ事例】
コラム 2:日系企業の現地での取組み
No.11:OEM 契約の製造工場からの横流しを防止するために、個々の部品も含めて、数量管理
を徹底し、売れ残り品も全数処分を実施。【ミニ事例】
No.12:偽造防止策を複合的に施すことで真贋判定を容易にする。【基本事例】
No.13:事業範囲を超えて、先回りして権利取得することで冒認登録を防ぐ。【基本事例】
No.14:主要商標は全類出願を行い、その他の個別ブランド商標は複数の代理人事務所に委託
して継続的モニタリングを実施する。【基本事例】
15
<関係行政機関等と連携しよう>
No.15:現地スタッフの税関への直接訪問により、関係性を強め、差し止め件数を増やしている。
現地調査会社・弁護士事務所等も有効活用。【テーマ事例】
No.16:外資系企業との連携、調査会社の人脈を活用して中国における税関職員へのセミナー
に参加。販社にも、税関における対応を優先する意識を持ってもらう。【テーマ事例】
No.17:今後、積極的に取締を行ってほしい行政機関(税関等)を対象に、表彰活動等を実施。
【ミニ事例】
No.18:裁判所(地方法院)が地域の製造業者を傍聴に招き、啓発活動の一端を担ってくれた事
例。【ミニ事例】
<調査会社を使ってみよう>
コラム 3:調査会社の不正行為にご注意を!
No.19:調査会社に責任ある調査を遂行してもらうためのインセンティブ設計を実施。【テーマ事
例】
No.20:地域ごとに特色を持つ、小規模で機動的な調査会社に包括委託をすることで、効果的・
効率的な模倣品対策を実施。【テーマ事例】
No.21:玉石混交の調査会社の良し悪しを見分けるために、“調査会社に対する調査”を実施。
【ミニ事例】
No.22:調査会社に年間一括契約することで、効果的・効率的委託を実施しつつ、経年の状況変
化等を正確に把握。【ミニ事例】
No.23:模倣品対策をグローバルな視点でとらえ、模倣品流通の源流を叩く。【ミニ事例】
No.24:地元密着型の小規模調査会社を活用して模倣品流通ネットワーク図を作成。キーとなる
流通事業者を特定し、効果的対策を実施。【基本事例】
<模倣品業者を摘発しよう>
No.25:いわゆる「地方保護主義」を回避するため、販売業者の所在する大都市圏で提訴する。
【基本事例】
No.26:行政摘発に基づく「処罰決定書」は、民事訴訟の重要な証拠として活用することができ
る。【ミニ事例】
No.27:「量から質へ」 実際にアクションをとる案件を“刑事訴訟まで持ち込める案件”に限定。
【テーマ事例】
No.28:流通事業者のみを摘発対象とすることにより、市場から模倣品を駆逐し、摘発後も模倣
品が容易に市場に出ないようにする。【テーマ事例】
No.29:個人輸入の模倣品対策は、規模の大きな税関を定期訪問して実施。個人輸入業者へ
は、警告書の送付で模倣品販売をやめさせ、定期訪問でチェックする。【ミニ事例】
16
No.30:刻印されたマークに着目して、発見される模倣品のパターンを分析。ターゲットとすべき
製造量の多い模倣品製造業者を特定する。【基本事例】
No.31:著作権活用により、キャラクターを保護する。【基本事例】
No.32:著名インターネットサイト上の模倣品販売事業者に対し、削除依頼のみならず、追求・特
定して徹底した対策を実施。【基本事例】
No.33:インターネット上で模倣品・海賊版を販売する事業者への基本的な対抗策。【ミニ事例】
No.34:インターネットで模倣品を販売する事業者の決済口座を凍結することで、模倣品被害の
拡大を抑制する。【ミニ事例】
No.35:税関の差止情報を収集・分析することで、模倣品関連事業者を分類、特に悪質な事業者
の絞り込みを実現。【基本事例】
コラム 4:中小企業の海外侵害対策に対する支援について(海外侵害対策支援事業)
コラム 5:国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)の概要
<事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう>
No.36:顧客と“縦の連携”をして情報共有・共同摘発を行うことで、効果的・効率的な模倣品対
策と顧客との関係強化を同時に実現。【基本事例】
No.37:業界横断的に模倣品対策情報を共有することを企図してポータルサイトを立ち上げ。対
外的情報発信と企業間情報蓄積の実現を目指す。【テーマ事例】
No.38:個社の情報を権利者団体に集約することで、模倣品を発見した際の迅速な対応を可能
にする。【テーマ事例】
No.39:業界団体内の有志企業で共同摘発を実施し、コスト削減と業界としての厳格な態度を表
明。【テーマ事例】
No.40:欧米企業等との共同摘発に参加することで、摘発コストを下げつつ、欧米企業の模倣品
対策のノウハウを学ぶことができる。【テーマ事例】
<戦略的な模倣品対策を実施しよう>
No.41:戦略策定から権利取得、民事訴訟まで一貫した対応をとる。【基本事例】
No.42:権利取得に関する協議を行う社内体制を構築する。【基本事例】
No.43:知的財産の保護とライセンスの組合せ活用に関する戦略をもとに対策実施。【基本事
例】
17
模倣品を見つけてみよう
No.1:社員も参加する全社モニタリングを実施し、効果的・効率的に市
場に流通する模倣品を発見する。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
全世界
対策シーン
⑧調査・監視(モニタリング)
対策コスト
コスト小(100 万円未満)
所要期間
※継続的な取組み
対策の目標
対策効果
業種
調査会社等を使わずに効果的・効率的に模倣品を発見し、対策につ
なげる。
 月に 3~4 件程度の模倣品発見の報告。
 自社の社員での発見。
 発見された発売者に対する警告等により、模倣品販売の中止に成功
している
消費財製造業
経緯まとめ
 X 社はグローバルに拠点を持つ企業で、X 社の製品は世界中で発売され、認知度も大変高
く、人気があるため、模倣品は様々な店舗等で販売されている。
 しかし、X 社のロゴを模倣した衣料品の模倣品被害も後を絶たない状況であった。
 模倣品問題に対する一つの対応策として、X 社では、模倣品発見のモニタリング協力を自
社の社員(営業担当者)に依頼している。この方法は、日本本社のみならず、全世界の関
係会社で実施している方策である。
 もちろん、全ての模倣品を営業担当者がチェックしきることは現実的ではないので、容易に
外見等からわかる模倣品のみを対象としている。
 年に1回、30 名程度の営業担当管理職が一堂に会する場で、知財担当部署から全員に、
模倣品発見のための協力を依頼している。
 営業担当者は商品知識が豊富であり、また、X 社の製品等に強く誇りと愛着を持っている
者が多いため、この取組みに積極的に協力してもらえている。
 実際に、(日本国内だけでも)月に 3~4 件程度の模倣品発見の報告がある。模倣品を発
見した社員は、発見した品物を購入し、販売していた店の情報と共に知的財産担当部署に
送る。模倣品の購入費用はグローバル本社で負担する。
 模倣品を販売していたことが判明した店舗に対して、販売していたのが模倣品であり、権
利侵害をしていることについて警告状を送付して模倣品販売を中止するよう依頼している。
警告状は、侵害行為に応じた数パターンを準備している。
18
模倣品を見つけてみよう
問題の構造
量販店
量販店
調査会社
スーパー
スーパー
調査会社
専門店
専門店
専門店
調査会社
地域・対象商品・調査対象施設別に、複数の調査会社を
依頼すると、かなりの費用がかかる。
企業
問題の核心
模倣品が世界中で大量にある場合、調査会社等に依存しすぎるとコスト高になる。
 X 社ブランドは非常に著名であり、世界中のいたるところで模倣品が見られ、模倣品が世界
的に氾濫している状況であった。
 (支社の立地国によっては)模倣品の発見を調査会社に委託することもあるが、模倣品が
至る所にあるため、コストが非常に高くつくため、効率的ではないという側面もあった。
 X 社の製品は、通常の専門店や、量販店などで販売されており、模倣品へのアクセスは非
常に容易な状況であり、リスクや負担が少ない環境で、模倣品に接触することが可能であ
るという特徴があった。
 一方で、社員の多くは、X 社のブランドに誇りと共感を覚えて X 社に入社して勤務している者
が多かった。特に、営業担当者・マーケティング担当者であれば、独自の専門的な知識・経
験から、“正規品ではない”と判断できる者が多く、また、X 社のブランドを守るために、市場
から模倣品を少しでも排除したい、という高い意識を持つ者も少なくなかった。
 このような、優れた人的リソースを模倣品対策でも有効活用することも、期待されていた。
19
模倣品を見つけてみよう
対策事例
量販店
量販店
スーパー
スーパー
専門店
専門店
専門店
自分の担当する取引先訪問の際に、市場調査も行う
営業担当
社員
営業担当
社員
営業担当
社員
通常の業務において、模倣品販売等にも目を光らせる。
(明らかな模倣品と判るものについてのみ発見)
定例の営業会議等で模
倣品発見に対する説明
の機会・時間をもらう
(明らかな模倣品とわか
るものについてのみ、協
力依頼)
模倣品発見の報告
模倣品の購入・送付
感謝の表明
(本人+本人の上司)
知財部署
対策のポイント
全世界的な取組みとして、社員による模倣品発見を奨励する。
 社員が模倣品を発見できるような知識・スキルをある程度有しており、模倣品発見につい
て、大きなリスクが伴わないのであれば、社員に模倣品発見への協力を依頼することは、
調査会社の利用をできるだけ避けつつ、効率的なモニタリングの実現が可能になる。
 営業社員等が多く、また、自社製品について十分な知識を有しており、販売店等に出向く
機会が多い場合には、模倣品発見の可能性が高い。
~今回のケース~
 X 社では、模倣品モニタリングについて、グローバルな取組みとして、社員による模倣品の
発見を推奨しており、営業担当社員が、自分の担当する流通セクターを営業で訪問するタ
イミングを中心に、模倣品発見を行っている。
 年に 1 度の営業会議で模倣品の特徴を伝え、発見した場合には知財部署に連絡してくれ
るように依頼している。この取り組みを継続することで、営業部のみならず、本社機構やマ
ーケティング担当者も模倣品発見に対する意識を持っている。
 模倣品購入費用等はグローバル本社で負担している。模倣品モニタリングにより特段の報
奨等は発生しないが、X 社商品への誇りを持つ社員が多いため、報奨等は無くても率先し
て協力が得られている。一方で、模倣品発見に協力した社員に対するお礼メール等は、必
ず当該社員の上司にも CC で送る等して、貢献を PR している。
20
模倣品を見つけてみよう
実践編
対策の手順
STEP
ここに注意
模倣品モニタリングに社員の協
力を願うことについて、可能性と
リスクを検討する。
 商品のラインナップ数、販売店舗の数や場
2
営業担当部署等から、意見を聴
取する。

3


4
模倣品モニタリングをする対象商
品や地域、モニタリングを依頼し
たい社員の範囲を決める。
社員との連絡方法、模倣品購入
時の費用負担、模倣品発見に貢
献してくれた社員への報奨等を
検討する。
Step3
周知・実
施依頼
5
社員によるモニタリングへの協力
依頼を行う。

Step4
モニタリ
ン グ 実
施
6
社員からのモニタリング結果に
基づき、報告を受ける。模倣品発
見時には対応を行う。

※
発見後
のアクシ
ョン

模倣品販売を行っていた店に対
して警告状を送付する。
協力してくれた社員にお礼をす
る。
 販売が権利侵害に当たることを伝え、警告
Step1
準備
Step2
仕組み
づくり
1



所等を勘案し、①社員が模倣品に触れる可
能性、②社員が模倣品を見分けられる可能
性(わかりやすさ)、③模倣品発見時に購入
等することに関するリスク(例:模倣品と知っ
ての購入に対する販売店側の暴力や違法
行為等の可能性)などを十分に勘案する。
実際に、営業時などに、模倣品モニタリング
を実施することの可能性・妥当性について、
現場の負担感を確認する。
リスクが高い地域などについては避ける。
対象商品があまりに広範な場合は、重点製
品などに的を絞る。
模倣品発見時に誰にどのように連絡するの
か、模倣品購入の判断はどうするのか、費
用負担はどうするのか、協力してくれた社員
に報奨を提供するのかなど、オペレーション
を詳細に定める。
営業会議等、どのような場所で、誰からのメ
ッセージとして依頼を行うのかは明確にして
おく(責任・社員のモチベーションに影響す
るため)。
随時、様子を見ながら、オペレーションの改
善を行う。
社員に危害が及ばないような配慮は十分に
行う。
状を送付する
 社員へのお礼だけでなく、社員の上司等に
もお礼を行うことで、社員の意識の高さ・努
力が評価者に伝わるようにする。
本事例からの示唆
 社員によるモニタリングが一定の効果を上げることができ、リスクがあまりない場合には、
戦略的に、営業担当部署等、市場モニタリングが可能な部署へ働きかけ、全社的な取組み
にすることも方策である。
 上記の事例では、基本的には社員の自発的な協力を期待するものとなっており、依頼も必
ずしも多くなく(年 1 回程度)、模倣品が発見された場合のみ対応する運用となっているが、
海外出張等がある場合には可能な限り模倣品チェックを依頼する、税関等での真贋判定も
地理的に近い社員に対応してもらうなど、より積極的に社員に関与してもらうやり方も考え
られる(但し、社員に相当の負担を伴うため、真贋判定のための訓練の実施、明確な報奨
や、本来業務との切り分けの明確化が必要になる)。
 模倣品発見後のフローを明確化したり、模倣品発見・購入の際の費用負担ルールを明確
化したりすることで、社員も協力が容易になる。
21
模倣品を見つけてみよう
No.2:展示会で、模倣品の監視・摘発を行う。
事例のプロファイル
権利種別
意匠権、商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
④行政摘発、⑧調査・監視(モニタリング)
対策コスト
※本事例のコスト範囲が不明瞭なので示すのは困難
事前準備:約 1 ヶ月
事後調査:約 6 ヶ月
事後処置:3 ヶ月以上
模倣品の製造国外への流出を防ぐ
所要期間
対策の目標
対策効果
業種
 広州交易会の展示会場からの模倣品の排除

意匠権侵害:約 35 社

商標権侵害:約 5 社
※ある年の件数
輸送機器等製造業
経緯まとめ

X 社の模倣品は中国で広く流通しており、中国最大規模の展示会にも模倣品が出品される
状況にあったため、数年前から、展示会での取締りを実施するようになった。

この中国最大の展示会には政府取締機関の担当者が常駐しており、X 社スタッフが模倣
品を発見し、政府担当者に申告、模倣品と認められた場合、その場で展示会から当該製品
を排除することができる。

X 社は事前準備を入念に行って、広大な展示会場を、スタッフで手分けして模倣品チェック
を行っている。当日中に「投訴状」と呼ばれる、政府担当者への申告状を作成し、翌日に提
出することで、認められれば数時間後には会場から模倣品を撤去させることができる。

効率的なチェック活動と排除を行うことで、展示会から世界中に模倣品が拡散することを防
いでいる。
22
模倣品を見つけてみよう
問題の構造
中国全土から
模倣品事業者が集まる
★
展示会に集まったバイヤーたちにより、
世界中に模倣品が拡散する
X社が、ある年の広州交易会を見回った結果・・・
権利侵害の恐れのある製品を出展していた業者数
意匠権侵害:約45社
商標権侵害:約30社
問題の核心
展示会に堂々と模倣品が出品され、ここから世界中に拡散していく。

中国の展示会には世界中のバイヤーが集う。この展示会に模倣品が出品されると、世界
中に広まるおそれがあるため、展示会場で模倣品を排除することは重要である。

中国でも有数の展示会である広州交易会では、模倣品が発見されることも珍しくないこと
から、主催側の知財保護への責任もあり、取締機関の常駐ブースも設置される。

広州交易会をはじめとした中国の展示会場を見回ってみると、商標権や意匠権の侵害の
おそれがある製品を堂々と出展している事業者を発見することがある。

本事例でも、権利侵害のおそれがある製品を出展していた業者は、意匠権侵害で 45 社程
度、商標権侵害で 30 社程度存在していた年もあった。
23
模倣品を見つけてみよう
対策事例
準備
意匠
1日目
朝
昼
意匠権侵害チェック
調査の
準備
2日目
夜
朝
投訴状 投訴状
作成
提出
昼
夜
• 出品者のブースを回る
• カタログ収集、写真撮影、
等
• 意匠権を侵害していない
か確認
• 侵害の可能性が高いもの
を選定
• 真贋ポイントの確認
• 権利関係の確認
• 権利書の用意
• 投訴状等の提出書類の
フォーマットを作成
• 見回りスケジュール・
分担の作成
朝
昼
取締機関
確認・排除
商標権侵害チェック
商標
3日目
• 翌朝には提出
投訴状 投訴状
作成
提出
取締機関
確認・排除
展示会以降
夜
生産拠点調査
調査結果まとめ
⇒交渉 or 摘発 or 訴訟
• 政府取締機関による調査
⇒認定:侵害品排除
⇒却下:そのまま
• 事前準備した
書類を用いて
• 展示会終了後、調査会社を使って、生産拠点を探す
投訴状作成
• 生産拠点が見つかった場合、行政摘発や訴訟を行う
※展示会ルール「過去の投訴対象となった会社への再投訴は不受理」
前回投訴後に追加の法的措置を起こさないままの企業は救済されない。
展示会での排除だけを求めるのは中国企業振興の観点からNG。
やりきる覚悟で投訴する。
対策のポイント
事前準備を生かした迅速な排除で、拡散機会を減少させる。

大規模の展示会では、政府取締機関が参加し、その場での取締りが可能。

権利侵害品を会場から撤去させたり、製品カタログから除いたりすることで、侵害者のビジ
ネスチャンスを奪う。

業者が一堂に会した機会を活用して、一斉に調査し、取り締まることができる。
~今回のケース~

この展示会には、政府取締機関の担当者が常駐しており、申請が認められれば、展示会
中に侵害品を会場から撤去してもらうことができる。

今回の展示会でターゲットとする製品を選定し、各製品の権利書を事前に準備した。また、
限られた会期で効率的に見回り、投訴ができるようにスケジュールや役割分担を決めてい
た。

事前準備を生かして、投訴状を当日中に作成。翌日提出することで、即日撤去が可能にな
った。展示会で即日対応することで、多くの模倣品事業者へ打撃を与えることに成功した。

また、規模の大きくない展示会でも同様の調査を実施したところ、油断していたのか、他よ
り多い模倣品事業者による展示が発見された。
24
模倣品を見つけてみよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
2
3
4
5
ここに注意
今回の展示会で中心的にチェッ
クするターゲット製品を選定す
る。
ターゲット製品の特徴を整理す
る。
権利関係の確認をし、権利書を
準備する。
投訴状のフォーマットを作成す
る。
展示会でのチェック担当者と、会
期中の見回りスケジュールを決
めておく。
 模倣品被害が大きい製品や注力している製
品など、営業部門や開発部門と連携してタ
ーゲットを定める。
 どのような特徴を有していれば模倣品と判
断するのかの基準を社内で共有しておくと、
当日会場でスムーズにチェックできる。
 現地代理人に確認をする。
 展示会には限られた人数のスタッフしか入


れないこともある。エリア別や製品別など、
予め誰がどこをチェックするのか決めてお
く。
会場図などを手に入れておくとよい。
真正品のメーカーであることがバレて、展示
品やカタログを隠されるおそれがある。注意
点の確認、事前シミュレーションといった準
備は必要。
投訴すると追加調査が求められる展示会も
あるので、実際に投訴するかどうかは熟考
が必要。
-
Step2
会場
調査
6
展示会場を回り、模倣品チェッ
ク。カタログを収集する。
Step3
摘発
準備
Step4
摘発
7
投訴状を作成する。

8
投訴状提出。

9
(模倣品と認められれば)展示会
場から当該商品は排除される。
 展示品は排除。カタログ掲載品はブースに
Step5
事後
対応
10 投訴した業者を調査し、訴訟など
を検討する。
ある残りのカタログに×印をつけるなどの対
処をとらせ、残りの会期中での契約締結を
不可能にさせる。
 現地調査会社を利用することが多い。
 投訴した業者に対し、何も追加の法的措置
をとらなかった場合、翌年以降、展示会での
投訴が不受理になる場合もある。
本事例からの示唆

世界中で製造・流通する模倣品を探して回るのは負担も大きいが、展示会は複数の模倣
品業者が自ら参集してくる機会であるともいえるので、この機会を上手く活用することがで
きれば、モニタリングコストをあまりかけずに、模倣品調査が可能になる。

取締機関担当者が常駐しない展示会の場合は現地排除ができないため、展示会場では侵
害事業者の目星をつけ、展示会後に調査することになる。

過去に投訴した事業者に再投訴するには、事後対応したことを証明する必要があるので、
行政摘発の処罰決定書などを準備しておく。
25
Coffee Break ~模倣品対策事例集コラム~
政府模倣品・海賊版対策総合窓口の概要
~模倣品・海賊版でお困りの際は、まずこちらへ~
総合窓口設置の経緯と概要
「政府模倣品・海賊版対策総合窓口」は、2004 年 8 月に、企業等からの要望を受けて経済産業省製
造産業局模倣品対策・通商室(当時)に、政府の一元的な相談窓口が設置され、相談業務をスタートさ
せました。政府総合窓口では、権利者や企業等からの相談や申立に対し、関係省庁と連携をとりつつ、
丁寧かつ迅速な対応に努めています。
また、2005 年 4 月からは、相談窓口における業務の一環として、外国における制度や運用に問題が
あって、日本企業の知的財産権が適切に保護されていない場合、企業・団体等からの申立を受けて侵害
状況調査等を実施し、必要に応じて、政府間協議や国際的な枠組みを活用することによって問題の解決
を図る「知的財産権の海外における侵害状況調査制度」の運用が行われています。
相談への対応
専門家(弁護士、審査官経験者)を配置し、寄せられた相談内容に応じて、事案毎に対応しています。
(対応イメージ)
受付方法
メールまたはお電話にて受け付けております。
来訪による相談をご希望の場合には事前の予約が必要ですので、お電話にてご連絡ください。
※メールでお問い合わせいただく場合は、下記 URL 内の入力フォームをご利用ください。その際、必
ず氏名、連絡先を記載いただき、また、以下の事項についても可能な限り記載願います。




模倣品等による被害が生じている国・地域名
被害の実態
特許、意匠、商標などの権利取得の有無
侵害されている権利
<例> 特許、実用新案、意匠、商標、著作権、育成者権、不正競争(類似商品、著名表示模倣、デ
ッドコピー、営業秘密の不正取得、技術的制限手段回避装置(コピーガードキャンセラー等)
)
<お問い合わせ先>
政府模倣品・海賊版対策総合窓口
経済産業省 製造産業局 模倣品対策室(経済産業省本館 5 階東 6 号室)
〒100-8901 東京都千代田区霞ヶ関 1-3-1
電話:03-3501-1701(9 時 30 分~17 時 00 分)(平日のみ)
FAX:03-3501-6588
http://www.meti.go.jp/policy/ipr/overview/contact.html
(資料・情報提供:経済産業省)
26
模倣品に関する意識を高めよう
テーマ事例:
取引先・顧客への模倣品不買に関する啓発

模倣品の製造・流通を叩くことに加え、模倣品を購入しないように、取引先・顧客に啓
発を行うことで、模倣品需要そのものを縮減していくことも重要。取引先・顧客に真正
品のメリットと模倣品利用のリスクを示しながら、理解を得ていく活動が有効。
事例 No.3:
顧客に対する「協力依頼に関する文書」の配布により、顧客の意識が向上し、顧客から模
倣品発見の知らせを受けることもある。【消費財製造業 X 社】
(協力依頼に関する文書を活用して模倣品の問題点を指摘することで啓発実施)
 X 社では、ブランドイメージを重要視しているため、模倣品の発見・対策には非常に力
を入れている。
 一般消費者向けには、模倣品についての啓発は意識的に行っていない。真正品の販売元
が、
“模倣品が存在している”ことを公表し、警戒を呼びかけることによって、消費者
が疑心暗鬼になったり、
必要以上に警戒して真正品にも関わらず購入を控えたりするよ
うなことが生じることが懸念され、デメリットが大きいと考えているからである。
 一方で、顧客に対する啓発は非常に力を入れて実施しており、顧客が模倣品を扱わない
ように腐心している。
 具体的な啓発活動例として、顧客に対して『協力依頼に関する文書』を新規契約時に渡
すことを実施している。このポリシーは、①模倣品・類似品と思われる商品についての
X 社の考え方、②X 社が持つ権利やその使い方などが主に記載されている、3 ページ程
度のものであり、模倣品取扱いの問題点や、模倣品を販売していた場合の X 社の権利
やエンフォースメントの方法などについて記載してある。
 顧客は、模倣品を正規ルート以外で輸入したり、模倣品であることを認識せずに模倣品
を取り扱ったりすることがあり、X 社の営業担当等が顧客小売店で模倣品が販売されて
いるのを発見すると、模倣品対策担当者のところへ連絡を入れるようにしている。
 模倣品を販売していた顧客に対しては、先述の『協力依頼に関する文書』を再度持参し
て説明を行うこともある。たいていのケースでは、もう一度説明することにより、問題
を理解し、次回から取り扱わないような約束をするため、結果的に実際に“取引停止”
というところまで追い込まれたケースは現時点では無いとのことである。
(顧客がブランド保護に共感することで、顧客も含めた模倣品対策を実現)
 顧客にも X 社のブランド保護に共感してもらい、ブランドを守ることの意味をしっか
りと理解してもらっているため、特にお願いをしていないにも関わらず、顧客から模倣
品に関する情報が X 社にもたらされることがある。
 具体的には、顧客から、
“製造事業者・流通事業者等から XX という製品の提案を受け
ているのだが、これは X 社の権利侵害に当たり、模倣品扱いになるのではないか”と
いうような問い合わせが年間数件あるとのことで、
中には実際に模倣品の可能性がかな
り高いものもあり、X 社が機先を制して模倣品対策の実施につなげられることもあると
いうことである。
27
模倣品に関する意識を高めよう
 なお、これらの実績は、X 社が模倣品対策とブランドイメージ向上・維持に非常に力を
入れているからこそ、顧客も共感してくれているのであり、X 社の製品に強い誇りと愛
着を持つ営業担当者が、
密に顧客小売店等とコミュニケーションをとっていることから
実現していることも、重要なポイントである。
図表 顧客への模倣品に関する啓発の実施
 契約時に、協力依頼に関
する文書を手交して説明
 ブランド価値の維持の重
要性と模倣品の問題点を
伝える
 小売店が模倣品を取り
扱っている場合には、再
度、協力依頼に関する
文書を提示して、説明し
て模倣品取扱いを停止
してもらうよう説得。
 意識の高い小売店側
から、模倣品につなが
りそうな情報提供が行
われるようになる。
模
模
28
模倣品に関する意識を高めよう
テーマ事例:
取引先・顧客への模倣品不買に関する啓発

模倣品の製造・流通を叩くことに加え、模倣品を購入しないように、取引先・顧客に啓
発を行うことで、模倣品需要そのものを縮減していくことも重要。取引先・顧客に真正
品のメリットと模倣品利用のリスクを示しながら、理解を得ていく活動が有効。
事例 No.4:
模倣品を扱っていた顧客等に対して、摘発対象とするのではなく、啓発と真正品の売込み
を実施。広告宣伝等も実施し、多面的に顧客を啓発する。【部品製造業 X 社】
(模倣品を取り扱っていた顧客を“営業先”と捉え、真正品を使ってくれるよう説得する)
 X 社では、主に部品を製造しているため、顧客が X 社の真正部品を購入して取り扱っ
てくれることが何より重要である。そこで、顧客の完成品に X 社の模倣部品が使われ
ていることが判明した場合には、完成品の製造工場等を摘発するのではなく、どこから
X 社の模倣部品を購入したのかということを確認して、模倣部品を流通させている事業
者を追跡・特定するようにしている。
 このような対応の背景には、模倣部品を使って完成品を製造している事業者であって
も、丁寧に説明を行うことで、正規の新規顧客となる可能性があるということを強く意
識しているということがある。
 実際に、模倣部品を使用していたものの、説得を通じて X 社の真正品を使用するよう
になってくれた顧客に対しては、半期に一度程度のアンケートも実施し、X 社部品を真
正品に転換したことで、
売上高がどの程度伸びたのかということについて定量化するこ
とを支援するなどの活動も行っている。
 もちろん、懇切丁寧に説明を行っても、X 社の模倣部品の取り扱いをやめてくれないよ
うな事業者に対しては、顧客とすることをあきらめて、摘発につなげることもある。
(専門誌、一般新聞紙等への広告宣伝の掲載により模倣品のリスクを啓発)
 上記のような個別・直接的な顧客への働きかけだけではなく、広く、普遍的な模倣品に
関する啓発も実施している。
 中国においても、X 社の部品を使用するような事業者(衣料製造・流通事業者)の多く
が読んでいる業界専門雑誌に、模倣品についての広告宣伝を定期的に掲載している。
 例えば、
『模倣品を使って完成品を製造し、日本に輸出したとしても、税関で止められ
てしまう』というようなことを広告宣伝に載せている。
 一方で、一般新聞紙においても、模倣品を販売・利用しているような事業者や顧客がい
た場合には、X 社は断固として厳しい態度をとり、摘発につなげたり、訴訟等も実施し
たりするということを明確に書いた広告宣伝を掲載し、X 社の模倣品に対する厳しい姿
勢も示している。
29
模倣品に関する意識を高めよう
(顧客の契約する製造工場における直接の教育の実施)
 特殊なケースではあるが、懇意にしている顧客で、X 社の製造する部品を使って完成品
を作っている企業の工場で、X 社の模倣品が使われていることが判明したケースがあっ
た。
 この顧客は、模倣品を使っていたことを問題視し、模倣品を使っていた工場の職員・関
係者等が一堂に会する機会を設けてくれ、X 社担当者が直接に、模倣品の違法性や問題
点、製品としてのリスク等について説明・教育する機会を得た。
 説明・教育の場では、
模倣品を使用してしまった際の対応策などについて説明を行った。
中には、真贋判定ができないようなケースはどうしたら良いのか、教えてもらった見分
け方で真贋判定ができない場合には X 社が何かの責任を取ってくれるのかといったこ
とについて鋭く質問があったりして、回答に詰まる場面もあったが、相互理解が進み、
有意義な場になったということである。
図表 顧客に対する多様な啓発の実施
X社
専門誌への広告掲載
新聞への広告掲載
顧客の工場にて、
職員等に直接の教育実施
模
真正品への切り替え
真
模
模倣品仕様の継続
模
購買担当
工場責任者
製造担当
新規顧客化
摘発へ
30
模倣品に関する意識を高めよう
事例 No.5:
中国等における“展示会”を有効活用して、業界の模倣品対策の姿
勢を効率的に PR する方法。[部品等製造業界団体 X]
 中国や ASEAN 等において、大きな商品展示会・商談会が開催されるという業界
も少なくないのではないでしょうか?
 展示会は、自社の新製品の PR、バイヤーとの人脈構築に有益なだけではなく、模
倣品対策の場としても有効に機能することがあります。①模倣品の危険性・品質の
低さを訴えつつ、模倣品対策に積極的な業界であることを PR し、模倣品製造・販
売を牽制する、②展示会において、模倣品を展示している事業者を発見する、など
の2つのメリットがよく知られています。
 模倣品の危険性・品質の低さの PR という意味では、展示会に、業界団体として「模
倣品対策ブース」を設置することも有効であるようです。業界団体 X では、毎年、
上海で開催される大きな展示会にブースを出しています。
 業界団体の中で、特に模倣品被害に悩む 10 社ほどで、模倣品のサンプルを出品し
てもらうことに加え、各企業から(中国語の話せる)スタッフを 1 名ずつ出して
もらい、模倣品の問題点・危険性などについて説明するほか、模倣品の真贋の見分
け方についても説明してもらうなどの活動をしています。
 もちろん、新商品・サービスの展示が主目的の会場において、模倣品対策の展示を
行っているブースは異質であり、特段の工夫なくブースを出しているだけでは、来
場者は立ち寄ってくれません。そこで、業界団体 X では様々な工夫を行っている
そうです。例えば、①毎年、継続的に出展することで、開催者と良好な関係を構築
し、展示会場の中で好立地を確保する、②現地のデザイン性に富んだ企業に委託し
て、ブースの外観を目立つものにしてもらう、③アンケート回答等への協力を呼び
掛け、協力してくれた人にはノベルティ・グッズを無料配布する、④説明員以外に
も人を配置して賑やかにする、などを行っているそうです。
 一方で、業界団体の会員企業も、単に展示会でのブース開設に協力するだけでは中
国まで訪問する意味に乏しいので、その機会に税関等行政機関との意見交換会・セ
ミナーを設置するなどの工夫により、協力を得やすくしているということです。
 展示会の場も、工夫次第で有効な模倣品対策の場にできそうです。
31
模倣品に関する意識を高めよう
No.6:現地政府・代理人(調査会社)・メディアと連携、大規模摘発を実
施し、新聞記事にしてもらうことで、広く効果的な啓発活動を実現。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
UAE(アラブ首長国連邦)
対策シーン
①権利取得・ブランディング
対策コスト
費用なし(※法律事務所への追加的費用なし。恒常的費用のみ。その
他、通訳等の費用は発生。ケースによってはメディア対策費等が発生
する場合もあることなどには留意が必要。)
所要期間
約半年
対策の目標
対策効果
業種
模倣品の問題点と政府の取締に対する厳しい姿勢を消費者・模倣品事
業者に強烈な印象で伝えること。
 現地一般紙に行政摘発の様子が大きな事件として掲載される
 同時に、UAE 政府への同社からの感謝状贈呈の写真なども掲載さ
れ、①同国における模倣品製造への一定のけん制効果が期待さ
れ、②同社と UAE 政府との強い関係も示すことができ、同社の模倣
品抑制効果が期待される。
自動車等製造業
経緯まとめ
 UAE において、輸送用機器部品の模倣品が多く確認され始めていた。
 輸送用機器は、質の悪い模倣部品によって正常に作動しなくなることがある。X 社のレピュ
テーションだけではなく、実際に利用者・周囲の人の生命・身体を傷つけることが懸念さ
れ、模倣品の危険性について、広く UAE 国民、機器販売者・修理者等に周知する必要があ
った。
 X 社でも、既に行政摘発等は実践していたが、“モグラ叩き”の感があり、漫然と行政摘発
を繰り返すだけでは状況の抜本的改善は無い、と認識し始めていた。
 一方で、UAE 政府も、模倣品が増加しつつある現状に頭を痛めており、政府も取締に熱心
であることをアピールし、模倣品の市場からの減少を促したいと考えていた。
 X 社が委託していた UAE の法律事務所が、X 社、UAE 政府の双方の意向を掴み、大きな
行政摘発について、大々的・計画的に実施し、新聞等主要メディアで摘発状況を報道する
ことで、一般消費者、取引企業等に効果的な啓発活動を行うことを提案し、UAE 政府担当
者と X 社担当者を引き合わせ、合同で戦略を立てた。
 ちょうど、数万件の模倣品が保管されている倉庫があるという確証を掴んだため、予め新
聞社等メディアにも摘発実施タイミングを伝えて同行してもらい、摘発現場の写真などを撮
影させ、新聞に大きなニュースとして掲載してもらった。
 X 社が UAE 政府に感謝状を贈呈している写真なども掲載し、政府の取組を PR、同社との
良好な関係性も消費者及び事業者に向けて PR することに成功した。
 このことで、X 社が模倣品対策に熱心であることが模倣品事業者にも伝わり、X 社製品へ
の抑制効果が期待できるほか、消費者にも模倣品への注意喚起を訴えることができた。
32
模倣品に関する意識を高めよう
問題の構造
関心が
薄い
消費者・取扱店等
重要性・危険性
に気付かない
政府(新興国)
国民の安全への脅威
啓発活動
新聞広告
新聞広告、パンフレット
配布等では、問題の重
要性が十分に認識さ
れず
模倣品による
事故・故障の頻発
• 模倣品問題に
悩む
• 厳格な姿勢を
示す機会があ
まりない
企業
エンフォースメント
個別案件を摘発している
だけでは、摘発対象となら
なかった模倣品事業者は
摘発の詳細を知らないた
め、十分な抑止効果につ
ながらない
問題の核心
新興国においては、一般消費者まで模造品の悪性の認知が広がらず、摘発の効
果も限定的

新興国では、模倣品に対する危険性の認識がまだ薄く、消費者・取扱店等も問題の認識
をあまりしていない。そのため、重大な事故につながるケースもあった。

UAE でも、模倣品問題が認識され始めた段階であり、消費者・取扱店等も問題を強く認識
していなかった。しかし、模倣品が原因ではないかと疑われる事故等は存在していたし、
中国等から流入する模倣品が、UAE 国内の市場でも増加しつつあった。

政府はこの事態を重く見つつ、模倣品取締りに対して積極的な姿勢を見せたいと考えて
いた。これは、外資系企業に対しても、同国の姿勢を示し、投資を呼び込むよい機会にな
ると考えていた。

しかし、新聞広告等だけでは、企業側の一方的な情報伝達に過ぎないと考えられたり、外
資系企業の自社製品の購入への誘導的な内容が含まれていると考えられたりするため、
啓発活動としての効果は限定的な部分があった。

一方で、行政摘発を繰り返しても、“モグラ叩き”であり、根本的な解決になっておらず、潮
目を変えるための象徴的なアクションが必要であった。

33
模倣品に関する意識を高めよう
対策事例
啓発効果
違法性の再認識
事業からの撤退
重要性・危険性
を深く理解
関心
消費者・取扱店等
政府
模倣品事業者
牽制効果
摘発
取締部門
大規模な摘発
マスコミ
摘発現場へ
の同行取材
(問題意識)
国民に取締をPRしたい
国民に問題意識を持っ
てほしい
(問題意識)
抑止力の強化
消費者などの意識改革
企業
事前の
連携
事前の
調整
対策のポイント
政府と連携し、行政摘発等を大きな“ニュース”としてメディアに取り上げてもらう。
 偶然メディアに取り上げられるのではなく、戦略的に、摘発を大きな事件・ニュースとして報
道してもらうように動くことが重要である。
 取締機関である政府と連携すると、より大きなニュースとなって取り上げられやすい。その
ためには、政府の模倣品対策に係る意欲やタイミングについて、事前に情報収集をするこ
とが有益である。
 情報収集は現地代理人(法律事務所)等と連携しつつ、ニュース価値のある大規模な模倣
品摘発案件を対象とすることが重要である。
~今回のケース~
 現地代理人(法律事務所)が、UAE 政府が模倣品対策に積極的であることを PR したがって
おり、大きな摘発案件を探しているという情報を、掴んで来ていた。
 同時期に、X 社の模倣品が数万件発見される事案があり、この事案をシンボリックな摘発
案件として“活用”することを、UAE 政府にも企業としての思いを伝え、模造品撲滅の方向
で意見の一致を見た。この動きを受けて、摘発場所・日時等についてメディアに情報を流
し、取材してもらえるようにあらかじめセットした。
 摘発は新聞等に大きく掲載され、X 社が UAE 政府に感謝している様子も写真入りで掲載さ
れ、両者の親密な関係や政府の模倣品対策への国民・事業者向け PR も成功した。国民は
消費者として模倣品に対する意識が向上し、事業者に対しては模倣品製造販売の抑止効
果が期待される。
34
模倣品に関する意識を高めよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
Step2
調査
1
ここに注意
模倣品問題の啓発の必要性を
検証する。
 国・地域により状況は異なる。
 既に模倣品問題が認識されて長い国、まだ
2
従来の自社の啓発活動について
検証する。

3
現地代理店、調査会社等を選
定・利用する。


4
政府(取締機関)の模倣品対策
に対する姿勢を確認する。

5
社会的インパクトが大きい模倣
品製造・販売事例をみつける。

6
現地代理店、調査会社等と戦略
を練る。
政府、メディアなどと面会し、摘
発の可能性について検討する。

7


Step3
摘発・啓
発活動
8
合意された計画・手順に従い、摘
発を行う。



9
政府(取締機関)等に対する表敬
訪問、表彰・感謝状授与等を行
う。


模倣品問題があまりにも関心が薄い国で
は、必要性が少ない場合もある。
まずは容易に実施できる新聞広告等の啓
発活動の過去の実施有無等、効果等を検
証する。
(初めて依頼する場合は)JETRO 等、業界
団体等の紹介を受けて、調査会社を探す。
取締機関にネットワークのある調査会社の
ほうが望ましい。
模倣品対策に今後力を入れていこうとして
いるか、何らかの大きな模倣品関連事件が
起きているか、外資の受け入れに熱心かと
いった視点から情報収集する。
摘発数量が多い、扱い品目が重大な社会
問題と関係しているなどの特徴ある事件を
対象とできるかどうかを検討する。
政府を巻き込めるか、社会的に耳目を集め
そうか(メディアは乗ってくるか)。
模倣品の製造・販売情報が漏れ、摘発がで
きなくなることが無いようにする。
相互にとってのメリットを説明し、提供できる
メリットも共有する。
計画等が事前に漏れないように配慮する。
摘発への同行の危険性に十分配慮する。
メディア等に予め日程や場所を伝え、確実
に報道してもらうようにする。
政府(取締機関)に謝意を表すことで、今後
も模倣品対策に協力してもらう関係を強化
する。
メディア等に表彰場面等も報道してもらう。
本事例からの示唆

本事例では、現地代理人(法律事務所)が重要な役割を果たしているが、企業側から、積
極的・戦略的に報道可能な摘発等の場面を“創り出す”ように動くことも重要である。

最初から中央政府と連携して、このような社会的耳目を集める啓発活動ができた場合に
は、その事例を基に、地方の取締機関等とも友好な関係を構築して、その後の摘発等取締
りを行うためのネットワーク作りに活用することもできる。

特定の新興国で政府と協力して、大規模摘発を行った事案について、周辺国等での啓発
活動に活用することも考えられる。

但し、模倣品摘発のニュース自体が、先進国企業が自社製品を強引に売り込むための活
動と誤解され、逆に不買活動等につながる可能性も皆無ではないので、注意が必要。

摘発への同行等は、当局からの情報漏えいのおそれがあるなど、対象国の治安や社会情
勢によっては、危険性を伴う可能性もあることに注意が必要。
35
模倣品に関する意識を高めよう
テーマ事例:
摘発後の模倣品処分を通じた啓発

摘発した模倣品の処分を公開することで、一般消費者に模倣品の危険性などをアピー
ルすることができる。
事例 No.7:
公開処分により、模倣品事業者への見せしめ効果と一般消費者への模倣品問題の啓発効果
を狙う。
【機械器具等製造業界団体 X】
(調査会社からの働きかけで公開処分を実施)
 業界団体 X では、基本的には行政処分後の模倣品の処分については、行政機関からの
報告をもって終了という形にしている。
 しかし、契約している調査会社からの働きかけで公開処分を実施することもある。公
開処分とは、模倣品を一般に公開する形で処分することをいう。
 業界団体 X は、調査会社の報酬体系を成果報酬制にしており、公開処分をオプション
の1つとしている。調査会社の行政機関への働きかけによって、公開処分が実施され
た場合は、報酬を上乗せして支払うことにしているのである。こうして、調査会社に、
公開処分の実施に対するインセンティブ付けをしている。
 公開処分は、第一に模倣品事業者への見せしめ効果が期待される。さらに模倣品事業
者に業界団体 X は模倣品対策を積極的に行っているのだと認識させることができる。
 また、一般の消費者に対しては、そもそも模倣品問題に目を向けてもらうきっかけに
なる。たとえば、このような公開処分をメディアに公開することで、これまで模倣品
問題に関心のなかった消費者にも情報を届けることができる。模倣品が身近にある可
能性を示唆し、模倣品はこのように大々的に処分されるほど違法な製品であることを
示すことができる。
 公開処分は、確実に押収品を処分するというだけでなく、消費者に対して模倣品の存
在と模倣品の違法性をアピールする手段にもなりうるのである。
図表 公開処分イメージ
確認完了
調査員
模倣品
模倣品を使うことは違法だ!
模倣品は良くないものなんだね!
消費者
36
模倣品に関する意識を高めよう
テーマ事例:
摘発後の模倣品処分を通じた啓発

摘発した模倣品の処分を公開することで、一般消費者に模倣品の危険性などをアピー
ルすることができる。
事例 No.8:
行政機関との信頼関係をベースにして、公開破壊などの形で模倣品の処分を実施 。【ガス
器具等製造業 X 社】
(ベトナムで、警察からの提案を受けて公開破壊セレモニーを実施)
 X 社の製品は東南アジア各国で模倣品が出回っている状況にある。
 ベトナムの経済警察から、あるトラックに積まれていた荷物から X 社製品の模倣品の
疑いがあるものが見つかったと連絡が入った。真贋鑑定の結果、模倣品であることが判
明した。
 さらに、ベトナム経済警察から見せしめのために、公開破壊セレモニーをしてはどうか
と提案を受けた。
セレモニーが直接的に模倣品被害の減少につながるかどうか確かでは
なかったが、これまでも自主的に取り締まってくれている経済警察に、引き続き X 社
製品の模倣品を積極的に取り締まってもらいたいという意図もあり、
提案を受けること
にした。
 当日は X 社の現地代理人が同席する中で、X 社製品の模倣品を警察がハンマーで直接
破壊していき、その様子を代理人および警察がビデオに収めた。
 X 社としては確実に処分を実施していることの確認になったとともに、警察の実績作り
に貢献したという側面も強い。
このように日々の活動の中で警察の活動にも積極的に協
力することで、警察との信頼関係をより強固なものにし、自主取締率を上げていっても
らうことは重要である。
図表 イメージ図
押収した模倣品は
確実に処分してほしい。
基本的には報告を
信じるしかない。
模倣品取締りの実績を
作る必要がある。
警察はいつも自主的に
模倣品を取締ってくれている。
X社の模倣品の取締率が
より向上すると嬉しい。
協力して
公開破壊セレモニー実施
X社
ベトナム警察
模倣品
37
X社は自分たちの
要望ばかりでなく、
いつも警察にも協力的だ。
X社が困っていたら
積極的に助けよう!
模倣品問題を予防しよう
No.9:ホログラムシールの製品包装段ボールへの貼付により、税関等
での嫌疑品発見率を上げる。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
④行政摘発
対策コスト
コスト特大(1,000 万円以上)※但し、製品数により変動
所要期間
※継続的な取組
対策の目標
税関における嫌疑品発見率の上昇(水際差止の効率化)
 税関に対する“模倣品”の説明が容易になった
 税関で“模倣品”の疑いがもたれて差し止められ、差止の報告が来る
ことが増加した
家電等製造業
対策効果
業種
経緯まとめ

X 社では、多種の家電製品を販売しており、中国を中心に模倣品が後を絶たなかった。

中国から他の国への模倣品の輸出も多く、税関で模倣品と疑わしい製品を差し止めてもら
うことが非常に重要な対策の一つであったが、税関セミナー等は単独での開催は認めても
らえることが少なく、多種多様な製品があることから、説明も非常に大変であり、税関の理
解度も必ずしも満足なものではなかった。

あるとき、意識の高い社員のいる事業部が、模倣品対策を円滑に行うべく、ホログラムシー
ルを採用した。ホログラムシールは種類によって価格が様々で、コスト押し上げ要因になる
ので採用までは困難を伴ったが、試行的に採用したものであった。

ホログラムは製品そのものではなく、個装箱の外側に貼付した。これにより、税関の担当者
が、コンテナさえ開けば、すぐに外観的にホログラムの有無について判断できるようにな
り、疑わしい商品については発見される割合が非常に増大し、頻繁に税関差し止めが行わ
れるようになった。

この成功を聞き、知財担当部署が、成功事例として模倣被害に悩む他の部門にも情報共
有したところ、今では複数の部門がホログラムシールを採用するに至った。実際に、税関で
差し止めが行われる件数は増加しつつある。

ホログラムシールの偽造も当初は懸念されたが、日本の企業のホログラムシールを採用し
たため、完全にコピーされたケースは確認されておらず、成功している(但し、盗難や強盗
等のシール流出の可能性は様々であるため、注意は必要である)。
38
模倣品問題を予防しよう
問題の構造
模
模
模
模
限られた税関のリソースの中
で、サンプル調査で差止めと
なる模倣品には限りがあり、
嫌疑品発見率を上げる必要。
税関
模
模倣品
模
模
模
輸出。新興国等へ模倣品が拡散・・・。
問題の核心
税関における嫌疑品発見率が低く、模倣品の世界への拡散を止められない。

中国で製造された模倣品は、中東、アフリカ、中南米等、世界中に拡散しており、税関にお
ける模倣品差止めの重要性が高まっている。

しかし、税関の業務では多岐にわたる違法物品の差止めが行われるため、模倣品のみに
ついて積極的な開梱を依頼することは難しいし、税関に対するセミナーも単独開催は難し
く、また扱い品種の非常に多く・真贋ポイントもシンプルではない製品を扱う X 社としては、
全てについて真贋判定方法を説明することは容易ではなかった。

そのような状況の下、開梱した結果、差止められる件数は限定的であり、真贋判定が容易
に行える工夫を導入することにより、税関の負担を軽減し、模倣品検査における嫌疑品発
見率を上げることが求められていた。

税関に対しては、外観だけで模倣品の可能性を疑ってもらい、開梱してもらうためには、ホ
ログラムの貼付も選択肢の一つであったが、製品については 1 円以下のコスト削減を競っ
ている中で、数円/枚のコストがかかることもあるホログラムの導入に対し、社内では必ず
しも賛同を得られてはいなかった。
39
模倣品問題を予防しよう
対策事例
模
模
模
模
税関
コンテナを開けると、個装箱に
ホログラムシールが貼付。
ホログラム
シールの貼付
ホログラムを貼付して
いない箱は外観で分か
るため、判定が容易。
模
模
模
模
模倣品
嫌疑品発見率が上がり、差止件数が増加する。
(※開封されなかったコンテナに含まれている模倣品については、
税関検査をすり抜けるものもある。)
対策のポイント
ホログラムの包装箱への貼付で税関での差止件数増加を狙う。

模倣品の発見・差止は、通関量の多い税関にとっては大変な作業であるため、主に通関書
類に疑義を持った際に開梱しているのが通常である。但し、開梱しても、製品の外観だけで
は真贋を判断することは容易ではない。そこで、税関にできるだけ負担をかけずに、“外観
だけで模倣品の可能性”に気付いてもらうことが重要である。

ホログラムシールを箱に貼付することは、1つの有効な対策である。真贋判定に係る商品
の詳細な説明などなくとも、単純に模倣品か否か判断できるからである。

~今回のケース~

X 社ではコストの問題はあったものの、意識の高い事業部がホログラムシールを導入した
ところ、判定が簡易化されることで海外の税関における差止件数が増加するという具体的
な効果があった。

知財部はこの事例について、成功事例として、他の事業部にも横展開を図り、結果として
いくつかの事業部がホログラムシールを使った模倣品対策を導入した。
40
模倣品問題を予防しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
2
ここに注意
自社が期待するホログラムの効
果・使用場面について検討する。
 税関での嫌疑品発見率を上げたいのか、流
ホログラム活用の対象・範囲等
について検討する。


3
ホログラムに関する情報収集、
検討(コスト等)を行う。


Step2
利用
4
5
ホログラムを採用し、製品や部
品、梱包材等に貼付して使用す
る。
税関に対してホログラムを活用し
ていることを明示する。





Step3
検証
6
一定期間が経過した後、税関等
での差止件数の増加を検証す
る。また、消費者・取引先等から
の通報の増加や周知状況等に
ついても検証する。


通現場での模倣品発見を容易にしたいの
か、消費者が誤って模倣品を購入しないよ
うにしたいのかなどの効果と場面を自社の
状況・問題意識・模倣品対策方針と照らし合
わせて検討する。
ホログラムの貼付場所(製品本体か包装
か)や、対象地域を検討する。
貼付後の税関等への周知活動とのリンクを
考える。
どのようなホログラムが存在しているのか、
どの程度のコストか、どのような特徴がある
のか、模倣された履歴はないか、などの情
報を詳細に収集する。
自社の使用目的や対象商品等について勘
案し、どのホログラムが最も適しているかを
検討する(3D や 2D ビューアーなどの判定方
法や目的を勘案する)。
目的に合わせた使い方をする。
製造・流通過程に確実に組み込む。
外部等への情報流出には留意する。
ホログラムを利用していること、ホログラム
の特徴等について税関セミナーなどで説明
を行い、自社の認知度を上げる。
税関で判定を行ってもらう場合など、必要に
応じてビューアーも配布する。
実際に機能しているのかについて、適宜、
検証を行う(例:差止件数の定期的確認、税
関ヒアリング・アンケートの実施など)。
検証結果が良好でない場合も、方法や対
象、地域などを変えることで、有効に機能す
る可能性を検討する。
本事例からの示唆

ホログラムシール自体も必ずしも安価ではないので、貼付するのであれば、比較的単価の
高い商品に付ける、もしくは複数商品が入った箱等に貼付するなどして、活用シーンを考え
ながら利用することが重要。

まずは一部の部署・製品についてホログラムを導入してモデルケースを作った上で全社展
開する方が社内合意は得られやすい可能性がある。しかし、一方で、税関からしてみると、
ある企業の製品についてはホログラムの有無だけで模倣品有無を判定する方が誤解がな
く、一部製品にだけホログラムがあると、逆にホログラムの貼付されていない真正品が差し
止められてしまうリスクがあることにも留意が必要である。

なお、ホログラム・ビューアーが不要な 3D ホログラムを活用することで、さらに、消費者の
真贋判定が容易になり消費者保護を図れる場合もある。
41
模倣品問題を予防しよう
事例 No.10:
著作権だけでなく、業界団体発行のマークの商標権を利用した、コ
ンテンツビジネスにおける海賊版対策。[コンテンツ関連団体 X]
 クールジャパン政策が推進される昨今、日本のコンテンツ産業は盛り上がりを見せ
ていますが、一方で大きな問題になっているのが特にアジアにおける海賊版の流通
です。映画やテレビドラマ、アニメーション等の DVD や音楽 CD などをそのまま
コピーした海賊版が海外で売られている状況があります。
 そこで、業界団体 X は日本のコンテンツを守るために、海賊版対策専用のマーク
を作成し、海賊版被害の大きい7つの地域において、4つの類(CD/DVD/ゲーム
ソフト、出版物、玩具、インターネットオンラインによる電子出版物・映像・画像
等の提供)で商標登録をしました。同マークは団体会員企業であれば、使用許諾契
約を締結の上、無償で使用することができます。
 例えば、映画 DVD の場合はパッケージ、ディスクの盤面、コンテンツ内に同マー
クを付することができます。海外で海賊版の疑いがある DVD を見付けた場合、本
来、同マークを付しているはずの DVD に同マークが付いていなければ、ニセモノ
であると容易に判定することができます。また、完全にそのままコピーしており、
同マークが付いたままであれば、著作権侵害だけでなく、同マークの商標権侵害と
しても争うことができるのです。
 このようなマークが有効である背景として、中国で映画の DVD をコピーして売る
ことは著作権侵害に当たりますが、中国で著作権侵害を刑事訴追することは大変難
しいと言われていることがあります。著作権は、商標権や意匠権とは異なり、登録
不要で自然発生する権利であるため、権利帰属証明が必要となります。また、刑事
で取り扱ってもらうに際し、権利者側に製造拠点の特定が求められることもあるよ
うです。
 また、日本のコンテンツ産業は国内市場だけで成立してきたビジネスなので、従来、
海外での販売に力を入れておらず、このため海外での海賊版対策に本腰を入れてこ
なかったということもあります。その結果、海賊版対策のノウハウが個社に蓄積さ
れていない場合が多く、さらに個社はそれほど大きくないため、必要性を感じても、
なかなか有効な対策がとれないようです。
 実際に同マークの商標権を行使した摘発もすでに実施されています。今後同マーク
の普及によって、さらなる有効な対策をとることができるようになると期待されて
います。
42
Coffee Break ~模倣品対策事例集コラム~
日系企業の現地での取組み
~IPG の場を活用した情報交換・相手国政府との良好な関係の構築の促進~
【IPG とは(JETRO ホームページより)
】
 IPG とは、Intellectual Property Group の略称で、進出先において、模倣品や海賊版といった権利
侵害など知的財産権に関する問題に対処するため、情報交換の場として、さらに現地政府との協力活
動をおこなう母体として発足した日系企業の団体です。
 中国では、北京 IPG(2000 年 5 月に北京にて発足)、上海 IPG(2002 年 9 月に上海にて発足)
、
広東 IPG(2005 年 8 月に広州にて発足)の 3 組織が 2013 年 4 月に中国 IPG として統合し、現
在約 200 社(2013 年末現在)がメンバーとして参加しています。
 中国以外でも、東南アジアやインド、ロシア、中南米でも IPG が発足し、様々な活動を展開していま
す。
【中国 IPG の取組み】
(情報共有・研究活動)
 中国 IPG の主要な活動の1つは情報共有・情報提供であり、全体会合を定期的に開催するとともに、
それに合わせて、政府関係者やシンクタンクの専門家等によるセミナーが開催されています。全体会
合では、IPG メンバーの事例紹介等も行うことで、他の企業がどのような問題に直面しているのか、
どのように対応したのか、といったことについても相互に情報交換ができる機会があります。もちろ
ん、IPG に参加するにあたっては、単に情報を収集し、利用するだけではなく、自社の取組み事例の
紹介を行うなど、積極的にギブ・アンド・テイクを心がけることが期待されます。また時には中国現
地企業を講演に招き、現地企業の問題認識とその対応につき情報収集するという活動も行っています。
 中国 IPG では、全体会合の他にも、業界別 WG やテーマ別 WG を設置して研究活動が行われていま
す。また、毎年開催されている日系企業と地方工商局(AIC)との意見交換会にも参画しており、最
近では以下のようなテーマが取り扱われました。

「商標表示の巧妙化(2012)
」
:テレビの初期画面において社名ロゴをきりかえられる液晶テレ
ビの商標権侵害の事案などを紹介・意見交換実施

「再犯の重罰化(2013)
」
:中国 IPG 自動車・自動車部品 WG の調査に基づき、処罰決定書の発
行と再犯者の重罰化について意見交換実施
(現地政府との協力活動など)
 一方で、模倣品摘発には政府取締機関の協力が必須のため、政府取締機関等との関係強化も視野に入
れ、中国各地において JETRO が開催している商標局、質量技術監督局、税関向けのセミナーにも中
国 IPG からも積極的に参画しています。具体的には、取締担当官を前に、IPG メンバー企業が自社の
真贋判定方法や被害の実態を中国語で直接プレゼンします。セミナーの効果を定量的に測るのは困難
ですが、参加後に現地担当官からの連絡が増え情報交換が密になった結果、摘発につながった、とい
うメンバーの評価があるようです。IPG では企業の要望を聞き、被害の多い地域や普段なかなかコン
タクトの取れない地方政府に対するセミナーを開催することにより、地方での模倣品摘発を促すこと
を目的としています。
 他の団体との連携も進めており、欧米等の企業が中心となって構成された QBPC(Quality Brand
Protection Committee)と「情報・意見の交換」
、「顧客・消費者の普及啓発」、「知財侵害対策にお
ける事例共有」等を内容とする協力覚書を締結して連携を深めています。
43
図表 QBPC との協力覚書締結の様子
(出典)JETRO 資料
(人材育成)
 会社によっては現地スタッフが摘発まで担う場合もあり、現地で積極的に模倣品対策を行うには、現
地スタッフの協力とスキルアップが欠かせないといえます。中国 IPG では、特に、各社の現地スタッ
フを対象とした連絡会も積極的に開催しています。
44
図表 中国 IPG の体制・活動の概要
(出典)JETRO 資料
(資料・情報提供:IPG事務局(JETRO))
[中国IPGに参加の企業実務者に取組にかける思いなどをお聞きしました]
 取組みを行う上での理念としては、政府機関などから提示された課題をこなすのではなく、
参加メンバーが有する具体的な問題事例などをもとに自ら課題を設定し、情報収集、議論・
分析することを重視しているとのことです。また、民間企業として知財問題を研究し、その
成果を発信していくことで日中間の経済交流の深化に寄与したいという思いを持って取り
組んでいるとのことです。
 また、特徴としては、現地で活動していることから、フットワークが軽く、関係する政府機
関とも日常的なやり取りができるという点が挙げられます。また、現地で活動しているから
こそ得られる感覚は、日本本国の関係者と議論するときにも大変重要な視座となるとのこと
です。また、活動のうちJETROなどの開催するセミナー等へ参画することについては、
大手企業などは自社だけでもセミナーを開催することも可能であるものの、中小企業にとっ
ては、IPG へ参加することで、それほど過大な負担をせずにセミナーを開催できるなど模倣
品対策に一歩を踏み出す端緒にもなるのではないかということです。
※IPG については、こちらもご参照ください。
JETRO HP 海外における日系企業情報交換グループ(IPG)
http://www.jetro.go.jp/theme/ip/ipg/
45
模倣品問題を予防しよう
事例 No.11:
OEM 契約の製造工場からの横流しを防止するために、個々の部品
も含めて、数量管理を徹底し、売れ残り品も全数処分を実施。[アパ
レル等製造業 X 社]
 X 社は多くのスポーツブランドのライセンシーとして、また、自社でも衣料品等を
製造するメーカーとして、多数の衣料関連製品を中国やベトナム等で製造していま
す。
 中国やベトナム等の工場での製造は、多くの場合、OEM 生産(他社に委託して自
社ブランド製品を生産)であり、1つの工場で、複数のブランドの製品を製造して
いることも少なくありません。このような状況下にあって、かつては、OEM 工場
で、『昼には真正品が製造され、夜には模倣品が製造されている』という話もよく
聞かれました。
 X 社でも、OEM 工場で製造した商品を故意に不良品として扱い、その「不良品」
を工場の社員に販売して、社員が横流しするというケースが発生したことがありま
す。このケースはいわゆる模倣品製造ではないものの、正規ルート以外から商品が
流通することになり、真贋判定不能のためさらに問題が複雑でした。
 そこで X 社では、模倣品製造・横流し対策として、原料や部品等の個数管理、出
荷数の管理などを徹底しました。それまでは原材料の数量や部品の個数などは、あ
る意味で“どんぶり勘定”で計算されており、余った原材料等を使って模倣品が作
られていましたが、計画された製造個数と、そのために必要な原材料・部品等の数
と、実際に投入された原材料・部品等の数を合わせる、という管理を徹底すること
にしました。
 実際に、管理の過程で数字が合わない OEM 工場については、冷徹に契約を破棄す
るようにしています。そのような厳格な対応をしたところ、OEM 工場側でも管理
を徹底するようになりました。これらの対策により、最近ではそのようなケースは
ほとんど見られなくなっています。なお、原材料・部品等の量・個数の管理は中国
やベトナム等の支店・支社が行っています。
 完成品についても、OEM 工場からの出荷数は厳格に管理しており、生産個数と出
荷個数が合わないようなケースは、OEM 工場との契約を破棄するなどの厳格な対
応を取っています。
 実際に市場に出回った後も、予定した程度には人気が出ずに、在庫となってしまい、
結局は売り出せなくなってしまうような製品ももちろん存在します。このような売
れ残り製品については、もったいないという批判はあるものの、全数処分すること
を原則としています。今まで公的機関と連携して、途上国に一度だけ在庫品を寄付
したことがありますが、それは 1 件だけの例外です。基本的には、自社で全数処
分を行うことにより、横流し等を防止しています。
46
模倣品問題を予防しよう
図表 OEM 工場等における模倣品製造を回避するための個数管理の徹底
横流し
原材料個数管理
原料
完成品個数管理
余剰品の徹底廃棄
OEM工場等
材料
完成品
原材料と完成品の数量の整合性チェック
47
模倣品問題を予防しよう
No.12:偽造防止策を複合的に施すことで真贋判定を容易にする。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
対策コスト
全世界
①権利取得・ブランディング、②製造と情報管理、
⑧調査・監視(モニタリング)
対象外
所要期間
※継続的な取組み
対策の目標レベル
模倣品を模倣品と容易に見分けることができるようにする
対策効果
 ネットオークションにおける模倣品の容易な発見
 税関・警察における真贋判定の効率化
業種
アパレル等製造業
対策シーン
経緯まとめ

衣服を製造販売する X 社の製品は人気が高く、ネットオークションでは模倣品が安価で数
多く取引されてしまっている。

アパレル業界では、模倣品に対抗すべく、商品タグにホログラムを付けるといった取組みを
してきたが、近年では偽造ホログラムさえも出回っている状況にある。

また、インターネットで X 社製品のニセモノの見分け方というニセ情報が出回っていることも
判明した。「検品票が入っているものは本物だ」という情報が出回っていたが、実際には X
社では商品出荷時に検品票を抜いている。

このような状況から、X 社では一つの対策で模倣品を防ぐのではなく、商品タグ、生地メー
カーのタグ、部品、自社ロゴなどの各パーツに様々な工夫を凝らす複合的な対策をとり、さ
らにそれらをマイナーチェンジさせていくことにした。

また、対策をとっているのは X 社だけでなく、X 社製品に使われている生地メーカーや部品
メーカーなども模倣品対策をとっている。

ホログラムなど一つの対策では、模倣品事業者に容易に真似されてしまうことがあるが、
複数の模倣品対策を仕掛けることで、すべて正しいバージョンで模倣することを容易にでき
ないようにした。

X 社の模倣品担当者は、ネットオークションで自社製品を検索して発見されたものについ
て、製品デザインから何年に発売されたものなのかを確認し、その年のデザインに付され
ているはずのタグやロゴであるかどうか複数のポイントでチェックすることで、巧妙化する模
倣行為に対抗している。
48
模倣品問題を予防しよう
問題の構造
模倣品事業者
箱の中に検品票が
付いているものは
本物らしい。
真正品には検品票が
入っているらしい。
この製品には検品票が入っているし、
タグにホログラムも付いているから
本物に違いない!
消費者
問題の核心
模倣品対策を逆手にとった巧妙な模倣品の流通。

企業は模倣品が出回ることを防ぐために、ホログラムを貼付するなど工夫を凝らしてきた。

しかし近年、ホログラムごとコピーした模倣品を製造・販売する事業者も出てきた。

消費者はホログラムが付いていることで真正品であると誤認し、購入してしまうこともある。
企業が模倣品対策を講じることで、それを逆手に取った模倣品事業者の製品を消費者に
真正品と思いこませる結果になってしまっている。

また、インターネットで調べれば模倣品が多く出回っている製品の真贋判定ポイントに関す
る情報が氾濫している。中には、模倣品事業者が意図的に流しているニセ情報も含まれ
る。

模倣品に対する消費者の認識が高まる一方で、企業側が模倣品対策の在り方を考えなけ
れば、消費者に不利益を生じさせてしまい、企業の信用やブランドを棄損してしまうおそれ
がある。
49
模倣品問題を予防しよう
対策事例
④サイズ表記
表記方法異なる場合がある。
対策例
①ロゴのフォント
ロゴデザインを手作業では不可能な曲線にしている。
コンピュータ制御のミシンで刺繍しているが、
このミシンは数億円するため模倣品事業者が
利用するとは考えづらい。
L
②文字の配置
RR
RR
ロゴの文字が
一段目と二段目で
配置をずらしている。
③ロゴの付け方
特殊なロゴの縫い付け方をしている。
⑤商品タグデザイン
定期的にデザインを変更する。
また、コピーすると図柄が綺麗に
印刷されないデザインにしている。
⑥バーコード
⑨生地メーカーのタグ
製品情報を含むバーコードを付ける。
製品に使用されている生地の
メーカーが付ける製品タグも利用可能。
定期的にデザインを変更している。
⑦ホログラム位置
⑧部品
ホログラムそのもので真贋判定を
するのではなく、縫い付ける位置で判定する。
部品メーカーの真贋判定を
利用させてもらう。
アパレル業界では毎年デザイン変更することが多い。
⑩製品デザイン 型番遅れなのに真新しい製品は注意。
対策のポイント
各パーツに複合的に模倣品対策を施すことで、模倣品事業者のミスを誘え。

模倣品事業者が対策まで模倣するという状況下で、「これさえやっておけば模倣品は出な
い」と言える対策を打ち出すのはなかなか難しい。真贋判定ポイントを1つのものに頼って
いると、それを真似されてしまって真贋判定さえままならないという状況にもなりかねない。

しかし、様々な対策を組み合わせて施すことで、模倣されにくくすることもできる。

特に多くのパーツからなる製品の場合、各パーツに真贋判定ポイントを組み込むことで、ど
こか一つでも模倣に失敗すると模倣品だと容易に判定することができる。
~今回のケース~

衣類は多くのパーツから出来上がっているので、各パーツそれぞれ模倣品を意識した設計
にした。ブランドロゴや商品タグはもちろんのこと、部品や生地など各メーカーの対策と組
み合わせることも有効。

製品自体は去年のデザインなのに、生地メーカーのタグが今年のものといった形で模倣品
実践編
であることが発覚することもある。
50
模倣品問題を予防しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
確認
ここに注意
1
自社で現在実施している模倣品
対策を確認する。
 これまでの変更記録も確認する。
 模倣品対策に対する模倣品事業者の対応
2
取引先(製品の素材や部品の提
供元)のロゴなどを確認する。
 これまでのロゴやロゴのついたタグなどを確
を掴んでいれば整理する。

3
Step2
対策検
討
4
5
インターネット上で出回っている
自社製品の真贋判定情報を確
認する。

新たに自社で施すことができる
模倣品対策、とりやめる対策を
検討する。

取引先(製品の素材や部品の提
供元)との情報交換を行う。





Step3
情報整
理
6
真贋判定ポイントの組み合わせ
を整理する。

認する。また、これらの変化も合わせて確認
する(20XX 年頃に販売した製品に付いてい
るロゴマークの形、等)。
これらに対する模倣品事業者の対応の状況
を掴んでいれば整理する。
ニセ情報がある場合、ウェブサイト等で消費
者への注意喚起が必要。
本当の情報が流れている場合、その情報が
流れることで模倣品事業者がコピーしやすく
なる類のものかを確認。コピーしやすくなる
場合は早急な対策変更が必要。
コストや模倣品事業者のコピーしやすさ等
から検討する。
従来の対策との組み合わせを意識する。
知財部門だけでなく、商品開発部門との協
議が必要。
サプライチェーンの縦の連携を意識し、情報
交換することで、模倣品対策の組み合わせ
がよりしやすくなる。真贋ポイントを共有して
もらうなど、連携をとれるとスムーズとなる。
模倣品被害の情報の共有や共同の対策な
どの連携までできると良い。
発売年、型番、デザインとそれぞれの対策
を組み合わせ、整理する。
本事例からの示唆

模倣品業者の手口が巧妙化しており、模倣品対策のライフサイクルは短いと心得るのが肝
要。導入当時はコピー不可と思われたものでも、模倣品事業者は次々にコピーする手段を
見付け対応してくる。

一つの対策で万全と言えるものはないので、いくつかの対策の組み合わせで防ぐとよい。

自社単独でとることができる対策だけでなく、取引先などと相互連携しながら、他社の施す
対策も取り入れて、複合的に対策を講じる必要がある。
51
模倣品問題を予防しよう
No.13:事業範囲を超えて、先回りして権利取得することで冒認登録を
防ぐ。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
全世界
対策シーン
①権利取得・ブランディング、⑤行政訴訟
対策コスト
コスト特大(1,000 万円以上)
所要期間
※継続的な取組み
対策の目標レベル
商標の冒認登録を防ぐ
対策効果
 商標制度のある 195 カ国すべてで対応完了
業種
精密機器製造業
経緯まとめ
1

X 社は中国でビジネスを展開するに当たり、事業に関連する分類で「X」の商標を登録して
いた。

ところが、中国企業 Y 社が電動自転車について「X」という商標を取得して、事業を行ってい
ることが判明した。X 社は電動自転車を製造していないので、この分類(12 類:乗物、陸上、
空中、又は水上の移動用の装置)については商標登録していなかった。

Y 社はすでに商標登録を済ませていたため、X 社は Y 社の商標「X」(12 類)が冒認商標で
あり、無効であるとして無効審判を請求した。無効審判では X 社が勝利し、無効が認められ
たが、Y 社が控訴したため、行政訴訟にまでもつれ込んだ。

また、さらに X 社は Y 社に対し、商標権侵害について民事提訴もしたが、X 社は 12 類に権
利を持っていないので、X が馳名商標1であることを認めてもらう必要があった。つまり、Y 社
が商標登録した 2001 年よりも前から、中国において「X」が著名な商標であったという証拠
が必要になる。

馳名商標であることを認めてもらうための証拠収集は大変な作業で、社内文書だけでなく、
国会図書館や既に取引を停止した会社も含む取引先から宣伝広告や売上高、シェア等示
す資料を集め、提出する必要があった。

冒認商標の無効化と侵害訴訟のすべてに決着がつくまでに約 3 年の月日を要した。また費
用も数千万円レベルかかった。

冒認登録の問題を痛感した X 社は、問題が生じてから戦うのではなく、そもそも審査で排除
できるように、最初から多くの分類で先に権利取得しておくという方針を選択した。
中国の全土において公衆に広く知られ、かつ高い知名度と影響力を有する商標。
(出所:JETRO「模倣対策マニュアル 中国編(2013 年 3 月)」)
52
模倣品問題を予防しよう
問題の構造
X社
中国企業 Y社
“X”
“X”
事業に関係する各分類で
商標権登録
(事業とは無関係のためX社は未取得)
12類
で商標権登録
※12類:乗物、陸上、空中、又は水上の移動用の装置
【同じ商標を使うことができる範囲】
同一の分類:専用権(権利者しか使えない)
類似の分類:禁止権(権利者に使う権利は保証されていないが、他人も使えない)
非類似の分類:権利なし(基本的に誰でも使うことができる)
X社が“X”を商標登録していても、
12類ではY社が“X”という商標を
使うことができる
商標登録 : 無効審判 (⇒行政訴訟)
商標権侵害 : 民事訴訟
すべて完了するまでに3年間
数千万円のコストを要した!
問題の核心
冒認登録された権利を無効化するには、多大な労力が必要。

商標は分類毎に出願・登録する。同じ分類で、同じ商標が、他人によって使用できないとい
うのは当然のことながら、類似の分類でも他人の使用を禁じることができる。しかし、非類
似の分類においてまでも他人の使用を制限するということは基本的にはできない。

事業で使用する分類に商標登録していたとしても、事業に使用しない非類似の分類まで登
録しているケースは少ないが、冒認登録された商標が非類似の分類であっても、他人の使
用がブランドイメージを損ねる場合、使用しないよう求めたい。この場合、正式に登録手続
きは完了しているため、無効審判を請求する必要がある。

また無効審判とは別に、侵害行為の差止めや損害賠償、謝罪広告等を求めるには、馳名
商標保護を主張して、民事訴訟を起こす必要がある。

このように一度権利が登録されてしまうと、無効化し、使われないようにするには時間的に
も費用的にも多大な労力を要する。
53
模倣品問題を予防しよう
対策事例
商標権の取得における地域の重要度
< 例 >
Aランク
(現地法人が管轄している国
+今後成長が見込まれる国)
Bランク
重要19分類
はすべて登録
(その他の分類は
国による)
65カ国
(代理店が管轄している国)
中国(ランクA)
・分類:重要19分類で登録。
さらに全45分類をカバー。
※45分類それぞれ登録するのではなく、 類似性で
すべてカバーできるように登録分類を選定。
商標権制度のある
・登録商標:ハウスマーク、主要商品名
195カ国
※中国で販売されている全商品。
Cランク
(代理店のない国)
事業に関連する
8分類で登録
Dランク
130カ国
(代理店のない国)
・言語:日本語、アルファベット、中国語(簡体字)、
ピンイン(中国語発音表記)、アラビア語、
キリル文字、等 合計10言語程度
※重要分類のみ10言語、その他の分類では
日本語、アルファベット、中国語、ピンインのみ。
C,Dのランク分けの判断要素
代理店のない国はC,Dにランク付けされる。
CとDは以下のような要素から分類している。
人口
GDP成長率
輸入額
今後の成長度
等
※ランクは事業部と知財部で定期的に協議し、必要に応じて見直す
対策のポイント
取られる前に、すべて取れ。

冒認登録を無効化することに労力を費やすのではなく、最初から冒認登録を防ぐことを考
える。先に権利を取得しておけば、冒認登録の問題は生じない。

ただし、闇雲にすべての国・地域で、全ての分類で商標登録するには、莫大な費用がかか
ってしまう。そこで、どの国・地域でどこまで権利を取得するのかという戦略を立てる必要が
ある。知的財産部門のみならず、海外事業展開を担当する部署とともに現実的な戦略を立
てることで、より効果的な成果が見込まれる。
~今回のケース~

事業部と定期的に協議して、商標権制度のある 195 カ国を、知財保護の観点から A~D ラ
ンクに分けることにした。ランクに応じて、登録分類数や登録言語数の基準を設けている。

例えば、最重要国の一つである中国では、商号と中国国内で販売する全商品を対象に、
すべての分類をカバーできるように商標登録した。また日本語、英語、中国語のみならず、
中国で製造された模倣品が輸出されることを想定して、アラビア語やキリル文字等も登録。

登録費用等はかかってしまうが、冒認登録の無効化や侵害訴訟にかかる費用や人件費、
またネガティブ・キャンペーンをされてしまうおそれを考えると、冒認登録を事前に防ぐ方が
得策と判断した。
54
模倣品問題を予防しよう
実践編
対策の手順
ここに注意
1
権利取得状況を確認する。
 どの国・地域で、どの分類に、どのような商
2
ランク分けの基準を策定する。
 現在の市場規模や今後の展望、会社として
STEP
Step1
準備
Step2
基準の
策定
標、意匠等を出願・登録しているか。
3
各ランクの方針を定める。


Step3
ランク付
け
Step4
権利取
得・維持
4
対象国・地域をランク分けする。

5
権利取得の手続きを行う。



Step5
見直し
6
7
定期的にランク分けの見直しを
行う。
必要に応じて、追加の権利取得
手続きを行う。


重点地域と考えているか、模倣品被害状況
等が参考となる。
基準を定めた各ランクに該当する国・地域
で、どのような権利取得を行うのかを決め
る。
事業に関係する分類の範囲、重要分類の
範囲、言語の選定等が必要。
対象とする国・地域がそもそもどの範囲なの
か定める。商標権制度の有無、販売地域、
等。
代理人を使うかどうかでコストが大きく変わ
る。また現地代理人か日本国内の代理人
か、翻訳を必要とするかなどの条件も大き
い要素。
商標出願に際し、マドリッド・プロトコル(国際
商標出願)の利用も検討する。
マドリッド・プロトコルを利用すると、手続き
の簡素化、経費削減等のメリットがある。利
用すべきかは代理人等に相談する。
ランクの見直しは、開発部門や営業部門、
現地スタッフ等と協議する必要がある。
本事例は一度やれば完結するものではない
ので、継続的にモニタリングし、メンテナンス
することが重要。
本事例からの示唆

冒認登録とは、出願する権利を本来持たない人が悪意で出願し、登録されてしまうことを指
す。例えば、外国の有名企業の商品シリーズ名が、自国でまだ商標出願・登録されていな
い場合に、勝手に無関係の第三者が出願し、登録されてしまうものをいう。その企業が、そ
の国に進出しようと考え、商標出願しようとしても、すでに商標が第三者によって登録され
ているために、その国では使用できないという問題が起きる。

冒認登録を防ぐために、すべての分類で商標を先取するというのは、特に本事例のように
事業範囲を超えた様々な分野で模倣品が作られているような場合には有効ではあるが、
登録・維持費用がかなり大きくなるため、体力のある大企業でしか実現が難しい事例であ
る。しかし、地域ごとの分類のカバー方法や方針の決め方など中小企業であっても参考と
なるであろう。自社のビジネス環境に応じて、権利取得範囲を定めることが肝要。

中小企業では、モニタリングを実施することも重要。無効化は前述のように大変なので、定
期的にモニタリングし、冒認出願されていないかチェックする必要がある。
55
模倣品問題を予防しよう
No14.:主要商標は全類出願を行い、その他の個別ブランド商標は複
数の代理人事務所に委託して継続的モニタリングを実施する。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
①権利取得・ブランディング
対策コスト
コスト特大(1,000 万円以上)
所要期間
継続的な取組
対策の目標レベル
冒認出願の防止と対策の実施によるブランド維持
対策効果
 異議申立等の実施による冒認商標の出願の拒絶、取消
 特定マークに関する全類出願による、他人の同一類似商標の権利
化阻止
業種
生活用品等製造業
経緯まとめ

日本企業 X 社は、主に中国における、ハウスマーク及び商品ブランドに対する冒認出願の
頻発により、同社商品のブランドイメージ低下を懸念していた。

冒認出願に対しては、異議申し立てや再審請求を行うことで権利者としての権利を主張し、
馳名商標認定を目指して、膨大な資料を提供するなどの活動も行ってきた。

様々な冒認出願対策実施の後、一つの有効な方策としては、ハウスマークについては、馳
名商標に認定されているので、同一商標については、未登録の分類での冒認出願であっ
ても拒絶されるようになったが、類似商標についても拒絶の件数を向上させるため、商標
局や代理人のアドバイスもあり、全類出願することとして、冒認出願対策をさらに強化し
た。

一方で、ハウスマーク以外の個別の商品のブランド名は多岐に渡るため、全類で出願する
のはコスト・手間から考えても現実的ではなく、様々な冒認出願対策を実施することとした。

例えば、日本でしか発売予定の無い商品でも将来的な中国での発売を見込んで、中国で
も必ず登録するようにし、その際に事業部との連携を徹底することや、ブランドごとに、異な
る代理人事務所を専任して、冒認出願がされていないのかをモニタリングさせた。それらの
個別の活動に加え、長期的な制度面・制度運用面の改善を狙った取組みとして、中央政府
への働きかけとしては、IIPPF を通じた活動や欧米企業との連携での意見書提出に加え、
個別に商標局(中央政府)を訪問して意見交換をしたり、専門家による冒認出願に関する
意見書を提出したりするなどの活動も実施している。
56
模倣品問題を予防しよう
問題の構造
冒認出願支援を行う、問
題のある代理人事務所
冒認出願者。
悪意の、“常連”
の出願者も少なか
らず存在
冒認商標売買サイトなど
の存在
X
X
X
商標局
X
異
議
申
し
立
て
商標登録
申請
再
審
請
求
 手間・コストがかかる
 件数の減少は見られる
ものの、なかなか根絶
には至らず。
日本企業X社
問題の核心
冒認出願が後を絶たず、同社のブランドイメージが毀損される。

中国において、ハウスマーク、及び個別商品ブランドの商標についての冒認出願が後を
絶たず、日本企業のブランドイメージが模倣品によって傷つけられることは少なくない。

異議申し立てが認定されて冒認出願が拒絶されることもあるものの、件数が多くなると、
費用負担・人員リソース的にも対応が非常に厳しくなる。

X 社は生活用品を製造・販売しているため、ブランドイメージを非常に重視しており、冒認
出願対策として、公告された冒認出願に対する異議申し立てを随時行っていた。

冒認出願者からの反論(例:「指定商品が異なる」、「誤認を生じさせない」、「X 社社名の
著名性に疑問」、「英文の別の表記である」、「美術作品である」など)も増加している状況
で、一定の成果は認められ減少傾向にあるものの、根絶までは至らず、事務的・経済的
な負担を感じていた。

例えば 2012 年に限っても、ハウスマークで約 30 件、その他の ブランドの商標で約 80 件
の異議申し立てを実施していた。

冒認出願そのものを防止する方策と、冒認出願をモニタリング・発見する方策が必要とさ
れている。
57
模倣品問題を予防しよう
対策事例
主要商標
その他商標
(※X社の場合はハウスマーク)
A
長期的コスト削減
冒認出願
の抑制
業務の効率化
B
C
モニタリングの実施
商標局
商標局
主要商標は
全類出願
X
弁護士
事務所
X
X
X
日本でしか販売予定
の無い商品の商標も
中国で登録
ブランドA
弁護士
事務所
弁護士
事務所
ブランドB
ブランドC
ブランドごとの担当制
代理人を3つに分け、特定の代理人
に偏りすぎないようにする。
日本企業X社
日本企業X社
商標出願方針
日本でしか発売する予定の無い商品でも、将来的に中国で販売する可能性があるので、中国でも必ず登録する
新商品の企画・開発段階から事業部と連携し、商品名仮決定時に商標調査を実施し、必要な場合は名称変更も実施
対策のポイント
ハウスマークは全類出願、それ以外の商標はモニタリングを継続実施。

継続的に異議申し立てを行うよりは、登録時及び更新時等の負担を考えても、最も重要な
商標については全類出願をする方が、「類似」であっても、冒認出願をスムーズに拒絶でき
る場合がある。

この他日本でしか発売しない製品であっても中国で登録する必要性を検討する、更なる馳
名商標認定に向けた取り組み、など、複層的に冒認出願対策に取り組む。

~今回のケース~
 X 社では、ハウスマークについては全類出願を実施。長期的観点でのコスト削減、商標保
護活動業務の効率化、将来的な冒認出願に対する抑制効果、の 3 つのメリットを狙った。
 また、日本でしか発売しない商品も中国で登録しておくことを事業部とも連携して確認し、
通常の商品発売サイクルに合わせて、必ず商標担当に連絡をくれるように合意した。事業
部には新商品の企画・開発段階から知財と連携するように依頼し、商品名が仮決定した後
に商標的に問題は無いか、冒認出願等されていないかを可能な範囲で調査するようにして
いる。
 さらに、モニタリングのために、ブランドごとに中国全土で 3 社程度の弁護士事務所を選定
して競争的環境の中でモニタリング調査を委託した。ブランドごとの役割分担が最もわかり
やすく、機能的だと考えられたからである。
58
模倣品問題を予防しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
ここに注意
冒認出願の現状を確認する
 自社の企業商標、商品商標等に関して冒認

2
3
従来の冒認出願対策の状況を
確認する(件数、コスト、負担感
など)

主要商標を全類登録する場合の
費用対効果を検討する



4
5
Step2
対策
6
7
8
Step3
見直し
9
モニタリングの観点から、従来の
調査会社・弁護士事務所を比較
する
新商品開発サイクルを確認し、
商品開発部門との連携を図る
主要商標について全類出願を行
う
主要商標以外について、複数の
調査会社・弁護士事務所等にモ
ニタリングを依頼する
(主要商標以外の)新商品につ
いても出願を行う
弁護士事務所等の評価・見直し

出願がなされている状況について確認す
る。
看過できる程度の件数なのか、冒認出願さ
れた商標が自社のブランド価値を著しく毀
損する可能性があるのかなどの面について
も確認する。
異議申立て等の件数、拒絶が認められた件
数等の推移を確認する。
実際にどの程度のコストを自社が負担して
いるのか自社の人的リソースはどの程度割
かれているのかということまで確認する。
従来の冒認出願対策費用・負担感と比較し
て、全類出願することでどの程度の費用が
かかるのかということを、短期的・長期的に
検証する。
対象とする主要商標(ハウスマーク、商品ブ
ランドなど)の範囲についても、複数パター
ン検討する。
冒認出願のモニタリング実績を精査する
 新商品の開発・発売サイクルに合わせ、ど
のタイミングで商標出願を行うかを検討す
る。
 更新費用等にも配慮して出願する。
 直接交渉を行って、複数の調査会社・弁護
士事務所にモニタリングを委託する。
 ブランド別など、一定のわかりやすい基準を
持って、委託先を検討する。
 出願すべき分類などは十分考慮する。
 モニターで判明した動向を分析して対応の
見直し、代理人の評価を行う。
本事例からの示唆
 全類出願により、個別対応が減り、拒絶の可能性が高まる点は望ましいが、出願コストも
大きくかかる上、更新等も必要であるので、そもそも全類出願を実施するかどうか、すると
しても、どの商標を対象にするのかは熟考が必要。
59
関係行政機関等と連携しよう
テーマ事例:
税関との友好な関係の構築による、水際取り締まりの効率的実施

主に中国では、中国から日本及びその他の先進国、新興国向けの模倣品について税
関で発見・取り締まりをしてもらうことが不可欠である。効果的に税関で取り締まりを実
施してもらうため、税関と友好的な関係を構築することが重要。
事例 No.15:
現地スタッフの税関への直接訪問により関係性を強め、差し止め件数を増やしている。現
地調査会社・弁護士事務所等も有効活用。【自動車等製造業 X 社】
(税関をローカルスタッフが個別・直接に訪問して税関職員との人間関係構築)
 X 社では、模倣品が中国で製造されて、中東やアフリカ等に輸出されているケースも少
なくないため、税関での模倣品差止に非常に力を入れている。
 X 社では、中国税関だけで、年間 40 件以上の差止があったこともあり、他社と比較し
ても相対的に多い差止実績となっている。この理由として、X 社では、現地スタッフに
よる税関への個別・直接訪問が大きいと考えている。
 どうしても、税関訪問は調査会社の税関との関係性に依存したり、弁護士等に依頼す
ることも少なくないため、日本企業と税関との直接の関係構築は難しいのが通常であ
るが、X 社では、できるかぎり、現地スタッフが直接に税関を訪問し、“顔を覚えても
らう”ことで、X 社の模倣品の差止が増えるような工夫を行っている。
 個別訪問は、個々の案件ごとに、模倣品と疑われる輸出品が税関で発見されて、真贋
判定を依頼されることから始まることが多く、その際から、その税関の担当となる現
地スタッフを決めたうえで、個別訪問して真贋判定や関連するコミュニケーションを
行うようにしている。
 例えば、真贋判定依頼があった場合には、必ず期限内に対応するようにし、ホワイト
リストの作成・提出の要請も真摯に対応している。また、税関での差止を依頼する場
合には、
“なぜ、その製品については模倣品差止に特に留意してほしいのか”というこ
との説明も確実に行うようにしている。
 これらの真摯な対応も相まって、税関における高い差止件数につながっている。
 なお、全ての税関に個別・直接訪問を行えるのはマンパワー的にも、スケジュール的
にも限界があることから、一回の訪問でどれだけ効果的・効率的な情報交換が行える
かということも重視している。そこで、税関と関係性の高い調査会社がいる場合には、
調査会社に事前に税関との下調整を行い、
“訪問時に、何をどのように聞き取り、確認
し、説明・依頼しないといけないのか”ということを明らかにしたうえで直接訪問す
るようにしているということである。
(中東では、現地代理人を活用して、税関セミナー開催を拡大)
 X 社では、中東における税関セミナーにも力を入れている。
 多くのケースでは業界団体や日本企業団としてのセミナー開催等に参加する形式をと
っているが、中には、個別企業として税関セミナーを開催することもあるという。
60
関係行政機関等と連携しよう
 このようなことができている背景としては、模倣品対策に関して委託している現地法
律事務所が、税関と密接なコミュニケーションをとっていることで、税関側としても
模倣品取締りへの関心が高まっていることが背景にあるという。
 現地の法律事務所が税関に対してセミナーの必要性や実績を説明することで、次第に、
税関側から開催を求められるケースも増えつつあるということである。
 現地法律事務所等に、セミナー開催を税関に説明・提案することも業務の一環として
委託することにより、中東等の新興国でも税関セミナーが個別に開催できるようにな
る可能性を示している。
図表 税関への現地スタッフの直接訪問
税関A
税関B
良
好
な
関
係
構
築
現地スタッフを
直接・個別に派遣
現地スタッフを
直接・個別に派遣
良
好
な
関
係
構
築
良好な関係構築
税関C
現地スタッフを
直接・個別に派遣
必要に応じて、訪問前に
調査会社が調整
61
関係行政機関等と連携しよう
テーマ事例:
税関との友好な関係の構築による、水際取り締まりの効率的実施

主に中国では、中国から日本及びその他の先進国、新興国向けの模倣品について税
関で発見・取り締まりをしてもらうことが不可欠である。効果的に税関で取り締まりを実
施してもらうため、税関と友好的な関係を構築することが重要。
事例 No.16:
外資系企業との連携、調査会社の人脈を活用して中国における税関職員へのセミナーに参
加。販社にも、税関における対応を優先する意識を持ってもらう。
【精密機器等製造業 X 社】
(政府間の関係が厳しい時期にも、複数手段で税関セミナーを開催)
 X 社では、主力製品である精密機器を中国で生産・輸出しており、中国における模倣品
対策のうち、税関での模倣品差止は最も力を入れている対策の一つであった。
 しかし、様々な日中間の政治的摩擦のため、従来のような JETRO 主催の税関セミナー
などは開催すら難しい状況もあったため、税関とのコミュニケーションを継続するため
の他の方策を検討することとなった。
 1 つの有効な方策は、
“日本企業”もしくは“日本企業団”としての性格を敢えて消す
ことであり、QBPC(QUALITY BRANDS PROTECTION COMMITTEE)の一員として、
欧米等の外資系企業と共同しながらの税関セミナー開催や、
同業種の欧米等の外資系企
業の有志との税関セミナー開催であれば、中国税関も税関セミナーに対応してくれるこ
とが少なくないとのことである。
 日本企業の看板を敢えて前面に出さないことで、
中国税関も対応しやすくなるという面
はあるようである。実際には、税関側から、
“外資系企業との税関セミナーに参加して
みないか”という声かけをしてもらえたこともあり、常日頃からの密なコミュニケーシ
ョンも有効に機能したようである。
 また、正面からの税関セミナー開催は難しくとも、
“税関と良好な関係を構築している
調査会社経由で依頼をすること”や、“過去に、密なコミュニケーションをしていた税
関に対して依頼すること”により、税関セミナーというほど大掛かりな公的な催しにま
ではならないものの、税関に対して自分たちの商品・模倣品の情報や真贋判定方法につ
いて説明機会を設けることができたということである。
(常日頃から現地の販社社員の意識を高く持ってもらうことで税関と密なコミュニケーションを実
現)
 日中関係が良好では無い時期にも関わらず、
税関から外資系企業の税関セミナーへの参
加について声かけをしてもらえるような X 社の背景としては、常日頃から税関との良
好なコミュニケーションをとっていたことが重要なポイントである。
 真正品の輸出の際であっても、税関と適切に対応しないと問題の生じることがあるた
め、販社もそもそも、
“税関からの問い合わせや要求には迅速に対応すべき”という認
識がある。
 また、税関からの真贋判定依頼がある場合には、3 日間以内に確認しないとならないた
62
関係行政機関等と連携しよう
め、現地販売会社の担当者ができるだけ早急に税関に赴いて確認をするようにしてい
る。真贋判定を迅速にかつ正確に行うために、十分に真贋判定を行うことができる判断
能力がある者を中国販社には配置するようにしている。
 これらの配慮及び日常的な税関との良好なコミュニケーションがあるため、
税関職員か
らも信頼され、国家間関係が厳しい時期であっても、さまざまな形で税関セミナーに参
加することができ、
税関に対して真贋判定のポイントや新たな商品等に関する留意点を
伝えることができて、効果の上がる水際対策が実施できている。
図表 様々な形での税関とのコミュニケーションの実施
税関
税関
 国家間の関係によ
り、開催できないこ
ともある。
税関セミナー開催
税関セミナー開催
欧米企業A
欧米企業B
欧米企業C
日本企業D
日本企業D
①欧米企業と合同での税関セミ
ナー開催の機会を利用
②調査会社
を通じた依頼
日本の公的機関
日本企業A
日本企業C
日本企業B
日本企業D
63
関係行政機関等と連携しよう
事例 No.17:
今後、積極的に取締を行ってほしい行政機関(税関等)を対象に、
表彰活動等を実施。[自動車等製造業 X 社]
 AIC や TSB による行政摘発、公安による刑事摘発、税関による水際差止めなどは、
中国における有効な模倣品取締り方策です。中国では模倣品問題が早くから認識さ
れてきているため、これら行政摘発などの手続きについてはかなり制度的に整って
いますし、調査会社がこれらの取締機関と密接なネットワークを構築していること
もあるため、アクセスはそれほど難しくありません。
 捜査や摘発を積極的に実施してもらうための方策として、熱心な取締機関に対する
「表彰の実施」という方策があります。
 表彰も、戦略的に使うことで、行政機関の取組みを通常よりも一層後押しできる時
もあるようです。例えば、今後、もっと積極的に模倣品対策を実施してほしい行政
機関等に対して重点的に表彰を実施する、ということも一つの方策です。取組みを
行うと、表彰されることが明確になれば、必ずしも今までは積極的に動いてくれな
かった行政機関であっても、協力的になることが期待されます。
 また、当該国・地域における行政機関の「評価」の時期より少し前に表彰をするこ
とも考えられるでしょう。外国資本の企業から、対策に積極的であるとして表彰さ
れることは、取締機関の担当者のみならず、管理職にとってもプラスに働くことが
多いようです。
 関連して、行政も模倣品取り締まりについて、特に力を入れる時期(キャンペーン
時期)を設定して対策を実施していることもありますので、そのような時期を調査
会社などに確認しながら、表彰を実施することも有効に機能するでしょう。
 社長名で出すなどすると、効果的という指摘も聞かれます。取締強化のためには、
「表彰」を上手く利用して謝意を示しつつ、信頼関係を構築することは重要なポイ
ントです。
64
関係行政機関等と連携しよう
事例 No.18:
裁判所(地方法院)が地域の製造業者を傍聴に招き、啓発活動の
一端を担ってくれた事例。[楽器等製造業 X 社]
 中国の地方裁判所(地方法院)というと、どのような印象を持たれるでしょうか?
『北京や上海などの都市部であれば、比較的、公明正大に判断をしてくれるけれど、
地方部ではまだまだ地方保護主義が残っているのでは?』とお思いになられる方も
少なくないのではないでしょうか。
 地方保護主義によって、“特に特定製造業が集積している地域では、地域経済を支
える産業として、模倣品を製造している工場などは、厳格には取り締まらない”の
ではないかと懸念されることもあると思います。
 X 社でも、同社の主力製品の模倣品製造工場が多数立地すると言われている中国の
広東省 Y 地域において、模倣品を製造する工場を突き止め、民事訴訟を提訴しま
した。被告は、過去 3 回にわたって摘発を受けた、再犯をも辞さない悪質事業者
でした。
 提訴前に摘発が行われており、処罰決定書を入手していたので、敗訴は無いと安心
して訴訟に臨んだそうですが、公判期日に意外な事が起きました。なんと、地方裁
判所(地方法院)が、同地域の工場の関係者を 30 名、傍聴に招いていたのです。
 X 社も、同社の委託していた調査会社も事前に地方裁判所に何か依頼していたわけ
ではありません。裁判所が独自に実施したということで、後日、調査会社が入手し
た情報によると、裁判所も、「模倣品を製造すると、負担がこのように大きいぞ」
ということを製造業者に伝える、啓発的な目的で実施していたということが分かり
ました。
 実際、傍聴があった日は、裁判所が和解案を提示したものの、和解金額が低すぎた
ため、和解は成立せずに物別れに終わりましたが、“何度も裁判所に足を運ぶのは
手間”
、
“処罰決定書がある場合には敗訴が確実”、
“それなりの金額負担が生じる”
ことなどは十分に伝わったようです。
 この件は、たまたま裁判所が強い問題意識を持っていたケースかもしれませんの
で、どの裁判所でも同じことが期待できるものではないのでしょうが、裁判所が啓
発活動の一端を担ってくれることがある、というのは模倣品被害に悩む企業にとっ
ては朗報かもしれません。
65
Coffee Break ~模倣品対策事例集コラム~
調査会社の不正行為にご注意を!
 特に中国においては、模倣品に関する調査を主な業とする調査会社が多数存在します。も
ちろん、最後は実際に依頼してみて、有能かどうかを確認するしかないのですが、中には、
不正を働く調査会社もいるので、注意が必要です。
 著名な事件としては、2009 年に、欧米の権利者が、中国の大手調査会社が裏で、同権
利者に模倣品を製造する工場を運営していた等の不正を行ったとして提訴するという事
件が発生しました。また、2013 年には、日本の権利者の依頼も多い調査会社の調査・
摘発の責任者が、違法なトラップ・オーダーを行い、当局担当者とトラブルになってこれ
を殴打して逮捕され、懲役刑を受けるという事件も発生しました。
 こうした事件が多く発覚するようになった背景としては、①そもそも、業務の性質上、不
正が発生しやすく、調査会社によってはこれを推奨する不正な会社も存在するところ、模
倣対策が普及するに伴って、権利者が調査会社の情報を取得しやすくなって、これが発覚
しやすくなっていること、②権利者側による数量基準、年間計画のノルマの厳格な運用の
結果、ノルマを達成するために様々な不正の手段が考えだされたこと、③調査・摘発に精
通した権利者側の担当者が必ずしも多くなく、調査会社側に騙されやすい環境にあること
などが指摘されています。
 具体的には、以下のような不正の事例があるようです。
(1) 書類・写真等偽造
・当局発行の書類の処罰決定書等について、押収品数量欄を調査会社が勝手に水増し記
載(手書きで記載されていることも多いので、数字を一ケタ増やすなど)
・
“摘発現場の写真”として、関係のない別案件の写真を示すなど。
(2) 案件そのもののねつ造
・一つには、
“違法トラップ・オーダー(「罠のオーダー」)
”と呼ばれる手法で、普段はそ
れ程多くの模倣品を製造、販売している訳ではない業者に対して、調査会社が多量の
模倣品の発注を当該模倣品製造・販売事業者に出し、模倣品が製造・販売された段階
で当局に摘発を申し立てて、摘発させる手口。
・また、
“違法トラップ・オーダー”の発展形態として、
“現場作出”と呼ばれる手法で、
調査会社が製造・販売させた一定数量の模倣品を、誰の管理下にもない場所(「無名倉
庫」等)に貯蔵させた後、当局に摘発を要請する手口。当局は模倣品を押収するもの
の、模倣品の所有者がわからないことから、最終的には誰も処罰されないままに終わ
ることが多い。
(3) その他
・関係の無い案件を一連のネットワーク案件として偽装して、案件規模を誇大報告する
手口、本当は源流を突き止めているのに、これを秘して、末端周辺業者のみ報告する手
口、調査会社そのものが模倣品製造・販売業務に参画する手口等、不正の手口もどんど
ん多様になってきているので注意が必要である。
 悪質調査会社に騙されないようにするためには、調査会社の多くは、社長の影響力が大き
い中小企業なので、社長がこの問題に対してしっかり対応しようとしているか、調査員の
人事管理体系が整備されているかといった点等を中心に調査会社の信頼性を判定して、信
頼できる調査会社を見つけて、連携関係を構築することが肝要です。
(制作協力 IP FORWARD)
66
調査会社を使ってみよう
テーマ事例:
調査会社の効果的・効率的な活用方法

中国では模倣品対策のために調査会社の活用が重要であるが、単に調査会社のレ
ポートを見て、都度の摘発依頼をするだけではなく、調査会社の選び方、インセンティ
ブの持たせ方に戦略を持つことが必要。
事例 No.19:
調査会社に責任ある調査を遂行してもらうためのインセンティブ設計を実施。
【機械器具等製造業界団体 X】
(目標を押収量にした失敗経験)

業界団体 X では、会員企業が共同して模倣品摘発に WG を設置して取り組んでいるが、当
初、多くの模倣品を押収することを重視して摘発を行っていた。

調査会社からの報告によると、押収量は年々増加していった。しかし、行政摘発は軽微な処
分で終わってしまうことが多いため、押収量が増えたとしても、模倣被害や再犯率の低下とい
った目に見える効果を上げることができなかった。
(成果主義への転換)

そこで、業界団体 X は方針を転換し、模倣品の押収量が多く、処罰による再犯抑止効果が期
待できる刑事摘発に絞り込むことにした。

方針転換に伴って、調査会社への報酬体系も変更した。
(調査の質を担保するための仕組みを作る)

具体的には、業界団体 X は調査会社への支払い方法を段階型成功報酬制にした。報酬を段
階的に分けて支払う方式にし、容疑者に判決が出されるまで調査会社がフォローし続けるよ
うにした。

このような工夫により、調査会社のアウトプットの質を確保し、見せしめ効果の高い刑事立件
の対象となる摘発の実現に成功するようになった。
67
調査会社を使ってみよう
テーマ事例:
調査会社の効果的・効率的な活用方法

中国では模倣品対策のために調査会社の活用が重要であるが、単に調査会社のレ
ポートを見て、都度の摘発依頼をするだけではなく、調査会社の選び方、インセンティ
ブの持たせ方に戦略を持つことが必要。
事例 No.20:
地域ごとに特色を持つ、小規模で機動的な調査会社に包括委託をすることで、効果的・効
率的な模倣品対策を実施。
【スポーツ用品製造業 X 社】
(大手調査会社の問題点を克服するため、小規模な地域特化型の調査会社に委託)
 X 社では、中国には知財部門を持たないため、中国国内の模倣品に係る調査・摘発等につ
いては、現地の調査会社に依存する割合が大きく、日本からコントロールする必要がある。
 従来は、大手の調査会社を利用していたが、①意思決定に時間がかかること、②ノルマ達成
のために都合のよい案件を押し付けてくるところ、の2点を問題視していた。
 「①意思決定に時間がかかる」とは、X 社側から自主的にお願いや相談をしても、担当者レベ
ルでは即決できず、X 社のニーズに迅速に対応することができなかったことを意味する。
 また、「②ノルマ達成のために都合のよい案件を押し付けてくる」とは、調査会社内のノルマ
を達成するために、十分な調査を行っていない案件の摘発実施を迫るなど、必ずしも X 社の
模倣品対策の方針や戦略に合致するものではなかったことを意味する。
 この2点の問題点を克服するために、直接的に社長とコミュニケーションがとれる調査会社を
選定するようにした(社長は日本語がしゃべれることを前提に選定)。
 結果的に、中国の主要地域全体をカバーするような調査会社ではなく、小規模(4~5 人程度
の社員で構成)な調査会社 4 社を並行して使うことになったが、比較的安価に対応してくれ、
X 社のニーズを理解した上で対応してくれるため、非常に使い勝手が良くなった。
(包括契約で、成果報酬型にしないことで、本当に有益な調査・摘発につなげる)
 契約形式は、「包括契約」を採用し、1 年間の契約にしている。必ずしも単発や短期成果報酬
型にはしておらず、1 年間で実施してほしい、最低限の摘発件数を「年間 XX 件」というような
形で示し、合意している。
 “摘発に失敗しても、報酬は支払うので、嘘はつかないで欲しい”と伝えている。調査会社に
よっては、報酬を得るためのノルマ達成のため、模倣品発見件数などで虚偽の報告をしてく
ることがあり、それは結果として X 社にとって本当に有効な模倣品対策にならないためであ
る。成果報酬型はインセンティブ付けになっても、虚偽報告や不要な摘発につながるため、
望ましくないと考えている。
 既に、これら地域密着型の調査会社とは 6~7 年間の付き合いになり、今は、特段の指示を
出さなくても、X 社の利益になるような調査・摘発を実施してくれている。
 地域密着型の調査会社を活用するメリットとしては、地域の公安と懇意にしていることから、
公安が年間数回実施する、「模倣品に係る刑事摘発のキャンペーン」実施時期がわかり、公
安に機能的に動いてもらえる、ということがある。公安にも刑事摘発のノルマがあることから、
68
調査会社を使ってみよう
集中的に模倣品摘発に動いてもらえる時期があり、その時期に関する情報を逃さなかったこ
とで成果を上げている。特に工商行政管理局(AIC)が機能していない地域では、公安に動い
てもらう必要が高い。
 また、行政摘発を行った案件で民事訴訟を実施することがあるが、このようなときに、大手の
日本語がわかる法律事務所では、模倣品の民事訴訟は賠償金額が低いために成功報酬型
は引き受けを嫌がられることがある。その点、地域の小規模な法律事務所だと、処罰決定書
がある以上は勝訴が確実なこともあり、引き受けてもらいやすいということがある。このような
地域の小規模な法律事務所の弁護士を調査会社が紹介してくれることもあり、この点でもメ
リットがあった。
 また、地方の弁護士は当該地域の裁判官と信頼関係を築いていたり、過去の当該地域の判
例に精通している・地域の特殊な事情を理解しているなど、地域の独自性に対応できている
ことで勝訴の確率が上がったり、勝訴の際の損害賠償額が上がったりするといったメリットも
ある。このように弁護士も、北京や上海等の大手法律事務所の弁護士よりも地場の弁護士
に依頼する方が好ましい場合もあることに留意が必要である。
図表 小規模調査会社への年間一括包括契約の実施
 複数の小規模調査会
社に地域を分けて委託
 成功報酬型ではない、
年間一括契約
現地公安・裁判所・
弁護士との関係
現地公安・裁判所・
弁護士との関係
現地公安・裁判所・
弁護士との関係
現地公安・裁判所・
弁護士との関係
69
調査会社を使ってみよう
事例 No.21:
玉石混交の調査会社の良し悪しを見分けるために、“調査会社に
対する調査”を実施。[機械等製造業 X 社]
 模倣品の市場での流通、製造元・販売先、などを調べる上では、調査会社が非常に
重要な役割を果たします。たとえ、現地に支社・支店を設置していても、やはり“模
倣品調査”となると、専門性やスキル、人脈などで、調査会社の方が勝っているの
が通常でしょう。特に、AIC や TSB、公安等とのネットワークがあることも、エ
ンフォース面では見逃すことができません。
 しかし、調査会社は玉石混交。これまで取引の無い会社でも、飛び入り営業で模倣
品調査レポート(サイティング・レポート)を勝手に持ち込んで来て、「模倣品取
り締まりが必要だ。自分たちに任せてほしい」と主張することも少なくないようで
すが、本当に信頼できるのか、情報は正確かの見極めは容易ではありません。
 製造業の X 社でも、このような事案に悩んでおり、過去の取引実績から、信頼の
おける調査会社を確保しておき、その調査会社に、模倣品調査レポートを持ち込ん
できた調査会社が信頼できる会社なのかどうか、調査をさせるようにしているとの
ことです。一見、コストがかかるようですが、実態もない摘発に無駄な費用を払う
よりは、総合的には効果的・効率的になっているようです。
 調査会社による調査の結果、少し信頼が置けない場合には、調査会社(もしくは法
律事務所)に、調査会社のスーパーバイズをさせることもあるそうで、「せっかく
持ち込まれた模倣品案件が、内容が真実であるならば、より望ましい方向性に摘
発・対応をさせる」という方法としては、有益でしょう。
 なお、この取り組みを繰り返してきた X 社としては、疑わしい模倣品調査レポー
トの見分け方として、①通常、押収できるより数よりもはるかに多い模倣品発見が
報告されている、②発見から摘発まで時間がかかっているにも拘らず、摘発件数が
発見件数と変わらない(※通常は、ある程度時間が経つと、模倣品を移動したり、
市場に出したりするので、減少する)、などを挙げておられます。
 模倣品摘発に必要不可欠な調査会社。玉石を可能な限り見分け、有効に活用したい
ものです。
70
調査会社を使ってみよう
事例 No.22:
調査会社に年間一括契約することで、効果的・効率的委託を実施し
つつ、経年の状況変化等を正確に把握。[調査会社 X 社]
 模倣品対策についての予算制約がある中、効率的で効果的な調査を行うことは、多
くの日本企業の課題になっています。この課題に対する一つの解決策が、調査会社
への「年間一括契約」です。これは、年間で達成してもらう成果(例:年間 XX 件
の調査の実施)を約定した上で、年間一括で委託費を決定する方法です。
 メリットとしては、①予算化が容易(都度ごとの予算要求にならないため)、②調
査会社をより安価に使える(年間契約により単価が下がるため)、③契約等の都度
の手間が減る、④毎年実施することで、模倣品に係る状況の経年変化を見ることが
でき、役員等への報告や次年度対策の方向性決定に寄与する、などが挙げられます。
 従来は、調査会社が営業込みで自主的に挙げてくる無料のサイティング・レポート
(模倣品発見情報)を見て、摘発を依頼するようなことも多かったかもしれません。
しかし、近年の模倣品製造・流通の複雑化に鑑みると、表面的なレポートで上がっ
てくる情報は氷山の一角であり、摘発しても、“モグラ叩き”となり、根本的な解
決に結びつかないケースも少なくありません。
 自社の模倣品を製造し、流通させている、より悪質な事業者を、きっちりとした調
査で特定して、効果的・効率的に市場から模倣品を排除することが重要になってき
ています。信頼できる調査会社に、「どこをどう叩くべきか」を調査してもらうこ
との必要性が高まっており、“模倣品の流通経路の特定調査”や“模倣製造・流通
事業者の素生調査”といった調査が求められるようになっています。
 ただし、今まで一度も調査会社を使ったことがない会社がいきなりこれらの高度な
調査を依頼するのは困難でしょうから、まずは、模倣品の出回り状況を主な市場で
調べてもらう市場調査などから着手する方が望ましいでしょう。調査会社への委託
経験が豊富な企業であっても、年間一括契約の場合は、時機に応じた密なコミュニ
ケーションが重要になりますので、任せっぱなしにはしないように心がけましょ
う。
71
調査会社を使ってみよう
 まずは、年間一括契約で依頼し、パッケージ型の調査の成果と結果の蓄積に合わせ
て、戦略的に、どのような調査・地域に重点を置くかなど、調査の全体を調査会社
とともにプランニングしていくことが次のステップになるでしょう。
STEP1:年間一括契約
密なコミュニ
ケーション
STEP2:戦略的プランニング
結果に基づく
議論と検討
年間一括契約
年間一括契約
流通特定調査等の目的
を明確にした委託などに
カスタマイズ
•都度対応
•受け身
 なお、このような年間一括契約を依頼する上では、当然に、調査会社の選定が非常
に重要になります。調査会社の経験値や能力を理解した上で、信頼できるところに
依頼するようにしましょう。例えば、①コミュニケーション能力、コンサルティン
グ能力(言語能力は当然、単なる「調査・摘発」だけではなく、大所高所からの戦
略を提案できる能力があるか、日本企業の考え方、法律に対する理解があるかな
ど)、②リソース・体制(自社調査員は十分にいるか、様々な地域・複雑なテーマ
での調査に対応できるか、など)、③信頼性(不正行為は絶対に無く、誠実に対応
してくれるか、実績はあるか、など)などの点に注目して選ぶようにしましょう。
72
調査会社を使ってみよう
事例 No.23:
模倣品対策をグローバルな視点でとらえ、模倣品流通の源流を叩
く。[調査会社 X 社]
 近時は、ASEAN 諸国、南アジア、中東やアフリカ等でも日本製品の模倣品が見つ
かるようになっており、それらの新興国でどのように模倣品対策を行うのかは大き
な課題になりつつあります。
 しかし、新興国等ではそもそも模倣品に対するエンフォースメントの制度が整備さ
れていなかったり、制度はあっても運用が伴っていなかったり、さらには模倣品対
策に詳しい調査会社や代理人事務所が少ないなどの事情があり、十分に効果を出す
には至っていないのが現状です。また、対策費用も相対的に高額になりがちです。
 多くの場合は、模倣品そのものは中国で製造されて新興国等に輸出されており、製
造・輸出元である中国で対策を行うほうが費用対効果の観点から効果的なケースも
あります。
 例えば、アフリカの国で模倣品が発見され、模倣品に中国語で説明等がなされてい
る場合があります。現地の人には、中国語と日本語の区別がつかない場合もありま
すが、日本人や中国人、日本語・中国語がわかる人がみると、中国語であることが
判別できる場合があります。このような場合に、エンフォースメント制度が整って
いないアフリカで対応するのではなく、輸出事業者は中国側に存在し、輸出ルート
や輸出元・製造元を中国国内で追跡して、元を断つということも有効です。
 新興国等で模倣品対策に取り組めている企業はまだまだ限られますが、このような
企業の場合であっても、国別・地域別に担当が分かれており、中国の担当者と新興
国の担当者の連携が十分ではないケースもございます。中国・対象国を一体として
とらえて、費用対効果の観点から、中国で対策を取るべきか、流通国で対策を取る
べきかについて、都度、検討、対応することを通じて、より実効的なグローバル・
レベルでの模倣対策が実現できるようになります。
73
調査会社を使ってみよう
No.24:地元密着型の小規模調査会社も活用して模倣品流通ネットワ
ーク図を作成。キーとなる流通事業者を特定し、効果的対策を実施。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国(主に広州、義鳥、北京など)
対策シーン
⑧調査・監視(モニタリング)
コスト大(300 万円以上 1,000 万円未満)
(※ネットワーク図作成に係る費用)
6 か月(※ネットワーク図作成に係る期間)
製造・流通を差配しているキーとなる事業者の特定による、模倣品製
造・流通ネットワークの効果的な破壊。
 効果的に模倣品流通の肝となる者を叩ける
 大市場である北京における模倣品被害の激減
 大手調査会社よりも安価な調査費用(※本事例の場合)
 地方 AIC,TSB 等との良好な関係構築
スポーツ用品製造業
対策コスト
所要期間
対策の目標
対策効果
業種
経緯まとめ
 X 社は中国においても広く製造・販売されているスポーツ器具について、模倣品被害に悩
んでいた。従来は年間 1 回程度の摘発であったが、2008 年の北京オリンピックを契機に、
中国市場からの模倣品排除を最終目的に、大規模な対策を実施するようになった。
 当初は、「模倣品を排除するには根本から」ということで、製造拠点に対する摘発を実施し
ていたが、製造拠点も夜間に出荷したり、パーツに分けたり、取締機関と癒着して摘発逃
れをするなどの対応が進み、摘発が難しくなっていった。
 そこで、製造拠点よりも卸・小売含めた流通事業者の方が摘発・提訴しやすいのではない
かと考えるようになり、エンフォースメントの重点を流通に移した。
 流通業者を叩くにあたり、非常に多数の流通事業者がいることから、欧米系の大手調査会
社に加え、地元の調査会社に依頼して、半年程度かけて、徹底した模倣品の流通調査を
実施し、中国内における同社模倣品に係る、非常に詳細な「模倣品流通ネットワーク図」を
作成した。
 「模倣品流通ネットワーク図」をみることで、模倣品製造から流通までの全体像が明らかに
なるとともに、効果的・効率的に摘発・提訴等を行う対象は誰であるのか(例:大量の模倣
品を工場に発注し、さらに完成模倣品を流通させている事業者の存在が明らかになった)
が明確になり、効果的・効率的なエンフォースメントが実現できるようになった。
 実際に、北京においては模倣品被害が激減するなどの効果が得られた。
74
調査会社を使ってみよう
問題の構造
製造工場
流通
小売
(競技場等に隣接
する場合も)
摘
発
発注者
(アレンジャー)
模倣品製造・流通の全体像が
わからないまま、製造拠点を
摘発していた。
流通にいる発注者(アレ
ンジャー)は、他の工場
に製造委託して製造が
継続される。
小売に出回る模倣品の流通には大きな
影響を与えず、模倣品対策の効果が十
分に得られない。
問題の核心
製造拠点を叩いても模倣品が減らない、費用対効果が悪い。
 X 社でも、従来は「製造元を叩くことで、そもそも市場に模倣品を出さないようにする」という
方針を有していた。年に 1 度程度、製造拠点を中心に摘発を行っていたが、非常に効率的
で、摘発を行うごとに多数の模倣品を押収することができ、一定の成功を実現していた。
 しかし、製造拠点も夜間出荷や部品組み立ての分散化等の対策を実施し、費用をかけて
調査・摘発しても成果が上がらなくなった(摘発数が少ない、模倣品被害が減らない)。摘
発を行っても押収品が数十件に留まるケースや、製造拠点が摘発情報を得て、事前に模
倣製品を別の場所に移転させてしまっているような「空振り」摘発が続出した。
 調査によって全体像を明らかにすると、流通サイドに発注者(アレンジャー)がいてオーダ
ーしており、工場はコスト面でも叩かれて儲かっていないようであることがわかった。
 また、工場を摘発しても、発注者(アレンジャー)は他の製造工場にも製造委託している、市
場から模倣品が減らない一方で、流通を叩けばすぐ模倣品が減ることもわかった。
 スポーツ用品の中には、模倣が比較的容易な製品もあるため、発注者(アレンジャー)によ
って、製造拠点は“取り換えがきく”ものとして使われており、製造拠点を個別に叩いていて
も、模倣品の製造・流通構造に打撃は与えられないという状況であった。
75
調査会社を使ってみよう
対策事例
製造工場
流通
小売
(競技場等に隣接
する場合も)
発注者
(アレンジャー)
摘
発
キーとなっている発注者(アレン
ジャー)を見つけ、一気呵成に叩
く。
製造工場は発注者の指示に従っ
て製造していただけなので、製造
も止まる。
製造・流通ネットワークを明らかにし、最も重要な役割を果たしている者を特定。
(この事例では、流通事業者の中に発注者(アレンジャー)が存在)
結果として、最も効率的に市場から模倣品を減少させることができる。
対策のポイント
模倣品流通ネットワークを徹底的に調査し、流通側(卸・小売)を叩く。



製造拠点を叩いて効果が出ない場合は、流通側(卸・小売)を叩く方策が有効な場合も。
流通側の調査は、潜入捜査等が不要なので、調査費用も製造拠点調査よりも安価になる
場合もある。調査会社の活用方法も重要なポイントである。
調査会社を活用し、模倣品流通ネットワークを明らかにした上で、模倣品流通の要になっ
ている流通事業者を叩くと、非常に効率的かつ模倣品の根絶につながりやすい。(逆に、
重要性の低いネットワークの末端を叩いて警戒されると、摘発が難しくなる場合がある)
~今回のケース~


X 社は、摘発対象を製造拠点から流通側に転換する際に、調査会社を活用して、徹底した
模倣品流通マップを作成した。流通マップを作成した結果、多くの市場・商城に模倣品を卸
していると同時に、工場に模倣品の生産を依頼している卸売事業者の存在を確認し、摘発
につなげることができた。
調査会社は欧米系の大手調査会社に加え、数年の付合いで見極めた少人数(5~10 人程
度)の調査会社を選んで実施。理由は、安価であることだけでなく、社長と直接話せること
で迅速な意思決定で対応してもらえたこと、地元にネットワークを持っていたことなどであ
る。摘発にも、この地元密着型調査会社は活躍した。
76
調査会社を使ってみよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
 業界団体等からの模倣品情報提供を参考
にする
 現地に支店・協力会社等がある場合には、

調査会社を活用して、模倣品の
製造業者、流通業者等を調査す
る。

5
現地を訪問し、実際の流通状況
等を確認する。

6
完成した流通ネットワーク図を基
に、自社の模倣品の最大の問題
はどこにあるのかを検討する。

3
Step3
特定・方
針の決
定
自社類似製品の中国等における
模倣品の状況に ついて確 認す
る。
調査実施、対策実施に係る方針
を決める(どのような調査会社に
依頼するか)。
調査会社を通じて、AIC(工商行
政 管 理 局 ) や TSB ( 技 術 管 理
局)、公安と有効な関係を築く。
2
Step2
調査
ここに注意
4




7
自社としての、模倣品摘発対策
の対象に係る方針を明確化する
(対象地域/製造か流通か)


Step4
摘発
8
摘発を実施する。

市場での模倣品流通状況を確認する。
業界団体や同業他社,現地 JETRO 等から、
利用している調査会社についての情報を入
手する。
AIC や TSB、公安とのネットワークを有する
調査会社を選定する。
調査会社を通じてアポイントを入れ、実際に
現地訪問して意見交換し、相手が信頼でき
るか否かを見極める。
まずは大きい市場・商城等をいくつか特定し
て、流通実態調査を行う。
最初から、製造~流通のネットワークの全
てを明らかにするのは費用・時間面からも
厳しいので、主要なプレイヤーを把握する
可能ならば、全てを調査会社任せにせず、
現地に赴いて市場をチェックし、調査会社の
報告内容等の正当性を確認する。
模倣品製造を行う大手の製造拠点があるの
か、製造拠点は小さく、流通面で大手のキ
ーマンがいるのかをチェックする。
ネットワークの末端を叩き、結果として最大
のキーマンの摘発が難しくならないように十
分注意する。
自社工場や営業拠点がある地域、模倣品
が多く確認される地域などを対象地域として
いくつか選択する。
製造拠点か流通側か、どちらを対象として
調査や摘発を今後実施していくのかといっ
た方針を明確にしなければ、効果的・効率
的な実施は難しいことに留意が必要。
キーマンに逃げられないように配慮する。
本事例からの示唆

モグラたたきを止め、ネットワークにおいてキーとなるような活動をしている者を探すことも
重要。製造拠点から叩いた方が“模倣品の根絶”につながるイメージがあるが、商品特性
や、その流通形態によっては、また、事例のように、流通側に発注者(アレンジャー)が隠れ
ているようなケースでは、この対策が有用である。

最初は模倣品報告が多い地域でネットワーク図を作成し、成功した場合には、対象とする
地域を増やしていくことが考えられる。
77
模倣品業者を摘発しよう
No.25:いわゆる「地方保護主義」を回避するため、販売業者の所在す
る大都市圏で提訴する。
事例のプロファイル
権利種別
著作権
対象国・地域
中国
対策シーン
⑥民事訴訟
対策コスト
コスト特大 (1,000 万円以上)
所要期間
約1年
対策の目標レベル
コピーデータ搭載製品の販売差止め
対策効果
 生産・販売の停止
 謝罪広告の掲載
 損害賠償(費用より小さい)
業種
楽器等製造業
経緯まとめ

X 社の製造販売する製品には、X 社が独自に制作したデータが搭載されている。X 社は同
データの開発に数億円を投じていた。

X 社と同業界の中国最大手 Y 社は、X 社の全データのデッドコピーではないが、データ全体
の中の複数のデータ部分でそっくりのデータを搭載した製品を中国で販売開始した。

そこで、X 社は Y 社を相手に民事訴訟を提起することにした。この民事訴訟の中で「X 社デ
ータは X 社の著作物であり、それらのデータ部分のコピーは著作権侵害である」と認められ
なかった場合、中国において X 社データのコピーは自由だとお墨付きが与えられたことに
なってしまうため、X 社としては社運を賭けた負けられない訴訟となった。そのため、現地事
情に詳しい現地代理人と協議し、事前準備を入念に行うことにした。

Y 社は同業界において中国最大手の企業であり、巨大グループを形成している。Y 社の所
在地である広東省深圳市で提訴すると、「地方保護主義」の影響を受けるおそれがあると
代理人からアドバイスを受けたため、深圳を提訴地とすることは回避した。

代わりに、北京を提訴地とすべく、北京の市場を調査。Y 社の製品を販売している小売店 A
及び小売店 B を発見した。

X 社は、小売店 A、小売店 B および Y グループ製造会社、Y グループ卸販売会社を相手
取り、北京市第二中級人民法院に提訴。その後、法院では、審理促進のため、一部のデー
タ部分に限定して著作権侵害の審理が進められた。

X 社のデータの著作権は認定され、Y 社には生産・販売の停止、謝罪広告の掲載、損害賠
償及び裁判に要した費用の支払いが言い渡された。

その後、裁判で審理対象外とした残りのデータ部分についても Y 社は侵害を認め、最終的
に和解が成立した。
78
模倣品業者を摘発しよう
問題の構造
中国 広東省深セン市
X社
Yグループ
Y製造会社
製品
Y卸販売会社
製品
中国 業界最大手
内蔵データ
「地方保護主義」により、
バイアスがかかる恐れは0ではない
内蔵データ
裁判所
そっくり!
問題の核心
行政や司法が公平に動かない「地方保護主義」の懸念が存在する。
 中国(特に地方部)では、模倣品を製造している企業がその地方の経済の核になっていた
り、大きな雇用を創出していたりする場合、一般に、行政機関がその企業を守ろうとした
り、裁判所の判断にバイアスがかかったりすることがあると言われており、地方保護主義
が疑われる場合もある。
 このような地域では、行政機関に取締りを依頼しても行政が動かなかったり、提訴しても
公平なジャッジが下らなかったりする可能性がありうる。
79
模倣品業者を摘発しよう
対策事例
④Y製造会社、Y卸販売会社、
小売店A、小売店Bの4社を
被告として北京市で民事提訴
中国 広東省深セン市
X社
Yグループ
製造
Y製造会社
Y卸販売会社
①提訴地の選定
中国 北京市
卸・販売
③北京市で問題の
Y製品を扱う
小売店を2店舗発見
②北京市で
市場調査
小売店A
小売店B
販売
消費者
対策のポイント
本丸から攻めず、まずは外堀を埋めよ。
 模倣品製造業者が地方保護主義により守られる可能性がある場合は、製造業者の本拠地
で摘発請求または提訴することは避ける方が良いケースもある。
 模倣品の販売も侵害行為に当たるため、製造業者の本拠地以外で当該製品を販売してい
る業者を摘発したり、提訴したりすることは可能。
 民事訴訟の場合、販売地も侵害行為地となり、販売業者と製造業者を共同被告として販売
地の裁判所に提訴することが可能。

~今回のケース~
 Y 社グループの影響力を考え、本拠地である深圳市での提訴は避けた。
 X 社は比較的ジャッジが公平とされる大都市 北京市での訴訟を狙った。北京市で Y 社製
品を販売している小売店を調査し、その結果、2 つの小売店でア社の製品が販売されてい
ることを突き止めた。
 販売地を侵害行為地とできるので、北京市は侵害行為地となり、北京市を提訴地にするこ
とができた。2 つの小売店と Y グループ会社 2 社を共同被告として北京市の裁判所に提訴
した。
80
模倣品業者を摘発しよう
実践編
STEP
Step1
準備
1
対策の手順
ここに注意
権利取得状況を確認する。
 現地で権利(著作権、商標権、意匠権等)を

2
Step2
調査
3
現地の専門家や調査会社等の
ネットワークを確認する。
調査会社を活用して、模倣品の
製造業者、販売業者等を調査す
る。



4
5
6
7
Step3
提訴
8
製造業者が地方保護主義で守ら
れる対象になりうるか調査し、対
応方針を決める。

(以下、製造業者が地方保護主
義で守られていると判断した場
合)比較的地方保護主義が薄い
地域で問題の製品が販売されて
いないか調査する。
製造業者が模倣品を製造してい
た又は販売業者が模倣品を販売
していた証拠を確保する。
製造業者の工場や販売店舗等
に弁護士や公証人とともに調査
に行き、証拠保全を行う。
証拠が十分に集まったら、販売
地の裁判所に、製造業者、販売
業者をともに共同被告として提訴
する。




登録していない場合は、馳名商標にあたる
か、著作権での取締りが可能か等を専門家
に相談する必要がある。
取得した権利は存続期間内か、年金(特許
料・登録料)納付や更新手続きは正しく行わ
れているか確認。
初めての場合は、JETRO や所属する業界
団体等に相談する。
信頼できる調査会社を選べるかが重要。
JETRO に相談、現地取引先・顧客に紹介し
てもらう等の方法がある。
関係業者、業者所在地、模倣品流通量、模
倣内容等を確認する。
現地専門家や調査会社、現地取引先等か
ら情報を得て判断する。
地方特色(都市部⇔地方部)だけでなく、相
手となる会社のその地域での影響力も考慮
する。
現地代理人や調査会社に依頼して、大都市
(北京市、上海市等)での販売店舗がない
か調査する。
ただし、製造地を回避する方が良いかはケ
ースバイケース。代理人とよく相談する。
販売業者の仕入れ記録等を確保すると、製
造業者の証拠になりうる。
 公証書類を発行してもらえるとなお良い。
 -
本事例からの示唆
 本事例のように地域の核となる企業が相手となる場合に限らず、特に中国において外国企
業は地方部よりも北京や上海等の都市部の行政機関、裁判所を使う方が、地方保護主義の
弊害を回避する上で有効。
 本事例では民事訴訟を選択したが、行政摘発の場合には、模倣品の取締りを、通常の請求
先より行政単位が上位の行政機関にすることで地方保護主義を回避する方法もとりうる(特
に業界団体、大企業の場合は実現可能性が高まる)。また、新聞やテレビ等のマスコミに摘
発状況の取材を依頼し、行政摘発プロセスの透明化を図ることで円滑に進むこともある。
 一方で、自社が中国に進出して地方保護主義が強いとされる地域において工場での雇用を
生み出し、その地域での存在感を確立している場合などには、そのような地域を提訴地に選
んで対策を成功させているケースもある。

81
模倣品業者を摘発しよう
事例 No.26:
行政摘発に基づく「処罰決定書」は、民事訴訟の重要な証拠として
活用することができる。[スポーツ用品等製造業 X 社]
 中国では、行政摘発が行われて、処罰がなされると取締機関から「処罰決定書」が
出されます。
 処罰決定書は政府機関が発行した公的な書類ですので、この書類を模倣品製造・流
通事業者を被告とする民事訴訟で証拠として提出するなど活用することができま
す。模倣品の違法な製造・流通をしていたことを、公的機関が証明してくれるよう
なものなので、その証拠力は高く、民事訴訟を実施する際には、処罰決定書を持っ
ておくと安心ですね。
 ところで、中国でも人件費の高騰が広くみられており、都会の企業集積地を中心に
活躍する弁護士は、模倣品に係る民事訴訟は、1 件あたりの損害賠償額が低いため、
あまり前向きに取り組んでくれないかもしれません。
 法定損害賠償額の上限が 50 万元と決められていましたし(2014 年より商標法
改正により 300 万元に上限が改正)
、模倣品そのものの押収数が少ない場合には、
損害額自体が過小にしか認定されない場合もあるためです。
 しかし、
「日本語ができる弁護士」、「都会の弁護士」
、ということに拘らなければ、
地方にも優秀な弁護士はたくさんいますし、“処罰決定書があれば、ほぼ確実に勝
てる”ということが分かっていれば、『訴訟 1 件では大きな報酬は見込めないが、
複数訴訟を実施すれば一定の報酬額になる』案件として、積極的に協力してくれる
弁護士もたくさんいるとのことです。
 例えば、5 万元の損害賠償しか取れないと、裁判費用等を考えると赤字だが、10
万元以上の損害賠償が取れれば、弁護士費用など諸経費を十分まかなえるというこ
ともあるそうです。
 弁護士費用などに余裕が無い、都会の一流弁護士に断られた、という場合には、継
続的に複数訴訟を委託することを前提に、地方の真摯な弁護士などに委託し、処罰
決定書を武器に民事訴訟を提起するのも一つの方策かもしれません。
82
模倣品業者を摘発しよう
テーマ事例:
摘発方針の明確化で、効果的・効率的なエンフォースメントを実施
 長年模倣品対策を取ってきた企業・団体であったが、費用耐効果が上らないことで、摘
発方針の見直しを図った事例が報告されています。
事例 No.27:
「量から質へ」
実際にアクションをとる案件を“刑事訴訟まで持ち込める案件”に限定
【機械器具等製造業界団体 X】
(「刑事訴訟まで持ち込める案件」のみに特化した背景)
 業界団体 X では、従来は行政摘発を重視してエンフォースメントを実施していた。
 調査会社を数社と連携し、持ち込まれる調査レポートについても対応し、「押収量が多けれ
ば良い」という考え方で、押収量が多い案件から優先的に行政摘発をしてもらっていた。
 しかし、行政摘発になる案件の数が多すぎたこと、調査会社から多数の調査レポートが持ち
込まれるようになったことで、業界団体の担当の負担が非常に大きくなった。
 実際、費用対効果に着目してみても、行政摘発対象となる模倣品案件が減少してきたという
こともなく、常に一定数の模倣品に関する調査レポートが挙げられて来ることや、『罰金も低
い行政摘発では、一度行政摘発の対象になったとしても、ほとぼりが冷めれば、また模倣品
製造・流通を開始するのではないか』という声もあり、会員企業からも効果に対する疑問の声
が少なくなかった。
 そこで、業界団体として対処する案件を限定することとし、刑事訴訟まで持ち込まれるような
案件を狙うことによって、“みせしめ効果”を狙うこととした。
(刑事訴訟に持ち込む案件の特徴)
 実際には、調査会社には、「不法経営金額が少なくとも 5 万元を超えるような案件」という刑
事訴追基準を満たし、「2 週間~1 カ月程度あれば、刑事訴訟になるくらいの、“確度の高い
案件”」についてのみ、持ち込むように依頼した。
 上記の 2 つの要件を満たすかどうかを自社の模倣品の押収が予測される会員企業間で審
査し、合意が得られた場合には摘発を委託するように転換した。
 1 件当たりで調査会社に支払う委託料は、大型かつ刑事訴訟に持ち込めるほど確度の高い
案件を要求しているため、平均すると数百万円であり、行政摘発の時より高額になるもの
の、摘発件数を絞り込めることから対策費(会員企業の金銭的負担)は大きく変わらないと認
識されている。
 刑事訴訟に持ち込むための費用が高くつくこともあるが、それでも会員企業からは、「やはり
行政摘発の方が良かったのではないか」という声は、現時点では聞かれていないということ
である。
 個別企業のエンフォースメント活動として行政摘発を実施する道が残されており、業界団体と
して実施すべきエンフォースメントの二面性は、相互の役割分担も明確になり、運営が容易
で効率的になったと好意的に受け止められているようである。
83
模倣品業者を摘発しよう
図表 “刑事訴訟に持ち込める案件”のみを対象とする摘発にシフト
行政摘発
摘
発
摘
発
摘
発
摘
発
刑事訴訟
刑事訴訟へ
明確な
方針転換
摘
発
刑事訴訟へ
摘
発
摘
発
摘
発
行政摘発が大半
「押収量が多い」ことを要求
刑事訴訟につながる案件に絞り込み
1か月以内に刑事訴訟出来る案件
調査会社は1件あたり報酬は増額
実際には費用対効果が感じられず
件数が多いので担当者負担が大きい
モグラ叩き。模倣品被害が減った実感が
無い
対策コスト総額は大きくは変わらず
件数が減ったため、管理上の負担は減少
“見せしめ”効果が期待できる
個社での取組と業界団体の取組の分業
84
模倣品業者を摘発しよう
テーマ事例:
摘発方針の明確化で、効果的・効率的なエンフォースメントを実施
 長年模倣品対策を取ってきた企業・団体であったが、費用耐効果が上らないことで、摘
発方針の見直しを図った事例が報告されています。
事例 No.28:
流通事業者のみを摘発対象とすることにより、市場から模倣品を駆逐し、摘発後も模倣品が容
易に市場に出ないようにする。
【スポーツ用品製造業 X 社】
(製造業者より流通業者を摘発対象とする理由)
 X 社はスポーツ用品を中国等で生産・販売していたが、模倣品被害が後を絶たなかった。
 X 社の製品は、製造に際して必ずしも大規模な生産施設・多数の作業員がいるものではなか
ったことから、製造工場は小規模な、住居のようなところで実施されていることが多く、製造工
場を摘発しても、大規模摘発は望めなかった。また、個別の小規模な製造工場を叩いても、
市場から模倣品が消えることは無く、単なる“モグラ叩き”に終始していることがほとんどであ
った。
 また、製造業者が小規模なので、実際には模倣品製造も、誰かの指示に従って実施している
ことが疑われた。実際には、模倣品でお金を儲けているのは、製造工場に指示を出して、流
通を指図している卸等の流通事業者であると考えられたため、民事訴訟等における損害賠
償金額を考えても、流通事業者を叩く方が良いと考えた。
 流通を叩く理由は他にもある。例えば、工場は、模倣品摘発のために取締官と乗り込んで
も、事前にこちらの動きを掴んで警戒しているような場合には、模倣品を全て別の場所に保
管してしまっていたり、摘発がある日に工場を完全に閉鎖してしまったりして、摘発そのもの
をできないように阻止されることもあった。しかし、市場に店舗を開いている流通事業者の場
合には、一般客も普通に店を訪れるし、販売を停止して店じまいしたとしても、いつかは店を
開けなくては商売ができないので、模倣品摘発前の“夜逃げ”のような事態が想定されず、損
害賠償請求に応じてくれることが大きいことも、製造拠点を叩くことよりも効果的であると考え
られる。
 特に、都会と農村の小売店を比較した場合、都会の小売店は“夜逃げ”はほとんどなく、摘発
が無駄足に終わることは少ない。
 実際に、X 社では、さらに効率的な摘発を行うために、地元に強固なネットワークを有する調
査会社に委託して、市場の小売店から初めて徹底した製造・流通ネットワーク調査を実施。
完成したネットワーク図を基に、ネットワークの中心にいた流通関係者を摘発することに成功
した。
(小売店の摘発の留意点)
 しかし、流通の中でも小売店の摘発を実施する際には、少し注意が必要である。
 ある市場の中で、1 店舗だけを摘発しようとすると、当然に模倣品を販売している他の店舗
も、摘発を恐れて、一斉に店舗を閉じる(営業を終了する)。このような対応をされてしまうと、
行政摘発の場合には、取締官には店舗の入り口を開けさせる権限は無いため、結局、夜に
85
模倣品業者を摘発しよう
なって裏口から模倣品を別の場所などに移送されてしまう。その市場では、1 店舗しか摘発
できなかった、ということになり、次回摘発まで相当な間が空いてしまうこともある。
 このようなことを防ぐために、調査会社に取締機関と連携させて、市場における一斉摘発を
行うことが重要になる。取締機関と関係の深い調査会社であれば、多数の取締機関職員に
出動してもらい、摘発のタイミングを合わせることで、一斉摘発を行うのが理想的である。
 但し、取締機関そのものが、地方保護主義などの問題を抱えている場合もあり得、摘発等に
必ずしも積極的・協力的ではない場合もあり得るので、事前の状況把握や全体像把握などに
は十分な配慮が必要である。
図表 “模倣品流通”を対象とする摘発にシフト
流通指示
スポーツ製造業の企業が
長年模倣品対策を継続してきた結果、
対策に係る重要性の低下
(模倣品の主役ではなくなる)
生産指示
工場での大規模生産から、摘
発を逃れるための小規模・家
庭での生産に
立地もバラバラに
スポーツ製造業の企業が
長年模倣品対策を継続してきた結果、
対策に係る重要性が高まる
(効果的なエンフォースメント対象)
工場生産
小規模生産
86
小売
模倣品業者を摘発しよう
事例 No.29:
個人輸入の模倣品対策は、規模の大きな税関を定期訪問して関係
構築。個人輸入業者へは、警告書の送付で模倣品販売をやめさ
せ、定期訪問でチェックする。[生活用品製造業 X 社]
 近時は、個人輸入で模倣品が日本国内に輸入されることが増えています。個人輸入
の模倣品対策の課題は、税関での水際対策が極めて難しいことです。
 とはいっても、税関で個人輸入を止めてもらうことは重要ですので、規模の大きな
税関(東京・横浜・川崎・大阪・福岡など)で個人輸入の模倣品が見つかった場合
には、しばらく(10 日間程度)留置してもらい、定期的にこれらの税関を訪問し
て、真贋判定を行うことが有効です。
 頻繁な訪問を行うなどして、個人輸入の模倣品対策に真摯な事業者であることがわ
かれば、税関からも協力が得られる可能性があります。
 もちろん、税関で一度、侵害の可能性があるということで留置されつつも、過去に
違反実績がなく、輸入品の数が少ない場合には、個人輸入ということで留置が解か
れてしまうこともあります。その場合には、輸入者の主張がおかしいことに対して、
しっかりと意見書を税関に向けて提出(輸入者にも開示される)しておくことが重
要です。活動そのものについて真摯な姿勢であることを示すことができ、税関や輸
入者に対して、権利者としての会社の考えを伝える機会にもなります。
 X 社では、社員全員が模倣品発見を意識し、営業の過程で小規模な小売店等でも模
倣品が販売されていないかをチェックしています。模倣品が発見された場合には、
自社で警告書を小売店等に送付して、注意喚起を行います。X 社の場合には、日本
企業であれば、警告書を出すだけで、ほとんどは模倣品の取り扱いを中止してくれ
るそうです。
 個人輸入対策としては、一度でも、個人輸入で模倣品を輸入した小売店等について
は、定期的に、模倣品を販売していないかを実際に訪問してチェックすることが有
効ということです。この取組みは模倣品対策担当者だけでは難しいので、営業担当
者や他の社員等と協力して実施することが有効でしょう。
87
模倣品業者を摘発しよう
No.30:刻印されたマークに着目して、発見される模倣品のパターンを
分析。ターゲットとすべき製造量の多い模倣品製造業者を特定する。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
④行政摘発
対策コスト
コスト中(100 万円以上 300 万円未満)
6 ヶ月(調査~分析~ヒアリング~ターゲット特定~ターゲット内部調査)
※摘発完了までにさらに 6 ヶ月程度
模倣品流通量の減少
 主要な模倣品製造業者を特定した上での摘発による費用対効果の
向上
文具等製造業
所要期間
対策の目標レベル
対策効果
業種
経緯まとめ
 X 社の製品の模倣品は中国で大量に出回っていたが、小売店の規模は小さく、小売店をひ
とつひとつ摘発していても、モグラ叩きに過ぎない状況であった。また、模倣品の特徴にそれ
ぞれ違いがあることから、多くの事業者が模倣品を製造していることがわかっていた。
 そこで X 社は、特定の製品の模倣品に刻印されたマークに着目して、そのパターン毎に、あ
る特定の地域で、それぞれのパターンがどれくらい流通しているのかを調査し、明確にする
ことにした。
 キャップに刻印されているブランドマークは金型で鋳造されるので、全く同じ形のマークが刻
印されている模倣品は同じ金型でつくられている。そして金型が同じものは同じ製造業者で
生産されたものであると言える。
 まず X 社が対象地域で、小売店をひとつひとつ回り、模倣品と思われるものを購入して回っ
たところ、合計 30 店舗で模倣品を入手した。
 購入した模倣品すべてのブランドマークの型をとり、分析した結果、マークは全部で 5 パター
ンあった。つまり対象地域に流通している模倣品は 5 事業者が製造していることが判明し
た。また、5 パターンあるマークの内、2 パターンのマークだけで対象地域で流通している模
倣品の 7 割以上であることが分かった。
 以上から、X 社は、摘発する模倣品製造業者のターゲットを流通量の多い 2 社に決定した。
調査会社に依頼し、仕入れていた店舗にヒアリングを実施し、共通する仕入元を辿っていくこ
とで、製造業者を発見した。この 2 社を叩くことで対象地域において小売店から 7 割以上の模
倣品を排除することに成功した。
88
模倣品業者を摘発しよう
問題の構造
模倣品製造業者
どの製造事業者を叩くべきか?
X社
模倣品
特定の市場
製品
小売店
小売店を摘発しても
モグラ叩きにしかならない!!
問題の核心
模倣品製造業者の数も小売店の数も多い。
 特に、今回のように見た目だけ似せた質の低いものであれば製造するのはさほど難しくない
場合、多くの事業者が模倣品製造を行っている場合がある。
 数多くの模倣品製造事業者が無数の規模の小さな小売店に模倣品を卸すため、模倣品を
取り扱う小売店を摘発しても、モグラ叩きにすぎず、問題の解決に繋がらない。また、無数に
ある小売店の全てを摘発することは現実的ではない。
 小売店を叩いてもモグラ叩きにしかならない場合、根本解決のために模倣品製造事業者を
叩くことが考えられるが、製造業者も多い場合はターゲットを絞ることから始めなくてはならな
い。全ての小売店を摘発するのが現実的でないように、全ての製造事業者を摘発することも
実際には難しい。
89
模倣品業者を摘発しよう
対策事例
市場
刻印
①
製造業者
X
12店舗から発見
22店舗
・
・
・
調査の結果、
30店舗から模倣品を発見
キ
ャ
ッ
プ
の
「X」
マ
ー
ク
の
刻
印
を
分
析
②
X
③
X
④
X
⑤
X
10店舗から発見
=
この市場で模倣品を
取り扱う小売店の
7割以上に当たる
模倣品製造業者①、②の
摘発に成功すれば、
この市場で模倣品を扱う
7割以上の小売店から
模倣品を駆逐できる!
市場Yに出回る
「X」マークは5パターン
⇒製造事業者は5社!
対策のポイント
摘発のターゲットとすべき事業者はデータから見極めよ。

根本解決のために、模倣品の製造業者を摘発する場合で、かつ対象となる製造業者の数
も多いという場合、やみくもに叩きやすいところから摘発を実施するのではなく、どの製造
業者を叩くことが最も効果的かを考えることが重要である。

製造業者と模倣品を結び付けるキーファクターがあれば、サンプル購入した模倣品を分析
し、模倣品製造事業者の数とそれぞれの流通量を把握することで、ターゲットとすべき大規
模な模倣品製造事業者を特定することも可能である。
~今回のケース~

市場に模倣品を供給する製造業者の中で特に悪質な事業者をターゲットにしたいと考え
た。

製品のキャップの「X」マークの刻印がキーファクター。市場で発見した模倣品の「X」マーク
を分析した結果、5 パターンの「X」マークがあることが判明。つまり模倣品製造業者は 5
社。流通量上位 2 社をターゲットとし、摘発を実施することとした。

まずは、この 2 社製造の模倣品を販売していた小売店にヒアリングを実施。共通の仕入れ
先を辿って、模倣品の流通経路を明らかにし、製造業者を見付け出して、摘発を実施する
ことができた。
90
模倣品業者を摘発しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
ここに注意
模倣品の真贋判定ポイントを考
える。
 製造業者を特定するキーにするため、製造

2
調査対象とする市場を選定す
る。



Step2
調査
Step3
分析
3
4
5
Step4
特定
6
市場調査し、模倣品と思われる
ものをサンプル購入する。
真贋判定ポイントを鑑定、分析す
る。
市場内に流通する模倣品の製造
業者数と流通量を把握する。



摘発ターゲットとなる製造業者を
選定する。



7
Step5
摘発
8
小売店へのヒアリングを実施し、
流通経路を明らかにし、摘発ター
ゲットと し た 製造業者を特定す
る。
行政摘発を実施する。

設備と結び付けられるようなものが適切。
(例:金型)
真正品と区別する必要があるので、特徴的
な部分である必要がある。
模倣品被害の深刻さや他地域への影響力
等を考慮して決める。
現地代理人や現地取引先など信用できる
相手から情報収集する必要がある。
市場選定と合わせて、調査会社も選ぶ必要
がある。これまでの自社での実績から信頼
関係を築いている調査会社に引き続き依頼
することもあるが、今回選定した市場に精通
した調査会社を選ぶという手もある。
事前に真贋判定ができるようになっておく。
店舗ごとの販売量調査もできると良い。
同じ製造設備から作られているものには同
じ特徴が現れる。
同パターンの模倣品が、市場内のどれだけ
の店舗で扱われ、合計でどれだけの量が販
売されていたのかを模倣品パターン別に整
理する。
いくつの製造業者を摘発するのかはコスト
等から定める必要がある。
Step3-5 で整理した中で、販売量が多いと
判明した製造業者を叩くのが効果的。
小売店へのメリットを提示して、説得しなくて
はならない。
 被害額が大きければ刑事摘発も検討しう
る。(ただし、単価が安い商品の場合、中国
の刑事訴追基準をクリアするのはなかなか
難しい)
 複数地域で同様の取組みを行って、一斉摘
発にすると、模倣品事業者へのインパクトは
大きくなると思われる。
本事例からの示唆

模倣品流通の肝になっているのが、製造業者なのか、販売業者なのか、それとも間に入る
流通業者なのかを見極めることで、根本解決に近付くことができる。本事例は製造業者を
叩くことが模倣品流通の抑止につながったが、販売業者が無数の小規模工場に製造させ
ている場合や流通業者が無数の製造業者に指示して製造させ、小売業者に卸しているケ
ースもある。このような場合は、別の対策が必要になる。

開発段階で、模倣品対策のため、模倣品製造業者を特定できるような設計(マークはシー
ルでなく鋳造する、等の真贋ポイントの工夫)にしておくことも有効な策である。
91
模倣品業者を摘発しよう
No.31:著作権活用により、キャラクターを保護する。
事例のプロファイル
権利種別
著作権、商標権
対象国・地域
経緯まとめ
中国
対策シーン
⑥民事訴訟
日本企業 B 社は、アニメーショ
コスト特大(1,000 万円以上)
対策コスト
ンに登場する人気キャラクター
民事訴訟は 1~2 年
所要期間
のプラモデルを製造している。
対策の目標
既存の市場の保護(当該国・地域で、事業が成立していない場合は、対
策しない。)
中国において、2000 年ファイ
対策効果
ル
 模倣業者に対し、民事訴訟を通じて侵害の差止判決及び損害賠償
金を獲得。損害賠償金として、1 千万円以上を勝ち取った実績あり。
業種
玩具等製造業
経緯まとめ

日本企業 X 社は、アニメーションに登場する人気キャラクターのプラモデルを製造してい
る。中国において、2000 年代から X 社プラモデルの模倣品被害が深刻化している。

対策を開始した初期は、デッドコピーやマーク盗用したものが市場に流通しており、商標権
侵害として対応してきたが、摘発を繰り返すうちに、模倣業者も巧妙になり、商標のないも
のや商標では摘発できない二次創作的な要素を持つ模倣品が出現。

キャラクターの保護には著作権による対応が不可欠なケースも多い。キャラクタービジネス
は著作権を持つ版権元などからライセンスを受けて行われるものであり、これらとの連携を
すすめている。また、より円滑な権利行使のために、X 社は、中国の著作権登録制度を活
用。

しかし、著作権登録には手間やコストがかかるため、模倣品業者が狙う売れ筋のキャラク
ターに絞って登録する、模倣品が出た後に事後的に登録申請できるようあらかじめ資料を
揃えて管理する、登録時は件数をまとめて、現地法律事務所にもディスカウントを依頼する
といった方法で著作権登録業務を効率化。

実際に著作権登録を用いて、模倣品製造業者へ著作権侵害に基づく民事訴訟を提起し、
損害賠償金を獲得した事例もある。

92
模倣品業者を摘発しよう
問題の構造
模倣品を摘発するごとに、
模倣業者も対策するので、
次第に摘発する難度が上
がっている
真正品
模倣品
初期の模倣品
(ほぼデッドコピー)
摘発を受けて模倣業者
が手を加えた模倣品
(商標や名称が変更さ
れた)
さらなる摘発を受けて模倣
業者が手を加えた模倣品
(オリジナルにないアイテ
ムが加わったり、デザイン
が一部変更された)
問題の核心
キャラクターの模倣品は、デッドコピーから登録商標を回避したものや二次創作的
な模倣品の出現で対策が困難に。

対策を開始した初期は、デッドコピーが市場に流通していたが、摘発を繰り返すうちに、模
倣業者も巧妙になり、登録商標を使用しないものや商標・画像・形状にアレンジが加わった
二次創作的な要素を持つ模倣品が出現。

X社のケースでも、技術の進歩により、模倣品業者も原作品に登場するロボットのデザイン
を翻案したプラモデルを製造できるようになってきている。さらに、ネットを通じて、ターゲット
とする顧客に販売することが可能になり、販路の確保も容易。

キャラクターの著作権は、コンテンツの版権元が一元的に行っている(玩具業界では、知的
財産権の散逸を防ぐため、キャラクターの版権元に権利を集中させて管理する慣習があ
る)。このため、版権元からライセンスを受けた X 社では、版権元と共同で、著作権侵害を
根拠に模倣業者を警告・摘発等する必要がある。

著作権は本来ベルヌ条約により、登録なしで権利主張できるはずだが、中国の摘発や裁
判実務では著作権登録がないと円滑に権利行使ができない実情がある。
93
模倣品業者を摘発しよう
対策事例
何の権利で
守るか?
保護すべきキャ
ラクターか?
守るべき
市場か?
・キャラクター保護に、商標権、著作権に
よる対策が有効かどうかを判断。
・保護すべき(模倣業者が狙う売れ筋の)
キャラクターは、版元と連携して確実に
登録。
・守るべき市場かどうかも考慮して、登録
の是非を判断。
・著作権登録は、必要に応じて登録でき
るよう、資料が散逸しないようにデザイ
ン制作時点で管理。
・登録には現地弁護士に直接コンタクト
すると共に、件数をまとめて依頼するこ
とでボリュームディスカウントを適用。
対策のポイント
著作権を有効に活用する

実際に出回っている模倣品を入手し、商標権、著作権による対策のどちらが有効かどうか
を判断する。

版権元と連携して保護すべき(模倣業者が狙う売れ筋の)キャラクターの著作権や商標を
登録し、円滑に摘発できるようにする。

著作権登録は、全部のキャラクターや商品をケアしようとするとコストや手間がかかる一
方、事後的な登録が可能。このため、対策の優先順位の高くないキャラクターは、いつでも
登録申請できるよう資料を揃えて管理する。また、信頼できる現地の弁護士と事前に打合
せを行い、定期登録やボリュームディスカウントによるコストダウンなど、著作権登録業務
を効率的に実施する。

市場を継続的にモニタリングし、著作権登録の要否を判断する。

~今回のケース~

X 社は重要な市場、売れ筋のキャラクターに絞って、版権元と連携して著作権登録を実施。

X 社は著作権登録に基づいた民事訴訟を実施、模倣品メーカーに対して勝訴判決を獲得
している。
94
模倣品業者を摘発しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
ここに注意
キャラクターの著作権登録をする
 著作権登録には、件数ごとに費用がかかる
ため、模倣品業者が狙う売れ筋のキャラク
ターに絞って登録する、信頼できる現地の
弁護士に直接依頼する等、効率化を図る。
 優先順位の高くないキャラクターは、事後に
著作権登録できるように、資料を管理する。
2
Step2
調査
3
Step3
方針
策定
4
コンテンツの版権元と対策の費
用や役割の分担を決める
 一般にキャラクターの著作権は版権元が管
調査会社を活用して、模倣品の
流通状況を調査する。
 調査会社や現地代理人、現地取引先から
模倣品を精査して、著作権侵害
で対策するか判断する
 守るべき市場のないところでは、対策をしな
理しているため、対策時の費用や役割の分
担を事前に決めておく。
の情報などから調査を進める。
い。
 二次創作的にデフォルメされている場合、著
作権侵害といえるかどうか弁護士などに相
談する。
 なお商標が使われているのであれば、先ず
商標権で摘発する。
Step4
警告
5
著作権侵害であることについて
警告状を送付する。
 現地代理人に依頼する。
Step5
民事訴
訟
6
警告に応じない場合、民事訴訟
をする
 版権元の協力の下、訴訟を実施する。
 刑事摘発については現状ハードルが高いた
め、可能かどうか調査会社や現地代理人と
十分に相談のうえ、判断する。
本事例からの示唆

キャラクターの保護は、商標権のみでなく著作権を活用することが有効。しかし、著作権登
録は、手間やコストがかかること、権利行使をすると模倣業者の警戒心を強めることにな
り、その後の対策の難度が上がることなどから、対策の方針策定時に、有効性を十分に見
極める必要がある。
95
模倣品業者を摘発しよう
No.32:著名インターネットサイト上の模倣品販売事業者に対し、削除
依頼のみならず、追求・特定して徹底した対策を実施。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
⑧調査・監視(モニタリング)、④行政摘発、⑥民事訴訟、⑦刑事訴訟
コスト小(100 万円未満)
(※調査から摘発まで1つの案件の一連の一般的な対応費用)
2~4 週間程度 (※出品者を特定するのに要する期間)
対策コスト
所要期間
対策の目標
特に悪質なインターネット上の模倣品販売事業者の特定及びエンフォ
ースメントの実施
対策効果
 悪質な数事業者について特定後、行政摘発・刑事訴訟につなげた。
業種
非製造業
経緯まとめ

X 社では DVD やキャラクターの玩具を販売しているが、2000 年代から中国において、海賊
版 DVD や同社キャラクターを使用した玩具等の模倣品が、インターネットサイトのタオバ
オ、アリババ等で多数販売されるようになった。

中国現地法人の中国人の担当スタッフが、毎日、上記サイトの販売状況をチェックして削
除申請(いくつかの大手通販サイトでは、模倣品が販売されている場合、模倣品の販売リ
ストからの削除を申請することができる場合がある)することで、検索ヒット件数は対策前の
約 1/5 程度にまで縮小したものの、根絶には至らなかった。

このため、削除申請に加え、特に悪質な事業者は現実世界で突き止め、行政摘発等行うこ
とが必要であると判断し、サイト削除と並行して、ネットで販売している事業者の特定に力
を入れるようになった。

特定すべきターゲットは、①取扱規模、②正規代理店類似性、③商品の正規品類似性、④
販売数量等の基準を設けて対象を絞ったうえで、その他の情報も加味し総合的に判断し決
定している。(p98 参照)

悪質と認定した後は、調査会社の活用や販売事業者への直接調査等を通じて特定につな
がるヒントを得て特定に成功。そのうち、いくつかのケースにおいては、行政摘発や刑事摘
発等につなげることができている。
96
模倣品業者を摘発しよう
問題の構造
模倣品出品事業者
異なる模倣品を再度出品
出品者名を変えて同一の模倣品を出品
模倣品を出品
インターネットサイト
大手のサイト
インターネットサイト
検索:X社商品
大手のサイト
検索結果 -10,000件-
検索:X社商品
検索結果 -9,800件-
200元
B社
300元
B社
20元
A社
50元
B社
40元
B社
6元
A社
一時的削除
200元
B社
300元
B社
25元
A社
50元
B社
40元
B社
6元
A”社
数週間後、再度検索しても、
模倣品発見。ヒット件数もあ
まり減らず。
模倣品発見
→削除申請
X社、サイトのチェック担当
問題の核心
頻度高く削除申請をしても、悪質事業者は何度も出品を繰り返す。

大手の販売サイトでは、規則やシステムが整備され、出品された模倣品の削除申請は容
易になったものの、悪質な出品事業者は一時削除をしても一定期間後に再度出品したり、
出品者名を変えて再出品するなど、根本的な問題解決にはならない。

しかし、模倣品出品事業者の特定は容易ではなく、基本的には頻度高く削除申請を行った
り、ネット上の模倣品モニタリングに定評のある調査会社に対応を依頼したりすることに留
まりがちである。
~今回のケース~

X 社でも、中国現地法人の中国人担当者が、毎日、大手の販売サイトをモニタリングして削
除申請した結果、ヒット件数は 1/5 程度に減少したものの根絶には至らなかった。

最近は、削除申請が行われると、サイト運営者から削除される前に(マイナスの評価がなさ
れないように)自前で商品を取り下げたり、店舗名を変えて再出品したりするようなことがな
され、サイト規則の裏をかくような模倣品出品事業者が増えており、 出品を削除することと
併せてこのような悪質な出品者に対する根本的な対策が必要と認識した。
97
模倣品業者を摘発しよう
対策事例
追跡・特定のための方策
事業者の特定へ
特定調査を実施する
対象を数社選定
STEP2
特定調査
対象の
選定
例:サイト運営者から強制削除される前
状況・事情 に自主削除を繰り返し、サイトからの罰
を勘案して 則を逃れる事業者、販売者IDを頻繁に
絞り込みSTEP2
絞り込む 変える事業者など
特に悪質な事業者を20社程度選定
当該販売サイトの協力を得て保有す
る出品事業者等の情報を取得し、現
実の所在地や供給元等を調査する。
現実市場における他の案件の調査
結果等の情報を分析し、ネット出品事
業者とのマッチングを行う(例:電話
番号、類似模倣品の取扱など)
出品事業者に対して電話やチャット
等を行い、情報を聞き出す(末端の
担当者は情報を提供してくれることが
少なくない)
絞り込みSTEP1
STEP1
悪質性
認定基準
機械的に
絞り込む
基準:取扱割合
基準:正規代理店類似性
ある出品事業者が取り扱う商品
の中でどの程度が同社の模倣品
を取り扱っているか
正規の代理店を装っている程度
(例:店舗名称に同社のブランド
やキャラクターを使っているなど)
基準:商品の正規品類似性
基準:販売数量
取り扱っている模倣品が正規品
に類似している程度
販売数量が多い模倣品を出品し
ている事業者
(例:過去30日以内の販売数)
X社における、「悪質」事業者を
機械的に認定するための基準
対策のポイント
悪質事業者を絞り込んでターゲット化。関連情報とのマッチングで特定する。


全ての模倣品出品事業者を特定するのは費用対効果に見合わないので、基準を設けて、
特に悪質な事業者のみを特定・追跡の対象とする。
特定・追跡のためには、当該サイトから情報収集したり、調査会社の上げてきた情報と独
自調査の情報をマッチングしたり、模倣品出品事業者に直接連絡をして可能な情報を聞き
出して、特定に有効な情報を収集する。
~今回のケース~





X 社では市場からすべて排除するということは考えておらず、費用対効果を考えながら対
応しており、より対策強化すべき悪質業者に費用や労力を集中させるため、悪質性の低い
模倣品業者に対しては結果として放置せざるを得ない場合もいるという方針を有していた。
X 社は「取扱割合」、「(出品者サイトの)正規代理店類似性」、「商品の正規品類似性」、
「販売数量」等の基準で悪質事業者を機械的に 20 社程度に絞り込んだ後で、質的情報
(例:ID を何度も変更して出品者身元の特定を困難にしたうえで出品を繰り返している、等)
も加味して、具体的に数社を明確な特定・追跡ターゲットと定めた。
ネット調査で得られた情報(商品情報、販売者代表名、所在地、電話番号等)と、調査会社
を通じて得られた情報等を意識的にマッチングして特定・追跡。特定した後は行政摘発や
刑事摘発につなげた。
摘発においては、処罰検討時に加味してもらい適切な処罰が科されるよう、ネット上の販売
実績等の証拠を当局に提出する。
民事訴訟も可能なほどの証拠も得ていたが、時間・コストの費用対効果や、エンフォースメ
ントの方針(まずは販売行為を止めること)から、訴訟提起しなかった。
98
模倣品業者を摘発しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
インターネット上の模倣
品が自社に 与える 影響
の深刻度について検討
し、模倣品出品事業者の
追跡・特定の必要性を評
価する。
ここに注意
 ネット上の出品件数や販売件数が少ないような場


特定・追跡する悪質事業
者の数や、特定・追跡の
限界に つ いて 明確 に定
める。
特定・追跡のための方策
を決めておく。

自社にとっての「悪質な
事業者」を特定するため
の基準 や手 続き につ い
て明確にする。
基準に沿って、機械的に
絞り込みを実施する。
特定調査の対象とする
事業者を、個別事情・状
況等を勘案して絞り込む

特定・追跡調査の実施。
(サイトからの情報入手、出品
業者と他案件の調査結果と
のマッチング、直接のコンタ
クトの実施など)
8 警告や行政摘発、民訴、
刑事摘発を実施(※本事
例では民訴は回避してい
る)

2
3
Step2
絞り込み
の実施
4
5
6
7
Step3
摘発









合には、無理にネット上の対策を大々的に実施しな
いという選択肢もあり得る。
大手販売サイトでは削除申請が比較的容易なの
で、削除申請によって、被害がどの程度軽減される
かをまずは検証すると良い。(但し、大手販売サイト
の担当者によって提出書類が異なるなど、必ずしも
容易でないケースもある)。
アリババ等の大手サイト以外は、独自に、削除申請
ができるかどうかを確認すると良い。
特定・追跡に相当な時間や費用がかかるケースも
あるので、限界は明確に定めておく。
特定・追跡が成功しなかった場合の対応についても
決めておく。
事例にあるような、調査会社の活用、他案件での調
査結果の活用、出品事業者への直接の問い合わ
せ等について自社で活用できるリソースを検討して
おく。
やみくもに追跡・特定を行うと費用も時間もかかる
ので留意。
絞り込み作業を、ある程度機械的に行える基準を
設定する。
基準をすべて満たす企業数が、あまりに多くなりす
ぎないように留意する。
例えば、出品社名を頻繁に変えたり、削除申請時
に一時的に取り下げを行うような事業者を特定調
査の対象とするなど、個別具体的に議論した上で
決定する。
出品者に対する直接のコンタクトは、勘繰られるの
で必要以上に踏み込みすぎない。
ネット出品事業者自身は小規模であり、その背後に
大規模製造事業者や流通等の手配人がいることも
少なくない。
行政摘発では再犯しそうな場合は刑事摘発するな
どケースバイケースで対応。
摘発においては、処罰検討時に加味してもらい適
切な処罰がなされるよう、ネット上の販売実績等の
証拠を当局に提出する。
民訴も費用対効果を換算して対応
本事例からの示唆



中国現地法人の中国人のスタッフが、ネット上のモニタリング及び削除申請を毎日実施し
ていることも、追跡・特定を容易にしている要因である。
追跡すべき業者の特定は、調査会社に任せるのではなく、あくまで調査会社から上がる情
報等を基に、追跡・特定の端緒は自社内で探している。
現地法人の事業部門担当者とも、事業上の観点からのネット上の模倣品被害対策の必要
性について課題認識を共有し、現地法人の営業担当など社内関係者の協力が得られてい
ることも、同社が成功している一つの理由であることに留意が必要である。
99
模倣品業者を摘発しよう
事例 No.33:
インターネット上で模倣品・海賊版を販売する事業者への基本的な
対抗策。[楽器等製造業 X 社、海外著名ファッションブランド権利者
団体 Y]
 インターネット上の EC サイトでのショッピングは便利ですが、中には本物と偽っ
て模倣品が販売されていたり、明らかに模倣品だとわかるものが安価で取引されて
いたりすることがあります。
 こうした状況に対処すべく、各 EC サイトは自主的な取組みを行っている場合があ
ります。著名な EC サイトとしては、国内だと楽天、Yahoo! JAPAN などが挙げ
られます。また、中国ではタオバオが、米国では eBay などが有名です。
 通常、企業側がインターネット上の自社製品の模倣品を取り締まるためには、まず、
EC サイトの監視を行います。模倣品と思われる出品を発見した場合、サイトに出
品削除を申請します。このモニタリングを継続していくことで、模倣品の検索ヒッ
ト率をあげることなどにより、模倣品を早期に発見できるようになります。また、
模倣品業者からも「模倣品対策に積極的な企業」であると認識されるようになり、
出品の抑制にもつながると考えられます。
 先進的な企業では、自社製品の模倣品がどのような EC サイトで多く取引されてい
るのかを調査し、その EC サイトの模倣品対策プログラムに沿った形で、対処する
店舗や製品、時期、数量等を決めるといったこともしています。これにより、モグ
ラ叩きで終わらない効果的・効率的な削除を目指しています。最終的には、削除申
請だけで終わらず、悪質な事業者を現実世界で突き止め、行政摘発等行うことがで
きると、問題の根本解決につながります。
 それでは、代表的なショッピングサイトの模倣品対策を見てみましょう。(2014
年 1 月時点)
 Yahoo! JAPAN(ヤフー・オークション)
Yahoo! JAPAN では、
「Yahoo! JAPAN 知的財産権保護プログラム」を用意して
います。このうち、プログラム A では、権利侵害を発見する度に、証明資料ととも
に Yahoo! JAPAN に申告し、削除依頼します。プログラム B では、権利者は事前
に登録をしておきます。事前に登録してあるので、権利侵害を発見した場合には、
ウェブフォームや電子メールで削除依頼を行うことができます。
プログラム B を活用すると、ケースバイケースではありますが一般に1~2時間程
度で迅速に削除されると言われています。模倣品であることの鑑定理由も不要で、
(削除申請の履歴により)削除申請した出品物以外の取引も難しくなることから、
権利者にとって便利なシステムになっています。
 タオバオ【中国】
タオバオでは罰則ポイントシステムを用意しています。模倣品の販売、写真の無断
転載などを申請することによって、それぞれ決められた罰則ポイントが付与されま
す。サンプル購入して模倣品であることを証明できた場合、加算ポイントは大きく
なります。年間累計ポイントによって、店舗にアクセスできなくなる(営業できな
くなる)期間が設けられ、最悪の場合は店舗の永久閉鎖という処分が下されます。
このような仕組みを模倣品対策に活用するため、特に悪質な店舗を選定し、ピンポ
イントで、短い間隔で削除申請を繰り返すことによって、累計の罰則ポイントを短
期間で積み上げさせ、効果的な取り締まりを行っている企業もいます。
100
模倣品業者を摘発しよう
事例 No.34:
インターネットで模倣品を販売する事業者の決済口座を凍結するこ
とで、模倣品被害の拡大を抑制する。[海外著名ファッションブランド
権利者団体 X、玩具等製造業 Y 社]
 特にインターネットで模倣品が販売されている場合、模倣品の販売そのものは容易
に見つけられても、その後の模倣品販売(出品)事業者の追跡・特定は必ずしも容
易ではありません。
 インターネット上の模倣品販売の有効な対策の一つとして、模倣品販売事業者がイ
ンターネット上で“代金振り込み先”として指定している銀行口座を凍結するとい
う方法があります。
 例えば、日本国内の話であれば、海外著名ファッションブランド権利者団体 X は、
模倣品販売事業者の口座の凍結を銀行に依頼し、銀行は年間 40~50 件程度は対
応してくれているそうです。もちろん、凍結を依頼する前提として、「こういう指
示がきました」
、
「ここに払い込みました」、「このような商品が送られてきました」
などという試し買いによる情報収集からで、証拠を得て、銀行に依頼することにな
ります。
 銀行は、利用規約等に照らして“公序良俗に反する場合”と認定して口座の凍結を
行っているようです。凍結対象となった口座の名義人は、口座の名義貸し(実質的
には口座の売却)をしているだけのこともあり、銀行からの呼び出しにも応じない
ことが少なくなく、事実上は、口座は凍結されたままになるようです。
 また、ある会社によると、中国でも、試し買いなどをすることで、模倣品販売事業
者の振込先口座がわかることもあります。振込先口座については、裁判所に申請し
て認められれば差し押さえも可能なこともあるということです。多くの場合は、口
座には残金が少なく、口座から直接損害賠償相当額を確保できるわけではありませ
んが、模倣品販売事業者の追跡や特定のきっかけとしたり、そこまではできなくと
も、模倣品販売事業者に対する一定の牽制にはなったりしているようです。
 インターネット上の模倣品販売事業者対策として、削除申請を行うことに加え、調
査会社等を活用して、模倣品販売事業者の決済口座の差し押さえや、決済口座から
の追跡・特定も一つの選択肢になりそうです。
101
模倣品業者を摘発しよう
No.35:税関の差止情報を収集・分析することで、模倣品関連事業者
を分類、特に悪質な事業者の絞り込みを実現。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
⑧調査・監視(モニタリング)
対策コスト
コスト大(300 万円以上 1,000 万円未満)
所要期間
約1年
対策の目標
模倣品の製造・流通・輸出を差配する事業者の特定
 大規模模倣品製造・流通・輸出を差配する可能性のある事業者の絞
対策効果
り込みに成功
 模倣品取り扱いの可能性が高い事業者のリストを作成し、ランク分け
することで継続した動向を把握できるようになった。
業種
機械部品等業界団体
経緯まとめ
 業界団体 X では、中国で製造された模倣品が中東など新興国に輸出されていたことから、
製造~輸出までのアレンジをしている悪質事業者を洗い出す必要性があった。
 しかし、上海市場における大量出荷の可能な卸売業者の幾つかは輸出との関わりが疑わ
れたものの、輸出ライセンスを持つ事業者は皆無であることが判明した。
 この事実から、大規模な模倣品ネットワークを差配するブローカーや貿易商の介在が疑わ
れることになり、模倣品製造・流通・輸出のネットワークを叩くには、キーとなるブローカー・
貿易商を特定して叩くことが重要であった。
 業界団体 X では、業界団体参加企業の中の有志企業数社で WG を設置するなどして意識
の高い企業間で検討を重ね、信頼関係の中で、個々の WG 参加企業から自主的に自社に
関する税関での差止情報を提出・共有して、高度なデータ分析を行った。
 分析を行うことにより、同団体の取扱商品について、約 40 社の差止処分を受けた業者(悪
質業者)をリスト化することができた。
 この 40 社の悪質業者について、会社の web サイトの内容から、①海外著名ブランドの輸入
販売、②自動車部品輸出、③地方大手貿易商、④明らかな模倣品販売業者、の 4 つに類
型化。その類型を税関での未処分事業者にもあてはめて、「危険事業者」「灰色事業者」に
分類した。未だ差止処分実績が無い事業者であっても、模倣品製造・輸出の可能性のある
約 15 の「危険事業者」、約 40 の「灰色事業者」リストを作成することができた。
 40 社の悪質業者リストを対象としつつ、業界団体参加企業より提出された過去の差止案件
通知書・処罰決定書等と照合することにより、10 社の特定調査対象事業者をリストアップ、
最終的に最も悪質である可能性が高い 3 社を特定できた。

102
模倣品業者を摘発しよう
問題の構造
問題の核心
問題の構造
輸出者ネットワークがなかなか
解明されない。
どの事業者が鍵となっている
のか分からず、“モグラ叩き”の
対策に終始。
?
?
?
上海
差配
?
? ?
インド等へ
中南米へ
中東等へ
問題の核心
模倣品輸出を差配しているブローカーがとらえられない。
 中国で製造された模倣品の新興国等への輸出を根絶するためには、製造・流通・輸出を
差配しているブローカーを叩くことが肝要である。 ブローカーから指示を受けて製造して
いる工場、品物を運搬しているだけの流通事業者を叩いても“モグラ叩き”に留まる。
 しかし、どこが叩くべき対象かを慎重に見極めなければ、ネットワーク全体が警戒し、摘
発・提訴ができなくなってしまう。
 業界団体 X も中国における模倣品の製造と新興国への輸出に悩んでいた。
 上海市場における大量出荷が可能な卸売業者のうち、輸出を行っている可能性のある事
業者もあったものの、疑わしい事業者の中には輸出ライセンスを持つ事業者がおらず、
“叩くべき対象”は、どこかが明確でなかった。
 上海税関を通過する業者は、アモイ(厦門)、シェンチェン(深圳)等の遠方の業者も多数
居たものの、これらの地域には業界団体 X の主要製品の製造工場は少なかったため、遠
方の事業者が関与している可能性は低く、上海市内もしくは近隣地域に集積地・差配者
がいる可能性があった。
 ブローカーとして、疑わしい事業者が多いことから、何らかの分析で対象をしぼりこまない
ことには、より効果的な調査も、その先の摘発もできない状況であった。
103
模倣品業者を摘発しよう
対策事例
Input
①WG参加の各企業
から、税関関連
情報等を収集・
整理・集約する
業界団体
Input
収
集
(有志でWGを組成)
③リストを“差止履歴”と
“事業内容”に基づいて3分類
差止履歴あり
悪質業者
⑤サンプル調査での重
点化のために、3つ
に類型化したリスト
を税関に提供
通関件数・輸出先国・業務内容・
他の税関利用履歴でリスクが高い
危険事業者
悪質業者
全体
分
析
灰色事業者
分析②
(絞り込み)
再犯
悪質業者
調査
対象
税関
②通関事業者のHPか
ら事業内容を調査
分析①
(分類)
特定
⑥調査会社に徹底調査を委
託して、刑事摘発などの
対策を検討。
④メンバー企業等
の差止通知書、
処罰決定書情報
などから、再犯
有無などを確認
し、調査対象を
絞り込む
ア
ク
シ
ョ
ン
対策のポイント
税関データ、過去の差止履歴等を活用し、疑わしい事業者を分類・特定する。
 企業が個々に保有している差止案件の通知書や処罰決定書などを突き合わせ、巧く分析
することで、類型化や特定が可能になることがある。
 模倣品事案に関与している可能性のある事業者のデータに基づく分類で、税関に対して税
関差止の必要性が高い事業者リストを提供できる他、大規模模倣品輸出ネットワークで重
要な役割を果たしている、最も叩くべきブローカーを絞り込むことができる。
~今回のケース~
 業界団体 X では、WG に参加する個々の企業から、自社に関する税関の模倣品関連情報
の自主的な提供・共有を受けるなどして、分析を行った。通関で差止処分を受けた企業約
40 社(悪質業者)をピックアップし、通関件数があまりに多い事業者、ハイリスク国へ輸出し
ている事業者、事業内容から模倣品取り扱いの可能性が感じられる事業者、複数通関を
利用している事業者などの基準で類型化を実施した。
 この類型を基に、まだ差止処分を受けていない事業者であっても、「危険事業者」、「灰色
事業者」を類型化できた。特に注意してサンプル調査を実施してもらうよう、この類型化リス
トを税関に提供した。
 一方で、調査すべき悪質業者については、業界団体参加事業者の過去の“差止案件通知
書”、“処罰決定書”を約 80 件活用し、その情報に基づいて、40 社から 10 社を絞り込み、さ
らに調査期間等の制約を勘案し、3 社を調査対象として抽出できた。
104
模倣品業者を摘発しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
Step2
情報入
手
(Input)
2
Step3
分析
3
4
5
6
7
Step4
アウトプ
ット(分
析結果
の活用)
8
9
ここに注意
本事例の方策の適用可能性を
検討する。
 本事例では、WG の組成や分析枠組みなど
WG を組成してメンバー企業から
過去の税関に お ける差止 通知
書、処罰決定書等を収集する。
差止対象事業者について、Web
サイトの有無・事業内容等につい
て確認する。

収集データを分析し、税関差止
措置対象となった事業者をピック
アップし、リストを作成する。
税関差止になった事業者のリス
トから、特徴を分析し、「悪質事
業者」等に分類する。

差止事業者の特徴分類と、事業
内容等の分類に基づき、差止履
歴の無い事業者であっても、模
倣品輸出の可能性がある事業者
類型を整理し、絞り込む。
収集した過去の情報と併せ、「5」
で「悪質事業者」に分類した事業
者のうち、調査対象事業者を絞
り込む。
模倣品関連事業者の分類及び
特徴について整理し、税関に伝
えて今後の税関差止における協
力依頼を行う。
調査会社に委託して、「8」で絞り
込んだ数社について、刑事摘発
も睨んだ徹底した調査を行う。


の企画運営に業界団体がリーダーシップを
発揮したことや、メンバー企業が税関との信
頼関係を構築し差止実績に蓄積があること
がポイントであるが、そのような前提があて
はまるかを確認する。
メンバー各社に、取組の全体像や目的など
の理解を得たうえで、提出すべき情報につ
いて特定し、提供を依頼する。
差止対象となった事業者の Web サイトで事
業内容や Web サイトの作りをチェックする。
Web サイトが無い、あっても記載内容などが
怪しいなど、ペーパーカンパニーである場合
もある。
膨大なデータがある場合にはここ数年に限
定するなどして、絞り込む。
 差止件数、通関件数、利用税関(複数ある
か)、ハイリスク国への輸出有無、事業内容
(Web サイト等)などの基準に基づいて、分
類を行う。
 「5」で実施した類型に合致する特徴を持つ
事業者をリスト化する。
 調査費用・調査期間等も勘案した上で、いく
つの対象事業者に絞り込むか、どのような
事業者を対象にするかを決める。
 特に模倣品に係る重点差止可能性対象事
業者として、チェックをしていただけるように
依頼する。
 組織的犯罪を行っている可能性もあるた
め、安易に踏み込み過ぎない、自分たちだ
けで調査を行わない。
本事例からの示唆
 税関差止関連の情報は、公開情報から得られる情報、個別企業が保有している行政・刑
事摘発などの過去の模倣品関連情報等と併せて分析することで、模倣品関連事業者の類
型化や、絞り込みにつながることから、有効な活用が可能である。
 業界団体として、共通の目的意識を醸成しておくことなど、日頃からの信頼関係構築が、情
報の共有や分析の前提として重要である。
105
Coffee Break ~模倣品対策事例集コラム~
中小企業の海外侵害対策に対する支援について
(海外侵害対策支援事業)
~『海外で知的財産権の侵害状況を把握し、侵害対策に取り組みたい』という中小企業をサポー
トします~
特許庁では、海外で産業財産権の侵害を受けている中小企業に対して、JETRO
の海外ネットワークを通じて現地侵害調査から行政摘発までの侵害対策を支援し、そ
の費用の一部を補助します。
※本事業は、平成17年度から実施してきた現地侵害調査を支援する事業に平成26年度から支援対象に
警告、行政摘発に関する経費を追加して拡充等したものです。
対象となる方
海外展開を図る我が国の中小企業のうち、海外において自社が取得した産業財産権(特許権、実用
新案権、意匠権、商標権)の侵害を受けている企業
支援内容
海外で自社が取得した産業財産権の侵害を受けている中小企業に対し、(独)日本貿易振興機構
(JETRO)の海外ネットワーク等を通じ、以下の侵害対策費用の一部について補助金を受けるこ
とができます。
●現地侵害調査:模倣品の製造拠点や流通経路の実態把握や訴訟・取締り申請等の権利行使に必
要な証拠を収集する調査を行います。
●警
告:模倣品業者に警告を行います。
●行 政 摘 発:現地の行政機関に取締り申請することにより、模倣品業者の摘発を行います。
申請には証拠が必要になるため、現地侵害調査等が必要になります。
補助対象経費
模倣品の流通経路や製造元等の調査費、警告状の作成費、
行政機関への取締り申請に係る費用
補助率
2/3以内(上限額400万円)
事業イメージ
○海外での模倣品対策に取り組みたい中小企業者をJETROが募集・選定し、支援対象案件を採
択します
○支援対象案件について、年度内に生じた模倣品対策の費用をJETROが助成します。
○支援対象案件について、助成後も、模倣品対策の動向をJETROへ報告する必要があります。
※具体的な募集時期・申請手続等の詳細については、JETRO知的財産課までお問い合わせくだ
さい。
お問い合わせ先
日本貿易振興機構 在外企業支援・知的財産部 知的財産課 電話:03-3582-5198
特許庁 普及支援課 支援企画班 電話:03-3581-1101(2145)
106
Coffee Break ~模倣品対策事例集コラム~
国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)の概要
~業種横断的な産官連携の場で模倣品等対策のバージョンアップを!~
国際知的財産保護フォーラムは、2002 年 4 月、模倣品・海賊版等の海外における知的財産権侵害
問題の解決に意欲を有する企業・団体が業種横断的に集まり、産業界の意見を集約するとともに、我が
国政府との連携を強化しつつ、国内外の政府機関等に対し、一致協力して行動し知的財産保護の促進に
資することを目的として、設立されました。
IIPPF は、メンバー全体の意思決定機関として、総会を設置するとともに、議論を行う場として、企
画委員会を置いています。
また、IIPPF では、4 つのプロジェクトチームにおいて具体的な活動を行っています。第1プロジェ
クトでは、官民合同訪中代表団(ミッション)の派遣を行うとともに、先進諸国の関連団体との連携を
進める取組みを行っています。第2プロジェクトでは、中東WG、アセアンWG、インドWG、ロシア
CIS東欧WGが設置され、中国以外の国・地域に関する知的財産保護の問題点の分析およびメンバー
ニーズを踏まえ、今後の対応を検討し、関係国への改善要請等を行います。第3プロジェクトでは、プ
ロジェクトメンバーの関心・ニーズにきめ細かく対応したテーマ設定のもと、クローズドで、また、ギ
ブアンドテイクを原則として情報交換会を継続的に実施しています。第4プロジェクトでは国内外で行
われるアジア諸国の関係機関および民間知財人材の育成を目的とした研修への参画や、一般国民に対す
る知的財産の保護・尊重の重要性に関する認識を高める普及啓発活動を行っています。また、4つのプ
ロジェクトの他にも、インターネット上の模倣品対策を目的とした「インターネットワーキング」があ
ります。
【IIPPF 組織図】
2014 年1月現在
○総メンバー数:
261(89 団体・172 企業)
○事務局:
独立行政法人日本貿易振興機構
知的財産課内
国際知的財産保護フォーラム事務局
【IIPPF10 周年記念誌~10 年の歩み~】
○IIPPFの組織概要やその性格、設立以降10年間における
取組の変遷について紹介。
○模倣品・海賊版対策の上で課題となる諸点に関するIIPPFの
取組とその成果として各国における法制度整備の状況などをわかりやすく記載しています。
http://www.jetro.go.jp/theme/ip/iippf/outline/pdf/iippf_10th_anniversary.pdf
(資料・情報提供:国際知的財産保護フォーラム事務局(JETRO))
107
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
No.36:顧客と“縦の連携”をして情報共有・共同摘発を行うことで、効
果的・効率的な模倣品対策と顧客との関係強化を同時に実現。
事例のプロファイル
権利種別
商標権・意匠権、著作権
対象国・地域
中国等
対策シーン
③行政摘発、⑨共同実施
対策コスト
※継続的な取組で算定困難
(効果を感じてもらい、同社への信頼度を高めてもらうために、共同摘
発のための費用を現時点では同社が負担している)
所要期間
※継続的な取組
対策の目標
情報共有・共同摘発を行うことで効果的・効率的な対策を実施(1 社でで
きる限界を超えた対策の実施)
対策効果
 効果的摘発の実現(例:4 工場で 87,000 点の同社模倣品の押収)
業種
部品製造業
経緯まとめ
 X 社では衣料品等の一部となる部品を主に製造しており、同社の製品の模倣品は 1980 年
代に見つかるなど模倣品対策には長い経験を有している。
 X 社単独で模倣品対策を展開していたが、同社の模倣品を製造している工場で、顧客の商
標が入った製品の模倣品が製造されていることもわかり、自社だけでなく顧客も同じ問題
で苦しんでいるなら、顧客と連携して模倣品対策ができないかと検討を始めた。
 X 社では、自社の製品には自社の商標だけでなく、顧客の商標を入れることがあるが、
2012 年に自社と顧客の両者の商標が付いた模倣品発見されたことから、顧客に共同摘発
を提案・実現したことが“縦連携”の初めてのケースとなった。2013 年にも特定の地域で顧
客と共同して集中摘発を行い、大量の模倣品を押収する成果が上げられた。
 顧客も摘発を歓迎してくれることから、他の大手顧客にも共同摘発を持ちかけるなどして取
組を拡げている。発見前などの早い段階から共同摘発をもちかけているわけではなく、ま
ずは X 社単独で調査会社に依頼して摘発対象を見つけてから調査会社への摘発委任状を
もらって共同の取組みに入っているが、将来的には調査段階から委任を受けられるとやり
やすくなる可能性を感じている。
 発展的に、情報交換会として 3 カ月に一度、30 社程度の顧客を集めて情報共有と関係強
化を実施している。模倣品対策を社内外に PR し、営業につなげることができる有効な場と
なっている。
108
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
問題の構造
X社製品の模倣品
製造工場
川上
製
品
の
サ
プ
ラ
イ
チ
ェ
ー
ン
X社にとっての問題
X社
X社
真正品
X社
模倣品
自社製品の模倣品製
造・流通によるブランド
価値の毀損
X社
模倣品
顧客製品の
模倣品
製造工場
顧客
顧客
真正品
顧客
真正品
顧客
模倣品
真正品の売上増大が毀
損されている(顧客候補
の企業が模倣品を購入
することによる問題)
※中国では、部品ごとに生産
しており、さらには、組み立
て工場が存在している
川下
完全
真正品
一部
模倣品
消費者
課題:顧客の完成品にも模倣部品が使われて
いるが、自社では顧客にとっても模倣品かどう
か不明で対応し辛い
完全
模倣品
消費者・顧客の毀損(模
倣品購入により、粗悪な
品質のものを入手してし
まうことによる問題)
問題の核心
一社単独での摘発には限界。顧客の模倣品が同時に発見されることも。
 模倣品は大量に製造・流通しており、一社単独でのモニタリング、摘発等の実施には限界
がある。X 社でも 30 年来、模倣品対策を実施しており、経験も実績も豊富であるが、模倣
品はきりがなく製造・流通しており、一社での対応には限界があることも感じていた。
 模倣品は自社製品だけが発見されるわけではなく、顧客の模倣品が同時に発見されるこ
ともある。特に、X 社は部品製造業なので、同社の模倣品が付けられた完成品が顧客の
模倣品であることも多く、自社の摘発でそういった完成品がみつかることも多い。
 部品製造の場合は、模倣部品が顧客の模倣完成品の一部として発見されることもあり、
単純に摘発してもらって押収されればよい、というものではない(顧客の正規の下請け工
場が模倣品を製造しているケースもあるため)これらの問題の解決方策として、顧客との
情報共有、又は顧客との共同摘発を実施することにした。
109
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
対策事例
企業X
主
要
顧
客
と
の
共
同
摘
発
企業X
模倣品の
発見
X社
模倣品
模倣品発
見の報告
共同摘発
の持ちかけ
協力
摘発委任
状など
企業X
場合によっては、
民事訴訟・刑事訴
訟へ
共同摘発
顧客
模倣品
顧客
有
望
顧
客
と
の
情
報
交
換
会
必要に応じた個別の
相談対応なども実施
30社程度を集めての、数か月に一度の情報交換会
•外部講師等を招へいしての模倣品対策の講演
•各社の取り組みなどの事例紹介
将来の共同摘発等に向けた関係強化、
認識合わせ
顧客へのメリット付与による一層の
顧客囲い込み(ロイヤリティ向上)
対策のポイント
顧客と共同摘発で、有効かつ顧客との関係も高まる対策が実施できる。
 顧客と共同摘発を行うことで、顧客製品・自社製品が同時に発見されたような場合に、効果
的な摘発を実施することができる。
 顧客から当初から摘発委任状を得ておくのではなく、調査会社を活用して模倣品が大量に
発見された場合に、そのことを具体的に説明した上で、顧客から摘発委任状を得る。
 X 社が費用、摘発費用を負担することで、金銭的に顧客に貢献して関係強化ができるほ
か、模倣品対策の経験が少ない顧客企業にノウハウ面でも貢献することができる。
~今回のケース~
 X 社では顧客のロゴが載った同社の部品の模倣品が発見されたことから、模倣部品の製
造業者への共同摘発を持ちかけたところ、顧客の賛同を得ることに成功した。これを受け
て、ある地域で集中的に模倣品調査・摘発を実施して、顧客の模倣品も発見されたので大
量摘発を実施した。
 なお、この取組みは主要な顧客との連携で実施したものであり、顧客にも権利者とライセン
シーがいるものの、権利者と連携する方がやりやすいということである。
 この成功を受け、2013 年には他の大手顧客 3 社にも連携を持ちかけたが、当初から連携
するというよりも、X 社負担で調査会社に調査を依頼し、模倣品が発見された場合に摘発
することとした。顧客への付加価値になると考えたためである。
 さらに、新興・小規模な顧客に対しても、連携を進めるため、3 カ月に 1 度程度の情報交換
会を開催し、模倣品対策の方策などについて情報提供を行っている。
110
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
準備
1
2
Step2
調査
過去の調査・摘発事例等から、
自社模倣品だけでなく、顧客模
倣品が発見された事例の内容・
件数などを確認する。
顧客との模倣品対策における連
携のメリット/デメリット、顧客の期
待等を確認する。
3
顧客との連携のあり方を決める
(共同摘発か、情報共有か)
4
特に顧客との連携を意識し、顧
客の模倣品(もしくは自社模倣品
が含まれる顧客の正規品)など
を調査する。
模倣品が発見された場合は顧客
に連絡・相談を行う。
(ケースによっては、「4」が先に
来る場合もある)
5
Step4
摘発等
ここに注意
6
・
・
・
顧客との連携を意識して摘発等
適切な対応を行う。
警告を行って民事的解決を図る
顧客の了解を経て、行政摘発を
実施してもらう。
民事訴訟を行う(製造・流通業者
が悪質な場合)。
 単独実施、業界内での実施、顧客との共同
実施などの他の選択肢との比較の観点で、
縦連携の可能性を検討する。
 具体的に顧客を想起し、顧客にとってのメリ
ットを明確にする。
 自社にとっての縦連携の目的を明確にする
(コスト削減、ノウハウ吸収、摘発効果の強
化、顧客からの信頼度の向上、顧客囲い込
みなど)
 自社のノウハウ、過去の実績、負担可能な
コストやリソースなどを勘案する
 顧客の期待や模倣品対策への関心も勘案
する。
 調査は単独実施するのか、顧客と連携する
のかは決めておく。
 先走らず、顧客の意向を確認するなど調整
を十分に行う。
 特に、顧客の品に自社模倣部品が使われ
ている場合、全体としての不都合を懸念して
摘発してほしいのか、否かなどを確認する。
 顧客の正規の下請け先ではないか、などの
配慮を行う。
 顧客のレピュテーションリスクや、顧客企業
が迷惑を被るリスクなどには十分配慮する。
本事例からの示唆
 模倣品対策を複数社で行う場合、同一業界で連携を行うことが多いが(横の連携)、顧客と
のサプライチェーンの中での連携(上流または下流との“縦の連携”)も、有効に機能するこ
とがある。本事例では、サプライチェーンの川上の事業者の例であったが、自分が川下側
である場合は、「顧客」を「取引先」に置き換えることで、本事例の趣旨が援用可能である。
 横の連携だと、コンペティタであるため利害が一致しなかったり、情報共有が難しかったり
するケースもあるが、縦の連携であれば、利害が一致しやすい。また、営業の一環として、
模倣品対策の費用負担を行う、自社ノウハウを提供するなどで、顧客の信頼度向上に寄
与し、“コスト部門”とみられがちな模倣品対策が“プロフィット部門”に貢献する可能性を持
つ。
 顧客企業の模倣品対策に係る姿勢や経験から、共同摘発まで踏み込む場合と、入り口と
しての勉強会で啓発を行う場合などに分けることが重要。
 縦の連携を、著名な外国企業等と実施することで、外国企業の模倣品対策ノウハウを吸収
できたり、より円滑に対策を進められたりする可能性もある。
111
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
テーマ事例:
模倣品関連情報の企業間共有や集約

複数の企業での模倣品関連情報の共有や、権利者団体への情報の集中・共有によっ
て、効率的・効果的な対策の実施を円滑化する。
事例 No.37:
業界横断的に模倣品対策関連情報を共有することを企図してポータルサイトを立ち上げ。
対外的情報発信と企業間情報蓄積の実現を目指す。
【模倣品対策共通データベース研究会】
(専門性が高い問題であるがゆえの情報共有の難しさ)
 研究会では、模倣品対策に係る問題の 1 つとして、担当者が交代する際に、情報が引き継
がれないことを問題視していた。業界団体や企業間で対策の議論を深めようとしても、担当
者が交代すると、一からやり直しということも少なくなかった。
 反面、模倣品対策に関与する者は専門知識・スキルが必要なので、特定の個人が長期にわ
たり模倣品対策を担当することがあり、一部の人への知識の集中も問題であった。このよう
な人は企業・業界横断的な検討の場でも中心となることが少なくなく、個別企業の事情でこの
ような人が辞めると、業界団体等での活動そのものも止まってしまうことも問題であった。
 これらの問題を解決するために、模倣品対策情報を共有するためのポータルサイトを立
ち上げ、企業の参加を呼びかけた。2013 年末時点で 7 社が同サイトを利用している。
(ポータルサイトの立ち上げと共有情報項目)
 サイトの主要な目的は、
「対外的(顧客向け)情報発信」と、
「自社内・参加企業間の情
報蓄積・共有」である。
 同サイトでは、
「模倣品による事故事例」、
「模倣品と真正品の見分け方(真贋判定)の
情報」
、
「摘発事例」
、
「登録商標」、
「純正品の販売店情報」などを掲載している。同サイ
トのインターフェースは、どの参加企業も同じように見えるようにしているが、対外情
報発信する内容について、
必ず共通項目で対外情報発信してほしいということはお願い
していない。各社独自に必要に応じて発信できるようにしている。
 参加企業間の情報蓄積・共有方法としては、例えば執行機関等に模倣品対策に関する情
報の相談に行った際の見解に係るメモを会員限定サイト(ID とパスワードで会員のみ
がログインして閲覧できる)で共有している。このような情報も、知っていると、後々
の議論がまたゼロからスタートする必要がないからである。
 この会員専用サイトの機能を利用して、
企業内での模倣品対策に特化した情報の共有の
ために活用している企業もある。通常の企業内イントラネットでは様々な情報が蓄積さ
れて煩雑なことがあるため、
模倣品情報専門サイトという位置付けで活用しやすいよう
である。
 また、同サイトの会員になっている、大手インターネット販売のポータルサイトでは、
試みとして、模倣品販売を行っていたことから同ポータルサイトから退店した数百店
舗の情報、税関で差止対象となった数十社の情報も掲載するなど、権利者以外が模倣
112
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう





品対策に有益な情報を提供する場としても活用されつつある。
将来的には、このサイトの情報を真贋鑑定に活用することも想定している。担当者が
不在、というような場合でも、社内の模倣品にそれほど詳しくない普通の社員等、ひ
いては他の企業の担当者でも真贋判定のポイント(箱のデザインなど)や実際の真正
品・模倣品が迅速にできるようになることを目指している。
また、税関に真贋判定情報を提供できるサイトとすることも指向しており、
“真贋判定
で情報が必要な時は、まずこのサイトを見てください”
、とお願いできるようにするこ
とを目指して情報の充実を図っている。
さらに、より高度な活用方法としては、「模倣品に関して摘発された事業者」や、「過
去の模倣品関連の訴訟情報」、「再犯企業のブラックリスト」などを作成して、ポータ
ルサイトに掲載したいと考えているが、
(企業経営者等の)個人情報をどこまで掲載し
て良いのか、何をどこまでであればリストに掲載できるのか、などで明確な方針がな
いため、将来の努力目標となっている。
「模倣品事業者の摘発事例」についてもポータルサイトで掲載が進むとよい。もちろ
ん、機密情報が含まれたり、個社のノウハウが含まれたりする場合の掲載方法につい
ては工夫が必要であるが、模倣品対策の高度化が期待できる。
なお、サイトの利用に際しては会員が運営費を負担している。
図表 対外的情報提供を目的とする、個社のページのイメージ
英語のみならず、中国語・
アラビア語にも対応
企業名
事故事例の紹介
模倣品の見分
け方に関する情
報提供
摘発事例の紹介
純正品が購入できる
店舗等の情報提供
模倣品を使うことの危険
性についてアニメ動画で、
どこの国の人が見ても、わ
かりやすく示す。
113
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
テーマ事例:
模倣品関連情報の企業間共有や集約

複数の企業での模倣品関連情報の共有や、権利者団体への情報の集中・共有によっ
て、効率的・効果的な対策の実施を円滑化する。
事例 No.38:
個社の情報を権利者団体に集約することで、模倣品を発見した際の迅速な対応を可能にす
る。
【海外著名ファッションブランド権利者団体 X】
(アパレルブランドの抱える模倣品問題)
 ビジネス上、特にブランドイメージが重要なファッションブランドにとって、模倣品被
害の問題は大きいものである。また模倣品問題は、著名ブランドで必ず発生すること
であり、業界全体としての問題として認識されている。
 模倣品被害が発覚する主なルートとしては、①インターネットのショッピングサイト
(オークション、ショッピング・モール等)で模倣品を発見する、②警察・税関から
模倣品の疑いがあると権利者に問い合わせがある、もしくは通知が届く、③消費者や
流通業者からの情報提供に基づく調査で確認される、等が挙げられる。
(権利者団体に真贋鑑定に関する情報を提供し、団体が鑑定を代行する)
 一部の大企業を除くと、ファッションブランドでは知的財産保護のための専任のスタッフを置
いていない場合が多い。また、対応に際し、本国の専門スタッフとやり取りが発生するとタイ
ムロスが生じてしまう。
 この悩みを解消するため、団体 X では希望する会員ブランドより授権を受け、弁護士などが
行うものを除いて、本来ブランドホルダーの知財専門スタッフが行う業務(例:真贋鑑定)を代
行している。会員規約の中で団体 X は守秘義務があることを示した上で、各ブランドは鑑定
に必要な権利関係や真贋判定ポイントに関する情報を予め団体 X に提供している。
 例えば自社で税関対応に逐一対応することが困難なブランドでは、税関からの対応依頼に
対して団体 X に依頼し、税関の要請に対処することができるようになっている。(図1)
 ポイントは、この情報集約は、あくまでも団体 X と各ブランドとの間での個別の情報共有であ
り、会員ブランド間では一切情報共有されていない点にある。
 円滑なエンフォースメントのためとはいえ、競合である他社に自社の情報が流れることに抵
抗感を持つ企業も少なくない。ところが、この団体 X は各社からの出向者ではない専任のス
タッフが業務に従事する独立組織であるため、競合他社などに情報が流れる心配なく、情報
を提供できるという特徴がある。
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事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
(ネット上での模倣品出品の削除申請を団体が確認する)
 インターネットで模倣品を発見した場合、プロバイダ責任制限法に基づいて、プロバイダに発
信情報の停止措置、つまりは情報を削除するよう求めることができる。しかし個社での対応
は、申請書類が膨大であり、当該権利関係に精通しているわけではないプロバイダ側での
審査に時間がかかるため、準備が完了した時点ですでに被害が広まっていたり、販売終了
して実効性がなくなってしまったりするなど、課題も多い。
 しかし、プロバイダの立場からは、申請者が本当に権利を有しているのか、模倣品との判断
に誤りはないのかを慎重に確認する必要があり、課題解決のためとは言え、申請手続きや
審査を簡略化することは難しい。もし間違って、本来削除する必要がない情報まで削除して
しまった場合、出品者側に不利益を生じさせてしまうことになりかねないためである。
 この問題を解決するため、プロバイダ責任制限法に基づく削除申請が円滑に進むよう、
H17.7 に「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」が策定したガイドラインによっ
て、信頼性確認団体を経由した申出は、一定の信頼できる本人性及び模倣品との判断に錯
誤がないかの確認がなされていると捉えられ、プロバイダがこれを根拠として手続きがとれ
るような仕組みが設けられた。団体 X は、商標権に関する信頼性確認団体に認定されてお
り、団体 X を通じて申請することで、プロバイダ側での審査・検討に要する時間が短縮され、
情報が迅速に削除されることになる。(図2)
 権利者であるブランドは、信頼性確認団体である団体 X に権利関係や真贋判定ポイントを予
め情報連携しておくこと、また団体 X を通じて必要書類の一部を事前に提出しておくことで、
削除に向けて迅速に対応することができる。
図1 税関対応の代行イメージ
図2 信頼性確認団体を通じた削除申請
①模倣品の疑いの
ある荷物を発見
①模倣品発見
⑤審査・検討
⑥削除
②-2通知
守秘義務
②-1通知
ファッションブランド
(権利者)
ファッションブランド
(権利者)
税関
(争う場合)
③異議申立
②-3通知
④削除申請
②削除申請
依頼
⑥報告
事前の
情報共有・
⑤意見書
(鑑定書)提出
必要書類の
事前提出
輸入者
④真贋鑑定
実施
業界団体X
業界団体X
③申請内容の確認
115
プロバイダ
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
テーマ事例:
共同摘発により、摘発コスト軽減と業界プレゼンス向上を実現

模倣品の発見から摘発に至るまで、業界団体の有志企業で共同で実施することによ
り、コスト削減につながるなど、単独企業で摘発を実施するよりも高い効果が期待でき
ることがある。
事例 No.39:
業界団体内の有志企業で共同摘発を実施し、コスト削減と業界としての厳格な態度を表明。
【機械器具等製造業界団体 X】
(業界団体内の有志企業で共同摘発を実施し、コスト削減と業界としての厳格な態度の表明を目
指す)
 業界団体 X では以前から業界において模倣品に関する情報共有等を実施していたが、
情報共有の過程で、
“個別企業ごとに調査・摘発をすると、費用が高くつくではないか”
という声が上がるようになり、有志企業で WG を設置して共同摘発を実施することに
なった。
 共同摘発の実施に至る背景としては、①模倣品として発見される部品が共同摘発を行う
各社で共通・類似している部分があったこと、②個別企業で調査・摘発を行った場合に、
他社の同種・類似部品等が見つかるケースが多かったこと(模倣品製造工場で、複数企
業の同種・類似品を製造していたこと)が大きな要因であった。
 共同摘発の実施目的としては、契機としてはコスト削減も大きかったが、現在では、日
本の X 業界団体は模倣品に対しては非常に厳しいスタンスであるということを、模倣
品製造・流通企業に対して厳格に示すことも目的の一つとなりつつある。また、業界団
体として模倣品対策に力を入れていることについて実績があれば、将来的には中国政府
等に対する要望を上げやすくなるのではないかという期待もあるという。
(比較的緩やかなルールの下、各社が自社の目的に合わせて共同摘発を利用)
 業界団体加盟の全企業に共同摘発への参加を求めているわけではなく、参加は任意とし
ている。本調査実施時点(2013 年)では 10 社程度が参加している。
 共同摘発には、特に件数も目標も制限も設けていないが、あまりにも摘発件数が多くな
りすぎると、調査・摘発のための費用が増大しすぎるおそれがあるため、不必要に増え
すぎないように意識している。
 共同摘発に参加している 10 社についても、業界団体としての共同摘発のみを行ってい
る企業もあれば、共同摘発に加えて個社での摘発を行っている企業も存在する。
 ただし、行政摘発だけ何件も行っていても、再犯の抑止効果が弱いため、刑事摘発を中
心に行うこととして、調査会社から上がってくるサイティング・レポート(模倣品発見
情報)についても、熟度の高い案件で、2 週間~1 ヵ月程度で刑事立件できる案件を取
り扱うことを調査会社等にも通告した。
116
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
(費用は押収量で案分、幹事は持ち回りなどの基本的ルールを設定)
 共同摘発を行う際には、共同摘発スキーム参加企業は、自社の模倣品が発見されたら必
ず共同摘発に参加することを約束している。
 摘発等に係る費用は、押収数量に応じて各社で案分することも約束されている。なお、
案件ごとに担当幹事は WG に参加する各社が持ち回りで実施している。自社の模倣品
の押収が予想されない場合でも、案件の幹事(担当)となることもある。
 しかし、共同摘発そのものの手続きや実際については、勉強となるため、幹事になるこ
とにはメリットがあるとの声も聞かれる。
図表 共同摘発のスキームの特徴
行政摘発対象案件は
刑事摘発可能な案
共同摘発の対象外と
件のみに限定
する
業界団体
業界団体のその他企業
共
同
摘
発
ス
キ
ー
ム
企業A
企業B
企業C
企業D
業界団体の中で、共同摘発スキーム
にメリットを感じる企業のみ参加
費用負担は、押収量に応じて実施。
117
個別企業での調査・
摘発活動
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
テーマ事例:
共同摘発により、摘発コスト軽減と業界プレゼンス向上を実現

模倣品の発見から摘発に至るまで、業界団体の有志企業で共同で実施することによ
り、コスト削減につながるなど、単独企業で摘発を実施するよりも高い効果が期待でき
ることがある。
事例 No.40:
欧米企業等との共同摘発に参加することで、摘発コストを下げつつ、欧米企業の模倣品対
策のノウハウを学ぶことができる。【生活用品等製造業 X 社】
(欧米企業の模倣品摘発に“相乗り”して共同摘発することで、コスト削減につなげる)
 X 社では、中国における模倣品対策について、自社単独で模倣品対策を行ってきたが、
ここ数年になって、業界団体としての活動や、他の企業との連携した活動について、積
極的に取り組むようになってきたところである。
 その中で、同業他社と連携して行う、模倣品情報に関する共有や、その延長としての共
同摘発により、模倣品摘発コストの削減と、ノウハウの吸収の両面で効果的であると感
じている。
 特に効果を感じているのは、QBPC(QUALITY BRANDS PROTECTION COMMITTEE)
の一員として、参加している欧米企業等の共同摘発に参加させてもらうことである。
 欧米企業等との共同摘発のメリットは、まず一番に、押収量が非常に多くなることであ
る。企業単体では、押収できても 1 万個程度のところ、押収企業の模倣品調査の際に
は、10 万個の押収が実現できたこともあり、規模が異なり、取締機関に動いてもらっ
たり、刑事摘発まで持ち込めたりするような事例も少なくない。
 欧米企業は、模倣品対策に対して歴史と実績があるので、どのような調査会社を使えば
良いのか、どのようなケースに叩けば良いのかといったことについて、非常に参考にな
ることが多い上、模倣品関連情報の共有もしてもらえることがあり、有効であると感じ
ている。
(欧米企業等との日常的コミュニケーションが重要。模倣品対策に対する意識の高さにも学ぶ)
 共同摘発については、X 社がイニシアティブを発揮しているというよりは、欧米企業が
調査・摘発を実施した際に、X 社の模倣品も見つかることが少なくなく、その度に連絡
してもらって、基本的には共同摘発に参加するようにしている。
 調査・摘発費用については、発見・押収された模倣品の数に応じて、欧米企業等と案分
するようにしている。
 そもそも、欧米企業等から、摘発の情報を受けられることについては、QBPC 等にお
ける活動で、コミュニケーションを積極的にとることで、先方担当者も X 社に連絡し
てきやすくなるメリットが重要である。
 また、X 社の模倣品も発見されて、共同摘発に参加してくれることで、刑事摘発に持っ
ていけることもメリットであると欧米企業から感じてもらっているようである。
 さらに、QBPC に参加している欧米企業は、日本は模倣品対策としてどのようなこと
118
事業者間で情報共有・共同摘発をしてみよう
をしているのかを積極的に知りたい姿勢を見せることもあり、対策について双方プレゼ
ンテーションを行うこともあったようである。
 欧米企業では、
『模倣品対策は最終的には自社の製品の売り上げに強く影響する』とい
う考え方で模倣品対策に積極的であり、日本企業のマインドよりも、明確で強い意識を
以て模倣品対策を行っていることから、
その姿勢や考え方も非常に参考になるというこ
とである。
図表 共同摘発のスキームと、相互のメリット
欧米企業A
欧米企業B
日本企業X社の模倣品
が見つかった場合に
は連絡
共同摘発への参加の
打診
日本企業X
欧米企業C
共同摘発のメリット
摘発コストの削減
精度・信頼度の高い情
報の入手
調査会社、調査方法、
ターゲットの定め方など
の模倣品対策のノウハウ
の吸収
欧米企業D
共同摘発への参加
共同摘発のメリット
摘発コストの削減
摘発規模の大型化の実現
日本企業の模倣品対策ノウハウへの関心
119
戦略的な模倣品対策を実施しよう
No.41:戦略策定から権利取得、民事訴訟まで一貫した対応をとる。
事例のプロファイル
権利種別
商標権、意匠権、著作権、特許権
対象国・地域
対策コスト
中国
①権利取得・ブランディング、③契約、⑤行政摘発、⑥民事訴訟、
⑧調査・監視(モニタリング)
コスト特大(民事訴訟だけで 1,000 万円超)
所要期間
※民事訴訟・無効審判 現在も継続中
対策の目標レベル
自社の知財担当者の意識改革(事後的対応から、事前措置からの一
貫した対応へ)
行政摘発でなく民事訴訟を起こすことでのモグラ叩きの断絶(模倣品の
製造停止、金型の差押え)
対策シーン
対策効果
業種
 民事訴訟・無効審判
現在も継続中
玩具等製造業
経緯まとめ

X 社は欧米含む全世界展開を視野に入れた新製品を開発した。特に欧米の取引先は提携
交渉の段階で模倣品の流通を懸念してくるため、逆に模倣品対策が万全なことは商品の
売りになると考え、この新製品について、これまでになく、エンフォースメントを考慮した権利
の確保など事前対策から計画的に模倣品対策を行うことにした。

X 社では、ハウスマークの商標権はすでに権利取得しているが、新商品対策としては、これ
に加えて主要国で商品名の商標権、商品外観の意匠権および特許権の出願・登録を行う
とともに、著作権登録も行った。玩具は意匠のパターンが多く、すべてのパターンでの意匠
権登録を目指すと、費用も手間もかかりすぎる。そこで著作権の登録制度がある国では著
作権の登録を行うという方針に則った。

また、中国をはじめとする主要な販売地域では税関登録も行い、もし模倣品が製造・流通
されるにいたった場合は水際で迅速に対応できるようにした。

さらにインターネット対策も事前に検討しておいた。調査会社にモニタリングを依頼する際、
X 社の全製品を対象に調べてもらうのはコストがかかりすぎるので、最も注力しているこの
新製品に絞ることにした。また、中国の EC サイト(アリババ、タオバオ)に強いことは調査会
社を選ぶ上で重要な要素であった。

この新製品はまもなく中国で模倣品が発見された。模倣品は全く異なる商標を用いている
が外観がそっくりで、意匠権侵害と考えられるものだった。X 社はこれまで商標権を侵害す
る模倣品に対しての行政摘発しか実施してこなかったが、行政摘発ではモグラ叩きにすぎ
ず、根本解決にはなっていなかったこと、そして今回は意匠権侵害であったことから、従来
と方針を変える必要があると判断し、模倣品製造業者に対して、民事訴訟を起こすことにし
た。

また、X 社は新製品を意匠登録していたが、模倣品製造業者の冒認意匠が自社より後に
登録されていることも発覚したため、無効審判も起こすことにした。
120
戦略的な模倣品対策を実施しよう
問題の構造
模倣品がすでに
問題の核心
出回っている製品なんて
取扱いたくない!!
すでに模倣品が
出回っている地域
の構造
提携したところで、
すぐに海外から模倣品が
たくさん入ってきてしまう!
問題の核心
中国で製造された模倣品は、他国でのビジネス展開も阻害する。

インターネットを通じて、模倣品の製造と流通はグローバル化している。模倣品被害は製造
された国・地域に留まらず、特に中国製の模倣品が中東、南米、アフリカ等で発見されるケ
ースが近年増加しているなど、世界中で自社のビジネスに影響を与える可能性がある。

例えば自社の製品を未販売の地域で新たに販売していこうとするときに、模倣品がすでに
流通していた場合、現地企業との提携交渉に非常に不利になるおそれがある。特に欧米
企業は模倣品が流通していないかを懸念する傾向が非常に強いことから、模倣品対策が
万全であることは大きな売りになる。

模倣品対策は被害が発生してから検討するのでは、円滑で実効的な対応が困難。

玩具は商品サイクルが短いことなどから安価かつスピーディな模倣品対策が求められる。
X 社でもこのような観点から、従来模倣品対策の中心は商標権侵害による行政摘発であっ
たが、モグラ叩きに過ぎないとの課題意識があった。
121
戦略的な模倣品対策を実施しよう
対策事例
事
権利取得
ROBOT
税関対策
商標権
意匠権
著作権
すべてのパターンで意匠権を取るには
コストがかかりすぎるので著作権登録も行った。
税関登録を行う。
侵害発見
民事訴訟
(係争中)
インターネット対策
①モニタリング:調査会社に依頼。
②侵害品リストの作成:調査会社が作成。
③削除依頼:プロバイダに侵害品リストを提出。
事前対策
意匠権侵害として、
行為差止めを求めた!
 今後製造できないように、金型の
差押えを狙う。
(※実際には金型は発見できず。)
 損害賠償が決まったら、確実に
実施できるように口座凍結も
合わせて実施。
冒認登録
無効審判
先願で登録できていたが、
模倣品も意匠登録していた。
無効にするために審判を起こした。
対策のポイント
事前対策・事後対応をトータルで視野に入れた一貫性ある総合プランの策定。

世界展開を考える製品は早い段階から海外出願を行い、対応の根拠となる権利を効果的
に取得しておくなど、権利取得から権利行使まで一貫性のある対策とするのが肝要。

権利侵害が起きる前の事前対策として、税関登録やインターネットモニタリング等がある。

権利侵害が起きてから対応策を検討するのではなく、権利侵害が起きたときにすぐに対応
できるよう、製品開発段階から権利保護のためのプランを策定するのも一案。
~今回のケース~

この製品は欧米市場も狙って開発された。そのため海外事業部と協議し、売上予測や販売
地域、製品ライフサイクル等を考慮しながら、海外でも意匠権出願や著作権登録を行った。

特に欧米企業は模倣品が出回っている製品を嫌うので、中国で模倣品が製造・販売されて
いると契約を躊躇され、売上に大ダメージ。税関登録はもちろん、アリババやタオバオをモ
ニタリングし、模倣品が掲載されている場合は削除申請を繰り返し行った。

悪質なものは民事訴訟まで提起した。模倣行為の元を絶つことが狙い。刑事手続きも選択
肢として考えられたが、時間的・経済的コストの点から民事訴訟を選択した。
122
戦略的な模倣品対策を実施しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
商品開
発
Step2
方針決
め
1
2
3
Step3
権利取
得
4
ここに注意
商品開発の段階から、知財の視
点から模倣されにくい方法を提
案する。
商品の展開方針に合わせて、知
財の権利取得方針も決める。
 開発段階から知財の視点を入れることがで
当該商品の模倣品対策総合プラ
ンを作成する。
権利を取得する。







Step4
事前対
策
5
税関登録を行う。

6
インターネット上のモニタリングを
実施する。


Step5
事後対
策
7
侵害が発生したら、方針に則り
対処を行う。


8
冒認出願が判明した場合、無効
審判で権利の無効化を行う。

きると良い。 (商品デザイン、パッケージ
等)
どの権利をどの国で取得するのか決める。
開発段階から知財担当が参加して情報を入
手することで、早い時期から有効な権利の
取得に向けて動くことができる。
事前、事後に分けて何をするのか明確に決
めておく。
代理人を使うかどうかでコストが大きく変わ
る。また現地代理人か日本国内の代理人
か、翻訳を必要とするかなどの条件も大き
い要素。
商標のマドリッド・プロトコル(国際商標出
願)や、特許の PCT(特許協力条約)による
国際出願の利用も検討する。
マドリッド・プロトコルや PCT を利用すると、
手続きの簡素化、経費削減等のメリットがあ
る。利用すべきかは代理人等に相談する。
著作権の活用も検討する。
ブラックリスト・ホワイトリストの提出をしてい
る企業もある。
モニタリングは自社で行う場合と調査会社
に依頼する場合がある。
調査会社はどのメニュー(モニタリング、拠
点調査、交渉、等)に強いか、どのサイトに
強いか、どの地域に強いかといった違いが
あるので総合プランに沿って、会社を選ぶと
良い。
行政摘発、民事訴訟、刑事訴訟のどれにす
るのかは方針次第。
当該事案の被害規模、現地での自社のビジ
ネス規模、対応にかかるコストなどを総合的
に勘案して対応を決める。
冒認出願のモニタリングを実施する場合も
ある。
本事例からの示唆

本事例は模倣品対策を、製品開発段階の予防的なものから事後の摘発やモニタリングま
でを網羅したものである。実際には活用する知財権利の種類や範囲、権利行使手法につ
いては、状況に応じたものを取捨選択して実施することになると思われる。

商品開発段階など早い段階からエンフォースメントの実効性を意識し、権利取得、事前対
策で模倣品が出てくることを最小限に抑え、さらに出てきてしまった場合は民事訴訟も辞さ
ないという覚悟で臨むのが本事例である。

商品そのものに模倣されにくい工夫をすることも一案である。侵害にどう対応するかに目
が行きがちであるが、まず模倣されないにはどうしたらいいかを考えることは重要な視点。
123
戦略的な模倣品対策を実施しよう
No.42:権利取得に関する協議を行う社内体制を構築する。
事例のプロファイル
権利種別
商標権
対象国・地域
全世界
対策シーン
①権利取得・ブランディング
対策コスト
コスト小(100 万円未満)
所要期間
※継続的な取組み
対策の目標レベル
開発段階から知的財産権の視点を入れる
効果的な権利取得を行う
対策効果
 事業部と知財部の円滑なコミュニケーション
 事業展開国・地域のランク付けとランクごとの取得範囲の整備による
業種
権利取得の体系化
精密機器製造業
経緯まとめ

X 社では、知財部門は事業部門からの相談を受けてから対応を協議するという受け身の姿
勢であった。

しかし、経営層が変わり、従来の「技術志向」から「技術+ブランド志向」へと社内に変化が
生じた。ブランドを守るという意識が強くなったことで、知財部門が動きやすい環境が生ま
れた。

考えの変化に伴い、問題が起きてから対処するのではなく、全体を俯瞰した知財戦略を予
め立てておく必要が認知されるようになった。

そこで、知財部門と事業部門で 2 週間に 1 回程度の頻度で協議を重ね、事業を展開する
国・地域を A から D にランク付けした。そして、このランク毎に基準を設け、商標権取得範囲
を定めることにした。

その後も、事業環境の変化への対応や情報共有等が必要なので、戦略策定後も引き続き
知財部門と事業部門が定期的に協議する体制を整えた。頻度は少し落として、数ヶ月から
半年に 1 回程度とし、ランク付けを見直している。実際に、ランクの見直しにより、出願を増
やした国もある。

また、新技術の開発時には、開発段階から知財部門の担当者が開発チームに入り、知財
で新技術を保護するための策を練るなど、知財部門と事業部門が組織の壁なくコミュニケ
ーションをとれるようになった。
124
戦略的な模倣品対策を実施しよう
問題の構造
こういう事業展開を考えているから、
必要な権利はこのあたりかな・・・。
事業部A
権利取得の
依頼
事業部B
各地で製品アの
商品ブランドが
使われている!
事業部C
権利取得の
依頼
商標
中国で見た目が
製品ウにそっくりな商品が
見つかった!
事業部A
事業部B
事業部C
A分野で出した
製品ア
B分野で発売した
製品イ
C分野で発売した
製品ウ
ハウス
マーク
全販売地域で取得
一部地域で取得
中国で未取得
全販売地域で取得
各商品
ブランド
未取得
全販売地域で取得
全販売地域で取得
未取得
全販売地域で取得
未取得
権利取得の
依頼
しかし・・・。
中国でハウスマークの
付いた模倣品が!
意匠
各権利の
取得
事業戦略に基づく十分な協議ができずに権利を取得した結果、
事業戦略と取得した権利がフィットしていないことも。
知財部
知財部
• 事業部との協議が不十分だったため、取得権利・範囲に認識
のズレが生じてしまった。
• 全体を俯瞰する知財戦略がないので、問題が発生して初めて
権利の穴が発覚することになってしまった。
• 問題発生後に未取得の権利を争うのは難しく、負担が大きい。
問題の核心
都度対応しているだけでは根本解決にならない。

模倣品対応は、市場で模倣品が発生した後に知的戦略部門への対応依頼として挙がって
くることが多い。

知的財産部門が事業部門からの要請に応じて後追い的に対応を検討すると、連携がとれ
ておらず、非効率な対応になることもある。また、知財部門が権利取得計画を立てる際に、
事業部門の商品開発、商品化スケジュールや事業展開地域、関連する商品分野などの事
業戦略を理解していなければ、権利取得に穴が生じ、せっかく費用を掛けて権利を取得し
ても、それを生かしきることができない。

全社を挙げてブランディングを考えるという社内的な雰囲気がなく、日頃から知財部門と事
業部門のコミュニケーションがとれていないため、知財戦略を一緒に策定できていないこと
が問題の根本にある。

そもそも開発段階から知財保護の観点を盛り込むことができれば、最初から生じない問題
もある。
125
戦略的な模倣品対策を実施しよう
対策事例
 商品開発計画
 商品販売計画
 関連する商品・サービスの情報
 各地域の売上高
 商品の展開地域計画
・
・
・
 商標権制度
 商標権制度の運用状況
 商標出願状況
 模倣品被害状況
・
・
・
知財部門
事業部門
知財部マネージャー
事業部マネージャー
数ヶ月ごとに事業戦略について定期協議し、知財戦略を策定する
※ 検討事項 がある場合は頻度を密にして集中協議
権利取得基準の策定
• 地域をAランクからDランクまで分類して、ランクごとに権利取得範囲を定めた。
• ランク分けの基準と各国の分類を知財部門と事業部門で協議した。
新技術を導入した商品の開発
• 新技術の開発段階から協議し、特許で押さえるべきか意匠で押さえるべきか
検討した。
• 設計段階から特許・意匠を意識したことで、他社に真似されない技術となり、
他社と差別化することができた。
対策のポイント
知財部門と事業部門の定期的な協議で、実用的な戦略を予め策定。

問題が起こるごとに対応を協議するのではなく、知財部門と事業部門で予め知財戦略を策
定しておき、戦略に従って権利取得~権利行使の一連の知財活動を行うことが重要であ
る。予め両部門の考えを共有することで、権利取得に穴があり対策を講じられないといった
問題を未然に防ぐこともできる。

事業環境は変化していくので、有意義な戦略であり続けるためには、一度戦略を策定した
らそれで終わりではなく、定期的に戦略を見直していく必要がある。また、検討事項が生じ
たら頻度を密にして短期間に集中協議することも必要である。

両部門が常にコミュニケーションを取れる状況に社内体制を整備しておくことが重要。
~今回のケース~

X 社では事業展開する各国・地域をランク付けし、ランクごとに商標権の取得方針を定める
ことにした。知財部門と事業部門が 2 週間に 1 回集まって協議し、それぞれの持つ知見を
生かして権利取得基準を策定した。また、海外の現地スタッフの意見も収集して戦略に反
映させている。

戦略を策定した後は、定期的な打ち合わせの場を設けて、見直しを行うことにした。事業に
よって異なるが、市場特性、優先度等に鑑みて、多いところでは 2-3 ヶ月に 1 回、少ないと
ころでも半年に 1 回は定期的に基準を見直している。継続的に協議することで、事業部の
戦略と知財部の戦略にズレが生じないようにしている。

実践編
新技術の開発時には、開発段階から知財部門の意匠担当が開発チームに入り、知財で新
技術を保護するための策を練った。特許や意匠の取得は他社製品との差別化にもつなが
るため、今では事業部でも知財の重要性を認識するようになった。
126
戦略的な模倣品対策を実施しよう
対策の手順
STEP
Step1
確認
ここに注意
現在の知財関連で問題が起きた
ときの対応フローを確認する。
 現状の体制が後追い的対応なのか、組織
2
現在の知財戦略の在り方を確認
する。

3
戦略策定会議の参加者を選定す
る。
日程調整し、関係者を招集する。
1
Step2
戦略策
定
4
Step3
見直し
6
5
7



内容を検討・協議し、確定した内
容を全社に周知する。
戦略を定期的に見直すための協
議の場を設定する。

継続的に戦略の見直しを行う。



的連携のもとに戦略的に行われているのか
を確認する。
そもそも知財部門に戦略を立てるという発
想が必要。現状はどうなっているか確認。
他部門とどのように連携しているかを確認。
主になるのは、知財部門、事業部門、経営
陣等。
各製品や地域などセクションごとの関係者
で協議することも必要。
協議の結果に応じ、出願、登録、モニタリン
グ等を実行する。
定期開催など体制として構築してしまうと、
担当者に依存しない継続的な取り組みにな
るが、形式的な場になりすぎないよう工夫が
必要。
事業環境の変化や現場からの意見を吸い
上げて、柔軟に見直すことが重要。
ひとつひとつのセクションに固執せず、全体
から組み立てる意識が必要。
本事例からの示唆

重要なのは、事業部門との関係が希薄になりがちな知財部門が、専門的な視点を持って、
上流工程から積極的に参加することである。事業部門と連携し、開発や販売計画に関わっ
ていくことで、問題が起こってから対応するのではなく、問題が起こらないような対策、後手
に回らない対策が可能となる。

一度策定したからといって、その戦略は普遍的なものではない。作ったことで終わらず、X
社のようにマネージャーレベルで継続的に協議する場を設け、情報交換を行って、適宜修
正を加えていくことで、実際に使うことのできる実用的な戦略を作ることができる。

社員の知財意識を高めるには、経営層がその重要性を理解し、全社として知財保護を掲
げることで知財部門がリーダーシップを発揮して動きやすくすることと、社員の教育が重要
である。社員教育として知財部門が講師を務めて研修を行っている企業もある。
127
戦略的な模倣品対策を実施しよう
No.43:知的財産の保護とライセンスの組合せ活用に関する戦略をも
とに対策実施。
事例のプロファイル
権利種別
特許権、意匠権、商標権
対象国・地域
中国
対策シーン
①権利取得、③契約、⑥民事訴訟
対策コスト
コスト特大(1,000 万円以上)
所要期間
約3年
対策の目標
商標権・意匠権侵害の停止
 登場各社に対する、X 社からみた効果は以下の通り。
A 社:模倣品製造停止
B 社:模倣品製造停止、損害賠償 約 1,500 万円
C 社:模倣品製造停止、損害賠償 約 750 万円
D 社:商標権・意匠権侵害停止、損害賠償 約 750 万円
2 種の特許ライセンス料 約 1,000 万円、
輸送機器等製造業
対策効果
業種
経緯まとめ

X 社の製造するオートバイの模倣品が中国で流通した。X 社真正品は 10 年間の累計販売
台数が 24 万台であるにもかかわらず、模倣品は 1 年間の販売台数が 35 万台にも上り、そ
の被害は甚大であった。

この模倣オートバイは、無断でロゴを使用する商標権(ブランド名、商品名)侵害だけでな
く、意匠権(商品デザイン)、特許権(技術)まで侵害していた。

模倣品を製造していたのは 30 社以上。その中の大手 4 社(A 社、B 社、C 社、D 社)に X 社
は警告状を送付し、模倣品の製造を停止するよう通告した。

A 社は警告を受けて、すぐさまオートバイの模倣品を製造するのをやめた。

B 社、C 社は警告を無視して製造を継続したため、X 社は民事訴訟を提起して勝訴。B 社、
C 社は模倣品の製造停止とそれぞれ損害賠償約 1,500 万円、約 750 万円の支払いを命じ
られた。

一方、D 社は X 社の警告に応じて交渉を申し出てきた。X 社はもともとライセンスに関する
方針を定めてあったので、この方針に従って D 社との交渉の戦略を練ることにした。

交渉の結果、特許権に関しては一部ライセンスを認め、D 社が X 社の技術を引き続き使用
できるようにした。その代わり、D 社による商標権と意匠権の侵害は停止させた。また過去
の侵害に対して D 社は損害賠償 750 万円を支払った。

D 社は損害賠償およびライセンス料で合計約 1,750 万円を支払うことになったが、これまで
模倣品に使用していた技術を引き続き使用してデザイン変更したオートバイを生産できるこ
とになった。
128
戦略的な模倣品対策を実施しよう
問題の構造
X社
模倣品製造事業者の中には
それなりの規模と技術力を
持つ企業もある
真正品よりも模倣品の
市場規模の方が大きくなっている
模倣品製造業者 合計30社以上
単にブランド名を無断で
使用するだけでなく、
デザインや技術まで
真似している!
商標無断使用 = 商標権侵害
デザイン模倣 = 意匠権侵害
特許技術無断使用 = 特許権侵害
問題の核心
単なるマークの模倣でなく、デザインや技術までセットでの模倣。

単に粗悪な製品にブランドや製品名のロゴを貼り付けただけの模倣品ではなく、デザイン
を模倣したり、日本企業の特許技術を用いたりする製品が出回るようになっている。

中国で模倣品を製造している事業者の中には、それなりの規模を有していたり、技術力が
高かったりするケースもある。

デザイン模倣では、単純なコピーではなく、部分的に変更して、逃げ道を用意しているよう
な巧妙なデザインにしているケースもある。

また、特許技術を真似できる技術力をもって製造した模倣品はそれほど品質が悪くない場
合もある。

このような場合、知財に対する意識が低い消費者は、「安全性に問題がある」、「製品が格
好良くない」といった模倣品のデメリットを感じにくくなってしまうため、模倣品の市場規模が
真正品の市場規模を上回ってしまうといった事態も起こりうる。
129
戦略的な模倣品対策を実施しよう
対策事例
X社 知財戦略
中国二輪メーカーに対する
ライセンス戦略
~ライセンス戦略のもとにある考え~
 中国で“存在を期待される企業”になりたい
 中国の環境改善やお客さまの安全のために
当社の技術を利用することは、
ポジティブイメージの発信になり、
中国社会・お客さまの共感・支持につながる
X社が保有する知財権
商標権
識別能力に
⇒ライセンスしない
かかわる
意匠権
特許権・実用新案権
⇒ 一部権利 はライセンスを認める
①環境対応技術
②安全対応技術
③振動対応技術
に関連する特許権・実用新案権
識別能力を害する商標権・意匠権侵害は
お客さまが不利益を被るおそれがあるので絶対に許容できないが、
一部特許をライセンスすることは上記の考えに合致するため許容する
明確化された戦略に従った
今回の事例
各社の警告状への対応
交渉結果
商標
A社
意匠
特許
模倣品製造停止
過去の
侵害行為
に対して
警告状送付
損害賠償金の支払い
約750万円
※D社が権利侵害していた2製品に対する合計金額
B社
無視 ⇒民事訴訟
(製造継続) (E社勝訴)
日本企業
X社
C社
D社
今後の
対応
交渉要請
の連絡
X社の持つ
エアクリーナー(A/C)、
レッグシールドの
特許ライセンスを受ける
• D社はデザイン案 • A/C特許:約400万円
• レッグシールド特許:約600
をE社に提出
万円
• E社の指摘事項
を反映させて新 • 上記ライセンス料約1,000
万円を一括で支払う
デザイン決定
X社商標は X社が納得する
使用不可 デザインに変更
対策のポイント
ライセンス戦略から導く “保有権利の保護と活用” 策を模索せよ。

模倣の態様・模倣を行う相手方の規模や技術力により、最適な対応方策は様々であるた
め、それぞれの対応方策まで視野に入れて知財権を確保するための戦略を策定している
ことが大事である。

また、業界内で無視できない規模・技術力を有する相手に対する戦略的な対抗策を考える
必要がある。模倣品製造業者を敵として叩くだけでなく、ライセンシーにするという手が一つ
の対応方策になり得る。

その都度、ライセンシーとするかどうかを決めていくと、会社としての方針が不明瞭になり、
自社利益を逸するようなライセンス契約を結んでしまう可能性もある。明確なライセンス戦
略をまずは策定し、その上で個別案件を判断する必要があるだろう。
~今回のケース~

X 社は 15 年以上前から、一部特許権に関してはライセンスを認めるが、商標権、意匠権に
関してはライセンスしないというライセンス戦略を自社の中で掲げていた。

発見された模倣業者のうち大手のものは、技術力も一定程度あり、警告状に対して交渉に
応じる姿勢を見せた。そのため、X 社は予め掲げていたライセンス戦略に基づき、一部特
許権に関してはライセンス方針に従ってライセンス供与することにした。

その結果、特許権はライセンスしたものの、絶対に譲れない商標権と意匠権を守ることに
は成功した。
130
戦略的な模倣品対策を実施しよう
実践編
対策の手順
STEP
Step1
方針
策定
1
ここに注意
知財権保護に関する方針を策定
する。
 経営方針や、営業部門・開発部門の方針も
考慮して知財戦略を決定する。
 知財の取得方針だけでなく、権利行使やラ
Step2
調査の
準備
2
権利取得状況を確認する。



3
Step3
調査
4
現地の専門家や調査会社等の
ネットワークを確認する。
調査会社を活用して、模倣品の
流通状況を調査する。



Step4
警告
Step5
相手の
出方に
応じた対
応
5
模倣品事業者の数が多い場合、
相手取る 事 業者を 取捨選 択す
る。

6
警告状を送付する。

7
模倣品事業者の反応を見て、そ
の後の対応を決定する。



イセンスに対する考え方も整理しておく必要
がある。
権利行使の前に、各権利(商標権、意匠
権、特許権、等)が各地域でどのような状態
にあるのかを整理しておく必要がある。
現地で権利を取得している場合、取得した
権利は存続期間内か、年金納付や更新手
続きは正しく行われているか、不使用で無
効の反論を受ける可能性はないか、等を確
認する必要がある。
現地で権利を取得していない場合、今後取
得すべきか、取得していないが馳名商標に
あたると言えるか、著作権での取締りが可
能か、等を専門家に相談する必要がある。
心当たりがない場合は、JETRO や所属する
業界団体等に相談する。
調査会社や現地代理人、現地取引先から
の情報などから調査を進める。
模倣品事業者の技術力やその模倣品の技
術レベルも調査する。
すべての模倣品事業者にコンタクトを取れ
れば一番良いが、数が多い場合は現実的
でない。製造量が多いなど悪質な事業者に
ターゲットを絞ることになる。
自社単独での対応が難しい場合は、代理人
にアドバイスを求める。
コストを掛けたくない場合は、製造停止を確
認すれば放置することもありえる。その場合
も、再び製造開始しないように監視したり、
その旨を書面に残したりする。
警告を無視して製造を続けた場合は、民事
訴訟もありうる。その場合、損害賠償、侵害
行為(製造)の差止め、謝罪広告掲載、等も
請求できる。
模倣品事業者側から交渉を申し出てきた場
合は、知財保護方針に従って、条件交渉す
る。
本事例からの示唆

特に中国で委託製造を行っている企業の場合、技術力が高く、今後誠実なビジネスパート
ナーになりうると判断できる模倣品製造事業者を取り込んでいくことは選択肢の一つとして
ありうる。

本事例の場合、知財に関する全社方針が予め定まっていたため、問題発生時に各模倣品
事業者の対応に応じて適切な訴訟提起、交渉を行うことができた。
131
3.インデックス
(1) 場面(シーン)に合った事例を探してみよう
模倣品をみつけてみよう
1 , 2 , コラム 1
模倣品に関する意識を高めよう
3,4,5,6,7,8
模倣品問題を予防しよう
9 , 10 , コラム 2 , 11 , 12 , 13 , 14
関係行政機関等と連携しよう
15 , 16 , 17 , 18
調査会社を使ってみよう
コラム 3 , 19 , 20 , 21 , 22 , 23 , 24
模倣品業者を摘発しよう
25 , 26 , 27 , 28 29 , 30 , 31 , 32 , 33 , 34 , 35 , コラム 4
企業間で情報共有・共同摘発しよう
コラム 5 , 36 , 37 , 38 , 39 , 40
模倣品対策の戦略を立てよう
41 , 42 , 43
132
(2) 対策テーマに合った事例を探してみよう
① 権利取得・ブランディング
3 , 4 , 5 , 6 , 7 , 8 , 10 , 12 , 13 , 14 , 18 , 37 ,41 ,42 , 43
•
② 製造と情報管理
11
③ 契約
11 , 19 , 20 , 22 , 41 , 43
④ 行政摘発
2 , 7 , 8 , 9 , 15 , 16 , 17 , 24 , 26 , 28 , 29 , 30 , 32 , 36 , 38 , 40
⑤ 行政訴訟
13 , 41
⑥ 民事訴訟
18 , 25 , 26 , 28 , 31 , 32 , 41 , 43
⑦ 刑事訴訟
27 , 32 , 39 , 40
⑧ 調査・監視(モニタリング)
1 , 2 , 3 , 4 , 8 , 12 , 19 ,20 , 21 , 22 , 23 , 24 , 25 , 27 , 29 , 32 ,
33 , 34 , 35 , 37 , 38 , 41
⑨ 共同実施
5 , 7 , 10 , 16 , 19 , 27 , 36 , 37 , 38 , 39 , 40
133
(3) 少ないリソースでも実施可能な事例を探してみよう
(費用や人が比較的少なくてもできる事例を紹介しています)
1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 7 , 8 , 10 , 12 , 16 , 17 , 18 , 19 , 20 , 21 ,
22 , 26 , 27 , 29 , 32 , 33 , 34 , 36 , 37 , 38 , 39 , 40 ,42
134
(4) 気になるワードで事例を探してみよう
(該当ワードが主に出てきている事例を紹介しています)

意匠権侵害 ・・・・・・・・・・・ 2 , コラム 1 , コラム 4 , 36 , 41 , 42 , 43

インターネット被害 ・・・・・ コラム 2, 12 , 32 , 33 , 34 , コラム 5 , 38 , 41

海賊版 ・・・・・・・・・・・ コラム 1 , 10 , コラム 2 , 32 , 33 , コラム 5

啓発活動 ・・・・・・・・・・・・ 3 , 4 , 6 , 7 , 8 , コラム 2 , 18 , コラム 5

公安 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 , 21 , 24

個人輸入 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

再犯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ コラム 2 , 18 , 19 , 32 , 37 , 39

処罰決定書 ・・・・・・・・・・・ 2 , コラム 2 , 18 , コラム 3 , 20 , 26 , 35

税関セミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 , 9 , コラム 2 , 15 , 16

地方保護主義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 , 25 , 28

馳名商標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 , 14

著作権侵害 ・・・・・・・・・・・・・ コラム 1 , 10 , 25 , 31 , 36 , 41 , 43

著作権登録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 , 31 , 41

特許権侵害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ コラム 1 , コラム 4 , 41 , 43

展示会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 , 5

冒認出願・登録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 , 14 , 41

マドリッド・プロトコル(国際商標出願)・・・・・・・・・・・・・・ 13 , 41

無効審判・異議申立 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 , 14 , 41

和解 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 , 25

AIC(工商行政管理局)・・・・・・・・・・・・・・ コラム 2 , 17 , 20 , 21 , 24

QBPC(Quality Brands Protection Committee)・・・・・・・・・コラム 2, 16 , 40

TSB(技術監督局)・・・・・・・・・・・・・・・・・・ コラム 2 , 17 , 21 , 24
135
国際知的財産保護フォーラム第 3 プロジェクト 第 4 回情報交換会説明資料
「経済産業省委託事業 『模倣品等対策事例集』 の作成について」
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