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一般抄録(PDF) - 弘前大学大学院医学研究科/医学部医学科

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一般抄録(PDF) - 弘前大学大学院医学研究科/医学部医学科
一般抄録
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一般演題 O1 口演研究演題(その他) 4月15日10:00~11:00 座長 中尾慎一
一般演題 O1 口演研究演題(その他) 4月15日10:00~11:00 座長 中尾慎一
2015 年 4 月に開設した大館市立総合病院呼
吸器外科の手術の現状
神経ブロックでのレボブピバカインとロピバカ
インの力価の比較
‐特に麻酔科医が関与する周術期の管理について‐
*
〇 渡辺邦太郎、澤田龍治 、森山久美、
徳嶺譲芳、萬 知子
〇 橋本 浩、高平陽子、村川徳昭、大石将文*
杏林大学麻酔科学教室
日野市立病院麻酔科*
大館市立総合病院麻酔科
弘前大学救急災害医学講座*
背景目的:レボブピバカインとロピバカインは共に長
2015 年 4 月に呼吸器外科を開設した。常勤医師
時間作用型局所麻酔薬であり硬膜外麻酔や末梢神
は 2 人で、手術日に応援医師が 1 人来ることになっ
経ブロックで用いられている。硬膜外麻酔での研究
結果から、一般にレボブピバカインの方がロピバカイ
た。麻酔科から週 1 例のペースをお願いした。2015
ンより力価が高いと考えられている。しかし末梢神経
年 4 月から 2016 年 1 月までで、41 例の呼吸器外科
ブロックでは比較した報告が少なく、未だ一定の見
手術が行われた。ほぼ全例で胸腔鏡は使用された。
解を得ていない。本研究では、末梢神経ブロックで
麻酔はプロポフォール・レミフェンタニル・ケタミンに
同濃度のレボブピバカインとロピバカインを使用し、
術後鎮痛効果を比較した。
よる全静脈麻酔と胸部硬膜外麻酔の併用を基本とし
方法:倫理委員会の承認(臨床研究登録)後、整形
た。硬膜外カテーテル挿入が困難な時や、適応外
外科手術患者 200 名に対して、手術部位毎に無作
の時は外科医による局所麻酔と IVPCA を用いて術
為割付でレボブピバカイン(L 群)あるいはロピバカイ
ン(R 群)を用いて、神経ブロックを施行した。術後 2
後鎮痛を行った。硬膜外カテーテルの挿入は、手術
日間の鎮痛薬投与回数、疼痛スコア、睡眠障害、初
当日午前中に麻酔科外来で行い、確認してから慎
回鎮痛薬投与時間、運動回復時間、離床時間を比
重に使用した。どちらの方法も、外科医と綿密に話
較した。結果は割合(%)、中央値(四分位範囲)で
し合い、厳格に術後 2 日まで(48 時間)とし、カテー
示し、有意水準を 0.05 未満とした。
結果: 鎮痛薬投与回数は L 群で有意に少なく(L:0
テルの抜去も含めて術後管理はすべて主治医が行
回(0,1),R:0 回(0,1),p=0.02)、手術当日夜間の疼痛
うこととした。
スコアも有意に低かった(L:1(0,2),1.5(0,4),p=0.03)。
術後抜管できずに人工呼吸を行った症例はなか
ま た 睡 眠 障 害 発 生 率 も 少 な か っ た
った。カテーテル管理のため麻酔科医が呼び出され
(L:25%,R:38%,p=0.03)。初回鎮痛薬投与時間は L
群 の 方 が 長 く (L:1015 分 (792,1255),841 分
た症例はなかった。IVPCA で 1 例、点滴ラインの接
(639,1047),p<0.01) 、 運 動 回 復 時 間 も 長 か っ た が
合部のトラブルで相談された症例があった。
(L:786 分(281,1207),652 分(365,918),p=0.02)、離床
呼吸器外科を開設してすぐに外科医と腹を割って
時 間 で は 有 意 差 を 認 め な か っ た (L:1248 分
綿密に話し合ったことがこれまでの経過につながっ
(955,1458),R:1228 分(958,1466),p=0.9)。
結論:末梢神経ブロックでは、硬膜外麻酔と同様、レ
たと考えている。今後も呼吸器外科だけではなくあら
ボブピバカインがロピバカインに比べ力価が高いと
ゆる科と更に連絡を密にして、患者のための医療に
考えられた。
取り組みたいと考えている。
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一般演題 O1 口演研究演題(その他) 4月15日10:00~11:00 座長 中尾慎一
一般演題 O1 口演研究演題(その他) 4月15日10:00~11:00 座長 中尾慎一
腰椎椎間板ヘルニアに対する神経根ブロック
を含めた保存的治療効果の検討
脊髄くも膜下麻酔後の対麻痺発生の機序と
予防法
〇 西村大輔、上島賢哉、柳泉亮太、米川裕子、
中川雅之、林 摩耶、安部洋一郎
〇赤石 敏、小圷知明
東北大学病院 高度救命救急センター
NTT 東日本関東病院 ペインクリニック科
1960 年代後半から脊髄くも膜下麻酔後の胸椎レ
演題取り下げ
ベルの高位対麻痺が全国で散発して医療過誤裁判
となった。裁判の鑑定を依頼された東北大学法医学
教室の赤石 英は、これらの医療事故の原因は脊髄
栄養血管である Adamkiewicz 動脈(大根動脈)が損
傷されたためであると結論した。1982 年の第 2 回日
本臨床麻酔学会総会の特別講演を依頼され、この
内容を発表し、当時の麻酔科医にこの概念が認知
された。すなわち Adamkiewicz 動脈は、日本人の約
0.5%の頻度で脊髄くも膜下麻酔が施行される腰椎
の3/4/5から馬尾神経に沿って流入してくる。くも膜
下腔に穿刺針を深く刺し過ぎると、馬尾神経損傷以
外に,主要な脊髄栄養血管である Adamkiewicz 動脈
を損傷して不可逆性の高位対麻痺をきたす恐れが
ある。これを回避するには、くも膜下腔に深く穿刺針
を入れ過ぎないことが最も大切であり、黄靭帯あたり
からは1mm位のピッチで慎重に確認しながら穿刺
していくことが望ましい。さらには側臥位では馬尾は
重力方向に偏位しており、正中アプローチが失敗し
た場合の傍正中アプローチは、重力方向(斜め下)
からではなく、斜め上から穿刺することが安全であ
る。
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一般演題 O1 口演研究演題(その他) 4月15日10:00~11:00 座長 中尾慎一
一般演題 O2 口演症例演題(四肢の神経ブロック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森松博史
硬膜外麻酔後の対麻痺発生の機序とその対策
重症患者の両側同時上肢手術に対して両側
腕神経叢ブロックで管理した一例
〇赤石 敏、小圷知明、山内正憲*
東北大学病院 高度救命救急センター
東北大学医学部 麻酔科学周術期医学講座*
〇末竹荘八郎、渡邊 至
硬膜外麻酔併用の全身麻酔手術後に術後対麻痺
【症例】患者は 65 歳の男性。身長 168 ㎝、体重 60
㎏。左下肢閉塞性動脈硬化症に対し.全身麻酔下
に下肢動脈バイパス術が行われた。その後敗血症と
なり、術後 11 日目に伝達麻酔下に緊急左大腿膝上
切断術が行われた。術後もノルアドレナリン、酸素投
与を必要とした。その 5 日後、左手部の壊疽が急速
に進行し、再び緊急手術が予定された.術式は,内
シャントを含む左前腕での上肢切断、維持透析のた
めの右上腕内シャント同時作成術が予定された。既
往歴および合併症として、右下肢閉塞性動脈硬化
症に対して、下肢動脈バイパス術後に大腿膝上切
断となっており、末期腎不全に対して維持血液透析
中(左前腕シャント)、狭心症に対して経皮的冠動脈
形成術施行後など問題点を多数認めた。
【麻酔方法】意識レベルは JCSⅠ-1~Ⅱ-10 と変容が
あり、清明ではなかった。敗血症、低心機能を認め、
全身麻酔ハイリスクと判断し、伝達麻酔での管理方
針とした。
【麻酔経過】術後疼痛管理目的で、左上肢は鎖骨下
アプローチによるエコーガイド下持続左腕神経叢ブ
ロックとし、カテーテルを留置した。右上肢は腋窩ア
プローチによるエコーガイド下右腕神経叢ブロック+
皮下浸潤麻酔とした。意識レベルの変容のため、正
確な遮断範囲の評価は困難であったが、痛み刺激
に対する反応から手術可能な鎮痛は得られていると
判断した。麻酔導入後、術野所見から左上肢は切
断部位を前腕から手関節部へと変更し,左前腕のシ
ャントを温存、右上腕への内シャント造設をしない方
針に変更となった。術中昇圧薬は必要とせず、疼痛
の訴えなく、1 時間 4 分で左上肢の手術は終了し,
術後も良好な鎮痛が得られていた。
【結語】全身状態不良となった患者の両上肢同時手
術に対し、エコーガイド下腕神経叢ブロックを行い手
術可能な麻酔効果が得られた。急な術式変更により
結果的に縮小手術となったが、術中疼痛の訴えなく
経過し、安全で有用な麻酔管理方法であると考えら
れた。
横浜南共済病院麻酔科
が発生することは稀ではあるが臨床上散見される合
併症である。24時間以内のゴールデンタイム内に脊
椎外科医による脊髄後方除圧術が施行されることが
多いが、麻痺が改善する場合としない場合があり、
発生機序が異なっている可能性がある。従来、脊髄
後面に位置する硬膜外静脈叢からの出血による圧
迫性脊髄症が原因と言われているが、一般的に静
脈圧は髄液圧よりも低く、静脈出血であれば脊髄を
圧迫するほどの血腫を形成する前に自然止血され
ると考えるのが自然である。圧迫性脊髄症は動脈損
傷由来の血腫によると考えるべきであるが、それでも
除圧術により麻痺が改善する例としない例の説明は
つかない。後者には脊髄側面より流入する肋間動
脈後枝(脊髄枝)の損傷、特にそれが Adamkiewicz
動脈であった場合に発生する脊髄梗塞である可能
性がある。解剖学的に脊髄後方正中のみが脊髄栄
養血管が分布せず、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻
酔を安全に行うことが出来る。5~6cm の深さで1cm
側面にずれれば、最も危険な部位に針先が接近し
ていることになる。正中アプローチがうまくいかなか
った場合にも、すぐに傍正中アプローチを選択せず
に、1分節下げた正中アプローチを行う慎重さが望
ましい。
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一般演題 O2 口演症例演題(四肢の神経ブロック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森松博史
一般演題 O2 口演症例演題(四肢の神経ブロック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森松博史
持続末梢神経ブロックが血流維持に有効で
あった、キーンベック病に対する血管柄付き
骨移植術の 1 例
Ultrasound-guided bilateral combined inguinal femoral
and subgluteal sciatic nerve blocks for simultaneous
bilateral below-knee amputations due to bilateral diabetic
foot gangrene unresponsive to peripheral arterial
angioplasty and bypass surgery in a coagulopathic patient
on antiplatelet therapy with a history of percutaneous
coronary intervention for ischemic heart disease – A case
report –
〇菊池 賢、野村岳志、後藤隆久
横浜市立大学附属病院麻酔科
〇Jong Hae Kim M.D., Sung Hye Byun M.D., Shin Yeong Sung M.D.
Department of Anesthesiology and Pain Medicine, School of Medicine, Catholic
University of Daegu, Daegu, Republic of Korea
キーンベック病は手根骨の 1 つである月状骨が血流
It is highly challenging to perform regional anesthesia for bilateral lower limb
surgery in patients on antiplatelet therapy following percutaneous coronary
intervention, who become coagulopathic due to infection in the lower limb. We
report a case of successful combined inguinal femoral and subgluteal sciatic
nerve blocks (CFSNBs) for simultaneous bilateral below-knee amputations in a
coagulopathic patient on antiplatelet therapy. A 70-year-old male patient (167
cm in height, 62 kg in weight) presented to our hospital with pain in both feet
due to diabetic foot that could not be managed by open amputations of the toes
at the metatarsal bones and subsequent antibiotic therapy. He was administered
with antidiabetic, antihypertensive, and antiplatelet medications. Computed
tomographic angiography showed significant stenosis in the arteries supplying
the lower limbs indicating atherosclerotic gangrene in both feet. Daily
administration of alprostadil (10 μg/day) was started to dilate the stenotic vessels
for the improvement of their blood flow and was maintained till the bilateral
below-knee amputations. Under epidural anesthesia, balloon angioplasty in the
left lower limb and bypass surgery in the right lower limb were performed 2 and
7 days after the admission, respectively. Despite the subsequent debridements
with application of negative-pressure wound therapy and additional open
amputations of the another toes at metatarsal and proximal bones and
metatarsophalangeal joint under spinal anesthesia, the status of the wound did
not improve. Therefore, simultaneous bilateral below-knee amputations were
planned 49 days after the admission. The leukocyte count and c-reactive protein
level were maintained (more than 30 mg/l and 11,000 – 14,000 cells/mm3,
respectively) above the normal range during the admission and prothrombin
time and activated partial thromboplastin time became increased up to 15.3 and
55.6 seconds, respectively, from 1 month before the bilateral below-knee
amputations.
Upon arrival at the operating room, electrocardiogram, pulse oximetry, and
noninvasive blood pressure monitoring were instituted. After draping of the left
inguinal region, the femoral nerve was identified lateral to the femoral artery
using a 5 to 13 MHz linear phased-array transducer (UST-5411, Hitachi Aloka
Medical, Ltd., Tokyo, Japan) equipped in a ProSound α7 Premier (Hitachi Aloka
Medical, Ltd., Tokyo, Japan). A 23-gauge Tuohy needle was introduced parallel
to the ultrasound beam toward the femoral nerve and 21 ml of a local anesthetic
mixture containing 1.5% mepivacaine and 0.75% ropivacaine at 1:1 ratio were
injected through the needle around the femoral nerve. The needle trajectory was
adjusted to facilitate the even distribution of the local anesthetics around the
femoral nerve. Then, the patient was placed in the right lateral position with the
left hip and knee flexed by 30 to 50 degrees. Following the identification of the
left sciatic nerve within the intermuscular space between the gluteus maximus
and quadratus femoris muscles by placing the convex phased-array transducer
(UST-9130, Hitachi Aloka Medical, Ltd., Tokyo, Japan) between the greater
trochanter and ischial tuberosity, 24 ml of the local anesthetic mixture were
injected around the sciatic nerve through the 23-gauge Tuohy needle inserted
in-plane from the lateral side of the transducer. Continuous intravenous
administration of dexmedetomidine was initiated at a rate of 0.3 μg/kg/hr
following bolus administration (0.5 μg/kg). After confirmation of sensory
blockade tested by a pinprick on the dermatomes of the femoral and sciatic
nerves (23 minutes after the end of local anesthetic injection for the sciatic nerve
block), the surgery for the left below-knee amputation began as soon as the
tourniquet was inflated around the thigh. After the end of the surgery which
lasted for 76 minutes, the CFSNBs were performed in the right lower limb using
17 ml and 30 ml of the local anesthetic mixture for the femoral nerve and sciatic
nerve blocks, respectively. The surgery for the right below-knee amputation
following tourniquet inflation began after the sensory blockade of the lower
limb was confirmed. The surgery took 85 minutes. Throughout each surgery for
the bilateral limb amputations, sensory blockade was well maintained in the
bilateral limbs. The patient did not complain of pain from regression of the 1st
CFSNBs during the 2nd surgery. The CFSNBs successfully prevented tourniquet
pain. Hemodynamic instability, such as hypotension and/or bradycardia, due to
tourniquet deflation and administration of dexmedetomidine did not occur.
Neither did systemic toxicity of local anesthetics. No additional analgesic was
required to supplement insufficient surgical anesthesia. The procedural time for
each CFSNBs was 2 minutes for each the femoral nerve block, 5 minutes for the
left sciatic nerve block, and 8 minutes for the right sciatic nerve block.
Postoperatively, no neurologic complications related to the CFSNBs were
reported. In conclusion, timely placement of bilateral CFSNBs performed
immediately before corresponding limb surgery lasting for less than 2 hours
provides successful surgical anesthesia in the bilateral lower limbs in the
absence of local anesthetic systemic toxicity and regression of the CFSNBs that
were first performed during the latter surgery.
障害により扁平化し、手関節の痛み、握力低下、可
動域制限をきたす疾患であり、手術として有頭骨骨
切り、血管柄付き骨移植術が行われる。今回キーン
ベック病に対して持続末梢神経ブロックを併用して
麻酔管理を行ったので報告する。【症例】18 歳女性、
身長 152cm、体重 67kg。右キーンベック病に対して
上記手術が予定された。症状は疼痛と握力低下が
認められた。【経過】midazolam 2mg, fentanyl 50mcg
を使用し、意識下に超音波ガイド下神経ブロックを
施行した。腕神経叢ブロック鎖骨下アプローチで
0.16%levobupivacaine 15ml を投与後、カテーテル
を 挿 入 し た 。 神 経 ブ ロ ッ ク の 前 後 で
Radical7(MASIMO®) に よ り 右 示 指 の Perfusion
Index(以下 PI)を測定した。PI は神経ブロック前後
で 1.0 から 3.3 へと上昇していた。全身麻酔は
propofol, fentanyl, rocuronium で導入し、維持は
propofol, remifentanil で行った。術中のバイタルサイ
ンは安定していた。fentanyl の総量は 200mcg であ
った。終刀後 flurbipirofen 50mg、持続鎮痛としてカ
テーテルより 0.06%levobupivacaine を 4ml/h で開始
し、術後 2 日目まで継続した。術後 1 日目より経口の
NSAIDs の定時投与が開始された他は鎮痛薬の使
用はなかった。術後経過は良好で術後 3 日目に退
院となった。PI は退院時まで 3 台と良好な値であっ
た。【考察】神経ブロックは血管拡張作用をもたらし、
今回の手術のような血管柄付き骨移植術では血流
を保ち、移植骨の生着に有利になる可能性がある。
文献的検索を行ったところ、皮弁に対しての有効性
の報告がみられたが、骨移植術に対する報告はな
かった。今回 1 例のみでの報告であり、今後症例数
を増やしてさらなる検討が必要と考えられた。
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一般演題 O2 口演症例演題(四肢の神経ブロック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森松博史
一般演題 O2 口演症例演題(四肢の神経ブロック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森松博史
持続末梢神経ブロック用セット Contiplex® C
(B BRAUN 社)を用いた超音波ガイド下持続
大腿神経ブロックの使用経験
斜角筋間腕神経叢ブロック併用全身麻酔下
に施行した肩関節手術後に舌下神経麻痺が
生じた 1 例
◯ 久保直子 1)、西村大輔 2)、大内貴志 1)、
小板橋俊哉 3)
〇 松本友梨、田口志麻、佐伯 昇、濱田 宏、
河本昌志
1)東京歯科大学市川総合病院 麻酔科
2)NTT 東日本関東病院 ペインクリニック科
3)東京歯科大学市川総合病院 緩和ケア科
広島大学病院 麻酔科
【はじめに】
舌下神経麻痺の原因は様々であるが、術後合併症
としての報告は少ない。今回,われわれは腕神経叢
ブロック併用全身麻酔下に肩腱板断裂手術施行後、
舌下神経麻痺が生じた症例を経験した。
【症例】
70 歳代、女性。右肩腱板断裂の診断で関節鏡下に
修復術が予定された。超音波ガイド下斜角筋間腕
神経叢ブロックを施行しカテーテル留置後、全身麻
酔の導入を行った。喉頭鏡を用いた経口気管挿管
は容易で、右口角に気管チューブを固定した。手術
はビーチチェア位で問題なく終了した。手術時間は
2 時間 55 分、麻酔時間は 4 時間 29 分であった。 術
中の潅流液 IN/OUT バランスは IN 58,200ml、OUT
52,850ml で+5350ml と体内貯留の可能性は否定で
きないが、頚部に腫脹を認めなかったため、抜管可
能と判断した。抜管後、神経ブロックカテーテルより
0.1%ロピバカインを 4ml/h で開始した。
【治療・経過】
術翌日朝、経口摂取開始時に舌先の動かしにくさを
自覚した。神経内科では、挺舌は右に偏位し、左方
運動制限があった。顔面の感覚障害や味覚障害、
眼球運動制限や眼瞼下垂は認めず、両上下肢の麻
痺もなかったことから、右舌下神経単独麻痺と診断
され、メコバラミンの内服を開始した。神経ブロックの
影響を除外するため持続注入を中止し、術後 2 日目
カテーテルを抜去した。症状は徐々に改善を認め、
術後 4 日目に自覚症状は消失し、7 日目には他覚
的にも回復した。
【考察・結語】
われわれが経験した術後舌下神経麻痺症状の原因
は、解剖学的に神経ブロック手技や手術操作による
舌下神経の直接損傷は考えにくく、比較的速やか
に回復していることから、神経ブロック針による舌下
神経の栄養動脈損傷も考えにくい。潅流液や気管
チューブによる間接的な神経の圧迫、体位による過
伸展など,複合的な要素が原因の可能性が高いと
考えられた。
【はじめに】 人工膝関節置換術の術後疼痛管理に
は、持続硬膜外ブロックが広く用いられてきたが、近
年、持続大腿神経ブロック(CFNB)による疼痛管理
が注目されている。CFNB には硬膜外麻酔用のセッ
トを使用することが多いため、tuohy 針先端やカテー
テル位置の確認に難渋したり、カテーテル留置時に
位置がずれたりすることがあるとされている。最近、
内筒が神経刺激用穿刺針、外筒が留置用カテーテ
ルからなるオーバーザニードルカテーテルシステム
である持続末梢神経ブロック用キット Contiplex® C
(B BRAUN 社)が発売された。今回、このキットを用
いた超音波ガイド下 CFNB を経験したので報告す
る。
【方法】 対象は人工膝関節置換術の 4 例で、麻酔
法は Contiplex® C を用いた超音波ガイド下 CFNB
併用全身麻酔とした。気管挿管後、神経ブロックに
精通した医師の指導のもと、後期研修 1 年目の麻酔
科医が 0.35%ロピバカイン 20ml を単回注入し、その
後カテーテルを留置した。手術開始前から 0.13%ロ
ピバカインを 4ml/hr で持続注入した。超音波のプレ
スキャン開始からカテーテル固定までの手技時間と、
術後鎮痛剤の使用状況を後ろ向きに検討した。
【結果】 4 例の手技時間はそれぞれ 12、16、12、14
分で、カテーテル挿入中や術後の合併症は認めな
かった。手術室退室時の疼痛は全例認めず、カテ
ーテル挿入から初回鎮痛剤使用までの時間は平均
約 7 時間(5 時間 35 分〜11 時間 10 分)であった。
【考察】 Contiplex® C を使用した 4 例で CFNB の
手技に要した時間は許容範囲内と考える。また、穿
刺針先端の確認やカテーテルの留置も容易で、こ
のキットの有用性は高いと考えた。
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一般演題
P1 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 西田 修
一般演題
P1 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 西田 修
神経ブロックにより良好な疼痛緩和を得られ
た1例
硬膜外ポートを用いて疼痛管理を行った癌
性疼痛の3症例
〇黒田美聡、早坂達哉、渡邉翠、渡邊具史、
秋元 亮、岡田真行、川前金幸
〇窪田 武、石川有平、石川理恵
八戸平和病院麻酔科
山形大学医学部麻酔科学講座
硬膜外ブロックはオピオイドの全身投与よりも悪心
【はじめに】今回、オピオイドで十分な鎮痛効果が得
られなかった症例に、神経ブロックを施行することで
疼痛緩和を得られた症例を経験したので報告する。
【症例】64 歳女性。膣癌 StageⅢ期。病変の浸潤に
伴う疼痛をきたしており、持続性の会陰部痛と下腹
部痛を主訴に当科紹介受診となった。外来で薬剤
の調節を行っていたが、服薬コンプライアンスが悪く、
疼痛コントロールを目的に入院となった。入院後、オ
ピオイドの持続静注と鎮痛補助薬の併用を開始した。
しかし、副作用の眠気が増強する一方で、疼痛の軽
減は認められなかった。薬剤の増量を行うも改善が
認められなかった為、入院 5 日目に下腹神経叢ブロ
ック(無水エタノール 10 ml)を施行した。ブロック後、
下腹部痛の軽減を認めたが、会陰部痛が残存、排
便時や坐位での疼痛は変わらなかった。その為、残
存した会陰部痛に対して、入院 7 日目にサドルブロ
ック(0.5%高比重マーカイン 0.5 ml)を施行した。会
陰部痛は著明に軽減し、坐位保持の時間や排便後
の疼痛軽減を認めた。サドルブロックの効果は 4 時
間程で、その後は疼痛が再燃した。疼痛の残存によ
る患者の苦痛、ADL の低下を認めており、入院 15
日目に、くも膜下フェノールブロック(10%フェノール
グリセリン液 0.3 ml)を施行した。疼痛は著明に軽減、
入院 30 日目に退院し、徐々にオピオイドは減量、必
要と無くなった。
【考察】神経ブロックにより、疼痛緩和を得られ、ADL
を改善させることができた。本症例のように神経ブロ
ックを併用することで、オピオイドの減量・中止が可
能になることは、患者の身体的・経済的負担の軽減
やオピオイドに伴う副作用の軽減につながると考え
られた。また、効果的なブロックは内服薬を簡素化で
きるので、服薬コンプライアンスが悪い症例ではよい
適応と考えられた。
【結語】神経ブロックにより、良好な疼痛緩和を得ら
れた一例を経験した。
嘔吐、眠気などの副作用が少なく、強力な鎮痛作用
が期待できる鎮痛法である。今回我々は硬膜外ポ
ートを挿入し、良好に疼痛管理をおこなえた癌性疼
痛患者の3症例を報告する。
症例1:80 歳男性。腸腰筋から皮下への浸潤を伴
う巨大左腎癌による腰背部痛があり、当院泌尿器科
入院。塩酸モルヒネ 20mg/日の持続点滴静注が行
われたが、悪心嘔吐、食欲不振が強く継続困難とな
り麻酔科紹介となった。同日 T11/12 胸椎間より硬膜
外チューブを挿入。フェンタニル 300μg/日、0.25%
レボブピバカイン 4ml/h、ドロペリドール 0.25mg/日
硬膜外投与で無痛の状態となり、食事も可能となっ
た。患者さんの帰宅したいという希望が強かったた
め、25 日後硬膜外ポート埋め込み術を行い、永眠さ
れる前日にほぼ無痛の状態で一時帰宅させることが
可能であった。
症例2:87 歳男性。大腸癌の両側腸骨、右大腿骨
転移巣の疼痛が強いため麻酔科紹介。同日硬膜外
チューブを L2/3 腰椎間から挿入。フェンタニル
400μg/日、0.19%レボブピバカイン 4ml/h 持続投与
で腸骨、大腿部の良好な鎮痛が得られ、12 日後同
部位からの硬膜外ポートの埋め込み術を行った。永
眠されるまで良好な鎮痛状態が得られた。
症例3:66 歳男性。平滑筋肉腫による第四胸椎の
圧迫骨折、多発肋骨骨折による体動時痛が強いた
め当科紹介。同日 T6/7 胸椎間から硬膜外チューブ
を挿入、良好な鎮痛が得られたが、患者さんのお風
呂に入りたいという希望があり、5 日後に硬膜外ポー
トを挿入。フェンタニル 500μg/日、0.13%レボブピバ
カインの持続注入で良好な鎮痛が得られている。
本法は以前から行われてきた方法であるが、高い
QOL が得られることを再認識した。今後症例を増や
してゆきたいと考えている。
84
一般演題
P1 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 西田 修
一般演題
坐骨神経腫瘍合併下腿難治性皮膚潰瘍に
対して持続末梢神経ブロックとプレガバリン内
服の併用が有効であった一症例
P1 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 西田 修
癌性疼痛に対し肋間神経ブロックを実施した
3 症例
〇村上 剛
〇吉松貴史、田嶋佳代子、石橋恵理子、窪田敬子、
渡邊 巌
京丹後市立久美浜病院麻酔科
荻窪病院麻酔科
【はじめに】癌性疼痛に対して無水エタノールによる
肋間神経ブロックを実施した 3 症例について問題点
を検討する。
【はじめに】
持続 末 梢神 経 ブ ロ ック( continuous peripheral nerve
blocks: 以下 CPNB)は、有効な疼痛緩和、リハビリテ
【症例 1】76 歳、男性。肺癌の多発転移による疼痛に
対してオキシコドン徐放剤 260mg/日が投与されて
いた。最も疼痛の強い皮膚転移部の除痛目的で第
4、5、6、7 肋間神経にブロックを行い、局所の疼痛
は軽減したが、10 日後から胸部全体に及ぶ疼痛が
増強、同時に全身状態が急速に悪化し永眠した。
ーションへの寄与などを通じ、患者 QOL や生存を改善
する事が明らかにされている。今回、坐骨神経腫瘍合
併下腿難治性皮膚潰瘍の治療経過に CPNB とプレガ
バリンの内服が有効であった症例を経験したので報告
する。
[症例]84歳、女性、身長153cm、体重45.5kg
【症例 2】82 歳、男性。肺癌の胸壁浸潤、肋骨骨折
による疼痛に対してオキシコドン徐放剤 30mg/日
が投与されていた。第 5、6、7、8、9 肋間神経にブロ
ックを行い疼痛はほぼ消失し、転院となったが、アル
コール性神経炎による疼痛が残存した。
[現病歴]下肢静脈瘤手術後左下腿有痛性紅斑を主訴
に受診、坐骨神経腫瘍合併下腿うっ滞性皮膚炎の診
断を受ける。その後2次感染を合併し右下腿全周性に
潰瘍形成をきたし入院となった。今回皮膚科より下腿
【症例 3】74 歳、男性。肺癌の肋骨浸潤、肋骨骨折
による疼痛に対してオキシコドン徐放剤 80mg/日
が投与されていたが、疼痛コントロール不良に加え
オピオイドの急な増量によるせん妄をきたしていた。
第 3、4、5 肋間神経にブロックを行い疼痛は著明に
改善、副作用もなく外出可能となった。
難治性潰瘍に対するデブリードマンに対する麻酔管理
ならびに術後疼痛管理の依頼を受けた。
[既往歴]下肢静脈瘤、逆流性食道炎
[入院後経過]
手術室でのデブリードマン後も連日病棟での創処置が
必要となるため一定期間安定した疼痛コントロールが
必要な点から麻酔法は、全身麻酔と CPNB を予定した。
【考察】肋間神経ブロックは比較的簡便な手技であり、
近年は超音波ガイド下に実施することで気胸や血管
内注入などの合併症も回避しやすくなった。癌性疼
痛では肋骨転移、胸壁浸潤などによる局所の疼痛
に有効で、神経破壊薬の使用により長期の除痛も可
能である。3 症例はいずれも局所の除痛は達成でき
たが、全身状態が悪化してからの紹介であった症例
1 ではメリットは少なかった。各診療科からより早い段
階で紹介される体制の整備が必要と思われた。症例
2 と 3 では QOL、ADL の改善が得られたが、症例 2
ではアルコール性神経炎による疼痛が残存したこと
から、今後はフェノールによるブロックや高周波熱凝
固を検討するべきと思われた。
【結語】癌性疼痛に対する肋間神経ブロックの適応
においては、実施時期の判断と神経破壊の手段の
選択が重要である。
手術の麻酔は全身麻酔下に持続大腿・坐骨神経ブロ
ックを施行した。術後第一病日の初回の創処置の際疼
痛は(NRS5/10)と満足いく除痛にはいたらなかった。
しかし、処置中「頭の先まで電気がはしる」との電撃痛
(NRS8~10/10)を数回訴えたことより下腿潰瘍の侵
害受容性疼痛に神経腫瘍から由来すると思われる神
経障害性疼痛が混在していることが考えられたため同
日よりプレガバリン150mg/日の内服を開始したところ
自発痛の頻度が激減し疼痛は自制内(NRS0~2/10)
にまで軽減した。カテーテル留置部位へのドレッシング
は週一回施行し退院までの 3 週間継続留置とした。C
PNBに関連した有害事象もなく管理できた。
[結語]
各科の連携による集学的治療の重要性を実感できた
症例であった。
85
一般演題
P1 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 西田 修
一般演題
P1 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 西田 修
難治性の慢性腹痛症候群に対して持続腹横筋
ブロックを施行して疼痛管理を行った1症例
高濃度テトラカインを用いた眼窩上神経ブロ
ックが有効であった三叉神経第一枝帯状疱
疹後掻痒症の 1 症例
〇妹尾悠祐、松崎 孝、谷口 新、賀来隆治、
佐藤健治、森松博史
〇山中大樹、河野 崇、山崎史幹*、北岡智子、
横山正尚
岡山大学病院 麻酔科蘇生科
高知大学医学部 麻酔科学・集中治療医学講座
土佐市民病院 麻酔科*
慢性腹痛症候群は、神経障害性痛に関与が報告さ
れており、神経ブロック及び抗うつ剤や抗けいれん
薬などの鎮痛補助薬による薬物療法と認知行動療
法を加えた多方面からのアプローチが重要であるが、
当院の消化器内科より紹介となった 5 年以上経過し
た要因不明の慢性腹痛症候群に対して、持続の腹
横筋膜面ブロックを施行し、良好な疼痛管理を得た
症例を経験したので報告する。
背景: 帯状疱疹後神経痛に伴う神経障害性掻痒は、
痛みと同様に患者の生活の質を低下させるが、その
機序は明らかではなく確立された治療法も存在しな
い。今回、難治性の帯状疱疹後掻痒症に対して高
濃度テトラカインを用いた神経ブロックが有効であっ
た症例を経験したので報告する。
症例: 82 歳、男性。慢性腎機能障害にてフォロー中、
左側三叉神経第一枝領域の帯状疱疹を発症した。
抗ウイルス薬の治療を受けたが、左目周囲、額、頭
部にかけての掻痒が生じたため当科に紹介された。
初診時、痛みは軽度であったが、持続的な強い掻
痒を自覚しており、特に夜間に増強する傾向があっ
た。また、患部の皮膚刺激により三叉神経第一枝領
域全体に広がる耐えがたい掻痒が誘発された。薬
物治療として、プレガバリン、抗うつ薬、リン酸コデイ
ン、カプサイシン軟膏、漢方薬等を試みたがいずれ
も治療効果は生じなかった。一方、1%リドカインを用
いた試験的な眼窩上神経ブロックで症状が消失した
ことから、高周波熱凝固法を施行したが効果は限定
的で生活の質向上には至らなかった。そこで、4%テ
トラカインを用いて眼窩上神経ブロック行ったところ、
約 6 ヶ月間継続する効果が得られた。ブロック後、一
過性の眼周囲の腫脹が生じたが、それ以外の重篤
な合併症は生じなかった。
症例:47 歳 男性。身長 165cm、体重 70kg (BMI:
26)。職業:運転手。7 年前より誘因なく右下腹部痛
が出現し、他院で内視鏡や審査腹腔鏡を施行する
も要因不明で当院の内科にて 6 年間フォローされて
いた。右下腹部痛の増悪に対してペインセンター紹
介となり、入院精査を施行したが、内科的にも要因
は不明かつ、精神科による診断は心因性の要素は
あるが薬物療法の適応無しであった。当科でのドラ
ッグチャレンジテストの結果は、モルヒネ及びリドカイ
ンは軽度陽性でラボナール・ケタミンは陰性であっ
た。副作用が強く薬剤による疼痛管理のコンプライ
アンスは不良であったことから、神経ブロックを施行
した。診断的くも膜下ブロックで完全に痛みの消失
が得られ、硬膜外ブロックも有効であったことからエ
コーガイドに腹横筋膜面ブロックを 0.375%ロピバカ
イン 20ml のワンショットで施行したところ、NRS3/10 と
低下が認められたため、カテーテルを挿入し 0.2%ロ
ピバカイン 4-6ml/hr で疼痛管理を施行した。持続投
与中は NRS3-5/10 で推移し、抜去後痛みは再度出
現したが、以前より NRS の軽減が認められ仕事への
復帰が可能となった。
考察:テトラカインは 0.5-1.0%以上で神経毒性を呈
するとされる。これまでに高濃度テトラカインによる神
経ブロックが三叉神経痛に有効であることが報告さ
れている。本症例では 4%高濃度テトラカインを用い,
難治性の帯状疱疹後掻痒に対しても長期効果を得
ることができた。局所麻酔薬を用いた眼窩上神経ブ
ロックは、複数に枝分かれした眼窩上神経に浸潤す
るため、より局所的な高周波熱凝固法よりも帯状疱
疹後掻痒に対して有効であったと考えられる。
慢性腹痛症候群に対する持続の神経ブロックに関
するエビデンスは乏しく議論は多いが、診断目的も
含め検討すべき一つの手段と考慮された。
結語: 本症例では、高濃度テトラカインを用いた神
経ブロックが帯状疱疹後掻痒症に有効であった。今
後、症例を重ね、さらなる検討が必要と考えられる。
86
一般演題 P2 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 2)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森﨑 浩
一般演題 P2 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 2)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森﨑 浩
頸髄損傷患者の肩関節拘縮に対する斜角筋
間腕神経叢ブロック併用受動的関節可動域
訓練が有用であった 2 症例
混合性結合組織病の手指症状に対して両側
持続腕神経叢ブロックが奏功した一例
〇 齋藤秀悠*1、武井祐介*1,田島つかさ*1,2,
村上 徹*1,大西詠子*1,志賀卓弥*1,
亀山良亘*1,城田祐子*3,山内正憲*1
〇旭爪章統、堀江里奈、中本達夫*、寺井岳三
大阪労災病院 麻酔科
関西医科大学 麻酔科学講座*
*1 東北大学病院麻酔科,
*2 塩竃市立病院緩和医療内科・ペインクリニック科,
*3 東北大学病院血液免疫科
頸髄損傷患者の肩関節拘縮に対して斜角筋間腕神
経 叢 ブ ロ ッ ク (ISB) 下 に 受 動 的 関 節 可 動 域 訓 練
(PROM)を行うことで効果を挙げた症例を経験した
ので報告する。
混合性結合組織病(MCTD)重度レイノー症状に対
して,鎖骨下アプローチで両側持続腕神経叢ブロッ
クを施行し,ADL 低下を認めず最終的に内服のみ
で痛みをコントロールできた症例を経験したので報
告する.
【症例】40 歳代女性.5 年前に MCTD と診断され,
四肢のレイノー症状による潰瘍,壊疽および痛みが
徐々に進行した.当院血液免疫科で塩酸モルヒネを
30mg/日,フェンタニル貼付剤 4mg/日を投与されて
いたが改善を認めず,内科入院後に当科へ紹介と
なった.
フェンタニル貼付剤に加えて,入院 8 日目に超音
波ガイド下腋窩アプローチで単回投与の左腕神経
叢ブロックを施行した.直後は痛みが緩和したが翌
日には右側も痛みが出現したため,右鎖骨下アプロ
ーチで超音波ガイド下腕神経叢ブロックを施行し,
神経叢内にカテーテルを 2cm 留置した.ADL 低下
を招かないようにレボブピバカインの濃度と量を調節
すると,痛みスコアは NRS でブロック前の 8/10 から
2/10 まで改善した.皮膚症状は改善したがカテーテ
ル刺入部付近の皮下出血を認めたため,入院 21 日
目にカテーテルを抜去しトリプタノール 20mg/日を開
始した.その頃から左手指の潰瘍が悪化してきたた
め,入院 33 日目に左鎖骨下アプローチで持続腕神
経叢ブロックを開始した.入院 61 日目には右手指の
潰瘍の治癒が進まないため,前回と同様に右側にも
カテーテルを留置した.左は 0.17%ポプスカイン
3mL/時,右は 1%リドカイン 3mL/時で ADL に制限は
なく,痛みと潰瘍は改善した.
しかし右第 2 指の壊死部分は改善しなかったため,
形成外科にて不可逆的と判断し入院 64 日目に DIP
関節末梢で切断した.入院 67 日目に両側のカテー
テルを抜去し,フェンタニル貼付剤 8mg/日,トラマド
ール 100mg/日とした.
本症例では適切な局所麻酔薬の量で両側腕神経
叢ブロックを施行し,ADL の低下を招くことなく症状
の改善ができた.
【症例 1】50 代男性。交通事故で第 6 頸髄を損傷、
両下肢完全麻痺・両上肢不全麻痺となった。右鎖骨
骨折併発による治癒時の骨短縮と上肢不全麻痺に
よる運動制限から、右肩関節拘縮を生じ、ADL 獲得
に障害を来していた。右の肩峰下滑液包内注射
(SAB)後に右肩関節受動術を施行し、その後 3 回に
わたって右 ISB 下の PROM を行うことで可動域の拡
大を得た。
【症例 2】30 代男性。仕事中の転落事故により第 4
頸髄レベル以下の完全麻痺となった。その後のリハ
ビリで右上肢の自動運動が可能になったが右肩関
節の拘縮が ADL 獲得の障害となっていた。右肩の
インピンジメントを認めたことから右 SAB と右 ISB を
施行し、3 回にわたって PROM を行うことで可動域の
拡大を得た。
【考察】脊髄損傷患者において上肢機能は患者の
QOL 向上に大きな影響を及ぼす。特に両腕で臀部
を浮かせるプッシュアップは車いすやトイレなどでの
移動訓練だけでなく、褥瘡予防という点からも大きな
意味を持つ。これらのことから、肩関節可動域を維
持することは脊髄損傷患者の生活における重要な
ポイントとなる。特に頸髄損傷患者の場合は障害が
上肢の運動に影響を及ぼすことから肩関節の運動
制限を来しやすく、肩関節の可動域訓練は必須のも
のとなる。ISB では横隔神経麻痺が必発であり、これ
らの患者への施行には呼吸補助筋の残存機能が重
要となる。今回の両症例では、呼吸機能検査にて十
分な肺活量が確保されており、片側の横隔神経麻
痺が生じても酸素化は保たれるとの判断から同処置
を行った。両症例とも ISB により十分な鎮痛と筋弛緩
を得た状態で PROM を行うことで拘縮の改善が得ら
れた。
【結語】頸髄損傷患者における肩関節への PROM
に対して ISB を併用することで機能改善に寄与する
ことができるものと考える。
87
一般演題 P2 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 2)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森﨑 浩
一般演題 P2 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 2)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森﨑 浩
超高齢者に対し末梢神経ブロックを施行し良
好に管理しえた 1 例
鎖骨骨折に対する腕神経叢ブロックの効果
〇河嶋 朗、棚田和子、田中素成、呉本善聡
〇金城永明、渡海裕文
石切生喜病院麻酔科
兵庫県立淡路医療センター麻酔科
(はじめに) 鎖骨骨折の術後疼痛に対し、非ステロ
イド性消炎鎮痛薬、麻薬拮抗性鎮痛薬等が使用さ
れる。それらの中には術後の嘔気、嘔吐を増強させ、
術後の早期回復を妨げるものもある。副作用を軽減
させ周術期の質を向上させる目的として神経ブロッ
クが有用となり得る。しかし、反対に術後回診でブロ
ックを行った症例の方がむしろ術後疼痛薬の必要量
が多いのではないかとの印象を受けたため、後ろ向
きに鎖骨骨折での腕神経叢ブロックの効果を調査し
た。
【はじめに】近年高齢者の術後せん妄の予防が、そ
の後の認知機能の低下予防やリハビリの進行にとっ
て重要であることが言われている。せん妄の予防の
1 つに適切な術後疼痛管理が重要であるとされてい
る。今回超高齢者の骨折手術において末梢神経ブ
ロックを併用することで良好な術後鎮痛を得られ、明
らかな術後せん妄を認めることなく管理しえた 1 例を
経験したので報告する。
(方法)2011 年5月から 2013 年9月まで鎖骨骨折に
対し観血的整復固定術が施行された
17 名について調べた。術後に使用された鎮痛薬の
使用量、初期投与時間を全身麻酔単独群(全麻群)
と全身麻酔+腕神経叢ブロック群(全+伝麻群)に分
け比較検討した。鎮痛薬はロキソプロフェン 60 ㎎を
適宜内服した。無効と判断された場合はジクロフェ
ナク 50 ㎎の坐薬が使用された。統計分析には
Mann-WhitneyU 検定を用い P<0.05 で有意差ありと
した。
【症例】105 歳の女性で施設入所中。夜間のトイレ移
動の際に転倒して受傷。右上腕骨骨幹部骨折に対
し観血的骨接合術が予定された。既往歴は心不全、
右大腿骨頸部骨折、慢性腎不全であった。施設で
は傾眠傾向であったが明らかな認知症状は認めら
れていなかった。患者家族より術後の認知機能低下
に対する不安が強かった。
【麻酔】ミダゾラム、ロクロニウム、レミフェンタニルを
用いて全身麻酔導入し、気道確保は挿管とした。麻
酔維持はデスフルラン 3%で行った。全身麻酔導入
後にエコーガイド下に右鎖骨上アプローチにて腕神
経叢ブロックを施行。0.375%アナペイン 16ml を投
与した。フェンタニルは術後の呼吸抑制や覚醒遅延
のリスクを考慮し使用しなかった。術後はスガマデク
スによって拮抗したのち覚醒抜管とした。
術後の疼痛の訴えはなく、明らかな神経麻痺や局所
麻酔中毒を疑う所見は認めなかった。術翌日からは
アセトアミノフェン内服による疼痛コントロールを行い
疼痛は自制内で経過した。家族の主観もあるが、明
らかな認知機能低下を認めることなく推移し施設に
退院となった。
(結果)全麻群では 5 人中 4 名に、全+伝麻群では
12 人中 12 名全員に鎮痛薬が投与されていた。ロキ
ソプロフェンの使用量は全麻群で中央値 0(範囲:
0-1)個、全+伝麻群で中央値 2(範囲:1-3)個、で有
意差は認めなかった。ジクロフェナクは全麻群で中
央値 0(範囲:0-1)個、全+伝麻群で中央値 0.5(範
囲:0-5)個で有意差は認めなった。初回鎮痛薬投与
時間は全麻群で平均 381(範囲:30-705)分、全+
伝麻群で平均 340(範囲:150-475)分で有意差は
認めなかった。
(結語)鎖骨骨折の手術に対し、術後疼痛を軽減さ
せ、早期回復を促す目的で全身麻酔に腕神経叢ブ
ロックを併用してきた。期待に反し、ブロックの併用
は術後鎮痛薬には影響を及ぼさなかった。腕神経
叢ブロックは全身麻酔の回避が望まれる症例には
周術期の質を向上させる可能性はあるが、術後鎮
痛に関しては効果が乏しい可能性もある事が示唆さ
れた。術後の質の向上には持続神経ブロックが必要
なのかもしれない。
【結語】超高齢者の骨折手術において全身麻酔に
末梢神経ブロックを併用することで術後の良好な疼
痛管理を得られただけでなく、明らかな認知機能低
下を起こすことなく管理しえた。
88
一般演題 P2 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 2)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森﨑 浩
一般演題 P2 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 2)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 森﨑 浩
交差法エコー下斜角筋間法腕神経叢ブロッ
クに浅頚神経叢ブロックが遅発した症例
関節鏡下肩腱板修復術に対する持続腕神経
叢ブロック中に一過性の反回神経麻痺をきた
した 2 症例
〇榎原 純、富田信行*
〇吉山勇樹 1,2,安藤尚美 1,藏當辰彦 1
溝口外科整形外科病院
如水会 今村病院*
丸の内病院 1,
【背景】近年リスク管理の観点からエコー下神経ブロ
ックが注目されている。各メーカーも専用の穿刺針
やカテーテルを続々と発売しており、末梢神経の持
続鎮痛法もスタンダード化しつつある。エコー下神
経ブロックは交差法と平行法のそれぞれに利点や
注意点があるが、ここでは交差法エコー下による斜
角筋間法腕神経叢ブロック及びカテーテル挿入の
数日後に浅頚神経叢ブロックが出現した経験を 2 例
紹介する。
信州大学医学部麻酔蘇生学教室 2
関節鏡下肩腱板修復術における激しい術後痛は,
そのコントロールにしばしば難渋する。斜角筋間腕
神経叢ブロック(interscalene brachial plexus block:
ISBPB)は,肩腱板断裂に対する質の高い鎮痛をも
たらすことが示されている。さらに近年では持続用カ
テーテルを留置し,長期間の鎮痛を得ることが可能
となってきた。今回我々は,関節鏡下肩腱板修復術
【症例】51 歳、男性。身長 165cm、体重 70kg。軽度
鎮 静 下 に 、 神 経 刺 激 装 置 を 接 続 し た
Contiplex®C(ビー・ブラウンエースクラップ®)を用い
て、交差法エコー下にて斜角筋間法腕神経叢ブロ
ックを行った。腕神経叢周囲に 0.4%levobupivacain
を 10mL 注入しカテーテルを挿入し、更にエコー下
に 10mL 注入した。術後は 0.25%levobupivacaine を
4mL/h で持続注入した。疼痛コントロールは良好で
あったが穿刺 46 時間後に右頬部、耳介及びその周
囲のしびれの訴えがあった。浅頚神経叢ブロックを
疑いカテーテルを抜去し、約 7 時間後にしびれの訴
えはなくなった。もう 1 症例もほぼ同様の経過を辿っ
た。
に対する持続 ISBPB の施行中,術後 3,4 日後に初
めて一過性の反回神経麻痺をきたした 2 症例を経
験した。2 症例とも,0.2%ロピバカインの持続投与(5
ml/h)と 6 時間ごとのボーラス投与を術後から施行し
ていたが,術後 3,4 日後に嗄声や嚥下困難が出現し,
うち 1 例は経鼻的喉頭ファイバースコープ検査で
ISBPB と同側の反回神経麻痺が診断された。ただち
に持続投与を中止し経過観察したところ,反回神経
麻痺が改善したため,ボーラス投与量を減じて再開
した。以降,反回神経麻痺は出現しなかった。
ISBPB の合併症には,局所麻酔薬中毒,神経損傷,
横隔神経麻痺,反回神経麻痺,ホルネル症候群,
【考察】交差法エコー下で斜角筋間法腕神経叢ブロ
ックを行う場合、カテーテルは浅頚神経叢を構成す
る小後頭神経、大耳介神経、頸横神経、鎖骨上神
経が存在する胸鎖乳突筋後縁近傍を通って前斜角
筋と中斜角筋の間の腕神経叢近傍に留置される。
カテーテル挿入長が何らかの要因で短くなると先端
の位置が胸鎖乳突筋後縁近傍に移動し、浅頚神経
叢ブロックをきたすことがある。顔面の知覚障害は患
者にとって不快感や不安感が強く、2 例ともカテーテ
ルによる鎮痛効果があったにもかかわらず患者の希
望により抜去されている。浅頚神経叢ブロックの可能
性を術前に説明することにより、不安感からくる疼痛
コントロールの放棄を減らせるかもしれない。
気胸,くも膜下・硬膜外投与,徐脈・低血圧,感染な
ど が あ る 。 こ の う ち 反 回 神 経 麻 痺 は単 回 投 与 で
3-20%,持続投与で 0-0.9%との報告がある。対側の
頸部手術や頸部放射線治療の既往があり嗄声など
の症状がある場合,両側反回神経麻痺が生じる可
能性があり,高度気道閉塞や誤嚥性肺炎を発症す
るおそれがあるため,ISBPB 施行は避けるべきであ
る。また,持続 ISBPB の施行中は反回神経麻痺が
発生する可能性があるため,常に慎重な観察を必
要とする。
89
一般演題 P3 ポスター研究演題(疼痛管理・ペインクリニック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 平川奈緒美
一般演題 P3 ポスター研究演題(疼痛管理・ペインクリニック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 平川奈緒美
腹腔鏡下胆嚢摘出術における腹壁ブロックの
有用性に関する検討
腰椎固定術における塩酸モルヒネ・レボブピ
バカイン仙骨硬膜外投与の術後鎮痛効果
〇横山暢幸、住友正和
〇齊藤和裕、新山和寿、草谷洋光、田中行夫、
池上仁志*
横須賀共済病院 麻酔科
貢川整形外科病院麻酔科
貢川整形外科病院整形外科*
【背景】腹腔鏡下胆嚢摘出術(Lap-C)は開腹術より
低侵襲だが,ときに中等度以上の術後痛を生じる.
近年,硬膜外麻酔に代わり末梢神経ブロック(PNB)
の注目が高まっている.今回,当院 Lap-C で PNB の
有用性を後ろ向きに検討した.
【目的】腰椎固定術にモルヒネ・レボブピバカインを
仙骨硬膜外投与し術後鎮痛効果を検討した。
【対象と方法】2012.7~2016.1、ASA2 以下 50 名をモ
ルヒネ+生食 20m(M 群)、レボブピバカイン 20ml(L
群)、モルヒネ+レボブピバカイン 20ml(ML 群)、モル
ヒネ+レボブピバカイン 10ml(ML10 群)、ivPCA のみ
(C 群)の 4 群に分けた(各群 n=10)。フェンタニル・プ
ロポフォール・ロクロニウムで導入、セボフルラン・プ
ロポフォール・レミフェンタニルで維持。挿管し腹臥
位後仙骨硬膜外麻酔施行。執刀時 i.v-PCA 開始。リ
カバリー到着時,1,3,6,12,24 時間後の疼痛を疼痛評
価スケール(NRS)にて評価。鎮痛薬使用回数・副作
用(嘔気・嘔吐)・翌日患者満足度を 5 段階評価した。
各群間統計は Mann-Whitney 検定、χ2・Fisher 直接
確率法で関連性を比較した(p<0.05 を有意)。
【結果】NRS は帰室時 ML・ML10 群が C 群に比べ
優位に低かった。6、12 時間後 ML10 群がL・C群に
比べ優位に低かった。24 時間後は ML10 群がL・
ML 群に比べ優位に低かった。 鎮痛薬使用回数は
坐薬・PCA は C 群が ML 群より優位に多く、坐薬は
ML10 群が ML 群より優位に多かった。副作用は群
間差なく、女性に多くモルヒネとの関連性はなかった。
患者満足度は M・ML・ML10 群が L 群と比べ優位に
高かった。
【考察】使用した薬剤は共に長時間作用型であるが、
①骨の変形で薬液がしっかり広がらず、除圧開窓時
に薬液が吸引され、十分な鎮痛が得られなかった
(しかし、ML10 群では、NRS がMLよりも低いが、鎮
痛薬使用回数も多かった)。②持続投与での報告で、
局所麻酔薬とオピオイド併用は痛覚神経遮断域の
狭小化を抑制、局所麻酔薬の鎮痛作用を強める。
③マクロファージは炎症型(M1)、抗炎症型(M2)の
極性があり、モルヒネは M1 を M2 へ誘導する。以上
よりレボブピバカイン・モルヒネ併用群は NRS が低く、
鎮痛使用回数も少なく、満足度も高かったと考えた。
副作用は麻酔・i.v-PCA による影響と考えた。
【結語】投与量にまだ問題はあるが、レボブピバカイ
ン・モルヒネ併用が術後鎮痛に有効と考えた。
【方法】2015 年 9 月~12 月の Lap-C 症例で診療録・
麻酔記録を調査した.患者背景,麻酔法(PNB の有
無,fentanyl 投与量,麻酔時間),術後鎮痛(頓用の
静注鎮痛薬の使用回数・時期)等について PNB あり
群(B 群)となし群(N 群)で比較し,T検定・χ2検定・
U検定を行い p<0.05 を有意差ありとした.
【結果】対象は B 群 15 例,N 群 38 例,患者背景・
手術時間に有意差はなかった.B 群では全麻導入
後に肋弓下腹横筋膜面ブロック,腰方形筋ブロック,
腹直筋鞘ブロックが適宜行われ,局麻薬は
levobupivacaine を 0.25 % ( 55 ~ 60 ml ) , ま た は
0.25%(20 ml)と 0.2%(40~50 ml)の組み合わせで
あった.N 群では閉創時に執刀医により創部浸潤麻
酔(0.375% ropivacaine 20ml または 0.75% 同薬
10ml)が行われた.B 群は術中 fentanyl 投与が多く
(335 mcg vs 268 mcg,p<0.01),入室~執刀の時間
が長かった(45 分 vs 36 分,p<0.01).B 群 1 例,N
群 6 例は術後に fentanyl 持続静注が行われ,それ
以 外 の 症 例 で 静 注 鎮 痛 薬 ( acetaminophen ,
flurubiprofen axcetil,pentazocine)頓用は B 群で少
なく(1.6 回 vs 2.5 回,p<0.01),とくに術後 12 時間
以 前 が 少 な か っ た ( 4 例 ;28% vs 16 例 ;50% ,
p<0.01).
【結語】Lap-C に対する PNB で術後の静注鎮痛薬の
使用が減少した.PNB は同術式の鎮痛に有効な可
能性がある.
90
一般演題 P3 ポスター研究演題(疼痛管理・ペインクリニック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 平川奈緒美
一般演題 P3 ポスター研究演題(疼痛管理・ペインクリニック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 平川奈緒美
TKA 術後の膝窩部痛と膝関節機能回復に
対する選択的脛骨神経ブロックと坐骨神経ブ
ロック(SNB)の比較検討 (2016 年区域麻酔)
乳房再建術の当院における周術期疼痛管理
〇吉本嘉世、赤塚正文
市立ひらかた病院
〇吉沼裕美、小林 収
亀田総合病院 麻酔科
当院は、2013 年 4 月より常勤の形成外科医をむ
はじめに
人工膝関節置換術(TKA)後は膝窩部の痛みを訴
える患者が多く、以前は膝窩部の痛みを取り除くた
め当院では坐骨神経ブロックを施行していた。しか
し、坐骨神経ブロック(SNB)により、TKA の合併症
の一つである腓骨神経麻痺を見逃す危険があり、現
在は選択的脛骨神経ブロック(TNB)を施行している。
今回、我々は持続大腿神経ブロック(CFNB)に坐骨
神経ブロック(SNB)または TNB を併用した TKA 症
例おいて術後疼痛効果、機能回復指標としての膝
屈曲角度に関してそれぞれ後向きに比較検討した。
方法
当院にて TKA を施行した症例のうちで 2012 年 9 月
から 2013 年 8 月当院で CFNB と SBN を施行した
38 症例(SNB 群)と 2014 年 9 月から 2015 年 7 月に
CFNB と TNB 施行した 38 症例(TNB 群)を対象とし
た。両群とも術前に超音波ガイド下を用い CFNB と
SNB または TNB を施行した。SNB 群では 0.15%ロ
ピバカイン 20ml、TNB 群では 0.15%ロピバカイン
10ml を単回投与した。両群とも手術終了後に CFNB
より 0.2%ロピバカイン 6ml/hr で持続投与を開始し
た。
術当日、術後1、4日目の安静時の膝全体と膝前面、
膝後面のペインスケール、屈曲時のペインスケール
(Visual analog scale)、術後 1,4,7 日の屈曲角度をそ
れぞれ両群間で比較検討し、p<0.05 を有意差ありと
した。
結果
術後のいずれのペインスケールでは両群に有意差
は認めなかった。膝屈曲角度に関しても両群間で有
意差は認めなかった。
考察
術後の腓骨神経麻痺は 0.3-10%であると報告されて
いる。TNB では腓骨神経麻痺がおこらないため、術
後早期に腓骨神経障害が発見できる利点がある。
今回の結果からも TNB は SNB と同様の鎮痛効果と
屈曲角度が得られており、TKA 術後の疼痛管理に
TNB を施行することは有用であると考える。
かえ乳房再建術を行うようになった。当科は以前よ
り周術期疼痛コントロールに重きをおいている。メ
ジャーでは無いが乳房切除後疼痛症候群
(Postmastectomy Pain Syndrome:PMPS )や術後
不定愁訴に悩む患者も多いと乳腺外科医からの
意 見 や
Multimodal analgesia ・ Pre-emptive
analgesia の観点、長時間手術による術後 DVT 発
生リスクの可能性などを考慮し、現在周術期鎮痛
方法を模索中である。
術式に応じて、持続オピオイド投与・神経ブロッ
ク・硬膜外持続鎮痛など、どのような疼痛管理を行
うかにより、術後の CRPS や DVT 発生頻度に影響
するのかを文献的考察を加えながら、当院の過去
3 年間の乳がん患者における麻酔方法と疼痛コン
トロールを後方的に検討した。症例を提示するとと
もに、今後も区域麻酔を組み合わせた周術期管理
を検討する。
91
一般演題 P3 ポスター研究演題(疼痛管理・ペインクリニック)
4 月 15 日 10:00~11:00 座長 平川奈緒美
一般演題 O3 口演研究演題(超音波ガイド下神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 上村裕一
癌性疼痛に対する内臓神経ブロックの効果
〜37 症例の後方視的調査
超音波ガイド下神経ブロックにおける装着型
ディスプレイの有用性
〇岩木俊男1、清水一好2、藤井洋泉3
〇森脇翔太、糟谷祐輔、稲野千明、深田智子、
尾崎 眞
天和会松田病院 麻酔科1
岡山大学病院手術部2
梶木病院麻酔科3
東京女子医大学 麻酔科学教室
【背景】近年、装着型ディスプレイが開発されており、
術野から視線を外すことなく超音波画像を確認する
ことで超音波ガイド下神経ブロックをより的確にでき
る可能性がある。JVCケンウッド社開発中の「ニア・ア
イ・ディスプレイ(試作機)」(NED)を用いて、超音波
ガイド下神経ブロックにおける装着型ディスプレイの
有用性を検討した。
【はじめに】腹腔神経叢ブロックは内臓由来の癌性
疼痛に対する有効な鎮痛療法の一つであるが、腹
腔神経叢ブロックの代用として内臓神経ブロックが
行われることがある。当院で行った内臓神経ブロック
の効果について後方視的に調査した。
【方法】対象は、2011 年から 2015 年の 5 年間に癌性
疼痛に対して内臓神経ブロックを施行した 37 症例
(のべ 43 回)。ブロックは同一施行者により行い、
透視下に正中やや右側からアプローチする経椎間
板法で行った。穿刺目標は、Th11/12、Th12/L1、
L1/2 のうち腹腔動脈起始部付近の椎間板とした。針
先を大動脈右側に留置し、椎体後面、横隔膜脚、大
動脈で囲まれた内臓神経が存在するコンパートメン
トへの造影剤含有 2%リドカインの拡がりを透視下で
確認し、10 分後に 99%エタノールを注入した。カル
テから患者背景、ブロック前の VAS、ブロック後(施
行後 3-7 日後)の VAS、ブロックによる合併症の有無
などを抽出し、ブロック前後の VAS および合併症の
有無を比較した。
【結果】年齢は 64 歳(58.8, 74.3)(中央値、四分位
点)、性別は男性が 20 人(54.1%)、原疾患は膵癌
22 人が最多で、手術不可能症例は 24 人(64.9%)で
あった。各手技は 1 回の注入のみで終了し、全例で
両側への造影剤の良好な拡がりを認めた。注入した
エタノール量は中央値 10ml で、手技時間は 30 分以
内であった。ブロック後の VAS は、ブロック前に比べ
有 意 に 低下 した ( 5.5 (3, 7.3 ) vs 1 ( 0, 2 ) , p <
0.0001 )。血圧低下、アルコール性神経炎などの合
併症は全例で認めなかった。ブロック前後の経口鎮
痛薬は癌の進行度により様々で、比較出来なかっ
た。
【結語】内臓神経ブロックの適応有りと判断された症
例では、透視下での経椎間板法による手技は合併
症無く安全かつ短時間で施行でき、疼痛を効果的
に軽減できた。
【方法】シミュレーターを用いて術野の上部から穿刺
する方法(Standard法)と、下面から穿刺する方法
(Upside-down法)の二通りの方法を、通常の超音波
ガイド下穿刺法(通常群)とNEDを使用して行う方法
(NED群)の2つの穿刺方法で比較した。プローベを
当ててから穿刺を開始するまでの時間(T1)、穿刺開
始から目標到達までの時間(T2)、さらにT2のうち超
音波画像で穿刺針が確認できる時間の割合(R1)を
測定した。
【結果】被験者8名は、2種類の神経ブロック法を、通
常群、NED群それぞれ3回ずつ施行し、計96手技が
解析された。Standard法ではT1(6.0±1.7, 7.1±2.9秒
(p=0.06)), T2(10.4±7.2, 6.8±5.3 秒 (p=0.03)),
R1(34.1±20.9, 56.5±13.6%(p<0.001))、Upside-down
法 で は T1(11.2±3.9, 10.7±4.1 秒 (p=0.71)),
T2(18.1±10.1, 11.8±9.5秒(p=0.002)), R1(20.1±13.4,
38.2±21.2%(p=0.001))であった。
【考察・結論】NED 使用により T2 が短縮し、R1 が増
加した。超音波画像と術野を同時に確認でき、視線
を動かすことなく手元の操作が可能なことは有利で
ある。従来の方法に十分習熟した被験者が事前のト
レーニングなしに初めて装着型ディスプレイを経験
したにもかかわらず利点を示したことは注目に値し、
NED の有用性が示唆された。
92
一般演題 O3 口演研究演題(超音波ガイド下神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 上村裕一
一般演題 O3 口演研究演題(超音波ガイド下神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 上村裕一
超音波ガイド下腹直筋鞘ブロックを併用した
小児腹腔鏡下虫垂切除術後の
acetaminophen 使用量の推移について
肛門部手術に対する超音波ガイド下仙骨硬
膜外ブロックの効果の検討
〇仲野耕平 1) 岡部格 2) 田中俊輔 2) 鎌形千尋 3)
坂本篤裕 1)
〇天日 聖
1)日本医科大学麻酔科学教室
2)株式会社日立製作所 ひたちなか総合病院
3)公益財団法人結核予防会 複十字病院
小松市民病院 麻酔科
【はじめに】超音波診断装置の進歩などにより、小児
【緒言】
肛門部の手術の際、仙骨硬膜外ブロックは肛門
括約筋の十分な筋弛緩と鎮痛が得られる、長時間
の安静が必要ない、合併症が少ないなどの利点が
ある。しかし小児では手技が容易だが成人例では肥
満や仙骨裂孔の加齢変化により困難となり成功率が
70-80%と低いことが欠点であった。近年小児領域で
超音波ガイドの有用性が多数の報告で示されており
成功率の向上が期待できるようになった。そこで今
回成人での超音波ガイド下仙骨硬膜外ブロックの有
用性について検討することとした。
でもより安全に鎮痛処置として超音波ガイド下末梢
神経ブロック(PNB)が行えるようになってきた。PNB
を用いることで周術期における鎮痛剤投与量の減
少が期待されるが、PNB 施行例の術後の鎮痛剤投
与量の継時的変化については定見がない。小児で
は鎮痛剤として acetaminophen(AAP)が使用される
ことが多い。今回、超音波ガイド下腹直筋鞘ブロック
(RSB)を併用した小児腹腔鏡下虫垂切除術後の
AAP 使用量の推移について後ろ向きに調査した。
【方法】
2014 年 2 月から 2015 年 3 月までに肛門部手術を
おこなった 22 症例を対象とした。情報は電子カル
テ・麻酔記録より入手し効果を後ろ向きに検討した。
【対象と方法】2015 年 4 月~12 月までに当院で単孔
式腹腔鏡下虫垂切除術を受けた 6~15 歳の小児 24
例を対象とした。全身麻酔導入後に 0.375%ロピバカ
【結果】
22 症例のうち 18 症例で全身麻酔併用超音波ガイ
ド下仙骨硬膜外ブロックが施行されており(仙骨ブロ
ック群)、4 例で全身麻酔のみで(全身麻酔群)施行
されていた。仙骨ブロックの際 5 例で 0.2%ロピバカ
イン 20ml が 13 例で 0.1%ロピバカイン 20ml が投与
されていた。仙骨ブロック群では術後に強い疼痛を
訴えた症例はなかったが全身麻酔群では 2 例で術
直後より強い疼痛を訴えていた。仙骨ブロック群で
は 1 例で術後 17 時間後にブブレノルフィン 0.2mg
を使用していたが全身麻酔群では 2 例でペンタゾシ
ンを、1 例でフルルビプロフェンを頻回に使用してい
た。術中のフェンタニルの使用量は仙骨ブロック群
で 97±44μg、全身麻酔群で 200±82μg と仙骨ブロック
群で有意に少なかった。全例で重篤な合併症はみ
られなかった。
インを片側当たり 0.3ml/kg 使用し超音波ガイド下に
両側 RSB を単回施行した。術中はセボフルラン、レ
ミフェンタニルで麻酔維持した。AAP 使用量は、手
術室退室時を術後 0 時間とし、術後 0~24 時間・術後
24~48 時間・術後 48~72 時間の 3 区間について比較
した。なお、統計処理は分散分析の後に多重比較
(Bonferroni 法)を行い、P<0.05 で有意とした。
【 結 果】 術後 0~24 時間の平 均 AAP 使用 量 は
5.4±5.5mg/kg、術後 24~48 時間では 12.0±9.9mg/kg、
術後 48~72 時間では 4.4±7.5mg/kg であった。AAP
使用量は、術後 24~48 時間に比べで術後 0~24 時
間、術後 48~72 時間で有意に減少した(P<0.05)。
【考察】
今回の検討では超音波ガイド下仙骨硬膜外ブロ
ックは 100%の成功率を示した。また術後に強力な
鎮痛剤を必要とした症例も 18 例中 1 例しかなく高い
術後鎮痛効果を示した。肛門部の手術に超音波ガ
イド下仙骨硬膜外ブロックは有用と考えられた。
【結語】RSB を併用した小児腹腔鏡下虫垂切除術に
おいて、術後 0~24 時間での AAP 使用量は、術後
24~48 時間に比べで有意に減少する可能性が示唆
された。
93
一般演題 O3 口演研究演題(超音波ガイド下神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 上村裕一
一般演題 O3 口演研究演題(超音波ガイド下神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 上村裕一
当院における超音波ガイド下神経ブロック導
入の経緯と展望
乳腺腫瘍手術の麻酔管理に胸横筋膜面ブロ
ックを併用した 5 症例:手技のポイント
〇升森 泰、宮川秀俊、西木戸修、井上荘一郎
〇樋田久美子、村田寛明、酒井亜輝子、前川拓治、
原 哲也
聖マリアンナ医科大学 麻酔学教室
長崎大学医学部麻酔学教室
【はじめに】
近年、肋間神経前皮枝を標的とし内肋間筋と胸横
筋の間(胸横筋膜面:TTP)に局所麻酔薬を注入す
る TTP ブロックが報告された。乳腺腫瘍切除術の周
術期疼痛管理に TTP ブロックを実施した 5 症例から
得られた手技のポイントについて報告する。
当院は年間約 9000 件の手術件数をこなす大学病
院であるが、病院のインフラやマンパワーの問題か
ら超音波ガイド下末梢神経ブロック(US-PNB)導入か
ら目をそむけてきた。近年、末梢神経ブロックをマル
チモーダル鎮痛の中心として導入する施設は急増
【症例】
麻酔は全身麻酔と TTP ブロックを含む超音波ガイド
下末梢神経ブロックを併用した。高周波リニアプロー
ブを用いて手術側の胸骨外側縁で第 5 肋軟骨の長
軸像を描出し、プローブを頭側に平行移動すること
で第 4 肋間における穿刺位置を決定した。TTP を同
定し、内側から外側に向けた平行法で針を刺入し
0.2%ロピバカイン計 15 mL を注入した。
し、麻酔科医の標準的な技術になりつつある。今回、
US-PNB を導入した経緯と展望を報告する。当院で
は、US-PNB ハンズオンワークショップや勉強会に参
加し、興味のあるものはいたが、導入するきっかけが
なかった。研修施設の声かけで、短期研修プログラ
ムに参加し、実際に US-PNB を行い、効果を知ること
が大きな転機となった。しかし、当院の環境やシステ
【結果】
全例で適切に TTP ブロックを実施でき、周術期の肋
間神経前皮枝領域の鎮痛は良好であった。1 例で
薬液注入前に血液を吸引したため、圧迫止血後に
第 3 肋間に穿刺部位を変更したが、血腫形成などの
合併症は生じなかった。全例でプレスキャン時に肋
骨の場合とは異なり肋軟骨の深層に胸膜の動きを
認めた。2 例でプレスキャン時には TTP の同定が困
難であり、hydrolocation により、針先を適切な位置に
誘導した。TTP に正しく注入された局所麻酔薬は肋
軟骨の下面に広がり、胸膜の胸腔側への移動が観
察された。一方、内肋間筋の表層に注入された局所
麻酔薬は肋軟骨の表層へ広がり、胸膜の移動を伴
わなかった。カラードップラーで同定した内胸動静
脈の短軸像は TTP の同定に有用であった。また、針
の刺入経路となる胸骨外側縁近傍の肋間にはカラ
ードップラーで血流が豊富に認められた。
ムが異なっていたため、できる範囲の環境整備とシ
ステム構築が必要であった。JSURA ガイドラインをも
とに安全かつ効率的に質の高い術後鎮痛を目指し
た。技術向上のために超音波画像を記録し、ブロッ
ク効果、有害事象、合併症の発生に関するログブッ
クを作成することでフィードバックを行った。リスクの
ない緊急手術症例を対象としてブロック(TAP)を行
い、その後、定時手術(大腿神経、閉鎖神経から始
め、TAP、坐骨神経、腕神経叢、傍脊椎)を対象に導
入した。教育機関であるため、ローテーション制でブ
ロックチームを作り、教育指導、技術知識向上のた
めに症例検討会を定期的に開催した。外科医やコメ
ディカルを対象とした勉強会を行うことで周術期管
【結語】
全身麻酔と TTP ブロックを併用した乳腺腫瘍手術の
麻酔管理を経験した。TTP ブロックの安全かつ確実
な実施には、肋軟骨と肋骨の超音波特性の違いの
認識、hydrolocation と内胸動静脈を指標にした TTP
の同定と適切な部位への局所麻酔薬注入、カラード
ップラーを用いた血管誤穿刺の回避が重要である。
理チームとしての結束力も強めた。幸いなことに、外
科医や看護師からの評判も良く、十分な理解が得ら
れている。また、US-PNB は、医学生の興味も高く新
たな入局希望の一助となることも期待された。今後、
当院オリジナルのシステムを構築し、効率良く手術
運営する方法を検討し、質の高い術後鎮痛を図るよ
う努力していく方針である。
94
一般演題 O4 口演研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 河本昌志
一般演題 O4 口演研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 河本昌志
開心術における傍胸骨部肋間神経ブロック
併用麻酔の試み
当院の体幹ブロックでは安全な局所麻酔投
与量が守られているか?
〜過去1年間の振り返り〜
〇野々垣幹雄
〇熊野穂高、森下 淳
市立四日市病院 麻酔科
東大阪市立総合病院 麻酔科
【はじめに】腹直筋鞘(RS)ブロックおよび腹横筋膜面
(TAP)ブロックは体幹部の神経ブロックであり、前腹壁
に創が及ぶ手術や処置に対する鎮痛を目的に広く行
超音波ガイド下神経ブロックを心臓外科手術に併
用することで、手術中・術後の有効な鎮痛が得られ
われている。しかし、これらは直接神経を標的とするブ
ロックとは異なり、付近に存在する末梢神経を目標に
局所麻酔薬を浸潤させるコンパートメントブロックである。
るかを検討した。
方法:予定開心術患者 10 名を対象とした。平均年
齢 68.7±10.1 歳 、男 女 比 6/ 4 、平 均 身 長 ・ 体 重
このため局所麻酔薬が多量に必要となり、局所麻酔中
毒の発症に注意しなければならない。当院では、常勤
の麻酔科医全員がエコーガイド下神経ブロックの技術
をほぼ習得し、積極的にこれらのブロックを活用してい
161.9±5.6cm、61.0±6.6 kg であった。麻酔導入維持
はプロポフォール、レミフェンタニル、フェンタニルを
用いた。全身麻酔下に両側傍胸骨部第2・3及び第
る。今回、過去 1 年間の両ブロックについて振り返り、
患者因子と薬物投与量との関連を調査した。
4・5肋間において超音波ガイド下の肋間神経ブロッ
クをロピバカインにて行った。胸骨縦切開時の脈拍
数、平均動脈圧と術中、術後のフェンタニル、レミフ
【方法】2015 年 1 月~12 月に RS ブロックあるいは TAP
ェ ン タ ニ ル の 使 用 量 、 術 後 の numeric rating
ブロック(またはその両方)が施行された症例(RS:136
例、TAP:153 例、R+T:55 例)について、患者因子(年
齢、性別、体重など)と薬物(レボブピバカイン)投与量
score(NRS)の評価をした。
結果:胸骨縦切開時の脈拍数と平均動脈圧はそれ
との関連を、麻酔記録より調査した。統計処理は
Mann-Whitney’s U 検定および Spearman 検定を用い
た。
ぞ れ 、前 67.7±15.9 bpm、 69.1±13.1 mmHg 、 後
70.3±11.9bpm、70.3±11.9 mmHg で有意差なし。術
中フェンタニル使用量は 4.47±1.4 μg/kg、レミフェン
【結果】薬物の平均総投与量は RS:34.7ml(体重当たり
平均 1.48mg)、TAP:39.1ml(同 1.69mg)、R+T:46.0ml
(同 2.05mg)で、複数ブロック症例では単独症例と比較
タニルは 37.5±7.7 μg/kg、術後のフェンタニル使用
量は 9.52±2.8 μg/kg、であった。術後安静時 NRS は
Median で術直後 1.95、1POD 0.5、2POD 0、3POD
し有意に投与量が多かった。レボブピバカインの最大
使用可能量といわれている 3mg/kg を超える症例は
RS:1 例(0.7%)、TAP:1 例(0.7%)、R+T:5 例(9.1%)
あった。RS ブロックでは年齢と薬物投与量に正の相関
0、1POW 0、1POM 0.25、体動時 NRS は Median で
術直後 2、1POD 3.5、2POD 5、3POD 4、1POW
3.5、1POM 1 であった。
(高齢になるほど体重当たりの投与量が多くなる傾向)
がみられた。局所麻酔中毒の合併症はなかった。
考察:術後の NRS の変動は安静時に関して低下傾
向を認めるが、体動時痛は 2POD をピークとした変
【考察】レボブピバカインの投与量が安全域を超える症
化が見られた。また、胸骨縦切開に対しては、執刀
例もあった。複数のブロックを併用する場合は、特に注
意が必要である。また、RS ブロックについては体重当
たりの薬物投与量が年齢と正の相関を示している点に
前にフェンタニルを 3μg/kg 投与しており、神経ブロッ
クの効果かどうかについては断定し難い。
結語:開心術での傍胸骨肋間神経ブロック併用全
も留意が必要である。当院では、これまで幸運にも局
所麻酔中毒を発症した症例はないが、今後はより安全
で効果的な神経ブロックを目指したい。
身麻酔は、一部有用性を示唆する可能性も見られる
が、今後さらなる検討を要する。
95
一般演題 O4 口演研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 河本昌志
一般演題 O4 口演研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 河本昌志
TAP ブロックは腹膜透析手術における術中
鎮痛に有効なのか?
単孔式腹腔鏡下手術における腹壁末梢神経
ブロックの効果
〇 釋尾知春、藤井智子、髙橋健一、道姓拓也、
寺山祥子、大江克憲
〇妙中浩紀、柴田晶カール、植田一吉、
竹政伊知朗*、藤野裕士
昭和大学横浜市北部病院
大阪大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療医学教室
札幌医科大学医学部消化器・総合内分泌外科講座*
【背景】腹膜透析(PD)カテーテル挿入術は全身状
【背景】
単孔式腹腔鏡下手術 (Single incision laparoscopic
surgery : SILS)は低侵襲性、整容性の面で有用な術
式であるが、術後鎮痛方法に関して前向き臨床試
験などのデータがないのが現状である。創部を臍1
カ所に集約したSILSに腹横筋膜面ブロック (TAP
block)及び腹直筋鞘ブロック (RS block)などの末梢
神経ブロックを併用することにより高い鎮痛効果が期
待できる。今回我々はSILSにおける末梢神経ブロッ
クの効果について前向き臨床試験を行い検討した。
態の悪い患者が多く、全身麻酔ではなく浸潤麻酔
で手術を行っている。2014 年以降腹横筋膜面ブロ
ック(TAPB)を使用している。TAPB は腹膜の鎮痛に
対しても効果的であるために、PD 手術における
TAPB も効果的であると考える。今回 PD 手術の
TAPB による鎮痛効果について後方視野的に検討
した。
【方法】当病院の倫理委員会の許可を(承認番号
1601-01)得て、2014 年 6 月から 2015 年 9 月までに
【方法】
当院で大腸癌に対して SILS を施行した 77 例を、局
所麻酔なし群、RS block 群、TAP block 群の 3 群に
無作為に割り付け、前向きに術後疼痛を評価した。
疼痛評価は、術後 7 日目まで連日、安静時痛と体動
時痛を Visual analogue scale (VAS)によるアンテート
をスコア化し、患者背景因子、合併症についても評
価した。
当院で PD カテーテル挿入術を受けた患者さんの
TAPB の局所麻酔薬の投与量、術中の浸潤麻酔の
薬液量、術後に使用した鎮痛薬の量、疼痛が消失
するまでに経過した日数を調べた。必要に応じて、
疼痛時にはペンタゾシン 15mg、不安時にはミダゾ
ラム、デクスメデトミジンを使用した。
【結果】対象症例は 9 例であった。局所麻酔薬は
0.33%リドカインと 0.25%ロピバカインを 1:1 で使用
【結果】
術中開腹移行となった 2 症例を除いた局所麻酔なし
群 26 例、RS block 群 25 例、TAP block 群 24 例で
背景因子は同等であった。手術時間、出血量、術後
鎮痛薬使用回数、術後離床・経口摂取に関わる因
子、術後合併症率にも有意差は認めなかった。局所
麻酔なし群に比べ、RS block 群は、術後 7 日間の経
時的推移において安静時、体動時共に有意に疼痛
の軽減を認めた (P = 0.009,P = 0.008)。一方、TAP
block 群では、安静時痛、体動時痛共に術当日のみ
疼痛を抑えたが (P = 0.015, P = 0.013)、RS block 群
と比較してその効果は短時間であった。
し、薬液量は 30〜60mL だった。超音波ガイド下に
側方 TAPB を行い、うち 4 例は肋骨弓下 TAPB も追
加で行われていた。
【考察】最初両側の側方 TAPB を行ったが、鎮痛不
十分で術中に多くの浸潤麻酔が必要であり、術後
鎮痛も不良だった。切開創は片側に限られ、皮下ト
ンネル作成時に上腹部まで剥離していることを考慮
し、片側の側方 TAPB 及び肋骨弓下 TAPB を使用
することによって鎮痛効果は向上した。
PD カテーテル挿入術において、TAPB によって良
好な鎮痛が得られ、術後鎮痛薬の使用頻度が減少
【結論】
RS block は SILS 術後長時間にわたり術後疼痛を軽
減した。RS block は SILS の術後鎮痛に最も有用で
ある。
する傾向を認めた。今回の検討をもとに、今後は
PD 手術に対する TAPB の必要を前向きに比較検
討していく予定である。
96
一般演題 P4 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 山崎光章
一般演題 P4 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 山崎光章
前足部形成術においてデキサメサゾン添加の
単回坐骨神経ブロックにより長時間の術後鎮痛
が得られ、リハビリにも有用であった 1 症例
開胸術後疼痛症候群に対し肋間神経ブロッ
クで対処した後に肺癌骨転移が明らかとなっ
た一例
〇杉村 翔、木村哲朗、鈴木興太、御室総一朗、
中島芳樹
〇滝本佳予
市立池田病院 麻酔科ペインクリニック
浜松医科大学附属病院 麻酔蘇生科
【現病歴】61 歳男性、肺癌(扁平上皮癌、stageⅠB)
【症例】
に対し胸腔鏡下左下葉切除術が施行され、続いて
62 歳男性。関節リウマチに伴う高度の右足趾変形に対
術後補助化学療法が施行された。手術終了後から
し、前足部形成術(第 1-5 趾の中足骨骨切り術)を予定
痛みの訴えは少なく NSAID とプレガバリン内服でコ
した。2 ヶ月前に左足趾変形に対して同手術を全身麻
ントロール可能であったが、痛みの悪化のために術
酔単独で施行し、その際は強い術後痛と嘔気を訴えた。
後 4 か月目に当院ペインクリニックへ紹介となった。
今回は周術期の鎮痛を目的として坐骨神経ブロック
【 経 過 】 小 開 胸 部 に 一 致 し た ペ イ ン ス コ ア VAS
(SNB)を併用することとした。副腎皮質ステロイドの内
80/100 の痛みと周辺部のアロディニアを認め、開胸
服はなく、糖尿病などその他の合併症も認めなかった。
術後疼痛症候群(PTPS)と判断し、患者の希望によ
全身麻酔導入後、超音波ガイド下に膝窩部アプローチ
りアミトリプチリンと漢方薬の内服を開始した。術後 5
で右 SNB を施行した。0.25 %ロピバカイン 10 ml とデキ
か月目、ペインスコア VAS 100/100 の激痛を自覚し
サメタゾン 3.3 mg を坐骨神経周囲に投与し、ドーナツ
日常生活が不可能となり、トラマドール塩酸塩アセト
サインを得た。術中は声門上器具で気道確保し、自発
アミノフェン配合錠、オキシコンチンの追加内服を開
呼吸を維持したままセボフルランと少量のフェンタニル
始したが効果は乏しかった。CT では少量の左胸水
分割静脈内投与で麻酔維持した。手術時間は 5 時間
を認めたが肺癌の再発は確認されなかった。局所麻
酔薬による超音波ガイド下肋間神経ブロックを施行
42 分で、術中は特に問題を認めなかった。覚醒は良
したところ痛みが半減したため、超音波ガイド下およ
好で疼痛や嘔気の訴えはなかった。術当日の夜間は
び X 線透視下に左第 5、6 肋間神経に対しパルス高
痛みなく経過し、翌日の午前から起立動作・歩行訓練
周波およびアルコールブロックを施行した。ペインス
を行うことができた。SNB 後、約 44 時間で初めて鎮痛
コアは VAS 35/100 と改善したが、創部に一致しない
剤要求があった。神経ブロックに伴う明らかな合併症は
背部から腹部の鈍痛が残存するため、術後 6 か月
認めず、術後の患者満足度は高かった。
目に CT を再度施行したところ、左第 10-12 肋骨およ
び第 10 胸椎椎体に転移病変を認めた。現在は放射
線治療を継続中である。
【考察・結語】
単回の神経ブロックでは術翌日の鎮痛は不十分となる
【考察】PTPS は胸部手術後の 25-60%で認められ、
場合もある。長時間の術後鎮痛を得るためには局所麻
難治性の患者も多い。本症例では局所再発や骨転
酔薬の持続投与が行われることが多い。一方、局所麻
移の可能性を外科医と検討の上で術後慢性痛とし
酔薬にデキサメタゾンを添加することで作用時間が延
て治療を開始したが、1 か月後には骨転移が画像上
長するとの報告がある。本症例でも、SNB の際にデキ
明らかとなった。肋間神経ブロックにより VAS が 100
サメタゾンを添加し、単回投与の神経ブロックでリハビリ
から 35 まで軽減し治療効果を認め、ブロック施行部
が施行可能なレベルの長時間鎮痛を得ることができ
位と骨転移の部位は異なることから、PTPS と肺癌再
た。
発がともに痛みの原因だったと推測される。悪性腫
瘍術後の痛みに対しては経過を注意深く観察し、治
療方法を検討する必要性がある。
97
一般演題 P4 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 山崎光章
一般演題 P4 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 山崎光章
腹横筋膜面ブロック後方アプローチをテスト
ブロックとして行ったことにより、内臓痛の関与
を否定でき、必要最小限の神経ブロックで疼
痛緩和を得られた 1 症例
食道癌術後に集中治療管理目的で体幹ブロ
ックを施行した 1 例
〇 秋元 亮、渡邊具史、黒田美聡、鈴木博人*、
岡田真行、川前金幸
〇三村真一郎、高田知季
山形大学医学部麻酔科学講座
山形大学医学部附属病院高度集中治療センター*
聖隷三方原病院 麻酔科・ペインクリニック
【はじめに】集中治療領域において疼痛は、せん妄、
呼吸トラブル、循環の破綻、リハビリの遅延などの原
因となるため、十分に除去する必要がある。今回、
食道癌術後に、疼痛により深呼吸が困難なため抜
管を躊躇したが、体幹ブロックで咳嗽、深呼吸を促
進し管理し得た症例を経験したので報告する。
症例は 70 歳、女性。X-3 年に直腸癌に対して腹腔
鏡補助下低位前方切除術を施行。StageⅢb。X-1 年
に両側多発肺転移と右臍下部腹直筋内腫瘤を指摘。
手術適応はないとされ、化学療法を施行されたが、
腹部腫瘤は増大傾向。X-6 か月より右下腹部の疼
痛を自覚し、NSAIDs、プレガバリン、オキシコドンな
ど 開 始 。 オ キ シ コ ド ン 30mg/day + レ ス キ ュ ー
5mg×3-4 回/day 投与まで増量したが、VAS 60mm と
疼痛コントロール不十分であり、かつ眠気などの副
作用も認めてきたため、当科紹介。疼痛部位は右
Th10-12 領域の側腹部から正中までに限局していた
が、痛みの性状ははっきりせず。Allodynia や知覚鈍
麻などの所見は認められなかったが、上腹部や左側
など他の腹部にも疼痛を感じること場合もあり、かつ
反跳痛も軽度認められた。腫瘤は CT 上 40×20mm
で腹膜への浸潤も否定できず、疼痛が体性痛のみ
なのか内臓痛も関与しているのか、診察および画像
上不明瞭であった。この診断目的で、テストブロック
として右腹横筋膜面ブロック後方アプローチ(1%メピ
バカイン 15ml)を施行。VAS は 0-10mm と著明な改
善を認めたため、体性痛が疼痛の主体と判断した。
1 週間後に右 Th11 の神経根高周波熱凝固法を施
行し、VAS は 10mm 程度まで改善したため、Th10 お
よび Th12 に対しては施行しなかった。ブロック後、
プレガバリンおよびオキシコドンは減量でき、副作用
も改善した。本症例では臨床所見や画像所見で内
臓痛の関与も否定できなかったことから、下腸間膜
動脈神経叢ブロックの併用も検討したが、下腹部の
体性痛のみを緩和する腹横筋膜面ブロック後方ア
プローチをテストブロックとして施行したことにより痛
みの診断につながり、不要なブロックとそのリスクを
回避することができた。本症例について多少の検討
を付け加えたうえで、報告する。
【症例】64 歳、男性。168 cm、75 kg。食道癌に対し
て右開胸開腹食道亜全摘術(胃管再建、後縦隔経
路)を施行した。術前の 1 秒率は 71%と正常下限で
あった。麻酔は TIVA に硬膜外麻酔を併用した。術
中から 0.2%ロピバカイン及びモルヒネの持続硬膜外
腔投与を開始した。硬膜外カテーテルは Th7/8 から
穿刺、深さ 6.5 cm、頭側に 8 cm 進めて固定されてい
た。集中治療室ではプロポフォールとフェンタニルを
鎮痛鎮静に使用し、人工呼吸を継続した。術翌日、
自発呼吸トライアルを開始しようとするも、疼痛の為、
深呼吸や huffing が不可能であった。cold test で胸
部にのみ硬膜外麻酔が効いており、Th 8 以下で鎮
痛を得られていないことを確認した。そこで 0.25%ロ
ピバカインで肋骨弓下腹横筋膜面ブロックと腹直筋
鞘ブロックを行い、十分に鎮痛を確認後、深呼吸と
huffing が可能となったところで抜管した。その後は
順 調 に 回 復 し 、 2POD に 集 中 治 療 室 を 退 室 し 、
12POD に退院した。
【考察】集中治療室での体幹ブロック追加で、治療を
遅滞なく進めることができた。オピオイドで上腹部の
体性痛除去を行うには大量の投与が必要となり、嘔
気嘔吐や安静時の呼吸抑制などの副作用が問題と
なる。しかし本症例では体幹ブロックを追加すること
で、不要なオピオイド増量を回避できた。硬膜外麻
酔と合わせると局所麻酔薬の投与量は多くなるが、
集中治療室は他所よりも監視の面で安全であると考
えた。
【結語】集中治療室で、呼吸管理のために体幹ブロ
ックを行った一例を経験した。
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一般演題 P4 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 山崎光章
一般演題 P4 ポスター症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 山崎光章
生理食塩水による包交処置で硬膜外カテー
テルを長期留置できた1例
腹部の帯状疱疹後神経痛に腹横筋膜面ブロ
ックが有効であった一症例
〇竹村佳記、山崎光章
〇越川 桂、金 優、山田 宏和
富山大学大学院医学薬学研究部 麻酔科学講座
木沢記念病院麻酔科
今回、緩和医療で長期間の硬膜外カテーテル留
【はじめに】腹横筋膜面ブロック(以下 TAPB)は、腹
置に成功したので報告する。症例は73歳女性。61
部手術の鎮痛目的で行われることが多く、ペインク
歳時に直腸癌と診断され、仙骨合併骨盤内臓器全
ニック領域で用いられる機会はあまり多くない。今回
摘術ならびに化学療法が施行されたが、当科受診4
われわれは、腹部の帯状疱疹後神経痛に対して肋
週間前にProgression Disease(PD)に至った。その頃、
骨弓下 TAPB を行い、良好な鎮痛効果が得られた
仙骨転移による臀部痛が強くなり、除痛目的で放射
ので報告する。
線治療を施行したものの、その痛み緩和効果は4週
【症例】70 歳代の男性。心房細動と不安定狭心症か
間以降に得られるとのことであり、既に極めて強い痛
らの冠動脈ステント留置の既往があったため、ワルフ
みによりベッド上から動けない状態となっていたため、
ァリンとクロピドグレルを内服していた。左 Th7~Th8
痛みコントロール目的にて当科紹介受診となった。
領域の帯状疱疹に罹患したため、近医で薬物療法
初診時、これ以上身体に入るカテーテルが増えるこ
が行われていた。しかし、皮疹の治癒後も痛み症状
とを受け入れ難いという理由で持続硬膜外神経ブロ
が軽減しないため、発症後 10 週間目に当科へ紹介
ックは拒まれた。そこで、局所麻酔薬の硬膜外腔単
となった。
回投与を数回施行して硬膜外神経ブロックの効果を
【治療経過】初診時は、左 Th7~Th8 領域、特に上
実感してもらうことで、持続硬膜外神経ブロックの導
腹部の安静時痛と痛覚過敏を認めた。帯状疱疹後
入に至った。その後の痛みコントロールは良好となり、
神経痛と診断し、オピオイド製剤を含めた薬物療法
持続脊髄くも膜下神経ブロックへの適応も考えたが、
を始めたが、痛み症状が強く睡眠障害を来すほどで
患者の拒絶により痛み管理を持続硬膜外神経ブロ
あった。患者が神経ブロック療法を強く希望されたた
ックで継続することとなった。その際、中心静脈カテ
め、肋間神経ブロックと TAPB で症状の緩和を図っ
ーテルに準じた感染予防策を取ることで、カテーテ
た。幸いにも神経ブロック療法による鎮痛効果の再
ルが感染することなく63日間以上硬膜外カテーテル
現性が高かったため、第 7 と第 8 肋間神経に対する
留置を継続することができた。当科ではこれまで、持
高周波熱凝固法とアルコールブロックを行った。肋
続硬膜外神経ブロックのカテーテル留置期間は慣
間領域の痛みは著減したものの、腹部の痛みが残
例的に最長4週間であった。また、現在硬膜外カテ
存したため、超音波ガイド下に Th7~Th8 を目標とし
ーテルの感染予防に関するガイドラインはない。そこ
た肋骨弓下 TAPB を行い、さらに透視下で同部位に
で今回、包交の際に消毒薬の代わりに生理食塩水
無水エタノールを 2mL ずつ注入した。その後、腹部
を 用 い て 中 心 静 脈 カ テ ー テ ル と 同 様 の maximal
の痛みは消失し、睡眠障害の改善やオピオイド製剤
barrier precaution (最上級の感染遮断防御策)に準
の減量をもたらすことができた。本経過中に特別な
じた処置を行い、両側腎瘻および人工肛門管理下
有害事象は来さなかった。
であるにもかかわらず、感染せずに硬膜外カテーテ
【まとめ】TAPB は腹部の帯状疱疹後神経痛に対し
ルの長期留置に成功した。これは今後、持続硬膜
ても有効であった。
外神経ブロックが長期間に渡る痛み管理方法の1つ
として位置づけられることに繋がりうると考える。
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一般演題 P5 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 1)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 後藤隆久
一般演題 P5 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 1)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 後藤隆久
気胸再発を繰り返す患者で腕神経叢ブロック
と吸入麻酔の併用により自発呼吸下で肩甲
離断術を施行した 1 例
切断指の再接合術:腕神経叢ブロックで何時
間麻酔可能か?
〇三浦亜紀子、新井千晶、藤本侑里、吉野 淳、
藤村直幸
*
〇野口智子、北山眞任 、西村雅之、太田大地、
廣田和美
雪の聖母会 聖マリア病院 麻酔科
弘前大学大学院医学研究科麻酔科学講座
弘前大学医学部附属病院手術部*
背景:切断指の再接合術は、人手の少ない準夜帯
に緊急かつ、切断指の本数によっては長時間手術
になることがある。以前は局麻薬の単回投与で腕神
経叢ブロック(腋窩アプローチ)を行っていたが、最
近では、長時間手術への対応と術後鎮痛を目的に
カテーテルを留置している。本報告では、再接合術
における腕神経叢ブロックカテーテル留置した 5 症
例を振り返って報告する。
右前腕軟部悪性腫瘍の多発肺転移により頻回に
気胸を発症した患者の肩甲離断術に際して腕神経
叢ブロック併用により自発呼吸下に気胸の再発を回
避しえたので報告する。
72 歳、男性。身長 169 cm、体重 75 kg。10 か月
前に右手背を負傷し受傷部位に腫脹・多発性丘疹
を認めて近医整形外科を受診となった。6 か月前に
両側自然気胸を発症し、入院加療中に右手腫脹部
位の生検により類上皮肉腫が疑われ、画像検査に
より右腋窩リンパ節転移、多発肺転移が確認された。
その後、両側気胸を二度発症し、いずれもドレナー
ジ療法で保存治療された。2 か月前から右上腕まで
皮膚腫脹・発赤が拡大し受傷部位の感染が疑われ、
当院での右肩甲離断術が予定された。
術前検査で閉塞性換気障害(FEV1.0 %=65%)を
認め、気胸再発のリスクを回避するため吸入麻酔下
で自発呼吸を温存し、さらに腕神経叢ブロックによる
求心路遮断を予定した。導入はプロポフォール 140
mg、スキサメトニウム 50 mg を投与しラリンジアルマ
対象:5 症例は年齢 19 歳〜63 歳までの男性で、身
長は 176±7cm、体重は 69±11kg(平均値±標準偏差)
であった。3 症例が 1 本の切断指の再接合、2 症例
が 2 本の切断指の再接合を行った。うち 4 症例ブロ
ックは神経電気刺激装置(STIMPLEX)併用超音波
(S-Nerve)ガイド下に平行法で穿刺し、穿刺針はコ
ンティプレックスキットを用いた。薬剤はエピネフリン
添加 1%リドカインもしくは 1%メピバカインと 0.75%
ロピバカインを等量ずつ混合した局所麻酔薬を合計
20-32ml 程度投与し、腋窩動脈直下にカテーテルを
留置し、エコーでカテーテル先端を確認した。
結果:手術時間は 359±248 分(平均値±標準偏差)で
あり、最長手術時間は 738 分であった。術後は 1 例
で 0.2%ロピバカイン 4ml/hr、2 症例で 0.25%レボブ
ピバカイン 4ml/hr、2 症例で 0.125%レボブピバカイ
ン 4ml/hr を留置したカテーテルより持続投与した。
術後疼痛に関しては痛みの程度を 3 段階で評価(な
し、自制内、痛みあり)し、術後 2 日までの経過で疼
痛なしが 1 症例、自制内が 3 症例、痛みありが 1 症
例であった。5 症例中 4 症例で疼痛は自制内であり
留置カテーテルからの持続局所麻酔薬投与が有効
であった。痛みありの 1 症例においては術後アセトア
ミノフェンの内服で鎮痛を行った。
スク(LMA)を挿入した。十分な自発呼吸に回復した
後左側臥位とし、超音波ガイド下斜角筋間アプロー
チによる右腕神経叢ブロック(0.375 %ロピバカイン
30 ml)を施行した。維持はセボフルラン 1.5 %前後
でフェンタニル間歇投与(50μg/回:総量 400μg)を行
い、適切な麻酔深度と換気量を維持し、一切の補助
呼吸を要しなかった。手術終了後、開眼が得られた
ため LMA をスムーズに抜去した。術後疼痛の訴え
はなく、フェンタニルを用いた IV-PCA により良好な
コントロールが得られた。
結語: 頻回に気胸を再発する患者に対し、吸入麻
酔に腕神経叢ブロックによる求心路遮断を併用する
結語:腕神経叢ブロックと鎮静により長時間の切断
指の再接合術が施行可能であり、留置カテーテル
からの持続局所麻酔薬投与は術後鎮痛として有用
である。
ことで自発呼吸による管理が安定し、手術侵襲の急
な変化に伴う咳嗽反射や体動を予防して気胸のリス
クを回避しえた。
100
一般演題 P5 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 1)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 後藤隆久
一般演題 P5 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 1)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 後藤隆久
腕神経叢の破格に対し超音波装置を用いて
安全に末梢神経ブロックを施行できた症例の
経験
Ultrasound-guided supraclavicular brachial plexus
block for patients with pulmonary thromboembolism
undergoing upper extremity surgery
〇関周太郎、安楽和樹、關山裕詩、澤村成史
Department of Anesthesiology & Pain Medicine, Samsung
Medical Center, Seoul, Korea
Sungkyunkwan University, College of Medicine.
〇Yang Hoon Chung*, Justin Sangwook Ko, Duck Hwan Choi
帝京大学医学部附属病院麻酔・集中治療科
症例は 46 歳男性。既往は de Quervain 病のみ。右
肩腱板断裂に対して関節鏡下腱板修復術が予定さ
れた。麻酔法として超音波ガイド下腕神経叢ブロック
(斜角筋間アプローチ)併用の全身麻酔を計画した。
入室後、全身麻酔導入前に高周波リニアプローブを
用いて斜角筋間レベルで腕神経叢を検索したところ、
前斜角筋と中斜角筋の間に神経根が確認できなか
った。鎖骨上レベル、及び頚椎横突起結節間からス
キャンを行ったところ、C5 および C6 神経根が前斜角
筋を貫いて走行していることが確認できた。超音波
ガイド下に平行法で C5,C6 神経根を目標として穿刺
を行い、局所麻酔薬(0.5%ロピバカイン 20ml)を投
与し、問題なく神経ブロックを終了した。続いて全身
麻酔を導入し手術開始となった。手術中のバイタル
サインは安定していた。手術は問題なく終了し、手
術後には C5-7 領域の知覚鈍麻が見られ、疼痛の訴
えはなかった。術後経過に大きな問題はなく、術後 3
日で退院した。
【考察】今回我々は、腕神経叢の破格の症例を経験
した。斜角筋間レベルでの腕神経叢の破格は文献
上では 13−35%と報告されており、その中では C5、
C6 神経根が前斜角筋の内部、または前方を通過す
るタイプが最も多いとされている。本症例は C5、C6
神経根が前斜角筋内を通過していた。従来のランド
マーク法、神経刺激法のみではこの様な症例に対し
て末梢神経ブロックを施行した場合、効果が不完全
となる可能性がある。超音波装置を用いることにより、
腕神経叢の走行を個別に頚椎前突起の起始部から
Pulmonary thromboembolism is a high-risk factor for
postoperative morbidity and mortality in patients undergoing
general anesthesia. Alternatively, ultrasound-guided nerve block
which offers increased success rate with decreased local
anesthetic volume can provide safe and effective surgical
anesthesia. Herein, we report a case of successful supraclavicular
brachial plexus block (BPB) in patients with pulmonary
thromboembolism.
Seventy-seven years old female patient was scheduled to undergo
upper forearm surgery for the “terrible triad” marked by radial
head facture, coronoid process facture, and posterolateral
dislocation of right elbow joint. Patient’s past medical history
revealed rectal cancer with liver metastasis which had been
managed with low anterior resection and postoperative radiation
therapy in the previous year. Patient has been on anticoagulation
treatment (ribaroxaban) for chronic deep vein thrombosis in left
femorotibial vein. Upon admission, patient’s preoperative workup
revealed newly detected numerous multifocal thromboembolisms
in RUL posterior segment and RLL posterior and lateral basal
segmental pulmonary arteries on chest CT. Patient did not
complain dyspnea and her pulmonary function test showed normal
finding. Her ABGA results are as follows: room air,
(pH-PCO2-PO2-HCO3): 7.465-28.9mmHg-68.4mmHg-20.3mmol/l.
Her vital signs showed blood pressure of 110-145/75-90 mmHg,
heart rate of 105 – 120/min, and respiratory rate of 16 – 20/min.
Rivaroxaban was stopped upon admission and retrievable IVC
filter was inserted on three days before the scheduled surgery to
prevent further thromboembolic event (Figure 1). The coagulation
status showed hemoglobin level of 10.2 g/dl, platelet level of
405,000 µl, PT(INR) 1.20, and aPTT 32.4 sec.
Ultrasound-guided supraclavicular BPB was performed and
20 ml of 0.5% levobupivacaine without any adjuvant was
injected; 10 ml at the corner pocket and 10 ml at the cluster
(Figure 2). The surgical anesthesia was achieved around 15 min
after local anesthetic injection. During the surgery, patient was
sedated with midazolam 1 mg and continuous IV administration
of remifentanil (0.02 – 0.05 mg/min). Patient’s vital signs were
stable during the surgery which lasted for approximately 150 min.
The analgesia secondary to supraclavicular BPB lasted for
approximately 10 h after surgery, and afterward, the pain was
managed with pethidine 50 mg upon patient’s request. On POD
3, the IVC filter was removed, and on POD 4, the patient was
discharged without complications.
Ultrasound-guided supraclavicular BPB can provide effective
and safe anesthesia in high-risk patients with pulmonary
complications such as pulmonary thromboembolism.
Figure 1. IVC filter is placed to prevent further pulmonary
thromboembolic event.
確認することで、神経ブロックの安全性・確実性に寄
与したものと考えられた。
S
【結語】腕神経叢解剖の破格症例に対して、安全に
末梢神経ブロックを施行するために超音波装置を用
IV
いて神経の走行を確認することが有効であった。
Figure 2. Ultrasound-guided supraclavicular BPB.
Local anesthetics are spread around brachial plexus
(arrow head).
101
N
一般演題 P5 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 1)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 後藤隆久
一般演題 P5 ポスター症例演題(腕神経叢ブロック 1)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 後藤隆久
持続斜角筋間ブロックで管理した、病的肥満
患者に対する人工肩関節置換術の 1 症例
頸椎障害患者の上腕骨近位端骨折の麻酔
経験
〇武智健一1、萬家俊博2、長櫓 巧3
〇宮崎絵里佳、阿部まり子、亀田慎也、布間寛章、
大枝萌子、湯本正寿*
1. 愛媛県立今治病院 麻酔科
2. 愛媛大学大学院医学系研究科 麻酔・周術期学
3. 済生会西条医療福祉センター
東京慈恵会医科大学附属病院 麻酔科
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 麻酔部*
【現症】61 歳女性。身長 158cm 体重 41kg。左の上腕
骨近位端骨折に対し観血的整復固定術が予定された。
転倒時に頸椎も打撲しており前後屈に制限があった。
【既往歴】関節リウマチ、シェーグレン症候群、甲状腺
【背景】持続斜角筋間ブロック(CISB)は、Body Mass
Index(BMI)40kg/m 2 以上の病的肥満患者では、横
隔神経麻痺の問題から適応が議論されている(1)。
機能低下症、高血圧に対し投薬を受けている。リウマ
チに関しては 15 年前に診断され各関節の変形は軽度
であり頸椎のアライメントも比較的保たれていた。メトト
【症例】60 歳の女性(身長 150cm、体重 91.5kg、
BMI40.7kg/m2)の上腕骨近位粉砕骨折に対し、人
工肩関節置換術が計画された。呼吸機能検査で%
レキサート、プレドニンを服用している。
【麻酔計画】術前の家族との話し合いの結果、気道確
保のリスクも高く本人の希望もあり区域麻酔を選択する
事となった。
肺活量 78%と肥満による拘束性障害を認め、経皮
的酸素飽和度(SpO2)は室内気で 93%〜99%だっ
た。手術室で超音波ガイド下に CISB カテーテルを
【麻酔経過】まず、側臥位になり超音波ガイド下にて
C5,C6 を 同定 し 、 後 方ア プ ロ ーチ にて 斜 角筋 間の
C5,C6 間に 0.3%ロピバカイン 3ml を注入した。その後、
上位胸随神経末梢枝の支配である上腕内側の無痛領
留置し、横隔神経麻痺のリスクを減らすため、低容
量で局所麻酔薬(0.75%ロピバカイン 10ml)を投与
した(2)。チアミラールとロクロニウムで麻酔導入し、
デスフルランとレミフェンタニルで維持した。手術は 2
域を得るため超音波ガイド下に腋窩より 0.3%ロピバカ
イン 10ml を肩甲下筋に沿って注入し手術野の無痛域
を得た。手術時間は 60 分。随内釘挿入中と体位保持
時間 50 分で問題なく終了し、覚醒後、一回換気量
が 500ml 以上を維持し、SpO2 は酸素 5l/分投与下に
100%で維持されるのを確認した後、一般病棟へ退
に対する軽度の苦痛はあったが、術中の酸素飽和度
の低下もなく、手術は無事に終了した。術後のレントゲ
ン写真にて患側の横隔膜の挙上は認めなかった。
【考察】超音波ガイド下末梢神経ブロックには神経自体
室した。術後に CISB カテーテルから 0.2%ロピバカ
インを 2 日間 4ml/hr で、その後 3 日間 2ml/hr で投
与した。痛みは看護師により定期的に Numerical
Rating Scale で評価し、術後 2 日目の 3/10 を最高に、
それ以外は 0〜2/10 で推移し、CISB 中止後も痛み
の増強はなかった。SpO2 は酸素投与終了後も 94%
を超音波にて描出して神経周囲に薬液を注入する方
法と解剖学的に神経が存在するであろう場所に薬液を
注入する方法がある。本症例では両者の方法を使用し
て適切な無痛域を得ることが出来た。
また腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチにおいて横
隔神経麻痺は必発と報告されているが、局所麻酔の量
に依存するとも言われている。今回、斜角筋間に注入
〜98%で推移し、呼吸困難の訴えはなく、術後に横
隔神経麻痺を示す明らかな徴候は認めなかった。
【考察】CISBは肩関節術後の最も有効な鎮痛法の
する量を最少量とした事で横隔神経麻痺を起こすこと
なく安全に管理できた。超音波の普及によってより的確
な神経や筋肉を同定し、ブロックする事で手術が施行
一つである。病的肥満患者に対しても慎重な計画と
観察の上で有効に使用することが可能である。
Mar;50(1):29-34.
出来たと考える。
【結語】上腕骨近位端骨折に対しての観血的整復固定
術を区域麻酔のみで施行した症例を経験した。ブロッ
クの技術のみでなく、解剖学の必要性も実感した症例
(2) Reg Anesth Pain Med. 2009
であった。
【文献】
(1) Acta Anaesthesiol Taiwan. 2012
Sep-Oct;34(5):498-502.
102
一般演題 P6 ポスター研究演題(小児・高齢者管理)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 重見研司
一般演題 P6 ポスター研究演題(小児・高齢者管理)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 重見研司
小児腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術における、
硬膜外麻酔、末梢神経ブロックの比較検討
小児おける硬膜外穿刺時の超音波装置によ
る皮膚-硬膜距離の検討
〇西藤智照、下之薗莉瑛子、山田知嗣*、
上村裕一
〇 諸石耕介、一柳彰吾、小幡向平、近藤大資、
波多野俊之、石田千鶴、渡邊朝香、梶田博史、
諏訪まゆみ、奥山克巳
鹿児島大学医学部附属病院麻酔蘇生学教室
鹿児島大学医歯学総合研究科侵襲制御学講座*
静岡県立こども病院 麻酔科
る。
【背景】 小児でも硬膜外麻酔法は有用な鎮痛法であ
る。しかし、小児では全身麻酔下に胸部腰部硬膜外麻
酔を施行する。神経損傷、硬膜穿刺などの合併症を生
じさせないために成人以上に慎重さが求められる。体
格により皮膚-硬膜外腔距離が異なるため、身長や体
重から皮膚-硬膜外腔距離を予測することが従来より
行われてきた。
近年、超音波を利用して皮膚-硬膜外腔距離を予
測するようになってきた。
【方法】2012 年 1 月 1 日から、2015 年 12 月 31 日
【目的】 超音波により皮膚-硬膜距離を測定すること
は有用と考えられ、その検討を行うことにした。
【背景】超音波診断装置の進歩により、小児の術後
鎮痛に超音波ガイド下で末梢神経ブロックを行う施
設が増加してきている。我々の施設においても硬膜
外麻酔から末梢神経ブロックへの移行が進んでいる。
今回、腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術における鎮痛
法の影響を、後ろ向きに比較検討したので報告す
に当院で行われた腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術の
患者 52 症例を麻酔記録上で検索した。硬膜外麻酔
を併用した患者 16 例、末梢神経ブロックを併用した
患者 17 例について比較検討を行った。硬膜外麻酔、
末梢神経ブロックを使用していない症例は除外した。
手術時間、麻酔時間、術中レミフェンタニル使用量、
手術室退室時フェンタニル予測効果部位濃度、術
後鎮痛補助薬使用回数、初回鎮痛薬使用時間を比
較 検 討 し た 。 統 計 学 的 検 討 は t-test 、
【方法】 対象:下位胸椎~腰椎硬膜外麻酔を施行す
る小児麻酔患者
穿刺前に正中水平断または傍正中矢状断からプロ
ーベを当て、皮膚-硬膜距離を測定した。
正中水平断から皮膚-硬膜距離が測定できなかった
場合には傍正中矢状断からの測定とした。
硬膜外穿刺は、正中法で行い、抵抗消失法で硬膜
外腔へ達したことを確認した。
【結果】 23例で検討した。年齢は10ヶ月~10歳9ヶ月
体重は8.1kg~28.3kgであった。
多くの症例で、予測からの誤差は20%以内であった。
また、穿刺距離が深くなる症例では超音波による皮膚
-硬膜距離は過少評価してしまう傾向にあった。硬膜
穿刺症例はなかった。
Mann–Whitney U test にて行い、P<0.05 を有意
とした。
【結果】手術時間、麻酔時間、術中レミフェンタニル
使用量、手術室退室時フェンタニル効果部位濃度、
【考察】 超音波を使用することで穿刺角度を予測する
こともでき、術者の技術向上につながると考えられる。
また、実際に穿刺をする術者、またそれを見守る指導
医も安心して硬膜外麻酔を施行することが可能になり、
超音波による距離の予測は有用であると考える。
実際の穿刺距離が予測距離より短い場合、硬膜穿刺
の危険性が高くなる。
実際の穿刺距離と超音波による予測距離が20%以上
異なる原因としては、硬膜の誤認、プローベの当て方、
皮膚脂肪の厚さ、硬膜外針の穿刺角度、正中からのズ
レなどが考えられる。
超音波による予測が適応できない患者群の検討など
も含め、今後症例数を増やし検討していく必要があると
考える。
術後鎮痛補助薬使用回数、初回鎮痛薬リクエストま
での時間すべてにおいて 2 群間で明らかな有意差
は認めなかった。
【考察】硬膜外麻酔は末梢神経ブロックと比較し内
臓痛の抑制に有利と考えられている。しかし、今回
の検討では周術期の鎮痛において明らかな有意差
を認めなかった。このことから、レミフェンタニルを併
用する全身麻酔において、末梢神経ブロックは硬膜
外麻酔と同等の鎮痛を提供できる可能性がある。今
後症例数を積み重ね更なる検討が必要である。
103
一般演題 P6 ポスター研究演題(小児・高齢者管理)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 重見研司
一般演題 P6 ポスター研究演題(小児・高齢者管理)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 重見研司
超高齢乳癌手術患者の術後経過からみた麻
酔法としての PECS ブロックの有用性
‐preliminary report‐
超音波ガイド下末梢神経ブロック導入前後で
の小児鼠径ヘルニア日帰り手術術後経過の
比較
〇平 幸輝、堀田訓久、竹内 護
〇松田光正、高橋マキ、山崎花衣、坂本麗仁、
澤田真如、伊藤美保、鈴木利保
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座
東海大学医学部外科学系麻酔科
【目的及背景】近年日本では,高齢化に並行して生
活習慣の欧米化による乳癌罹患率が上昇し,高齢
乳癌患者が増加している.しかし,併存症が多く予
備能も低下した高齢者は全身麻酔のリスクも高いた
め,薬物や放射線による保存的治療が選択される
例が多かった.ところがこれらは継続的通院を要し,
病変の制御が困難な例もあった.
一方最近は,胸壁と腋窩部の鎮痛が得られる
PECS ブロックが,乳房手術の区域麻酔に応用され
始めている.今回我々は,超高齢乳房部分切除手
術患者に局麻併用 PECS ブロックで麻酔管理を行っ
た結果,良好な術後経過が得られたため,過去に全
身麻酔下に同様の手術をした症例の経過と比較し,
超高齢乳癌患者の麻酔法としての PECS ブロックの
有用性を検討した.
通常の小児鼠径ヘルニア手術における術後鎮痛手
段として仙骨硬膜外ブロックやオピオイド使用が挙
げられる。しかし術後尿閉や下肢運動障害の発生、
また PONV などの副作用の懸念から日帰り手術で
は使用しづらいため、当院では以前アセトアミノフェ
ンや NSAIDs の使用のみにとどまっていた。近年の
超音波装置の小型化と性能の進歩は末梢神経ブロ
ックの普及に大きく貢献しており、数年前から、当院
においても鼠径ヘルニアなどの日帰り手術を含めた
小児手術症例で体幹部末梢神経ブロックを必要に
応じて試行するようにしている。今回、小児鼠径ヘル
ニア日帰り手術での超音波ガイド下末梢神経ブロッ
【方法】H23 年~H27 年に当院で乳房部分切除手術
を行った 85 才以上の乳癌患者 9 例中,PECS ブロッ
ク+局麻で管理をした直近の 3 例(P 群)と,それ以前
に全身麻酔下に行った 6 例(G 群)の術後経過(活動
度,認知能,術後痛,合併症)を,麻酔記録と診療録
から後方視的に調査及び比較した.
ク導入前後における術後の経口摂取開始時間と滞
【結果】G 群では,術当日に問題なく歩行したのは 1
例で,2 例は立位時にふらつきや冷汗が出現し,3
例は坐位にとどまった.認知症を有する患者 1 例は
点滴を自己抜去し徘徊した.術後痛は 2 例で鎮痛
剤を追加投与し,うち 1 例が投与後傾眠状態となっ
た.糖尿病と COPD を合併した 1 例は抜管時に喘鳴
のためステロイドを使用し,退院半月後に創感染で
再入院した.P 群では,3 例とも術当日より歩行可能
で当日夜より食事を再開することができた.また,鎮
痛薬の追加無しに翌日昼には全例が退院し,重大
な合併症は認めなかった.
年間に行われた3歳から15歳までの日帰り片側小
在時間、その他興奮などの患者状態に何らかの違
いがあるかどうかを後ろ向きに比較検討した。(対象
と検討項目)全身麻酔に加えて、超音波末梢神経ブ
ロックを導入前(n=77)と導入後(n=58)のそれぞれ一
児鼠径ヘルニア手術患者を対象とした。主要評価
項目として術後病院滞在時間、副次評価項目として
飲水、食事開始時間と 1 時間以上に及ぶ興奮、鎮
痛剤使用の有無、その他の観察項目について調査
した。(結果)患者背景は身長のみ導入後の方が高
かったが、年齢、体重は両群間において相違は認
めなかった。手術麻酔時間は導入前の方が短かっ
た。飲水開始時間は導入前の方が早かったが、食
事開始時間に相違はなく、逆に滞在時間は導入後
【考察】今回の結果から,超高齢者の乳房部分切除
術では術後回復遷延の要因として,手術自体の侵
襲よりも,全身麻酔実施の影響が大きい可能性が示
された.今後は,症例数を増やし高齢者乳癌手術の
麻酔法としての,PECS ブロックの有用性を明らかに
したい.
の方が短かった。興奮状態の遷延や鎮痛剤の使用
は導入前に数例みられたが導入後では観察されな
かった。(考察)末梢神経ブロック導入後の方が術後
滞在時間が短かったのは、疼痛コントロールに優れ
ており、術後速やかな ADL 回復が得られるために
滞在時間の短縮につながっていることが示唆され
る。
104
一般演題 P6 ポスター研究演題(小児・高齢者管理)
4 月 15 日 11:00~12:00 座長 重見研司
一般演題 O5 口演症例演題((疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 13:30~14:30 座長 小板橋俊哉
高齢大腿骨骨折患者の術後せん妄発症率
に関わる因子の検討
超音波ガイド下末梢神経ブロック・硬膜外麻
酔・脊椎麻酔の 3 区域麻酔を併用したスポー
ツ整形外科・膝関節可動訓練への取り組み
Study of factors involved in postoperative delirium
incidence of elderly femur fracture patients
〇石村博史
〇西村雅之、高田典和、北山眞任*、廣田和美*
(医)堺整形外科医院・福岡スポーツクリニック
青森市民病院麻酔科
弘前大学大学院医学研究科麻酔科学講座*
近年、高齢化社会に伴い、転倒による大腿骨骨折
が増加しており、本疾患は日常生活動作に著しい障
害をもたらし、寝たきりの原因の一つとなっている。
高齢者の術後合併症の一つにせん妄などの精神障
害があり、カテーテル抜去など危険な合併症の原因
となる。さらにせん妄自体も遷延化すれば、予後不
良で死亡率も高いと報告されている。今回、高齢認
知症患者の入院が大部分を占める当科関連施設に
おける高齢大腿骨骨折患者の術後せん妄に対する
麻酔法の影響とその発症因子について検討した。
方法と対象:2010 年 1 月から 2014 年 12 月までの 5
年間に当科関連施設で大腿骨骨折の手術を受けた
70 歳以上の高齢者 128 名(男:女=21:107)を対象
に、カルテ、看護記録及び麻酔記録から遡及的に
データ収集を行った。収集したデータをもとに、術後
せん妄発症率や発症因子などを検討した。
結果:128 例中 31 例(男:女=1:30、発症率 25.9%)
で術後せん妄を認めた。脊椎くも膜下麻酔 74 例中
17 例(22.9%)、全身麻酔単独 37 例中 10 例(27.0%)、
末 梢 神 経 ブロ ック 併 用全身 麻 酔 17 例中 4 例
(23.5%)、全身麻酔全体では 54 例中 14 例(25.9%)
で術後せん妄を認めた。受傷から手術までの日数、
手術時間及び麻酔時間を比較したところ、術後せん
妄を認めた群では、平均 7.22 日、25.3 分、64.8 分で
あった。術後せん妄を認めなかった群では、平均
7.24 日、20.7 分、58.6 分となり、それぞれ有意差は
認めなかった。麻酔法と手術から退院(転院および
転科)までの日数を比較したところ、脊椎くも膜下麻
酔では平均 31.2 日、全身麻酔単独では平均 35.4
日、末梢神経ブロック併用全身麻酔では平均 26.6
日、全身麻酔全体では、平均 32.7 日となった。
結論:高齢大腿骨骨折患者において、今回検討し
た因子による術後せん妄発症率に有意差は認めな
かった。
105
症例】14 歳男性。身長 160 ㎝・体重 80 ㎏の柔道選
手。左膝前十字・内側側副靭帯同時損傷にまず内
側側副靭帯の修復術を 3 ヶ月前に施行。術後の膝
関節可動域・筋力を完全に回復させて次回の前十
字靭帯の再建術施行予定だったが可動域の回復が
悪く、膝前面の屈曲時痛が強いため再入院して持
続大腿神経ブロックによる疼痛管理下でのリハビリを
執刀医より依頼された。
入院時所見】最大屈曲角 125°で numerical rating
scale:nrs 8/10 であった膝の前面痛が内転筋管ブロ
ック 0.5%リドカイン(メイロン添加)6ml で 0/10、可動
域は 136°まで改善したが、今度は膝窩部から下腿
裏面・外側にかけて 8/10 の新たな痛みが発生。臀
下部より 0.5%リドカイン(同上)12ml で坐骨神経ブロ
ックを追加。疼痛発生部位の完全な冷覚の消失を
待って可動訓練を再度試みたが抵抗が強く 138°ま
でしか屈曲しなかった。両神経領域の持続管理法と
して硬膜外麻酔を選択して第 1/2 腰椎椎間から硬膜
外カテーテルを頭側に向けて 7.5cm 留置し 0.15%ロ
ピバカイン(フェンタニル 1µg/ml・ドロペリドール 2.5
㎎/300ml)を持続 4ml/hr、患者自己調節鎮痛 3ml /
回、ロックアウト 30 分、2 回/hr にて持続管理を開始。
入院後経過】初日の屈曲角はリハビリ後 144°、翌日
には 149°で踵・臀部間距離(HBD)は 4 横指。3 日目
午前 HBD 2.5 横指まで改善したが、痛み nrs 7/10、
抵抗感、恐怖心で限界となった。0.5%高比重マー
カイン 0.4ml 脊椎麻酔後 15 分の左側臥位の後、第
11 胸椎レベルまでの冷覚消失を確認後は HBD0 横
指、完全な正座が可能で可動域は完全に回復した。
脊椎麻酔後 1.3 時間後には離床・歩行・筋力も完全
に自立し脊椎麻酔後頭痛も尿閉もなかった。以降は
HBD0 横指を維持し、7 日目に硬膜外麻酔を終了し
て退院した。
考察と結語】鑑別診断、訓練後の痛みの増悪も視野
に 3 つの区域麻酔法の特徴、単回注入、持続管理
の利点・欠点、使用可能なデバイスと QOL・ADL な
ど多岐に渡る項目を総合的に鑑みて対応し良好な
結果を得た。
一般演題 O5 口演症例演題((疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 13:30~14:30 座長 小板橋俊哉
一般演題 O5 口演症例演題((疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 13:30~14:30 座長 小板橋俊哉
脊髄電気刺激装置植え込み術に対する低濃
度大量浸潤麻酔法(TLA法):症例報告
当院で初めて行ったくも膜下ポート造設によ
る脊髄鎮痛法の経験
〇澤田龍治、渡辺邦太郎*、森山久美*、萬 知子*
〇深澤正之、三島 済、服部政治*
日野市立病院麻酔科,
杏林大学医学部麻酔科学教室*
JA 長野厚生連 佐久総合病院ペインクリニック科
服部政治(がん研有明病院 がん疼痛治療科*
低 濃 度 大 量 浸 潤 麻 酔 法 ( Tumescent Local
Anesthesia、以下 TLA 法)は主に下肢静脈瘤ストリッ
ピング手術など血管外科手術に対して行われる麻
酔方法である。TLA 針と呼ばれる専用の針を用いて、
エピネフリンを添加した低濃度の局所麻酔薬を大量
に皮下組織に注入する浸潤麻酔である。TLA 針は
【はじめに】がん性疼痛患者における脊髄鎮痛法は
その特徴を理解して用いれば非常に有用な方法で
あり、特にポート造設による硬膜外・くも膜下オピオイ
ド鎮痛は長期使用においても有用である。今回、当
院で初めてのポート造設によるくも膜下オピオイド鎮
痛を行い疼痛コントロールを行った症例を経験した
ので報告する。
【症例】74 歳女性、右肺癌で中下葉切除を行ったが、
術後 9 か月に胸椎転移に伴う右胸背部痛が出現し
た。強度の痛みに対してオピオイド投与と放射線療
法が開始されたが、痛みの軽減は認めず、夜間を
中心に鎮静処置の併用が必要であった。痛みに対
する治療依頼で当科へ紹介され、第 5 紹介日で硬
膜外カテーテルを留置し、まず使用オピオイドの半
量換算モルヒネを中心とした硬膜外投与を開始した。
すると痛みは NRS10 から 6 程度となり、痛みのため
全く摂れていなかった食事が 6 割程度摂取できるよ
うになり、最終的に硬膜外オピオイド投与に完全移
行した時点では完食できる様になった。
そこで、予後と長期カテーテル留置の感染リスクを
考慮し、ポート造設によるくも膜下オピオイド鎮痛を
行うこととし、第 26 紹介日で行った。
最終的に第 75 紹介日(ポート造設から 49 日)に原
疾患で亡くなられたが、ポート造設後、短期間では
あるが在宅でご家族と笑顔で過ごす時間を持つこと
ができ、何より痛みの中では考えられなかったという、
人生の振り返り時間を持つことができたとのことで本
症例患者にとって非常に有用であったと考えられ
た。
外径 1.6mm、長径 25cm、先端から約 1cm ごとに側
孔が 2 箇所設けており、先端は鈍となっている。薬剤
を注入しながら針を進めることで皮下組織を鈍的に
剥離できる仕組みとなっている。局所麻酔薬は 1%
エピネフリン添加リドカイン 50ml に生理食塩水
450ml を加えたものを 200ml から 300ml 程度を皮下
注射を行う。今回、TLA 法を用いて脊髄刺激の電極
挿入術を 2 症例に行った。(症例 1)75 歳男性、脊椎
手術後疼痛症候群の患者、(症例 2)83 歳女性、下
肢動脈性閉塞硬化症の患者に対しいずれも局所麻
酔薬を 175ml 投与し、良好な鎮痛が得ることができ
た。
脊髄刺激電極植え込み術は、術野が広範囲で局
所麻酔単独では施行は難しく全身麻酔または鎮静
を加えることが多い。TLA 法の最大のメリットは、局
【考察】がん性疼痛患者において適応があれば脊髄
鎮痛法、特に長期予後の場合はポート造設の上で
のくも膜下鎮痛は非常に有用な方法である。しかし、
運用にあたっては十分なインフォームドコンセントと
病院内外における多部署・多職種との連携が重要
であると考えられる。
所麻酔のみで十分な鎮痛が得られることである。ま
た術後も良好な鎮痛を得られる、すでに浸潤麻酔に
より皮下組織が剥離されているため電極通すトンネ
リングが行いやすい、エピネフリンを添加することで
出血を軽減される点が挙げられる。脊髄電気刺激装
【結語】当院で初めてポート造設によるくも膜下オピ
オイド鎮痛を行い、痛みのコントロールを行った症例
を経験した。
置植え込み術の麻酔において、TLA 法は有用であ
ると考えられる。
106
一般演題 O5 口演症例演題((疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 13:30~14:30 座長 小板橋俊哉
一般演題 O5 口演症例演題((疼痛管理・ペインクリニック 1)
4 月 15 日 13:30~14:30 座長 小板橋俊哉
星状神経節ブロックを目的とした超音波ガイ
ド下高位胸部傍脊椎神経ブロックにより頸部
関連痛が軽減した2症例 新たな星状神経節
ブロック法としての可能性についての考察
肛門の癌性疼痛に対して超音波と透視を使
用し不対神経節ブロックを行った症例
〇八反丸善康、内海 功、近江禎子
東京慈恵会医科大学附属第三病院 麻酔科
〇武田泰子、入澤友美、藤谷太郎
(愛媛県立中央病院 麻酔科・集中治療科)
【はじめに】
頸部および肩甲帯周囲の関連痛を有する患者に対
し、星状神経節ブロック(SGB)目的に超音波ガイド
下高位胸部傍脊椎神経ブロック(USG-HTPVB)を施
行し、疼痛の軽減をもたらした症例を報告する。
【手技の実際】
患側上の側臥位とし、マイクロコンベックスプローブ
を第 1 肋間レベルで肋骨に平行におき、傍脊椎腔を
描出した。20G,70mm の超音波反射型 tuohy 針を用
いてプローブ外側より平行法で穿刺し、針先が傍脊
椎腔に到達した後、1%メピバカイン 6ml を血液や気
泡の逆流のないことを確認しながら緩徐に注入した。
施行後 30 分間安静とし、バイタルサインおよび前腕
皮膚深部温の変化を観察した。
[症例 1]72 歳男性。162cm、59kg。頚椎椎弓形成術
の術後であり、圧痛を伴う左後頚部および肩部の疼
痛を主訴に当科通院中であった。
[症例 2]37 歳女性。156cm、47kg。頭痛、肩こり、め
まい及び圧痛を伴う左側優位の後頚部痛および肩
部痛を主訴に当科通院中であった。
【経過】
両症例ともに同意取得後、左 USG-HTPVB を施行し
た。30 分後、疼痛の軽減と共に患側の前腕深部温
は上昇し(症例 1:1.2℃、症例 2:1.27℃)、同側にホ
ルネル徴候を認めた。症例 1 で C8—T2、症例 2 で
T1-3 の施行側に麻酔効果範囲が得られた。
【考察】
いずれの症例とも頚肩部に圧痛を伴う疼痛を認めて
おり、頚椎由来の交感神経を介した関連痛を有して
いたと考えられた。SGB は C6 あるいは C7 レベルよ
り頚長筋膜を介して薬液を到達させる方法が一般的
であるが、星状神経節周囲までの拡がりが不十分と
なる例が報告されている。一方、第1肋間での
USG-HTPVB は星状神経節近傍での薬液注入が可
能であり、直接的な作用により片側の交感神経およ
び上位胸部脊髄神経の遮断作用がもたらされたこと
により、疼痛の軽減に有効であった可能性が示唆さ
れた。
107
不対神経節ブロックは会陰部や肛門部の疼痛緩和
に有効性が期待される交感神経節ブロックである。
今回、大腸癌再発による難治性の肛門部痛に対し
て、超音波と透視を組み合わせることにより安全に
不対神経節ブロックを行い良好な鎮痛を得られた症
例を経験したので報告する。
症例:35 歳男性、直腸癌による穿孔性腹膜炎に対し
て緊急でハルトマン手術を施行された。術中初見で
骨盤底に腹膜播種を認めていた。手術2年後より肛
門痛が出現し、痛みの薬剤でのコントロールが不十
分となり当科に相談があった。
肛門に限局した痛みがあり、痛みの出現は不定期
であった。フェントステープ 16mg、オキノーム 50mg、
リリカ 300mg が緩和ケアチームから処方されていた
た。同時期に脳転移が発見され、薬剤による過鎮静
も問題になっていたため鎮痛薬の減量を期待して神
経ブロックを行うこととなった。
不対神経節ブロックが適応と判断し、手術室内にて
透視下、超音波ガイド下の dual guidance にて施行し
た。
手術台の上で伏臥位をとり、超音波にて仙尾骨接
合部正中を同定し交差法にて 25G の脊髄くも膜下
針を穿刺した。透視下に仙骨前面に針が到達したと
ころで造影剤を注入し、針の位置と薬剤の分布が問
題ないことを確認し、2%メピバカインを 4ml 注入した。
本人、緩和ケアチームより鎮痛効果があるとのことで
あったので、再度手術室内で無水アルコールを 5ml
注入した。ブロック施行後一時的に効果を認め、使
用鎮痛薬の減量ができた。
不対神経節ブロックは通常透視下に行われ、前後
像と側面像を確認しながら行うが、特に前後像では
腸管ガスの影響で穿刺部が不鮮明になることも少な
くない。しかし、超音波を併用することで容易に穿刺
部位を同定し、被曝量や施行時間を減らすことがで
きる。また、透視下で薬液の広がりを確認することで
神経破壊薬を安全に投与することができると考えら
れる。
一般演題 O6 口演研究演題(四肢の神経ブロック、他)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 溝渕知司
一般演題 O6 口演研究演題(四肢の神経ブロック、他)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 溝渕知司
コンティプレックス C を用いた超音波ガイド下持
続末梢神経ブロック:当院109例の使用経験
超音波ガイド下閉鎖管注入法は古典法を越
えるか?
-両アプローチ法における閉鎖管到達度の比
較検討-
〇木田健太郎、濵田高太郎、松尾 顯、寺田忠徳*
産業医科大学若松病院 麻酔科
産業医科大学病院 緩和ケア科*
〇 内野哲哉、三浦真弘*、椎原啓輔、松本重清、
北野敬明
背景:当院では、2015年4月からビー・ブラウンエー
スクラップ社製コンティプレックスC(CpxC)を使用し
ている。当院でのCpxCの使用経験を報告する。
方法:2015年4月から12月までのCpxC使用症例を
麻酔台帳から抽出し、末梢神経ブロックの種類、従
来型キットへの変更例、合併症(神経損傷・出血・感
染)、薬液漏れについて麻酔記録・看護記録を調査
した。
結果:CpxCの使用は109例。内訳は、大腿神経ブ
ロック59例、腕神経叢ブロック47例(斜角筋間;31
例、鎖骨上;16例)。合併症は認めなかった。8例で
刺入中の放散痛を訴えた。基本的にダーマボンドを
使用しているが、未使用例の3例で薬液漏れを認め
た。従来型キットへの変更は5例だった。理由は、針
の湾曲であった。
考察:109症例でCpxCを使用し、合併症は認めず
安全に使用できた。CpxCはOver the needleのカテ
ーテルであり、カテーテル周囲からの薬液漏れは生
じにくいと推測されるが、ダーマボンド未使用例では
薬液漏れが生じた。薬液漏れが生じたのはいずれも
大腿神経ブロックであり、刺入部の動きが多い部位
であったと推察される。
針の湾曲を経験し、CpxC使用時は以下に注意して
いる。①針が柔らかいので皮膚穿刺時は針を短く持
つ。Cグリップは使用しない方がやりやすい。②穿刺
後の軌道修正が難しいので皮膚の局所麻酔時の針
で穿刺の方向を確認する。③針の先端は、一度皮
膚を貫通すると切れが悪くなるので出来るだけ皮膚
穿刺は一回までとする。また、カテーテル留置に関
しては④穿刺中、針を持つ手を緩めると針が周囲組
織に押し戻されるので押し戻されないところで薬液
注入、カテーテル留置を行う。⑤内套を抜く際、内
套と外套の差があることを理解する。外套のみでも
少し進めることが可能である。
まとめ:CpxC は安全で留置が簡便だが、穿刺にはコ
ツが必要だった。更なる検討を重ねたい。
大分大学医学部麻酔科学講座
大分大学医学部生体構造医学講座*
【背景・目的】演者らはこれまで安全かつ正確な閉鎖
神経ブロックには、閉鎖神経の走行に大な影響を与
える外閉鎖筋の分束形態と閉鎖管周囲筋束の発達
状況の個体差に着目したブロック法の開発を試みて
きた。特に閉鎖神経後枝の基本走行を妨げる特定
筋束の出現、または少ない局所麻酔薬でより効果的
なブロックを可能にする方法として、超音波装置ある
いは神経刺激装置を用いた閉鎖管内神経本幹への
直接アプローチ法の重要性を提唱してきた。今回、
超音波ガイド下閉鎖管直接注入法の有効性を検証
するために、従来の古典法との間で閉鎖管到達度
の比較検討を行った。
【対象と方法】経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)
において閉鎖神経ブロックが必要な患者 70 名を対
象とした。両側ブロック施行の場合は 2 例とした。古
典法群と超音波ガイド下閉鎖管注入法群の適応は
すべて無作為割付けにて実施した。両法の閉鎖管
到達度の比較評価については、ブロック時に注入さ
れた造影剤を透視下で確認することで行った。
【結果】従来の古典法では 51 例中 22 例、超音波ガ
イド下閉鎖管注入法では 45 例中 37 例で、閉鎖管到
達が明らかに画像上で確認された。両群間の閉鎖
管への薬剤到達度には有意差が認められた。
【結語】神経刺激に依存した古典法では、外閉鎖筋
の過剰筋束を伴う症例の多くで閉鎖管到達が困難
と考えられた。一方、超音波ガイド下-閉鎖管注入法
では、閉鎖管周囲に発達する過剰筋束が出現して
も過半数で管内への造影剤到達が可能と推測され
た。今後、同法の適応と対策に関して解剖学的根拠
を伴う検証を継続したい。
108
一般演題 O6 口演研究演題(四肢の神経ブロック、他)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 溝渕知司
一般演題 O6 口演研究演題(四肢の神経ブロック、他)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 溝渕知司
超音波ガイド下末梢神経ブロックによる閉塞性
動脈硬化症患者の麻酔管理:当院での検討
肥満患者の超音波ガイド下大腿神経ブロック
におけるテープ引っ張り法
〇栗原郁実、鈴木俊成、又吉重彰、小山 薫
〇浅井明倫、杉浦健之、冨田麻衣子、仙頭佳起
吉澤佐也、太田晴子、徐民恵、草間宣好、
祖父江和哉
埼玉医科大学総合医療センター麻酔科
【背景と目的】閉塞性動脈硬化症患者では動脈硬
化に伴う虚血性心疾患、脳血管疾患、腎障害等の
合併症の頻度が高く全身麻酔のリスクを考慮すべき
症例が少なくない。区域麻酔についても抗凝固療法
中は脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔が禁忌となり得
る。今回、循環動態等への影響が少なく抗凝固療法
中でも施行可能な超音波ガイド下末梢神経ブロック
(peripheral nerve block : PNB)で管理した閉塞性動
脈硬化症の下肢手術について後方視的に検討し
た。
名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中
治療医学分野
【背景】大腿神経ブロックは人工膝関節置換術など
の術後鎮痛に有用である。また、人工膝関節置換術
をうける患者は、肥満であることが多い。肥満患者へ
の超音波ガイド下大腿神経ブロックの際には、腹部
の脂肪が鼠径部にかかるため、刺入部が見えにくい、
エコープローべで脂肪を圧排する必要がある、など
の問題点があり、施行が困難な場合がしばしばあ
る。
【目的】テープ引っ張り法の有用性を検証すること。
【テープ引っ張り法】当院では、肥満患者への超音
波ガイド下大腿神経ブロックの際に、テープ引っ張り
法を施行している。鼠径靭帯をはさんで、頭側と尾
側に靭帯と垂直方向に 3M テープ®を 2 本ずつ貼り、
皮膚を伸展することで腹部と大腿の脂肪を鼠径部か
ら排除する。ブロック中にはがれないように、テープ
の末端を手術台へと固定すると良い。
【方法】超音波ガイド下大腿神経ブロックを日常的に
施行している麻酔科医に対し、無記名でアンケート
調査を行った。
【結果と考察】22 名から回答を得た(回収率 100%)。
テープ引っ張り法を行うことでやりやすくなるとの回
答が 82%(18 名)を占めた。変わらないと回答した 4
人はいずれも卒後 10 年以上で、ブロックの経験が
豊富な者であった。卒後 5 年以内のレジデントは全
員が施行しやすくなると回答した。ブロックの初心者
が本法のメリットを感じている傾向がある。自由回答
では、本法の有効な点として「腹部の脂肪がよけら
れることによるエコー操作のしやすくなる」「ブロック
時にワーキングスペースが確保できる」「腹部の脂肪
がたれてこないため不潔になりにくい」「皮膚に張力
がかかるため鈍針での穿刺のしやすい」などがあげ
られた。
【まとめ】肥満患者の超音波ガイド下大腿神経ブロッ
クにおけるテープ引っ張り法は、ブロック初心者にお
いてブロックの施行を容易にする可能性がある。
【対象と方法】2010 年 4 月から 2015 年 7 月までの
37,309 手術症例の内、閉塞性動脈硬化症の下肢手
術で PNB(坐骨神経ブロック、大腿神経ブロック、閉
鎖神経ブロック)とプロポフォールまたはデクスメデト
ミジンで鎮静した症例を対象とし、全身麻酔に移行
した症例等は除外した。術前合併症、抗凝固療法、
術式、ブロック時間、使用薬剤、鎮痛剤使用、術後
鎮痛の詳細、術後転帰について検討した。
【結果】対象症例は 12 例、内訳は下肢バイパス手術
単独 7 例、下肢バイパス手術と足趾切断術 3 例、そ
の他 2 例であった。術前合併症は糖尿病(DM)単独
1 例、高血圧(HT)単独 1 例、DM/HT2 例、DM/慢性
腎障害(CKD)2 例、DM/HT/CKD5 例(陳旧性心筋
梗塞後 1 例・脳幹部出血後 1 例)であった。抗凝固
療法は 2 例以外投与されていた。平均 PNB 施行時
間 46.8±16.3 分、平均術後初回鎮痛薬投与時間
27.2±34.7 時間、平均局所麻酔薬投与量(ロピバカ
イン)242±64mg、平均在院期間 26±27.8 日、1 例死
亡退院となったが残り 11 例は軽快退院した。
【考察と結語】PNB による麻酔管理は術中術後を通
して麻酔の影響が少なく良好な周術期管理が可能
である。今回の検討においても 1 例を除き軽快退院
した。PNB による麻酔管理は、重篤な合併症を持つ
患者の有用な麻酔法の選択肢と成り得ると思われ
た。
109
一般演題 O6 口演研究演題(四肢の神経ブロック、他)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 溝渕知司
一般演題 O6 口演研究演題(四肢の神経ブロック、他)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 溝渕知司
腕神経叢ブロック腋窩アプローチで広背筋の
表面に薬液を注入すると橈骨神経は確実に
ブロックされるか
若年者の胸腔鏡下気胸手術に対する区域麻
酔が術後回復に与える影響の後方視的検討
〇酒井規広、髙内裕司
〇山口卓哉
大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター 麻酔科
長崎県対馬病院 麻酔科
【背景】気胸手術は、胸腔鏡下手術の普及により低
侵襲化が進んでいるが、小切開であっても術後の疼
痛が著しい。若年者の気胸手術に対する区域麻酔
が、術後鎮痛と回復に影響を与えるか、当院の診療
情報から後方視的に検討した。
【背景】
腕神経叢ブロック腋窩アプローチ(以下、腋窩ブロッ
ク)で、橈骨神経をブロックするには広背筋の表面に
局所麻酔薬を注入すると良いとされているがその確
実性は不明である。そこで、腋窩ブロックの際に上
腕で同定した橈骨神経の連続性を頼りに腋窩で橈
骨神経の位置を同定してブロックした場合(同定群)
と、正確な位置は同定せずに広背筋の表面を液性
剥離した場合(液性剥離群)で、橈骨神経領域のブ
ロック成功率と pre-scan からブロック終了までの時間
を後方視的に比較した。
【方法】2011 年 1 月 1 日から 2015 年 11 月 30 日ま
でに、自然気胸に対し胸腔鏡下手術を受けた、10
歳以上 40 歳未満の 190 症例について、診療記録か
ら後方視的に解析した。患者および個別手術デー
タのほか、手術終了から 8 時間以内および 24 時間
以内の鎮痛薬使用頻度、疼痛スコア(6 段階の VRS
スケール)、術後嘔気嘔吐の発生頻度、術後胸腔ド
レーンの抜去日を調査した。データは Wilcoxon Test
およびカイ二乗検定で解析し、有意水準を p=0.05 と
した。区域麻酔を受けた症例のうち、硬膜外、傍脊
椎、または肋間神経ブロックを受けた症例に分けて、
比較を行った。Bonferroni 補正を行い、有意水準を
p=0.0167 とした。
【方法】
調査対象は 2013 年 4 月~2015 年 12 月に腋窩ブロ
ックを行った 59 例。ブロックは仰臥位で肩関節を外
転・外旋し頭側から穿刺し、0.25%レボブピバカイン
20ml で超音波ガイド下に行った。橈骨神経のブロッ
クは手関節の背屈困難で成功と判定した。記録した
超音波動画と麻酔記録から、pre-scan からブロック終
了までの時間と有害事象を調査した。統計は
Student の t 検定および Fisher の正確検定を用い、P
<0.05 を有意差ありとした。
【結果】
同定群 25 例、液性剥離群 34 例で背景に差はなか
った。両群とも全例で橈骨神経はブロックされていた。
pre-scan 開始からブロック終了までは液性剥離群の
方が有意に短かった(液性剥離群 200±44 秒 vs 同
定群 299±87 秒; P<0.001)。
【考察と結論】
腋窩ブロックで広背筋の表面に薬液を注入すると橈
骨神経は確実にブロックされ、正確な同定後にブロ
ックするより手技時間は短かった。腋窩の橈骨神経
は、超音波画像上は周囲組織の影響を受けるため
他の神経と比べて正確な同定が難しいが、解剖学
上は広背筋の表面に位置するため同部位に薬液を
注入すれば橈骨神経に到達する。したがって超音
波で橈骨神経の正確な位置の同定が困難な場合に
本法は有効である。また液性剥離しながら針を進め
るため、橈骨神経や血管の損傷も回避しやすいうえ
に、注入した薬液とのコントラストにより超音波画像
上で橈骨神経の同定が容易になるため、確実なブ
ロックに貢献できる。
【結果】区域麻酔なし・有り各々95 症例で比較した。
術後 8 時間および 24 時間以内の追加鎮痛薬の使
用頻度は、区域麻酔なし対ありで、1 回(Range:0-
4)対 1 回(0-3)(8 時間、p<0.001)および 3 回(0-
7)対 1 回(0-7)(24 時間、p<0.001)で、区域麻酔有
りの症例は追加鎮痛薬必要量が有意に少なかった。
また、術後 0-2 日目の疼痛スコア低減、胸腔ドレー
ン抜去日短縮も、有意に区域麻酔有りの症例で優
れていた。嘔気嘔吐の発生頻度に差はなかった。区
域麻酔有り 95 症例のうち、硬膜外、傍脊椎または肋
間神経ブロックについて、全ての検討項目で有意差
を認めなかった。
【結論】若年者の胸腔鏡下気胸手術に対する区域
麻酔(硬膜外、傍脊椎または肋間神経ブロック)の併
用は、術後鎮痛薬の使用量低減、疼痛スコア低減、
胸腔ドレーン早期抜去に貢献する。区域麻酔の種
類による差異は認められない。
110
一般演題 P7 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 1)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 澤村成史
一般演題 P7 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 1)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 澤村成史
大腿骨頸部骨折手術において超音波ガイド
末梢神経ブロック(大腿神経・外側大腿皮神
経・坐骨神経)で麻酔管理を行なった 2 症例
超音波ガイド下末梢神経ブロックで管理した
ハイリスク患者における大腿部切断術の 1 例
〇茂山泰樹、大塚みき子、松田昌子
〇鈴木興太、木村哲朗、川島信吾、成瀬 智、
中島芳樹
*
浜松医科大学医学部附属病院 麻酔科蘇生科
医道会 十条武田リハビリテーション病院麻酔科
一般財団法人 甲南会 甲南病院麻酔科*
下肢切断術を必要とする患者は重篤な合併症を有
することが多い。今回我々はハイリスク患者の大腿
部切断術に対し、末梢神経ブロックで管理しえたの
で報告する。
症例 1:88 歳,女性,身長 154cm,体重 41.6kg
大腿骨転子部骨折に対し大腿骨骨接合術(ガンマ
ネイル)が予定された。既往歴として 7 年前に急性心
症例は 60 台の男性(体重 68kg)、閉塞性動脈硬化
症による足趾壊疽と下肢蜂窩織炎に対し大腿部切
断術 (膝上 10 ㎝)が予定された。
筋梗塞にて LAD 領域,RCA 領域にステント留置が
行なわれていた。術前心臓超音波検査で左室収縮
機能低下 EF38.1%,LAD RCA 領域の陳旧性心筋
僧帽弁置換術後でワーファリンを服用中であった。
中等度の大動脈弁狭窄症とⅡ度房室ブロックがあり、
肝硬変 (Child-Pugh 分類 B)により血小板の減少
(7.1 万)が認められていた。また、慢性腎不全により
透析中で、術前に右内頚動脈狭窄に起因すると思
われる透析中の意識消失をきたしていた。麻酔法は
循環動態へ影響の少ない末梢神経ブロックを選択
した。
梗塞(中壁~前壁の心尖部と中隔基部 akeinesis 他
は hypokenesis)を認めた。虚血性疾患による心機能
低下のため末梢神経ブロックを中心とした麻酔法を
計画した。
症例 2:79 歳,女性,身長 145cm,体重 60.5kg
超音波装置は S-NerveR (SonoSite 社製)のリニア
型を使用し、坐骨神経ブロックのみコンベックス型を
使用した。外側大腿皮神経ブロック以外は神経刺激
装置 StimuplexR (B/BRAUN 社製)を併用した。局所
麻酔薬は 0.375%ロピバカイン 40ml+デキサメサゾン
を坐骨神経ブロック 15ml、大腿神経ブロック 15ml、
外側大腿皮神経ブロック 5ml、閉鎖神経ブロック 5ml
に分割して投与した。外側大腿皮神経領域の鎮痛
が一部不十分であったが、術野での 1%キシロカイ
ン追加投与で手術を完遂できた(手術時間:1 時間
52 分)。
大腿骨頸部骨折に対し大腿骨骨接合術(ピーニン
グ)が予定された。既往歴として虚血性心疾患(心臓
カテーテルによる治療歴があるが詳細不明),慢性
閉塞性肺疾患・喘息を認めた。術前検査で心機能
は 保 た れ て い た が , 血 液 ガ ス 分 析 で PO2 :
50.1mmHg と低酸素血症を呈していた。呼吸機能低
下のため末梢神経ブロックを中心とした麻酔法を計
画した。
術翌日より術前から服用していたプレガバリンおよ
びトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の内服を再
開したが、術後 28 時間までその他の鎮痛薬は不要
であった。
両症例とも手術室入室後,超音波を使用して坐骨
神経ブロック傍仙骨アプローチ,大腿神経ブロック,
外側大腿皮神経ブロックを行った。手術執刀前に整
形外科医による局所麻酔を行なってから手術を開
考察:多数の合併症を持つ患者に対して末梢神経
ブロックでの麻酔管理は有用であった。局所麻酔薬
必要量が多く、肝硬変・腎不全のため局所麻酔薬中
毒の発生に注意を要したが、濃度を 0.375%として
総投与量を削減し、Dual Guidance での確実な薬
液投与で手術可能な鎮痛効果を得ることが可能で
あった。
始した。手術中の疼痛に対して局所麻酔やフェンタ
ニルを適宜追加し補助鎮痛を行なった。両症例とも
術中循環動態は安定しており無事手術を終了する
ことができた。超音波ガイド末梢神経ブロックは高齢
者心血管系・呼吸器系の合併症で全身麻酔を回避
したい症例において有用であることが示唆された。
111
一般演題 P7 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 1)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 澤村成史
一般演題 P7 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 1)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 澤村成史
困難気道が予想される高度凝固機能異常・
肥満患者の緊急下腿止血術に対して、末梢
神経ブロックで管理した 1 症例
持続腰方形筋ブロックを施行した人工股関
節再置換術の一症例
〇中川元文、上嶋浩順、原 詠子、大嶽浩司
〇木村哲朗、御室総一郎、鈴木興太、中島芳樹
昭和大学医学部麻酔科学講座
浜松医科大学医学部 麻酔・蘇生学講座
症例
65歳の男性。大腿骨頭壊死に対し49歳の時に両
側の人工股関節置換術を受けていた。右側の再置
換目的に手術が予定された。ワーファリンを内服し
ており、休薬はしたものの術前検査にてPT-INRが
1.24であったため、持続腰方形筋ブロック(QLB)で
の術後鎮痛を計画した。
標準的モニター装着後に左側臥位にて高周波リ
ニアプローベを用い腸骨稜上縁にて皮膚から4cmの
深さに腰方形筋(QLM)、大腰筋(PM)を描出した。背
側よりプローブと針が平行になるように皮膚にほぼ
垂直に刺入し、QLMとPMの間に針の先端を進めた。
0.375%レボブピバカイン20mLを注入したところ、薬
液が内側へ広がった。その後カテーテルを針先より
4cm挿入してQLMとPMの間に留置した。プロポフォ
ール、レミフェンタニル、ロクロニウムにより全身麻酔
を導入し、デスフルラン、レミフェンタニルで維持を
行った。術中のバイタルサインは安定して推移し、手
術は終了した。手術終了時に0.125%レボブピバカ
イン4mL/hで投与を開始した。
術直後の疼痛は自制内であり、NRS 3。ピンプリッ
クテストでTh8レベルからL5までの感覚低下が見ら
れた。膝と股関節の屈曲で軽度の筋力低下が見ら
れた。術後12時間ではNRSは3、腹部の感覚低下域
はTh12、L1領域のみに縮小し、下肢は大腿近位外
側部のみ感覚低下が認められた。術後36時間でも
同様な所見でありNRSは安静時3、動作時に5であっ
た。
【症例】51 歳女性。身長 150 cm、体重 120 kg(BMI
53)。約 20 年前に SLE と抗リン脂質抗体症候群と診
断された後、脳梗塞および肺塞栓の既往がありワル
ファリンを内服していた。誘因なく左下腿の出血を自
覚し、夜間に救急外来を受診した。広範囲な血腫と
皮膚からの出血を認め、PT-INR は 7 以上と高度延
長していた。圧迫止血は困難で、観血的止血術とデ
ブリードマンが予定された。
【麻酔経過】Mallampati 分類Ⅲ度、猪首、高度肥満
があり困難気道が予想された。最終飲食後 2 時間で
あり、誤嚥のリスクも高かった。高度凝固機能異常を
呈したが、全身麻酔より末梢神経ブロックによる管理
の方が安全と判断した。手術室入室前にビタミン K
製剤を静注した。リニアプローブでは左鼠径部での
大腿動静脈・神経の確認は困難で、コンベックスプ
ローブに変更したところ同定できた。刺入経路上に
血管が無いことを確認し、平行法で外側から穿刺し
た。神経刺激を併用し大腿四頭筋収縮が得られ、
0.75%ロピバカイン 10 ml と 2%リドカイン 10 ml の混
合液を大腿神経周囲に注入した。膝窩部での坐骨
神経ブロックを同量の薬液を用いて行った。手術範
囲の麻酔効果が確認できたため、神経ブロック 30 分
考察
今回の注入部位はBlancoが提唱するQLBⅡの位
置よりも背側、内側の位置であった。腰神経症ブロッ
ク(LPB)のShamrockアプローチに似たアプローチで
あるが、LPBと比較して血管穿刺などの合併症は起
こりにくいと考えられる。本症例のように凝固障害が
ある場合や体格などの理由によりLPBの施行が躊躇
される場合の術後鎮痛法の選択肢の一つになると
考えられる。鎮痛効果については今後さらなる検討
が必要である。
後に手術開始した。術中は軽度の違和感や痛みに
対して、適宜術野での局所麻酔とフェンタニル少量
投与で対応した。神経ブロックに伴う明らかな合併
症は認めなかった。術後 12 時間程度は無痛であり、
鎮痛剤を要しなかった。
【結語】高度凝固機能異常を認めたが、複数の重篤
な既往・合併症と困難気道・誤嚥の懸念から全身麻
結語
凝固障害を呈する人工股関節置換術の症例に対
して、持続腰方形筋ブロックを施行して良好な術後
鎮痛管理を行うことができた。
酔を回避して、末梢神経ブロックで管理した。高度
肥満患者であり、神経刺激を併用しコンベックスプロ
ーブを用いることで、合併症なく安全に大腿神経ブ
ロックを行うことができた。
112
一般演題 P7 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 1)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 澤村成史
一般演題 P7 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 1)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 澤村成史
アルコール性肝硬変による肝不全患者の大
腿骨頸部骨折手術に腸骨筋膜下ブロックと
デクスメデトミジンで麻酔管理を行った一例
上前腸骨棘内側からの腸骨筋膜下ブロック
は人工股関節全置換術の術後鎮痛に有効で
ある
〇植田紗代、上嶋浩順、盛 直博、大嶽浩司
〇田島啓一、富田絵美、猪股伸一*
昭和大学医学部麻酔科学講座
筑波記念病院麻酔科
筑波大学医学医療系麻酔蘇生学*
<症例>69 歳女性、身長 152cm、体重 51.4kg。転
[はじめに] 上前腸骨棘内側からのアプローチによ
る腸骨筋膜下ブロックは、大腿骨頚部骨折の術後痛
を軽減する可能性が学会報告されており、当院では
人工股関節全置換術に併用している。
倒による左大腿骨頸部骨折に対し観血的手術を予
定した。アルコール性肝硬変(Child-Pugh 分類 C)に
よる肝不全を併発していた。胸腹水の貯留により
SpO2 は空気吸入下で 93%であった。門脈圧亢進
からの繰り返す消化管出血もあり肝性脳症も認めた。
そのほか、洞不全症候群に対して埋め込み型ペー
スメーカーを挿入中であり、僧房弁置換術後のため
ワルファリン 1mg を内服中であった。全身麻酔や脊
髄くも膜下麻酔での麻酔管理を行うことは全身状態
を含めて高リスク群と判断し、腸骨筋膜下ブロックと
デクスメデトミジンを併用して麻酔管理を行うことを計
画した。
入室後、患者を手術台に仰臥位にした状態でプレ
スキャンをし、超音波ガイド下に腸骨筋膜下ブロック
を行った。薬液は 2%メピバカインと 0.75%レボブピ
バカインを使用して計 30ml を注入した。10 分後に
[方法] 今回、人工股関節全置換術の術後痛に対
する鎮痛効果を調べた。対象は、2016 年 1 月の人
工股関節全置換術の予定手術患者とした。全身麻
酔導入後に、超音波ガイド下に上前腸骨棘内側か
ら腸骨筋膜下に穿刺し 0.375%レボブピバカイン
30mL を注入し、手術を行った。術中からフェンタニ
ルを 300μg 分割投与し、術後鎮痛にはディスポーザ
ブル PCA ポンプを用いた自己調節鎮痛法(フェンタ
ニル持続静脈内投与 10μg/h、1 回投与 10μg、ロック
アウトタイム 10 分)を併用した。翌朝までの鎮痛効果
をフェンタニルの投与回数、補助薬剤の有無で判定
した。
[結果] 11 例の THA 症例に本ブロックを併用した。
手術中のフェンタニル投与量は 5.3±1.0μg であった。
術後の鎮痛スコアは NRS で 2±1 で他の鎮痛薬の使
用はなかったが、PCA 投与回数には 0 から 11 回と
差が大きかった。PCA 投与回数 5 回までを有効と考
えると 9 例で有効であった。
手術部位の鎮痛がはかれていることをピンプリックテ
ストで確認してから、デクスメデトミジンで鎮静を開始
した。術中経過と術後鎮痛ともに特に問題なく鎮痛
薬の追加投与もなく帰室した。手術時間 45 分、麻酔
時間 1 時間 40 分、出血少量、総輸液量 250ml、尿
量 200ml であった。
超音波ガイド下腸骨筋膜下ブロックを行うことにより、
大腿神経ではなく外側大腿皮神経を遮断することが
でき、全身麻酔や脊髄クモ膜下麻酔を行うことなく大
腿骨頸部骨折手術を行うことができた。近年、高齢
者の大腿骨頸部骨折は増加傾向にある。長期臥床
や術後の安静など、血栓塞栓症のリスクを伴うため、
術後に塞栓予防として抗凝固薬を使用する症例や
全身状態不良症例で全身麻酔や脊髄くも膜下麻酔
などをできれば回避したい場合に超音波ガイド下に
よる腸骨筋膜下ブロックとデキサメデトミジンによる鎮
静は有用な選択肢であると考えられる。
113
[結論] 人工股関節全置換術では術中に坐骨神
経や大腿神経などを損傷する可能性があり、術者が
手術直後に麻痺のないことを確認することが多い。
神経ブロックも神経損傷の可能性があるため、これら
の神経のブロックを併用することは難しい。上前腸骨
棘内側からアプローチする腸骨筋膜下ブロックは、
神経近傍のブロックではないので直接的な神経損
傷の可能性は殆どないことが利点である。欠点は、
薬液の拡がりのすべてを把握することができず効果
の予測が難しいことである。本ブロックは人工股関節
全置換術の術後痛を、単独で鎮痛することは難しい
と思われるが、フェンタニルの自己調節鎮痛法を併
用すれば有効な鎮痛方法となる可能性がある。
一般演題 P8 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 2)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 川口昌彦
一般演題 P8 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 2)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 川口昌彦
腰神経叢ブロックと仙骨神経叢ブロック併用
後に一過性の両下肢運動知覚神経遮断を来
した 2 症例
重症下肢閉塞性動脈硬化症に対する長時間
の血管内治療において、比較的低濃度のロ
ピバカインによる超音波ガイド下末梢神経ブ
ロックで管理しえた1例
〇柏木政憲、吉村薫子 1)、岡田美砂 1)、
西脇千恵美 2)、増田清夏 3)、増田祐也 2)、
平畑枝里子 4)、伊藤諭子 5)
〇長尾 瞳、肥田野求実、高木俊成、宮山直樹、
大橋祐介
東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
【 背 景 】 閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 ( Arteriosclerosis
Obliterans:以下 ASO)では、冠動脈疾患や
慢性腎臓病など全身の動脈硬化性病変を合併して
いることが多く、周術期合併症のリスクが高い。今回、
長時間手術にも関わらず、超音波ガイド下末梢神経
ブロックで麻酔管理を行いえた 1 例を経験したので
報告する。
【症例】82 歳、男性。168cm、57kg。不安定狭心症、
陳旧性脳梗塞、末期腎不全、II 型糖尿病、高血圧、
深部静脈血栓塞栓症、後天性血友病を併存し、既
往手術に人工血管置換術(腹部大動脈瘤破裂)、
冠動脈バイパス術、下大静脈フィルター留置術があ
った。右足趾の潰瘍が徐々に増悪し、痛みが下肢
全体に広がったため、血管造影およびバルーン拡
張術が予定された。
【麻酔経過】超音波ガイド下に、伏在神経ブロックを
2%リドカイン 4ml と 0.25%ロピバカイン 10ml で行っ
た後に、坐骨神経ブロックを 2%リドカイン 5ml と
0.25%ロピバカイン 20ml で行った。血管の石灰化が
強く、血管内へガイドワイヤーの誘導に難渋し、手術
時間が 5 時間 30 分に及んだが、疼痛の出現はなく、
循環動態も終始安定していた。術後、初回鎮痛薬
投与は、手術終了から 7 時間 5 分であった。
【考察】ASO 患者では、周術期も抗血栓療法の継続
が必須であることが多く、脊髄くも膜下麻酔や硬膜
外麻酔は合併症のリスクから敬遠される。下肢の末
梢神経ブロックの多くは体表近くで行われるため、
出血性合併症のリスクが比較的少なく、抗血栓療法
中の患者にも施行可能である。本症例では、血管造
影に対し伏在神経ブロックと坐骨神経ブロックとを併
用し、また速やかな作用発現と長時間の作用持続を
期待し、リドカインとロピバカインを併用した。手術予
定時間は 2 時間であったため、低濃度のロピバカイ
ンを使用したが、結果的に長時間に渡って効果は
持続した。
【結語】比較的低濃度のロピバカインによる伏在神
経ブロックおよび坐骨神経ブロックで長時間の血管
造影およびバルーン拡張術を行いえた。
114
東京都済生会中央病院麻酔科
北里大学北里研究所病院麻酔科 1)
慶應義塾大学医学部麻酔学教室 2)
東京都立大塚病院麻酔科 3)
東京都立小児総合医療センター麻酔科 4)
北里大学医学部麻酔科学教室 5)
【はじめに】人工股関節全置換術(前側方アプロー
チ)の麻酔管理を全身麻酔、腰神経叢ブロック、坐
骨神経ブロックの併用で行い、一過性の両側下肢
運動知覚神経遮断を来した 2 症例を経験したので
報告する。
【症例1】47 歳男性、175cm、75kg。潰瘍性大腸炎で
ステロイド全身投与中の右大腿骨頭壊死。フェンタ
ニルとプロポフォールにより麻酔導入、ラリンジアル
マスクで気道を確保し、セボフルランによる全身麻酔
維持を開始した後、第 4 腰椎レベルで短軸像の超
音波ガイド下に腰神経叢ブロックを行った。穿刺は
左側臥位で外側から神経刺激法を併用し、左大腿
四頭筋収縮と吸引テスト陰性を確認後、0.375%ロピ
バカインを 20mL 分割注入した。同 20mL による仙骨
神経叢ブロックも併用した。全身麻酔導入直後から
低血圧を認め、ブロック後 90 分間は昇圧薬の反復
投与により血圧を維持した。手術終了後、無痛状態
で良好な覚醒を得たが、健側下肢の運動・知覚神
経遮断を認めた。ブロックの 8 時間後に左足が運動
遮断から回復、12 時間後に両下肢の運動・知覚遮
断消失を確認した。
【症例 2】68 歳女性、149cm、46kg。高血圧合併。左
変形性股関節症。仙骨神経叢ブロックの薬液量が
15mL である以外は同様の方法で麻酔を行った。術
中は昇圧薬の持続投与により血圧を維持した。手術
は問題なく終了し、無痛状態で良好な覚醒を得たが、
第 10 胸椎レベル以下の運動・知覚神経遮断を認め
た。ブロックの 6 時間 30 分後に両側の足関節・足趾
が運動可能になり、13 時間後の観察で創痛の出現
と運動・知覚神経遮断からの回復を確認した。
【考察】術中に昇圧薬の使用を要する交感神経遮断
症状を呈していること、術直後神経遮断と回復まで
の時間から、腰神経叢ブロックが予期せず硬膜外注
入になった可能性が示唆される。
一般演題 P8 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 2)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 川口昌彦
一般演題 P8 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 2)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 川口昌彦
0.2 %ロピバカインを用いた大腿神経ブロック
の効果が遷延した 1 症例
腰神経叢ブロック施行後に後腹膜血腫を生じ
た本態性血小板血症合併例
〇 古内宏和、鈴木興太、木村哲朗、御室総一郎、
五十嵐寛、中島芳樹
〇杉本健輔、三枝里枝、山田真紀子、齋藤 繁
群馬大学医学部附属病院麻酔科蘇生科
浜松医科大学医学部 麻酔・蘇生学講座
〈症例〉
70 代、女性。変形性股関節症に対し股関節全置換
術を予定した。合併症として本態性血小板血症を認
めており、当院血液内科受診の結果、血小板数は
70.9 万/μl と高値であるが止血凝固能には問題はな
いとの判断であった。腰椎圧迫骨折の既往があり、
全身麻酔及び IV−PCA、腰神経叢ブロックの併用を
行う方針とした。
治療目的で施行した大腿神経ブロック(FNB)が長
時間遷延した症例を経験した。
【症例】75 歳男性。右 L3 神経領域の帯状疱疹後神
経痛(PHN)の治療のため、当科に通院していた。6
年前に全身性エリテマトーデスに罹患し、プレドニゾ
ロン 5 mg/日を内服していた。糖尿病に対して内服
〈経過〉
手術は予定通り終了し、術後側臥位の状態で超音
波ガイド下に 0.125%レボブピパカイン 30ml で腰神
経叢ブロックを施行した。穿刺中血液の吸引はなか
った。回復室で疼痛訴えあり、外側大腿皮神経ブロ
ックを追加で行い、その後疼痛は改善した。術後 10
時間より血圧の低下及びヘモグロビン値の低下を認
めたため自己血輸血 800ml および術後 2 日目まで
に濃厚赤血球液 4 単位の輸血が行われた。また、術
後 2 日目より血栓予防のためエドキサバンの内服を
開始した。術後 3ー5 日目にかけてヘモグロビン値
は改善し血圧も安定し、リハビリを行っていたが、術
後 6 日目に右腰痛、右鼠蹊部痛を自覚した。術後 7
日目に疼痛増強し、嘔気嘔吐の出現、ヘモグロビン
値の低下を認めたため造影 CT 施行したところ、後
腹膜腔に 10×15cm の血腫の形成と L4 レベルで同
部位への造影剤の漏出を認めた。濃厚赤血球液輸
血を適宜行い、エドキサバン内服およびリハビリを中
止し経過観察を行ったところ、全身状態安定のまま、
徐々に疼痛の改善を認めた。術後 19 日目の CT 再
検では血腫の吸収を認め、術後 21 日目よりリハビリ
を再開、術後 35 日杖歩行にて退院された。
薬とインスリンによる治療を受けていたが、四肢の明
らかな神経障害は認めていなかった。
PHN に対して薬物療法を行ったが奏功せず、本人
と相談の上で、大腿神経ブロックを行う方針とした。
超音波ガイド下で、平行法・外側アプローチで右
FNB を行った。神経刺激を併用して穿針し、大腿神
経近傍に針先が接近した際に 0.5 mA で大腿四頭
筋収縮が得られたため、0.2 %ロピバカイン 12 ml を
大腿神経周囲に注入した。FNB 手技中に放散痛は
認めず、注入時抵抗もなかった。FNB 後、右大腿前
面の痛みは著減した。膝関節の屈曲は可能であっ
たが、伸展が不能となった(徒手筋力テスト 1-2 程
度)。運動麻痺は遷延し、外来で 6 時間経過観察す
るも改善しなかった。帰宅後もブロックの効果は遷延
し、膝関節伸展が可能となったのは、FNB から約 21
時間が経過した翌朝であった。その後は、明らかな
神経障害を残すことなく回復した。
【考察・結語】
右大腿部 PHN に対して 0.2 %ロピバカインを用いた
FNB 施行後、ブロックによる効果が長時間遷延した
〈考察〉
血腫の形成は腰神経叢ブロックによる微細な血管の
損傷、高齢により筋組織が疎であったこと、術後 2 日
目に抗凝固薬を開始したこと、リハビリで体動が増加
したことが原因として考えられた。血小板増多の状
態における止血凝固能、および新規経口抗凝固薬
の併用について文献的考察を交え報告する。
症例を経験した。FNB 効果遷延の原因の特定は困
難であったが、糖尿病による潜在的な末梢神経障
害が関与している可能性が考えられた。糖尿病など
の末梢神経障害を有しうる合併症患者の末梢神経
ブロックは慎重に行う必要がある。
115
一般演題 P8 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 2)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 川口昌彦
一般演題 P8 ポスター症例演題(下肢の神経ブロック 2)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 川口昌彦
末梢神経ブロック下に行った大腿切断術に
おいて、神経のバリエーションでは説明のつ
きがたい痛覚残存を認めた 1 例
腰神経叢ブロック後に発症した局所麻酔薬
中毒の 1 症例
〇臼井智紀、禰宜田武士、杉浦真沙代
〇和泉裕己、井尻えり子、佐藤 慎、佐古澄子、
小野寺美子、飯田高史、笹川智貴、国沢卓之
半田市立半田病院麻酔科
旭川医科大学麻酔蘇生学講座
症例:99 歳の女性、147cm、44kg。閉塞性動脈硬化
【はじめに】一般的に局所麻酔薬中毒の発症率は、
末梢神経ブロックでは 7.5~20/10000 と言われてい
る。近年 Lipid Rescue の有効性は多くの症例報告で
示され、局所麻酔薬中毒に対する治療法として推奨
されている。今回、腰神経叢ブロック後に生じた局所
麻酔薬中毒に対して Lipid Rescue が奏効した 1 症例
を経験した。
症の診断で右大腿切断が予定された。術前合併症
として僧房弁閉鎖不全症による慢性心不全と腎機
能の低下を認めた。
術中経過:麻酔は、超音波ガイド下に 0.25%ロピバ
カインによる末梢神経ブロックと、デクスメデトンミジ
ン(DEX)とフェンタニルによる鎮静で行った。神経
ブロックは、坐骨神経(傍仙骨アプローチ)、大腿神
経、閉鎖神経、および外側大腿皮神経に行い、坐
骨神経・大体神経・閉鎖神経ブロックには神経刺激
を併用した。ブロック後のピンプリックテストで外側大
腿皮神経領域のみに痛覚の残存を認めたため、
1%リドカインによる局所浸潤麻酔を併用した。術中、
外側大腿筋間中隔・大腿二頭筋の処理時に強い疼
痛を訴えたため、同部位の切断処理中のみセボフ
ルランの吸入を行った。手術は 88 分で終了し、術後
の経過は順調であった。
考察:術前のピンプリックテストで痛覚が残存してい
た外側大腿皮神経領域の皮膚のみならず、坐骨神
経支配の大腿二頭筋でも痛覚残存が見られた。こ
れは外側大腿皮神経のバリエーションだけでは説明
【症例】患者は人工股関節置換術を予定された 60
歳台女性(身長 150cm 体重 52kg)、多発性嚢胞腎
による慢性腎不全で透析が導入されていた。入室後、
フェンタニル 100μg を静注しプロポフォール TCI
0.5μg/ml で鎮静を開始した。続いて超音波ガイド下
で神経刺激装置を併用し、腰神経叢ブロックを施行
した。神経刺激振幅 0.5mA にて大腿四頭筋の収縮
が認められた部位で 0.375%レボブピバカイン 30ml
を分割投与した。投与は血液の逆流がない事を適
宜確認しながら行った。薬液の投与から約 3 分後、
患者の応答がなくなり、全身痙攣を認めた。心電図
波形は心室頻拍であったが、総頸動脈は触知可能
であった。直ちに気管挿管、20%Intralipid 1.5ml/kg
の単回静注、続けて 0.25ml/kg/min で持続静注を開
始した。10 分後に心電図波形が正常化した。循環
回復後も脂肪乳剤を 10 分間継続投与し、総投与量
は 400ml であった。手術は中止とし、ICU へ移動、2
時間後に抜管した。患者は後遺症なく回復した。
【考察】局所麻酔薬の投与に先立ち、吸引テストで
血液の逆流がない事を確認する事は有用であるが、
確実な確認方法とは言えない。大腰筋は血流に富
む組織であり、腰神経叢ブロックは局所麻酔薬を比
較的大量に使用するため、他の神経ブロックと比較
して局所麻酔薬中毒が生じる可能性が高く、慎重な
投与が求められる。
がつかない。術前に坐骨神経支配領域の皮膚の痛
覚遮断は確認できていたが、坐骨神経、特に総腓
骨神経が十分にブロックできていなかった可能性が
考えられる。
結語:末梢神経ブロックにおいては、皮膚の痛覚遮
断の確認のみでは効果の判定が不十分なことがあり、
それに対応できる準備が必要である。
116
一般演題 P9 ポスター研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 天谷文昌
一般演題 P9 ポスター研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 天谷文昌
Analgesic Effects of a Combined Ultrasound-Guided
Serratus-Intercostal Plane Block and
Ultrasound-Guided Intermediate Cervical Plexus
Block after Single-Incision Transaxillary Robotic
Thyroidectomy
従来の胸部傍脊椎ブロックと椎弓アプローチ
の胸部傍脊椎ブロックとの有効性に関する比
較研究
〇安藤一雄、橋本 篤、佐藤祐子、藤原祥裕
〇Jin-Soo Kim*, Ki Young Lee†, and Han Bum Joe*
*Department of Anesthesiology and Pain Medicine, Ajou University
School of Medicine, Suwon, Republic of Korea, † Department of
Anesthesiology and Pain Medicine, Yonsei University College of
Medicine, Seoul, Republic of Korea
愛知医科大学麻酔科学講座
(背景)胸部傍脊椎ブロックは壁側胸膜、胸椎椎体、
上肋横突靭帯で囲まれた傍脊椎腔に局所麻酔薬を
投与し、同部位を走行する脊髄神経を遮断するブ
ロック法である。開胸手術の術後鎮痛法として、胸
部硬膜外麻酔と同等の鎮痛効果があるため、幅広く
用いられるようになっているが、気胸、血管穿刺、神
経障害などの合併症を起こす可能性がある。近年、
胸椎椎弓後面に沿って局所麻酔薬を投与しても薬
液が傍脊椎腔に広がるため鎮痛効果があると報告
された(椎弓アプローチ)が、前述の胸部傍脊椎ブ
ロックとの鎮痛効果、安全性に関する比較はなされ
ていない。
(目的)胸部傍脊椎ブロックと椎弓アプローチの胸部
傍脊椎ブロックを、術後鎮痛効果、麻酔効果、合併
症の発生頻度を比較し、検討することである。
(対象)術前の麻酔科診察時に肺がんに対し胸腔
鏡下肺切除術を予定の患者に対し当該研究につい
て説明を行い、同意を得た。
(方法)麻酔導入後に、無作為に胸部傍脊椎ブロッ
ク群と椎弓アプローチ群に振り分けて神経ブロック
を施行して 0.25%ロピバカイン 30ml を単回注入し
た。術後鎮痛してフェンタニルを 0.6μg/kg/hour 投
与し、また閉創時にフルルビプロフェン、アセトアミノ
フェン投与を行い以降、6 時間毎にアセトアミノフェ
ンを定期投与とした。
手術終了直後より経時的(術直後、1時間、4時間、
8時間、16時間、24時間)に安静時、体動時,咳嗽
時の Numeric Rating Scale(NRS)の記録を行っ
た。
(結語)現在の所、4名の患者(傍脊椎ブロック 2 名、
椎弓アプローチ 2 名)に行い。どちらの群でも全て
の時点で NRS は3以下と有効な鎮痛効果を得て明
らかな差を認めなかった。またレスキュードーズが必
要な患者は現時点なく、明らかな副作用も認めなか
った。
Abstract
Background and Objectives: Single-incision transaxillary robotic
thyroidectomy (START) requires a relatively large amount of tissue
disruption, which results in moderate-to-severe pain from the axilla to
the central neck during the early postoperative period. We investigated
the analgesic
effects
of
an ultrasound-guided (USG)
serratus-intercostal plane block (SIPB) combined with an USG
intermediate cervical plexus block (CPB) for reducing early
postoperative pain after START.
Methods: We randomized 22 patients to undergo either an USG SIPB
with an USG intermediate CPB (the block group, n = 11) or to not
receive any block (the control group, n = 11). We compared
postoperative axillary pain, postoperative neck pain, and analgesic use
between the groups.
Results: Visual analog scale (VAS) scores for axillary pain during the
first 24 hours were significantly lower in the block group than in the
control group. VAS scores for neck pain were lower during the first 3
hours in the block group than in the control group. The number of
rescue analgesics administered during the first 24 hours was lower in
the block group than in the control group. No side effect was observed
related to the peripheral nerve blocks.
Conclusions: An SIPB with an intermediate CPB under ultrasound
guidance was an effective and safe technique for reducing pain and
analgesic use after START.
117
一般演題 P9 ポスター研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 天谷文昌
一般演題 P9 ポスター研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 天谷文昌
超音波ガイド下傍脊椎ブロック時のレボブピ
バカインの血中濃度に対するエピネフリン添
加の影響
エコーガイド下腰方形筋ブロック(QLB)にお
ける至適描出角度の検証
〇仲村清貴、渡邊 至
〇山崎亮典、川股知之
横浜南共済病院
和歌山県立医科大学 麻酔科学教室
【背景】腰方形筋ブロック(以下 QLB)は,内臓痛に
効きうる末梢神経ブロックとして報告され,以降臨床
報告が散見されている.しかし,体幹背側で比較的
深部のブロックであるため,難易度が高いとされ,定
型的な穿刺方法は確立されていない.我々の施設
ではリニアプローブとニードルガイドを使用し,かつ
プローブの尾側への tilting により腰方形筋の描出を
向上させ施行している.腰方形筋は腸骨稜を起始と
し,L1~L4 椎体の肋骨突起に停止する.脊椎長軸
に対し斜めに走行するため、tilting 操作により筋外
側縁とエコービームが直行し,描出が良好となると考
えられる.今回我々は①腰方形筋の脊椎に対する
角度,すなわち解剖学的な至適描出角度(以下
QLBA)を計測し、さらに②男性に比し低身長、広骨
盤である女性の QLBA は男性より大きいとの仮説を
立て検証した。
超音波ガイド下傍脊椎ブロック(PVB)は、乳腺手術
や呼吸器外科手術時の術中および術後鎮痛の1つ
として多用されている。PVB では、局所麻酔薬を比
較的大量に投与するため、局所麻酔薬中毒に注意
が必要で、局所麻酔薬中毒の予防法の1つがエピ
ネフリンの添加である。そこで本研究は、呼吸器外
科手術時にレボブピバカイン(L)を用いて PVB を施
行し、L の薬物動態に対するエピネフリン添加の効
果を検討することを目的とした。
【方法】当院で肺癌に対し胸腔鏡補助下肺悪性腫
瘍切除術を予定され、PVB 併用全身麻酔で手術を
受ける成人を対象とし、無作為化を行い PVB 時に L
のみ使用する群(C 群、n=5)とエピネフリンを添加し
た L を使用する群(E 群、n=4)の2群に分けた。ブロッ
ク後 1,2.5,5,7.5,10,12.5,15,20,30,45,60,90,120,150 分
後の動脈採血を行い、経時的に動脈血中の L の濃
度を測定した。両群の最大血中濃度(Cmax)・最大
血中濃度到達時間(Tmax)・測定時間内曲線下面積
(AUC)・術後 6・12・24・48・72 時間後の安静時/体動
時の NRS を比較した。統計処理はマン・ホイットニの
U 検定を用い、p<0.05 を有意とした。
【方法】2015 年 10 月から 2016 年 1 月までの期間に,
当院で腹部手術を受けた患者 120 人(男性女性各
60 名)を対象とした.術前の胸腹部 CT 冠状断画像
から左右の QLBA を計測した.結果は平均値±標準
偏差で示し,解析はt検定で行い,P<0.05 を有意差
ありとした.
【 結 果 】 男 性 群 QLBA ( 右 ) 30.7±3.35° , ( 左 )
28.3±4.68°,女性群 QLBA(右)31.5±2.42°,(左)
29.3±2.98°であり,群間に有意差は認めなかった.
①至適描出角度は約 30°であり②QLBA が男性<
女性であるという仮説は棄却された.また,QLBA は
年齢・身長・体重・BMI のいずれとも明らかな相関を
認めなかった.
【結果】患者背景、術後 NRS に有意差はみられなか
っ た 。 Cmax は (C 群 :0.66μg/ml(0.61 - 1.00), E
群:0.53μg/ml(0.41-0.59)〔中央値(四分位)〕, p=
0.049)E 群で有意に低くなり、Tmax は(C 群:10 分
(6.9-10.6), E 群:60 分(60-75), p=0.012)E 群で有
意に延長した。AUC は(C 群:78.7μg/ml•min(63.7-
90.6), E 群:61.4μg/ml•min (52.3-69.7), p=0.14)有
意差をみとめなかった。
【考察】性差に関わらずプローブの約 30°の tilting 操
作は,腰方形筋の描出性を改善することが検証され
た.“30°tilting”は QLB における sonoanatomy の認
識を向上させ,ブロックの時間効率,確実性の向上
に有用であると考えられた.
【結語】PVB に使用する L にエピネフリンを添加する
と、術後鎮痛効果に寄与しないが、最大血中濃度
(Cmax)は減少し、最大血中濃度到達時間(Tmax)が
延長することが示唆された。
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一般演題 P9 ポスター研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 天谷文昌
一般演題 P9 ポスター研究演題(体幹の神経ブロック)
4 月 15 日 14:30~15:30 座長 天谷文昌
The effectiveness of ultrasound-guided thoracic
paravertebral block for percutaneous
radiofrequency ablation of hepatic tumor: A
pilot study
Postoperative Analgesic Effects of
Ultrasound-guided Bilateral Rectus Sheath Block
for Robotic Single-site Gynecologic Surgery
〇 Sooyoung Cho, MD, Youn Jin Kim, MD, PhD
Jae Hee Woo, MD, PhD, Hee Jung Baik, MD, PhD,
Jong Hak Kim, MD, PhD
〇 Hyungtae Kim, Boohwi Hong2
Department of Anesthesiology and Pain Medicine, Presbyterian
Medical Center, University of Seonam College of Medicine, Jeonju,
Korea
Department of Anesthesiology,
Chungnam national university hospital,
Daejeon, Korea2
Department of Anesthesiology and Pain Medicine,
School of Medicine, Ewha Womans University, 1071
Anyangcheon-ro, Yangcheon-gu, Seoul, Korea
Purpose:
To evaluate the effectiveness and feasibility of ultrasound-guided
thoracic paravertebral block (TPVB) for management of pain during
and after percutaneous RFA of hepatic tumor.
Materials:
All patients were divided into non-TPVB and TPVB group.
Non-TPVB group consisted of 4 patients (4 sessions RFAs for 4
tumors). In this group, demerol 25mg and fentanyl 50μg given before
RFA.
7 sessions of RFAs for 7 tumors in 5 patients were performed after
US-guided TPVBs. In this group, demerol and fentanyl were not given
before RFA. TPVBs were performed at T7 and 15 ml of 0.375%
ropivacaine was injected over 30 seconds into right paravertebral
space before RFA. We confirmed appropriate spread of ropivacaine
into paravertebral space by anterior displacement of the pleura on US
image (Fig. 1). And we evaluate cutaneous sensory block by cold test,
then performed RFA (Fig. 2).
In both groups, If patients complained pain and asked analgesics or
experienced pain with a verbal numerical rating scale (VNSR) of more
than 4, fentanyl 25 ug (up to 100 ug), demerol 25 mg, and midazolam
0.05 mg/kg (up to 5 mg) were additionally given intravenously during
RFA.
Results:
In non-TPVB group, patients complained intra-procedural pain
average 3.75 times per session of RFA. In all cases, fentanyl 100ug
and demerol 50mg were given during RFA. In 3 sessions, midazolam
was once given intravenously. All patients complained pain after RFA.
Post-procedural pain was complained during average 6.25 days after
RFA.
In TPVB group, patients complained pain in 3 sessions of RFAs and
total 25, 25, and 75μg of fentanyl were given during each session of
RFA. Patients complained intra-procedural pain average 0.71 times
per session of RFA. No patient complained pain after RFA. There is
no complication after TPVB.
The average value of median value of VNRS of each session was
6.125 and 1.571 in non-TPVB and TPVB group, resectively. The
average value of the opioid equivalence of analgesics guiven during
RFA was 13.3 and 1.9 in non-TPVB and TPVB group, resectively.
The average value of the opioid equivalence of analgesics guiven after
RFA was 147.75 and 0 in non-TPVB and TPVB group, resectively.
Conclusions:
US-guided TPVB can maybe a promising method for management of
pain during and after RFA of hepatic tumor.
Background: Rectus sheath block (RSB) can provide
alternative analgesia after midline abdominal surgery.
We evaluated the postoperative analgesic efficacy of
ultrasound-guided RSB for robotic single-site
gynecologic surgery.
Methods: 57 patients undergoing robotic single-site
gynecologic surgery were randomly allocated to RSB
group (n=28) and control group (n=29). After induction,
the RSB group received ultrasound-guided bilateral
RSB using 30 ml of 0.25% ropivacaine and the control
group didn’t. Same dose of intravenous patient
controlled anesthesia (IV-PCA) was applied to all
patients. Rescue analgesics were allowed when VNRS
of resting was higher than 3 despite of IV-PCA. At 0, 1,
6, 12, 24 and 48 hours postoperatively, VNRS of resting
and coughing, and four-point scale pain score were
assessed. Total infusion volume of IV-PCA, number of
PCA attempt, and number of rescue analgesics were
assessed for postoperative analgesic consumption. The
time to first request of rescue analgesics was also
recorded.
Fig. 1. Ultrasound image of the thoracic paravertebral block after administration of local anesthetic. An anterior
displacement of the pleura (downward movement) was observed. TP, transverse process; arrowhead, needle and
tip of needle; arrow, pleura; star, paravertebral space.
Results: VNRS of resting and coughing at 0 hour and 1
hour were significantly low in RSB group. VNRS of
coughing at 6 hours was significantly low in RSB group.
Four-point scale pain score was low in RSB group at 0,
1, 6, 48 postoperative hours. There were no differences
in total infusion volume of IV-PCA and PCA attempt.
The total number of rescue analgesics during 48
postoperative hours was significantly less in RSB group
than control group. The time to first request of rescue
analgesics was significantly shorter in control group
than RSB group.
Fig. 2. Area of sensory loss following thoracic paravertebral block.
arrow, entry site of needle of radiofrequency.
Conclusions: Ultrasound-guided bilateral RSB revealed
better analgesic outcomes up to 6 hours after the
laparoscopic gynecologic surgery.
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一般演題 O7 口演症例演題(問題症例の管理)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 奥富俊之
一般演題 O7 口演症例演題(問題症例の管理)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 奥富俊之
Modified pectoral nerves block と超音波ガイド
下局所浸潤麻酔による鎮痛で管理し全身麻酔
を回避できた腋窩リンパ節生検術の 1 症例
偶発的硬膜下腔カテーテル迷入を来した一
症例
〇春岡辰典、竹永真由、國徳裕二、原武義和
〇服部美咲、原田秀樹、平木照之、高瀬谷ひかり、
牛島一男
社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院麻酔科
久留米大学医学部麻酔学講座
近年 Pectoral nerves block が注目されており、同ブロ
ックで腋窩リンパ節生検術を管理した報告が散見さ
れる。今回我々は呼吸機能が著しく低下した患者の
腋 窩 リ ン パ 節 生 検 術 に 対 し て Modified pectoral
nerves block(以下 PECS Ⅱ)と局所浸潤麻酔で管理
できた症例を経験したので文献的考察を加え報告
する。
【症例】57 歳男性。悪性リンパ腫の疑いで全身麻酔
下での左腋窩リンパ節生検術が申し込まれた。しか
し重度の気管支拡張症があり Hugh-Jones 分類Ⅲ度、
混合性換気障害、喀痰多量の状態で全身麻酔のリ
スクは高いと判断した。そこで PECS Ⅱと局所浸潤
麻酔および鎮静下での麻酔管理を計画した。
【麻酔経過】超音波ガイド下に 0.25%レボブピバカイ
ンを左大胸筋・小胸筋間に 15mL、左小胸筋・前鋸
筋間に 25mL 注入した。15 分後に左前胸部の Th1-3
領域と前腋窩線までの腋窩領域の知覚鈍麻を認め
たが、腋窩全領域の痛覚消失は得られなかった。腋
窩深部の鎮痛目的で超音波ガイド下に腋窩リンパ
節周囲に 0.25%レボブピバカインを 20mL 注入、皮
切部に 1%リドカインで浸潤麻酔を行い執刀した。神
経ブロック施行中にケタミンを適宜使用したが、術中
はデクスメデトミジンによる鎮静のみで管理可能であ
り、酸素 3L/分投与で SpO2: 98%前後で安定してい
た。手術時間 26 分、出血少量であった。
【考察・結語】腋窩部位には PECS Ⅱでブロックされ
うる第 2,3 肋間神経外側皮枝に加え腕神経叢由来
の内側上腕皮神経も分布する。従って腋窩の完全
な鎮痛を得るには PECS Ⅱと腕神経叢ブロック(鎖
骨上あるいは鎖骨下アプローチ)の組み合わせが必
要かもしれない。しかし本症例のように呼吸機能が
著しく低下した患者には横隔神経麻痺を伴う腕神経
叢ブロックは施行しづらい。今回、腋窩リンパ節生検
を PECS Ⅱと目標リンパ節周囲への超音波ガイド下
局所麻酔薬浸潤により安全に管理できた症例を経
験した。呼吸機能が高度に低下し全身麻酔を回避
したい症例の腋窩リンパ節生検術に対して、有用な
手段となる可能性がある。
81 歳, 男性. 身長 163 cm, 体重 63 kg. 下行結
腸癌に対して腹腔鏡下下行結腸切除術が予定され
た. 心筋梗塞の既往があり, 8 年前に薬剤溶出性ス
テント (DES) が留置された. 術前冠動脈検査で
DES の再狭窄と三枝病変を認めたが, 左室駆出率
は 61%と保たれていた. 麻酔計画は,硬膜外麻酔
併用全身麻酔とし, 第 11-12 胸椎間より傍正中法
で硬膜外カテーテル挿入を試みた. 吸引試験で髄
液の漏出がないことを確認し, test dose として 2%
メピバカイン 2 ml 注入した. 5 分後, 徐脈 (心拍数
43 bpm) と低血圧 77/47 mmHg を来たした. アトロ
ピン 0.5 mg と エフェドリン計 12 mg の投与で心拍
数 60 bpm 台, 収縮期血圧 100 mmHg 台に回復し
た. C5 より下の温痛覚低下と下肢の運動麻痺を認め
た. 心筋保護のため, ニコランジル 2 mg/h を開始
した. その後バイタルは安定して経過した. カテーテ
ル位置確認のため, オムニパーク TM 2 ml を注入し
て造影したところ, 側面像で脊柱管前後の線状陰影
を認めた. カテーテル造影所見と Lubenow らの診
断基準(吸引試験陰性, 予期せぬ広範囲知覚ブロ
ック, 低濃度での運動神経ブロック, 投与量に比べ
広範な交感神経ブロック)が起こったことから, カテ
ーテルの硬膜下腔迷入と判断した. 手術を中止し,
カテーテルを抜去して帰棟した. 約 1 時間後に下肢
の運動麻痺が,3 時間後に温痛覚も回復した.
術後心電図や経胸壁心エコーで新たな心筋虚血
を疑う所見は認められず, 心筋逸脱酵素の上昇もな
かった. その後, 神経障害なく経過し, 48 日後に全
身麻酔で問題なく手術が行われた.
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一般演題 O7 口演症例演題(問題症例の管理)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 奥富俊之
一般演題 O7 口演症例演題(問題症例の管理)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 奥富俊之
肺高血圧による心不全を繰り返す患者の鼡径
ヘルニア根治術 -デクスメデトミジンによる鎮
静と腰方形筋ブロックを中心とした麻酔管理-
腹横筋膜面ブロック併用による腹膜透析カテ
ーテル挿入術の麻酔経験
〇太田 聡、佐藤輝幸、服部美咲、牛島一男
〇吉田光剛、大城研司、森 侑治、河田竜一、
平山かおり、鴛渕孝雄
久留米大学病院麻酔科
山口県済生会下関総合病院 麻酔科
[症例] 25 歳男性 身長 173 cm 体重 43 kg
【症例】65 歳男性。メッシュプラグ法による右外鼡径
ヘルニア根治術が予定された。
[ 現 病 歴 ] 16 歳 時 に 肥 大 型 心 筋 症 と 診 断 さ れ
(EF:43%)、その後左心機能障害が進行した。20 歳
【既往歴】12 年前に心房中隔欠損症(ASD)と三尖
弁閉鎖不全症に対して ASD 根治術および三尖弁
形成術が行われた。術後肺高血圧(PH)が持続し,
約 4 年前から心不全で計 7 回入退院を繰り返した。
頃より心不全増悪に伴う腎機能低下が出現し、徐々
に増悪した。今回、腎代替療法が必要となるまで腎
機能が低下(BUN:108.9 mg/dl, Cre:7.30 mg/dl)し、
【入院時現症】経胸壁心エコーで中等度の三尖弁
閉鎖不全および僧房弁閉鎖不全を伴う PH(推定肺
動脈収縮期圧 57mmHg)を認めた。
腹膜透析カテーテル挿入術が予定された。
[麻酔経過]術前の EF は 19%と著明に低下しており、
【麻酔経過】手術室入室時からデクスメデトミジン
(DEX)0.6μg/kg/h の持続静注を開始した。観血的
動脈圧ライン確保の後,リアルタイムエコーガイド下
に右腰方形筋ブロック(QLB)を施行し, 0.5%ロピ
バカイン 20mL を注入した。QLB 終了 5 分後に第
11-12 胸髄領域(Th11-12)の痛覚消失を確認した。
手術前半に軽度の痛みの訴えが数回あったが,フ
ェンタニル 25μg×4 回およびプロポフォール 20mg×3
回の間欠投与による補助鎮痛・鎮静を併用し,後半
は全く痛みの訴えはなかった。術中を通じて呼吸・
循環とも安定しており,血管作動薬は使用しなかっ
た。手術時間 83 分,輸液 160mL であった。手術終
了後,Th8-12 の痛覚消失を確認した。
全身麻酔管理を避け、また脊髄くも膜下麻酔は心機
能保護および心房細動の治療のため術直前まで抗
凝固薬を内服していたため避けた。手術は左傍腹
直筋切開にてカテーテル挿入し、左臍上部から左
側腹部へ排出口を作成予定であったため、麻酔方
法として腹横筋膜面(TAP)ブロック(エコーガイド下)
にプロポフォール持続静脈内投与を併用することと
した。TAP ブロックは 0.375%ロピバカインを左季肋
部に 20 ml、両側臍部にそれぞれ 10 ml ずつの投与
【術後】鎮痛薬を用いることなく経過し,呼吸・循環に
も問題を生じなかった。術翌日の問診で,術中痛み
を感じた記憶はあるが,概して術中は快適だったと
の回答を得た。
で行った。ピンプリック法にて麻酔領域を確認した後、
プ ロ ポ フ ォ ー ル を 持 続 静 脈 内 投 与 (TCI:1.5 ~
2.5μg/ml)した。術中の鎮痛補助のため、フェンタニ
【考察・結語】PH 合併患者の周術期管理では,体循
環・右室前負荷・心収縮力の維持と低酸素血症・高
二酸化炭素血症・交感神経刺激などの PH 増悪因
子の回避が重要である。患者は頻回に心不全を繰り
返しており周術期心不全発症のリスクが高いと思わ
れたが, DEX による軽度鎮静・鎮痛下に QLB で手
術侵襲の大部分を抑制し,細心の注意を払って最
小限の補助鎮痛・鎮静を併用することで周術期の心
不全を来たさず安全に管理できた。
ルを適宜静脈内投与した。術中の循環管理は、
FloTrac/VigileoTM モニターを使用し、ドブタミンを適
宜投与した。術中特記すべき変化は認めず、問題
なく手術を終了した。
心機能の著しい低下を合併した末期腎不全患者
の腹膜透析カテーテル挿入術の麻酔管理として、
本法は有用であった。
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一般演題 O7 口演症例演題(問題症例の管理)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 奥富俊之
一般演題 O7 口演症例演題(問題症例の管理)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 奥富俊之
Von Willebrand 病の開胸食道癌手術の麻酔
疼痛管理
39℃の発熱妊婦における帝王切開術の区域
麻酔
〇竹山和秀、鈴木利保
〇金子友美、吉岡宏恵*、田村和美*、照井克生*
東海大学外科学系麻酔科
埼玉医科大学総合医療センター麻酔科
埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科*
<症例>
61 歳、男性、168cm、71kg。食道癌の診断で食
道癌根治手術(右開胸開腹食道摘出術)が予定さ
れていた。既往歴:Von Willebrand 病(未治療)
、
糖尿病(55 歳~メトグルコ、アマリール内服中、
1600cal/日)
、脳梗塞(57 歳、左半身不全麻痺、
プラザキサ内服中)
、高血圧(ディオバン内服中)。
嗜好歴:喫煙(40 本/日/30 年、4 年前から禁煙)、
アルコール(ビール、日本酒、ワイン/毎日/40 年
間)
。
<術前検査>
BS=221mg/dl (HbA1C:7.2%) 、 凝 固 能 :
APTT=48.8%(PT 活性=76%)
、出血時間:2 分
30 病。VWF 活性: 18%↓(基準値: 50~150%)
、
VWF 抗原量:35%↓(基準値: 60~150%)
、第Ⅷ
因子凝固活性:35%↓(基準値: 78~165%)であ
った。術前に血液凝固第Ⅷ因子製剤(商品名:コ
ンファクト 1000)を投与し VWF 活性、第Ⅷ因
子凝固活性を改善して手術に臨んだ。麻酔方法と
して硬膜外麻酔は行なわず、全身麻酔+末梢神経
ブロック+持続モルヒネ静注法を選択した。
<麻酔経過>
入室時血圧:140/92mmHg、心拍数:65/分、
Spo2:98%。酸素化後、レミフェンタニル 0.5γ
+プロポフォール 80mg+ロクロニウム 70mg で
麻酔導入を行い、右用ダブルルーメンチューブ
(37Fr)を挿管した。左橈骨に動脈ラインを留置し
左側臥位後に加刀後した。手術中は SIRS 予防と
してメチルプレドニゾロン、シベレスタットナト
リウムを投与した。手術中に APTT を測定し開
胸中は 32.6、手術終了前は 37.6 であった。術後
鎮痛法として右閉胸後に肋間神経ブロック
(0.5%ロピバカイン 5ml×2)
、開腹中に塩酸モル
ヒネ 10mg+生食 100ml =4ml/日の持続静注、閉
腹後に腹直筋膜面ブロック(0.5%ロピバカイン
20ml×2)を行った。手術時間は 7 時間 11 分、麻
酔時間は 8 時間 37 分、輸液量は 1600ml、出血
量は 287ml、尿量は 650ml であった。術後は挿
管のまま ICU 帰室とした。手術翌日はベッド上
半座位、手術 2 日後に歩行可であった。硬膜外麻
酔が行えなかった Von Willebrand 病患者の開胸
食道癌手術の麻酔疼痛管理について報告する。
【はじめに】緊急帝王切開患者の中には、子宮内感
染により発熱している妊婦がある。中には菌血症に
進展している可能性もあり、区域麻酔による中枢神
経系感染の合併が懸念される。感染徴候の明らか
な帝王切開患者で区域麻酔を行った症例を報告す
る。
【症例 1】41 歳。前期破水で入院管理。37 週よりオキ
シトシンによる陣痛促進を開始したが、39.0℃の発
熱と WBC 19800/μl・CRP 2.8mg/dl と炎症反応の上
昇を認めた。子宮内感染症・分娩停止で緊急帝王
切開の方針となった。麻酔は脊髄くも膜下麻酔を施
行し、術後速やかに解熱し炎症反応も低下。【症例
2】42 歳。妊娠 37 週 0 日、自宅にて 39.3℃の発熱を
認め緊急入院となった。入院後は 36℃台まで解熱
しており、WBC 15700/μl・CRP 1.2mg/dl と炎症反応
の上昇は軽度。翌日に陣痛発来し、体温は 37.6℃
まで上昇、WBC 23300/μl・CRP 3.7mg/dl と炎症反応
の上昇も認めた。Non Stress Test で変動一過性除脈
が散見され子宮内感染・胎児機能不全の診断で緊
急帝王切開となった。麻酔は脊髄くも膜下麻酔を施
行した。第 1 病日より体温は 36℃台まで解熱し炎症
反応も低下。第 10 病日に退院。
【考察】脊髄くも膜下麻酔の禁忌の一つに、刺入部
局所および全身の感染がある。くも膜下穿刺中に血
中の病原菌をくも膜下腔にもたらすと、髄膜炎やくも
膜炎の発症が懸念されるためである。敗血症患者で
は区域麻酔を選択することは危険だが、高熱で菌血
症の可能性が否定できない患者での区域麻酔の安
全性については議論が分かれるところである。帝王
切開においては区域麻酔の優位性が明白であり、
動物実験の結果などを踏まえ、麻酔施行前の抗菌
薬投与や清潔手技を徹底すれば区域麻酔は可能と
考えられており、今回の我々の経験はそれを裏付け
るものであった。
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一般演題 P10 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 1)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 垣花 学
一般演題 P10 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 1)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 垣花 学
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)合併
患者の帝王切開術を区域麻酔で管理した一
症例
気管無形成患児に対する膀胱直腸瘻離断・
人工肛門再造設術において硬膜外麻酔が有
用であった一例
〇安西晃子、渡邊 至
〇田中一生、山本信一
横浜南共済病院
東京都立小児総合医療センター
【 背 景 】 慢 性 炎 症 性 脱 髄 性 多 発 神 経 炎 (chronic
inflammatory
demyelinating
polyradiculoneuropathy:CIDP )は、神経の散在性脱
髄が生じ,筋力低下や感覚障害を示すまれな神経
炎症性疾患であり,麻酔報告も非常に少ない.帝王
切開術に関して,数例の報告があるが麻酔経過は
一定していない.今回、CIDP 合併患者の帝王切開
に対し、区域麻酔による麻酔管理を行った症例を経
験したので報告する。
【症例】3 歳 3 ヶ月男児、89.0cm、10.42kg。36 週 4
日、2379g で出生し日齡 4 で胸部 CT 画像、気管支
鏡検査によって気管無形成(Floyd 1 型)の診断とな
った。その他の合併症として鎖肛、右水腎症、椎体
異常などが認められた。食道絞扼術、人工肛門造
設、気道としての食道切開および頚部食道離断術、
唾液瘻造設などを行ない、在宅人工呼吸管理となっ
ていた。今回、膀胱直腸瘻離断・人工肛門再造設術
が予定された。
【症例】32 歳女性。25 歳で CIDP を発症、以降プレド
ニゾロンとメコバラミンの内服加療を継続し,四肢の
筋力低下やしびれ感などの症状が消失するまでに
回復していた.今回、双胎妊娠のため予定帝王切
開の方針となった。麻酔は脊髄くも膜下硬膜外併用
麻酔の方針とした。右側臥位で Th11/12 より硬膜外
麻酔を行い、カテーテルを留置,続いて L3/4 より脊
髄くも膜下麻酔を行った。0.5%高比重ブピバカイン
1.8ml+フェンタニル 10mcg を投与、術直前の麻酔高
は右:Th4 左:Th3 であった。手術は 55 分間で終了し、
終刀時の麻酔高は右:Th3 左:Th3 であった。術後経
過は,術直後 Bromage スケール右:Ⅲ左:Ⅲ、麻酔 2
時間後には両側Ⅰにまで回復した。以降,感覚運
動異常は認めず、術後 7 日目に退院となった。
【麻酔管理】他院での複数回実施された全身麻酔に
おいて、気道虚脱によるものと考えられる換気不全
から 2 回蘇生が行われていた。自発呼吸下に用手
換気を併用しながらの麻酔管理が必要であったとの
ことから、今回の麻酔に関しては、筋弛緩薬を使用
せず、硬膜外麻酔を腹部の筋弛緩と鎮痛の主体に
した麻酔管理を計画した。
実際の麻酔管理は、気道として頚部食道切開孔に
挿入されている気管カニューレ(I.D 6.0mm)を術中
も継続使用し、麻酔導入は用手換気が可能であるこ
とを確認しながらプロポフォールとフェンタニルを緩
徐に少量ずつ投与した。導入途中で自発呼吸が減
弱したが、陽圧換気にて呼吸管理は可能であり、自
発呼吸が消失しても呼吸状態は安定していたが、筋
弛緩薬の投与は行わなかった。導入後に硬膜外カ
テーテルを挿入、1.5%キシロカイン 3ml を投与し、腹
部の鎮痛および筋弛緩は良好に得られた。麻酔維
持はプロポフォールとレミフェンタニルで行い、硬膜
外に 0.375%アナペインを 2.8ml 追加投与し約 4 時
間半の腹部手術は終了した。術後、局所麻酔薬中
毒を疑わせる症状はなく、呼吸状態は良好であっ
た。
【考察】CIDP 患者の麻酔方法に関するガイドライン
は存在せず,過去には帝王切開術の脊髄くも膜下
麻酔からの回復に 24 時間以上を要した症例も報告
されている.当院での帝王切開における標準的な麻
酔からの回復時間は,右:3.3 時間 左:3.1 時間であ
るのに対し、本症例では右:2 時間 左:2 時間と回復
時間の遅延は認めなかった。
【考察】気管無形成の症例に麻酔を行う際の問題点
として、自発呼吸の消失に伴う食道虚脱による換気
困難の可能性が挙げられる。筋弛緩を用いない術
中管理と、硬膜外麻酔を主とした麻酔管理が有効で
あったのではないかと考えられる。
【結語】CIDP 合併患者の帝王切開に対し、区域麻
酔による麻酔管理を行った症例を経験した.本症例
においては,脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔での麻
酔管理は適切であったと考えられた。
123
一般演題 P10 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 1)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 垣花 学
一般演題 P10 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 1)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 垣花 学
腰椎椎弓切除術にて硬膜外麻酔を用いるこ
とで良好な鎮痛が得られ、挿管せずに手術を
行った一例
経皮的内視鏡腰椎椎間板ヘルニア摘出術に
対する麻酔方法の検討
〇斎藤重行、木村麻衣子、山田久美子、藤倉あい
〇五十嵐 達、増田裕也、森﨑 浩
筑波学園病院 麻酔科
慶応義塾大学医学部 麻酔学教室
経皮的内視鏡腰椎椎間板ヘルニア摘出術(PEL
【症例】78 歳男性、162cm、66kg
D)は、手術機器や光学機器の進歩と手技の普及に
伴って症例数が増加している。従来の直視下手術と
【既往歴】気管支喘息、前立腺癌術後、混合性換気
障害
比較して脊椎周囲の皮膚筋肉等の組織侵襲が少な
く入院期間の短縮や早期に社会復帰ができる利点
【現病歴】2 年前より右臀部痛、間欠性破行、両足の
しびれを認めていた。MRI により第 4 腰椎第 5 腰椎
椎間の狭窄を認めたため、脊柱管狭窄症の診断で
腰椎椎弓切除術が予定された。患者の職業上の理
由により声帯損傷の可能性がある気管挿管やラリン
ジアルマスク挿入を避ける必要があり、硬膜外麻酔
(局所麻酔薬単回投与)と全身麻酔による麻酔計画
を立てた。また、整形外科医と術前に協議し、手術
時間を短く収めるよう注力していただくこととした。
がある。麻酔方法として局所麻酔、全身麻酔それに
が行われている。
今回、当院で行われたPELD の麻酔方法を後ろ向
きに検討して各麻酔方法について報告する。
対象と検討方法:2013 年 6 月から 2018 年 1 月に腰
椎椎間板ヘルニアに対してPELD を行った患者に
ついて麻酔方針の変遷について検討した。
整形外科医がPELDを導入した時点では、欧米の
文献にあるように麻酔科医がスタンバイする形での
【経過】患者入室後、第 3 腰椎第 4 腰椎椎間より硬膜
外針を挿入し、空気による Loss Of Resistance 法に
て硬膜外腔を同定した。カテーテルを針の先端から
2cm 先に進めて仮固定し、0.5%ポプスカインを 15cc
硬膜外注入した。注入 10 分後に第 10 胸椎レベルか
ら仙骨レベルまでの冷感消失を確認し、プロポフォ
ールの TCI により全身麻酔を開始した。就眠を確認
後に経鼻エアウェイを挿入し、気道確保が十分であ
る事を確認し体位を腹臥位にした。腹臥位にて自発
呼吸が保たれ、気道が確保されているのを確認後に
手術が開始された。術中の急激な血圧・心拍数変
化や術中覚醒を示唆する所見は認められなかった。
手術終了ののち、体位を仰臥位に戻しプロポフォー
ル投与を終了した。覚醒後の疼痛コントロールは良
好であった。
局所麻酔を行い、患者の状態に応じて完全な覚醒
状態から軽度鎮静でおこなわれていたが、神経根
周囲の圧迫で短時間ではあるが強い痛みを生じるこ
とがあった。そのため整形外科医の要請で麻酔科管
理の全身麻酔を行うようになった。最近では、硬膜
外麻酔を行い軽度鎮静下による麻酔となっている。
局所麻酔下に 10 例、全身麻酔下に 37 例、硬膜外
麻酔下に 12 例行っている。
患者プロフィールには各群で差はみられなかったが、
麻酔時間は、硬膜外麻酔で 1 時間 52 分 局所麻酔
で 1 時間 25 分 全身麻酔で 2 時間 26 分であった。
硬膜外麻酔は、責任椎間の1または2椎間頭側から
22G硬膜外針を用いて、2%リドカイン4mlと 0.25%
レボブピバカイン4mlを混合し、一回投与を原則とし
【結語】全身麻酔下の手術時に気管挿管やラリンジ
アルマスク挿入を避ける場合、十分な鎮痛を確保す
る必要があるが、脊椎の手術の場合は鎮痛法の選
択が難しい。今回、我々は腰椎椎弓切除術にて硬
膜外麻酔を用いることで良好な鎮痛が得られ、気管
挿管をする事無く全身麻酔が行えることを確認した。
て行った。
術者とは、手術中の神経根症状が完全に消失する
麻酔にならないことで、手術の安全性を高めることを
共通認識の上患者の同意を得ており、他の報告に
あるように利点がある麻酔方法といえる。
124
一般演題 P10 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 1)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 垣花 学
一般演題 P10 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 1)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 垣花 学
成人心房中隔欠損症に伴う肺高血圧症患者
の両側鼠径ヘルニア根治術に対して区域麻
酔を中心とした多角的鎮痛により良好に管理
できた 1 例
神経筋疾患患者の開腹手術を硬膜外麻酔主
体の筋弛緩薬を使用しない全身麻酔で管理
した 2 症例
〇西村和浩
〇 太田晴子、徐 民恵、浅井明倫、冨田麻衣子、
仙頭佳起、吉澤佐也、草間宣好、杉浦健之、
祖父江和哉
小松市民病院麻酔科
【はじめに】呼吸筋力低下や球麻痺症状を伴う神経
筋疾患患者では、術後に呼吸不全や誤嚥性肺炎を
合併しやすい。今回、2 例の神経筋疾患患者の開腹
手術を、硬膜外麻酔主体の筋弛緩薬を使用しない
全身麻酔で管理した。
名古屋市立大学大学院医学研究科 麻酔科学・集
中治療医学分野
背景:未治療の成人先天性心疾患では重度の肺高
血圧症を合併することがあり、非心臓手術における
周術期死亡率は極めて高い。肺高血圧症合併症例
の麻酔管理では、肺血管抵抗上昇を避け、体血管
抵抗を維持することが重要であり、麻酔法の選択に
は十分な検討が必要である。今回、未治療の心房
中隔欠損症に伴う肺動脈性肺高血圧症を合併した
高齢患者の両側鼠径ヘルニア根治術に対して、区
域麻酔を中心とした多角的鎮痛とデクスメデトミジン
による鎮静の併用により良好に管理できた 1 例を経
験した。
【症例 1】68 歳男性、身長 162cm、体重 67kg。約 10
年前から球脊髄性筋萎縮症で当院内科通院中。腹
部膨満が増強、横行結腸の人工肛門造設術が予定
された。麻酔は、プロポフォールと少量のレミフェン
タニルで導入、筋弛緩薬を用いずに気管挿管を行
った。術中はデスフルラン、レミフェンタニル、0.75%
ロピバカインの硬膜外投与で管理した。術中、腹壁
は十分弛緩し、手術に支障はなかった。手術は 35
分で終了、麻酔薬を中止すると速やかに自発呼吸
が出現、十分な呼吸を確認して抜管した。術後経過
は良好で、術後 7 週間で療養型施設に転院となっ
た。
症例:74 歳の男性。高校生の頃に心房中隔欠損症
を指摘されたが、無治療で経過、73 歳時に労作時
呼吸困難を自覚し、心房中隔欠損症および肺動脈
性肺高血圧症と診断された。同時期に両側鼠径ヘ
ルニアと診断されたが、ヘルニア嚢が大きく局所浸
潤麻酔のみでの手術は困難、また、重度の肺高血
圧症合併のため全身麻酔や脊髄くも膜下麻酔は容
認されないとの判断で、経過観察となった。しかしな
がら、患者の手術希望が強く、手術の可否について
関係各科で協議した。麻酔科としては、麻酔法は末
梢神経ブロック(両側腸骨下腹/腸骨鼠径神経ブロ
ック)を中心に、補助的な硬膜外麻酔、術野での局
所浸潤麻酔、デクスメデトミジンでの鎮静の併用で
手術可能と判断した。術中は、末梢神経ブロックの
効果はある程度得られ、硬膜外麻酔を併用したこと
で、術野の局所浸潤麻酔の追加投与は最小限に抑
えられた。また、内臓痛の制御も可能であった。鎮静
レベルの調節も良好で、呼吸抑制や循環虚脱なく
手術は終了、一般病棟へ帰室した。
【症例 2】59 歳男性、身長 170cm、体重 44kg。筋強
直性ジストロフィー(筋障害度スコア 5/5)で他院通院
中、S 状結腸捻転を反復するため S 状結腸切除・胃
瘻造設術が予定された。麻酔は、プロポフォールの
TCI 投与と少量のレミフェンタニルで導入維持、筋
弛緩薬は用いずに気管挿管施行、0.75%ロピバカイ
ンの硬膜外投与で管理した。術中、腹壁は十分弛
緩し、手術に支障はなかった。手術時間 1 時間 45
分、手術終了 15 分前にレミフェンタニル投与を中止
した。手術終了から約 20 分で自発呼吸が出現、十
分な呼吸を確認して抜管した。術後経過は良好であ
ったが、術後 4 日目に誤嚥性肺炎を併発、1 週間の
人工呼吸を必要とした。術後 6 週間で紹介元に転院
となった。
【考察】球麻痺症状の強い神経筋疾患では、わずか
な残存筋弛緩でも術後呼吸不全の原因となる可能
性がある。2 症例とも誤嚥の危険が高く気管挿管を
必要としたが、筋弛緩薬は使用しなかった。手術時
の麻酔は、硬膜外麻酔を主体とすることで安定し覚
醒にも問題はなかった。術後 4 日目の誤嚥について
は別途対策が必要である。
考察とまとめ:Eisenmenger 症候群を呈する肺高血
圧症では、非心臓手術の適応は絶対不可避なもの
に限るとされるが、区域麻酔を中心とした監視下鎮
静管理により安全に管理できる可能性がある。また、
本例のようなハイリスク症例では、術前からの関係各
科の連携が重要である。
125
一般演題 P11 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 2)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 坂口嘉郎
一般演題 P11 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 2)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 坂口嘉郎
術後 2 日目に硬膜外カテーテルが硬膜下に
移動したと考えられる 1 例
長年の喫煙歴がある患者の多発肋骨骨折に
対して呼吸器合併症予防として持続硬膜外
麻酔を使用した一例
〇榎原 純、富田信行
〇樋口 慧、小幡輝之、奥 和典、篠田威人、
桑迫勇登、大嶽浩司*
溝口外科整形外科病院
如水会 今村病院*
昭和大学藤が丘病院 麻酔科
昭和大学 麻酔科学講座*
【背景】外傷による多発肋骨骨折は肺挫傷や血気胸
などの胸腔内病変を伴うことが少なくなく、肺コンプ
ライアンスの低下やシャント率の増加の結果として低
酸素血症を呈することがある。また骨折の疼痛に伴
う換気量の低下や喀痰の排出困難は無気肺や肺炎
の危険性を増大させ、さらに低酸素血症を助長させ
る可能性がある。このため主病変の治療に平行して
疼痛の管理を行うことが重要である。特に喫煙歴が
ある患者や COPD 患者は気道分泌物が多い傾向に
あり、疼痛の管理による喀痰の排出促進を積極的に
行う必要がある。
今回,我々は,穿刺時は硬膜外に留置されていたカ
テーテルが術後 2 日目に硬膜下に移動したと考えら
れる症例を経験したので報告する.
*
【症例】72 歳,女性.156cm,51kg.卵巣顆粒膜細胞
腫の再発に対して腫瘍切除術が予定された.術前
の検査で,同疾患に対する複数回の手術以外に特
に異常を認めなかった.硬膜外麻酔併用全身麻酔
の予定とした.手術室に入室し,右側臥位で硬膜外
麻酔を施行した.Th11/12 で傍正中から穿刺し,抵
抗消失法にて深さ約 4cm で硬膜外腔に到達し,カ
テーテルを頭側に 5cm 留置した.吸引試験は陰性
で,テストドーズとして 1%キシロカインを 3ml 注入し
た.血管内注入やクモ膜下注入を示す所見はなか
った.全身麻酔導入は問題なく,術中の循環動態も
安定していた.術中から硬膜外カテーテルより
0.25%レポブピバカインをバルーンジェクター5ml/hr
で持続投与した.術後鎮痛は良好で,下肢の筋力
低下は認めなかった.術後 2 日目の夜間に内容液
が空になったため,0.25%レポブピバカインを追加し,
持続投与を再開した.その際の吸引試験も陰性で,
急速注入は施行しなかった.投与再開 3 時間後の
体位変換の際に,下肢の脱力と便失禁を認めた.コ
ールドテストで両側 Th3 以下の知覚消失を認めた.
両下肢の MMT は 1 だった.吸引テストは陰性だっ
たが,局所麻酔薬の持続投与を中止した.投与中
止 30 分後より徐々に感覚が改善し,1 時間半後に下
肢の MMT が 3-4,3 時間後には MMT が 5 に改善
した.その後,感覚の低下や運動麻痺は認めなかっ
た.術後経過は良好であったため,術後 11 日目に
退院した.
【症例】48 歳、男性。身長 172cm、体重 63kg。約 40
本/日、30 年間の喫煙歴有り。転倒により左第 2〜5
肋骨骨折、肺挫傷、気胸、皮下気腫を生じた。胸壁
運動は正常。頭部 CT にて明らかな頭蓋内病変は無
かった。胸部 CT にて明らかな血気胸を疑う所見が
無く、ドレナージをするべきスペースも小さかったた
め 、 入 院 し て経 過 観 察 と な っ た 。酸 素 投 与 1 〜
3L/min にて SpO2 の低下なく経過していたが、多発
肋骨骨折に伴う疼痛のため呼吸困難感、喀痰排出
困難が続いていた。無気肺や肺炎の併発を予防す
るために、Th5/6 よりカテーテルを挿入し 0.2%ロピバ
カ イ ン 2mL/h に て 硬 膜 外 自 己 調 節 鎮 痛 法
(patient-controlled epidural analgesia:PCEA)を始め
た。以降の疼痛コントロールは良好で、呼吸困難感
はほぼ消失し喀痰排出も容易となった。危惧された
呼吸器合併症を併発することも無く、カテーテルは
挿入より 7 日後に抜去した。
【考察】外傷による多発肋骨骨折患者の鎮痛法とし
て PCEA を用いて長期喫煙患者に良好な呼吸管理
及び疼痛管理を行うことができた。オピオイドによる
呼吸抑制の可能性をなくすために局所麻酔薬のみ
の持続投与としたが、必要な鎮痛は得られた。
【考察】硬膜外麻酔の合併症として,硬膜下注入は
それほど稀ではなく,頻度は 1%とする報告もある.
しかし,カテーテル留置後に硬膜下クモ膜外へカテ
先が移動したという報告は少ない.原因として体動
やカテーテルのたわみなどが考えられる.
126
一般演題 P11 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 2)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 坂口嘉郎
一般演題 P11 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 2)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 坂口嘉郎
硬膜外麻酔施行後に低髄圧症候群に伴う頭
蓋内硬膜下血腫を認めた 1 例
硬膜誤穿刺後頭痛に髄膜炎様症状を呈した
症例
〇渡邊具史、黒田美聡、秋元 亮、岡田真行、
川前金幸
〇高橋枝み、高木俊一、西本雅、丸山恵梨香、
樋口秀行、尾崎 眞
山形大学医学部附属病院麻酔科
東京女子医大病院麻酔科学教室
【はじめに】硬膜外麻酔後の 4POD に低髄圧症候群
に伴う頭蓋内硬膜下血腫が判明した症例を経験し
たので報告する。
【はじめに】硬膜誤穿刺後頭痛(post-dural puncture
headache: PDPH)に髄膜炎様の症状を呈した症例を
経験したので報告する。
【症例】23 歳、女性。身長 147.7cm、体重 39kg。潰瘍
性大腸炎、S 状結腸および直腸悪性腫瘍、卵巣嚢
腫に対して、硬膜外麻酔併用の全身麻酔下で腹腔
鏡下大腸全摘出術・左卵巣嚢腫核出術が予定され
た。
【症例】51 歳女性、身長 154 cm、体重 42 kg。直腸癌
で 1 年前にハルトマン手術後。他に既往歴はなく、
ルーチンの術前検査でも異常はなかった。今回、人
工肛門閉鎖術に対し、硬膜外麻酔併用下の全身麻
酔を予定した。硬膜外麻酔は右側臥位にて抵抗消
失法を用いた。Th10/11 から穿刺後、カテーテル留
置の際に抵抗を感じたため中止した。Th11/12 から
再穿刺し、頭側 5cm にカテーテル先端を留置した。
血液や髄液が吸引されないことを確認し、1%リドカ
イン 3 ml を注入した。3 分後、左下腿のしびれと両
側 Th6 まで冷覚低下を認めた。Th10/11 での硬膜穿
刺の可能性を考えつつも、硬膜外麻酔併用下に全
身麻酔を施行した。覚醒後、下肢の痺れや麻痺は
なく手術室を退室した。1POD、カテーテル刺入部よ
り薬液流出を認めたため主治医によりカテーテルが
抜去された。2POD に気分不良で嘔吐し、その後か
ら体位性頭痛が出現、安静臥床となった。4POD、顔
面と上肢に痙攣が出現し、頭部 CT を施行、両側急
性硬膜下血腫を認めた。安静臥床の継続と抗てん
かん薬内服での対応となった。症状改善後の
20POD、脊髄 MR ミエログラフィを施行したが髄液の
漏出部位は同定出来なかった。28POD に独歩退院
した。
【麻酔経過】手術室入室後に B ブラウン社製 18G 硬
膜穿刺針を用いて穿刺し、多孔式ソフトチップカテ
ーテルを Th12/L1 から皮下 4cm、上向き 5cm で挿入
し、2%リドカイン 3ml をテストドーズしたところ下肢脱
力を認めたため硬膜誤穿刺を疑った。カテーテルは
留置したまま使用せず全身麻酔にて術中管理を行
い手術終了後に硬膜外カテーテルは抜去した。
【術後経過】術後(Post-operative day: POD)1 日、下
肢のしびれは消失し、歩行可能であり頭痛の訴えは
なかった。POD2 より起床時 5 分程度で生じ、臥位で
改善する体位性頭痛が出現した。POD3 には頭痛に
加えて眩暈、耳鳴、嘔気が出現したため POD4 に麻
酔科に連絡があった。症状より PDPH と診断して治
療方針を検討した。症状は中等度であり POD4 のた
め数日で改善が予想されるためブラッドパッチは保
留とした。同日夜より 38℃台の発熱と項部硬直を伴
う頚部痛も加わり、POD5 に髄膜炎を疑い神経内科
にも相談の上、頭部、胸腹部 CT 撮影及び髄液検査
を施行した。髄膜炎や神経疾患を示唆する所見は
乏しく経過観察とした。POD6 には解熱し、頭痛など
の症状の改善を認め POD19 に退院した。
【考察】硬膜外麻酔後に低髄圧症候群に伴う硬膜下
血腫を発症した症例を経験した。低髄圧症候群は、
脳脊髄液の漏出・減少によって生じる牽引性頭痛を
主症状とする症候群である。本症例では 2POD に嘔
吐後に体位性頭痛が出現したが、嘔吐が硬膜下血
腫の原因なのか結果なのかは不明である。硬膜外
麻酔後には頭蓋内にも合併症が起こり得ることを念
頭に置き観察することが肝要である。
【考察・結語】硬膜誤穿刺による PDPH 発症率は
50%を超える。本症例では PDPH の症状に加えて
項部硬直と発熱が起こったために髄膜炎も疑ったが、
検査より否定でき大事に至らなかった。
【結語】硬膜外麻酔後に低髄圧症候群に伴う頭蓋内
硬膜下血腫を経験した。
127
一般演題 P11 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 2)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 坂口嘉郎
一般演題 P11 ポスター症例演題(硬膜外ブロック 2)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 坂口嘉郎
痔核術後患者の腰部硬膜外カテーテル抜去
時に、先端が結節形成していた症例
硬膜外併用全身麻酔下の腹腔鏡下胃切除
後に脊髄梗塞による対麻痺を来した一症例
〇増田祐也1)、木村 友2)、上田恵理子2)、日山敦子2)、
〇法里 慧、打田智久、南 奈穂子、岩元辰篤、
白井 達、中尾慎一
増田純一3)、森崎 浩1)
1) 慶應義塾大学麻酔学教室
2) 松島病院大腸肛門病センター麻酔科
3) 川崎市立川崎病院麻酔科
近畿大学医学部麻酔科学講座
症例:52 歳男性。身長 172 ㎝、体重 89kg。胃粘膜
下腫瘍に対して、腹腔鏡下胃切除を予定された。既
【症例】42歳女性。予定痔核根治手術を行った。右
往歴としては、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙歴
側臥位でL4/5より刺入し硬膜外併用脊髄くも膜下麻
があった。導入前に Th8/ 9 で硬膜外カテーテルを留
酔を施行した。18GTouhy針を使用し硬膜外腔に達
置した。穿刺時には出血や脊髄液の漏出など認め
したところで、27Gスパイナル針を用いて高比重ブピ
バカインを1.2ml投与し、その後硬膜外カテーテル
ず、1%メピバカイン 3ml を試験投与したが急激な
(B Braun社製)を留置した。硬膜外腔までの距離は
血液低下や異常感覚、運動麻痺なども認めなかっ
およそ4.5cmで、留置長は11cmであった。挿入時の
た。その後、通常通り麻酔導入し手術開始となった。
問題点は特に認めず、テストドーズの注入や硬膜外
手術は問題なく施行し、出血もごく少量であった。覚
持続投与シリンジェクターも正常に作動していた。術
醒良好であり、抜管を行った。その後、血行動態や
2病日に外科医が病棟回診時に硬膜外カテーテル
呼吸機能にも異常なく下肢運動障害も認めないこと
を抜去しようとした際、途中で強い抵抗を感じた。そ
を確認し帰室した。術後経過は良好であり、術後 1
のまま抜去を試みたところ、体内にカテーテルが遺
日の昼には歩行開始となった。しかし術後 1 日の夜、
残することなく引き抜くことができたが、先端に結節
両下肢の運動障害や乳頭より以下の感覚鈍麻を認
を形成しており、先端から5.5cmの位置には折れ曲り
めた。持続硬膜外麻酔の影響と考え、持続硬膜外
痕を認めた。製造会社に事後調査を依頼したところ、
投与を中止した。その後、症状は改善傾向であった
カテーテル検査は規格内であった。
ため経過観察とした。しかし術後 2 日、再度症状の
増悪を認め、硬膜外カテーテルの抜去、緊急 MRI
【考察】硬膜外カテーテルの体内結節形成は非常に
検査を施行した。MRI 画像から Th3 から Th7 の脊髄
稀な合併症であり、その発生率は2−3万例に1例も
梗塞と診断された。その後患者は、リハビリテーショ
しくは 0.0015%とされている。当施設では年間約
ンや血圧コントロールや血糖コントロールなどを行な
4000 例近くの症例に腰部硬膜外カテーテル挿入を
い、一部神経症状が改善し退院となった。
行っているが、結節形成はこれまで経験したことがな
かった。Brichant によると、結節形成の原因として、
考察:硬膜外麻酔をしている患者で術後の運動障
カテーテル挿入時に複数のループが形成された場
害や感覚障害の進行が出現した場合、硬膜外カテ
合、カテーテルを引き抜くことによって1つのループ
ーテルのくも膜下腔への迷入や硬膜外血腫などが
が別のループの上に結紮され結節を形成する可能
疑われる。今回は持続硬膜外麻酔の中止で症状が
性を揚げている。解剖学的に、胸椎に比べ曲がらず
改善したため、当初硬膜外麻酔の影響と考え、MRI
に長い部分を挿入できないので結節ができる危険
などによる診断前にかなりの時間を要した。急激な
性が高いとの見解を示すものもある。無理に挿入を
神経症状の出現時には、迅速に画像検査を施行し
行わないのはもとより、留置長が長いほど結節形成
脊柱管内の異常を検索するべきであると考えられ
する可能性が高くなるはずであり、今後も注意が必
た。
要と考える。
128
一般演題 P12 ポスター研究演題(下肢の神経ブロック)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 山口重樹
一般演題 P12 ポスター研究演題(下肢の神経ブロック)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 山口重樹
維持透析患者の下肢切断術における麻酔管
理―末梢神経ブロック併用例と非併用例の
比較
異なるガイドデバイスを用いた持続坐骨神経
ブロックの鎮痛効果の比較検討
~超音波ガイド下vs電気刺激装置ガイド~
〇竹村 瞳、松田 愛*、阪口雅洋、天谷文昌*
〇寺田尚弘、春山直子*、嵐 朝子*、尾崎 眞
京都第一赤十字病院 麻酔科
京都府立医科大学 麻酔科学教室*
東京女子医大病院 麻酔科学講座
東京警察病院 麻酔科*
【背景】維持透析患者に対する下肢切断術の麻酔
管理における末梢神経ブロックの有用性を調査する
ため、当院で行われた同手術に対する麻酔法、術
中所見および術後痛の程度を後ろ向きに検討した。
【背景】近年足関節手術の術後鎮痛法として持続末
梢神経ブロック鎮痛法が一般的に用いられる様にな
った。これは術後早期から抗凝固薬投与を必要とす
る症例や循環動態の不安定な症例に対する手術ケ
ースの増加や、元来脊椎の変形の著しく硬膜外ブロ
ックは施行が困難である患者に対する手術ケースが
増えたことによるものと考えられる。そしてこれからも
持続末梢神経ブロック(座骨神経ブロック)を導入す
る機会は増えると考えられる。
今回我々が通常使用している二種類のガイドデバ
イス(エコー:VIVID-i® および 電気刺激装置:
STIMPLEX®)を用いて行った臀下部アプローチの
坐骨神経ブロックを比較し術後の鎮痛効果を比較
検討したので報告する。
【方法】2014 年 11 月から 2015 年 12 月までの期間に
維持透析患者の下肢壊疽症例に対して待機的下肢
切断術を行った 13 症例を後ろ向きに調査した。末
梢神経ブロック併用全身麻酔で管理した 6 例を B 群、
全身麻酔のみで管理した 7 例を G 群とし、術中の平
均血圧、心拍数、麻薬・昇圧剤使用量、輸液量、輸
血量及び術当日の痛みの強さを比較した。平均血
圧及び心拍数は変動係数(CV)を用いて術中の変
動の大きさを評価した。
【結果】B 群では神経刺激併用超音波ガイド下末梢
神経ブロックが全身麻酔導入前に施行されていた。
両群ともロクロニウム、セボフルラン、レミフェンタニ
ルとフェンタニルで全身麻酔が維持された。術中平
均 血 圧 の CV 値 は B 群 (8.28±4.06) が G 群
(15.4±6.48)よりも有意に少なかったが、心拍数の CV
値、昇圧剤使用量、輸液量、輸血量は両群で有意
差を認めなかった。術中フェンタニル使用量は B 群
(113.0±75.6µg)よりも G 群 (210.7±99.9µg)で有意に
多かった。術当日の NRS は両群間で有意差を認め
なかった。
【対象・方法】対象は同一整形外科医が行った足関
節手術に対して同一の麻酔専門医がブロックをエコ
ーガイド下にて 20 症例(E 群)と 神経刺激装置ガイ
ド下にて 20 症例(S群)行い2群の間で、退室時 6 時
間後 24 時間の NRS/PONV/痺れ/追加鎮痛剤使用
の有無を比較した。持続鎮痛薬は両群ともに 0.2%ロ
ピバカイン4ml/h PCA 3ml/push LOT 30min を用い
た。統計は P<0.05 をもって有意とした。
【結果】PONV/痺れは2群間で全期間(退出時 6 時
間後 24 時間後)通して優位差を認めなかった。(P
<0.05)NRS スコアも全期間で優位差は認められな
かった。(P<0.05)又、術後病棟での鎮痛痛剤使用
頻度に優位差は認められなかった。(P<0.05)。限
界としては術後 PCA の使用回数が加味されていな
いこと、症例数が40症例と少ないことが挙げられる。
また今回の調査では神経血管損傷等の合併症は認
められなかった。
【考察】今回の検討では、末梢神経ブロック併用全
身麻酔で管理された患者の術中平均動脈圧変動は
少なかった。末梢神経ブロックによる適切な鎮痛の
ため、侵害刺激による血圧変化を抑制できたことが
その要因と考える。下肢壊疽を認める透析患者では
併発合併症のため麻酔管理は容易ではないが、末
梢神経ブロックの併用によって安定した循環動態の
維持が期待できる。
【結語】臀下部アプローチの持続坐骨神経ブロック
において、神経刺激装置ガイドとエコーガイドは同
等の効果が得られた。
129
一般演題 P12 ポスター研究演題(下肢の神経ブロック)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 山口重樹
一般演題 P12 ポスター研究演題(下肢の神経ブロック)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 山口重樹
人工膝関節置換術(TKA)における持続腰神
経叢ブロックの方法と合併症について
持続硬膜外ブロックで疼痛管理中の人工股
関節置換術における創部浸潤麻酔の効果
〇村上隆文、竹田智美、只野 亮、足立 智、
伊東 尚
〇大澤眞理子
湘南鎌倉人工関節センター 麻酔科
独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター
背景)TKA は術中、術後の疼痛管理が術後経過に
影響する手術であり、TKA 術後は激しい疼痛により、
リハビリが十分行えず、膝関節の拘縮、伸展障害が
問題となる。
当院では人工膝関節置換術(以下 TKA)の症例に、
持続の腰神経叢 Block に加え、単回投与の坐骨神
経 Block(経臀筋アプローチ)を施行している。腰神
経叢 Block の施行方法、超音波画像にて局麻薬の
大腰筋内または大腰筋周囲への広がりを画像で確
認。さらに、術中フェンタニル使用量、術後の疼痛に
対する鎮痛薬の使用量、副作用発生を検討した。
方法)患側を上とし側臥位にて、L4 横突起にカテラ
ン針をあてる。刺激針をカテラン針をガイドにし L4 横
突起にあてる。L4 横突起下端を這わすように神経刺
激下に針を進める。大腿神経の刺激反応の強い位
置で局所麻酔(0.25%ポプスカイン 40ml)を注入し持
続カテ挿入する。他に単回注入坐骨神経
Block(0.25%ポプスカイン 20ml)施行としている。こ
の時の大腰筋周囲への局麻薬の広がりを確認し画
像を表示する。
導入時の fentanyl は 50μg、術中は笑気:酸素を 1:1、
セボフルレンは 1%とし LMA 併用全身麻酔とし、自
発呼吸下に麻酔管理した。自発呼吸数 21 回/min 以
上で fentanyl を 25μg 追加静脈投与としている。
結果)全例で 40 症例、術中総フェンタニル量の平均
は 1.56μg/kg、追加の術後鎮痛剤の使用回数の平
均は 0.40 回/3 日であった。
大きな副作用発生としては 1 例両側硬膜外 block と
なった症例があった。
[背景] 人工股関節置換術(THA)において在院日
数短縮が進んでいるが、そのためには鎮痛の強化と
副作用軽減が必要である。従来、術後鎮痛は硬膜
外ブロック(PCEA)で行っていることが多かったが、
今回早期退院を希望する症例に創部局所浸潤麻
酔(LIA)と術前にデキサメサゾンを追加投与した。
[目的] 術後鎮痛を PCEA で管理していた THA にお
いて LIA 追加で術後鎮痛が強化されるか検討した。
[方法] 対象は硬膜外併用全身麻酔で管理した
THA 83 症例で、再置換術は除外した。全身麻酔は
フェンタニル、プロポフォール、ロクロニウムで導入し
気管挿管後、空気、酸素、デスフルランで維持した。
硬膜外麻酔は初回 0.375%ロピバカイン 6-7mL、
PCEA は 0.15%ロピバカイン、フェンタニル 2μg/mL、
ドロペリドール 25μg/mL を 4mL/hr、ボーラス 3mL、
ロックアウト 60 分で翌日朝まで維持した。術中メトク
ロプラミドを使用した。早期退院希望症例(L 群)には
術前デキサメサゾン 6.8mg と閉創前にロピバカイン
150mg を創部に浸潤麻酔した。評価項目は術後 1
日目の夜までの補助鎮痛回数と術後嘔気・嘔吐
(PONV)頻度、低血圧が原因で PCEA を中止した
頻度とした。値は平均値±SD または中央値(四分位
範位)で表し p< 0.05 を有意とした。
[結果] 年齢は PCEA 単独の C 群(42 症例) 68±9 歳、
L 群(41 症例) 59±8 歳で C 群が高齢であった。補助
鎮痛回数は C 群 0.5 (0-2) 回、L 群 0 (0)回で有意
に L 群が少なかった。PONV は C 群 16 症例 L 群
14 症例、低血圧が原因で中止した症例は両群とも1
症例で有意差はなかった。
[考察] 股関節の神経支配は腰神経叢と仙骨神経
叢と広範囲で硬膜外ブロック単独での鎮痛は多量
の局所麻酔薬を必要とし低血圧となりやすい。そこ
で PCEA は低濃度のロピバカインとし LIA を併用し
た。L 群の補助鎮痛回数は有意に少ないが、PONV
に関して差はなかった。
考察)局麻薬は大腰筋内にとどまる傾向にあった。
一般的には難易度が高く敬遠されている腰神経叢
Block であるが、上記の方法で比較的安全に、ター
ニケットペインも軽減した術中術後の疼痛管理の可
能性が示唆された。
[結論] PCEA で術後管理していた THA 症例にデ
キサメサゾンと LIA を併用した。補助鎮痛回数は少
なかったが、PONV に差はなかった。
130
一般演題 P12 ポスター研究演題(下肢の神経ブロック)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 山口重樹
一般演題 P12 ポスター研究演題(下肢の神経ブロック)
4 月 15 日 15:30~16:30 座長 山口重樹
平行法用ニードルガイドによる、膝窩部坐骨
神経ブロック時間の短縮効果
Contiplex C を用いた持続大腿神経ブロック
を施行した人工膝関節置換術と持続硬膜外
麻酔を施行した症例での比較検討
〇小林俊司、井戸和己
りんくう総合医療センター 麻酔科
〇成島光洋、松本克平、筒井健次、乾 龍男、
久津間史和
背景;当科では全人工膝関節置換術の術後鎮痛と
朝霞台中央総合病院麻酔科
して、超音波ガイド下に膝窩部坐骨神経ブロック
【目的】
われわれは超音波ガイド下神経ブロックを 6 年前から
施行している.昨年より人工膝関節置換術に対して
Contiplex C(B-Braun 社)を用い始めた.Contiplex C に
よる持続大腿神経ブロックを検討した報告は少ないの
で,硬膜外麻酔で管理した症例と,術中および術後経
過について比較検討を行った.
【対象および方法】
2015 年に当院で行われた人工膝関節置換術全例を
対象とし,術後鎮痛法が持続硬膜外麻酔法ないしは
持続大腿神経ブロックを行っている症例のみを抽出し,
診療録の情報を後方視的に統計処理し,検討した.
【結果】
硬膜外麻酔(以下 Epi 群)29 例,大腿神経ブロック(以
下 block 群)8 例であった.Epi 群はほとんどが 0.2%ロ
ピバカインを 4ml・hr-1 で投与し,block 群は 0.067%ロ
ピバカインを 5~6ml・hr-1 で投与していた.年齢,BMI
には差はみられなかった.麻酔時間から手術時間を除
いた時間は Epi 群 65±14 分,block 群 78±11 分(t-test,
p=0.0224),術中のいわゆるバランスには差はみられな
かった.術後 24 時間以内に補助鎮痛薬を使用した割
合は Epi 群で 55%,block 群で 38%であった.術後 3
日以内での Clavien-Dindo 分類で Grade II 以上の有害
事象は Epi 群で 41%,block 群で 0%であった(フィッシ
ャーの直接確率, p=0.0357).カテーテル接続部が外れ
る事象が Epi 群で 3 例認められた.リハビリ負荷開始ま
での日数には差がみられなかった.歩行開始までの日
数は Epi 群で 7±5 日,block 群で 12±4 日(t-test,
p=0.0073)であった.退院までの日数には差はみられな
かった.
【考察】
block 群では超音波ガイド下坐骨神経ブロックを併用し
ているため,および Contiplex C の使用に不慣れであっ
たことから,手技にかかる時間が長いことが示唆された.
術後 24 時間での補助鎮痛薬投与の頻度から,Epi 群
に痛みが強い傾向が示唆された.術後有害事象は Epi
群で多かった.block 群で歩行開始までの期間が延長
しており検討が必要である.
【結語】
block 群で麻酔時間-手術時間が延長した.3 日以内の
有害事象は block 群の方が少なかった.歩行開始まで
の期間は Epi 群の方が短かった.
(PSNB)を施行している。超音波ガイド下神経ブロッ
クは有用な反面、ブロック針の描出に時間のかかる
場合がある。近年ニードルガイド(NG)が発売され、
臨床現場での利用が可能になった。今回、平行法
用 NG の使用が、PSNB の施行時間を短縮している
かを、後ろ向きに検討した。
方法;当科では PSNB を行う際、施行時間、坐骨神
経の皮膚表面からの深さ、坐骨神経と膝窩動脈の
距離を記録している。PSNB は坐骨神経が脛骨神経
と総腓骨神経に分岐するよりやや中枢側で行ってい
る。2015 年 5 月からの麻酔記録(N=24, NG(+) 12,
NG(-) 12)を参照し、NG(シバガイド®、フジメディカ
ル)使用の有無で、施行時間に有意な差があるかを
調べた。PSNB では、神経周囲両側の 2 カ所に薬液
を注入している。施行時間は、ブロック針が皮膚に
触れてから、神経刺激器で足部の筋収縮を確認し、
1 カ所目に薬液注入を始めるまでの時間(T1)、2 カ
所目にアプローチし、薬液注入をし始めるまでの時
間(T2)の 2 つで比較した。統計は、ASA 分類、性別
に χ2 test、それ以外には F-test と Student’s もしくは
Welch’s t-test を適用し、P < 0.05 を有意とした。
結果;両群間の年齢、性別、身長、体重、ASA 分類、
神経の深さ、神経と膝窩動脈の距離に有意差はな
かった。T1(NG 使用/未使用)は、16.1 ± 7.8 / 42.4 ±
36.5(秒)、T2 は 16.6 ± 11.7 / 13.7 ± 7.6(秒)となった。
T1 では NG 使用群で有意に施行時間が短く、ばら
つきも少なかったが、T2 では施行時間、ばらつきと
もに両群間の有意差はなかった。
結語;NG は PSNB の初回アプローチ時間を短縮す
る。
131
一般演題 A1 口演優秀演題(基礎)4月 16 日(土)9:00~10:15
座長 櫛方哲也、小幡英章 審査員 川真田樹人
一般演題 A1 口演優秀演題(基礎)4月 16 日(土)9:00~10:15
座長 櫛方哲也、小幡英章 審査員 川真田樹人
神経ブロックカテーテルより注入した超音波診
断用造影剤の検討とカテーテル先端の検出
薬液温度が脊髄くも膜下腔に投与された薬
液の拡がりに及ぼす効果:脊柱管モデルを用
いた検討
〇安藤貴宏、藤井 祐、新屋苑恵、森 厚詞、
西脇公俊
〇石﨑 剛、林 英明、松本知之、浅井真理子
名古屋大学医学部付属病院 麻酔科
独立行政法人国立病院機構 大阪南医療センター
麻酔科
【背景】現在、神経ブロック施行時のブロック針やカ
テーテル先端の確認には、超音波診断 B モードで
の撹拌生理食塩水注入による造影効果の確認、も
しくは超音波診断カラードップラーでの生理食塩水
の急速注入による確認が行われている。しかしその
造影効果は一定ではなく、先端を正確に把握するこ
とは困難な場合もある。そこで静脈注射用である超
音波診断用造影剤をブロック針もしくはカテーテル
から注射し、超音波ガイド下でその先端をより明確
に観察できれば、超音波ガイド法の客観性と再現性
の向上に加え、安全性及び成功率の向上に繋がる
と考えた。
【背景】脊髄くも膜下麻酔の効果は、くも膜下腔に投
与された薬液の拡がりに依存する。脳脊髄中の薬液
の挙動は、複数の因子に影響される。われわれは、
脊柱管モデルを作成し、薬液温度がくも膜下腔に投
与された薬液の挙動に及ぼす効果を検討した。
【方法】Oxford Glass Spine を参考に、標準的な形状
と大きさを有する脊柱管モデルを作成した。脊柱管
内は脳脊髄液の代用として脳脊髄手術用洗浄灌流
液(アートセレブ)で満たし、その温度は 37℃に維持
した。0.5%等比重ブピバカイン 2mL と 0.82%メチレ
ンブルー溶液 1mL の混合液を、脊柱管モデルの
L3/4 に相当する部位から 25G Quincke 針を用いて
0.2mL/秒で注入した。投与直前の薬液温度を室温
(25℃)と体温(37℃)に調整した場合について、注
入 5・10・15 分後の薬液の頭側への拡がりを、注入
部位からの直線距離で測定した。各 3 回の測定結
果の比較には、2 標本 t 検定を用いた。
【方法】神経ブロック針、カテーテルは硬膜外麻酔セ
ット(EF17TR-OE95、株式会社八光)を使用した。カ
テーテルより注入したソナゾイド<sup>&reg;</sup>の
微小気泡数を、コールターカウンターZ1(ベックマン
コールター社)を用いて測定した。さらに神経ブロッ
ク針をブタもも肉塊表面から垂直距離 4 ㎝まで穿刺
し、カテーテルを針先から 2 ㎝の位置に留置した。
超音波診断用造影剤ペルフルブタンマイクロバブル
(ソナゾイド<sup>&reg;</sup>、第一三共㈱)を注入
した後、東芝メディカルシステムズ社製超音波診断
装置 Aplio<sup>TM</sup>300 のリニアプローベを
用いた造影モードでの観察により検討した。
【結果】投与後の薬液の拡がりは、5 分後:(室温)
21・27・32cm、(体温)16・17・18cm(p=0.020)、10 分
後 : ( 室 温 ) 21 ・ 29 ・ 33cm 、 ( 体 温 ) 16 ・ 19 ・ 19cm
(p=0.029)、15 分後:(室温)21・29・34cm、(体温)
16・19・19cm(p=0.032)であった。いずれにおいても
温度を体温に調整した薬液の拡がりが有意に小さ
かった。
【結果】カテーテルより注入したソナゾイド
<sup>&reg;</sup>のマイクロバブル数は大幅に減
少しており、全ての検出において注入前の 10%以
下であった。ソナゾイド<sup>&reg;</sup>は、10,000
倍希釈まで造影効果が得られた。0.3ml 注入するこ
とでカテーテル先端は明瞭に造影された。またカテ
先が検出不可能であった場合、0.2ml 追加注入する
ことにより確認可能であった。
【考察】薬液の温度変化に伴い、その比重も変化す
る。薬液温度を室温から体温に上昇させると、脳脊
髄液に対する薬液の比重が相対的に低下する。そ
の結果、仰臥位の脊柱管内で低位に位置する胸椎
領域への薬液の拡がりが減少したことが、室温と体
温の薬液の挙動の差を生んだと推察された。
【結語】カテーテルを通る注入圧によりソナゾイド
<sup>&reg;</sup>の微小気泡数は減衰するが、超
音波診断用造影剤を局所注射し超音波ガイド下で
観察することにより、神経ブロックカテーテル先端を
明確に検出することが可能である。
【結語】脊柱管モデルを用いた実験結果から、脊髄
くも膜下腔に投与する薬液の拡がりは、その温度の
影響を受ける可能性が示唆された。
132
一般演題 A1 口演優秀演題(基礎)4月 16 日(土)9:00~10:15
座長 櫛方哲也、小幡英章 審査員 川真田樹人
一般演題 A1 口演優秀演題(基礎)4月 16 日(土)9:00~10:15
座長 櫛方哲也、小幡英章 審査員 川真田樹人
ラット後根神経節における足底由来の神経分布
TRPV1 拮抗薬の脊髄くも膜下投与はモルヒ
ネによる痒みを抑制する
〇松田 愛、天谷文昌
〇榊原賢司、今町憲貴、榊原 学、齊藤洋司
京都府立医科大学 麻酔科学教室
島根大学医学部麻酔科学教室
【背景】ラットにおいて下肢に分布する一次知覚神
【背景】オピオイドの脊髄くも膜下腔(i.t.)投与により
強力な鎮痛効果が得られる。一方、オピオイドの i.t.
による副作用として 30-90%の患者に痒みが生じる。
臨床においてオピオイドによる痒みの有効な治療法
は 確 立 さ れ て い な い 。 わ れ わ れ は Transient
Receptor Potential Vanilloid 1(TRPV1)がヒスタミン
による末梢性の痒みに関与していることを明らかに
した。しかし、TRPV1 がオピオイドによる中枢性の痒
みに及ぼす影響は不明である。今回、少量の
TRPV1 拮抗薬の i.t. 投与がモルヒネによる痒みを
抑制するかを検討した。
経の多くは第 4、第 5 腰髄後根神経節(L4, L5 DRG)
由来とされ、足底組織における痛覚過敏は L4、L5
DRG に由来する一次知覚神経が変化して生じると
考えられている。一方、L4, L5 DRG 由来の一次知
覚神経のうち、足底組織を支配する神経がどれほど
の割合で存在し、どのような神経で構成されている
か明らかではない。今回、逆行性蛍光トレーサーで
あるフルオロゴールド(FG)を用いて、足底を支配す
る一次知覚神経の DRG における分布を調査した。
【方法】雄性 SD ラットを用い、イソフルラン麻酔下に
【方法】C57BL / 6 系雄マウス各群 6 匹を用いた。実
験1:モルヒネ 0.1,0.3,1.0 nmol、TRPV1 拮抗薬と
し て SB366791 0.1 nmol 、 モ ルヒ ネ 0.3 nmol +
SB366791 0.01,0.03,0.1 nmol、生理食塩液 (生
食)、緩衝液(生理食塩液 + エタノール)5μl を i.t.後
60 分間ビデオ撮影し、経時変化と総引っ掻き回数を
解析した。実験2:マウスの鎮静レベルについて実験
1 のビデオを用い、10 分毎に、0=ふらつきなし、1
=ややふらつく、2=ふらつく、の 3 段階で評価を行
った。統計解析は、分散分析を行い、群間比較は
Scheffe’s 法、 Kruskal-Wallis 検定を用いた。P<
0.05 を有意差ありとした。
3%FG 溶液 50µl を足底の中央から踵部にかけて注
入した。1 週間後にパラホルムアルデヒドを用いて灌
流固定し、同側の L3, L4, L5 DRG を摘出し、組織
切片を作成した。蛍光顕微鏡を用いて観察し、FG
陽性ニューロンの割合を調査した。また、C 線維のマ
ーカーである IB4、CGRP に対する免疫組織化学染
色を用いて、足底に投射するニューロンの種別を調
査した。
【結果】L3, L4, L5 DRG における FG 陽性ニューロン
の割合は、それぞれ 5%, 14%, 28%であった。L5
DRG において、全ニューロンに占める IB4 陽性ニュ
【結果】実験 1:生食群と比較し、モルヒネ群では 0.3
nmol 群 で 有 意 に 引 っ 掻 き 行 動 が 観 察 さ れ た 。
SB366791 は引っ掻き行動を誘発しなかった。モルヒ
ネ + SB366791 群では全群で有意に引っ掻き行
動を抑制した。実験 2:モルヒネ 0.3,1.0 nmol 群は生
食群に比べ有意に鎮静された。SB366791 により鎮
静は生じなかった。モルヒネ単独群と比べモルヒネ
+SB366791 の混合群は鎮静レベルの変化を認め
なかった。
ーロンの割合は 53%であったのに対し、FG 陽性ニュ
ーロンにおける IB4 陽性率は 50%であった。一方、
CGRP 陽性ニューロンの割合は L5 DRG 全体で
23%、FG 陽性ニューロンでは 32%であった。
【考察】足底の中央から踵部を支配する一次知覚神
経は L5 DRG に最も多く投射しており、同部位に生
じた変化は L5 DRG において最も強く反映される可
能性が示唆された。足底を支配し L5 DRG に投射す
【結語】i.t. 投与した TRPV1 拮抗薬は鎮静度を増悪
させることなくモルヒネによる痒みを抑制した。
る C 線維ニューロンの組成は L5 DRG 全体の C 線
維ニューロンの組成と類似していた。
133
一般演題 A1 口演優秀演題(基礎)4月 16 日(土)9:00~10:15
座長 櫛方哲也、小幡英章 審査員 川真田樹人
一般演題 A1 口演優秀演題(基礎)4月 16 日(土)9:00~10:15
座長 櫛方哲也、小幡英章 審査員 川真田樹人
傍椎体領域および脊髄神経根を走行する動
静脈系の解剖
リドカイン歯周投与はリポポリサッカライド惹起
反復性歯周炎症による血管内皮機能障害を
改善する
〇安心院純子、益田律子、堀江彩織、細井 則、
鈴木陽介、斉藤 聡、福山東雄、鈴木利保*
〇木下浩之、安田吉孝、赤堀貴彦、中村絵美、
藤原祥裕
東海大学八王子病院麻酔科
東海大学医学部医学科外科学系麻酔科*
愛知医科大学医学部 麻酔科学講座
【目的】リポポリサッカライド(LPS)惹起反復性歯周炎
症が血管内皮機能障害を引き起こすか否かは不明
である。リドカインは、神経細胞での炎症性メディエ
ータ遊離を抑制する作用を持つことが報告されてい
るが、リドカイン歯周投与が血管機能を温存するか
は明らかでない。本研究では、反復性歯周炎症ラッ
トモデルで血管内皮機能の異常とその機序を評価
し、リドカイン歯周投与がこれらの血管内皮機能異
常を阻止するかを検討した。
手術麻酔に用いられる区域麻酔法や,慢性痛対策
としての神経根ブロック法においては,超音波装置
の普及によって著しい精度向上が得られるようにな
った.一方で,超音波ガイドを用いても,穿刺針先端
の描出法が十分でなければ,標的椎体周囲の出血
性合併症の問題が残される.演者らは,解剖実習用
献体より脊柱管および脊髄神経系標本を用いて神
経ブロックの合併症回避のための脈管走行を検討し
た.中部胸椎高位から腰椎高位に関する所見を報
【方法】ラットを、LPS 150 µg を生後 8 週で腹腔内投
与のうえ、LPS 1500 µg を毎週生後 11 週まで歯肉局
注する LPS 群、LPS 150 µg を生後 8 週で腹腔内単
回投与する Sham 群、LPS 投与なしの Control 群、
LPS と 2%リドカイン(3 mg/kg)を歯肉局注した LPS リ
ドカイン群、2%リドカインを歯肉局注したリドカイン
群に分けた。生後 8-12 週で、毎週イソフルラン 3%
吸入下で非観血的平均動脈圧および脈拍数を記録
し、以上の処置を行った。生後 12 週で胸部大動脈と
下顎を摘出してリングあるいはヘマトキシリン・エオジ
ン組織標本を作製し、アセチルコリンによる等尺性
張力変化および下顎の LPS 局注3および 7 日後の
炎症所見を評価した。データは平均±標準偏差で示
し、分散分析後 post-hoc テストとして Scheffe’s test を
用いた。
告する.
方法:解剖実習用献体 5 体を用い,着色ラテックスゴ
ムを注入した.動脈系は胸腹部大動脈より赤色を,
静脈系は下大静脈および奇静脈より青色ラテックス
を注入固定したのち脊椎周囲の軟部組織を除去し
椎弓切除を行い観察した.
結果:傍椎体領域の動脈系について,胸腹部大動
脈より分岐した分節動脈(肋間動脈および腰動脈)
は椎体側面中央を,上側凸を描きつつ脊髄方向へ
走行,脊髄神経節末梢側部で反転,神経根に沿っ
てくも膜下腔に入り,くも膜下腔では長距離を神経
【結果】平均動脈圧および脈拍数に群間差はなかっ
た(n=7)。頬舌側第一臼歯組織標本では、LPS 群で、
LPS 局注3日後のみに炎症性細胞の浸潤を認めた。
一酸化窒素合成酵素阻害薬 L-NAME はすべての
群のアセチルコリンによる拡張反応を抑制し、LPS
群でのみ、その拡張反応が抑制された。NADPH オ
キシダーゼ阻害薬 gp91ds-tat と過酸化水素阻害薬
カタラーゼは、LPS 群の抑制された拡張反応を改善
した (n=5)。リドカイン歯周局注は、LPS 単独投与で
は抑制された内皮依存性拡張反応を維持した。
根と共に走行した.腰仙部では頭側方向に上行し,
一部は脊髄栄養動脈として機能すると考えられた.
静脈系では脊髄神経根腹側より背側を中心として分
布し,神経節部で反転し,硬膜を貫通して脊柱管内
で内外椎骨静脈叢と吻合,あるいは脊髄に到達して
いた.
結語:椎体側面を刺入経路とする腹腔神経叢ブロッ
ク・交感神経節ブロックでは,出血性または虚血性
合併症を考慮し,椎体側面中央への反復機械的擦
【結論】LPS 惹起反復性口腔内炎症では、内皮依存
性血管拡張反応が過酸化水素過剰産生で抑制さ
れる。また、リドカイン歯周局所投与で、LPS で抑制
されるはずの血管拡張反応を維持できる。
過を避けなければならない.上位脊椎で行われる傍
椎体ブロックにおいても同様の配慮が求められると
考えられた.
134
一般演題 P13 ポスター症例演題(体幹の神経ブロック)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 祖父江和哉
一般演題 P13 ポスター症例演題(体幹の神経ブロック)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 祖父江和哉
進行性乳癌に対する手術をデクスメデトミジン
併用 PECSⅡブロックで管理した一例
持続傍脊椎ブロックカテーテルが硬膜外迷
入となったが、早期の診断と適切な対応によ
り術後有効に使用された低侵襲心臓手術の
一症例
〇井尻えり子、佐藤 慎、笹川智貴、和泉裕己、
佐古澄子、国沢卓之
〇興津賢太、藤野裕士
旭川医科大学麻酔・蘇生学講座
大阪大学医学部附属病院 麻酔科・集中治療部
【背景】超音波ガイド下前胸壁ブロック(PECSⅡブロ
ック)は、片側の肋間神経外側皮枝を胸壁レベルで
ブロックする方法で、乳房手術の鎮痛に有用との報
告がある。
今回、重度の肺合併症により全身麻酔施行困難と
考えられた患者に対して、デクスメデトミジンによる鎮
静下に PECSⅡブロックによって麻酔管理を行った
一例を経験したので報告する。
【症例】56 歳女性。労作性狭心症に対し左第 5 肋間
開胸によるオフポンプ冠動脈バイパス術
(MICS-CABG)が予定された。
【麻酔】全身麻酔(TIVA)+術中術後のため傍脊椎
ブロック併用。全身麻酔導入後に側臥位をとり、開
胸 レ ベ ルと 一 致 した 肋 間 に て超 音 波 ガ イド下 に
Transverse approach、平行法でカテーテル挿入を行
った。
【症例】80 代、女性。身長 144cm、体重 42kg。
【現病歴】1 年間放置していた右乳房腫瘍が自壊創
となり、胸筋温存乳房切除術+腋窩リンパ節郭清が
予定された。術前精査で、高度の間質性肺炎に伴う
右気胸・縦隔気腫及び食道裂孔ヘルニアを合併し
ており、全身麻酔の施行は困難と判断し、区域麻酔
による麻酔管理を行う方針となった。
【硬膜外迷入の診断】カテーテル位置と薬剤の広が
りを確認するため、ブロック終了直後透視下にカテ
ーテルより造影剤を注入したところ硬膜外投与の所
見であった。正面像と側面像の検討よりカテーテル
が椎間孔より硬膜外に迷入したものと診断した。
【麻酔管理】デクスメデトミジンを初期負荷投与量
6μg/kg/hr、維持投与量 0.7μg/kg/hr で持続投与を開
始後、超音波ガイド下に PECSⅡブロックを施行した。
大胸筋・小胸筋間にエピネフリン添加 1%リドカイン
10ml、大胸筋・前鋸筋間にエピネフリン添加 1.2%リ
ドカイン 25ml をそれぞれ投与した。
術中、乳房内側縁操作時に疼痛の訴えがあり、フェ
ンタニルを計 50μg 静脈内投与した他は終始良好な
鎮痛が得られ、追加の鎮痛薬は不要であった。術中
の 循 環 動 態 、 呼 吸 状 態 は 酸 素 3L/min 投 与 で
SpO299-100% で安定していた。手術進行を妨げる
様な体動は認めなかった。
手術時間 39 分、麻酔時間 56 分、出血 14ml で手術
は無事終了した。
【考察・結語】本症例はデクスメデトミジンによる鎮静
下で超音波ガイド下による PECSⅡブロックを選択し
た結果、気道系及び呼吸機能への影響を最小限と
し、良好な鎮痛と周術期管理が得られた。PECSⅡ
ブロックは乳房手術の術中・術後鎮痛法として用い
られるが、全身麻酔を極力回避するべき合併症を持
つ症例において特に有用性の高い麻酔法と考えら
れる。
135
【対応と経過】カテーテルは留置したまま予定通り手
術を開始した。ヘパリン投与はカテーテル挿入より 2
時間以上の間隔を設けた。術中バイタルの観察より
有効な鎮痛が得られていると考えられた。患者覚醒
後に神経学的異常所見を認めないことを確認し、説
明を行ったうえで希望があったため持続硬膜外鎮痛
を開始した。術後 3 日目に凝固機能および血小板
数に異常なきことを確認のうえカテーテルを抜去し
た。以後異常所見を認めず術後 11 日目に軽快退院
となった。
【考察】傍脊椎腔に投与された局所麻酔薬が硬膜外
腔へ流入する、あるいはカテーテル自体が硬膜外
へ迷入する可能性があることは過去に報告されてい
る。当症例ではたまたまカテーテル造影を行ったた
め早期に診断され適切に対応できたが、未診断の
まま用いられているケースも存在するものと考えられ
る。当症例のようにカテーテルが傍脊椎腔から椎間
孔を経て硬膜外へ至っている場合、不注意な抜去
により神経根を損傷するリスクがあるかもしれない。
一般演題 P13 ポスター症例演題(体幹の神経ブロック)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 祖父江和哉
一般演題 P13 ポスター症例演題(体幹の神経ブロック)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 祖父江和哉
持続傍脊椎ブロックカテーテルの感染範囲の
診断に造影 CT が有用であった1症例
腹横筋膜面ブロックを中心に麻酔管理した大
腿動脈—大腿動脈バイパス術
〇新屋苑恵1、柴田康之2、西脇公俊3
〇谷口明子、堀尾裕子、鈴木藍子、久保谷靖子、
山本里恵、森田正人
名古屋大学医学部附属病院 麻酔科1
名古屋大学医学部附属病院 手術部2
名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻
臨床医学領域麻酔・蘇生医学分野3
安城更生病院 麻酔科
症例は 79 歳女性。帯状疱疹発症 2 ヶ月後の帯状
疱疹後神経痛で当院ペインクリニック外来に紹介さ
れた。左第 7 から 10 胸神経レベルで前胸腹部から
背部にかけて強い疼痛、アロディニアを認めた。前
医でプレガバリン、フェンタニル貼付剤の治療が開
始されていたが疼痛コントロールは不良で希死念慮
を認めた。既往歴に肺血栓塞栓症、頸動脈狭窄症
があり、ワルファリン、バイアスピリンを内服していた。
ワルファリンを中止し出血傾向の回復後に外来で胸
部傍脊椎ブロックを施行。その鎮痛効果を認めたた
め入院して持続胸部傍脊椎ブロックを行うことにした。
超音波ガイド下に左第 8 肋間で傍脊椎腔にカテー
テルを留置し、局所麻酔薬は患者自己調節法で注
入した。疼痛は緩和したが T10 領域の鎮痛が得られ
ず、1週間後に左第 9 肋間にカテーテルを再留置し
た。その後鎮痛効果は良好であった。カテーテルを
再留置して 7 日目患者が突然背部痛を訴えた。その
前日までなかったカテーテル刺入部の 10cm 大の皮
下腫脹・圧痛を認めた。血液検査で白血球 15000/μl、
CRP22 mg/dl と高値で、ブドウ球菌感染を念頭にセ
ファゾリン点滴投与を開始。感染の広がりを確認す
るため施行した胸部単純 CT で皮下に低吸収域を
認め、膿瘍が疑われた。さらにその低吸収域は第 8
胸椎椎体左側に広がっているようであった。造影 CT
を追加し、その低吸収域は造影されず膿瘍でないこ
とが確認されたため、外科的処置は行わず抗生剤
投与で感染治療を継続した。抗生剤投与 3 日目、白
血球・CRP は低下し皮下腫脹も軽減した。抗生剤点
滴投与は 5 日間、その後は内服とし、炎症反応の消
失を確認し退院した。
今回持続傍脊椎ブロックカテーテルの感染を経
験した。傍脊椎腔に留置されたカテーテルの感染で
は、傍脊椎腔の連続性から椎体炎、硬膜外膿瘍、
縦隔炎を起こす危険性があり、膿瘍の広がりを確認
するためには造影 CT が有効であった。
136
大腿動脈—大腿動脈バイパス術(以下 F-F バイパス
術)を受ける患者は重篤な合併症を持ち合わせてい
るケースが多く、麻酔法の選択や麻酔管理に難渋
することがある。当院において F-F バイパス術症例は
全身麻酔単独での管理が大半を占めているが、慢
性閉塞性肺疾患(以下 COPD)にて在宅酸素を使用
し、抗血小板剤内服継続を余儀なくされている患者
に対して、腹横筋膜面ブロック(以下 TAP ブロック)
を主体に麻酔管理を施行したので報告する。
【症例】85 歳男性、148cm、40kg。18 年前に腹部大
動脈瘤に対して人工血管置換術施行、今回左下肢
の痛みを自覚し来院された。下肢血管造影検査に
て人工血管左脚閉塞、大腿深動脈の閉塞が認めら
れ、F-F バイパス術が予定された。COPD にて在宅
酸素療法が導入されており、気胸に膿胸を併発し加
療退院後だった。さらに狭心症や閉塞性動脈硬化
症のため抗血小板剤を服用していた。麻酔計画とし
て声門上デバイスにて気道確保し、自発呼吸温存
下に TAP ブロックにて鎮痛を図ることとした。プロポ
フォールとフェンタニルにて麻酔導入し、入眠確認
後にラリンゲルマスクを挿入した。自発呼吸下に
0.25%ロピバカイン 30ml にて TAP ブロックと大腿神
経領域に 0.15%ロピバカイン 25ml 使用し神経ブロッ
クを行った。術中操作全般を通して循環動態は安定
していた。手術終了後速やかに覚醒し、ラリンゲル
マスク抜去直後に発語可能で疼痛の訴えはなかっ
た。手術終了2時間後にアセトアミノフェンを使用し
たが、その後も鎮痛は良好で呼吸状態も安定してい
た。
【考察】F-F バイパス術自体は局所麻酔単独での対
応も不可能ではない。しかし、区域麻酔を組み合わ
せ、鎮静剤を併用することで、安全かつ患者が苦痛
を感じることなく手術を行うことができると考えられ
る。
【結語】ハイリスク症例の F-F バイパス術を TAP ブロ
ック主体に麻酔管理を行うことができた。
一般演題 P13 ポスター症例演題(体幹の神経ブロック)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 祖父江和哉
一般演題 P13 ポスター症例演題(体幹の神経ブロック)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 祖父江和哉
生体部分肝移植術後に TAP ブロックを施行
し、手術室抜管を施行した 1 例
Transversus Abdominis Plane Block
Facilitated Extubation in the Operating
Room after Living donor Liver
Transplantation
多孔式カテーテルによる持続創部浸潤麻酔
法で管理した外科開腹術の 3 症例
〇大岩彩乃、結束さやか、寺田享志、落合亮一
東邦大学医療センター大森病院麻酔科
近年、持続創部浸潤麻酔(CWI)と言われる手術創
部へカテーテルを留置し局所麻酔薬を持続投与す
る鎮痛法が普及しつつある。今回、硬膜外麻酔施行
困難であった外科開腹手術 3 例に対し多孔式カテ
ーテルを用いた CWI による術後鎮痛を行い、良好
な経過を得たので報告する。
〇吉田 翼、松崎 孝、廣井一正、鈴木 聡、
谷口 新、賀来隆治、森松博史
岡山大学病院医歯薬総合研究科麻酔・蘇生学講座
【はじめに】
生体肝移植術における手術室抜管を困難にする問
題点として、長い手術時間に伴う体温管理や、グラ
フト機能の立ち上がりに伴う術後出血の可能性およ
び開腹に伴う術後疼痛管理が挙げられる。今回
我々は、生体部分肝移植術後に腹横筋膜面
(transversus abdominis plane: 以下 TAP) ブロッ
クを施行した後に手術室で抜管し、大きな合併症な
く良好な術後管理が施行できた症例を経験したので
報告する。
【症例1】52 歳男性。肝硬変に伴う食道静脈瘤に対
し、食道静脈瘤手術および脾摘術を腹部正中切開
にて施行した。血小板数が低値であったため腹直筋
筋膜面に留置したカテーテルより CWI を施行し、術
後 3 日間使用した。術翌日 VAS20/53 であった。
【症例2】79 歳女性。急性胆嚢炎のため開腹胆嚢切
除術が施行された。冠動脈3枝病変と左室機能低下
があり、不安定狭心症の加療中に急性胆嚢炎と胆
嚢動脈瘤からの活動性の出血のため手術となった。
糖尿病性腎症による人工血液透析施行中であり、
不安定狭心症のため術翌日から抗凝固療法施行の
予定であったため腹横筋膜面に CWI を施行し、術
後 4 日間使用した。術翌日の内臓痛と思われる体動
時の季肋部痛に対し一時的にペンタゾシンの使用
を要したが、術翌日 VAS30/60、概ね術後鎮痛効果
は良好であり周術期を通じて大きな循環器イベント
なく、良好な経過を得た。
【症例】
16 歳女性。先天性胆道閉鎖症(MELD 10 点)で葛
西術後の肝不全に対して、母親からの右葉グラフト
に よ る 生 体 肝 移 植 が 施 行 さ れ た 。
Air-Oxygen-Desflurane-レミフェンタニルで全身麻酔
の管理を行い、フェンタニルの総使用量は 500μg だ
った。手術時間は 8 時間 25 分で、出血量は 400ml
で無輸血にて管理を行い、直前の PT-INR は 1.09
で、血小板は 8.6 万/μL であり、術後出血の問題もな
かったため手術終了直後に超音波ガイド下肋骨弓
下アプローチで TAP ブロックを施行した。局所麻酔
薬は 0.2%ロピバカイン 15ml ずつ左右に注入した。
術後鎮痛は手術終了直前からデクスメデトミジン
0.18μg/kg/hr と静脈内フェンタニル PCA 20μg/hr を併
用した。手術室で抜管した直後から術後 1 日目まで
の Numerous Rating Scale は 2〜3/10 で推移し、呼吸
状態も安定した管理が施行できた。局所麻酔薬によ
る中毒症状や、穿刺に伴う合併症も見られなかっ
た。
【症例3】79 歳男性。腹部大動脈瘤の十二指腸穿孔
に対し、大動脈瘤ステント留置術後に二期的に十二
指腸瘻閉鎖術を施行した。血小板数が低値であっ
たため、腹直筋筋膜面に留置したカテーテルより
CWI を術後 3 日間使用施行した。その間は挿管管
理であったが、軽鎮静中も良好な術後鎮痛効果を
得た。
【結語】
生体部分肝移植術後の患者において、安全に TAP
ブロックを施行することができた。生体肝移植術後の
Fast-Track における臨床的意義は現在も議論が多
いが、条件が整った場合においては、TAP ブロック
を併用した術後管理の効果の検討が期待される。
【考察・結語】合併症のある重症外科開腹手術に対
し CWI を用いた術後鎮痛は有効であった。内臓痛
はやや強い傾向があり、オピオイド等で別途対処す
る必要がある。また 3 例目の CWI 終了理由は創部
からの薬液漏れであり、今後カテーテル留置時に工
夫が必要と考えられた。
137
一般演題 P14 ポスター症例演題(問題症例の管理)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 松本美志也
一般演題 P14 ポスター症例演題(問題症例の管理)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 松本美志也
慢性出血性膿胸に対する胸膜剥皮術を
傍脊椎神経ブロックで自発呼吸温存下に施
行した症例
心尖部アプローチによる経カテーテル大動脈
弁留置術において術野で X 線透視下持続胸
部傍脊椎ブロックを施行した 1 症例
〇八島 望 1)、金田卓也 2)、長谷川佑介 3)、
高岡誠司 1)
〇新宮原久美、近藤隆志、濱田 宏*、河本昌志*
広島大学病院麻酔科¹、広島大学大学院医歯薬保
健学研究院 麻酔蘇生学*
1)
山形県立中央病院 麻酔科
2)
置賜広域病院組合公立置賜総合病院 麻酔科
3)
山形県立中央病院 集中治療部
【症例】80 歳、男性。右大量胸水貯留を認め、アス
ベスト吸引歴があったことから胸膜中皮腫を疑われ、
胸膜生検術が予定された。KL-6 が 1350U/ml と高値
であり間質性肺炎の合併が疑われたため、傍脊椎
神経ブロック(PVB)と鎮静による自発呼吸を温存した
麻酔管理を行うこととした。
【経過】透視下に皮膚切開部位が Th8/9 であることを
確認し、同部位に PVB を施行した。18G Tuohy 針を
用いてカテーテルを留置し、2%メピバカイン 20ml と
オムニパーク 10ml を混和し透視下に計 30ml 投与し
た。透視による薬剤の拡散状況は不明瞭であったが、
局所麻酔薬注入 20 分後に T5-9 の無痛域を得たこ
とを確認した。その後、マスクで酸素を 3l/min-1 で投
与し、プロポフォールを BIS 値が 60~70 となるように
持続投与した。SpO2 は 94~100%で推移した。生
検術は 3 ㎝程度の切開創で施行され、十分な鎮痛
が得られていた。胸腔鏡による観察と迅速病理診断
の結果から慢性出血性膿胸と診断され、胸膜剥皮
術に術式を変更することになった。生検術中に十分
な鎮痛が得られていたことから、そのまま麻酔管理を
継続したが、切開創拡大や手術侵襲の増大に対し
ても鎮痛薬の追加投与は必要なく胸膜剥皮術を施
行することができた。手術時間 75 分、麻酔時間 130
分であった。術中の循環動態はほぼ安定しており、
頻呼吸や呼吸抑制は認めず、自発呼吸を温存する
ことができた。
【考察】局所麻酔による胸部手術の施行例は数多く
報告されているが、その多くが硬膜外麻酔であり、
PVB による同手術の報告は少ない。硬膜外麻酔と
PVB は同等の鎮痛効果であり、合併症の発生は
PVB の方が少なく、局所麻酔下胸部手術の麻酔管
理の第一選択となり得ると考えられた。
138
【はじめに】
心尖部アプローチによる経カテーテル大動脈弁留
置術(TAVI)において、術後疼痛管理は術後の早期
回復を図る上で重要である。今回、術野で X 線透視
下に持続胸部傍脊椎ブロック(TPVB)を施行し、術
後良好な鎮痛効果を得ることができた症例を経験し
た。
【症例】
80 歳台、女性。重症の大動脈弁狭窄症に対して心
尖部アプローチによる TAVI が予定された。麻酔は、
レミフェンタニル、プロポフォール、ロクロニウムを用
いた全身麻酔で行い、左第五肋間開胸により心尖
部 に 到 達 して人 工 弁 を 留 置 した 。閉 創 直 前 に 、
TPVB を施行するため、開胸創の最内肋間筋と内肋
間筋の間よりダイレーターを挿入し、X 線透視下で
X 線不透過性硬膜外カテーテルを先端が傍脊椎腔
に位置するようにダイレーターを通して誘導した。
術後は、ボーラス機能(3ml/回)付き携帯型ディスポ
ーザブル注入ポンプを使用して 0.2%ロピバカインを
4~6ml/h で持続投与した。術後痛は、TPVB とペン
タゾシン、アセトアミノフェン、非ステロイド性消炎鎮
痛薬の併用によりコントロール可能であった。術後経
過は良好で、術後 3 日目に集中治療室から一般病
棟に転棟し、術後 4 日目に TPVB カテーテルを抜去
した。
【考察および結論】
心尖部アプローチによる TAVI において、TPVB は
術後鎮痛法の選択肢の一つであるが、カテーテル
を術前に挿入する場合は、先端位置の移動や術中
の抗凝固薬使用による出血性合併症を生じる危険
性がある。一方、術野で直視下に施行する TPVB は、
カテーテル先端の位置確認が困難である。以上のよ
うに、本症例では術野で X 線透視下に X 線不透過
性カテーテルを挿入して TPVB を施行し、良好な鎮
痛効果を得ることができた。心尖部アプローチでの
TAVI 症例に対しては、術野で施行する X 線透視下
持続 TPVB が有用であると考えられた。
一般演題 P14 ポスター症例演題(問題症例の管理)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 松本美志也
一般演題 P14 ポスター症例演題(問題症例の管理)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 松本美志也
高度肥満患者で超音波ガイド下の上喉頭神
経ブロックと経喉頭ブロックが意識下挿管に
有用であった 1 症例
甲状腺腫合併患者の腹部緊急手術の麻酔
管理に超音波診断装置が有用であった一例
〇木村麻衣子、山田久美子、藤倉あい、斎藤重行
〇齊藤和智、外山裕章、齋藤秀悠、戸田法子、
亀山良亘、石井 仁*、山内正憲
筑波学園病院麻酔科
【背景】
超音波診断装置は、神経ブロックや中心静脈カテ
ーテル挿入術の安全かつ確実な操作に寄与してい
る。今回、甲状腺腫合併患者の腹部緊急手術の麻
酔管理に超音波診断装置が有用であった症例を経
験したので報告する。
東北大学病院麻酔科
仙台赤十字病院麻酔科*
【背景】高度肥満患者の腹臥位手術において、意識
下に気管挿管と体位変換を行った症例を経験した
ので報告する。
【症例】31 歳男性、身長 168 cm、体重 180kg、BMI
64 kg/m2。L4-5 椎間板ヘルニアの内視鏡下摘出術
が予定された。手術前日の体位シミュレーションから
意識喪失後の腹臥位体位作成は困難と判断した。
また、困難気道が予想されたため、超音波ガイド下
の上喉頭神経ブロックと経喉頭ブロック下に意識下
ファイバー挿管を行い、その後、患者に体位変換し
てもらい至適位置を調整してから、全身麻酔を導入
する方針とした。
【症例】
症例は 65 歳女性。身長 153.0cm、体重 57.0kg。既
往に甲状腺機能亢進症、高血圧症、心房細動があ
り、当院外来で内服加療されていた。突然の上腹部
痛を主訴に救急受診し、穿孔性十二指腸潰瘍・急
性胆嚢炎の診断で開腹大網充填術・胆嚢摘出術が
計画された。
【麻酔経過】十分な酸素化後、頸部伸展位とした。
超音波ガイド下に上喉頭神経ブロックを 1 %リドカイ
ン右 5 ml、左 4 ml で行った。続いて、輪状甲状靭帯
を穿刺して、1 %リドカイン 3 ml を気管内散布した。
4 %リドカイン 5 ml にて喉頭・口腔内を表面麻酔した
後に、気管支ファイバーを気管まで進めた。気管チ
ューブが声門を通過する時に軽度の咳反射を認め
たが、気管に留置した後は、気道反射は出現しなか
った。その後、患者自ら腹臥位となって至適体位に
調整後、プロポフォール、フェンタニル、ロクロニウム
で全身麻酔を導入した。麻酔維持は酸素-空気-デ
スフルランおよびレミフェンタニルで行った。手術終
了後、スガマデックス 400 mg にて筋弛緩を拮抗した。
十分な自発呼吸を確認後、鼻カニューラにて酸素 6
l/min を投与しながら腹臥位のまま抜管し、患者協力
を得て、仰臥位に体位変換した。CPAP(FIO2 0.5,
PEEP 5 cm H2O)にて呼吸補助を行いながら退室し
た。
【結語】穿刺の指標である舌骨大角と輪状甲状靭帯
の触診は不可能であったが、超音波画像で観察で
きた。問題となる術後合併症はなく、覚醒下の至適
体位調整が有用であった。
139
【麻酔管理】
プロポフォール・フェンタニル・ロクロニウムで導入し
気管挿管後、中心静脈カテーテル留置目的で右内
頸静脈にエコープローブを当てたが、腫大した甲状
腺組織によりアプローチが困難であった。左内頸静
脈を観察すると、甲状腺組織に干渉されない穿刺点
が特定され、安全に手技を行うことができた。中心静
脈カテーテル留置後、超音波ガイド腹横筋膜面
(TAP)ブロックを 0.25%レボブピバカイン 20ml で施
行し、手術開始となった。
【考察】
本症例の甲状腺は長径 80mm・厚さ 40mm まで右葉
優位に腫大しており、右葉が右内頸静脈に覆いか
ぶさる超音波画像が得られた。ランドマーク法では
甲状腺穿刺のリスクが考えられ、入念なプレスキャン
により左内頸静脈 C6 レベルで甲状腺組織の干渉が
ない穿刺点を特定した。
【結語】
超音波診断装置を用いて、安全かつ確実に麻酔管
理できた甲状腺腫合併患者の一例を経験した。
一般演題 P14 ポスター症例演題(問題症例の管理)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 松本美志也
一般演題 P14 ポスター症例演題(問題症例の管理)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 松本美志也
薬剤溶出性ステント留置 18 日後の緊急門側
胃切除術に対し両側持続腰方形筋ブロック
にて管理した一例
低心肺機能のため腹膜透析カテーテル挿入
術を腹直筋鞘ブロックで管理した 1 症例
〇森繁秀太、渡邊 至
〇山縣裕史、松尾綾芳、赤田哲也、岡 英男、
永井 郁夫
横浜南共済病院
綜合病院山口赤十字病院 麻酔科
【症例】57 歳女性、身長 152cm、体重 34.5kg。45 歳
時に強皮症・間質性肺炎と診断され、徐々に腎機能
が低下していき、腹膜透析導入の方針となった。微
小血管障害のため心機能が著明に低下しており、
間質性肺炎も合併していたため全身麻酔・脊椎麻
酔・硬膜外麻酔はリスクが高いと考え、神経ブロック
のみで管理した。低体重で使用できる局所麻酔薬
量が少ないためブロックは腹直筋鞘ブロック(RSB)の
みで管理した。
近年心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術の
増加により,周術期に抗血小板薬の必要な症例が
増えている.薬剤溶出性ステント(以下 DES)留置後
の抗血小板薬 2 剤併用療法は,ステント内血栓症を
予防するため留置後 1 年間は可能な限り継続するこ
とが推奨されている.今回,DES 留置後 18 日目に緊
急幽門側胃切除術となった症例に対し,両側持続
腰方形筋ブロック(以下 cQLB)を併用して麻酔管理
を行い,良好な経過が得られたため報告する.
【検査所見】血液検査:BNP 2428.6pg/mL、心エコ
ー : LVEF28% 、 LV diffuse hypokinesis 、 moderate
MR+AR+TR+PR 、 mild PH 、 肺 機 能 検
査:%VC35.3%(0.94L)、FEV1.0%66.31%(0.63L)
症例は 71 歳男性,急性心筋梗塞で前医にて経
皮的冠動脈形成術を施行され,DES を留置された.
以降アスピリン,プラスグレルによる抗血小板薬 2 剤
併用療法を開始された.留置後 8 日目より黒色便と
貧血が出現し,精査の結果,出血性の進行胃癌を
認めた.出血のコントロールが困難であり,外科的治
療の適応と判断され,緊急手術の方針となった.麻
酔科,外科,循環器内科で検討し,アスピリンは継
続,プラスグレルは手術 7 日前に中止し,未分化ヘ
パリンによるブリッジングの後,手術とする方針となっ
た.全身麻酔導入はフェンタニル,プロポフォール,
ロクロニウムを用い,デスフルラン,レミフェンタニル
で維持した.導入後,超音波ガイド下に cQLB を行
い,カテーテルを留置した.手術時間は 2 時間 26 分,
出血は 100ml で術中血行動態に大きな変動はなか
【麻酔経過】手術室入室後、観血的動脈圧ラインを
確保した。超音波ガイド下右側 RSB(0.25%ロピバカ
イン 10ml)を施行した。約 30 分後に cold test で麻酔
域を確認し、手術開始した。皮切時や腹腔到達まで
疼痛の訴えはなかったが、スタイレットを用いてカテ
ーテルを挿入するときは痛みの訴えがあった。皮下
トンネル作成時も疼痛の訴えがあったので 0.5%リド
カインを局注した。手術中は疼痛時も含めて、循環・
呼吸ともに大きな変動なく手術終了し、手術時間は
1 時間 34 分であった。
【術後経過】術後はブロック範囲外のカテーテル刺
入部の痛みでアセトアミノフェンを内服した。POD1
に心不全急性増悪認め、フロセミド静注と硝酸イソソ
ルビドの持続静注を施行し、徐々に改善した。POD3
より腹膜透析導入したが問題なく経過し、リハビリ後
に術後 50 日で退院となった。
った.術後覚醒は良好,疼痛の訴えなく集中治療室
に入室した.術後 3 日まで cQLB+フェンタニル持続
投与による疼痛管理を継続.術後 5 日よりプラスグレ
ル再開し,術後 11 日に合併症なく退院となった.
ACC/AHA ガイドラインでは,待機手術の場合
DES 留置後は 12 カ月延期することが望ましく,緊急
【結語】低心肺機能のため腹膜透析カテーテル留置
術を RSB で管理した。本手術では腹横筋膜面ブロ
ックを選択することが多いが、低体重で局所麻酔薬
量が限られる場合は RSB も選択肢となりうる。
手術の際は各科と議論したうえで方針を決定するこ
とが推奨されている.今症例は DES 留置後 18 日目
の緊急開腹手術であったが,cQLB を併用すること
により,周術期の安定した鎮痛が得られ合併症なく
経過した.
140
一般演題 P15 ポスター研究演題(産科麻酔)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 木村 太
一般演題 P15 ポスター研究演題(産科麻酔)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 木村 太
脊髄くも膜下麻酔下帝王切開術後の非ステ
ロイド性消炎鎮痛薬・アセトアミノフェン定時
投与の鎮痛効果の検討
全身麻酔下帝王切開における腹横筋膜面ブ
ロックの有用性
〇川島如仙、橋詰勇祐、西原教晃、寺田拡文、
本間広則、清水惠子、四釜裕睦、其田 一
〇箱根雅子、日向俊輔、細川幸希、加藤里絵、
奥富俊之
市立釧路総合病院麻酔科
北里大学病院麻酔科
【背景・目的】帝王切開 (CS)術後の適切な鎮痛は
患者の離床を促し良好な母児関係の形成や慢性痛
の予防に重要である。当院では従来脊髄くも膜下麻
酔下 CS 時には術後鎮痛を目的に塩酸モルヒネを脊
髄 くも膜下に 投与 し、さらに腹 横筋膜 面ブロック
(TAP ブロック)、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)
またはペンタゾシンの疼痛時静脈投与を行っていた。
しかし鎮痛効果が不十分であったため 2014 年 9 月1
日から NSAID・アセトアミノフェンの定時静脈投与
(手術室入室 8 時間後からフルルビプロフェン 50mg・
アセトアミノフェン 1g をそれぞれ 8 時間毎)を開始し
た。今回、その NSAID・アセトアミノフェン定時投与
よる CS 術後鎮痛の有効性を検討した。
【方法】対象は 2013 年 11 月 1 日から 2015 年 9 月
30 日までに術後回診を施行した症例。術後回診表、
患者カルテから患者背景、疼痛スコア VAS (Visual
analogue scale: 0-100)、悪心・嘔吐・掻痒感の有無、
肝酵素(AST、ALT)の情報を収集し、定時投与(NA)
群と非投与(C)群で後方視的に比較検討した。主要
評価項目は VAS、副次評価項目は有害事象の有無
とした。
【結果・まとめ】研究の対象は 295 症例で、その内
NA 群は 220 症例、C 群は 75 症例であった。VAS
は安静時・体動時共に各時間帯で C 群が有意に高
かった(下図)。悪心・嘔吐、掻痒感は両群間で有意
差を認めなかった。肝酵素は NA 群で有意に高かっ
た。塩酸モルヒネ脊髄くも膜下投与、TAP ブロックに
加え、NSAID・アセトアミノフェン定時投与を行うこと
で CS 術後疼痛スコアは有意に改善した。2 日目以
降の鎮痛状況の把握が課題である。
141
【はじめに】帝王切開の麻酔は、麻酔薬の胎盤通過
性を考慮した上で、手術侵襲を制御することが必要
となる。そのため、全身麻酔を選択する場合は、胎
盤通過性の低い麻酔薬で麻酔導入をし、麻酔導入
から短時間で手術を開始する必要がある。しかし、
使用可能な麻酔薬が制限される中で、麻酔導入直
後は、麻酔深度が不十分になりがちであり、手術侵
襲の制御に難渋する可能性がある。そこで、われわ
れは、全身麻酔下帝王切開における腹横筋膜面ブ
ロックの有用性について検討したので報告する。
【方法】2013 年 1 月から 2013 年 12 月まで、当院で
行われた全身麻酔下帝王切開例を対象として、後
ろ向きに検討した。麻酔導入時に腹横筋膜面ブロッ
クを施行してから全身麻酔を行った群と、全身麻酔
のみで管理した群に振り分け、麻酔中のフェンタニ
ルの使用量、術後の NSAIDs の使用量について比
較した。
【結果】研究期間中の全身麻酔下帝王切開例は 6
例あり、そのうち、腹横筋膜面ブロックを施行してか
ら全身麻酔を行った群は 3 例で、全身麻酔のみで
管理した群は 3 例であった。両群を比較すると、麻
酔中のフェンタニルの平均使用量は 33μg と 125μg
で、術後の 24 時間以内の NSAIDs の使用量に有意
差はなかった。
【考察】全身麻酔下帝王切開において、腹横筋膜面
ブロックを併用することは、麻酔中の麻薬使用量を
減少させることから、手術侵襲の制御に貢献したと
考えられる。また、麻酔中の麻薬使用量が減少した
にもかかわらず、術後の鎮痛薬使用量に差はないこ
とから、術後の鎮痛効果があると考えられる。以上よ
り、全身麻酔下帝王切開における腹横筋膜面ブロッ
クは、手術の侵襲制御と、術後鎮痛において、有用
であると考えられた。
一般演題 P15 ポスター研究演題(産科麻酔)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 木村 太
一般演題 P15 ポスター研究演題(産科麻酔)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 木村 太
当院での硬膜外無痛分娩の現状と今後の課題
ペンタゾシンはオピオイドのくも膜下投与によ
るかゆみを予防するのか
〇本山嘉正、塩川浩輝、外須美夫*
〇高橋英督、鈴木健雄、吉村 敦
九州大学病院麻酔科蘇生科
九州大学大学院医学研究院麻酔蘇生学/九州大学
病院麻酔科蘇生科*
東京都立墨東病院 麻酔科
<はじめに>
帝王切開術において、脊髄くも膜下麻酔に微量の
オピオイドを併用すると術後鎮痛効果が高まることが
知られている。しかし、副作用の一つとしてかゆみの
発生が問題になる。オピオイドのくも膜下投与による
かゆみ対策として種々の薬剤が検討されている。
我々はそのうちの一つのペンタゾシンに注目し、
2015年9月から活用を開始した。今回、ペンタゾシン
投与の有無によりかゆみの発生頻度に差があるか
調査した。
【はじめに】近年、当院(九州大学病院)では心臓や
脳などの重要臓器に合併症を持つ患者の分娩管理
を行う症例が増加傾向にある。当科(九州大学病院
ペインクリニック)ではそういった合併症を持つ妊婦
を対象にして持続硬膜外麻酔による無痛分娩を行
っている。そこで、2013 年から 2015 年までの無痛分
娩症例について、患者の年齢や合併症、分娩の転
帰などを調査した。
【結果】無痛分娩症例は、2013 年が 2 例、2014 年が
8 例、2015 年が 14 例で合計 24 例であった。年齢は
11 歳から 38 歳(平均 28.9 歳)であった。合併症の内
訳は、脳動脈瘤や脳腫瘍などの脳神経疾患が 9 例、
先天性心疾患や川崎病罹患後の冠動脈疾患など
の心臓疾患が 12 例、その他が 3 例であった。全例に
持続硬膜外麻酔を行ったが、24 例中 2 例は分娩停
止のために緊急帝王切開術に移行した。残りの 22
例は大きな合併症なく、経腟分娩を行うことができた。
すべての症例で出生後の児の健常性に特に問題は
<方法>
2015年9月以降に当院で施行した帝王切開術のうち、
胎児娩出後にペンタゾシン15mgを投与した症例を
ペンタゾシン群とした。症例数が同数になるようにペ
ンタゾシンを投与していない症例を過去にさかのぼ
り集積し対照群とした。両群共に脊髄くも膜下麻酔
で管理し、フェンタニル20μg、塩酸モルヒネ0.1mgを
併用した。電子カルテから術後のかゆみの発生の有
無、手術終了から掻痒感発生までの時間、レスキュ
ー使用の有無を調査した。
<結果>
両群ともに81症例だった。患者背景に差はなかった。
術後のかゆみの発生頻度はペンタゾシン群が有意
に少なかった(対照群64.2%、ペンタゾシン群46.9%
とP<0.05)。かゆみを訴えるまでの時間はペンタゾ
シン群が有意に長かった(対照群226±234分、ペン
タゾシン群413±403分、P<0.05)、またレスキューの
使用頻度は両群間で差がなかった(対照群28.8%、
ペンタゾシン群26.3%)。
なかった。
【考察】脳神経疾患や心臓疾患などの全身合併症を
持つ患者の分娩においては、帝王切開と無痛分娩
のどちらを選択すべきかで迷うことも多い。当院では
脳神経外科や循環器内科などに前もってコンサルト
してリスク評価を行い、その上で、本人やその家族、
産科主治医、ペインクリニック主治医で話し合って分
<結論>
帝王切開術の麻酔において、オピオイドの脊髄くも
膜下投与によるかゆみの予防にペンタゾシンが有効
な可能性がある。
娩方法を決定している。最終的に硬膜外無痛分娩
を選択した症例でも安全に分娩管理を行うことが出
来ている。当院での無痛分娩症例の現状と今後の
課題について文献的考察を交えて報告したい。
142
一般演題 P15 ポスター研究演題(産科麻酔)
4 月 16 日 10:00~11:00 座長 木村 太
一般演題 A2 口演優秀演題(臨床)4月 16 日(土)10:30~11:45
座長 西脇公俊、井上莊一郎 審査員 横山正尚
当院における帝王切開術後の硬膜外鎮痛実
施状況と今後の課題
腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチに
おける持続投与用カテーテルの留置長と
術後合併症の発生頻度との関係について
〇鈴木智文、上川務恵、徳田留衣、高橋和成、
竹原由佳、小橋川晃代、花城亜子、奥間陽子
〇伊東幸日子、中島邦枝*、齋藤 繁
社会医療法人敬愛会 中頭病院麻酔科
群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学
群馬県立がんセンター緩和ケア科*
【目的】当院では帝王切開の麻酔法は脊髄くも膜下
硬膜外併用麻酔(CSEA)を第一選択としており,術
後は硬膜外鎮痛を行っているが,持続投与が中止
されている症例も見受けられる.そこで現状調査を
行い,今後の課題を検討した.
【はじめに】腕神経叢ブロックは上肢の手術の術
中,術後における疼痛管理に非常に有用である.
当院では肩の手術の際に超音波ガイド下腕神経
叢ブロック斜角筋間アプローチを行い,持続投与
用のカテーテルを挿入している.持続腕神経叢ブ
ロックの合併症には出血,感染,気胸,カテーテ
ル迷入によるくも膜下や血管内への薬剤の誤投
与などが知られている.今回我々は持続投与用の
カテーテルの留置長と合併症の頻度について検
討した.
【方法】2010 年 10 月~2015 年 10 月に CSEA にて
施行した帝王切開症例で硬膜外鎮痛を完遂できた
か,中止した場合の理由,補助鎮痛薬使用状況に
ついて後ろ向きに調査した.硬膜外鎮痛の完遂は
持続投与の薬液がなくなるまで投与を続けた場合と
定義した.投与中止例のうちドレッシング材のはがれ
など硬膜外鎮痛の副作用以外の理由による症例を
除外し,完遂群(C 群)と中止群(S 群)に分けて検討し
た.統計学的検定には χ2 検定,t 検定を用いて
p<0.05 を有意とした.
【結果】調査対象症例は 368 例で,C 群 287 例,S 群
81 例.中止理由は下肢のしびれ・感覚鈍麻 67 例,
かゆみ 2 例,患者希望その他 12 例であった.S 群で
は C 群に比して腰椎での硬膜外穿刺が多く(p<0.01),
持続投与のロピバカインが原液(0.2%)であることが
多かった(p=0.03).定期内服薬以外の補助鎮痛薬
平均使用回数は S 群 1.2 回,C 群 0.8 回(p=0.02)で
あった.腰椎での硬膜外穿刺のうち 18 例は脊硬麻
針を用いた 1 カ所穿刺法で行われており,2 カ所穿
刺 法 に 比 べ 持 続 投 与 中 止 率 は 高 い (66.7% ,
p<0.01)が,導入に要する時間は平均 2.7 分短かっ
た(p=0.02).
【考察】帝王切開術後の硬膜外鎮痛が実際には
22%の症例で中止されていた.補助鎮痛薬平均使
用回数の差は小さく,S 群でも一定の鎮痛効果は得
られていたと考えられるが,中止率が高い事は改善
すべき課題である.今回の検討から胸椎での硬膜
外穿刺,持続投与のロピバカインの希釈がその方策
と考えられたが,麻酔導入時間短縮という 1 カ所穿
刺法の利点は緊急手術時に大きいと言える.
【対象と方法】当院で 2010 年から 2014 年に行
われた肩の手術で,持続投与用カテーテルが挿入
された 130 名を対象に,カテーテルの留置長と
術後合併症の発生数を後ろ向きに調査した.穿刺
は全て意識下に側臥位での後方アプローチで行
い,超音波ガイド下に第 5 頚神経根と第 6 頚神
経根間を目標に平行法で 18G の Touhy 針を進め,
0.25%ロピバカイン 20ml を投与した.次にカテ
ーテルを挿入し,カテーテルから同濃度のロピバ
カインを 10ml 追加投与した.無縫合で固定可能
なドレッシング材を用いて固定し終了した.術後
の鎮痛は持続注入用ポンプを用いて 0.13%レボ
ブピバカインを 6ml/h で 72 時間投与した.合併
症調査は持続投与中または投与終了後,術後に行
った.
【結果】カテーテルの留置長は 4 センチから 15
センチにわたり,16 件の合併症があった.認め
られた合併症は,疼痛,自然抜去,局所麻酔薬の
漏れ,上肢の浮腫であった.局所麻酔中毒や薬剤
の異所投与などの重篤な合併症は認められなか
った.カテーテル挿入長 8 センチ未満と 8 セン
チ以上で 2 群に分けた場合,合併症発生率はそれ
ぞれ 29%と 9%で,深く留置されている群で有
意に合併症が少ないという結果が得られた.
【まとめ】カテーテル留置を深めにすることで自
然抜去や漏れを防ぐことができたためと考えら
れた.留置長と合併症の発生率に比例関係は認め
られなかった.
143
一般演題 A2 口演優秀演題(臨床)4月 16 日(土)10:30~11:45
座長 西脇公俊、井上莊一郎 審査員 横山正尚
一般演題 A2 口演優秀演題(臨床)4月 16 日(土)10:30~11:45
座長 西脇公俊、井上莊一郎 審査員 横山正尚
The effect of infusion site on the occurrence of
phrenic nerve palsy during supraclavicular
approach brachial plexus block : A randomized
controlled study
胸部傍脊椎ブロックにおける 2 種類の超音波
ガイド下穿刺法の比較検討
〇Yang Hoon Chung*, Justin Sangwook Ko,
Duck Hwan Choi
〇小畠彩子、加藤貴大、高田菜々子、近藤隆志、
濱田 宏、河本昌志
Department of Anesthesiology & Pain Medicine, Samsung
Medical Center, Seoul, Korea
Sungkyunkwan University, School of Medicine.
広島大学病院 麻酔科
Introduction) Recently, several ultrasound guided SCBPB
techniques such as a single injection in the “corner pocket”
(the corner bordered by the subclavian artery and the first rib)
or multiple injections around brachial plexus bundle are
available. The phrenic nerve palsy often ensued after SCBPB.
However, the effect of various injection sites during SCBPB
on the occurrence of the phrenic nerve palsy is not yet
identified with clinical study. In consideration of anatomical
relationship, the corner pocket is more distant than the cluster
from the phrenic nerve. The more local anesthetics injected in
the cluster of BP, the more may spread to the phrenic nerve.
We hypothesized that if the local anesthetics are mainly
injected into the corner pocket area, the incidence of the
phrenic nerve palsy will decrease.
【はじめに】胸部傍脊椎ブロック(TPVB)は肺切除術
後鎮痛法として広く使用されている。TPVB の超音
波ガイド下穿刺法は、肋間アプローチと傍脊椎アプ
ローチによる平行法が一般的だが、両穿刺法を比
較した報告はない。そこで今回、これら 2 種類の穿
刺法での鎮痛効果とカテーテル先端位置について
後方視的に検討した。
Materials and methods) Fourteen adult patients undergoing
orthopedic surgery for any kind of right sided forearm, wrist
and hand surgery under SCBPB anesthesia were enrolled. All
patients randomly were allocated into one of two groups. The
block needle was inserted medially using in-plane technique
with ultrasound guidance. In the Group C, local anesthetics
injection was done at the corner pocket area (20 ml), and
inside the cluster (5 ml). In the Group M (multiple injection),
inside the cluster (20 ml), and the corner pocket area (5 ml).
【方法】対象は 2014 年 8 月から 2016 年 1 月までに
当院で待機的肺切除術を施行され、TPVB 単独に
よる術後鎮痛を行った患者とした。肋間アプローチ
群を I 群、傍脊椎アプローチ群を P 群とした。術後鎮
痛は、0.38%ロピバカインを 6ml/時で手術終了時に
開始した。鎮痛効果は、術後 1 日目(POD1)と 2 日目
(POD2) の 安 静 時 と 体 動 時 の Visual Analog
Scale(VAS)と鎮痛補助薬使用状況の調査で評価し
た。カテーテル先端位置は、脊椎正中からカテーテ
ル先端までの距離を胸部レントゲン写真で計測した。
統計学的検討はカイ二乗検定、対応のない t 検定、
Mann-Whitney U 検定を用い、p<0.05 を有意とした。
値は平均値±標準偏差で示した。
In both group, PFT and the diaphragmatic motion using
ultrasound were compared at 1) before SCBPB and 2) 30 min
after the injection. Sensory and motor blocks were checked at
10-20-30 min after the injection and graded using a validated
3-point scale. For the sensory block (using a cold alcohol
swap); 0 = no block, 1 = analgesia(feel touch, not cold), 2 =
anesthesia(cannot feel touch). For the motor block; 0 = no
block, 1 = paresis, 2 = paralysis. Maximal total score was 16
points, and 14 points was considered as a cut off value for the
success of blockade. The occurrence of diaphragmatic palsy
was determined by the reduction rate of diaphragmatic
excursion during deep breathing using the M-mode
ultrasound; more than 75%, or no movement, it considered as
“complete paresis”; 25% - 75%, “partial paresis” ; less than
25%, no paresis.
Results) Demographic data were not different between the
groups. There was no block failure or post procedural dyspnea
in both groups. The number of patients with diaphragmatic
palsy were significantly lower in the group C than M; 4/2/0
(no/partial/complete) vs 1/4/3 (p = 0.035). The decrease of
FEV1 and FVC were significantly lower in the group C than
M.
【結果】対象は 138 名で、I 群は 90 例、P 群は 48 例
であった。患者背景(性別・年齢・身長・体重)に有
意差はなかった。安静時 VAS は POD1 で I 群:
25±22、P 群:24±22、POD2 で I 群:17±19、P 群:
20±18 で、体動時 VAS は POD1 で I 群:53±28、P
群:52±24、POD2 で I 群:43±25、P 群:50±22 で、い
ずれも有意差はなかった。鎮痛補助薬使用患者数
にも有意差はなかった。カテーテル先端距離は、I
群が 4.1±1.3cm、P 群が 3.2±1.1cm と P 群で有意に
カテーテル先端が脊椎に近かった。
Conclusion) The occurrences of the diaphragmatic palsy and
decreased pulmonary function were significantly low when the
local anesthetics were mainly infused into the corner pocket
area.
【結論】傍脊椎アプローチによる穿刺法は、肋間アプ
ローチに比べ、より脊椎に近い部位へのカテーテル
挿入が可能であったが、鎮痛効果に差はなかった。
144
一般演題 A2 口演優秀演題(臨床)4月 16 日(土)10:30~11:45
座長 西脇公俊、井上莊一郎 審査員 横山正尚
一般演題 A2 口演優秀演題(臨床)4月 16 日(土)10:30~11:45
座長 西脇公俊、井上莊一郎 審査員 横山正尚
超音波ガイド下・頭半棘筋内注入による大後
頭神経ブロックの超音波解剖学的検討
乳癌手術における傍脊椎ブロックと椎弓板ブ
ロックの比較検討
〇 臼井要介1、寺田 哲2、奥田泰久2、白川 香1、
水谷彰仁1、刈屋 顕3、東奈央子3、松野健二郎3
〇室内健志、岩﨑創史、山蔭道明
札幌医科大学医学部麻酔科学講座
水谷痛みのクリニック1
獨協医科大学越谷病院麻酔科2
獨協医科大学解剖学マクロ講座3
背景:傍脊椎ブロックは乳癌手術の周術期鎮痛とし
て推奨されているが,気胸,硬膜外およびくも膜下
超音波画像では筋肉などの立体構造物は”面”
注入などのリスクがある.椎弓板ブロックは傍脊椎腔
に、筋肉と筋肉の間の面は”線”に、神経などの線
に到達することなく間接的に傍脊椎ブロックの効果
は”点”に映る。中枢で大後頭神経を直接狙う従来
が得られると報告されている.この2法の周術期鎮痛
の超音波ガイド下神経ブロックは、下頭斜筋を同定
効果について前向き研究を行い比較検討した.
するまでプローブ操作に時間がかかり、C1 横突起と
内容と方法:乳癌手術に対してプロポフォールによ
C2 棘突起にプローブを合わせながら神経である”
る全身麻酔にランドマーク法による傍脊椎ブロック
点”に針先を合わせるのには慣れが必要となる。
(PV 群, n=12)または椎弓板ブロック(LB 群, n=13)
まず大後頭神経の走行を確認し、より簡単なアプ
のカテーテル留置を併用した.術中の血圧変動にレ
ローチを探すために Formalin 固定の献体 18 体を用
ミフェンタニルを用い,手術終了時に痛みに応じフェ
いて局所解剖学的検討を行った。大後頭神経は C2
ンタニルを投与した.主評価項目として,術後 48 時
レベルで下頭斜筋の中央やや内側を腹側から背側
間のブロック PCA 使用回数とレスキュー鎮痛薬使用
に回り込み、C2 から C1 レベルの間で下頭斜筋と頭
を評価した.副次項目としてレミフェンタニルとフェン
半棘筋の間を頭側へ向かい、C1 レベルから上項線
タニル消費量,術後悪心・嘔吐の発生を測定した.
の間で頭半棘筋内に入り込む。頭半棘筋は棘突起
を起始とする縦走線維と横突起を起始とする斜走線
維からなり、この線維の間に筋内腱がある。大後頭
結果:術後 24 時間内の PCA 使用回数は PV 群で
神経は頭半棘筋の縦走線維内を通り、その後、上
3[0.75-3.25]回,LB 群で 6[3-12]回で有意差を認め
項線レベルの頭板状筋の内側で頭半棘筋、次に僧
た(p=0.04).両群とも 24 時間以降は PCA の使用を
帽筋を貫通し、大後頭動脈と共に後頭部の皮下組
認めなかった.術後 PCA 以外のレスキュー鎮痛薬
織に入り皮膚に広く分布していた。末梢の分布パタ
消費は両群ともほぼなく,群間差を認めなかった.
ーンは個人差が大きく、ブロック部位を特定できなか
術中のレミフェンタニル消費量は PV 群では LB 群に
った。
比べて有意に減少した(0.02[0-0.02]mcg/kg/min 対
解剖学的検討より大後頭神経ブロックの注入部位
0.05[0.04-0.09], p=0.003).フェンタニル消費量は
を C1 レベルから上項線の間の頭半棘筋内と考え、
PV 群(0[0-0]mcg/kg)と LB 群(0.39[0-1.1])で有意差
Thiel 固定の献体に対して当該部位に超音波ガイド
を認めなかった.術後悪心・嘔吐,ブロック手技に伴
下 に 色 素 を 注 入 し 、 そ の 広 が りと 神 経 の 関 係 が
う合併症は両群で認めなかった.
Formalin 固定の献体と同じであることを確認し、さら
に大後頭神経領域に痛みがある患者にも当該部位
考察:レミフェンタニルの消費量,24 時間内の PCA
への局所麻酔薬注入により鎮痛効果を得た。
使用回数以外において傍脊椎ブロックと椎弓板ブロ
今回、大後頭神経が必ず貫通する頭半棘筋を”
ックの効果に差を認めず,等しく患者の満足を得た.
面”で捉える超音波ガイド下大後頭神経ブロックに
乳癌の周術期鎮痛法として椎弓板ブロックは有用で
ついて報告する。
あり,より安全と考えられた.
145
一般演題 A2 口演優秀演題(臨床)4月 16 日(土)10:30~11:45
座長 西脇公俊、井上莊一郎 審査員 横山正尚
一般演題 P16 ポスター研究演題(その他)
4 月 16 日 11:00~12:00 座長 黒澤 伸
帝王切開術に対するオピオイド添加単回注
入脊髄くも膜下麻酔法における高比重ブピ
バカイン用量と下肢運動遮断時間
肛門手術に対する麻酔法の検討
―脊髄くも膜下麻酔(サドルブロック)と仙骨
硬膜外麻酔の比較―
〇堀江彩織、益田律子、安心院純子、細井貞則、
鈴木陽介、斉藤聡、福山東雄、鈴木利保*
〇田中絵理子、堤 要介
周南記念病院 麻酔科
東海大学八王子病院麻酔科
東海大学医学部医学科外科学系麻酔科*
周産期における深部静脈血栓・肺梗塞の予防上,
帝王切開術後には特に早期下肢運動機能回復と離
床が求められる.脊髄くも膜下麻酔時のオピオイド
添加は,無痛効果増強による局所麻酔薬必要量抑
制によって下肢運動機能回復時間を短縮する利点
が あ り , 単 回 注 入 法 ( SSS : single shot spinal
anesthesia)による麻酔管理と術後鎮痛を可能にする.
フェンタニル・塩酸モルヒネ添加高比重ブピバカイン
による脊髄くも膜下麻酔において,各種用量のブピ
バカインの下肢運動遮断時間を調べ,必要最小用
量の高比重ブピバカインを検討した.
方法:バックアップとして硬膜外カテーテル(T12/L1)
留置後,塩酸モルヒネ 0.1 ㎎およびフェンタニル
20μg 添加した 0.5%高比重ブピバカインを脊髄くも
膜下に投与し(L3/4,27G 針)脊髄くも膜下麻酔法を
行った予定帝王切開術症例 52 例について後ろ向き
に調査した.用いたブピバカイン用量として 10 ㎎
(n=20),8 ㎎(n=20),6 ㎎(n=12)の 3 群を比較した.
投与後の最高無痛域上限(ピンプリック,酒精綿),
昇圧薬使用量,手術時間,下肢運動遮断からの回
復時間(m-Bromage スコアに準じて 15 分ごとに評
価),術後 VAS を調べた.無痛域不足には硬膜外カ
テーテルより 0.375%ロピバカインを投与した.
結果:背景因子は 3 群で同じであった.完全遮断が
解除し始める時間は 10 ㎎群 102±34 分,8 ㎎群
78±26 分,6 ㎎群 60±15 分,完全回復までの時間は
10 ㎎群 190±17 分,8 ㎎群 150±24 分,6 ㎎群 133±14
分と用量依存性であった.術中に硬膜外注入を必
要とした症例は 8 ㎎群で 1 例,6 ㎎で 3 例であった.
結語:硬膜外カテーテルのバックアップ,オピオイド
添加のもとであれば 8 ㎎ブピバカインは下肢運動機
能上有用であり,SSS が可能であった.6 ㎎ブピバカ
インは硬膜外麻酔の補助を必要とした症例があり,
SSS が困難であった.また硬膜外注入を行うことで,
下肢運動機能遮断時間を延長させてしまった.
146
[はじめに]当院では肛門手術の麻酔法として,脊髄
くも膜下麻酔(サドルブロック)を施行してきた。超音
波装置の導入により,仙骨硬膜外麻酔は従来のラン
ドマーク法に比べ,より確実かつ安全に行うことが可
能となった。早期離床を目的とし,仙骨硬膜外麻酔
での麻酔管理に変更した。
[方法]2014 年 9 月から 2015 年 11 月の間に,当院で
肛門手術を行った症例を対象とした。サドルブロック
群と仙骨硬膜外麻酔群の,それぞれ 20 症例ずつを
無作為に選んで,後ろ向きに検討した。統計学的検
討は Mann-Whitney の U 検定を用い,p<0.05 を有
意差ありとした。術中の追加麻酔や術後痛の有無,
術後痛出現までの時間と初回鎮痛薬使用時間,合
併症について比較した。
[結果]サドルブロック群で 0.5%高比重ブピバカイン
0.96±0.105ml(平均値±標準偏差),仙骨硬膜外麻
酔群で 1.5%メピバカイン 13.2±2.308ml を使用して
いた。鎮痛不十分で,術中に局所麻酔を必要とした
症例は,サドルブロック群で 2 例(10%),仙骨硬膜
外麻酔群では 0 例であった。術後痛はサドルブロッ
ク群で 10 例(50%),仙骨硬膜外麻酔群では 7 例
(35%)に生じた。痛みの出現時間はサドルブロック
群 で 344±175.385 分 , 仙 骨 硬 膜 外 麻 酔 群 で
279±72.899 分であり,有意差はないが,仙骨硬膜外
麻酔群の方が痛みの出現が早い傾向にあった。合
併症として,頭痛は両群とも見られず,嘔気嘔吐が
サドルブロック群で 1 例生じたのみであった。仙骨硬
膜外麻酔群では尿道カテーテルは留置せず、麻酔
施行後 2 時間で歩行テスト後に安静度フリーとした
が,1 例で 2 時間後に立位がとれず 4 時間後に歩行
可能となった症例があった。合併症の出現について
も両群で有意差はなかった。
[結論]仙骨硬膜外麻酔は肛門手術において,確実
な鎮痛を得ることが可能であり,早期離床にも有利
である。サドルブロックに代わる麻酔法として有用で
あると考えられる。今後,術後痛への対応として,長
時間作用型局所麻酔薬の使用などの検討が必要で
ある。
一般演題 P16 ポスター研究演題(その他)
4 月 16 日 11:00~12:00 座長 黒澤 伸
一般演題 P16 ポスター研究演題(その他)
4 月 16 日 11:00~12:00 座長 黒澤 伸
Anticholinergic premedication for sedation with
dexmedetomidine during spinal anesthesia: a
randomized, double-blinded, placebo-controlled
study
末梢神経ブロック時の片手と両手による「固
い」と感じる注入圧について
〇美濃口和洋、伊奈川 岳、近藤竜也
〇Eun Jin Ahn, HeyRan Choi, KyungWoo Kim,
SiRa Bang*
横浜市立市民病院 麻酔科
背景:末梢神経ブロック時の合併症として神経束内注入に伴
う神経障害が挙げられる。腕神経叢ブロックの 97%の症例で
圧が 15psi (775mmHg) に達すると針が神経に接触している
などの報告がある。神経ブロックは通常エコーガイド下で行っ
ているが、注入時には圧測定は行わずに各個人の「固い」と
いう感覚に頼っていることが多い。片手の方が両手よりシリン
ジに力を加えにくいことから注入圧が上がりにくく、神経束内
注入を回避する可能性があると考えた。そこで
①シリンジの注入方法によって「固い」と感じる圧に差がある
か
②注入方法と 15psi との関係について検討を行った。
Assistant Professor, Department of Anesthesiology
and Pain Medicine, Seoul Paik Hospital of Inje
University, Seoul, Korea
Background: Sedation with dexmedetomidine has
been reported to increase the incidence of
bradycardia which need to treat in patients
undergoing spinal anesthesia. Therefore, we aimed to
evaluate the effectiveness of atropine premedication
for preventing the incidence of bradycardia and
hemodynamic effect on patients who undergoing
spinal anesthesia with sedation by dexmedetomidine.
Methods: One hundred fourteen patients (20–65
years) who were willing to be sedated and scheduled
to undergo a spinal anesthesia participated to this
study. The patients were randomly divided into two
groups: groupA received intravenous atropine and
groupC received normal saline as a placebo. Ten
minutes
after
injection
spinal
anesthesia,
dexmedetomidine was infused at a loading dose of
0.6 μg/kg for 10 min followed by an infusion at 0.4
μg/kg/h. Simultaneously with starting the loading
dose of dexmedetomidine, patients in group A
received an intravenous bolus of atropine, 0.01mg/kg
up to 0.5mg. Patients in group C received an
intravenous normal saline bolus. If patients could not
reach adequate sedation level during the study, a
bolus of midazolam 1mg was administered. The data
on administration of atropine and ephedrine were
collected. Hemodynamic data included heart rate
(HR), systolic blood pressure (SBP), diastolic blood
pressure (DBP) and mean blood pressure (MBP)
were recorded for 30 minutes after starting the
loading dose of dexmedetomidine.
Results: The incidence of bradycardia needed
atropine treatment was significantly higher in groupC
than groupA (P = 0.035). However, the incidence of
hypotension needed ephedrine treatment showed no
significant difference between two groups (P = 0.7).
The SBP and HR showed no significant difference
between two groups (P = 0.138, 0.464, respectively).
However, groupA showed significant increase in
DBP than groupC(P = 0.014). GroupA showed
significant increase in MBP than groupC (P = 0.008).
Conclusion: prophylactic atropine reduces the
incidence of bradycardia to treat in patients
undergoing spinal anesthesia with dexmedetomidine
sedation. However, MBP and DBP showed
significant increase in patients when prophylactic
atropine administrated.
対象と方法:集中治療室看護師 32 人と研修医 30 人を対象と
した。水で満たした 20ml のシリンジを用い、片手群と両手群
にランダムに振り分け、「固い」と感じた圧を圧測定器
(Spectramed Xcaliber Transducer®) を用いて測定した。
結果:片手法で「固い」と感じた圧は中央値 16.44 [2.57-
31.89]、両手法では 12.60 [4.67-32.89]であり、両群間では
有意差を認めなかった。片手法で 15psi の圧で「固い」と感じ
たのは 14 人 (46.7%)であり、両手法では 23 人 (71.9%)であ
った。χ 二乗検定ではP=0.043 と有意差を認めた。
結論:両群間で注入圧には有意差を認めなかったものの、
15psi では両手法の方が有意に固いと感じていた。「固い」と
感じる注入圧は個人差が大きく、感覚だけに頼った注入方法
では神経損傷のリスクがあり、客観的な指標が必要と考えら
れる。
注入圧
40
20
0
片手
147
両手
一般演題 P16 ポスター研究演題(その他)
4 月 16 日 11:00~12:00 座長 黒澤 伸
一般演題 P16 ポスター研究演題(その他)
4 月 16 日 11:00~12:00 座長 黒澤 伸
当院手術室における末梢神経ブロックカート
システムの導入と麻酔科医・看護師によるそ
の評価
ハイリスク患者の四肢切断術における麻酔法
の検討
〇熊谷道雄 1)、小林孝史 1) 早坂知子
亀山良亘 2) 山内正憲 2)
〇徐 民恵、杉浦健之、浅井明倫、冨田麻衣子、
仙頭佳起、吉澤佐也、太田晴子、草間宣好、
祖父江和哉
1)
吉田亜古
1)
1) 大崎市民病院 麻酔科
2) 東北大学大学院医学系研究科 外科病態学講座
麻酔科学・周術期医学分野
名古屋市立大学大学院医学研究科 麻酔科学・
集中治療医学分野
【はじめに】末梢血管障害や重症糖尿病を有する患
【はじめに】末梢神経ブロックは、当院では麻酔科医
全員が習得する基本的な手技として定着している。
手術室内での円滑な業務遂行のために,必要物品
をまとめた末梢神経ブロックカート(以下カート)導入
とオーダリングシステム確立を行った。今回、その評
価を行った。
者の血行再建術や四肢切断術は、全身性かつ重度
【カートシステム】2014年秋から手術室看護師と話し
合いを開始し、2015年夏から本格的導入となった。
頻用する消耗物品、穿刺針、持続ブロック用キット、
薬剤、頻用する機器等について、必要最低限の物
品を選定してカートに配置した。同時に、物品補充
システムや電子カルテのオーダリングシステムを確
立した。
末梢神経ブロックを用いた周術期管理は循環への
【アンケート調査方法】対象は麻酔科医と手術室看
護師。2016年1月に無記名アンケート調査を実施。
内容は、①カートを知っているか、②電子カルテ上
の指示を出す時/受ける時、カート導入前より楽にな
ったか、③カート内の物品は充実しているか、④カ
ート内に脂肪製剤が入っているのを知っているか、
とした。
【方法】2011 年 3 月から 2015 年 12 月までに施行さ
【結果】麻酔科医24名、看護師31名から回答を得た。
①カートの存在はほぼ全員が知っていた。②麻酔科
医は電子カルテ上で指示を出しやすくなったとの回
答が54%、一方で看護師は74%が指示を受けやす
くなったと回答した。③カート内に必要物品が揃って
いると回答した麻酔科医が54%、よくわからないと回
答した者も46%いた。看護師は81%が揃っていると
回答した。④脂肪製剤の設置を知っていたのは、麻
酔科医が63%、看護師が29%であった。
ICU 管理を要したのは G 群 11 例、B 群1例であった。
の血管病変を合併していることが多い。冠動脈や脳
血管病変、糖尿病による慢性腎不全などを合併する
ため、全身麻酔を行う場合は慎重な管理を必要とし、
術後集中治療管理を要する場合も多い。これに対し、
影響が少なく有効である。今回我々は、四肢切断術
を受けた患者について術後 ICU 滞在の要否と死亡
率について、全身麻酔と末梢神経ブロックによる管
理とで検討した。
れた四肢切断術 73 症例を対象とし、全身麻酔(G
群)、末梢神経ブロック(B 群)に分類した。各群で
ICU 滞在日数および 30 日死亡率を比較した。
【結果】G 群は 53 例、B 群は 20 例であった。術後
【考察と結語】カートシステムはある程度は認知され、
活用されていることがわかった。看護師の70%以上
が指示受けをしやすくなったと感じており、業務負担
を軽減している可能性がある。一方で、脂肪製剤の
存在を知らない者が多く、導入前の説明不足が原
因と思われる理解不足が明らかとなったため、定着
への改善が必要である。
148
30 日死亡率は G 群 11.3%(6 例)、B 群 5%(1 例)であ
った。
【考察】合併症を有する四肢切断術において G 群で
は術後 ICU 管理を要する症例が多かった。要因とし
て末梢神経ブロックによる管理では循環動態や気道
への影響が少ない可能性が考えられた。
【結語】重症合併症を有する患者の四肢切断術に対
して、末梢神経ブロックによる管理では ICU 滞在日
数が少なかった。
一般演題 P16 ポスター研究演題(その他)
4 月 16 日 11:00~12:00 座長 黒澤 伸
一般演題 O8 口演症例演題(その他)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 萬 知子
局所麻酔薬の投与法は多孔式カテーテルの
有効性を変えるのか in vitro study
難治性心室頻拍に対して胸部硬膜外ブロッ
クを施行した1症例
〇栗原正人、深田祐作*
〇恒遠剛示、助永憲比古、廣瀬宗孝
社会医療法人 将道会総合南東北病院 麻酔科
十和田市立中央病院 麻酔科*
兵庫医科大学 麻酔科・疼痛制御科学講座、ペイン
クリニック部
[はじめに]多孔式カテーテル(以下、多孔式)は、そ
【はじめに】難治性心室頻拍(ventricular tachycardia;
VT)は VT storm とも呼ばれ、その定義は植え込み型
除細動器(CRT-D)が留置されている患者で、VT に
対する抗頻拍ペーシングや直流通電が 24 時間以
内に 3 回以上適切に作動した場合とされている。今
回、薬物抵抗性の VT storm に対して胸部硬膜外ブ
ロックの併用が有効であった一例を報告する。
の形状から、終端近くのみに開孔している従来型カテ
ーテル(以下、従来型)より局所麻酔薬が広範囲に投
与されると考えられる。一方で、多孔式を用いても予
想される鎮痛範囲が得られないとの学会報告もみら
れる。そこで、投与法により局所麻酔薬の散布範囲
がどのように変化するのかをモデルを用いて検討し
た。
【症例】75 歳、男性。
[方法] 従来型:トップ持続硬膜外麻酔用カテーテ
【既往歴】55 歳時に拡張型心筋症と診断され、73 歳
時に EF20%,wide QRS のため、CRT-D の植込みと
なる。
ル®、多孔式:八光ペインクリニックセット®で終端か
ら 5 個開孔しているものを用いた。メラミン樹脂フォー
ム(スポンジ)にカテーテルを留置し、インジゴカルミ
ンで着色した水を携帯型ディスポーザブル注入ポン
【現病歴】X 年 6 月、トイレに行こうとした際 CRT-D の
除細動が 3 回作動し、この時ふらついて転倒した。
呼吸困難感もあり同日当院に救急搬送となる。
プで、持続注入を 5 時間行った。ボーラス投与は毎
時間に 2ml ずつシリンジで投与した。着色面積を画
像解析ソフトで測定した。従来型をⅠ群 (5ml/h、ボ
ーラス無し n=5)、Ⅱ群(5ml/h、ボーラス有り n=5)に分
【入院経過】入院中に除細動器が頻回に作動し、
VT storm となった。除細動器ジェネレーター交換中
に VT・VF が頻発し、電気ショックでも止まらないた
め、PCPS・IABP を導入した。ジェネレーター交換後、
PCPS・IABP から離脱することはできたが、抗不整脈
薬抵抗性で鎮静薬の投与を中断すると VT が出現
する状態であった。主科より心臓交感神経抑制目的
に当科紹介受診となった。
けた。多孔式を A 群(5ml/h、ボーラス無し n=5)、B
群(8ml/h、ボーラス無し n=5)、C 群(5ml/h、ボーラス
有り n=6)の 3 群に分けた。着色面積(mm2)、流出孔
数について比較検討した。統計処理はⅠ、Ⅱ群で
Welch 検定、ABC 群で一元配置分散分析を用い
た。
[結果] 面積はⅠ群 111.2±44.7、Ⅱ群 181.1±52.7 と
【治療経過】レントゲン透視下に胸部硬膜外チュー
ビング(Th1/2 穿刺)を施行し、直後から 0.25%マー
カインの持続注入(3ml/h)を開始した。持続ブロック
開始後から VT は抑制され、抗不整脈薬の漸減、鎮
静薬の中止が可能となった。その後、storm 化は見
られず、第 50 病日にリハビリ目的に転院となった。
Ⅱ群で増加傾向があったが、p=0.08 だった。多孔式
は ABC 群間で面積、流出孔数とも有意差が得られ
た。多重比較では A 群と C 群の間と、B 群と C 群の
間に有意差があった。A、B、C 群の面積の平均値は
順に 119.0、154.9、545.6 であった。流出孔数は順に
1.6、1.8、4.8 だった。
【考察・まとめ】VT storm の原因として交感神経の活
動の亢進が関与するとされている。薬剤治療抵抗性
の心室頻拍に対しては、抗不整脈薬等の薬物治療
のみならず胸部硬膜外ブロックを組み合わせた総合
的なマネジメントが必要と考えた。
[考察・結語]多孔式ではボーラス投与により流出孔
が増え、着色面積が増加した。多孔式において局
所麻酔薬をより広範囲に散布するためには、ボーラ
ス投与が重要である可能性がある。
149
一般演題 O8 口演症例演題(その他)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 萬 知子
一般演題 O8 口演症例演題(その他)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 萬 知子
腰椎前方固定手術において超音波ガイド下
胸部傍脊椎ブロックを併用した全身麻酔を施
行した一症例
全身麻酔中に局所麻酔薬中毒が疑われた
Awake craniotomy の 1 例
〇中村公秀 1、三浦大介 2、平川奈緒美 3、
坂口嘉郎 3
〇金 優、越川 桂、山田宏和
佐賀大学医学部附属病院 集中治療部 1
佐賀大学医学部附属病院 麻酔科蘇生科 2、
麻酔・蘇生学講座 3
木沢記念病院
【緒言】脊椎手術における周術期の鎮痛法は、麻薬
を中心とした薬剤静脈内投与を用いるのが一般的
【背景】局所麻酔薬中毒は中枢神経毒性や心毒性
を来し、発生頻度は末梢神経ブロックでは 7.5~
20/10,000 例とされる。今回、全身麻酔中に局所麻
酔薬中毒が疑われた Awake craniotomy の症例を経
験したので報告する。
である。しかし、開腹を伴う前方固定術の侵襲は大
きく、強い痛みを感じる。そこで、脊椎前方固定術で
全身麻酔に加えて区域麻酔を併用する事には意義
がある。今回我々は腰椎前方固定手術において超
音波ガイド下傍脊椎ブロックを施行し、良好な鎮痛
を得られたので報告する。
【症例】50 代男性、L1 の椎体破裂骨折に対し前方
固定術が予定された。既往歴には狭心症、糖尿病、
高血圧、閉塞性動脈硬化症、甲状腺機能低下症、
僧帽弁逆流症があった。麻酔は胸部傍脊椎ブロック
を併用した全身麻酔を計画した。フェンタニル 200
micg とプロポフォール 50 mg で急速導入した。導入
後、右側臥位とし、超音波ガイド下に Th10/11 から左
胸 部 傍 脊 椎 ブ ロ ッ ク を 施 行 した 。局 所 麻 酔 薬 は
0.75%ロピバカイン 20 mL を投与した。術中はプロポ
フォール、レミフェンタニル、ロクロニウムで維持した。
手術のレミフェンタニルはおおよそ 0.1 γ で維持した。
手術は問題なく終了し、術直後の痛みもなかった。
【症例】29 歳女性。身長 153.1cm、体重 54.9kg。
X-2 年に左前頭葉腫瘍に対して Awake craniotomy
による腫瘍摘出術を行い、周術期に特に大きな問題
はなかった。X 年に頭部 MRI で再発所見を認め、
再度 Awake craniotomy を行うこととなった。プロポフ
ォールとロクロニウムで麻酔導入後、両側の眼窩上
神経、滑車上神経、頬骨側頭神経、耳介側頭神経、
大・小後頭神経に 2%リドカイン 20ml + 0.75%ロピバ
カイン 20ml + エピネフリン 0.2mg を混合したもの
で神経ブロックを行い、計 40ml を使用した。ピン固
定刺入部と皮膚切開部にも同内容の局所麻酔薬で
浸潤麻酔を行い、計 17ml を使用した。局所麻酔薬
使用後より血圧変動、頻脈を来し、局所麻酔薬中毒
を疑った。脂肪乳剤を投与し、投与後より循環動態
が改善した。その後、十分な覚醒が得られたため、
抜管し、覚醒下手術を開始した。覚醒中、タスクは
問題なく行うことができ、痛みの訴えもなかった。1 時
間 20 分で覚醒下手術を終了し、再導入を行った。
手術終了後、呼吸・循環に問題なく、意識障害もな
かったため、手術室で抜管し、ICU へ退室した。
【考察】Awake craniotomy は神経ブロックや浸潤麻
酔で使用する局所麻酔薬の使用量が多く、局所麻
酔薬中毒を来す可能性がある。しかし、全身麻酔下
では心毒性以外の症状が認められず、局所麻酔薬
中毒の診断が困難な場合がある。局所麻酔薬を使
用した全身麻酔下の症例で、循環不全や難治性不
整脈を来した場合、局所麻酔薬中毒を念頭に置く
必要がある。
【考察】今回施行した傍脊椎ブロックは鎮痛として有
効であった。下位胸部傍脊椎ブロックは、腰椎前方
固定術で必要な領域に鎮痛を得る事ができると考え
られた。
150
一般演題 O8 口演症例演題(その他)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 萬 知子
一般演題 O8 口演症例演題(その他)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 萬 知子
デクスメデトミジン鎮静下に切断指再接着術
を施行した乳児の麻酔経験
小児の指挫創に対する遊離皮弁術の術後鎮
痛において腋窩アプローチ持続腕神経叢ブ
ロックが有効であった一例
〇藤本侑里、新井千晶、三浦亜紀子、石橋 葵、
牛尾春香、中垣俊明、吉野 淳、藤村直幸
〇新井千晶、吉野 淳、山本美佐紀*、藤村直幸
聖マリア病院 麻酔科
【背景】乳児や小児では、成人で局所麻酔下に手術
可能な手術においても、安静を保つことが困難なた
め全身麻酔が選択されることが多い。デクスメデトミ
ジン(DEX)は、鎮静だけでなく鎮痛効果を併せ持ち、
呼吸抑制が少ないため小児集中治療領域で幅広く
用いられている。今回、DEX 鎮静下に指ブロックを
施行し、良好な鎮静下に切断指再接着術を施行し
た一例を経験したので報告する。
【症例】月齢 8 ヶ月、男児。身長 71cm、体重 8kg。既
往歴:特記なし。現病歴:右中指をドアに挟まれ受傷、
当院に救急搬送された。右中指不全切断と診断さ
れ、切断指再接着術の緊急手術が予定された。術
前診察直前に母乳を多量に摂取していたため、誤
嚥のリスクを避けるため、DEX 鎮静と指ブロックによ
る 麻酔 を予定 した 。麻酔経 過: 入室後 アトロ ピン
0.05mg を静注投与し、DEX 0.8μg/kg/h で持続投与
を開始した。入眠後、1%メピバカイン 2ml で指ブロッ
クを施行。その際、体動を認めたためケタミン 5 ㎎を
静注投与した。術中の鎮静状態は FLACC スコアで
Face 0 点、Legs 0 点、 Activity 0 点、Cry 0 点、
Consolability 0 点であった。顕微鏡下での手術であ
ったが、体動もなく良好な鎮静状態を得られた。手
術中、経皮的酸素飽和度低下等の呼吸抑制は認め
なかった。手術時間 36 分、麻酔時間 54 分であった。
切断指の生着は良好であり、術後 11 日で退院した。
【考察】DEX は他の鎮静薬と異なり呼吸抑制をきた
すことが少ない。本症例においても、手術に必要な
鎮静状態を得るために高用量を投与したが、呼吸
抑制は認められなかった。また、DEX は腸管蠕動も
抑制せず、悪心、嘔吐等の副作用が少ないと報告さ
れている。本症例でも、嘔吐等の副作用は見られな
かった。DEX 鎮静は、小児や幼児の区域麻酔施行
時の有用な鎮静方法の一つになり得ると考えられ
た。
雪の聖母会聖マリア病院 麻酔科
九州大学大学院医学研究院 麻酔蘇生学分野*
背景:小児の上肢手術においては硬膜外麻酔を併
用できる腹部・下肢手術と異なり、術後鎮痛に苦慮
することがある。今回、小児の指挫創に対する遊離
皮弁術に対して腋窩アプローチ持続腕神経叢ブロ
ックを行うことで有効な術後鎮痛を得られた症例を
経験したので報告する。
症例:4 歳男児。野菜運搬用ベルトコンベアーに指
を挟んで受傷し、当院を受診した。右中指挫創の診
断に対し、受傷後 8 日に右前腕内側より採取した遊
離皮弁術を施行した。笑気、酸素、セボフルランで
緩徐導入し、筋弛緩薬を使わず気管挿管した。腕
神経叢ブロックは、神経刺激装置(B/BRAUN 社
Stimplex HNS12®)を併用してエコーガイド下に、
stimplex®Ultra ( 22G ) を 用 い 腋 窩 ア プ ロ ー チ で
0.375%ロピバカイン 5.5ml を投与し、カテーテルは
19G の硬膜外針を介し 22G のカテーテルを先端が
腋窩動脈の下に位置するよう留置した。平行法で行
ったため、カテーテル事故抜去予防に絹糸でカテ
ーテルを皮膚に固定した。麻酔維持は空気、酸素、
セボフルラン、レミフェンタニル、フェンタニルを用い、
3 時間を目安に 0.2%ロピバカイン 3ml を留置カテー
テルより投与した。手術終了 10 分前に 0.2%ロピバ
カイン 2ml/時間で持続投与を開始し、手術時間は
11 時間 31 分、麻酔時間 13 時間 41 分だった。覚醒
時興奮なく、おだやかで、術直後の痛みの訴えはな
く、術後 20 時間に圧痛を認めるもの以降も痛みは自
制内であった。神経障害を含めブロックによる明らか
な合併症は認めなかった。
結語:小児の指挫創に対する遊離皮弁術において
腋窩アプローチ腕神経叢ブロックの持続投与が有
効であった症例を経験した。持続カテーテルを留置
することで十分な術後鎮痛が図れるため、術後の早
期回復に有効であると考えられる。
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一般演題 O9 口演症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 川前金幸
一般演題 O9 口演症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 川前金幸
脊損患者の体幹部痙攣に超音波ガイド下フ
ェノール注入が有効であった症例
小胸筋症候群の診断および症状緩和に超音
波ガイド下胸筋神経ブロックを利用した 3 症例
〇中島邦枝、廣木忠直*、肥塚史郎、斎藤 繁*
〇吉村文貴、山口 忍、杉山陽子、田辺久美子、
飯田宏樹
群馬県立がんセンター 緩和ケア科
群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学*
岐阜大学医学部附属病院 麻酔科疼痛治療科
【はじめに】
高位脊椎損傷患者では四肢をはじめ,体幹部にも
痙攣が認められる.体幹部の痙攣は呼吸障害を起
こし,患者の QOL の低下をもたらす.今回我々は頚
椎損傷患者の腹部の痙攣に対し,超音波ガイド下
に A 型ボツリヌス毒素の体幹部筋注を行ったが痙攣
を十分に抑えることが出来ず,8%フェノールを用い
て良好な結果を得たので報告する.
【はじめに】小胸筋症候群は小胸筋下間隙において
腕神経叢と鎖骨下動静脈からなる神経血管束が圧
迫され頸肩腕の痛みやしびれを生じる。生活指導や
理学療法が症状緩和の中心であるが的確に診断さ
れなければ治療に難渋することがある。今回我々は
超音波断層装置を用いて小胸筋症候群と診断し、
理学療法に胸筋神経ブロックを併用し症状緩和が
可能となった 3 症例を経験した。
【症例】
35 歳の男性.21 歳時に交通事故で頸椎損傷を来し,
以後不全四肢麻痺となった.以後近医に通院して
いたが 34 歳ごろより腹部筋肉の痙攣が認めら,呼吸
苦を来していた.
X 年 Y 月,2 回に分けて,超音波ガイド下に A 型ボ
ツリヌス毒素(BTXA)を腹直筋に 4 か所計 140 単位,
腹横筋に 4 か所計 100 単位,脊柱起立筋に BTXA
を 100 単位注射したが患者の評価ではやや痙攣が
良くなった程度であった.1 か月後に再評価を行っ
たが痙攣の程度は変わらなかったため同年 Z 月超
音波ガイド下に 8%フェノールを両側腹直筋に 6 か
所合計 30ml 注射した.3 週間後の評価では患者の
評価では 5 割以上の痙攣抑制が認められた.更に
超音波下に痙攣が認められた内腹斜筋,外腹斜筋
に 8%フェノールを 4 か所 10ml ずつ注射したところ,
呼吸状態の改善も認められた.患者の満足も得られ
たため以後経過観察となった.
【症例 1】43 歳、女性。階段から転落し、左上肢の痛
みが出現した。頚椎症の診断のもと近医整形外科
にて保存的治療を 4 年間行っていたが改善なく、握
力低下により日常生活に支障を来すようになったた
め当科紹介受診された。
【考察】
痙縮や痙攣治療に用いられる A 型ボツリヌス毒素注
射は手技も簡便で効果も認められているが欠点に
高価であること,数ヶ月で効果消失してしまうこと,投
与量が限られていることが挙げられる.フェノールは
院内製剤であるが安価で投与量制限もなく効果も半
年以上と長期である.痙攣部位への注射を超音波
ガイド下に行うことで正確な位置へのフェノール注入
が出来,また,痙攣を見ながら同時に注入すること
が可能であった.
【症例 2】44 歳、女性。2 年前に頚椎症に対して椎弓
切除術を施行された。1 年前より両上肢(特に左側)
のしびれ、痛みが増悪したため整形外科より紹介と
なった。
【症例 3】42 歳、女性。自動車乗車中に側面から追
突された。受傷後より右前胸部から上肢にかけての
痺れと痛みがあったが、精査にて器質的な異常なく
近医にて保存的に加療していたが、改善なく当科紹
介となった。
【診断および治療】いずれの症例においても撓骨動
脈触知を利用した Wright test と Roos test はともに
陽性であった。超音波診断装置を用いた評価では 3
症例ともプローブを小胸筋、鎖骨下動静脈が同定で
きる部位で固定し、Wright test を行ったところ、同部
位で動脈の狭小化/消失像が確認できた。これらの
ことから小胸筋症候群と診断し胸筋神経ブロックを
計画した。超音波ガイド下に小胸筋と大胸筋の間を
生理食塩水で液性剥離し、局所麻酔薬(1%カルボ
カイン 10ml)の注入を行った。
【経過】3 症例ともに生活指導や理学療法に胸筋神
経ブロックを併用することで ADL の改善を得ることが
可能であった。
【結語】
脊髄損傷患者の体幹部の痙攣に対し,超音波ガイ
ド下腹部筋フェノール注入は安全面,コストの面から
も有効であった.
【結語】超音波ガイド下胸筋神経ブロックを小胸筋症
候群の診断および治療に利用した 3 症例を経験し
た。
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一般演題 O9 口演症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 川前金幸
一般演題 O9 口演症例演題(疼痛管理・ペインクリニック 2)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 川前金幸
外傷による大腿骨骨幹部骨折後の伏在神経
痛に対して超音波ガイド下伏在神経ブロック
が奏功した症例
間 歇 的 腹 直 筋 鞘 ブロックを行 った食
道 癌 術 後 4症 例
〇山田直人、脇本将寛、鈴木健二
〇山本悠介、山本聡美、古谷友則、上田 要、
加藤 実、鈴木孝浩
岩手医科大学麻酔科学講座
【緒言】体幹部の超音波ガイド下末梢神経ブロックは、
硬膜外麻酔非適応症例の術後鎮痛に有効だが、こ
れまで当院は術後に単回投与のみで行っていた。
食道癌術後4症例に対し、カテーテル留置下に腹
直 筋 鞘 ブ ロ ッ クの 間 歇 的投 与 (iRSB; intermittent
Rectus Sheath Block)を行ったので報告する。
日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野
症例は 25 歳男性。22 歳時、交通外傷により両側大
腿骨骨幹部を骨折したため、当院整形外科にて両
側骨接合術が施行された。術後、右大腿内側の遷
延痛と右側大腿骨の偽関節を認めた。1 年経過後も
【症例】4症例は食道癌根治術予定の70歳代の男女
で心疾患または脳血管疾患に対する抗凝固療法中
のため、硬膜外麻酔非適応症例であった。
痛みの改善は認められず、当院ペインクリニック紹
介となった。初診時、右大腿内側から膝にかけて
VAS 64mm の持続痛と触覚過敏、痛みによる歩行
【方法】手術は全身麻酔下に胸腔鏡下食道切除術
を行い、腹部操作時に上腹部正中を約10cm切開し
た。
術後にRSBを施行し、左右の腹直筋鞘内にカテー
テルを留置した。手術翌日より、左右のカテーテル
から0.2% levobupivacaine 10~20mLずつ歩行リハ
ビリ30分前に投与した。投与前後の痛みの評価
(NRS; Numeric Rating Scale)、リハビリの歩行距離、
有害事象をチェックした。内臓痛にフェンタニルを持
続静注した。
障害を認めた。伏在神経領域に一致した症状と経
過から外傷性の伏在神経痛が疑われた。初診時より
光線療法とプレガバリン内服を開始したが症状の改
善なく、逆に触覚過敏の増悪を認めたためノリトリプ
チリンへ変更した。しかし、ノリトリプチリン内服後より
過呼吸症状を呈し救急外来へ搬送された。薬物療
法に抵抗性であるため、伏在神経ブロックによる脱
感作治療を開始した。初回の超音波ガイド下伏在神
【結果】全症例でiRSB施行後にNRSの低下を認め、
非施行患者よりリハビリ時の歩行距離が長かった。
全症例でiRSB施行後の有害事象は認めなかった。
経ブロック施行後、痛みは VAS 60mm から 20mm
へ改善を認め、1 週間程度の症状緩和が得られた。
その後、1 週間おきに計 12 回のブロックを施行し、
【考察】今回、iRSBは術後痛と歩行リハビリに有効な
可能性が示唆されたが、全症例で夜間の痛みが強
く、就眠前のiRSBも必要であった。1日を通した鎮痛
をiRSBで行うために、局所麻酔薬投与の適切な量、
回数と間隔の設定が検討課題と思われた。そして麻
酔科医は病棟へ行けない場合があり、局所麻酔薬
投与についてスタッフの教育の必要性を感じた。
また、当院では食道癌術後に末梢神経ブロックは
導入されて間もない。今後、iRSBでなく持続投与と
するか、胸部の鎮痛も考慮し、持続傍脊椎神経ブロ
ックとするか等、術後の鎮痛方法について検討の余
地がある。
痛みの軽快と触覚過敏の消失、歩行障害の改善を
認めた。痛みの軽快が得られてきたため、最終ブロ
ックの 1 週間後に、硬膜外麻酔併用全身麻酔下に
偽関節手術が施行された。手術侵襲による伏在神
経痛の再燃が懸念されたが、術後 1 ヶ月で伏在神
経痛は消失した。伏在神経痛の消失の原因として、
偽関節修復による伏在神経の過伸展や絞扼の改善
が考えられた。
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一般演題 O9 口演症例演題(疼痛管理・ペインクリニック2)
4 月 16 日 13:30~14:30 座長 川前金幸
超音波診断装置での仙骨裂孔の破格の同定
が困難だった症例
〇今井 亮、木村哲朗、鈴木興太、加藤孝澄、
中島芳樹
浜松医科大学医学部 麻酔・蘇生学講座
仙骨裂孔の形状には一定の割合で破格が存在する。
仙骨硬膜外ブロック(以下、仙骨ブロック)のための
超音波診断装置での仙骨裂孔同定がうまくいかな
かった症例を経験した。
【症例】57 歳、男性。約 7 年前より安静時に両側下腿
~足背の痛みとしびれを認めるようになった。近医
ペインクリニック、整形外科などで仙骨ブロック、薬
物治療を受けたが、奏功しなかったため、5 年前に
当科を紹介受診した。痛みと痺れは左右 S1 領域で、
軽度の知覚低下とつっぱり感、時々刺すような痛み
も認めた。筋力低下と腱反射の異常は認めなかった。
S1 の神経根由来の痛みとして、三環系抗うつ薬、ガ
バペンチン等の内服を開始したが症状の緩和は不
十分であった。数回試みた盲目的な仙骨ブロックが
全く無効であったため、超音波ガイド下および透視
下での穿刺を試みたが、いずれも硬膜外腔へ到達
できなかった。腰部硬膜外ブロックは、多少の効果
を認めたが一時的であった。
他科で撮像された脊椎の CT 画像が存在したため、
仙骨部の 3D 構築を行ったところ、仙骨裂孔の破格
が確認できた。仙骨棘突起の癒合が S2/3 レベルと
通常よりも大幅に頭側で、仙骨裂孔からの針の刺入
は硬膜穿破の危険が高いと考えられた。後日、超音
波ガイド下左 S2 後仙骨孔アプローチで仙骨ブロック
を施行したところ、症状の緩和が得られた。以降、同
ブロックを継続し、痛みの軽減が見られている。
【結語】破格の仙骨裂孔の存在に気付かず仙骨角
を基準として仙骨ブロックを施行し、無効であった症
例を経験した。脊椎 CT 画像を 3D 構築することで超
音波診断装置では断定が困難な仙骨裂孔の破格を
同定できた。
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