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脳波を指標とした半側視野呈示による顔認知の研究

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脳波を指標とした半側視野呈示による顔認知の研究
日心第71回大会 (2007)
脳波を指標とした半側視野呈示による顔認知の研究
○宮腰誠12・金山範明12・大平英樹 1
(1名古屋大学・2日本学術振興会)
Key words: 顔 脳波 時間周波数解析
目 的
顔は高度に社会的な記号として理解される。顔の表情表出
には他者の感情状態があらわれており、一方で視線には他者
の注意と参照の状態、時には意思疎通の手がかりなどがふく
まれている。高度な社会性を発達させてきた我々ヒトは、他
者の顔を素早く認知し、そこに含まれる情報を理解する事を
常に求められる。この機能が損なわれるとき、社会生活に深
刻な障害をもたらすことは、たとえば自閉症研究の文脈など
で明らかにされている。
このように、ヒトにとって顔を認知するということは極め
て重要である、その機序はこれまで多くの生理心理学者たち
の関心の対象となってきた。これまで報告されている知見の
中で興味深いものに、顔認知処理の左右半球差があげられる。
さまざまな生理指標を用いた先行研究の大部分が、右半球の
視覚野のほうが左半球のそれよりも顔認知処理に深く関わっ
ていることを示唆する結果を報告している。左右差の理論的
根拠はともかく、現象として広く確認されているということ
は事実であり、その詳細なメカニズム調べることには意義が
あると考えられる。現在利用可能な複数種類の脳活動計測手
法のうち、最も手軽で、かつ時間分解能に優れているのが脳
波である。しかしながら、従来的な事象関連電位の平均加算
法では、目視によって確認できる周波数帯域および電位域が
限られており、また試行毎に位相が一定しない誘発電位が加
算平均の結果相殺されてしまい観測できないという制限があ
った。
そこで本研究は、脳機能の左右差を調べるために半側視野
刺激呈示法を用い、脳波を指標とした認知実験を行った。脳
波の解析方法として、SCCN よりインターネット上で配布さ
れているフリーの脳波解析ソフト EEGLAB を用い、独立成分
分析および時間周波数解析といった信号解析手法を用いるこ
とで、シングルトライアルベースの情報を最大限反映させた
解析を行うことを試みた。
方 法
実験はすべてヘルシンキ宣言に則って行われた。右利きの
健康な名古屋大学の学部生および大学院生 24 名(男性 12 名)
が実験に参加し、現金 1000 円の報酬をもらった。
実験デザインは、3(呈示視野:右、左、両側)×2(呈示
されるオブジェクトの種類:顔、カップ)×3(親近性:自己
関連、親近、非親近)の計 18 条件であった。視覚刺激として
デジタルカメラで撮影された上記オブジェクト(グレイスケ
ール化済み)が呈示された。刺激の呈示位置として、注視点
から 2 度外側に縦横 2 度の大きさの刺激が呈示された。課題
中、参加者はサケードが禁止された。また、同様な目的から、
視覚刺激は 150ms のという短い間だけ呈示された。刺激呈示
後は 1850ms のブランクがあり、それで 1 試行が構成された。
参加者の課題は、6 本の指(両手の人差し指から薬指まで)
を使った親近性判断課題で、両方の手の同じ指で 2 つのキー
を同時押しするよう求められた。これは呈示視野の左右差と
反応キーを押す利き手の組み合わせの問題を回避するための
である。キーの割り当ては被験者間でカウンタバランスされ
た。試行数は 1 条件あたり 39 試行、計 702 試行が 4 ブロック
に分けて行われ、ブロック間には数分の休憩を適宜取った。
課題中、33 極(うち 1 極は EOG)の収録装置(日本光電
EEG-1100)で、鼻先を基準電極として脳波が収録された。脳
波はすべて EEGLAB によって解析された。収録された全脳波
データは、目視検査による不適当試行の除外後、独立成分分
析にかけられ、EOG や筋電、その他のアーティファクトは除
去された。ここに紹介する結果は、独立成分分析後によるノ
イズ成分を除去後、残った独立成分を逆投影して復元された
EEG に対する時間周波数解析の結果だけとする。
結 果
時間周波数解析で事象関連スペクトラム摂動(ERSP)を求
めた結果、顔刺激を右視野呈示した際に、頭頂よりやや前方
付近において強いガンマ帯域活動が観察された(下図参照:
図中、B は両側、L は左、R は右)。これは刺激がカップの時
には観察されなかったことから、オブジェクトの種類と呈示
視野の交互作用である事がわかる。このガンマ帯域活動は、
試行間位相同期の上昇を伴っていないことが確認されたため、
出現の潜時帯を考慮すると induced gamma として認知されて
いるものに比定され、ニューロンクラスタの斉一的発振に由
来すると考えられている。我々の解釈は以下の通りである。
右視野提示によって左視覚野に優先的に入力された顔情報は
両側の紡錘状回内に推定されている顔認知モジュールに伝達
されるが、顔認知は右半球の優位性が確認されていることか
ら、左視覚野にのみ優先入力された顔情報は何らかの形で右
紡錘状回内の顔認知モジュールにアクセスすることで、同側
半球に顔情報が入力されるときに比べて大規模なネットワー
クが賦活することになり、それがガンマ帯域活動の上昇につ
ながったと考えられた。
なお、この呈示オブジェクトの種類と呈示視野の間に観察
された交互作用は、加算平均後の ERP では観察されなかった。
このことから、時間周波数解析の利点が確認された。
図 1 Cz における ERSP(親近性条件は畳み込まれている)
考 察
本稿執筆の時点で ICA クラスタリング解析が終了していな
いが、左視覚野への顔情報優先入力時にガンマ帯域活動が上
昇するという、極めて興味深い結果がすでに確認された。当
日はより詳細な検討の結果を報告する予定である。
(MIYAKOSHI Makoto, KANAYAMA Noriaki,
OHIRA Hideki)
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