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とび 1 回ひねり遂行中における眼球と頭部の協応運動
とび 1 回ひねり遂行中における眼球と頭部の協応運動 * ○佐藤佑介 1・鳥居修晃 2・佐々木正晴 3 (1 日本大学商学部・2 東京大学・3 弘前学院大学文学部) キーワード:眼球運動,着地,体操競技 A study on eye-head coordination in a jump with 1/1 turn Yusuke SATO1, Shuko TORII2 and Masaharu SASAKI3 1 ( Nihon University, 2University of Tokyo, 3Hirosaki Gakuin University) 目 的 体操選手は,演技中に器具の上や空中において巧みに身体 を操作する。Matveev(1977 江上訳 1985)は,その操作が, 「空 間感覚」という能力に基づいてなされていることを指摘して いる。体操競技の現場では,空中での空間感覚を「空中感覚」 と表現し,空中において動作を正確に制御するための重要な 能力であると考えられている。空中感覚は感覚・知覚系の活 動を通して達成されるが,中心的役割を演じるのは視覚系の 活動であろう。空中でのパフォーマンスにおいて,着地を成 功させるためには前庭やその他の非視覚情報のみでは明らか に不十分なのである(Lee, Young, & Rewt, 1992)。では,空中に おいて運動や姿勢が制限される中,体操選手はどのように視 覚系の活動を動員しているのだろうか。 眼球と頭部の協応運動を明らかにすることは,その問題に 関わってくる。実際の動作中での体操選手の眼球と頭部の協 応運動を測定した研究(佐藤, 2008; 佐藤・鳥居・佐々木, 2014) はあるものの,その数は少ない。そこで本研究の目的は,と び 1 回ひねりを課題とし,遂行中における眼球と頭部の左右 方向への回転運動を測定することにより,両者の協応運動の 実体を明らかにすることであった。 方 法 参加者 全国大会に出場するレベルの体操競技経験者。 課題 とび 1 回ひねりである。直立姿勢で真上に跳び,垂直 軸を中心に体を 360°回転させ,跳躍地点に着地する。 頭部と眼球運動の記録 眼球運動の測定には EOG 法を用い た。電極は,両眼眼裂の外側に貼付した。左右方向の眼球運 動データは胴体前部に装着されたバイオログ(DKH 製, 500Hz) を通して,5m ほど離れた PC に送られた。頭部運動は,2 台 のハイスピードデジタルカメラ(カシオ製, 240f/sec)にて撮影 された。撮影された映像から,動作分析ソフトウェアにより, 水平面上の頭部の回転角度が算出された。 手順 参加者は事前に十分なウォーミングアップを行った。 また,とび 1 回ひねり後の着地では「きちんと停止するよう」 指示された。電極着用後には,視野計を用いて EOG 法におけ る電圧と視線の較正を行った。 分析変数 実験環境の正面前方を 0°とし,ひねりの方向とな る回転角を正とした。算出された頭部を基準とした眼球角度 と頭部角度を加算することで視線の方向を算出した。 結 果 代表的な試行であった参加者 1 名の眼球運動,頭部運動, 体幹運動および視線の方向を図 1 に示した。 踏切前に,ひねりの方向へと頭部の回転が開始された。そ のとき眼球は頭部と反対方向に回転した。次ぐ空中において, 頭部がひねりの方向へと回転を続ける間に眼球は頭部の回転 を追い越すようにひねりの方向へと回転し,着地前には再び 頭部とは反対方向へと回転を始めた。動作中,頭部は体幹の 動きに先行した。このような結果は他の参加者にも共通して いた。 考 察 眼球と頭部の運動はそれぞれの役割を演じる。 Angle of rotation (deg) Key Words: eye movement, landing, gymnastics 350 300 250 200 150 100 50 0 -50 eye head trunk line of sight take-off landing 0.25 sec 図 1 とび 1 回ひねりにおける眼球運動,頭部運動および視線の方向 踏切前,空中,着地および着地後に見られる頭部とは反対 方向へと向かう眼球運動は,視線の方向を一定にしようとす るものであると考えられる。踏切前,空中,着地および着地 後に視線の方向が安定していることは,図 1 の結果からも見 てとれる。 踏切前や空中において,頭部が体幹の動きを誘導している と考えられる。Meinel and Schnabel(1987 綿引訳 1991)は体幹 の動きに先行する頭部運動が“視覚的定位,それとともに動 作や姿勢の目的に合った操作や制御”を行うと指摘し,ここ での結果もそのことを裏づけている。 このような眼球と頭部の協応運動により,体操選手はとび 1 回ひねりの成功に関わる情報を効率的に取り出し,その動 作を制御しているのであろう。 引用文献 Lee, D. N., Young, D. S. & Rewt, D. (1992). How do somersaulters land on their feet? Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 18(4), 1195-1202. Matveev, L.P. (1977). Osnovy sportivnoi trenirovki. Moskva: Fizkul'tura i Sport. (レフ・パウロウィチ・マトヴェイエフ. 江上修代(訳) (1985). ソビエトスポーツ・トレーニングの原理: スポー ツ王国ソビエトその強さの秘密を探る 白帝社) Meinel, K. & Schnabel, G. (1987). Bewegungslehre-Sportmotorik. Berlin: Volk undWissen Volkseigener Verlag (マイネル K. シュナーベル G. 綿引勝美(訳) (1991). 動作 学-スポーツ運動学 改訂 3 版 新体育社) 佐藤佑介. (2008). 後方かかえ込み宙返りにおける視線の移動 パターン. スポーツ心理学研究, 35(2), 41-49. 佐藤佑介, 鳥居修晃, & 佐々木正晴. (2014). とびひねり遂行 中における眼球と頭部の協応運動 (日本基礎心理学会第 32 回大会, 大会発表要旨). 基礎心理学研究, 32(2), 258. * 本研究は,科学研究費(若手研究(B)26750280,研究代表者 佐藤 佑介)からの研究助成を受けて行われた。