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微粉炭焚きボイラでの木質バイオマス混焼の実施状況について
2005 年石炭技術会議 【 講 演 Ⅴ 】 微粉炭焚きボイラでの木質バイオマス混焼の実施状況について 四国電力㈱ 土取 孝弘 火力本部 西条発電所 環境技術課長 当社は、平成 17 年 7 月 4 日、西条発電所(愛媛県西条市、1 号機 15.6 万 kW、2 号機 25 万 kW)にて、事業用火力では日本で始めて石炭に木質バイオマスを混ぜて混焼発電する運 用を開始したので、その取組状況について紹介する。 1.導入の経緯・計画概要 (経緯) 当社では、従来から地球温暖化などの環境問題への対応を経営の重要課題の一つに位置 づけ、積極的に取り組んでいる。 こうした取り組みの一環として、二酸化炭素(CO2)排出量削減を目指し、燃焼させても 大気中のCO2を増加させない木質バイオマスを、既存の微粉炭火力に混焼する利用方法につ いて平成 13 年度から検討を進めてきた。 木質バイオマス発電は、大気中のCO2を増加させないだけでなく、風力や太陽光等の他の 新エネルギーと異なり、電力需要に応じた出力調整が可能であることが魅力である。 四国は豊富な森林資源に恵まれており、四国の交通網の中心付近に位置し、木質バイオ マスを効率的に収集できる西条発電所への適用を検討することとした。 なお、平成 14 年 4 月に、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法 (RPS 法)」が制定されたことも、導入に向けた追い風となっており、西条発電所は、平 成 17 年 6 月 2 日に経済産業大臣より事業用火力では日本で初めて RPS 設備の認定を受け ている。 (計画概要) 本計画では、設備信頼性、経済性を考慮し、西条発電所にある既存の火力発電設備を極 力活用することを念頭に検討が進められた。そこで、石炭サイロと粉砕機の間に木質バイ オマスを投入する方法を採用した。 使用する木質バイオマスは、四国内の森林組合、製材所等で発生する製材副産物である 国産スギ、ヒノキの樹皮、木片とした。これらに限定することで、燃料としての性状が安 定し、管理や環境面への対応が容易となり、発電設備の信頼性も確保しやすくなることを 狙った。 さらに、製材副産物の利用は、有効利用先を広げたい林業関係者のニーズにも合致して いた。 木質バイオマスの混合比率は、石炭重量に対し 1 号機 2%以下、2 号機 3%以下とした。 この比率は、平成 15 年度に西条発電所での実証試験により、木質バイオマス混焼が既存の 発電設備に大きな影響を与えないことが確認された範囲である。 これにより、年間約 15,000 ton-wet の木質バイオマスを利用し、石炭消費量 0.4 万 ton/ 年、CO2排出量 1.1 万 ton/年の低減が図れると見込まれている。 2.技術課題の検討 事業用火力での木質バイオマス混焼は、国内では前例が無いため、導入に向け種々の技 術課題を検討してきた。主な技術課題の検討状況について以下に記載する。 講-V-1 2005 年石炭技術会議 (木質バイオマスの粉砕性) 微粉炭火力は、石炭を微粉炭機で微粉に粉砕することで燃焼効率を高めているが、木質 バイオマスは大部分が繊維質であるため、既存の微粉炭機で粉砕すると粉砕性が悪化し、 石炭の微粉度が低下、燃焼効率が悪化することが懸念された。 そこで、メーカ試験用微粉炭機による予備検証や、実機の微粉炭機(1 号機:竪型バウル ミル、2 号機:横置ボールミル)での粉砕試験を行い、既存の微粉炭機で、微粉度を確保し、 問題なく燃焼できるための、木質バイオマスの粒径、木質バイオマス混合比率等の条件を 確認した。 (ボイラ燃焼性) 木質バイオマスは石炭に比較して水分が多く(20~70%程度)、重量当たりの発熱量が 低く(約 9000 kJ/kg-LHV)、燃料比(固定炭素/揮発分)が低い等、ボイラでの燃焼性に 影響を与えることが懸念される。 そこで、メーカ試験炉での燃焼試験で、実運用に問題の無い水分率、木質バイオマス混 焼率等の条件を確認した。 (環境特性) 火力発電所は、環境にやさしい運転を目指しており、木質バイオマスを混焼させるに あたっても、SOx,NOx,ばい塵等の環境負荷を増加させないよう配慮する必要がある。 そこで、SOx 排出量やばい塵排出量の増加に繋がる S 分や灰分が少ないことを化学 分析で確認した。 また、メーカ試験炉での燃焼試験により、木質バイオマスの混焼は、燃焼状態に左右 される NOx 排出量を含め、SOx,NOx,ばい塵等の環境負荷を増加させないことを検証 した。 (設備の信頼性) 微粉炭火力発電所のボイラでは、燃焼灰の融点が低いと、ボイラ内に付着し、伝熱障害 が発生することが懸念された。 そこで、使用する木質バイオマスの灰の融点を確認し、融点が充分高くボイラ伝熱部へ 影響を与える可能性は充分低いことを確認した。 一方、木質バイオマスの成分に塩素が含まれていると、ボイラ設備を腐食させることが 懸念される。 そこで、化学分析により使用する木質バイオマスは塩素分が少ないことを確認するとと もに、定期的に化学分析を行い、1,000 ppm 以下に管理することとした。 (実機燃焼試験) 以上の技術検討を踏まえ、各課題への対策効果を総合的に検証するため、平成 15 年度に 西条発電所の実ボイラでの燃焼試験をおこなった。 実機燃焼試験では、実運用を想定し、木質バイオマスの混焼率を変化させながらボイラ の燃焼調整を行い、混合物の微粉度、燃焼性、ボイラ各部の温度、環境特性等を総合的に 確認した。 実機燃焼試験により、木質バイオマスの混焼率を 1 号機 2%以下、2 号機 3%以下にすれ ば、問題なく混焼運転できる目処が得られ、本計画を実施に移す決定を行った。 3.木質バイオマス運用管理方法の確立 (木質バイオマスの供給) 本計画を進めるには、燃料となる木質バイオマスを大量に、経済的、安定的に収集する 必要がある。 当社では、森林資源量の調査結果を基に、個々の森林組合、大手製材業者等に本計画の 講-V-2 2005 年石炭技術会議 趣旨や条件を説明、交渉した結果、木質バイオマスを必要量、安定的に供給してもらえる 見通しを得た。 製材所等で、当社仕様の 10mm メッシュのふるいを通過するまで破砕処理をしたものを 供給してもらい、専用の保管場所を確保する等異物混入対策を講じてもらうこととした。 (写真1、2) なお、製材所等で破砕処理することで、燃料として輸送することが可能となった。 写真1 搬入されたチップ(小木片) 写真2 搬入されたバーク(樹皮) (需給運用) 製材業者等から発電所までの輸送は、1 日 8 台程度のトラック輸送とし、集荷、輸送は収集 運搬会社(アグリゲーター)を採用して、集配 の運用管理を統括して実施してもらうこととし た。 木質バイオマス調達量の調整は、当社で発電 需要予想に合わせて、年間、月間受入計画を策 定し、この月間受入計画に基づき、アグリゲー ターが週間受入計画を策定する。この週間受入 計画をもとに、当社と調整しながら日々の車両 手配等を行い、過不足なく発電所に供給できる 体制とした。(図1) 収集運搬会社 ②連絡・調整 A県 森林組合 ③運搬 ①受入 計画 ②連絡・調整 ③運搬 西条発電所 B県 森林組合 ③運搬 ②連絡・調整 C県 図1 バイオマス調達体制製材所 (品質管理) 木質バイオマス混焼で発電設備の信頼性を確保するには、木質バイオマスの品質を安定 させる必要があり、このための品質管理が重要となる。 水分については、管理値を 60%以下に設定し、受入トラック一車毎に測定、管理するこ ととした。 同時に目視にて異物混入の無いことを確認している。 木質バイオマスの性状については、定期的にサンプルを取り、発熱量、S 分、塩素分、灰 分、水素分等の性状分析を実施し、管理することとした。 4.木質バイオマス受入設備の建設 平成 15 年度に実施した実証試験で良好な成果が得られたため、平成 16 年 7 月から木質 バイオマス混焼の本格導入に向けた設備の建設を開始した。 追加した設備は、木質バイオマスを受入・貯蔵・払出を可能とする設備であり、実証試 験時に得られた知見を設計に反映した。 講-V-3 2005 年石炭技術会議 図2 バイオマス受入系統図 なお、他には RPS 法に対応するため発電電力量計等計7台を特定計量器に取り替えた。 木質バイオマス受入設備は、主に受入ホッパ、受入コンベア、バイオマス貯蔵タンク、 バイオマス計量コンベアで構成される。各部の概要を以下に示す。(図2、写真3) ③ ① ② 名 称 ①受入ホッパ ②受入コンベヤ ③バイオマス貯蔵タンク ④計量コンベヤ ④ 容 量 50m3 100m3/h 400m3 20~90m3/h 写真3 木質バイオマス受入設備外観 ①受入ホッパ ダンプトラックの荷台から木質バイオマスを受け入れる為のホッパで、投入された木質 バイオマスをバイオマス貯蔵タンクに移動するための受入コンベアとセットで設置されて いる。受入の際にダンプトラックの荷台が傷つかないよう、受入シューターカバーの開閉 機構を追加した。また、受入作業時に発生するバイオマスの飛散を防止するため、吸引式 集塵装置も備えている。 ②バイオマス貯蔵タンク 受入した木質バイオマスを、燃焼用に払い出すまでの間貯蔵するサイロ。容量は 400m3 (一日の最大使用量)を確保している。内部には散水設備付きの散水設備を設置し、万一 火災が発生したとしても、散水消火できるよう安全対策を施している。 ③バイオマス払出計量コンベア バイオマス貯蔵タンクに貯蔵したバイオマスを、目標の混合率になるよう計量しながら 払い出すコンベア。払い出された木質バイオマスは、石炭サイロから微粉炭機に向かう運 炭コンベア上に投入され、石炭と混合される。 講-V-4 2005 年石炭技術会議 5.試運転状況 木質バイオマス受入設備の工事が終了した平成 15 年 6 月から約 1 ヶ月間、実運用開始前 の最終確認として試運転を実施した。(表2) 試運転では、新設設備の実負荷運転、発電設備全体で発電に支障がないことを確認する 燃焼試験、工事計画書および関係省令に定める技術基準の適合性を確認する使用前自主検 査を実施した。 新設設備の実負荷試験では、繊維状に長い樹皮が一部混ざり、受入コンベアで詰まった ことがあったが、受入形状の品質管理を徹底することで、解消し、実運用で問題の無いこ とを確認している。 発電設備全体での燃焼試験では、木質バイオマスの混焼率を計画最大率まで上昇させ、 出力自動制御(AFC)時の追従性や、最低出力までの出力変化などについて確認を行な い、1,2 号機ともに、現状の運用値で問題なく運転が可能であることが確認された。 なお、試運転中に得られたデータからは、1 号機で混焼率の上昇とともに灰中未燃分の増 加傾向や、水分等によるデータのばらつきが見られたものの、1,2 号機ともに混焼率上昇に 伴い石炭消費量が減少し、CO2低減効果が発揮されていることが確認された。(図3) 表2 試運転工程 6月 1 7月 10 20 1 炭種一定 炭種一定 29 石炭専焼データ採取 混焼率:0.6~2.0%(重量比) ・負荷追従性確認 1号 ・減圧運転確認 ・微粉炭機内部確認、停止時パージ時間確認 ・運転データ採取、灰中未燃分測定 他 混焼試験 石炭専焼データ採取 混焼率:3.0% 混焼率:0.6~3.0%(重量比) 2号 30 ・1号EP灰混焼確認 ・負荷追従性確認 ・減圧運転確認 ・運転データ採取、灰中未燃分測定 他 4日 判定会議 5/30~ 使用前自主検査 実負荷試運転(インターロック試験~受入・払出系実負荷試験等) 装置各部点検 石炭専焼・ばい煙測定 1号機ばい煙測定 2号機ばい煙測定 図3 2号機 バイオマス混焼率と石炭消費量 講-V-5 2005 年石炭技術会議 6.導入効果および今後の展開 西条発電所木質バイオマス混焼で、CO2排出量低減効果が確認され、本格運用が開始され たことは、当社のCO2排出量低減に向けた取組みを、一歩進めることができたと評価できる。 しかし、木質バイオマスの混焼運転は今始まったばかりで、今後も確実に混焼運転の実 績を重ね、木質バイオマスを年間 1.5 万トン程度燃焼させ、年間 1.1 万tonのCO2排出量を 削減することで地球環境問題に貢献したい。 また、実運用のなかで、逐次変化する木質バイオマスや石炭の性状(水分、熱量等)に 対応していくことで、木質バイオマスと石炭の相性等を把握し、最適な運転手法の確立を 行ないたい。 四国電力はこれからも環境負荷低減に繋がる技術開発に積極的に取り組み、お客様から 信頼される企業であり続けたいと考えている。 (参考) 西条発電所の設備概要 運転開始年月 1号機 2号機 S40.11.1 S45.6.1 燃料転換(重油→石炭) S58.7 ボイラ タービン 微粉炭機 燃料転換(重油→石炭) S59.1 型式 放射再熱強制循環 放射再熱自然循環 温度 571℃/543℃ 571℃/541℃ 燃料 微粉炭/重油 微粉炭/重油 型式 串型再熱3車室3分流 串型再熱2車室2分流 出力 156,000kW 250,000kW 温度 566℃/538℃ 566℃/538℃ 型式 縦型バウルミル 横型ボールミル 講-V-6 2005 年石炭技術会議 つちとり 氏 名 土取 たかひろ 孝弘 四国電力株式会社火力本部西条発電所 環境技術課長 主要経歴 1981 年 4 月四国電力㈱入社 坂出火力発電所、火力部等で勤務 途中 NEDO 及び(財)四国産業技術振興センターに出向 2004 年 3 月より現職 講-V-7