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3 0 0 万 円 以 内 の 予 算 で 選 ぶ ク ラ シ ッ ク ポ ル シ ェ
最新のポルシェはたしかに最良のポルシェだ。 それは広く認められている。 でも、ちょっと古いポルシェには それでしか味わえない別の魅力があるのもまた事実。 “買える”価格の風韻ポルシェ小特集。 3 0 0 万 円 以 内 の 予 算 で 選 ぶ ク ラ シ ッ ク ポ ル シ ェ コンディションさえ良 ければまだまだ現 役 筆者が今ポルシェを買うとなったら、ちょっと古 いモデルに食指が動く。最新のモデルに興味が 通り空冷911最終モデルの993とほとんど同じ。 ンスを受けた、911らしい911が増えている。 良くも悪くもクラシカルなもので、慣れてしまえば 足回りに関しても、レトロな15インチ、65扁平 使い勝手にはなんら問題はない。クランキングも のタイアをよく履きこなしており、 ソフトでスムーズ。 いたって健康的で、すぐにフラットシックスはシャ サスやスタビを固めたようなシャープネスは感じら ープな爆発音とともに目覚めてくれた。 れない代わりに、ニュートラルかつ自然なフォーム ないわけではないが、値頃感のあるポルシェと聞 くと胸躍らずにはいられない。 編集部が探し出したのは1975年式の911で、 価格は207万9000円。国内屈指のポルシェ専 門店「カーギャラリー・ダイアン」の物件だ。 この時代ならではの風雅 それでは、75年モデルがどれだけ911のエッセ ンスを保っているのか、早速乗ってみよう。 クラッチをつなぐ段になって思い出したのは、 でコーナリングが楽しめるだろう。 まずドアを開閉してみると、92年モデルあたり 75年モデルの1075kgという軽い車重。ゆえに また、気になるポルシェ・シンクロだが、これも ひところ、70年代のポルシェ、それもRSやSと とさして変らない感触に驚かされた。ラッチが堅 アクセルを踏み込むことなくミートさせても、フワ コンディション上々で、丁寧なシフトを心がけてい いったバッジのつかない素のモデルは不当なほど 牢とかいうレベルでなく、車体そのものがしっか リと軽やかに発進してくれた。2687ccの排気量 れば日常の使用にも充分耐えられよう。クラッチ 安値で取引されていた。当然、そうなるとガラク りしている印象だ。いっぽう、この時代のシート で、150psのマキシマムパワーがカタログ値だが、 の重さも、けっして軽くはないが個人的には「こん タ同然なコンディションのものが増え始め、市場 はクッションが肉厚な上に、柔らかく包み込みタ 軽い車重のおかげで実際にはもっとパワフルに な感じだろうな」 といったレベル。 ではさらに敬遠されていった。 イプ。ドイツ車というよりフランス車のような座り 感じられる。 だが、空冷911に対するラブコールが近頃活気 づいてきたためか、専門店を中心に70/80年代 の911が「適価」で出回るようになってきた。しか 134 らグイグイ押される感覚はたまらないものだった。 も専門店が扱っているため、きちんとメインテナ 心地で、硬い殻に、ごく柔らかなインテリアという のもこの時代ならではのテイストだ。 イグニッションやペダルレイアウトは、ご存知の エンジンも、Kジェトロニックのセッティングが いいのか、じつに軽快に回ってくれた。とくに 4500∼5500rpmあたりのツキは最高で、後ろか お手頃価格のクラシカルな911も、コンディシ ョン次第では現在でも最上級のポルシェライド が楽しめることを、このサンプルに教えられた。 Text:石橋幸樹/Photo:松本高好 いわゆる“ビッグバンパー”の登場は1974年。しかしその端正な造形はまったく色あせていない。 コンディション良好なら今も現役、軽やかな走りを存分に味わえる。車両協力:カーギャラリー・ダ イアン(75年式911DX 走行5.8万km 価格207万9000円)Tel.042-323-9888 135 マル チに 使える実 力 派 が 9 6 4 ちょっと古い911の楽しみ方には何通りもある はずだが、愛玩の対象としてガレージに仕舞いこ むのではなく、日常のアシとしてガシガシ乗りまわ る実用的な楽しみ方もまた911らしいもの。 そんな乗り方をするなら、タイプ964を選ぶの 距離が11万5000kmを計上していた。だが佇ま いをはじめボディの引き締まり方は尋常ではなく、 げて走っても、リアタイアはかなりの領域まで踏 としてエンジンが組み直されているとのことで、 ん張りを見せる。ブレイク&リカバリーさせるには 異音などまったくせず、ごく軽い脈動をともなった かなりの腕前が求められ、911を乗りこなす楽し アイドリングを維持してくれる。 みはまだまだ薄れていないのである。 走り出すと、おそらくダンパーの頭頂部ラバー 前述のとおりティプトロニックは意外にもトラブ 外見からはその走行距離を想像できない。乗り の劣化か、少しだけステアリングのイニシャル位 ルフリーで、ATFのチェックさえ怠らなければさほ ルマとはいえ現代風にフェイスレベルにも送風し 込んでみても、レザーシートの張りや艶、そして座 置があいまいな気がした。964は1400kgほどの ど問題はない。勝手にシフトアップされてしまう てくれるエアコンや、ティプトロニックという故障 り心地に経年劣化の様子はほとんど見られない。 車重があることと、ゴムブッシュを多用した足まわ などと評するむきもあるようだが、そこはあくまで 知らずのATも選べるのだから、ポルシェへのエ こういうところこそ、手作業の多い少量生産だっ りのため、このあたりのメインテナンスには気を ポルシェ、バイザッハの頭脳がそうセットアップし ントリーとしては最適だろう。 た頃のポルシェの醍醐味というか、魅力のひとつ 配りたい。わずかなコストで効果はてきめんだろ ているのだ。粛々と従い、慣れるのが正しいポ ではないだろうか。 う。タイアは16インチの純正サイズを履いていた ルシェファナティックの姿であろう。 のM64ユニットの切れ味も歴 エンジンの目覚めは、75年モデルのKジェトロ 代フラットシックス中、屈指の出来栄えと評され に比べると排気制御を積極的に行なうモトロニッ 現代のタイアだけにロードノイズも抑えられ、純 に伝え、それでいて現代でも通用する964は、ち ている。その気になればいつだって、ポルシェら クのせいか、少しばかり眠たい。が、軽くブリッピ 粋にフラットシックスのエグゾーストノートや、メカ ょっと古い911の中では本命視したいモデルだ。 しいソリッドで剃刀のような走り方ができるのだ。 ングしてみるとツキは悪くないようで、きちんと回 ニカルサウンドが楽しめよう。むろんペースをあ Text:石橋幸樹/Photo:松本高好 優れもの。3.6 136 この91年モデルのティプトロニック仕様は走行 されていた感触だ。9万km時にオイル漏れ対策 がファーストプライオリティ。10年以上も昔のク 数ある911の中でも964のシャシーバランスは 純正サイズのタイア/ホイールが効いているのか、清楚な佇まいを見せる964カレラ2。ドアミラー は後期型に換えてある。ボディカラーはブラック。車両協力:ダイアン(91年911カレラ2ティプトロ ニック 走行11.5万km 価格299万2500円)Tel.042-323-9888 11万kmでも大丈夫 が、これがじつにソフトで街乗りに適していた。 旧きよき時代のポルシェの味わいと哲学を今 137 時 間をかけて磨 かれたトータル バランス ポルシェの王道911に続いては、 「911以降初 年には4バルブDOHCの944Sが登場。今回と ートンネルに囲まれたコクピットは、911と違っ している。トランスアクスル方式の5段MTをリモ の成功作」 というボクスター用フレーズに動悸が りあげるS2はその最終発展版で、直4ユニット て妙な緊張感を抱かせない。 ートコントロールするシフトレバーの感触も、か 収まらない944である。なまじポルシェであるばっ は3 まで拡大されている。長年にわたって磨 1気筒あたりナナハンの直4ユニットは、昔懐 かりに、どうにもウダツが上がらない。しかしこの き上げられてきたトータルバランスに定評のあ かしの革新技術「バランスシャフト」が効いてい 時間がなくてワインディングロードまで足を伸 クルマ、実際にはとてもよくできたピュアスポーツ るモデルだ。 るのかなかなかスムーズ。それでいてどこか骨 ばせなかったものの、前後バランスの良さで定 太なエンジンの回転感覚は、いい意味でゴルフ 評のあるコーナリングフィールは、どこにでもあ Ⅱに似ていると思った。むろんそれよりずっとパ るちょっとしたコーナーでもその片鱗を覗かせて くれた。いつもの道も違って見える感覚だ。 カーなのだ。知る人ぞ知る実力車なのである。 その元祖は、ポルシェ初のフロントエンジ ン/リアドライブ車として1976年に登場した 白いボディが美しいサンプルカーは、東名高 ワフルなことは言うまでもなく、スロットルペダル 924。エンジンはアウディ100用OHVをベース 速 横浜町田インターそばのVW専門店「ハイタ に力を込めればスムーズさを保ったまま澱みな 911が欲しいならなにも寄り道をすることはな に仕立てられたOHCユニットで、生産もアウデ イム」で見つけた。同店はゴルフⅠ/Ⅱなどち くトップエンドまで吹け上がる。唯一そこだけノ いが、たとえば安価で実用的なハンドリングマ ィの工場が請け負った。しかしアウディのイメー ょっと古めのVWがメインだが、ポルシェも積極 ーマルでないというマフラーのおかげか、エグゾ シーンを探しているとか、あるいは純粋にこのス ジは今ほど素晴らしくもなければスポーティでも 的に扱っているのだ。 ーストノートもなかなかレーシーだ。いっぽうで タイリングに惚れたというのなら、944シリーズ さっそくキーを受け取って試乗と撮影に繰り 低回転域から大きなトルクを生み出すので、街 は後悔のない選択になりうる。なにしろその価 直4 SOHCを用意。すでに登場していた924タ 出す。スポーティネスとエレガンスが見事に融 中のストップ&ゴーもまったく苦にならない。扱 格のわりに、得られる歓びが大きい。 ーボ用シャシーにドッキングして944とした。86 合したダッシュボードと、高くて幅のあるセンタ いやすさとスポーツカー的味わいが見事に両立 なかったので、82年にポルシェは自前の2.5 138 バカっ速いゴルフⅡ っちりとした節度に富んで心地よい。 Text:加納亨介/Photo:五條伴好 試乗車は走行8万km。本気で味わうならいろいろ手を入れてやりたい頃合だ。その場合の費用は ざっと50万円とのこと。諸費用込みで200万円が目安か。車両協力:ハイタイムコーポレーション (90年式 944 S2 走行8.0万km 価格128万円)Tel.042-795-7861 139