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【2013. 6月号】No.406

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【2013. 6月号】No.406
社会と企業をつなぐコミュニケーション誌
第35巻第6号通巻406号2013年6月1日発行 1980年10月23日 第3種郵便物認可(毎月1回1日発行)ISSN 0918-4600
2013年
6
月号
406
Vol.
●企業広報研究
◆変革期における広報の役割
エデルマン コーポレート・プラクティス・グローバル統括 ベン・ボイド
◆広がる
「統合報告」
の動き
ANAホールディングス(株)、オムロン(株)
●CC時代のブランド戦略①
顧客との接点重視で企業ブランドの確立を目指す
住友生命保険(相)
●メディアに聞く
日本経済新聞社 編集局 経済部長 吉次弘志
June 2013
今 月 の 表 紙
王子グループは、社有林を利用して自然体験型
環境教育プログラム「王子の森・自然学校」を毎年夏
に開催している
写真は、北海道校でのツリークライミング
CONTENTS
2013年6月号
変革期における広報の役割
2
NPO/NGOとの連携・協働で
社員と社会を元気に
5
ベン・ボイド(エデルマン コーポレート・プラクティス・グローバル統括)
清水正道(淑徳大学 経営学部 教授)
企業広報研究
緊急時の情報行動は
平時の組織文化の反映である
7
~東日本大震災における企業のクライシス対応~
駒橋恵子(東京経済大学 コミュニケーション学部 教授)
『経済広報』
では、裏表紙に関連する写真・イラストを
表紙に掲載しています。
広がる「統合報告」の動き
10
顧客との接点重視で企業ブランドの確立を目指す
12
ANAホールディングス(株)、オムロン(株)
NEW
CC時代のブランド戦略①
NEW
広報コトバ物語
第1回
6
経済広報センター活動報告
月 の動き
メディアに聞く
国内
7日
4月の景気動向指数速報(内閣府)
10日
4月の国際収支速報(財務省)
5月の景気ウォッチャー調査(内閣府)
5月の消費動向調査結果(内閣府)
10 ~ 11日
日銀の金融政策決定会合
19日
5月の貿易統計(財務省)
28日
5月の失業率(総務省)
5月の有効求人倍率(厚生労働省)
海外
3日
IAEA(国際原子力機関)定例理事会(オーストリア・ウィーン)
4日
4月の米貿易収支(米商務省)
6日
ECB(欧州中央銀行)定例理事会(ドイツ・フランクフルト)
7日
5月の米雇用統計(米労働省)
13日
5月の米小売売上高(米商務省)
18日
5月の米住宅着工件数(米商務省)
19日
FOMC(米連邦公開市場委員会)
(米FRB
(連邦準備制度理事会)
)
今さら聞けない
ネットPRの基礎知識⑤
企業広報よくある質問③
住友生命保険(相)
ルーツはプロパガンダか
―プロパガンダとパブリック・リレーションズのコトバ史―
剣持 隆(名古屋文理大学 教授) 終わりなきユーロ危機と英国の欧州からの離別
16
再生可能エネルギーの課題
18
記者は企業と信頼感を保ちつつも適度な緊張感を
吉次弘志(日本経済新聞社 編集局 経済部長)
25
探しても見つからないものは
「ありません」
平田大治(シックス・アパート(株) 執行役員 CTO)
26
企業広報 vs. マーケティング広報
27
『デイリー・テレグラフ』
国際ビジネス編集長)
アンブローズ・エヴァンズ=プリチャード
(
君島邦雄((株)ココノッツ 代表取締役)
経済広報センター NEWS
連載
14
英米主要紙誌の論調分析
企業広報ニュース(広報誌紹介/出前授業/キッズコーナー/ Book)
企業・団体のCSR活動(王子ホールディングス(株))
22
20
28
裏表紙
6月の動き
表紙裏
発行/一般財団法人経済広報センター 国内広報部 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館 ☎ 03-6741-0021
印刷/三葉株式会社 ☎ 03-3294-4751
※本誌掲載の記事・写真・イラスト・図版の無断掲載を禁じます。
2013年6月号〔経済広報〕
1
企業広報研究
企業広報研究
変革期における広報の役割
ベン・ボイド
エデルマン コーポレート・プラクティス・グローバル統括
経済広報センターは4月4日、世界最大のPRコンサルティング会社であるエデルマンのベン・ボイド氏
を講師に迎え、
「海外における広報活動のポイント」と題する講演会を開催した。講演では、コミュニケーショ
ンを取り巻く大きな変革とパラダイムシフトの中での広報活動のポイントや、広報プロフェッショナルとし
て果たすべき役割について、多くの具体的事例と共に紹介した。参加者は約50名。
においても低下しているという現実がある。こうし
ニティとの会話に参加するチャンスでもある。
た中で、人々にCEOの発言に耳を傾けてもらい、
3
「コンテンツ」のシフト
会社が発信するメッセージへの理解と信頼を得られ
広報のプロフェッショナルとして、我々はこれま
るようサポートすることは、広報のプロフェッショ
でメッセージの力を重視してきた。しかし、人々と
ナルである我々の責務である。
メッセージを共有する際には、文脈から成るストー
「アラブの春」
などの事例に見られるように、コミュ
リーとして伝えた方が遥かに記憶に残るという点を
ニケーションモデルの変化によって、長年通用してき
指摘したい。何千年にもわたり語り継がれてきた物
た伝統的なトップダウン体制が、ごく短期間で完全に
語のように、ストーリーは長く記憶に残るが、単な
覆るというコントロールシフトも生じている。
る事実としてのメッセージは記憶に残らない。ス
私は、ソーシャルメディアは感情の大きな流れを
トーリーの重要性や力をなおざりにし、会社が発信
解き放ったと考えている。この流れはダムのように
したいメッセージを羅列するばかりでは、会社が持
堰止めることはできないが、経路をつくり、方向付
つ「人格」を伝え切ることはできないのである。
せき
けることは可能である。広報の役割とは、感情の流
れを止めることではなく、その力を認識し、それを
活用することである。
2「コミュニティ」のシフト
広報における変革の時代
異なるステークホ
私たちは現在、前例がないほど大きな変革の中
ルダー間でピア・
に身を置いている。この変革は非常に複雑で、「技
ツー・ピアの水平
術的」
「政治的」
「財政的」
「社会的」という4つの側面
型コミュニケー
がある。技術的側面では、例えばスマートフォンの
シ ョ ン が 図 ら れ、
登場によって、人々が密接に繋がり、より多くの情
個人あるいは個人
報をより迅速に受発信できるようになっている。ま
が構成するコミュ
コミュニティのシフトを考える上で特に重要なの
ピラミッド型の
CEO
権力
企業の
取締役会
ディアチャネルを
「クローバーリーフ」
と呼んでいる。
「トラディショナル」は、新聞やテレビといった従来
専門家
を届けたいコミュニティの違いを理解しなければな
のマスメディアを指す。
「ハイブリッド」はウェブを
一流メディア
らない。海外に向けて情報発信する際には、日本と
ベースとし、興味があれば、自身の関心事を掘り下
は全く異なる現地メディアの特徴や仕組みを正しく
げることができるとともに、ウェブ上のコンテンツ
理解することも大切である。こうしたコミュニティ
にコメントしたり、シェアする形でエンゲージする
の相違点を把握するためには、現地の同僚やパート
ことができる。
「ソーシャル」
は、オンラインで同僚や
学者
一般市民
社員
消費者活動家
ピラミッド型の
は、オーディエンスはそれぞれ異なるという点であ
エデルマンでは、
「トラディショナル」
「ハイブリッ
ド」
「ソーシャル」
「オウンド」
の4つで構成されるメ
る。我々は広報のプロフェッショナルとして、情報
社会運動家
た、個人が繋がることで大きな影響力を持つように
ニティが相互に繋
なり、政治をも動かしていくという変化が生まれて
がり、
「ピラミッド
いる。
型の権力」
にとらわれずに発言する力を持つ。
財政的側面では、リーマンショック以降、世界経
コミュニティ
ナーにヒアリングしたり、時には実際にリサーチを
実施することも必要であろう。
「エデルマン・トラストバロメーター」では、ス
友人同士によるコメントや投稿、交流が可能である。
「オウンド」は企業のウェブサイトに代表される、自
社でコントロールした独自のコンテンツを掲載する
従来の
「ピラミッド型の権力」
が重要性を持ち続け
ポークスパーソンとしてどのような人が信頼できる
済がリセットされ、銀行や財政に対して人々が抱く
ると同時に、そこに
「ピラミッド型のコミュニティ」
のかを毎年調査しているが、グローバル・日本いず
これらのメディアは相互に作用し、その中心に
信頼感に変化が起こっている。そしてこれらの変革
が接合されて共存するという新たな形を、エデルマ
れにおいても、自分の考えや行動を理解できる
「自
存在するのが
「検索」、そして
「コンテンツ」である。
は、社会の機能の仕方にも変化をもたらしている。
ンでは
「ダイヤ型の影響力」
と呼んでいる。
「ダイヤ型
分のような人」が、CEOよりも高い信頼度を獲得
この「検索」と
広報の世界もまた変革しつつある。我々コミュニ
の影響力」は、広報に携わる者にとっての現実を表
しているという結果が得られている。これは、
「ピラ
「コンテンツ」
現したものと考えている。
ミッド型のコミュニティ」の力を実証するものであ
の重要性を理
ると同時に、伝えたいメッセージを届けるために
解し、4つの
は、対象となるオーディエンスに合わせて表現やス
メディアチャ
ポークスパーソンを変える必要があるということを
ネルを効果的
示唆している。
に 活 用 し て、
ケーターはこうした変革を理解し、仕事を進めてい
かなければならない。
「ダイヤ型の影響力」
の登場
グローバルコミュニケーションの
3つのパラダイムシフト
メディアである。
従来のコミュニケーションモデルである「ピラ
グローバルコミュニケーションの視点から、広報の
ミッド型の影響力」は、それ単独ではもはや機能し
プロフェッショナルとして考慮し、経営をサポートす
“ピア・ツー・ピアの力”も重要なポイントであ
会社を導いて
なくなっている。
「ピラミッド型の影響力」とは、C
べき3つのパラダイムシフトがある。
「コントロール」
る。例えばツイッターでは、最初の10億ツイート
いくことが広
に到達するまで3年以上の年月がかかったが、現在
報の役割であ
は56時間ごとに10億ツイートが投稿されていると
る。
EOを頂点とし、コントロールされた情報をトップ
ダウンで伝達する垂直型モデルであるが、これに加
2
ミュニティ」では、
クローバーリーフ
4つのメディアチャネルの連携とコンテンツの重要性
「コミュニティ」
「コンテンツ」
のシフトである。
1
「コントロール」
のシフト
えて現在は、この「ピラミッド型の影響力」を鏡に映
エデルマンが13年間にわたり26カ国で実施して
いわれる。今や人々はいつでも、どこでも双方向の
したような「ピラミッド型のコミュニティ」という新
いる調査
「エデルマン・トラストバロメーター」
によ
コミュニケーションをしている。その中では自分の
しいモデルが確立されている。
「 ピラミッド型のコ
ると、CEOへの信頼度はグローバル・日本いずれ
会社が話題になることもあり、それは会社がコミュ
〔経済広報〕2013年6月号
■クローバーリーフ
トラディショナル
ハイブリッド
▶
オウンド
ソーシャル
変化のスピードをチャンスに
「今ほど遅い変化は二度とこない」。このメッセー
2013年6月号〔経済広報〕
3
企業広報研究
企業広報研究
ジは非常に強烈で、恐怖すら覚えるのではないだろ
ポートし、変化のスピードをチャンスに変えていか
うか。しかし、我々は広報のプロフェッショナルと
なければならない。
k
して、社会の目まぐるしい変化を受け入れ、会社や
経営トップが変化の荒波を乗り越えられるようサ
(文責:国内広報部専門研究員 森田真樹子)
NPO/NGOとの連携・協働で
社員と社会を元気に
世界から安定した信頼を得られている日本企業
~「2013 エデルマン・トラストバロメーター」調査結果~
エデルマンは、世界26カ国で3万1000人を対象
に、政府、企業、メディア、NGOに対する、今年
■大いに信頼する人
ラストバロメーター」を実施した。それに関連し、
25%
キャンパスにも春が来た。キャリア教育の授業履修
7%
2013
36%
30%
同 調 査 結 果 に よ る と、2012年 に、 政 府、 企 業、
が明らかとなった。知識層の各組織に対する信頼
度は、政府32%、企業52%、メディア43%、NG
9%
2012
43%
■日本人の政府、企業などへの信頼は回復に至らず
が、その後もいまだ強い不信感を抱いていること
2013年 4 月。 東 京 都 境 を 越 え た と こ ろ に あ る
32%
者の1年生21人のうち3人が多様な文化を持つ学
企業
3%
2012
生だった。別のクラスの授業でもオヤッと思うこと
8%
2013
37%
メディア
NGO
4%
2012
6%
2013
4%
2012
6%
2013
■誠実さやエンゲージメントが重要に
O37%にとどまった。一般回答者のそれらに対す
世界では、企業を信頼しない主な理由が「汚職や
る信頼度はさらに低く、政府27%、企業44%、メ
不正行為」
(27%)
、
「ボーナスや報酬を優先した不純
ディア34%、NGO37%だった。
な動機によるビジネス上の意思決定」
(23%)
である
のに対し、日本における企業を信頼しない理由は
■日本企業に対する信頼度は世界中で安定
日 本 人 の 日 本 企 業 に 対 す る2013年 の 信 頼 度 は
「業績不振や無能さ」(35%)が最も多く、他の調査
かいり
国の主要因と乖離が見られた。
私も組織間連携・協働から幾つかの新事業を生み出
した経験がある。そのころから双方向のコミュニ
ケーションは有力な広報ノウハウであり、また組織
の広報の本質は経営そのものだと思うようになった。
企業広報3つのキーワード
があった。
「 1週間で50万円のお金を使うとしたら
最近感じたことから、ここでは3つのキーワード
何に使うか」という題目のもとで5グループがアイ
を提出したいと思う。私の仕事人生で最も長い時間を
デアを競った時に、3つのグループが
「東日本大震
割いたのが広報業務であり、また設立時から参加して
災の被災者のために寄付する」
「途上国の子どもたち
いる日本広報学会の活動にも関連するからである。
のために寄付する」という意見を出してきた。例年
キーワードの1つ目はキャリア教育であり、2つ
にない傾向である。内なるグローバル化と社会貢献
目はグローバル化や情報化への対応である。そして
意識の高まりが足元にまで来ている。
3つ目に他組織との連携・協働を挙げてみたい。
昨年春から夏にかけて震災被災地を訪ね、企業や
最初に挙げたキャリア教育は、大学生に対してだ
NPO/NGOによる先進的な支援活動のヒアリン
けでなく、広報担当の企業人がさらに経営能力アッ
グを行った。そこでは阪神・淡路大震災の時の経験
プを目指す広報キャリア教育の体系化と、教育プロ
を生かす団体だけでなく、イランやアフガニスタ
グラムの開発である。この分野ではすでに日本パブ
ン、カンボジアなどで難民支援や開発支援に携わっ
リックリレーションズ協会がPRプランナー資格検
ている団体も活躍していた。
定試験を実施しているが、個人の意見としては、ま
現地を歩いた限りでの観察だが、NPO/NGO
だまだ改善の余地は大きいと思う。特に中堅以上の
広報担当の方々を対象とするプログラムの充実が不
可欠だと思う。
71%で、2011年の81%から2年間で10ポイント低
また、日本では誠実さやエンゲージメントが、製
のボランティアたちは自らの役割探しから行動を開
下した。一方で、世界における日本企業に対する信
品やサービス、社会的意義、事業運営よりも上位に
始し、行政の支援の網の目からこぼれた地域を選
頼度は極めて安定している。日本企業に対する世
位置付けられていた。日本人の期待と実際の企業活
界の信頼度は、2011年69%、2013年66%と過去3
動の乖離も顕著であり、透明性が重要だと答えた日
年間安定しており、ドイツ、スイス、英国などの
本人回答者は48%、一方で、企業がそれを実行し
企業と並んでトップレベルの地位を確保している。
ていると回答したのは8%にすぎなかった。エン
特に、新興国の日本企業に対する信頼度は77%と
ゲージメントに関しても、
「事業状況について頻繁か
非常に高く、ブラジル
(60%)、中国(58%)、イン
つ誠実にコミュニケーションする」を重要だと答え
現地での救援活動開始から1カ月ほどの間に協力
そのものだと言った瞬間から、経営体における位置
ド
(50%)などの新興国企業に比べても、また英国
た回答者は45%、それを企業が実行していると答
企業を約400社に拡大した団体もある。連携・協働
付けや機能など再検討しなければならないことはた
えたのは8%だった。 の技はインターネットやSNS
(ソーシャル・ネッ
くさんある。優れたNPO/NGOの情報発信力
トワーキング・サービス)の活用であり、きめ細か
は、高い情報感度を持つリーダーや経営発想を持つ
い支援の報告・お礼であった。広報実務家時代に、
広報担当に支えられているのである。
(70%)、米国(65%)といった先進国企業と比較し
ても上回っている。
4
ず ま さ み ち
キャンパスの小さな変化
52%
政府
果を発表した。
メディア、NGOに対する日本人の信頼は崩壊した
47%
み
清 水 正 道 淑徳大学 経営学部 教授 ■日本の知識層の各組織に対する信頼度
で13回目となる信頼度調査「2013 エデルマン・ト
日本法人のエデルマン・ジャパンは、日本の調査結
し
〔経済広報〕2013年6月号
k
(文:前 国内広報部専門研究員 佐々木光寿)
び、ほかの組織と連携して支援を集中させていた。
グローバル化や情報化への対応は、すでに本誌で
また、1カ月間菓子パンしか食べられない、髪の毛
も様々に論じられてきているし、その専門家でもな
を洗いたい、などといった被災者の声をすくい上
いのでほかに譲りたいが、その議論はそろそろ転換
げ、きめ細かいニーズに応える方法を次々と編み出
する時だろう。日本では広報の技術や手法が強調さ
していた。その中で特に目立ったのは、企業との連
れ過ぎているきらいがあると思われるからだ。実務
携・協働作業だった。
経験に基づくノウハウも大切であるが、広報が経営
2013年6月号〔経済広報〕
5
企業広報研究
3つ目の他組織との連携・協働は、先に触れた被災
では、被災地支援を活発に行っていた当時は、社内
地支援事業を裏打ちする仕組みである。NPO/NG
メディアやCSRのページで盛んに取り上げただろ
Oと企業の連携・協働については、社会福祉や教
うし、その一部はマスコミでも報道されたりしたか
育・芸術支援などの分野だけでなく、最近では環境
もしれない。しかしすべての企業で、被災地の所長
保全や途上国支援のODA(政府開発援助)にも広
の苦闘ぶりや支援部門の並々ならぬ努力、つらさを
がってきている。
乗り越えさせたチームワークといった、個別具体的
『寄付白書2012』
(経団連出版)によれば、2011年
な一人ひとりの物語がきちんと記録されたり、グ
に東日本大震災の金銭や物資の寄付者(個人)は約
ループ企業で共有されたりしているだろうか。ある
8512万人。これは15歳以上人口の77%に相当する
現地の営業所長はインタビューに答えて、
「
(被災対
という。2010年1年間に何らかの寄付をした人は
応の記録は)本社企画部のロッカーにでも入ってい
37%だったから、これを大きく上回る。また個人
るのではないでしょうか」
と語っていた。
の寄付金額も約5000億円に達し法人の約1000億円
もう1つは、積極的な情報開示(広報)不足であ
を凌駕した。被災地でのボランティア活動参加者は
る。一方的になりがちの情報の開示や伝達では「企
公式データだけでも延べ約102万人に上ると推定さ
業宣伝くさい」と思われる方もいよう。しかし、N
れている。
PO/NGOと企業の関係は、大震災を機に大きく
りょうが
しかしそうした熱意は、必ずしも被災者たちが抱
変わったのである。両者が連携・協働で取り組むこ
える何らかの問題を解決したいから、というわけで
とは十分に可能である。企業にとってはイメージ
はなさそうである。それは「社会貢献が格好いい」か
アップやブランディングの効果だけでなく、時代の
らであり、何か「いいことをした気分になれる」から
先読みや潜在ニーズの把握も可能になるだろう。
緊急時の情報行動は
平時の組織文化の反映である
~東日本大震災における企業のクライシス対応~
こ ま は し け
い
こ
駒橋恵子
東京経済大学 コミュニケーション学部 教授
はじめに
対象企業は、ベネッセ、富士通、ヤマト運輸、東レ、アサヒ
ビール、NTT、パナソニック、味の素、キッコーマン、日
本テトラパックである。いずれも日本広報学会会員または会
緊急時の情報行動は難易度の高い広報業務であ
る。不祥事発生時に初期対応が悪ければ、メディア
員の紹介企業であり、1回のヒアリングに2~4時間かけて
対応していただいた。
である。寄付白書によっても、意識的な寄付者は全
両者の新たな関係を示すのは、先の経団連調査で
バッシングを浴びて、いわゆる「二次被害」が拡大す
体の18.4%にとどまるから、
「ええかっこしい」は学
ある。非営利組織との接点を持つ企業は2011年度
る。学問的にも、危機発生時の戦略的な意思決定は
生だけの問題ではない。
でも75%という高い水準を維持し、「協働で実施し
経営学の大きな課題となっているし、災害時の情報
3月11日の震災当日は、首都圏でも電車がすべ
震災直後の被災状況の把握
英 国 の 慈 善 団 体 が 発 表 し て い る「World Giving
ている活動がある」企業も52%に上る。単に寄付し
行動は社会学の重要課題であり、多くの研究者が調
て止まり、道路は大渋滞を起こした。従業員の多く
Index 2012」という、寄付やボランティア活動、他
ましたというだけの活動ではなく、様々な協働活動
査研究を行っている。日本広報学会でも震災後に緊
が遠距離通勤者であるため帰宅できず、数千人単位
人への援助行動を指数化した国別ランキングによれ
へと展開が始まっていることがうかがえる。また、
急指定研究プロジェクトを立ち上げて、企業と行政
で各会社に宿泊している。そして東北から関東まで
ば、日本は世界145カ国中85位にとどまる。2010年
広報部門のNPOに対する認識も大きく変わった。
の2領域で学会会員有志による研究会を行った。筆
の広い領域にわたって、鉄道は運休、空港は浸水、
版では105位だったから、大震災を通じて少しは改
NPOを
「社会貢献活動推進のパートナー」
と回答し
者は企業領域のクライシス対応研究会の主査を務め
港湾は閉鎖、と交通網が壊滅的な被害を受けてイン
善されたということになるが、ランキングトップ5
たのは、2008年の46.8%から88.3%へと倍増した
(経
たので、研究結果の一部を報告する。
フラが遮断され、燃料や物資の出荷も滞った。その
はオーストラリア、アイルランド、カナダ、ニュー
済広報センター調査)
。
東日本大震災は、地震・津波・原発事故というト
後、原発事故が続発し、政府情報も二転三転し、多
数の外国人経営者が帰国した。
ジーランド、米国の順で、指数60 ~ 57を獲得して
日本広報学会の学会誌
『広報研究』
には、こんな一
リプル発生のために従来の危機管理マニュアルを超
いる。一方、日本の指数は26だから彼我の差は結
節がある。
「 高度情報化とグローバル化の進展によ
えた事象が発生し、緊急時の情報発信の方法やリス
しかし震災直後はこの状況が判然とせず、混乱の
構大きい。なぜなのか。
り、情報は瞬時にして世界各地に流れる状況に置
クマネジメントの想定範囲など、多くの広報課題が
中で断片的な情報をかき集めながら、まずは自社被
かれている。しかし
『顔のない日本』
『顔のない日本
問われた。本研究会では、こうした緊急時に企業が
害の把握と従業員の安否確認が行われた。当日は深
企業』などと言われているように、わが国は、情報
どのような対応をしたのか、組織内外へのコミュニ
夜まで固定電話も携帯電話も十分には通じず、被災
私は、その違いは国民性や社会構造の問題ではな
の受発信能力ともに、感受性、即応性などの面で必
ケーションはどのように行われたのかを聞き取り調
地は停電でパソコンも使えない。警備会社の専用回
いと思う。経団連会員企業の2011年度社会貢献活
ずしも十分なものになっておらず、国際社会に通用
査した。震災に関する企業意識の定量調査は複数の
線も万全とはいえなかった。社員が亡くなった企業
動支出額は1社平均2億円に上っている。さらに、
する広報マインドを醸成することが喫緊の課題であ
機関で行われているので、本研究では質的調査に徹
は、それを確認するのに数日かかっている。
大量の自社製品・サービス(システム)の提供も行わ
る」。今日明日にでも使えそうな文章なのだが、実
した。その結果、一般的な広報仮説として指摘され
多数の企業で工場や事業所の被災があった。事業
れた。だが、被災地を歩いてみると、その割に印象
は1997年6月発行の第1号に掲載された創刊の辞
ているように、実際のクライシス発生時の企業の情
拠点の外見上は目立った損害がなくても、物流セン
が薄いのである。企業のウェブサイトやCSR(企
の一節である。
報行動は、平時からの広報マインドや組織コミュニ
ターや倉庫の内部で荷崩れが起きた企業も多い。全
ケーションと深い関係があることが分かった。
自動の完全無人化で稼働している拠点の被害につい
様々な協働活動への展開
業の社会的責任)レポートなどを読めば、ある程度
21世紀も10余年が過ぎた。経営における「広報」
のことは分かりそうなはずだが、レポートを読み込
の概念、イメージをもっとポジティブなものにする
んだ私にも、あまり印象に残らなかった。
こと、それも我々に課せられた課題であろう。 k
1つは、事実の発掘不足だろう。それぞれの企業
6
企業広報研究
〔経済広報〕2013年6月号
【研究方法】
研究期間は2年間で、初年度は10社の企業ヒアリングを
行い、2年目に各事例の横断的な分析を加えた。ヒアリング
ては、翌週月曜日
(14日)まで機能損壊に気付かな
かった。物流センターや自動倉庫の床面や出荷口に
商品が散乱して、クレーンやコンベヤーが動かない
2013年6月号〔経済広報〕
7
企業広報研究
企業広報研究
ため出荷できず、工場の生産ラインは被害を免れた
記事写真
(
『朝日新聞』3月24日付)は外部の反響も
のに製品製造ができないこともあった。また自社拠
多かった。こうしたメディア記事は何より社員を勇
点の被害は免れても、東北・北関東は多数の自動車
気づけるため、社内報に転載されるなど、良い意味
部品・電子部品・半導体工場が点在する地域であ
でのメディア効果を発揮している。
り、サプライチェーンへの影響は大きく、部品会社
が被災したので製造ラインが確保できず、例えば東
レでは特殊装置を海外から緊急調達して対応してい
急時に本性が出るというが、企業も同じで、平時の
意思決定プロセスや何を優先するかという企業姿勢
今回の東日本大震災では
「CSRの本格稼働を感
が各社で違っており、いずれも各社に合った方法と
じた」という声が多く、自社の事業領域を生かした
して正解だと感じられる。企業行動と組織文化の関
様々な被災地支援が行われている。企業からの義援
係を実感した。
金や募金のほか、自社製品の大量供出などの物資支
第二に、緊急時のコミュニケーションの重要性が
援、社員による被災地支援なども積極的に行われ
再認識されたことである。今回の震災では
「マニュ
た。
アルにない問い合わせが殺到した」という。最も苦
る。新製品の発売中止・発売延期も相次いだし、計
ほとんどの企業で緊急対策本部が11日中に立ち
画停電の対象地域となった企業は、社員の出退勤や
上がっており、その本部長は社長である企業が多
全体に、今回の被災地支援は3段階に分類でき
労した点として各社が声をそろえたのは、防災マ
工場の稼働をどうするかに頭を悩ませた。
い。社長が海外出張中だった企業も翌日には緊急帰
る。第1段階の「緊急支援」では、着の身着のままで
ニュアルでは、地震が大津波や原発問題を伴って発
国している。緊急対策本部は各部門の部長クラスを
避難した被災者たちに一刻も早く暖かい毛布や食
生するとは想定されていなかったことだ。放射線に
マスメディアへの対応
中心に20 ~ 30名規模で、社員の安全確保、被災状
事を届けることが求められた。味の素、アサヒビー
よる立ち入りの可否や計画停電の有無の判断にも苦
各企業はいずれも地震直後から広報担当者が積極
況の確認、商品供給の確保、品質の維持、被災地支
ル、キッコーマン、テトラパックはグループを挙げ
慮した。被災地用の新しい顧客対応マニュアルを作
的な情報発信を行い、たとえ被害がなくても当日中
援策の決定、計画停電の対策、節電対策、と各段階
て食品を提供、パナソニックはラジオや乾電池を提
成した企業もある。原発事故により、諸外国で日本
に
「現時点で人的被害の報告なし」などのリリースを
の重要テーマを共有している。いずれも最初の約1
供した。義援物資の倉庫管理や物資配送は自衛隊に
製品取引拒否などの事態も発生していた。しかし、
出している(ただし、速報ベースの途中経過報告リ
カ月は毎日定時に開催され、徐々に週1回になり、
支援を申し出る形でヤマト運輸が引き受けた。第2
被害が甚大だった企業も数カ月後には通常業務に
リースは、ウェブサイトのアーカイブから削除され
メンバーが削減されて解散、という経過をたどって
段階の4月以降の復旧支援は、仮設住宅への入居が
戻っている。これはBCP(事業継続計画)が機能し
ているものが多い)
。記者向けに1日3回の情報発
いる。ここでは社長のリーダーシップや管理職の判
始まった時期である。NTTは仮設住宅での電話機
たからである。富士通では、工場の遠距離移転につ
信を行うなど、緊急広報態勢が続いた。NTTグ
断力など、属人的なパワーが試された。6月の株主
を無料提供し、パナソニックは延べ4000名以上の
いても「BCP通りに対応できた」という。これまで
総会で財政的な被害状況や義援金総額を公表して、
社員を全国から派遣して修理依頼に対応している。
危機管理としてのBCPは生産管理の継続が中心課
同時に、この時期は、落ち着かない仮住まいの生活
題だったが、今回の震災では、社内外の情報収集と
社内向けには、全企業で社長メッセージをイント
で体調の悪化や精神的ストレスも最高潮となる。こ
社会的な情報発信というコミュニケーション対応が
ループでは地震直後から丸2日間、会社に泊まり込
みで記者対応に追われ、NTT東日本は5月6日ま
でに71報、NTTドコモは4月28日までに43報の
リリースを出している。
「緊急対策」
は一段落したといえる。
ラネットで社員向けに発信しており、ベネッセでは
うした状況に対応して、企業支援としては、栄養士
明暗を分けた。震災後に見直されたBCPでは、社
一方、広範囲にわたって多数の死者が出ている時
東京本部の館内放送でも社長の声を伝えている。ま
と社員が個別訪問する食事の提供、栄養バランスに
内情報の一元管理と社員の情報共有の中継機能を持
に
「自社の設備と従業員は無事」と強調し過ぎるのは
た味の素では、海外のグループ企業へ定期配信して
配慮した料理教室、自社のバレーボールチームによ
つこと、社会的責任や流通現場での影響に配慮した
不謹慎だという自粛も働いた。この辺りは日本の企
いる「CEO Headline」の特別版がメールで全世界へ
るスポーツ教室など、精神的なケアをするための支
情報開示が必要であること、などが重要視されてい
業らしい情報行動といえよう。また当時は、水や食
発信されているし、その後も3月末までに6回の
援が行われ、社員ボランティアの被災地派遣が最も
る。
糧の物資が流れず流通各社店頭の食品棚が空になっ
「Japan Quakes Summary(地震の概況)
」
が海外法人
活発化した。そして第3段階の夏以降の復興支援
第三に、被災地と非被災地の意識差があり、全社
ている様子がテレビ放映されて消費者の買いだめを
の広報担当者へ発信されており、海外従業員の不安
は、被災者が日常生活を取り戻す上で重要な支援で
の情報共有には社内広報が不可欠ということであ
加速していたから、被災した工場の映像を見せては
を払 拭して正確な情報を共有する努力がうかがえ
あり、遺児の学業支援や郷土芸能の復興や図書館へ
る。東北地域では余震が長引き、1カ月余りの停
消費者が動揺するのではないか、と社会的影響を懸
る。また、多くの企業でイントラネット上に専用サ
の本の寄贈などである。各段階で企業が自社ででき
電・断水が続き、首都圏では食品や飲料が不足して
念して露出を控えた企業も多かった。
イトを開設し、被災状況や震災対応に関する情報や
ることを考え、社員派遣やボランティア募集など、
街中のネオンが消された。それでも、西日本の取引
ふっしょく
印象的だったのは、事業活動を続けて製品・サー
プレスリリースを掲載していた。社員の不安・不満
手づくりの支援を工夫していたことが印象的だっ
先からは
「なぜ被災地に支援物資を送れるのに、う
ビスを供給することそのものが企業の社会的責任で
を取り除くために社員同士で意見や提案を書き込め
た。一連の支援活動は2012年版のCSRレポート
ちへの納品が遅れるのか」と強い問い合わせがあっ
あり、震災を乗り越えて企業活動を続ける努力が
るようにしたり、社員ボランティアの支援活動の状
などに写真入りでまとめられている。
たという。従業員の危機感についても
「東西の温度
ニュースとしてメディア露出に繋がったことだ。富
況報告を書き込んだりする仕組みを構築した企業も
士通子会社の福島工場が被災して、一時休止して島
ある。イントラネットの迅速性・双方向性が発揮さ
根工場へ生産移転した時は、
「10日間で工場を移す」
れたといえる。
まとめ
差があった」という。海外からの視線も厳しく、福
井県からの出荷品を「福」が付くから福島だと誤解さ
ヒアリング項目別に共通項を分析して感じるの
れて、受け取りを拒否されたこともあるという。原
という事実が大きく報道されたし、4月に福島工場
4月以降は社内報が震災特集を組み、かなりの
は、第一に、緊急時の企業行動は平時の組織文化が
発事故については、国内より海外の方が深刻な情報
を再開する際には、直前に記者見学会を実施してい
ページを割いて被災地の事業復旧や支援活動の報告
反映されることである。緊急対策本部の態勢や従業
が強く伝えられていただけに、海外勤務者の不安感
る。アサヒビールの福島工場も被災したが、9月に
を特集記事にしている。2011年秋に刊行されたC
員への連絡方法、支援策の決定プロセスなど、本部
は強かったようだ。緊急時は全社が一丸となるべき
工場再開の記者会見を福島県庁で行って、地元メ
SR(企業の社会的責任)レポートでは、被災・復
主導型、現場重視型、グループ協力型、トップダウ
非常時であるからこそ、東西と国内外の意識差は縮
ディアの露出と地域住民の理解を深めた。また、ヤ
旧・復興状況の網羅的な報告や被災支援活動につい
ン型など、各社の組織文化が如実に反映されてお
小すべきであり、そのためには社内の情報共有が不
マト運輸の宅急便配送車が津波後の瓦礫の中を走る
て、多くの特集記事が掲載されている。
り、それは業態による違いだけではない。人間は緊
可欠といえよう。 がれき
8
インナーコミュニケーションと
トップの対応
被災地支援策
〔経済広報〕2013年6月号
k
2013年6月号〔経済広報〕
9
企業広報研究
企業広報研究
広がる「統合報告」
の動き
ANAホールディングス
(株)、オムロン(株)
めの情報収集と体制整備に取り組んでいる。
ANAでは、統合報告は単にレポートを合冊すれ
ばよいというものではなく、経営戦略の段階から財
を最大化し、それを報告するのが本質と捉えてい
る。その意味で、経営戦略部のような組織との一層
の連携を今後の課題として挙げている。 k
(文:国内広報部専門研究員 森田真樹子)
務的側面と非財務的側面を融合することで企業価値
オムロン『統合レポート』
決算などの財務情報と、経営戦略やCSR、ガバナンスなどの非財務情報を組み合わせ、一冊のレポート
で企業の将来展望を多様なステークホルダーに分かりやすく説明する「統合報告」の動きが広がっている。先
ANAホールディングス 統合版
『アニュアルレポート』
ANAグループ
(以下「ANA」)では、2010年3
月期から統合報告書として『アニュアルレポート』
載しているが、ホームページはプロの投資家・株主
オムロンは以前、IR部が財務情報を中心とした
テーマに合わせて、主幹
投資家向けの『アニュアルレポート』、CSR部が非
となる担当者を決めてい
財務情報を中心とした『企業の公器性報告書』(CS
る が、 最 終 的 に は、 全 て
Rレポート)を発行していた。
の記事を全員で確認して
いる。また、広報部門は、
だけでなく、個人投資家や学生など様々な人が訪れ
同社では、投資家が、中長期でより良い投資判断
るため、ウェブ版にはCSR
(企業の社会的責任)
関
ができるような情報提供の在り方を検討している時
制作には直接関わってい
連の情報を多く紹介している。
期に、IIRC発足の動きもあり、2012年3月期
ないが、外部に出る情報
から、両レポートを融合した『統合レポート』(日本
という観点から、テーマを検討する際や全体整合の
語・英語)を発行することとなった。
面で参画している。
(日本語・英語)を発行している。以前は、財務情報
いわゆる会社案内は作成しておらず、統合版『ア
を中心とした『アニュアルレポート』と、非財務情報
ニュアルレポート』を全ての会社情報を網羅した資
を中心とした『CSRレポート』を別々に発行してい
料と位置付け、あらゆるステークホルダーに向けた
た。しかし、2009年3月期の『アニュアルレポート』
情報提供ツールとして活用している。
で特集された燃料節減策は、『CSRレポート』で紹
制作体制
介するCO₂
(二酸化炭素)排出量の低減や環境への取
統合レポートの位置付け
リーマン・ショックの時期から、ウェブ版に移行
する会社が多く、オムロンもこの時期にはほとんど
『アニュアルレポート』は、複数の特集の中で、も
印刷していなかった。現在は、冊子(紙)で見たいと
ともと、コーポレートガバナンスなどの非財務情報
いうニーズに対応し、最低限必要な部数を印刷して
にも厚く触れていることから、100ページを超える
いる。
り組みにも繋がる内容であるなど、財務的にも非財
従来の『アニュアルレポート』はIR推進室
(現:
務的にも重要なテーマが、両レポートに重複して掲
財務企画・IR部)
『CSRレポート』
、
はCSR推進
ボリュームだった。一方、
『企業の公器性報告書』は、
載されるという状況が生まれた。そこで、改めてレ
室
(現:グループ総務・CSR部)
がそれぞれ制作し
2008年以降、ウェブ版のみとなったが、印刷した
ポートの在り方を見直し、統合することとした。
ていたが、統合版
『アニュアルレポート』
は、財務企
場合、200ページほどのボリュームがあり、もし両
『統合レポート』
では、事業の責任者や、それを統括
画・IR部とグループ総務・CSR部に2名ずつ担
方を単純に合冊してしまうと、300ページにも及ん
している人の
“生の声”
を、なるべく伝えるため、イン
他社の先行事例をヒアリングしながら、約半年かけ
当者を置いて、共同で制作している。統合報告を行
でしまう。
タビューや取材記事による特集が目立つ。読み手の興
て準備を進めた。最新の2012年3月期レポートで
うために、IRやCSR、広報などの関連組織自体
オムロンは、単純合冊ではなく、既存の
『アニュ
味・関心を引く
“読み物”
として読んでもらいたいため
3回目の発行となり、まだ初歩段階ではあるもの
を統合する企業もあるが、ANAでは担当者
(組織)
アルレポート』の内容に中長期の投資判断に関わる
で、臨場感を大事にしている。これはもともと、非財
の、少しずつ融合し始めていると認識されている。
間の連携によって対応している。
CSR領域の要素を融合させた『統合レポート』を目
務情報を包括した側面を持つ、
『アニュアルレポート』
株主・投資家をはじめとするステークホルダーに
指している
(CSRレポートそのものはウェブ版と
から続く編集方針である。2011年度の
『アニュアルレ
統合版『アニュアルレポート』の発行に向けては、
統合レポートの位置付け
統合レポートの特色
会社の姿や将来性を正しく理解してもらうために
して継続開示している)
。中長期の投資を考えてい
ポート』
に掲載した
“新社長誕生秘話”
は、社内外から
統合版
『アニュアルレ
は、財務面・非財務面から、どのようなメッセージ
る投資家をメインターゲットとして制作しているが、
大きな反響があった。
『統合レポート』
は企業価値を多
ポート』は、基本的には
を発信すべきかを意識し、担当者間で緊密に意見交
出来上がったものは結果的に、そのほかのステーク
角的に理解できるよう、
『アニュアルレポート』
をさら
従 来 の『 ア ニ ュ ア ル レ
換している。
ホルダーの方々にも十分役に立つと考えている。
に充実させたものとなっている。 ポート』と『CSRレポー
ト』を組み合わせた内容
10
4名、CSR部からは3
名が参加し、それぞれの
行して統合レポートを発行する企業に、その取り組み事例を聞いた。
統合レポート発行の経緯
統合レポート発行の経緯
今後の方向性
制作体制
となっているが、統合に
現在は、IIRC
(国際統合報告委員会)
が提唱する
IR部が主幹となり、CSR部とプロジェクト
当たり重複する内容を
統合報告のフレームワーク注も参考にしつつ、最適な
チームを編成して制作。非財務情報は特にCSR部
集約した。また、ホーム
統合レポートの形を検討している。統合報告がルー
が持っている英知をうまく融合し、いかに有益な
ページにはウェブ版を掲
ル化された時に迅速かつ柔軟に対応できるよう、早
情報を発信できるかを重視している。IR部からは
〔経済広報〕2013年6月号
k
(文:国内広報部主任研究員 塩澤 聡)
注 IIRCは、国際的に合意された統合報告フレーム
ワークの構築・普及を目的に、2010年に設立された民
間団体。現在公表している草案では、
「業績」
「将来見通し」
「ビジネスモデル」「ガバナンス」など、7項目の開示要素
を提唱している。
2013年6月号〔経済広報〕
11
CC時代のブランド戦略①
CC時代のブランド戦略①
顧客との接点重視で
企業ブランドの確立を目指す
住友生命保険(相)
推進している。全職員にブランド理念の理解・浸透
「健康応援ナビ」や「スミセイ安心介護」などの新たな
を促し、一人ひとりが理念に基づいた行動を実践で
コンテンツを導入し、消費者に、より分かりやすい
きるよう、「理解→共感→行動→共有」というサイク
内容にしている。ソーシャルメディアではフェイス
ルを繰り返しながら、仕事の品質を高めていく仕組
ブック公式アカウントを運営。オリジナルキャラク
みだ。特に、同社には全国で4万人超の職員が在籍
ター
「しずかちゃん」が企業の取り組みだけでなく、
している。職員の一人ひとりにまでブランド理念が
日々の身近な出来事も投稿し、親近感を持ってもら
浸透し、行動変革ができるよう、インナーブラン
えるような内容にしている。また、他社の人気キャ
ディングでは様々な工夫を凝らしている。
ラクターとのコラボレーション企画やプレゼント
◦ブランド理念を「自分ごと」に
キャンペーンも行っている。
ブランド刷新に当たり、目指す理念をまとめた
MAO ASADA応援プロジェクト
『ブランドブック』を制作、職員に配布した。単に配
ブランド戦略の歩み
住友生命は、2011年3月に住友生命ブランドビ
ジョンを策定したことを受けて、調査広報部内にブ
社を挙げてブランド戦略に取り組んでいる。
ブランド戦略の全体像
「らしさ」を
伝える
4つの
先進価値
お 客 さ ま
ション戦略を横断的に推進する仕組みをつくり、全
「ならでは」の
価値をつくる
【イメージ戦略】
アウター
ブランディング
戦略・CSR
(企業の社会的責任)・コミュニケー
「自分ごと」
にする
【行動変革】
インナー
ブランディング
(いいね!スミセイ
大運動)
ドコミュニケーション部として独立させ、ブランド
「いいね!スミセイ
(日本で一番お薦めしたい保険会社)
」の実現
従 業 員
ランド戦略推進室を設立。2013年4月にはブラン
ブランドマネジメント
などの対話ミーティングの日を設け、職員同士でブ
真央選手をブランドパートナーに迎え、企業イメー
ランド理念の読み上げやディスカッションを行い、
ジのコマーシャルに登用した。また、お客さまと
理念の浸透を図っている。また、
『スミセイStory
一緒に浅田選手を応援する
「MAO ASADA応援プロ
Book』という、お客さまからの感謝の声や
「感動品
ジェクト」を立ち上げ、ホームページ上の特設サイ
質」の事例をまとめた冊子も職員全員に配布。対話
トにお客さまから応援メッセージを書き込んでも
ミーティングで読み返しながら、
「自分たちの仕事に
らっている。そのメッセージを題材としてコマー
置き換えたら何ができるか」を話し合い、
「自分ごと」
シャルを制作するなど、複数のメディアを連動させ
にしてもらう。通常、お客さまからの声というと、
た。また、フェイスブックでは浅田選手からのコメ
苦情や不満の声を集め、改善に向けて取り組むとい
ントを公開するなど、双方向コミュニケーションを
う形が多い。しかし、同社ではそれに加え、お客さ
図っている。
まからの感謝の声や良い事例も収集し、社内での共
住友生命は、
「日本一お薦めしたい保険会社」
を目指
ブランド戦略の効果と課題
し、①住友生命ならではの先進価値づくり、②社内
サルティング・サービスの提供」
「感動品質の提供」
有化を進めている。また、お客さまからの言葉や仕
での理念の共有・浸透(インナーブランディング)、
だ。
事への想いを綴るメッセージコンテストも行い、
「感
同社が実施している消費者調査などでは、着実に
動品質」とは何か、職員自身に考えさせる機会にし
顧客接点での品質イメージが向上していることに加
の3本柱でブランド戦略を推進している(図)。通
動品質の提供」
だ。感動品質とは、
「高品質に満足せ
ている。
え、外部調査などでも徐々に効果が表れてきた。
常、ブランド戦略というと、CIマークの管理やア
ず、お客さまに感動を与えるほどのサービスを目指
◦
「ほめる風土」の醸成
ウターブランディングに力を入れる傾向があるが、
そう」という佐藤義雄社長の強い想いから生まれた
同社の戦略は異なる。
「生命保険は目に見えない商品
言葉である。
③社外へのイメージ伝達(アウターブランディング)
ポイントとなるのは、顧客との接点業務での「感
同社では職員同士で良い行動をほめ合う
「いい
ね!カード」を導入している。このカードを渡すこ
インナーブランディングに関しても、職員向けの
意識調査により、ブランド理念に対する理解度が深
まっていることが分かる。
ブランド戦略と軌を一にして、同社は大手生保で
とで、同僚や先輩後輩への感謝やねぎらいの気持ち
今後の課題としては、アウターブランディングに
との接点における品質イメージが向上しなければ、
初めて、営業職員の教育体系を通年採用から4半期
を伝え、職場の活性化・風土改革を図っている。良
おいては、より戦略的にそれぞれのメディアを進化
本当の意味でのブランド向上に繋がらない」
(ブラン
ごとの採用へ切り替えた。通常は毎月新人営業職員
い事例についてはWeb版社内報で、ほめた人・ほめ
させるとともに全国の営業ネットワークとの連動性
ドコミュニケーション部・藤本宏樹部長)と考え、
が入社してくるところを3カ月に1度としたこと
られた人それぞれのインタビューを掲載するととも
を高めていくこと。特に、ウェブマーケティングの
顧客接点での意識行動変革を最重要視し、特に前
で、1日当たり7時間研修を1カ月間から3カ月間
に、最も共感を集めた事例を投票で決定し、表彰す
速い変化にキャッチアップしていけるよう、専門人
述の
「住友生命ならではの先進価値づくり」と「イン
に延長し、より質が高く、密な新人教育ができる。
る“「いいね!カード」アワード”もスタートした。
材の育成も視野に入れている。
ナーブランディング」に力を入れている。
生保業界で問題になりがちな営業職員間のレベルの
であり、人と人との繋がりが最も重要である。顧客
住友生命ならではの
「4つの先進価値」
「あなたの未来を強くする」という新たなブランド
メッセージを掲げ、「4つの先進価値」の実現を推進
している。
「4つの先進価値」とは、「先進的な商品」
12
2012年10月からは、フィギュアスケートの浅田
布するだけでなく、各職場では毎月「感動品質の日」
ブランド戦略の全体像
バラつき、ターンオーバー問題をなくすための見直
しだ。これもブランド戦略の一環である、
「感動品質
の提供」
を可能にする原動力のひとつとなる。
インナーブランディングの取り組み
「進化するサポートプログラム(顧客向けの付帯サー
同社のインナーブランディングは、
「いいね!スミ
ビス)」に加え、顧客との接点における「先進のコン
セイ大運動」という、社内にもなじみやすい名称で
〔経済広報〕2013年6月号
トリプルメディアによるアウターブランディング
同社は、新しいブランドイメージを社外に打ち出
すために、トリプルメディア戦略に取り組んでい
インナーブランディングの取り組みは着実に進ん
でいるが、まだ職員全員がブランド向上のための行
動変革ができているという状態にまでは至っていな
い。
る。外部メディアでは、商品・サービスのコマー
「日本一お薦めしたい保険会社」という目標の実
シャルでイメージキャラクターを一新。構成も、若
現まで、様々な施策に継続して取り組む考えだ。 者への訴求を意識している。自社メディアでは昨
年9月に公式ホームページを大幅にリニューアル。
k
(文:国内広報部専門研究員 鈴木恵理)
2013年6月号〔経済広報〕
13
広 報 コ ト バ 物 語
第1回
ルーツはプロパガンダか
―プロパガンダとパブリック・リレーションズのコトバ史―
け ん も ち
たかし
剣 持 隆
広報、パブリック・リレーションズに関連した
というのが言語的起源である。具体的には17世紀、
ローマカトリックの布教団体がそう呼ばれた。
宗教・政治・軍事的な世界から
企業社会へシフト
戦前、満鉄、満州以外でも本土の政府部内や民間
の研究者、広告技術者などもプロパガンダや宣伝の
研究、活動を行っていた。
戦後の日本のパブリック・リレーションズの展開
に直接的に大きな影響を与えたのはGHQ経由の米
国のパブリック・リレーションズの思想と技術であ
ろうが、以上のような日本の戦前の経験は、パブ
れたと想像されるが、その後、積極的に使われたの
リック・リレーションズの思想を捨象すると、人
て日本語化し、一方的な情報発信と同じ意味になっ
はナチス・ドイツ時代であろう。ヒトラー、ゲッベ
脈、スキルが戦後に繋がっており、GHQの導入に
てしまって今日に至っている。
ルスと共に「国民啓蒙・宣伝省」はあまりにも有名で
よって初めて日本にパブリック・リレーションズが
ある。
もたらされたとは考えにくい。
その上、近年
『戦争広告代理店』
という書物も出版
ロパガンダになると、パブリック・リレーションズ
されたように、パブリック・リレーションズと広告
との異同など、話は厄介になる。そこで、そうした
をごっちゃに使う例も出てきている。
プロパガンダは扇動、世論操作の代名詞になり、
一般的にも軍事的・政治的宣伝として底意のある情
政治から戦争、そして民間へ
コトバの定義を詳らかにし、それらの違いをはっき
そこで、そうしたコトバはどのように使われてき
報操作として受け取られている。扇動は説得、同
米国では民主主義とパブリック、企業と消費者の
りさせることから始めるのではなく、人々がそれら
たのか、その由来を訪ね、ひとまずコトバの整理を
意、鼓舞、行動への誘導などと深く関係する。プロ
関係において、いかに民衆、消費者の支持を得る
をどのように呼んできたかを振り返ってみてはどう
する必要があるのではないかと思うようになった。
パガンダの極致は教育であろう。
か、そのコミュニケーション戦略の思想・技術とし
かと思った。コトバの変化と時代の変化を重ねなが
ら、広報、パブリック・リレーションズに関連する
コトバの姿をやや歴史的にスケッチできれば、コト
バの整理にいささかのヒントが得られるのではない
かと考えた。
宗教的な世界では、布教は正しいことであり、信
てパブリック・リレーションズが発展してきたと思
パブリック・リレーションズの
ルーツ:プロパガンダ
仰を広めることはまさにミッションであった。相手
を説得して教化する。そのようなコミュニケーショ
特に、米国において戦争時に鍛えられたプロパガ
米国におけるパブリック・リレーションズの代表
ン活動はカトリック以前からあり、人間社会の発生
ンダの技術が、平時のパブリック・リレーションズ
と共に指導者と従者との関係から出発している。
に応用され発展したことは注目されるべきだろう。
的なテキストのひとつである『体系パブリック・リ
混乱するコトバ
われる。
レーションズ』(スコット・カトリップほか 著、日
ここで結論的にチャートを提示させていただく
事例としてはクリール委員会がある。クリール委員
本広報学会 監修)によると、サミュエル・アダムズ
と、はじめは宗教、政治、軍事・戦争の世界で発展
会とは、後にやや詳しく触れたいが、第一次世界大
広報、パブリック・リレーションズに関連したコ
やトーマス・ジェファーソンなど、米国の独立革命
してきたプロパガンダの技術が、やがて経済、社
戦当時、米国が参戦するために人々の意識の高揚を
トバをあらためて挙げると、渉外、宣伝、広告、弘
の指導者が実はプロパガンダ推進派と呼ばれていた
会、企業の世界にシフトしてパブリック・リレー
図るために設置した戦時機関である。民間人の委員
報、公報、公聴、広聴、パブリック・アフェアー
ことが分かる。
ションズに流れているように思われる。 長の名前をとって、通称クリール委員会と呼ばれ
ズ、パブリック・アクセプタンス、コーポレート・
戦後日本でパブリック・リレーションズの解説書
コミュニケーション、情報、諜報、インテリジェン
が盛んに出版された時期があったが、多くの書で
ス、アジテーション、スピン、プロパガンダなど。
トーマス・ジェファーソンはパブリック・リレー
日本には戦後、GHQによって「都道府県にPR
ションズの出発に関係して説かれた人物である。
日本でも戦前に「弘報」組織
実は日本の企業でも戦前に弘報組織が設置され弘
報活動を行っていた。南満州鉄道(以下、満鉄)の弘
た。正式名はコミッティー・オン・パブリック・イ
ンフォメーションで、その活動をまとめた書も
『ハ
ウ・ウィー・アドバタイズド・アメリカ』というよ
うに、プロパガンダは使用していない。
O
(パブリック・リレーションズ・オフィス)を設置
米国独立革命当時、プロパガンダというコトバは
報係がそれで、その様子は
『日本の広報・PR100
クリール委員会の活動は大規模かつ多彩で、カー
せよ」というサゼスチョンが出されたが、パブリッ
積極的な意味を持っていたと想像できる。しかし今
年―満鉄からCSRまで―』
(猪狩誠也 編著)で明ら
ル・バイヤーやエドワード・バーネイズも所属して
ク・リレーションズの適訳が見つからなかった。
日では、プロパガンダはパブリック・リレーション
かにされている。
いた。エドワード・バーネイズは米国においてアイ
訳語の候補に出た用語は、公衆関係、情訪、公
ズとは対極的な位置にあるというのが大方のイメー
満鉄の場合、その調査活動は著名であり、膨大な
ビー・リーと並ぶ存在で、第一次世界大戦後、民間
聴、広聴、弘報、広報、報道、情報、情報連絡、信
ジであろう。かつては肯定的に使われていたプロパ
研究蓄積があるので本稿では割愛するが、調査活動
に移ってパブリック・リレーションズの指導者にな
愛建設など。関連した用語には宣伝、普及、連絡、
ガンダも時代を経て、むしろ悪名高いものに変化し
に連動した弘報活動もまた当時の本土のレベルをは
り、プロパガンダも論じている人物である。
公渉、啓発などがある。適訳が見つからず紆余曲折
たことがうかがわれる。
るかに超えた展開を見せているので後述したい。さ
ちなみにバーネイズは、カトリックのプロパガン
しゅうれん
そこで、プロパガンダ論を紹介している日本での
らに、満州国でも弘報処が設置されている。満州国
ダに対抗してプロテスタント側はアジテーション、
その後間もなく、パブリック・リレーションズは
古い書籍を探してみた。詳しくは後に紹介するとし
の場合はプロパガンダ活動が展開されたといえるで
アジテーターを開発したと指摘している
(Public PRと略され、さらにピーアールとカタカナになっ
て、プロパガンダは、読者には釈迦に説法であろう
あろうが、弘報処で発行した『宣撫月報』には欧米の
Relations ,1952)
。 したが、広報という呼称に収斂していった。
14
さがうかがえ興味深い。
もともと宗教的な世界で使われ始めたプロパガン
コーポレート・コミュニケーションなど。中でもプ
つまび
プロパガンダ理論が紹介されており、編集視野の広
で、外部から力を加えて強制的に成長繁殖せしめる
ダは、米国独立革命当時ではプラスイメージで使わ
名古屋文理大学 教授 コトバは多い。渉外、パブリック・アフェアーズ、
が、植物を再生する時に挿し木、接ぎ木をする意味
〔経済広報〕2013年6月号
k
2013年6月号〔経済広報〕
15
経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
終わりなきユーロ危機と
英国の欧州からの離別
金)
、ECBのトロイカ体制で臨んでいるギリシャ
は和解案で引き留めを図りつつ、万が一の脱退時に
経済は、2011年にも成長に転ずるというトロイカ
は何らかの危機回避を模索する意向だ。財政同盟を
の説明と裏腹に現在も後退しているが、これはユー
見直すかもしれないが、その確証はない。キプロス
ロ圏維持を神聖視し、通常ならばIMFが発動する
危機では、ユーロ維持のためにあらゆる犠牲を払う
通貨切り下げをなし得ないまま緊縮財政を強いたか
姿勢が露見した。南欧諸国にユーロ建て債務を維持
らにほかならない。
しつつ通貨の一時切り下げを認めれば、連鎖的ソブ
また、フランス自身も失業率が高まる中、EMU
リンリスクは回避できる可能性があるが、これが安
(欧州経済通貨統合)のルールを順守すべくGDP
全だという保証は全くなく、結局はユーロを分解す
(国内総生産)比2%相当の財政緊縮を余儀なくされ
るしか欧州の現状打破の道はない。とはいえ、一度
るという苦境に立たされている。
単位労働コストにおいても南北乖離が起きてい
質疑応答
賃金が上昇した一方、ドイツなどでは賃金上昇が抑
『デイリー・テレグラフ』国際ビジネス編集長
経済広報センターは3月25日、英国『デイリー・テレグラフ』紙のアンブローズ・エヴァンズ=プリチャー
ド国際ビジネス編集長を講師に迎え、
「終わりなきユーロ危機と英国の欧州からの離別」
と題する講演会を開催
えられ、この乖離が生じた。EUは経常収支の南北
Q英国産業界のEU離脱への見方は。
格差の改善を盾に競争力の格差が急速に縮小しつつ
A英投資などの面から一番懸念を持っているのがC
あるというが、これは南欧の国内市場が縮小し輸入
BI(英国産業連盟)だ。英国がEUから脱退する不
や投資が落ち込んでいるからにすぎない。
確実性が続けば、対英投資も手控えられる可能性が
I M F は 当 初、 財 政 乗 数 効 果 を0.5程 度 に 見 積
ある。しかし、グローバル化がもたらすEUのブラ
もっていたが、最近の報告では1.5以上として緊縮
ンド価値の相対的低下や、EUが課す反ビジネス的
危機が何度も訪れた。そのたびにECBの応急処置
財政の弊害を認めた。しかし、欧州委員会のレーン
規制の影響を考える必要もある。最後に脱退の可否
でしのいできたが、分解よりさらに悪いシナリオ
経済担当はこれを黙殺した。
を決めるのは、CBIではなく英国民主主義である
した。参加者は約50名。
べきだ。
欧州は現在、アベノミクスの裏返しと呼べるよ
は、EU(欧州連合)が財政統合により一足飛びに
うな緊縮財政の中にあり、これにより失業率はギ
「欧州政府」に移行しようと躍起になっていること
リシャ、スペインでは25%超(若年層ではそれぞれ
だ。かつて英国王チャールズ1世は、米国各州の予
英国も基礎的財政収支が7.3%の赤字となるなど
60%近く)
、ドイツ、オーストリアでは5%前後と
算権を剥奪したことで革命を招き米国を失った。財
危機が深刻だったが、少なくとも自国の政策を自ら
いう南北格差が起きている。ECB(欧州中央銀行)
政統合はこれと同じことで、実現してしまえばEU
決定できる点でユーロ圏諸国と異なる。すなわち緊
A市場統一には意味があったが、通貨統合などは各
は緩和的な金融政策をとっているというが、通貨流
諸国にとっては国民国家の放棄という歴史的大転換
縮財政を強いられることもなく、量的緩和とポンド
国民の意思から離れた政治的意図によるものだっ
通量は日本の失われた10年の当初と変わらず、ユー
となる。
の20%切り下げにより債務デフレを回避し、失業
た。ユーロに関してはスウェーデンやデンマークも
率も下がって危機を脱しつつある。もともと多数派
拒否し、EU憲法に関してはフランスやオランダも
ロ圏全体がデフレスパイラルに陥る危険がある。
「あらゆる手段をとる」というドラギ総裁発言後、
■英国のEU離脱とユーロ圏の行く末
Q単一市場という方向性は正しかったはずだが、E
Uの過ちは何だったのか。
1930年代の大恐慌においては、黒字国の米仏が
南欧国債は下げ止まったが、これもドイツの後ろ盾
だったユーロ推進派ですら、危機的状況では自国の
反対したように、国民は意思表明の機会のたびに拒
資本フローをせき止めることで世界をデフレに追い
があってようやく実現したことだ。しかしこれだけ
中央銀行や国民国家としてのガバナンスが重要であ
否を表明した。結果として国民国家を無視して統合
込み、赤字国だったドイツはデフレの加速を余儀な
では事は収まらず、イタリア総選挙に見るように極
ることを認め始めている。欧州が自作自演で苦しん
を推し進めた点が最大の過ちだ。
くされ、ワイマール体制の崩壊に至った。皮肉にも
端な財政緊縮に国民が疲弊し、本当に必要な改革に
でいる状況から英国は距離を置くべきだ。
今日のドイツは南欧に対し同じことを繰り返してい
対しNoを突き付けるという政治的危機状況を生ん
しかし、金融取引に関する新たなトービン税や銀
Q万が一、英国がEUを離脱する場合、NAFTA
る。南欧に緊縮財政を強いる一方、北部諸国でも緊
だ。ドイツでは、ユーロ脱退と北部諸国だけでの新
行の賞与上限の導入など、英国金融界を脅かす施策
(北米自由貿易協定)のような関係を維持するの
縮財政を敷き、ユーロ圏経済全体が縮小している。
通貨圏を提唱する政党が生まれるなど、9月の総選
が次々に打ち出されている。ドイツの自動車、フラ
大恐慌時代の日本では、高橋是清蔵相が金本位制を
挙に向けてメルケル首相がさらに強硬路線を強いら
ンスの農業といった聖域に関する暗黙のルールが無
A関税を復活する理由もなく、NAFTAのような
停止し管理通貨制度に移行し、積極財政をとりつつ
れる動きとなっている。
視され、英国の得意な金融分野への全面攻撃が始
関係はあり得る。今後ドイツなど他の北部諸国も同
まっている。
様の関係を念頭に動き出す可能性もある。英国が脱
国家予算を3年で立て直すという「ケインズの奇跡」
を実現した。欧州は高橋財政に学ぶべきだ。
そもそもユーロ圏は、フランスがドイツに、東西
ドイツ統一承認の見返りに要求した条件であり、ド
も く ろ み
■ユーロ圏の失敗
危機が長期化し、2010年以降ユーロが分解する
16
できないのだ。
る。南欧で不動産バブルによるインフレに合わせて
アンブローズ・エヴァンズ=プリチャード
■大恐慌の教訓は生かされず
動き出したユーロの壮大な政治的実験は後戻りすら
〔経済広報〕2013年6月号
キャメロン首相がEU残留を問う国民投票に触れ
イツが再び強大化するのを回避する目 論見だった
て以来、英国に対する怒りや脅し、英国への悪影響
が、ユーロによる固定相場制が逆に今のドイツの
を懸念する声が上がったが、逆にEU自体に壊滅的
台頭を招いてしまった。EU、IMF(国際通貨基
打撃を与えることが徐々に認識されてきた。ドイツ
か。
退すれば、EUとの通商関係が滞るという議論は単
なる脅し文句にすぎない。 k
(文責:国際広報部主任研究員 田中 勲)
2013年6月号〔経済広報〕
17
経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
再生可能エネルギーの課題
経済広報センターは3月14日、米国パデュー大学のダニエル・アルドリッチ准教授、および国際環境経済
研究所の竹内純子主席研究員を講師に迎え、「再生可能エネルギーの実力と課題」と題する講演会を開催した。
それぞれの講演の後、竹内氏のモデレートによるディスカッションを行った。参加者は約140名。
グリーン成長に成功、といったイメージがあるよう
発を促進しないなど多くの問題がある。諸外国と比
だが、実際はどうか。
較しても高いといわれる買取価格を適正にする、既
設備容量で再エネは全体の35%を占めるまでに
存施設からの買い取りを廃止するなど、現施策の問
な っ た が、 太 陽 光・ 風 力 は 設 備 利 用 率 が 低 い た
題点を至急修正する必要がある。エネルギー自給率
め、実際の発電量は再エネ全体で17%となってい
が4%程度しかない日本では再エネの積極導入は当
る
(2011年)
。莫大な導入コストをかけた太陽光は、
然必要だが、技術開発を促し、かつ国民に過度な負
3%程度しか発電できていない。また、非常に不安
担をかけない普及促進を図る制度設計が重要である。
定であるため、主力とまではなり得ていない。
欧米では電力自由化により、当初は余裕のあった
あっても、自分のライフスタイルが乱されるのは困
設備率をスリム化することなどで電力料金も下がっ
る、ということである。例えば北海道の北部には風
たが、燃料価格の上昇や環境対策などのコスト転嫁
竹内 NIMBY問題解決に向けて住民の同意を得
ダニエル・アルドリッチ 力発電設備が多いが、札幌などの需要地の近くには
をしやすくなったため、長い目で見ると料金上昇に
るための、ボトムアップのアプローチの具体的な手
設置できない。自宅の近くに数百もの風力発電ター
繋がった国が多い。ドイツは2000年当時と比較し
法について紹介願いたい。
ビンが設置されることで地価が下がるのは困る、と
1.8倍程度に上昇、主要な要因が再エネ導入の補助
アルドリッチ 単に経済メリットだけでなく、地域
いう反対意見の存在が原因のひとつである。
金であるとして、繊維業界からは再エネへの助成金
自らが活動に意義を感じて受け入れる意思を示すよ
が憲法違反だとする訴訟も起きている。
うな条件提示が望ましい。具体例として、カナダで
米国パデュー大学 准教授 東京大学 フルブライト研究員
「 N I M B Y(Not in My
Back Yard、自分の裏庭に
再エネを普及させる場合でも、広い便益と一部の
は来ないで)問題」とエネル
負担という課題をクリアしなければならない。今後
ギーについて考えたい。原
不安定な再エネの大量導入は、送電網の拡充や安
放射性廃棄物処理施設を建設する際に引き受け先を
は、従来の政府主導のトップダウン方式ではなく、
定的調整電源の確保など、社会的に二重の設備投資
募集したところ、6つの地域が自ら技術面や条件面
発や空港、ダムなどの施設
地域社会や住民から、その設備を必要とされるよう
を必要とする。先日環境大臣が、ドイツのエネル
などの協議開始を申し出た。エネルギー政策を策
は、広く社会がメリットを
なボトムアップ方式が望ましい。これにより、NI
ギー転換に関わるコストは2030年代末までに1兆
定・実行する過程でパートナーとして住民を巻き込
享受する一方で、特定の住
MBY問題の不満の声を和らげることができるだろ
ユーロ(約120兆円)に達する可能性があると発表、
み、プロセスに関与させることで、住民にも責任を
う。
内3000億ユーロ(約36兆円)はこうしたコストであ
持ってもらうことへの理解が進んだ例である。
るとされる。そのほかドイツに限ったことではない
竹内 ドイツでは送電網構築のために、利率を高め
日本のエネルギーの今後を考える
が、電力自由化後、設備のスリム化および再エネの
にした「送電線ファンド」を地域住民に優先的に販売
竹内純子 優先接続義務化により、火力などの安定電源は稼働
するという取り組みを始めた。直接的な金銭便宜を
率が下がり経済的にペイしなくなり、この結果電力
受けるだけではなく、自らの出資を伴う点が興味深
の供給力不足が懸念される事態に陥っている。
い。
民に負担が集中する。こうした施設の立地の意思決
定には、欧米では政治力や人種問題などが関わるこ
とが多い。日本では財政や市民などの社会的な力が
弱い自治体が選ばれる確率が高く、政府はそうし
た自治体を候補地に選定し、経済メリットを提示し
た け う ち す
み
こ
NPO法人国際環境経済研究所 主席研究員
て説得するという手法を中心に、例えば、これまで
ドイツには一時期世界一の太陽電池メーカーも存
アルドリッチ そのほかの例として、健康被害への
の国の状況
( 人 口、 面 積、
在したが、コスト競争力で勝る中国・台湾勢に押さ
不安を解消するための健康チェックなど、住民の懸
発の建設が止まるなど、公共政策への影響が民主主
産業構造、資源の有無な
れ、昨年倒産し韓国企業に買収された。再エネ導入
念事項を把握して、ターゲットを絞って対処するア
義国の多くで見られた。福島原発の事故以降の日本
ど)
、どのような社会にし
施策の全量固定価格買取制度は自国のメーカーを支
プローチもある。
も、民主的であるが故に原発再稼働は難しくなっ
ていきたいかを踏まえて
援することには繋がっていない。
竹内 会場から、電力システム改革についての質問
た。その結果、現状では原発停止による不足電力を
立案されるべきものであ
これを日本への示唆として電気料金の問題を考え
を受けている。東日本大震災で
「既存の電力システ
LNGや石炭などの火力発電で補っているが、これ
り、巨大な設備産業であ
ると、日本では原子力停止による燃料費の増加があ
ムの脆弱性が明らかになった」といわれるが、果た
は温室効果ガス排出やエネルギー安全保障の面から
るため計画の実現までに非常に長い時間を要する点
り、年3兆〜4兆円の国富流出と試算されている。
してそうか。自由化を導入した諸外国における料金
見て、持続可能な対応とはいえない。
に注意が必要だ。今日は、
「脱原発」
や再エネの推進
さらに、再エネ導入施策として2012年7月に全量
推移や自然災害後の復旧力と比較するなど、冷静な
で注目されるドイツの例を挙げて、今後の日本のエ
固定価格買取制度が導入された。これは再エネの発
分析をした上で、どんな目的のために何をやるのか
ネルギーについて考えたい。
電全量を固定価格で長期間買い取り、電力料金とし
をはっきりさせないと、結局国民が様々な負担を負
うことになってしまうと懸念する。 54基の原発を建設してきた。
しかし、チェルノブイリ原発事故以降、数年は原
そこで検討されているのが再生可能エネルギー
(以下
「再エネ」)であるが、太陽光、風力共に広大な
18
ディスカッション
日本のエネルギーにおけるNIMBYの
過去・現在・未来
エ ネ ル ギ ー 政 策 は、 そ
土地や洋上スペースを必要とするため、結果とし
ドイツに対しては、①再エネが主力電源、②電力
て消費者に負担させる仕組みである。全量を固定価
てNIMBY問題に直面する。日本全体では恩恵が
自由化により電気代が安い、③太陽光発電産業など
格で買い取るため発電業者間の競争がない、技術開
〔経済広報〕2013年6月号
k
(文責:前 国際広報部主任研究員 落合基晴)
2013年6月号〔経済広報〕
19
英米主要
紙誌の
論調分析
分析したものである。
間がしたことは、まさにそういう
の批判も同紙としてはいつもより
の、より理にかなった目標に対し
「安倍首相は、もっと大事なこ
周辺国への日本の攻撃や支配が
ことなのだ」と述べた。
抑制されたトーンだが、WPは、
ても反対するだろうし、その達成
とに時間を費やすべきである。経
『侵略』に当たるのか疑問を投げ掛
「 火 曜 日(23日 )
、168人 の、 ほ
安倍首相の歴史認識を批判しなが
が危うくなる。中国と北朝鮮の軍
済を甦らせるために、ここ何年か
け、周辺国の神経を一層逆なでし
この期間、安倍首相の歴史認識
とんどが高い役職に就いていない
らも、現在日本を取り巻く国際状
事費や自己主張を強める行動を考
で最も勇敢な政策を実施してい
た」と報じた。
についての発言をめぐって、韓国
保守派の国会議員が、第2次世界
況や、日本の防衛能力強化、憲法
えれば、安倍氏が自衛隊の近代化
る。2%のインフレ目標と、やる
や中国の政府が激しく反発し、こ
大戦後に処刑された戦犯を含む日
改正への首相の意欲には理解を示
を支持するのには正当な理由があ
気のある日銀総裁の起用は、日本
れに米オバマ政権も懸念を示し
本の戦没者を祀る東京の神社に参
している。
た。麻生副総理はじめ閣僚を含む
拝した。これは近年では国会議員
多数の国会議員が靖国神社を参拝
による最大の集団参拝であった」
20
今回は4月12日~5月9日までの紙誌面を
まつ
この記事は、安倍首相が閣僚や
国会議員の靖国参拝を擁護して、
る。第2次世界大戦後の米国占領
は状況を好転させることができる
「『国のために尊い命を落とした英
「今週、安倍氏は、これまでの
軍によって押し付けられた日本の
という実感を与えた。しかし、こ
霊に対し、尊崇の念を表するのは
すべての前進を危険にさらすのを
『自衛』憲法の下では、日本が十分
の実験は非常に大きなリスクを伴
当たり前だ。わが閣僚はどんな脅
厭 わないかのような動きに出た。
な態勢で同盟国の助けに駆け付け
う。大胆な量的緩和の副産物であ
かしにも屈しない。それ
(靖国参
いと
したこと、それを擁護した安倍首
と指摘した上で、
「安倍氏は第2次
相の発言、そして
「村山談話」をめ
世界大戦における日本の行為をこ
前世紀の朝鮮半島の植民地支配に
ることができるかどうかを、安倍
る円安を容認してくれる他国の理
拝など日本が戦死者に敬意を払う
ぐる首相の国会答弁で
「侵略の定
れまで擁護している。安倍氏やそ
対する1995年の政府の公式謝罪
氏が疑問に思うのはもっともであ
解が必要なのだ。世界が日本に同
権利)を削れば関係がうまくいく
義は国際的に定まっていない」と
の同調者たちは、これが日本の
を見直すのかという国会での質問
る。しかし、彼が戦前の帝国への
情しなくなれば、これらの目標達
という考え方は間違いだ』と指摘
述べたことを、歴史を書き換えよ
20世紀の帝国建設・軍国主義の
に対して、安倍氏はこのように答
ノスタルジアを抱いているのが
成も難しくなる。安倍首相は経済
し、昨今の中韓両国の対日批判に
うとする修正主義としてNYT、
下で被害を受けた中国や韓国に
えた。
『侵略という定義は、学界的
はっきりした途端、まだ国民の多
の効率を高める構造改革も進めな
は、国内政治上の動機があるとの
WP、FTが社説で批判した。こ
とって、いかに傷付きやすい問題
にも国際的にも定まっていない。
くが懐疑的な国内の改革を進め、
ければならない。歴史修正主義に
見方を示唆した」と述べて、国内
の問題は、はじめから安倍政権を
かということをよく知っており、
国と国との関係において、どちら
疑いの目で見ている近隣諸国を納
手を出すことは、よく言って本筋
の
「保守的な支持者から何千件も
とかく批判的に見ている英米のマ
その反発は予想できたはずだ」と
から見るかによって違う』
」
。
得させる彼の能力は、がた落ちに
からの逸脱であり、最悪、危険で
の称賛の声が寄せられた」と指摘
スコミだけでなく、共に米国の同
述べている。
なるだろう」
。
ある。安倍首相は、今やるべき大
している。
「しかし、事実というものがあ
る。日本は朝鮮半島を占領した。
FT(4/29)
社説も、
「先週、安
事な仕事に集中すべきである」。
同時に、
「朝日新聞の世論調査で
盟国である日韓の関係悪化を強く
そして、
「日中両国は、領有権問
懸念する米政権の意向も反映され
題の平和的解決を図ることが必要
満州を占領し、やがて中国全土を
倍内閣の閣僚数人が靖国神社を参
一方、WSJは社説では取り上
は、安倍首相の経済政策への支持
ているように見える。
である。北朝鮮や、その核兵器の
占領した。マレー半島に侵攻し
拝し、安倍首相は供物を奉納し
げず、ニュース記事だけで安倍首
が50%なのに対して、外交・安
問題を解決するのに協力して当た
た。侵略を行ったのだ。ドイツが
た。さらにひどいのは、安倍首相
相の
「侵略」に関する国会答弁と、
全保障問題へのスタンスへの支持
NYT(4/24)は、前日の多数
らなければならない時に、日本が
歴史に率直に向き合って、欧州に
は第2次世界大戦において日本が
それに対する中韓両国の反発など
はわずか14%だった」ことを引用
の国会議員による靖国神社参拝を
中国や韓国に対して敵対心を煽る
おけるその地位を確立してから何
『侵略』をしたかどうかを問うよう
の事実を報道している。
し、
「麻生副総理など、安倍首相に
取り上げて、
「日本の無用なナショ
ことは特に無謀に見える。安倍氏
十年にもなるのに、日本では、な
な、右派が得意とする話題を持ち
WSJA
(5/ 3)トウコ・セキ
近い閣僚すら、経済から教育や憲
ナリズム」
と題する社説で、
「12月
は、歴史上の傷を広げるのでな
ぜ事実を認めたくない人たちがい
出した。憲法改正を容易にするた
グチ記者の記事は
「安倍内閣の閣
法改正など、政府のアジェンダの
の首相就任以来、安倍首相と与党
く、長く低迷してきた日本の経済
るのか? 我々は、韓国や、それ
めのキャンペーンも始めた。これ
僚による靖国神社参拝を受けて近
方向転換を懸念している」と述べ
自民党は、経済の再生や2011年
を復活させ、アジアや広く世界に
以上に中国が、時には国内の政治
らの行動に対し、近隣諸国は予想
隣諸国の感情が高ぶる中、安倍首
ている。 の東日本大震災からの復興、北朝
おいて主要な民主主義国としての
目的のために反日感情を煽るとい
通りの反応を示した……日本の同
相は、第2次世界大戦中のアジア
鮮のような隣国との厄介な関係な
役割を強化することに重点を置い
うことを理解してはいる。だから
盟国である米国さえも、安倍首相
ど一連の複雑な政策課題を処理し
た日本の未来図を描くことに集中
といって、今週安倍氏が陥った種
が厄介な問題を起こそうとしてい
ようとしてきた。これらと関係の
すべきである」と訴えている。
類の自滅的な修正主義を正当化す
ることに苛 立っている」と述べて
ることにはならない」。
いる。
ないところで論争を引き起こすこ
WP(4/27)社説も、
「歴史に向
とは非建設的であるが、今回、安
き合えない安倍晋三」と題して、
「歴史に向き合うことができな
倍首相と国会のナショナリスト仲
同様の趣旨で論じている。NYT
ければ、韓国や中国は、安倍氏
〔経済広報〕2013年6月号
い ら だ
そして、次のように論じてい
る。
k
(編集顧問 石塚嘉一)
経済広報センター国際広報部は、ワシントン・ポスト
(略記WP)
、ニューヨーク・
タイムズ
(NYT)
、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)、ウォール・ストリー
ト・ジャーナル・エイジア(WSJA)、ロサンゼルス・タイムズ
(LAT)
、USAトゥデ
イ
(UST)
、ビジネスウィーク
(BW)
、タイム、ニューズウィーク
(NW)
、フォーリ
ン・アフェアーズ、フォーブズ、フォーチュン、エコノミスト、フィナンシャル・
タイムズ
(FT)
、タイムズ、ガーディアンなどの紙誌の論調分析を行っている。
2013年6月号〔経済広報〕
21
3月15日~4月15日
NEWS
Keizai Koho Center News
は、http://www.kkc.or.jp/data/
その後の質疑懇談では、社員と
券業協会、投資信託協会、信託協
に関する件、諸規程に関する件
の影響』を発行した。2012年11月
question/00000090.pdfを参照)
の懇談を通じて、技術伝承の方法
会)が実施している教材提供や講
に つ い て 原 案 通 り 承 認 さ れ た。
に開催した拓殖大学の朱炎教授の
や人材育成策、今後の木工事業の
師派遣など、様々な教育支援プロ
講演会の概要をまとめたもの。
主要企業へのアンケー
展望、木工場が取り組む地域貢献
グラムを紹介するガイドブック
ト調査を通じて、広報の
活動などについて理解を深めた。
『金融教育プログラム活用ガイド』
3
/
28
3
/
21
組織や人材について51社の実例
3
/
18
を作成した。
「企業広報講座
(第7回
を取りまとめた『主要企業の広報
東京会場)」を開催し、キ
組織と人材 2013年版』を発行し
3
/
25
た。
リンの藤原哲也コーポレートコ
ミュニケーション部長が「キリン
広報部門の基本方針や企業組織
社会広聴活動を取りま
中学生、高校生を対象に金融授
とめた『ネットワーク通信
業を行う教員に配布し、金融団体
春号
(No.54)
』を発行した。
「 道州
による金融教育の普及を促進す
制に関するアンケート」
「CSRに
る。
経 団 連、 M I T( マ サ
ジャパンプログラムとの共催でシ
4
/
3
ンポジウム「新しい時代の製造業」
人代)が開催され、習近平新政権
を開催した。
の布陣、今後の政策などが決定、
チューセッツ工科大学)
今年3月に第12期中国共
産党全国人民代表大会
(全
MITのスザンヌ・バーガー教
発表された。この全人代の期間中
授は、経済成長やイノベーション
に現地で密着取材した人民日報海
を維持するためにも製造業を国内
外版の蒋豊編集長を招き、中国の
「 第96回 事 業 企 画 委 員
に残すべきであり、そのための大
抱える問題点についての講演会
会」
(委員長:髙尾剛正 住
企業、ベンチャー、それらを支え
の広報活動」をテーマに講演した。
の中での位置付けをはじめ、具体
関するアンケート」調査結果や、
藤原氏は、事業統合に伴う広
的な組織体制や業務内容、組織変
東京ガス、ダイハツ工業における
報業務の効率化や部門を超え
革の状況、人員構成や人材育成の
「企業と生活者懇談会」
の模様、お
たグループ一体の広報の取り
考え方などを紹介している。加え
よび未来都市モデルプロジェクト
友化学代表取締役副社長執行役
る教育などにおける官民の支援体
蒋氏は今回の全人代は、今まで
組 み、 同 社 の C S V( 共 有 価 値
て、ソーシャルメディアを含むイ
見学会、国際戦略総合特区見学会
員)
を開催し、第2回理事会付議事
制を含めたエコシステムの維持・
の大会と違い民意が反映されたも
の 創 造 )活 動 に お け る ブ ラ ン ド
ンターネット広報や、グローバル
の概要などについて掲載した。
項について説明した。また、①日
改善が必要であると述べた。
のと分析。今後の日中関係はアジ
構 築 の 戦 略 に つ い て 説 明 し た。
広報など、幾つかの広報テーマに
また、広報の効果測定につい
関する具体的な取り組みも掲載し
て、従来の広告換算に加え、最近
ている。
ではソーシャルメディア上の反応
も参考指標になりつつあると述べ
た。参加者は約50名。
3
/
22
「企業と生活者懇談会」
を清水建設の東京木工場
(東京都江東区)で開催し、社会
3
/
18
3
/
25
「緊急 全人代報告」
を開催した。
本経済新聞への「突き出し広告」の
東京大学の藤本隆宏教授は、イ
ア圏内で二大強国の存在という視
『 デ イ リ ー・ テ レ グ ラ
連載、②2013年度エネルギー教
ノベーションや良い製品設計があ
点から経済、外交などを検討しな
フ』紙のアンブローズ・エ
育の実施など5件について審議・
れば日本の製造業は生き残れると
ければならないと指摘した。参加
ヴァンズ=プリチャード国際ビジ
検討し、了承された。さらに、韓
し、東芝の隅田敏生産企画部長
者は約70名。
ネス編集長を講師に、講演会「終
国研究者招聘プログラムなど10
は、暗黙知をベースとした現場教
わりなきユーロ危機と英国の欧州
件について報告した。
育から形式知をベースとしたもの
3
/
25
からの離別」を開催した。
(詳細は、
本誌16ページを参照)
社会広聴会員を対象
広聴会員19名が参加した。東京
に実施したアンケート
木工場の沿革・概要について説
の結果を取りまとめた
『 第16
明を受けた後、木工場内を見学
回 生活者の
“企業観”に関する
し、材料である木材の特徴、家
3
/
25
調 査 報 告 書 』を 発 行 し た。
(詳細
具・ 建 具 製 作 の 工 程 を 学 ん だ。
3
/
27
「第2回理事会」を開催
への移行が現場保持のカギである
4
/
4
と解説した。参加者は約200名。
ローバル統括のベン・ボイド氏を
エデルマン社のコーポ
レート・プラクティス・グ
講師に
「海外における広報活動のポ
し、 米 倉 弘 昌 会 長 は じ
金融団体
(全国銀行協
め6名の理事が出席した。2013
会、 生 命 保 険 文 化 セ ン
年度の事業計画および収支予算
4
/
3
ター、日本損害保険協会、日本証
に関する件、2013年度役員報酬
No.132)
『日中対立の経済関係へ
小 冊 子( ポ ケ ッ ト・ エ
イント」のテーマで講演会を実施
デ ィ シ ョ ン・ シ リ ー ズ
した。
(詳細は、本誌2ページを参
PR・IR・危機管理
照)
[巻頭特集]
広報力で政治は変わるか
ネット選挙のコミュニケーション
[巻頭レポート]
話題のドラマに学ぶ
7月号
定価:1200円
(税込)
編集・発行
株式会社宣伝会議
購読申込
月刊「広報会議」読者サービスセンター
TEL:0120-55-5059
インターネットからもお申し込みいただけます。
http://sendenkaigi.com/
「空飛ぶ広報室」
の舞台裏
[特集]
プレスリリースの書き方・届け方
[青山広報会議]
企業活動に貢献するCSRレポート
モスフードサービス/ミサワホーム/グンゼ
22
〔経済広報〕2013年6月号
2013年6月号〔経済広報〕
23
3月15日~4月15日
記者は企業と信頼感を保ちつつも
適度な緊張感を
よ
し
つ
ぐ
ひ
ろ
吉次弘志
NEWS
日本経済新聞社 編集局 経済部長
Keizai Koho Center News
慶應義塾大学商学部で
4
/
9「企業人派遣講座」を実施
師:中村 清 早稲田大学 国際教養
グ戦略~オリエンテーション」、
4
/
10
講師:清水 聰 慶應義塾大学 商学
読売新聞社の橋本五郎特別編集委
部教授)
員を講師に迎え、マスコミ関係者
テレビのコメンテー
ターとして活躍している、
■入社以降、どのような
面の連載企画も担当し、何を取材すべきか悩みなが
取材を。
ら奮闘した記憶がある。2011年、東日本大震災の
吉次 1987年に入社し、
直後に『日経ヴェリタス』の編集部長に就任した。そ
証券部に配属され、兜町
して、2013年4月から現職である。
を取材して回った。当時
学部教授)
した。
( テーマ:
「インターネット
時代の消費者行動とマーケティン
のテーマで講演した。
4
/
10
日本経済新聞に
「ストッ
は日経金融新聞の創刊な
■経済部長として、記者に話していることは。
プ!違法電子書籍」と題す
ど日経の拡大期で、証券
吉次 取材に臨む際、相手への礼節を忘れないよう
部には人員が多く配置さ
にと指導している。仮に不祥事であっても、厳しい
れ た が、 そ の1987年 秋
質問はしながらも聞き方が無礼になったりしてはい
にはブラックマンデーが起きたことが印象に残って
けない。社会人としての常識をもって対応するよう
いる。
にと話している。
る
「意見広告」を掲載した。
と会員企業・団体の広報担当役員
4
/
11
横浜国立大学大学院都
との意見交換の場である「広報担
た。
( テーマ:「科学技術が拓く未
証券部には5年いたが、最初の2年間は企業担当
取材方法としては、訪問前に相手先の企業や過去
市イノベーション学府で
当役員とオピニオンリーダーとの
来社会~ガイダンス」、講師:古
として財務や業績をカバーしていた。後半3年間は
の経緯(なぜ今これを取材しているのか)などを勉強
「企業人派遣講座」
(横浜市と共催)
懇談会」を開催した。橋本氏は、
澤 明 東京大学 大学院工学系研究
証券業界の担当として兜クラブに常駐した。当時は
することが重要だと常日ごろから言って聞かせてい
を実施した。
( テーマ:「低炭素型
発足して間もない新政権の舞台裏
科物理工学専攻教授)
銀行と証券会社の垣根問題で制度改革が大テーマに
る。企業担当の場合、経営戦略や課題などを深く知
都市づくりへ・産業界の挑戦と都
に触れながら、歴代の総理を例に
なっていた。また、証券会社の損失補填問題などで
るには時間もかかるので、短くても1年以上は担当
市マネジメント」
、講師:信時 正
挙げて、リーダーの在り方、今後
につけるようにしたい。取材によっては相手側と利
人 横浜市 温暖化対策統括本部環
の政権運営などについて語った。
同志社大学経済学部で
4
/
11「企業人派遣講座」を実施
証券業界が大きく揺れた時期でもあった。
1992年から8年間は経済部で、最後の1年間は
害が対立することもしばしばだ。企業からの信頼を
した。
( テーマ:「科学と技術~世
日銀のキャップを務めた。日銀、金融機関、財務省
得つつも適度な緊張感を保てるような記者を育てた
上海交通大学凱原法学
界同時不況後の成長戦略~ガイダ
を主に担当した。当時は細川政権が誕生した時期
い。
院で「第18回日本経団連企
ンス」
、講師:谷村 智輝 同志社
で、不良債権問題など政治的にも揺れていた。
4
/
10
境未来都市推進担当理事)
4
/
10
早稲田大学国際教養学
4
/
10
東京大学教養学部で「企
業 人 派 遣 講 座 」を 実 施 し
経済部での中堅記者時代は金融危機と格闘してい
■紙面をつくる上で心掛けていることは。
部で
「企業人派遣講座」を
業法務高級講座」
(経団連との共
実施した。
( テーマ:
「日本企業論
催)を開催した。パナソニックの
た思い出がある。1997年には1カ月間に北海道拓
吉次 日経新聞の経済記事は、金融政策やマクロ政
~日本企業の国際戦略とその経営
新井克彦理事リーガル本部副本部
殖銀行、山一證券など、銀行・証券会社の破綻が相
策の記事が多いので堅くてとっつきにくいというイ
理念~オリエンテーション」、講
長が「パナソニック法務の取組み」
次ぎ、取材しながらも
「こんなことが起こるのか」
メージを持たれがちだ。また、時間がなくて読めな
と驚いた記憶がある。1998年に長銀、日債銀など
い人や毎日目を通せない人もいるだろう。書き手側
の巨大破綻も経験。1999年には銀行再編が起きた。
としては、「これだけは読んでほしい」という売りモ
金融危機・再編が一段落したところで、2000年に
ノ記事を各紙面に1つ入れるようにしているので、
ワシントンに異動した。
時間がない人はそこに目を通してほしい。また、今
大学 経済学部准教授)
k
(国内広報部 岡本清美)
ワシントンでは4年間勤務し、同時多発テロや対
日初めて読む人にも内容が分かるよう、過去の記事
イラク戦争、ITバブルの崩壊を目の当たりにし
と多少重なる部分はあっても、経緯を書くなどの工
た。
夫をしている。 その後経済部、政治部のデスクを経験した。ちょ
うど自民党から民主党への政権交代の時期。日経1
24
ィ
デ
メ
し
に
ア
〔経済広報〕2013年6月号
く
聞
k
(聞き手:国内広報部長 佐桑 徹、
文責:国内広報部専門研究員 鈴木恵理)
2013年6月号〔経済広報〕
25
今さら聞けない
ネットPRの基礎知識
5
探しても
見つからないものは
「ありません」
ひ
ら
た
だ
い
じ
平 田 大 治
シックス・アパート
(株)
執行役員 CTO
企業広報 vs.
マーケティング広報
企業広報よくある質問
3
企業広報の方法とマーケティング広報の方法
cc-by Joi Ito
は何が違いますか。
よりアグレッシブなマーケティング広報
ネットで検索が当たり前
まとめられるためには、そのタイミングで情報が公
企業広報もマーケティング広報(以下、MPR)も
インターネットが本格的に普及し、ネットの検索
開されていて、ブラウザで誰でも閲覧可能な状態に
広報活動である以上、基本的な違いはないはずで
サービスもすっかり生活の一部になってきました。
なっていなければなりません。PDFなどもウェブ
す。違いがあるとすれば、目的や目標の立て方が影
グーグルが設立されたのは1998年のこと、まだ15
向きでないので敬遠されがちです。検索した時に見
響しているのではないかと思います。
年しかたっていません。私の本業はウェブに関わる
つからないと、その情報はそもそもなかったことに
MPRでは、“商品知名度”とか“使用メリットの
見える広報の推進”、“企業認知を促進して企業価値
技術者ですが、周りには検索サービスを全く利用し
されてしまいます。大変な機会損失です。できる限
浸透”といった経過目標は様々であっても、最終目
の増大を図る”、“環境配慮型の企業としての認知獲
ないで仕事ができる人はいないと言っても過言では
り多く、価値のある情報をウェブページのコンテン
標は売り上げの拡大であることが明らかです。活動
得”といったものになりがちです。期間もかなり長
なく、完全に依存しています。もちろん、仕事以外
ツとしてアウトプットしておくことは、ネット上で
期間は1年や3年、時には6カ月といった短期勝負
期に設定されます。次々に発生する発表案件や取材
にも、生活や趣味に関しても、何でも検索していま
は何よりも重要です。そして、一度アウトプットし
になることもあり、その間に一定の成果を挙げるこ
の申し込みなどに忙しく対応していると、いつしか
す。以前は調べものといえば、図書館に行って本を
たら消してはいけません。
とが求められます。そのため、あらゆる知恵を絞っ
目標への意識が薄くなり、能動的な広報活動よりも
て目標を達成しようという強いモチベーションが働
受動的な業務ばかりで日々を過ごしてしまうのが現
き、アグレッシブになる傾向があります。有名タレ
実です。
探したり、辞典や文献をあさったり、かなりの労力
をかけていましたし、見つけられないこともありま
「パーマリンク」
が重要
きみ
しま
くに
お
君 島 邦 雄
(株)
ココノッツ 代表取締役
した。今では、大抵のことはネットで見つけられま
古い情報だからといって消すと、検索されたり
ントを使ったり、話題性の高い奇抜なイベントを開
一般に、企業広報では正確性や順法性が優先さ
す。人によって差はあると思いますが、少なくと
キュレーションされたりして得られた、せっかくの
催したりして、より多くのメディアの関心を集めよ
れ、横並び意識が強く働きます。一方で、他社の成
も、情報収集の目的でテレビを見たり新聞を読んだ
接触機会を失いかねません。いつ読まれてもいいよ
うと試みます。また、フェイスブックやツイッター
功事例を知っても、あれは自社にはそぐわないとか
うに、情報の公開年月日をあらかじめ明示しつつ、
といったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・
社風が違うなどと消極的になる企業も少なくありま
新しい情報への誘導のための動線、要するに「リン
サービス)の活用も活発です。
せん。リスクを過大に評価してしまうようです。
りすることは減りました。
情報の取捨選択は読者に
ク」を設置しておくのが得策です。
「最新版」や「次世
そこには競争意識や差別化意識が強く働いていま
広報活動の基本であるプレスリリースにも違いが
代」といった陳腐化しやすい修飾的な言葉を避け、
す。また、費用対効果が厳しく問われる一方で、効
見られます。MPRのものは平易な文章で書かれ、
と、インターネットが普及する前は、情報を得る接
客観的な書き方を心掛けるのも有効です。何よりア
果が期待できるなら、必要な予算は投入されること
写真や図が多く、カラー化されているなど、良しあ
点としてテレビや新聞といったメディアを通さない
クセスするためのURLも変更しないで「パーマリ
になります。それもこれも売り上げや利益の目標を
しは別にして、何が何でも記者の目を引き、報道に
と、情報が存在すること自体を不特定多数の相手に
ンク」
(固定リンク、パーマネント・リンクからでき
達成するためです。企業と社会との対話を基本とす
結び付けたいという意気込みを感じます。企業広報
伝えることはできませんでした。今では、それなり
た造語)にすることが重要です。これらの仕組みは
る広報活動としては、少々 “売らんかな”に偏り過ぎ
のプレスリリースは地味で、文章もお役所の文書の
の部分を検索サービスやソーシャルメディアが担っ
ブログの発展の中ではぐくまれ、今ではツイッター
てはいないか、と気になることもしばしばあるほど
ように堅いものが見られます。これには、記事にし
ていると言ってもよいでしょう。最近では
「キュレー
などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・
です。
てもらいたいという意欲よりも、
「一応発表してお
ション」や
「まとめ」といった言葉で、誰でも自ら選
サービス)
にも応用されています。
広報をはじめ、情報を提供する側の立場で考える
んだ記事をほかの人にお勧めできる、言ってみれ
26
読者に検索されたり、キュレーションされたり、
ネットの普及は情報の流れを変えただけでなく、
保守的になりがちな企業広報
く」という消極的な姿勢を感じてしまいます。
企業広報もMPRから学び、よりアグレッシブに
ば、誰でもメディアをつくれるようなサービスもた
情報の価値も変えました。現在のウェブ上では、多
それに対して企業広報では、理念的あるいは抽象
活動すべきではないでしょうか。派手な活動ばかり
くさん出てきています。また、自分の嗜好に合わせ
くの人にリンクされ、検索され、参照されているも
的な目標の下に仕事が進められることが多いようで
が良いわけではありませんが、企業は変化に対応
て
「キュレーション」を機械的に行うサービスもあり
のが価値の高いコンテンツです。消したい過去は誰
す。発表件数や報道件数など、短期目標は具体的に
し、常に前へ進まなければ存在価値を失います。企
ます。情報の取捨選択はメディア、記者や編集者と
にでもあるものですが、古くなったからといって捨
設定されてはいても、最終ゴールは“トップの顔が
業広報においても全く同様だと考えるのです。 k
いった人たちから、読者自身に移っているのです。
てずに、うまい活用を心掛けましょう。 〔経済広報〕2013年6月号
k
2013年6月号〔経済広報〕
27
企業広報ニュース
企業広報ニュース
広報誌紹介
出前授業
キッズコーナー
Book
『なぎさ』
日産デザインわくわくスタジオ
出光興産
『プロフェッショナルは
「ストーリー」
で伝える』
京急のまちマガジン
日産自動車は、社会貢献活動の重点分野のひとつ
エネルギー企業、出光興産の
「出光なるほど環境
『なぎさ』は、京浜急行
である
「教育への支援」
の一環で、3種類の出張授業
サイト 地球に知エネルギー」
(http://www.idemitsu.
を展開している。いずれも自動車メーカーとしての
co.jp/chienergy/special/index.html)は、エネルギー
知見や特徴を生かしたユニークな内容で、子どもた
報誌として1956年11月
を上手に使い、地球環境や資源を大切にする出光の
ちにモノづくりの楽しさや奥深さを体験してもら
知恵の力=“知エネルギー ”について分かりやすく紹
に創刊され、今年で57
い、職業観を育むキャリア教育を目的としている。
介したサイトだ。
電鉄発行の沿線向け情
そのうちのひとつである「日産デザインわくわく
年目を迎える。
A5判16ページの隔
月刊で、京急線の駅や
スタジオ」は、日産デザイン部門が独自に企画して
化炭素排出量やタンカーの輸送燃料を低減したり、
2008年度に開始し、2012年度は25校で2200人、こ
石油をつくる段階で発生するゴミを資源として再利
れまで延べ約1万人の子どもたちが参加した。
でも閲覧することができる。
師は同社の現役デザイナーが務める。はじめにクル
マができるまでの過程を紹介し、子どもたちが描い
たクルマの絵をもとに、デザイナーがスケッチ作業
現在は、同じく隔月刊の情報誌『京急線 普通電車
のデモンストレーションを行う。また、デザイナー
の旅』と交互に発行しており、京急グループの営業
が自分の生い立ち、なぜデザイナーという職業を選
情報だけでなく、京急沿線を中心とした行事や文
化、施設などを紹介する特集を毎号組んでいる。
んだのか、夢の実現に向けた努力や勉強などについ
て語り、子どもたちの職業観の形成にも寄与するこ
とを目指している。
毎号の特集では、時季に応じて旬な沿線の魅力を
参加した子どもからは、
「夢を持つことや夢を実現
発信。特集のテーマは幅広く、直近6月発行の第
するために努力することの大切さが分かった」
「カー
578号では、ユネスコ世界遺産登録が待ち望まれる
鎌倉を特集している。
デザイナーの仕事がよく分かった」といった感想が
寄せられている。
日産自動車は
「社会貢献活動としての意義と共に、
また、
『なぎさ』
の主な読者層であるミドル&シニア
層に向けた新連載
「大人の讃歌」
では、「大人が学ぶ・
新しいことを始める・体験する・身体を動かす」と
いった特集を紹介している。
講師役で参加した社員のプレゼンテーション能力、
コミュニケーション能力の向上にも効果があり、人
ことで、駅周辺地域のPRを促進し、沿線イメージ
向上と旅客誘致に繋げていきたい。 k
(京浜急行電鉄(株) 総務部広報課 丸田和也)
28
〔経済広報〕2013年6月号
うよう工夫した「石油に知エネルギー」をはじめ、微
生物を生かした防除剤などの農薬で農業や畜産分
野に貢献する
「畑に知エネルギー」
、省エネルギー
現代社会は情報があふれ、必要なデータや情報が
何でも手に入る。むしろ、人々は膨大な情報に埋も
れて、身動きが取れなくなっている。著者は、こう
を実現する有機EL材料を開発する
「光の知エネル
した社会では「信用」こそが人を動かす力を持ち、そ
ギー」、1980年代から取り組む地熱発電のほか、風
の信用を生み出すための手段として、「ストーリー」
力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーを
研究する「資源の知エネルギー」など、子どもたちの
インタビューに社員が答える形で出光の取り組みを
詳しく解説している。
エ コ ラ イ フ 日 記 で は、 子 ど も た ち が 知 エ ネ ル
ギーってなに?で学んだ様々な出光の取り組みが、
実際の生活の中でどのように役立っているのかを体
験し、その様子を日記として紹介している。
知エネルギーのヒントでは、不用になった新聞紙
が不可欠であると説く。
同書では、人を動かすためのストーリーとして、
「『私は何者か』というストーリー」
「『私はなぜこの場
にいるのか』というストーリー」「ビジョンを伝える
ストーリー」
「スキルを教えるストーリー」
「価値観を
具体化するストーリー」「『あなたの言いたいことは
分かっている』というストーリー」の6種類を示し、
それぞれの役割について具体例を挙げて解説。聞き
手に結論を押し付けるのではなく、共感を呼ぶ良質
なストーリーを語ることで、話し手の人間性や言葉
に対する信頼が得られると指摘する。
また、文脈を持つストーリーは客観的事実よりも
や歯ブラシを掃除道具として利用したり、古いタオ
財育成の一助になっている。今後もできるだけ多く
ルをぞうきんとしてリサイクルするといった「学校
の社員が自発的に参加するよう働き掛けを行ってい
編」のほか、燃費向上に役立つ“環境タイヤ”の着用
きたい」
と話している。
や、最適なエンジンオイルの使用によるガソリンの
強力であるとし、聞き手の心を動かすには、言葉だ
けではなく、表情や声色、体の動きなどにも一貫性
を持たせた“真実味のある”ストーリーを打ち出すこ
とが重要であると説明している。巻末では、好まし
また、海外の事業拠点からも出張授業を実施した
節約といった「カーライフ編」など、身近な場面で簡
い企業文化をストーリーの力で維持、活性化させて
いという問い合わせが増えており、2011年度には
単にできる地球に優しい取り組みを提案している。
きた米国企業の事例も紹介している。
「日産モノづくりキャラバン」
をメキシコに拡大する
知エネルギーニュースでは、事業活動や事業所で
こうした特集により、京急沿線の魅力を発掘し、
ユーザーが関心のある質の高い情報を発信し続ける
アネット・シモンズ 著、池村千秋 訳、海と月社
2012年11月発行、2520円(税込)
用したりするなど、暮らしを支える石油を上手に使
このプログラムは、小学5・6年生が対象で、講
グループ施設を中心に毎号5万部を配布しているほ
か、京急沿線お出掛け情報サイト「京急まちWeb」
知エネルギーってなに?では、製油所からの二酸
など、グローバルな取り組みになり始めている。 k
(国内広報部専門研究員 長尾ひとみ)
の出光の環境関連ニュースをラインナップ。環境を
守るための出光の“知エネルギー ”が満載だ。 k
(国内広報部専門研究員 森田真樹子)
著者は、今ビジネススキルとして注目されるス
トーリーテリングの第一人者である。トップ広報
や企業コミュニケーションの参考になる一冊だ。 k
(国内広報部専門研究員 森田真樹子)
2013年6月号〔経済広報〕
29
2013
6
企業・団体の
CSR活動
王子の森・自然学校
王子ホールディングス
(株)
http://www.kkc.or.jp/
■HP
http://www.ojiholdings.co.jp/sustainability/
social_contribution/school/index.html
平成
昭和
■お問い合わせ先
総務部広報室
TEL:03−3563−4523
年 月 日発行
(毎月 回 日発行)
第
年 月 日第 種郵便物認可
55 25
10 6
23 1
間伐体験の様子
3
1
1
王子グループは、日本各地に、民間企業として
最大規模の19万ヘクタールに及ぶ社有林を保有
している。紙の原料調達は海外での植林事業や輸
巻第
35
入が主流となっているが、水源の確保、土砂の流
6
号通巻
出防止、生物の多様性の保全など、森林の持つ
様々な環境保全機能を尊重し、国内の広大な社有
号
406
林を守り続けている。
王子グループは、この社有林を次代の担い手と
製紙工場見学
自然体験型環境教育プログラム「王子の森・自然
学校」
を開校している。
(公社)日本環境教育フォー
機会を提供してきた。
ラムとの協働による企画で、小・中学生から参加
「森と産業と人のつながり」
を楽しみながら学ぶ
者を募り、夏休み期間に2泊3日の日程で開かれ
ことが自然学校のテーマ。2泊3日のキャンプの
る。2004年に第1回が北海道で開催されてから
中では、製紙工場見学、植林や間伐、紙すき体験
2012年までで8回を数え、開催場所を日光、富
など森林の育成や活用に関連したプログラムに加
士、広島、宮崎へと各地の社有林に広げて、延べ
えて、北海道校のツリークライミング、富士校の
600名弱の生徒に都会では得られない環境学習の
渓流での魚のつかみ捕り、宮崎校の海でのスノー
ケリングなど、各校の環境を生かした自然体験を
楽しめる。
王子グループは、少しでも多くの子どもたちに
自然の大切さを知ってもらい、また、暮らしと森
づくりや紙づくりとの関係について正しく理解し
てもらうため、今後も引き続き自然学校を開催し
ていく。2013年夏の自然学校の募集は、この6
月に開始される予定だ。 k
(前 国内広報部主任研究員 小寺隆夫)
発行:一般財団法人 経済広報センター
Printed in Japan
発行人/中山 洋 編集人/佐桑 徹
東京都千代田区大手町一 三
- 二
- 経 団 連 会 館 頒価三一五円 ( 送料別、賛助会員の)
電話〇三 六
(本体価格三〇〇円) 購読料は会費に含む
- 七四一 〇
- 〇 二 一 〒一〇〇 〇
- 〇〇四 なる子どもたちの教育の場としても生かそうと、
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