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航空レーザ測量によるレベル500地形図の作成について / 川野 明夫
平成20年度技術研究発表会 理事長賞受賞論文 航空レーザ測量による レベル500地形図の 作成について 小石原川ダム建設所 (現草木ダム管理所) 川野 明夫 ~事業初期段階における効率的な地形データの取得~ 1 はじめに 2 航空レーザ測量について 小石原川ダムは、洪水調節、流水の正常な機能の維持、水 (1)航空レーザ測量の原理 道用水の供給を目的とした多目的ダムで、ダムサイトは、筑後 航空レーザ測量は、航空機に搭載した「航空レーザ計測装 川水系小石原川(福岡県朝倉市)にあります(図−1)。 置」を用いて地表を3次元計測するものです。航空機から地表 筑後川水系位置図 福岡県 佐賀県 大分県 小石原川流域 筑後川 巨瀬川 ら3次元座標を取得します(図−2)。 熊本県 鹿児島県 人工衛星 宮崎県 大肥川 佐賀江川 小石原川ダム 隈の上川 城原川 田手川 佐賀県 佐田川 長崎県 の物体にレーザ光を照射し、その反射光の到達時間と方向か 花月川 宝満川 安良川 小石原川 福岡県 筑後川 高良川 玖珠川 早津江川 赤石川 広川 大分県 航空機 熊本県 レーザ 図−1 小石原川ダムの位置 現在、ダム本体及び付帯設備、付替道路、工事用道 路等の調査、設計を実施しているところですが、ダム 反射位置 本体等構造物の設計に当たっては、地図情報レベル500 (1/500精度)の地形図が必要となります。 一般的に、地形図を作成するためには、現地において 基準点GPS 図−2 航空レーザ測量概念図 測量を行う必要がありますが、小石原川ダムでは、航空 30 ● 水とともに 水がささえる豊かな社会 レーザ測量による地図情報レベル500地形図の作成を試み (2)航空レーザ測量技術の現状 ました。 国内で航空レーザ測量による地形情報の取得が盛んにな 従来、航空レーザ測量は地図情報レベル1,000(1/1,000 り始めたのは平成13年頃からで、現在に至るまでレーザ発光 精度)までに適用されていましたが、今回の測量では、 数の向上等、計測作業の効率化を中心に機材の改良が進めら 新技術の導入等により計測精度の向上を図り、測量成果 れてきました。 について精度の検証を行うことにより、航空レーザで行 しかし、ダムの事業区域のように植生が繁茂する森林内で う地図情報レベル500の測量について、国内では初めて国 は、一般にレーザ測量の計測精度は劣ります。これは、入射光 土地理院の公共測量の承認を受けました。 が葉や枝に遮られて地表面に到達するまでに大きく減衰し、 航空レーザ測量によるレベル500地形図の作成について ● 31 平成20年度技術研究発表会 理事長賞受賞論文 地表面からの反射光も同様に葉や枝に遮られてさらに弱くな 計測データを統合解析し、空中ノイズの除去等を行い、3次 作業マニュアルの策定を行うものです。 す。この原因としては、図中の赤い点線で囲んだ箇所に り、地表面のデータを取得できないことがあるためです。 元データを作成します。 第16条申請に必要となる測量成果の精度評価として、 標高差の大きい点が多く分布していることが挙げられま ②グラウンドデータ作成 過年度の現地測量の成果(以下、「実測成果」)と今回 す。そこで、この箇所について点検測量として再度、現 3 計測及び地形図作成 フィルタリング処理により、遮蔽物等の影響を除去してグラ の航空レーザ測量の成果(以下、「レーザ成果」)とを 地測量を行いました(図−6)。 ウンドデータを作成します。 比較することで、信頼度の高い精度検証を行いました。 その結果、点検測量での実測成果とレーザ成果の標高 (1)計測計画 ③メッシュデータ作成 検証の方法としては、実測成果の標高点の標高と、そ 差は、標準偏差で0.432mから0.210mまで改善されまし 航空レーザ測量による地形図は、国土地理院の「航空レー グラウンドデータから任意のメッシュ単位に整理した数値 の位置に対応するレーザ成果の等高線データ上の標高値 た。このことから、今回の航空レーザ測量は、実際の地 ザ測量による数値標高モデル(DEM)作成マニュアル(案)」 標高モデル(メッシュデータ)を作成します。 の比較を行いました。検証の評価においては、公共測量 形を正しく計測できているものと判断できます。 に基づき、地図情報レベル1,000までの作成に適用されてきま ④等高線データ作成 作業規程における等高線の精度許容範囲である標準偏差 同様に他の地区(B,C,D)についても精度検証を行った した。今回、植生の繁茂する地域で、従来より精度の高いレベ メッシュデータを基に、標高値を持った線データである等 ±0.50m以内を基準としました。 結果を表−1に示します。標高差の平均値で見ると数cm ル500地形図の作成を行うため、より高密度で高精度な計測 高線データを作成します。 計画を立案する必要がありました。 コンタクトフライトでの計測が可能で、データ取得密度の向上 と均一化が図れる「ヘリコプター搭載型」を採用しました。 (1)精度検証の方法 また、波形の記録方式として、 「波形記録方式」を採用しま 事業区域内には、過年度までの現地測量により既にレベル した。これは、反射光の強度のみを取得する従来型と比べ、 500地形図が作成されている箇所があり、今回実施した航空 反射光の波形自体を記録するため、データの取得精度の向上 レーザ測量は、それらを含み事業区域全体を包含するように が期待できるものです(図−3)。 行いました(図−4)。 ᚉᮮᆵ t1 t0 t1 t2 t2 t3 t3 t4 ᚉᮮᆵ࡚ࡢW࡛Wࡡ㛣㝰㎾ࡌࡁཱི࡙ᚋ࡚ࡀ࠷ 図−3 波形記録方式の概念図 32 ● +0.25 B れの地区においてもレベル500地形図の基準を満たす高精 0.25 度なデータ取得ができていることがわかりました。 0.50 0.75 表1 標高点の比較結果 A地区 B地区 C地区 D地区 母数 1,730 4,174 430 1,047 平均標高差(m) 0.002 -0.016 -0.026 -0.065 0.432 →0.210 0.234 0.399 0.273 標準偏差(m) 図−5 標高差の分布(A地区) ダムサイト 時間 時間 地物等に反射したデータを波形として取得 t0 ἴᙟエ㘋ᘟ 範囲である±0.50mの範囲内となっていることから、いず +0.50 4 精度検証 そこで、計測に当たっては、低空、低速度で地形なりに飛ぶ レベルの差であり、標準偏差は公共測量作業規程の許容 (m) +0.75 計測 レーザ測量範囲 小石原川 検証 現地測量範囲 (2)精度検証の結果 図−5に示します。 5 計測条件の違いによる精度への影響 A地区の標高差の標準偏差は0.432mと基準である0.50m 取得データの密度が精度に及ぼす影響を考察するため、間 以内を満足していますが、やや大きい値となっていま 引き処理(意図的にデータ点数を間引いたもの)により作成 A地区における実測成果とレーザ成果との標高差の分布を A C 江川ダム D した密度の異なるデータ群から地形図を作成しました(図− 0km 1km 2km 写真 3km 7)。 図から分かるようにデータ密度が粗くなると等高線や横断 図−4 測量エリア位置図 線も粗くなり、正しい地形を再現できなくなります。 航空レーザ測量による地図情報レベル500の地形図作 このことを定量的に評価するために、密度を変えて間引き 実測成果との比較 レーザ発光数は、従来の2倍の20万回/秒が可能な最新機 成は国内で初めての試みであり、国土交通省公共測量作 材を使用しました。飛行高度については、繁茂した樹林から 業規程(以下、「公共測量作業規程」)によってマニュ の反射光を検知できる高さの上限が500m付近にあると推測 アル化されていない測量手法により公共測量を実施する の違いによる標高差の分布(ヒストグラム)を図−8に示しま されていますが、今回は特に精度の向上を図るため、高度を ことになるため、国土地理院の公共測量の承認を受ける す。 300mに設定しました。 に当たって、公共測量作業規程第16条(機器等及び作業 図に示すとおり、データ密度が4mを超えると標高差の標 (2)等高線図の作成 方法に関する特例)に基づく申請(以下、「第16条申 準偏差が±0.50m以内を満足できなくなることから、地図情報 等高線図の作成は、次の①~④の手順により行いました。 請」)が必要になりました。第16条申請とは、新技術の ①3次元データ(オリジナルデータ)作成 適用時に必要となるもので、測量成果の精度評価及び、 水とともに 水がささえる豊かな社会 処理を行ったデータ群から地形図を作成し、過年度の実測成 点検測量後の比較 点検測量エリア 図−6 点検前後の結果比較 点検エリア付近の状況 果との標高差を前述した方法により比較しました。データ密度 レベル500の地形図を作成するためには、データ密度として4 m四方に1点以上が必要であることが確認できました。 航空レーザ測量によるレベル500地形図の作成について ● 33 平成20年度技術研究発表会 理事長賞受賞論文 地表面からの反射光も同様に葉や枝に遮られてさらに弱くな 計測データを統合解析し、空中ノイズの除去等を行い、3次 作業マニュアルの策定を行うものです。 す。この原因としては、図中の赤い点線で囲んだ箇所に り、地表面のデータを取得できないことがあるためです。 元データを作成します。 第16条申請に必要となる測量成果の精度評価として、 標高差の大きい点が多く分布していることが挙げられま ②グラウンドデータ作成 過年度の現地測量の成果(以下、「実測成果」)と今回 す。そこで、この箇所について点検測量として再度、現 3 計測及び地形図作成 フィルタリング処理により、遮蔽物等の影響を除去してグラ の航空レーザ測量の成果(以下、「レーザ成果」)とを 地測量を行いました(図−6)。 ウンドデータを作成します。 比較することで、信頼度の高い精度検証を行いました。 その結果、点検測量での実測成果とレーザ成果の標高 (1)計測計画 ③メッシュデータ作成 検証の方法としては、実測成果の標高点の標高と、そ 差は、標準偏差で0.432mから0.210mまで改善されまし 航空レーザ測量による地形図は、国土地理院の「航空レー グラウンドデータから任意のメッシュ単位に整理した数値 の位置に対応するレーザ成果の等高線データ上の標高値 た。このことから、今回の航空レーザ測量は、実際の地 ザ測量による数値標高モデル(DEM)作成マニュアル(案)」 標高モデル(メッシュデータ)を作成します。 の比較を行いました。検証の評価においては、公共測量 形を正しく計測できているものと判断できます。 に基づき、地図情報レベル1,000までの作成に適用されてきま ④等高線データ作成 作業規程における等高線の精度許容範囲である標準偏差 同様に他の地区(B,C,D)についても精度検証を行った した。今回、植生の繁茂する地域で、従来より精度の高いレベ メッシュデータを基に、標高値を持った線データである等 ±0.50m以内を基準としました。 結果を表−1に示します。標高差の平均値で見ると数cm ル500地形図の作成を行うため、より高密度で高精度な計測 高線データを作成します。 計画を立案する必要がありました。 コンタクトフライトでの計測が可能で、データ取得密度の向上 と均一化が図れる「ヘリコプター搭載型」を採用しました。 (1)精度検証の方法 また、波形の記録方式として、 「波形記録方式」を採用しま 事業区域内には、過年度までの現地測量により既にレベル した。これは、反射光の強度のみを取得する従来型と比べ、 500地形図が作成されている箇所があり、今回実施した航空 反射光の波形自体を記録するため、データの取得精度の向上 レーザ測量は、それらを含み事業区域全体を包含するように が期待できるものです(図−3)。 行いました(図−4)。 ᚉᮮᆵ t1 t0 t1 t2 t2 t3 t3 t4 ᚉᮮᆵ࡚ࡢW࡛Wࡡ㛣㝰㎾ࡌࡁཱི࡙ᚋ࡚ࡀ࠷ 図−3 波形記録方式の概念図 32 ● +0.25 B れの地区においてもレベル500地形図の基準を満たす高精 0.25 度なデータ取得ができていることがわかりました。 0.50 0.75 表1 標高点の比較結果 A地区 B地区 C地区 D地区 母数 1,730 4,174 430 1,047 平均標高差(m) 0.002 -0.016 -0.026 -0.065 0.432 →0.210 0.234 0.399 0.273 標準偏差(m) 図−5 標高差の分布(A地区) ダムサイト 時間 時間 地物等に反射したデータを波形として取得 t0 ἴᙟエ㘋ᘟ 範囲である±0.50mの範囲内となっていることから、いず +0.50 4 精度検証 そこで、計測に当たっては、低空、低速度で地形なりに飛ぶ レベルの差であり、標準偏差は公共測量作業規程の許容 (m) +0.75 計測 レーザ測量範囲 小石原川 検証 現地測量範囲 (2)精度検証の結果 図−5に示します。 5 計測条件の違いによる精度への影響 A地区の標高差の標準偏差は0.432mと基準である0.50m 取得データの密度が精度に及ぼす影響を考察するため、間 以内を満足していますが、やや大きい値となっていま 引き処理(意図的にデータ点数を間引いたもの)により作成 A地区における実測成果とレーザ成果との標高差の分布を A C 江川ダム D した密度の異なるデータ群から地形図を作成しました(図− 0km 1km 2km 写真 3km 7)。 図から分かるようにデータ密度が粗くなると等高線や横断 図−4 測量エリア位置図 線も粗くなり、正しい地形を再現できなくなります。 航空レーザ測量による地図情報レベル500の地形図作 このことを定量的に評価するために、密度を変えて間引き 実測成果との比較 レーザ発光数は、従来の2倍の20万回/秒が可能な最新機 成は国内で初めての試みであり、国土交通省公共測量作 材を使用しました。飛行高度については、繁茂した樹林から 業規程(以下、「公共測量作業規程」)によってマニュ の反射光を検知できる高さの上限が500m付近にあると推測 アル化されていない測量手法により公共測量を実施する の違いによる標高差の分布(ヒストグラム)を図−8に示しま されていますが、今回は特に精度の向上を図るため、高度を ことになるため、国土地理院の公共測量の承認を受ける す。 300mに設定しました。 に当たって、公共測量作業規程第16条(機器等及び作業 図に示すとおり、データ密度が4mを超えると標高差の標 (2)等高線図の作成 方法に関する特例)に基づく申請(以下、「第16条申 準偏差が±0.50m以内を満足できなくなることから、地図情報 等高線図の作成は、次の①~④の手順により行いました。 請」)が必要になりました。第16条申請とは、新技術の ①3次元データ(オリジナルデータ)作成 適用時に必要となるもので、測量成果の精度評価及び、 水とともに 水がささえる豊かな社会 処理を行ったデータ群から地形図を作成し、過年度の実測成 点検測量後の比較 点検測量エリア 図−6 点検前後の結果比較 点検エリア付近の状況 果との標高差を前述した方法により比較しました。データ密度 レベル500の地形図を作成するためには、データ密度として4 m四方に1点以上が必要であることが確認できました。 航空レーザ測量によるレベル500地形図の作成について ● 33 平成20年度技術研究発表会 理事長賞受賞論文 2m四方にデータが1点 10m四方にデータが1点 2.0m間引き 10m間引き 尾根頂部付近につ 尾根頂部付近につ いて、若 干の形 状 いては 、完 全に形 変化が見られる。 状が変わっている。 1目盛:1m 1目盛:1m 5m四方にデータが1点 図−7 データ密度と断面形状の関係 5.0m間引き 傾斜の急な中腹部 について、 1m程度 の形状変化が見ら れる。 行った結果、航空レーザ測量としては国内で初めて、レベル500 地形図についての公共測量の承認を得ることができました。 1目盛:1m 7 おわりに 頻度(%) 16 original 14 0.5m密度→標準偏差0.27m 2.0m密度→標準偏差0.33m 12 4.0m密度→標準偏差0.45m 10 5.0m密度→標準偏差0.52m 8 ダム事業の事業区域は非常に広く、必要な地形情報は、ダ ム本体及び付帯設備の設計、付替道路や工事用道路等の設 計、貯水池周辺地すべりの検討、貯水容量の確認等で事業区 6 域全域に渡ります。 4 事業の初期段階では、現地への立ち入りが制限されている 2 場合があり、また、設計等にあまり高い精度を求められないこ 0 1.5 1.25 1.0 0.75 0.5 0.25 0.0 0.25 標高差(m) 0.5 0.75 1.0 1.25 1.5 図−8 データ密度の違いによる標高差分布 とから写真測量の成果を使用し、事業の進捗に伴って現地測 量を実施していくことが一般的ですが、この場合、同じ範囲内 において事業段階に応じて縮尺精度の異なる地形情報を重複 6 まとめ して取得することになります。 今回、小石原川ダムにおいて実施した航空レーザ測量の成 る必要がなく、かつ、構造物の設計に必要な地図情報レベル 果について、過年度の現地測量の成果と比較した精度検証に 500の地形データを一括で取得することが可能となります。 より、公共測量作業規程における地図情報レベル500の精度 従って、事業の初期段階から精度の高い地形図を1度の測量 を満たすとともに、現地測量による成果と同等の精度を有し で作成することができるため、事業の効率化やコスト縮減に ていることが確認できました。 繋げることができます。このことから、今後のダム事業等にお また、計測条件を変えた検証において、地図情報レベル ける有効な地形情報の取得方法であると考えています。 500の地形図作成に必要なデータ密度は、4m四方に1点以上 小石原川ダムにおいても、今回の航空レーザ測量により、 との定量的な指標を見出すことができ、これらを基に作業マ 短期間で事業区域全域に渡る高精度のレベル500地形図を整 ニュアル(案)を作成しました。 備することができました。今回の成果を活用してダム本体等の この精度検証の結果と作業マニュアル(案)をもって申請を 設計を進め、事業の進捗に努めてまいります。 今回実施した航空レーザ測量では、ほとんど現地に立ち入 参考文献/ 1) 社団法人日本測量協会 .2002. 国土交通省公共測量作業規程(世界測地系対応版) 2) 国土交通省国土地理院 .2007. 航空レーザ測量による数値標高モデル(DEM)作成マニュアル(案) 34 ● 水とともに 水がささえる豊かな社会