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日本が世界に先駆ける - Nomura Research Institute

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日本が世界に先駆ける - Nomura Research Institute
第3章 未来への道しるべ ─ITの可能性と期待─
日本が世界に先駆ける
野村総合研究所 主席
篠原 健
ITバブル崩壊の意味
IT(情報技術)から始まった不況の波が、
よるユビキタス・ネットワークへの動きがあ
げられる。ネットワークのコア(中心部)よ
グローバル化した経済のもとで世界的な広が
りもエッジ(周辺部)において技術のコスト
りを見せつつある。無限の成長を約束するは
低下と高速化に向けた進化のスピードが速い。
ずであったニューエコノミーも神話にすぎな
その例として、ブルートゥース(無線を使っ
かった。ドットコム企業への過剰な期待によ
たデータ伝送技術)や無線LAN(ローカル
る資金流入が途絶え、更に機器メーカによる
エリアネットワーク)が出現し、端末が相互
ベンダーファイナンス(メーカー金融)など
の通信能力を獲得しつつある事があげられる。
の存在がこれを増幅し、不況は全産業に波及
し始めている。ITバブルの崩壊である。し
日本の製造業の課題
かしより本質的には、現在のパソコンを中心
総合電機メーカーをはじめとして、現在日
としたITが行き詰まったことがその理由で
本の製造業が収益低下に苦しんでいる。その
あろう。企業は新製品、新サービスを出し続け
経営的な課題は 3 つあげられる。第一にコス
るが、この方向と人々が持つニーズに乖離が
ト競争力の相対的低下と生産の空洞化である。
生じたとき、過剰生産が発生し企業収益の悪
第二に次世代製品のR&D(研究・開発)能
化を通じてバブルが崩壊するのだと言えよう。
力の低下、第三に世界的な生産集約への対応
の遅れである。第二と第三はいずれも日本の
強みであった垂直統合の弱みが出ていると見
日本の潜在力
ユビキタス・ネットワークは現在のパソコ
ンを中心としたITの次のパラダイムである。
ることが出来る。
海外に生産を移しながらも日本企業の競争
「ユビキタス」とは「あまねく存在する」の
力を維持し、かつ日本の雇用を維持するため
意味であり、あらゆるものがネットワークで
には、どうしても低付加価値部門から高付加
結ばれることを意味している。日本社会はこ
価値部門に労働力と投資をシフトするととも
のユビキタス・ネットワークの分野で大きな
に、新しい産業の柱を作って行く必要がある。
潜在力を持っている。そしてこの潜在力を発
1970∼80年代に日本の製造業が躍進を続け米
揮できれば、近い将来バブル崩壊から再び経
国の製造業が空洞化し、バイ・ドール法(米
済が成長を始める時に、日本が先頭を切って
国特許商標法修正条項、1980年成立)に見ら
世界を牽引することが出来よう。
れるように特許などの知的財産を重視するプ
ブロードバンドに向けた通信技術の進化に
ロパテント戦略に転換するとともに、産業構
加えて、より本質的な変化として、分散化に
造転換に向かった当時の米国と同じ状況にあ
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─ システム・マンスリー2002年1月臨時増刊号 ─
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
るとも言えよう。
とが出来よう。
第三は「センシング(知覚技術)」である。
ユビキタス・ネットワークの本質
インターネットは仮想空間を生み出したが、
競争力強化に向けてITによる企業のプロ
ユビキタスの時代はリアルの世界と一体とな
セス革新の重要性は言うまでもない。しかし
った世界を生み出す。われわれの生活を改善
ながらより本質的には、ユビキタス・ネット
するような新しい利用の多くはこのような発
ワーク時代に向けていかに魅力的な新製品や
想から生み出される。たとえば建設機械の衛
新サービスを作り出すかが重要である。それ
星を使ったリモート監視サービスや、センサ
を考えるにあたってのユビキタス・ネットワ
ーを使った個人の健康管理、RF(無線通信
ークの本質を以下の 3 つに整理し、どのよう
を利用した非接触による自動認識技術)タグ
なインパクトがあるかを考えてみたい。
利用による環境保全など、製造業の高度化・
第一はブロードバンド(高速大容量)化に
より、知識の表現や共有、流通に大きな変化
サービス化や環境・福祉分野での新産業の創
出に寄与するものと考えられる。
が出ることである。われわれはこれを「形態
知」と呼んでいる。たとえば米国のあるオン
拡がる産業効果
ライン事業者はその問い合わせ業務をフィリ
日本の製造業の強みは材料分野の科学技術
ピンに集中している。今まで国境を越えない
水準の高さ、すべての部品を自国内に持って
と思われていた知識労働がいとも簡単に動く
いること、ユーザニーズ、文化のレベルが高
ようになった。この力は医療や教育といった
いことなどに支えられている。この強みを失
分野で新しいサービスや製品を生み出し、生
うことなく、新しいハード、ソフト、サービ
産性の向上とともに国民の生活を豊かにする
スを生み出すことが求められる。
新産業を生み出すことができる。
また、2005年の産業構成を想定するために、
第二は、「コミュニティ(共同体)」という
ある前提をおいて産業連関表を用いてユビキ
言葉で言い表せる。歴史的に見て通信の普及
タス・ネットワークの及ぼす効果をマクロ的
が国家から企業へ、さらに企業から個人へ進
に試算してみた。これによると、ユビキタス・
展することは、パワーシフトを生み出し、い
ネットワークによる産業効果は、単に通信サ
ままで想像できなかったような新しい情報の
ービスに対する需要の拡大だけでなく、産業
流れを作り出しつつある。企業のガバナンス
間の取引関係に一体化されている技術の連関
のあり方や、コミュニティを巻き込んだR&
に変化をもたらし、その結果ユビキタス・ネ
Dなどの分野で新しいサービスを生み出すこ
ットワークの効果は全産業に及んでいる。■
─ システム・マンスリー2002年1月臨時増刊号 ─
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