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原油レポート
No.37
2004年8月23日
原油レポート
<誰が価格をつり上げているのか>
1 .原 油 市 況
イラクで米軍とイスラム教シーア派との戦闘が続いており、原油輸出が一部停止
していることや、ロシア最大の石油会社ユコスの経営破綻への懸念などを受けて供
給不安が高まっている。その上、大量供給を行っているOPECの増産余力の縮小
が需給逼迫懸念を煽り、世界の原油市況は軒並み最高値を更新している。ニューヨ
ー ク 商 業 取 引 所( N Y M E X )の W T I 原 油 先 物 価 格( 9 月 渡 し )は 8 月 19 日 に 48.70
ドルに上昇し、過去最高値を記録した。
2.トピック;誰が価格をつり上げているのか
米国先物取引委員会は、取引参加者にどのようなポジションを保有しているか報
告 を 義 務 付 け て お り 、 こ れ を 毎 週 集 計 し て 「 Commitment of Traders Report」 と し
て公表している。その中のNYMEXのWTI原油先物取引を見ると、投機筋のポ
ジ シ ョ ン は 買 い が 売 り を 上 回 る 状 態 が 続 い て い る が 、 8 月 17 日 時 点 で 買 い 超 幅 は 約
2 万 9 千 枚 で あ る 。今 春 の 価 格 上 昇 局 面 に 記 録 し た 10 万 枚 弱 の 買 い 超 幅 と 比 べ る と 、
足元では投機筋の買いはすでに一服していることが読み取れる。
一方、実需筋のポジションは、出来るだけ高い価格で売ることを目的とする生産
業者と、出来るだけ安い価格で買うことを目的とする消費企業という立場が正反対
の取引参加者の合計であるため、売り持ちから買い持ちを差し引いたネットのポジ
ション残高からは有用な情報を読み取ることはできない。そこで、実需筋の買い持
ち枚数(=そのほとんどが航空会社、船会社、石油化学会社といった消費企業であ
ると推測される)に着目してみると、今春には 3 万枚台だったのが足元では 5 万枚
近くにまで増加している。消費企業は自社のコスト構造や財務事情などに基づいて
取 引 を 行 っ て お り 、 目 的 は コ ス ト を 固 定 し 、 利 益 を 確 定 す る こ と で あ る ( ヘ ッ ジ )。
そのため、価格が自社の収益を損ないかねない水準にまで上昇すると見ると、利益
を 確 保 す る た め に コ ス ト を 予 め 固 定 し て お く 必 要 に 迫 ら れ る 。現 状 は 、価 格 が 40 ド
ル を 超 え 、さ ら に 50 ド ル に 迫 る 中 で 、消 費 企 業 が ヘ ッ ジ の た め に 買 い に 走 っ て い る
可能性はないだろうか。そして、消費企業のヘッジニーズの高まりが、価格を一段
と高水準に押し上げている可能性がある。
お問合せ先 調査部(東京)丸山
E-mail: [email protected]
次回の公表日は 2004 年 9 月 6 日(月)です。
※本レポートは情報提供を唯一の目的としており、何らかの金融商品の取引勧誘を目的としたものではありません。
また、掲載された意見・予測等は資料作成時点での判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。
1.原油市況
∼ イラクで米軍とイスラム教シーア派との戦闘が続いており、原油輸出が一部停止してい
ることや、ロシア最大の石油会社ユコスの経営破綻への懸念などを受けて供給不安が高ま
っている。その上、大量供給を行っているOPECの増産余力の縮小が需給逼迫懸念を煽
り、世界の原油市況は軒並み最高値を更新している。ニューヨーク商業取引所(NYME
X)のWTI原油先物価格(9 月渡し)は 8 月 19 日に 48.70 ドルに上昇し、過去最高値を
記録した(図表 1)。
投機筋のポジション(ネット)をみると 3 万枚程度の買い超にとどまっており、春先の
価格上昇局面に比べて買いポジションの積み上がりが小さい。こうしてみると、価格上昇
に直面した実需家のヘッジ買いが、価格をさらに押し上げてしまっている可能性が指摘で
きる。また、最近は為替といった金融市場と原油価格の相関が強まっており、原油高=株
価下落、原油高=ドル安、の動きが強まっている。原油高にともなうインフレ圧力の拡大、
景気減速に対する懸念が強まっている。
(図表 1)原油市況の推移
(図表 2)石油製品市況の推移
(セント/ガロン)
(ドル/バレル)
160
50
48
WTI原油(NYMEX、期近)
46
OPECバスケット原油
ヒーティングオイル(暖房油No.2)
150
ガソリン(期近)
140
44
42
130
40
120
38
36
110
34
100
32
90
30
28
80
8
(月、日次)
(注)NYMEX、直近は8月20日。
(注)WTI原油の直近は8月20日、OPECバスケット原油の直近は8月19日
7
5
6
4
2
3
10
11
12
8
9
6
7
4
5
04
/1
(月、日次)
3
03
/1
8
6
7
4
5
2
3
04
/1
10
11
12
8
9
6
7
4
5
60
2
3
70
22
03
/1
24
2
26
(図表 3)投機筋のネットポジション(原油) (図表 4)投機筋のネットポジション(ガソリン)
(ドル/バレル)
50
WTI原油価格
(期近物) (左)
45
(千枚)
200
150
40
100
35
50
30
0
25
-50
(ドル/バレル)
160
(千枚)
投機筋(非当業者+非報告者)
のポジション(ネット)(右)
140
50
40
120
30
100
20
10
80
投機筋(非当業者+非報告者)
のポジション(ネット)(右)
20
-100
15
-150
02
03
04
0
60
NYガソリン無鉛
(期近物) (左)
40
1
-10
-20
02
(週次)
(注1)ポジションはNYMEXで取引されるWTI先物原油の
トレーダー建玉数を集計したもの。直近は8月17日公表値。
(注2)非当業者は報告義務のある取引参加者のうち、エンドユーザ
−以外の主に投機を目的とする者。非報告者は報告義務のない
取引参加者で、ほとんどが投機を目的としていると推察される。
60
03
04
(週次)
(注1)ポジションはNYMEXで取引される無鉛ガソリンの
トレーダー建玉数を集計したもの。直近は8月17日公表値。
(注2)非当業者は報告義務のある取引参加者のうち、エンドユーザ
−以外の主に投機を目的とする者。非報告者は報告義務のない
取引参加者で、ほとんどが投機を目的としていると推察される。
2.米国の需給動向
∼ OPECの大量供給を受けて原油輸入量は高い伸びを維持している(図表 5)。一方、
好調な石油製品の消費を受けて原油精製投入量の伸びも高く、製油所の稼動率は 96%前後
とフル稼働が続いている。そのため、週間石油統計では原油在庫が減少傾向にあり、相場
の押し上げ要因となっている(図表 6)。
(図表 5)米国の原油輸入・精製投入量
(前年 比、%)
(図表 6)米国の民間原油在庫
20
50
250
原油精製投入量
5
(百万バレル、 逆目盛 )
(ドル/バレル)
(前年比 、%)
6
米国の民間原油在庫(右)
原油輸入量(右)
15
45
260
10
40
270
5
35
280
0
30
290
-5
25
-10
20
4
3
2
1
0
-1
WTI原油価格(期近)
-2
04
(年、週次)
(注)在庫は毎週金曜日時点の値で、直近は8月13日(金曜日)の値。
(資料)米エネルギ−情報局(EIA)
(週次)
(注)4週後 方移動平均の前年比。直 近は8月13日。
(資料)米 国エネルギー情報局(EI A)
310
03
8
5
6
7
2
3
4
11
04 12
/1
9
10
6
7
8
2
3
4
5
03
/1
-3
300
∼ 景気回復や、冬に向けた暖房用在庫の積み増しなどから中間留分(灯油や軽油)消費の
伸びが高まっているが、ガソリン消費の伸びは低下している(図表 7)。ガソリン在庫は需
要の伸びの一服と製油所の稼働率上昇を受けて前年比プラスに転じている。また、品質規
制の対象となっている改質ガソリンの在庫も前年比マイナス幅が縮小してきている。ガソ
リン市況はなお高止まりしているものの、需給逼迫感は薄らいできている(図表 8)。
(図表 7)米国の石油製品消費
(図表 8)米国のガソリン在庫
ガソリン
中間溜分
その他(ジェット燃料、重油等)
(前年比、%)
15
(前年比、%)
30
20
10
10
5
0
0
-10
-5
-20
ガソリン合計
-10
-30
00
04
(年、週次)
(注)在庫は毎週金曜日時点で、直近は8月13日(金曜日)の値。
4週後方移動平均。
(資料)米エネルギ−情報局(EIA)
8
5
6
7
2
3
4
04 12
/1
11
9
10
6
7
8
-40
2
3
4
5
03
/1
-15
うち改質ガソリン
(週次)
(注)4週後方移動平均の前年比。直近は8月13日。
(資料)米国エネルギー情報局(EIA)
2
01
02
03
3.OPECの生産動向
∼ 原油価格の高騰を受けてOPECはフル生産を続けているが、生産余力の縮小がかえっ
て供給不安を高める結果となっている。これに対して、OPECのプルノモ議長(インド
ネシア・エネルギー鉱物資源相)は、9 月 15 日に開催予定の定例総会までに何らかの措置
を取ることはないと明言した。
9 月 15 日の定例総会では、8 月からの生産枠である 2600 万 b/d をさらに 100 万∼150 万
b/d 拡大するとの案も出ている模様だが、いずれにしても現状追認に過ぎず、価格を抑え
る効果は小さいであろう。サウジアラビアは計画していた産油能力の拡大を前倒しするこ
とを明らかにしたが、実際に生産体制が整うのは来年初めになると言われており、今のと
ころOPECは価格高騰に対してなす術がない。
しかし、世界的に原油が不足している訳ではない以上、OPECはフル生産を行うより、
万一の時の生産余力を確保することで市場に安心感を与え、価格上昇を抑えることができ
るのではないか。OPECがそうしないのは(出来ないのは)、消費国側の圧力と、現金収
入拡大を図るOPECにとって高値と増産の組み合わせが心地よいからであろう。原油輸
出収入が歳入の約 8 割を占めるサウジアラビアは、原油高によって 2004 年度(1∼12 月)
の歳入が政府の当初予算(533 億ドル)の倍近い 979 億ドルに達する見込みである。
(図表 9)OPECの生産動向
(万バレル/日)
国名
サウジアラビア
イラン
クウェート
UAE
カタ-ル
ベネズエラ(注4)
ナイジェリア
インドネシア
リビア
アルジェリア
OPEC10カ国
イラク
生産量(6月) 生産量(7月) 超過量(7月) 超過率(7月) 生産枠(7月∼) 生産枠(8月∼)
926.0
936.0
107.2
12.9%
828.8
845.0
404.0
403.0
28.6
7.6%
374.4
381.7
236.0
235.0
79.0
260.0
235.0
98.0
156.0
122.0
2,751.0
238.0
240.0
79.0
261.0
235.0
95.0
160.0
124.0
2,771.0
178.0
200.0
33.4
17.5
12.9
-32.4
24.9
-37.2
23.5
42.6
221.0
−
16.3%
7.9%
19.5%
-11.0%
11.9%
-28.1%
17.2%
52.3%
8.7%
−
204.6
222.5
66.1
293.4
210.1
132.2
136.5
81.4
2,550.0
208.7
226.9
67.4
299.2
214.2
1,347.0
139.2
83.0
2,600.0
−
−
産油能力
1,020.0
410.0
稼働率
91.8%
98.3%
生産余力(7月)
84.0
7.0
240.0
260.0
80.0
280.0
255.0
100.0
160.0
130.0
2,935.0
99.2%
92.3%
98.8%
93.2%
92.2%
95.0%
100.0%
95.4%
94.4%
2.0
20.0
1.0
19.0
20.0
5.0
0.0
6.0
164.0
250.0
80.0%
50.0
(注1)超過量(7月)=生産量(7月)−生産枠(7月∼)
(注2)産油能力は、30日以内に生産可能で、かつ90日以上持続可能であることが条件。
(注3)サウジアラビアとクウェ−トの生産量には中立地帯の生産量が1/2ずつ含まれる。
(注4)ベネズエラの生産量には生産枠には入らない重質油(約38.0万バレル/日)が含まれる。
(注5)稼働率(%)=生産量(7月)/産油能力*100
(注5)生産余力=産油能力−生産量(7月)
(資料)Bloomberg
4.トピック;誰が価格をつり上げているのか?
∼ 今年の 6 月末に 35 ドル台まで下落していた原油価格がいよいよ 50 ドルの大台に迫っ
ている。しかし、果たして、最近 2 ヵ月の間に価格が 15 ドル近くも上昇するような需給
環境の変化が生じたのであろうか。
3
確かに、イラクで米軍とイスラム教シーア派の間で戦闘が激化し、イラクからの原油輸
出が一部停止された。また、ロシア最大の石油企業ユコスが脱税で経営危機に陥り、生産
停止が懸念される状況になった。さらに、8 月 15 日にはOPEC第 3 位の産油国ベネズエ
ラでチャベス大統領の信認を問う国民投票があり、結果的に同大統領は信認されたが、政
治的な混乱が供給不安を高めた。その一方で、国際エネルギー機関(IEA)が毎月発表
する世界の原油需要見通しが 7 月までに 6 ヵ月連続して上方修正されるなど、原油需要が
想定を上回って拡大している。米国市場においても民間原油在庫が減少している。
こうして見ると、最近 2 ヵ月の間に、価格を押し上げるに足る明確な材料があったと言
える。しかし、これらの材料だけで 15 ドル近い価格の上昇を説明できるかというと、か
なり難しい。そこで、最近の報道を見てみると、上記の価格押し上げ要因に影響されて投
機資金の流入が拡大し、価格を押し上げているとの見方が紹介されている。では、投機犯
人説は本当なのであろうか。
米国先物取引委員会(CFTC)は、取引参加者にどのようなポジションを保有してい
るか報告を義務付けており、これを毎週集計して「Commitment of Traders Report」とし
て公表している。その中のニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI原油先物取引
を見ると、投機筋のポジションは買いが売りを上回る状態が続いているが、8 月 17 日時点
で買い超幅は約 2 万 9 千枚である。今春の価格上昇局面に記録した 10 万枚弱の買い超幅
と比べると、足元では投機筋の買いはすでに一服していることが読み取れる(前出の図表
3)。
一方、実需筋のポジションは、出来るだけ高い価格で売ることを目的とする生産業者と、
出来るだけ安い価格で買うことを目的とする消費企業という立場が正反対の取引参加者の
合計であるため、売り持ちから買い持ちを差し引いたネットのポジション残高からは有用
な情報を読み取ることはできない。そこで、実需筋の買い持ち枚数(そのほとんどは航空
会社、船会社、石油化学会社といった消費企業のポジションであると推測される)に着目
してみると、今春には 3 万枚台だったのが足元では 5 万枚近くにまで増加している。消費
企業は自社のコスト構造や財務事情などに基づいて取引を行っており、目的はコストを固
定し、利益を確定することである(ヘッジ)。そのため、価格が自社の収益を損ないかねな
い水準にまで上昇すると見ると、利益を確保するためにコストを予め固定しておく必要に
迫られる。現状は、価格が 40 ドルを超え、さらに 50 ドルに迫る中で、消費企業がヘッジ
のために買いに走っている可能性はないだろうか。そして、消費企業のヘッジニーズの高
まりが、価格を一段と高水準に押し上げている可能性がある。
ただし、通常、消費企業は数ヵ月先までの先物取引を行っている模様だが、いったん原
材料や燃料の手当てをしてしまえば買いは収まってくるだろう。消費企業のヘッジ一巡と
ともに価格は調整する可能性がある。
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