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ベトナムの新投資法・企業法の要点

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ベトナムの新投資法・企業法の要点
ベトナムの新投資法・企業法の要点
西村あさひ法律事務所 ハノイ事務所 弁護士 武藤 司郎氏
総論
案の問題点を指摘し、
起草者らと討議をする
がベトナムに新たに直接投資を行うため
ベトナムでは
機会を得ました。
には、
必ず各地方の省級の人民委員会
WTOに加盟す
さらに、ベトナム政府からベトナム日本
に属する投資計画局等、管轄当局から
るための準備
商 工 会 に 対しても、Vietnam Business
投資許可証
(Investment Certificate)
を
として、株式会
Forum
(VBF)
という各国商工会議所の連
取得する必要がありましたが、
この投資許
社や有限会社
合体を通じて、
この新投資法、新企業法に
可証は、
外国投資家にとって、
対象事業
といった企 業
対する意見を求められたため、
ベトナム日本
の投資許可と現地企業の企業登記の
の仕組みを規
商工会へ当事務所が作成した意見書を提
双方を兼ねていました。
定する企業法
出し、
それに外貨交換保証の要求を追加
これに対し、新投資法の下では、対
と、
外国投資家や国内の投資家の投資の手
したものをベトナム日本商工会の意見とし
象事業の許可と現地企業の企業登記
続きなどを規定する投資法が、
2005年末に
て、
ベトナム政府に提出しました。
の証明書が二分され、外国投資家の
制定されました
(以下、
「旧投資法」
「
、旧企業
また、
国会開催直前にベトナム日本商工会
投資プロジェクトについては投資登録
法」
)
。
しかし、
これらの企業法や投資法も制
がVBFのメンバーとして、
国会の経済委員会
証明書
(Investment Registration
定後8年が経過していろいろ不備があると指
の副委員長に直接、
新投資法、
新企業法に
Certificate)が、企業の設立につい
摘されたため、
より投資の自由を認め、
企業や
対する意見を陳述するよう要請されました。
ては企 業 登 録 証 明 書(Enterprise
投資家が経済活動を行いやすくし、
ベトナム
その際、
ベトナム日本商工会に依頼されて、
Registration Certificate)が、それ
の経済発展を促進するという趣旨で、
2014
筆者が国会事務局に出向いたところ、
アメリ
ぞれ発行されることとなり、
それぞれにつ
年11月の国会でこれらの企業法や投資法が
カ商工会議所やEU商工会議所のメンバー
き申請手続きが必要になりました。
大改正され、
2015年7月1日からそれぞれ施
がそこにいたにもかかわらず、
臨席した計画投
(2)
旧投資法の下では、
直接投資か間接
行されることとなりました
(以下、
「新投資法」
、
資省の法務局長が、
日本の投資家の意見が
投資かで、
投資法適用の有無を決めると
聞きたいと日本の意見を優先して尋ねてきまし
いう基準が採用されていましたが、
通常、
2014年、新投資法、新企業法の草案が
た。ベトナム日本商工会の意見はすべて草案
間接投資といわれる株式市場において
作成されていた頃、
ベトナム政府は、高い技
に反映するが、
何分最終的には国会議員の
上場会社の株式取得をする投資でも、
対
術力を持ち、
長期・安定的な投資を志向する
議決で決まるので、
法案化されるかどうかは保
象会社の支配権を得れば、
経営に関与
日本企業の進出を非常に期待しており、
日本
証できないが、
説得に努めるとも発言していま
する投資となり、
直接投資の定義に該当
の投資家の意見が聞きたいという強い要望
した。アメリカやEUの商工会議所のメンバー
してしまうのではないかという問題等があ
を持っていました。
の前で、
このように日本の投資家の意見を重
り、
基準として不明確であると指摘されて
そのような中、
JICAの研修で日本を訪問し
要視する態度を示したことは驚きであり、
それ
いました。
そこで、
新法では直接投資、
間
たベトナム国会の経済委員会の委員長の発
だけ日本に対するベトナムの信頼が厚いこと
接投資という定義を廃止し、
企業の新規
議で、
2014年11月の国会開催前に、
新投資
の証左であると思います。
設立か既存の企業への投資かという切り
武藤弁護士
「新企業法」
)
。
法や新企業法の草案について日本の投資
口で手続きを分けて規定しています。
(3)
また、
旧投資法上、
施行令に規定はあ
西村あさひ法律事務所が、新投資法、新企
新投資法、新企業法の主な改正点
以下、今回の新投資法、新企業法の主な
業法の草案に対する意見書をまとめ、
重要な
改正点について要点を説明したいと思いま
家と同様の規制に服する現地企業であ
点に絞って、
同委員長などの国会議員、
計画
す。
る外国投資企業の範囲が、
法律上明確
投資省、
中央経済研究所の幹部で、
企業法
1. 投資法について
化されました。
家の意見を聴聞する機会が設定されました。
や投資法の起草に携わった人たちに対し草
(1)
旧投資法の下において、
外国投資家
16 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
るも、
必ずしも明確ではなかった外国投資
旧投資法は条件付きの投資分野に
おいて、
ベトナムの投資家が定款資本の
議を定款資本の51%などと定款で定め
らえない場合にその案件が実行されず、
貴重
51%以上を保有する場合は、
外国投資
れば、
それによることになったものと解され
な土地が未開発のまま打ち捨てられてしまう
家は国内投資家と同様の投資条件に服
ます。
等問題をはらむ事例が多数生じたという問題
すると規定していましたが、
その他の場合
(2)
出資期間について、旧企業法下では
があります。
それを防止するためには、
出資期
については明確ではなく、
また、
計画投資
経営登録証明書が発行されてから株式
間の3年ルールの見直しがどうしても必要とい
局等の実務の取り扱いも統一されていま
会社では90日以内、
有限会社では3年以
うことで、
結果的に90日ルールが法制化され
せんでした。
内とされ、
有限会社の持ち分の出資につ
てしまいました。
これに対して、新法はベトナム法に基
いては、
3年間の猶予期間が設けられて
2015年4月に新投資法、
新企業法を施行
づき設立された経済組織が、
企業を設立
いました。
する政令案がVBFを通じて各国商工会に対
し、他の企業に出資し、
その株式や持ち
新企業法は、有限会社にも90日ルー
して公表されました。
いつも、
ショートノーティス
分を購入する場合、
以下のいずれにも該
ルを適用し、
企業登録証明書が発行され
で意見を求められ十分な対応ができなかった
当しない場合には、
内国投資家と同様の
てから90日以内に定款資本の全額を出
ベトナム日本商工会では、
事前に新投資法、
投資の手続きおよび条件が適用されると
資しなければならないと規定しました。
新企業法の政令の検討チームを立ち上げ、
規定しました。
この点、
電力BOTプロジェクトなど、
大型の
筆者がチームリーダーとなり、
現地に駐在して
①外国投資家が定款資本の51%以上を
プロジェクトが有限会社を現地で設立すると
いる弁護士や現地進出企業、
会社法を専攻
保有する経済組織、
または過半数の合
ころ、
そのような大型のプロジェクトにおいて
する学者の意見をまとめて、
ベトナム政府に
名社員が外国の個人である経済組織
巨額の資金をアップフロントに一度に出資を
意見を提出しました。
また、
投資計画省で開催
②①の経済組織が定款資本の51%以
すると、
資金調達上、
資金のコストが高くなる
された新投資法を施行する政令案の公聴会
ので、
3年の猶予期間に案件の進捗状況に
にてベトナム日本商工会の意見を発表し、
当
③外国投資家および①の経済組織が定
応じてマイルストーン的に出資していくというメ
局に検討してもらうことができました。
款資本の51%以上を保有する経済組
リッ
トがありました。新企業法下では有限会社
以上のような商工会を通じたロビーイング
織。
の形態をとっても、
一旦90日以内に出資でき
支援のような活動は、
現地に駐在している弁
る額を規定した投資登録証明書・企業登録
護士だからこそできることで、
通常の契約や意
証明書の発給を受けた後、
各証明書の定款
見書の作成、
法令調査、
訴訟仲裁の遂行と
(1)
旧企業法下では、有限会社、株式会
資本につき改定を行い、
増資を繰り返すこと
いう業務とはまた一味違う面白みがあります。
社の社員総会、
株主総会の決議要件と
により、
段階的に出資をしていく方法を取るし
して、
双方において、
出席株主・社員の総
かないことになりますが、
増資の登録に時間
議決数または定款資本の65%以上の多
がかかると出資も遅れることになり、
プロジェク
数、
定款変更、
会社の組織変更、
会社資
トの施設の建設の遅延を招くのではないかと
産の50%以上の価値のある資産等につ
の懸念があります。
いては75%以上の多数
(または定款で定
この点は、
ベトナム日本商工会の意見書
めるこれ以上の割合)
を要求しており、
普
でも指摘し、
投資計画省や国会の経済委員
通決議については、
50%超というASEAN
会における聴聞でも問題点として指摘し、
ベト
域内の新興国の中でさえ通用している通
ナム側の国会議員や計画投資省の高官ら
常の多数決ルールからすると相当異例な
も理解はしました。一方、
ベトナムにおいては
多数決ルールを規定していました。
元々自己資金を調達する能力のない者が、
政
新企業法はこの状況を改善し、
株式会
府とのコネのみを利用し、
多額の投資資本の
社の普通決議は51%、
特別決議が65%
出資を約束する案件の許可を有限会社の形
となり、
有限会社の普通決議は65%、
特
式で取得しておき、
3年の間にその会社の持
別決議は75%であるも、
定款で別の規定
ち分を資金のある他の投資家に売却してエグ
をすれば、
その多数決の割合によると規
ジッ
トすることを目的とする案件が相当数あり
定されたため、
株式会社と同様、
普通決
ます。
そのため、
新たな投資家に投資をしても
上を保有する経済組織
2. 企業法について
武藤 司郎氏プロフィール
1996年末から2000年3月末まで、JICAの法整
備支援の初代長期駐在専門家として、ベトナ
ムの司法省に派遣され、民法や土地法等の施
行法令や民事訴訟法、破産法等の立法支援
や、民法、土地法の施行状況を調査する社会
調査に従事。
司法省に出向しているときのベトナム人の同
僚が、外国投資庁の副長官となったのちに退
官し、法律事務所を設立したため、2012年2月
から同所に出向、再度ベトナムに駐在し、2013
年3月から西村あさひ法律事務所ハノイオフィ
スに勤務。
西村あさひ法律事務所のハノイオフィスには、
日本人弁護士2名が常駐し、ベトナム人弁護
士が2名勤務し、
ホーチミンオフィスには日本人
弁護士3名が常駐し、ベトナム人弁護士が7名
勤務している。ベトナムにおける両オフィスおよ
び東京本部で連携し、M&A、規制業種の新設
案件、進出済み企業の労働案件、ベトナム法
の調査の受託など、幅広い分野の案件を取り
扱っている。
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 1 7
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