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高雄への修学旅行実施に向けての提言

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高雄への修学旅行実施に向けての提言
平成27年度千葉県教職員国際交流事業報告書
高雄への修学旅行実施に向けての提言
千葉県立長生高等学校 教諭 速水 純
◆序
今回,平成27年度千葉県教職員国際交流事業に参加させていただく好機を得て,台湾
本島を訪れ研修を行った。5日間の研修期間のうち,前半は台北を中心とした台湾北部で,
後半は南部の高雄市内で,現地の教育関係者との交流や文化施設等の見学を行い,有意義
な時間を過ごしたが,その中で現在の日台交流の問題点をいくつか把握することができた。
気になったことの一つに,交流地域が北部に集中しているという問題がある。現在,日
本の学校が台湾を訪れる際には,故宮博物院,中正紀念堂,龍山寺,九扮の街並といった
見学地を有する台湾北部を中心に計画を考えることが多く,日本の学校を受け入れる現地
の学校が過密な状態で,交流校を探すのも困難になりつつあるようである。
反面,台湾南部の高雄では,日本からの飛行機の直行便が少ないことや,台北を中心と
する北部に比べ,歴史的建築物や施設が少ないことなども相まって,これまで日本の学校
が訪問する機会は比較的少なかった。しかし,一昨年,千葉県の森田知事が高雄市長との
会談の中で,若者の交流が増えるよう約束をしたこともあり,現地教育局や市内の高級中
学では,千葉県内の学校との交流を求める気運が非常に高まっている。
本国際交流事業に参加し,実際に高雄市を訪れてみると,高雄には多くの魅力的なコン
テンツが存在し,新たな修学旅行(海外研修)先として,大きな可能性があることが分か
った。そこで本稿では,新たな修学旅行先および海外交流先としての高雄の利点を解説し,
今後の展望を示す。
写真1.高雄市政府教育局を訪問
(左)本県金子振興部長
(中央)高雄市教育局長
(右)高雄市教育局国際教育課長
写真2.歓迎メッセージの横断幕(高雄市立林園校高中)
◆本
論
1.高雄市の概要
高雄市は,台湾本島の南部に位置し,面積
約 3,000 ㎢(千葉県が 5,157 ㎢)
,人口約27
8万人の台湾第2の都市である。北回帰線よ
り南に位置するため,1年を通して暑い熱帯
となる。また,台湾は日本列島と同じく環太
平洋造山帯に属しており地震が多い島である
が,高雄は,南西部の海岸平野に位置し,台
湾を南北に縦断する中央や東部の山脈から離
れているため,地震がほとんどない。天然の
良港を抱える港町(写真3)で内陸にも広大
写真3.壽山公園から望む高雄港
な後背地を持つため,漁業や農業が盛んであ
る。また台湾がアジア NIEsとして経済発展するにあたり,高雄は,輸出加工区に指定さ
れ工業化が進められてきたため,工業都市でもある。近年は再開発が進められ,芸術や文
化の拠点なども整備されている。
2.千葉県との交流
日本の高等学校にあたる高級中学は高雄に34校ある。うち,約半数が日本の学校と交
流の機会をもったことがある。交流の内容としては,高雄の高級中学が教育旅行(日本の
修学旅行にあたる)で日本を訪問した際に日本の学校と学校交流をしたケースがほとんど
である。教育旅行については,日本の他には韓国やアメリカ合衆国を訪問することが多い。
一方,日本の高等学校による高雄市内の高級中学訪問は,非常に少ない。高雄市内の高級
中学は,日本の学校が修学旅行や少人数での学校交流等で高雄市内を訪問して高雄市内の
高級中学と交流することを期待している。
3.豊富な学習コンテンツ
今回の研修で直接的・間接的に多数の情報を得て,高雄への修学旅行を想定した際に,
様々な学習項目が設定し得ることが分かった。その中から以下では,歴史学習,体験学習,
自然観察学習,企業連携学習の4つの項目を挙げ,そのコンテンツについて述べる。
(1)歴史学習
日清戦争終結の翌1895年から,第二次世界大戦終結の1945年まで,台湾は日本
の統治下に置かれていた。当時の様子を伺い知ることが出来る施設は,高雄にも未だ複数
残され,公開されている。これらを題材として,帝国主義時代の日本について様子を学習
することは生徒にとって非常に有意義なものになると考えられる。学習の中では,この時
代の日本人が台湾のインフラ整備や産業振興に尽力し,発展に貢献した事実に触れること
を一考しても良いだろう。実際,台湾観光局が作成したガイドブックにも,そんな日本人
の業績が多数紹介されている。歴史認識には様々な角度からの観点が必要である。台湾と
日本の関わりの学習を端緒に,近代・現代,そして未来のアジアの国々の関係について,
深く考える生徒が増えることを大いに期待したい。
写真4.忠烈祠
写真5.市立歴史博物館
日本統治時代には,高雄神社だった。
元々は,1938 年日本統治時代に,市庁舎として
今でも当時の鳥居が残っている,
つくられた建物である。
写真6.日本海軍鳳山無線電信所
写真7.打狗英国領事館
1917 年建造,日本統治時代の三大無線電信所の一つ。
1879 年に建造された英国式建築物。台湾で現存する最古の西
珍しい構造の軍事施設であり,台湾の歴史に深い影響をお
洋近代建築である。
よぼした場所でもあるため,国定古蹟に指定されている。
(2)体験学習
台北で実施できる体験学習の大半は,高雄でも実施可能である。例えば,台湾料理や台
湾菓子をつくる食文化の体験,獅子舞や太鼓など伝統芸能の体験(十鼓文化村というテー
マパークが有り,そこでは台湾太鼓の鑑賞・体験ができる)などである。
これらに加えて,高雄では熱帯の地ならではの,特色ある体験学習が可能である。例え
ば,バナナ栽培やサトウキビ栽培などの熱帯農業の体験,シュノーケリングやシー・カヤ
ックなどのマリンスポーツ体験などが挙げられる。これらを組み合わせて実施できれば,
台湾北部で行うよりも,さらに多様性のある体験
学習を行うことが可能となる。
(3)自然観察学習
熱帯であることの利点を最大に活かすことが
できるのが,自然観察学習である。温帯である日
本と植物相が全く異なるため,ちょっと街を歩く
だけで,街路樹や植込み,花壇に咲く花々の違い
を観察することができる。観察用のチェックリス
トを用意し,事前に日本の国内に植えられている
写真8.市内の街路樹1
街路樹や植込みの低木樹,花壇やプランターで咲
く園芸品種についてチェックさせておいた上で,
高雄での活動の際に,街で見られる植物をチェッ
クする作業を行わせれば,それまで植物に興味が
無かった生徒も,違いを鮮明に認識できるだろう。
身近なもので生物多様性を実感できる素晴らし
い教材となるかもしれない。
また,より本格的に生物観察を行うのであれば,
援中港生態湿地公園などのフィールドでエコツ
アーを行うことも魅力的である。
写真9.市内の街路樹2
写真10.植込み植物1
写真11.植込み植物2
写真12.植込み植物3
写真13.植込み植物4
(4)企業連携学習
市内の林園高級中学では,2014年から,市内の石油化学工業の企業・台湾中油との
産連携学習を行っている。この学習では,高級中学の生徒が夏休みの2週間に36時間,
台湾中油で実習を行い,環境や産業技術についての基礎知識を学習したり,工場現場で職
場体験を行うというものである。
企業関係者は,日本から高雄を訪れた高校生に対しても,このような連携学習を行うこ
とが可能だと語っている。もちろん,限られた日程の中での短時間の学習となるであろう
が,異国の地で,科学技術や産業に関する学習を行ったことは,生徒たちにとって非常に
貴重な体験となることが期待される。さらに,地元の高級中学の協力が得られれば,台湾
の生徒と日本の生徒が共に協力しながら,学習や作業を行うというプログラムも実現し得
るかもしれない。産業技術に関する学習と人的交流を兼ねた素晴らしいプログラムができ
る可能性がある。
写真14.企業連携学習の様子
写真15.台湾中油の製油施設
◆結
び
以上述べてきた通り,高雄には修学旅行や海外研修を有意義なものにすることができる
ユニークなコンテンツが豊富に存在している。
地下鉄やモノレール等の交通網も良く整備されており,臨海部や市内を流れる愛河では,
観光用の船舶が運航している。班別行動見学を行うことも十分可能である。
一番の好材料は,市の教育関係者が日本の学校の訪問を強く希望している点である。生
徒サイドでも,第二外国語として日本語を学んでいる生徒が相当数存在し,日本への関心
は高い。新しい交流プログラムを共同開発するための期は熟している。
唯一の問題である,日本―高雄の直行便の少ない点が,関係者の努力により改善されて
いけば,修学旅行先としての高雄は非常に有望であると結論付け,研修の報告とさせて頂
く。
写真16.きれいに区画整備された高雄の道路
写真17.愛河を航行する観光船
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