Comments
Description
Transcript
免疫と健康 ⑵
生物基礎 テレビ学習メモ 第 30 回 今回学ぶこと 本来、体を守ってくれるはずの免疫のし 免疫と健康 ⑵ くみがうまくはたらかないで、免疫のはた らきによって、病気になってしまうことが あります。免疫の反応が過剰にはたらくこ 監修講師 とによっておこるアレルギーや自分のから 板山 裕 だを攻撃してしまう自己免疫疾患、さらに 調べておこう・覚えておこう はウイルスの感染によって免疫がはたらか なくなってしまうエイズなどについて学び 花粉症/アレルギー/肥満細胞/ 自己免疫疾患/エイズ/HIV Point ましょう。 アレルギー 花粉症は、免疫のはたらきで起こる「アレルギー」である。本来、免疫反応が起こらないよう ▼ なものに対して免疫反応が起こり、その反応が過剰なために、体に害をなすのがアレルギーである。 スギ花粉症では、スギの花粉を異物(抗原)と確認した免疫反応によって炎症が起こる。アレ ルギー反応では、肥満細胞という細胞が、アレルギーの原因となる抗原の侵入をきっかけにして、 免疫ではたらく細胞を呼び集める物質を放出する。それによって、血管の透過性が高まり、血液 から組織の中に白血球が出てきて、異物を排除しようとする。白血球が集まってきた部分では赤 く腫れて熱をもち、痛みやかゆみを感じるようになる。 粘液の分泌が盛んになって鼻水が出たり、くしゃみが出やすくなったりするのもアレルギー反 応によるものである。 Point 自己免疫疾患 「自己免疫疾患」とは、自己に対する免疫反応によって起こる病気である。本来、免疫は自己 − 60 − 高校講座・学習メモ 生物基礎 免疫と健康 ⑵ を守るために、侵入してきた異物(抗原)を認識して、それに対して攻撃をする細胞のはたらき であるが、そのはたらきが「自己」に対して起こってしまうものである。 自己を攻撃してしまう免疫系のT細胞は、普通、体の中でははたらかないような、いくつかの しくみが免疫系には備わっている。例えば、制御性T細胞は、自己を攻撃してしまうようなT細 胞があると、その細胞のはたらきを抑えている。しかし、この制御性T細胞のはたらきが低下し てくると、自己を攻撃するT細胞のはたらきが抑えられなくなり、自己を攻撃する免疫の反応が 起こってしまう。 自己免疫疾患の例として、 「関節リウマチ」という病気がある。手足の関節の骨が免疫細胞によっ て攻撃され、関節の骨が変形して動かなくなる病気である。激しい痛みも伴う。自己免疫疾患は、 年齢が進むと制御性T細胞のはたらきが低下するために、起こりやすくなると言われている。 Point エイズ 体を守る免疫システムがはたらかなくなってしまうと、身のまわりにいるさまざまな病原体 から体を守ることができなくなる。「エイズ(後天性免疫不全症候群)」は、このように免疫シ ステムがはたらかなくなる病気である。原因となる病原体は HIV(ヒト免疫不全ウイルス)で、 2012 年の報告では、世界で 3530 万人もの感染者がいて、新たな感染者数は 230 万人、発症 し死亡した人は 160 万人にのぼる、とされている。性交渉や血液による感染のほか、おなかの ▼ 内の子どもに母親から感染する母子感染もある。 免疫システムがはたらかなくなるのは、体内に入った HIV が、免疫システムの要とも言える ヘルパーT細胞に侵入し、増殖しながらヘルパーT細胞を次々と壊していくためである。こう してヘルパーT細胞の数が減っていくと、最終的には免疫システムがはたらかなくなってしま うのである。 HIV は、性交渉によって感染し、体を守る免疫システムの要となるヘルパー T細胞を壊していくという、とても危険な病原体である。HIV ウイルス表面 のタンパク質が変化しやすいために、ヒトの免疫システムに抗原としてとら column もう半歩 先に えられにくい、という性質を持っているため、有効なワクチンの開発が進ん でいない。HIV の増殖を抑え、感染してもエイズの発症を遅らせる薬が開発されているが、HIV を 排除することのできる薬はまだ開発されていない。 参考文献 河本宏「もっとよくわかる!免疫学」 (2011 年)羊土社 河本宏「マンガでわかる免疫学」 (2014 年)オーム社 − 61 − 高校講座・学習メモ