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「生命保険契約法」 (2)
ブルック=デルストリング 「生命保険契約法」(2) く翻訳〉中 西 正 明 (京都大学助教授) はしがき 本稿は、論集10号にのせたブルック=デルストリング「生命 保険契約法」(1)のつづきであるOここにこの翻訳を掲載する趣旨等につ いては前回分のはしがさを参照していただきたい。今回は第1桑の註釈の後 半と第2桑の牲釈の翻訳をかかげるO この部分についてはすでに奥田宏氏の 翻訳(タイプ印刷)があり、参照して教示を受けた。 III.保険証券(第4項) 〔註59〕1. 保険証券の発行は保険契約の成立要件をなすもので はない。保険会社は保険契約に関して保険証券を発行する義務を負う。 保険会社がこの義務を負うことは保険契約法3条1項の定めるところで あって、本約款1条4項はこのことをくり返して規定したものである。 保険証券の交付については2条註8参照。 〔柱間〕(a) 保険契約が成立したときは、これにもとづいて保 険証券発行請求権が認められる。その強制執行は民事訴訟法883条・886 条・888条の定めるところによる。保険証券発行請求権は5年の時効に かかる(18条註4)。 (駐日〕 (b) 保険会社は保険契約に関して保険証券を発行する (本項1文)。その記載事項については法律にも約款にも規定はないが、 これは保険証券の目的から定める.ことができる。すなわち保険証券には、 -41- 「生命保険契約法」(1条)(中西) なかんずく、契約当事者、被保険者(2項)、技術的保険期間の開始時 期、保険金額、保険料の額及び支払期日、保険証券発行の年月日(2条 2項1文)、並びに普通保険約款(AV.1911.211.1922.96)及び特 別保険約款を記載すべきである(ただし、被保険者及び特別保険約款は、 とくにその記載の必要がある場合にかぎる)。 【柱62〕(C) 保険証券には保険会社が手記による署名ををすこ とを要するか、それとも機械的又はこれと類似の方法により署名を複写 することが許されるかについては、従来は疑問があった(RG.27.2.23 Bd.106.330VA.1924十3Nr.1293も参照)O しかし本項2文は機械的複 写の方法によってもよい旨を明定したので、問題はなくなった(VA. 1928.168)。 2.保険証券-又は保険契約の変更に関して発行される証券(補充 証券、Nachtragsschein)及び預り証(HinterlegungsscheinO保険契 約貸付の際に保険会社が保険契約者から保険証券を預るのと引換に保険 .契約者に交付する証券0 7条註13)-の法的性質はつぎのとおりであ るO 〔駐63〕 (a) 保険証券は常に契約の締結と内容に関する証拠証 券(念書、Best邑tigungsschreiben)であるO ただしこの効力は、契約 が(遅くとも保険証券の交付によって)成立した場合にのみ認められる。 保険証券の送付が保険会社の契約締結の申込であるときは(上記註30)、 保険証券は契約に関する証拠証券としての意味をもちえない。 保険会社が保険証券を発行したときは、保険証券はそれに記載せられ た表示が保険会社によってなされたことの充分な証拠となる(民事訴訟 法416条O RG.21.1.21.VA.1922十51Nr.1209)O しかし保険証券には 権利創設的効力はなく、約定せられた法律関係の内容に関して反証によ ってくつがえしうる証拠資料としての意味を有するにすぎない(RG.8. -42- 「生糾保険契約法」(1条)(中西) 6.20JW1920.896)。しかも、記載内容が正しいことは推定されるが、記 載内容が完全であること、すなわちその法律関係に関する一切の事項を 記載していることは推定されない(RG.9.5.17Recht1917Nr.1776. 反対説、OLG.Hamburg22.5.17Recht1917Nr.1509;Josef6Z. 1920.527)。保険証券と別に契約に関する合意をなし(例えば保険契約 の成立を他の契約の解消にかからしめる合意〔RG.17.11.08 LZ.1909. 324〕、又は保険契約を廃疾保険と結合せしめる合意〔OLG.Dresden2. 2.11VA.1911十42Nr.592〕)、これを保険証券に記載しないことは可能 であり、法的にも問題がない。かかる附随的合意の効力について、14条 註16参照。 証券の全体がいかなる構成部分から成り立っているかを確認しえない とき、又は他に何が記載されていたかを確認しえないときは、保険証券 は証拠力を失う(OLG.Frankfurt17.2.30JR.1930.241)O (b) 保険証券は常に債務証書である(11条註5)O (C) 保険証券に所持人条項があるときは、民法808条の免責証券 となる(13条註5)0 3.代り証券(Ersatzurkunde)の発行については、17条参照。 4.保険証券の記載に関する異議 〔駐C4〕(a) 文献。Bruck224;HagenBd.1.355;Jacobi, DerVersicherungsschein,Heidelberger Diss.1911;Josef OZ. 1920.527;KedenburgJR.1929.2;KischIherJ.Bd.68.233, LZ.1917.1105:Lederle27;Oertzen Z.1911.822,1001;OpferA mann,Beitr邑ge zur Lehre vomVersicherungsvertrag,Erlanger Diss.1911:Ritter306;Roelli157,177;Steinhauser,Die Lebensversicherungspolice,Erlanger Diss.1910;Wolff LZ.1919. 1097,1160;Worms Z.19∩9.531. -43- 「生命保険契約法」(1条)(中西) (柱65〕(b)保険証券-又は保険契約の変更に関して発行さ れる(補充)証券-の内容が申込の内容と異なっていることがある。 この場合には、その相違点を書面で保険契約者に通知しなければならな い(3文)。従来の約款では、かかる通知義務は定められていなかった。 この制度は法律関係を明確にする利点があるほか、-保険契約者は保 険証券の記載が自己のなした申込の内容と合致するか否かを調査しない でこれを受領するのが通常であるから-とくに保険契約者の利益の保 護に役立つものといえる。 保険証券の記載と申込内容との相違は、保険会社が欲して生ぜしめた ものであることを要する。保険会社が保険契約者の申込に拡張、制限又 はその他の変更を加えて承諾した場合(民法150条2項)であることを 要する。保険契約者が申込において定めなかった点(例えば保険料率。 上記註42参照)を保険会社が補充した場合、又は保険取引の大量性にか んがみ保険契約者において契約の基礎とされることを予想せざるをえな い普通保険約款若しくは典型的な条項が申込にうけ加えられた場合には、 保険会社が欲して申込と証券の記載に差異を生ぜしめたものということ はできない盲-しかもその相違は、保険契約者をそれがないときよりも 不利な地位に立たしめるものでなければならない。約款の文言からは必 ずしもかかる制限的解釈をとるべきごとにはならないが、この規定が保 険契約者の保護を目的とするものであることにかんがみ、かように解す べきである(Raiser197;上記註1声も参照)。いずれにせよ、その相違が 保険契約者に有利なものであると・きは、これを通知しなくても、格別の 法的効果は生じない。 保険会社は証券の記載と申込内容との相違点を通知する義務を負う。 この義務は、保険会社がその主たる義務(すなわち危険負担)のほかに 履行することを要する附随義務の一つである。保険会社がこの義務に違 -44- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 反したときは、保険契約者に対して損害賠償の義務を負うことがある。 またこれを理由に保険証券の内容の取消をなしうる場合がある(Rai芦er 197)。 この通知は書面でしなければならない。保険証券に記載してするのが 適当である。ただし、申込の承諾を通知する際に(2条1項1文)、そ の通知書に相違点を記載してもよく(従ってこの場合は承諾の通知を書 面によってすることを前提とする。上記註51)、申込の承諾の通知とは 別にこの相違点の通知をしてもよく、保険証券の受領の際に別の書面で 通知してもよい。ともかく保険証券の記載のどの点が申込と異なるかを 傑険契約者が知ればよい。 〔駐66〕(C) 申込の内容と異なる保険証券が受領されたときは、 証券記載の内容の保険契約を締結しようという新しい申込が保険会社か ら保険契約者に対してなされたことになる(民法150粂2項)。保険契約 者はこの申込を承諾することもできるし、拒絶することもできる(KG. 15.3.22 Hans RZ.1922.416)。保険契約者が承諾したときは、保険契約 の内容は、保険会社が申込に変更を加えて保険言正券に記載したところに よって定まることとなる。保険契約者がこの申込を拒絶したときは、当 事者間の話合いはさしあたりまだまとまっていないこととなり、当事者 間'に会意が成立するか否かはその後の話合いの結果にまつこととなる。 承諾又は拒絶が明示的に行なわれた場合には、法律状態は明瞭である。 ただこの後の場合(拒絶の場合)については、保険会社は、申込と保険 証券の記載との相違が保険契約者に有利なものであって、従って保険契 約者の拒絶が不当なものであることを立証することができ、この立証が あったときは、保険契約がその「相違」を含む保険証券記載の内容をも って成立したことになる。 【柱67)(d) 保険契約者が意思表示をしないときは、これを承 -45一 「生命保険契約法」(1条)(中西) 諾と認むべきか否かが問題となる。保険契約者が例えば受戻し保険料 (Ein16sungspramie.保険証券の交付をうける際にこれと引換えに支 払うべき保険料)、証券作成費用及び公課(2条1項1文)を支払った こと叉はその他の保険契約者の行為から、 保険契約者が黙示的に承諾 したものと認めることはできるO しかし法律状態は明確ではない。保険 契約者にはこれより後にも保険証券に対して異議を述べることが許され てしかるべきものと思われるが、他方において保険会社の正常な・事業経 営の必要を考慮するときは、 保険会社が契約締結後不当に長期間を経 過した後にもなお保険証券の記載が正しいことの証明をしなければなら ぬものとするのは適当ではない。本約款が保険契約法5条と同じく保険 契約者に認めた異議権は、上の相矛盾する要求の調和に役立つものであ る。 〔柱68)(α) 異議は受領を要する形成的意思表示であって、そ の到達は14条3項によって定める。 〔性69〕(β) 異議を述べることができるのは保険契約者であるO 保険契約者が数人あるときは、その各人が独立して異議権を有する。保 険契約者は、制限的行為能力者である場合でも、法定代理人の関与をえ ることを要せず、単独で異議を述べることができる(民法107条。同説、 KischIherJ.Bd.68.248)。保険契約者の権利を承継した者があると きは、この者が異議を述べることができる(例えば相続人、譲受人、破 産管財人)。-第三者は異議を述べることができないO 従って、例えば 被保険者、保険金受取人(受取人指定が撤回しえないものである場合も 同じ)、質権者叉は差押債権者は異議を述べることができない(Kisch LZ.1917.1105)。保険会社も異議を述べることができない。保険会社が 錯誤を理由として取消をなしうるか否かの問題については、下記註79参 照0 -46一 「生命保険契約法」(1条)(中西) 〔駐70〕(γ) 異議は、保険契約者が保険証券を受領し、申込と の相違点につき書面による通知をうけた時から1月内に保険会社の取締 役(14条3項)に到達しなければならない(3文)。 異議を述べるべき期間の起算点は、保険契約法5条では保険証券の受 領(Annahme)の時としており、旧約款1条4項では保険証券の交付の 時としていたが、本約款ではこれを保険証券の受領(Empfangnahme) の時と定めたO これによって、異議権者が保険証券の内容を調査するこ とが事実上可能となった時が起算点となることが疑問の余地なく明らか となった(Grauer Z.1913.311,Kisch LZ.1917.1105,Wolff l162)。 異議期間の開始については保険証券受領の時がそれ自体として基準に なるのではないO 相違点の通知が保険契約者に到達していることが必要 である(かかる相違があることにより、保険証券の送付は契約を成立せ しめる効力を有しないことになる。民法150条2項)。さらに、申込の承 諾に関する特別の通知がなされていることが必要である(2粂1項1文O 上記註51)。申込内容に変更が加えられているのにその相違点の通知がな されないときは、異議期間は進行を開始しない。相違点の通知がないか ぎり、保険証券の内容が異議権者によって黙示的に承認せられて、異議 権者はその黙示の承認を取消しうるにとどまることにはならないO相違 点の通知が保険証券の受領よりも前に行なわれているときは、異議期間 は保険証券の受領の時から開始する。保険証券の受領後に相違点の通知 が行なわれたときは、異議期間はその通知の時から開始する。 〔性71〕1月の異議期間は約定の除斥期間であるO この期間は貴短 期間であるから(下記註85)、契約によってこれを延長することは差支 えないが、これを短縮することは許されないと解すべきであろう。、_の 期間を短縮したときは、短縮かみとめられないため不足分だけ期間が延 -47- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 長されることになるのではなく、異議期間の徒過による法律効果が全く 発生しないことになる(Wolffl161)O異議期間内であれば、保険事故が 発生した後であっても、異議を述べることができる。期間の計算は民法 187条の定めるところによる(下記註87)O (駐72)(♂) 異議の方式は14条3項の定めるところによる。従 って保険会社は、書面による異議のみを有効な異議として取扱えば足り .る(14条註15)Oたんに保険証券を返送したのみでは、異議を述べたこと にならないO 〔駐73) (亡) 異議は証券の記載が正しくないこと、すなわち申 込と一致しないことを示せば足りる。 異議において又は異議期間中に 相違点を列挙してその理由を示すことは必要でない。異議期間中に異議 を述べれば、相違点の具体的列挙やその理由の説明は異議期間経過後に してもよいO こわように解さないと、相違点の具体的な列挙やその理由 の説明に不充分な点があれば、それのみで異議の効力が奪われることと なるO かかる結果は異議制度の目的にも反するし、本約款の文言(これ は保険契約法と同じである)にも反することである(KischIherJ. Bd.68.245.反対説、Raiser200)O 〔駐74)(r) 異議は形成的性質のものであるから、保険会社の 取締役に到達した後は.(14条3項)、撤回することができない。その撤 回は、締結せられた保険契約を証券記載の内容のものに変更する旨の申 込と解するほかはないO 〔註75〕 (甲) 正規の異議の効果は、保険証券がもはや契約内容 に関する証拠とならないということである。異議がとくに保険証券の一 部に関してなされた場合を除くほか.保険証券が本来有する証拠として の意義が全面的に失われる。そして保険契約は、申込をその内谷として 成立したことになる。異議があっても、保険契約が全く成立しなかった -48- 「生命保険契約法」(1条)(中西) ことになるのではない。契約の締結そのものは影響をうけない。保険会 社は、異議を直ちに取上げない場合には、保険証券の記載が申込又はそ の他の合意と一致していることを自ら証明しなければならない。異議が 正当なものであるときは、保険会社は新しい保険証券又は訂正した保険 証券を発行しなければならない。異議が理由のないものであるときは、 異議を述べた者は保険会社に対してその蒙った損害を賠償しなければな らない(民法276条)O 〔註75〕 (e) 異議権者が異議期間内に有効な異議を述べないと きは、保険証券の記載を承諾したものとみなされる。契約は、その締結 の時から、保険証券記載の内容をもって成立したこととなる(RG.1.6. 11Deutsche Versztg.1911.421)。異議権者はもはやいかなる方法に よっても証券記載の保険契約の内容に変更を生ぜしめることはできない (ただし取消権は認められる)Oしかし、証券の記載とは別に行なわれて いる口頭の合意は、契約によってその効力を否定されないかぎり、当然 有効である(上記註63)Oなお、保険契約の内容につき承認があったこと となる場合でも、 普通保険約款又は特別保険約款をもって保険契約法 の強行規定を保険契約者の不利益に変更している場合には、その方面か らその契約の内容の当否が改めて問題となるO 保険会社は、異議権者が 異議期間経過前に保険証券の内容を承認したことを立証しうるときは、 異議期間の経過をまつことを要しない(Josef bz.1920.524)。 〔註17〕(f)保険契約者は異議を述べないことによる黙示の承認 又はこれと別に明示的になした承認を錯誤を理由として取消すことがで きる(4項3文但書O保険契約法5条2文参照)。詐欺又は強迫を理由と する取消(民法123条、124条)をなすことも許されるO 錯誤を理由と する取消をなすには、取消権老(異議権者と同じである)が自己の沈黙 の意味について錯誤に陥っていた(異議をのべる意思であったが、意思 -49一 「生命保険契約法」(1粂)(中西) に反して期間を徒過した)か、叉は保険証券の内容について錯誤に陥っ ていた(証券の記載を承認する意思であったか、記載の意味を誤解して これを承認したので、実際に証券に記載されている事柄を承認する意思 はなかった)ことか必要である(KischIherJ.Bd.68.274ff)。錯誤か 過失叉は重過失によるものであると否とを問わない。取消権については、 H法119粂以下か適用されるO とくに取消は遅滞なくなすことを要する (民法12条1項)。取消をした者か民法122条により損害賠償義務を負う こともありうる(例えば保険会社か保険契約者の沈黙を信頼して誤った 保険証券に応ずる再保険契約を締結したことにより損害を蒙った場合。 Ritter308)。-外務釦は取消の意思表示を受領する権限を有しない (14条3項)O外務員かこれを保険会社の取締役に伝えることは、差支え ない(14粂註14)0-その立証は取消権者かしなければならない。取消 か止当に行なわれたときは、異議を述べたのと同じ効果を生ずる。 〔註78〕(g) 上述の承認(黙示的承認と明示的承認の両者を含 む)の取消は、これを保険契約者による契約全部の取消と区別しなけれ ばならない。前者は保険会社による契約内谷の-一方的変更に対する承認 の効プJを失わしめるものであるが、契約の締結はこれによって影響をう けないO これに対して後者は、契約全体の解消という結果を生ぜしめるO 保険契約者は、例え賎保険会社の同一性に関して錯誤があった場合 (OLG.Posen9.5.04VA.1904.170Nr,75;OLG.FrankfurtlO. 11.20VA.1922十67Nr.1222)、保険会社の堅実性と信頼性に関して 錯誤があった場合(OLG.K61n17.5.09 Praxis Bd.3.4)、保険の種 柚こ関して錯誤があった場合(RG.15.3.04Wallmann Bd.38.1581)、 交付せられた保険証券の内容に関して錯誤があった場合(OLG.Stuttgart23.2.06VA.1906★84Nr.234)、「ボーナス」の意味に関して 錯誤があった場合(OLG.Stuttgart27.4.31HRR.1932 Nr.1)、 -50- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 保険料の額に関して錯誤があった場合(KG.12.6.18VA.1919†28Nr lO80,20.11.26 VA、1928.24Nr.1677、JR.1927.15、Ha,nSRZ. 1927.98)には、取消をすることができる0-ケルン高等裁判所1926 年7月7日判決(JR.1926.252)は、保険契約の有効な成立に関する錯 誤は前提に関する錯誤であるとする。このほか、詐欺を理由とする取消 をなすことも可能である(Behrend Z.1906.157)。 〔註79〕 5.他方において保険会社も、民法119条以下の定めると ころに従い、錯誤、詐欺等を理由として契約を取消することができる。 例えば被保険者又は保険契約者の同一性に関する錯誤(Toop ZVW. 1915.187)、保険金額・保険料額・保険料支払期間に関する錯誤の場合 には取消ができるO これに対して、告知すべき事実(8条)に関して錯 誤があった場合には取消は認められないO また申込の署名が被保険者の 代理人によって行なわれていることを知らなかったことは、取消の理由 にはならない(KG.29.5.29JR.1929.283;RG.28.3.30 Bd.128. 116、JR.1930.168、VA.1931.27 Nr.2115)。 計算違い叉は誤記を理由に取消をなしうるか否かについては見解がわ かれているO 例えば、保険会社が2回分の保険料の支払があったと誤解 したため過払い保険料の計算を誤ったと主張するような場合、又は保険 証券記載の支払日が誤記であると主張するような場合である。1914年10 月2日のカンマーゲリヒトの判決(VA.1914キ83Nr.833)及び1919年 11月1日の同裁判所の判決(VA.1921暮7 Nr.119)は、これらの場合 は動機の錯誤であって、取消は認められないとするか、これはライヒス ゲリヒトの1920年6月8日の判決(VA.1921+37Nr.1138.JW.1920, 869,HansRZ.1920.718)がといてい・るように、表示の内容に関する 錯誤であって、取消を認めるのが正当であるO ライヒスゲリヒトによれ ば、保険金額の支払時期が何時であって保険料を何時まで支払うかとい -51- 「生命保険契約法」(1条)(中西) う問題、すなわちいかなる保険料表が適用されるかの問題は、当事者の 合意の重要な対象をなすものであって、この点に関する錯誤はたんなる 動機の錯誤ではなく、客観的な事情、すなわち法律行為の要素の錯誤で ある(反対説、Josef HansRZ.1921.235.Petersen Z.1921.247も 参照)O 普通保険約款中の取消に関する規定は、保険契約の取消によって効力 を失わない(RG.21.11.30JR.1930.427)O 附税I.期日及び期間 時は、あるいは時点ないし期日として、あるいは2つの期日の間の期 間として、問題になる。 〔註80〕 I期日ないし時点はとくに申込(註40・45)、形式的保 険開始(註55)、保険証券発行の年月日(2条註27)、実質的保険開始 (2条註22)、次回後保険料の履行期及び支払期日(3条註19、22)、 ならびに被保険者の死亡の発生(11条)に関して意味があるO II.期間はしばしば問題となるが、その長さ及び法的意義は場合によ って異なる。 〔註81〕1.期間は、実質的には、契約当事者によって自由に定め うるものと、保険契約者の保護のために法律でその最短期間又は最長期 間が定められこれを保険契約者の不利益に変更しえないものとに分かれ、 また除斥期間と時効期間とに分かれるO 〔駐82〕 (a) 最短期間つ短縮は許されないが延長することは差 支えない)としては、つぎのものがある-保険証券の記載に関する異 議を述ぶべき1月の期間(1条4項3文、保険契約法5条)、保険料を 支払って保険証券を受戻さない場合の1月の解約期間(2条2項1文後 段、保険契約法38条2項・42条)、履行期の到来した保険料の支払につ 一52- 「生命保険契約法」(1条)(中西) いて認められる2週間の猶予(催告)期間(4条1項、保険契約法39条 ・42条)、6月の訴提起期間(18条1項、保険契約法12条2項)05年の 時効期間(18条3項、保険契約法12条3項)は保険会社に対する請求権 については最短期間であって、これを5年よりも短く定めることはでき ない(これを短縮しうるものとすれば、請求権の時効消滅が容易になる)。 このほかこ一一一一一一しばしば問題となる-被保険者自殺の場合に保険会社が となる期間も最短期間である(10条註6)。 〔駐83〕 (b) 最長期間(短縮はできるが延長はできない)には、 つぎのものがある-保険料払込済の保険への変更又は保険契約の買戻 が認められるために必要な3年の保険関係の存続期間(4条2項b2文 ・5条1項、保険契約法39条・173条・174条・175条・178条)、保 険会社が解除をなす場合の1月の期間(8条1項、保険契約法20条1項 ・31条)、告知義務違反の主張をなすべき期間(8条3項d、保険契約 法163条・172条)、保険契約者に対する請求権の5年の時効期間(18 条3項、保険契約法12条3項、民法225条2文)O 【駐84) 2.一定の期間を定め、その期間内にのみ法的行為又は訴 訟行為を有効に行ないうるものとされる場合があるが、かかる期間を除 斥期間という。裁判所は、除斥期間は、時効期間と異なり、職権で顧慮 しなければならない。除斥期間は法律又は契約で定められるが、時効期 間については法律に基礎がなければならないO 〔註85〕 (a) 法定の除斥期間としてはつぎのものがある-受 戻し保険料(註67)及び附随費用を支払わない場合になす保険関係の解 約の期間(2条2項1文、保険契約法38条2項1文)、支払遅滞の場合 の解約の効力を夫わしめうる期間(4条4項、保険契約法39条1項5文)、 保険会社が告知義務違反を理由とする解除をなすべき期間(8条1項1 文、保険契約法20条1項1文)、保険会社が詐欺を理由とする取消をな -53- 「生命保険契約法」(1条)(中西) すべき期間(8条4項1文、保険契約法22条、民法124条)、無過失の 告知義務違反の場合に保険料の増額又は保険契約の解約をなすべき期間 (8条註54・59、保険契約法41条)O 〔瞳呵 (b) 約定の除斥期間としてはつぎのものがある-保 険会社が保険契約者の申込に対して承諾をなすべき期間(1条1項2文) 保険証券の記載に対する異議を述べるべき期間(1条4項3文)、申込 の後実質的保険開始の時までに生じた重要な病気又は傷害を主張しうる 期間(2条1項4文)、受戻し保険料(註67)、費用及び公課の支払が ない場合に年度保険料、費用及び公課の支払を求めうる期間(2条2項 1文)、過失ある告知義務違反の場合に保険会社が解除の意思表示をな しうる期間(8条3項d)、保険会社がその給付を拒絶した場合に訴を 提起しうる期間(18条1項)O 時効期間は18条3項(保険契約法12条1項)で規定されている期間で あるO 〔註87〕 3.期間の計算は民法187条以下の定めるところによる。 従って期間の起算点はつぎのとおりとなるO期間は、あるいはある出来 事文はある時から(例えば診査医の診査の時〔1条1項2文〕、保険証 券の受領の時〔1条4項3文〕、受戻し保険料及び附随費用の支払の催 告の受領の時〔2条1項1文〕、催告書の到達の時〔4条1項〕、又は 保険会社による請求の拒絶の時〔18条1項〕から)開始するとせられる 場合があり、またあるいはある者がある出来事を知った時から(例えば 保険会社が告知義務違反を知った時から)開始するとせられる場合があ るが、これらの場合には、その出来事、時点又は了知が属する日は算入 しない(民法187条1項)O期間はその翌日から進行を開始するO これに 対して、ある日のはじめ(すなわち午前0時)が基準となる時点である 場合(例えば実質的保険開始又は技術的保険開始の日を特定の日と定め -54一 「生命保険契約法」(1条)(中西) た場合)には、その日から計算する(民法187条2項)。 期間が日をもって定められているときは、期間はその末日をもって満 了する(民法188条1項)。期間が週(1条1項2文、3条5項、4条1 項)、月(1条4項、2条2項、3条5項、4条4項、5条1項、6 条1項、18条1項)、叉は数筒の月を含む単位(2条1項4文、4条2 項、5条1項、8条3項d、11条3項、18条3項)をもって定められて いるときは、 期間は最後の週又は日の目でその名称又は数によりその 出来事又はその時点が属する日に応当する日の終了をもって満了する (民法188条2項前段)。期間が月をもって定められている場合において、 最後の月に期間満了の基準となる日がないときは、期間はその日の末日 の終了をもって満了する(民法188条3項)。給付叉は表示をなすべき日 が日曜日叉は法定の休日であるときは、つぎの週日がその日曜日叉は休 日に代る(民法193条)O 附説II.診査医による診査 (匝88)1.保険金額が比較的大きい死亡保険については、保険会 社は被保険者の健康状態を調査するため、被保険者に診査医の診査をう けさせるのが通常であるO 診査医の診査を前提とする保険料表では、こ れがない場合よりも保険料を低くすることができる。有診査の保険では とくに不利な危険は保険から除外するからである。保険監督局は、診査 医の診査をしない保険は、一定の範囲内のものにかぎって認めることと \ している(VA.1926.29)。無診査の保険において保険者は一定期間を 経過した後にのみ金銭給付の全額を支払うことを要するものとすれば、 診査医の診査をしないことのある程度の代償となるO 〔牲89) 2.診査医による診査は、被保険者たるべき者の人格に対 する侵害となるから、保険会社は被保険者たるべき者に対して診査医の 一55- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 診査を受くべきことを請求することはできない。被保険者たるべき者が 保険会社又は外務員に対して何らかの形で診査を受ける義務を負ったと しても、保険会社は診査を受くべきことを請求する権利を有しない(保 険契約法160条)Oその約束の不履行の場合につき違約金の約定をしても、 無効である(民法344条)O保険監督局は、以前には、診査を拒絶したと きは無診査の保険として取扱う旨の合意も保険契約法160条の強行規定 の精神に反する(VA.1913.122)-かかる合意は民法339条以下の 違約罰の性質を有する(VA.1923.43)という見解をとっていたO この 見解は行きすぎであって、本書の旧版でも賛成しえない旨を述べたが (48頁)、保険監督局もその後この見解を改めた(VA.1930.160)。 〔蛙90) 診査医の診査を受けることに関する合意は拘束力を有しな いから、保険会社は、被保険者に診査を受けさせなくても、又は診査を 受けさせることがおくれても、保険契約者、診査を受くべき者、外務員、 又はその他の第三者に対して損害賠償の義務を負うことはない。同様に 申込人も外務員に対して損害賠償の義務を負わない(LG.II.Berlin VA.1931.185 Nr.2152;VA.1932.108)O 〔駐91〕 診査医の診査を受けなかった場合における保険会社の費用 の賠償に関して保険会社と保険契約者との間に特別の合意があるときは、 保険会社はすでに支出した費用の賠償を請求することができる。保険監 督局は、保険契約者がかかる義務を負う旨を保険契約申込書において定 めることは差支えないが、それについては普通保険約款においてこれが 可能である旨を定めていることが必要であるとしている(VA・1910・93, 1911.90)O 〔往92) 3.被保険者が診査医による診査の際に記入すべき質問表 に署名しなくても、保険契約締結の申込の効力は影響を受けない。診査 医の診査の際に被保険者が注意を欠いていても、契約の成立には影響が 一56一 「生命保険契約法」(1粂)(中西) ない(KG.27.11.29JR.1930.33)O 附説m.医師の地位 〔柱93〕 文献。Bauchw・itz Z.1912.198;Bruck Hamburger Wochenshrift fiir Aerzte und Krankenkassen1920.442;Samwer Masius1907.158,LZ.1908.401;Stichling DJZ.1909.254,ZVW. 1909.96;ToopWallmann Bd.52.1481. 〔註94〕I.医師は、有診査の死亡保険では保険契約の締結又は復 活の際の被保険者の診査にあたり、またすべての種類の死亡保険に関し て、被保険者がした健康状態に関する告知の調査及び死因の調査(11条 2項b)にあたる。医師には、診査医、家庭医(被保険者のかかりつけ の医師)及び査定医があるO診査医は被保険者たるべき者の診査を行な う。家庭医は、被保険者を診療したことがある医師で、保険会社がさら に詳細な情報を求めうる者として問題となる。査定医は医師の報告書を 調査する。 〔拉95)IL1.保険会社と診査医との間の法律関係は(その細目 は特別の会意によって定められるO Bl瓦tter fhr Vertrauensirzte 1916.77,1920.49,1922.66;Masius1922.201,316.)請負契約で ある(民法631条)。けだし、この契約は、診査医による被保険者の診査 により、保険会社を被保険者の健康状態について充分な判断をえられる 地位に立たしめることを目的とするものであって、診査医の仕事によっ て生ぜしめられる結果が重要であるからである(ライヒスゲリヒトの 1912年10月1日の判決〔Wallmann Bd.47.489〕は、これと異なり、雇 傭契約であるというか、その理由は示していない)O 請負又は雇傭のい ずれとみるかは、実際問題としては重要な問題ではない丁-1933年1月 1日からドイツ生命保険会社連盟とドイツ医師会(Verband der Ae一 一57- 「生命保険契約法」(1粂)(中西) rzte Deutschlands)との間で診査の報酬がつぎのように定められてい る。 1.保険金額2,000ライヒスマルク以下の保険の場合の簡易診査報告 書(いわゆる′ト診査報告書)… … … 7ライヒスマルク 2.詳細診査報告書(いわゆる大診査報告書) 保険金額が10,000ライヒスマルク以下のとき・・12 〝 〝 20,000 〝 … ‥18 〝 〝 50,000 〝 … ‥20 〝 〝 100,000 〝 … ‥25 〝 〝 100,000ライヒスマルクをこえるとき・30 〝 詳細診査報告書の場合は40才以上の受診者については必ず血圧測定 をしなければならないが、上の報酬はこの血圧測定に対する報酬を 含む0 3.医師の意見書… … … … ‥8.50 ′′ 4.a)器官及び分泌物の追加検査… …6 〝 b)主たる診査を行なった医師以外の者がこの検査を行なうとき … … … … … … ‥9 ル ル C)尿の追加検査(会社が要求した場合に行なう顕微鏡検査の報 酬を含む)。同一の医師が行なうと否とは問わない・・ … … … … … …・8 ル ル 5.会社の依頼による被保険者の住所への出張診査 … … … … … …・7.50 // 交通費(住所地で必要なものを含む)をこれに加算する0 6.午後8時以後及び日曜日の出張診査…・12 ′/ 交通費(住所地で必要なものを含む)をこれに加算する。 7.出張診査に30分以上時間を要したときの加算額 -58一 「生命保険契約法」(1条)(中西) … … … … … …・3 ライヒスマルク 8.会社の依頼による血圧測定(2番記載の血圧測定は除く) … … … … … … …4 // 9.会社の依頼による婦人科診査… …・4 〝 10.報告手数料… … … … …1.25 1′ (杜摘) 2.診査医は、医的診査及び診査報告書(その記載事項は、 被保険者及び医師に対する質問の形式で保険会社が定めている)作成の 面では、保険会社の計算において、かつ保険会社の委託にもとずいて行 動する。それゆえ、医的診査及びそれにもとづく報告書の作成に際して 見落しがあれば、それによる不利益はすべて保険会社に及ぶこととなる。 -医師は、保険会社に対して過失があるときは(例えば報告書の提出 がおくれたとき)、民法上の一般原則とくに276条以下の定めに従い保 険会社に対して責任を負う。受診者の身体上の傷害(例えばⅩ線による 火傷)については保険会社が責任を負うが、保険会社は医師に対して賠 簑 償請求権を有する(OLG.K61n8.7.05VA.190699 Nr.245,16.2.07 VA.1907+57Nr.313;RG.14.2.08VA.190858Nr.388,1.10.12 Wallmann Bd.47.489)O従って、この種の活動に関しては診査医が保険 契約者又は被保険者の代理人となることはない言一一一一一一一一取引高税は、契約に 別段の定めがないかぎり、診査医が自ら負担しなければならない。 〔牲97〕 何人かが権限なくして健康状態に関する診査報告書を発行 し、若しくは真正な報告書を変造して、これを保険会社を欺岡する目的 で使用した場合、又は医師が保険会社において使用する目的で良心に反 して健康状態に関する不正な報告書を発行した場合の刑法上の制裁は、 刑法277条・278条の定めるところによるO その報告書は必ずしも現在 の健康状態に関するものであることを要せず、過去の病気に関するもの でもよい。直接認識しうる事実の健康状態への影響に関する専門的評価 一59- 「生命保険契約法」(1条)(中西) についても同・様である(RG.Strafsachen Bd.33.293)。自己の健康 状態に関して保険会社を欺岡する目的でかかる報告書を使用した者も罰 せられる(刑法279条)。 (駐98〕 3.保険会社は詳細な質問表によって被保険者及びその親 族の健康状態に関して質問を行なうが、診査医は、前記の診査及び鑑定 の仕事のほか、この保険会社の質問に対してなされる表示を受領する義 務を負う。診査医のこの活動に関する法的評価としては、一般的には、 契約前の質問(8条)に協力する外務員の活動の法的評価と同様でよいO 被保険者が自己及びその親族の健康状態に関して医師に対してなす表示 は、保険契約者及び被保険者が契約締結の際に履行すべき告知義務の一 部をなすものであるからである。受診者が不実告知をなしたときは、そ れによる不利益は保険契約者自身に及ぶのが原則であって、保険会社は 告知義務違反の効果を主張することができる(8条。LG.Danzig, OLG.Marienwerder7.1.05Praxis Bd.2.93)O診査医が不明確な質 問をしたとき、又は質問に答えること若しくは答えないことに関して専 門的な説明をしたときは、保険会社はその診査医の説明について責任を 負わなければならない(RG.9.5.02 Praxis Bd.1.64,11.6.12 LZ. 1912.777,6.10.16WaHmann Bd.51.1465)O診査医を利用する目的 は、被保険者の健康状態に関する質問につき素人の解答でなく診査の目 的に適した解答をえることにある。診査医が同時に被保険者の家庭医で もあるときは、被保険者は解答をなすことをその医師にまかせても過失 はない。 (駐99) 4.診査医は黙秘義務を負うが(これは訴訟上は証言の拒 絶を正当ならしめる。民訴383粂5号)、その範囲いかんは、それが何 人に対する関係で問題となるかによって異なる。 (a) 保険会社に対する関係では黙秘義務は全く問題にならない0 -60一 「生命保険契約法」(1粂)(中西) 診査医による診査は保険会社の委託により、しかも保険会社が保険の申 込に対する態度を決定するための資料をえる意図で行なわれるものであ って、診査がかかる意図で行なわれるものであることは被保険者(ない し保険契約者)に明瞭にわかっていることであるO 診査が行なわれたと きは、被保険者から特に許可を与えられていなくても、当然診査の結果 を保険会社に通知してよい(Samwer LZ.1908.401;OLG.Hamburg 28.4.09Wallmann Bd.43.2351)O (b) 診査医は受診者には診査の最終結果を結げてはならない旨が、 診査医と保険会社との間の合意によって定められている。診査医は医学 的な助言を与える立場にある者として受診者に対するのではなく、保険 会社の委託をうけた者として受診者に対するのであⅠる。そして、診査医 の診査は保険会社が申込にかかる危険負担の内容を知るために行なう各 種の調査の一部をなすにすぎないものであって、この点からいっても、 診査医としての活動の範園内では、診査の結果は受診者に告げるべきで はない(Wallmann Bd.54.573;Bloch Bl瓦tter f.Vertrauensar- Zte d.Lebensvers.1911.49)。保険契約者又は被保険者は医師の報告 書の謄本は請求しえないので(保険契約法3条3項1文)、保険契約者 又は被保険者が診査医の結果を合法的に知る方法はない。保険契約者又 は被保険者は自己が診査医に対してなした表示の謄本は請求することが できる(保険契約法理由書3条、上記註48)。診査医が診査の結果を被保 険者に通知したときは、保険会社に対して損害賠償義務を負うことがあ る。受診者が診査医又は保険会社に対して損害賠償請求権を取得するこ とはない。 (C) その他のすべての者に対する関係では診査医の黙秘義務があ ることはいうまでもない。とくに保険契約者及びその家族、受診者の家 族、並びに外務員に対する関係においては、黙秘義務がある。 -61一 「生命保険契約法」(1条)(中西) 〔駐100〕 診査医が黙秘義務に違反したときは、民法823条2項によ り自ら損害賠償責任を負う場合があるO このほか刑法300条による刑事 制裁がある。 〔駐101〕IIL保険会社が危険の状態に関する判断をなすには、診査 医の診査のほかに、申込以前に被保険者を診療したことがあり、申込当 時に被保険者を診療しており、将来も(特に死亡当時の病気につき)被 保険者を診療する家庭医の援助を必要とするO 医師には黙秘義務がある ので、保険会社のこの要求には限度があるO 〔駐102〕1.黙秘義務を免除することは、オブリーゲンバイトない し附随義務の一つである(OLG.K61n22.2.28JR.1928.284,VA. 1929.221Nr.1874)O医師に対して免除の表示がなされることは必ずし も必要でない。通知を求める権限を保険会社に与えるのでよい(KG. 19.6.18VA.1919十53NrlO96)。被保険者又はその相続人がこの授権を 撤回することは認められない。この授権をなすことは極めて人格的な権 利であって、相続人にも移転しない(Schlager LZ.1928.1046,1048 ;OLG.Dresden16.3.06,RG.23.4.06 Sichs Arch.Bd.1.204, 244)O 黙秘義務は、その者の利益のために黙秘義務が認められている者のみ が、これを免除しうるO従って、保険契約者が被保険者であるときは、 保険契約者が黙秘義務の免除をなしうるO保険契約者と被保険者こが別 人であるときは、被保険者の承認がなければならないO被保険者が自己 の生命につき保険契約を締結することを承認したときは-これによっ て普通保険約款及♂特別保険約款に服することとなり、とくに最後の 病気の経過及び死亡に至る詳しい事情を保険会社に通知することを要求 する約款11条の定めに服することになるから-黙秘義務の免除を承認 したものと解してよいO のみならず。質問表(11条註28)には、黙秘義 一62- 「′ヒ釧保険契約法」(1条)(中西) 務の免除に関する被保険者の明示的な授権が記載されている(OLG. Dresden16.3.06,RG.23.4.06 SichsArch.Bd.1.204,244)。- 被保険者の家族のある者の健康状態に関して黙秘義務を免除するには、 その者自身による授権が必要である(Bauchwitz Z.1912.198)。例えば 被保険者から感染したと考えられる妻の病気に関する医学的な通知を保 険会社が必要とする場合に、その妻を以前に・診療し叉は現在診療してい る医師が通知をなすには、とくに妻の明示の授権をえなければならない。 これに対して、家庭医が申込者の家族に一定の病気があることを一般的 に述べる場合には、特別の授権はなくてもよいであろう(Samwer LZ. 1908.401)O 〔駐103〕 医師のほか官庁も黙秘義務を負う。例えば法定保険者及び 保険官庁の機関及び職月も黙秘義務を負う(社会保険法141条)。これら の者が保険会社に対して通知をなすには、とくに黙秘義務の免除をうけ ることが必要である(Deutsche Versztg.1913.533,ZVW.1913.428)。 〔駐104〕 2.黙秘義務を負う者がいかなる範囲で通知をなす権限を 有するかは、この者に与えられた授権によって定まるが、これは被保険 者が解答すべき質問表の中に記載されているのが通常である(11条註28)O 被保険者を診療した医師が黙秘義務を免除せられ、従って通知をなす権 限を有する場合でも、その医師は当然に通知をなす義務を負うことには ならないO しかし相続人は民法157条により医師に通知をなすべきこと を請求することができるO相続人でない保険金受取人には、医師の団体 が保険会社に対する経済的な防禦方法として医師に報告の拒絶を要求す る場合に、民法826条によりその団体に対して(医師自身に対してでは ない)請求することが認められるにとどまる(Stichling DJZ.1909. 254)O 〔駐105〕 Ⅳ.診査医の診査の結果と被保険者の家庭医の通知のみで 一63- 「生釧保険契約法」(1条)(中西) は危険の状態を充分に明らかにすることができないので、関係保険会社 が集って一つの通知団体(Bischoff Verbffentlichungen Heft2. 201)を作っているO保険契約者若しくは被保険者の一般的な利益又は個 々の保険契約者又は被保険者の利益が害されるとする見地からかかる団 体の適法性を問題とする余地はないO保険会社が関係保険会社への照会 によって、被保険者又は保険契約者が以前に契約を拒絶されたことがあ るかどうかを確認することは、一般の利益になることである(BauchwitzZ.1912.198)O申込者は申込書中に記載された質問により他の保険 会社による拒絶の事実が重要であることを知らされているから、保険会 社がこの質問に対する解答につき後に確認を行なうことは信義誠実に反 しないO これに対して、当該保険会社又は通知団体に属する保険会社が そのえた通知をさらに第三者に伝えるときは、黙秘義務の違反となる (VA.1911.89)O生命保険会社以外の保険会社もここにいう第三者にふ くまれると解すべきであろう(VA.1913.85)。 〔駐106) Ⅴ.保険会社が健康状態に関して入手した一切の通知ない し情報は、審査のため、保険会社の本店において査定医に提供される。 査定医は特別の合意にもとづいて審査にあたるが、この合意は、査定医 の活動の範囲いかんにより、雇傭契約である場合と請負契約である場合 とがある。査定医のかかる活動が保険契約者に対する関係において正当 であることは、査定医が会社の利益のために活動する地位にあることか ら当然にみちびかれる。 一64- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 第2条 保険保護の開始 l.保険契約者は、申込の承諾の通知をうけた後遅滞なく、保険証券 と引換えに、受戻し保険料、保険証券作成費用(その額は……とする) 及び公課があるときは公課を支払わなければならないO この支払の到達 の時から、ただし保険証券記載の保険開始時期がこれより後であるとき はその保険開始時期から、会社の給付義務が開始する。被保険者たるべ き者が給付義務開始の基準時において生存していないとき、又はこの者 が申込の後に重要な病気となるか又は重要な傷害をうけたときは、会社 の給付義務は開始しない。申込の時から給付義務開始の本来の基準時ま での間に病気又は傷害を生じたことは、その本来の基準時から1年内に かぎり主張することができる0 2.受戻し保険料、手数料及び公課が正当の時期に支払われないとき は、会社は保険証券の発行日付より6月内にかぎり、I年分の保険料の 全額、手数料及び公課を請求することができるO またこの場合には保険 者はl月の期間をもって保険契約を解約することができるO この後の場 合には、保険者は、医師の費用の賠償のほか、手数料(その額は……と する)を請求することができるO 第 2 条 日 次 本条の内容… … … …・ … … ‥註1 A.実質的保険開始(1項)・‥ ‥ ・・・・・・・2-20 I.意 義・・‥ ‥・・・・‥ … … … 2 IL 要 件 1.受戻し保険料及び附随費用の支払… … … … 3-14 (a)支払義務・ … ‥ 4 -65一 「生命保険契約法」(1条)(中西) (b)保険料債務者… … … … … … …・5 (C)期 間… … … … …… … …・6 遅滞なき期間の始期… … … … … …・7 (d)保険証券と引換に… … … … … … ‥8 受戻し保険料及び附随費用の支払猶予… … … ‥9 (e)支払の範囲… … … …・・… … …10 (り支払者… … … … … … … …・11 (g)支払の方法… … … … … … … ‥12 (h)支払の受領者… … …・∴ … … …・13 (i)遅滞の効果… … … … … … … ‥14 2.被保険者が生存していること。重要な疾病・傷害がないこと・15-21 (a)旧 法… … … … … … … …・16 (b)基準となる時期… … … … … … …17 (C)被保険者たるべき者が生存していることを要する… …18 (d)被保険者たるべき者が重要な疾病にかからず、重要な傷害をうけ ていないことを要する… … … … … ‥19-20 (e)その主張の時期的制限… … … … … …21 m.時 期・ … … … … … …・22 Ⅳ.技術的保険開始・ 日附の遡及… … … … … … … …23 B.受戻し保険料及び附随費用が正当な時期に支払われないことの効果 (2項)… … … … … … … …・24-35 I.訴求と解約との関係… … … … … … …24 IL1、訴の基礎… …・・… … … … …・25 2.事物管轄、被告、保険会社の代理人… … … …26 3.期 間・・・・・・・・・・ 一66- ・・・27 「生命保険契約法」(1粂)(中西) … … …28 4.日 的・・・ Ill.1.解約総説… … … … … … … …29 2.相手方… … … … … … … …・30 3.時 期… … … … … … … …・31 4.期 間… … … … … … … …・32 5.形 式… … … … … … … …・33 6.効 果… … … … … … … …・34 7.事後支払… … … … … … … …35 〔註1〕 第2条は「保険保護の開始」という見出の下に、第1項で は実質的保険開始について(註A)、第2項では正当の時期に受戻し保 険料〔1条註67〕及び附随費用の支払がないことの効果について(詫B) 規定しているO 従来の模範約款ではこれらの問題は第1条第2項及び第 3項で取扱われていたO A.実質的保険開始(第1項) 〔註2〕I.保険保護の開始時期-すなわち実質的保険開始(materieller Versicherungsbeginn)-とは、その時から保険会社が危 険を負担する(本条1項2文の言葉でいえば会社の給付義務が開始する) 時点である。実質的保険開始は形式的保険開始(1条註55)と区別する ことを要するO もっとも、この両者が重なることはありうる。技術的保 険開始については下記註23参照O II.実質的保険開始が生ずるためには、つぎの各種の要件が備わるこ とを要する。 〔駐日 1.実質的保険開始を生ずるには、第一に、保険契約者が 申込の承諾の通知をうけた律遅滞なく、保険証券と引換に受戻し保険料 〔1条註67〕並びに附随費用(すなわち作成手数料及び公課)を支払う -67- 「生命保険契約法」(1条)(中西) ことが必要である(1文。この点に関する約款の規定は、保険契約法35 粂・38条1項と実質的に同じである)。 〔往り (a)保険料及び附随費用の支払義務はオブリーゲンバイ トないし自己義務ではなく(OLG.Baumberg19.7.28VA.1930,11 Nr.1924はオブリーゲンバイトであるとするが、正当でない)、民法以1 条以下の意味での法律上の義務である。この義務は、成立した保険契約 にもとづくものであるから、保険契約者が申込の承諾の通知を受けた後 にはじめて発生する。 〔駐51(b) 保険料支払義務を負うのは、通常は保険契約者、 従って保険の申込をした者(1条2項)であるO しかし必ずしも保険契 約者にかぎらないO保険契約者以外の第三者が保険会社に対して支払義 務を負うこともありうるO保険料支払義務を引受けた者を保険料債務者 という。 従って、保険料債務者は、保険契約者(1条2項)叉は保険会社に対 して保険料支払義務を引受けた第三者である丁一一一保険料債務者が死亡し たときは、その義務は相続債務として相続人に移転する丁一一一法律行為に より保険料債務を他に移転するには、保険会社の関与を必要とする。これ に二つの方法がある。第-は、債務者(保険会社)と債務の引受人との 間で契約する方法である(民法414条)。第二は、新旧保険料債務者の間 で契約を行ない、これについて保険会社の承認をえる方法である(民法 415粂)Oこの後の場合における保険会社の承認は、明示的なものでもよ いし、結局行為(schliissige Handlung)によるものでよい(例えば 引受人に対する訴の提起)。 しかし、支払猶予があったのみでは承認が なされたものとはいえない(JW.1910.13)。たんなる沈黙(RGR.Ko一 mment.Amm.2zu§415 BGB)が承認を意味しえないことは民法 415条2項2文からみちびかれるO右の第一の契約方法による場合には、 一68- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 従来の保険料債務者の同意は必要でない。以上のいずれの場合にも、債 務引受又は保険会社の承認により、従前の保険料債務者はその債務を免 れ、保険会社は債務引受人に対してのみ履行を請求することができる。 -保険料債務者が数人あるときは、疑わしいときは、連帯債務者とし て責任を負う(民法427条)。相続人も相続債務につき連帯債務者として 責任を負う(民法2058条)。保険が妻の持参財産に属するときは、夫は 法の規定により妻に対して保険料の支払をなす義務を負う(民法1386条 1項2文)Oこの場合には、保険会社に対しては夫婦の双方が連帯債務者 として責任を負う(民法1388条)。保険が親権に服する子の財産に属する 場合には、父(民法1654条)又は母(民法1686条)につき、これと同様 のことが認められる0-保険料債務者の財産の管理が、後見人、財産管 理者又は相続財産管理人にゆだねられているときは、これと異なる。こ の場合には保険契約者の財産のみが債務の引きあてとなり、後見人、財 産管理者、又は相続財産管理人の財産は債務の引きあてとならない。後 見人等が法定代理人として保険証券に単独で署名し、またはこれに連署 している場合でも同様である0-譲受人、質権者、差押債権者、保険 金受取人、又は被保険者(1条2項)は、保険料債務者ではない。-破 産管財人については15条註68・73参照。 〔駐り (C) 支払は遅滞なく、すなわち責に帰すべき遅延なく (民法121条1項)行なわれなければならないO旧約款1条1項2文では 2週間の支払期限が定められていたが、本約款ではかかる定めはなくな っているO 従って実質的保険開始に関しては、支払の遅延につき過失が あるか否かが問題となるかのようであるが、実はそうではない0 第12文 は、保険会社の給付義務が支払の到達の時から開始する旨を明定してい るO従って、客観的に支払があったか否かが基準となるO それゆえ、「遅 滞なく」とは実質的保険開始の問題については、保険契約法35条1文が 一69一 「生命保険契約法」(1条)(中西) 定めているのと同じく、「直ちに」の意味である。保険契約法の規定の上 でも、第1回保険料の不払又はその支払の遅延については過失の有無は 問題とならない(ただし、RG.24.9.26 肢1.114.321,JW.1927.171, VA.1928.1Nr.1659,28.2.28JR.1928.84,JW.1928.1740, VA.1929.191Nr.1850及びこれに従うOLG.Kie130.6.28 VA. 1929.202 Nr.1858は、本文に述べたのとは異なる見解である)。 〔駐日 支払は、保険契約者が申込の承諾の通知を受けた後、遅滞 なく行なうことを要するO 申込の承諾の表示(1条註51)をなす際に、 それとあわせて受戻し保険料〔1条註67〕及び附随費用の支払の催告を 行なうのが合目的的であるO 承諾の表示と別に支払の催告を行なう場 合には、その支払の催告は、承諾の表示と同じく、特別の方式を必要と しないが、通常は書面で行なわれるであろう。口頭による催告の伝達又 は書面による催告の交付については、外務員にもその権限が認められるO 支払の催告は、内容的には、保険会社が受戻し保険料及び附随費用を支 払ってもらいたい旨を述べるものである0 第4条の催告の場合と異なり、 正当の時期に支払がない場合の効果を示すことは必要ではないO 支払の 催告は保険料債務者(上記註5)に対してなすべきであるO 〔註8〕 (d) 支払は、保険契約者が保険の申込の承諾の通知を うけた後、遅滞なく、・保険証券の交付と引換にしなければならないO 受 戻し保険料〔1条註67〕及び附随費用の履行期は、保険証券の提供の有 無とは無関係に定まるものであるが、保険料債務者は保険証券の交付と 引換にのみ支払えば足りる(OLG.Frankfurt30.1.29JR.1929. 189)。この点に関して法律が定めている例外(保険契約法35条2文)は 実際上は問題とならないO けだし、保険証券を発行しない旨の定めはな されていないからである。 保険証券が保険契約者に交付されないかぎ ぎり、支払を一時拒絶することができるO Lかしこれを終局的に拒絶す -70- 「生命保険契約法」(1条)(中西) ることはできない(KG.6.3.26JR.1926.101;PfeifferJR.1926. 102)。従って、保険料債務者に対して受戻し保険料及び附随費用の額が以 前に通知されていた場合でも、保険証券の交付と引換に即時に支払が行 なわれたのであれば、その支払は正当の時期に行なわれたことになる (OLG.Hamburgll.5.25JR.1926.261)。-交付とは保険証券に 対する事実上の支配を移転することをいう。従ってこれは1条4項2文 (1条註70)にいう受領と同じ意味である。従って、保険契約者又はそ の代理人が保険証券の交付を受ける時が基準となる。たんに保険証券が 到達したのみでは(民法130条)足りないであろう0-保険証券が適法 に保険契約者の手中にあるときは、保険会社が受戻し保険料の前払を放 棄したことななる(OLG.Kie130.6.2∂JR.1928.280)。支払を受け ないで交付した場合に受戻し保険料及び附随費用の支払を猶予したこと になるかどうかは事実問題であって、とくに保険会社の意思いかんによ るから、これを明らかにしなければならない(OLG.Hamburg8.2.13Recht1913Nr.1047;JacobiWuR.1920.85,88,Schweigh邑user Archiv1920.62)。 〔鰹9〕 保険会社は、保険料債務者に対して、受戻し保険料(1粂註 67)及び附随費用の支払を猶予することができる。この猶予があったと きは、支払義務は延期せられ、保険料債務者は支払期日の到来した金額 を保険証券と引換に直ちに支払うことを要しないこととなる。 支払猶 予により実質的保険開始も延期されるかどうかは、各場合の事情による。 支払猶予は本来は実質的保険開始の延期を生ぜしめるものではないが、 受戻し保険料及び費用の前払なくして実質的保険開始を生ぜしめる趣旨 とみるのが当事者双方の意思に合致するであろう。この場合には受戻し 保険料は次回後保険料の性質をもつことになる(3条註8、KG.3.10. 28VA.1930.9 Nr.1922,2.5.31JR.1931.272)。-支払猶予を -71- 「生命保険契約法」(1条)(中西) なしうるのは保険会社自身であって、外務員は当然にはこの権限を有し ないO 〔註10〕(e) 支払わなければならないのは、受戻し保険料〔1 条註67〕、作成費用及び公課があるときはその公課である。受戻し保険料 の金緬は、当事者が合意によって定めた紙であるO受戻し保険料は第一 年度の年度保険料であることがあり、第一年度の年度保険料の分割払の 第 一回分であることがあり、-一時払保険料であることがある(3条註8)O 作成費用の暮貞は普通保険約款又は申込証に示しておくことを要するO そ の額は会社により異なる。作成賀用を放棄しうるか否かについては、 VA・1930.101参照㍉一一公課については16条1項の註釈参照O 〔註1り (f) 支払は保険料債務者(上記註5)によってなされ るのが通常であるO しかし第三者が支払をした場合でも、支払を受領し なければならないのが原則である(民法267条2項。その第_三者が支払 義務をflわない者である場合でも同様である)。保険料偵務者が異議を唱 えた場合には、保険会社は第三者による支払を受領することを要しない が(民法267条2項)、任意にこれを受領することは差支えないO また、 質権者叉は差押債権者が支払をなす場合には、保険会社は保険料債務者 の異議にかかわりなく支払を受領する義務を負う。けだし、この場合に は保険料債務者の異議は債権者の権利を害するからであるO 第三者の支 払により保険会社の権利は消滅する。第三者が保険料債務者に対して賠 償請求権を有するか否かは、両者の間の法律関係のいかんによる。第三 者は、支払に代るもの、ことに相殺によって債務を消滅せしめる権限は、 これを有しない(RGZ.Bd.78.384.ただしRG.26.2.26JR.1926. 83には問題がある)O外務員が立替弘をなすことを禁止されている場合で も、外務員のなす支払は有効な偵務の履行である(RG.20.11.89Seuffert Bd.45.445 Nr.265;Bauchwitz LZ.1913.589)。債務を消 -72- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 滅せしめることは、通常は保険料債務者の利益とその推測しうる意思 (民法683条)に合致するであろうO 〔性121(g) 支払は必ずしも金銭でなされることを要しない。 金銭債務の弁済につき認められた方法であるかぎり、いかなる方法によ ってもよい。この問題及び支払の時期の問題については3条註27・29参 照O (駐13〕 (h) 支払は保険会社に対してしなければならない。し かし保険証券の交付については外務員にも権限が認められるので(保険 契約法43条3号)、支払は外務員に対して行なってもよい。外務員は保 険証券又は別紙に領収の旨を記載するのが通常である(VA.1915.120)O 保険証券に署名のない保険料計算書が記載されている場合でも、外務員 に支払って差支えない(OLG.Hamburg19.12.28 HRR.1929.1043)O 保険料領収証の意義については3条註31参照O 領収の旨を記載しないで 保険証券を交付することも取引上普通に行なわれている(ベルリン商工 会議所鑑定書、VA.1931.154)0-----履行の場所については12条参照0 -支払があったときは、自己の活動により保険契約の締結に妻らしめ た外務員(商法88条)は、媒介手数料請求権を取得する0-保険料の 取立てについては、基礎書類所定の相当の手数料を請求することができ る`(16条3項)O 〔註14)(i) 保険会社は、支払を猶予していないかぎり(上記 註9)、受戻し保険料〔1条註67〕及び附随費用を保険の申込の承諾通 知の後遅滞なく支払うべきことを請求する権利を有するから、支払の遅 延によって損害をうけたときは(例えば、支払が有価証券の交付によっ て行なわれるべき旨が定められていた場合において、その証券の市価が 受戻し保険料及び附随費用の支払期日以後に下落したとき、また外国為 替の引受けをなし、その市価が低下したとき)、その賠償を請求するこ -73一 「生命保険契約法」(1条)(中西) とができるO 〔註15〕 2.実質的保険開始は、さらに、被保険者たるべき者が実 質的保険開始の基準となる時点において生存しており、かつこの者が申込 以後重要な疾病にかからず叉は重要な傷害を受けていないことを要件と する(3文)Oただし、この疾病又は傷害は-一定の期間内にかぎり主張す ることができる(4文)。 〔註1り (a) 旧約款1条2項2文では、被保険者が診査の後に 重要な疾病にかかり又は重要な傷害をうけたときは、保険会社が保険契 約を取消しうる旨を定めていた。このいわゆる取消が法技術的な意味で の取消でありえないことはこ 本書第1版31頁で述べたとおりである(PfeifferJR.1932.180.これに反してVA.1909.101は法技術的な意味 での取消であるとする)0本約款はこの誤りを改めたO 〔註17〕(b) 実質的保険開始の基準時とは、通常は、受戻し保 険料〔1条註67〕及び附随費用の支払が行なわれる時点であるO しかし、 これより後の時点となることもある(下記註22)。 〔註18〕(C) 被保険者となるべき者がこの基準時に生存してい なければならないO 被保険者となるべき者がすでに死亡している場 合に保険者が何ら給付をなすを要しないことは、自明のことであるO け だし、保険会社が引受けようとした危険が実質的保険開始の際にすでに 実現しているからであるO その意味でこの規定はなくてもよい規定であ るが、あっても別に問題はないO 〔註19)(d) さらに、被保険者たるべき者が基準時に重要な疾 病にかからず、また重要な傷害をうけていないことを必要とするO この規定は旧約款にもあったが(ただし保険会社の取消権の点は異な る)、その効力について従来から争いがあるO ゲルバルト(Gerhard Anm9zu§38)は、この規定は保険契約法38条・42条との関係から無効 一74- 「生命保険契約法」(1条)(中西) であるというO しかし、保険契約法38条は保険開始以前又は保険開始と 同時に支払うべき保険料を正当の時期に支払わなかった場合の効果を定 める規定であるから(KG.22.12.26JR.1927.94,VA.1928.25 Nr.1678,HansRZ.1927.217)、同氏のあげる理由は正当でない。保 険監督局公報(VA)1909年101頁は、この規定に関する疑問は表明して し-ないOバーゲン(Hagen,Z.1910.211Bd.2.406)は、この規定は 危険制限を定めたもので、かかる危険制限をなすことは許されるとするO しかし、被保険者が生存せず、又は重要な疾病にかかるか重要な傷害を うけたときは、保険会社の給付義務そのものが全く生じないのであるか ら、これを許された危険制限ということはできないO ヘンゼル(Hensel,Z.1910.572)はバーゲンと大体同じ見解である。本書の第一版 では、取消権の点を除けばこの規定の効力については別に問題はないと みていたO エpレンツバイク(Ehrenzweig,S.386f.)は、この規定 は「挙証責任の規則を定めたものと解するほかはない。保険会社が保険 事故発生後に問題の中間の時期に生じた病気を証明したときは、請求権 者はその病気が死亡の原因でないことの挙証責任を負うO かかる挙証の 規則は契約自由の範囲に属する危険制限条項の一つである」と説く(こ の規定はオーストリーの生命保険約款にも取り入れられている)Oカンマ ーゲリヒト1926年12月22日判決(JR.1927.94VA.1928.25Nr.1678 HansRZ.1927.217)は、この規定は給付の開始の要件を定めたもので、 かかる定めをなすことには何ら問題はないとするO カンマーゲリヒト 1927年10月8日判決(JR.1927.333,VA.1929.22 Nr.1802)はこ の規定が有効であることを前提とした判決をしているが、「保険契約者 に非常に不利な条項」という表現を使っているので、この規定の効力に ついて疑問をもったものと思われるO ライヒスゲリヒトは1929年2月26 日の判決(HansRGZ.A.19∠9.211,VA.1930.211Nr.1979)でも、 -75- 「生命保険契約法」(1粂)(中西) 1930年9月23日の判決(Bd.130.55,JR.1930.380,VA.1931.180 Nr.2147,JW.1931.1457)でも、この条項について根本的な疑問は表 明していない。ケルン高等裁判所1931年10月14日の判決(HansRG乙 A.1932.29,JW.1932.2555)も同様である。ライヒスゲリヒト1931 年11月10日判決(Bd.134、148,JR.1931.384,VA.1932.264Nr. 2325,JW.1932.3344.EIsterJR.1932.53)は,「本件においては 『この争いのある契約規定の効力の問題には立入る』必要がない」と述 べてる。 以上の諸見解に対し、ブルック(Bruck183)はこの規定は無効である と説く。ブルックによれば、この規定は、申込は診査医の診査の時と形式 的保険開始の時との間に生ずる事実については、告知義務に関する法の 強行規定(保険契約法16条以下・31条1文)に反するO かかる事実に関 しては、保険会社は告知義務違反(8粂)を主張しうるにとどまり、責 任が全く生じないことを主張することはできない(OLG.Celle16.10. 32HansRGZ.A.1933.29)O また、この規定は、形式的保険開始の時と 実質的保険開始の時の間に生じた事実については、危険不変更義務に関 する強行規定(保険契約法27条以下・31条1文・614・172条1文)に反 するO保険会社は危険不変更義務の違反を主張することができるにとど まり、責任が全く生じな.いことは主張することができないO ジルバーシ ュミット(Silberschmidt,VersArchiv1930Heft3.37)もこれと大 体同じ結論と思われる(96)。本書もこのブルックの説に従うO 監督官庁 の認可が法律上の有効性の問題につき決定的な意義をもつものでないこ とは、1条註4参照。 〔註20) 旧約款1条2項は「実質的保険開始は、被保険者が=…・診 査医の診査の時以後に重要な疾病にかからず又は重要な傷害をうけてい ないことを要件とする」と定めていた。これに対して新約款1項3文で 一76- 「生命保険契約法l(1条)(中西) は「被保険者たるべき者が申込の時以後重要な疾病にかからず又は重要 な傷害をうけていない場合」に実質的保険開始が生ずるものとしている。 約款の文言はかわっているが、あわせて満されることを要する2つの客 観的要件を定めたものである点では同一である。すなわち、被保険者は重 要な疾病にかからず、かつ重要な傷害をうけていないことを必要とする。 保険料債務者が受戻し保険料〔1条註67〕及び費用を任意に支払ったか 否か、訴の方法によりその支払を強制されたか否か(下記註28)、又は その金額を解約期間の進行中に支払ったか否か(下記註35)を問わない のは当然である。 被保険者たるべき者が申込の時(1条註45)以後に重要な疾病にかか っていないことを必要とする。旧約款1条2項1文では診査医の診査の 時を基準としていたO新約款では、申込の日から実質的保険開始の基準 となる時点(前記註17)までの全期間が問題とされているO ただし申込 以前の時期はふくまれないO従って保険契約者又は被保険者が申込の発 信後その到達の時までに生じた重要な疾病を告知せず、告知義務に違反 したときは、保険者は契約を解除するか、又は詐欺を理由として契約を 取消さなければならない(8条)0-被保険者たるべき者が重要な疾病 にかかっているか否かは、主観的な見地からでなく、客観的な見地から 定めなければならない。従って、被保険者たるべき者が自ら健康である と感じたのみでは足りなく、身体的又は精神的異常の客観的徴候(Bruck449)の重要な程度のものが存在しないことが必要である。従って 病気の素質があるのみでは実質的保険開始の妨げとはならない(OLG. StuttgartlO.12.09 Praxis Bd.3.29)。しかし、この規定の存在理 由からみて、疾病は申込の時以後に新しく生じたものであることを要す ると解すべきである(RG.10.11.31Bd.134.148,VA.1932.264 Nr.2325,JR.1931.384:KG.20.6.28JR.1928.294.反対説OLG. -77- 「生命保険契約法」(1粂)(中西) Hamburg3.12.30IiansRGZ.A.1931.148)。従って、その疾病が申込 の時に、(・従って診査医の診査の時にも)すでに存在していたもので、 診査医がそれを発見せず又はそれを重要な疾病と認めなかったのであれ ば、保険会社の給付義務は発生する。新約款の1930年6月4・5日案で は「とくに被保険者たるべき者が署名した申込書類において明示的に質 問されている疾病は、重要な疾病とみなす」という条項があったが、こ れは1931年6月9・10日の総会の決議で削られているO 従って、被保 険者たるべき者が給付義務開始の基準時に(OLG.Hamm21.10.29 JR.1930.65.反対説RG.23.9.30Bd.130.55,JR.1930.380 VA. 1931.180Nr.217)重要な疾病にかかっていたか否かは、客観的な立場 から決定しなければならない(KG.22.12.26VA.1928.25Nr.1678, HansRZ.1927.217,JR.1927.94;OLG.Hamm21.10.29JfI. 1930.65;0・LG.Hamburg3.12.30HansRGZ.A.1931.148;OLG. Kbln14.10.31HansRGZ.A.1932.29,JW.1932.2555)Oその疾病 につき質問をしたのみでは、その疾病が重要な疾病であることにはなら ない(8条O RG.17.4.28JR.1928.153)。-被保険者たるべきもの の傷害についても同様のことが妥当する。とくに、その傷害も責要なも ので、かつ申込の時以後に生じたものであることを要する。-この要 件が欠けていることの証明は、これを主張する者がしなければならない。 従って保険会社がその給付義務の不発生を主張するときは、保険会社が 右の要件が欠けていることの証明をしなければならない0-保険監督 局公報(VAつ1933年142頁は、保険会社は被保険者たるべき者に保険 保護に関する誤解を与えないように、受戻し保険料〔1条註67〕及び付 随費用の支払をうけるに先立ち、右の要件が備っているかどうかをでき るかぎり調査しなければならないと述べているO 〔註21)(e) しかし、被保険者たるべき者が申込の時以後実質 -78- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 的保険開始の本来の基準時までの間に重要な疾病にかかり又は重要な傷 害をうけた場合でも、保険者の給付義務の開始が常に妨げられるもので はないOすなわち、保険会社は、実質的保険開始の本来の基準時から1 年内にかぎり、右の要件の不存在を主張することができる(4条)。保険 会社が右の要件の欠峡を主張するときは払戻金(6条3項0 6条註19参 照)を支払わなければならない場合があるが、保険料のその他の部分は -保険会社は危険負担の用意をした旨を表示したのであるから-す でに使用済であって、保険会社が終局的にこれを取得するO保険会社は民 法346条1文の類推適用により受取った保険料の全額を返還しなければ ならないと説く見解(Hagen Z.1910.211,Henzel Z.1910.572)は、 理由がないと思うO すでに保険金の支払が行なわれているときは、民法 812条以下に従い、それを返還しなければならない丁-ケルン高等裁判 所1932年4月27日判決(VA.1933.240Nr.2435,HansRGZ.A.1933. 77)は、保険会社は保険契約法21条の類推適用により疾病と死亡との間 に因果関係がある場合にかぎり重要な疾病又は傷害を主張することがで きるというが(同説、RG.23.9.30Bd.130.55,JR.1930.380,VA. 1931.180 Nr.2147,,JW.1931.]457.反対説、KG.22.]2.26JR. 1927.94VA.1928.25Nr.1678,HamsRZ.1927.217,8.10.27JR. 1927.333,VA.1929.22Nr.1802)、重要な疾病にかかることは実質的 保険開始の消極的要件(ないし実質的保険開始を妨げる要件)であるか ら、被保険者たるべき者が重要な疾病にかかったときは、この者は全く 保険されないことになるのであり、死亡の原因が何であるかは問題とな らないはずである0 本約款は実質的保険開始の本来の基準時に被保険者 たるべき者が疾病にかかっていたときは保険会社の給付義務が全然開始 しないという構想をとっているので-この構想そのものは実は適当で ないが-この構想を前提とするかぎり、疾病と死亡との間の因果関係 一79一 「生命保険契約法」(1条)(中西) は問題となりえない。1年の約定除斥期間(1条註86)を経過した後は (その計算は民法187条以下によるOl条註87)、保険会社は告知義務 違反の効果(8条)のみを主張することができるO 〔拉22〕IIl.実質的保険開始の要件が備った場合(上記註3-21)には 保険会社の給付義務が発生することになるが、保険会社の給付義務は右 の要件が備った時以後について発生する。保険証券において保険開始の 時期としてこれよりも早い時期が定められている場合でも、保険会社の 給付義務の開始がそこまで遡ることはない(2文)っ従って、例えば保険 証券で保険の開始を1933年1月1日と定めている場合において、受戻し 保険料〔1条詫67〕及び附随費用の支払が1月15日に行なわれたときは、 実質的保険開始は1月15日である。逆に保険証券に保険が1933年4月1 日から開始する旨が定められている場合において、受戻し保険料及び附 随費用の支払がそれより早く 3月のはじめに行なわれたときは、実質的 保険開始は4月1日である。 〔柱23) Ⅳ.実質的保険開始時期と区別すべきものとして技術的保 険開始(technische Versicherungsbeginn)があるO これはその時か ら保険料の支払をなすべき時、従って最初の保険年度の始期(最初の保 険料期間の始期)であるO 形式的保険開始及び実質的保険開始よりも以 前の時を技術的開始の時と定めた場合に、かかる日附の遡及はいかなる 意味をもつかといえば、それは-保険料の計算に技術的保険開始の時 の年令を基礎としうること(OLG.Hamburg6.10.20HansRZ.1920. 707)を別とすれば-保険料債務者が形式的及び実質的保険開始以前の 一一定の期間について保険料の支払をなす義務を負うことになるだけであ る。かかる遡及が行なわれても、実質的保険開始が保険料の支払以前の 時点まで遡ることはないのが原則である(RC.26.1.11Bd.75.377, 4・10・12Bd・80.139).保険料の支払がやはり実質的保険開始の要件であ ー80- 「生命保険契約法」(1条)(中西) る(JacobiWuR.1920.85)ぐ日附の遡及は、保険料払済保険への転 換(5条詰5)、戦争危険の引受(RG.26.5.16VA.1916♯73Nr. 948,2.1.17ZVW.1717.68.反対説RG.4.7.19ZVW.1919.259)も しくは自殺危険(10条註6)に関する期間、または解除をなしうる期 間(8条3項d)の開始時期を遡らせることにもならない(8条3項 d)。-保険証券の発行日は先日附にすべきではない(VA.1914. 134)っ誤解を生ずるおそれがあるからである。 B.受戻し保険料及び附随費用を正当の時期に支払わないことの効 果(2項) 〔註24〕I.受戻し保険料〔1条註67〕及び附随費用の全部又は 一部が正当の時期に支払われないときは、その効果としてつぎの2つ のことが認められるO すなわち、保険会社はその金額を訴求するか、 又は保険契約を解約することができるO 訴の提起と解約は、いずれか一方のみが認められる。両者をあわせて 行なうことはできない。そのいずれを行使するかは、保険会社におい て自由に定めることができる。保険会社は例えば外務員の利益をはか るために(外務員に手数料をえしめるために)訴の提起をなす義務を 負うものではない(ZVW.1915.295,356)。保険会社が支払期日の到 来した金額の支払を訴求するのは、保険契約者を引きつづき契約に拘 束しておきたいということであるから、保険会社が同時に解約により 保険契約を解消せしめて手数料(下記註34)の履行期を到来せしめる にとどめることはできないはずであるO しかし訴の提起によって解約 権が消滅するとまで解する必要はないであろう。保険会社は、全額に つき満足をうけない間は(例えば保険会社が訴を取り下げた場合、勝 訴判決をえたが任意の支払又は強制執行による満足をうけていない場 合)、解約しうる。保険料債務者は、保険会社が解約しないかぎり、 一81- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 事後の支払をなして実質的保険開始を生ぜしめることができる。ただし 保険会社が1項3文及び4文により一定の要件の不存在を主張すること を妨げない(上記註17-21)。保険開始を生ずることが保険会社にとって もはや好ましくなくなっている場合がありうるが、かかる場合に保険会社 が保険開始を阻止するには、解約をなすことが必要であるO解約のみが契 約関係を消滅せしめるからである。訴と解約は、同時に行なわれるので あれば、互に他を排斥する。時間的に前後して行なわれるのであれば、 まず訴を提起し後に解約をなすことは認められる(この逆の順序で両者 を行なうことは許されない)。 〔往25)IL1.保険会社は支払わるべき金額を請求することがで きる。請求することはこの場合は訴求するの意味である。訴の基礎は成 立した保険契約であるO保険証券の受戻しは保険契約の締結の要件をな すものではなく、保険料債務者がなすべき契約の履行である(von Oertzen Z.1911.830)O保険監督局は、訴の提起又は支払命令の申請をな す以前に、債務者がその後急迫状態に陥っているか否かを保険会社の取 締役が確認することを要求しているO 訴訟上の手段に関する決定又はそ の独自の判断による実行を外務員に一任することはできない(VA.1928. 126,1929.112)。 〔註26〕 2.事物管轄は裁判所構成法23条及び71条によるO土地管 轄は本約款18条が定めている0-被告は保険料債務者である(上記註 5)。-裁判上保険会社を代理する権限を有するのは、取締役である (株式会社につき商法231条、相互会社につき保険業法34条)O 〔註27) 3.訴の提起(支払命令の申立も同じ)は、保険証券の発 行日付から6月の約定除斥期間内にかぎって(しかしこの期間内ならば 何時でも)することができる(OLG.Kip116.6.25JW.1927.189は 正当でない)O旧約款1条3項では、この除斥期間を3月としていたO こ 一82一 「生命保険契約法」(1粂)(中西) れが6月に延長されたことにより、不必要な訴訟が多数提起されること が避けられるので、これは当事者双方の利益となる。保険会社が契約の 履行を請求するか否かに関して保険契約者が不明確な地位におかれるこ とを一定期間内にかぎるべきであるというのがこの除斥期間を設けた趣 旨であるが、このほか、この除斥期間があることにより、保険会社は保 険年度(保険料期間)の終りまで訴の提起をなさず、その間保険契約者 は保険事故が生じても会社の金銭給付を請求しえない地位におかれると いう事態が生ずるのを避けることができる(Hagen Z.1910.210)O訴叉 は支払命令がこの期間内に送達されることは必要でないO この期間は除 斥期間であるから、これが経過したときは、その徒過につき保険会社に 正当な事由がないかぎり、訴権は消滅することとなる(1条註84)。期間 の計算については1条註87参照。 〔駐28〕 4.訴求しうるのは、作成費用及び公課(上記註10)のほ か、年度保険料の1年分の全額である0年度保険料の1年分のみを訴求 しうることは、保険契約者は何時でも保険関係を当該保険年度(当該保 険料期間)の終りにつき解約しうる旨を定めた保険契約法165条からみ ちびかれるO 保険契約者が解約しないまま第二の保険年度(第二の 保険料期間)が始まったときは、 保険会社は第二年度の年度保険料を 訴求することかできる-年度保険料の分割支払の定めがあるときは、 保険会社は年度保険料の全額を一時に訴求してもよいし、訴提起の時ま でに履行期の到来した分割払分のみを訴求してもよいO保険会社が年度 保険料を訴求したときは、分割払条項は効力を失う(Kirchmann ZVW. 1914.231;VA.1914.135;OLG.K6nigsberg3・5.04VA.1906キ46 Nr.204)。保険会社は分割払分のみを訴求した場合でも、その部分に関 する解約権を失わないO 訴求していない分割払分に関する部分について 解約権を失わないことはいうまでもないO保険料月払の保険における第 一83一 「生命保険契約法」(1条)(中西) 一保険年度分の保険料の訴求につき、VA.1931.166参照盲-一時払保 険料については、当該保険種類に応ずる年度保険料の1年分のみを請求 することができる(VA.1910.89)。このことは約款の表現の改善により 現在では明瞭となっている(旧約款1条3項では、保険会社は第一年度 の年度保険料die ersteJahrespr邑mie を請求しうると定めていたが、 本約款では年度保険料の1年分の全額eine volleJahrespr邑mieを請 求しうると定めている)0-保険会社が満足をうければ、その給付義務 が開始し、そのかぎりで実質的保険開始を生ずることとなる。 〔駐29〕llI.1.保険会社は訴提起に代えて保険契約を解約するこ とができるO解約はその後1月内に債務額が支払われないことを停止条 件とする。解約は受領を要する形成的意思表示であって、その相手方に 到達しなければならない(民法130条1項)O 〔柱30〕 2.解約の意思表示の相手方は保険契約者、譲受人又はそ の法定もしくは任意代理人であるO保険契約者又は譲受人が数人あると きは、その各人であるO保険契約者が死亡したときは、遺言執行者叉は 相続財産管理人が相続財産につき代理権を有する場合を除くほか、保険 契約者の相続人に対して解約の意思表示をなすべきである丁一一一一解約の相 手方が制限的行為能力者である場合において、制限的行為能力者がその 表示を受領することにつき法定代理人が同意を与えているときは、解約 は制限的行為能力者に到達したときにその効力を生ずる(民121)。一一一一 保険が妻の持参財産に属するときは、解約の意思表示は夫婦の双方に到 達しなければならない(民法1403条2項)O保険が共通財産に属するとき は、解約の意思表示は夫に到達すれば足りる言-解約の相手方が破産宣 告をうけているときは、解約の意思表示は破産管財人に対してなすべき である言-解約の意思表示は14条1項及び2項の方法によってなすこと ができる。 一84- 「生命保険契約法」(1条)(中西) 〔往3り 3.何時解約をするかは保険会社の自由であるO保険会社 は、訴の提起の場合とは異なり、期間の制限を受けない01月以内に支 払があれば解約の効力を生じない旨を示してする解約は、解除条件付解 約であって、有効であるO 〔往32〕 4.解約は1月の期間(保険契約法38条2項1文も参照) を附してしなければならないO この期間は法定の除斥期間(1条註85) であって、その計算は民法187条1項・188条2項・193条による(1 条註87)Oこの期間を短縮することは許されない(保険契約法42)Oこれを 延長することは差支えないと解すべきであろうO 従って1月よりも短い 期間を定めてする解約は無効であり、1月よりも長い期間を定めてする 解約は有効である(KG.7.1.31HRR.1931Nr.1080)。 〔柱33〕 5.解約の意思表示の方式については法律にも契約にも特 別の定めはないが、書面で行なわれるのが通常であるO 署名を複写又は 印刷している場合でも、書面によってしたものと認めることができる (Bruck KommentarBem.19zu§38)。 〔註34〕 6.解約期間の徒過により保険契約は消滅するO それまで 保険契約は受戻し保険料〔1条註67〕及び附随費用の支払がないことに より浮動の状態にあったわけであるが、この浮動の状態が除去されるこ とになるO受戻し保険料及び附随費用が末だ全く支払われていないとき は、保険会社はそれに代えて営業費用(保険契約法40条2項2文。1条 註4)の支払を求める権利を取得することとなるO この点に関する定め が普通保険約款にない場合でも同様である。保険監督局のこれと反対の 見解(VA.1909.101)は、せいぜい監督法上の意義を有するにとどま る。保険監督局の認可をえていない営業費用の額に関する事前の合意は、 その折に関しては保険料債務者を拘束するものではなく(保険契約法42 条)、保険会社をしてその請求額が相当であることの立証責任を免れし -85- 「′l二命保険契約法」(1粂)(中西) めるものではない(VA.1910.90)O受戻し保険料及び附随費用の一部が すでに支払われているときは、保険会社はその受領した金額を一一一営業 費用、診査医の診査費川及びその他の医師の費用があるときはその費用 は控除して-一つ果険料債務者に返還しなければならないO実質的保険開 始は生じていないから、保険料の返還を要しないものとすると保険者が不 当に利得することになるからである√一備険彗ま、営業費用のほか、場 合によっては医師の費用(註950従って診査医の費用及びその契約分の 査定医の費用)の賠償を求めることができ、さらに場合によっては裁判 上の手続(訂24)によって生じた費用を請求することができる。 〔註35〕 7.解約期間が経過する以前であれば、債務額の支払によ って解約の効力の発生を妨げることができる(保険契約法38条2項2文)。 有効な支払があったときは、その時に1条3文の要件が備っているかぎ り、実質的保険開始を生ずる㌃→一一一一一これに対して解約期間経過後の支払は、 保険会社においてこれを受領することを要しない。これは新たな保険契 約の締結の申込となる(4条註42)O -86-