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学ぶ楽しさの追求 - 佐賀県教育センター
「学ぶ楽しさの追求」 (3年計画 回覧用 ※ 研究だより 第2年次) “APPROACH” 平成26年11月28日発行 研究発表会案内状・本庄小学校ホームページと併せて御覧いただければ幸いです。 授業の中で子どもたちに「学ぶ楽しさ」を味わわせるためには,「分かる楽しさ」 「できる楽しさ」「追求する楽しさ」の3つを「学びの姿」として実感させることが大切で あると考えます。授業の中で,子どもたちの「学びの姿」がどうであるかを問う必要が あります。それには,まず,教師自身が「学びの姿」を作らなければならないと考えま す。教師の「学びの姿」なしには,子どもたちに対して「学びの姿」は伝わらないばか りか,十分な指導の手だてもでてこないと考えます。教師の「学びの姿」が子どもた ちの「学びの姿」に投影されてこそ,子どもたちは生き生きと「学ぶ楽しさ」が味わえ ると考えます。 本校では, 「 学ぶ楽しさの追求」という主題での研究も2年目を迎えました。 1年次の研究の反省を踏まえ,全体研究主題の観点から研究の視点を見直し, 実証授業を積み上げ,研究の視点の有効性と成果を評価し実践研究の深化を図ってきました。 特に今年度は, 「授業力向上相互診断シート」を活用した授業研究会や,夏休みに「授業について 熱く語る会」を設定し,研究構想の提案と合わせて模擬授業を実施し,授業の質の向上をめざして きました。そこには,子どもたちにとっての「学ぶ楽しさの追求」と同時に,教師自身にとっての 「学ぶ楽しさの追求」の2つの側面を見出すことができました。今年度は,教師の学び続ける「や る気」に支えられた実践研究の深まりを公開できるかと思います。 また,佐賀市教育委員会より委嘱された「幼小一貫教育」についても,7年目を迎え,幼稚園教 育と小学校教育の接続期における滑らかな接続を図ることはもとより,幼小それぞれの発達段階に おける育ちと学びを明らかにしつつ,幼小の一層の連携推進を図る取組を実践しているところです。 今年度は,4年生が園児たちとの面浮立交流をきっかけにした日常的な交流の様子を参観していた だき,幼小一貫教育の成果にふれていただければと思います。 2月 13 日の研究発表会では,各教科等の授業をはじめ,本庄幼稚園の公開保育,本校が取り組ん でいる外国語活動や特別支援教育,心の教育についても授業を公開し,分科会での協議を行います。 さらに,講演は,広尾学園中学校・高等学校副校長,元筑波大学附属中学校副校長であり,理科 教育の一任者であられる角田陸男先生です。 「教師は,教える専門家であると同時に,学びの専門家 である必要がある。」という先生の理念に裏打ちされた「学ぶ楽しさを感じる授業づくり」について 熱く語っていただきます。 是非,多くの先生方に御参会いただき,御批正,御指導を賜りたいと思っております。 ここに,本校研究だより「APPROACH:アプローチ」第22号をお届けし,研究発表会の御案内 といたします。 佐賀大学文化教育学部代用附属 佐賀市立本庄小学校校長 秋山 芳美 ○はじめに 1 「学ぶ楽しさの追求」 佐賀大学文化教育学部 教授 本庄小学校主事 世波 敏嗣 学校教育目標「心豊かに自ら学びたくましく生きる子どもを育てる」 のもと,本校の研究は3年計画の2年目となりました。そして,「学ぶ 楽しさ」が追求されています。 まず,人間形成あるいは人格形成のための「学び」の価値としては, およそ以下の3つが上げられます。第1は教養的(文化的)価値で,一 般教育として,教養を持った文化の継承・発展を担う子ども達を育成し, 義務教育の基盤としての初等教育を行うことの価値です。第2は実用的 価値で,家庭生活,労働生活,社会生活等のような日常生活で役に立つ 教育を行い,加えて専門・職業教育として進学・就職の準備教育を行うことの価値です。第3は社 会的価値で,家庭や地域社会の存続・発展,国家の繁栄,国際的・地球的な繁栄を目指しての貢献 ができるような子ども達の育成を目指して教育を行うことの価値です。 次に,「遊び」について人間は,ホモ・ルーデンス即ち「遊びをする人(ヒト)」とも言われま す。オランダの歴史家,ヨハン・ホイジンガー(1872-1945)は「遊びは文化の発端」であり,「何 も生み出さないが,文化創造の原動力である」と述べました。その他にも,ロジェ・カイヨワは子 どもの遊びの分類を行い,ジャン・ピアジェも子どもの発達と遊びの関連性を研究しました。この ように,子ども達の「遊び」と人類の「文化形成」,ひいては「文明の確立」は密接に関連してい ると言ってもよいでしょう。 翻って我が国において,源氏物語などの古典に出てくる「御遊び(おんあそび)」は,現代的な 意味の「遊び」だけを表していたのではありませんでした。それには,詩歌を作ったり,演奏した り,歌舞をしたり,狩りをしたり,自由に動き回ったり,気ままに歩き回ったりして『楽しむ』と いう意味がありました。例えば現代でも,研究者が「哲学に遊ぶ」とか「古典に遊ぶ」などと言い 表すことがあるのは,こうした古典的な意味で使われているものです。これらのことは,現代的な 意味では,ほぼ「勉強」と言ってもよいでしょう。しかもそれらは,体系立ってはいないものの, 「自発的・主体的学習」であったのです。 進学や就職のための勉強で苦しんだ経験がある方々ならば,「勉強とは苦しみながらするもの だ!」というイメージをお持ちでしょう。しかし,子ども達が一心不乱に本を読み,作文し,歌を 歌い,体を動かし,絵を描き,そして,計算したり実験したり討論したりしているその様子をご覧 下さい。この一生懸命さの中に,無心な「学ぶ楽しさ」が既に芽生えているのではないか,とも思 われます。このような子ども達の様子と「学ぶ楽しさ」を引き出す本校の先生方の手立てを,ご参 会の皆様と共に確かに体感していきたいと思っています。 「学ぶ楽しさの追求」 ~未来を拓く『本庄っ子』へ~ 研究主任 髙山 健 「♪ありのままの…♪」このフレーズを聴くと思わず口ずさんでしま う方も多いことと思います。あらゆることに対し「できる」と信じ,失 敗を恐れずに突き進むアナ。できないことに苦しむのではなく,そうい った「ありのままの自分を認める」ことで自由になれたエルサ。こうい った姿に深い感銘を受け, 「自分もこうなりたい」と思ったのは子どもた ちだけではないでしょう。 今後も急激に変化していくと考えられる社会の中にあって,私たちは, 子どもたちが,それぞれの未来へ自己実現を図りながら,変化の激しい社会を生き抜いていくため に必要な資質や能力を身に付けていく必要を感じています。そのためにも,教育における「不易」 と「流行」を十分に見極めつつ,「できる」と信じられる逞しさと,「ありのままの自分」を認めら れるしなやかさを大切に育んでいきたいと考えています。 そんな『本庄っ子』,未来を拓く主体者として,逞しく,しなやかに生きようとする子どもたちを 各教科等でお見せできることを楽しみにしております。皆様方の御意見・御批正をいただければ幸 いです。 先生方の御参加を心からお待ち申し上げております。 2 公 開 授 業 の 紹 介 ●国語科 学 級 授業者 単元名 第1学年1組 西原 宏一 「できるようになったよ。1の1おもい出文しゅうをつくろう」(東京書籍) ≪授業・授業研究会の構想≫ 1年生はこれまでに,少しずつ文字を覚え,その文字が言葉となり, その言葉に自分の思いや考えをのせて文章として表すことができるよ うになってきました。 本単元では,1年生になってできるようになったことを思い出し,その様子が分かるように文 章を書き,文集としてまとめ,お家の方にプレゼントしたいと思います。「作文マップ」を生か しながら,自分のがんばりを思い出し,様子が分かるように言葉を選び,楽しく書き表していく 姿を御覧頂きたいと思います。子どもたちが,自分の思いや考えを表現するよさや表現できた達 成感を味わうことができるような単元作りをしたいと思います。 学 級 授業者 単元名 第4学年1組 髙木 公裕 「十才のわたしからのてい案」(東京書籍) ≪授業・授業研究会の構想≫ 4年生はこれまでに,様々な対象に向けて自分の考えや思いを言葉に のせて発信してきました。その中で,「書くことができた。」「書いて良 かった。」そんな経験を一つ一つ積み重ねてきています。 本単元では,十年後の未来が誰にとっても便利で安心して生活できる社会となるために,経験 してきたことや今ある身近な問題に目を向けながら,既存のものではない新しい仕組みや商品を 考案する意見文を書くことに取り組みます。「作文マップ」を生かして,題材と向き合いながら, 様々な考えを生み出す楽しさを味わい,自分の思いや考えを懸命に書き表そうとする,書くこと の楽しさに浸る子どもの姿を御覧頂きたいと思います。 書けた経験を自覚する学習 佐賀大学文化教育学部 教科教育・国語科 達富洋二・竜田 徹 本庄小学校の「書くことの研究」は魅力的だ。子どもに「書け た経験」を自覚させているからである。「書いた」経験の提供だ けでなく,子どもが「書けた」経験を実感する過程が位置づいて いる。 それ以前の「(子ども自身の)書けたつもり」という「つもり」 がそれ以降の学習を制約していることはないだろうか。「(まだ) 書けない」ことを自覚することが必要な場合もある。授業前の子 どもの「つもり」を知ることは授業を展開していく教師にとって有効である。このことは,依存性 の高いワークシートやモデル文の使い方に潜む危険性と重なる。ワークシートを埋めるだけでは「書 けた」ことにはならない。いつどのようにモデル文を子どもから外すかが重要である。「書けたつ もり」の状態は学習の完成像ではない。「書いた」経験と「書けた」経験は同じではない。 では「書いた」と「書けた」の違いをどう判断するか。それは教師が「子どもの作文」の一流の読 み手になり,子どもと一緒に子どもの「今,ここ」を共有することが大切である。(文責・達富洋二) 3 ●社会科 学級 第3学年2組 授業者 田川 雄基 単元名 「のこしたいもの,つたえたいもの」~受けつがれる地いきの行事~ (東京書籍) ≪授業・授業研究会の構想≫ 本校社会科部では今年度,よりよい社会を描くことができる子ども の姿を目指し,学んできた社会的事象について,様々な人の立場から 見直す活動を取り入れています。そうすることで,人の立場の違いによって社会的事象から受け る利益に差や偏りがあることに気付き,社会のよりよい在り方について公正に判断しながら思考 参画する子どもが育ち,社会とのつながりを実感させることができると考えています。 本単元では,地域で受け継がれている「かたり部の里本庄祭」の現状について,祭りにかかわ る様々な人の立場から見直します。子どもたちが,これからの地域社会を支える一員としての意 欲を高めていく姿をお見せしたいと思います。 社会科における合理的意思決定の実現に向けて 佐賀大学文化教育学部 教科教育・社会科 宇都宮明子 本庄小学校社会科部では, 「 よりよい社会を描くことができる子どもが 育つ社会科学習」という研究主題のもとで研究を進めており,今年度は その2年目である。本研究では,科学的な社会認識に基づいた合理的な 意思決定を踏まえ,社会形成に関与できる子どもの育成をめざしている。 これまで本社会科部での社会科授業は,科学的な社会認識をどのように 育成するのかの検討が不十分であり,子どもの主観的な価値判断に基づ く意思決定となっているという研究上の課題を抱えていた。 この課題を克服する鍵となるのが,社会のメカニズムを捉えることができる一般化された概念的 知識を意味する科学的な社会認識である。今年度は,知識を構造化することで,科学的な社会認識 を獲得させる道筋を明確にすることに取り組んだ。子どもに科学的な社会認識を獲得させることで , 子どもの主観的・恣意的な判断を回避し,合理的な意思決定が可能となるのである。昨年度と比較 して研究は着実に発展しており,合理的意思決定の実現に向け,更なる研究の飛躍を期待したい。 算数科 学 級 第1学年3組 授業者 川内丸 友子 単元名 「かたちづくり」(東京書籍) ≪授業・授業研究会の構想≫ 1年生は,ペアでの話し合いで,少しずつ自分の考えと友達の考え をくらべ,同じところや違うとこに気付けるようになってきました。 今年度は,他者の考えとかかわる中で生じる問いに目を向け,練り 合う過程に自分の考えを広げたり深めたりするための「はなしてタイム」を設定しています。本 単元においては,自分のイメージする図形を作る楽しさを大切にしながら,形の構成や分解につ いて考えます。できた形の同じところや違うところに目を向けさせ,「形は同じだけど作り方が ちがうな。」「自分がつくった形は別の並べ方でもできるのかな。」という問いにつなげていきた めざしていきまsd いと思います。 4 学 級 第6学年1組 授業者 七條 康聡 単元名 「順序よく整理して調べよう」(東京書籍) ≪授業・授業研究会の構想≫ 本単元では,起こり得る場合を順序よく整理して調べることができ るようにすることをねらいとしています。子どもたちに身近な場面を 問題として取り上げることで,子どもたちが問題に興味をもち,進んで整理しようとする姿が期 待できます。 「はなしてタイム」では, 「これでいいのかな。」 「どちらの方法が調べやすいかな。」 という問いを友達と確かめていきます。さらに,問題の条件を一部変更することで,「これでも (条件が変わっても)この方法がいいのかな。」「他の場面ではどうかな。」という問いにつなげ ていきたいと考えています。 活動の楽しさから考える楽しさへ 佐賀大学文化教育学部 教科教育・数学科 瀧川 真也 算数科の目標の中に,「算数的活動の楽しさに気付く」ことが挙げ られています。活動を通して,算数の楽しさ,面白さを感じさせる授 業をつくることが求められていますが, 「活動の楽しさ」だけに終わら せず,活動する中で児童が感じたこと,考えたことをどのように数理 の探求につなげていくかということが重要だと思います。今年度の算 数科部の研究では,本時の問題に出会った時の素朴な疑問や気付きか ら出発し,問題を解決するための気付き,解決過程を振り返る中から 発生する発展的な問いへとつなげていく授業づくりに取り組んでおり,期待しているところです。 算数の授業では,通常は与えられた問題をどのように解決すればよいかということに重点が置か れますが, 「生活や学習に活用しようとする態度を育てる」ためには,自ら問題を見つけたり作った りする活動も面白いと思います。その際には,普段の授業において問題解決過程を振り返って,条 件や場面を変えたらどうなるかと考える経験をしていることが,役に立つのではないかと思います。 ●理 学 科 級 授業者 単元名 第3学年1組 秋次 裕輔 「じしゃくのふしぎをしらべよう」 (大日本図書) ≪授業・授業研究会の構想≫ 理科といえば「観察・実験」と多くの子どもたちが答えます。その中 で,物を変えると違う結果がでるかもしれない,方法を変えても同じ結果を得られるはずだと自 分の発想を基に観察・実験を行い,結論を導き出すことに,理科の楽しさがあると考えます。 本校理科部では,知りたいことを明瞭にした観察・実験を行いながら,納得するまで追い求め ようとする子どもの姿を求めています。 「磁石の性質はあるのだろうか。」という学習問題に対し て,さぐる段階で, 「物を変えてみるとはっきりするかも。」, 「つなげ方を変えても磁石の性質は あるはずだ。」と観察・実験の物や方法を選択する理由を明瞭にもって観察・実験 を行うことが 自分の納得につながると考えます。可能性を探る小さな科学者の姿を公開できればと思います。 5 学 級 授業者 単元名 第4学年2組 阿久根 康太郎 「自然の中の水」 (大日本図書) ≪授業・授業研究会の構想≫ 「本当なのかな?」「やり方を変えても同じかな?」「別のものでは 違うかもしれない。」子どもたちは,自分の考え方に基づいて観察・ 実験を行い,自らの力で疑問を解き明かしていきます。そして,疑問を解き明かすことができた とき,学ぶ楽しさを感じることができると考えています。 「空気中には水じょう気があるのだろうか」という学習問題を, 「場所を変えてもあるのかな。」 「どこにでもあるのならもっと冷やすとたくさん出てくるかも。」などと,自分の考えを基に観 察・実験を進めていくことで,納得して結論を導き出すことができると考えます。自分の考えに 基づき,知りたいことを明瞭にして観察・実験をしている姿を御覧いただけたらと思います。 自然のきまりと探究方法 佐賀大学文化教育学部 教科教育・理科 世波 敏嗣 本校理科部では「再現」・「質」・「量」の3つのコース選択制が設定 されています。この研究で,子ども達はどのように「自然のきまり」へ と到達するのでしょうか。まず「再現」としての「繰り返しコース」を 選んだ子ども達は,教師の演示を繰り返し,確認・納得して土台を固め ます。「質」としての「物チェンジコース」を選んだ子ども達は,同じ 実験方法で材料を変えて実験し,物によって結果が同じか違うかを確認 します。「量」としての「やり方チェンジコース」を選んだ子ども達は,同じ物を使って量を変え たり形を変えたり実験方法を変えたり,「質」以外の条件を変えて実験した結果を確認します。こ れら3つのコースのどれを最初に選び,途中でどんな理由でどれに変更したのか。これらの実験結 果から何を根拠として何が言えると思うのか。子ども達なりの「自然のきまり」が出来上がってく るのです。そして班内や全体で共有し話し合う中で,クラス全体の「自然のきまり」に到達するの です。これは,科学者がいろいろな研究からより一般的な科学の法則を紡ぎ出していく方法と同じ と言えます。一人ひとりの子どもで理由は異なるでしょうが,こうした探究のプロセスを経て,子 ども達は科学的一般法則に客観的に近づいて行ってくれると考えています。 ●生活科 学 級 第2学年3組 授業者 米倉 千映 単元名 自分たんけんをしよう (東京書籍) ≪授業・授業研究会の構想≫ 「○○ができるようになったよ!」と話す子どもたちの目はキラ キラ輝いています。2年生の子どもたちは,入学してからこれまで, “学校・先生・自然・町”たくさんの探検を通して気付き成長して きました。今回の生活科の授業では,生まれてから今までの自分を探検し,自己の成長を見つめ, 自分の成長が多くの人々に支えられていることに気付かせ,感謝の気持ちをもたせたいと思いま す。子どもたちが,今までかかわってきた人たちと,主体的にかかわり,自分の「のび」 「よさ」 を実感している姿をお見せしたいと思います。 6 さまざまな「他者」のデザイン 佐賀大学文化教育学部 教育学・教育心理学 川上 泰彦 本庄小生活科では,引き続き「他者との関わり」に着目した授業研究 を進めている。 生活科における「他者」の設定には,実に多様な選択肢がある。 「○○ 名人」のように教えを請う先達や上級者としての他者が想定される一方 で,同級生や下級生(や幼稚園児)への発表会などの場面では教え示す 対象としての他者が想定されるほか,こうした「教わる」 「教える」とも 違う,切磋琢磨の対象や相互参照,学び合う関係としての「他者」も想 定されよう。一言で「他者との関わり」と言っても,このように様々な形が想定され,それぞれが 学びを豊かにする可能性を持っている。 学習過程において「他者」との関わりを通じて学びを豊かにし,その方法や感触を記憶すること は,教科や領域の如何を問わず,その後の学習全般を充実させる鍵となりうる。「さまざまな他者」 との関わりを「さまざまな場面」で経験させ,その後の学びの基礎を作り上げるような,そんな研 究を期待したい。 ●音楽科 学 級 第5学年2組 授業者 日髙 祐子 題材名 曲想を味わおう ~Let’s 友だちコンサート!『大切なもの』~ ≪授業・授業研究会の構想≫ 授業で用いている「マイ・スコア」「私のスコアリーディング」 「私のフレージング」すべてに“私の”が付きます。子どもたち が表現活動をするときに,そこに熱い自分の思いがあるか,表現し たいという自分の思いを育んでいくことを大切に,授業づくりを進めてきました。その思いを支 えに,確かな表現や工夫した表現をつくり出したり,友達と感動の共有をしたりすることを目指 していきます。本年度の見どころは,その過程で友達とかかわり,相互に音楽表現を高め合って いく【友だちコンサート】です!子どもたちが楽しみ悩みつつ,自らの音楽表現をつくり出して いく様子を御覧いただければと考えています。 御参観いただき,多くの御意見・御感想をお聞かせ頂けましたら幸いに存じます。 表現指導の在り方 佐賀大学文化教育学部 教科教育・音楽科 荒巻 治美 音楽科の表現指導では,一般に歌詞の内容や楽曲の構造的な特徴な どを理解した上で,子ども自らが思いや意図をもって音色や音量など の視点から表現を工夫する過程が組織されている。表現力は,個々の 楽曲について,この過程を体験的に辿ることによって育成されると考 えられている。しかし,子どもは教師の組織した指導過程を辿ってい るだけであり,結果として,その楽曲に関してはより良い豊かな表現 を実現できるが,未知の楽曲については自力で表現を工夫できるだけ の力を形成していないように思われる。表現力の育成のためには,1)表現を工夫するための 手順 や方法を一般的な知識として習得すること,2)それを基盤として,子ども自らが表現を工夫する 過程を組織できること,も求められるように思われる。これは,鑑賞指導で演奏者の表現の工夫を 理解するためにも必要なのではないだろうか。研究公開が待たれます。 7 ●図画工作科 学 級 第2学年1組 授業者 野中 亮彦 題材名 「めざせ!ようかいマスター!」 ≪授業・授業研究会の構想≫ 今年度のテーマは「ようかい」です。子どもたちは,身の回りの ものを「ようかい」に見立てたり,「でんせつのようかい」を絵に表 したりして,楽しく活動してきました。今回は,ついに「ようかい」 を操る「ようかいマスター」を目指します。 割ピンを使って動く仕組みを生かし,自分の思い通りに動かせる「ようかい」をつくるために, 子どもたちは,イメージを膨らませ,試行錯誤しながら表現活動に挑みます。「いいこと,考え た!」「うまくいったぞ!」子どもたちは,満足の瞬間を積み重ねていきます。そして,つくり あげた「ようかい」を動かして遊びながら鑑賞活動をします。 「 見て!ぼくのようかいはね, ・・・!」 「へえ!すごいね!」よさを分かち合い,共有することで,満足感が高まる瞬間を,ぜひ御覧く ださい。 幼小・小中連携と図画工作科 佐賀大学文化教育学部 教科教育・図画工作科 何度か,本庄小学校の図画工作科の授業を拝見させて頂 きました。授業中の児童たちの生き生きとした姿を目の当 たりにする度,造形教育の意義を感じさせて頂いておりま す。例えば,野中亮彦先生の図画工作科の授業実践「本じ ょうのでんせつのようかい大しゅうごう!」は,現在の児 童たちが興味をもつ妖怪をテーマとしつつも,普段見慣れ 栗山 裕至・和田 学 ている学校生活の場を,造形教育の視点から新たに見直すことを可能とする教材かと思います。ち ぎった新聞紙の形を工夫して貼り合わせ,本庄小に住む妖怪へ見立てて絵を創り,どこに住むかを も想像する教材です。こうした活動は,児童たちにとっても図工の授業に終始するものではなく, 毎日の学校生活全体を自発的な探求心を育む場として捉え直せるようなものになるかと思いま す。 今後の授業研究も期待しております。 家庭科 学 級 第6学年2組 授業者 平石 実鈴 題材名 食卓から持続可能な生活を考えよう (開隆堂出版「考えよう これからの生活」) ≪授業・授業研究会の構想≫ 家庭科部では,生活を自分のこととしてとらえ学んだ知識・技能を 生活の場面で使いこなせる実践力の育成を目指し,パフォーマンス課題に取り組んでいます。 「お 母さんが出張だから,夕食にしらすチャーハンを作ろう。」 「夕飯のカレーのじゃがいもは,ぼく が皮むきをしたよ。」といった会話が,最近教室で聞かれます。自分の行動で家族とのかかわり を深め,生活を変えていく姿が見られるようになっています。 2年間のまとめとしての本題材では,1年間のテーマとして取り組んだ「食卓」について持続 可能性の視点から生活のあり方を考えるパフォーマンス課題に取り組みます。今の生活だけでな く,10 年後,20 年後の生活を展望して,身近な人々や環境とのかかわりに目を向け,自分の目 指す「食卓」を実行していく力を高めたいと思います。 8 家庭科を学ぶ意義と意欲 佐賀大学文化教育学部 教科教育・家政教育 中西雪夫 実用主義的な家庭科教育は,how toの伝達のみの授業,完成すればよ い,楽しければよいというイベント型の授業になりがちだということで, 批判の対象となってきました。how toを習得すること,達成感を味わう こと,楽しいことも家庭科の授業の大切な要素となりますが,それだけ では限られた授業時数の中で習得すべき知識・技能は身につきません。 また,実用主義的な家庭科への批判は, 「将来の生活に役立つこと」を目 標として重視することも否定してきました。ひとり暮らしをした時に役 立つとか,結婚した時に必要だからというのは,本来の家庭科の目的ではないという考えです。し かし,近年は「現在的レリバンス」 「将来的レリバンス」が家庭科の学習効果と密接に関わることが 明らかになってきました。現代的レリバンスとは家庭科を学ぶ楽しさ,将来的レリバンスとは将来 における役立ち感です。本庄が目指す学ぶ楽しさの追求と,家庭科部の目指す家庭生活を大切にす る子どもの姿は,二つのレリバンスを具現化したものになるのではないかと期待しています。 ●体育科 学 級 第1学年2組 授業者 溝口 健太郎 単元名 「ボールであそぼう!」 ≪授業・授業研究会の構想≫ 子どもたちの運動経験の減少・体力低下が叫ばれる昨今ですが,な ぜ子ども達は運動をしなくなり,体力が低下してしまったのでしょう か。時間がない,場所がない,仲間がいないことが要因として挙げられますが,それ以上に,子 どもたちが,運動に対して魅力を感じなくなってしまっているのではないでしょうか。 本校体育科部では,運動の楽しさに触れさせ,「もっとしたい」「やってみたい」という思い をもたせることで,自ら運動に親しむ子どもを育てたいと考えます。そのために,「子どもたち を運動に熱中させるためには?」という問いをもち,取り組みを進めています。本授業では,ボ ールの投げ方を工夫し,回数や得点,距離などに挑戦したり競ったりして楽しむボール投げ遊び をします。運動の楽しさを実感しながら生き生きと活動する姿を御覧いただきたいと思います。 スポーツの魅力と学ぶ楽しさの追求 佐賀大学文化教育学部 教科教育・体育科 堤 公一 「楽しい」ということは,学びの大切な原点。なぜなら,楽しいか らもっともっと学びたくなるし,そして,ずっと学び続けることにな る。体育授業における「学ぶ楽しさの追求」とは?本庄小学校体育科 がチャレンジしている本研究の『問い』であり『おもしろさ』である。 子どもたちは「スポーツの魅力」を「どのように学んでいる」のだろ うか?「スポーツの魅力」とどのように出会い,どのように受け入れ, どうのように作り直し,そして,どのように自分のものとしているのだろうか? 運動・スポーツとのかかわりは,学校教育が修了すると同時に終わるものではない。生涯スポー ツ社会の主体を育てることが「体育授業の使命」である。生涯にわたる豊かなスポーツライフの実 現に向けて,子どもたちが「動く楽しさ」「伸びる楽しさ」「集う楽しさ」「わかる楽しさ」を実 感し,体を動かすことや運動とかかわることが楽しみで仕方がない子どもたちを育む『よりよい体 育の授業設計』の可能性を是非ご覧ください! 9 ●道 徳 学級 第4学年2組 授業者 森 隆久 主題名 なりたい自分に向かって ≪授業・授業研究会の構想≫ 「分かっているけど,しない・できない。」ではよりよく生きてい くことはできません。「分かっていて,する・できる。」が今をより よく生きていくことであり,未来をよりよく生きていくことにつながります。本年度は実生活場 面で「する・できる」を実現させるために,どのようにして「するぞ,できるぞ」という意欲を 高めて継続させるか,ということに着目して研究に取り組んでいます。授業では,道徳的価値に 対する今の自分の状態を知り,道徳的実践を通して学んだこと,さらに実践を続けていくために 取り組めそうなことを明らかにする「見つめてタイム2」を取り入れます。子どもが自分の成長 を実感することができる道徳の時間を目指しています。 トップダウンの是非 佐賀大学文化教育学部 教育心理学教室(道徳) 大元 誠 『論語の憲問篇に「君子は上達し,小人は下達す」とある。これは, 一般的には,目標の内容を問う。例えば,君子は,徳を求めるが,小 人は,利を求める。といった感じである。しかし,最近,以下のよう に解釈する人を知った。小人を被支配層とか,陋巷の民として論じて いるわけではない。むしろ小人とは,支配層における,あるいは道徳 的に振る舞っていると思っているエセ君子を言っているというのであ る。だからこそ,孔子はことさら糾弾した。 先に挙げた,君子の上達とは,ものごとをいろいろなことがらを具体的なもの(下)から帰納的 に試行錯誤を繰り返しつつ上に達していくことである。しかし,一方の小人の下達とは,ある原理 や決まりを反省もなく,金科玉条のごとく守ることをいい,そのままを下におろす行為である。 『論語』の今だに読まれている人気は,1つの価値(解釈)を前提にそれを学ぶことではなく,あ れこれ考え,切磋琢磨ができるところにある。道徳もその中から生まれてくると思う。 ●特別活動 学 級 第2学年2組 授業者 江頭 良 題材名 「笑顔をひろげよう~にこにこかいぎ Part10~」 ≪授業・授業研究会の構想≫ 特別活動の学ぶ楽しさとは,自分たちの力で学級や学校生活を創り 出していくことです。そこには,学級に所属しているのが,嬉しい・ 誇らしいと実感する子どもの姿があります。今まで子どもたちは,学級にあるあらゆる諸問題を 自分たちの力で解決してきました。 「自分たちで解決できた。」という積み重ねが,学級集団の高 まりにつながっていきます。問題の所在がどこにあるか話し合い,問題を解決していく。研究の 視点である「手ごたえタイム」では,問題の解決に向かう過程を振り返りながら,実践への意欲 を高めていきます。 自分たちで学校生活をより良くするために,どんな話合いを子どもたちが進めていくのか? 本音と本音でぶつかり合いながら,解決を図っていこうとする子どもたちの姿をぜひ御覧くださ い! 10 問題解決力を 佐賀大学文化教育学部 教育学 松下 一世 いじめ防止対策推進法が昨年成立しました。いじめを未然に防ぐため にも,友達関係におけるトラブルを話し合いで解決する力を育てていく ことが求められます。 たとえば,ルールを守ることは大切ですが,子どもたちが自らルール を作り,守れないときはなぜなのか,問題の所在はどこにあるのか,ど うすれば解決できるのかを話し合います。集団で,お互いの思いと知恵 を出し合い,対立から共感を学び,解決策を見出していく体験は,社会 に出てからの生きる力になると思います。 今年度の研究は二年目です。江頭先生の熱いハートと子どもたちのパワーをぜひご覧になって , 学級会のあり方について一緒に考えましょう。 ●外国語活動 学 級 第5学年1組 隆一郎 (HRT) Patrick Dodgson (ALT) 授業者 溝口 単元名 「SAGA の OMOTENASHI」 ≪授業・授業研究会の構想≫ “OMOTENASHI”この言葉からみなさんはどんなことを 思い浮かべますか。本庄小外国語活動のキーワードは,相手 意識と積極性です。“OMOTENASHI”は相手意識と積極性がないと生まれないと思います。お 世 話 に な っ て い る ALT の 家 族 が 日 本 の ひ な 祭 り に 合 わ せ て 来 日 し ま す 。 佐 賀 で で き る “OMOTENASHI”にはどんなものがあるのか。ALT が子どもたちに相談します。「何が好き なのかな」「佐賀といえばやっぱりこれだよ」「おすすめは…」など,友達と情報を交換したり, ALT や参観の先生方に尋ねたりするような,積極的にコミュニケーションを図る姿をお見せした いと思っています。Let's challenge! 学びが広がる「外国語活動」の実践に向けて 佐賀大学文化教育学部 教科教育・英語科 田中 彰一・林 裕子 外国語活動が全面実施され4年目を迎えます。本庄小 学校では,「学ぶ楽しさの追求」というテーマのもと, 子どもたちの自発的・主体的な学びを促す授業研究が進 められています。本研究は2年目に入り,外国語活動で は,コミュニケーションに対する積極性を醸成する単元 構成や6ヶ年の指導計画の研究に取り組んでいます。コ ミュニケーション活動を進めるにあたり,英語の表現を 聞いて繰り返し練習するだけでは,コミ ュニケーション・ドリルに留まってしまいます。相手のことを「 聞きたい (input)」,相手に「 伝 えたい (output)」,相手と「 かかわりたい (interaction)」という子どもたちの内から湧き出る思 いを言語活動に結びつけていくことで,相手意識と積極性が備わったコミュニケーション能力の素 地の養成を目指します。更に,他教科との連携を図り,やりとりの継続性を高めるよう働きかけま す。このように子どもたちの自己表現の欲求や内在化した知識に働きかける活動を設定することに より,有能感や言語所有感が高まる学びが実現されると考えます。 11 ●特別支援教育 学 級 あおぞら学級2 授業者 木田 啓二 単元名 「あおぞらショップをひらこう」 ≪授業・授業研究会の構想≫ あおぞら学級2には,5名の児童が在籍しています。1学期にはじゃが いもやたまねぎを収穫し,やおやを開きました。2学期は,だいこんや白菜を種から育てていま す。また,春を彩るパンジーの栽培にも挑戦しました。当日の授業では,一人一人が持てる力を 発揮し,あおぞらショップの準備に取り組むために,個に応じた合理的配慮を充実させた授業を 行います。自分の役割を自覚し,精一杯活動に取り組む子どもたちの姿をご覧いただければと思 います。授業研究会では,障害のある子どもたちが存分に活動できるようにするためにどのよう な合理的配慮を提供していけばよいのかをみなさんと考えていければと思います。 学 級 あおぞら学級1 授業者 小田 めぐみ 単元名 「おかいものをしよう」 ≪授業・授業研究会の構想≫ あおぞら学級1の5名の子どもたちは,個性も目指す目標もそれぞれに 違いますが,みんな自分の力をのばそうと,日々がんばっています。本校特別支援教育部では, そんな子どもたちが「できた」 「わかった」と実感しながら活動し, 「もっとやりたい」という意 欲をもてるような授業づくりを目指してきました。2月の授業では,買い物場面でのお金のやり とりを通して,数や計算の学習に取り組みます。個々に応じた学習環境や内容を整えることで, 子どもたちがそれぞれの持てる力を発揮して楽しく学習する姿をお見せしたいと思っています。 学 級 授業者 みどり学級 大坪 佐和子 単元名 「朝の活動 がんばるぞ!」【授業公開はいたしません】 ≪授業・授業研究会の構想≫ みどり学級に在籍する1名の児童にとって,朝の活動は重要です。自分 の持てる力を発揮し,生き生きと活動に取り組めるよう児童の健康状態や様子に気を付けながら 日々の活動を行っています。当日は,授業公開を行いませんが,教室に朝の活動の様子をパネル で紹介したり,活用している具体物や絵カードなどを展示したりします。どうぞご覧下さい。 「合理的配慮」は誰にとって『合理的』なのか? 佐賀大学文化教育学部 教育心理学講座(特別支援教育) 狗巻修司 障害者の権利に関する条約において提唱された概念である「合理的 配慮」は,インクルーシブ教育の推進やその方向性に極めて重要な意 味を持っています。しかしながら,ここで「誰にとっての合理的配慮 か」という問いを考える必要があります。それは,ある特定の障害児 への「合理的配慮」という個別性と,障害児全般に適応できる「合理 的配慮」という普遍性の2つの異なる水準があるためです。つまり, 「誰にとっての」=どの水準での合理的配慮かという視点からの検討 が必要となります。 また「誰が」合理的配慮をするのかという問題も重要です。ある特定の高度なスキルを持ちうる 教師が行う「合理的」配慮なのか,特別支援教育について基本的な知識やスキルを持ちうる教師が 行う「合理的」配慮なのかにより論じられている配慮の水準が異なるはずだからです。 これらの点を含めた「合理的配慮」について,インクルーシブ教育システム構築モデル事業の採 択を受けている本庄小学校特別支援学級での実践から知見を深めていければと考えています。 12 ●心の教育 学 級 5年3組 授業者 重富 俊彦・寺﨑 里美(養護教諭) 題材名 「会社へアピール大作戦」 ≪授業・授業研究会の構想≫ 「自分が好きですか?」と聞かれ、戸惑う人は多いのではない でしょうか。心の教育では、人とのかかわりの中で,自分のよさ に気付かせ,自己肯定感を高める取組を行ってきました。今年度は5年生というこれから思春期 を迎える発達段階において,自分や友だちのあるがままの姿を見つめ,受け入れることで,なり たい自分を描こうとする子どもたちの姿がお見せできればと考えています。 元気な子どもたちとともに,多くの先生方の御参観をお待ちしています。 「悩む力」を育む 佐賀大学文化教育学部附属教育実践総合センター 網谷綾香 心の教育というと,よく「生きる力を育む」という言葉に出会い ます。そこには様々な意味が含まれてくると思いますが,カウンセ ラーとしての立場から考えると, 「悩みながらも,それでも生きてい ける力を育む」と言い換えてもいいように思います。大人でもそう ですが,とてもつらい体験や認めがたい失敗を体験した時などに, その問題を正面からしっかりと心で受けとめて消化することは非常 に難しく,苦しみを伴います。悩み苦しみながらも,希望を捨てず にやっていこう,と思えるためには,誰かに受け入れられ支えられた体験の積み重ねが必要です。 そうした体験を経験した子は,自分で自分を抱えることができるようになります。 学校という場が,子ども達をしっかりと包み込み,安心して悩める場として機能したとき,子ど も達の心は大きく成長していくと思います。では,そのために教師は何ができるのか。本庄小学校 の心の教育の活動から,そうした問いへのヒントが得られればと期待しています。 ●おわりに 本主題「学ぶ楽しさの追求」が目指しているのは,“面白くてためになる授業”です。 子どもたちは,「どうして・・」「なぜ?」「不思議!」という好奇心をもっています。「やってみ たい」「どうなっているの」「もっと知りたい」と興味 を高めます。こうした子どもたちの好奇心に培い, 好奇心を生かして自ら伸びていこうとする力に寄り添 う授業を目指してきました。 「やってみて,考えて,ど うして」「考えて,知って,なるほど」「知って,やっ て,よかった」,こうした学びが本校の求める「学ぶ楽 しさの追求」です。 「教えるとは,未来を共に語ること 学ぶとは,真実(まこと)を胸に刻むこと」 フランスの詩人ルイ・アラゴンの言葉です。 御参会の先生方と共に未来を語り合えることを楽しみにしております。 たくさんの皆様の御参会を心よりお待ち申し上げます。 13 本校職員一同 平成26年度 校 長 秋山 芳美 教 頭 手塚美代子 教務主任 古賀 一成 研究主任 髙山 健 研究副主任 井上 泰彦 研究推進委員 七條康聡 平石実鈴 教科等 国 語 科 社 会 科 算 数 科 理 科 生 活 科 音 楽 科 図画工作科 家 庭 科 体 育 科 道 徳 特別活 動 外国語活動 本庄小学校 研究組織 指 導 佐賀大学文化教育学部 学部長 甲斐 今日子 主 事 世波 敏嗣 野中亮彦 森隆久 部 員 名 ○西原 宏一 髙木 公裕 ○田川 雄基 ○川内丸 友子 七條 康聡 ○秋次 裕輔 阿久根康太郎 ○米倉 千映 江里口 隼平 ○日髙 祐子 ○野中 亮彦 高添 勤子 ○平石 実鈴 山口 伊津子 ○溝口 健太郎 ○森 隆久 ○江頭 良 ○溝口 隆一郎 木田啓二 担当学級 1年1組 4年1組 3年2組 1年3組 6年1組 3年1組 級 外 2年3組 級 外 5年2組 2年1組 級 外 6年2組 栄養教諭 1年2組 4年2組 2年2組 佐賀大学文化教育学部教員 達富 洋二 竜田 徹 宇都宮 明子 瀧川 真也 世波 敏嗣 川上 泰彦 荒巻 栗山 和田 治美 裕至 学 中西 雪夫 堤 大元 松下 田中 林 公一 誠 一世 彰一 裕子 あおぞら学級2 あおぞら学級1 みどり学級 狗巻 修司 5年1組 Patrick Dodgson (ALT) 特別支援教育 ○木田 小田 大坪 啓二 めぐみ 佐和子 心の教 育 ○重富 寺﨑 俊彦 里実 5年3組 養護教諭 網谷 綾香 幼小一貫教育 ○井上 ○廣瀬 泰彦 幸子 級 外 本庄幼稚園 上長 然 事務主 幹 真崎 秋義 事 務 員 古川 留美子 事 務 員 石井 聡美 生活指導員 松尾 朋子 生活指導員 古賀 千恵子 生活指導員 西久保 照枝 合理的配慮協力員 橋本 円 ※ ○は,本年度の研究担当者 学校図書館事務 学校図書館事務 調 理 員 調 理 員 調 理 員 調 理 員 14 田内 落合 柴田 一木 中島 山下 宏枝 優美 ちづる 悦子 洋子 真佐子 佐賀市立本庄幼稚園・本庄小学校 幼小一貫教育公開保育・公開授業 幼児が主体的に活動し,遊ぶ楽しさを味わうための援助の工夫 平成27年 2月 13 日(金) ○はじめに 大きな園行事である運動会が終わり,その後も親子遠足,サッカー教室,落ち葉拾い,フリー参 観等々,いろんな活動や行事の多い二学期。一つ一つ無事に終えながら,秋も次第に深まっていく ように感じます。 さて,10月も半ばを過ぎました。本庄幼稚園では,さわやかな青空の下,運動会の熱気が冷め 遣らず,相変わらず「リレーあそび・運動あそび」をする子,本庄小学校4年生との「面浮立交流」 をきっかけに,気軽に幼稚園に出向いたお兄さんお姉さんたちと会話が弾んだり,一緒にごっこ遊 びを楽しんだりする子,友達と木の実や色づいた落ち葉を集めたり,虫を見つけたりして深まり行 く秋を感じる子など,自分(たち)のやりたい遊びに目を輝かせて遊ぶ子どもの姿が見られます。 特に,年長さんは,運動会を通して,自分なりに力を出し切って頑張ったことで自信をもつと同時 に,友達と力を合わせて過ごすことの素晴らしさや楽しさを感じて過ごしており,その姿に職員一 同共感し,頼もしささえ感じるようになりました。 著しい社会の変化に伴い,子どもを取り巻く教育環境や子どもの成長についていろいろと懸念さ れている今日,充実したこの時期にこそ,さらに,子どもの心に火をつけて,この子たちが,将来, 自らの意志によって,自分の持ち味を生かし社会のために役に立って生きていくことができるよう, その下支えをすることが大切だと思います。 「幼児が主体的に活動し,遊ぶ楽しさを味わうための援助の工夫」のテーマを掲げ2年目となり ますが,やりたい遊びが精一杯にできる環境を整え,援助のあり方を工夫し,子ども(たち)の主 体的な遊びが進められるようにしながら,心情・意欲・態度など「生きる力」の基礎を培いたいと 考えます。 ところで,ご案内のとおり,本園は,佐賀市教育委員会の指定を受けて以来,幼小一貫教育の自 主研究を進めています。平成25年度からは,幼小の時期に育み伸ばしたい能力や態度の育成に焦 点を当て「つながり かかわり みとめあい」の統一テーマを掲げ,取り組んでいるところです。 公開保育では,幼小一貫教育での交流の様子を参観いただく機会はありませんが,分科会において その取り組みについて発表させていただきます。 園児が時間に囚われず,友達と一緒になって,じっくりとたっぷりと遊ぶことができるようにす るにはどうすればよいのか,環境構成や援助のあり方を探ってきた一端を公開できたらと考えてい ます。どうか,是非御参観のうえ,御批正・御指導いただければ幸甚です。多くの御参会をお待ち しております。 佐賀市立本庄幼稚園 園長 白木 淳二 教頭 真子眞理子 教務主任 廣瀬 幸子 15 ○公開保育の構想 3歳児(もも組) 保育者 田中 理 入園当初は初めての集団生活に,不安がることもありました。少し ずつ周囲の様子に目を向け,自分で遊びを見つけて楽しく過ごせるよ うになりました。最近は年上児の遊びをまねしたり,優しく教えても らったりして遊びやかかわりにも広がりが見られています。安心でき る環境で,園生活の中でのいろいろなことに興味をもち,やってみよ うとしている子どもたちです。 当日は,子どもたちが「やってみたい。」 「面白そうだな。」という気持ちで遊び始める姿や,自分 のやりたい遊びにじっくりと取り組む姿を見ていただきたいと思います。 4 歳児(すみれ組) 保育者 田中 泉 登園すると「今日はこれをしたい」と自分のやりたい遊びに取り組 んでいます。教師や友達のしていることに興味・関心をもち,誘った り仲間に入ったりして一緒に遊ぶことを楽しんでいます。また,友達 とのかかわりの中で,自分の思いと相手の思いは必ずしも一緒ではな いということに気付き,自分なりに思いを伝えようとしたり相手の気 持ちにも耳を傾けて受け止めようとしたりしています。 当日は,友達とのかかわりを楽しみながら,のびのびと自己を表現する姿を見ていただきたいと 思います。 5 歳児(きく組・ふじ組) 保育者 時﨑 裕子 松永 裕子 友達とかかわる中で「こうしたらもっといいんじゃない。」 「 いいね, やってみよう。」など自分とは違う思いや考えに出会い,力を合わせて 新しいもの(こと) を作り出す面白さを感じながら遊ぶ姿が見られま す。また,友達からの励ましや友達との認め合いが支えとなり興味関 心を広げ,挑戦することも楽しんでいます。時には思うように相手に 気持ちが伝わらずにもどかしい思いをしながらも,伝える方法を工夫 したり,折り合いをつけようとしたり,かかわりを通して友達とのつ ながりを深めています。 また,本庄小学校4年生との面浮立交流(5月)をきっかけに,今年 度は休み時間を利用した小学生との交流が継続しています。互いの生 活や遊びの場(時間,空間)を共有する機会が増え,小学校を身近に感 じ,小学生に親しみをもってかかわっています。小学生への憧れや就 学への期待を高めています。 当日は一人一人が自分なりの自己表現を楽しむ姿や友達と共通の目的に向かって,遊びに取り組 む姿を見ていただきたいと思います。 支援 太田 文 支援 齋藤 郁子 預かり 山崎奈々子 16 ●幼小一貫教育 提案者 研究テーマ 井上 泰彦 「つながり かかわり みとめあい」 ≪分科会の構想≫ 1976 年の若楠国体の開会式で佐賀市内の小学6年生全員により演じられた 面浮立,その後も各小学校で運動会などに使われました。しかし,現在では 本庄小に伝わるだけとなっているそうです。本庄幼稚園と小学校では,この 面浮立を通して5歳児と4年生が交流を行いました。「自分たちも4年生のように力強く踊りた いな。」「上手になった姿を4年生に見てもらいたいな。」という思いの5歳児,「上手に見え るコツを教えてあげたいな。」「がんばった年長さんを褒めてあげたい。」とそれに答えようと する4年生。このようなかかわりを通して,「憧れ」や「思いやり」といった心地よい感情と共 に,何十年経っても忘れられない思い出として,子どもたちの中に残るのだと思います。 当日は,面浮立での交流を経て,新たな交流や活動を子どもたち自身が形作っている姿をご覧 いただきたいと思います。 幼小一貫教育の目的を再確認 佐賀大学文化教育学部教育学・教育心理学講座 上長 然 「小1プロブレム」なることばが登場し,幼児教育と小学校教育の連携・ 接続に関わる課題が挙げられるようになって久しく,これを克服するた めに,交流行事などさまざまな取り組みが行われてきました。では,幼 児教育と小学校教育を結び付けているものは一体何でしょうか。なぜ, 幼小連携・一貫教育を進めなければならないのでしょうか。 今日では,幼児教育と小学校教育とが適切につながり,豊かに連携し ていくことが求められており,幼稚園教育要領・保育所保育指針・学習 指導要領においても明記されています。しかしながら,幼小の連携は,「連携すること」「交流を 持つこと」が目的ではありません。幼小の連携に関する取り組みは,幼児や児童が豊かに成長する ための手段であることを再確認したいと思います。 平成26年度 園 長 教 頭 教務主任 教 諭 教 諭 教 諭 教 諭 教 諭 教 諭 預 か り 支 援 用 務 白木 真子 廣瀬 太田 時﨑 田中 田中 松永 山崎 田中 齋藤 山田 本庄幼稚園 研究組織 淳二 眞理子 幸子 文 裕子 理 泉 裕子 奈々子 恵子 郁子 秀樹 17 講 演 広尾学園中学校・高等学校副校長 か く た 角田 り く 元筑波大学附属中学校副校長 お 陸男 先生 <演題>「学ぶ楽しさを感じる授業をつくる」 (講演概要) ・世界的な2つの教育調査から日本の子供たちの「学習への姿勢・意識」の実態を捉える。 ・これまでの日本における「学びのスタイル」の課題・問題点を捉える。 ・これからの学校教育改革の課題として「授業」に焦点をあてる。 ・「学ぶ楽しさ」を感じることのできる授業のあり方を探る。 【主な著書】 著書:「こうすればグングン書ける!中学校理科ワークシート&レポートのかかせ方」 「観点別評価実践事例集」「新しい観点別評価問題集 中学校理科」他 委員:「中学校理科教科書-啓林館-」編集委員「指導と評価」編集委員 「日本学生科学賞」中央審査委員他 自作教材の開発や指導方法の研究を通して,おもしろさや深まりをつくる授業について,楽し くお話ししていただきます。物理的に豊かで,精神的に貧しい今の時代にあって,学校での学び の価値について共に考えてみませんか。 18