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『竹取物語』と絵本の比較研究(二〇一四年度卒業論文要旨集 )
Title 『竹取物語』と絵本<かぐや姫>の比較研究(二〇一四年度卒業論文要旨集 ) Author(s) 久光, 桃夏 Citation 札幌国語研究, 20: 107-107 Issue Date 2015 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7771 Rights Hokkaido University of Education 幸田文『流れる』論 『竹取物語』と絵本〈かぐや姫〉の比較研究 な り に つ い て 詳 細 な 分 析 が 行 わ れ て お ら ず、 分 析 が 不 十 分 で 体験がもとになっている。しかしこれまで、梨花と幸田文の重 『流れる』は「梨花」の視点で語られる、芸者置屋が舞台の 物語である。これは完全なフィクションではなく、幸田文の実 多くの絵本は、富士の煙の部分を省略し、かぐや姫の昇天を 結びとしている。作者が子どもたちの月を愛でる気持ちを養う めに、札幌市の図書館所蔵の十五冊と架蔵の二冊を調査した。 して扱っている。本研究では、その補助教材に絵本を用いるた 『竹取物語』は、平成二十三年度版小学校国語科教科書五社 中三社(教育出版、東京書籍、光村図書)が第五学年の教材と 古典文学研究室 一四四〇 久光 桃夏 あった。そこで本研究では 『流れる』 の梨花と幸田文の共通点、 近代文学研究室 一四六五 飯田 百恵 相違点に着目し、新たな読みを提示することを目的とした。 ことにねらいを絞っているからである。また帝が登場しないも の、 五人の貴公子の求婚譚の語源説は省かれているものが多い。 いては、花柳界の凋落をほのめかしていると読むこともできた。 読むことができる。 「梨花」がくろうとだと疑われる部分につ いる四冊中の一冊で、平安時代の技法に触れ、登場人物の顔や 素が揃っている。絵も、かぐや姫の顔が引目鈎鼻的に描かれて は、かぐや姫が「三月」で大きくなる、帝が登場する、富士の 『竹取物語』全体を捉えるための補助教材としては、十七冊 中、 『講談社の絵本 かぐやひめ』(文・田辺聖子、絵・長谷 川青澄、一九七九年)が最もふさわしいことがわかった。これ - 107 - まず「梨花」がどのような人物であるのかテキストの描写に 限定して着目し、その後幸田文の体験との関連性について探っ また、幸田文が何を思って『流れる』を執筆したのか、背景 について確認した。初めは随筆を何回か書くつもりだったが、 心情を想像することができる。 た。二つの存在はほぼ重なったが、何点か明らかに異なる部分 なんとか書き継いで長編の体裁が整ったのである。その執筆の 教師が言及することが望ましい。また全体を知るためだけでな があった。異なる部分に幸田文のメッセージが託されていると 中で、フィクションに少しずつ近づいていった可能性を読み取 さらに舞台である花柳界の歴史についても押さえた。 『流れ る』が執筆されたのはまさに花柳界崩壊の時代であった。 子どもたちが想像する補助としても絵本が利用できるだろう。 く、教科書掲載の『竹取物語』冒頭の情景や登場人物の心情を は随筆になり得なかった部分に、 幸田文のメッセー 『流れる』 ジが込められた物語なのである。 煙の部分がある、語源説にもふれているなど、物語の主要な要 ることができる。 「三寸」という大きさや「不死」以外の語源説など、 但し、 講談社本でも取り上げられていない要素もあるため、指導の際、 30