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No.80 - 東京工業大学附属科学技術高等学校

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No.80 - 東京工業大学附属科学技術高等学校
東 京 工 業 大 学
附属科学技術高等学校
広 報 誌
PDF 版
第 80 号
Mar. 2016
本校附属科学技術高等学校について考える
写真
校長
昨年の 4 月に校長に赴任しました。大学での研
究分野は、建築学の中でも建築計画分野で、幼稚
園から、高等学校、大学まで教育施設全般を対象
に研究しています。専門の関係で、20 年来、OECD
の教育施設委員会に日本の代表として参加させて
頂いています。その中で、欧米と日本との教育の
違いを体感してきましたので、一端を紹介しなが
ら、本校を位置づけてみたいと思っています。
国全体でみれば、日本は GDP では世界で 3 番
目の経済大国ですが、1人あたり GDP では世界
で 20 番台半ばでしかありません。個人の豊かさ
や教育では、まだ欧米に学ぶべきものが多いと感
じています。特に、教育投資額の大きさや大学へ
の入学試験制度に大きな違いがあると思っていま
す。
教育投資額の大きさは、OECD がまとめている
学級当りの生徒数の最大人数に関する資料を見る
と分かります。日本は、大体 40 人、一部学年で 35
人ですが、欧米では国により異なりますが、20 人
から 25 人です。この他、科目により、アシスタン
トが加わります。現在、経済的に苦しんでいるギ
リシャも 25 人ですし、教育で注目を集めている
フィンランドでは 20 人です。アメリカの寄宿舎
付の一流高等学校では学級当り 12、13 人で授業
を行っています。この数字を見るだけでも、欧米
宮本
文人
では教育をどれだけ重視しているかが理解できま
す。
学級当りの生徒数は授業方法とも密接に関係し
ます。生徒 40 人を想定した授業では、一般的には
講義形式や問題を解くこと等が中心になります。
生徒数が 20 人から 25 人程度になると違った形式
の授業が可能となります。10 年ほど前から、ヨー
ロッパの先進的な学校では、グループによる学習
が重視され、問題の捉え方、考え方、話合い、プ
ロセスを重視した授業が行われています。アメリ
カの寄宿舎付の高等学校で行われている生徒数
12、13 人の授業では、ハークネステーブルと呼ば
れる楕円形の大きなテーブルの周りに生徒が座り、
先生が授業をするのではなく、生徒個人が予め準
備して報告しながら、議論を行う形式の授業が一
般的です。日本の一部の大学で行われているゼミ
ナールのような授業が行われています。
入学試験制度についてみると、日本で行われて
いる厳しい大学入試は、東アジアで特徴的なもの
で、欧米にはないと言えます。このような入学試
験制度により、日本では、高校教育と大学教育が
明確に分けられています。一方、アメリカやイギ
リスの超一流大学では、それぞれの国で全国試験
はありますが、入学のためには、最終的に書類や
面接試験も重視されます。そのため、教育につい
1
PDF 版
ても、高等学校と大学との繋がりが柔軟と言えま
す。アメリカでは高等学校の特定の授業を、また
は、高校生が大学で授業を受けることで、大学の
単位が取得できます。イギリスでは大学入学前に
日本でいう教養課程を終え、大学は専門課程で 3
年制になります。これをみると、アメリカ、イギ
リスでは、高校教育が大学教育を支えているとも
言えます。
日本でも、近年では、高校段階で留まり難しい
問題を解くためよりも、大学の教育に踏み込んだ
ほうが有利であるという認識から、高大連携や高
大接続が進められています。日本のいくつかの大
学が、英米の超一流有名大学に追いつくためには、
高等学校の教育から底上げする必要があると考え
ています。
教育に関して、日本では、欧米のように学級当
たりの生徒数を少なくすることや、大学入試制度
を急に変えることは難しいと思います。欧米に学
ぶべきことばかり書きましたが、日本でも誇れる
ものがいくつかあります。その一つは、本校につ
いてです。
本校は、日本で唯一の国立大学の附属科学技術
高等学校として、東京工業大学と本校が協力して、
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)による
研究開発を活用しながら、10 数年かけて、大学の
理工学系学部に繋がる高大連携教育を創り上げま
した。今年度からは、スーパーグローバルハイス
クール(SGH)の研究開発にも携わり、新しい展
開を始めたところです。日本には大学進学に重点
を置いた科学技術高等学校がいくつかありますが、
本校は、その先駆的な役割を担ってきました。
伝統的に優秀な理数系の高等学校は日本を含め
て世界中にかなり存在します。これらの高等学校
は、大学に優秀な人材を送り出し、科学技術の発
展に貢献してきたと思います。
理数系高等学校が主に理科や数学に重点を置く
のに対して、本校では、大学の理工系学部にもっ
と直接的に繋がる、実験や実習を重視した幅の広
い教育を実践しています。
2
第
80 号
この点において、本校の教育は、理数系高等学校
とは異なりますので、理工系学部のいくつかの分
野によっては、より有望な人材を大学に送り出す
ことが考えられます。
日本の発展を今日まで支えてきたのは、時代に
より業種は異なるものの、大きくみると様々な産
業であり、科学技術はその産業を基礎から支える
重要な役割を果たしてきました。
多くの国々で、次世代の産業を支える科学技術の
発展は最重要課題となっています。
世界中の国々で大学や大学院の理工系分野は、
科学技術の発展という点で大きく貢献してきまし
た。今後、人材育成により科学技術の更なる発展
を考える時に、本校のような高等学校の教育には、
大きな可能性が秘められています。欧米には、現
在のところ、本校のように大学の理工系学部への
直接的な繋がりを重視した高等学校は存在しませ
ん。この点において、本校は、先んじる存在であ
り、欧米先進諸国にとってモデルになり得る高等
学校であると考えています。
このようにしてみると、本校の校長として赴任
できたことは、光栄なことであり、本校の更なる
発展に向けて、何らかの貢献ができればと考えて
おります。
(東京工業大学教育施設環境研究センター
大学院建築学専攻 教授)
PDF 版
国際交流とその効果
写真
副校長
仲道
嘉夫
本年度は SGH(Super Global Highschool)に指定
University of Singapore)高校を受け入れ、本校
されました。SGH については遠藤先生が別の記事
生徒と英語での課題研究発表等で交流しました。
を書いております。そちらをご覧下さい。また、
以上述べました、本校の国際交流は単なる親睦で
SSH(Super Science School)の方は経過措置とい
はなく、事前に各自テーマを持って調べ、研究し、
う形で指定されました。このような状況の中での
向こうの高校で英語でプレゼンテーションするな
本年度の本校の海外の活動を紹介します。なお、
ど、様々なアクティビティを行います。そして、彼
これらの活動には上記の他様々な教育プロジェク
らがその活動を通して彼ら自身が向上するだけで
トの協力の下で行われています。関係者の皆様に
なく、外国で学んだことを含め、周りの人に伝え
は感謝申し上げるとともに、参加した生徒達もそ
て行くことで、多くの生徒の意識を変えていって
のような背景を十分理解した上で、今後さらに活
います。この効果が、単なる受験勉強ではなく、本
躍して頂きたいと思います。8/9-15
タイ海外研
当の勉強。知的好奇心に従い未知なるものを解明
5 名参加。
「カセサート大学附属高校」との交
する喜びにつながってくるものと思います。最後
修
流。8/9-15 フィリピン海外研修
IS
(De
La
Salle
6 名参加「DLSU-
University
に、12/2 に SGH の情報交換会に参加しました。会
Integrated
を主催しておりました筑波大学の先生からは大学
School) 」 等 と の 交 流 及 び 研 修 。 8/13-19
入試改革に向け、SGH 等の活動を重視した入試を
KSASF(Korea Science Academy Science Fair)2015
新設するといった話しを伺いました。東工大も入
2 名参加。金賞受賞。12/12-18 オーストラリア研
試改革に動いているようです。また、9/15 には文
修
8 名。「西オーストラリア大学」
、「Cecil An-
部科学省から、高大接続システム改革会議「中間
drews High School」、「国際石油開発帝石(株)
」
まとめ」が発表されました。今後の大学入試は、基
等を訪問し、交流及び研修。12/16-19
台湾研修
礎学力を見る新しいテストと共に「自分の考えに
(立命館高校 SSH 連携)2 名参加。他高校生ととも
基づき論を立てて記述させる評価」や「高校時代
に台湾の「高雄高級中学」
「高雄女子高級中学」
「淡
の学習活動歴」
「エッセイ、学修計画書」
「面接、デ
江大学」等を訪問し、交流及び研修。12/20-25
ィベート、プレゼンテーション」など総合的に評
TJSSF(Thailand-Japan Student Science Fair) 2
価するようです。私どもはそういった流れの中で
名参加。1/4-9 アメリカトーマスジェファーソン
一歩先を進んできたと考えています。そういった
高校サイエンス研修(横浜サイエンスフロンティ
意味では、他の高校が追い付いてくる、これから
ア高校 SSH 連携)1 名参加。他高校生とともに研
が正念場だと思っています。これからも皆様のご
修。この他、受入として、タイ、カセサート大学附
支援、ご協力を切にお願い申し上げます。
属高校、フィリピン DLSU-IS 、NUS
(National
(情報・コンピュータサイエンス分野
教諭)
3
PDF 版
第
80 号
スーパーグローバルハイスクール研究開発
写真
副校長補佐(主幹教諭)
遠藤 信一
本校は,今年度よりスーパーグローバルハイス
GTL は,たとえば,技術専門者をうまく使いなが
クール研究開発(SGH)の指定を受け,グローバル
ら,グローバルに生産・販売拠点を置き,安定的
リーダーの育成に取り組むこととなりました。ご
(リスクを回避しながら)製品を生産し,流通さ
存知のとおり,本校は科学技術高校であり,本校
せ,利益を上げられるような生産・販売計画を立
の生徒は,科学技術系人材育成プログラムのもと,
案できるような資質を本校では想定しています。
日々学業に勤しんでおります。そこで,科学技術
すなわち。ある程度の科学技術系の知識を有しな
系素養を持つ科学技術高校生徒にとってのグロー
がら,マネージメントスキル,すなわち,ビジネス
バルリーダーを“グローバルテクニカルリーダー
フレームワークのような問題解決の枠組みを使い
(GTL)”と呼び,育成すべき資質と能力を提案す
こなせる人材です。そこで国際社会で活躍する
るとともに,多様化する国際社会で活躍する人材
GTL として,備えるべきスキルと地政学的リスク
を輩出するための,GTL プログラムを実践します。
回避能力,語学力(英語によるコミュニケーショ
従前より継続して実践している,スーパーサイ
ン力等)を獲得するため,新科目「グローバル社会
エンスハイスクール研究開発(SSH)事業では,
“科
と技術」「グローバル社会と技術・応用」および
学技術系人材育成”という本校の主たる目的に取
「SGH課題研究」を開発することとなりました。
り組んでいます。本校の目的については,変わら
1年に配当された「グローバル社会と技術」で
ずに取り組んで参りますが,それに加えて,GTL
は,6テーマをオムニバス形式で授業し,自説を
の視点を身につけて欲しいと考えています。
英語で主張できることを目指します。2年配当の
「グローバル社会と技術・応用」では,
育成講演会を始め,資源産出国との交流,
外国人講師による SGH 向け授業(英語),
地政学関連授業,課題研究への道など多
彩な内容です。そして,これらの総仕上
げとしてマネージメントの手法や費用便
益分析などの定量的評価を取り入れた
SGH 課題研究を用意しています。みなさ
ま方のご協力をお願い申し上げます。
(地歴・公民科
4
教諭)
PDF 版
昨年度の生徒の活躍
研究部研究資料係
成田
彰
科学技術を基本にした SSH 研究活動の中で、学校外で生徒達がどのような活動をおこない、成
果をあげてきているのかを、昨年度(2014 年度)を取り上げて紹介する。SSH 研究教育活動を始
めて今年で 14 年目になり、その中で毎年、参加するようになったコンテストや研究発表会がある
と伴に、新たな機会にチャレンジする生徒も増えてきている。また、科学技術を共通の知識とし
て、海外の生徒達との交流と新たな知識の共有を目的に、英語によるポスターやプレゼンテーシ
ョンスライドの作成が進んでいる。実際、今年度は英語を用いる機会がさらに増えている。これ
らの活動に参加した生徒達の成長に期待したい。
5
第
PDF 版
80 号
本校に着任して
(今年度より着任された先生方)
英語科
寺戸 恵
本年度より本校に着任致しました寺戸恵です。
っ張って行ってくれることも多くなりました。
大学を卒業してすぐに就職をしましたが、予て
プレゼンテーションなどの発表活動や英語での
より夢だった大学院留学をするために2013 年の
やりとりが回を重ねるごとに上手になっていく
夏にイギリスへ渡りました。アメリカで幼少期
のを見ていると、この時期の生徒の吸収力はす
を過ごした私にとって異文化での生活は慣れた
ごいものだと思います。そして、生徒達の成長
もので、苦戦することなど何もない。という自信
に関わることができるこの仕事に就くことがで
は渡英してすぐに打ち砕かれました。出身国の
きた幸せを改めて感じています。
違う寮生たちとの共同生活や、電気・ガスなどの
今年度の 1 学年は、期間や時期は様々ではあ
ライフラインの契約を行うことに3ヶ月以上苦
りますが、多くの生徒が留学を希望し、何人か
戦しました。日本では当たり前のことが全く通
の生徒は実際に留学を経験しています。本校の
用せず、それは当たり前なことではなく理解の
海外研修を含む国際交流への参加にも積極的で
得られない特異なことなのかもしれない、とい
すし、東工大の留学生を招いた授業でも積極的
う思いさえ抱いた時期もありました。
に英語を使おうとしていました。将来どのよう
本校に来て、SSHやSGHの取り組みの一
な仕事に就くかはわかりませんが、早い時期か
環で海外研修に行ける機会が非常に多いことに
ら様々な文化に触れ、視野を広げていくことは
驚きました。研修中に出会う中国人や韓国人、タ
とても大切です。これからも積極的にいろいろ
イ人やフィリピン人などと相互理解しようとす
な経験を積んでいってほしいと願っています。
る過程で共通に使えるツールが英語なのだと思
私自身も生徒と共に成長していけるよう努力し
います。高校在学中や大学に進学してから、また
ていきたいと思います。
は社会人になって活躍の場を広げるチャンスが
やって来た時のためにも、東附の皆さんには英
語の基礎力をしっかり身につけておいてほしい
と思います。
国語科
三浦 綾子
今年度より本校に着任いたしました国語科の
三浦綾子と申します。どうぞよろしくお願いい
たします。四月からこの学校で過ごしてみて感
英語科
久光 絢乃
じるのは、知的好奇心旺盛な生徒がとても多い
ということです。専門分野に限らず、関心のあ
6
今年度英語科教諭として着任いたしました久
る事柄・趣味の幅が広く、自分の世界を持って
光絢乃です。1 学年を主に担当しております。
いるという印象を受けました。今の時期の皆さ
最初は緊張していて大人しかった生徒も今では
んに最も必要なのは、あらゆることを自分の中
活発に授業に取り組み、最近では彼らが授業引
に取り込み、感性を磨くことではないかと思い
PDF 版
ます。知識が沢山あるほど、いろいろなことに気
づくチャンスが増え、その経験が感性を育んでい
情報・コンピュータサイエンス分野
都留 裕貴
くと思うのです。豊かな感性は発見する楽しみを
今年度、本校情報コンピュータサイエンス分野
もたらすだけでなく、他の人が思いもかけないよ
の教諭に着任しました都留裕貴です。大学では情
うなアイディアの源にもなるはずです。その時は
報工学ではなく電気工学を専攻しており、コンピ
無関係に見えることが、後から大きな意味を持つ
ュータ部品の小型化・高集積化にまつわる研究を
こともあります。だからこそ、選り好みせず様々
していました。私が学生だった際、これらの専門
な文章や話題に積極的に触れてみて下さい。皆さ
科目を勉強していて思うことがありました。それ
んには是非、柔軟な思考と姿勢で、新たな興味が
は、情報にしても電気にしても「目に見えない」
次々と湧いてくるような日々を送ってほしいと願
ことです。電子データは目に見えず、流れている
っています。
電気も目で見ることはできません。情報や電気を
私自身も、高校生活という、皆さんが自分の
可能性を広げていく時間を共に過ごせる幸運に感
謝し、少しでも力になれるよう努めたいと思いま
す。
考える上でこれが最大の妨げになっていると思い
ます。
生徒は考える力も、考えようとする力も十分に
備えています。生徒が持っている力を生かせるよ
う、
「目に見える授業」にすることを目標にしてい
理科・化学
佐藤 馨一郎
今年度、本校に着任いたしました理科・化学の
佐藤です。着任して半年以上過ぎましたが、前任
校との違いに戸惑いながらも、多くの方々の助け
によって、何とか働けていると思います。
さて、私が育ったのは、青森市のはずれで野山
に囲まれた、本校とは真逆の環境でした。そこで
きたいと考えています。
4 月に着任して 8 ヶ月ほどが経過し、日々の授
業資料はたまりにたまり、あれほど何も無かった
自席は雑然とした様になってしまいました。机の
上だけを見るとすっかりベテラン教員のようにな
っていますが、来年度からは授業力もベテラン教
員に近づけるよう努力していきたいと思います。
高校卒業まで過ごし、草や虫と戯れる青春時代を
送りました。その後、大学を出て、今から約 10 年
前ですが、青森県の田舎の公立中学校で教員人生
をスタートさせました。
その後、
紆余曲折を経て、
本校に着任しましたが、
気付いたことがあります。
田舎の中学校と本校では、生徒の年齢も環境も違
いますが、生徒が自己実現のために努力するとき
の目つき、顔つきは変わらないと思いました。生
徒の自己実現に少しでも関われるように、努力し
ていきたいと思います。
私は、子どものころよりクリエイティブな活動が
好きでしたので、この学校はとても楽しいです。
様々な縁で着任できたことに感謝して、今後も精
進していきたいです。
7
PDF 版
第
80 号
坊っちゃん科学賞研究論文コンテスト優秀賞
「ダブルネットワークゲルはなぜ生成したゲルの中心にできるのか?」
の経緯と背景
材料科学・環境科学・バイオ技術分野
勝
「ダブルネットワーク(Double Network ;
ァントムとして利用できるようにするには、
DN)ゲルの合成」は、生徒から提案された課
二重構造のゲルが生成する理由を解明する必
題研究の一テーマとして、2010 年(平成 22
要がある。DN ゲルの合成手順である浸透や
年)から始まった。今年で 6 年目になる、継
膨潤といった操作を考えるならば、DN ゲル
続研究である。1 年目は石英板 2 枚とシリコ
は生成したゲルの外側にできやすいと考えら
ーンシートを用いた反応器を作り、小さな
れるが、実際にはその逆の現象が起こってい
DN ゲルを合成することができた。2 年目はプ
た。そこでこの現象を論理的に説明できる、
ラスチックの衣装ケースとブラックライトを
「酸素がラジカル重合を阻害するために DN
使って自作の紫外線照射装置を作製し、合成
ゲルは空気に触れやすい外側にはできず、内
した DN ゲルの強度測定ができた。3 年目は
側に生成する。」という仮説を検証し、数年
新しい成果を得られなかったが、DN ゲルは
間の疑問を明快に解決することができた。川
いつも生成したゲルの内側にできることが確
嶋愛、中山知佳の二人の生徒の努力に敬意を
認された。昨年の 4 年目では生体材料として
表するとともに、これまで、多くの時間と情
の活用を考え、自由な形に成形できる DN ゲ
熱を「DN ゲルの合成」に注いでくれた生徒
ルの合成に取り組んだ。しかし、生成したゲ
の皆さんに感謝したい。
ルは二重あるいは三重構造となり、精度の高
い形状をもつ DN ゲルは合成できなかった。
この年の秋、東京工業大学情報理工学研究科
情報環境学専攻の天谷 賢二 教授および大西
有希 助教から、「MRI を用いた脳動脈の血流
量推定」の研究において「血流測定用ファン
トムとして DN ゲルが利用できないか?」と
いう問い合わせを頂いた。そこで特定の雰囲
気下で合成ができるよう、真空デシケータや
紫外線照射装置の小型化、円筒形の石英ガラ
スの反応器作製などの費用を助成して頂き、
ファントムに利用できる DN ゲルの合成に取
り組むことができた。この場をお借りして、
感謝申し上げたい。DN ゲルを血流測定用フ
8
森安
PDF 版
水中ロボコン in JAMSTEC’14 フリー部門優勝と
工学フォーラム 2014 読売新聞社賞受賞
システムデザイン・ロボット分野
本記事は,平成 26 年度のシステムデザイン・ロ
ら,モータードライ
ボット分野の課題研究でありますが,幸いにして,
バも独自の設計製作
2つの賞をいただくという成果が得られました。こ
としました。実走試
の度,紹介の機会をいただきましたので,ご報告さ
験を兼ねて,平成 26
せていただきます。
年 8 月 30,31 日の
山口
正勝
平成 26 年度の課題研究において,
「水陸両用捜索
両日開催の水中ロボコン in JAMSTEC’14 のフリ
ロボットの開発」と題して,5名の生徒で活動を行
ー部門に出場しました。大学や企業を合わせ 11 チ
いました。本研究の背景と目的は,日本は地震や土
ームがエントリーし,1日目のプレゼンテーション
砂崩れなど自然災害が多い国であり,それらの災害
と2日目のロボットの実走により審査が行われまし
には家屋の倒壊などによる瓦礫の影響に加え,大雨
た。実走では,水上及び陸上の走行,登坂走行がで
や津波などの水による影響も含まれます。2011 年 3
きることが確認でき,迅速な捜索活動のポイントと
月の東日本大震災における死因の 90%以上は溺死
なる自力(無線操作)での陸上⇔水上の往来にも成
(内閣府防災情報より)
によるもの
である事などを鑑み,陸上
のみならず水害にも対応できる,すなわち,水上・
陸上を問わず走行できる水陸両用型の捜索ロボット
功しました。以上のパフォーマンスが,優勝を導き
ました。
水中ロボコンでは,
の開発が,迅速な捜索活動を導きだし,より多くの
予定していた映像の
人命を救うことが可能であると考え,課題研究にお
送信システムを装備
いて開発することとしました。
していませんでした。
まず,瓦礫などの悪路走行を可能とするため,ク
その後,
映像送信シス
ローラ型とし,さらに,段差昇降にも対応させるた
テムを構築・装備し,映像による遠隔操作も可能と
め,図のようなサブクローラを装備し,障壁に対す
して,本来の機能をすべて備えた上で,工学フォー
る走行性能の向上を図っています。クローラの水色
ラム 2014 に参加しました。エントリーした研究か
部分は,水上での浮力の役割
ら選考されたテーマのみが口頭発表を行えるフォー
も果たし,スプロケッ
ラムです。水上陸上での走行や映像による遠隔操作
トホイールやロード
時での走行などの動画を交えての発表を行い,読売
ホイールに至るまで
新聞社賞を受賞しました。詳細は,以下を参照して
独自で設計製作しました。主駆動装
置や
サブクローラの駆動と揺動運動に
対応す
るため,複数のモーターの搭載が必須とされ,市販
ください。
http://www.yomiuri.co.jp/adv/kougaku2014/highschool.html
のモータードライバの最大定格電流値の兼ね合いか
9
第
PDF 版
80 号
昨年度の成果
立体造形・ディジタルデザイン分野
建築デザイン分野では、授業で学んだ知識や理論,
デザイン手法や製図の技能を実際に発揮する場とし
て,様々なデザインコンテストに積極的に応募して
います。また、3年生は課題研究で設計競技(コン
テスト)に参加するというテーマを選ぶことができ
ます。
2014 年度も、
数多くの生徒が授業や課題研究の延
長としてコンテストに応募し,以下の成果を勝ち取
りました。何れも授業時間以外にも多くの時間を費
やし,熱心に取り組んだ結果です。
(受賞日付順)
(1)道都大学美術学部住宅設計コンクール「音楽家の
家」学生審査員賞(濱口稜大
“Connection by Piano”
)
(2)日本工業大学建築設計競技「公の家」奨励賞(野
村奈央“TEATER HOUSE”
)
(3)全国高等学校大川インテリアデザイン展(デザイ
ン甲子園)
「Japan~和モダンを創造する~」朝日新
聞社賞(阿川誠“FUJI×3”
)/大川信用金庫理事長
賞(内田果琳“麻の葉 triangle”
)
(4)福山大学高校生デザインコンペ「自然と共生する
生活環境デザイン」最優秀賞(中山七緒“川の家”
)
(5)長崎総合科学大学全国高校生設計アイデアコン
テスト「学園祭の屋台」入賞(村上峻介“後は座と
なれ山となれ”
)
(6)高校生いすデザインコンテスト(日本工学院×
ITOKI)学校賞(阿川誠,内田果琳,速水秀太,村
上峻介)
(7)ものつくり大学設計コンペ「左官塗り仕上げの木
造住宅」団体賞/第 3 位(阿川誠“土壁樹木の家”
)
/佳作(安生天翠“包忍の家”
,高舘由莉香“次世代
原始人の暮らし”
,増野紗樹“トンネルを潜る家”
)
10
片渕
和啓
PDF 版
シンガポール国際数学大会(SIMC2014)参加報告
数学科
早坂
健
平成 26 年 5 月 26 日(月)から 30 日(金)にか
時)の 4 人がチームを組んで出場しました(引率:
けて,第 4 回シンガポール国際数学大会(Singapore
齋藤義夫前校長,数学科早坂)
。互いに協力しながら
International
2014,
夜遅くまでレポートを作成し,プレゼンテーション
SIMC 2014)が,シンガポール国立大学附属数学科
の準備を行いました。その結果,Good performance
学高等学校(NUS High School of Mathematics and
in Challenge Presentation と し て 与 え ら れ る
Science)で開催され,28 の国と地域から合計 60 校
Commendation Award を受賞し,日本にメダルを
の代表チームが集まりました。本校は 2012 年度に
持ち帰ることができました。
Mathematics
Challenge
続いて 2 回目の参加になります。日本からは本校の
日本で応援・サポートしていただいたみなさま,
他に,横浜サイエンスフロンティア高等学校,立命
シンガポール国立大学附属数学科学高等学校の
館中学校・高等学校,石川県立七尾高等学校が参加
School Helper として暖かく迎えていただいた Lisa
しました。
さんと Ischelle さん,真理子ゴメス先生をはじめシ
この大会は 2 年に 1 度開催され,具体的な現象を
ンガポールのみなさまに深く感謝申し上げます。
「数理モデル化して数学的に考察する問題」が出題
次回は平成 28 年に第 5 回大会が開催される予定
されます。今回は,シンガポールの交通を題材にし
です。本校のチームは先輩を超える結果を残すよう
た以下の 3 つの問題が出題されました。
願っております。
Part A: Tourist in a hurry
ホテルを出発してシンガポールの 5 つの観光地を
巡ってホテルに戻る経路を,時間や予算の制約の中
で最適化する問題
Part B: Bus stops
旅行者がバスを使って 2 つの地点を移動するモデ
ルについて,移動にかかる時間の期待値を最小にす
るようなバス停の配置の問題
Part C: Traffic junction
自動車が行き来する十字路の交差点で,道幅や交
通量の条件を加味し,待ち時間を最小にする問題
仮定が整理されている教科書の問題と異なり,具
体的な現象を数式で記述し,論理的かつ客観的に考
察することが求められます。各校の代表は 2 日間か
第 80 号
けて解答して英語でのレポート提出し,その内容を
平成 28 年 3 月発行
複数のジャッジの前でプレゼンテーションを行って
東京工業大学附属科学技術高等学校
広報誌編集委員会
競い合いました。
〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6
TEL:03-3453-2251(代表)
FAX:03-3454-8571
E-mail:[email protected]
本校からは 3 年 C 組小見山貴弘君,持田峻佑君,
2 年 A 組小野田哲君,2 年 C 組山本竜也君(参加当
11
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