Comments
Transcript
Introduction L1・L2 における単語の意味推測の成功度は、話者のL1
【異文化言語習得論】2011/1/24 担当: A.H. Chapter 5: Inferencing Success and Initial Development of Word Knowledge Wesche, M. B. & Paribakht, T. S. (2009). Lexical Inferencing in a First and Second Language: Cross-linguistic Dimensions. Bristol, UK: Multilingual Matters. IntroductionParibakht, T. S., & Wesche, M. B. (2009). Lexical inferencing in first and second language: Cross-linguistic dimensions. Bristol, UK: Multilingual Matters. Introduction ■ L1・L2 における単語の意味推測の成功度は、話者の L1 によって異なってくると考えられ る。さらに、学習した L2 単語の保持にも L1 が影響を与えると想定される ⇒ L2 単語の相当語句が L1 に存在するか否かが主に関わる ■ 本章では L1 (English, Persian, French) が違えば L1 単語の意味推測の成功度に違いが出るの かを検証した。ペルシア語、フランス語話者に対しては、L2 単語の意味推測の成功度・学 習した語の保持に違いが出るのかも調べた Issues ■ 単語の意味推測による語彙学習に関して検証が不十分な点として、(a) 推測を成功させるの に必要な読み手の既有知識の役割、(b) 推測の成功度と学習した語の保持との関係がある ■ L2 単語が L1 において語彙化されているかどうかが、読み手の既有知識として重要な役割 を果たす (L2 単語の相当語句が L1 にあれば、容易に L2 単語の意味を習得できる) Previous Vocabulary Knowledge in Lexical Inferencing Success and Word Learning ■ 語彙知識と単語の意味推測の成功度との関係 ・語彙知識の広さと深さが、読解における単語の意味推測の成功度を予測する要因となる ・テキスト中の単語をどの程度知っていれば単語の意味推測に成功するかという閾値について は 98%とする先行研究が有力である ■ 単語の意味推測による語彙学習について ・推測により最もよく学習されるのは語の形式で、意味も同様に習得される ・一方で語の発表知識はほとんど学習されないようである ・単語の意味推測によりどれだけ新出語を学習できるかは、読み手があらかじめ持つ語彙知識 と関係がある Lexicalization ■ L2 単語の、L1 での語彙化が単語の意味推測に与える影響 (e.g., Paribakht, 2005) ・目標語が L1 で語彙化されていても、学習者が異なる知識源を使うことはない ・推測の成功度は、目標語が L1 で語彙化されている方が高かった ・目標語が L1 で語彙化されていても、L1 と L2 との言語間距離が遠いと推測に失敗する ■ 本章の研究目的 ・単語の意味推測における成功度、新出語の習得に語彙熟達度 (lexical proficiency) はど のような役割を果たすのか ・フランス語話者は英単語の意味推測において、手掛かりを豊富に使うことができるのか ・成功度が高いほど新出語の学習に繋がるのか ・語彙化された / されていない目標語の意味推測の成功度に、L1 の言語間距離はどのよ うな役割を果たすのか Methodology ※ 方法は第三章で述べたものとほぼ同じで、以下では本研究に関わる要因を挙げる ■ 3 言語の関係 ・フランス語は英語との言語間距離が近く、文化的にもお互いに精通している部分があ る。さらに語彙が共通している部分も多く、語彙化のパターンも似ている ・ペルシア語は英語との言語間距離が遠く、文化的にもなんら接点はない ■ 協力者 ・英語、フランス語、またはペルシア語を L1 に持つ大学生 (第三章で述べた通り) で、今回 のタスク (L1 と L2 での単語の意味推測・リコール) を完遂できた人 ■ 手順 (第4章の実験で収集したデータを分析) (1) L1 の疑似語・L2 単語の意味推測をしたときの発話プロトコル (2) 推測の成功度 ・意味的 / 統語的に適切な解答は 2 点 ・意味的に適切だが統語的に間違っている解答は 1 点 ・全くの間違いであれば 0 点 ⇒ 目標語は 50 個 (L1 の疑似語が 25 個、L2 単語が 25 個、9 個が L1 において語彙化され ており 6 個が語彙化されていない L2 単語となっている) (3) Vocabulary Knowledge Scale (VKS) による直後リコール (4) 語彙サイズ (Vocabulary Levels Test: VLT) Findings ■ 推測の成功度 L1 and L2 Lexical Inferencing Success of English, Persian and French Speakers English L1 Persian L1 Persian L2 French L1 French L2 Full success Partial success 89.3 79.0 11.0 62.8 31.1 4.3 4.0 11.0 11.5 20.5 Failure 6.4 17.0 78.0 25.7 48.4 ・L1 疑似語の意味推測はどの言語においても比較的簡単だと言える ■ L2 単語の意味推測 ・L1 と L2 で成功度に差が出る要因の 1 つとして L1 と L2 熟達度の差が挙げられる ・ペルシア語話者とフランス語話者との差は、L2 熟達度では説明できない ■ 目標語の L1 での語彙化 vs. 非語彙化の影響 Success in Inferring Meanings for Lexicalized Versus Non-Lexicalized Words by Persian and French Speakers Persian Lexicalized Non-lexicalized M SD 0.47 0.30 0.24 French t value p 3.96 .001 0.14 M SD 0.89 0.28 0.76 t value p 3.06 .006 0.29 ・目標語が L1 で語彙化されている場合、推測の成功度は両者とも比較的高くなっている ・ペルシア語話者は語彙化、非語彙化に関わらずフランス語話者より推測の成功度が低くなっ ている ■ 単語の意味推測による新出語彙の保持 Pre-Task to Post-task Gains in Average VKS Scores Before inferencing M Persian French Persian French After inferencing SD M SD t value p 1.64 1.34 0.21 0.14 Lexicalized L2 Words 2.16 2.22 0.23 0.42 -7.98 -9.94 .000 .000 1.54 1.47 Non-Lexicalized L2 Words 0.19 2.03 0.12 0.13 2.21 0.27 -10.65 -13.26 .000 .000 ・推測をさせる前に行った VKS と推測後の VKS を比較した結果、少ないながらも点数は上が っていた ・短期記憶に保持された語彙知識がどれだけ長期記憶に繋がるかは分からないが、短期記憶に 保持されない限り語彙知識の発達は見込めないので意味ある結果だと言える ・VKS の結果から平均的に習得される語彙知識は語の形式であり、一回の意味推測で意味の 獲得にまでは至らなかった (VKS = 2: 語の形式は分かるが意味は分からない) ・語彙知識の習得に関しては語彙化や L1 の影響が見られず、推測の成功度が影響していた ・ペルシア語話者は推測に失敗しやすいにも関わらずフランス語話者と VKS の得点が変わら なかったのは、単語の意味推測は語の形式の学習に繋がるからだと考えられる (意味の特定 に失敗してもスペルは学習できる) ・VKS score の上昇を詳細に見ると (pp. 126-127)、ペルシア語話者で 10.2%、フランス語話者 で 16.4%は少なくとも Level 1-2 から Level 3 以上になっていた ・このことから単語の意味推測による語彙学習は、ゆっくりとした累積的なプロセスであると 言える ■ 語彙知識と意味推測の成功度・意味の保持との関係 ・学習者の語彙サイズ、推測の成功、VKS score (Levels 1-2 →3-5)、の相関を調べた ・相関はテーブル (pp. 129-130) の通り Persian speakers’ L2 receptive vocabulary knowledge, lexical inferencing success and gains in knowledge of target word meanings Full inferencing score Total success VKS 1-2 → 3-5 VLT Full inferencing success Total success .63 .71 .76 .94 .75 .73 French speakers’ L2 receptive vocabulary knowledge, lexical inferencing success and gains in knowledge of target word meanings Full inferencing score Total success VKS 1-2 → 3-5 VLT Full inferencing success Total success .79 .79 .68 .98 .49 .53 ・語彙サイズがあるほど推測に成功しやすく、語彙知識の獲得にも有利に働くことが分かった。 逆に言えば、語彙サイズが少ないと推測に失敗しやすいため、語彙知識の獲得に至らないと 言える ・Total success において語彙知識の獲得と有意な相関があったことは、未知語の意味を部分的 にしか特定できなかった場合でも語彙知識の獲得に繋がることを示している ■ 推測が成功するために必要な語彙サイズ ・高いレベルの語彙サイズを持つ学習者 (VLT = over 70) は、VKS で 3 以上 (意味を知ってい て文脈の中で使える) の語彙知識を獲得する傾向にあった ・VLT = 57 付近が、語の意味の獲得に繋がる (VKS = 3) 語彙サイズの閾値であった ・VLT = 27-55 の学習者の VKS は 0-2 であった Summary and Discussion ■ 単語の意味推測の成功度 ・推測の成功度に対しては、言語間の違い (L1 における語彙化、書記法、テキストに対する背 景知識) および L2 熟達度が関わる ・推測による語彙知識の獲得に対しては、語彙サイズなどの L2 熟達度が関わる ■ 語彙知識の発達 ・単語の意味推測により得られる語彙知識は、大部分は語の形式であった ・実験結果から単語の意味推測を通して、形式の認識 → 意味の獲得といった語彙発達が見ら れ、その度合いは推測の成功度によることが分かった ・しかし推測が成功するにはある程度の語彙サイズが必要であり、閾値を超えない限りは推測 の成功 / 語彙知識の獲得には至らない ・語彙知識の発達は長く累積的なプロセスであり、様々な文脈で目標語に出会う必要がある。 単語の意味推測による語彙学習は短期間で効果が出るものではないが、膨大な時間をかけて reading などを行うならば語彙学習の方法として有効だと言える