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中小企業でもできる 海外進出の ポイント

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中小企業でもできる 海外進出の ポイント
中小企業でもできる
海外進出の
ポイント
経営戦略
Ⅰ 海外進出に必要な5つのステップ
1.経営ビジョンの策定
2.調査チームの編成
3.調査情報の整理と分析
4.の全体計画策定
5.現地での人材育成
Ⅱ ブランド力を活かし世界に売り込むためのポイント
1.輸出国の市場調査
2.販路開拓への準備
3.輸出品関連法規制への配慮
4.交渉ポイントを抑えたトラブル防止
5.輸出開始後のリスク対応準備
Ⅲ 中小企業の海外進出成功事例
1.水産加工機械の海外輸出
2.英字ウェブサイト開設による非破壊検査装置の販売増
3.「日本酒輸出協会」設立による欧米での販路拡大
中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
Ⅰ 海外進出に必要な5つのステップ
長期間にわたるGDPの伸び悩みや、将来の人口減少も予測されている国内市場に留ま
ることなく、成長している海外市場への進出は、事業拡大において魅力的な手段の一つで
しょう。海外で新しい市場を開拓したいと考える中小企業に必要な 5 つの検討ステップは
次の通りです。
経営ビジョン
の策定
中小企業の海外進出には現地依存型が多いといわれています。現
地パートナー企業の不確かな言葉にのって十分な調査をせず、数回
の視察旅行で進出を決定してしまう企業がありますが、トラブル等
が起こった後になってこんなはずではなかったと後悔しても手遅れ
です。
企業の目的にあった事業展開をしていくためには、将来のビジョ
ンを描いておくことが大切です。予想もできなかった経営環境の悪
化や新しいビジネスチャンスの出現などに対し、機敏に対応できる
ように世界(海外)を視野に入れた柔軟な思考が必要になります。
経営ビジョンの実現に当たっては以下の検討が重要なことを知っ
ておきましょう。
1
中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
調査チームの
編成
海外進出に関する調査チーム編成は、そのテーマに応じて次のよ
うに強化・拡大していく必要があります。
実行可能性・採算性調査時においては、担当者またはプロジェク
トチームを編成し、進出詳細調査時および進出実務においてはプロ
ジェクトチームを編成するのが通常です。
現地調査の担当者は限られますが、本社が銀行、政府系機関、会
計事務所、進出ユーザー、同業者、資材メーカー、建設業者などか
らの 2 次情報をまとめることは既存の業務の範囲で行えますので、
兼任という形態でも調査チームを編成することが不可欠です。自社
担当者が現地訪問する時の作業内容を、事前に入手した調査内容の
検証やユーザー動向、製品の市場の確認等に集中させることもでき
ます。
調査情報の
整理と分析
調査担当者あるいは調査チームで海外進出に関する情報を収集し
ます。次の分類を参考に、情報収集度合いのバラつきや抜け漏れの
無いよう注意しましょう。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
進出計画は一般に、「進出戦略」「組織体制」「投資計画」と計画
実践のための「工程表」からなります。
進出の全体
計画策定
現地への進出戦略は、現地法人が担うべき役割や機能、技術など
の戦略的枠組みを決定するものです。組織体制については、人員規
模や組織階層だけでなく日本人駐在者と現地採用者の役割も計画
の範囲となります。海外進出戦略と組織体制が明確になったら、そ
れらが事業として成立するための投資回収のめどについて検討し
ます。まず人件費や土地の賃借料、水道・光熱費等の見積りを加味
し、おおよそ 3-5 年で黒字化するプランを策定することから始め
ます。
特に進出地の選定では、工業団地の条件やパートナーとの関係も
含めて事前に検討しておく必要があります。場合によってはユーザ
ーとの地理的関係よりも現地のメリットや制約条件などを優先さ
せることも必要となります。他にも、法的に規制された製品の取り
扱いや、騒音、排気、廃材処理に対する制約も地域ごとにさまざま
な条例があります。
なお、法人登記および工場登記は、弁護士や会計士またはコンサ
ルタント会社を通じて行う方が確実でしょう。その内容は以下のよ
うになります。
工場用地とともに重要なのが進出形態です。現地法人や現地支店
を設立するのか、それともまず日本や近隣国からの出張で対応する
のか、さらに現地法人を設立する場合は独資(100%)にするのか
合資(いわゆる合弁)にするのか、それぞれの実現可能性やメリッ
トおよびデメリットを検討します。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
現地での
人材育成
海外進出している多くの中小企業でが認識している経営課題に
は、現地マネジャー不足、賃金上昇、品質問題、税制・法制度の変
更、為替の急激な変化、労務管理、競争激化による採算の悪化など
があげられています。
特に労務問題では、どの企業とも現地従業員の定着や現地幹部育
成に苦労していますが、現地に定着し安定的な事業運営をするうえ
で、現地人材の育成制度構築が不可欠です。例えば、世間相場以上
の給与水準の確保や日本への研修制度および管理職への抜擢等、従
業員にインセンティブを与えることが有効です。一方で日本人の経
営者や管理者そのものの魅力を高めることも有効です。
中小企業では海外派遣人材の育成までなかなか手が回らないの
が実情ですが、海外赴任前に研修を受けさせる等必要な手立てを講
じたうえで海外に送り出しましょう。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
Ⅱ ブランド力を活かし世界に売り込むためのポイント
TTP(環太平洋パートナーシップ)協定の合意やインバウンドの急増などに加え、EC
プラットフォームの整備や決済サービスなどを始めとした IT サービスの進化により、中小
企業による海外進出のハードルも著しい低下が見られます。
本章では自社のブランド力を活かした海外への販売計画策定における着眼点について解
説していきます。
自社製品等を輸出する場合、どこの国を対象にするかを決めるこ
輸出国の
市場調査
とから始まります。まずは候補国の人口、経済、文化などの社会環
境を調査します。同時に、輸出する商品の市場の規模(販売数量、
価格)やニーズの存在、競合他社の存在、その販売シェアなどの市
場調査を行います。自社製品の特徴や強みを把握し、ターゲット市
場でその強みを発揮できるかを知ることが重要です。そうしたうえ
で輸出国やターゲット市場を絞り込みましょう。
日本企業の進出先は中国が圧倒的に多いものの、伸び率ではイン
ドが急増している様子が伺えます。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
販路開拓
への準備
販路開拓への代表的な取り組みの一つに、現地の見本市への出展
があります。見本市では、その場で商談が成立することもあります
が、展示会でのアンケートや来場者へのヒヤリングなどによる商品
開発に有効な情報収集の場としても活用できます。
例えばジェトロでは次のような出展支援を予定しています。
また、ターゲット市場での販売チャネルを確立させるためには、
現地での信頼できる取引先の確保が最も重要になります。複数の現
地の取引先候補と実際に会い、交渉を重ねたうえで取引先を選定し
ましょう。
特に輸出商品の場合には、製造費のほかに運賃や保険料、関税な
どの諸経費、および現地の商社や代理店が得る中間マージンなどが
上乗せされるため、一般的に現地商品よりも割高になります。販売
ターゲットや販売量の検討に加えて、その価格に見合う価値が商品
にあるかが販売計画実現の重要なポイントになります。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
安全保障上の観点から、輸出する製品が軍需用途に転用できると
輸出品関連
法規制への
配慮
判断される場合には、経済産業省の輸出許可が必要になるなど、輸
出する品目によっては、事前の許可や承認が必要になることがあり
ます。この規制対象は幅広く、思わぬ製品が該当してしまう場合が
ありますので、事前に十分に確認しましょう。製品が相手国の品
質・安全基準をクリアしているかについても確認しておく必要があ
ります。また、製品だけではなく外資に対する次のような出資規制
も多く存在します。
国際貿易でのクレームの多くは品質に関するものです。欧米諸国
など輸出先の国によっては、日本国内よりも品質や安全に対する取
組みが厳しい場合があります。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
取引先との交渉では、価格、販売数量、納期などの条件の他にも、
輸送手段、梱包形態、保険などの輸出に関わる条件を交渉します。
交渉ポイントを
抑えた
トラブル防止
国際貿易では、不良品等のトラブル以外にも、言葉や文化、商習慣
の違いによるトラブルなど思いもかけないことが発生します。また、
その対応は国内取引と比較して複雑です。ビジネストラブルによる
海外撤退も多く起こっています。
出所:(独)中小企業基盤整備機構「平成 20 年度中小企業海外事業活動実態調査」から
中小企業庁作成
取引先との交渉の場面では、価格だけではなく、万一のトラブル
が起こった場合の責任やその対応についても十分に交渉・確認しま
しょう。そして、契約書には取引条件や責任範囲とその対応を必ず
明記しておきましょう。契約書の各条項は内容がしっかり理解でき
るまで必ず確認しましょう。
価格交渉等の条件だけに気を取られてしまうと、輸出開始後にト
ラブルが発生し、その対応で赤字になってしまうこともあり得ます。
十分に留意しましょう。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
国際取引を安定的に行う為には、取引先の継続的なモニタリング
が重要です。取引先の経営悪化等により、商品の代金が支払われな
い等のトラブルも発生しかねません。現地の取引先へ継続的に訪問
輸出開始後の
リスク対応準備 するなど、取引先の経営状態を確認しましょう。
取引先の信用リスクの他にも、輸出国の政情不安等により輸出で
きなくなる場合もあります。貿易保険に加入するなど万一のリスク
に備えましょう。
海外進出が軌道に乗り始めた後も油断は禁物です。ビジネスを継
続させていくための現地マーケティングや品質管理のほか、取引条
件の見直しや生産・供給体制の維持継続など、輸出開始後も多方面
からのリスク対応準備が必要です。
出所:中小企業庁委託「海外展開による中小企業の競争力向上に関する調査」
知的財産の保護も重要な課題です。国内で特許等を取得している
だけでは、海外では通用せず権利侵害されることもしばしばありま
す。権利保護に留意しましょう。
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
Ⅲ 中小企業の海外進出成功事例
1
水産加工機械の海外進出
北海道釧路市で食品加工機械製造業を営む、株式会社ニッコー(売上高 13 億円、従業
員 85 人、資本金 3,000 万円)は、鮭加工機械や食品加工でのロボットシステム等を主
力商品に、ロシアや中国、タイ、ベトナム等に進出している、高い技術力を武器に企画か
ら設計・製造までをトータルで行う機械メーカーです。
■処理設備の一例(同社 HP より)
国内水産加工市場が成熟期を迎える一方、海外での水産加工自動化ニーズが顕在化して
いる状況を受け、同社では中小機構の F/S 事業の活用や信頼できる海外ビジネスパートナ
ーとの出会いに恵まれたことで、水産加工業が盛んなロシア極東での実績を基にアジア各
国への展開を進めています。
従来から手作業が当たり前の水産加工現場を一変させた数々の水産加工機械は国内外か
ら高い評価を得ている一方で、アフターサービス充実を目指し、海外メンテナンス技術者
を受け入れ養成するなど、信頼関係の構築にも努めています。
■物流・商流のフロー
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
2
英字ウェブサイト開設による非破壊検査装置の販売増
北海道雄武町で土木建設業を営む、日東建設株式会社(売上高 8 億円、従業員 56 人、
資本金 2,000 万円)は、土木建設で使用するコンクリート構造物の強度推定等の非破壊
検査装置を製造しており、販売先は国内だけでなく、アメリカや韓国、台湾、ナイジェリ
ア、シンガポール等の多岐に渡ります。
インフラの老朽化という各国共通の問題への対応策として、同社ではコンクリート強度
の非破壊検査装置を開発してきました。同社の検査装置は強度の測定・解析だけではなく、
小型で取り扱いが簡単なため、コンクリート施設の老朽化を懸念する国内外から引き合い
があります。引き合い急増のきっかけは、JETRO 専門家によるアドバイスの他、英語版
ウェブサイトの立ち上げにありました。
同社では、各国での展示会や商談会への参加を通じて販売先を拡大しているほか、現在
では JICA 事業に採択され、ナイジェリアに社員を派遣して自社検査機を使用した点検技
術を指導するなど、海外での事業領域を着実に拡大しています。
■同社英語版ウェブサイト(同社 HP より)
■物流・商流のフロー
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中小企業でもできる
海外進出のポイント
海外進出
3
「日本酒輸出協会」設立による欧米での販路拡大
岩手県二戸市で清酒製造業を営む、株式会社南部美人(売上高5億円、従業員 30 人、
資本金 2,000 万円)は、南部杜氏の技術と、創業以来培ってきたノウハウを活かした清
酒メーカーであり、農商工連携により全麹仕込技術を活用した糖類無添加リキュール(製
造特許)を開発し、地域資源の果実を活用した低カロリーで甘すぎないリキュールを製造・
販売しています。
同社では国内市場縮小への対応策として、平成 9 年に海外への輸出に着手します。販売
に際しては、JETRO 専門家からのアドバイスを受けながら、海外輸出を志す酒造を集め、
「日本輸出協会」を立ち上げ、共同で流通・販路開拓を進め、現在では G7 主要国を始め、
香港、中国、アラブ首長国連邦、ドバイなど世界 24 か国へ清酒を中心にリキュール類も
併せて販売展開しており、世界最大規模のワイン品評会である、INTERNATIONAL Wine
CHALLENGE 2016 では本醸造部門で最高位である「トロフィー」を受賞するなど、各
所で大変高い評価を得ています。
■主力商品「南部美人」(同社 HP より)
■物流・商流のフロー
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