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日中産学官交流機構

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日中産学官交流機構
会報
日中産学官交流機構
2 0 0 6 年1月
Vo l .2 N o.2
1.挨拶
一層確かなものとする歴史的な発展であります。日本、
あけましておめでとうござ
日中産学官交流機構
副理事長
佐 藤 嘉 恭
います。当機構の日中協力
中国も招かれてこれに参加しました。アセアン諸国か
への取り組みは関係各位の
ら見ると、日中両国が東アジアの地域協力を巡って
弛みない努力により着実に
「覇権争い」をするのは止めてほしいとの心意気を示し
成果を上げて参りました。
たものと個人的には受け止めています。日中関係の熟
産学官交流は当機構のブラ
成がアジア地域の共同体意識の深まりを担保する原動
ンドであり、この一年もこれ
力でもあることを改めてこの歴史的発展の中に見出し、
に一層の磨きをかけて行く
時代が動いていることを強く感じている次第であります。
所存であります。何卒宜しく
私達日中産学官交流機構の活動もこうした新たな時
引き続きのご支援・ご鞭撻
代展開の一端を支えている活動と位置づけられると自
をお願い致します。
負するのであります。これまでの活動を回顧致します
さて、中国の目覚しい経済発展については多言を要
と、わずか1年という短期間に東京、北京において、都
しません。昨年末、中国国家統計局はGDPの大幅な
市創新、医学・ライフサイエンス、ロボット等の分野でフ
上方修正をし、イタリアを抜き世界6位に躍進したこと
ォーラム、シンポジウムを開催し、日中両国から多数の
を明らかにしています。人民元切り上げを視野に入れ
皆さんにご参加頂きましたが、質量ともに当初の想定
ると、その幅次第では世界第3位に踊りだすのもそう先
を大きく上回る成果をあげることができました。これら
の話ではないものと思われます。他方、昨年10月、中
分野における中国のレベルの高いことに感銘した次第
国共産党中央委員会が発表した「第十一期五カ年間国
でもあります。
民経済と社会発展計画の策定に関する勧告」は、成長
この機会に、これらのなかで都市創新分野の活動に
の質を重視し、経済能率の向上と社会公平との均衡を
つきその一端をご報告致します。即ち、中国国家発展
とるべき旨明記しました。3月初旬、定例の全国人民代
改革委員会では第11次5カ年計画策定において新たな
表大会が開催されますが、この勧告が指向する質重視
課題としてメガロポリスの形成に向けた作業を進めて
の安定成長についての審議内容が注目されます。
おりましたが、日本の知見・経験を提供してほしいとの
昨年12月マレーシアのクアラルンプールで開催され
提案があり、私達は都市創新部会の協力を得て東京、
た東アジアサミットはアセアンを中心とする地域協力を
北京等でフォーラム、ワークショップを繰り返し行い、議
論を積み重ねました。その成果は5カ年計画という最
目
次
1.挨拶 ・・・・・・・・・・・・・・・・1
も重要な政策の立案に生かされたと聞いております。
2.活動報告
大きな成果でありました。
日中産学官交流機構の活動を通して、日本側は中国
(1)日中経済ハイレベルフォーラム 2005・・2
の事情について理解を深め、学ぶことも多くあることを
(2)第3回日中産学官交流フォーラム ・・・・4
経験しております。産学官の幅広い視野に立って日中
(3)日中バイオマスフォーラム ・・・・・・・6
交流が展開されていくことにより、日中間の協力がさら
(4)第4回日中産学官交流フォーラム ・・・・7
に進展していくことを心から希望いたします。
3.会議報告
最後になりましたが、2006年における日中双方の関
(1)第3回理事会 ・・・・・・・・・・・・・9
係者のご多幸を心からお祈り申し上げます。
4.中国セミナー(第5回∼6回) ・・・・11
1
2.活動報告
(1)日中経済ハイレベルフォーラム 2005
厂
萬
日中産学官交流機構と北京大学光華管理学院と
今回のフォーラムのテーマである「日中協力と東
の共同主催により、2005年10月9日(日)、日中経済
アジアの経済発展」について、日中双方から記念講
ハイレベルフォーラムが北京大学光華管理学院多機
演が行なわれた後、(1)東アジア経済の更なる発展
能ホールにて開催された。
のために日中間でどのような相互依存体制と協力が
今回のフォーラムは、2004年(テーマ「金融改
可能か(2)中国の経済発展にボトルネックとなって
革と発展」)に引き続き開催されたもので、テーマ
は「日中協力と東アジアの経済発展」であり、日中
の広範囲な経済分野における産学官のトップが忌憚
のない意見交換を行った。
当フォーラムには、日本側から、団長として当
機構の福川理事長、特別顧問の千野前アジア開発銀
行総裁のほか、金融・証券界、事業会社、官界、学
陳昊蘇氏
界の各界を代表する有力者、日本国駐華大使館の
方々など、総勢60名が参加した。また、中国側から
は、厂
萬以寧北京大学光華管理学院名誉院長、胡徳平
千野忠男氏
全国工商連合会副主席、陳昊蘇対外友好協会会長、
張暁強国家発展改革委員会副主任のほか、日本と同
様、金融・証券界、全国工商界、官界、学界の有力
者など、総勢60名が参加し、日中合わせて約120名
の多数が参加した。
胡徳平氏
2
日中産学官交流機構
プログラム
いると思われる分野、すなわち金融システム、資本
開会挨拶・記念講演
厂
萬
以寧 北京大学光華管理学院名誉院長
福川 伸次 日中産学官交流機構理事長
陳 昊蘇 対外友好協会会長
千野 忠男 前アジア開発銀行総裁
胡 徳平 全国工商連合会副主席
市場の整備と国有企業改革、産業再生など、各セッ
ションごとに活発な議論が行なわれた(プログラム
参照)
。日本側から金融改革の経緯や経験談などの説
明があり、特に金融(銀行、証券、為替、保険)分
野での両国における協力強化や改革の可能性につい
セッション1 経済協力:
「日中経済相互依存の現状と展望」
コーディネーター:
単 忠東 北京大学光華管理学院
中国経済与WTO研究所長
張 暁強 国家発展改革委員会副主任
長谷川榮一 経済産業省通商政策局審議官
唐 双寧 中国銀行業監督管理委員会副主席
田中 修 内閣府参事官
曹 鳳岐 北京大学光華管理学院
学術委員会主席
進 和久 全日本空輸特別顧問
孟 暁蘇 中房集団董事長
周 牧之 東京経済大学助教授
て、中国側は大いに関心をもった。
フォーラム終了後、釣魚台國賓館において晩餐
会が行なわれ、中国共産党中央委員会総会期間中の
多忙のなか、劉華秋中国共産党中央外事弁公室主任
兼国務院外事弁公室主任、趙維臣中華国際科学交流
基金名誉理事長、陳元中国開発銀行行長など、中国
側の重要人物が出席された。
今回のフォーラムは、2004年に引き続き多大な
成果を収めることができた。
その成果の一つとして、
日中両国の経済、社会、文化、歴史を通じてバラン
セッション2-1 金融協力:
「国有企業改革と日本の金融経験」
コーディネーター:
田中 修 内閣府参事官
小手川大助 財務省関東財務局長
吉野 貞雄 東京証券取引所代表取締役専務
知原 信良 金融庁国際担当参事官
冨山 和彦 産業再生機構代表取締役専務
松本 大 マネックス・ビーンズ証券
代表取締役社長
高橋 亘 日本銀行国際局審議役
中園 壽二 レコフ取締役社長
スのとれた健全な発展こそ日中両国の持続的な成長
に必要であり、ひいては東アジアの共栄には不可欠
であることの認識が、日中双方に共有できたことで
ある。また、とりわけ東アジアにおける経済発展に
は、ますます日中両国の連携強化と協調が必要・不
可欠であることの認識も共有できたことである。そ
のためには、日中両国が建設的な問題解決型の方向
性をもった議論と、更なる交流を深める必要がある
との認識に達した。
セッション2-2 金融協力:
「中国の金融改革と経済発展」
コーディネーター:
曹 鳳岐 北京大学光華管理学院
学術委員会主席
林 毅夫 中華全国工商連合会副主席、
北京大中国経済研究中心主任
黄 湘平 中国証券業協会副会長 徐 林 国家発展改革委員会
発展計画司副司長
洪 崎 民生銀行副行長
金
諸 強 中国銀行行長助理
金金
王 保安 財政部総合司司長 巴 曙松 国務院発展研究中心
金融研究所副所長
張 季風 社会科学院日本研究所副研究員
孫 大午 大午集団創始者
おって後日、今回のフォーラムに関する記事が、
中国の金融・証券、銀行などの各業界紙や専門紙に
も大きく報ぜられた。
なお、フォーラム前日の8日(土)夕方には、当
機構と中国金杜法律事務所との共同主催により、人
民大会堂において訪中団の歓迎会および交流会が行
なわれた。先立って当日の午後には、同法律事務所
の見学も行なわれた。歓迎会では、主催者を代表し
て当機構から福川理事長、同法律事務所管理委員会
主席王俊峰氏からそれぞれ挨拶があり、次いで来賓
を代表して千野特別顧問からの挨拶があった。交流
会では、訪中団メンバーと同法律事務所が招待した
中国の金融界、工商界、企業界などの方々との間で、
閉会挨拶
呉 志攀 北京大学副学長兼北京大学
光華管理学院院長 広範な情報交換を行い、日中双方親睦を深めること
ができた。
(敬称略)
3
(2)第3回日中産学官交流フォーラム
「転換点に立つ中国経済と第11次五カ年計画」
■第3回日中産学官交流フォーラム
当機構では、2005年11月7日(月)に国際連合大
での経済政策を変え、内需重視、工業・サービス産
学にて、第3回日中産学官交流フォーラムを国際協力
業・農業がともに経済成長をけん引するパターンへ
銀行との共催で開催した。
「転換点に立つ中国経済と
のシフト、資源依存型から人的資本・技術進歩依存
第11次五カ年計画」をテーマとし、中国発展改革委
型へのシフト、資源の循環型利用を強調している。
員会発展計画司副司長徐林氏、北京大学中国経済研
中国で大きな課題となっている大都市圏の整備と
究中心教授周其仁氏、中華工商時報副編集長呂平波
三農問題への対処を、これまでの日本の政策と経験
氏を招いて、中国経済の現状分析と2006年度から始
から学び、第11次五ヵ年計画に活かしたいという中
まる第11次五カ年計画について日本側有識者と交流
国国家発展改革委員会からの要請を受け、当機構で
を行った。徐林氏は翌日帰国したが、周其仁教授、
は日本側の多くの有識経験者の助力を得て、2004年
呂平波氏はさらに11月9日に経団連会館で開催された
11月に東京にてフォーラムを開催した。それを受け
「中国経済研究会」にも出席し、フォーラムで尽くせ
て、2005年3月に東京で、さらに7月には北京で同委
なかった論議をさらに深めた。
員会と二度にわたり都市創新ワークショップを開催
中国は長期にわたる高度経済成長の結果、貿易総
し、忌憚のない意見交流を行ってきた。
額は世界ランクでも3位にまで上がり、いまや世界の
工場という評価を得るまでに至っている。国をあげ
て経済成長に邁進してきた中で一方では、農村と都
市の経済格差、地域格差、生態系と環境保護の分野
の悪化も顕著となり、公共教育、公共衛生等社会資
本の充実も指摘されている。特に都市への人口大移
動は、都市における住、医、教育等のインフラ不足、
1億を越える農民工の都市における生活保障等様々な
徐林氏
問題を起こしつつある。新五カ年計画では、これま
4
周牧之氏
日中産学官交流機構
今回のフォーラムは都合三回に及んだ交流の結果
プログラム
が新五カ年計画にどう反映されたかをみる興味深い
開会挨拶
ものであった。幸いにも日本側有識者からの論議の
福川 伸次 日中産学官交流機構理事長
対象となった項目は少なからず五カ年計画にも触れ
講演1
られており、これまでの交流の成功を裏付けるもの
「中国経済成長のパラダイムシフト」
周 牧之 東京経済大学助教授
となった。また今回のフォーラムが第11次五ヵ年計
講演2
画の意図を中国政府として対外的に初めて発表する
「第11次五カ年計画の背景と目的」
徐 林 中国国家発展改革委員会
場ともなったことは注目に値する。
発展計画司副司長
会場でメモを片手に熱心に聞き入る約250名の参
ディスカッション・セッション1
加者からは、鋭い質問も寄せられ、またフォーラム
「中国の経済発展の新たなステージ」
終了後多くの参加者から議事録の送付要請を受ける
コーデイネーター など好評であった。
周 牧之 東京経済大学助教授
パネリスト
星野 進保 総合研究開発機構特別研究員
■日中経済研究会
周 其仁 北京大学中国経済研究中心教授
当機構では、2005年11月9日(水)に経団連会館
田中 修 内閣府経済社会総合研究所
にて、日中経済研究会を開催した。
「転換点に立つ中
特別研究員
国経済と第11次五ヵ年計画」をテーマとし、11月7日
徐 林 中国国家発展改革委員会
のフォーラムで浮き彫りになった課題を掘り下げ議
発展計画司副司長
論した。
ディスカッション・セッション2
日本側から中国側に質問するという形で議論が進
「中国都市化が直面する課題と対策」
められ、中国側から中国における民営化の流れ、農
コーデイネーター
業分野において民営企業による中国光輝事業促進会
安斎 セブン銀行代表取締役社長
というプロジェクトが貧困地域を支援するという動
パネリスト
西沢 明 国土交通省国土計画局総務課
き、環境保護の具体的な事例、農民の都市への流入
国土情報整備室長
の中で発生した孫志剛事件がきっかけとなり農民工
呂 平波 中華工商時報副編集長
の一方的な農村への送還が禁止されたこと、また農
福川 伸次 日中産学官交流機構理事長
民工が惹き起こす都市での治安問題、バブルとも言
徐 林 中国国家発展改革委員会
われる土地開発と住宅建設の動向、社会保障制度が
発展計画司副司長
農民工には不利な制度になっていることなど、具体
閉会挨拶
的事例のなかで、中国が抱えている問題が説明され
保田 博 日中産学官交流機構副理事長
た。
(敬称略)
従来、指令的な計画であった五カ年計画が、第11
次に至っては展望的な要素が取り入れられた背景と
して、第10次五ヵ年計画に過剰であり新規開発の必
要性はないと判断された電力が、期間中電力不足に
陥った失敗例が示され、今では、五カ年計画が展望
的な意見・交流の場となり、徐々にそのメカニズム
が変わってきている様子が紹介された。
研究会は、変わりつつある中国の現状を浮き彫り
にし、今後の交流の糸口を探るいい機会であった。
5
(3)日中バイオマスフォーラム
主な出席者(敬称略)
2005年11月15日(火)北京新大都飯店にて、日
中バイオマスフォーラムを開催した。当フォーラム
日本側
は日本の省庁連合の取り組みであるバイオマス・ニ
藤本 潔 農林水産省大臣官房環境政策課長
ッポン総合戦略にのっとり、これをさらにアジア諸
新井 毅 農林水産省大臣官房環境政策課
資源循環室
国との連携を深めていくために、日中の間でバイオ
横山 伸也 東京大学大学院
マス利活用のあり方についての意見を交換すること
農学生命科学研究科教授
によって、両国の持続的なバイオマスの技術開発や
松村 幸彦 広島大学助教授
利活用ノウハウの交換を目的として開催された。
坂西 欣也 産業技術総合研究所
日本側は農林水産省、中国側は環境保護総局を
バイオマス研究センター長
主催とし、当機構と産業技術総合研究所が共催し、
尾暮 敏範 トヨタ自動車バイオ緑化事業部
協賛として日本有機資源協会、
東大総研が加わった。
担当部長
機構からは、会員を代表してトヨタ自動車バイオ緑
芦沢 正美 電力中央研究所エネルギー技術
化事業部尾暮敏範氏、高橋和志氏、日清製粉営業部
研究所バイオマス重点課題責任者
長谷川清氏、機構幹事の中井徳太郎氏、機構事務局
長谷川 清 日清製粉営業本部
から柳瀬と坂田が参加した。また、機構からの要請
エコチームマネジャー
にて電力中央研究所芦沢正美氏にご参加いただい
中国側
た。
本フォーラムには、日中双方で100名以上のバイ
趙 英民 環境保護総局科技標準司長
オマス専門家が集まり、終日かけて熱心な討議が行
李 遠 環境保護総局生態司副司長
われた。
李 宝山 科技部高新技術産業化司
エネルギー資源・交通処長
趙 立欣 農業部能源環境技術開発中心
任 官平 中国環境科学学会事務局長
倪 維斗 清華大学教授
王 革華 清華大学原子力新能源資源
研究院副院長
6
日中産学官交流機構
(4)第4回日中産学官交流フォーラム「ロボットの未来と日中交流」
日中産学官交流機構は2005年12月1日、2日の両
プログラム 1日目
日、東京大学山上会館大会議室にて、第4回日中産
学官交流フォーラム「ロボットの未来と日中交流」
開会挨拶
を開催した。参加者は121名であった。
福川 伸次 機械産業記念事業財団会長
(機構理事長)
本フォーラム開催にあたっては、産業技術総合
阮 湘平 中国駐日本国大使館参事官
研究所、科学技術振興機構、情報通信研究機構との
特別講演
共催の形態をとり、かつトヨタ自動車、日立製作所
王 越超 科学院瀋陽自動化研究所長
の協賛をいただいた。さらに、総務省、外務省、文
T. J. Tarn
部科学省、経済産業省の各省、日本ロボット工業会、
ワシントン大学セントルイス校教授
石正 茂 科 学 技 術 振 興 機 構 研 究 開 発 戦 略
センター情報通信グループフェロー
製造科学技術センター、日本ロボット学会、日本華
平井 成興 産業技術総合研究所
人教授会議、在日中国科学技術者連盟、留日学人站
知能システム研究部門長
の各団体にはご後援をいただいた。
松島 裕一 情報通信研究機構情報通信部門長 本フォーラムでは、福川理事長、駐日中国大使
高木 宗谷 トヨタ自動車パートナーロボット
館阮参事官のご挨拶に続き、日中双方の特別講演を
開発部長
挨拶
いただいたあと、吉川特別顧問(産業技術総合研究
吉川 弘之 産業総合研究所理事長
所理事長)のご挨拶、メンテナンスロボット・極限
(機構特別顧問)
作業ロボット、ホームサービスロボット、産業協力、
一般講演
基礎技術の4セッションから各4名の講演をいただい
セッション1:
た。その後、各セッションに分かれ今後の日中交流
メンテナンスロボット・極限作業ロボット
の方向性についての討議を行った。最後に各セッシ
座長 王 志東 東北大学助教授
松日楽信人 東 芝 研 究 開 発 セ ン タ ー
ョンの討議報告を行い、東京大学佐藤教授、立命館
研究主幹
大学馬教授の司会により、総合討論とまとめを行っ
査 紅彬 北京大学情報科学技術
た。二日間にわたり、日中のロボット研究者が一堂
学院副院長
に会し、ロボット研究の現状と今後の交流の展望に
田所 諭 東北大学大学院
情報科学研究科教授
ついて、熱心な討議が行われた。
韓 建達 科学院瀋陽自動化研究所研究員
また、1日目終了後参加者によるレセプションを
柳原 好孝 東急建設技術研究所
行い、当機構の有馬最高顧問にご挨拶をいただいた。
メカトロ研究室室長
レセプションは日中のロボット研究者の交流会とし
譚 民 科学院北京自動化研究所副所長
て、大変な盛り上がりを見せた。
セッション2:ホームサービスロボット
座長 黄 強 北京理工大学教授
佐藤 知正 東京大学大学院教授
余 永 鹿児島大学助教授
王 田苗 北京航空航天大学教授
東條 直人 三洋電機ヒューマン
エコロジー研究所課長
黄 強 (上記)
見持 圭一 三菱重工業先進技術研究センター
先進技術・電子グループ長
(敬称略)
7
このような専門家の集まる国際会議を、日本語
プログラム 2日目
を公用語として行ったという点も画期的で、日本留
学あるいは在日の中国人研究者を通じて研究者のネ
セッション3:産業協力
ットワークを拡げていったことも、今後の日中交流
座長 馬 書根 立命館大学
COE推進機構教授
を考える上でも、ひとつの模範となりうる実績であ
内山 隆 富士通研究所取締役
ったと考えられる。さらに、従来の英語、日中二カ
星野 修二 石川島播磨重工業技監
国語同時通訳などを使用する会議ではカバーできな
曲 道奎 新松機器人自動化股 かった、きめ細かい理解を深めることができたもの
有限公司総経理
と考えている。
武田 幸雄 富士通研究開発中心
有限公司(FRDC)総経理
なお、ロボットの研究交流は、機構設立以降約1
曲 道奎 (上記)
年間にわたり、機構の取り組む重点テーマのひとつ
星野 修二 (上記)
として、活動を展開してきた。本交流フォーラム開
馬 書根 (上記)
催に向けて、アドバイザリーボード、組織委員会、
プログラム委員会の運営体制を構成し、多くの方々
セッション4:基礎技術
の意見を集めてきた。
座長 劉 云輝 香港中文大教授
橋本 周司 早稲田大学教授
ロボット研究交流を今後どのように展開すべき
王 碩玉 高知工科大教授
か、これからの議論が待たれている。
張 勁松 国際電気通信基礎技術
研究所専任研究員
劉 云輝 (上記)
高西 淳夫 早稲田大学教授
梶谷 誠 信州大学監事
パネルディスカッション(セッション毎の分科会)
総合討論とまとめ
阮湘平氏
司会 佐藤 知正 東京大学大学院教授
王越超氏
馬 書根 立命館大学
COE推進機構教授
閉会挨拶
保田 博 関西電力顧問
(機構副理事長)
(敬称略)
T. J. Tarn氏
吉川弘之氏
王田苗氏
有馬朗人氏
8
日中産学官交流機構
3.会議報告
(1)第3回理事会
3.その他の分野
(1)中国共産党中央党校李君如氏講演会
7月19日(火)
、政策研究大学院大学想海楼ホール
にて実施。
参加者:100名余(前会報にて詳報のため省略)
(2)日中経済ハイレベルフォーラム 2005
(本会報にて詳報のため省略)
(3)中国セミナー(前会報、本会報にて詳報のため省略)
Ⅱ.調査研究事業
1.受託調査
(1)
「環境・資源・エネルギー問題への日中間での共同
対処策に関する研究」
日本海学推進機構より受託 300万円
(2)
「中国の経済発展と沿海部大都市インフラ研究会」
国際協力銀行より受託 1,000万円
(都市創新に関わる日中産学官フォーラム
(第3回、第5回)を実施)
2.その他
中国の科学技術動向、等の把握のために、定常的
な情報収集実施。
第3回理事会を2005年11月18日(金)午前10時か
ら九段ビル会議室にて開催した。理事会には千速会
長、福川理事長、佐藤副理事長、保田副理事長、青
山理事、興理事、桐野理事、白井(太)理事、有山
監事、森特別顧問が出席された。また、石原、金井、
佐々木、張、前田各理事が代理出席、他の理事は委
任状にての出席となった。代理出席、委任状出席を
含め、書類上は理事全員が出席した。
議事は福川理事長のご挨拶の後、事務局より本
年度の中間事業報告、中間決算報告、及び年度内の
事業計画、決算見込みを説明し、全議案に対し満場
一致の承諾を頂いた。
議事の内容は以下の通りである。
Ⅲ.普及啓発事業
1.会報1号発行(9月)
2.ホームページ立ち上げ(7月)
http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/
●第2号議案 平成17年度中間決算(平成17年
(単位万円)
4月1日∼9月30日)
収入1,792
会費収入1,492 (団体会員1450 個人会員42)
事業費収入300(受託調査300)
支出1,453
特定事業費328、一般事業費43、旅費交通費159、
広報費15、翻訳費8、調査費41、会議費24、
交際費16、人件費558、賃借料105、通信光熱費41、
事務機材費99、雑費15
収支差額339
●第1号議案 平成17年度中間事業報告
(11月までの実施分)
Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業
1.都市創新分野
(1)第2回都市創新ワークショップ
7月23日(土)∼24日(日)北京職工之家にて
実施。参加者は日中あわせて約100名。
(前会報にて詳報のため省略)
(2)第3回日中産学官交流フォーラム
「転換点に立つ中国経済と第11次五カ年計画」
(本会報にて詳報のため省略)
2.環境・農業分野
(1)中国の食品の安全性に関するセミナー
5月26日(木)九段ビル会議室にて実施。
参加者:36名(前会報にて詳報のため省略)
(本会報にて詳報のため省略)
(2)日中バイオマスフォーラム
●第3号議案 平成17年度今後の事業計画
(12月以降)
Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業
1.ロボット研究分野
(1)第4回日中産学官交流フォーラム「ロボットの未来
と日中交流」
(本会報にて詳報のため省略)
9
Ⅱ.調査・研究事業
1.調査受託
(1)東アジア農業政策協力国際検討会
農林漁業金融公庫からの受託 300万円
(検討会実施及び報告費用に充当
(2)中国沿海部大都市インフラ状況調査
国際協力銀行からの受託 1,000万円
(海外投融資財団への委託により実施)
(3)
「環境・資源・エネルギー問題への日中間での共同
対処策に関する研究」
日本海学推進機構からの受託 300万円
(上半期から継続)
2.その他
中国の科学技術動向、等の把握のために、定常的な
情報収集実施。
2.医学・ライフサイエンス分野
(1)第5回日中産学官交流フォーラム「日中における
医療の現状と展望」― 日中の共通疾病の現状と
挑戦 ―「がん」
「糖尿病」
「高血圧」
「鳥インフルエンザ」
「SARS」
「HIV」
「漢方」など
主催:日中産学官交流機構
後援:文部科学省、厚生労働省、東京大学医科学研究所、
国立国際医療センター、他
協賛:民間企業各社、政府資金
日程:2006年2月中旬又は3月初旬(予定)
場所:国際連合大学 ウ・タント国際会議場または
東京大学山上会館大会議室
(レセプションを含む)
3.都市創新分野
(1)第6回日中産学官交流フォーラム「急成長する中国
のメガロポリスと東アジアの未来」
主催:日中産学官交流機構
共催:国際協力銀行
日程:3月中旬
プログラム:
セッション1「中国のメガロポリス登場の衝撃」
セッション2「メガイベントを活かす大都市の発展」
セッション3「メガロポリス交通システムの構築」
セッション4「メガロポリスと東アジアネットワークの強化」
(国際協力銀行「中国の経済発展と沿海部大都市
インフラ研究会」委託実施)
4.環境・農業分野
(1)東アジア農業政策協力国際検討会
(日中韓3国農政会議)
主催:中国人民大学、東京大学、世界農業研究院
協賛:日中産学官交流機構
日程:2005年12月11日∼12日
場所:中国人民大学逸夫会議センター第一会議室
(2)三農問題に関する政策シンポジウム
実現可能性を継続して検討する。
(3)農村における再生エネルギープロジェクト
日中バイオマスフォーラムを実施し、以後の展開は
別途検討する。
農業部バイオマス担当部門を日本に招請する。
5.知的財産権分野
年度内は中国セミナーにて知財権を取り上げる
6.エネルギー・環境分野
現在、発展改革委員会のエネルギー部門と取り組み
テーマの話し合いを模索
7.その他の分野
(1)中国セミナー
第7回12月14日(水)
天児 慧 氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)
「日中関係の現段階と今後の展望 ― 台頭する
中国、反日・反中問題を如何に考えるか ― 」
第8回∼第10回 1月∼3月
知財権、産業集積、社会保障、等の分野から講師
を選定し、実施する。
Ⅲ.普及啓発事業
会報2号(1月)、3号(4月)発行
●第4号議案 平成17年度決算見込み(単位万円)
収入 6,980
会費収入1,850(団体会員1800、個人会員50)
事業費収入5,130(調査受託1,600、業務受託1,000、
協賛金2,530)
支出 6,980
特定事業費5,080(都市創新第2回WS330、第3回フォ
ーラム620、第4回フォーラム450、第5回フォーラム350、
第6回フォーラム500、東アジア農業政策検討会300、
環境・資源・エネルギー問題……研究300、ハイレベ
ルフォーラム1,730、中国沿海部大都市インフラ状況調
査500)
一般事業費90、旅費交通費200、広報費45、翻訳費
15、調査費80、会議費50、交際費30、人件費900、賃
借料210、通信光熱費80、事務機材費170、雑費30
●報告1 会員の状況
団体会員 21団体32口、個人会員 63名
(団体会員名は省略)
●報告2 特別顧問等の委嘱
千野忠男氏(野村総研顧問、前アジア開発銀行総裁)
に特別顧問を委嘱した。
岩田隆次氏(ロックフィールド・インターナショナル代表
取締役)
、黄楓氏(電通集団、上海東派広告有限公司
会長)
、周牧之氏(東京経済大学助教授)にスペシャ
ルアドバイザーを委嘱した。
田中修氏に特別研究員を委嘱した。
(スペシャルアドバイザー、特別研究員については規定
がないため、来年度の総会にて、定款上に定めるこ
ととする。
)
10
日中産学官交流機構
4.中国セミナー(第5回∼6回)
■第5回中国セミナー
メガロポリスの成長要因を分析してみますと、上
第5回中国セミナーを9月14日(水)に九段ビル会
議室にて実施しました。講師には周牧之氏(東京経
海を中心とする長江デルタ(Yangtze River Delta)
済大学助教授)をお招きし、
「中国におけるメガロポ
と、香港・広州を中心とする珠江デルタ(Pearl
リスの形成と経済成長モデル」とのテーマでご講演
River Delta) と い う 二 つ の デ ル タ 地 域 は 中 国 の
いただきました。第11次5カ年計画を策定中の中国政
GDPの3割を占めています。恐らく10年以内に5割を
策策定者に助言を呈し続ける同氏の、中国の経済成
超えるのではないかと思います。輸出についても
長を支える経済、社会的背景と経済成長がもたらし
69%がこの二つの地域に集約しています。中国の輸
た問題を明快に整理されたもので、多くの参加者の
出の55%は外資がやっていますが、その外資の輸出
熱い質問を集める興味深いものでした。参加者は24
の75%がこの二つの地域に集中しています。さらに
名。ご講演の概要は以下の通りです。
化学、鉄鋼、電気機械、輸送機械等の産業はこの二
つの地域への集約が顕著です。
中国は25年もの間、平均9%を超える成長率を実
二つのデルタ地域に、複数の大都市に跨る巨大な
現し、世界から注目を集めています。持続的な高度
成長は、中国を二十数年前の閉鎖的な貧困国家から、
都市空間が形成されつつあります。これがいわゆる
いまや米国、ドイツに次ぐ世界第三位の貿易大国に
メガロポリス(Megalopolis)です。長江デルタ、珠
変貌させました。
江デルタの両メガロポリスは、高度な交易・交流機
能、都市機能を持って、中国の「世界の工場」化を
政府の厳しい景気引き締め政策にもかかわらず、
中国の経済は2005年も成長率が9%を超える好景気で
支えると同時に、巨大規模かつ成長力のある市場を
す。高度成長の結果、昨年は、3億トンもの鋼材が中
生み出しています。
国市場で消費されました。このため鋼材の値段が一
ふたつのメガロポリスを急成長させた要因として
日に3回も上がる時期もありました。石油化学素材、
まず挙げられるのは、巨大な産業集積の形成です。
建設用素材もしかりです。エネルギーに関しては深
この産業集積はいま、上海を中心とする長江デルタ
刻な電力不足の危機に陥りました。
と、香港、広州、深_を中心とする珠江デルタの、二
何故引き締め政策を行っても、過熱といえる程経
つのデルタ地域に張り付いています。この巨大な産
済成長が引き続くのかというと、二つの面があると
業集積は、一国の壁を越え世界的に展開する工業生
思います。一つは、長江デルタ、珠江デルタにおい
産のビジネスモデルの普及によって出てきた、新し
て二つの巨大な産業集積ができ、さらに背後にメガ
い産業集積のパターンです。私はそれをグローバル
ロポリスが大きな空間を形成していたという経済の
サプライチェーン型産業集積と呼んでいます。中国
エンジンがあることです。このエンジンは止めよう
のこのグローバルサプライチェーン型産業集積は、
としてもどんどん成長していきます。
かつて東京湾にあったフルセット型産業集積とは性
格が違います。そこは認識する必要があります。ア
二つ目は、地方間の競争です。この二十数年間、
この二つのエンジン以外の地域も無理して成長を求め
メリカのシリコンバレー、台湾の新竹、インドのバ
てきたことです。成長条件のよくない地方が無理して全
ンガロール、中国では北京の中関村と長江デルタ、
てのソースを経済成長に投入する、土地が公有制であ
珠江デルタなど多種多様な産業集積が、新たに作ら
ることから農民から安く買い上げ、切り売りして儲け、
れたグローバルサプライチェーン型産業集積です。
フルセット型ではない中国の産業集積は、東京の
それを経済成長につぎ込む、こういう無理やりの経
集積との連携、あるいはシリコンバレーの集積との
済成長の結果、過熱が起きているわけです。
11
連携などが、非常に重視される形で発展してきまし
な深水港を大小洋山に建設しています。寧波港の拡
た。そのような産業経済のあり方を支えているのは
張、杭州湾の開発も急ピッチで進められています。
メガロポリスの成長を支える三つ目の要因は世界
急速な広域インフラ整備です。
グローバルサプライチェーンは企業に厳しい要求
資源の大規模利用です。中国では1949年の建国から
を突きつけます。これは生産の低コストだけではな
78年までの重化学工業化時代には、戦争がいつでも
く、物流の低コスト、在庫の低コスト、スピード、
起こりうる緊迫した国際情勢が存在していました。
そして高度な専門性とフレキシブルな対応体制など
そのために、中国工業化は国内資源をベースとした
も含みます。例えば、世界的なサプライチェーン構
資源立地の政策を採ってきました。当時、ほとんど
築に当たって、在庫コストの削減も重要です。在庫
の重化学産業は内陸部に立地していました。
コストは完成品全体のコストの30%∼40%を占める
しかし現在、長江デルタ地域、珠江デルタ地域を
からです。つまり、今日の競争のカギは、ただ単に
中心に、世界資源の大規模利用は急速に進んでいま
製品の品質と価格だけにあるのではありません。サ
す。例えば、2004年に2億9百万トンの鉄鉱石を中国
プライチェーンが迅速かつ効率的に動くことが重要
は輸入しました。石油の輸入も近年急増し、2004年
です。
には前年比で3割増の1億2千万トンを超える石油を海
中国の急速な工業化を支えるもう一つの大きな要
外から輸入しました。輸入資源をてこに、長江デル
因は、グローバルサプライチェーンの動きを効率よ
タ地域と珠江デルタ地域では、現在急速な重化学工
くサポートする広域インフラの存在です。二十数年
業化が進んでいます。現在、輸入資源をベースとし
前には近代的な産業活動を支えるインフラがほとん
た製鉄所、石油精製所、石油化学コンビナート、火
どなかった中国が、インフラ整備をハイスピードで
力発電所等の素材・エネルギー基地は両デルタ地域
進めています。
に数多く計画・建設されています。大規模な世界資
源の利用は二つのデルタ地域に経済効率をもたらし
1988年に中国で初めての高速道路が開通して以来、
ています。
高速道路の整備は急速に進められてきました。2004
年には3万キロの高速道路網が建設されました。中国
20数年にわたる急速な経済発展によって、中国は
政府の計画では2020年までに7万キロの高速道路網の
巨大な工業生産力を有し、世界経済に大きな影響力
整備する計画を掲げています。
を持つ国となりました。長期にわたる高度経済成長
が中国の国力と市民生活レベルを大幅に向上させた
港湾、空港の整備も二つのメガロポリスを中心に
急ピッチで進んでいます。4000
ことは疑う余地もありません。とはいえ、この間中
級の滑走路を持つ
大空港が多数作られています。珠江デルタには現在、
国経済の高成長を支えた発展モデル上に見え隠れし
香港、澳門、広州、深_、珠海という5つの大型空港
ていた問題点も、次第に突出してきました。
去年の夏、江蘇省の李源朝書記長が同省の高級幹
が、また長江デルタには上海浦東、上海虹橋、南京、
杭州、寧波という5つの大型空港が整備されていま
部200名を集め、中央政府政策責任者3名と私が講師
す。
として呼ばれて高度経済成長がもたらした諸問題に
中国のコンテナ港の躍進ぶりも、目を見張るもの
ついて議論する会議がありました。私はその時、中
があります。上海港はコンテナ取り扱い量において
国の経済は転換期に入っており経済成長モデルその
1980年の世界164位から2003年には3位へ、香港港は
ものを見直さねばならないという講演を半日掛けて
同3位から1位に踊り出ました。新設の深_港も第4位
行いました。
です。珠江デルタには香港港、深_港以外に、広州南
土地問題では、「開発区」の名のもとに大規模に
沙港をはじめとする新たな港湾整備が進められてい
行われた「土地の囲い込み運動」により、全国で数
ます。長江デルタでは長江入り江の航路を浚渫し、
万平方キロ
上海港、そして長江沿岸港湾群の能力増強を図ると
農民たちが土地も職も社会保障もない「三無農民」
同時に、大型コンテナ船に対応するために、大規模
へと追い込まれています。都市化においては、億単
12
の農地が破壊され、数千万人にも及ぶ
日中産学官交流機構
位の「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者が農村と都
途上国の環境問題について、大気・水汚染、酸性
市との間をさ迷い続けており、出稼ぎ労働者第一世
雨、森林破壊、砂漠化問題などの原因を考えますと、
代が都市で十数年にわたり奮闘努力の生活を続けて
結局は貧困と急速な工業発展に行きつきます。貧困
いるものの、いまだ彼らは都市住民として認められ
が原因であれば、貧困をなくし、途上国の経済発展
ていません。所得問題でも、中国の農民と一般労働
を図ることが、中国をはじめ発展途上国の環境問題
者の収入は、各々長期高速度経済成長に見合う程に
の解決につながることになります。それでは、GDP
は向上していません。社会の基礎を形作るこうした
で示される豊かさが実現できると環境問題が解決す
人々が経済成長の恩恵を十分に受けないままでいま
るかというと、これまでの先進国の過去のデータを
す。
みますと逆になっています。すなわちGDPが増える
に従ってCO2排出量が増加し、環境汚染が悪化しま
地域格差問題では、地域間の不均衡発展はますま
す顕著となり、沿海メガロポリスの猛烈な発展と相
す。ただ、ヨーロッパの環境先進国、スエーデン、
反して、内陸、とりわけ大都市から遠く離れた地方
フランスではGDPが増えるに従ってCO2発生量がむ
は、人口流失、産業衰退の現象が日ごとに深刻さを
しろ減少し、環境が浄化される傾向が見られます。
増しています。
それは豊かになるに従い、省エネルギー技術が投入
中国は今まさに経済発展モデルを見直す時期に来
され、市民の意識とか環境意識が高まっているのが
ています。そのためには二種類の課題への取り組み
原因であろうと思われます。したがって中国、イン
を急ぐ必要があります。一つは、経済成長の恩恵を
ド、インドネシア等の大人口国が工業先進国と同じ
社会の各階層、各地域へと行き届かせ社会の安定を
パターンで豊かになっていくと考えますと、一人当
図ると同時に、中国経済成長を輸出主導型から内需
たりのGDPが10,000ドルにまでなれば環境浄化の動
主導型へと変貌させることです。もう一つはメガロ
きがでてくると予想されるわけですが、それに至る
ポリスというエンジンの持続発展に関する課題です。
までどれだけCO2が排出されるかということが問題
メガロポリスの成長が続けば、そこから生み出され
になります。インドの場合、現在だいたい一人あた
る高い効率と収益とが中国の発展を突き動かし、経
りのCO2排出量は200kgくらいですからGDP10000ド
済発展プロセスで生じる矛盾と問題との解決が可能
ルに到達した時点でその10倍の2,000kgになります。
です。しかしメガロポリスの持続的発展自体が極め
人口の多い国が先進国並みのCO2を排出することに
て困難な挑戦です。
なりこれは完全に地球の環境受容能力を超えてしま
うことになります。しかし途上国には豊かになる権
■第6回中国セミナー
利があります。解決策としては途上国がトンネル・
第6回中国セミナーを10月26日(水)に九段ビル
ルートを辿る以外には無いと考えます。すなわち環
会議室にて実施しました。講師には定方正毅氏(工
境汚染なき経済発展を辿って豊かになるルートしか
学院大学教授)をお招きし、
「中国の環境問題に取り
ないだろうと思います。
組む」と題し、同氏の中国におけるユニークな環境
私の好きな小話があります。椰子の葉陰で昼寝を
改善活動についてのご講演をいただきました。参加
する地上国の青年にビジネスマン風のアメリカ人が
者は22名。ご講演の概要は以下の通りです。
声をかけました。
「青年、そんなところで寝ていない
私は元々石炭の燃焼に伴う汚染物質を除去する技
でいい仕事があるぜ」「どんな仕事をするの?」「一
術の開発研究を行ってきました。中国を始めて訪問
日に何ドルも稼げる仕事さ」
「ふーん、稼いでどうす
したのは1986年でした。所属しております化学工学
るの?」「お金をためれば南洋の島にバカンスに行
会からの中国環境技術視察団の一員としての訪中で
き、椰子の葉陰でゆっくり昼寝を楽しめるよ」
「そん
した。この時、中国のすさまじい環境汚染をまのあ
なことなら今でもしているよ!」。
この話は豊かさとは何かということを考えさせて
たりにして、これからは中国の環境問題に取り組も
くれます。将来途上国がトンネル・ルートを辿ると
うと決意した次第です。
13
しますと、先進国の方はGDP上昇にしたがって環境
では現在環境産業を育てようと政府も相当力を入れ
浄化が進むと予想されますから、途上国と先進国の
ております。脱硫装置でも10年前は三菱重工が納入
到達点は近づくと考えられます。発展途上国が有し
した1機だけでしたが現在30-50機計画されていま
ている豊かな自然と調和できる社会が双方の到達点
す。脱硫装置のメーカーも中国では20以上設立され
になるのではないかと思います。
ています。これに対して日本では5∼6社です。
CO2を原料として水・太陽などの自然エネルギー
それでは経済発展に一番必要な条件は何かといい
ますと、ロバート・ソロ−というノーベル経済学賞
を使う産業で古典的でかつ重要な産業は農業です。
を受賞した学者が、アメリカのこれまでの経済発展
中国の現政府は農民、農村、農業のいわゆる三農問
の詳細なデータを分析した結果、最終的に必要条件
題を重視する政策を取っています。中国の人口の7割
として残ったのは、技術進歩であると結論しており
を占める農村と都市の収入格差は拡大するばかりで、
ます。一見技術進歩は短期的には経済発展に関係が
これを放置しておくと農民の反乱に繋がる可能性が
ないように見えますが、長期的には技術進歩がなけ
あります。これを防ぐために農業の発展を促すこと
れば経済発展はないということです。したがって技
が必要で、これによって環境問題が解決され経済成
術進歩こそが途上国の経済発展のために求められて
長に寄与することになると思います。以下それに関
いると思います。
連してとして私どもが行ってきた研究の一部をご紹
介します。一つは脱硫とアルカリ土壌改良の研究、
それでは先程のトンネル・ルートを実現するため
二つ目は乾式脱硫装置の開発研究です。
にはどんな技術、産業が必要かということですが、
中国の重要な環境問題は大気汚染と砂漠化です。
まず、炭酸ガスを原料として、自然エネルギーを主
たるエネルギー源として用いる産業です。CO2を吸
それはいずれも食糧問題につながるからです。7・8
収し、自然エネルギーを使うことで、環境汚染無き
年前に中国は一時トウモロコシの輸出国から輸入国
経済発展につながる産業を発展させるということで
に転じました。中国の都市部では非常に豊かになり
す。
大量の肉を消費するようになっています。牛肉1kg
次に生産型環境技術、つまり儲かる環境技術
です。従来の環境技術は設置すればコストに跳ね返
つくるのに大豆などの穀物を7∼8kg必要ですから、
って後ろ向きの投資になる場合が大部分でした。こ
今後中国では穀物が不足してくる可能性があります。
れでは途上国で受け入れ難い。むしろ環境技術を設
中国が大量に食糧を輸入するようになると日本に食
置することによって利益があがるという技術が欲し
糧は回ってきません。大気汚染による酸性雨によっ
い。これは難しい課題ですが、実現できればインド
て食糧生産にダメージを与えます。砂漠化も同様で
でも中国でも間違いなく普及します。
す。この両方の環境問題を同時に解決する方法は無
いだろうかということを考えました。
三番目は環境産業です。これは環境汚染を防止す
中国の東北部にある瀋陽からさらに北へ車で3時
る機器あるいは、製品を生産する産業のことです。
環境産業そのものが大きくなることによって、環境
間の康平県にある湖は2001年には水を満々と湛えて
浄化と経済発展につながることになります。問題は
いましたが、3年後には水溜りしかなく広大な湖が砂
実際にこのようなことが可能かどうかということで
漠になっていました。このように中国の東北部では
す。私は最近5年間にわたって慶応大学の経済の研究
砂漠化が急速に進んでいます。内蒙古でも同じよう
者たちと中国の発電所、工場に脱硫装置を導入した
に土壌がアルカリ化し、ナトリウムの集積土壌にな
場合、経済にどういう影響を与えるか、大気汚染に
っています。土壌はコンクリートのように固くなり、
どう影響を与えるかの共同研究を行いました。その
砂漠化の一歩手前の状態です。一旦砂漠化した土地
結果、脱硫装置を設置するとGDPが約3%伸び、SOX
を元に戻すには非常な時間と金がかかります。そこ
が8%、CO2も減少するということでした。さらに55
で砂漠化一歩手前のアルカリ土壌を改造することを
万haの土壌改良が可能となり、大気汚染による病人
考えました。電中研の新田先生と東大農学部(当時)
発生率が20%減るという結果がでております。中国
の松本聡先生との討論の中で硫黄酸化物を防止する
14
ための脱硫装置を設置するとその副産物として湿式
プラントを建設しました。日本の脱硫装置をそのま
石灰石膏法で石膏が得られ、これがアルカリ土壌に
ま中国に持ち込んでもコストなどの面で普及しない
非常に有効であろうということがわかりました。そ
という問題があります。湿式石灰石膏法だと減価償
こで実際に電中研の我孫子研究所でテストを実施し
却の年数を10年で計算しても設備費が2億円、運転資
たところ予想以上の結果が得られました。最初、中
金が0.8億円掛かりますが、簡易式であれば1/3∼1/4
国から送ってもらった土壌に種を蒔いたのですが6週
です。一方、中国ではSoxの排出には1Kgあたり2∼
間経っても全く発芽しない。そこで石膏を0.5%撒き
3円の罰金が科せられてきました。これが中国の経済
ますと正常な発芽成長が見られました。1997年に、
発展に伴い非常に厳しくなりつつあり、4∼5倍の罰
中国の瀋陽市郊外の康平県でアルカリ化した土壌100
金が科せられるようになりました。3円の5倍ですと
平米に、さらに翌年は1ヘクタールの土地に脱硫石
15円です。一方設備費は1Kgあたり40円かかります
膏1%を撒きました。この実験を6年継続した結果、
がコストが1/3になれば罰金を払うよりは得になりま
一度石膏を撒けば、6年間は効果が持続することも確
す。この1号機に続いて、2号機は南寧市の非鉄金属
認しました。その後現地の農民の方たちが自主的に
の工場に設置され、南寧市から発生するSO2排出量
改良された土地で栽培を続けて下さった結果、今で
を1/3減らすことが出来ました。
は豊かな土地に戻り、収穫による利益が4倍になった
さらに、水の不足している中国に適合する新しい
との事でした。試しに450MWの発電所に脱硫装置を
脱硫装置の開発を基礎研究は東大で、パイロットプ
つけた場合、そこで得られる石膏でどれくらいの面
ラント研究は清華大学で実施しました。近い将来商
積が改良できるか計算してみました。脱硫石膏で毎
用1号機を建設したいと考えています。
年6,000ヘクタール改良できるとして10年間では
アルカリ土壌の改善や、脱硫装置開発の仕事を通
60,000ヘクタール。これはだいたい農民55,000人分の
じて学んだことは、中国での仕事が成功するかどう
農地が作れるという計算です。
かは、一緒に仕事をする中国の人たちとの強い信頼
関係がつくれるかどうかにかかっているということ
次に瀋陽から内モンゴルに場所を移して、清華大
です。
学の徐旭常教授と共同でアルカリ土壌の研究を行い
以上で私の講演を終わらせていただきます。有難
ました。ここは過去100年間作物が採れたことがない
うございました。
という完全に不毛化したアルカリ土壌でしたが、こ
こでも目覚しい効果がありました。現在、上記2カ所
も含めて中国内の計5カ所で実験を実施しています。
黄河流域の内モンゴル農業大学では、農地約700ヘク
タールを借り北京の発電所から持ち込んだ石膏を撒
いたところ、牧草が一面に生えました。この牧草を
利用し酪農を行いミルクをつくることができます。
現在内モンゴルで3年以内に500万kwの発電所が建設
される計画があり、そこからは年間60万トンの石膏
がでます。石膏は1年撒けば、7∼8年有効ですから、
7年撒き続けると東京都の面積2,000km2相当するア
ルカリ土壌を牧草地に変えることができると計算で
きます。
中国環境に関連したもう一つの研究は清華大学の
徐教授と東大との共同研究で行った簡易式脱硫プロ
セスの開発研究です。2000年に瀋陽の化学肥料工場
内にこれまでのコストの3分の1のコストで実用脱硫
15
予 告
第9回中国セミナー
「中国の知的財産権問題と日本企業の戦略と対応」
日 時 2006年2月28日(火)12:00∼14:00
場 所 日中産学官交流機構会議室
講 師 臼井清文氏(サニー企画代表取締役社長)
参加資格 機構会員
お申し込みはメールまたはFAXで
E-mail:[email protected]
Fax:03-3556-9456
*今回は先端テクノロジーエデュケーションセンター代表大原康永氏のご協力をいただきました。
2006年1月発行
特定非営利活動法人日中産学官交流機構
靖国神社
発行人 柳瀬豊昭
九段下駅出口
至 市ヶ谷
至 神保町
靖国通り
●
九段
ビル
内
堀
通
り
イ
ン
ド
大
使
館
九段下
駅出口
千
鳥
ヶ
淵
〒102-0074
東京都千代田区九段南2-3-18 九段ビル
TEL:03-3556-9455
FAX:03-3556-9456
E-mail:[email protected]
HP:http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/
日本武道館
◎地下鉄 九段下(東京メトロ 東西線・半蔵門線・都営新宿線)より徒歩10分
◎JR・地下鉄 市ヶ谷(東京メトロ 有楽町線・都営新宿線)より徒歩15分
16
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