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新たな食品表示制度の展望と課題
■ 新春誌上座談会 ■ 新しい食品表示制度について 新たな食品表示制度の展望と課題 いけ 公立大学法人宮城大学 名誉教授(一般社団法人日本農林規格協会会長) ど しげ のぶ 池 戸 重 信 法案が策定され,2013年4月の閣議決定後に国 1.新たな食品表示制度の現行ステージ 会審議がなされ,同年6月28日に公布されたこ 食品表示は,消費者が健全な食生活を実現する とが,第2ステージといえる。 とともに,消費者と食品の提供サイドとを繋ぐ信 その後,食品表示法に基づく食品表示基準が消 頼の絆でもある。こうした重要な役割を果たして 費者委員会の食品表示部会で審議がされ,2015 いる食品表示であるが,今回の食品表示法の制定 年3月に内閣府令として公示された。 を中心とした新制度への移行は,我が国における 一方,これらの基準とは別に,「国の成長・発展, 食品表示制度史上最大のトピックともいえる。 国民生活の安定・向上及び経済活動活性化への貢 加えて,ここに至るまでの間に,我が国の食品 献」を目的とした規制改革会議が2013年1月に 表示制度全般について,各分野の関係者間で,初 発足し,検討項目の一つとして,「一般健康食品の めて本格的な議論がなされた点でも意義深いもの 機能性表示を可能とする仕組みの整備」に係る議 がある。 論が行われた。その結果, 規制改革実施計画(2013 今回の新制度への移行のきっかけは,2009年9 年6月14日閣議決定)において,「特定保健用食 月に消費者庁が設置されたことによる。すなわち, 品,栄養機能食品以外のいわゆる健康食品をはじ それまで厚生労働省(食品衛生法や健康増進法), めとする保健機能を有する成分を含む加工食品及 農林水産省(農林物資の規格化及び品質表示の適 び農林水産物について,機能性の表示を容認する 正化に関する法律(JAS 法))等複数の省庁で個別 新たな方策をそれぞれ検討し,結論を得る。なお, に所管されていた食品表示に関する法令に基づく その具体的な方策については,民間が有している 表示基準の策定事務を,同庁が一元的に所管する ノウハウを活用する観点から,その食品の機能性 こととなった。これを機会に,食品表示に関する について,国ではなく企業等が自らその科学的根 法制度を一元化する環境が整ってきたことから, 拠を評価した上でその旨及び機能を表示できる米 2011年9月に食品表示一元化検討会(一元化検 国のダイエタリーサプリメント(DS)の表示制度 討会)を設置し,翌年8月まで,途中パブリック を参考にし,企業等の責任において科学的根拠の コメントの収集を含め,前後12回,延べ38時間 もとに機能性を表示できるものとし,かつ,一定 以上に及ぶ検討がなされ,食品表示制度の一元化 のルールの下で加工食品及び農林水産物それぞれ のための基本的な方向性等のまとめが示された。 について,安全性の確保も含めた運用が可能な仕 具体的には,各種の食品表示関連の法律のうち, 組みとすることを念頭に検討を行う。」こととされ 食品一般の表示を対象とした食品衛生法,JAS 法 た。なお,このことは,日本再興戦略(2013年 及び健康増進法の3法で規定されている食品表示 6月14日閣議決定)においても,同様の内容が 関係部分を一元化する方向性等に関して報告書が 示されている。すなわち,栄養機能食品及び特定 まとめられた。以上が第1ステージとすれば,こ 保健用食品に続く第三の機能性食品の制度として の検討結果を踏まえて新たな法律である食品表示 機能性表示食品制度創設の方向が示されたわけで 食品と容器 6 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ ある。 新たな食品表示制度の展望と課題 ■ 庁に「食品の新たな機能性表示食品制度に関する 2. 新制度の効果的・効率的普及の 必要性 検討会」を設置し,2014年7月まで8回にわた 消費者庁の設置以前においても,厚生労働省と る検討がなされ,その報告書に基づき審議されて 農林水産省との食品表示に関する共同会議が設置 きた機能性表示食品の基準が策定された。そして, され,幾度となく両省にまたがる食品表示の課題 2015年3月に,機能性表示食品に関する基準も について議論されたが,新たな法律を制定して一 含めた食品表示基準並びに食品表示基準に関する 元化するまでには至らなかった。そうした観点か 「Q & A」及び機能性表示食品制度に関する「ガ ら見れば,今回は,我が国の食品表示制度を,初 イドライン」も併せて公示され,同年4月1日に めてレビューする機会を得たもので,その結果と 施行された。すなわち,現在は,新たな食品表示 して食品表示法が制定されたことは,画期的であ 制度への移行における第3ステージといえる。 り,用語や定義の統一のみならず,同法に基づく 一方,前記の食品表示一元化検討会において, 基準も,横断的に整理され,横並びの比較等がや 十分検討ができなかったいくつかの課題がある。 りやすくなったことは大きな成果といえる。 インターネット販売食品の表示,外食・中食にお ただし,食品表示基準は,分量だけでも膨大で, けるアレルゲン表示,文字の大きさに関する検討, その「Q & A」や機能性表示食品制度に関するガ 遺伝子組換え表示,加工食品の原料原産地表示等 イドライン等を含めると,一読するのも容易でな である。これらのうち,外食・中食におけるアレ いことも事実である。 ルゲン表示は,すでに検討を終えているが,他の こうした状況のもとで,まず求められることは, 課題もいずれも重要で難しい課題であり,消費者 法令の規定は別として,消費者及び食品関係事業 庁は準備が整った段階で検討することとしている。 者等に対して,新ルールを分かりやすく説明する すなわち,これらの課題の検討結果を踏まえたル ことである。 ール化が,新たな食品制度の最後のステージとい これまで,全国各地で色々な機会を通じて,精 える(第1図)。 力的に説明会等が開催されてきたが,消費者を対 こうした状況を踏まえ,2013年12月に消費者 象にするよりも,関心の高い事業者を対象とした ものが多いように感じられる。事業者として は,容器包装への印刷等の関係もあり,不適 正表示には罰則が科せられるという観点から も,新ルールに対する理解を深めることは当 然といえるが,限られた説明時間で,参加者 の知識レベルにも差があり,取り扱う品目も 多様で関心事も異なることから,周知徹底す るまでには,かなりの時間を要すると思われ る。 また,現時点では,必ずしも地域の行政部 局が,地元の消費者や事業者に説明するまで には至っておらず,問い合わせに対する対応 も難しい状況にあるため,消費者庁の直接対 第1図 新たな食品表示制度へのステップ 食品と容器 応にならざるを得ない。 7 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ 新春誌上座談会 ■ 新しい食品表示制度について 今後は,新食品表示制度に関し,行政面におい 効率的に行うことにより,地域の消費者や事業者 3. 栄養成分表示等「食育」としての 取組の重要性 に,きめ細かなルールの普及や問い合わせ対応が 消費者に対する食品表示ルールの周知は,単に 可能な体制整備が必要と思われる。この場合,食 行政部局に委ねるのではなく,教育関係者や事業 品表示法の国会審議の際になされた衆参両院附帯 者など関係者による,まさに「食育」の一環とし 決議に示されているように,問い合せに対する ての総合的な取組が求められる。 て,中央から地方への情報伝達を,より効果的, 「たらい回し」の排除とワンストップサービスを 食育政策に関しては,2005年に制定された「食 行うとともに,窓口によって回答内容が異なるこ 育基本法」に基づき諸施策が講ぜられている。 とのない回答の同一性が求められる。 同法の前文には,「様々な経験を通じて「食」に 食品表示制度のルールは,本来複雑で疑義が多 関する知識と「食」を選択する力を習得し,健全 い分野であり,また,関連の事業者は品目別で整 な食生活を実践することができる人間を育てる食 理し確認する場合が多い。すなわち,これまでは, 育を推進することが求められている」ことが明記 JAS 法に基づく品質表示基準がある品目は,同基 されており,表示に関する知識とそれに基づく適 準を基本として,食品衛生法及び健康増進法の関 正な食品の選択もここに表されている。 連規定箇所をチェックすることで,大まかな基準 一方,同法には7つの基本理念が規定されてい を知ることができた。しかし,今回の基準は,基 るが,その一つである「食育は,食に関する適切 本的に「名称」,「保存の方法」,「消費期限又は賞 な判断力を養い,生涯にわたって健全な食生活を 味期限」等の表示事項ごとの整理になっているこ 実現することにより,国民の心身の健康の増進と とから,品目ごとの基準を把握するためには,か 豊かな人間形成に資することを旨として,行われ なりの手間を要する。したがって,品目ごとの食 なければならない」における「適正な判断力」に 品表示基準の整理については,業界の協力が求め は,食品表示の知識や理解も含まれることとなる。 られる。いずれにしても,事業者向け,消費者向 更に,他の基本理念のうち,当然のことながら「子 けを問わず,内閣府令とは別の分かりやすい説明 どもの食育における保護者,教育関係者等の役割」 資料による普及・啓発が必要と思われる。また, 及び「食に関する体験活動と食育推進活動の実践」 今回の説明対象は,消費者や事業者いずれも,す の対象にも食品表示に関する内容が含まれる。ま でに食品表示の専門的知識を有している者ばかり た,安全性に関しては, 「食品の安全性をはじめと ではなく,この機会にルール全体を学ぼうという する食に関する幅広い情報の提供及びこれについ 意欲的な者も少なくない。したがって,単なる改 ての意見交換が,食に関する知識と理解を深め, 正点だけではなく,食品表示ルール全体の地道な 国民の適切な食生活の実践に資する」旨の基本理 説明体制整備も念頭におくことも必要である。 念が示されており,ここにおける「幅広い情報」 一方,本制度の実効性は,食品表示の活用主体 の一つとして,期限表示やアレルギー表示などが である消費者が如何に理解し,日常的に如何に活 該当する。更に,国の責務や地方公共団体の責務 用しているかによる。一般の消費者の理解度・活 に加えて,これら食品表示に関するルールを含め 用度に関する正確なモニタリングを行うことによ た食育の推進には「教育関係者等及び農林漁業者 り,制度の実効性を常に把握しつつ,その実態を 等の責務」や「食品関連事業者等の責務」も明確 踏まえて普及効果を高めていくことが求められる。 に規定されている。 たとえば,栄養成分表示については,一元化検 討会において「環境整備」の重要性を踏まえ,事 食品と容器 8 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ 新たな食品表示制度の展望と課題 ■ 業者に対するデータベースの整備等とともに,消 ランド名」(35.6%)の順となった。 費者に対する普及・教育の徹底を挙げている。栄 また,加工食品を購入する際,商品選択のため 養成分表示は,あくまでも栄養政策の一環であり, に参考とする表示事項は,「いつも参考にしている」 栄養政策そのものが実効あるものになって初めて と「ときどき参考にしている」を合わせると, 「価 表示制度も機能する。すなわち,消費者が表示を 格」 (91.9%)が最も多く, 「 消費期限・ 賞味期限」 活用するためには,購入された食品に表示された (87.4%),「 原 材 料 名 」(72.9%),「 内 容 量 」 栄養成分等が自分自身の健康にとってどういう意 (70.7%),「輸入品の原産国・製造国」(69.9%) 味があるかはもちろんのこと,家庭で調理するい の順となった。 わゆる「内食」の栄養コントロールも含めた活用 一方,実際に商品を購入する際に知りたい情報 があって初めて有用な表示となる。消費者個々人 が「いつもすぐ見つけることができる」のは, 「名 が,理想とする熱量や栄養素を理解し,内食も含 称(一般的名称):「魚肉練り製品」「スナック菓 めてコントロールできるようになることを目指す 子」等」(75%)が最も多く,次いで「原材料名」 必要がある。逆に,表示する事業者サイドがいく (57.2%),「内容量」(56.9%),「消費期限・賞味 ら努力して数値を示しても,活用する立場である 期限」 (55.8%)の順となった。見つけにくいとし 消費者が,三大栄養素や熱量の活用法等が分から た理由は,「文字が小さすぎて見つけにくい」「表 ないと意味がない。このことは,食品を提供する 示事項が多すぎて見つけにくい」の割合が高かっ 事業者にもいえることで,顧客の健全な食生活実 た。 現の観点で,自社の製品の栄養素等の食生活との また,現行表示の分かりやすさに関する調査に 関わり方を理解した上で表示することが必要であ よれば, 「名称」, 「内容量」, 「原材料名」, 「消費期 る。 限・ 賞味期限」, 「製造者,販売者等の名称及び所在 食品の栄養成分表示制度を通して,栄養コント 地」は分かりやすいという回答が多かった一方で, ロールの必要性の理解が深まることが期待される。 「アレルギー(特定原材料)の表示」,「食べ方, 調理方法に関する事項」, 「遺伝子組換え表示」, 「食 4.新制度の定着効果の判定 品添加物」,「輸入品の原産国・製造国」は分かり 食品の表示を活用する主体は消費者であること にくいという回答が多かった。 から,消費者は日常生活において表示に対してど 分かりにくい理由は,全ての事項において4割 のような意識を抱いているかを把握することは重 ~6割の方が「文字が小さいため」を挙げていた (第1表)。 要である。すなわち,新たな食品表示制度が実効 あるものになっているか否かは,的確で客観的な 表示における文字の大きさに関しては,消費者 モニタリングが必要で,その結果を政策に反映す 委員会食品表示部会の「加工食品の表示に関する ることが求められる。 調査会」において,以下の観点で検討がなされた。 これまでのモニタリング結果をみると,2011 ①基本的に文字を大きくすると表示は見やすく 年12月末に,消費者庁が Web によるアンケート なるが,表示可能面積には限りがあるため,実行 調査(有効サンプル数1,083人)1)がある。当該 可能性を考慮し,文字の大きさを定める必要があ 結果によれば,買い物をする際(場所はスーパー る。②具体的には,現在,文字の大きさは5.5ポ マーケットが圧倒的に多かった)の表示の確認事 イント以上と8ポイント以上で規定されているが, 項として,「価格」(81.5%)が最も多く,次いで 特に見にくいと考えられる5.5ポイント以上の文 「 消 費 期 限 ・ 賞 味 期 限 」(71.0%),「 商 品 名 」 字の大きさの拡大を検討する。③また,文字の大 (52.8%),「一括表示」(43.5%),「メーカー・ブ きさの拡大に加え,栄養成分表示の義務化に伴う 食品と容器 9 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ 新春誌上座談会 ■ 新しい食品表示制度について 第1表 分かりにくい理由(複数回答) 表示面積の拡大も踏まえ,省略規定が適用される 表示可能面積が小さい場合でも,安全性確保に関 面積の拡大を検討する。このうち,②に関しては, する表示事項の省略は不可となったものの,文字 容器又は包装の面積と義務表示等の面積は比例せ の大きさの検討は重要な課題として今後に持ち越 ず,容器又は包装の面積が小さくなると,義務表 された。 示等を行うことが難しくなる食品が出てくる可能 なお,この関連では,「新しい食品表示制度に 性があるとされた(第2図)。 ついて―食品企業サイドの見方―」の第4図を参 そして,上記の検討の結果,新基準においては, 考にされたい。 第2図 容器包装の面積が150cm2以下の商品(文字の大きさ5.5ポイント)の文字の大きさを拡大した場合の影響 (消費者委員会食品表示部会加工食品表示調査会資料より) 食品と容器 10 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ 新たな食品表示制度の展望と課題 ■ 5.表示文字の大きさと情報量(情報 量の重要性の整序) 6.機能性表示食品制度における消費 者啓発 前記4で記したように,食品表示を分かりやす 機能性表示食品制度は,栄養機能食品制度及び く消費者に理解してもらうには,色調のコントラ 特定保健用食品制度に続き,消費者の健康志向の スト等とともに表示文字の大きさと表示する情報 増大等に応える「第3の機能性食品制度」として 量との関係が重要となる。すなわち,文字を大き 期待されている。 くすると表示できる量は限られてくる。逆に,情 当該制度が適正に運用されるためにも,消費者 報量を多くするためには,文字の大きさを小さく の正しい認識と有効な活用が前提となる。 せざるを得ない。この関係をどのようにするかは, 機能性食品に対する消費者の意識に関しては, きわめて重要な課題である。 消費者庁の調査2)(インターネット調査,調査実 当該課題については,一元化検討会においても 施時期 ;2014年3月,対象者 ;15 ~ 79歳の男女 検討された。その結果によれば,情報の重要性は 3,416名)がある。当該調査の対象者は,①20 ~ 消費者や食品によって異なること,そして表示さ 64歳(疾病なし),②20 ~ 64歳(何らかの疾病 れている事項の全てを見ている消費者は必ずしも あり),③65歳以上,④15 ~ 19歳,⑤健康食品 多くはないとなっている。 を摂取している中学生以下の子どもを持つ者(① こうした背景を踏まえ,「できる限り多くの情 ~④の再掲)⑥妊娠中・妊娠計画中の者の6グル 報を表示させることを基本に検討を行うことより ープに分けられている。 も,より重要な情報がより確実に消費者に伝わる ちなみに,機能性表示食品制度の対象は「医薬 ようにすることを基本に検討を行うことが適切」 品」ではなく,あくまでも「食品」であり,栄養 という方針が示された。ここでいう「より重要な情 バランスがとれた健全な食生活を前提として摂取 報」に関し,表示義務として行政が積極的に介入 するものである。かつ,疾病に罹患していない者 すべきは,特に安全性確保に関する情報である。 (未成年者,妊産婦 [ 妊娠を計画している者を含 り か ん また,情報の重要性に違いがあることを前提とし む ] 及び授乳婦を除く)を対象にした食品である。 た制度設計の基本的考え方としては, 「安全性確保 したがって,可能な機能性表示の範囲としては, を優先し,消費者にとって真に必要な情報を検証 保健の目的が期待できる旨の表示の範囲として, すること」,そして容器包装への表示と代替手段に 健康の維持及び増進に役立つ,又は適する旨(疾 関しては,「実行可能性と供給コスト等,消費者のメ 病リスクの低減に資する旨を除く。)を表現するも リット・デメリットのバランス検討」をすべきで のであり,「診断」「予防」「治療」「回復」「緩和」 あるとしている。また,安全性確保関係事項以外 「処置」等の医学的な表現は使用できない。 の重要性は, 「消費者によって異なることから,こ 調査結果によると,「最近1年間に『健康食品』 れまでの議論も踏まえつつ現行項目の検証をし, を 摂 取 し た こ と が あ る 者 」 の 割 合 は, 全 体 の 優先順位の考え方を導入すること」,更に「将来的 43.8%であった。また,グループ①に比べ,グル な表示事項の見直しに当たっても,優先順位に留 ープ②③⑤⑥では「健康食品」の摂取割合が有意 意し,コーデックス等国際的動向も踏まえる」こ に高かった。そして「健康食品」のうち最も多く ととしており,こうした検討結果も踏まえること 摂取されていたものは,「特定保健用食品(トクホ)」 が望まれる。 で全体の44.7%であった。なお,この場合の「健 康食品」に関する質問は,「いわゆる健康食品」等 の区分けをせず無定義で行っている。 食品と容器 11 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ 新春誌上座談会 ■ 新しい食品表示制度について 第3図 いわゆる健康食品に対する消費者の意識 (消費者庁H25年度調査[回答者3,416名]) この回答者のうち,過去1年間に「いわゆる健 となっており,特産食材の高付加価値化等を通し 康食品」を摂取した者における「いわゆる健康食 た,地域産業の振興面でも期待されている。また, 品」に対するイメージは, 「摂取することで,病気 農林水産物としての当該分野での活用は,生鮮食 が治る」と思う者( 「とてもそう思う」と「そう思 品そのものに限らず,加工食品の原材料としての う」者の合計)の割合は,グループ①に比べ,グ ル 可能性を有しており,現にこれまで届出が受理さ ープ④⑤で高い傾向にあった。 れたものとしても,葛の花由来のイソフラボン, 「『いわゆる健康食品』も,全て国が認可してい 米由来のグルコシルセラミド,茶由来のメチル化 る」と思う者(「とてもそう思う」と「そう思う」 カテキン,甘草由来のグラブリジンなど,植物(作 者の合計)の割合は,グループ①に比べ,グルー 物)由来物質の活用による製品が示されており, プ③④で有意に高かった(第3図)。 今後この分野の国産振興に繫がる可能性も高い。 このように,現状でも消費者の一部は,健康食 ただし,生鮮食品の場合,製品化の際の機能性関 品および機能性食品に対して必ずしも正しい認識 与成分のバラツキ等の問題や効率的な成分評価手 を有していないことから,新機能性食品制度の導 法の開発など,特有の課題解決が必要なことも事 入と並行して,的確な普及・教育にも努めること 実で,国および公設研究機関と連携した取組が求 が必要である。 められている。 一方,当該機能性表示食品に関しては,2014年 7. 実効ある機能性表示食品制度に 向けて が,同委員会で審議した結果,「検討会報告書」の 今回の制度は,生鮮食品(農林水産物)も対象 うち,基準に記載されていない事項がガイドライ 食品と容器 10月31日に消費者委員会へ基準案が諮問された 12 2016 VOL. 57 NO. 1 ■ 新たな食品表示制度の展望と課題 ■ ン等で全て網羅されて,安全性を必ず確保するこ 事業者としては,自分の所管範囲,すなわち,原 と,速やかに検査体制を構築。定員・予算も十分 材料の仕入れから企業・工場内,そして製品の納 構築すること,届出後,根拠がないことが判明さ 品先に至る範囲に関してのトレーサビリティの実 れた場合の早急な処分が科されるよう執行体制を 施が重要になる。表示は,データ管理そのもので 構築すること, 「いわゆる機能性食品」のうち科学 あり,そのためには「食品」のみではなく「食品 的根拠のない商品が淘汰されるよう,表示,広告 及びそれに関連する情報」の追跡及び遡及を客観 等の行政処分の強化体制を構築すること等,9点 的に示すことができるような体制作りが求められ の実施を前提として,同年12月9日に答申され る。すなわち,企業の「ホワイトリスト化」の整 た経緯があることにも考慮することが求められる。 備が有効となる。 一方,第4ステージにおいて「残された課題」 8.今後求められる対応 の検討に当たっては,これまでの検討経緯も十分 以上,新たな食品表示制度の展望と課題につい 踏まえる必要がある。 て概説したが,現在のようにフードチェーンが多 最後に,事業者にとって今回の法令改正に的確 段階・複雑化しつつある中で,消費者の食品に対 に対応することはきわめて重要であるが,食品表 する認識やニーズも多様化していることも事実で 示は本来顧客である消費者のための情報媒体手段 ある。換言すれば,現在の食品表示制度の重要性 の一つであることから,法令以上に消費者の方向 の増大や複雑化の進展は,これらフードチェーン を向き,消費者にとって真に分かりやすい表示と の動向の象徴ともいえる。こういう中,食品関連 は何かを構築することが大切と思われる。 参 考 文 献 1)消費者庁食品表示課 : 食品表示に関する消費者の意向 2)消費者庁「食品の機能性表示に関する消費者意向等調 等調査,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/120221 査結果」2014年4月 sankou2.pdf 2012. 2.21 食品と容器 13 2016 VOL. 57 NO. 1