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ミネラル③ 神経細胞とミネラル 中西載慶
シリーズ・身近な物質 ミネラル③ 神経細胞とミネラル 東京農業大学短期大学部醸造学科教授 中西 載慶 フグ毒は神経毒(トラフグ) 神経毒は怖い なかにし ことよし 東京農業大学元副学長。醸 造学科食品微生物学研究室。 応用酵素学、バイオプロセ ス学。東京農業大学第一高 等学校・中等部校長。 共著『インターネットが教 える日本人の食卓』東京 農大出版会、『食品製造』・ 『微生物基礎』実教出版など 我々の生命活動は、自分の意思とは無関係に働いている自律神経や意思に 反映して働く運動神経などによりコントロールされています。自律神経には、 交感神経と副交感神経があり、交感神経は、心臓をはじめ種々の内臓や血管、 皮膚などの働きをコントロールし、緊張や興奮、ストレスなどに対応してい ます。一方、副交感神経は、それとは全く逆に、心身の活動をリラックスさ せるよう働き、同時に体の機能回復や修復の役目も果たしています。この2 つの神経は、丁度シーソーが上がったり下がったりするように規則的に交互 にリズムよく活動していることが重要で、そのバランスが大きく崩れると、 いわゆる自律神経失調症になるのです。これらの神経は、多くの神経細胞の 集まりで、体が正常に働くよう細胞から細胞へと必要な情報の伝達を繰り返 しているのです。実は、その細胞の情報伝達にミネラルが密接に関わってい ます。そこで、今回は、ちょっと難解な話題ですが、神経細胞の情報伝達の 仕組みとミネラルの役割を取り上げてみました。 神経細胞は、我々の様々な活動を促す指令をどのような信号を使って細胞 から細胞へと伝えているのでしょうか? 通常、細胞内はカリウムイオンが 多く、細胞外はナトリウムイオンが多くなっていて、そのイオンバランスに よって細胞内は電気的にマイナスの電位となっています。この時、体外から の刺激(光、熱、圧力など)が細胞に伝わると、細胞は細胞内外のナトリウ ムイオンとカリウムイオンを出し入れして、細胞内はプラスの電位となり僅 かな電気が発生します(活動電位という)。この電気信号が細胞と細胞が接続 しているシナプスとよばれる部分に達します。すると、その電気信号に基づ いて、細胞内にある様々な種類の様々な働きを持つ神経伝達物質とよばれる 化学物質が放出され、細胞から細胞へと受け渡されます。つまり、神経細胞 は、この電気信号と化学信号(化学物質の受け渡し)の連鎖により、細胞か ら細胞へと必要な情報を伝達しているのです。なお、このシナプスでの神経 伝達物質の受け渡しには、カルシウムイオンが重要な働きをしています。難 解な細胞の情報伝達の仕組みはさておき、ミネラルの果たす役割の重要さを 理解いただければと思う次第です。 ところで、フグやヘビやサソリなどは、ご存知のように強烈な毒を持って います。実は、これらの毒は、人の体内に入ると特異的に神経細胞にとりつ くのです。その結果、神経細胞は、正常な電気信号が送れず、当然、必要な 情報も伝達できなくなります。つまり、体や内臓器官が正常に動き、働くよ う指令する神経が正常に働かないわけですから、筋肉が急激に麻痺し、体が 動かなくなったり、内臓の活動に影響がでたり、心臓が停止し死に至るとい う事態に陥るのです。ちなみに、フグの毒は、テトロドトキシンという物質 ですが、これは、フグがつくっているのではなく、海洋性細菌が生産するも のです。それが海洋生物の食物連鎖を経てフグの体内に蓄積されているとの こと。フグ毒は、青酸カリの数百倍も強い猛毒です。しかし、地球上で最強 の毒は、ボツリヌス菌の生産する毒素で、フグの1万倍以上も強い、恐ろし い限りです。 気がつけば師走、今年こそは、今年こそはと予定した仕事もやり残しが多 く反省ばかり。性懲りも無く来年こそは、と決意して今年は終わりというこ とに…。ご愛読に感謝。来年もよき年となりますよう祈念して、次号につづ く。 新・実学ジャーナル 2009.12 7