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監査業務 - KPMG
[特集] A I は会計士の仕事を奪うか 監査業務: 「試査」から再び「精査」の時代へ 小川 勤 有限責任 あずさ監査法人 公認会計士 これまで監査がどのように変わってきたかを ◆ Summary ◆ 監査業務の進化について,監査初期,近年,現在, 考察し,今後監査がどのように変わっていく そして AI を活用した将来に分けて整理し,現在取り のかを,過去の背景や,すでに AI の適用の 組んでいる精査的手法を紹介しながら,将来 AI によっ 可能性を感じさせる IT を利用した監査の手 て代替される業務,AI を活用することにより今まで 以上に効果的に実施可能となる監査業務について検討 続事例,また将来影響を受けるであろう監査 する。その結果,監査人が価値を高めていくために必 計画の立案手法の具体的な事例を踏まえなが 要な能力について改めて考察する。 ら検討してみたい。検討にあたっては,監査 の進化について,便宜的に以下の4つのフェ ーズに分けさせていただく。 企業および会計を取り巻く環境は大きく変 わってきており,監査人の業務が人工知能 (AI:Artificial Intelligence)を含む IT に奪 フェーズⅠ:監査初期 フェーズⅡ:近年 フェーズⅢ:現在(現在の取組みを含む) われるのではないかという議論も一部で報じ フェーズⅣ:AI を活用した将来 られている。確かに近年における IT の発展 なお,文中の意見に関する部分は筆者の私 は著しいものがあり,またそれに伴い,監査 手続も過去から現在に至るまで大きく変化し てきた。そして,今また AI の進化により, IT はさらなる発展を遂げようとしているが, 見である。 Ⅰ 監査実務のこれまで⑴ はたして人間が実施しているすべての監査業 1 始まりは「精査」に近い方法(フェーズⅠ) 務を,AI を含む IT によって代替すること 現在行われているような監査は,19世紀の は可能なのであろうか。 半ばに英国で始まったといわれている。当時 今日に至るまで様々な技術が現れるたび, の英国では産業革命を受け,鉄道業や運河業 監査業務を含む人々の業務に対する関わり方 といった大規模な資本が必要となる産業が発 は大きく変わってきた。そこでこの章では, 達した。そのため,資本市場が活発となり, (901) 企業会計 2016 Vol.68 No.7 37 所有と経営の分離が進んだことから,出資者 いうものに変わっていった。 へ経営活動について説明を行う必要性が生じ このように,被監査会社における取引の複 ていた。また,当時の監査は不正や誤謬の発 雑化および大規模化により,精査による監査 見を主な目的としていたこと,そして,取引 を実施することが難しくなり,サンプリング 量も限られたものであったことから,個々の の技術を駆使して試査を行うようになって 取引すべてについて内容の点検を行い,不正 いった。 や誤謬が存在していないかを確かめていくと それに加え,監査をより効果的かつ効率的 いう「精査」に近い方法により監査を実施し なものにするため,よりリスクの高いエリア ていた。 に監査資源を配分する「リスク・アプローチ」 の手法もとられていった。このリスク・アプ 2 企業活動の拡大により「試査」 ・ 「リスク・ ローチの考えにおいては,リスクが高いと判 アプローチ」へ(フェーズⅡ) 断したエリアにはより高い証拠力が入手でき 産業革命後,企業活動が広範にわたるよう る監査手続を実施し,リスクが低いと判断し になり取引量が拡大すると,それに伴い会計 たエリアにはそのリスクの程度に応じた証拠 情報も膨大なものとなっていった。そのため, 力を入手できる監査手続を実施することにな 従来行っていたような個々の取引の検証は, る。どのエリアにリスクがあるかという判断 人的にも時間的にも実施することが困難なも については,個々の監査人の知識や経験に基 のとなった。 づくという属人的かつ主観的なものであった。 一方,膨大となった会計情報を適切に記録 するため,企業においては様々な内部統制を 整備し,不正や誤謬の発見・防止に取り組む Ⅱ 監査実務の現在(フェーズⅢ) ようになっていった。監査はこの企業が整備 1 基本は「試査」・「リスク・アプローチ」 した内部統制を検証し,それに依拠すること 現代の企業,特に大企業では,企業活動の により,すべての取引を検証するのではなく, 拡大に伴い膨大となった情報を効果的かつ効 一部の取引のみを検証するという「試査」に 率的に記録・管理するため,ERP(Enterprise 移行していった。またこのころになると,監 Resource Planning)パッケージのような, 査は不正や誤謬の発見を目的としたものから, 材料の調達,製造,販売,在庫管理といった 財務諸表の適正性について意見を表明すると 一連の営業活動から,人事,給与,財務,会 計といった管理活動に至るまで,企業活動を 一括して管理する業務システムが利用されて Profile ◇有限責任 あずさ監査法人 パートナー 次世 代監査技術研究室長。あずさ監査法人の次世代監査技術研究室 では,情報システムおよび情報処理技術の高度化に対応して, 企業が有する膨大なデータ(仕訳,売上データ等)に対してデ ータ分析を活用した監査技法を導入,展開し,また,企業およ び経済環境に関する財務データおよび非財務データ等を用いて, 統計的に監査リスクを評価する手法を開発している。 38 いる。そして,当該システムが提供する情報 に基づいて決算業務を行うことが一般的と なってきている。 このような状況から,監査対象となる取引 量は年々増加し,また企業活動が複雑化して 企業会計 2016 Vol.68 No.7 (902) [特集] いくことに伴い監査上検討 すべきリスクも増加する傾 フェーズⅢ (現在) 向となっている。そのため, これまでと同様,すべての 取引を検証する「精査」を フェーズⅡ は引き続き「試査」の考え (近年) フェーズⅠ (監査初期) 取引量の拡大 とから,現在における監査 IT技術の進歩 行うことは不可能であるこ 母集団全体を サンプリングよって母集団を 方に基づいて実施されてい る。ただし,試査の実施に 際しては,より高度な統計 精査 試査 ITを利用して母集団全体を 精査的手法により検証 技法を用いることにより, 過去よりも効果的に行うことが可能となって ることは比較的難しいとされている。 しかし,監査を利用する株主・投資家等の いる。 また,試査に加え,引き続き「リスク・ア ステークホルダーからは,監査に対して「試 プローチ」の考え方もとられている。その際 査」および「リスク・アプローチ」に基づく 実施する監査上のリスクの特定については, 合理的な保証ではなく,すべての不正や誤謬 基本的には個々の監査人の判断に委ねられて を発見する絶対的な保証を期待されることも いるものの,データベース化された過去の 多く,監査に対する期待ギャップが生じてい 様々な事例等の情報を参考として使うことが る状況にある。 可能である。また,リスクを評価するにあ たっては,何段階かのレベルに分けて評価を 2 IT を使い「試査」から再び「精査的手法」へ 行うことで,対応する手続のレベルを客観的 前述のように,現在の監査は基本的には に設定し,監査を均質化させている。 「試査」という考え方に基づいたものである。 監査は上記のように進化しているものの, しかし,監査を利用する側からの期待と実際 現在においても世間を揺るがす会計不正が発 の監査業務の間に生じているギャップを埋め 生している。不正の手法は様々であるが,代 ること,最近の IT の発展に伴い監査をより 表的なものとして,工事案件における他の案 効果的・効率的にすることを目的として, 件への原価の付替えや,工事進行基準におけ IT を利用して母集団全体に対して何らかの る進捗率の操作等が挙げられる。このような 監査的検討を行う「精査的手法」⑵ が検討お ケースにおいては,内部統制が有効に機能し よび実施されつつある(図表1)。 ていなかった場合,試査による証憑突合等の みでは,発生原価が該当する工事案件に関す 具体的に監査の現場で取り組んでいる監査 手続は,以下のとおりである。 るものであるかどうかを判断することが困難 なときがあるため,外部監査において発見す (903) 企業会計 2016 Vol.68 No.7 39 引のルールに該当したものを抽出,統計学 これは企業が記録・管理している財務およ び非財務のデータを入手し,すべての取引に ついて各データ間の関係性を分析し,異常な 的に異常取引を判別して抽出 (異常取引を判別する視点) ・ 時間の進捗率が少ないにもかかわらず ものが含まれていないかを検証する手続であ 標準値より原価の進捗率が大きい場合は, る。実際に全件に対して証憑との突合を行う 見積工事原価総額が過小となっている可 ものではないものの,異常項目の有無を確か 能性や,不正により原価が付け替えられ める手続を取引母集団全体に行うという意味 ている可能性があることから異常取引と で「精査」に近い手続であるといえる。 識別 たとえば,前述の工事案件の例においては, すべての工事案件に関する財務・非財務情報 ・ 統計学的に,標準から一定以上逸脱し た取引について異常取引と識別 を入手し,予算の達成率と,実際の工事完成 予定日から算出した工期の進捗率との関係性 このような手法により,従来においては, を分析し,標準的な関係となっていない取引 大きな母集団から一部の取引を抽出して「試 を抽出すること等が行われている。具体的な 査」により監査手続を実施していたが,取引 手順は以下のとおりである。 母集団全体を検証し,かつ工事完成予定日等 の非財務データを使った従来とは異なる視点 ① 企業の ERP パッケージから,工事契約 額等の基本情報のほか,下記の情報等を含 む工事関連情報を入手(データの信頼性に での「精査的手法」による監査手続が実施可 能となる(図表2)。 なお,この例で述べたように,現時点にお ついては別途検証が必要) いては,何をもって異常と判断するかは,人 ・ 見積工事原価総額 間が過去の経験や統計学的手法等に基づいて ・ 決算日までに発生した工事原価総額 定義することが一般的である。 ・ 工事開始日 ・ 工事完成予定日 ② 見積工事原価総額および決算日までの発 生原価をもとに原価の進捗率を算定 ③ 工事開始日,工事完成予定日および決算 用する,または監査人が直接外部からデータ を入手して,企業のすべての取引について外 日をもとに時間の進捗率を算定 ④ X軸に時間の進捗率を,Y軸に原価の進 部証憑と突合する手続である。 たとえば,企業が取引先から EDI(Elec- 捗率をおきグラフ化 ⑤ 統計学的手法を用いて標準値を示す曲線 を作成 tronic Data Interchange)等により,電子的 に取引先における納品情報を入手している場 ⑥ 当該曲線からの乖離に基づき,監査人が 過去の知見や経験に基づいて定めた異常取 40 これは企業が入手している外部データを利 合,監査人もこの取引先の納品情報を入手し, 企業の売上情報または売上を計上する際に用 企業会計 2016 Vol.68 No.7 (904) [特集] フェーズ Ⅱ 証 査 に 的 監査 証 て の の進 フェーズ Ⅲ 大 監査 IT ー ー 検証 いた出荷情報等と全件突合するというような 3 主観的な「リスク・アプローチ」から ケースがこれにあたる。具体的な手順は以下 より客観的な「リスク・アプローチ」へ のとおりである。 現在の監査においては前述のとおり「リス ク・アプローチ」の考え方がとられている。 ① 会社が直接電子的に入手している取引先 監査上のリスクの特定については,データベ の納品情報を入手(データの信頼性につい ース化された過去の様々な事例等の情報を利 ては別途検証が必要) 用できるものの,基本的には個々の監査人の ② 売上に関する情報と,上記の納品情報を, 受注番号等をもとにデータ上で結合 判断に委ねられている。最近では,これらの データベースの情報および企業が属している ③ 売上計上日と納品日,出荷数量と納品数 産業や財務情報等を組み合わせ,監査ツール 量,売上金額と購入金額等,売上に関する が客観的に認識すべきリスクの提案を行うと 情報について,データ上ですべての取引に いう取組みが始まっている。 また当該リスクを評価するにあたっては, ついて突合 現在行われているような数段階のレベル分け 当該納品情報が十分かつ適切な証拠力を有 よりもさらに詳細な評価を行うため,リスク しているのであれば,この手続により書面で を点数化し,その点数に応じて対応する手続 の納品書を入手し証憑突合を行う「精査」と を提案するという取組みも始まっている。 同等の証拠力を有する手続が取引母集団全体 に対して実施可能となる。 (905) 企業会計 2016 Vol.68 No.7 41 よ して フェーズ I( を より ) に Ⅲ AI を活用した監査実務のこれ から(フェーズⅣ) ータ間の関係性を多面的に検証することで, 人間が気づかないような関係性が識別される ことも考えられる。時間の進捗率および原価 の進捗率の標準値からの乖離は小さく,一見 1 異常な取引の要件定義までも自動化へ 前述のとおり,現在の監査においては,デ ータを用いた監査手続を採用している場合で 通常の取引と思われるような取引から,不正 や誤謬の兆候が識別されるということも考え られるかもしれない(図表3)。 あっても,異常な項目の識別は,人間が異常 このような関係性の識別は,AI が過去の な取引と判断するための要件を定義して,そ 不正事例の情報を多く持つほど学習機会が与 の要件に該当する取引を識別するという手順 えられる。そのため,多くの企業について によって実施されることが一般的である。 AI が分析する,または,同一企業であって 今後 AI が監査に導入されることにより, も長期間にわたる分析を AI が行うことによ 企業の財務・非財務情報および該当する産業 り,異常な取引を識別する精度は上がるもの における過去の不正事例の知見等から,AI と考えられる。なお,このような AI を用い が会社の置かれている状況や,実際に行われ た分析ツールは,一部の ERP パッケージに ている取引の傾向等を分析したうえで,不正 おいてすでに実装することが検討され始めて や誤謬といった異常な取引の要件定義,また いるようである。 その要件に該当する取引の識別までを行うよ うになるのではないかと考えられる。 2 進む財務・非財務情報の標準化 たとえば,前述した工事案件の監査では, 現在,個々の会社が利用している ERP パ 現時点では人間が過去の経験や統計的手法等 ッケージや会計システムは,それぞれ異なる を用いて異常と考えられる取引の要件を定義 項目や形式によってデータを格納している。 したうえで,その要件に該当する取引を識別 今後は企業間のデータの比較や分析の実施を していると述べた。しかし,AI が無数のデ 容易に行うことができるようにするため,各 42 企業会計 2016 Vol.68 No.7 (906) [特集] ERP パッケージが持つ企業のデータの持ち 3 見えなかったリスクまで識別 方の標準化が進んでいくことが考えられる。 最近では,監査人の知見を集めたデータベ また,それらのデータ分析をより適時に行 ースの情報,企業が属している産業および企 うためには,多くの企業の情報が共通のプラ 業の財務情報等を組み合わせて,監査ツール ットフォーム上に存在している必要性が出て が客観的に認識すべきリスクおよび実施すべ くる。そのため,将来的には多数の企業が持 き手続の提案を行うという取組みが始まって つ財務・非財務情報の多くをクラウド上で管 いると述べた。将来 AI が監査に導入された 理・運用し,監査もクラウド上で実施される 場合には,AI がリスクに関する新たな関係 というような動きが出てくることも考えられ 性を自ら識別し,当該データベースが自動で る。 更新されるようになると考えられる。さらに このように1つの企業のデータだけではな は AI が,そのようなデータベースの情報に く,多数の企業のデータに AI がアクセスで 基づいて,自らリスク分析を行えるようにな きるような環境が整備されることで,前述し ることも考えられるかもしれない。 たように,より多くの事象や事例を学習する このように,AI の監査への導入に伴い監 機会が AI に提供され,異常項目識別の精度 査の客観性・合理性がさらに高まるとともに が向上する。それとともに,同業他社で発生 監査の均質化が一層図られ,また,企業の状 したような不正事例等も考慮に入れたうえで, 況の変化や,監査の実施状況に応じて適宜監 AI が異常な取引を識別できるようになるも 査計画の見直しを行うことが容易となること のと考えられる。 が予想される。 また,データの標準化に加え,クラウド上 で企業の財務・非財務の情報が管理・運用さ 4 常時継続的な監査へ れるようになることで,企業間における受発 ここまでは,基本的に監査人が特定の時点 注,出荷,納品,請求から入出金までの一連 において企業から資料およびデータを入手し, のやり取りが,より電子化されるものと考え 監査手続を行うという前提で,過去から現在 られ,先に述べたような,取引先のデータを までの監査また将来の監査像を述べてきた。 用いてすべての取引について証憑突合を行う 今後は,監査手続を実施する機能が業務・ こともより容易に行えるようになると考えら 会計システム自体に組み込まれる,もしくは れる。 監査人の監査ツールを当該システムに組み込 もちろん,上述のことを実施するためには むことにより,不正や誤謬といった異常な取 他の企業データにアクセスすることが必要で 引が常時監視され,発生と同時に適時に検出 ある。現時点では守秘義務の関係等から無条 されるようになることも考えられる。 件でアクセスすることは難しいと考えられる またそのようになると,期末や期中の監査 が,今後,そのようなデータ利用に関する環 を待たずに,リアルタイムで不正や誤謬の検 境・規則等が整備されてくるかもしれない。 出ができるようになる。そして,監査の効果 および効率が向上するとともに,監査の利用 (907) 企業会計 2016 Vol.68 No.7 43 者に対しても,より適時に情報を提供できる 盟している KPMG においても,IBM と提携 ようになるものと考えられる。 し,IBM Watson のコグニティブ(認知)技 このような監査の仕組みについては継続的 術を監査に適用する検討を開始している⑶ 。 監査(Continuous Auditing)と呼ばれ,一 しかし,異常な項目と識別されたもので 部の ERP パッケージではすでにこのような あっても,背景に合理的な理由があり,実際 考え方に基づくモジュールが実装され始めて には異常な取引ではないということもある。 いる。なお現時点において,監査ツールに このようなものについては,最終的には人間 AI を組み込む試みも一部で始まっている。 である監査人が判断することが必要になると 今後はその手法が一般的になり,AI が異常 考えられる。 項目を識別するための監査手続の考案・実施 また,繰延税金資産の回収可能性や固定資 までを行うとともに,企業が置かれている環 産の評価のように,将来の事業計画のような 境や新たに発生した事象に応じて,継続的に 重要な見積りを含む会計処理については,主 手続の更新・改善までを実施し,常時継続的 観を伴う経営者の意思や意図等についても理 に監査が実施されていくことが期待される。 解および考慮したうえで監査上の判断を行う 必要がある。これらについても最終的な判断 5 監査はより深度のある効率的なものへ これまで述べてきたとおり,将来の監査に は経営者と同じ人間である監査人に委ねられ るであろう。 おいては,監査計画の提案,分析手続,証憑 以上から,今後監査人は,AI が導き出す 突合等の機械的な手続,また一部の判断を伴 判断の過程やその他の IT が実施する手続内 うような手続までも AI を含む IT により代 容を理解したうえで,経営者の意思や意図等 替もしくはサポートされることになる可能性 を織り込みながら,AI を含む IT と協働し がある。弊法人がメンバーファームとして加 て監査を実施していくことになると考えられ 44 企業会計 2016 Vol.68 No.7 (908) [特集] 査 査 に IT 監査 より 的 査 監査 る。これにより,従来監査人による人的作業 り高めていくためには,IT や統計に関する により実施していた手続を,より効果的かつ 基本的な素養を身につけることに加え,これ 効率的に実施したうえで,より多くの監査資 までと同様,またはそれ以上に会社のビジネ 源を高度な判断を要する手続にあて,より深 スに対する理解を深めることが必要となる。 度ある監査を実施することが可能になるであ さらに,経営者の意思や意図等を十分に理解 ろう。 したうえで,経営者と対等な立場で議論を行 い,ときには経営者の耳が痛くなる批判を行 う能力を高めていく必要があるのではないだ 上述のとおり,これまでの IT の発展およ ろうか(図表4)。 び今後導入されるであろう AI の影響により, 会計・監査を取り巻く環境は大きく変わって いくだろう。単純な証憑突合のような作業は IT に置き換えられ,またデータ分析等の作 業も,AI によってより高度なものに置き換 会計士協会 IT 委員会研究報告第 48 号「IT を利 用した監査の展望~未来の監査へのアプローチ ~」 (2016年3月28日)を参照した。 ⑵ 前掲注⑴参照。 えられると考えられる。 このような状況のなか,監査人が価値をよ (909) ⑴ 「Ⅰ 監査実務のこれまで」では,日本公認 ⑶ 2016年3月8日付 KPMG のプレスリリースより。 企業会計 2016 Vol.68 No.7 45