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子どもたちを 慢性的な食物繊維不足から守るためには?

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子どもたちを 慢性的な食物繊維不足から守るためには?
子どもたちを
慢性的な食物繊維不足から守るためには?
日本食物繊維学会 第16回学術集会公開講演会
日本人の食物繊維摂取の現状と将来 「子供たちの食生活の実情について」
“第六の栄養素”とも呼ばれる食物繊維。その摂取の現状と問題点について4名の専門家による公開講
演会が、11月27日に国立健康・栄養研究所にて開催されました。
「国民健康・栄養調査」や児童・生徒を対象に行われた調査によると、日本人は慢性的な食物繊維不足
の状態にあります。その影響で、小学生の約4割が便秘傾向にあることが新たな調査によってわかりま
した。この危機的な状況の背景には何があるのか? あわせて最近判明した食物繊維の新たな機能に
ついて、講演会の内容を元にお伝えします。
講演会を主催した一般社団法人「日本食物繊維学
会」は、食物繊維に関する研究の発表、知識の交換、
啓蒙活動などを目的として1996年に設立されまし
た。以降、毎年学術集会と一般の人も参加できる公開
講演会を開催。今回は、公開講演会を取材しました。
講演会では、まず座長の池上幸江氏から講演会の
目的について説明がありました。
「今日は、発表者の先生方から、成人だけでなく、子
どもたちも食物繊維が十分に摂取されていない現状
について発表していただきます。小さい頃からしっ
かり食物繊維を摂ることは、中高年になった際の健
康に大きく影響します。ぜひ、ご家庭でも食物繊維の
必要性と重要性を認識していただきたいと思いま
す。子どもたちの慢性的な繊維不足を少しでも改善
するために、この講演会が一助になればと考えてお
ります」
その後、1番目の講演では、食物繊維の摂取の現状
を明らかにするため、国民健康・栄養調査の結果と、
児童生徒向けに行われた調査を元に、現状が分析さ
れました。明らかになったのは「成人だけでなく、児
童・生徒も慢性的な繊維不足にある」という現状で
す。
2番目の講演では、慢性的な食物繊維不足によっ
て子どもたちにどんな問題が起きているかについ
て、発表がありました。
長野県で約4万人の児童生徒と担任の教師を対象
に行われた、大規模調査の分析結果によると、
「毎日
排便がない児童生徒」が約4割もいます。逆に「毎日
排便がある児童生徒」は、食物繊維の摂取量と運動量
が多く、朝食を食べている割合も高いことがわかり
ました。
3番目の講演では、家庭の食卓で「極端な野菜不
足」が生じている現状と、その背景について発表があ
りました。子どもたちを慢性的な食物繊維不足から
守るには、食物繊維の供給源である野菜の摂取量が
不足している現状の改善が必要です。そのためにも、
なぜ家庭の食卓で野菜不足が起きているのか? 問
題の背景を把握しておくことが重要です。
最後に4番目の講演では、最近明らかになった、食
物繊維の機能が紹介されました。食物繊維の機能が
便秘改善だけでないことは、食物繊維の必要性を認
知してもらう際に、重要な切り札になるでしょう。
発表の詳しい内容については、次のページ以降で
紹介します。
池上 幸江氏
大妻女子大学名誉教授。厚生省国立栄養
研究所研究員、米国ミシガン州立大学研究
員、国立健康栄養研究所食品科学部長を
歴任。著書『食物繊維:基礎と応用』『すぐに
役立つ食物繊維の知識と献立』など。
日本食物繊維学会 第16回学術集会公開講演会のようす
-食物繊維の摂取量は、慢性的に不足している-
日本人の栄養摂取状況における
食物繊維の現状
青森県立保健大学 健康科学部・栄養学科 教授
吉池 信男氏
東京医科歯科大学医学部卒業後、小児
科医として病院勤務を経て、国立健康・
栄養研究所で循環器疾患予防や栄養に
関する疫学などの研究を行う。現在は
青森県立保健大学で公衆栄養学、地域
栄養活動論を教える。食事バランスガ
イ ド 検 討 会 の 座 長 や 健 康 日 本 21の 策
定・評価などにも携わる。
●食物繊維の摂取量は、50年以上減少を続けている
食物繊維の摂取量はどのように変化してきたので
しょうか? 吉池信男氏によると「国民健康・栄養調
査」に食物繊維が調査項目に入ったのは2000年以降の
ため、それ以前については厳密なデータは存在しない
ということです。
「そこで、食物繊維の摂取量の推移を推定するため
に、食物繊維を多く含む食品の摂取量の変化を調べて
みると、野菜・果物・豆類には、はっきりした変化が
ありません。一方穀類(米、小麦)は1955年から減少。
その後も一貫して減少傾向が続いています。この結果
から、食物繊維の摂取量も、この50年以上、減少を続
けていると推測されます」
さらに平成15年の「国民健康・栄養調査」データに
よると、子どもの成長につれ摂取量の上位と下位の差
が増えています。小さい頃は食事の内容に差がなかっ
たのに、大きくなるに従い、様々な食べ方をするよう
になるために起きていると考えられます」
●学校給食がある日でも食物繊維が不足している
このように、食物繊維の摂取において学校給食が重
要な役割を果たしていることは、平成19年度の「児童
生徒の食事状況等調査(独立行政法人日本スポーツ振
興センター)」でも明らかです。
調査では、給食がある日とない日の食物繊維摂取量
が比較されています。それによると、小学生男子では
給食がある日の方が摂取量が2.3グラム多くなってい
ます(給食がある日14.6g、ない日12.3g)。同様に女
子は、2.2グラム多くなっています(給食がある日14.8
g、ない日12.8g)。
「国の食事摂取基準は18歳以上が対象で、小学生の目
標値は決まっていません。そこで、成人の1000キロカ
ロリーあたりの摂取基準値を使って算出すると男子
は23.7グラム、女子は22.6グラムとなります。この値
と比較すると、摂取量が多い給食のある日でさえ基準
を下回っていることがわかります」
そのほかにも、第2次食育推進基本計画の指針「よ
く噛んで味わって食べること」のうち、「よく噛む」
を実現するために、食物繊維を多く含む食品が有効だ
という研究結果の発表がありました。
-毎日排便がない小学生が約4割!-
18
16
地方における児童生徒の食と生活リズム
に関する報告
14
12
10
8
6
男性
長野県御代田町立御代田中学校 栄養教諭
女性
柳沢 幸子氏
4
2
0
1-2
3-5
6-8
9-11
12-14
15-17
18-29
30-49
50-69 70以上
男性
7.4
8.3
11.7
14.3
14.8
14
12.8
13.4
16.8
17
女性
7.2
8.5
11
12.5
13.8
11.9
12.6
12.9
16.6
15.7
性・年齢別 食物繊維平均摂取量(H20国民健康・栄養調
では、最近の摂取状況はどうなっているのでしょ
う? 平成20年の国民健康・栄養調査から、性・年齢
階級別の平均値を示したのが上図です。
「2010年度版の『日本人の食事摂取基準』によると、
食物繊維の摂取基準は、18歳以上の男性が1日当たり
19グラム、女性が17グラムです。ところがこのグラフ
を見ると、男女ともすべての年齢階級で摂取基準を下
回っていることがわかります。
階級毎の平均摂取量を比較すると、1歳から14歳ま
ではほぼ直線的に増加して、その後低下しています。
理由は学校給食がなくなるからです。
長野県で学校給食に実際に従事。学校
教育の充実、小中学校における食育の
推進及び、児童生徒の食に関する調査
研究を行うことで、児童生徒の食生活
の実態や生活のリズムの状況を明らか
にするなど、その活動研究活動は各方
面から注目されている。
●約4万人の実態調査から何がわかった?
長野県では、学校保健会栄養教諭・学校栄養職員部
会と県下の小中学校の協力により、小学5年生と中学
2年生、および担任の教師を合わせた約4万人を対象
とした、食と生活リズムに関する実態調査が行われて
います。実施されたのは平成16年度、19年度、22年度
の3回。目的は、児童生徒の食生活や生活習慣の実態
の把握と、これまでの指導の成果を把握するため経年
変化を確認することです。
この調査のリーダ役を果たしているのが、発表者で
ある柳沢幸子氏です。
調査項目は多岐にわたっていますが、食物繊維の摂
取に関連するのは排便についての調査です。
「うんちは毎日出ますか?」という質問に、『時々出
ない日がある』または『何日も出ないことがある』と
答えた割合、つまり毎日排便がない児童生徒の割合は
約4割にのぼります。この結果を過去2回の結果と比
較すると、私たちの指導にもかかわらず、残念ながら
ほとんど改善が見られません。
ちなみに男女を比較すると、毎日排便がない割合は
男子は36%、女子は48%です。今後は、特に女子の指
導を強化していく必要があると考えています」(柳沢
氏)
排便の状況(小5)
24.4
全体
男子
のみ
33.9
30.7
女子
のみ
18.0
0%
37.1
33.4
32.2
34.3
20%
40%
42.2
60%
80%
4.6
3.7
5.5
-子どもの食物繊維不足。その背景とは?-
家庭の食卓実態と子供の便秘
-ADK「食DRIVE」調査より-
アサツーディ・ケイ 200Xファミリーデザイン室 室長
慶應大学スポーツ医学研究センター 研究員
岩村 暢子氏
数々の調査に基づき、現代家族の問題
や社会現象を読み解く研究を実施。15
年目になる「食DRIVE」調査は官公
庁・各種団体・企業等によく知られ活用
されている。著書『変わる家族 変わる
食卓』
『「親の顔が見てみたい!」調査』
ほか。『家族の勝手でしょ!』では辻静
雄食文化賞受賞。
毎日同じ頃出る
●今、食卓で想像を超える深刻な事態が起こっている
毎日出るが
同じ頃ではない
時々出ない日が
ある
何日も出ないこ
とがある
発表者の岩村暢子氏は、1998年から「食DRIVE」
調査を継続的に行っています。目的は、食卓の実態を
調べることで、家庭の人間関係、価値観、意識の変化
を調べることです。調査対象は首都圏在住で子供がい
る、1960年以降生まれの主婦。調査は、次の3つのス
テップで行われます。
100%
●毎日排便があるのは、食物繊維の摂取量が多い児童
生徒
では次に、毎日排便がある児童生徒にはどんな特徴
があるのでしょう?
「排便と学校給食以外の食事の内容との関係を分析
すると、毎日排便がある児童生徒の方が『朝食を食べ
ている』『いも類・その他野菜・海草類を多く食べて
いる』という傾向がありました」
さらに柳沢氏によると、この調査と同時に松本大学
の依頼で行った調査(BDHQ[簡易型自記式食事歴
質問票])の結果から、その他野菜やいも類の摂取が
多い児童生徒は、1日当たりの食物繊維の摂取量も多
いことがわかりました。
つまり食物繊維の摂取量が多い児童生徒ほど、規則
正しい排便がある可能性が高いのです。
また、食事以外の要素としては、運動量が多い児童
生徒ほど、毎日排便があるという結果です。
「ほかにも、毎日排便がある児童生徒は、そうでない
児童生徒に比べて、『体調がいい』と答えた割合が高
くなっています」
そのほかにも、調査によって生活リズムについて明
らかになったことが報告されました。
○夜遅くまで起きている児童が増えている
○朝食を食べる児童の割合が増えている。ただし栄
養バランスの面では問題がある
○体調が良い、児童・生徒は早寝・早起きの傾向がみ
られる。
○第1ステップ:アンケート調査(食卓・食事・食品
と、家族の状況について)
○第2ステップ:1週間、食卓の実態を記録をして
もらう(日記による食事の記録と食卓の写真撮影)
○第3ステップ:2時間の面接調査(アンケート調
査と、食事の日記・写真をつきあわせ、矛盾点や疑
問点を解消していく)
「調査の度に驚かされるのは、アンケートの内容と、
食卓の実態がかけ離れていて、とても同じ家庭とは思
えないケースが多いことです」(岩村氏)
実際にある家庭(長女10歳、次女9歳の4人家族)
の例を紹介しましょう。アンケートには「野菜を多く
摂ることを重視しています。量だけでなく、日に10種
類は摂りたいと思っています。子供が苦手な野菜は、
調理の工夫もしています」と記入されていました。と
ころが調査4日目の食事は、
朝:母親は朝食なし。長女と次女は食パン2枚のみ
昼:母親と長女と次女で、4種類の菓子パンのみ
夜:そば、カキフライとちくわの天ぷら
「第3ステップの面接で、『野菜がありませんが、ど
うされたのですか?』と質問すると、『疲れていたの
で…。そういう日は野菜不足は気にしません』という
答えでした。実際は、ほかの日もほぼ同じ内容だった
のですが」
極端な野菜不足の現状を知った岩村氏は、「お子さ
んは便秘ではありませんか?」と質問。返ってきたの
は「そうですね。原因は、夏休み中で給食がなく、牛
乳を飲まなかったからだと思います。そこで、夏休み
最後の日に牛乳を買って飲ませました」という答えで
した。
●問題の背景には何があるのか?
岩村氏によると、こうしたケースは決して特別では
ないそうです。
「あくまでも実感値ですが、面接をしていると6割
程度のご家庭が野菜不足だと感じます。そのため200
6年ぐらいからは、『お子さんは便秘ではありません
か?』質問するようになりました。
すると、約4割のお母さんが『うちの子は便秘で
す』と答えます。中には『便が出ず気分が悪くなって
吐いた』『便秘がひどくて救急車で運ばれた』という
ケースさえあります」
では、なぜこのような深刻な状況が起こっている
のでしょうか? 岩村氏は、背景には母親の次のよ
うな考え方や状況があると指摘しました。
○我が子の便秘の原因が食事にあると考えていない。
小食、水分を摂らない、体質、ストレスなどが原因
だと考えている。
○アンケートからわかるように、自分が用意する食
事は野菜が十分だと考えている。
○栄養士の指導を都合のいいように解釈する。
(例「1週間の間でバランスがとれればOK」という
指導を「1週間に1回摂ればいい」と受け取る)
○野菜料理のレパートリーが不足している。
○野菜を洗ったり、皮をむいたりするのが面倒。がん
ばって作っても、子どもは野菜を残すのだから、最
初から野菜料理を作らない。
○仮に問題があると認識しても、我が子に強く言え
ない。健康ために野菜なども食べなさいと言うこ
とを「押しつけ」「無理強い」と考えるため、食卓
が“アンコントロール状態”になっている
-食物繊維の作用は、便通の改善だけでない!-
食物繊維の役割と最新の研究について
愛媛大学 農学部生物資源学科栄養科学 教授
海老原 清氏
日本食物繊維学会の常任理事。食物繊
維研究の第一人者として、食物繊維の
栄養・生理機能の研究を行う。最近では
ヒトで消化されないデンプンの一種レ
ジスタントスターチの栄養・生理作用
の解明に成果をあげている。学会賞受
賞、論文、著書多数。
●従来の食物繊維の枠を超えた研究が始まっている
従来の食物繊維の定義は「ヒトの消化酵素で分解さ
れない植物細胞壁成分」というものでした。
ところが、それ以外の物質にも食物繊維と似た作用
があることがわかってきたため、日本食物繊維学会で
は、従来の定義を広げることを決定。新たに「ヒトの
消化酵素で消化されない食物中に含まれる難消化性
成分全体」という定義を作り、このような物質を「ル
ミナコイド」と呼ぶことを決めました。
つまり、胃や腸で消化吸収できない物質を総称して
ルミナコイドと呼ぶことになったわけです。
「ルミナコイドの一つに“消化されないデンプン”と
いう意味の『レジスタントスターチ』があります。そ
の一種が、デンプンに化学的な加工を加えた『加工デ
ンプン』です。
先ほど発表をされた岩村先生のお話によると、野菜
が不足している一方で、パンやパスタ、うどんなどの
デンプンが入った食品を食べているお子さんが多い
ようです。もしも、こうした食品の材料として加工デ
ンプンが使われるようになれば、食物繊維不足の改善
に貢献できるはずです」(海老原清氏)
●ポイントは、保護者に過大な期待をしないこと
●糖尿病や肥満の予防を手軽に実践できる可能性が
特に最後の点を考えると、従来型の啓発活動だけ
では状況は改善しないことがわかります。
「深刻な状況を打開するためには、中長期的な対策
と短期的な対策の二つが必要だと思います。食生活
や食習慣を変える、中長期的な対策と同時に、便秘で
苦しむ子どもを減らすためにも、短期的な対策も必
要です。
その際に大事なポイントは、
『保護者に過大な期待
をしない』ことです。そもそも、これ以上無理ができ
ないから“アンコントロール状態”が生じているので
す。保護者に努力を強いず、たとえば子どもたちが進
んで食物繊維が摂れる商品や仕組み、支援が必要だ
と考えます」
子どもたちの慢性的な食物繊維不足の状態を改善
するためには、岩村氏の指摘は必ず参考になるはず
です。
海老原氏によると、最近ラットを使った研究によっ
て、ある加工デンプンに血糖値の変動をゆるやかにす
る働きがあることがわかりました。
「ほかにも、ラットを使った実験で、腸内細菌の分布
パターンが肥満の原因の一つであることがわかって
います。食物繊維は、腸内細菌の分布パターンに影響
を与えます。将来的には、ルミナコイドを摂ることで
ダイエットが可能になるかもしれません」
同様に、あるルミナコイドをラットに投与すると、
血液中の水素濃度が上昇することがわかっています。
水素には、体内に発生した活性酸素を無毒化する働き
があります。つまり将来的には、ルミナコイドに抗酸
化作用があることが証明される可能性があるのです。
食物繊維の働きには、便秘改善というイメージがあ
ります。実は、その枠を超えていく可能性が、ルミナ
コイドには秘められているようです。
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