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2001(日本語Pdfファイル)
2002M4.1.6
[M4.1.6]
長期規制対応型車両に対する超低濃度排ガス測定技術
の研究
(超低濃度排ガス測定技術グループ)
○ 浪山 和義、西村 純一、古関 惠一、川口 浩司
山岸 豊、井上 香、小川 恭広、大槻 聡
1.研究開発の目的
環境負荷低減を目的として、自動車からの排出ガス規制が強化されつつある。日本国内
においては、平成 9 年 11 月の中央環境審議会答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあ
り方について(第二次答申)
」
(以下、平成 12 年規制と呼ぶ。
)に続き、平成 14 年 3 月に
は、中央環境審議会「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第五次答申)
」
(案)
がまとめられ、乗用車に対しては平成 17 年の達成を目指し、排出低減対策と CO2 低減対
策の両立に配慮しつつ、NOx 等をさらに低減する数値目標値(以下、平成 17 年規制と呼
ぶ。
)が公表された。一方、地球温暖化の観点からは、日本、欧州では、平成 20∼22 年に
おいて燃費規制が予定されており、各自動車メーカーからは、これらの規制に対応するた
め、筒内直接燃料噴射(直噴)に代表される高度な燃料噴射技術、燃焼制御技術及び新型
触媒技術を搭載した車両が開発されている。これら新技術を搭載した車両を用いて排出ガ
ス評価を行なう場合、対象となる排出ガス濃度が極めて低くなると同時に、学習制御機能、
触媒浄化特性等の影響により排出ガス測定の繰り返し精度が悪化するため、従来の排出ガ
ス評価法及びシステムでは測定に限界があることがわかってきている。
本研究は、自動車側の排出ガス低減技術が、排出ガス測定の繰り返し精度に与える影響
を明確にすると同時に、平成 12 年規制の(及び 17 年規制で想定される)低濃度の排出ガ
ス測定において、従来からの車両と同様の繰り返し測定精度を確保する測定システム、評
価条件/手法を確立することを目的として実施された。
2.研究開発の内容
2.1 現状試験法での問題点抽出
現状の国内排出ガス測定の標準的な試験法として、TRIAS
(Traffic Safety and Nuisance
Research Institute’s Automobile Type Approval Test Standard)10・15 モード排出ガス
試験における各試験条件が排出ガス測定精度へ与える影響を調べた。また、現在の標準的
な排出ガス計測システムを用いた低濃度排出ガス分析の問題点について、分析計単体及び
システム全体の精度を実験またはシミュレーションにより検討した。
2.2 排出ガス計測システムの数値モデル化
数値解析ソフトウエア(Mathematica)上で、排出ガス計測システムを表現する数値モ
デルのプラットフォームを作成し、CVS(Constant Volume Sampler)法及び BMD(Bag
Mini Diluter)法の各要素技術を検討し、LEV(Low Emission Vehicle)計測適用時の誤
差要因をシミュレーションにより定量的に把握した。
2.3 最適測定法のスクリーニング
E-CVS(Enhanced CVS)及び BMD 法と CVS 法との比較、さらに自動運転ロボット
の次世代車への適応性の観点から、直噴 CVT(Continuously Variable Transmission)車
を用いて、人間ドライバー試験との比較を行い精度上の課題を抽出した。
2.4 自動車側条件の影響因子検討
高性能触媒を搭載した PFI 車(LEV)及びリーン NOx 触媒を搭載した直噴車を用い、
排出ガス測定値のばらつきの形態と特徴及びばらつき要因について検討した。
2.5 低濃度排出ガス測定法検討
超低濃度排出ガス車(SULEV:Super Low Emission Vehicle)相当の車両排出ガス、
モデルガスを使用し、サンプリングシステムの低濃度計測適応性を確認した。また、湧き
出し影響の小さいバッグ素材や、実ガス測定後の残留ガスの効果的なパージ方法の検討な
ど、キーとなる HC 計測精度の向上策を検討した。さらに、自動運転ロボットの次世代車
両への適合性を客観的に評価するための、妥当な評価手法を確立した。
2.6 燃料性状の影響検討
排出ガス測定繰り返し精度に影響を与える燃料要因を抽出し、測定精度に与える影響を
検討した。
2.7 具体的評価手法の改善案検討
試験車両状態を最適化するための手法の検討を行うとともに、超低濃度の排出ガス評価
に適した評価、分析手法の検討を行い、繰り返し測定精度の改善に向けた具体的評価手法
の改善案を提案した。
3.研究開発の結果
3.1 現状試験法での問題点抽出
(1)評価法の問題点
本研究では、TRIAS 排出ガス試験の各条件について、試験法上、特に制約のない(ある
いは一定範囲内の変動が許容されている)試験条件(プレコンディショニング(以下、プ
レコンと呼ぶ。)
、運転者(人間ドライバー/自動運転ロボット)
、モード追随性など)を抽
出し、試験結果へ与える影響を調べた。ここでは一例として、PFI 車両(平成 12 年規制
対応 2L)を用い、モード指定速度への追随性についての結果を示す。TRIAS「ガソリン
自動車の排出ガス試験方法」で許容される指定速度との誤差範囲(±2km/h)の上限、中
間、下限で運転を行い、実際にこの許容範囲が低濃度排出ガスの測定精度にどの程度の影
響を与えるか調べた結果を図1に示す。この図より、試験法の許容範囲内であっても速度
の差が排出ガス及び燃費に影響し、特に CO 排出量については大きな差につながることが
わかり、現状、TRIAS 試験条件での試験においても試験の方法により試験結果に違いの出
ることがわかった。
車両:平成 12 年規制対応、2.0L 直列 4 気筒/PFI/三元触媒付
試験モード:10・15 モード(希釈空気精製装置 ON、低濃度排出ガス分析計使用)
0.12
(g/km)
COCO
(g/km)
0.015
0.09
THC
THC (g/km)
(g/km
0.004
NOx
(g/km)
NOx
(g/km
15
0.003
0.010
0.06
燃費 (km/L)
燃費 (km/L)
10
0.002
0.005
0.03
0.00
0.000
Lower
Center
Upper
5
0.001
0.000
Lower
Center
Upper
0
Lower
Center
Upper
Lower
Center
10・15 モード試験の速度許容差の排出ガス、燃費への影響
図1
(2)測定システムの問題点
CVS のシステムチェック法(プロパンショット)を対象に、低濃度ガス測定結果の誤差
範囲を推定した。なお、プロパンショットは、CVS に導入したプロパン重量の秤量値とバ
ッグ計測から算出するプロパン重量とを比較する手法である。考慮した誤差要因は、①分
析計直線性、②校正ガス精度、③校正ラインとサンプルラインの指示差、④CVS 流量制御
誤差、⑤システム内の吸着・湧き出しで、全体としての影響を二乗和の平方根で評価した。
THC 計最高レンジ 50 ppmC、希釈空気中の THC 2 ppmC
図2に、
CVS 総希釈体積 180 m3、
という仮定での解析例を示す。含まれ得る誤差の最大値を常に±2 %以下に抑えるには、
44 ppmC 以上のバッグ濃度が必要である。逆に、それ以下の低濃度領域でも充分な測定精
ERROR OF Mbag (+/-, g)
度を確保するには、各誤差要因を極力抑えることが不可欠であるといえる。
Error +/-2% Line
0.10
0.05
Given Condition
Linearity :
(Dynamic Single Range)
Span Gas : +/-1.0%
Line Difference : +/-1.0%
Vmix Error : +/-0.5%
Vmix : 180m3
Contamination : +/-0.2ppmC
Camb : 2.0ppmC
0.00
0
2
4
MASS OF C3H8 (Mbag, g)
10
20
30
40
50
SAMPLE BAG CONC. (Csam, ppmC)
図2
プロパンショットの誤差解析例
3.2 排出ガス計測システムの数値モデル化
Mathematica にて作成した数値モデルを用い、CVS(従来設備及び改良設備)計測・
BMD 計測に関する誤差解析を行った。図3に、例として、エンジンから排出される THC
の累積重量、CVS・BMD バッグ中の THC 濃度変化のシミュレーションを示す。最初の
Upper
れ、さらにその後ほとんど排出の見られな
い期間(斜線部分、100∼170 秒付近)が
MASS (g)
40 秒付近までに総質量の約 2/3 が排出さ
切り換えたとすると、その時点のバッグ中
THC 濃度は通常の約 4 倍にあたる約 44
ppmC となる。このように、バッグ切換タ
イミ ン グ を シフ ト す る こと で 、 低 濃 度
CONC.(ppmC)
ある。仮に CVS のバッグを 100 秒時点で
0.50
0.25
0.00
300
CVS
BMD
150
0
0
THC を効果的にサンプリングできる。モ
100
200
300
400
500
TIME (s)
ード全体の排出重量の誤差に対しては最
図3
初のバッグの測定誤差が最も重みをもつ
累積排出重量・バッグ内濃度推移
(LA4 モード CT、THC)
ことから、今後の超低濃度排出ガスの測定
誤差低減には有効な手段となると考えられる。
3.3 最適測定方法のスクリーニング
図4に、BMD 法・CVS 法を用いて LEV 相当車排出ガスを測定した結果を示す。BMD
の希釈用ガスとして、窒素、及び純度の異なる2種類のボンベ空気を比較した。走行モー
ドには、米国 FTP75 のスタビライズド(S)
・ホットトランジェント(HT)フェイズを用
いた。BMD 法による排出重量測定値は、従来 CVS 法に対して CO2 で誤差 -4.0∼-0.3%、
CO で -3.9∼1.9%と、ある程度の濃度が排出される成分については比較的よい相関が得ら
れた。一方、低濃度成分である NOx は -16∼2.9%、THC は -94∼27%と差が大きいこと
がわかる。さらに、BMD の希釈用ガスに窒素を使用した場合は THC が低くなる傾向がみ
られる。これは、FID の指示がサンプル中の酸素濃度に影響されるためで、補正によりキ
BMD-BAG (g/phase)
ャンセルできることが確認できている。
10
1500
HT phase
5
750
S phase
CO
0
0
5
10
BMD-BAG (g/phase)
0.2
CO2
0
0
1500 FTP75 mode (LEV)
750
0.10
HT phase
0.1
HT phase
0.05
S phase
S phase
0.0
0.0
THC
0.1
0.2
CVS-BAG (g/phase)
図4
0.00
NOx
CVS: 9 m3/min
Without DAR
BMD: DF=6.16
Dilution gas for BMD
N2
Pure Air (99.9995%)
Pure Air (99.99999%)
0.00
0.05
0.10
CVS-BAG (g/phase)
LEV 車による CVS 法・BMD 法クロスチェック
3.4 自動車側条件の影響因子検討
(1) 測定精度悪化現象発現条件の調査
本研究では、自動車側技術が排出ガス測定の繰り返し測定精度に及ぼす影響を検討する
ため、先進技術を搭載した PFI 車と直噴車に着目して試験車両を選定した。尚、試験には、
一部の試験を除き、市販プレミアムガソリンを使用した。
図5に、直噴車(車両 A:1.8L 4 気筒)と PFI 車(車両 D:2L 4 気筒)について、通
常の TRIAS 手順に従い 10・15 モード試験を実施し、その繰り返し性を比較した結果を示
す。ここでは、繰り返し性を(1)式で定義した。この結果より、特に直噴車の CO 及び NOx
で、繰り返し性が極めて悪いことがわかる。
THC排出量 (@10-15モード)
2回目
CO排出量 (@10-15モード)
3回目
1回目
CO排出量 (g/km)
THC排出量 (g/km)
0.020
0.015
0.010
0.005
0.000
繰返し性
2回目
28%
図5
PFI車
47%
NOx排出量(@10-15モード)
3回目
1回目
2回目
3回目
0.010
0.45
0.008
0.40
0.35
0.008
0.007
0.30
0.25
0.20
0.15
0.10
0.05
0.00
0.006
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
0.000
0.006
0.004
0.002
0.000
直噴車A
… (1)
平均値
NOx排出量 (g/km)
1回目
最大値−最小値
直噴車A
PFI車
106%
86%
←左スケール
右スケール→
直噴車A
PFI車
287%
30%
0.009
直噴車(車両 A)と PFI 車(車両 D)の排出ガス繰り返し性比較
モード全体での排出ガスの繰り返し
性を考える上では、どのモードの条件
が全体のばらつきに対し、支配的かを
では、試験モードを個別のモードに分
割し、各分割されたモードでの排出ガ
スのばらつきと全体モードへの影響を
調べた。図6に、異なる直噴車2台(車
両 A:1.8L 4 気筒、車両 B:3L 6 気筒)
100%
排出ガスの排出割合
調べることが有効と考え、本検討の中
80%
60%
40%
20%
0%
THC CO NOx
直噴車A
の 10・15 モード試験において、排出ガ
ス測定を 10 モードと 15 モードで個別
に行い、それぞれの排出ガス値が 10・
15 モード全体の排出ガス値に与える影
響を示す。この結果より、例えば NOx
10モード
15モード
図6
THC CO NOx
直噴車B
個別モード排出ガスのモード全体
排出ガス測定値に与える影響
NOx排出量 (g/km)
繰り返し性 =
に関し、車両 A では 10 モードが支配的であるのに対し、車両 B ではやや 15 モードが支
配的など、直噴車両でも車両のタイプにより支配的なモード部分が異なることがわかった。
また、NOx について、個別モードのばらつき形態を図7に示す。この結果から、車両 A
については、15 モードの測定値のばらつきは比較的狭い範囲であるのに対し、10 モード
でのばらつきは広い範囲に分散していることがわかる。
直噴車A(10モード)
10
10
8
8
0.0054
0.0046
0.0042
0.0038
0.0050
0.5400
0.5000
0.4600
0.4200
0.3800
0.3400
0.3000
0.2600
0.2200
0.6200
0.5800
0.5400
0.5000
0.4600
0.4200
0
0.3800
0
0.3400
2
0.3000
2
0.2600
4
0.1800
6
4
NOx (g/km)
直噴車B(15モード)(参考)
0.1400
6
0.2200
0.0062
8
0.1800
0.0058
8
0.1400
0.6200
10
0.1000
0.5800
10
頻度
12
0.1000
直噴車B(10モード)(参考)
12
頻度
0.0034
NOx (g/km)
NOx (g/km)
図7
0.0030
0.0026
0.0010
0.0062
0.0058
0.0054
0.0050
0.0046
0.0042
0.0038
0.0034
0.0030
0.0026
0
0.0022
0
0.0018
2
0.0014
4
2
0.0010
4
0.0022
6
0.0018
6
直噴車A(15モード)
0.0014
頻度
12
頻度
12
NOx (g/km)
10・15 モード試験における 10 モード、15 モードのばらつき形態(NOx の例)
(2)NOx ばらつき要因の検討
NOx のばらつき要因をより詳細に理解するため、NSR 触媒に着目し、各種運転条件に
おける NSR 触媒前後の温度及び排出ガスの測定を行った。図8に、NOx レベルの異なる
2ケースについて、10・15 モード試験中の NSR 触媒前後での NOx 及び温度の経時変化を
示す。この結果から、特に、NOx においては、15 モード部分において両ケースで排出量
に大きな差が見られ、この差が最終的に 10・15 モードでの測定値のばらつきにつながった
ものと考えられる。さらに、詳細に結果を調べると、NSR 触媒前 NOx では、15 モードの
加速部分よりも、むしろ加速に入る直前(t=469s)のアイドリング部分及びそれ以前の
部分で両ケースに差が見られることがわかった。また、NSR 触媒前後温度は、NSR 触媒
へ流入する際の両ケースの排気ガス温度がほぼ同一レベルであるのに対し、NSR 触媒後の
排気ガス温度では、10 モード後半から 15 モード前半にかけて差が見られることがわかっ
た。これらより、15 モード部分で見られた NOx 排出量の差は、10 モード後半から 15 モ
ード開始までの触媒へ流入する NOx 量及び触媒温度の変化が大きく影響していることが
示唆される。本研究の検討において、NSR 触媒後温度は、NSR 触媒前の THC、CO と相
関が見られることがわかっており、このことから、THC、CO が NSR 触媒で NOx 還元剤
として作用し、NSR 触媒での反応熱に影響を与えることが考えられる。
試験No.7(低NOxケース)
10モード
試験No.16(高NOxケース)
15モード
80
車速, km/h
60
40
20
NSR前NOx濃度, ppm
テールパイプNOx濃度,
ppm
0
120
100
80
60
40
20
0
NSR前NOx濃度の差が触媒吸蔵状態
に差を及ぼす可能性
2000
1500
1000
t=469s
500
0
NSR後温度, ℃
340
15モード前の触媒温度が15モードでの
浄化性能に影響ある可能性
320
300
t=469s
280
260
240
この傾向差は、触媒の
反応熱による差?
NSR前温度, ℃
400
380
360
340
320
300
0
図8
100
200
300
時間, sec
400
500
600
700
NOx 触媒前後の温度、NOx 濃度が排気管 NOx 測定値に与える影響(車両 B)
3.5 低濃度排出ガス測定法検討
(1) バッグ素材の検討
バック素材からの湧き出しは THC 測定精度に大きく影響する可能性がある。そこで、
一般的な素材である PVF(ビニルフルオライド樹脂)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ
化プロピレン共重合樹脂)に、TFM/PTFE 樹脂を追加して比較試験を行った。
図9に、バッグ材質・処理による THC 湧き出し量の違いを示す。左図(Dry Air)は乾
燥空気封入、右図(Wet Air)は室温飽和程度の水蒸気を含んだ加湿空気封入にてデータ
を採取した。TFM/PTFE 製バッグでは、HC 湧き出しは常に低レベルで安定しており、加
湿の 有 無 に よ る 差も ほ と ん ど な か っ た 。 ま た 、 別 途実 施 し た CO2 透 過 性 試 験 で は
TFM/PTFE の CO2 透過性は FEP の半分以下で、燃費計測に与える影響は比較的小さいこ
とが確認できた。以上より、低濃度排出ガス計測用のバッグ素材として、TFM/PTFE が
候補の一つになると考えられる。
HC OUTGASSING (ppmC)
1.2
1.2
Dry Air
Wet Air
0.8
0.8
0.4
0.4
0.0
0.0
0
40
80
120
0
40
80
120
TIME(min)
TIME(min)
Tedler(PVF) bag, 50mm
Heat processed Tedler bag, 50mm
FEP bag, 50mm
Dyneon(TFM/PTFE) bag, 125mm
(Under room temperature, 25degC)
図9
バッグ素材の比較検討(HC 湧き出し評価)
(2) バッグ残留 HC のパージ手法の検討
図 10 に、TFM/PTFE 製バッグを用いた、パージ手法の効果と所要時間の比較試験結果
を示す。A は通常用いられるパージ手法(CVS システムのラインを通じた希釈空気充填・
排気の繰り返し)、B・C は、空気充填・排気(各 1 回)を行ったうえで空気封入・放置
する手法、D は、バッグにポンプを直接接続して空気充填・排気を繰り返す手法である。
結果はいずれもサンプルバック、希釈空気バッグの濃度差として示されている。初期値と
して 200 ppbC 程度の残留 HC が観測される場合、通常のパージ手法では 15 回の繰り返
し(所要時間 90 分)でも完全にはパージしきれていない。一方、ポンプ直接接続法では、
30 分程度の所要時間で残留 HC がほぼゼロになっており、効率的に残留 HC をパージでき
る方法であることが確認できた。また、封入法でも一定の効果が見られることから、夜間
200
100
100
50
0
Required Time (min)
[S.bag] - [A.bag] (THC ppbC)
等、時間に余裕のある場合のパージ手法として応用可能と考えられる。
(A) Normal purge, 15 times
(B) Cylinder air pack, 60 min
(C) DAR air pack, 60 min
(D) Shortcut purge, 20 times
0
(A)
(B)
Residual HC
Initial value
After purging
図 10
(C)
(D)
(TFM/PTFE bag,
after CT phase running)
Total Time for Purging
バッグパージの効果と所要時間
(3) モデルガス試験による CVS 精度確認
室内空気を HC の低濃度排出ガスに見立てたモデルガス試験により、CVS システムの精
度と空気精製機(DAR:Dilution Air Refiner)の効果を評価した。車両走行を伴わない
以外、試験方法は通常のモード試験と同じある。図 11 に、DAR あり・なしの 2 種類の条
件での HC 測定結果を示す。同一条件内での HC 濃度の揺らぎは、モーダル測定の積算値
で補正済みである。また、DF(Dilution Factor)(約 5.7)は、希釈空気流量の測定値と
CVS 希釈流量とから算出した。両条件の測定結果をモーダル計測結果基準で表すと、DAR
使用では+13%、DAR なしでは+7.6%となり、DAR なしの方が低めの結果が出ていたこと
がわかる。これは、流量計測から算出した DF に含まれていた誤差(プラス側)が系統誤
差として影響したものと考えられる。また、DAR なしの場合の方がやや再現性が悪い理由
として、分析濃度が高いほど分析計ノイズは増える傾向にあること、DF の偶然誤差分の
影響を DAR 使用の場合より受けやすいこと、などが考えられる。ただし、モデルガス試
験では DF の偶然誤差要因が少なく、再現性の違いは系統誤差の違いほど顕著ではない。
Number of Observations
15
Diluted by DAR Air
- Ave: 11.6 mg/test (Std = 0.175)
- Difference from modal result:
Approx. +13 %
- Sample bag: Approx. 0.47 ppmC
- Ambient bag: Approx. 0.06 ppmC
Without DAR
- Ave: 12.1 mg/test (Std = 0.194)
- Difference from modal result:
Approx. +7.6 %
- Sample bag: Approx. 2.46 ppmC
- Ambient bag: Approx. 2.46 ppmC
10
5
0
15
10
5
0
0
5
10
15
THC (mg/test)
図 11
室内空気を用いた CVS システム精度評価
3.6 燃料性状の影響検討
これまでの検討結果から、排出ガス測定精度へ影響を与える自動車側因子は、大きく燃
料噴射制御を中心とした燃焼制御技術及び触媒の浄化作用であると考えられる。特に燃料
中硫黄については触媒の浄化性能へ影響のあることが考えられるため、実際に燃料中の硫
黄濃度を変化させて排出ガスの繰り返し性を評価した。しかしながら、今回行った短期間
の試験では、燃料中硫黄濃度は排出ガスの繰返し性への影響は小さいとの結果を得た。
3.7 具体的評価手法改善案検討
(1)試験車両状態の最適化手法の検討
ECU 制御装置を用い、直噴車両の制御状態と排出ガス測定値の安定性の関係、及び最適
プレコン条件を検討した。プレコン条件としては、車両制御状態及びリーン NOx 触媒状
態の安定化を念頭に、強制的なストイキオ(理論混合比)運転を導入したプレコンパター
ンを検討し、特に NOx 測定値に着目して繰り返し性に与える影響を調べた。その結果、
図 12 に示すような各試験前にストイキオ定常運転(60km×20 分)を行うことが、NOx
のばらつきを抑えるのに有効であることがわかった(NOx のばらつき状態は図 13 参照)。
これは各試験前にストイキオ運転を導入することにより、コンピュータの制御状態が安定
化されるとともに、触媒中の NOx 吸蔵状態が安定化されるためと考えられる。
試験前に60km/h×20分
ストイキオ運転
試験前60km/h×20 分ストイキオ運転
ストイ キオ-プレ コン
N= 1
60km/h×20分 60km/h×20分
ストイキオ-プレコン
N=2
0.35
平均=0.054 g/km
σ=0.038g/km
0.30
60km/h×20分 60km/h×20分
図 12
NOx排出量, g/km
0.25
ストイキオ運転を導入したプレコンパターン
0.20
0.15
繰り返し性について、図 14 に示すように、自動運転ロボ
ットによる運転では排気管での NOx 測定値のばらつき
15
13
9
11
0.00
7
ロボットでの運転安定性の効果を確認した。NOx 測定の
5
0.05
1
また、オペレーション側からの検討として、自動運転
3
0.10
試験No
図 13
ストイキオ運転導入
は改善傾向にあることがわかった。ただし、図 14 の結果
プレコンでの NOx の
においても、未だ一部、飛び離れて高濃度の NOx 測定値
ばらつき(車両 B)
が観測されている。これは、図 15 に示すように、ECU
の通電状態にも関連する車両の学習制御に影響している
ものと考えられる。そこで、学習状態を統一化するため
に、ひとつの手法としてソーキング時の ECU の通電状態に着目し、ECU 電源 ON のデータの
みの抽出を試み、そのデータのみを纏めると、図 16 に示されるように極めて繰り返し性の良
いデータが得られることがわかった。
ドライバーオペレーション
ロボットオペレーション
@10・15モード
@10・15モード
10
平 均=0.052g/km
標準偏差=0.038g/km
4
4
0
0
∼
∼
0
0.
00
3
0.
01
5
∼
0.
02
7
∼
0.
03
9
∼
0.
05
1
∼
0.
06
3
∼
0.
07
5
∼
0.
08
7
∼
0.
09
9
2
10-15mode NOx, (g/km)
平 均=0.026g/km
標準偏差=0.027g/km
6
2
∼
∼
8
頻度、 回
6
.0
03
0.
01
5
∼
0.
02
7
∼
0.
03
9
∼
0.
05
1
∼
0.
06
3
∼
0.
07
5
∼
0.
08
7
∼
0.
0
99
頻度、 回
8
10
10-15mode NOx, (g/km)
図 14 ドライバーと自動運転ロボットによる NOx 測定値
のばらつき(車両 B)
15モード
60
10モード
15モード
40
10
8
0
40
30
AFRAFR
平 均=0.013g/km
標準偏差=0.005g/km
20
頻度、 回
Vehicle speed,
Vehicle speed,
km/h
km//h
80
6
4
20
2
0.
ECU電源off直後の試験見られる
30
∼
40
0.
50
00
3
0
∼ 15
0.
0
∼ 27
0.
0
∼ 39
0.
0
∼ 51
0.
0
∼ 63
0.
0
∼ 75
0.
0
∼ 87
0.
09
9
0
60
∼
Post
NSR NOx, ppm
Post NS R NOx, ppm
10
20
10-15mode NOx, (g/km)
10
0
0
100
200
300
4 00
5 00
6 00
7 00
80 0
Time, sec
図 15
図 16 ECU 電源 ON データ
ECU 電源 ON/OFF での空燃比及び
の抽出による NOx
排気管 NOx の経時変化(車両 B)
測定値のばらつき改善
(2)超低濃度排出ガス測定システムの検討
低濃度排出ガス測定方法として従来法を踏襲する場合、CVS システムを最適化した ECVS がベースとなる。各種最適化手法のうち、効果が大きいと考えられるのは DAR の使
用である。希釈空気の精製には DF に含まれる誤差の影響、特に系統誤差の影響をキャン
セルする効果があることが、数値モデル解析、あるいは大気を用いたモデルガス試験など
から確認できた。一方、新手法である BMD 法は、CVS との相関が CO2 で確保できるポテ
ンシャルがあることが本研究での排出ガス計測試験にて示された。ただし、安定化につい
ては今後の課題である。
また、低濃度 HC 計測精度の確保については、システム素材からの湧き出し量、あるい
は排出ガス中 HC の吸着・脱離量の抑制と安定化もポイントとなる。特に影響の大きいバ
ッグからの湧き出し、吸着・脱離対策としては、TFM/PTFE 製バッグの採用、効率的な
新パージ手法の導入が有効であることが確認できている。
さらに、いわゆる次世代車両では、自動運転ロボットによる走行でも排出ガス発生濃度
が安定しないケースが起こり得る。このような場合、リアルタイムでの運転挙動・エミッ
ション再現性を客観的に評価する必要がある。図 17 に、本研究で検討した評価手法の応
用例を示す。車速・エンジン
平均値評価(総合評価)
回転、またバッグ分析でのエ
エンジン回転
THCエミッション
実車速
ミッション(図外)などは安
定しているにもかかわらず、
リアルタイムでの THC 排出
アクセル
50
ブレーキ
0
-50
排ガス流量
CO
-100
AF
減速
ダイナモ
2回目
加速
THC
NOX
1回目
-100
CO2
系列データでのばらつきが簡
概略を示す。
スロットル開度
0
-50
うに、本評価方法により、時
る。図 18 に、評価フローの
100
50
はばらつきが大きい。このよ
単に視覚化できることがわか
発進
100
3回目
4回目
定速
5回目
図 17
6回目
7回目
自動運転ロボットの評価例
(直噴 CVT 車、10・15 モード 7 回走行)
(1) 時系列データDn(t)(n=1,2・・・)から、平均時系列データDave(t)算出
誤差基準値
(2) Dave(t)からの誤差En(t)(n=1,2・・・)を算出(単位:%)
(3) 誤差基準値(ΔE)を設定、誤差En(t)を点数Sn(t)(n=1,2・・・)に変換(右上図)
(4) 点数データを走行状態(V:目標車速、α:目標加速度)で分類
・
・
・
・
発進(s):α>0、V<10 km/h
加速(a):α>0
定速(c):α=0、V>10 km/h
減速(d):α<0、V>0 km/h (5) 結果の集計(N:データ数)
・ 総合: Sn_total =ΣSn(t) / N
・ 発進: Ssn_total = ΣSsn(t) / Ns
・ 加速: San_total = ΣSan(t) / Na
・ 定速: Scn_total = ΣScn(t) / Nc
・ 減速: Sdn_total = ΣSdn(t) / Nd
(6) レーダチャートにプロット(右下図)
図 18
自動運転ロボットの評価フロー
4.まとめ
平成 11 年度から平成 13 年度にわたり、新規排出ガス対策技術を搭載した車両から排出
される超低濃度排出ガスの測定技術について、その繰り返し測定精度の改善を目標として、
排出ガス評価法及び測定システムの両面から検討を行った。
超低濃度排出ガス評価法からの検討においては、車両状態としては噴射制御、触媒制御
の状態、また、試験条件としては運転手段(ドライバーまたは自動運転ロボット)やモー
ドへの追随性の影響が大きいことなどを明らかにした。これらの検討を通じ、繰り返し精
度を向上するオペレーションとして、プレコンディショングへのストイキオ運転条件の導
入、自動運転ロボットでの運転制御等を含む精度向上に向けた評価手法改善案を提案した。
一方、超低濃度排出ガス測定システムからの検討に関しては、候補となる測定システム
として定容量希釈サンプリング(CVS)法・空気精製機の組み合わせ、及びバッグミニダ
イリュータ(BMD)法を想定し、精度確保上のポイントを数値モデルや実験を通じて解析
した。特に低濃度測定のキーとなる HC 計測では、バッグやシステム部品の素材による吸
着・脱離が問題になることを把握した。精度向上策として、適切な Bag 素材を選定するこ
と、Bag パージ法を最適化することの有効性を確認した。また、測定システムの一部とし
て欠かせない自動運転ロボットについては、様々な車両での運転性能を客観的に判断する
のに有効な評価方法を提案した。
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