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合衆国破産規則九〇一 一 条

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合衆国破産規則九〇一 一 条
合衆国破産規則九〇一一条
一六九
齋 藤 善 人
1 制定後現在までの規定の変遷
三九〇二条
2 判例における九〇一一条の適用
一 序 説
2 本稿の ね ら い
四 結 語
1 連邦民訴規則と破産規則
二 九〇一一条制定前の状況
2 その限界
1 濫用的申立てに対する制裁の理論的裏づけ
合衆国破産規則九〇一一条
早法七二巻四号︵一九九七︶
一 序 説
連邦民訴規則と破産規則
一七〇
そこで、一九八三年に一一条の改正がなされたが、これは連邦の民事訴訟のすべての局面において、プリーディ
因となった。
果、弁護士は十分に調査することなく、安易にプリーディングや申立てをなし、それが訴訟遅延やコスト増大の原
当な制裁処分を内容とするものであった。しかし、プリーディング書面や申立ての登録抹消等の制裁賦課の具体的
︵2︶
要件や、弁護士への適当な制裁の内容が明確でなかったために、実際の適用例はあまり報告されなかった。その結
人による署名を要求し、これに違反した場合には、当該プリーディング書面の登録の抹消および弁護士に対する適
一九三八年に制定された連邦民訴規則一一条は、すべてのプリーディング書面について、弁護士または当事者本
︵1︶
︵8ヨ巳巴邑であり、これに対する被告のプリーディングが答弁書︵き馨R︶である。
論の主張の段階に該当するが、法廷外で行なわれる点で、わが国と異なる。原告によるプリーディングが訴状
る書面交換手続から始まる。これは各当事者が自分の主張を記載した書面を互いに交換するもので、いわば口頭弁
なきプリーディングの制裁に関する二条の規定といえる。アメリカの民事訴訟手続は、プリーディングと呼ばれ
ω連邦民訴規則二条 最近のアメリカ民事訴訟法をめぐる議論の中で、もっとも活発な領域の一つが、根拠
1
ングや申立ての濫用を防止する効果的な抑止力となるべく一一条を明確化し、制裁規定としての側面をより広範囲
︵3︶
ことのなかった二条は、連邦民訴規則中でも重要な規定として一躍表舞台に登場することとなった。
に利用することを意図したものだった。はからずもこの改正は、裁判所の負担を軽減するものとして、多くの連邦
︵4︶
裁判所に受け入れられ、本条をモデルとした規定が三〇余州で採用された。こうして、それまで議論の姐上にのる
︵5︶
ω破産規則九〇二条 連邦民訴規則二条についての入三年改正は、ひとり民事訴訟手続に重大な影響を及
ぼしただけではなく、破産規則の修正という形にもなって現われた。同年に制定された破産規則九〇一一条は、基
本的に民訴規則新一一条を破産手続に導入した規定と評価でき、しかも九〇二条の守備範囲は、一一条のように
当事者主義手続といった場的限定をすることなく、破産事件に関連するあらゆる紛争事項を対象とする点で、はる
かに広範なものとされた。債務者によって申し立てられた債権表や貸借表といった一定の書面を除いて、九〇一一
条の責任は、破産事件において提出され、あるいは申し立てられたすべての文書︵たとえば、申立書、申請書、異議
申立書、財産開示書類など︶に及ぶものとされている。九〇二条は、これらの文書によって破産手続のコストを正
︵6︶
当な理由なく増加させた責任として、そのコストを弁護士や当事者にシフトする広範な権限を破産裁判官に認めた
ものである。
本稿のねらい
合衆国破産規則九〇二条 一七一
して、破産裁判所が、規則九〇一一条を根拠として制裁を課すことで、手続を指揮・管理する傾向が大きなうねり
破産手続のあらゆる局面において、債務者や債権者︵およびその代理人︶によって提出される様々な申立てに対
2
早法七二巻四号︵一九九七︶ 一七二
となりつつあるアメリカの状況を垣間みて、破産手続の適正かつ迅速な実施運営のために担うべき裁判所の積極的
役割という一つの方向性を示すものとして参考とすることにある。
法︵新版・一九九六年、弘文堂︶一一五頁以下。
︵1︶ モリソン・フォ;スター法律事務所・アメリカの民事訴訟︵一九九五年、有斐閣︶四九頁以下、小林秀之・アメリカ民事訴訟
︵2︶ たとえば、二条制定後一九七六年までに、同条違反を主張したケースは二一二件、うち同条違反が認められたのは一一件であ
臼一≦壱z●い寄<﹂る緊G。刈︵一〇蕊y
る。困ω圃轟9曇§鳴墨きミ恥ミき晦§駄雰肉§ミ§鳴ミ、恥§﹃のミ鳶鑓、、蓼§§⇔ミ導肉箋鳴ミ肉ミ鳴母Qミミ§駄ミ巴ど
︵3︶ 一一条の八三年改正についての諮問委員会記録︵︾血≦ωo曙9きB一什8Zo富9這。。。
G 四ヨ①&ヨ⑦昌#o幻巳o二︶によれば、新
規定は、弁護士の責任を強調し、かつ制裁を課すことでその義務を増大することによって、制裁の賦課に対する裁判所の消極性を
削減することを意図するものである。その他、ω9墾費器ぴ象§誉虜黛§駄ミ妹詳≧§隷魯ミN肉ミ鴨罎−匡Q8ミトo暮﹂宝男窄
。 ㎝︶旧Zgp寒恥竈oo恥>§§織§§尉む肉ミ鴨国㌧>虜ミミ帖蒜妹ミ9慧湧、○§R§ミ導㌔ミミミの墨−評吻書軌ミる一
O一〇。一︵一。。
o ①ごZΦ一箒p縛ミ融§⇔q醤駄ミ>ミ§魯織肉ミ鳴自60§鳴.6鳶ミ誌、、専9融§ωき導鴨
肉恥愚§無黛、愚︶臼Z。イqず寄<。G。。。︵一。。
。 OごZo梓ρSぎ導ミミ8蔓肉ミ鳴自%蓼塁§§晦、ぎミミ。。匙粛ミ賊§ミb鴨ミ§駄き晦ミ§。っ臓§ミ
ZO弓召∪︾蕎[寄くる。。。︵一。。
誉鳩肉ミ鴨自縛ミ職§の”一〇〇頃>幻<。い■寄<’OωO︵一〇〇。刈︶。
。 O︶旧Zgpミ§ら。篤ミ鳴ミ翁駄き題、bミ乳魯賊鑓曽§駄ミ勢
、曽§題や津§恥§9ミ辱§⇔ミ賊§§織、黛獣簿ミ§斜謹爵ρ﹃一●一ω一G。︵一。。
。︶、
︵5︶ ○∪舅P雰爵目轟堅“審F男節ω畏8!Ω<F雰○臼9召鵠①︵①爵①阜お3︶は、一一条についての連邦最高裁の積極的判断
︵4︶自Φωの﹄ミ鳴N一、§誉ミミ肉箋鳴ミ§職の鄭§O§ヨ﹄ミ肉§ミら§9ミ鷺ミミの鷺§お冨夷ρい寄ダ。 。βω一①︵一。。N︶。
を引用する。
︵6︶身毎ρの§駐§砺誉鳩ミ薯賢N山§禽愚§暴酋誉き爵>言望員甲いい一。P一一。︵一。。。。
二 九〇二条制定前の状況
濫用的申立てに対する制裁の理論的裏づけ
合衆国破産規則九〇二条 一七三
費用を負担させるべく、固有の権限を行使できるとした。つまり、主観的な不誠実さの徴表が外部に表明されてい
︵12︶
士や当事者が不誠実に行動した場合、連邦裁判所が弁護士や当事者のどちらか一方、または双方に対して、弁護士
﹁すべてのことを為すのに必要な﹂、そして﹁業務を処理するために付与された﹂権限である。連邦最高裁は、弁護
︵10︶ ︵n︶
②制裁賦課についての連邦裁判所固有の権限 連邦裁判所が有する固有の権限とは、連邦最高裁によれば、
︵9︶
不注意であったことの証明が必要とされた。
これは、弁護士のみを対象とするものであり、しかも違反した弁護士が、嫌がらせ的な行動の結果生じた超過費用
︵8︶
および弁護士費用分について責任を負うものだった。また、制裁賦課の要件として、不誠実、あるいは少なくとも
長期化をはかっている弁護士に対して、裁判所が、訴訟費用や弁護士費用を課すことを認めたものである。但し、
。qψρ留。曽 これは連邦裁判所におけるすべての手続に適用される規定であり、嫌がらせ的に手続の
①N。
︵7︶
ない制裁を課す場合には、その根拠としておよそ次の三つが指摘されている。
りする以外に、破産裁判所が、弁護士や当事者に対して、金銭的制裁を課す事例はほとんどみられなかった。数少
九〇一一条施行以前には、たとえば弁護士が破産財団から報酬をうけることを認めなかったり、それを減額した
1
早法七二巻四号︵一九九七︶ 一七四
︵ 1 3 ︶
ることが、裁判所が固有の権限に基づいて制裁を課すことの要件とされた。
③破産手続規則九一一条 九一一条は、八三年改正以前の連邦民訴規則コ条に由来するものであり、裁判所
に対し、無署名の申立てや申請を削除・抹消する権限を認め、それが故意に基づくものであった場合には、弁護士
を相手として懲罰訴訟を提起することが認められた。つまり、本条は、金銭的直接的制裁を導くものではなかっ
た。
2 その限界
破産手続における濫用的申立て等を規制する制裁発動の根拠として、以上の三つには共通する限界があった。そ
れは、いずれも不誠実性や故意といった主観的要件が必要とされているため、弁護士や当事者の意思を調査せざる
︵14︶
をえないことになり、そのため手続が長期化するという反作用を生ずる点である。結果的に、明々白々の状況にな
ければ、制裁を発動しがたいというように制限的運用がなされることになった。
︵7︶ 鵠鍔o
oり○㈲一〇ミは、つぎのように定める。
︾蔓畏。暮2。3浮Φな塞8蝕且箒象。8&登8のΦω日鋤蔓8葺。津げ①蜜一邑ω藝①の。同きく↓①三8員幕§出喜。ω。
Φ図8ωω8器︸①蒼①霧①ρ蝉&讐8導Φ窃、80ω﹃$ω・召窪口⇒8霞①αびΦ。磐ωΦo房8げ8且8叶●
馨一9一一8幕蜜。8①α一鑛巴霊昌8ω霊自$ω・葛葺き牙。鍔け一。琶﹃欝菩忠8爵亀ξ叶冨8貫算。ω豊のな冨﹃ω8蝉ξ蒙
︵8︶勾8量塁穿實Φωの﹂琴ダ℃一需さ戯嵩O。ψ露為㎝。︵一。。。。y
︵9︶一箕①円9いa’㌔8男旨禽一輩臨︵澤げo嘗一。。。㎝︶二三Φ評・βおら
。劉髭§。。し8一︵。夢Ωけ一。。。①︶。
︵10︶ 幻○&毒電団図冥のωωレ8。も§ミ8審o。讐刈9。
。−$︵一霧︶勇・&轟冤穿鷺婁寄も愚ミ8房。
︵
1︶>蓄ω蚕謬Φ一一冨ω①三80。●<。≦ま①旨①ωωω・。一①9§dφ謹。葛。
2
。
︵11︶いぎ犀︿.譲筈餌筈勾勇も刈。d.ψ①N9①。。。︵一。①N︶畳
讐蕊9
︵13︶ 九二条@は以下のように規定する。
§。乱ぎ募薮一く喜巴づ聾ρ善。ω慈ま誘ωω富一ヨ①ω§。ρ餌区①<①曼費葺①轟琶幽鼻一8馨ω9Φω。蓋83憶墨ぎ﹃⇒亀
穿①蔓も一8旨窓&Φ<Φ曙§簿窪暮け一8g慧畳饗8﹃Φ馨巨薯き壁。旨塁ω琶一び。ω督①g旨江①聾8①聾。旨①苫︷
。﹃身g①琶蔓蒙許凝一け>も畳く善。一ω8π§①のΦ暮8ξ鋤3ぎ毎①Σ琶一ω督募℃一8象昌ひQ・﹃&腔喜ヨ&8。吋
巷葛。鋤鉱・ξ鼠ω翼g一ω㊤舞Φωω。りΦω督畳①﹃・眺き聾・毎2。gξも一8α葺暮&8・轟唇一一§一8のΦ幕α・﹄巨一轟
器3象Φ夙誓Φお幽ω閃。・創讐・琶舞。ω看℃。三けN&跨諄三ω8け巨Φ巷。ωΦ竃・&①厚・﹃・け冨吋ぎR8震2∈・ω①。一脇呂一8q凝
訂鼻﹃唇§。馨。8ω葺幕ω鴛Φ議一§①び旨ぎ鼠gΦげ曽段8祭箒冨需二爵緯8旨び①ωけ・穿一のぎ。註①凝ρ巨。§呂8
。憎葦一梓喜暮叶一8。吋89§一・巳ω8けω督g・旨ω督a&島き一幕葺8鼠①跨跨①讐∈・ω①。p募こρ津ヨ餌旨①ω鼠畠窪
吋巳ρき聾・簑畠B昌σ①ω5一①。8牙08頁。言讐Φα一ω。凶9轟蔓蝉&8.
器ω﹃馨四&琶ωρ鋤&爵①8ω①暴ご88①gω浮。轟鐸冨℃巷Φお冨量。9①窪ωR<8・議巨扇。篤邑鴎巳<一・算一8。h畦ω
。。ごまた、根拠のない二二章手続の申立てを再三にわたって繰り返したことを理由と
Oo∈●るω讐す﹄c。斜︵ωきκμψゆ客イおo
︵14︶ 明らかに理由のない主張に対して制裁が肯定された例として、ωΦo貞窪霧ぎお珍興ギ9Φ&自9ε’<。国雲窪霞ooΦ窪簿一窃
七五
。Nごぎお9①ω薯色る。ゆきζ●臼。︵ゆ蝉昌ξ’
して制裁が認められた例として、営お冒巨ωOP謹閃きζ曾。 。。
。 ⑲︵ωきξ.国U后勲お。
U。U。○一。。。。。︶’
合衆国破産規則九〇
条
早法七二巻四号︵一九九七︶
九〇二条
七⊥ハ
8誉§ω曾冨8ω什・⊇凝蝕・三︷畳。。二幕昌ω8叶ω督貫一叶吟”一一びΦ琶一88幕畢①呂9・捧冨寅の9
竃ω旨巴鎚ヨ碧費翼三ω量鐸①∈・のの氏。轟昌巨℃毒Φな畦℃。ωρω8ごω8再婁け。屡ゑ
き島ω語轟幕αξ①図一ω号ひq一睾。亮αQ。。黛聾ご茜琶。耳団。二ぽ象①琶8︸暮量§一・p。噂Φ<Rω巴g
幕び。ωけ。賄傷ざ。三①凝ρ艮・§簿江。p餌&σ①蚕︷・§Φ3津R§の。墨σ一Φ言嘗旨一ω幕一一讐琶αΦ象氏餌。計
ω督鋤弩①・3墨ぎ幕望。墨讐昌8鼻一葺Φ罫8﹃藍8什9菩ぎ量甚9蝉巽8α嘗&。。毒。昌量暮。
善・ぎ。§篇ω。露象Kき聾。同届ω匡ω督餌一一冨寅ω鼠器8びぎ律Φω鶏民什①一Φg。目雲毒ぴ①同●醤Φ
鋒。讐2。pΦ8邑島一のぎ一&琶⇒弩ρ爵。ωΦ。浮g婁①ωωきg①一①℃ぎ器壼暮Rω毫3①器叶。α。︾冨暑
。︷①図①舞。蔓8昌畏99畳①二ωω鐘貯①幕員。霊幕&幕昌浮Φ艮pω琶びΦω曹巴ξ薗二8ωけ9Φ
げ①巨︷。3冨身お霞①の①幕g憲塁ぎき①ざ①図。畳呂ωぢ魯aq一ρ器8馨g。裟轟琴一巴聾巴声ω§。幕旨
︵螢︶ω暫餌目ρ穿①曙唱Φ豊9も一$α凝”馨け一・墨民。島①葛8Rω段<8。ぽ一一Φ象暴8ω①§血R島①O&①9
トルのもと、つぎのように定めていた。
ω制定時の規定 八三年制定当時の九〇一一条は、﹁書面への署名および真実であることの証明﹂というタイ
1 制定後現在までの規定の変遷
三
薫びoωΦω蒔⇒蝉9お一ωおρ鼠お9崇蝉α08B窪二ωωおp①α嘗≦〇一簿一〇昌9跨凶ωヨ一ρ葺①8霞樽o⇒目o江Opo﹃o⇒淳ω
○≦o凶巳賦簿凶<ρω﹃巴=日もoω①○⇒魯Φ℃Rωo口奢げoωおp①αF夢Φお震①ωの旨aも貰な”○﹃び9宣餌p薗℃箕oR腕簿Φ
の曽8江OP蜀窪oげ巨曽蜜一目一⊆αΦ曽昌o巳①目8℃蝉蜜8魯oo浮震℃餌昌くg℃巽薗①ω夢o曽目o⊆導o︷叶げΦお霧o⇒蝉亘①
①誉①霧①ω宣2畦aび。8拐①oPぎ窪一轟oP冨α02日①鼻一蓼一&一罐四お器○轟夏①簿8ヨ亀、ω8①
諮問委員会の記録によれば、弁護士もしくは当事者による署名が必要とされる﹁文書﹂は、原則的にすべて制裁
の対象となり、ただ、一定範囲の文書については、債務者側の弁護士に署名義務がないものとされた。たとえば、
債権表・貸借表・経済状態に関する陳述書・未履行契約報告書二三章手続の陳述書などの文書は、破産規則一〇
〇八条で債務者による真実性の証明が要求されているので、弁護士の署名は不要と考えられ、その旨規定された。
ω現行規定 入三年規定は、九一年に若干の文言上の改正を経たが、基本的には現在までそのまま維持されて
いる。九一年に修正された点は、前記引用した条文のアンダーライン部分であり、弁護士が署名を免除される
﹁ω蜜8琶Φ旨﹂の例示列挙を削除したこと、﹁霞ヨ﹂や﹁日ω﹂といった文言を﹁弁護士または当事者﹂と具体的に表
示したこと、そして不正な目的の例としてあげられている﹁遅延﹂や﹁費用の増加﹂にそれぞれ﹁§器8ω−墨蔓﹂
の増加だけでなく、﹁事件の運営管理の﹂費用の増加も加えられたことなどである。いずれにせよ形式上の改正に
﹁冨a一霧ω﹂という文言が加えられ、より明確化されたことと、さらに﹁費用の増加﹂に﹁訴訟︵裁判手続︶﹂費用
︵15︶
とどまるものといえる。しかも、九〇一一条の母法である民訴規則二条は、九三年に大幅に改正されたが、九〇
︵16︶
一一条には今のところその影響はない。
一七七
したがって、制定以来九〇二条をめぐる議論はそのまま現在にも通用するものであり、対象としての連続性が
合衆国破産規則九〇二条 早法七二巻四号︵一九九七︶ 一七八
認められる。九〇二条の特徴は、以前の九一一条と比較すれば、つぎの点で顕著である。@一つは、制裁の具体
的内容として、破産裁判所に、文書に署名した弁護士または当事者、あるいはその双方に対して、たとえば当該文
書の提出や申立てによって生じた費用︵弁護士費用も含めて︶を、相手方当事者に支払うことを命ずるといった適
当な制裁を課す権限が認められている点である。⑤もう一つは、文書の提出や申立ての濫用を抑止するための担保
となる要件である。本条によれば、文書に署名するということの意味は、弁護士や当事者が、当該文書に目を通し
たということを担保し、ゆえにその文書が、弁護士や当事者による十分な調査の後に形成された、その時点におけ
る最善の知識・情報、そして信念によって裏づけられたものであることを担保し、また、その文書が、たとえば嫌
がらせとか手続を遅延させることとか、手続費用を増大させることといったような、いかなる不正な目的の介入を
も排斥するものであることを担保する点にある。
裁判所による制裁発動が正当化されるのは、文書に署名していることによって、様々な事項が担保されていたに
もかかわらず、それに反する結果が生じたときには、その責任を署名者に課すのが妥当であるとの考慮といえる。
この意味で、九〇二条の構造上、⑤は④の前提をなす要件と評価できる。この⑤は、要約すれば、当事者や弁護
士が申し立て、または提出した文書が、↑D十分な調査に裏づけられたものではなかった場合、もしくは@不正な目
︵17︶
的のためであった場合に、本条違反の責任が発生することを示している。ωは一般には﹁軽率﹂条項とよばれてい
るが、十分な調査という基準は、たとえば主張や異議申立てを理由づける法的な根拠の欠鉄といった客観的事実関
係を要求するものであって、主観的な不誠実さの徴表を求めるものではない。@は遅延や嫌がらせといった不正な
目的のために、文書を提出したり、申立てをしたりすることを禁ずる趣旨であるが、もちろん当該文書の目的は、
︵18︶
客観的に評価.判定され、主観的な不誠実さの徴表は、必ずしも不正な目的の認定にとって必要不可決のものとは
いえない。ωに該当するため、当該文書が理由のないものであると認定されれば、同時に事実上その文書が不正な
目的のために申し立てられたと評価されることが多いが、@はこのような場合に限定されるわけではなく、たとえ
︵19︶
ばωの精緻な調査要件をクリアした文書であっても、不正な目的のために申し立てられたと判断されることもあり
、麺・
判例における九〇一一条の適用
合衆国破産規則九〇一一条 一七九
てを濫発したケースで、異議申立人に明らかに意図的な違法行為性が認められるとされた事例である。裁判所は、
②一。
。。一レストラン事件 管財人による財産の換価処分について、何ら実体のない、虚偽の内容を含む異議申立
︵ 2 3 ︶
用として二〇入ドルニ○セントの支払いを命じた。
にもつながり、九〇一一条の制裁が正当化されるとし、弁護士費用として二七六九ドルおよび開示書類申立ての費
ースであった。裁判所は、このような不十分な調査に基づく、不備な書類は、そもそも手続自体を遅延させること
︵22︶
⋮財産を明らかにすべきとは知らなかった⋮﹂等々であり、明らかに一切調査をしていないと評価される極端なケ
するとされた事例である。弁護士の防御方法は、﹁まったく記憶がない⋮当該財産に価値があるとは思わなかった
①リーゴン事件 債務者の財産開示書類から多くの財産の記述を削除した弁護士が、十分な調査の解怠に該当
︵21︶
ンがあるが、実際にはωと@という二つの基準は密接不可分のものと評価される例が多いといえる。
ω代表的判例 判例上、申立て書面等について、ωや@の要件を充足すると評価される場合には様々なパター
2
早法七二巻四号︵一九九七︶ 一八○
いずれの異議申立ても不正な目的のためになされたものにほかならないと認定して、申立人に対して、二一五〇ド
ルの制裁を命じた。
︵24︶
③ギルティナン事件 債務者に対する免責について、債権者が当事者の審尋を求めて異議を申し立てたが、異
議申立人たる当の債権者がその主張を尽くさず、解怠していることを理由として、裁判所がこの申立てを却下した
事例である。さらに、裁判所は、債権者の弁護士がこの申立ての趣旨は債権者との別訴についての対債務者情報の
取得にあることを認めていたことをもって、不正な目的のためになされたものであると認定し、債権者およびその
弁護士に対して、手続費用と債務者の負担した弁護士費用の支払いを課した。このケースでは、債権者の申立て
︵25︶
は、形式的には合衆国破産法七二七条@に基づく債務者に対する免責の遮断を求めるものであったが、実質的には
債権者が同条項に規定される特定の根拠︵不許可事由︶をまったく主張していないことからも、申立ての目的の不
当性が窺えるゆ
︵ 2 6 ︶
④アーカンサス・コミュニティーズ事件 管財人の選任について、反復的に、かつ裏づけの不十分な異議申し
︵27︶
立てを行なった弁護士に対して、不誠実な申立てとして制裁が賦課された事例である。
⑤ペレス事件 担保権を有する債権者の権利の実現をブロックするために、債務者が破産手続の反復的申立て
を行なった場合、その申立ては手続の遅延という不正な目的のためになされたものであると認定した事例である。
本件では、債務者は住宅についての抵当権実行を免れるべく、一年間に三回連続的に破産手続の利用を申立てた
が、はじめの二回の申立ては任意に取り下げられ、最後の申立ては裁判所によって却下された。この点をとらえ
て、裁判所は、破産手続開始の申立てが、その後比較的早い時期に任意に取り下げられていることは、申立て自体
の不当性を示す一つの証拠であるとし、さらに、債務者の弁護士が債務者の意図を知りながら、抵当権をブロック
するための方法の一つとして積極的に指示していたことに鑑み、第二、第三の申立てにかかる費用分として、債務
︵28︶ 。
者の弁護士に、担保債権者に対して五二九〇ドルを支払うよう命じた。
⑥キニー事件 債務者と血縁関係にある債権者グルーフが、抵当権の実行を回避すべく、二五か月の間に一〇
回の破産申立てを行なっており、しかもそのうち八回は同一の弁護士によってなされていたケースで、裁判所は、
当該弁護士の﹁申立ての目的の一つは、抵当権実行の遅延であるが、この目的自体正当なものであると誠実に確信
していた⋮﹂との主張には、何ら合理的な法的根拠があるものではないとして、制裁を賦課した。
︵29︶
⑦シネマ・サーヴィス事件 債務者所有の唯一の資産たる映画館について、債務名義を有する債権者がシェリ
フによる売却を求めたのに対し、この売却を停止させるために、破産の申立てを行なった債務者に制裁として三〇
〇〇ドルの支払いが命じられた事例である。再建手続においては、シェリフによる売却を中止する方法を試みるこ
とが直ちに非難に該当するわけではなく、むしろ破産法の目的に合致することもあるといえるが、本件では、債務
者には、そもそも破産手続に訴える正当な原因が存在しなかったのであり、その申立ては、遅延という不正な目的
︵30︶
のためになされたものであると結論した。
︵31︶
⑧ランドン事件 内容的に不備な、不注意な申立書の提出が一回でもなされれば、それだけで申立人ならびに
弁護士への制裁を理由づける根拠となるとされたケースである。
︵32︶
⑨グルンウォルト事件 何ら具体的裏づけのない申立書の提出が、不誠実な申立てにあたるとして、債務者の
弁護士に対して、制裁を賦課することが正当とされた事例である。
合衆国破産規則九〇二条 一八一
︵33︶
早法七二巻四号︵一九九七︶ 一八二
⑩モーラン事件 債務者が破産手続について適格を有していないにもかかわらず、弁護士が先走って、時期尚
早の申立てをした場合に、弁護士に対する制裁の賦課が正当と評価された事例である。
③小括 九〇二条の制裁発動の前提条件のω十分な調査に裏づけられたものでなかった場合︵﹁軽率﹂条
項︶と、@不正な目的のためであった場合のうち、明確に↑りを根拠とするのは①だけであり、あとはすべて@の、
いわば﹁不正な目的﹂条項に基づくものである。②∼④は異議申立てに関して、⑤∼⑩は破産︵手続︶申立てに関
して、その不当性が認定された事例といえる。
②と④は、破産手続において根拠のない異議を、反復的に申し立てた点が問題とされ、③は、免責手続という場
っていないことが問題とされた。
において、債権者によるたとえ一回の異議申立てであっても、その異議の内容をなす具体的な主張が一切明確とな
破産申立て自体が﹁不正な目的﹂に該当すると判断された事例のうち、⑤・⑥・⑦は、手続の遅延につながるこ
とを積極的な理由としており、しかも⑤と⑥は反復的申立て事例でもある。対して、⑦∼⑩は単一の申立てであっ
ても、﹁不正な目的﹂条項の要件を充足するとされた事例といえる。
要するに、積極的な根拠のない申立ては、それだけで﹁不正な目的﹂条項に該当するものと評価され、場合によ
っては多少なりとも理由がある申立ても、手続遅延につながるという意味で﹁不正な目的﹂ありと認定される可能
性もある。加えて、同一ないしは類似の申立てを何度も繰り返すことが、﹁不正な目的﹂の認定に重要な牽連性を
もつといえる。
ただ、②∼⑩の事案では、確かに裁判所は、遅延といった﹁不正な目的﹂の存在しか言及していないが、何ら裏
づけのない申立書を裁判所に提出することは、同時にωの﹁軽率﹂条項に抵触していると評価できよう。この意味
で、﹁軽率﹂条項と﹁不正な目的﹂条項とは事実上オーヴァーラップする場面が多いということができるだろう。
︵3
4︶
しかも、申立書全体からみれば、ほんの一部に﹁軽率﹂条項に該当する内容が含まれている場合であっても、九〇
︵35︶
コ条による制裁は正当化され、この制裁の賦課は、強制的なものであり、裁判所による裁量は一切排斥されると
考えられている。
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︵16︶ 小林秀之・前掲書︵前注1︶一四四頁以下。
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合衆国破産規則九〇こ条 一八三
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早法七二巻四号︵一九九七︶ 一八四
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同様に、不正な目的を理由として、債権者による、免責への異議申立てについて、制裁が認められたケースとして、Ωき“
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四 結語
連邦民訴規則一一条に由来する破産規則九〇一一条は、破産事件において提出されるすべての書面について、代
理人が選任されている場合には、当該弁護士の氏名、選任されていない場合には、当事者本人の氏名が署名されて
いなければならないものとしている。この文書に対する署名の意味するところは、④弁護士がその文書に目を通し
たこと、⑤十分な調査を経て形成された、その時点での最善の知識・情報や信念に基づくこと、◎事実上十分な理
由づけとなり、かつ@現行法自体、あるいは現行法の拡張・修正・破棄についての真摯な議論に基づくこと、◎た
とえば嫌がらせとか、不必要な遅延、あるいは訴訟費用の必要のない増加や事件の運営管理費用の必要のない増加
といった、いかなる不正な目的も介在するものではないことを担保するにある。
なかでも、判例上ポイントと考えられているのは、⑤の﹁軽率﹂条項と◎の﹁不正な目的﹂条項である。多くの
事例においては、両者は競合的に適用可能といえる。いずれの適用に際しても、それに該当する客観的な事実関係
の存在が認定されねばならない。署名者の主観的態様は、第一義的に間題とされることはなく、よって署名者の側
︵36︶
からする﹁同情を禁じえない状況にあり、ただ頭はからっぽだった﹂というような抗弁は認めるべくもない。
裁判所によって賦課される制裁の具体的内容には、④手続費用および弁護士費用の負担、⑤罰金の賦課、◎公の
︵37︶
面前、公開の法廷あるいは裁判官室での注意および叱責、@書面による警告、◎当該事件の却下、①弁護士会の苦
情処理委員会への照会などがあるが、中心となるのは④である。制裁の対象となる人的範囲は、弁護士、当事者あ
合衆国破産規則九〇一一条 一八五
早法七二巻四号︵一九九七︶ 一八六
るいはその双方だが、弁護士が選任されている場合には、弁護士が依頼人たる当事者の道具としての機能しかなか
︵38︶
ったというような極端な例を除いて、通常制裁を免れることはない。
以上みてきたように、現在までの裁判所の九〇二条に対する傾向は、非常に好意的かつ積極的といえ、破産事
件に関連するコストや遅延をコントロールすべく、破産手続における濫用的申立てや文書の提出を規制し、手続を
円滑にすすめるための重要な理論的基盤を提供するものとの評価がうかがわれる。この意味で、九〇一一条をめぐ
る議論は、破産裁判所の役割論に対する一つの興味ある動向を示すものといえるだろう。
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