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防衛大臣の承認手巨否をこ対する意見書
平成19年(ワ)第1648号,平成20年(ワ)第430号,平成20年(ワ)第1915号,平成 21年(ワ)第355号,平成21年(ワ)第896号,平成21年(ワ)第1398号 監視活動停 止等請求事件 原 告 後藤東陽こと後藤信 外 被 告 国 防衛大臣の承認手巨否をこ対する意見書 2010(平成22)年9月24日 仙台地方裁判所 第2民事部 御中 原告ら訴訟代理人弁護士 勅使河原 安 夫 同 弁護士 小野寺 義 象 同 弁護士 宇 都 彰 浩 同 弁護士 十 河 弘 同 弁護士 山 田 いずみ 外 裁判所におかれては,防衛大臣の承認拒否にかかわらず,鈴木健,六畑方之及び 友部薫の各証人を採用されたい。 1 防衛大臣の回答 防衛大臣は,鈴木健,六畑方之及び友部薫の証人尋問について,「尋問事項は, −1− 陸上自衛隊情報保全隊及びその業務を引き継いだ自衛隊情報保全隊の情報収集活 動の対象,範囲及び目的並びに収集した情報の報告,整理,保管・管理及び利用 方法等に関する具体的内容であり,これらはいずれも職務上の秘密に該当する」 とし,「これらの事項について証言することとなれば,自衛隊情報保全隊の情報 収集の手法,関心事項又は着眼点が明らかになり,情報収集の対象となる団体等 が対抗措置を講ずるなどにより,じ後の情報収集活動に支障が生じることとなる。 加えて,自衛隊情報保全隊の業務に支障が生じた場合,防衛省・自衛隊の任務遂 行にも支障を及ぼすこととなり,この結果,国の安全が害されるおそれが生じる。 」と主張し,結論として,「鈴木らに対して証人尋問を行うことは,民事訴訟法 第191条第2項に規定する『公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障 を生ずるおそれがある場合』に該当するため,承認は行わない。」と回答した。 2 尋問事項の対象は「職務上の秘密」(民訴法191条1項)にあたらない (1)「職務上の秘密」の判断者 公務員が証言拒絶が許容されるためには,まず,尋問事項が「職務上の秘密 」に該当することが,証言拒絶を主張する国や当該証人によって疎明されなけ ればならない。 この「職務上の秘密」の有無の判断権は当該監督官庁にあるというのが多数 説とみられている。しかし,権力の横暴を阻止するという三権分立の趣旨や, 国民の裁判を受ける権利(憲法32条),真実発見の要請,「職務上の秘密」 概念の解釈は最終的に裁判所に委ねられるべきであること,民訴法が証言拒絶 の理由の疎明を求めていること(法198条)に鑑みると,全く無制約に監督 官庁に判断権を委ねると解することは適切ではない。 また,多数説は民訴法199条1項で197条1項1号が除外されているこ とを理由として,判断権が当該監督官庁にあるとする。しかし,職務上の秘密 −2− 概念自体について解釈上争いがある以上,その該当性についての判断権がもっ ぱら監督官庁に委ねられ,裁判所に判断の余地が認められないことは,問題が 証人能力に関するものであることを考えれば,不適切である。198条に基づ く疎明との関係でも,裁判所の判断権を認めることが手続構造に合致する(も っとも,199条1項の存在を前提とすると,職務上の秘密該当性が疎明され たときには,裁判所は監督官庁の承認を求めることとなる。なお,疎明がなさ れなければ,証言拒絶権は認められず,証言拒否に対しては制裁が科される。 )。したがって,「職務上の秘密」についての判断権は裁判所にもあると解す べきである(伊藤眞『民事訴訟法 補訂版』329頁参照)。 (2)「職務」上の秘密ではない 「職務上の秘密」の意義については争いがあるが,いずれの見解も,当該職 務が権限に基づく適法なものであることを前提にしている。 しかるに,本件尋問の対象である情報収集活動は,法令上の根拠規範を有さ ないものである(訴状13頁,原告準備書面(18)3頁以下。付言すれば, 被告第4準備書面8頁以下の主張に甚だしい論理の飛躍があることは一見して 明らかであり,この点からみても被告の主張が破綻していることは明白である。 )。 したがって,本件尋問の対象事項となっている行為は法令上の根拠を有さな いものであり,権限に基づく適法なものとは認められず,証言拒絶によって保 護すべき法的利益はそもそも存在しない。よって,本件尋問対象事項は,いず れも「職務」上の秘密にあたらない。 (3)職務上の「秘密」ではない 「職務上の秘密」の意義に関するいずれの見解をとっても,そこにいう「秘 密」が実質秘(性質上非公知性と要保護(秘匿)性を有する事項)であること −3− はほぼ一致している(ジュリスト1052号93頁)。 ここにいう「要保護性(秘匿性)」についても,上記(2)で述べたのと同 様,法令上の根拠を有さない行為は秘匿することによって保護すべき法的利益 (国の利益)は存在しない以上,要保護性が欠けることは明らかである。また, 被告国の主張を前提にしても,「収集,管理される情報が秘匿性の低いもので ある」(被告第4準備書面5頁)のであれば,要保護性は認められない。 したがって,本件尋問対象事項は実質秘とは認められず,「職務上の秘密」 にはあたらない。 (4)職務上の秘密でない以上,監督官庁の承認なくして証人採用できる 以上のとおり,本件の尋問事項にかかるものは「職務上の秘密」でないから, 裁判所は防衛大臣の承認なくして証人採用できる。 3 仮に「職務上の秘密」に該当しても防衛大臣は承認を拒否できない そもそも,「職務上の秘密」に該当することの疎明がないが,仮にこれに該当 することが疎明された場合であっても,防衛大臣は,原則としては証言を承認し なければならない。例外として「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支 障を生ずるおそれがある場合」だけ承認を拒否できるに過ぎない(民訴法191 条2項)。つまり,実体法的には「公共の利益を害し又は公務の遂行に著しい支 障を生ずるおそれがある」ことが必要である。そして,これに該当するか否かの 判断は,訴訟における真実発見や公正な裁判を実現する利益との利益衡量が必要 であるところ,後述するとおり,防衛大臣の回答には説得的な理由が皆無である。 公務員の持つ情報は多かれ少なかれ公益に関わるものであるから,「おそれ」に 相当程度の蓋然性があって初めて承認を拒否できると解すべきである(松本博之, 上野泰男「人事訴訟法[第5版]弘文堂,423頁)。これを踏まえると,防衛 一4− 大臣の「承認しない」旨の回答は不当というほかない。防衛大臣は民事訴訟法1 91条2項但書の「承認」権を濫用しているに過ぎない。 この点,この「おそれ」の有無の判断権は当該監督官庁にあるというのが多数 説とみられている。しかし,前記同様,この場面においても,権力の横暴を阻止 するという三権分立の趣旨や,国民の裁判を受ける権利(憲法32条),真実発 見の要請,民訴法が証言拒絶の理由の疎明を求めていること(法198条)に鑑 みると,全く無制約に監督官庁に判断権(承認の有無)を委ねると解することは 適切ではない。 監督官庁の判断(承認の有無)がその判断権を濫用していると認められる場合 には,監督官庁による当該承認拒否の判断は無効とされ,裁判所は「承認する」 ものとみなすことができると解すべきである。 4 証言によっても「公共の利益を害し又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそ れ」(民訴法191条2項)はない (1)「目的」を明らかにしても支障はない 原告らが明らかにしようとしているのは,一般市民たる原告らが公道上その 他公の場所で行ったデモ行進や集会など(具体的には内部資料(甲Alの1及 び同2)に記載された活動)を何の目的で監視し,情報収集したのかである。 防衛大臣はこれが明らかになると自衛隊情報保全隊の関心事項又は着眼点が明 らかになり,その結果国の安全が害されるおそれが生じるなどと主張する。確 かに,テロ集団や武装組織の情報収集をしているのであれば,そのような弁解 も一定程度許されようが,本件では一般市民のデモ行進や集会などを監視して いるのである。したがって,自衛隊情報保全隊の関心事項又は着眼点が明らか になったところで,国の安全が害されるなどあり得ない。むしろ,防衛大臣は 一般市民を監視した目的をきちんと説明すべき立場にあるところ,本件訴訟で ー5− は合理的説明ができていない。 (2)情報収集活動の対象及び範囲を明らかにしても支障はない また,原告らが明らかにしようとしているのは,情報収集活動の対象及び範 囲が一般市民にまで不当に及んでいることである。よって,各証人らには,そ の点を尋問して確認すれば足りる。それ以外の尋問は予定していないから,特 定の団体名や個人名を答える必要はない。よって,自衛隊情報保全隊の業務に 支障が生じることはあり得ない。 (3)収集した情報の報告,整理,保管・管理及び利用方法等を明らかにしても支 障はない さらに,原告らが明らかにしようとしているのは,内部資料(甲Alの1及 び同2)に記載された一般市民の活動情報が誰に報告され,どのように整理さ れ,どのように保管され,どのように管理され,どのように利用されているの かという実態である。情報保全隊が集めた情報一般について,報告,整理,保 管・管理及び利用方法等を尋問しようとしているのではない。上記の情報に限 ってその報告,整理,保管・管理及び利用方法等を明らかにすることであれば, 自衛隊情報保全隊の業務への影響は小さく,国の安全が害されることはあり得 ない。少なくとも,「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ず るおそれ」は生じない。 (4)今回の防衛大臣の承認拒否は判断権の濫用である このように,「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるお それ」が生じないにもかかわらず,防衛大臣は承認を拒否している。防衛大臣 の承認拒否は判断権を濫用したものであり無効である。よって,裁判所は「承 認する」ものとみなすべきである。 −6− 5 裁判所のとるべき措置 上記のとおり,尋問事項の対象は「職務上の秘密」にあたらないから,裁判所 は防衛大臣の承認拒否にかかわらず,上記3名の証人を採用すべきである。 仮に,一部「職務上の秘密」にあたることが疎明されたとしても,残部の尋問 は可能であるから,その部分に限定して証人を採用すべきである。 また,一部「職務上の秘密」にあたる部分についても,「公共の利益を害し, 又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」に該当するとの防衛大 臣の主張については,上記のとおり合理性が認められないから,やはり証人は採 用されるべきである。 防衛大臣の不当な回答に影響されて証人尋問の実施が妨げられてはならない。 裁判所は,防衛大臣に対して,上記を踏まえて原則的に承認すべき尋問をどうし て例外的に承認しないのか,再度の質問書を送付するなどして,具体的な回答を 得るべきである。 仮に再度の質問書を送らない場合でも,裁判所は3名の証人を採用すべきであ る。防衛大臣の承認があれば守秘義務が解除されるだけで,承認されない場合で も裁判所は自らの判断で証人の採用をして,「職務上の秘密」にわたらない尋問 をすることができる。本件では,むしろ,証人尋問を採用し,守秘義務に一定の 配慮をしながら尋問事項を工夫してこれを実施した上で,それでも守秘義務にあ たると思われる部分があれば,各証人において守秘義務を理由に証言を一定の範 囲(例えば,情報の整理,保管・管理,利用の方法など)で拒否すれば足りる。 6 証人尋問を実施しなければ適切な判断はできない (1)内部資料(甲Alの1及び同2)の成立を立証 −7− 書証の真正については,成立を争う場合は,争う理由を明らかにすることが 要求されるところ(民事訴訟規則145条),不当にも被告国はこれの認否す ら拒否している。他方で,方式及び趣旨により公務員が作成したものと認める べきときは,真正に作成された公文書と推定されるところ(民事訴訟法228 条2項),内部資料(甲Alの1及び同2)が公務員が作成したものと認めら れるかどうかは,鈴木健,六畑方之及び友部薫の証人尋問の結果によって明ら かにされるべきものである。よって,同人らの証人尋問は必須である。 (2)一般市民にまで情報収集を行っていたことの認定 また,被告国は,情報収集活動の対象を一般市民にまで及ぼしていたことに っいて,具体的な認否を拒否しているところ,これを明らかにするのは,違法 の程度を決定づける上で極めて重要である。この点も,同人らの証人尋問によ って明らかにできる。 (3)何の目的で一般市民のデモ行進や集会まで監視したのかの認定 被告国は,何の目的で一般市民のデモ行進や集会まで監視したのかについて, 具体的な認否を拒否しているところ,これを明らかにするのは,国家権力の濫 用目的の認定をする上で極めて重要である。この点も,同人らの証人尋問によ って明らかにできる。 (4)個々の原告が監視された事実の認定 また,被告国は,個々の原告が監視された各事実について,具体的な認否を 一切拒否している。これらについては基本的には原告本人尋問等によって明ら かにする予定であるが,例えば,原告苫米地について追跡調査をされて職場や 本名まで探知されているから,後日の追跡調査が実施されたか否かやその方法 がどうであったかは,上記3名の証人尋問によって明らかにするほかない。そ −8− して,これらの事実認定は,国家権力の濫用の程度及び人権侵害の程度を明ら かにする上で極めて重要である。 (5)収集した情報の報告,整理,保管・管理及び利用方法の認定 さらに,被告国は,収集した情報の報告,整理,保管・管理及び利用方法に っいて,具体的な認否を拒否しているところ,これを明らかにすることは,国 民の監視活動の広範さ,情報収集の広範さ,継続性,徹底さを明らかにし,国 家権力の濫用の程度及び人権侵害の程度を認定をする上で極めて重要である。 この点も,上記3名の証人尋問によって明らかにできる。 (6)以上を詳細に認定して初めて適切な司法判断を下せる 本件は,武装した実力集団である自衛隊が一般市民を監視し,継続的網羅的 に情報を収集していたという重大な事案である。正当な表現活動を弾圧し,民 主主義社会を根底から破壊しかねない危険なものである。しかるに,被告国は その詳細を全く明らかにしようとせず,本裁判において認否を執拗に拒否し, 不誠実な訴訟遂行を続けている。そうである以上,適切な証拠調べを実施し, 特に上記の点について詳細に事実が認定される必要がある。上記3名の証人尋 問は不可欠な証拠方法であり,本件の本質に迫るには避けては通れないもので ある。 なお,上記3名が採用された場合,各尋問事項について,各人が様々な理由 を付けて回答を拒否する場合もあろうが,回答拒否の態度を含めて本裁判での 重要な証拠となり,それらの証拠を踏まえた事実認定が可能となるから,上記 3名の証人尋問実施の意義は極めて大きい。 裁判所におかれては,適切な司法判断を下す前提として,3名の証人尋問を 是非採用されたい。 以上 ー9−