Comments
Description
Transcript
おう吐物によるノロウイルスの飛散
おう吐物によるノロウイルスの飛散 東京都健康安全研究センター 環境保健部 大貫文 1 集団感染事例と、事例から考えられる感染経路 食中毒と断定されなかった集団感染事例 事例1 ホテル 3F 発症者数 おう吐者 ・3Fの通路でおう吐 発症者 436名 ・従業員 ・3Fの宴会場利用者 ・ホテル利用者 (当日~数日後) 多 中 少 弱い換気 通路 多 ・通路の左右は宴会場 ・風下の宴会場ほど、発症者が多い 1 1 集団感染事例と、事例から考えられる感染経路 食中毒と断定されなかった集団感染事例 ↓可動壁 事例2 ホテル おう吐者 ・宴会Aでおう吐 発症者 160名以上 ・従業員 ・宴会A出席者 ・宴会B出席者 1日目:宴会A 2日目:宴会B 1 事例から考えられる感染経路 原因 おう吐物に含まれるウイルス (以降、おう吐物) 当日の感 染に関係 感染経路(仮説) 1 おう吐物が周囲に拡散・おう吐場所に残る 2 残ったおう吐物が、乾燥し、歩行等により 空中に舞い上がる 翌日以降の 3 体内に入り、感染へ 感染に関係 2 2 感染経路の検証 2-1 おう吐物が拡散・残る? 2-2 乾燥し、歩行等によって舞い上がる? 2-3 体内に入る? (文献で検証) 実験により検証 代替ウイルスを入れた模擬おう吐物を使用 模擬おう吐物 水+ご飯(一般的なおう吐物を想定)か、 水のみ(水分の多いおう吐物を想定)を使用 代替ウイルス 人体に無害で、粒径や形がノロウイルスと似たウイルス 2 感染経路の検証 2-1 おう吐物が拡散・残る? おう吐した時、おう吐物はすぐに処理されるはず。 なぜ拡散し、なぜ残るのか? ↓ おう吐物の飛散状況を観察する 「模擬おう吐物の落下実験」で、3種類の飛散を観察 ① 床面の飛散範囲 ② 飛散する高さ ③ 飛散する粒子の大きさ 粒子は大きさによって落下する 速度が異なる ↓ ウイルスを含む小さな粒子が発 生すれば、ウイルスがより長い 時間、空気中を漂うことに・・・ 10μm 1μm 0.1μm 0.016cm/分 1cm/分 60cm/分 (ストークスの法則から算出した一例) 3 落下実験① 床面の飛散範囲 【方法】 高さ100cmより着色模擬おう吐物(水 +ご飯)を自然落下させ、飛散範囲を測定した。 落下点には各種床材 塩ビ床 裏ゴムカーペット 長毛カーペット ループ状カーペット 半径1.6~2.3mまで飛散した 注!おう吐物処理の範囲を超える可能性がある 落下実験② 飛散する高さ 200cm 【方法】 高さ85cmより模擬おう吐物(水の み)を自然落下させ、ウイルスを検出した。 高さ160cm (成人) 高さ100cm (子ども) (机の高さ) 120cm クリーンブース 90cm 160cmまで飛散した 注!顔や机に付着・落下する可能性がある 4 落下実験③ 飛散する粒子の大きさ 高さ100cm 【方法】 高さ85cmより模擬おう 吐物(水のみ)を自然落下させ、 粒径別のウイルスを検出した。 粒径区分 ウイルス (μm) (検出+、非検出-) 11以上 + 7~11 + 4.7~7 ++ 3.3~4.7 ++ 2.1~3.3 + 1.1~2.1 + 0.65~1.1 + 0.43~0.65 - 粒径0.65μm以上の おう吐物が飛散した 粒径0.65μm以上の粒子の浮遊 粒径別のおおよその落下時間(静止空気の場合) 床からの高さ 100 0.65μm 1μm 2.1μm 50 11μm (cm) 0 0 10 20 30 40 50 60 粒子が、床面に落下するまでの時間(分) ストークスの法則より算出 粒子比重=1g/mL おう吐物は一定時間浮遊する 注!処理した後に落下、人の移動による拡散等の可能性がある 5 2 感染経路の検証 2-1 おう吐物が拡散・残る? おう吐物の飛散 ① 広く飛散する ② 高く飛散する ③ 一定時間、浮遊する おう吐時に飛散・浮遊したおう吐物が、人の移 動や空調により、周囲に拡散する可能性がある 処理範囲の外や、処理した後に落下した浮遊 おう吐物が、おう吐場所や付近に残る可能性 がある 2 感染経路の検証 2-2 床に残ったおう吐物が乾燥し、 歩行等により空中に舞い上がる? ↓ 再飛散実験で再現 【方法】 床材に模擬おう吐物(水のみ)を滴下、乾燥させた後、 BOX内で床材を靴で20回叩き、空気を採取した。 ①滴下、乾燥 ②靴で叩く ③空気採取 6 床材を叩く前後のBOX空気中のウイルス量 5 量が多い 塩ビシート 4 3 カーペット 2 フローリング 1 量が少ない 0 床材の種類によって 量は異なるが、叩く ことで再飛散した リノリウム 前 後 乾燥したおう吐物が、歩行等により 再飛散する可能性がある 2 感染経路の検証 2-3 体内に入る? 手に付着→口→体内 手に付着する? クリーンルーム内で 歩行と軽い掃き掃除を交互 に90分間行った時、床に堆 積した酸化銅粒子が体表 面に付着する量を測定した。 (B.R.Fish: surface contamination,1964.より) 再飛散した粒子は 手や顔に付着する 頭: 30 顔: 38 腕: 25 手: 22 脚: 45 床: 100 再飛散したおう吐物が手や顔に付着し、 体内に入る可能性がある 7 検証結果(まとめ) おう吐時、おう吐物は周囲に飛散・浮遊した。 床面で乾燥したおう吐物は、衝撃で再飛散した。 再飛散した粒子は、手や顔に付着する。 手や顔に付着したウイルスは体内に入る。 おう吐時、飛散・浮遊したおう吐物が、人の移動や空調に より拡散し、周囲の人が感染する可能性がある。 処理範囲の外や、処理した後に落下した浮遊おう吐物が 付近に残り、翌日以降の感染を引き起こす可能性がある。 おう吐物を処理する場合、接触だけでなく、浮遊おう吐物 により感染する可能性がある。 3 検証結果から考えられる、感染拡大防止策 1. おう吐物は広く高く飛散する 広い範囲を消毒 机の上等も忘れずに 立ち入りは最小限に 2. おう吐物は一定時間浮遊する 窓開け換気で素早く排除 3. 歩行等で再飛散したおう吐物は 体に付着し、体内に取り込まれる マスクを着用 手洗いで洗い流す! 8