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東京湾の底生系における酸素消費メカニズム -内
海岸 工 学 論 文 集,第55巻(2008) 土 木 学 会,1206-1210 東京 湾 の底 生系 に お け る酸 素 消費 メ カ ニズ ム -内 湾複 合 生 態系 モ デル の解 析Oxygen Consumption Mechanism in the Benthic Ecosystem of Tokyo Bay -Analysis of Ecological Connectivity Hypoxia Model (ECOHYM) 相 馬 明 郎1・ 関 口 泰 之2・ 桑 江 朝 比 呂3・ 中 村 由 行4 Akio SOHMA, Yasuyuki SEKIGUCHI, Tomohiro KUWAE and Yoshiyuki NAKAMURA The oxygen consumption mechanism in the benthic ecosystem of Tokyo bay was estimated by using ECOHYM , the first ecosystem model describing the ecological connectivity consisting of both benthic-pelagic and central bay-tidal flat ecosystem coupling while simultaneously describing the vertical micro-scale in the benthic ecosystem (Sohma et al, 2005a).Th e model revealed the annual dynamics of the vertical biochemical oxygen consumption rate and mechanism . The benthic oxygen consumption during summer was quite low due to the depletion of dissolved oxygen (DO) at the seafloor. However, under the assumption of saturated DO seawater covering the seafloor, the highest level of benthic oxygen consumption was prospective in summer due to high production and accumulation of reduced substances in the pore water. 傍)に 1. は じ め に お け る酸 素 消 費 メ カ ニ ズ ム に つ いて 解 析 した 結 果 につ い て報 告 す る. 水 質 汚 濁 が 未 だ深 刻 で あ る 閉鎖 性 海 域 に お い て は,再 生 の 目標 と そ の た め の 施 策 が,湾 域 毎 の 再 生 推 進 会 議 で 検 討 さ れ る中,水 質 の 「きれ い な海 」 だ け で な く,豊 富 な 生 物 が 生 息 す る 「豊 か な 海 」 の再 生 が,各 湾 域 共 通 の 目標 と して比 重 を増 して い る."再 生"で あ る以 上,そ れ は過 去 に あ っ た はず の もの で あ り,そ れ が 失 わ れ た 過 程,そ の復 活 に 向 けて の 障 害,障 害 を 除 く こ と に よ る内 湾再 生 の 行 方 を 把 握 す る こ と は,有 効 な環 境 施 策 を考 え る上 で 重 要 で あ る.図-1右 は,干 潟 ・浅 海 域 の 創 生 が, 貧 酸 素 化 の 改 善 と赤 潮 の 軽 減 の 過 程 を 介 して,「 豊 か な 海 」 再 生 へ と繋 が る一 連 の生 態 系 連 鎖"環 境 改 善 スパ イ ラ ル"の 一 例 を示 して い る.一 方,干 潟 ・浅 海 域 の 消 失 図-1 環 境 改 善 ス パ イ ラ ル と環 境 悪 化 ス パ イ ラ ル の 例 は,こ の 逆 向 き の スパ イ ラ ル"環 境 悪 化 スパ イ ラル"を 駆 動 して い る可 能 性 が あ る(図-1左).我 々 は,こ の よ う な一 連 の 生 態 系 連 鎖 とそ の 行 方 を評 価 で き る よ う,湾 全 体 を干 潟 ・浅 海 域 生 態 系-湾 央 域 生 態 系 及 び底 生 生 態 2. 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル の 概 要 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル は(1)流 系-浮 遊 生 態 系 が 時 空 間 的 に連 鎖 した生 態 系:内 湾 複 合 モ デ ル か ら構 成 さ れ て い る.そ 生 態 系 と して 捉 え,各 生 態 系 内 部 の生 物 代 謝 の変 化 を 機 (3)浮 遊 生 態 系 モ デ ル,(4)底 構 的(メ さ れ,各 カ ニ クス 的)に 表 現 し,さ らに,底 生 系 の鉛 直 動 モ デ ル,(2)生 し て,生 態系 態 系 モデ ルは 生 生 態 系 モ デ ル か ら構 成 モ デ ル は,湾 央 域 生 態 系,干 潟 ・浅 海 域 生 態 系 微 細 構 造 ま で を 同 時 に表 現 した 「内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル の い ず れ に も適 用 で き る よ う一 般 化 され て い る.本 モ デ (英名:ECOHYM,和 ル で 表 現 した 生 態 系 ダ イ ア グ ラ ム を 図-2(a) ,(b)に 示 し 名:雑 俳)」 を,世 界 に先駆 け開発 した(相 馬 ら2005a,2005b;Sohmaら2008).本 稿 で は, た.モ デ ル 変 数 を結 ぶ 生 物 ・化 学 過 程 は,低 次 栄 養 段 階 この 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル を東 京 湾 に適 用 し,十 分 な検 で 酸 素 動 態 に と っ て重 要 と考 え られ る も ので 構 成 され て 証 を終 え た モ デ ル を用 い,一 連 の生 態 系 連 鎖 の 行 方 を 決 い る.本 モ デ ル で 表 現 した,酸 素 の生 成 ・消 費 に 関 わ る め る重 要 な1要 素 で あ る,湾 央 域 底 生 系(堆 生 物 ・化 学 過 程 は,(a)植 積物表 層近 光 合 成,(b)植 1正 会 員 2理 3正 会 員 4正 会 員 博(工)み ずほ情報総研(株) 修 みず ほ情報総研(株) 博(農)(独 法)港 湾空港技術研究所 工博(独 法)港 湾空港技術研究所 積 物 食 者 の 呼 吸,(c)デ 硝 化,(e)還 物 プ ラ ンク ト ン ・底 生 藻 類 の 物 ・動 物 プ ラ ン ク トン,懸 濁 物 食 者,堆 ト リ タ ス の 好 気 的 無 機 化,(d) 元 物 質(ODU:マ ンガ ン(II)+鉄(II) +硫 化 水 素)の 酸 化 で あ る.本 モ デ ル の特 徴 の 一 つ は微 1207 東京 湾 の底生 系 にお け る酸素 消 費 メカニ ズ ム ー内湾 複合生 態 系 モデ ルの解析生 物 に よ る無 機 化 過 程 を,好 気 的,準 好 気 的,嫌 気 的 無 基 本 と した もの で あ り,干 潟 ・浅 海 域,湾 機 化 に 区 分 して 取 り扱 っ た点 で あ る.好 気 的,準 に も適 用 可 能 で あ る.な 好 気 的, お,(3)∼(4)式 央域 のいずれ に お い て,生 物 嫌 気 的 無 機 化 の比 率 は,無 機 化 が 起 こ る場 所 で の 酸 素, 攪 拌 は,(a)生 物 攪 拌 に よ って 空 隙 率 が変 化 す る混 合: 硝 酸 の 濃 度(こ DB(interphase mixing)と(b)生 れ ら濃 度 も モ デ ル 変 数)に よ って 決 定 さ 物 攪拌 によ って空 隙 れ る.こ の よ うな無 機 化 の区 分 は,無 機 化 に よ る酸 素 消 率 が 変 化 しな い混 合:D'B(intraphase 費,硝 酸 還 元,脱 窒,ODU生 分 類 して 取 り扱 う.さ 成 を化 学 量 論 的 関 係 を 使 っ 散 係 数:DIに な お,ODUの 差 で 表 現 し た項:α(Co-C)に 律 速 させ る.さ 化 速 度 は酸 素 濃 度 に よ っ て らに,有 機 物 は,そ の 分 解 速 度 に よ り三 つ の 成 分(fraction)に 分 け て い る.ま そ の 食 性 に よ って,懸 濁 物 食 者,堆 た,底 生 動 物 は, 積物食者 に分類す る こ とで,懸 濁 物 食 者 の 摂 餌 に よ る浮 遊 系 か ら底 生 系 へ の 懸 濁 態 有 機 物 の輸 送,さ よ り表 現 した 項 と(b)直 に よ り,生 物 攪 拌,潅 上水 との濃 度 分 類 して い る.こ して は,そ の 現 象 の解 釈 の 仕 方 に よ り定 式 化 を選 択 で き る一 般 性 を 持 たせ た. ・底 生 系 液 相 の質 量 移 動 方 程 式 らに堆 積 物 食 者 に よ る堆 積 有 機 ル で は,酸 素(0)の リン(P)の み な らず,炭 素(C),窒 モデ れ 水 とい う不 確 実 性 の 高 い現 象 に 対 (1) 物 の 無 機 化 な ど,貧 酸 素 化 メ カ ニ ズ ム を考 察 す る上 で重 要 と考 え られ る機 能 の差 を表 現 して い る.な お,本 項 に らに 潅 水 効 果 に つ い て も(a)拡 て 機 構 的 に 表 現 す る こ と を 可 能 に した(Sohmaら2004). 酸 化 速 度,硝 mixing)の ・底生 系固相 の質量 移動方程式 素(N), (2) 循 環 も同 時 に 解 い て い る. ・底 生系溶存物質 の続成方程式 (3) ・底 生系粒状物 質の続成方程 式 図-2(a) 本 モデ ルで表現 した浮 遊系 での生態 系 ダイ アグ ラム (4) ・底生系溶存 物質-粒 状物 質間 の吸着 ・付着反応対 応式 (5) ・浮遊系 の溶存物質,粒 状物質 の方程 式 (6) ・浮 遊系の連続方程 式 (7) 図-2(b) 本 モ デ ル で 表 現 した 底 生 系 で の 生 態 系 ダ イ ア グ ラ ム こ こ で φ:空 ρl:液 本 モ デ ル の 理 論 方 程 式 群 を 以 下 に 示 す.こ はBerner(1980),相 の方 程 式 群 馬 ・左 山(2002),Sohmaら(2004)を v:液 隙 率(-),t:時 相 密 度(mgliq/ml),ρs:固 相 移 流 速 度(cm/s),w:固 浮 遊 系 移 流 速 度(cm/s),DB:生 間(s),x:空 間 座 標(cm), 相 密 度(mgsolid/cm3solid), 相 移 流 速 度(cm/s),vw: 物 攪 拌 係 数1(cm2/sec), 1208 海 D'B:生 物 攪 拌 係 数2(cm2/s),Ds:堆 散 係 数(cm2/s),DI:irrigation係 岸 工 学 論 積 物中 の分子 拡 文 集 第55巻(2008) 表 現 した 結 果 か ら得 られ て お り,浮 遊 系-底 な ん ら強 制 関 数(境 数1(cm2/s),α:irrigation 生 系 間 に は, 界 値)を 与 え て い な い.こ の こ と は, 相 モ デ ル の 制 御 を難 し く し,モ デ ル が 観 測 値 の再 現 を満 足 単 位 体 積 あ た り の 溶 存 物 質 質 量(μg/ml),C:固 相単位 さ せ る に は,浮 遊 系 の み 或 い は底 生 系 の み を 取 り扱 っ て 質 量 当 た り の 粒 状 物 質 質 量(μg/mgsolid),C0:堆 積物系一 係 数2(1/s),Kx,y,z:浮 遊 系 渦 動 拡 散 係 数(cm2/s),C:液 浮 遊 系 境 界 で の 溶 存 物 質 濃 度(μg/ml),CW:浮 物 質 濃 度(μg/ml),R':溶 g/cm3/s),R':粒 Rads:溶 遊 系 の 存 物 質 の 生 物 ・化 学 反 応(μ た な条 件 が 必 要 とな る.す な わ 遊 系,底 生 系 そ れ ぞ れ の 状 態 に よ って 自律 的 に 生 系 間 の相 互 依 存 関 係 が 正 し く表 現 さ れ て い る"と い う条 件 を モ デ ル が 満 た して い る こ と 状 物 質 の 生 物 ・化 学 反 応(μg/mgsolid/s), が 必 要 で あ る.こ の論 理 は,干 潟 ・浅 海 域-湾 央域間 の 相 互 依 存 性 につ い て も同 様 で あ る. 着 ・付 着 物 質 の 吸 着 ・付 着 反 応(μg/mgsolid/s),R'W:浮 あ る.生 ち,"浮 決 定 され る浮 遊 系-底 存 物 質 の 吸 着 ・付 着 反 応(μg/cm3/s),Rads:吸 遊 系 物 質 の 生 物 ・化 学 反 応(μg/ml/s)で い る モ デ ル に は無 い,新 物 ・ この よ う な条 件 の も と,内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル は,す 化 学 過 程 の定 式化 お よ び各 種 パ ラ メ ー タの 設定 値 は べ て の モ デ ル 変 数 に お い て,季 節 変 動,日 変 動,鉛 Sohmaら(2008)を ロ フ ァイ ル,水 平 分 布 を ほ ぼ良 好 に再 現 した(相 馬 ら, 参 照 さ れ た い. 直プ 2005a,b). 3. モ デ ル の 東 京 湾 へ の 適 用 図-4に 湾 央 域 で の酸 素 濃 度 の季 節 変 動,図-5に 開 発 し た 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル は,以 下 の示す方法 で 浅 海 域(i,j)=(8,6)で 干潟 ・ の酸 素 濃 度 の 日変 動 の計 算 値 と観 測 値 の比 較 を 示 す. 東 京 湾 に 適 用 し た. (1) 計算対 象期 間 :現 状 の東京湾 にお ける平年 的な季節 変 動(1年 周 期 性 の 変 動)を をcontrol計算(基 計 算 す る.そ 準 計 算)と して こ の 計 算 し,施 策 効 果 な ど,生 態 系 応 答 を 評 価 す る基 準 と した.control計 算 で は,流 動 モ デ ル,生 態 系 モ デ ル の 規 定 関 数(外 関 数 で与 え た.こ 生 変 数)を1年 周期 の周 期 関 数 は,過 去 数 年 間 の デ ー タ よ り平 年 的 な 季 節 変 動 状 況 を 表 現 した もの で あ る. (2) タ イ う(a)浮 ム ス テ ップ :内 湾複合 生態 系 モデ ルが取 り扱 遊 系 流 動 場,(b)湾 域 底 生 生 態 系,(d)干 央 域 浮 遊 生 態 系,(c)湾 央 図-3 計 算 領 域 お よ び 空 間 分 解 能.(i,j)は 座 標 を 示 す. 潟 ・浅 海 域 生 態 系 で は,そ れ ぞ れ 着 目す べ き現 象 の時 間 ス ケ ー ルが 日周 期 か ら季 節 周 期 へ と亘 り,各 系 で 異 な っ て い る.し た が って,最 も短 い 時 間 ス ケ ー ル(日 周 期)の 現 象 が 捉 え られ る時 間 分 解 能: タイ ム ス テ ップ(0.2h)を 設 定 した. (3) 空間分 解能 :流 動 モ デ ル は2km×2km格 子 で東京 湾 を 区 分 した.生 態 系 モ デ ル で は26ボ ック ス で 東 京 湾 を 区 分 し た(図-3).底 図-4 湾 央 域 浮 遊 系(左,(i,j)=(6,4)),底 =(5 ,4))に 生 系(右,(i,j) お け る酸 素 濃 度 の 季 節 変 化 生 生態 系内部 の鉛直 分解能 につ いて は マ イ ク ロ ミ リメ ー タ ー ス ケ ール の 空 間 分 解 能 を持 た せ た. 4. モ デ ル の 検 証 湾 央 域,干 潟 ・浅 海 域 に お け る各 モ デ ル変 数 の 観 測 値 と計 算 値 を 比 較 し,計 算 に よ る観 測 の 再 現 性 を 確 か め る こ と で モ デ ル の検 証 を 行 っ た.計 算 値 は,浮 遊 系-底 生 系,湾 央 域-干 潟 ・浅 海 域 が 互 い に 依 存 しつ つ,自 律 的 に相 互 作 用 した結 果 で あ る.例 え ば,浮 遊 系-底 生 系 境 界 付 近 の 栄 養 塩 濃 度 の計 算 値 は,浮 遊 生 態 系 で生 成 され た有 機 物 が 海 底 に沈 降 ・蓄 積 し,底 生 系 で 無 機 化 され て, 栄 養 塩 が 浮 遊 系 へ 回 帰 す る と い うメ カ ニ ズ ム を モ デ ル で 図-5 干 潟 ・浅 海 域(i,j)=(8,6)の (右)に 浮 遊 系(左),底 お け る酸 素 濃 度 の 日変 化 生系 1209 東京 湾 の底生 系 にお け る酸 素消 費 メカニ ズ ム-内 湾 複合生 態 系 モデ ルの解析- が 低 い ほ ど 多 くな り,ま た,硝 酸 濃 度 が低 い ほ ど多 くな 5. 酸 素 消 費 の メ カ ニ ズ ム る.こ 一連 の 生 態 系 連 鎖 の 行 方 を決 め る貧 酸 素 化 の 進 行 や 改 善 は,"海 水 の滞 留 と い っ た物 理 的 要 因"と"海 底近傍 で の生 物 代 謝 に よ る酸 素 消 費 と い っ た生 物 的要 因"に よ の モ デ ル化 の 結 果,5月,8月,11月,1月 いずれ の 月 に お い て も表 層 付 近 で は好 気 的 無 機 化 が 多 く,下 層 に い くに した が い,嫌 気 的 無 機 化 に な る こ とが 示 さ れ て い る.8月 に お い て は無 機 化 の殆 どす べ て が 嫌 気 的 無 機 り発 生 す る.内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル は こ れ らす べ て を考 化 で あ り,ま た 無 機 化 速 度 の 大 き さ も5月,11月,1月 慮 した もの で あ る が,こ 季 節 よ り も大 き い.こ れ らの 現 象 は,堆 積 有 機 物 量,特 物 表 層 近 傍)で こで は,特 に,底 生 系 内(堆 積 の 生 物 代 謝 に よ る酸 素 消 費 メ カ ニ ズ ム の 季 節 変 化 につ い て 解 析 し,そ の結 果 につ い て考 察 す る. 図-6に,モ 月),秋 デ ル で 計 算 さ れ た,春 季(11月),冬 季(1月)で 季(5月),夏 の に プ ラ ンク ト ン由 来 の易 分 解 性 有 機 物 の 量 が8月 に も っ と も多 い こ と に よ る. 季(8 の湾 央域底生 系 にお け る酸 素 の生 成 ・消 費 フ ラ ッ ク ス,及 び 溶 存 酸 素(DO), 還 元 物 質(ODU:マ 素),ア ン ガ ン(II)+鉄(II)+硫 化水 ンモ ニ ア態 窒 素 の鉛 直 プ ロ フ ァイ ル を示 し た. 湾 央 域 底 生 系 で は海 底 に光 が 到 達 しな い の で,光 合 成 は な く,酸 素 生 成 を 促 す 生 物 ・化 学 過 程 は な い.一 方,酸 素 を 消 費 す る生 物 ・化 学 過 程 は,有 機 物 の 好 気 的 無 機 化, 硝 化,ODUの 酸 化 で あ る.底 生 動 物 の 呼 吸 に よ る酸 素 消 費 は,浮 遊 系,底 生 系 の 両 方 で 起 こ りえ るが,今 回は 浮 遊 系(直 上 水)か ら酸 素 を取 り込 む と想 定 して 計 算 した の で こ こで は 項 目 に入 らな い.全 酸 素 消 費 フ ラ ック ス よ り わ か る こ と は,(a)全 て の 季 節 に お いてODUの 酸化 に よ る 酸 素 消 費 が 卓 越 して い る こ と,(b)夏 季 で の 酸 素 消 費 フ ラ ック ス が(鉛 直 方 向 の 積 分 値 で 見 て)他 の季 節 と 比 べ て最 も少 な い こ とで あ る.夏 季 で の 酸 素 消 費 フ ラ ッ 図-6 湾 央 域 底 生 系(i,j)=(5,4)に フ ラ ッ ク ス と酸 素(DO)・ 還 元 物 質(ODU)濃 お け る酸 素 の 生 成 ・消 費 ア ン モ ニ ア態 窒 素(NH4-N)・ 度 の 鉛 直 プ ロ フ ァイ ル ク ス が他 の 季 節 と比 べ て最 も少 な い の は,生 物 代 謝 に利 用 で き る酸 素 が(貧 酸 素 化 に よ って)無 いか らで あ る. 一方 ,ODUの 濃 度 は夏 季 に お い て 最 も高 く な る.こ れ は有 機 物 の 嫌 気 的無 機 化 が 他 の季 節 よ り も卓 越 して い る こ とに よ る. 図-7に,湾 央 域 底 生 系 に お け る好 気 的 無 機 化 速 度(酸 素 利 用 の無 機 化),準 機 化),嫌 好 気 的 無 機 化 速 度(硝 気 的 無 機 化 速 度(そ の 他TEA利 酸利 用の無 用 の 無 機 化, メ タ ン発 酵 除 く)の 値 と相 対 比 の 鉛 直 プ ロ フ ァ イ ル の季 節 変 化(5月,8月,11月,1月)を 示 す.無 機化 におけ る好 気 的 無 機 化 速 度,準 好 気 的 無 機 化 速 度,嫌 気的無機 化 速 度 の区 分 は,そ れ ぞ れ酸 素 濃 度,硝 酸 濃 度 か ら決 定 され る よ う定 式 化 さ れ て お り,(a)好 酸 素 濃 度 の制 限 関 数,(b)準 気 的無 機 化 速 度 は, 好 気 的 無 機 化 速 度 は,酸 素 の 抑 制 関数 と硝 酸 の制 限 関 数,(c)嫌 気 的無 機 化 速 度 は, 図-7 湾央 域底 生 系(i,j)=(5,4)にお ける好気 的,準 好気 的, 嫌気 的無機 化 フ ラ ックスの鉛 直 プ ロフ ァイル 酸 素 の抑 制 関 数 と硝 酸 の抑 制 関数 で表 現 され て い る (Soetaertら,1996;Sohmaら,2004).こ の モ デ ル化(定 6. 酸 素 消 費 の ポ テ ン シ ャ ル 式 化)の 特 性 を 端 的 に 云 え ば,全 無 機 化 に対 す る好 気 的 無 機 化,準 上 述 の 解 析 結 果 か ら,夏 季 で は,有 機 物 やODU,さ 好 気 的無 機 化,嫌 気 的 無 機 化 の割 合 は,(a) 好 気 的無 機 化 は酸 素 濃 度 が 高 い ほ ど 多 く な り,(b)準 好 ら に は ア ンモ ニ ア と い っ た酸 素 消 費 基 質 が 大 量 に堆 積 物 気 的 無 機 化 は硝 酸 濃 度 が 高 い ほ ど 多 くな り,ま た,酸 素 内 に蓄 積 さ れ て い る一 方(図-6,7),貧 濃 度 が 低 い ほ ど高 くな り,(c)嫌 状 態 で は,酸 素 が 外 部 か ら供 給 さ れ な い 限 り,底 生 系 に 気 的 無 機 化 は酸 素 濃 度 酸 素(無 酸 素) 1210 海 酸 素 消 費 基 質 が(1)非 も,(2)蓄 岸 工 学 論 常 に多 く蓄 積 され て い る場 合 で 積 さ れ て い な い場 合 で も,そ の場 に 消 費 で き 文 集 第55巻(2008) 妥 当 性 を確 認 した.検 証 した モ デ ル の 計 算 結 果 を用 い, 底 生 系 の酸 素 消 費 メ カ ニ ズ ム の鉛 直 微 細 構 造 の季 節 変 化 る酸 素 が な い ので あ るか ら,酸 素 消 費 量 は わ ず か で あ る を 定 量 的 に解 析 した.そ (図-6).し 費 量 は他 の 季 節 に 比 べ て 少 な く,そ たが って,"貧 酸 素 状 態"で の酸素消 費速 の 結 果,夏 季 に お け る酸 素 消 の一方 で還 元物 質 度 か らは,海 底 近 傍 に お け る貧 酸 素 の 成 り易 さ を評 価 す (ODU)が る こ と は で きず,海 とな っ た.ま た,夏 季 に お い て は,潜 在 的 な 酸 素 消 費 ポ (1)と(2)の 底 に 酸 素 が 供 給 さ れ た と き の み, 酸 素 消 費 速 度 に 大 き な差 が 出 る こ と が 推 察 さ れ る.こ の よ う な考 察 か ら,相 馬 ら(2005a)お び相 馬(2007)は,"底 濃 度)に 層 水 の 酸 素 濃 度 が あ る値(基 な った と想 定 した 場 合 の酸 素 消 費 速 度",す わ ち"潜 在 的 な酸 素 消 費 速 度"を ル(hypoxia テ ン シ ャル が 非 常 に高 く,ひ と た び海 底 に酸 素 が 供 給 さ よ れ て も,容 易 に は貧 酸 素 化 改 善 に はつ な が ら な い こ とが 準 示 され た. な 貧酸 素化 ポテ ンシャ potential)と 定 義 し,"貧 大 量 に 底 生 系 に蓄 積 され て い く過 程 が 明 らか 酸 素 の成 り易 さ ・ 謝 辞:本 研 究 の 一 部 は,(独)鉄 道 建 設 ・運 輸 施 設 整 備 支 援 機構 の 「 運 輸 分 野 に お け る基礎 的 研 究 推 進 制 度 」 に 成 り難 さ"を 評 価 した.こ の 考 え 方 を基 盤 と し,こ こで 基 づ く研 究 資 金(研 は,(a)底 素 循 環 過 程 の解 明 と内 湾 複 合 生 態 系 酸 素 循 環 モ デル 構築 生 系 の"潜 在 的"な 酸 素 消 費 フ ラ ック ス(底 究 課 題:内 湾 堆 積 物 表 層 にお け る酸 生 系 直 上 水 の 酸素 濃 度 が 飽 和 濃度 に な った場 合 の浮 遊 系- に 関 す る 基 礎 的 研 究,研 底 生 系 間 の 酸 素 消 費 フ ラ ッ ク ス),及 び,(b)底 生系 の "実 際"の 酸 素 消 費 フ ラ ッ ク ス(底 生 系 直 上 水 の酸 素 濃 16年 度)の 度 が 図-4に 示 す 季 節 変 化 を した 場 合 の浮 遊 系-底 生 系 問 の酸 素 消 費 フ ラ ック ス)を 解 析 し比 較 し た.図-8に(a) 潜 在 的 な 酸 素 消 費 フ ラ ック ス,お よ び,(b)実 際 の酸 素 消 費 フ ラ ック ス を 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル を 用 いて 解 析 し た結 果 を 示 す.こ の 結 果 よ り,(a)底 生 系 の"潜 在 的" な酸 素 消 費 速 度 は8月 で 最 大 と な り2250mgO2/m2/dayを す が,1月 か ら4月 で は500∼550mgO2/m2/dayで 方,(b)底 生 系 の"実 (90mgO2/m2/day)と 際"の 示 あ る.一 酸 素 消 費 速 度 は8月 に 最 小 な り,5月,10月 こ れ ら の 結 果 は,有 機 物,ODU,ア に極 大 値 を 示 す. ンモ ニ ア と い っ た 酸 素 消 費 基 質 が 堆 積 物 中 に大 量 に 蓄 積 され て い る夏 季 は, 海 底 に酸 素 が 一 時 的 に 供 給 さ れ て も,蓄 積 さ れ て い た有 機 物,ODU,ア ン モ ニ ア が そ れ ぞ れ 好 気 的 無 機 化,酸 究 代 表 者:相 参 考 文 献 相 馬 明 郎 ・左 山 幹 雄 (2002): 酸 素 ・窒 素 ・炭 素 動 態 の 鉛 直 微 細 構 造 を 表 現 す る沿 岸 域 堆 積 物 表 層 物 質 循 環 モ デ ル の 開 発. 海 岸 工 学 論 文 集, 第49巻, pp.1231-1235, 相 馬 明 郎 ・関 口 泰 之 ・垣 尾 忠 秀 (2005a): 貧酸 素海 域 の生 態 系 評 価 を 目 的 と し た 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル"ZAPPAI (雑 俳)"の 開 発 と 適 用-干 潟 創 生 、 浚 渫 ・覆 砂 、 流 入 負 荷 削 減 施 策 に対 す る東 京 湾 生 態 系 の 自 律 的 応 答 と 赤 潮 に 対 す る耐 性-, 52. 海 洋 理 工 学 会 誌, Vol11, 的 研 究 推 進 制 度 平 成14年 度 採 択 課 題 研 究 成 果 報 告 書(最 終 版), 鉄 道 建 設 ・運 輸 施 設 整 備 支 援 機 構(www .jrtt.go.jp/ business/research.htm), 456p. 相 馬 明 郎 (2007):「 き れ い な 海 」 か ら 「豊 か な 海 」 へ"干 潟 ・浅 海 域 と湾 央 域"及 び"底 生 系 と浮 遊 系"の カ ッ プ リ ング (内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル)か わ ず か な擾 乱 で は,貧 酸 素 化 の改 善 に はつ な が りに く い 海 洋 理 工 学 会 誌, 図-8 湾 央域 底生 系(i,j)=(5,4)の(a)"潜 在 的"な 酸素 消費 フ ラックス,及 び,(b)"実 際"の 酸素 消費 フ ラックス 7. 結 論 流 動 場,底 生 生 態系,浮 遊 生 態 系 を 連 結 した 内 湾 複 合 生 態 系 モ デ ル を東 京 湾 に適 用 し,検 証 した後,モ デル の No.2, pp21- 相 馬 明 郎 ・桑 江 朝 比 呂 ・左 山 幹 雄 (2005b): 内湾堆 積物 表 層 に お ける酸 素循 環過 程 の解 明 と内湾 複合 生 態系 酸素 循 環 モ デ ル 構 築 に 関 す る 基 礎 的 研 究,運 輸 分 野 に お け る 基 礎 化,硝 化 反 応 を起 こ し,た ち ま ち酸 素 が 消 費 さ れ る た め, こ と を示 して い る. 馬 明 郎,H14∼H 支 援 に よ り実 施 さ れ た. ら見 え て きた も の-, Vol.13(1), pp.59-60. Berner, R.A. (1980): Early diagenesis-A theoretical approach. Princeton University Press, New Jersey, 241p. Soetaert, K., P.M.J. Herman, J.J. Middleburg (1996): A model of early diagenetic processes from the shelf to abyssal depth, Geochimica et Cosmochimica Acta Vol. 60(6), pp.10191040. Sohma, A., Y. Sekiguchi, and K. Nakata (2004): Modeling and evaluating the ecosystem of sea-grass beds, shallow waters without sea-grass, and an oxygen-depleted offshore area, Journal of Marine Systems Vol. 45, pp.105-142. Sohma, A., Y. Sekiguchi, T. Kuwae and Y. Nakamura (2008): A benthic-pelagic coupled ecosystem model to estimate the hypoxic estuary including tidal flats -Model description and validation of seasonal/daily dynamics. Ecological Modeling, Vol.215, pp10-39.