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2010 年 6 月号
2010 年 6 月号 米国経済の概況 ■ 米国経済は減速モードに転じつつあるようだ。これまで 回復が著しかった民間雇用やコア小売の動きに、足踏み 感がみられるようになった。 ■ 欧州ソブリン危機の影響は今のところ軽微だが、株価下 落後の持ち直しは限定的で、消費への影響が気がかりで ある。長い目で見ればユーロ圏向けの輸出にも下押し圧 力がかかるだろう。 ■ 人民元問題に進展が見られたが、米議会の一部議員にと っては「一歩前進・半歩後退」となったようだ。中国人 民銀行はG20 サミット前に人民元相場の柔軟性を高める ことを打ち出したが、大幅な切り上げを完全に否定した ためだ。米連邦議員らによる対中批判の高まりが予想さ れるが、しばらくは、米議会が対中制裁に向けて動き出 す可能性は小さいだろう。 2010 年 6 月 22 日発行 ※当レポートは情報提供のみを目的として作成されたもので、商品の勧誘を目的としたものではありません。 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute 1.トピック:欧州ソブリン危機と人民元問題 米国経済に減速の兆候 5 月の経済指標は、循環的要因による押し上げが弱まり、これまでと比べて低い 景気回復ペースへ転じることを示唆している。民間雇用やコア小売の動きには足踏 み感がみられるようになり、また企業マインドの一部にも先行き設備投資の減速を 示すものがある。今年後半に向けて、景気対策効果の一巡や、州・地方財政の財政 難が予想されることに加え、欧州ソブリン危機の影響も気がかりな材料となってい る。 欧州ソブリン危機の影響 は、今のところ限定的 今のところ、欧州ソブリン危機は「リーマンショックの再来」に至ってはおらず、 実体経済への影響も現れていない。カンザスシティ連邦準備銀行が作成・公表して いるフィナンシャル・ストレス・インデックスはリスク・スプレッドの高まり等を 背景に 5 月急上昇し、金融市場におけるストレスの高まりを示したが、その度合い は、サブプライム問題を背景に欧州短期金融市場が機能不全に陥った 2007 年夏場と 同じ水準に留まっており、リーマンショック時と比べれば極めて小さい(参考図表 1)。BIS(国際決済銀行)もその四半期レポートの中で、 「今回の危機による金融 市場の動きは、リーマンショック時よりも、2007 年 7 月にサブプライム危機が始ま ったときと似ている」とコメントした。 とは言え、燻り続ける危 とは言え、欧州ソブリン危機の火種は消えてはおらず、フィナンシャル・ストレス・ 機の火種 インデックスも将来の安定を保証しているわけではない。火種とは、①財政健全化 計画にギリシャ経済・国民は耐えうるのか、②中小金融機関の統合によってもスペ インの不良債権問題は何も解決されないのではないか(一部が財政による負担に転 化しただけ) 、③欧州の大手行による貸倒引当金は過小ではないか等々である。 また現状でも、欧州ソブリン危機の最中に起きた株価の下落幅が大きく、米国の 消費に対する影響が気になるところだ。「株価 1 ドルの変動が 3~4 セントの消費の 参考図表 1 フィナンシャル・ストレス・インデックス 6.00 (標準偏差) 5.00 4.00 3.00 ロシア/LTCM危機 (98/10) ITバブル崩壊 (00/4-6) Y2K (99/10) GSE問題 (08/7) 9/11 ※財政黒字 (00/12) 湾岸戦争/景気後退 (90/12-91/1) TARPを巡る 政治的混乱 (08/10) 不正会計問題 (02/10) インディマック ベアースターンズ 破綻 (08/3) リーマンショック AIG救済 (08/9) 銀行の MBS引き当て モノライン問題 (07/11) 2.00 1.00 BNPショック CDO格下げ (07/8) 0.00 -1.00 アジア通貨危機 -2.00 1990年 メキシコ危機に 逆反応 95 ※「財政黒字が続き米国債が不足する」との思惑から 米国債利回りが急低下し、指数を押し上げ 2000 05 (注)11個の金融関連指標を元に主成分分析により算出(サンプル期間は90/2-09/3)、平均ゼロ、 標準偏差1となるよう標準化された指数。 (資料)カンザスシティ連邦準備銀行、みずほ総合研究所 1 10 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute 変動に結びつく」という rule of thumb(大雑把な原則)に基づくと、3 月末から 6 月 18 日までの株価の下落によって、可処分所得の 4%に相当する逆資産効果が生ま れている。民間雇用には足踏み感がみられるようになっており、また国勢調査のた めの連邦政府による臨時雇用が 5 月をピークに減少に転じる中で、今後、株価下落 による消費への影響が顕在化していくおそれがある。 また長い目でみれば、 ユーロ相場の下落とユーロ圏における財政健全化の動きは、 米国輸出企業にとって価格競争力の低下と市場縮小という形で現れてくるだろう。 人民元問題は、米議員に 欧州ソブリン危機の影で音無し状態にあった人民元問題が一歩前進した。中国人 とって「一歩前進・半歩 民銀行は、G20 サミット(6 月 26・27 日、カナダ・トロント)を直前に控えた 19 後退」 日、人民元の弾力性を高める旨の声明文を発表した。2007 年 5 月 21 日に発表され た前日比±0.5%(それ以前は±0.3%)という仕組みが、21 日以降、再び導入され ることになった。 人民元の変動性を高めるという措置は米国政府も歓迎。このままG20 サミットを 迎えると思われたが、翌 20 日発表の「人民元相場を巡るQ&A」によって波風が立 ち始めたようだ。対中批判を繰り返している一部の米国連邦議員からみれば、Q& Aによって、人民元問題に対する中国の姿勢は「一歩前進しつつも半歩後退」に等 参考図表 2 中国人民銀行報道官の発言要旨(6 月 20 日) ・人民元為替レートの大幅な変動は中国の経済・金融安定に比較的大きな衝撃をもたらすもので、中国の根本的利益に合致しな い。人民元為替レートの合理的で均衡した水準での基本的安定を維持することは人民元為替レート形成メカニズムをさらに改 革する重要な部分である。現在、人民元為替レートの大幅変動、変化の基礎は存在しない。 ・今回は 2005 年の為替改革を踏まえ、人民元為替レート形成メカニズム改革をさらに進めるもので、為替レートの一回限りの再 評価調整は行わず、市場の需給を基礎とし、バスケット通貨を参考にして調節することに重きを置く。 ・引き続き公表済みの外国為替市場相場変動幅に従って、人民元為替変動に対する動的管理・調節を行い、人民元為替レートを 合理的で均衡のとれた水準に基本的に安定させ、国際収支の基本的均衡をはかり、マクロ経済と金融市場の安定を維持する。 ・管理された変動相場制の実施は中国の既定の政策である。今回の人民元為替レート形成メカニズム改革の一層の推進は依然と してこの方針の継続である。 ・2005 年以来の為替改革は成功している。2005 年以来、人民元為替レート形成メカニズム改革は主動性、漸進性、制御性の原則 に従い、自らを主とし、秩序をもって推進し、全体的に中国の実体経済にプラスの影響を与えている。 ・世界的金融危機の最も深刻な時、多くの国の通貨が米ドルに対して値下がりしたのに対し、人民元為替レートは基本的安定を 維持した。これは中国の外需安定と世界的金融危機による衝撃の防御に必要であり、またアジアおよび世界の経済回復に非常 に大きく貢献した。事実が証明しているように、この政策決定は正しかった。 ・現在、単に米ドルに依拠して人民元為替相場をはかることは適切でない。 ・対外開放度が絶えず高まるのに伴い、中国の主要経済・貿易パートナーが多様化する顕著な傾向が見られる。今年1~5月の 貿易パートナー上位5カ国・地域(EU、米国、ASEAN、日本、中国香港)との輸出入はそれぞれ全体の 16.3%、12.9%、 10.1%、9.4%、7.5%を占めた。同時に資本の移動にも多様化と多地域化の特徴が見られる。こうした背景の下、人民元為替 レートが単一の通貨に固定されて変化するなら、貿易、投資、通貨多様化の要請に対応できず、また為替レートの実際の水準 を反映することもできない。各種通貨で構成される通貨バスケットおよびその変化は真実の相場をより一層正しく反映できる。 従って、市場の需給を基礎とし、バスケット通貨を参考にして調節することは、より科学的合理的な相場の形成に役立つ。 (資料)日刊中国通信より転載。 2 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute しいものとなったためだ(参考図表 2 は中国人民銀行報道官の発言要旨)。 対ユーロの人民元上昇を 暗に主張 中国は、Q&Aで対ドルレートよりも実効レートの重要性を強調し、貿易額の大 きさでみた欧州市場とのリンケージを取り上げた。人民元は年初以降、ユーロに対 して 14%程度増価していたことから、実効レートでみた人民元相場の安定性を重視 すれば、為替管理上は人民元・対ドルレートの“切り下げ”も選択肢となり得るこ とを示唆したことになる(参考図表 3)。 大幅な切り上げ観測を完 全に否定 米国財務省は、延期してきた為替報告書をG20 サミットに合わせて発表する予定 で、為替操作国の認定を回避したとしても、不安を持つ連邦議員を抑えることは可 能だったろう。米国財務省としては「大幅な切り上げについては、引き続き働きか ける」「当面は変動幅を監視し様子をみる」と議員に説明できるためだ。 しかし、Q&Aによって大幅な切り上げ観測が完全に否定されたことで、政治的 な困難さが急速に高まった。Q&Aを通じて中国政府が主張した内容は、おそらく は誰しもが容易に思い描くものであり、決して驚きはないが、そうした主張を公文 書で示すのか、単なる口先で終わるのか、そのアプローチによって与える影響は全 く異なる。なぜ中国はQ&Aの発表を、G20 サミットや米国の為替報告書公表まで 待たなかったのか。それが与えるデメリットを予想しなかったとは思えず、中国国 内の意見対立への配慮がうかがわれる。 批判の声は高くとも、し 米国議会からの中国批判の高まりが懸念されるところだが、議会は独立記念日(7 ばらくは米議会に動きな 月 4 日)までの成立を目指した金融制度改革法案の擦り合わせに忙殺されており、 しの公算 また独立記念日以後は中間選挙を前に議員らが地方遊説に出て行くため、ワシント ンは空っぽになる。しばらくは、議会が対中制裁に向けて大きく動き出す可能性は 小さいのではないかと考えられる。 参考図表 3 人民元相場の動向 11.00 (CNY/$、CNY/ユーロ、CNY/100\) 10.50 10.00 9.50 9.00 8.50 人民元(対ドル) (対ユーロ) (対円) NDF 8.00 7.50 7.00 6.50 09/10 09/11 09/12 10/1 10/2 10/3 (注)NDFは12カ月物のビッドレート。 (資料)Bloomberg 3 10/4 10/5 10/6 10/7 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute 2.生産・雇用動向:企業業況は堅調も、民間雇用は増勢鈍化 製造業の業況は堅調 製造業の企業業況は堅調さを保っている。 製造業ISM指数は 5 月 59.7(4 月 60.4)と小幅低下したが水準は高い(図1)。 内訳を見ると、新規受注指数が 65.7(同 65.7) 、生産指数が 66.6(同 66.9)と主要 系列は共に横ばいだった。 総合指数が下がったのは、在庫指数の低下(5 月 45.6、4 月 49.4)によるところ が大きく、在庫復元の動きが鈍っていることを示している。今後についても、在庫 復元の鈍化は続きそうだ。ニューヨーク連邦準備銀行(以下、NY製造業調査)と フィラデルフィア連邦準備銀行(以下、PHL製造業調査)の製造業調査によれば、 半年先の在庫動向に関する判断DIは、NY製造業調査では 2 カ月続けて小幅マイ ナス(5 月▲1.3、6 月▲1.2)となり、PHL製造業調査でも 5 月はマイナス(▲2.0)、 6 月は小幅プラス(+1.8)に留まった。 輸出受注指数は 5 月 62.0(同 61.0)と高水準を保っており、前述した新規受注指 数の動きも合わせて考えると、少なくとも足元に関しては、在庫指数の低下は内外 の最終需要の伸びが生産の伸びを上回っている結果とみなすことが出来、懸念する 必要はないだろう。もっとも、最終需要の伸びにも一服感が現れ始めており(後述) 、 在庫循環の好転という追い風が消える中で、先行き米国経済の鈍化が予想される。 非製造業ISM指数(総合指数)は 5 月 55.4(4 月 55.4)と堅調な推移となった。 内訳をみると、業況指数(business activity index)は 61.1(同 60.3)と高水準 を維持し、雇用指数も 50.4(同 49.5)と、2007 年 12 月以来、2 年 5 カ月ぶりに 50 を上回った。 新規受注指数は 57.1 (同 58.2)と高水準ながら 2 カ月続けて低下した。 鉱工業生産も増産基調 5 月の鉱工業生産(FRB)は前月比+1.2%と伸びが加速した。気温が上昇し電 力需要が増大したことからエネルギー部門が同+1.9%と急増したほか、エネルギー を除く部門でも同+1.1%の高い伸びとなった(図 2)。情報技術(IT)関連の生 産が同+1.7%と底堅く推移し、自動車関連部門は+5.5%と大幅な増産に転じた。 消費財や資本財等、他の部門でも幅広い増産がみられる。 設備稼働率は鉱工業部門全体で 5 月 74.7%と改善が続いている。 民間雇用に足踏み感 図1 雇用情勢は全般的に改善が続いているが、民間雇用には足踏み感がみられる。 企業業況 図2 鉱工業生産と稼働率 (2002=100) 102 65 60 (% ) 76 図3 雇用統計 (% ) 11 (前 月 比 、 千 人 ) 600 55 100 75 74 10 400 50 98 73 9 200 0 96 72 71 8 7 ▲ 200 94 70 69 6 ▲ 400 92 68 45 40 35 30 09/5 09/11 10/5 製 造 業 ISM指 数 非 製 造 業 ISM指 数 09/5 09/11 10/5 鉱 工 業 生 産 (除 く エネルギー) 設 備 稼 働 率 (総 合 ,右 目 盛 ) (資料)米国サプライマネジメント協会(ISM) (資料)連邦準備制度理事会 4 5 ▲ 600 09/5 09/11 10/5 非農業部門雇用者数 (右 目 盛 ) 失業率 (資料)米国労働省 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute 5 月の非農業部門雇用者数は前月比+43.1 万人の大幅増加となった(図 3)。ただ その多くは、国勢調査(センサス)を実施するために連邦政府が雇い入れた労働者 (前月比+41.1 万人)であった。民間部門に限ると前月比+4.1 万人と雇用増加の テンポは大きく鈍化した。商業用建設や公共事業向けを中心に建設雇用が落ち込ん だほか、金融・保険・不動産や専門サービスでの雇用が下押しした。 米国商務省によれば、国勢調査関連の臨時雇用は 5 月上旬をピークとして緩やか に減少し始めている。6 月雇用統計では非農業部門雇用者数を 20 万人程度押し下げ る可能性が指摘できる。 労働投入量は拡大、時間 民間雇用の動きは鈍ったが、労働時間の増加は続いている。全民間雇用者ベース 当たり賃金も持ち直し。 の週当たり平均労働時間は 5 月 34.2 時間(3 月 34.1 時間)となり、前月比+0.3% 雇用者報酬は改善基調 増加した。全民間雇用者ベースの時間当たり平均賃金は前月比+0.3%(図 4)、3 カ月前比年率では+1.6%の伸びに持ち直した。 労働時間と賃金の伸びを合成した総賃金指数(みずほ総合研究所試算)は 3 カ月 前比年率+6.5%と高い伸びになり、 家計の雇用所得環境は改善が続いていることを 示している。 失業率は低下 5 月の失業率は 9.7%(4 月 9.9%)に低下した。就業率が小幅低下 58.7%(同 58.8%)したものの、労働参加率が 65.0%(同 65.2%)と低下し、失業率を押し下 げた。 3.需要動向:個人消費は足踏み、設備投資は回復基調 株価下落にもかかわらず、 消費者マインドは良好 消費者マインドは良好さを保っている。カンファレンスボード©消費者信頼感指数 は 5 月 63.3(4 月 57.7)と持ち直している(図 5)。ミシガン大学©消費者センチメ ント指数も 5 月 73.6、6 月 75.5(6 月は速報値)と良好な結果となった。欧州ソブ リン危機によって株価が大きく下落し、Wilshire 5000 でみた米国の株式時価総額 は 3 月末の水準を大きく下回っているが、年収階層を問わず、消費者マインドの悪 化にはつながっていない。 小売は悪化。省エネ白物 一方、5 月の小売売上高(米国商務省)は前月比▲1.2%(4 月同+0.6%)と悪化 家電等補助金制度の効果 した(図 6)。5 月の国内自動車販売台数(オートデータ)は年率 1,162 万台で前月 剥落が影響 比+3.7%と持ち直したが、自動車ディーラーの売上高は同▲1.7%と減少した。ま 図4 0.4% 図5 時間当り賃金上昇率 (前 月 比 ) 消費者マインド (66Q1=100) 100 図6 (1985=100) 100 3% 小売統計 (前 月 比 ) 2% 0.2% 80 80 60 60 40 40 0.0% 1% 0% ▲ 1% 20 ▲ 0.2% 09/5 (資料)米国労働省 09/11 10/5 20 09/6 09/12 10/6 ミシガン大 学 カンファレンスボート(右 目 盛 ) (資料)ミシガン大学©、カンファレンスボード© 5 ▲ 2% ▲ 3% 09/5 09/11 10/5 除 く 自 動 車 (寄 与 度 ) 自 動 車 (同 ) (資料)米国商務省 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute たガソリンスタンド(同▲3.3%)や建材・造園関連(同▲9.3%)が大きく落ち込 んだことも、小売売上高全体を押し下げた。このうち建材・造園関連の落ち込みは、 住宅減税の失効と共に、省エネ型白物家電・住宅設備の購入補助金制度による押し 上げ効果が剥落したためとみられている。 同制度は“cash-for-appliances”とも呼ばれ、米国再生・再投資法に基づき、エ ネルギー省の認可により州政府(含む米領)が運営するものである。デラウェア州 とカンザス州では 2009 年 12 月に始まったが、認可手続きの関係で 2010 年 3 月もし くは 4 月に始めた州が多い。マサチューセッツ州やテキサス州などでは、わずか 1 日で予算を使い切ったところもあり、6 月 14 日時点で 16 州・1 米領が制度を打ち切 った(資金が枯渇)。また 4 州・1 米領では、6 月中旬から 7 月にかけて制度を開始 する予定となっている。 鈍いコア小売の戻り 自動車販売、ガソリンスタンド、建材・造園関連を除くコア小売は前月比+0.1% とプラスの伸びとなった。ただ 4 月の減少(同▲0.2%)を埋め合わせるには至らず、 コア小売はこの 2 カ月ほど足踏み状態にある。これが株価下落の影響によるものか どうか、6 月のコア小売の動きが注目されよう。 減税失効を前にした駆け 住宅販売は新築、中古共に増加した。 込み需要が住宅販売を押 新築住宅販売(戸建て。米国商務省)は 4 月年率 50.4 万件、前月比+14.8%と増 し上げ 加が続いた(図 7)。中古住宅販売(戸建て及び集合住宅、全米不動産協会)も、4 月年率 577 万件、前月比+7.6%と増加した(戸建ての中古住宅販売は、4 月年率 505 万件、前月比+7.4%)。中古住宅販売保留指数(Pending Home Sales Index、2001 年=100)は 4 月前月比+6.0%となり、中古住宅販売の増加が続いていることを示 唆している。新築住宅販売、中古住宅販売ともに、住宅減税の失効を前にした駆け 込み需要が押し上げている。 住宅着工は大幅減 一方、住宅供給には減税失効の影響が現れた模様だ。住宅着工件数(米国商務省) は 5 月年率 59.3 万件(前月比▲10.0%)と年初来で最も低い水準に減少した(図 8)。 住宅着工許可件数は 5 月年率 57.4 万件(前月比▲5.9%)と 2 カ月続けての減少と なった。 建設業者の景況感は悪化。 減税後の落ち込み示唆 図7 建設業者の景況感も悪化した。新築住宅販売の現状と 6 カ月先の見通し、見込客 の動向をもとに作成されている住宅市場指数(全米住宅建築業者協会。Housing Mar- 住宅販売件数 55 (年 率 ,万 件 ) 図8 (年 率 ,万 件 ) 700 50 70 住宅着工件数 (年 率 ,万 件 ) 図9 25 650 45 600 40 58 60 20 550 35 500 30 400 20 09/4 09/10 10/4 中 古 住 宅 販 売 (右 目 盛 ) 新築住宅販売 (資料)全米不動産協会、米国商務省 56 (年 率 ,10億 ドル) ※いずれも、 航空関連を除く 54 50 15 450 25 60 資本財出荷・新規受注 52 50 40 10 09/4 09/11 10/6 ホームビルダー・マーケット指 数 (右 目 盛 ) 住宅着工件数 (資料)全米住宅建築業者協会、米国商務省 6 48 09/4 09/10 10/4 非国防資本財出荷 非国防資本財新規受注 (資料)米国商務省 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute ket Index。0~100 の範囲をとり、水準が高いほど良好)は 6 月 17(5 月 22)とこ こ 2 カ月ほどの上昇分が剥落した。そもそも指数の水準は歴史的低水準にあるが、6 月の動きは減税失効後の住宅市場の落ち込みを示唆している。 在庫率の動きはまちまち。 住宅販売の持ち直しを受け、新築住宅の在庫率は 5.0 カ月(米国商務省。3 月 6.2 中古住宅は売り圧力が増 カ月)と低下したが、中古住宅の在庫率は 4 月 8.4 カ月(全米不動産協会。3 月 8.1 大し悪化 カ月)と小幅悪化した。後者は、駆け込み需要を当てにした(差し押さえを含む) 売却物件が急増したためである(中古住宅の販売在庫は 4 月末で 404 万件、前月比 +11.5%。但し季節調整前の原数値)。 住宅価格は共に前月比上 住宅価格はまちまちな動きが続いている。スタンダード・アンド・プアーズ(S 昇も、前年比ではまちま &P)/ケース=シラー住宅価格指数(主要 10 都市圏を対象とする指数。2 度以上 ち 売買されたことがある戸建て中古住宅を対象とした品質調整済み価格指数)は、3 月前月比+0.2%(前年比+3.1%)と上昇した。一方、連邦住宅金融局(FHFA)に よる住宅価格指数(リファイナンスに伴う再評価を除く、売買取引の価格情報のみ を対象とした系列)は 3 月前月比+0.3%と持ち直したが、前年比では▲2.2%と下 落が続いたままである。二つの指標の動きは、大都市圏では住宅価格が底打ちして いるが、全国的にみればまだまだ価格下落圧力が強いことを示唆している。 資本財の受注・出荷は概 資本財出荷・受注(米国商務省、以下同じ)は概ね回復基調にある。 ね回復基調維持 機械関連の設備投資動向を示す非国防資本財(除く航空関連)の 4 月出荷額は前 月比±0.0%と横ばいに留まった(図 9)。同財新規受注額は 4 月同▲2.6%と減少し た。出荷、新規受注共に回復基調が崩れたと言うほど大きな動きではなく、回復基 調が続いていると考えていいだろう。 投資判断は二極化 ただ、投資マインドが二極化しているのは気がかりだ。半年先の設備投資に関す る判断DIはNY製造業調査が 6 月+28.4 と高水準を維持した一方、PHL製造業 調査は+3.0 とゼロ近傍まで低下した。 建設投資に持ち直しの兆 し 事業用の建設投資(工場、オフィス等、住宅を除く建設支出額)は前月比増加し た(図 10。ただし同統計は頻繁に改訂される点に要注意)。一方、3 月の商業用不動 産価格は前月比▲0.5%と 2 カ月続けて下落した。 図 10 非住宅建設投資 (年 率 ,10億 ドル) 440 図 11 (2009/1=100) 95 420 90 400 85 380 80 360 75 340 4% 3% 2% 1% 0% 300 65 280 60 -2% (資料)米国商務省 累積連邦財政収支 (10億 ドル) 0 ▲ 200 ▲ 400 ▲ 600 ▲ 800 ▲ 1,000 ▲ 1,200 ▲ 1,400 ▲ 1,600 10 12 5% -1% 09/4 09/10 10/4 商 業 用 不 動 産 価 格 指 数 (右 目 盛 ) 非住宅建設投資 図 12 (前 月 比 ) 6% 70 320 輸出・輸入 09/4 09/10 輸出 (資料)米国商務省 10/4 輸入 2010年 度 2008年 度 (資料)米国財務省 7 2 4 6 8 (月 ) 2009年 度 みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute 輸出は横ばい圏 米国商務省によれば、4 月の輸出(サービスを含む名目)は前月比▲0.7%(3 月 は同+3.8%)とほぼ横ばいの動きとなった(図 11)。輸入も 4 月は同▲0.4%(3 月は同+2.9%)と減少したが、貿易収支は▲403 億ドル(3 月は▲400 億ドル)と 赤字が小幅拡大した。 (原数値に基づくため解釈には注意が必要だが)地域別に見た 場合に欧州(ユーロ圏)向けの輸出だけが特に滞った様子はなく、ISM輸出受注 指数の動きからも、欧州ソブリン危機に伴う貿易への影響はうかがえない。 連邦財政(年度累計)は 連邦財政収支は 5 月▲1,359 億ドル、年度累計では▲9,356 億ドルで、後者でみる 前年同期比改善 と引き続き前年と比べて財政赤字が縮小している(図 12) 。TARP 関連支出の抑制が 財政赤字縮小に貢献している。 4.物価動向:ディスインフレが進行 輸入インフレ圧力は小 米国労働省によれば、5 月の輸入物価上昇率は前年比+8.6%と一桁台の上昇率に 低下した。資源関連価格の上昇が一服したことが影響した。最終財の物価上昇率は 同+0.2%と落ち着いた動きに留まっている(図 13)。 企業部門にデフレマイン コア最終財PPIは 5 月前年比+1.3%、前月比+0.2%と緩やかに上昇した(図 ドは確認できず 14)。ISMによれば、製造業の入荷遅延指数は 5 月 61.0(4 月 61.3)、仕入価格指 数は 77.5(78.0)と高水準で推移している。また自社製品価格見通し(NY製造業 調査とPHL製造業調査)も先行き「値上げ」が広がることを示しており、企業関 連の価格指標を見る限り、デフレ・リスクに関するシグナルは確認できない。 個人消費分野ではディス しかし、個人消費関連のコア・インフレ率については、ディスインフレが進んで インフレが進行 いる。コアCPI上昇率は 5 月前年比+0.94%(前月比+0.12%)と 1%を割り込 んでいる(図 15)。一部の構成項目の異常な動きによる物価指標への影響を排除す るために開発された加重メディアン指数や刈込平均指数でみても、それぞれ前年比 +0.49%、同+0.89%(共にクリーブランド連邦準備銀行)とディスインフレが明 らかである。コア個人消費支出(PCE)デフレーター上昇率も 4 月前年比+1.16% (前月比+0.08%)と一段と低下した。 図 13 15% 輸入物価 (前 年 比 ) (前 年 比 ) 図 14 3% 10% 2% 5% 1% 0% 0% ▲ 5% ▲ 1% ▲ 10% ▲ 2% ▲ 15% ▲ 3% ▲ 20% ▲ 4% ▲ 25% ▲ 5% 09/5 09/11 10/5 輸入物価 う ち 最 終 財 (右 目 盛 ) (資料)米国労働省 コア最終財PPI 0.5% 0.4% 0.3% 0.2% 0.1% 0.0% ▲ 0.1% ▲ 0.2% ▲ 0.3% ▲ 0.4% ▲ 0.5% ▲ 0.6% 4% 3% 図 15 2.0% 消費関連コア物価指数 (前 年 比 ) 1.8% 1.6% 2% 1% 1.4% 1.2% 1.0% 0% 09/5 09/11 10/5 0.8% 09/5 前 年 比 (右 目 盛 ) 前月比 (資料)米国労働省 (資料)米国労働省 8 09/11 10/5 コアCPI コアPCEデフレーター みずほ米国経済情報 2010/6/22 Mizuho Research Institute 巻末資料:米国主要経済指標 07Q4 2.1 2.4 0.8 ▲157.6 ▲4.4 08Q1 ▲0.7 ▲0.2 0.7 ▲172.0 ▲4.8 Q2 1.5 2.9 0.7 ▲176.8 ▲4.9 Q3 ▲2.7 1.4 0.6 ▲172.4 ▲4.7 Q4 ▲5.4 2.1 0.4 ▲147.6 ▲4.1 09Q1 ▲6.4 0.9 0.4 ▲95.6 ▲2.7 Q2 ▲0.7 7.6 0.4 ▲84.4 ▲2.4 Q3 2.2 8.0 0.4 ▲97.5 ▲2.7 Q4 5.6 6.6 0.4 ▲100.9 ▲2.8 10Q1 3.0 2.3 0.6 ▲109.0 ▲3.0 Jan-10 0.6 Feb 0.4 前月比 Mar 1.4 Apr 0.0 May 0.4 Jan-10 8.9 Feb 9.9 前年比 Mar 11.6 Apr 10.4 May 9.2 小売売上高(%) 除く自動車(%) 国内自動車販売台数(百万台、年率) 住宅着工件数(万件、年率) 住宅着工許可件数(万件、年率) ホームビルダー・マーケット指数 MBA購入指数(%) ミシガン大消費者センチメント指数(66Q1=100) カンファレンスボード消費者信頼感指数(85=100) 0.3 0.4 *1077 *61 *63 *15 ▲2.1 *74 *57 0.6 1.2 *1034 *61 *65 *17 ▲4.2 *74 *46 2.1 1.2 *1175 *63 *69 *15 8.8 *74 *52 0.6 0.6 *1120 *66 *61 *19 8.9 *72 *58 ▲1.2 ▲1.1 *1162 *59 *57 *22 ▲18.1 *74 *63 2.4 2.9 6.4 21.9 5.1 4.8 5.0 13.3 2.3 12.5 10.8 9.3 24.4 28.1 36.8 9.4 8.2 20.0 41.4 17.8 6.3 5.4 19.2 7.9 3.0 国防を除く資本財出荷(%) 除く航空機・同部品(%) 国防を除く資本財受注(%) 除く航空機・同部品(%) 民間建設支出(非居住用,%) ▲4.1 ▲1.2 6.8 ▲2.9 ▲3.3 1.6 2.3 9.0 3.0 ▲1.7 2.5 2.3 ▲6.7 6.7 ▲0.9 ▲0.0 0.0 8.9 ▲2.6 1.7 #N/A #N/A #N/A #N/A #N/A ▲4.7 ▲1.8 17.6 8.1 0.0 ▲0.6 1.0 30.5 8.8 0.0 4.1 6.6 19.0 19.0 0.0 7.8 10.5 43.0 23.1 0.0 #N/A #N/A #N/A #N/A #N/A 貿易収支(10億ドル) 実質財貿易収支(10億ドル) 実質財輸出(%) 実質財輸入(%) *▲35.1 *▲39.5 0.6 ▲1.9 *▲40.1 *▲43.2 0.6 3.2 *▲40.0 *▲44.1 3.8 3.3 *▲40.3 *▲44.3 ▲2.5 ▲1.5 #N/A #N/A #N/A #N/A 14.3 1.8 12.2 10.7 16.5 13.5 18.3 14.7 #N/A #N/A 財政収支(10億ドル) 1.2 1.9 2.0 2.0 4.0 3.8 5.2 5.2 7.6 7.6 実質GDP(%、前期比年率) 労働生産性(%、前期比年率、非農業部門) 雇用コスト指数(%、前期比) 経常収支(10億ドル) 名目GDP比(%) カンファレンスボード景気先行指数(%) *▲42.6 *▲220.9 *▲65.4 *▲82.7 *▲135.9 鉱工業生産(%) 最終財生産(%) 設備稼働率(%) 民間在庫投資(10億ドル) 在庫率(カ月) 1.1 1.6 *72.8 *2.3 *1.25 ▲0.1 ▲0.6 *72.8 *8.5 *1.26 0.3 0.7 *73.1 *8.8 *1.23 0.7 0.4 *73.7 *5.3 *1.23 1.2 1.1 *74.7 #N/A #N/A ISM製造業指数 ISM非製造業指数 NFIB楽観指数(1986=100) フィラデルフィア連銀景況感指数 *58.4 *52.2 *89.3 *15.2 *56.5 *54.8 *88.0 *17.6 *59.6 *60.0 *86.8 *18.9 *60.4 *60.3 *90.6 *20.2 *59.7 *61.1 *92.2 *21.4 失業率(%) 非農業部門雇用者数(千人) 製造業雇用者数(千人) 週平均労働時間(時間) 時間当り賃金(%) *9.7 14.0 22.0 *33.3 0.3 *9.7 39.0 16.0 *33.2 0.1 *9.7 208.0 19.0 *33.3 ▲0.1 *9.9 290.0 40.0 *33.4 0.3 *9.7 431.0 29.0 33.5 0.2 2.7 2.3 1.7 2.2 2.8 輸入物価(%、除く石油関連) 生産者物価・最終財コア(%) コア消費者物価(%) コアPCEデフレーター(%) 0.5 0.3 0.2 ▲0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.1 0.1 0.1 0.5 0.2 ▲0.1 0.1 0.5 0.2 ▲0.2 #N/A 1.2 1.0 1.6 1.5 2.0 1.0 1.3 1.3 2.8 0.9 1.1 1.3 3.5 1.0 0.9 1.2 3.7 1.3 0.9 #N/A *0.13 *0.13 *0.96 *1.06 *3.73 *3.85 ▲1.1 ▲0.1 ▲0.4 0.2 ▲0.3 ▲0.4 *10856.63 *11008.61 *2397.96 *2461.19 *93.40 *94.24 *1.3526 *1.3302 *0.13 *0.83 *3.42 ▲0.8 ▲0.4 0.9 *10136.63 *2257.04 *90.81 *1.2369 ▲19.6 ▲1.1 2.2 ▲19.9 ▲2.8 2.3 ▲19.6 ▲3.2 1.4 ▲18.6 ▲3.3 1.8 ▲18.2 ▲4.6 1.8 FF金利誘導目標(末値,%) 2年債金利(%) 10年債金利(%) 商工業向け銀行貸出(%) 不動産向け銀行貸出(%) マネーサプライ(%) ダウ工業30種平均(末値) NASDAQ(末値) 円・ドルレート(末値,\/$) ドル・ユーロレート(末値,$/Euro) *0.13 *0.13 *0.93 *0.86 *3.73 *3.69 ▲2.2 ▲1.4 ▲0.7 ▲1.0 ▲0.7 0.7 *10067.33 *10325.26 *2147.35 *2238.26 *90.38 *88.84 *1.3870 *1.3660 (注)*印は水準。 (資料)米国商務省、米国労働省、米連邦準備制度理事会、カンファレンスボード、米サプライマネジメント協会(ISM)、 モーゲージバンカーズ協会(MBA)、米住宅建築業協会、米独立企業連盟(NFIB)、HAVER ANALYTICS 9 発行 / みずほ総合研究所 編集 / みずほ総合研究所 調査本部 〒100-0011 東京都千代田区内幸町 1-2-1 日土地内幸町ビル 市場調査部 上席主任研究員・シニアエコノミスト 小野 亮 [email protected] TEL 03-3591-1219 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的とし たものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作 成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資 料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。