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環境や人にやさしい白い粒子と黒い粒子から得られる様々

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環境や人にやさしい白い粒子と黒い粒子から得られる様々
① 環境や人にやさしい白い粒子と黒い粒子から得られる様々な色の構造発色性色材を開発 ②回転撹拌による構造色発色性二次粒子の作製とその構造発色性評価 (名古屋大大学院工学研究科)鈴木元紀、手島翠、岩田政典、○竹岡敬和、関隆広 ③竹岡敬和 ④2E15 ⑤(Tel: 090-1427-1759) ⑥長期間屋外に貼られたポスターが、色あせた状態になっているのを目にした人は多いだろう。このようなポスターは、
紫外線によって分解しやすいイエローやマゼンダの染料(有機色素)が使われているため、長い時間を太陽光に晒され
たことで、それらの染料は元の色合いを失ってしまったのである。他にも、水分や化学物質の影響を受けて酸化還元反
応を起こして退色する場合もある。それに比べて、顔料の中には、耐光性、耐水性、耐薬品性、抗酸化還元性などを有
するもの(特に無機顔料)が多く、様々な用途に利用されている。しかし、無機顔料は毒性の高い重金属を使用した化合
物からできているものも多いため、化粧品など、人に直接触れるような用途には使用できる種類が限定されている。染
料に関しても、化粧品などへの配合に関して、規制が厳しくなっている。とりわけ、ヨーロッパを中心に広がる環境に
対する配慮から、その他の用途への染料や顔料に使用する材質
についても、今後ますます規制が強化されると考えられる。し
かし、我々が豊かな生活を送る上で、様々な鮮やかな色を示す
退色しない染料や顔料(色材)の存在は欠かせなくなっている。
さらに、低毒性、低環境負荷性を備えた色材が安価に大量に得
られるようになれば、今後の我々の暮らしが永続的に発展可能
で快適になることを後押しするだろう。そのためには、自然界
に豊富に存在し、環境負荷性が低い自然調和性に優れた化合物
を利用した色材作りが求められる。 名古屋大学の鈴木元紀(大学院生)、手島翠(大学院生)、竹
岡敬和(准教授)らは、人や環境に優しい材料から成る、光の
波長ほどの微細構造の存在により色を示す構造発色性材料が、
以上の要求を満たす色材になり得ると考えて研究に取り組ん
でいたところ、人や環境への負荷の低い材料から調製した白い
微粒子と黒い微粒子混ぜることで非常に鮮やかな角度依存性
図1 粒径の揃ったシリカ微粒子、および、カ
ーボンブラック(CB)から形成された膜。粒径の
揃ったシリカ微粒子などの白い微粒子の集合体
に黒い微粒子(例えば CB)を少量添加すると鮮
やかな構造色が観測される。粒径が 280nm、360 nm の白い微粒子を用いると、それぞれ緑と赤に
なる。
のない構造発色を示すことを発見した(図1)。 構造色は、光の吸収を伴わず、反射や散
乱する光の干渉によって生じる色である。
自然界には蝶やタマムシの羽根、真珠など、
構造色の例が多く存在している。鈴木らの
開発した構造色顔料は、白い微粒子として
シリカ微粒子、黒い微粒子としてカーボン
ブラックやマグネタイトを原料としている。
構造色を人工的に生み出す試みはこれまで
図2 230 nm、280 nm、360 nm のシリカ微粒子と CB からなるコロイ
ドアモルファス集合体が示す角度依存性のない構造発色 も多くの研究が行われてきたが、いわゆる
「玉虫色」になり、見る角度や光の照射方向によって色が変化してしまうことが実用上の難点だった。これは、例えば
微粒子が結晶(短距離秩序、長距離秩序、周期性を有する)のように規則的な構造を形成することによって起こるもの
で、竹岡らのグループは、微粒子の結晶化を防いで短距離秩序のみが存在するアモルファス(非晶質)の状態を形成さ
せることで、角度依存性のない構造発色を示す材料の構築に成功した。
しかし、このような微粒子の形成するアモルファス構造による構造色にも、淡くぼんやりした色しか生み出せないと
いう難点があった。同研究グループは、シリカ微粒子にカーボンブラックなどの黒色微粒子を加えることで、彩度(色
のあざやかさ)を大幅に向上できることを明らかにした。また、構造色の色調は用いるシリカ微粒子の粒径で制御でき
ることも発見した(図2)。こういった工夫によって、青から赤までのさまざまな構造色を示す顔料を作ることができ
た。この構造色顔料は、紫外線による色褪せがなく環境にやさしいことから、美術用のほか建築・工業用塗料や化粧品
など多くの分野に応用が期待できる。
また、興味深いことに、微粒子のア
モルファス集合体を作る際に、上述の
シリカ微粒子や黒色顔料を、正電荷を
有する高分子とともに水懸濁液を調
製し、容器中で回転撹拌を施すだけ
で、粒径の揃った角度依存性のない
構造発色性の二次粒子を調製する
ことができた(図3)。その粒径も
100μm から数百 100μm の範囲で
望みの大きさに調節することもで
きる。また、二次粒子の色は用いた
シリカ微粒子の粒径によって変え
ることができる。このような粒径の
揃った角度依存性のない球状の構
造発色性材料は、ディスプレイ用の
表示色材、診断薬などにも利用可能
図3 上図:シリカ微粒子と正電荷を有する高分子を混合し、回転撹拌する
ことで二次粒子が得られる。下左図:シリカ微粒子と正電荷を有する高分子
から形成された二次粒子。写真に示した二次粒子の粒径は約 200μm。シリカ
微粒子は球状のアモルファス集合体(球状コロイドアモルファス集合体)を
形成している。下右図: 粒径の異なるシリカ微粒子(205nm、247 nm、361 nm)
と CB からなる球状コロイドアモルファス集合体。用いたシリカ微粒子の粒
径に応じて、色が違う。 であり、これまでにない機能顔料と
して期待される。
竹岡らが発見した微粒子が形成するアモルファス構造による“角度依存性のない構造色の発現”は、構造発色性を示
すためには、材料に屈折率の周期性があることが必須であるという従来の考えを覆すものである。つまり、“構造色は
光の波長オーダーの周期的な構造によって生じており、構造色は角度依存性があるもの”だという一般的イメージを払
拭し、非周期的な構造の導入などの新たな効果を施すことで、“構造色にも多様性がある”ことを具現化した。アモル
ファス構造から観測される構造色は、従来の構造色とは異なり、光を照射する方向や観測する方向によらず色相が一定
である。また、ぎらつきのない落ち着いた色であることから、日本画などの作製にも利用できる。従来の角度依存性や
ぎらつきのある構造色では、利用範囲が限られていたが、アモルファス構造も利用すれば、これまでの色素や顔料が利
用されてきた分野にも利用できるようになる。また、材質や調製方法を工夫すれば、耐久性、環境対応性、低毒性、発
色性などに優れた新しい顔料が開発できるようになるに違いない。
⑦適用分野
顔料、塗料、化粧品、ディスプレイ、診断薬、光学素子 
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