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特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
Working Folder: A Cloud-Based Document Sharing Service
要
旨
富士ゼロックスでは従来、企業内で運用するオンプ
レミス型の文書共有システムを提供してきた。文書共
有システムを社内で運用することにより、社内の重要
な情報である文書を効率的に共有し活用することが
できるが、システムの運用管理のコストの高さや社外
からの活用が困難であるなどの課題があった。
近年、クラウドサービスやタブレットなどのモバイ
ル端末が普及し、安全かつ手軽な社外からの文書活用
の要求が高まっている。
富士ゼロックスでは、オンプレミス型の文書共有シ
ステムの開発経験を活かし、Working Folderと呼ぶク
ラウド型文書共有サービスを開発し提供を開始した。
本稿では、モバイル端末や複合機との連携を実現す
るWorking Folderのソフトウェア技術や、Working
Folderによるワークスタイルの変革について紹介する。
Abstract
執筆者
大塚 透(Toru Otsuka)
林 良太郎(Ryotaro Hayashi)
横山 俊治(Toshiharu Yokoyama)
市川 岳大(Takehiro Ichikawa)
岩崎 康彦(Yasuhiko Iwasaki)
ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部
(Solutions Development, Solution Service Development
Group)
4
「Working Folder」の紹介動画をご覧いただけます。
Fuji Xerox has provided on-premises document
sharing systems used in companies. Such document
sharing systems allow for the effective sharing and
utilization of documents (containing important internal
information). However, these systems have such
issues as high operation and management costs, and
the inconvenience caused when accessing the
systems from outside of the office.
Along with the growing use of cloud services and
such mobile devices as tablets, there is increasingly
higher demand for safe and easy ways to use
documents from outside of the office.
Fuji Xerox has newly developed and launched a
document sharing service (called Working Folder)
using cloud technology, based on its experience in
developing on-premises document sharing systems.
This report describes the software technology
linking mobile devices and multifunctional devices, as
well as the changes in work style that Working Folder
can bring.
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
ケーションソフトウェア商品 DocuWorksな
1. 緒言
どから利用可能である。また、初期費用なしで
企業内で扱う情報の80%は非構造化データ
1) 2)
であるといわれている
。非構造化データと
は、その中身が内容的にも形式的にも雑多であ
月額課金のみで利用できるサービスであるため
手軽に導入でき、コスト低減にも寄与する。
本稿では、モバイル端末や複合機との連携を
り、構造が定まっていないデータのことである。
実現するWorking Folderのソフトウェア技術
たとえば、企業における報告書や電子メールと
や、Working Folderによるワークプロセスの
いった文書が非構造化データに該当する。
変革について紹介する。
文書共有システムは、企業内で流通する非構
造化データである文書を共有化することで、企
業内の情報を効率的に活用することが可能とな
り、知的生産性能向上や業務効率改善を図るこ
2. 文書共有システムとその課題
2.1
企業における文書共有システム
とができる。たとえば、富士ゼロックス(以下、
文書共有システムとは、電子化した文書を企
FXと記述する)では、文書共有システムを利用
業内で共有するためのシステムである。FXでは、
することにより、一万人以上の従業員が、契約
文書共有(文書管理)ソフトウェア商品として、
書、報告書、設計書などの数テラバイト以上の
DocuShare、ArcSuite Engineering、Apeos
文書データを共有している。
PEMaster Evidence Managerなどを提供し
従来FXでは、文書共有システムを開発し、ソ
フトウェア商品およびソリューションとして展
てきた3)。ここでは、企業内で業務として文書
共有を行ううえで、必要な機能について説明する。
開してきた。提供形態はオンプレミス型であり、
お客様の社内にシステムを導入、設置して運用
する形式である。
2.1.1
アクセス権管理
企業内で扱う情報は、展開すべき組織範囲や
近年、クラウドサービスやタブレットなどの
秘密性がさまざまに異なるため、文書も適切な
モバイル端末の普及により、文書共有のサービ
利用者間でのみ共有しなければならない。共有
ス化や、社外での文書共有の必要性が高まって
範囲が異なる文書を一元管理するためには、ア
いる。クラウドサービスの普及により、文書共
クセス権管理によるアクセス制御が必要である。
有においてもシステム構築の手間やコストをか
また組織利用においては、アクセス権設定を
けず、より手軽に迅速に利用を開始できるサー
効率的に行うため、組織や役職・職責よってユー
ビス化が必要とされている。また、モバイル端
ザーをグループ化し、グループに対してアクセ
末の普及により社外で業務活動を行う機会が増
ス権を設定できる必要がある。企業では組織変
え、社外でも安全に利用できる文書共有が求め
更があり、それに伴い適切にアクセス権設定を
られている。
変更しなければならないが、グループの構成を
インターネット経由でファイルの読み書きが
可能なオンライン・ストレージ・サービスは、
変更することで効率的に適切なアクセス権の変
更が可能である。
元々個人向けであったものが多く、企業が組織
で業務に利用するには不足している機能や概念
も多い。
2.1.2
バージョン管理
組織においては、複数の利用者で文書に更新
FXでは、オンプレミス型の文書共有システム
を加えていく必要がある。ほかの利用者が更新
の開発および提供の経験を活かし、インター
した最新の文書を参照でき、ときに過去の内容
ネット経由で利用可能な企業向けのクラウド型
を確認したり更新を取り消したり、また誰がい
文書共有サービスWorking Folderを開発し、
つどのような変更を加えたか確認したりするた
2011年12月にサービス提供を開始した。
め、バージョン管理では以前の内容を編集履歴
Working Folderは、PCのWebブラウザー以
として保持しておくことが可能である。またほ
外にも、タブレット端末、複合機、FXのアプリ
かのユーザーによる更新作業との衝突を回避す
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
5
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
るため、排他制御としてロック/アンロックや
z 使用するサーバーの構成を、お客様の規模
や用途に合わせて選択可能。
チェックイン/チェックアウト機能も求められる。
z 基本的には社内からのアクセスのみ可能で
2.1.3
あり、セキュリティー面で強固。
検索
すべての利用者が必要な文書に容易にアクセ
z 自社の業務プロセスに合わせた運用設計や
スできるように、通常、文書はフォルダーの階
機能カスタマイズ、自社内の他システムと
層構造により分類整理されるが、ときに文書を
の連携などを自由に実施可能。
探し出すために検索機能が必要になる場合があ
このような利点がある一方で、オンプレミス
る。指定した条件で検索可能にするために、文
型の文書共有システムには、次に挙げるような
書の属性が管理されている必要がある。文書の
課題がある。
名前、作成者、作成日時、文書の種別などであ
z ソフトウェアやサーバーの購入、ネット
る。条件値の指定では、文字列のパターン指定
ワーク環境構築、サーバー設置場所の確保
や数値や日時の範囲指定など、あいまいな条件
などシステム構築にコストや時間がかかる。
指定も可能でなければならない。条件を複数組み
z 定期的なセキュリティーパッチの適用、シ
合わせて検索結果を絞り込める必要もある。文書
ステムのバージョンアップ、バックアップの
内容に含まれる語句をキーワードとして検索す
取得などのシステム管理作業が必要である。
る全文検索機能も可能であることが望ましい。
z 社外からのアクセスが難しく、モバイル
ワークに向かない。
2.1.4
操作履歴
文書共有システムの導入にあたり、これらの
企業における文書共有では、コンプライアン
課題は、特に事業規模が小さく投資費用に見
スの観点から改竄や情報漏洩を防止するために、
合った効果に疑念を持つ中小企業のお客様に
文書に対していつ誰がどのような操作を行った
とっては大きな導入障壁となっている4)。
かを記録し確認できる操作履歴の記録は重要で
ある。また文書の参照履歴により、組織内での
情報の活用度を確認することもできる。
2.3
オンライン・ストレージ・サービス
近年、DropboxやSkyDrive、Google Drive
などのクラウド型のオンライン・ストレージ・
2.1.5
管理者機能
企業における文書共有において重要なのが、
管理者による運用管理機能の提供である。組織
サービスが登場している。インターネット経由
で利用でき、クラウド上に文書を格納し取得で
きるサービスである。
変更に対応してユーザーやグループを管理した
これらオンライン・ストレージ・サービスは
り、空き容量や文書のアクセス状況などシステ
個人を対象とするものが多く、ビジネス向けで
ムの状況を確認しメンテナンスを行ったり、各
あっても個人向けサービスを機能拡張してビジ
種機能の設定を変更したりなど、組織の中で特
ネス向けに提供している場合が多い。最初から
定の人だけが管理者として権限を持って特別な
企業内の組織で文書を共有することを目的とし
操作を実行可能である必要がある。
て設計されたオンプレミス型の文書共有システ
ムとはコンセプトの違いから、機能上の差異が
2.2
オンプレミス型文書共有システムの
利点と課題
従来の文書共有システムは、企業内のネット
生じている。
たとえば、多くのオンライン・ストレージ・
サービスでは、組織で利用するために必須の組
ワーク上にサーバーを設置して社内で運用する
織の管理者のための機能が不足している。また、
オンプレミス(on-premises)型と呼ぶ形態が
アクセス権管理においても、企業の組織単位で
一般的であった。
適切にアクセス権を設定・管理することは困難で
オンプレミス型の文書共有システムは、次に
挙げるような利点がある。
6
ある。ほかにもバージョン管理や操作履歴の記録
など、組織で利用するための機能が不足している。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
モバイル端末
Webブラウザー
供している。データセンターの信頼性は日本
データセンター協会(Japan Data Center
Council)のファシリティ基準であるティアの
複合機
DocuWorksデスク
最高レベルとなるティア45)に相当する。
お客様が登録した文書データは、すべてデー
Working Folder
タセンター上のストレージに暗号化して保存さ
図1
Working Folderと他コンポーネントの連携
Coordination between Working Folder and other
components
3. ク ラ ウ ド 型 文 書 共 有 サ ー ビ ス
Working Folder
3.1
Working Folderの概要
Working Folderは、FXがオンプレミス型の
文書共有システムの開発や提供の経験を活かし
れるので、万が一第三者が直接ストレージ上の
ファイルにアクセスしたとしても文書内容を知
ることができないようになっている。
3.3
Working Folderの機能
3.3.1
データ構成
Working Folderの基本的なデータの構成を
説明する(図3)。
て開発した「いつでもどこでも利用可能な」ク
Working Folderでは、サービス利用契約や管
ラウド型文書共有サービスである。初期費用が
理の単位(テナントに相当)をキャビネットと
不要な月額課金型のクラウドサービスであり、
呼ぶ。
システム導入の初期コストやシステム管理コス
キャビネットの中には、アクセス権の設定が
トが不要で、契約後すぐに利用を開始すること
可能な単位としてドロワーがある。ドロワーに
ができる。
は、複数のユーザーがアクセスできる共有ドロ
クライアントとしてWebブラウザー、複合機、
アプリケーションソフトDocuWorksなどから
ワーと、それぞれのユーザーだけがアクセスで
きる個人ドロワーがある。
利用できる。さらにインターネット経由でサー
ドロワーの中には、フォルダーと文書を格納
ビスを利用するため、タブレット端末などモバ
でき、フォルダーによる階層構造を構築できる。
イル環境からも利用可能である(図1)
。
文書を更新(上書き)すると、バージョンが追加
ストレージシステムを、オンプレミス型/ク
され、最大5つまでのバージョンを保持できる。
ラウド型、個人向け/企業向け、というカテゴ
キャビネットでは、アクセスの主体として、
リーで分類すると図2のようになる。Working
ユーザーとグループを管理する。ユーザーには、
Folderは、企業向けのクラウド型に分類される。
管理者、標準ユーザー、制限ユーザーの3種類
がある。管理者は、管理機能が利用でき、アク
3.2
Working Folderのデータセンター
Working Folderは、日本国内にあるデータセ
ンターでシステムを構築・運用しサービスを提
セス権に関係なく、共有ドロワー内のすべての
フォルダー、文書にアクセスできる。一方、制
限ユーザーは、個人ドロワーを持たず、ユーザー、
グループの情報を取得できない。グループには、
クラウド型
メンバーとしてユーザーを追加できる。
Dropbox
SkyDrive
Google Drive
など
Working Folder
キャビネット
オンプレミス型
共有ドロワー
PC内のストレージ
など
DocuShare
ArcSuite
など
個人向け
企業向け
フォルダー
個人ドロワー
文書
管理者
標準ユーザー
制限ユーザー
図3
図2
グループ
Working Folder のデータモデル
Data model of Working Folder
ストレージシステムの分類
Classification of a storage system.
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
7
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
3.3.2
アクセス制御
アクセスを制御する機能として、ユーザー認
証、アクセス権、IPアドレス制限がある。
公開先の利用者は、メールに記載されたURLに
アクセスすることで、認証なしで公開された文
書をダウンロードできる。
キャビネットにアクセスするには、ユーザー
安全のため、文書の公開時に公開期限を設定
IDとパスワードによるユーザー認証を行う必要
でき、公開期限を過ぎると生成したURLで文書
がある。認証を行っていないユーザーは、キャ
のダウンロードが不可能になる。また、管理機
ビネットにアクセスすることはできない。
能として、文書を公開可能なユーザーを制限す
共有ドロワーには、ユーザー、グループごと
ることができる。
に、読み取り専用、書き込み可能の2種類のア
クセス権を設定可能である。アクセス権が許可
3.4
Working Folderを実現する技術
されていないユーザーは、その共有ドロワーを
3.4.1
マルチクライアントを支えるマルチ
Webサービス
参照したり登録したりすることができない。ま
た、グループのアクセス権を設定可能であるの
Working Folderのクライアントとしては、
で、組織単位での適切なアクセス権の設定が容
Webブラウザー、PC用アプリケーションの
易である。
DocuWorksデスク、モバイル端末用アプリ
IPアドレス制限により、アクセスを許可する
ケーションのDocuWorks Folder、および複合
IPアドレスをキャビネットに設定して接続元を
機がある。各クライアントは、セキュアな通信
制限し、第三者のアクセスだけでなく、正当な
プ ロ ト コ ル で あ る HTTPS ( Hypertext
ユーザーであっても不適切な場所からのアクセ
Transfer Protocol over Secure Socket
スを禁止することができる。
Layer)を用いてWorking Folderと通信を行う。
また、適切なアクセスが行われているかを確
HTTPSは一般的に用いられている通信プロト
認できるように、いつ、誰が、どこから、どの
コルであるため、Webブラウザーでの閲覧のみ
ような操作を行ったかの操作履歴を記録し、そ
を許可しているような企業の社内ネットワーク
れを参照する、操作履歴機能を提供している。
からWorking Folderを安全に利用することが
可能である。
3.3.3
複合機との連携
Working Folderは、各クライアントのための
複合機の操作パネルから操作して、Working
機能をHTTPS通信を介してWebサービスとし
Folderに登録された文書を選択して印刷した
て提供している(図4)
。各Webサービスに共通
り、スキャンした文書をWorking Folderに直
したWorking Folderのデータモデルを提供す
接アップロードすることができる。また、複合
る部分として、Coreモジュールがある。また、
機の親展ボックスに格納されたファクス受信
Working Folderでは、FXのオンラインサービ
データやスキャンデータを、自動的にPDF文書
スに共通の認証サービスを利用しており、
や DocuWorks 文 書 に 変 換 し て Working
Folderにアップロードすることができる。
DocuWorksデスク
モバイル
Webブラウザー
複合機
複合機から文書がアップロードされたとき、
事前に設定した宛先にメールを送信するメール
通知機能を提供している。
3.3.4
社外の利用者との共有機能
複合機
連携 I/F
SOAP
I/F
WebDAV
I/F
Working Folderにユーザー登録されていな
Working Folder Core API
い利用者へ文書を公開するための文書公開機能
Working Folder Core
を提供している。文書を公開すると、ランダム
な文字列で構成されたURLを生成し、そのURL
図4
Web UI
認証
サービス
ソフトウェアモジュールおよびサービスの構成
Software module and the composition of
service
を記載したメールを公開先の利用者に送信する。
8
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
WebUIではFXのサービス間でのシングルサイ
て多く取り入れられている。ドラッグ&ドロッ
ンオンを実現している。
プ操作のサポート、グラフィック描画、Cookie
Webブラウザーでは、動的なWebユーザーイ
に代わるデータ保存の仕組みである
ンタフェイス(以下、WebUIと記述する)を実
WebStorageなど、JavaScriptを用いてさま
現 す る た め 、 Ajax ( Asynchronous
ざまな処理ができるようになった。さらに
JavaScript + XML)を利用している。Ajaxの
HTML5の周辺仕様として、ファイルの操作を
非同期通信では、JSON(JavaScript Object
行うFile API、Webブラウザー上で高度なデー
Notation ) フ ォ ー マ ッ ト で WebUI 用 の Web
タ保存が行えるIndexed Database API、位置
サービスとデータ通信を行っている。
情報を扱うGeolocation APIなどがある(図5)。
PC用アプリケーションのDocuWorksデス
厳密には別の仕様であるが、一般的にはこれら
クでは、ソフトウェアから呼び出しが容易な
周辺仕様を含めてHTML5と呼ぶことが多い。
SOAP(Simple Object Access Protocol)
7)
プロトコルのWebサービスを利用している。
HTML5は策定中の仕様であり、Webブラウ
ザーによっては対応していなかったり、挙動が
モバイル端末用アプリケーションの
異 な っ て い た り す る 。 そ の た め 、 Working
DocuWorks Folderでは、汎用的なWebスト
Folderでは、多くのWebブラウザーで利用でき
レージとしてのインターフェイスである
るよう、HTML5を利用可能なWebブラウザー
WebDAV
Distributed
を限定して、HTML5の機能を利用している。
Authoring and Versioning) プロトコルの
HTML5を使った機能には次のようなものが
(
Web-based
6)
ある。
Webサービスを利用している。
z ドラッグ&ドロップ操作での文書のアップ
複 合 機 で は 、 REST ( Representational
State Transfer)ベースの軽量なWebサービ
ロード機能(HTML5のDrag and Drop、
スを利用している。複合機との連携の詳細につ
File APIを利用)
z 文書の使用状況をグラフ表示する機能
いては、後述する。
(SVG*1を利用)
3.4.2
HTML5を採用したWebUI
Working FolderのWebUIでは、HTML5を
限定的に採用している。HTML5とは、次世代
HTML5を限定的に利用することにより、多
くのWebブラウザーに対応するとともに、リッ
チなWebUIを提供することを可能としている。
の HTML と し て W3C ( World Wide Web
Consortium)にて策定が行われているHTML
3.4.3
複合機連携(カスタムサービス)
仕様である。HTML5には、リッチクライアン
Working Folderの複合機連携は、複合機上の
トを実現するために必要な機能が標準仕様とし
カスタムサービス機能を用いて実現している。
カスタムサービスとは、複合機上の組み込み
Webブラウザーで動作するサービスであり、
HTML5 周辺技術
XMLHttp
Request
2
HTMLおよびJavaScriptをベースに作られた
Web
Workers
コンテンツで構成されている。
カスタムサービスを用いたサービス提供を行
W3C HTML5 仕様
File
API
Drag
and
Drop
Indexed
DB
HTML
Markup
CSS3
Web
Socket
図5
構成としてカスタムサービスの配置や実行する
Canvas
2D
場所を検討する必要がある。
Web
Storage
Web GL
う場合、コンテンツ内容のほかにも、システム
SVG
Geoloca
tion
API
HTML5と周辺技術
HTML5 and peripheral technology
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
*1
Scalable Vector Graphics
9
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
組み込みWebブラウザーで設置型コンテン
複合機組み込みWebブラウザー
ツを起動すると、Working Folderにアクセス
カスタムサービス
してサービス取得型コンテンツをダウンロード
Working Folder
から取得した
サービス取得型
コンテンツ
設置型
コンテンツ
して起動する(図中①)。サービス取得型コンテ
ンツは、必要な情報をWorking Folderから取
得してWebブラウザー上に表示する(図中②)
。
②
①
複合機がクラウドサービスであるWorking
フ ァイヤーウォール
Folderと連携する上で以下の点を工夫した。
z データ転送量を減らすために、ボタンなど
複合機連携 I/F
サービス取得型
コンテンツ
Wo rking Folder C ore API
Working Folder サービス
は、できるかぎり組み込みWebブラウザー
のものを使うようにし、JavaScriptは圧縮
するようにした。
z 体感速度を向上させるため、サービス取得
図6
ハイブリッド型の処理の流れ
Flow of processing of a hybrid type
型コンテンツのダウンロードを、ログイン
画面のみの前半部分と、ログイン後の処理
システム構成としては主に「設置型」と「サー
ビス取得型」の2つのタイプがある。「設置型」
に必要な画面の後半部分とに分ける構成に
した。
はあらかじめ複合機内部にコンテンツを配置し
て、複合機上の組み込みWebブラウザーで実行
する。
「サービス取得型」は外部サーバーに配置
3.4.4
マルチテナントのデータ・アーキテク
チャー
しておいたコンテンツを複合機側に取得したあ
クラウドサービスでは、サーバーなどのリ
とで複合機上の組み込みWebブラウザーで実
ソースの利用効率を上げるために、複数の顧客
行する。
企業でリソースを共有するマルチテナント方式
しかし「設置型」、「サービス取得型」には、
それぞれに次のような問題がある。
を採用することが必要である。Working Folder
もマルチテナント方式を採用している。
z 設置型は仕様変更時に複合機側に設置し
マルチテナント方式では、テナントごとの
たコンテンツを全て入れ替えなければな
データをいかに分離するかが課題となる。マル
らない
チテナントの分離方式には、大きく分けて次の
z サービス取得型は、接続先が見つからない
などのエラーが発生した場合、組み込み
Webブラウザー標準のエラーが表示され
てしまい、分かりにくい
そこでWorking Folderでは、これらの問題を
解決するために、2つを組み合わせて利用する
3つがある8) 9)。
1) テナントごとに個別のデータベースを用
意する方式(個別DB方式)
2) 1つのデータベースの中にテナントごと
のスキーマを用意する方式(共有DB/個
別スキーマ方式)
「ハイブリッド型」を採用した。エラーメッセー
共有DB
ジなどの不変情報は設置型に含めて配置し、
Working Folderの各種画面など、実際に処理
を行う部分はサービス取得型に含める構成とし
テナント1
DB
テナント1
スキーマ
共有
スキーマ
た。これにより、Working Folderで仕様変更
が発生した場合でも、サービス取得の部分のみ
共有DB
テナント2
DB
テナント2
スキーマ
個別DB方式
共有DB/
個別スキーマ方式
変更すればよく、複合機に設置済みのコンテンツ
を変更する手間を軽減することが可能となった。
図6は2つのタイプのコンテンツを組み合わ
せた実際の処理の流れを示したものである。
10
図7
共有DB/
共有スキーマ方式
マルチテナントに対するアプローチ
Approach to multi-tenant
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
3) 1つのデータベースの中の1つのスキー
環境にアクセス可能だが、管理や運用保守にコ
マを複数のテナントで共有する方式(共
ストがかかる、接続のための手間や時間がかか
有DB/共有スキーマ方式)
り利便性に欠ける、などの課題があった。
共有優先の共有DB/共有スキーマ方式は、
制約の多いモバイル環境下で効果的に文書を
データベースサーバーあたりのテナント数を多
活用するためには、次の2つが重要である12)。
くすることができ、リソースの利用効率が高い
ので長期的な運用コストは低くなるが、テナン
① 利便性
トごとにデータを分離するために実装が複雑に
制約の多い環境下でも、今必要な情報にす
なり、システム開発の初期コストが高くなる。
ぐに、簡単にアクセスでき、スムーズな操
逆に分離優先の個別DB方式は、データの分離
作でドキュメント活用できる利便性が求め
られる。
を最も簡単に実現するアプローチであり、シス
テム開発の初期コストは低いが、データベース
② 安全性
サーバーあたりのテナント数は少なく運用コス
どこにいても安心、安全、確実に情報にア
トが高くつく(図7)。
クセスでき、万が一の場合でも情報の漏洩
を阻止できる、高い安全性が求められる。
Working Folderでは、初期コストと運用コス
トのバランスを考慮して、共有DB/個別スキー
マ方式を採用している。FXでのエンタープライ
オンプレミス型の文書共有システムとノート
ズレベルの文書共有ソフトウェアの開発経験を
PCとの組み合わせでは、前述のとおり、制約の
活かし、共有DB/個別スキーマ方式でも、テナ
多いモバイル環境下で効果的に文書を活用する
ント数を多くできるよう実装している。
ことは困難である。
近年普及したタブレット端末は、起動が速く、
4. Working Folderによるワークスタ
イルの変革
携帯性に優れ、気軽にインターネットに接続で
き、従来のノートPCよりも利便性が高いため、
モバイルワークでの活用を検討する企業が増え
柔軟な働き方は、企業の競争力に大きく貢献
ている。クラウド型の文書共有サービスとタブ
する。柔軟な働き方を実現するため、多くの企
レット端末とを組み合わせることにより、制約
業 が 情 報 通 信 技 術 ( ICT, Information and
の多いモバイル環境下で効果的に文書を活用す
Communication Technology)を採用し、中
ることが可能となる。
でもモバイル通信技術は過去10年間で大きく
10)
Working Folderは、企業向けのクラウド型の
。日本国内
文書共有サービスであり、タブレットなどのモ
でも、法人向けモバイルソリューション市場は
バイル端末によって外出先からでも簡単にアク
大きく成長し、2015年には9,000億円近い市
セス可能な文書共有を実現した(図8)。必要な
成長し注目されている技術である
11) 12)
場を形成すると予想されている
。
しかしながら、文書共有の領域においてはモ
オフィス
バイルワークの実現は十分ではなかった。多く
クラウドサービス
連携
(同期)
Working Folder
の場合、モバイル環境から社内のオンプレミス
型の文書共有システムを利用することは困難で
必要な時だけ取得/
用済み後は削除
DocuShare など
文書共有システム
あることから、従来のノートPCを利用したモバ
文書共有
文書共有
モバイル端末
イルワークでは、事前に必要な文書をノートPC
複合機
にダウンロードして持ち出す必要があった。そ
のため、外出先で必要となった文書は参照でき
D
H
C
PC
_ P
文書共有の範囲
ない、紛失や盗難による情報漏洩のリスクがあ
る、などの課題があった。VPN(Virtual Private
Network)を利用すればモバイル環境から社内
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
モバイル環境
図8
Working Folderによるモバイルワークの革新
Innovation of the mobile work by Working
Folder
11
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
とき必要な文書にアクセスできるので、常にモ
バイル端末に文書をダウンロードして持ち歩く
7. 参考文献
必要はなく、またモバイル端末から社内ネット
1) S. Grimes, “Unstructured Data and
ワークに直接アクセスすることもないので、よ
the 80 Percent Rule”, Clarabridge
り高い安全性を提供する。Working Folderは、
BridgePoint Article, (2008).
初期費用が不要な月額課金型のクラウドサービ
2) A. Aarthi, P.R. Rao, and V. Dahiya,
スであり、システム導入の初期コストやシステ
“TEXT
ム管理コストが不要で、契約後すぐに利用を開
International Journal of Advanced
始することができ、事業規模が小さい中小企業
Computer
のお客様にも投資に見合った効果を提供できる。
Sciences, 3, pp.348-354 (2012).
Working Folderによるワークスタイルの変
3) 山下哲也, 大下洋, 高嶋太郎, “コンテンツ
革は、モバイル環境下での効果的な文書の活用
マネジメント”, 富士ゼロックス テクニカ
を安全に実現することにより、柔軟な働き方を
ルレポート, 19, pp.28-37 (2010).
実現することであり、その結果、企業の競争力
4) 竹内英二, “「クラウド」と「モバイル」に
PATTERN
ANALAYSIS”,
and
Mathematical
よる中小企業におけるICT活用促進の可能
に大きく貢献する。
「Working Folder」活用方法の
紹介動画をご覧いただけます。
5. 結言
Working Folderは、FXがオンプレミス型の
性”, 日本政策金融公庫論集, 9, pp.1-21
(2010).
5) 日本データセンター協会,“データセンター
ファシリティスタンダードの概要”, 日本
文書共有システムの開発や提供の経験を活かし
データセンター協会 (2010), pp.1-8.
て開発した「いつでもどこでも利用可能な」ク
http://www.jdcc.or.jp/pdf/facility.pdf
ラウド型文書共有サービスである。
クライアントとしてWebブラウザー、複合機、
6) L. Dusseault, Ed., “HTTP Extensions
for Web Distributed Authoring and
アプリケーションソフトDocuWorksなどから
Versioning (WebDAV)”, CommerceNet
利用できる。さらにインターネット経由でサー
(2007)
ビスを利用するため、タブレットなどのモバイ
ル端末からも利用可能である。
Working Folderによるワークスタイルの変
7) D. Box, D. Ehnebuske, G. Kakivaya, A.
Layman, N. Mendelsohn, H. Nielsen, S.
Thatte, and D. Winer, “Simple Object
革は、モバイル環境下での効果的な文書の活用
Access
を安全に実現することにより、柔軟な働き方を
DevelopMentor,
実現することである。
UserLand
FXでは、今後も、お客様のワークスタイル変
革などの新たな価値を提供するサービスを継続
的に提供していく。
Protocol
(SOAP)
1.1”,
Microsoft,
IBM,
Software,
Inc.,
Lotus
Development Corp. (2000).
8) R. Pandya and S. Upadhyay, “Saas
Data
Architecture”,
Oracle
Corporation, pp.3-9 (2008).
6. 商標について
z Dropboxは、米国Dropbox Inc.の登録商標
です。
z SkyDriveは、Microsoft Corporationの登
録商標です。
z Google Driveは、Google Inc.の登録商標です。
z その他、掲載されている会社名、製品名は、
各社の登録商標または商標です。
12
9) F. Chong, G.Carraro, and R. Wolter,
“Multi-Tenant
Data
Architecture”,
Microsoft Corporation MSDN Library
(2006).
http://msdn.microsoft.com/en-us/libr
ary/aa479086.aspx
10) T.L. Brodt, R.M. Vergurg, “Managing
Mobile Work – Insight from European
Practice”, New Technology, Work and
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
特集
クラウド型文書共有サービス「Working Folder」
Employment, 22, pp.52-65 (2007).
11) 野村総合研究所, “IT市場ナビゲーター・
2011年度版”, 東洋経済新聞社, p.204
(2011).
12) 長束育太郎, 田丸恵理子, “Mobile Action
Centric Service – モバイルドキュメン
ト活用によるワークスタイル変革 –”,
富
士ゼロックス テクニカルレポート, 21,
pp.22-33 (2012).
筆者紹介
大塚
透
ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部に所属
専門分野:ソフトウェア開発
林
良太郎
ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部に所属
専門分野:ソフトウェア開発
横山
俊治
ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部に所属
専門分野:ソフトウェア開発
市川
岳大
ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部に所属
専門分野:ソフトウェア開発
岩崎
康彦
ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部に所属
専門分野:ソフトウェア開発
富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013
13
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ロードを行えるサービスの名称です。 ●Android™はGoogle Inc.の商標です。 ●Google Playは、Google Inc.の商標です。 ●その他の掲載されているサービス、商品名等は各社の登録商標また
は商標です。
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