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娘の近くに転居してきた「呼び寄せ高齢者」に関する研究
娘の近くに転居してきた「呼び寄せ高齢者」に関する研究 ──聞き取り調査の事例から── 伊藤シヅ子 1.調査の背景 近年の人口高齢化に伴い、高齢者の転居が少なくないことが指摘されている。なかでも、高齢者 が長年住み慣れた地域を離れ、子どもと同居あるいは子どもの近くに転居してくる「呼び寄せ高齢 者」に関心がもたれるようになってきた。しかしながら、都市部に暮らす子どもの近くに近居して くる「呼び寄せ高齢者」に関する調査、研究は、まだきわめて少なく、その実態は明らかにされて いない。少ない研究においても、同居タイプの呼び寄せと近居タイプの呼び寄せは「呼び寄せ高齢 者」というひとくくりで研究されており、同居タイプについての研究はわずかながら行われている ものの、近居タイプの「呼び寄せ高齢者」については、ほとんど明らかにされていないのが現状で ある。 同じ転居でも、高齢者が子どもと同居するか、子どもと別居して暮らすかでは、子どもへの精神 的・物理的な距離感(依存度・自立度)に著しいちがいがあるものと予測できる。高齢者とその子 どもの近未来のあり様を考える上で、子どもの近くに転居する高齢者の研究はきわめて重要である。 本報告では、近居タイプの「呼び寄せ高齢者」の聞き取り調査の1ケースから、女性高齢者が娘 夫婦の近くに転居してから 9 年間経過しており、その高齢者がどのように転居を成功させていった のか、①子どもとの関係、②地域における趣味の活動を中心に検討を行うものである。 2.調査の概要 対象:東京都の K 市から名古屋市の長女の近くに転居した 80 歳の女性高齢者 期間:女性高齢者が転居してから 6 年間経ったあとの 2006 年 3 月から 2008 年 3 月まで 方法:聞き取り調査(非指示的面接法) 3.調査結果 調査対象者は、比較的健康で介護認定を受けていない。遺族厚生年金を受給し、自宅を売却して いるので経済的には何ら心配ない。配偶者を亡くし 6 年後に、子どもの近くに転居してきている。 転居後 9 年間が経過したケースから、以下の点が確認された。 ①高齢者は子どもとの精神的なつながりを、子どもとの物理的な距離の近さで考えている。住み 慣れた地域での疎遠になりつつある人間関係より子どもとの精神的(情緒的)なつながりを重 視している。 ②娘を頼りに転居した高齢者は、トラブルなどは相手を容認することで乗り越えていた。 ③呼び寄せを決断させた要因は子どもとの近居である。会える回数と会話は増えている。 ④転居先でのコミュニティ作りは、趣味の会への参加で友人作りにもつながっていた。 ⑤年を経るごとに高齢者の意識は、不安から安定、積極的な生き方へと進展していた。 転居後の「呼び寄せ高齢者」は、転居先の子どもとの関係をより親密にして、地域における趣味 の活動に参加することで、転居を成功させていた。