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世界水素エネルギー会議(WHEC2006)に参加して

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世界水素エネルギー会議(WHEC2006)に参加して
報 告
世界水素エネルギー会議(WHEC2006)に参加して
主藤 祐功* 大久保 天**
1.はじめに
平成18年6月13日∼6月16日にフランス・リヨンに
おいて開催された 第16回 世 界 水 素 エ ネ ル ギ ー会議
(World Hydrogen Energy Conference;WHEC2006)
に特別研究監付水素地域利用ユニットより大久保研究
員および筆者の2名が参加しました。本国際会議は
2002年のカナダ・モントリオール、2004年の横浜にお
ける開催に続くもので、2005年2月の京都議定書発効
後初めての開催であり、フランス水素協会(AFH2)
の主催、国際水素エネルギー協会(IAHE)の後援、
ヨーロッパ水素協会(EHA)との共催により行われ
ました。会議はリヨン市内の Palais des Congres de
写真-1 会場の Palais des Congres de Lyon
Lyon(写真-1)で開催され、基調講演(写真-2)、
一般講演、ポスター講演のほか水素エネルギー関連メ
ーカーや団体による出展が行われましたのでその概要
を報告します。
2.会議の概要
本国際会議には事前登録段階で883名が参加となっ
ており、一般講演では32カ国より301件の発表が、ポ
スター講演では43カ国より291件の発表が行われまし
た。表-1に国別の講演件数を示しましたが、一般講
演は開催国のフランス、アメリカ、日本の順に多く、
ポスター講演はフランス、日本、韓国の順に多いとい
うことでした。また、表-2にセッション一覧を示し
ましたが、当ユニットからは筆者が水素製造セッショ
写真-2 基調講演の様子
ン の 炭 化 水 素 改 質 分 野 に お い て「Demonstrative
Study on the Production of Hydrogen and Aromatic
Compounds Originated from Biogas in the Dairy
筆者らの担当分野が水素の製造、貯蔵、供給、水素
Area(酪農地域におけるバイオガスからの水素およ
と燃料電池の地域における利用に関するものであるこ
び芳香族化合物の製造実証研究)
」と題して、大久保
とから、一般講演はこれらのセッションを中心に聴講
研究員が水素貯蔵のセッションにおいて「Demonstrative
しました。メタンなどの炭化水素からの水素製造のセ
Study on Organic Hydride Technology for Hydrogen
ッションでは、一般的な水素製造方法である水蒸気改
Storage(水素貯蔵のための有機ハイドライド技術の
質法や部分酸化の発熱反応を利用するオートサーマル
実証研究)」と題してポスター発表を行いました。
改質に関連した成果が数多く紹介され、熱交換と改質
触媒の機能を一体化して5秒∼5分サイクルで交互に
寒地土木研究所月報 №640 2006年9月
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加熱と改質を行う改質器や、ガソリンの改質にプラズ
マを用いて反応を促進するもの、メンブレン(膜)リ
アクターなど、改質器の効率化や小型化、オンボード
表-1 国別の講演件数
順
一般講演(301 件) ポスター講演(291 件)
位
国名 件数 国名 件数
での改質を意識した内容となっていました。また、バ
1
フランス 62 フランス 50 イオマスからの水素製造ではアジアや南米からの報告
2
アメリカ 41 日本 38 が目立つようになり、バイオディーゼル、セルロース、
3
日本 34 韓国 20 リグニン、ゴミ処理発生ガスの水蒸気改質、部分酸化
4
ドイツ 31 ロシア 18 改質、オートサーマル改質、砂糖、リグニン、木質系
5
カナダ 17 スペイン 15 バイオマスの超臨界水や水蒸気を用いたガス化、糖廃
6
イギリス 13 中国 12 7
中国 12 イタリア 11 8
ノルウェー 11 トルコ 11 9
イタリア 9 アメリカ 10 10
オーストラリア
8 インド 9 液、グルコース、家庭ゴミ(炭水化物、タンパク質、
脂肪)の水素発酵に関する取り組みが紹介されました。
水素貯蔵のセッションでは、筆者らが扱う有機ハイ
ドライドに着目して聴講しましたが、従来の C10H18系
や寒冷地でも固化しない C6H12− C7H14混合系が紹介
深冷処理法、膜分離法について検討しており、需要量
されました。また、新規物質として脱水素に要するエ
や燃料電池側の要求純度に応じた選択が必要ですが、
ネルギーを低くするという観点から低エンタルピー物
天然ガスパイプラインが発達した札幌圏などでは水素
質探索した結果、N-ethylcarbazole が見出され、この
輸送の一案として検討可能な技術と言えそうです。
物質への水素付加は130 ∼ 200℃、3.45 ∼ 8.27MPa で
行うことができ、水素貯蔵密度は5.7wt%、54kg-H2/m3
実証試験・評価のセッションでは、ガソリン車と燃
となり、脱水素は200℃、0.1MPa の条件で行うことが
料電池車のコストと環境性を比較し、天然ガスからオ
できるとのことで、従来は用途が限られていた低温排
ンサイト方式で生産・供給するのが最も安く、この場
熱を利用したシステムが期待されるところです。
合の環境性は圧縮水素と液体水素のいずれの供給方式
もガソリン車より優れており、100年後までのシミュ
水素輸送・供給のセッションでは、既存パイプライ
レーションの結果、天然ガスのオンサイト水素製造方
ンを用いた水素輸送についての報告が数多く行われま
式のインフラを整備する方が、ガソリン車用インフラ
した。これは天然ガスに水素を混ぜてパイプラインで
を維持するよりコストと環境性の両面で有利となると
送り、需要地で水素を分離して燃料電池利用するもの
のことでした。また、一日に燃料電池車35台に供給す
であり、特にパイプラインの材料としてポリエチレン
る水素ステーションと、燃料電池車に加えて住宅300
を用いた時の耐久性に関連して水素とメタンの浸透係
戸にも供給する水素ステーションの比較検討では、住
数を調査し、水素の浸透係数はメタンよりも小さいこ
宅にも供給した場合の方が1次エネルギー消費は3∼
とを明らかにしました。また、需要地における水素の
7%、温室効果ガス放出量は11 ∼ 16%低減できると
分離については PSA法(Pressure Swing Adsorption)、
いう結果が示され、都市と農村の違いはあるものの筆
表-2 セッション一覧
セッション 1.水素製造
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分 野 熱化学処理、水の電気分解、炭化水素改質、水素発酵、バイオマスガス化、藻類の光生物処理、
光化学処理、自然再生エネルギー(風力、太陽光、地熱ほか)利用 2.水素貯蔵 圧縮水素、液化水素、水素貯蔵合金、有機ハイドライド、ナノ構造カーボン、新材料 3.水素輸送・供給 水素ステーション、インフラストラクチャー、パイプライン、高圧タンクシステム 4.燃料電池 車載用、定置用、携帯用、被毒・経時劣化、固体高分子形ほか各種燃料電池 5.内燃式エンジン ロータリーエンジン、ガスタービン、ガソリン・ディーゼル併用型、バイブリッドシステム 6.安全性・教育訓練 燃料補給、水素タンクシステム、反応制御システム、水素センサー、安全教育プログラム 7.実証試験・評価 都市交通、通信用電源、風力・太陽光利用、改質触媒開発、地域利用、環境性評価 8.新規構想・展開 各国における水素エネルギープロジェクト構想と展開、環境への影響に関する展望 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月
者らの研究の参考になるものでした。
す。他社でも車内に無駄なく設置するため、平べった
いタンクの開発など進められていますが、液化も含め
3.水素関連メーカー等による出展
た効率やコスト面については未だ課題があるようで
す。
会場では計36団体による出展が行われ、会場の周囲
ルノーのブースでは車載用改質器(写真-5)や燃
ではハイドロジェニックス社の燃料電池ハイブリッド
料電池(写真-6)、モーターなどが展示され、ガソリ
バス(写真-3)や日産の燃料電池車のデモンストレ
ンなどの既存燃料をオンボード改質して水素を作り、
ーション走行が行われていました。また、ノルウェー
燃料電池に供給するという開発の方向性が垣間見られ
やカナダ、スイスなど国家プロジェクトの紹介から燃
ました。これらは車載用ともあって非常にコンパクト
料電池スタック、スクーターや電動アシスト式自転車、
化されていましたが、現在は圧縮水素タンク方式を採
など身近な製品まで幅広い紹介がありました。
用し、700気圧での充填を目指している日産との関係
リンデ社のブースでは液体水素タンクの展示が行わ
やフランス国内でも水素・ガソリン併用の内燃式エン
(写真-4)同社は昔から液体水素タ
れていました。
ジン搭載車が開発される中で、今後どのような方向に
ンクの開発に取り組んでいますが、燃料電池車への搭
開発が進められていくのか注目されるところです。
載に向けて年々コンパクトなデザインになっていま
写真-3 燃料電池搭載バス
写真-4 液体水素タンクの展示
写真-5 車載用改質器の展示
写真-6 車載用燃料電池の展示
寒地土木研究所月報 №640 2006年9月
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写真-7 リヨン市街を走る路面電車
写真-8 リヨン市街を走るトロリーバス
4.おわりに
リヨンはフランス第二の都市圏を持ち、金融の中心
地でもあることから、その繁栄に加えて交通網の発達
に目を見張りました。市街地の交通機関(地下鉄、バ
ス、路面電車、ケーブルカー)の運賃が定額で、一定
時間内での乗り換えが自由であったのは大変便利でし
たが、特に路面電車については、路線が一方通行の車
線にあることが多く、信号待ちが少なく、快適に移動
できるのには感心しました。(写真-7)また、軌道
が無いトロリーバスの路線も多く、便利さと環境保全
を両立させる工夫を感じさせられました。(写真-8)
最後に、今回このような国際会議に参加する機会を
写真-9 フルヴィエールの丘から望むリヨン市街
与えて頂いた(独)土木研究所寒地土木研究所の皆様
に対して、心より謝意を表したいと思います。
主藤 祐功*
寒地土木研究所
特別研究監付
水素地域利用ユニット
主席研究員
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大久保 天**
寒地土木研究所
特別研究監付
水素地域利用ユニット
研究員
寒地土木研究所月報 №640 2006年9月
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