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矢野
雅昭*
吉井
厚志**
康玄***
渡邊
Osti Rabindra****
3月24日:マレーシア政府灌漑排水局でのセミナー。
3月25日:クアラルンプールのSMARTプロジェク
本報告は、 平成21年3月24日から3月27日にかけて
トの見学。
マレーシアにおいて行った、 「氾濫原管理と環境保全
3月26日:ジョホール州
に関する研究」 に関わるセミナーと現地調査について
3月27日:ジョホール州
まとめたものである。
査。
ムアル川の現地調査。
バトゥパハット川の現地調
これは北海道とマレーシアで行ってきた沖積平野に
おける治水対策の事例を対照しながら、 氾濫原管理と
環境保全を検証し、 今後の持続可能な国土保全に生か
していこうというものである。
近年、 世界では洪水、 暴風雨による災害が増加傾向
であり、 また、 1980年から2006年の洪水関連災害死者
数の大陸別割合ではアジアが83.5%と多くを占めてい
る。
マレーシアにおいても2006年12月、 2007年1月の2
度にわたりジョホール州で、 10万人以上の避難を要し
た洪水や、 2007年6月に深刻な被害をもたらしたクア
ラルンプールの洪水など、 近年洪水被害に苦しんでい
る。 一方、 マレーシアは、 約6%のGDP成長を続け
ている国でもあり、 土地利用の変化や開発と洪水被害
の関係についても十分な議論が必要である。
近年、 日本での洪水に対する安全性の確保に関して、
ハードな対策のみならず氾濫原をどのように管理して
いくかについても議論が高まっている。 これは治水投
資の効率的使用につながる半面、 氾濫原の土地利用と
いう社会経済に影響を及ぼす側面も有しており、 治水
投資と社会経済のバランスが非常に重要な課題である。
日本を含むアジア・モンスーン地域に広がる沖積平野
は氾濫原が形成したものであり、 氾濫原管理は洪水に
対する安全性の確保に内在する本質的な課題である。
また、 環境的な側面からも、 自然な河川環境を維持す
るためには氾濫原の保全方策も重要である。
現地での概略行程は次の通りである。
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月報
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3月24日にクアラルンプールの灌漑排水局で行った
セミナーでは、 マレーシア側より灌漑排水局の関係者
と、 6大学からの研究者等、 約20名が参加した
。
セミナーでは日本側とマレーシア側の双方より発表
が行われ、 日本側から、 ICHARMオスティ主任研
究員による 「水災害被害軽減のためのICHARMの
研究と研修活動」、 寒地土木研究所道東支所矢野研究
員より 「北海道における氾濫原の開発と氾濫原管理の
事例」、 北見工業大学渡邊教授より 「洪水氾濫原管理
を進めるための最新の水理学研究」、 寒地土木研究所
吉井寒地水圏研究グループ長より 「氾濫原管理と環境
保全に関する共同研究プロジェクトの提案」 の発表が
行われた。 マレーシア側からは、 灌漑排水局の技術者
より 「マレーシアの洪水問題と治水対策」 等について
発表が行われた。 双方の発表が終わった後に議論がな
され、 次の事項の合意、 決定がなされた。
1. セミナー参加者は共同研究の必要性と重要性を確
認した。
2. セミナーもしくはワークショップを開催し共同研
究を進めていく。
3. 共同研究に参加する組織について調整する。
4. 次回のセミナーもしくはワークショップにおいて、
話題提供を求める課題について調整する。
3月25日にはクアラルンプールでの総合治水対策の
一つである、 「SMART (Stormwater Management
And Road Tunnel) プロジェクト」 について見学を行っ
。
た
SMARTプロジェクトは、 洪水調節と交通渋滞緩
和のための道路を兼ねた地下トンネルを建設したもの
である。 クアラルンプールは人口180万人を要するマ
レーシア最大の都市であり、 都市化により河川の拡幅
や洪水調整池の建設がこれ以上は困難なことから、 S
MARTの建設が行われた。 SMARTは2007年7月
から現在まで69回運用され、 この流域の洪水被害を防
いでいる。
3月26日には灌漑排水局ムアル地方事務所で、 ムア
ル川の洪水被害について説明を受け、 その後、 ムアル
。
川の調査を行った
ムアル川はマレー半島南部のジョホール州北部を流
。 流
れる河川で、 流路は大きく蛇行している
域には河口部のムアルをはじめ、 氾濫原に複数の町が
広がっている。 また、 ムアル川では2006年に大洪水が
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あり、 流域の広範囲に亘り冠水し、 町が3ヶ月に渡っ
て冠水状態になる等大きな被害が生じた。
ムアル川の調査は灌漑排水局のモーターボートによ
り、 下流部のムアルから中流部のパンチョーまで行っ
た。 その後、 車で上流部に移動し、 上流部の流況など
についても調査を行った。
これらの結果、 ムアル川の下流部・中流部は土地が
低く、 河川勾配も緩く、 長い距離に亘り潮位の影響を
受けていることが分かった。 また、 町や村、 パームヤ
シのプランテーションなどが河川沿いに点在する状況
であった。 今後、 治水対策を検討する場合には、 そう
いった土地利用等にも踏み込んだ検討をする必要があ
ると考えられる。
3月27日には灌漑排水局バトゥパハット地方事務所
で、 バトゥパハット川の洪水被害について説明を受け、
。
その後、 下流部の現地調査を行った
バトゥパハット川はジョホール州中部を流れる河川
で、 流域には下流部に位置する町のバトゥパハットを
はじめ、 幾つかの町が点在している。 バトゥパハット
川では2006年12月、 2007年1月に大洪水があり、 多く
の町が冠水するなどの被害が生じた。 上流には2つの
洪水調節ダムもあったが、 満杯になり洪水調節機能の
限界を超える状況であった。
バトゥパハット川下流部の現地調査では、 潮位の影
響により河川が逆流している状況が見られ、 バトゥパ
ハット川もムアル川同様に下流部・中流部は土地が低
く、 長い距離に渡り潮位の影響を受けていることが分
かった。
今後の研究方針として、 マレーシアと日本において
研究対象地を設定し、 セミナー等の手法も含め、 双方
の情報交換、 問題点の抽出と議論を行い、 実践的な氾
濫原管理についての提案をする。 提案については関係
機関と供に評価し、 改善策について議論するとともに、
最終的な研究成果を他の地域、 国々に広めていくこと
を目標とする。 また、 近年マレーシアではパームヤシ
のプランテーションが拡大し、 土地利用の変化がみら
れる。 この様な土地利用の変化による降雨流出の変化
についても考察する必要があると考えられる。
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査に際して、 灌漑排水局の方々の温かい対応に感謝し、
ここに謝意を表したい。
日本では、 戦後の高度経済成長時代に河川改修とと
もに流域の開発が急ピッチで進められた。 一方で、 河
川を狭めて元々の氾濫原を高度利用することによる破
堤時の被害の増加、 流域の土地利用変化による降雨流
出の変化、 流況の変化による流下土砂のバランスの変
化、 樹木管理等の問題も発生してきた。 また、 今後気
象変動による降雨の増大と、 それに伴う洪水流量の増
加も懸念されているが、 開発の進んだ日本では河川空
間を拡大することが難しい状況である。
このような問題を総合的に議論することにより、 マ
レーシアのみならずアジアの諸国にも、 より良い社会
基盤整備の参考になれば幸いである。
最後に今回のマレーシアにおけるセミナーや現地調
矢野
雅昭*
寒地土木研究所
寒地技術推進室
道東支所
研究員
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吉井
厚志**
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
グループ長
博士 (農学)
渡邊
康玄***
北見工業大学
工学部
社会環境工学科
教授
博士 (工学)
Osti Rabindra****
土木研究所
水災害研究グループ
防災チーム
主任研究員
工学博士
寒地土木研究所
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№673
2009年6月
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