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桑原
誠*
平井康幸**
村上泰啓***
平成21年3月16日∼22日に、 トルコ共和国・イスタ
ンブールにおいて第5回世界水フォーラム (主催:世
界水会議、 トルコ政府等) が開催されました。 このフォー
今開催のテーマ、 主要イベント等は以下のとおり。
・テーマ:Bridging Divides for Water (水問題解決
のための架け橋)
ラムに寒地水圏研究グループ寒地河川チームから平井
・会期:平成21年3月16日 (月) ∼22日 (日)
上席研究員、 水環境保全チームから桑原総括主任研究
・会場:トルコ共和国
員・村上主任研究員が参加しました。
本報では、 フォーラムの概要と開催状況などについ
て報告します。
イスタンブール市
Sutluuce Congress and Cultural Center
Feshane International Fair Congress and
Culture Center
・主催:世界水会議、 トルコ政府等
・主要イベント:首脳会合、 テーマ別セッション、
閣僚会議、 水のエキスポ、 水フェア、 各種水大賞
世界水フォーラム (World Water Forum: WWF)は、
国際NPOである世界水会議 (World Water Council: W
授与式、 社会・文化イベント、 第3回世界子供水
フォーラム、 ユース世界水フォーラム等
WC)がホスト国と共催して開催する世界の水問題を扱
う国際会議です。 世界で深刻化する飲料水や衛生問題
今回行われたフォーラムではテーマに地球規模気候
など水問題への関心を高め、 各国政府や国際機関、 水
変動と水災害管理、 人間開発とミレニアム開発目標
に関する企業・技術者、 学者、 NGOなど多数が参加
(MDGs) の促進、 水資源の管理と保護、 ガバナンス
し、 世界の水政策について議論するもので、 1997年に
と管理、 ファイナンス、 教育・知見及び能力開発の6
モロッコのマラケシュで第1回フォーラムが開催され、
つのテーマ・23トピック・115のセッションで議論が
以降3年毎に3月22日の 「世界水の日」 に時期を合わ
行われました
。
せて開催されています。
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日本からは、 皇太子殿下 (第3回世界水フォーラム
などが出展されました。 日本パビリオンはその中の
名誉総裁、 国連水と衛生に関する諮問委員会名誉総裁)
216㎡のスペースを確保し、 政府機関、 民間企業、 研
が御臨席になり、 森総理特使 (元内閣総理大臣、 日本
究機関など18のブースが設置されました。
水フォーラム会長) が出席されたのをはじめ、 政府、
今回、 寒地水圏研究グループがWWF5に参加した主
民間企業、 大学、 NGO、 関係団体などから100名以上
な目的は、 北海道大学清水教授らと共同研究開発を進
が参加しました。
めている河川水理解析のフリーソフト (現在名称RIC-
また、 並行して開催された水エキスポでは、 世界各
Nays、 将来名称iRIC) の普及活動を行い、 同時に川の
国や地域、 民間企業など100を超えるブースが立ち並
蛇行模型を設置して実演することによって川の流れ機
び、 技術や経験、 水問題解決に向けた活動の紹介など
構の理解を促進させ、 寒地水圏研究グループが行って
熱心な討議が各所で行われました。
いる河川水理学及び水環境の研究内容を広報すること
3月17日の2日目午前には、 皇太子殿下の 「水とか
でした。 清水教授は (財) 北海道河川防災研究センター
かわる−人と水との密接なつながり−」 と題する基調
の研究所長を務めていることから、 ブース出展した同
講演が行われ、 日本古来の水と災害、 衛生への対処に
財団のスペースを借用して寒地土木研究所の出展物を
おける知見を紹介しつつ、 これら知見が気候変動等に
設置し、 お互いの相乗効果を狙ったものです。
より顕在化する今日の水問題への対処においても示唆
を与えるであろうと述べられました。
このため、 ブースにはソフトデモ用のディスプレイ、
水環境保全チームが保有する 「川の蛇行模型」、 これ
また、 森総理特使は16日午後の首脳会合に出席し,
らに関連する説明用ポスター、 寒地河川チームが進め
我が国が昨年のTICAD4及び北海道洞爺湖サミットに
る自然再生に関する水理学的研究の説明用ポスター、
おいて水と衛生に関する議論を主導した等の成果を報
その他北海道の自然環境を紹介するポスター類を展示
告するとともに、 日本国内において超党派の国会議員、
しました。
政府、 学界、 産業界、 市民社会が緩やかに連携しつつ、
ブース運営は研究所3名のほか、 上記財団から1名
水関係者が一体となって取り組む 「チーム水日本」 が
の合計4名で、 大まかな役割分担は、 平井上席が財団
結成されたことを紹介しました。 なお、 首脳会合の成
職員とペアになってフリーソフトの普及活動、 桑原総
果として 「水に関するイスタンブール首脳宣言」 が採
括と村上主研がペアになって蛇行模型の実演を中心に
択されました。
行い、 また研究所3名は必要に応じて研究内容の説明
を行いました
。
また、 日本パビリオンの全体窓口である日本水フォー
ラムが各出展ブースでの通訳等のお手伝いとして、 語
水エキスポ会場はフォーラム会場に隣接して建てら
学スタッフ (日本語が可能なトルコの大学生) を準備
れた巨大テント (広さ8000㎡) を会場として、 19カ国、
していました。 他のブースはトルコ人の大学生でした
220の団体から水関連の様々な活動やサービス、 製品
が、 たまたま私たちのブースには、 唯一日本人である
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女子大学生 (首都アンカラでトルコ語学留学中の百合
来場者は138名、 2日目以降も傾向はほぼ変わらず、
野愛さん) が配属されました
セッションの休憩時間である13:00∼15:00には50人以
。
フリーソフトRIC-Naysは、 格子生成や解析結果の
可視化などの機能や2次元の流れ、 河床変動モデルを
上/hrの来場者となり、 連日対応に追われることとな
。
りました
提供することにより流れ解析の支援を行うもので、 民
開催前には期間中の総見学者を500人程度と予想し
間企業が提供する高額なソフトを利用することが困難
ていたのですが、 大幅に上回ることとなり最終的には
な途上国の技術者・研究者を中心に広く普及していく
1500人を超える見学者が訪れる結果となりました。
ことが期待されています。 また、 川の蛇行模型は、 河
8割以上は現地トルコの方々でしたが、 興味を引い
川構造の違いによる河川の流れや水理特性、 周辺氾濫
たのは1度蛇行模型の説明を聞いた人が翌日には家族
原に与える影響の違いなどを、 実際に水を流すことに
もしくは友人を連れて再度訪れ、 自分で模型の説明を
より視覚的・直感的に理解してもらうためのものです。
始めてしまう人が少なからずいたこと、 また、 2∼3
ブース全体テーマとしては、 「河川水理学及び水域環
人に対して説明をしていると、 いつの間にか周りを取
境の研究」 というイメージで仕上がりました。
り囲まれるほどの人となり、 まさに人が人を呼ぶ状態
となったことなど、 非常に関心を持って見ていただい
。
たことでした
3月16日からの展示開始に備え、 前日の15日午前に
は会場入りし、 前述の通訳語学スタッフと顔合わせし、
展示ブースを設営する予定でしたが、 基礎工事も完成
しておらず展示台やモニターなどのリース品も届いて
いない状態でした。 そのため、 この日は設営を行わず
フォーラム参加事務手続きや翌日からの会場までの移
動手段の確認を行うこととしました。
16日午前に無事設営を終え、 10時からエキスポ会場
もオープンとなり、 11:30頃から見学者が訪れ始めま
した。 当初は10人以下/hrだったのですが、 午前中の
フォーラムセッションが終了し午後のセッションが始
まるまでの間は30人以上/hrの見学者となり、RIC-Nays、
蛇行模型とも盛況なスタートとなりました。 初日の総
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また、 他の国の方々、 特に川の自然再生事業が進め
デルと連結させるにはどうしたらよいか、 地下水のモ
られているオランダ、 ドイツ、 ポーランドなど欧州諸
デルを有しているので地表水モデルとの連携の可能性
国の方々からは 「自然再生事業を地元地域に説明する
について議論したい、 コンピュータ言語は何で書かれ
方法をどのように行えばよいのか悩んでいるが、 こう
ているか、 有限差分法と有限要素法など、 今後のさら
いった模型を使うことで非常に分かりやすい」 とのご
なる普及に向けて有益な意見交換ができました。
意見を頂いたり、 参考にしたいとのことから何枚もの
写真を写していった方もいました。 模型のパンフレッ
トが欲しい、 模型の価格はいくらか等の質問もありま
した。 ブースは本来、 企業や組織が売り込みたいもの
今回現地に持ち込んだ 「川の蛇行模型」 はこれまで
を宣伝する場所ですから、 蛇行模型を見て 「商品」 だ
も研究所一般公開や出前講座、 講演会などにおいて展
と思った人たちが少なからずいたのだと思います。 商
示して来た模型を元に、 説明時により操作が行いやす
品化は今後の検討材料でしょうか。
いこと、 流れの変化による流速の違いが視覚的に理解
2日目には竹村日本水フォーラム事務局長の案内に
できること、 流域の開発と治水の効果が理解できるこ
より皇太子殿下が日本パビリオンの各ブースを見学さ
と、 などの改良点を加え、 水環境保全チームと寒地技
れ、 川の蛇行模型についても説明させていただきまし
術推進室が共同して作成した改良型模型です。 昨年末
た。 ごく短時間の実演ではありましたが、 ご覧頂いた
から構想を練り上げた結果、 模型の完成が3月初めと
後に 「大変面白いですね」 とのお言葉を賜り、 一同大
なってしまい、 奇しくも今回の世界水フォーラムが改
変感激した次第です
良型模型のデビュー戦となりました
。
。
これまで、 日本を含め世界中の多くの河川では、 蛇
行した川を直線化して周辺の水はけを良くし、 住宅地
や農地を開発してきました。 近年、 自然の多様性を復
元・保全することが人間の生存にも重要であるという
認識が高まり、 直線化した川を蛇行に戻す試みが始まっ
ています。 しかし、 元々は治水及び土地利用促進を目
的に行われたものなので、 どこまでの自然環境復元が
必要なのか、 人間の社会生活への影響がどこまで許容
されるのか、 そのバランスを慎重に考えていく必要が
あります。 この模型は実際に水を流しながら、 蛇行し
た川から直線化したときの水位の変化、 土地利用の変
化、 再蛇行化する際の課題などを短時間で体験するこ
とができるものとして製作されました。
河川水理解析フリーソフトの普及については、 正直、
蛇行模型の人気に押され気味でしたが、 元々は相乗効
果を狙っていたので、 人が集まることによって満足の
いく活動ができたものと思っています。 場所柄、 欧州
諸国を中心に意見交換をすることができました。 地元
トルコや伝統的に水理学に強いオランダを始め、 中国、
タイ、 ルーマニア、 ウクライナなどが高い関心を示し
ていました。 また、 米国 (陸軍工兵隊) も自前のソフ
トを有していることもあって高い関心を示し、 何度か
にわたってブースを訪れました。 2次元、 3次元のフ
リーソフトは珍しいので非常に興味がある、 自前のモ
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現地までの搬送は、 厳重に梱包したうえ宅急便では
みは正に東西文化の交流地にふさわしく、 数多くのモ
なく機内預け入れ手荷物として自力運搬により会場ま
スクや博物館、 バザールなど、 訪れる者にとっては非
で持ち込みとしましたが、 梱包を解いてみると水槽と
常に興味深い場所です
。
して使用するプラスチックのケースに数カ所ひび割れ
が発生していました。 梱包していたとはいえ、 12時間
を超える長旅の中、 中継地での積み替えなどが相当の
衝撃ではなかったかと思われます。
当面の措置として持参したテープ等で補修し初日を
乗り越えましたが、 ひび割れ箇所からの水漏れは見過
ごせないほどの量となり、 手持ちのビニールシートを
内張として再度補修しました。 2日目は何とか持ちこ
たえましたが、 模型を出し入れした時に脚が引っかけ
たのか3日目にはまたしても漏水が発生し、 再々度補
修の必要性に迫られました。 手持ちのビニールシート
は使い切ってしまったので、 適当な資材はないかとエ
キスポ会場内を探し回ったところ、 テント外の資材置
き場にロールになったビニールシートを発見、 近くに
いた会場スタッフに事情を説明しシートを分けてもら
うことが出来ました。 そのおかげで4日目から最終日
までの4日間は少量の漏水は発生するも大事には至ら
ず何とか乗り切ることが出来ました。
今回のフォーラムでは7日間の期間中に全体で115
フリーソフトの普及についても、 当初用意していた
のセッション (分科会) が開催され、 そのうち 「災害
データ入りCDが予想以上の要望により在庫不足とな
管理」 セッションはICHARMがコーディネーターを務
り、 次から次へとやって来る訪問者の対応をしながら
めるなど土木研究所としても積極的にかかわっている
その一方で別のPCを稼働させてCDの増刷を行う、 と
ほか、 「地球規模の変化と危機管理」、 「人間の環境と
いう綱渡り的な対応が続き、 非常に労力を要しました。
ニーズに応えるための水資源と水供給システムの管理
デスクワーク中心の仕事をしている者にとって、 朝か
と保全」 など当グループの研究に通じるテーマも行わ
ら晩まで立ちっ放しと言うのは想像以上に体力を消耗
れました。 残念ながら、 展示ブースでの予想を超える
するものとなり、 メンバー全員かなりの負担になった
見学者への対応により、 本会議へはほとんど参加する
と思います。
ことができませんでした。 また、 国際会議の本質は正
規の会議時間よりも休み時間等に行われる非公式会合
やロビー活動にあり、 本来はそこで二国間、 多国間の
は日本の2倍ほどであり、
トルコ共和国
新たな協力関係を模索していくのですが、 今回はそこ
までに至ることが出来ませんでした。 特に、 米国陸軍
国土面積の97%がアジア西端のアナトリア半島に、 残
工兵隊は当研究所との新たな共同研究枠組みについて
りの3%がヨーロッパ大陸のバルカン半島東端にあり、
興味を示してくれたものの、 来訪者対応等でお互いの
東西交流の要衝であると共に中東地域にも接しており、
時間が取れず、 合意あるいはスケルトン構築までに至
非常に多彩な国家を形成しています。 今回の開催地と
ることができなかったことは素直に反省すべき材料で
なったイスタンブールは人口1300万人とトルコ最大の
した。
都市であり、 世界で唯一アジアとヨーロッパにまたが
ただし、 7日間にわたり足腰を棒にしながらも各国
る、 まさに東西文化の架け橋と言われる街です。 西暦
からの来訪者への説明を続け、 それぞれの国の事情を
330年に東ローマ帝国の都コンスタンチノープルと改
交えた意見を伺うことが出来たことは大変な収穫であっ
名され、 以後1000年の歴史を刻んだビザンチン帝国を
たと思います。 実際に水を流して流れの変化を見て貰
経て、 1453年にオスマン・トルコ帝国の都イスタンブー
うというアナログな模型の展示でしたが、 解りやすい
ル (=永遠の都) となり、 現在に至っています。 町並
ものは万国共通であるということを改めて認識した次
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第です。 これらの経験を今後の研究及び成果の普及に
生かしていきたいと思います。
今回、 このような国際フォーラムに参加する機会を
与えていただいた関係者の方々に心より感謝申し上げ
ます。 また、 現地ではメンバー一同、 日本からトルコ
へ語学留学中の百合野さんには本当にお世話になりま
した。 この場をお借りして御礼申し上げます。
桑原
誠
平井
康幸
村上
泰啓
Makoto KUWAHARA
Yasuyuki HIRAI
Yasuhiro MIRAKAMI
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寒地水圏研究グループ
水環境保全チーム
総括主任研究員
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上席研究員
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主任研究員
博士 (工学)
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