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報 告
平成25年度 JICA 研修講師に関する報告:
気候変動に対する順応的流域管理(適応策)「洪水対策と生態系保全コース」
柿沼 孝治* 川村 里実** 阿部 孝章*** 久保まゆみ*
1.はじめに
償の計算環境を活用した氾濫解析を習得可能な内容と
しました。
平成25年6月~8月の期間に、JICA 帯広事務所主
近年では衛星による地形データの整備が世界的に進
催の研修事業として平成25年度「気候変動に対する順
んでおり、SRTM 3)等の数値標高データ(DEM)はイ
応的流域管理
(適応策):洪水対策と生態系保全」コー
ンターネットを通じ無償で入手することが可能です。
スが実施され、講師として2日間参加しましたので、
また、解析に用いるソフトウェアとして地形データの
その概要を報告します。本研修コースは、昨年度から
加工には Quantum GIS 4)を使用し、氾濫解析には iRIC
の継続コース
(昨年度分は別途報告1))で、中米、アフ
ソフトウェア5)を使用しました。いずれもインターネ
リカなどから派遣された研修生を対象に、流域管理に
ット上で無償公開されています。これらを使用した解
関する基礎的な知識と防災計画を立案する上での実践
析は高性能なワークステーション等も不要で、個人の
的な技術を習得していただくことを目的としていま
ノート PC でも充分実施可能です。
す。このうち、当研究所では、治水計画立案、GIS 等
を用いた流域分析、氾濫シミュレーションに関する研
修を担当しました。
2.第1回講義
(6/26)の内容
第1回講義は、酪農学園大学において行われた GIS・
リモートセンシング集中講義の一環として、柿沼総括
主任研究員が、治水計画立案手法の概要及び Landsat
データを活用した土地利用分析手法について、次いで、
久保技術員が ArcGIS 2)と SRTM 3)の数値標高データ
(DEM)を用いた流域分割手法について、それぞれ講
義と演習を行いました。
写真-1 研修生らとの記念撮影(酪農学園大学にて)
流域に関する情報は、治水計画立案に際して最も基
本となる情報ですが、測量や調査には膨大な費用がか
かるため、途上国にとっては無償の衛星データの活用
は非常に有用であり、研修生にも好評でした
(写真-
1)
。
3.第2回講義
(7/10)の内容
第2回講義では、無償データ及び無償ソフトウェア
を活用した洪水氾濫解析の実習を行いました
(写真-
1)
。途上国等では地形測量はもとより水位流量観測
もほとんど行われていません。そうした背景を踏まえ、
無償で入手可能な衛星リモートセンシングデータと無
寒地土木研究所月報 №725 2013年10月 写真-2 川村研究員らによる講義の様子
33
氾濫解析の実習の前半では、柿沼総括主任研究員が
5)
た。実習では、地形データの取得・加工から氾濫解析
iRIC ソフトウェア の概要を説明し、川村研究員から
を行うまでの一連の過程を、研修生自らの手で実際に
アフリカにおける氾濫解析事例の実習講義を行いまし
行っていただきました。これまでは専門的な知識が無
た。初めはそのような高度な解析が可能なのかと半信
ければ困難であった氾濫解析が、無償の環境で手軽に
半疑だった研修生らも、チュートリアルを読みながら、
実行可能であることが分かり、非常に簡単な操作でソ
データの加工から解析メッシュの作成、計算条件の設
フト上に可視化できることに驚きの声が上がるなど、
定、そして解析の実行までを自身の手により実行でき
興味深く研修に取り組んで頂けました。今回利用した
ることが分かり、是非自分の国の流域に適用したいと
データやソフトウェアの大きな特徴は、現地観測デー
いった声も上がりました。
タの乏しい途上国などでも、比較的容易に行える実践
実習の後半では、阿部研究員から氾濫解析の応用事
的な技術として、無償で入手可能なもの(ArcGIS 2)を
例として、津波氾濫解析の講義を行いました。研修生
除く)を用いたことにあります。世界中の任意の地域
の中にはドミニカ共和国出身の方がおり、津波には大
を対象に、容易に氾濫解析が行えることを実際に体験
きな関心があるとのことでした。ここでは、岩手県で
して頂けたことは、技術者育成の観点から非常に意義
実際に来襲した津波遡上の再現計算の事例を通じ、よ
のあるものであったと感じています。
り実践的な計算機能の設定方法や、津波解析特有の条
今後、各研修生が今回の研修で得た知識・技術を自
件設定について講義を行いました。
国へと持ち帰り、各国の具体的な施策へと反映してい
本講義を通じて、受講者の中には説明よりも遙かに
ただけることを切に願うところです。
早くチュートリアルを読み進んで解析に取り組む方
や、計算結果を実務に応用するため結果の可視化等に
参考文献
関する詳細な質問を寄せる方等がおり、技術者として
の意識と向上心の高さを切に感じました。また、少人
1)柿沼孝治 , 赤堀良介 , 永多朋紀 , 平成24年度 JICA
数講義であったため活発な質問や議論が度々あり、双
研修講師に関する報告「気候変動に対する順応的
方向のコミュニケーションがある効果の高い実習を行
流域管理(適応策):洪水対策と生態系保全」コー
うことができたと感じています。
ス , 寒地土木研究所月報 , No.717, pp. 28-32, 2013.
2)ArcGIS, URL: http://www.esrij.com/products/
arcgis/
4.おわりに
3)SRTM, SRTM Data Search: URL: http://srtm.csi.
今回の研修では、途上国への技術的な支援を目的に、
cgiar. org/SELECTION/inputCoord.asp.
各国の研修生を対象として、流域管理・防災対策に関
4)Quantum GIS Project, URL: http://www.qgis.org/
する基礎的な講義と実践的な実習とを併せて行いまし
5)iRIC Project, URL: http://i-ric.org/ja/
柿沼 孝治*
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KAKINUMA Takaharu
川村 里実**
KAWAMURA Satomi
阿部 孝章***
久保 まゆみ****
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
総括主任研究員
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
博士(工学)
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
水環境保全チーム
技術員
ABE Takaaki
KUBO Mayumi
寒地土木研究所月報 №725 2013年10月
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