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SAO 〜しかしあいつは男だ〜 ID:29702

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SAO 〜しかしあいつは男だ〜 ID:29702
SAO ∼しかしあいつは男だ∼
置物
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
この作品の出来た経緯。
このホモ作品面白い↓SAOのホモ作品ないかな↓なかった⋮↓
自分で書くしかない↓書いた
思いつき兼息抜きですので亀どころかなめくじのような速度で書
いていきます。
まだ書き出しと結末しか決まってないという作者は駄目人間です。
警告タグは一応といった形。
目 次 episode1 コノハ﹁どうしてこうなった
﹂ │││
?
﹂ ││││││││││││││││││││││││││
episode3 アスナ﹁キリト君とイチャラブしていたいの
episode2 キリト﹁どうしてアスナが⋮﹂ ││││
1
5
あろうが﹂ │││││││││││││││││││││││
extra1 ヒースクリフ﹁薬は友達﹂ ││││││││
キャラクター紹介 episode5まで ││││││││
episode6 コノハ﹁偶にあるよなぁ⋮﹂ │││││
extra2 コノハ﹁休日﹂ │││││││││││││
episode7 シリカ﹁出番がもっと欲しいです⋮﹂ │
74
65
episode8 キリト﹁久々に切れちまったよ⋮﹂ ││
episode9 アルゴ﹁オレっちは情報屋ダゾ
81
﹂ ││
﹂ ││
extra3 コノハ﹁休日2﹂ ││││││││││││
episode12 アルゴ﹁イッツショウタイム
episode13 コノハ﹁剣技大会前編﹂ ││││││
extra4 コノハ﹁短編集﹂ ││││││││││││
episode14 ディアベル﹁剣技大会中編﹂ ││││
extra5 コノハ﹁短編集2﹂ │││││││││││
episode15 ヒースクリフ﹁剣技大会後編﹂ │││
125 121 113 108 101 95
﹂ ││
episode10 キバオウ﹁こんなんチートや
?
﹂ ││
episode11 ディアベル﹁頑張るぞみんな
!
!
88
!
58
52
45
37
33
28
20
episode5 シリカ﹁我が名は炎獄覇王だと何度も言ったで
episode4 コノハ﹁鬱だ⋮﹂ ││││││││││
9
13
!
extra6 コノハ﹁過去編﹂ ││││││││││││
episode16 ││││││││││││││││││
episode17 ││││││││││││││││││
extra7 竜使いとの出会い 前編 │││││││││
extra7 竜使いとの出会い 中編 │││││││││
extra7 竜使いとの出会い 後編 │││││││││
extra8 鍛冶屋との出会い 前編 │││││││││
﹂ ││││││
extra8 鍛冶屋との出会い 中編 │││││││││
ALO編 あいつはれっきとした男だ
episode18 コノハ﹁ふざけんな
episode19 キリト﹁僅かな可能性にも縋りたいんだ﹂ !
207 201 188 173 168 156 146 137
214
episode20 直葉﹁お兄ちゃん﹂ ││││││││
episode21 コノハ﹁出番がない件﹂ ││││││
236 230
221
│
episode1 コノハ﹁どうしてこうなった
﹁好きだ、付き合ってくれ﹂
﹂
その言葉を聞いた瞬間、時が止まった気がした。いや、確実に俺の
意識はその言葉を聞いた瞬間時が止まったかのような空白が生まれ
た。
俺は一度振り返って誰かいないか確認するが、石造りの手摺の間に
一瞬栗色を見ただけで誰もいなかった。
﹁ごめん、もう一回言ってくれ﹂
時刻は午後十一時過ぎ頃。辺りはすっかり暗くなり、今いる場所、
巨大浮遊城アインクラッドのハーフポイントである第五十層の街の
とある宿屋の屋上には俺とそいつ以外誰もいないようだが、聞き間違
い、空耳という希望を持って目の前にいるそいつに振り返って聞き返
す。
﹁コノハのことが好きだ、結婚してくれ﹂
俺 の 希 望 は あ っ さ り と 打 ち 砕 か れ た。丁 寧 に 俺 の 名 前 を 添 え て。
聞き返さなければよかったという後悔しかない。しかもさっきより
・
内容がグレードアップしてるし。
男はキリッという効果音が似合うキメ顔でそう言った後、恥ずかし
かったのか、視線を斜め下に向けて人差し指でほんのりと赤くなった
頬を掻く。女の子がその仕種をしたなら可愛らしいと思うし女顔の
意味分かんない。誰か状況説明プリー
1
?
こいつがしても少し可愛いと思うが、目の前にいる奴の性別は男だ。
そして俺も男だ。
なんで俺告白されてんの
ズと叫びたいが時間が時間なだけに自重する。
?
﹁え、えーと⋮﹂
あまりの処理出来ない事態の所為か、頭の中が真っ白でえーとの後
が続かない。
﹂
﹂
ほら、アスナとか
というか男にフラグ建
俺こいつにフラグ建てるよう
とりあえず現状を把握する事が大事だ。そうすることで次第に現
え
全く身に覚えがないんですけど
状を認めることが⋮出来ねぇよ
な事した
てようとは思わねぇよ
?
﹁き、キリトには俺よりお似合いな人がいるよ絶対
!?
!?
ないのにどこにいるんだ
さっき見えたあれアスナか
そのストー
空から女
あいつはただの攻略仲間
カー技術をキリトにだけじゃなくて攻略にも活かせよ
﹁な ん で そ こ で ア ス ナ の 名 前 が 出 る ん だ
だ﹂
?
﹂と誰かが叫ぶ。アスナェ⋮。いや端から見たら確かに脈無
ドサッと人間が落ちたような音が階下から響き、﹁親方
の子が
!
!?
!?
!?
声量で背後から賛同する。って周りにここ以上の高さがある建物が
とアスナ似の⋮というかアスナの声が俺にしか聞こえない程絶妙な
俺はキリトと付き合いが長い異性の名前を挙げると﹁そうそう
!
!?
!?
?
キリトは悟りを開いたかのような顔で空を見上げる。
﹁ゲームをやってるうちに気付いたんだ﹂
﹁け、けどさ、俺もお前も男じゃん
﹂
が好きだとは思わなかった。というか思う訳ないじゃん。
しだとアスナ以外気付いてたから今更か。けどまさか同性である俺
!
2
!
!
性別も考慮してください
﹂
﹂
﹁性別とかそんなのただのオプションで、大事なのはその人の心じゃ
ないかって﹂
﹁良い事言ってるけども
﹁キぃぃぃリトくぅぅぅぅぅんんん
!!
アスナ。
﹁どういうことなの
なんで
なんでコノハ
﹂
コノハって男よね
!?
﹂
く前者1割後者9割︶涙目で自身の登場に目を見開くキリトに近づく
落下した痛みからか、それとも好きな人がホモだったからか︵恐ら
復が早い。
少し赤く染まっている。流石アスナ、五階もの高さから落ちたのに回
に纏った美少女、
﹃閃光﹄のアスナだった。頭から落ちたらしく、額は
そこから現れたのは攻略組の一つ、血盟騎士団のユニフォームを身
屋上に来る為の唯一の扉が内側から弾けるように開かれる。
!!?!?
わたしずーっとキリト君が好きだったんだから
﹂
!?
!!
!?
ト君に告白するかされたいなぁ﹂と純粋な瞳で言っていたのに、今の
アスナは充血した瞳でキリトの肩を掴んで今にもキスしそうな近距
離で告白している。ロマンチックもへったくれもない。
﹂
キリトはそんなアスナから逃れるように目を背ける。
﹁ごめん、俺、コノハが好きだから﹂
﹁こんな振られ方あんまりよぉぉぉぉ
後、俺に真剣な、ボス攻略の時に見せる顔を向ける。
キリトはふぅ、とアスナが去った事に安堵した表情で溜息を吐いた
るアスナを見て同情した。
本当にあんまりだと思う、と号泣しながら屋上から階下にダイブす
!!!!
3
!!
﹁あ、アスナには関係ないだろ
﹁関係大ありよ
!?
!?
以前アスナは俺に﹁私ね、夜景が綺麗な場所でロマンチックにキリ
!!
﹁それで、答えは
﹂
﹁その⋮⋮やっぱり男とは⋮な⋮
﹂
なるべく傷付けないよう遠回しに無理と伝えると﹁そっか⋮﹂とキ
リトは顔を伏せる。次に顔を起こしたキリトは笑顔だった。
﹂
﹁なら、まだ友達で我慢しよう﹂
﹁そうだな、友達でがま⋮ん
友達でいようじゃなくて我慢しよう
るよう頑張るさ﹂
?
主人公様、頑張るの方向性を間違っていませんか
と俺はそれじゃ
﹁まだ時間はあるんだ。これからじっくりと、コノハが俺を好きにな
?
?
あと去って行くキリトの背中を見て思った。
どうしてこうなった
?
4
?
?
episode2 キリト﹁どうしてアスナが⋮﹂
ジリリリと、目覚ましの騒がしい音が俺に朝が到来した事を告げ、
俺はそれをベッドから起き上がって止める。
ふぁぁ、と背伸びし、立ち上がって閉まっているカーテンを開け、窓
の外を覗くと、そこには迷路のように入り組んだ街、アルゲードが広
がっている。
﹁良い朝だ⋮﹂
﹂とキリトを睨みつけ
もしかして昨日のことは本当は夢で、キリトはアスナとラブラブ
で、俺はそれを端から見て﹁リア充爆発しろ
る日常が始まるんだって思ったが、窓から見えるアルゲードの街並み
も、もしか
は数ヶ月前、俺がキリトと折半して購入した住居の俺の部屋から見た
街並みと変わらないため、昨日の事が現実味を増す。
﹁い、いや、下に降りたらキリトがいないかもしれないし
現実味が増した。
頼む、キリトいないでくれ
と願いながらキリトの表札が掛かった
向かう廊下の途中、
﹁キリト﹂と書かれた表札が掛かった扉を見て更に
震える声で自分に言い聞かせるように言って、自室から出て階段に
したらアスナと別の住居買ってそこで暮らしてるかもしれないし﹂
?
で眠た気な顔を覗かせるのだが出てこない。よし
と喜んだのも束の間。
﹁おはよう、コノハ﹂
現実味ダウン
!
にこっと、階段から降りる途中の俺に暖かな笑顔を向けながら朝の挨
キリトがエプロン姿で良妻賢母よろしく朝ご飯を机に並べながら
!
5
!
扉をノックする。が、返事は返ってこなかった。ノックをすれば数秒
!
﹂
拶をする。どうやら昨日の事は現実だったみたいだよちくせうと心
の中で涙を流しながら平静を装ってキリトにおはようと返す。
﹁朝食はトーストとスクランブルエッグとサラダでよかったか
﹁あぁ﹂
一辺に二人座れる正方形の机の上には香ばしい匂いのするトース
トに形が整ったスクランブルエッグ、瑞々しいサラダとまさしく朝食
と言った食事が二人前、テーブルの同じ辺に置かれている。同じ辺に
置かれているのはこの住居を買ってからずっとなので今更言うのも
昨日の事を意識し過ぎている気がするからもうこのまま気にしない
方針で行く事にして席に座る。
他者がこの景色を見ると、新婚夫婦の朝の景色のように見えるだろ
うが、俺もこいつも男だ。だからアスナ、キリトの死角の窓の外から
アスナからアイコンタクトが送られてきた。なになに⋮
俺を睨むな。今のお前原作ヒロインとは思えない程怖いぞ。
ん
それにアスナは原作ではキ
ら立ち上がり玄関に向かう。あんな美人さんから言われたら誰も拒
否することなんて出来るわけないだろ
トのない目で言われたからじゃない。ホントダヨ
﹁よ、よぉアスナ﹂
﹁偶々、偶然、ここの前通ったから寄っちゃった﹂
がキリトとは多少ベクトルが違う可愛らしい笑顔を見せる。が、それ
玄関扉を開けると、いつも通りの血盟騎士団の服装と装備のアスナ
?
リトのヒロインポジだし。少しは応援しないと。け、決してハイライ
?
6
?
俺はコンマ1秒も待たせずOKのアイコンタクトを送り返し、席か
﹃りょかい﹄
﹃中に入れて﹄
?
は他者が見た場合であって、俺にとってその笑顔は鬼が無理矢理笑っ
ているのと相違ない、掌にじっとりと汗を流すくらいの威圧感を感じ
た。
ここはアルゲードの中でも結構深い所にあるから偶々や偶然で来
﹂と出てく
れる訳ないんだがと心の中で言いながらあまりの威圧感に耐えきれ
ず﹁キリトー﹂と呼ぶと、奥からキリトが﹁どうしたー
る。
﹁おはようキリト君﹂
﹁お、おはようアスナ﹂
キリトが現れたと同時にアスナから威圧感がすっかりなくなるが、
アスナの突然の訪問にキリトはたじたじになっていた。流石に昨日
振ったばかりの奴に会うのは気まずいようだ。チラチラこっちを見
てる。
しかし逆に、アスナはニコニコと満面の笑みを浮かべながらキリト
を見つめている。告白したら無理と言われ、理由が男が好きだからと
いう二重苦を喰らいながらまるで昨日の事はなかったかのような振
﹂
﹂
る舞いだ。俺なら三日は確実に引き篭もるぞ。
﹁いい匂い⋮今から朝食
﹁あ、あぁ﹂
﹁わたしも同席していいかな
とか言わない。どうして自ら地雷原
いやない。
こに来たんじゃなかったのか
に進む必要があるだろうか
?
見えないように﹃拒否したら⋮﹄とアイコンタクトをしながら腰に備
キリトはもう一度こっちを見て助けを求めるがアスナがキリトに
?
7
?
ほら、とメニューを操作してバスケットを取り出すアスナ。偶々こ
﹁自分の分は自分で持ってきてるよ﹂
﹁い、いや、食事二人分しか用意してないから⋮﹂
?
?
えられた剣の刃をチラつかせてくるから﹁まぁいいんじゃね
言ってダイニングに逃げるようにさっさと戻る。
﹂と
リビングの俺とキリトの席の位置を見てアスナが一瞬魂が抜けた
ような顔をしたが、頭を振って正気を取り戻し、俺とは逆のキリトの
隣に座り、バスケットの中身を自分の前に並べていく。
流石料理スキル完全習得者の料理と言ったところか。並べられて
いく料理のどれもが素晴らしい出来で、一目で美味しいだろうと分か
る。キリトは自分の料理と見比べて出来の格差にシュンとなってい
た。
しかしアスナの事だ、手料理でキリトの心を掴む為にこんな朝から
来たのだろう。ならあれらの料理が俺の口に入ることはないなと判
断し、﹁いただきます﹂と言ってキリトが作った料理に手をつけてい
く。
アスナから迫るように﹁あーん﹂をされて今日三度目の救助要請の
目でこちらを見るキリトを無視しながら、どうしてこうなったとトー
ストに噛り付く。
8
?
﹂
episode3 アスナ﹁キリト君とイチャラブし
ていたいの
少しやつれているキリトと幸せそうはアスナを尻目に、使い終わっ
た食器をキッチンで洗っていると誰かからメッセージが届く。
まぁいつものあの人だろうなとメッセージを流し読み。いつも通
りの内容だったからいつも通りの返信をする。恐らく十分以内には
着くだろうと思っていると、玄関からノック音がキッチンに届く。案
外早かったな。
﹁すみません、いつもアスナ様が⋮﹂
﹁いやいや、いつものことですし﹂
玄関を開けると、アスナが所属する血盟騎士団のユニフォームの長
髪の男が深々と頭を下げていた。
この男の名前はクラディール。原作ではアスナの護衛で、自分の顔
に泥を塗ったキリトを亡き者にするために二人の人間を殺した残虐
な奴、なんだが、ここでは超がつく程真面目な人だ。どの位真面目か
と言うと、アスナがキリトのストーカーをする為に投げ出す書類仕事
の八割を特に文句も言わずに処理している位真面目だ。その真面目
さを買われ、団長から直々に副団長補佐の任を言い渡された。
クラディールがここに来た理由、それはクラディールが処理してい
ない残り二割は必ず副団長であるアスナが目を通さなくてはならな
い物で、副団長補佐であるクラディールはアスナにこれをさせる義務
を団長から課せられているからだ。正直に言って、その為に副団長補
また仕事を投げ出してキリト様の所に来るとは
いつも
佐という肩書きを言い渡されたと言っても過言ではないだろう。
﹁アスナ様
十時
には五十五層での集団レベリングの作戦の概要を団長を含めた各班
9
!
通り粗方終わらせましたので速やかに本部にお戻りください
!
!
!
﹂
それ
の班長と会議、十三時には新規入団者への激励と団の理念の弁論、十
﹂
わたしはまだキリト君とイチャラブしていたいの
五時からは七十四層の迷宮区マッピングの予定があります
﹁い、嫌よ
らの件はクラディールに全権委ねるわ
もの静けさが戻る。
﹁これからどうする
﹂
下げた後、先に出て行ったアスナの後を追いかけ、ダイニングにいつ
クラディールは﹁ありがとうございますキリト様﹂とキリトに頭を
石は﹃閃光﹄のアスナ、変わり身の速さも閃光の如き速さだ。
ボソッと呟くと瞬時に身支度を整え玄関から出て行くアスナ。流
て﹂
﹁行くわよクラディール。団長に今から向かう旨をメッセージで伝え
﹁俺、仕事出来る人ってかっこいいと思うんだ﹂
キリトは嫌がるアスナを見て一縷の望みを見つけたようだ。
用だから。
とくっついてもらえるなら万々歳だがキリトの様子を見る限り逆作
とかもう死語だろ。お前はいつの時代の人間だ。俺としてはキリト
おいめちゃくちゃ大事な案件だらけじゃねぇか。あとイチャラブ
!
!
﹁デートの意味を辞書で調べてからほざけ﹂
﹁デートしようぜ﹂
俺に言う。
キリトは﹁ん∼⋮﹂と唸り声をあげ、閃いたと言わんばかりの顔で
しているキリトに気軽に聞いてみる。
ら、リビングのソファでアスナに削られたメンタルポイントの回復を
朝食と片付けは交代制だから、俺はダイニングを片付けをしなが
?
10
!
!
キリトの言葉を冷たい目で一刀両断する。
ちなみに俺の脳内辞典では男女、恋人が買い物や散歩をすることを
指す。重要なのは異性とするからデートなのであって俺とこいつは
ま
じ
どっちも男だから俺の脳内辞典のデートの定義には擦りもしない。
﹁デートってのは冗談で﹂
嘘つけ。お前がデートしようぜって言った時の顔真剣だったぞ。
﹁エリュシデータの耐久度が50%切ったから鍛冶屋に一緒に行こう
ぜ﹂
﹁てことはリズのとこか⋮行きたくねぇなぁ⋮﹂
﹂
﹁リズより腕が良くて気前がいい奴はいないし、人の趣味は人それぞ
れだろ
あぁ認める。腕が良いのは認める。流石は鍛治スキルに関するス
キルを全て完全習得した奴だ。気前がいいのも分かる。あれだけの
腕なのに料金はそこらの鍛冶屋と同じなのだから。趣味は人それぞ
れだというのも同意する。が、最後の趣味は他人に迷惑をかけない範
囲内での話だ。
ストーカー
腕が良いとか気前がいいとか、それらを台無しに塗り潰す程あいつ
の趣味趣向は、キリトにとってのアスナの趣 味のように、俺にとって
は害しかない。いや、逆にキリトにとってはリズの趣味は心地の良い
趣味なんだったなちくしょう。
﹁俺は行かない。行くんだったらついでに俺の分も頼む﹂
﹂
﹁リズは本人からしか依頼を受けないし二人組じゃないといけないっ
てのは知ってるだろ
﹁くっ⋮﹂
?
11
?
そうだった。しかも出来る限り同性での入店しか認めないという
ルールもあったな。
くそ、どうしてあんな奴がSAOで一番腕が良い鍛治職人なんだよ
と嘆いても何も変わらないので頭を抱えてキリトのエリュシデー
タと俺の精神を天秤にかける。
﹁わかった⋮一緒に行く﹂
﹁じゃあリズに行くって送るぞ﹂
タ
﹂と歓喜する様がもう
天秤は僅かに、本当に僅かにエリュシデータに傾いた。
ネ
あぁ、奴が﹁よっしゃ S級食材キタコレ
!
!
見たかのように思い浮かぶ。見たのようにっていうかもう既に見た
ことあったわ。
12
!?
episode4 コノハ﹁鬱だ⋮﹂
俺とキリトはアルゲードより二層下、第四十八層の主街区﹃リン
ダース﹄にある巨大な水車がゴトンゴトンと緩やかに回る﹃リズベッ
ト武具店﹄と書かれた看板を掲げている鍛冶屋の前にいた。
風に揺れる看板の下には立て札があり、女性らしい、丁寧で読みや
すい字でこう書かれている。
﹃武具が欲しい者は以下の五つを守り、承諾する事
1.二人以上で来る事
2.同性で来る事
3.顔が見えない装備は外す事
4.他者に委託しない事
︶
5.自分に似たような人物が出版物に登場しても構わない︵これ重
要
なお同性が二人以上いる場合異性を連れて来てもよい﹄
立て札の右下にはデフォ絵で描かれたリズが﹃約束破ったら叩き潰
すよ︵はーと︶﹄と言っている。
因みに最後の叩き潰すというのは比喩表現ではない。
以前キリトがレベリングでいない時、俺がもし一人で来たらどうな
るんだろうと疑問に思ってここに来たら、巨大な角の装飾をした兜に
フルプレートアーマー、大きな盾を装備した何処かのギルドのタンク
らしき奴が俺より先に一人で入っていったんだ。
と、大砲が発射されたのかと勘違いしそうな轟音と共にフル
立て札の約束三つ守ってないがどうなるか、と思った十数秒後、ド
ガァン
まれているからといってあれはねぇよ。あの叩き潰すは比喩表現一
つ破り、犯罪防止コード圏内では武器による攻撃が不可視の障壁に阻
ドスキルではない︶を叩き込まれていた。いくら立て札の約束事を三
をしたメイスを持つ女鍛冶師に惚れ惚れするような二十七連撃︵ソー
プレートアーマーが入り口から吹き飛び、ウェイトレスのような格好
!
13
!
切無しか。てかなんでメイスで二十七連撃叩き込めるの
いて、
境
俺
達
鍛冶屋辞
剣やレイピア、槍、斧といった様々な武器が壁に掛けられショー
はキリトに掴まれ、ズルズルと鍛冶屋の中まで引き摺られた。
魔
逆転の発想だったのだがキリトには理解されず、万力の如き力で俺
﹁あ、ちょ引っ張らないでせめて手は離した状態で入らせて﹂
﹁馬鹿言ってないで中入るぞ﹂
﹁俺アルゲードに帰るわ﹂
だったがそれが逆に功となって頭に妙案が浮かんだ。
⋮⋮⋮よし、シュミレーションは全て俺の精神が折れるって結果
何度か深呼吸して想像出来る場面を脳内シュミレーションする。
﹁覚悟を決める時間を下さいお願いします﹂
﹁コノハ
そんなとこ突っ立ってないで早く入ろうぜ﹂
受ける鍛冶屋ってなんだよ、と立ち竦む俺にキリトは俺の肩に手を置
立て札の約束を破れば肉体的に、守って入れば精神的にダメージを
れないという絶望に頭を抱えた。
めて前線で暴れろよ絶対攻略速度早くなるから、と一人では絶対に来
?
キリト︼様ですね
ケースに飾られ狭く感じる店内、その奥で店の主が来客に笑顔を向け
る。
御予約されている︻コノハ
﹁いらっしゃいませー
﹁リズ、︻キリト
×
コノハ︼だって何回も言ってるだろ﹂
心が折れる音が聞こえた気がした。
﹂
あ、早速ネタ発見
!
×
14
?
!
!
コノ本書くわ
キリ本書いてたらコノハ
心を踏み砕かれる音が聞こえた気がした。
﹁ごめんキリト、いつもコノ
コノ本も描いてくれよ﹂
になっちゃって﹂
﹁偶にはキリ
﹁よーし、今日は二人が来たし後でキリ
キリトが癖
﹂
と叫ぶ。対
!
ね
﹂の初版
スタート価格は三万コルから
﹂とオークションに流
程だ。今でも時折﹁リズ様出版﹁愛さえあれば性別なんて関係ないよ
初の方に売られたプレミア物や初版物はオークションにかけられる
して十分以内に完売する事も多々あるらしい。余りの人気具合に、最
娯楽が少ないアインクラッドではそれはもう売れる売れる。販売
の文章力を無駄に持っていた。
いならよかったが、こいつは漫画家並の画力と多彩な画風、小説家並
更に厄介な事に、こいつは書いた物を露天で売り捌くのだ。売れな
けて、尚且つ自分で絵を描けて小説も書ける万能自給自足型だ。
そう、こいつは世間一般で言う腐女子、しかもホモ百合どっちもい
照的に俺はうぉぉぉ⋮と新たに描かれる薄い本の存在に膝を着く。
ト、通称リズはテンションが上がってきたのかうぉぉぉ
ベビーピンクのふわふわとしたショートヘアの鍛冶師、リズベッ
×
!
×
!
百万コルでオークションで競り落とされたとか。最初聞いた時は家
︶だと知った時は外周から
買えるぞと他人事のように思ったが内容が俺とキリトの青春純愛物
︵勿論どちらも男。それ純愛じゃなくね
撒かれてるんだぞ
社会復帰出来なくなるじゃねぇか
と外周に向
が。しかもそれと似たような漫画や小説がアインクラッド中にばら
身を投げようかと考え実行したものだ。流石にキリトに止められた
?
!!
?
﹁っと、それで、今回は何の用かしら
﹂
かって走り幅跳びを実行したがやはりキリトに止められた。
?
15
×
×
!
れてくる。確かリズのサイン入り処女作かつ初版の本がついこの間
!
いけないいけないとリズは口の端から流れていた涎を拭き取り本
題に入ろうとする。
﹁俺のエリュシデータを鍛え直して欲しいんだ﹂
﹁俺はこいつを頼む﹂
キリトは刀身の黒いロングソードを、俺は刀身が薄い翡翠色のロン
グソードをリズに差し出す。
リズはそれを受け取り、近くのショーケースの上に乗せてどれくら
い耐久度があるか確認する。
﹁うわぁ⋮エリュシデータはまだ50%近くキープしてるけどジャッ
﹂
ドシュヴァリエは10%切ってるじゃない。これほど持ち主の性格
を表す物はないわね﹂
﹁今回はどの位の代金だ
﹁エ リ ュ シ デ ー タ は 材 料 費 抜 き で 6 万 コ ル か な。け ど ジ ャ ッ ド シ ュ
ヴァリエは⋮﹂
キリトから俺に目を向ける。リズの顔にはさっき見た接客用の笑
しかも材料費抜きで
顔ではなく、脅迫するネタを見つけた悪どい不良のような笑顔が浮か
んでいる。
高すぎねぇか
!?
よ、四十万
!?
開けてるレベルだぞ
﹁そりゃそうでしょ。これ、あたしの最高傑作にして奇跡の一本よ
ぞんざいに扱われたらメンテ費も高くしたくなるわ⋮ってのは嘘で、
?
!?
16
?
﹁材料費抜きで四十万コルになりまーす♪﹂
﹁は、はぁぁぁぁ
﹂
!?
隣にいるキリトでさえ予想外の値段に目を見開いてポカンと口を
!?
﹂
これメンテすると一日鎚を振り続けないといけないからね。因みに、
くはなってるが二桁には変わりないのな﹂
﹂
あたし以上
あたしのお願い聞いてくれたら十五万コルまで下がるわよ
﹁安っ
に腕の良い人を知ってるならそっちに行った方がいいと思うわよ
﹁耐久度10%切ってるんだから当然でしょ。どうする
?
﹂
れたリズが1のサイコロだった。
魔
リズから渡されたのは抱えるほどの大きさがある、デフォ絵で描か
﹁はいこれ﹂
天秤は誤差と言える程僅かにジャッドシュヴァリエに傾いた。
﹁内容聞かせてください⋮﹂
ネタを乗せる。
俺は毎回お世話になる心の天秤にジャッドシュヴァリエと薄い本
うわぁぁ⋮究極の選択肢じゃねぇかよ⋮。
﹁人から借りるのは駄目よ
﹁キリト⋮十万くらい貸し﹂
残金を確認するが三十万コルしかない。
とびっきりの笑顔で拒否するリズ。
悪
今日以外予定が詰まってるから次依頼で
ぐぐぐ、こいつ、自分以上の腕を持つ奴がいないのを知ってる癖に
足元見やがって⋮
﹁だーめ♪あ、今決めてよ
﹁⋮内容聞いてからじゃ⋮﹂
!!
きるの二週間後くらいだから﹂
?
?
17
?
?
!?
﹂
﹁それを振って出た目の事をしてもらうわ﹂
﹂
﹁で、出た目の内容は
﹁これよ
ジャン
﹂
って
と疑問に持ちつつ、俺はサ
どうか、今だけ俺に運をください
一体何を
三分の二、我慢し
とリズは腰ベルトに刺さっていた紙を両手で広げる。
2.キリトにお姫様抱っこされる
3.キリトとポッキーゲーム
4.キリトに指を舐められる
5.キリトと手を繋ぐ
﹂
6.キリトにぎゅっと抱きしめられる﹄
﹁ふぁ
余りの内容に思考がぶっ飛んだ。待て待て待て
ても二分の一が危険じゃねぇか
﹂
てかなんだ一番が
﹁大丈夫だコノハ、俺はどれでも全部いける
﹂
﹁そんな心配微塵もしてねぇよ
イコロを振る。
人生初の祈りがこんな内容で大丈夫か
くそっ
!?
出た目は⋮
きが鈍くなって行く。
ゴロンゴロンとサイコロは様々な面を見せながら転がり、やがて動
?
神様、神様
﹁どこにも安心できる要素がねぇよ
﹁安心して。内容を決めるのはキリトだから﹂
されるんだ
!
!!
!!
!
﹃1.
?
!
!?
!!
!?
18
!
!
!
?
???
!?
コノハ、今抱きしめるからな
﹁6⋮か⋮﹂
﹁よし
﹂
×
い体に抱きしめられながら思った。
コノ本が完成
まぁ、割と安全な危険物だったから良かったか⋮と俺はキリトの細
!
これだと明後日位にはキリ
!
﹂
﹁創作意欲が湧いてくる
するわね
!
いや駄目だわこれ。
19
!
episode5 シリカ﹁我が名は炎獄覇王だと何
度も言ったであろうが﹂
﹁はいこれ。代わりに持って行ってよ﹂
ノートに何かを書き終えたリズが預かった武器の代わりか、二振り
の剣を俺とキリトに渡してきた。騎士が身につけてそうなそれは見
﹂
ただけでかなりの業物だと分かる、が
﹂
﹁なんでキリトと同じ武器
﹁お揃いだな
﹁どうしたんだ
﹂
﹁なぁキリト、ちょっとそっち貸してくれ﹂
かしくないか
でジャッドシュヴァリエを装備しているようだ。⋮ん
それってお
から抜き放ち軽く振り回す。剣は憎たらしい程俺の手に馴染み、まる
渋々、否応無く、仕方無く俺はリズから受け取った剣を装備し、鞘
武器を出すなよ。
いてリズの剣に圧倒的に軍配が上がった。無駄な所で高スペックな
さ、速さ、正確さ、重さ、丈夫さの強化パラメーターの配分等︶に置
一心で手持ちにある武器と比較したが、全ての点︵攻撃力は勿論、鋭
キリトが嬉しそうに背中に装備しているのを見て、装備したくない
﹁予想通りの回答だったよちくしょう﹂
い﹂
﹁そんなのあたしがお揃いの所を見たいから駄目に決まってるじゃな
けど﹂
﹁ってキリトがテンション高めに言うから違う武器にして欲しいんだ
?
﹁ちょっと気になることがあるだけだ﹂
?
20
!
?
?
キリトが背中から抜いた剣を同じように振る。が、振り心地が俺の
と比べて少し違い、キリトの剣の方が重く振り辛かった。
﹁キリト、この二本を比べてみてくれ﹂
キリトから受け取った剣を返し、キリトが少し振った後、俺の剣と
交換してもう一度振らせる。キリトも気付いたようで訝し気な顔で
首を傾げる。
﹁見た目同じなのに⋮﹂
鍛冶屋というのは基本材料、時間の無駄になる売れ残りが出来ない
よう殆どがオーダーメイド、つまり頼まれてから作るものだ。
売り物として置かれている武器は鍛冶スキルを上げる為に作られ、
スペックが売り物として十分と認められた物が多い。
ソードアート・オンライン
しかしリズは、五十層以前に鍛冶スキルを完全習得しているから鍛
冶スキルの為に作る必要がなく、店にはこ の 世 界に存在する武器
各種二本ずつ、リズが作れる最高品質の武器が置いてある。最高品質
だけを目指して作られているから誰かの手にだけ馴染むなんて事は
ないはずなのに、この二本、まるで俺達用に作られたようにそれぞれ
が俺達の手にしっくりくる。
リズなら誰が握っても良い感じと思わせる武器を作れるかもしれ
ないが、長い間使っていたジャッドシュヴァリエと同じ感覚で握れる
武器なんて調整無しで作れる筈がない。つまりこれは俺用に調整さ
れているということだ。
﹁なぁリズ、これもしかして﹂
俺が問いかける前にリズは舌を出した、所謂テヘペロ顔で、
21
・・・・・・・・
﹂
キリを想像しながら
×
﹂
コノだと何回言えば﹂
無駄な所で頑張るな
﹁お 揃 い の 武 器 を 装 備 す る コ ノ
今日作っちゃった﹂
﹁だろうと思ったよ
﹁だからリズ、キリ
﹁お前は黙って剣振ってろ
!?
ここまで頑張るか普通
あ、リズなら頑張るわ。
わざわざ俺達に馴染むように調整されてるからもしやと思ったが、
!
﹁あぁ﹂
﹁さぁて、キリ
しょうか﹂
﹁先に仕事しろ
﹂
コノ本とコノ
キリ本の内容とコマ割りでも考えま
﹁分かった。それじゃあキリト、一旦アルゲードに帰るか﹂
﹁あ、明日のお昼くらいには終わってると思うからその頃に来てよ﹂
中々のスペックだし。
まぁ武器はありがたく貸してもらおう。リズの言う通り、この剣
﹁熱意の真意が違ったらなぁ﹂
ね﹂
エやエリュシデータに負けないスペックを目指して作ったんだけど
されちゃうことでしょ。まぁ返されないようにジャッドシュヴァリ
﹁本当の無駄って言うのは、折角頑張って作ったのに装備されずに返
?
装飾され、ゴスロリチックな服を着た少女、シリカが肩にピナ改め
アルゲードに転移すると、門に寄りかかった原作より服装の細部が
×
22
× !
﹁久しいなコノハ、キリト﹂
×
!
ムーンライトドラゴン
月 光 竜を乗せながら不敵な笑みで話しかけて来た。
﹁久しぶりだなシリカ﹂
﹁久しぶりシリカ﹂
フレイムマスター
﹂
﹁我が名は炎獄覇王と何度も言ったであろうがキリト
﹁俺だけ
聞こえない。
﹂
リズだろうが。
﹁わ、悪いシリカ。あ⋮﹂
喰らえ我が恐 血 暴 拳を
﹂
﹂
﹂
!
とキリトの腹をグーで連打するシリカ。圏内でのシステ
﹁ぐぬぬぬ、もう許さん
ブラッドドレッドフィスト
﹁なら仕方あるまい。あと炎獄覇王だと言っているキリト
フレイムマスター
ち黙らせる。てめぇに癒しなんてねぇしストレスの大半はてめぇと
余った手で妙案じゃないかと俺に近づくキリトにストレートを放
あ、なら俺を撫でれば一石二ty﹂
﹁悪いなシリカ。コノハは周りの連中に疲れて癒しを求めてるんだ。
﹁確かに減るものではないが﹂
﹁いいじゃん別に、減るもんじゃあるまいし﹂
たいのか
﹁む、コノハとは言え、我が頭を無断で触るとは、魂 吸 剣の錆となり
ソウルイーター
れるわぁ厨二病だけど。隣でキリトが﹁いいなぁ⋮﹂と言ってるのは
久々の自分に害のない癒しに自然と頭を撫でてしまう。あぁ、癒さ
!
!
ポカポカしてるシリカまじ天使。
けである。
どっかの腐女子鍛冶屋のような威力もないためポカポカしているだ
ムアシストがない攻撃なので当然HPバーが減ることもなく、俺や
はぁぁ
!
23
!?
?
!
﹁あ、本題忘れる所でした﹂
一瞬素に戻ったが気付いたらしくごほん、と咳払いをしてシリカは
キリトへの攻撃をやめる。
﹂
﹁私がここに来たのは団長からコノハに言伝があるからだ﹂
﹁団長から俺に
俺とシリカは血盟騎士団には所属していないがヒースクリフさん
を団長と呼んでいる。あの人雰囲気がもう団長なせいか血盟騎士団
以外からも団長と呼ばれている。例え血盟騎士団が解散しても俺含
めた全員があの人を団長と呼び続けるだろう。
﹂
﹁至急グランザムまでとの事だ﹂
﹁了解﹂
﹂
﹁俺も着いて行っていいか
﹁いいんじゃね
﹂
﹂
!?
キリトはアスナに気付いた瞬間俺の後ろに隠れる。
﹁キリト君が居る所なら何処でもわたしはいるわよ
﹁ソウデスカ﹂
﹂
当 然 の 如 く キ リ ト の 三 歩 斜 め 後 ろ の 位 置 に ア ス ナ が 立 っ て い た。
﹁いいんじゃ⋮ってアスナいつの間に
﹁じゃあわたしも行く﹂
﹁いいんじゃね
﹁私も暇故着いて行ってやるぞ﹂
?
もう少しマシなアプローチをしてキリトの気を惹いてくれ⋮。それ
気にしたら負けだなと判断し適当に流す。頼みますヒロインさん、
?
24
?
?
?
じゃあ逆効果です。
﹁ならばこの四人で団長の所へ向かうのか﹂
﹂
﹁そうなるな。それじゃ、団長さんの所に行きますか﹂
﹁キリト君キリト君、恋人らしく手繋ぎましょ
ピンチ
チャンス
る手を繋いでやろう﹂
﹂
﹁わ、私一人だけ繋がないという訳にはいかないな。コノハよ、空いて
こいつ危機を好機に変えやがった。
﹁コノハも手繋ごうぜ
し、キリトは近くにいる俺の手を繋ぐ。
を見た後、はぁと溜息を吐く。直後ハッと何かを閃いたような顔を
俺とお前はいつ恋人になったんだ⋮と言いたげな目をしてアスナ
アスナがそう言いながらキリトの手を掴み、恋人繋ぎをする。
?
一人除け者にされそうなシリカも慌てて俺の手を繋ぎ始め、シリ
キリ、アス
キリ⋮ネタの宝庫じゃない
尾行し
!
ようにしている俺の目はきっと光が灯ってないだろう。
頼むから仕事してくれリズ⋮。
第五十五層﹃グランザム﹄にある血盟騎士団の本部の一室。
25
!
カ、俺、キリト、アスナの順に横一列に手を繋ぐことになった。
コノ、コノ
×
﹁キリ
﹂
! ×
今日の晩御飯はハンバーグにしようかなぁ⋮と全く現状を見ない
てきてよかったわ
×
山積みされた書類を処理していた学者然とした男、血盟騎士団団長
のヒースクリフは俺達の訪問に気付き、疲弊しきった真鍮色の目をこ
と い う、
ちらに向ける。机の上には手の平サイズの種類が違う瓶が幾つも転
がっている。
﹁よく来てくれたコノハ君﹂
目 元 を 揉 ん だ 後、団 長 が 指 を パ チ ン と 鳴 ら す と ガ ゴ ン
る。
アスナがしまった
い。
向く。
﹁君は午後の迷宮区攻略の時、何処で何をしていたのかね
﹁え、えーと⋮﹂
書かれていた。
瓶の一つを手に取り中身を口にしながら見つめる。瓶には頭痛薬と
せ両手の人差し指の先をくるくる回すアスナを、団長は机の上にある
まるで先生に何をしていたか聞かれている生徒のように目を泳が
﹂
体を硬直させ、錆び付いたブリキの人形のようにギギギと団長の方に
真鍮色の瞳がアスナを捉える。名前を呼ばれたアスナはビクッと
れで、アスナ君﹂
﹁アスナ君の行動原理は少しの間共にすれば誰にでも分かる事さ。そ
来ると読むとは、流石トップギルドの団長﹂
﹁なるほど、俺が来るならキリトも、そしてキリトに釣られてアスナも
よ﹂
﹁君 が 来 て く れ た お か げ で 私 の 予 想 通 り ア ス ナ 君 が 掛 か っ て く れ た
と言って扉を蹴破ろうとするが開く気配はな
重々しい、錠が掛かった音を何倍にもした音が何回か背後の扉から鳴
!
?
26
!?
﹁罰として今から私の前で書類仕事をしてもらうよ﹂
﹁わ、わたし自分の部屋の机じゃないと仕事出来ないので⋮﹂
﹁大丈夫ですアスナ様﹂
部屋の片隅にある、一つの机の前からずっと居たと思われるクラ
ディールがアスナの横まで歩いて肩を掴む。
﹁ここにアスナ様の机がありますので﹂
アスナの顔が絶望に染まった。
27
extra1 ヒースクリフ﹁薬は友達﹂
私は夢見てたんだ。
あらゆる枠や法則を超越した世界を作り出す事を。
そ し て 想 像 し て た ん だ、空 に 浮 か ぶ 鉄 の 城 を、あ り と あ ら ゆ る
フィールドを、そこで様々な生活をする人々を、そして自分自身を⋮。
いつからその夢を持っていたか分からなくなるくらい、私は長い間
その夢を実現する為に尽力した。
創
り
出
す
βテストを経て遂に、私はソードアート・オンラインを、己の夢を
実現することが出来た。
広がる草原、点在する町々、跋扈するモンスター、聳え立つ迷宮⋮
﹂
ソードアート・オンライン
これ一体なんの冗談だよ
﹂
﹂
!?
﹁ふっ、死ななければいい話だろ
係ないですな﹂
﹂
﹂
混乱が起こるどころか草原を駆け巡り、モンスターを狩り尽くし、
クエストを熟し、酒場でその日あった事を話し合うといったように現
28
私が長い間夢見てた景色そのものがそこにはあった。
あざーす
といった阿鼻叫喚の図だったのだが、実際はーーー
帰らなくていいの
!
﹁え
?
﹁フヒヒ、現実世界じゃ既に社会的に死んでいるようなものなので関
?
!
しかし私にとって、プレイヤー達にとってこ の 世 界が現実世界
﹂
なんなんだよ
!?
になって三日、彼等は私が想像していた感じとは違った。
家に帰りたい
!!
私が想像していたのはーーー
﹁もう嫌ぁ
﹁ざけんなよ
!?
﹁どうして⋮ただ私はゲームをしていただけなのに⋮﹂
!?
﹁明日大事な会議があるんだぞ
!!
﹁こんなテロみたいなのにあえば会社行けなくても仕方ないよな
?
状を楽しんでいた。いや、ある意味想像に近いのだがその逞し過ぎる
精神と行動力に何か違うと頭を抱えた。
まぁいい、もう暫らくすればこの恐怖が分かってくるだろうと思っ
ていた時期も私にはあった。プレイヤー達は私の予想を反し、着々と
フィールドを、ダンジョンを、迷宮区をギルドも組まず攻略していっ
た。それも一人も死亡者を出さずに短期間に。無駄にプレイヤー達
が高スペックで頭痛がした。
しかし九層までほぼノンストップと言っていい程の速さでクリア
したことが仇となったのか、十層の迷宮区ボスで死亡者は出なかった
ものの、想像以上の強さに手こずりーーー
﹁やべ、安全マージン取るの忘れてた﹂
﹁これデスゲームなのを忘れて死ぬとこだった﹂
﹁ふん、今回の所は見逃してやろう﹂
29
﹁フヒヒ、武器防具最強にするしかないですな﹂
と攻略速度が大幅に減速した。それもそうだろう。何故なら区切
りとも言える十層ボスは対ギルドを想定した今までのボスより広範
囲な攻撃パターンを持ち、更に取り巻き達もこれまでの取り巻きより
一段と強くなっているのだから。役割分担やギルドも組まずに挑む
事自体間違っているのだ。
なのに不思議な事に、そのようなことがあったにも関わらず、誰も
と思ったがいや、そ
ギルドを設立しようとせず、数人単位で十層ボスに何回も挑む。
まさかギルドの設立の仕方が分からないのか
たギルドメンバー計二十六名で見事十層ボスを攻略してみせた。
私は十層の攻略の為だけに血盟騎士団を設立、街で団員を募集。募っ
ず、先の攻略速度が嘘のように攻略も進まない事に焦れったく思った
しかし十層のボス部屋発見から二週間と三日、誰もギルドを設立せ
ている筈だ。
事なくクリアしているのだからギルド設立のクエストの存在も知っ
んな筈がないと一瞬で否定した。彼等は一層一層のクエストを余す
?
永らく︵当時の一層毎の攻略速度は最長で十日だった︶硬直状態が
進んでいたからか人々は私を最強の騎士だと崇め、敬い、団員になり
たいと参加希望してきたが私は全てを一度拒否した。ゲームの制作
に携わったなら誰でもあの程度クリア出来るだろうからだ。だから
こそ私は一層限りのギルドとして解散しようと思ったのだが、団員達
の熱意に押され、結果一層限りのギルドにならず、今現在もトップギ
ルドとして名を馳せることになる。そしてつられて多くの者達がギ
俺団長な
とか言い辛いだろ
ルドを設立していった。何故今になってギルドを設立したか、あるギ
ルドの団長曰くーーー
﹁だってよぉ、ギルド設立しようぜ
?
気になった私は真面目なクラディールにアスナ君を尾行させた所、
のだ。
マッピングの時にはいつの間にか居なくなることが多くなってきた
流石にボス攻略の時にいなくなるようなことはなかったが、迷宮区
いなくなってしまうようになったのは。
しかしいつからだろうか。彼女が攻略を怠り何処かへフラフラと
その指揮能力と戦闘力を遺憾無く発揮し迷宮区を攻略していった。
い働きに期待した。そしてアスナ君もその期待に応えるべく前線で
当時私を含めた五十五人のギルドメンバーはアスナ君の素晴らし
した。
ヤーの上位に位置すると思われたアスナという少女に副団長を任命
うにしようと、団員の中で最もリーダーシップに優れ、腕も全プレイ
その後、ギルドを解散しなかった私は前線には出来る限り出ないよ
種類が増えた。
余りの下らなさに胃が収縮するような感覚に襲われた。飲む薬の
ねぇし。よぉは切り出すタイミングがなかったんだよ﹂
誰かがギルド設立したら流れに乗ろうと思ったけどよ、誰も設立し
!
アスナ君は黒の剣士で有名なキリト君をストーカーしていたらしい。
目眩がした。飲む薬の種類が増えた。
30
!
あ、でもこの間低層ギルドのお手伝いもしてて優し
アスナ君に話を聞いた所ーーー
﹁一目惚れです
﹂
いれて一石二鳥
す
団長
流石キリト君
血盟騎士団
もしかしたらプ
はっ
今からわたしキリト君に入団催促して来ま
﹁失礼します。こちらにアスナ様は居られますか
﹂
とアスナ君は窓から飛び降りていった後、私は自然と
薬に手を伸ばしていた。
!
た。
?
﹁はっ、何でしょうか
﹂
﹁クラディール、君に頼みがある﹂
そうだ、真面目な彼にアスナ君の補佐をやってもらえばよいのだ。
前のクラディールが目に入る。
一体どうすれば真面目に仕事に取り組んでくれるか⋮と考え目の
だがそれすらしなくなるとは⋮。
彼女の仕事は攻略メインの為、書類仕事は他の者に比べて少ないの
その日の内に頭痛薬と胃腸薬が空になった。
﹁アスナ様が遂に書類に手を付けなくなりました﹂
﹁今さっき窓から出て行ったが、どうした
﹂
アスナ君が出て三秒後、クラディールが厳粛な顔つきで入室してき
?
失礼します
!?
に入団させれば攻略速度が早くなり尚且つキリト君と長い間一緒に
レイヤーの中で一番強いんじゃないでしょうか
!
隠蔽スキル使って200mぐらい離れた草陰から見てたのに
すよ
い所もあるんだなぁって見てて思いました。あと彼ったら凄いんで
!
ってわたしを見たんですよ
キッ
!
!
?
31
!?
!
?
!
!
﹂
﹁君を本日より副団長補佐の職に付けたいと思う﹂
﹁一体どのような事をすれば
不肖私クラディール、その任ありがたく就かせていただきま
きっちりと礼をした後、クラディールは執務室から出て行った。ア
す﹂
﹁はっ
君には優遇措置を取る﹂
﹁なに、アスナ君の行動抑止と仕事を手伝うだけの仕事だよ。その分
?
スナ君にクラディール並の真面目さまでは言わないが、もう少し自制
してくれれば⋮。
32
!
︶
キャラクター紹介 episode5まで
SAO編
プレイヤー名:コノハ︵
年齢:17
性別:男
二つ名:
戦闘スタイル:
メイン武器:ジャッドシュヴァリエ︵片手剣︶
???
料理スキルや裁縫スキル等も取っているため原作より多芸。
見た目は原作より少し髪が長いだけで性別は男。故にホモ。
している。
通じてコノハを好きになる。告白して断られるが、諦めず良妻賢母を
原作主人公。あることがきっかけでコノハと親しくなり、SAOを
戦闘スタイル:筋力と敏捷によるゴリ押しと経験による直感
メイン武器:エリュシデータ︵片手剣︶、ダークリパルサー︵片手剣︶
二つ名:黒の剣士、二刀流
性別:男
年齢:16
プレイヤー名:キリト︵桐ヶ谷和人︶
たがキリトの所だけはやり直したいと少し思ってる。
が、決してやり直したいとは思わない、とかっこよく言えたら良かっ
作 の 面 影 が な く な り も う 少 し 自 重 す れ ば よ か っ た と 後 悔 し て い る。
AOの世界だと知って色々はしゃいだり奮闘したりしたらなんか原
まれた、所謂転生をしているが神様には会っていない。この世界がS
この作品の主人公、の癖に見た目未定。前世の記憶を持ったまま生
???
プレイヤー名:アスナ︵結城明日菜︶
年齢:17
33
???
性別:女
二つ名:閃光、天性のストーカー
メイン武器:ライベントライト︵細剣︶
戦闘スタイル:高めに振られた敏捷による部位欠損狙いのヒット&
アウェイ
原作ヒロインの一人にしてメインヒロイン。この小説ではある層
でキリトを見かけ一目惚れ、観察︵ストーカー︶をしているうちにど
んどん好きになっていった。並外れたストーキング能力は自然と身
についたらしい。人は彼女を天性のストーカーと呼ぶ。しかしアス
ナ的にはストーカーではなく愛の追跡者らしい。
ボス攻略の時は副団長として現場の指揮、前衛での戦闘を卒なく熟
す優秀さを見せつける。どうしてボス攻略の時だけ真面目なんだと
団員達は嘆いているがそんな事どこ吹く風と言わんばかりに彼女は
今日も愛の追跡をする。
プレイヤー名:クラディール
年齢:26
性別:男
二つ名:副団長補佐、真面目
メイン武器:アルベリオン︵大剣︶
戦闘スタイル:大剣のリーチと威力で敵を一方的に消し飛ばし仲間
を補助する
原作ではキリトを殺そうとして逆に殺されるが、この小説では原作
の狂気が全く無くなり、超が着くほど真面目になっている。その真面
目 さ を 買 わ れ ヒ ー ス ク リ フ か ら 直 々 に 副 団 長 補 佐 を 言 い 渡 さ れ た。
周りから見たら体良く厄介事を押し付けられたように見えるがクラ
デ ィ ー ル は 名 誉 あ る こ と だ と 喜 ん だ。ア ス ナ の 書 類 仕 事 の 八 割 を
やっているがキチンと自分の仕事もやっている。
マ ス ター ガー ル
プレイヤー名:リズベット︵篠崎理香︶
年齢:17
性別:女
二つ名:マスタースミス、万能腐女子
34
メイン武器:ミスリルメイス︵メイス︶
戦闘スタイル:高めに振られた筋力に物を言わせた攻撃を最速で的
確に叩き込む
原作ヒロインの一人。この小説では何をどう間違えたのか腐女子
になった。
本職に引けを取らないほどの画力と文章力があるためSAOプレ
イヤーの約六割は彼女の作品のファンである。彼女の作品はホモと
百合が多い所為かホモ、百合が増えたとか。
彼女のSAOでの初出版であるコノハとキリトの純愛青春物はそ
の希少性とストーリーの奥深さが今現在まで出てる作品の中で今だ
キリ本はアスナが買い占めに走ってるため誰も読めずランク外。
一、二を争う人気からオークションで100万コルで落札された。ア
ス
フレイムマスター
プレイヤー名:シリカ︵綾野珪子︶
年齢:14
性別:女
二つ名:竜使い、炎獄覇王
メイン武器:魂吸剣︵短剣︶
戦闘スタイル:多少無理して相手の懐に入り、相手の武器のリーチ
から外れつつ自分の武器のリーチで戦う
みたいな服装をしている。
原作ヒロインの一人。あることがきっかけで中二病にかかる。原
作より装飾の多い、もうゴスロリじゃね
メイン武器:聖剣デュランダル︵片手剣︶、聖十字の盾︵片手盾︶
二つ名:聖騎士、ストレスマッハ
性別:男
年齢:
プレイヤー名:ヒースクリフ︵茅場晶彦︶
い。
れが世間一般で言う﹁黒歴史ノート﹂になることを彼女はまだ知らな
んでいる。最近はカッコ良い技名を考えてノートに書いているが、そ
良い武器や防具が置いてあり、暇があればそこで着せ替えをして楽し
小さな一軒家を持ち、そこには過去に集めたシリカから見てカッコ
?
35
×
戦闘スタイル:圧倒的防御力を用いて隙を伺い、流れを見出せたな
ら盾も武器として扱い攻撃を仕掛ける
原作ラスボス。最初は原作のまんまだったが予想とは反するプレ
イヤーやら務めを果たさない副団長やらで弱り果て、薬を常備するよ
うになる。
最近は一部のプログラムが制御出来ないことも加わりストレスが
限界を突破したのか血を吐いた。
血盟騎士団の募集要項に﹁普通であること﹂と書かれた日、団員達
は涙を流した。
36
episode6 コノハ﹁偶にあるよなぁ⋮﹂
血盟騎士団本部から出てすぐにある露店に飾られた10万コルの
髑髏の描かれた眼帯をシリカがキラキラした目で見ているのを見て
衝動買いしないか心配しているとキリトが﹁なぁ﹂と話しかけてきた。
﹂
﹂
﹁まだ七十四層の迷宮区マッピング終わってないしさ、久々にクエス
ト消化しないか
﹁俺はいいけど、目星はついてるのか
﹁まだクリアされてないクエストなんだけど﹂
﹂
粗方攻略組がクリアしてるのによくクリアしてないクエスト見つ
けれたな。
﹁それって三人で出来るのか
﹂
今わたしは財布と欲望の葛藤中です
キリトさん
正にラ
?
か
﹁コノハさん
ちょっとわたし店員さんと交渉してきま
﹂
!
!
すので今回はこれで失礼します
シリ
﹁特に人数制限は無かった筈だからシ⋮炎獄覇王も来るか聞いてみる
?
﹁シ リ カ が 聞 い て な い 時 は 普 通 に シ リ カ っ て 呼 ん で も よ く ね
カー﹂
﹂
﹁ま、待ってください
グナロクです
!
6万でお願いします
﹂
﹂と頭を下げて値下げ交渉し始め
そう言ってシリカは新しい品物を並べている店員の下へ足早に向
かい、
﹁6万
た。
!
﹁二人きりだな﹂
﹁ふんっ
!
!
37
?
?
﹁何を言いたいか分かるが何言ってるか分からないぞ﹂
!
!
!
?
﹁腹ぁ
﹂
﹁クリアしたらアイテムは俺が貰うからな﹂
女性に言われたい言葉ベスト10の一つを言いやがったキリトに
ボディブローを放った俺は悪くない筈だ。
やって来たのは前線から遠い二十二層の北に位置する、見晴らしの
いい視界と適度にMobがポップすることからレベリングに丁度良
いとアルゴの情報誌に書かれた事がある﹃ヤルンカ草原﹄だ。
そこの端にある小さな小屋の前で草刈りをしている白髪の老人に
キリトが話しかけに行く。頭の上にクエストマークが浮かんでいる
事 か ら あ の 人 が 今 回 キ リ ト が し た い ク エ ス ト を 持 っ て い る よ う だ。
俺はキリトの後ろでクエストの内容がどんな物か土いじりをしなが
ら耳を傾ける。
﹁すみません﹂
﹁⋮⋮﹂
老人は何も喋らなかったがクエストは受けれたようで、パーティを
組んでる俺にも﹁クエスト﹃沈黙を守る老人﹄が受注されました﹂と
メッセージが現れる。
立ち上がって詳細を見るが﹁沈黙を守る老人。しかし彼は何か話し
たいような表情をしている。どうすれば彼は話してくれるのか⋮﹂と
全く手掛かり書かれてねぇぞ﹂
攻略についての手掛かりが書かれてなかった。
﹁なんだこれ
トだよ﹂
﹁まだここが最前線だった時、誰もクリア出来ずに匙を投げたクエス
?
38
!?
それを聞いてまじかよと俺は目を丸くする。
二年前、攻略が進まなかった十層の迷宮区ボスを団長が血盟騎士団
変
態
達
を設立して撃破、十層をクリアした後、今までソロか二、三人のパー
ティで迷宮区を挑んでいた多くの攻略組が次々とギルドを設立し、水
を得た魚のように十層までクリアしていた以上の速さで迷宮区、そし
てクエストを攻略していったが、途中でノーヒントクエストが出て挑
んだ全員が断念したという噂を思い出した。
﹁で、キリト、受けるからには攻略のヒントくらい掴んでるんだろうな
﹂
﹁ヒントと言うより心当たりかな。少し前七十層の小さな集落でクエ
ストクリアした時に依頼したNPCから﹃雄弁草﹄ってアイテムの名
聞いたことないな﹂
前を聞いたんだ﹂
﹁﹃雄弁草﹄
のアルゴですら
の詳細が書かれた本を出版する、総資産カンストしてると噂されるあ
?
?
けど﹂と言う、実はあいつが茅場なんじゃないか
と言われる程各層
アルゴも知らない ﹁何でもは知らないヨ、知ろうと思えば知れる
知らないって言ったよ﹂
﹁俺も聞いたことがなかったからどんなアイテムかアルゴに聞いたら
?
﹂
?
んだ﹂
﹁この﹃雄弁草﹄、入手出来るのが六十層のにある山の頂上だけらしい
の時に誰もクリア出来なかったんだ
クエストを受けた時だけしか入手出来ないならなんでここが最前線
﹁沈黙する老人⋮話したいような顔⋮雄弁⋮なるほどなぁ。けどこの
たんだ。そしたら自然とこのクエストを思い出したんだ﹂
受けた時だけ入手する事が出来るアイテムなんじゃないかって思っ
﹁それでもしかしたら﹃雄弁草﹄は普通じゃ入手出来ない、クエストを
?
39
?
つまりここが最前線だった時はどう足掻こうがクリア出来る筈が
なかったのか。茅場も中々意地の悪い事をしてくれる。しかも六十
層で取れる筈なのに情報が更に上の七十層で手に入るとか嫌がらせ
にも程がある。一体どれだけのプレイヤー達がこの罠に時間を取ら
れたか。
﹁それじゃあ案内頼んだゾキー坊﹂
﹁アスナもだがなんでこうも当たり前のように背後に突然現れるんだ
よ﹂
俺は背中越しに今まで聞こえなかった声の主を慣れた目で見る。
そこには短めな金褐色の巻き毛、齧歯類を思い起こさせる三本のヒ
ゲのようなフェイスペイント、動きやすい格好をした、SAOプレイ
﹁リズの所からかよ
﹂
悪戯が成功したかのように笑う。
くだん
﹁まぁ細かい事は気にするナコノノン。彼女出来ないゾ
?
お前が言ったら世間が事実のように認
坊がいるから関係なかったナ﹂
﹂
﹁冗談でもそう言うのやめろ
識してしまう
あぁ、キー
俺がツッコむと多くの二つ名を持つ件の人物、アルゴはにひひと、
!
!
これ以上言わないヨ。それで、オレっちも同行していいよナ
﹂
﹁オレっちも何処から目に見えない剣が飛んでくるか分からないから
!
?
40
ヤーであるなら知らない人はいないであろう人物がまるで最初から
一緒に居たような振る舞いで立っていた。
﹂
﹁失礼ナ。オレっちは相当前から同行してたゾ﹂
ストーカー
いつから同 行してたんだ
?
﹁今月の﹃月刊アルゴ﹄のリズの漫画が楽しみだナ﹂
﹁で
?
﹁俺は別にいいけど。アルゴが動くなんて珍しいな﹂
﹂
﹁オレっちの情報屋としてのプライドを傷付けたクエストだしナ。オ
あぁ⋮えぇと⋮﹂
レっち直々に行くのが筋って言うか意地だナ。キー坊もいいよナ
﹁え
何故か言い淀むキリト。
アルゴは顎に手を当て訝し気にキリトを見た後分かったような顔
?
﹂と笑顔でサムズアップした。アルゴは何を言ったんだ
﹁こいつ教える気微塵もねぇぇ
﹂
﹁そういえば、アルゴに聞きたい事があるんだけどさ﹂
!!
トが後ろで俺と歩くアルゴに質問を投げかける。
またコノノン関係か
?
﹁おっとと、何を聞きたいんダキー坊
?
ならない言葉をキリトに返す。
しか
?
何をアルゴから聞いたんだ
アルゴが足元に転がる石に足を取られそうになりながら聞き捨て
﹂
珍しい採掘ポイントのない、目的の山を登っている最中、先頭のキリ
鉱石や宝石などが取れる採掘ポイントがある山が多い六十層では
?
をしてキリトに近付き何かを耳打ちすると、キリトは一転して﹁全然
良いぞ
﹂
?
﹁知りたかったら10兆コルだヨ﹂
﹁キリトに何言ったんだ
﹁キー坊からもOK貰ったし早く行くゾ﹂
!
﹁おいこらどういうことだキリト
?
41
?
ソードアート・トーナメント
もまたってなんだまたって
何回聞いたんだ
﹂
!?
﹂
﹁そういうつもりで言ってねぇよ
﹁誰が夫婦だ
﹂
﹁俺とコノハだろ﹂
なんで今ダジャレ言うんだよ
﹂
﹁夫婦漫才はそんくらいにしとけヨ﹂
!?
﹁⋮コノハ、それはちょっと寒い⋮﹂
﹁スルーするな
﹁いや、次の剣 技 大 会はいつするのかなんだけど﹂
!?
﹁俺もお前も男で結婚事実皆無
﹂
!?
!
不穏な一言をボソッと言うな
﹂
!!
いたんだ
﹂
﹁なんか流されそうだからもう一回聞くがキリト、アルゴから何を聞
﹁そっかぁ。早く前回のリベンジを果たしたいよ﹂
﹁誰も思ってねぇよ﹂
ン﹂
あ、キー坊と待望で韻を踏んだ訳じゃないから勘違いするなヨコノノ
の 見 直 し が ま だ 終 わ り き っ て な い し、他 の イ ベ ン ト も し た い し ナ。
﹁キー坊待望の剣技大会だけどナ、当分先だと思うゾ。ルールと景品
﹁そこ
﹁結婚事実なんていくらでも捏造出来るけどナ⋮現にあの娘も⋮﹂
!!
!!
﹂
!!
る。
俺とキリトは武器を構えて戦闘態勢に入るが一つ気になる事があ
ては短めの名前が表示された。
六本あるHPバーの上には︽ツリージャイアント︾というボスにし
げられないように木の根が頂 頂上を囲った。
がら形を変え、筋肉隆々な人のような姿になって咆哮すると俺達が逃
枚もない巨木が生えてきた。それはメキメキと木独特の音をたてな
と同時に、頂上の中央付近から地響きと共に3mはありそうな葉が一
頂上の開けた場所に辿り着き、キリトが下手な話題逸らしをするの
﹁だから流そうとするな
﹁⋮あ、もうすぐで目的地に着くから皆気を付けてくれ﹂
?
42
!!
﹁アルゴさんや、なぜ貴女は武器を構えずに隅で持参だと思われるパ
﹂
﹂
あれ倒してからで
ラソル付きの椅子に座りながら悠々とサンドイッチを食べてらっ
しゃるんですか
﹁まだ昼ご飯食ってなかったからナ﹂
手伝えよ
﹁いやいやだからってなんで今昼飯を食うんだよ
いいじゃん
ナァこれが﹂
﹁あぁ
﹂
﹁パパッと片付けるぞキリト﹂
てるしいいか。
まぁこの階層のボス位なら俺もキリトも安全マージンは十分取れ
﹁九割九分九厘は本気で手伝うつもりないのかよ⋮﹂
ないどころか逆に邪魔になると思ったんだヨ﹂
とキー坊がいるし、オレっちみたいな徹頭徹尾サポートタイプはいら
﹁というのは一厘冗談で、手伝いたいのも山々だけど、今回はコノノン
﹁なん⋮だと⋮
﹂
﹁オレっちは同行するとは言ったが手伝うとは一回も言ってないんだ
!?
!?
?
!?
の依頼者である老人に﹃雄弁草﹄を届け、その場で老人が﹃雄弁草﹄を
飲み込み、﹁あ∼⋮﹂と声が出すと涙をポロポロ流してキリトの手を
握った。
43
!?
︽ツリージャイアント︾を特にオチもなく苦もなく倒した後、二十二層
!
﹁お若い方々、態々私の為に危険な山を登って頂き本当にありがとう。
御礼に我が家の家宝を受け取って貰いたい﹂
そう言ってキリトに祈りを捧げる少女の形をした小さな瓶が渡さ
れるとクエストクリアのメッセージが表示された。
﹁小屋を一回出てみたがクエストが発注出来ないナ。多分一回しかク
リア出来ないクエストだナ﹂
﹂
﹁てことはオンリーワンのアイテムの可能性があるのか。何貰ったん
だ
﹁﹃エルフの聖水﹄、一人の全ての状態異常を治すだってさ﹂
﹁解毒結晶とかで代替が効くアイテムじゃねぇかよ⋮﹂
﹁ほらコノハ、約束通りこれやるよ﹂
﹁⋮まぁいつか使える日が来るだろうし﹂
俺は﹃エルフの聖水﹄を受け取り、いつか使える日が来るのだろう
かと思いながら多種多様なアイテムが混雑とした自身のストレージ
の末端にそれを仕舞い込んだ。
44
?
extra2 コノハ﹁休日﹂
︻キリトの休日︼
日曜日の朝5時、まだ日も昇らない時間に彼は目覚まし無しで目を
覚ました。
眠た気な目を擦りながらベッドから降り、布団の暖かさを名残惜し
みながら部屋を出て、階段を降りながらメインメニューを操作して服
装をパジャマ︵グレーのスウェット︶からいつもの全身黒装備に変更
し、洗面所で顔を洗う。
﹁さてと﹂
伸びた髪をポニーテールのように纏め、冷たい水で顔を洗って眠気
を飛ばしたキリトは台所に入り、冷蔵庫の中身を確認して何が出来る
かを冷蔵庫の中の材料と頭の中のレシピを照らし合わせながら考え
る。
ハムとキャベツ、トマトが残り少ないしパンを焼いてサンドイッチ
にするかと決めたキリトはメインメニューから黒色のエプロンを装
備し、ハムとキャベツとトマトを取り出し包丁で手際良く切ってい
き、切り終えたそれらを皿に盛りラップをかけ冷蔵庫にしまった後、
冷蔵庫の隣に置いてある棚から小麦粉、塩、ボウルを取り出し、パン
の素を作る。ソースも作ろうかと悩んだが時間を見てエギルの店で
買ったソースにしようと諦めた。
朝食の準備を終えたキリトはエプロンを装備から外すと二階に上
がり、自分の部屋の隣にあるドアプレートのかかった部屋に静かに
入った。
部屋の中はベッドと卓袱台とアイテムボックス、そして並べて置か
れた三個の本棚しかないため広い部屋が更に広く感じるなぁとキリ
トは思いながら目的のベッドに近づく。
窓際のベッドには掛け布団を床に蹴飛ばして寝ているコノハがい
45
た。ここはゲームの世界なので風邪を引くことはないがキリトは床
に落ちている掛け布団をコノハに掛け直す。
﹁いつ見ても寝ている顔は可愛いな⋮﹂
ベッドに腰掛けコノハの髪を撫でながらそう言う。実はキリト、3
日に1回コノハの寝顔を見る為だけに早起きするのだ。目覚まし無
しで起きるのもコノハが起きないようにする為である。
撫で終えたキリトはベッドに入り、コノハの手を握って目を瞑り、
コノハが起きるのを待つ。
一時間後、欠伸をしながらコノハが目を開け、キリトを見つけると
呆れ顔でキリトを揺する。
﹁おーいキリト﹂
﹂
46
﹁ん⋮おはようコノハ⋮﹂
キ リ ト は あ た か も 今 起 き た か の よ う な 眠 気 を 含 ん だ 返 事 を す る。
この時目を擦る事を忘れない。あざとい、キリトあざとい。
﹁お前また部屋間違えてるぞ。ったく、深夜の作業は控えろとあれ程
言っただろうが﹂
﹂
﹁ふぁぁ⋮次は間違えないように気をつける﹂
﹁お前それ何度目だよ
た。
だ日の光がない、暗いアルゲードの街並みが広がっているだけだっ
背中に悪寒を感じたキリトはパッと背後に振り向くが、そこにはま
﹁今日の朝ご飯は⋮⋮
﹁露骨に話を逸らされた気がするが⋮まぁ別にいっか﹂
﹁そんなことより朝ご飯にしようぜ﹂
?
?
﹁⋮
どうした
︻アスナの休日
﹂
と頭を掻いて窓から視線を離し、
﹁今日も始めましょうか。キリト君盗sゲフンゲフン観察日記﹂
個の理由は視聴用、保存用、予備用と用途別の為だ。
3個と煙玉と閃光玉を取り出して準備体操を始めた。記録結晶が3
それを装備し、髪を後頭部に纏め、アイテムボックスから記録結晶
ような物だ。
ムである白を基調にした物ではなく緑や茶が入り混じった迷彩服の
て。しかしその装備はいつも装備している血盟騎士団のユニフォー
朝の挨拶をしたアスナはシャワーを浴び、メインメニューを操作し
トに朝の挨拶をしている事になる︵とアスナの中ではなっている︶。
をした。この写真の方角にはキリトの住居があるので間接的にキリ
体を起こした先の壁に貼られた等身大のキリトの写真に朝の挨拶
﹁おはようキリト君﹂
を立てていたアスナはぱっちりと目を開けて体を起こす。
朝4時、キリトの全身がプリントされた抱き枕を抱いて綺麗な寝息
︼
扉が閉じられた後、窓の外に栗色の何かが通った。
コノハと共に部屋を出る。
キリトはまだ寝惚けてるのか俺
﹁そう⋮だよな⋮﹂
﹁気のせいだろ﹂
﹁今視線を感じたような⋮﹂
?
?
キリトの家に向かうべく玄関、ではなく自室の部屋の窓から外を確
47
?
?
認し、安全と分かると窓を開け外へ飛び出し隣の家の屋根に屈伸を上
手く使い音も無く飛び乗る。
屋根の上から顔だけを覗かせて玄関のドアノブを見てみると、糸が
ドアノブの横の壁の黒い箱に伸びていた。黒い箱は恐らく対レアモ
ンスター用の、糸が引っ張られたら設置主にメッセージを送信する罠
だろうとアスナは推測した。扉を開けていたら設置主、クラディール
にメッセージが発信され、即座にクラディールがこちらに来てアスナ
は拘束されていただろう。
﹁甘 い わ ね ク ラ デ ィ ー ル。貴 方 の 考 え る 事 な ん て 手 に 取 る よ う に 分
かったわ。わたしを捕まえたかったらもっと機転を利かせることね﹂
アスナはドヤ顔でそう言って屋根伝いに転送門に向かった。目指
すはアルゲード、手に入れるはキリトの寝顔。アスナの口からは涎が
止まることなく流れていた。まさか自分が出てきた窓に玄関に仕掛
けられていた罠と同じ物があったとは知らずに⋮。
︻ヒースクリフの休日︼
﹁あ、アスナ君⋮いい加減に仕事をしてくれ⋮﹂
うーん、うーんとアスナを戒める寝言を言いながら痛んだ胃を休め
ていた。
︻リズの休日︼
リズの休日の朝は大体机の上から始まる。リズが突っ伏している
机の周りにはコマ割りされた紙や設定画が散らばっているが、どれも
コノハかキリトが描かれていた。次の日が休みだとリズは一週間で
少しずつ溜まった脳内案を朝方まで紙に貪るように描くのだが、今回
48
は中々納得行く作品が出来ず、描かれた紙が100を超えていた。
十分睡眠を取った︵睡眠時間1時間30分︶リズは机の横に設置さ
れている冷蔵庫から栄養ドリンクを出して一気飲みをし、周りに散ら
ばる紙を椅子を回転させ、椅子から降りずに拾いあげて一枚一枚を
はぁぁと溜息を吐きながら見ていく。
﹁どれもこれもしっくり来ないのよねぇ。特に設定。なんかいい設定
ないのかしらねぇ﹂
長時間椅子に座るのも腰的にキツくなってきたリズは、ネタがない
のなら探しに行けばいいじゃないと決まったリズは、朝ご飯にもあり
つきたいなぁとまだ覚醒しきっていない脳で考えて攻略組では珍し
い朝型のコノハとキリトの家に行った。
もう起きているか家の中を窓から覗いてみると、正方形のテーブル
49
の一辺に迷彩服を着たアスナとポニーテールにいつもの黒装備のキ
リトが、向かいに﹁天下統一﹂と書かれた白のTシャツを着ているコ
ノハが座っており、アスナの後ろ、リズが覗いている窓の斜め前に血
盟騎士団のユニフォームを着ているクラディールが腕組みをしてア
スナをじっと待っていた。
普通の朝の光景が服装を変えるだけでこんなにシュールなるんだ
とリズは思いつつ窓から離れ表の玄関に行き呼び鈴を鳴らす。
待っていると目標の一人のコノハが疲れた顔で出迎えてきた。
﹁やっほー﹂
﹂
﹁リズか⋮。なんでこうもうちに人が集まるかねぇ⋮﹂
﹁人望じゃない
た事がばれていたことに驚くリズ。
アスナがいたのはそういう事かと納得したと同時に覗き見してい
てたり玄関に来る前に窓の外から覗くかよ﹂
﹁絶対違うだろ。人望で来るやつがキチガイ染みた身体能力で盗撮し
?
ア
﹁あ、ばれてた
ナ
結構慎重に見たんだけどなぁ﹂
ス
﹁普段からストーカーで鍛えられてるからな﹂
﹁流石にアスナを超える隠密技術は誰も習得できないわ﹂
﹁アスナ並も無理だろうな⋮。で、リズも食っていくか
キリトお手
丁度朝ご飯どうしようかなぁって思ってたところだったの
製サンドイッチ﹂
﹁いいの
﹁ソ、ソンナコトナイッテバー﹂
﹁違うんだったらこっちを見て言え﹂
﹁ソンナコトナイッテバー﹂
早く中に入れてよ
!
﹁そんなペロちゃ○みたいな顔で言われても﹂
﹂
﹁もうなんでもいいでしょ
﹁逆キレされた
!
この数分で何があった
丁度いい所に
﹁あ、リズ
﹁あはは⋮おはようリズ﹂
クラディールを何とかして
﹂
!
らクラディールに引き摺られて連れて行かれた。
﹂
掴む物を失ったアスナは﹁この裏切り者∼﹂と怨嗟の声を上げなが
剥がしクラディールにアイコンタクトで連れてけと伝える。
この事態を終わらせるためコノハはアスナの手をキリトの足から
を掻いて苦笑の入った挨拶をした。
アスナはリズに、クラディールはコノハに救援を求め、キリトは頬
!
!
?
な い と 嫌 が る ア ス ナ と ど う す れ ば い い ん だ と 困 惑 し て い る キ リ ト。
で外に出ようとするクラディールとキリトの足を掴んで仕事したく
コノハがリズと共にダイニングルームに入ると、アスナの足を掴ん
﹂
﹁どうせここに来れば食べ物にありつけると思ったんだろ﹂
よ﹂
?
?
!?
アスナ様をキリト様から離すのを手伝って下さい
﹁コノハ様
!
50
?
!
アスナがいなくなった椅子を引き﹁まぁ座れよ﹂とコノハが手招き
したのでリズは﹁ありがとう﹂と言って座る。
﹁邪魔者もいなくなったし、キリト、リズの分のサンドイッチも頼む﹂
﹁わかった﹂
女の子のような顔のキリトが台所で料理し、コノハがアルゴ新聞を
読むのを見てリズの頭の中にピーンとネタが浮かんだ。
﹁︵もういっそのことキリトが女の子になってコノハに告白するTS
恋愛物描くのも偶にはいいかも︶﹂
二ヶ月後、初めて描いたTS恋愛漫画﹁純粋な愛は性別を超える﹂が
発売。リズが初めてTSで恋愛物を描いたことで過去最高の速さで
完売し、突然TSした事に戸惑い、そして性別の壁を取り払われたキ
リトが友情を取るか恋愛を取るかで葛藤する際の心情描写が見る者
をキュンキュンさせ、続編、小説、実写化希望の声が殺到するとはリ
ズはこの時思いもしなかった。
51
episode7 シリカ﹁出番がもっと欲しいです
⋮﹂
いつもと変わらず、昼時にアスナが床下から現れ、珍しくシリカが
訪ねてきた時のこと。キリトの隣を陣取り、美味そうにキリト特製の
カレーを食っているアスナが思い出したかのように、というか本当に
言い出すまで忘れていたようにそういえばとカレーを食べながら話
を出した。
﹁前見つけたボスフロアのボス情報が集まったから13:00までに
グランザムの血盟騎士団本部に来て欲しいと団長が言ってたわ﹂
﹁⋮今12:50だな﹂
キリトがカレーを食べるのを止め、壁に掛かっている時計を見てそ
52
う言う。ここから転送門まで全力で走って10分、転送門からグラン
ザムまで15分、誰がどう見ても遅刻確定だ。
スプーンを置いて俺はメインメニューを操作し、ある武器を装備す
る。隣にいるシリカは俺が持つ武器を見て﹁アスナさん、安らかにお
眠りください﹂とアスナに黙祷を捧げ、キリトは自分の分とアスナの
分のカレーを手に持って席を立ち、アスナは何故キリトが自分のカ
レーを持っていくのか分からないようで首を傾げる。
俺は行儀が悪いのを覚悟の上でテーブルの上に足を乗せ、アスナの
頭目掛けてそれを全力で振り下ろした。
その武器を見たことない者はいないだろう。紙を蛇腹状に折り畳
み、持ち手の部分がテープで巻かれ、反対側が扇のように広がった、殺
傷性がない代わり、叩かれた者に瀕死に至らせる程の多大な痛覚を与
える。それの名は﹁ハリセン﹂、ついこの間フィールドボスを倒した時
﹂
に手に入れたドロップアイテムだ。
﹁この大馬鹿ヤロォォォ
!!
﹁ぐぺっ
﹂
ハリセンの一撃を受け、ヒロインらしからぬ声を上げてアスナは机
に沈んだ。アスナが沈んだ時に宙に浮いた俺のカレーはシリカがな
んとかキャッチしたので無事だった。
俺はすぐ様団長に﹁アスナのバカがやらかしたため遅刻します﹂と
連絡。アスナを除いた俺達ははすぐ様カレーを平らげて、気絶した
もう歩けるから
歩けるから離しいったぁぁ
﹂と幻
︵さ せ た︶ア ス ナ の 足 を 掴 ん で グ ラ ン ザ ム に 急 い で 向 か っ た。途 中
﹁ちょ、コノハ
聴が聞こえた。
!
!?
る︶が俺の前に出る。お、流石に悪いと思ったか
俺の後ろにいたアスナ︵あんだけ引きずったのにピンピンしてやが
の家に行く事を許可した筈だが﹂
事を免除する代わりに絶対に忘れずに伝えるという条件でキリト君
﹁連絡をくれたのだから別に構わないよ。だがアスナ君、私は確か仕
﹁遅刻してすみません団長﹂
上で座る団長に謝罪をする。
ヤーが着席していた。一斉に向けられる視線を鋼の心でスルーし、壇
に多くの、多分俺達以外に召集がかけられたギルドやソロのプレイ
したのは広い会議室だった。壇上に向かって並べられた長机には既
血盟騎士団本部に着くと入り口で1人の団員がこちらですと案内
!?
す﹂
﹁人は夢中になるとどうでもいい物事を忘れるものなので仕方ないで
?
53
!?
少 し も 反 省 し た 様 子 を 見 せ ず に ア ス ナ は き っ ぱ り と そ う 言 っ た。
少しは反省を見せろ馬鹿、あとどうでもよくないだろとハリセンで叩
く。
団長は苦い顔をしてポケットから瓶を取り出し、中身を2.3粒取
り出し水で飲み、はぁぁ⋮と溜息を吐いた。
﹁まぁいいだろう。コノハ君達の席はそこだから座ってくれたまえ﹂
団長が指差す、壇上の目の前の長机の所に三席空いていたので言わ
え⋮
﹂と困惑していた。
れた通り俺、キリトが座るとすっと当たり前のようにアスナが座る。
座る席の無くなったシリカは﹁え⋮
﹁﹁﹁はっ
﹂﹂﹂
﹁ではこれより、74層ボスフロア攻略会議を開始する﹂
の隣に座り、空いた席にシリカが座った。
アスナは小さく舌打ちをしてキリトの隣を立ちがって壇上の団長
﹁チッ⋮﹂
君は壇上で作戦内容を話さなくてはならないだろう﹂
﹁⋮なに当たり前のようにキリト君の隣に座っているんだアスナ君。
?
雰囲気を纏ったアスナは団員三人に紙を配らせる。普段からそうし
ろよという空気がひしひしと血盟騎士団全員から感じた。
配られた紙は二枚、片方は白紙、もう片方にはボスの攻撃パターン
や推定HP量などの情報が書かれていた。
54
?
先程までの雰囲気ではなく、気の緩みが一切感じられない、真剣な
﹁はい﹂
﹁詳しい事は副団長のアスナ君から﹂
!
﹁手元に届いた片方の紙にボスについての情報が書いてあることが読
んでもらえば分かると思いますが、それを覚えてもらうのは後にして
もらい、今から前線でダメを取るA∼C班、タンクのD∼F班、回復、
遊撃、囮を柔軟に行うG、H班をこちらで決めたいと思いますので名
前と主な戦闘スタイル、希望する班を一緒に配られた白紙に書いて前
に提出してください﹂
﹂
﹂
うーん、戦闘スタイルはまぁ片手剣と盾の普通の戦士スタイル、希
望の班はタンク以外っと。
﹁コノハは何処の班希望にした
﹁タンク以外だな。キリトとシリカは
﹁俺もタンク以外だな﹂
﹁ふっ⋮我が力は癒しの闇の光、故に後方にて支援を行おうと思うぞ﹂
⋮こほん、あとピナではない、月光竜だぞコノハ﹂
﹁闇の光ってなんだよ。シリカのピナの力は前線より後方支援向きだ
もんな﹂
﹁うるさいです
を見ると俺とキリトはB班、シリカはG班になった。
﹁それでは決められた班ごとに集まり、パーティを組んで班長を決め
てください。決まったら班長はこちらに来てください﹂
﹁それじゃあシリカ、また後でな﹂
﹁うむ、また後でな﹂
﹁B班こっち集まってくれ∼﹂
知っている男が手を振って大きな声でB班に呼びかけていたので
﹂
キリトと共に行く。声をかけていた野武士面の男はこちらに気付く。
﹁お、コノハにキリトじゃねぇか
!
55
?
?
紙を提出してから10分後、班が決まったらしく新しく配られた紙
!
﹁よぉクライン。納得行く刀は見つかったのか
﹂
﹁んや、今の刀は惜しいんだけどまだ見つかっちゃいねぇな﹂
﹁そうなのか﹂
﹁おう。で、こっちに来たってことは二人ともB班ってことだよな
ってことはこれで全員集合か﹂
﹁あぁ、よろしくなクライン﹂
﹁よろしくなキリト
ティ申請するから受理してくれ﹂
﹂
﹁マ ジ か よ ⋮ ま ぁ 多 数 決 な ら し ゃ あ ね ぇ か。そ れ じ ゃ あ オ レ が パ ー
キリトがそう言うと俺を含めた4人もそうだなと首を縦に振る。
﹁俺はクラインがいいと思う。今も班を纏めれてるし﹂
﹁そんじゃあ誰がいいか推薦すっか﹂
まいったなぁとクラインは頭をガシガシ掻く。
がない。
今東西めんどくさいと相場が決まっているのだからやりたがるはず
クラインの言葉に誰も手を上げない。そりゃ班長なんてもんは古
﹁そんじゃあ班長決めるか。班長してぇ奴は手ぇ上げろ﹂
目気の女、フードを被った性別と武器不明の小柄な奴の6人か。
ばらんと切った長身の男、メイスを腰に差したオレンジ色の髪に吊り
俺達の班は俺、キリト、クライン、槍を背中に背負う緑髪をざっく
?
?
クラインからのパーティ申請を受理すると周りのメンバーの名前
が見えるようになった。
アスナ
56
!
長身の男はノト、吊り目の女はマーハ、フードの性別不明はアスナ
⋮あ
?
キリトが性別不明の奴のフードを取ると、テヘペロ顔をしたアスナ
?
全く貴女という方は目を離せばすぐいなくなって
の顔が出てきた。
﹁アスナ様
﹂
ホモ
ゲイ
たクラインと団長の所に行った。
同性愛者
﹂
﹁アスナには困ったものだなコノハ。⋮コノハ
﹂
﹂
﹁俺はホモじゃない⋮俺はゲイじゃない⋮俺は同性愛者じゃ⋮﹂
?
今す
俺に罵詈雑言を浴びせるアスナをクラディールは担ぎ、班長になっ
!
私はもうパーティを組んだからそっちのパー
ぐA班に来てください
﹂
﹁離してクラディール
ティに入れないわ
この裏切り者
!
﹁あいよ﹂
﹁く
!
﹁さぁアスナ様、これで何も憂いはありませんね﹂
!
﹁クライン、アスナをパーティから外してくれ﹂
!
!
﹁予想外にアスナからの言葉にダメージをもらってた
!?
57
!
!
!
!?
e p i s o d e 8 キ リ ト﹁久 々 に 切 れ ち ま っ た よ
⋮﹂
作戦が決まり、班長のクラインが戻って俺達に作戦内容を説明した
のを簡潔に説明すると、団長率いるA班は正面から、クライン率いる
俺達B班は右側から、C班は左側から74層フロアボス、ザ・グリー
ムアイズをアスナの号令に応じて叩き、タンク隊はA∼C班がスイッ
チ要請をしたらD班がA班、E班がB班、F班がC班のスイッチを担
当する。G、H班はA、D班とB、E班、A、D班とC、F班の間に
配置され、臨機応変に班のサポートをするようだ。今回のボスは珍し
く取り巻きがいない分、ボスを叩ける人数が多いのですぐ終わるだろ
う。
シリカのいるG班を見てみると、シリカが班長として班の中心に
なって話し合いをしていたのが見て取れた。ちゃんと班長やってて
長
﹂と誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺とクラインが立ち止まり声
﹂
58
俺は嬉しいよシリカ。ただ、なんでお前の班にばかりピンポイントに
﹂
厨二病患者らしき奴らがいるのか気になるのだが。特に隣に立って
いる赤い装備の白髪褐色肌の奴。﹁倒してしまっても構わんだろ
とか言って死亡フラグを立てる臭いがプンプンしやがるぞ。
ハ
班も広場に向かう為席を立ち会議室の出口に向かう途中﹁おーいコノ
アスナの指示にぞろぞろと会議室からプレイヤー達が移動、俺達B
眼前まで転移しますので本部前の広場に集合してください﹂
リームアイズ討伐作戦を開始します。回廊結晶を使ってボスフロア
﹁皆さんに作戦が伝わったようなので、これより74層ボス、ザ・グ
?
﹁お、ディアベル。お前も今回のボス戦参加するのか。もしかして班
の主を
!
?
﹁あぁ。君の所の班長はクラインかな
﹁結構まとめ役として有能だしな﹂
﹁よせやい、照れるじゃねぇか﹂
﹂
﹂
人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ
﹁けどロリコンなんだよなぁ﹂
﹁唐突に何を言いやがる
だ子供が好きなだけだ
﹂
﹁うわぁぁ⋮﹂
誤解だディアベル
!
たっつうか⋮とにかく違ぇんだ
﹁は っ
俺はた
!
?
﹂
今のは口が滑ったっつうか本音が漏れ
﹁お付き合いをしたい︵キリッ﹂
﹁シリカとは
!?
!!
!
らないでくれよクライン﹂
﹁そんな目で見るなディアベル
﹂
﹁ま、まぁ人の趣味趣向は人それぞれだからね。くれぐれも犯罪に走
!
?
ただオレの性癖がディアベルにバラされただけじゃねぇか
﹁まぁそんなことはどうでもいいだろ。早く広場に行こうぜ﹂
﹁てめぇ
﹂
!
だった。眼前の高さ3、4メートルはありそうな怪物のレリーフが彫
られた門、ボスフロアへの入り口が俺達を威圧する。しかしここに居
る の は 幾 度 も ボ ス へ の 扉 を 潜 り 抜 け 生 き 抜 い て き た 歴 戦 の 強 者 だ。
俺が見える限りでは誰も怯えてなんかいないし、寧ろ早くボスと闘い
たいと願う顔付きをした者が何人か伺える程だ。
周りが戦闘準備を終えたのを確認した団長が目の前の黒鉄門を押
すと、見た目によらず簡単にゴゴゴ⋮と低い音を立ててゆっくり開い
ていった。
59
!?!
回廊結晶で転移した先は辺りが灰青色の岩で覆われた休息エリア
!!
30秒程の時間をかけて扉が完全に開ききると、ボスフロアに不気
味な青色の炎が入り口から奥に向かって灯っていき、ボスフロア全体
を不気味に照らし、その部屋の主人の姿を露わにした。
巨人と言ってもいい程の大きさの体躯、ボディビルダーのような筋
肉、捻じ曲がった角を持つ山羊頭、1メートル程の長さの鎖が付いた
手枷と足枷、そして手に無骨な大型剣を持つ74層ボス、ザ・グリー
﹂﹂﹂
﹂
攻撃箇所は
まずC班がファーストア
ムアイズが咆哮とは思えない轟音を発したのが開戦の合図だった。
﹁全 て の 班 は 作 戦 に 則 り 位 置 取 り を 開 始
﹁﹁﹁了解
武器喪失狙いの手か膝を付かせる為の足を重点的に
タックし、ボスがC班に向いた所を残り2班が波状攻撃
!
HPは6割近く減りHPバーが黄色に変色していた。
﹂と叫ぶと
吹き飛んだノトに走り寄るとクリティカルヒットを貰ったようで、
ウンドをしながら吹き飛ぶ。
が防御に間に合わず腹に見事に一撃を貰い、手枷の鎖に弾かれ数度バ
ンはしゃがんで回避、クラディールは大剣で防御したが槍使いのノト
型剣を横一閃に薙ぎ払い。F班のタンクは盾で凌ぎ、アスナ、クライ
攻撃対象をディアベルから四人に切り替えたグリームアイズが大
し、グリームアイズの背中を攻撃。ダメージを稼ぐ。
らアスナとクラディールが、俺達B班からノトとクラインが走り出
グリームアイズが大型剣を地面から持ち上げる間の時間にA班か
F班のタンク達がC班の前に出る。
それをバックステップで回避。ディアベルが﹁スイッチ
ムアイズは大型剣をディアベル目掛けて振り下ろすがディアベルは
ファーストアタックをしたディアベルをターゲットにしたグリー
アイズにダメージを与えていく。
ベルがボスの膝にファーストアタック、それに続いてC班がグリーム
アスナの号令を聞いた各班は位置取りを開始し、C班班長のディア
!
!
!
60
!
﹁大丈夫か
﹂
﹁ノトは無事だったか
﹂
ぐ戻ってこい﹂と言って班に戻る。
メタ発言をしてしまうがなんとか立ち直り、﹁後退して回復したらす
うわぁぁまさかの新キャラの一人がドMだよキツすぎるよと一瞬
﹁逆にもう一発貰いたいくらい﹂
た顔で
ノトはグリームアイズの一撃を食らった腹を撫でながら、恍惚とし
﹁だ、大丈夫。あれくらいの痛み⋮﹂
!?
どういう意味だそりゃ
﹂
?
中で叫ぶ。
それ死亡フラグだ
﹂
﹂
俺はお前からも逃げたいんだよ
﹁⋮⋮﹂
﹁それ俺も付いて行っていいか
﹁おいやめろ
の湖の近くに小屋立てて浮きを眺める生活をするんだ⋮﹂
﹁クライン、俺、この戦いが終わったら一度前線から離れてさ、22層
﹁
﹁ある意味駄目だったな⋮﹂
!?
﹂
!
﹂
B班はH班と共に後退の
と口に出さなかった本音を心の
﹁タゲがC班のディアベルさんに移ったわ
行くぞおめぇら
支援、C班が後退し終えたら攻撃を開始してください
﹁アスナからの号令だ
!
!
!
!
!
?
!
61
??
とグリームアイズの両手首の手枷が外れたと思っ
30分後、グリームアイズのHPバーが初期の12本から5本削れ
た瞬間バキンッ
たら先程より速い薙ぎ払いでタンク隊の陣形を崩した。タンク隊の
中には防御してたにも関わらずHPが危険域の黄色に突入している
者を見て、奴の一撃は手枷が外れる前より威力を増していることが分
かる。
あのままではタンク隊が全滅するどころか奥にいるC班が危ない
と判断した俺は走るスピードを上げてグリームアイズの前に立ちは
と部屋全体に響く金属
だかり、グリームアイズの返しの刃に片手剣重単発振り上げソードス
キル﹁エア・コンタクト﹂で対抗。ガァァン
だ所を大型剣で壁に向けてスイングした。その攻撃は俺のHPバー
た眼でこちらを捕捉すると、俺を左手で掴み、地面に叩きつけ浮かん
硬直時間延長により固まってしまう。グリームアイズが殺意の篭っ
事が出来たが、俺はソードスキルの硬直時間と強制キャンセルによる
の音と火花が弾ける。グリームアイズの攻撃をタンク隊から逸らす
!!
あいつ俺に恨みでもあるの
と壁に激突した背中を叩
ヴァリエを地面に突き刺して立ち上がる。強烈な一撃で痺れた右手
を左手で揉みながら情報でしか分からなかったボスの強さを改めて
認識する。
今回のボスはHPバーが減るごとに攻撃パターンは増えない代わ
なら後半戦になればなるほどこ
りにステータスが上がるタイプか
﹁大 丈 夫 で す か コ ノ ハ さ ん
﹂
﹁悪いなシリカ﹂
今回復しますので動かないでください
援のシリカがピナを連れてこちらに走ってきた。
と思考を巡らせていると後方支
ちらの分が悪くなるのではないか
?
!
62
!
を赤になるかならないかぐらいまで減らし、俺の体は地面を転がり、
なに
!?
壁に激突した。
え
?
き、HPバーの減り方に久々に命の危機を感じながらジャッドシュ
?
?
!
﹂
﹁悪いと思うなら無茶はしないでください
﹂
﹁以後気をつける⋮ん
﹁どうしました
﹂
!
リトがいた。
!
グリームアイズは左手で懐にいるキリトを掴もうとするが、伸びた腕
HPバーが一本削れてから攻撃されたことに気付いたかのように、
まらぬスピードでグリームアイズを斬り刻んでいく。
キリトは一瞬でグリームアイズの懐に入ったかと思うと目にも留
うにするキリトだけが持つ、別称ユニークスキルだ。
エクストラスキルの一つ、
﹁二刀流﹂。両手に片手剣を装備出来るよ
リトだけはその制約から逃れる為の術を持っている。
所でステータス反映せず、ただのお荷物になるだけだが、キリトは、キ
つだ。例え装備した武器以外の武器をオブジェクト化し、手に持った
普通プレイヤーが装備できる武器の数は右手か左手のどちらに一
中に下げられたもう一つの白い剣、ダークリパルサーを抜き放つ。
そう言ってキリトはエリュシデータを持つ右手とは逆の左手で背
﹁グリームアイズ⋮俺は最高に最低に最悪に切れたよ⋮﹂
敵を殲滅する事だけを意識したような冷たい顔があった。
の顔にはいつもの笑顔や攻略時に見せる真剣な顔ではなく、目の前の
カツンと二歩目を出した時に俯いていたキリトの顔が上がる。そ
静かになったボスフロアにカツンとキリトの足音だけが鳴り響く。
かのように動かない。
ンピュータープログラムであるグリームアイズですら時が止まった
キリトが放つ雰囲気に俺達だけでなくこの場にいるプレイヤー、コ
ずにそれを見ている。
トの雰囲気が妙に怖く声が出なかった。隣にいるシリカも何も言わ
なにボスに単独で挑んでんだ
と叫ぼうとしたが、俯いているキリ
俺とシリカの視線の先にはグリームアイズと1対1で対峙するキ
?
からキリトはグリームアイズの頭まで駆け上がり、頭の天辺からグ
63
?
リームアイズの背後にジャンプし、うなじから足首まで流れるように
斬り裂きなから着地した。
HPバーが残り2本になると足枷も外れたが、そんなの知るかと言
わんばかりにキリトは足枷の外れた足に重単発ソードスキル﹁ヴォー
パル・ストライク﹂を叩き込み、グリームアイズに膝を付かせると俺
が知る限り最も攻撃回数が多いソードスキル﹁ジ・イクリプス﹂を放
ち、2本あった、俺達を苦しめたグリームアイズのHPを0にし、グ
リームアイズはパリン⋮とその巨体に似合わないくらい控えめの音
64
を立てて消えた。
⋮もうキリト一人でも下手したらやれたんじゃね
?
e p i s o d e 9 ア ル ゴ﹁オ レ っ ち は 情 報 屋 ダ ゾ
﹂
グリームアイズを討伐した翌日、転送門がアクティベートされた7
5層主街地、コリニアは最前線の街を見るためにやって来た各層のプ
レイヤー達で道路は埋まり、店の中には行列が出来、宿屋は空きが無
くなるほど賑わっていた。
俺とキリトはアルゴに呼ばれ、道行くプレイヤーを押し退けコリニ
ア中央にある闘技場に来たのだが、辺りを見渡しても肝心のアルゴの
姿が見えない。
﹂
﹂
﹁アルゴはどこだー
﹁ここにいるゾー
!
いた。
﹁俺達に何の用事があるんだ
﹂
﹂
﹁ン∼、今回は用事もあるけど報告の方が先かナ
﹂
﹂
ディアベルと結婚でもするのか
なんだ
?
﹁あれってなんだ
﹂
にしようとベル坊から話を持ちかけられたんダ﹂
﹁今まできっかけがなくする機会がなかったアレを、75層解放記念
恨の一撃を返されアルゴに一瞬で屈した男がいた。というか俺だ。
偶にはいつも仕返しをしようと冗談を言ったら手痛いどころか痛
告をお願いします﹂
﹁すみませんアルゴ様無駄口を叩いた私が悪うございましたどうぞ報
﹁キー坊、コノノンと結婚したいと思わないカ
﹁報告
?
?
観客席を見ると、アルゴとディアベルが並んでこちらに歩いてきて
!
?
?
?
?
65
?
ソードアート・トーナメント
﹂
﹁剣 技 大 会だよ﹂
﹁それ本当か
前々からやらないかなぁって言ってたもんな。
﹁けど前ルールと景品の見直しで当分先だって言ってなかったか
?
﹂
?
﹂
?
﹂
討伐クエストだナ﹂
?
がある﹂
﹂
﹁遠足が楽しみな小学生か
﹂
﹁分かるよその気持ち。俺も剣技大会あると知ったら寝られない自信
﹁子供か
なくなった後だったんだ﹂
大会の件で興奮して寝るのが遅かったせいで起きたのがみんながい
﹁本当ならギルドメンバーとクリアしようと思ってたけど、昨夜剣技
﹁ディアベルがいるのは闘技場解放のクエストを一緒にする為か
﹂
﹁一つ目は闘技場解放クエスト、もう一つはクリア報酬が分からない
﹁内容は
二つのクエストを一緒にして欲しいんダ﹂
﹁やっぱコノノンは勘がいいナァ。面倒かは何とも言えないが今回は
うせめんどくさい事なんだろ
﹁俺にとっては不評だったがな。で、報告は聞いた。後は用事だが、ど
﹁酷いナァコノノン。前回も好評だったロ
﹁そうなのか。ディアベルが準備するなら前回よりはマシになるか﹂
﹁そこは提案したオレが解決したから安心してくれ﹂
﹂
ア ル ゴ の 代 わ り に デ ィ ア ベ ル が 言 う と キ リ ト が 話 に 食 い つ く。
!?
パーティ申請頼んダ﹂
人 で 闘 技 場 の 支 配 人 に 話 し か け て 始 ま る か ら ナ。そ れ じ ゃ ベ ル 坊、
﹁コノノン達を呼んだのは闘技場解放クエストがパーティを組んだ4
んだんだ﹂
﹁それでどうしようか悩んでた時にアルゴが偶々通りかかったから頼
!
66
?
!
ディアベルのパーティに加入し、俺達は闘技場の実況室のような場
所で支配人からクエスト﹁剣華乱るる闘技場﹂を受けた。
内容は﹁夜な夜な闘技場に現れて暴れる二匹のモンスターを倒して
欲しい﹂と言ったもの。
それともキャンセルして
メニューの端のデジタル時計は午前11時、夜と呼ぶにはまだまだ
﹂
適当に暇潰ししながら待つか
早い時間だ。
﹁どうする
もう一つのクエストするか
﹁一緒にクエストしないのか
﹂
﹁構わないさ。じゃあ午後5時に闘技場入り口で集合としよう﹂
をして貰おうかナ﹂
﹁ベル坊には悪いけど、一回クエストキャンセルしてオレっちの依頼
?
組じゃないと受けれないクエストなんだヨ﹂
﹁じゃあ尚更ディアベルがいた方がよくないか
﹁なるほど﹂
討伐クエストだとオレっちは戦力外だからナ﹂
﹂
﹁オレっちは徹頭徹尾サポートしか出来ないってのは前も言ったロ
?
された赤の絨毯が奥にある二階へ続く大階段まで敷かれ、壁には絵画
どころか埃すら一つもなく、大理石のような床には金色の刺繍で装飾
なぁと予想していたのだが、ホールと思われる広い部屋には蜘蛛の巣
外観がボロかったため中も蜘蛛の巣が張っていたりするんだろう
俺達は格子門をくぐり、洋館の扉を開け中に入った。
ギィ音を立てている様は正しくボロいを冠するにふさわしかった。
窓ガラスは中が見えないほど擦れ、壁には蔦が這い、格子門がギィ
内で街外れの森の中にあったボロい洋館にやってきた。
を探検でもしてくるよ﹂と闘技場から去り、俺とキリトはアルゴの案
パーティ解散の通知後、ディアベルは﹁それじゃあオレはコリニア
?
﹁ベル坊には先に話したんだが、実はこれから受けるクエストは2人
?
や高そうな皿などの装飾品、剣や槍といった武器が飾られ、天井には
67
?
?
3メートルはありそうなシャンデリアがぶら下がっているといった
超豪華な仕様だった。正直度肝を抜かれた。
﹂
﹁まぁコノハ、いつもアルゴには世話になってるし偶には、な
﹁ぐ⋮わかったわかった受けますよ受ければいいんだろ﹂
﹂
﹁コノハ、妻には敵わズ⋮﹂
﹁誰が誰の妻だ
﹁⋮結局俺達は何をすればいいんだ
﹂
かかって待ち続けたが何も起きなかった。
俺とキリトは何かあるんだろと俺は地べたに座り、キリトは壁に寄り
執事は﹁ではよろしくお願いします﹂とお辞儀して部屋を出ていき、
場所だった。
くらいか。上の階の豪奢な雰囲気とは真逆で、とても寂しい雰囲気の
中は酷くこざっぱりした物置で、目立つ物は壁際に置かれた全身鏡
く階段を下り、木でできた黒色の扉の部屋に入った。
い﹂と何も説明を受けずに執事の案内で、大階段の裏にある地下に続
クエスト﹁怨霊の呻き﹂を受けた俺とキリトは﹁付いてきてくださ
﹂
ホールの真ん中に立っている執事の格好をした白髪の男にアルゴ
何か事前情報とかないの
が指をさして﹁あいつからクエスト受けてくレ﹂と言う。
﹁え
﹂
﹁オレっちは情報屋ダゾ
﹂
﹁てことは何かあるのか
﹂
!?
﹁報酬は弾ませてもらうからサァ。頼むヨコノノン、キー坊﹂
﹁俺達思いっきり使いっ走りじゃねぇか
﹁今から仕入れるに決まってるじゃないカ﹂
?
クエスト詳細を見る為に指を動かしているとキリトが隣に座り、顔
﹁そうだな﹂
﹁クエスト詳細を見れば何かわかるかもしれないし見てみよう﹂
?
68
?
!
?
?
?
を寄せて俺のメインメニューを見る。
﹂
?
﹂
﹁なんで俺のメインメニューを見てるんだ
﹂
﹁クエスト詳細を見る為だろ
﹁自分のを見ろよ
?
あれ
もしかしてわざとじゃなくて天然で言ってた
と寝転がりながら考えているとキリトが突然立ち上がった。
ていない。鏡以外に見当たる物はないし、何か発生条件でもあるのか
屋に入ってから15分くらい経つが呻き声は聞こえないし何も起き
気味なので呻き声を上げる何かを倒して欲しいとのことだが、この部
部屋に入らなければいいだけなのだが時折呻き声が聞こえるのは不
こえた主人がこの部屋に入ると黒い何かに襲われて怪我した。以降
クエスト﹁怨霊の呻き﹂の詳細によると、この部屋から呻き声が聞
?
と言って俺のメインメニューから目を離し自分のを操作し始めた。
﹁⋮そういえばパーティメンバーもクエスト詳細見れるんだったな﹂
何を言ってるんだと言いたいような顔をした後、
!?
キリトが全身鏡の前に立つとそこにキリトが写った。写っている
のだが、鏡の中のキリトは少し髪が長く、女性のような雰囲気を出し
ていた。というか女性だった。
そのまま鏡に手を伸ばすと鏡の中のキリトも手を伸ばし、触れ合っ
た場所が水のように鏡の表面が揺れる。なるほど、この鏡が鍵だった
69
?
﹁まさか⋮﹂
?
のか。
﹁コノハも触ってみろよ。不思議な感覚だぜ﹂
キリトが横にずれ、ほらほらと勧める。
﹁お前どうせ鏡に写った俺を見たいだけだろ﹂
﹁ソンナワケナイダロ﹂
ちょっとだけでいいから
﹂
﹁後ろに持ってる記録結晶寄越せ。ほら、さっさと行くぞ﹂
﹁ちょっと
んだな﹂
﹁コノハが女になると怖可愛い近所のヤンキー姉ちゃんみたいになる
いた状態でここにいるということはつまり⋮。
掲げて立つ、先程鏡に映っていたキリトがいた。キリトが鏡に映って
後ろを振り返ると、そこには右手にエリュシデータ、左手に松明を
﹁そうみたいだ⋮な⋮﹂
﹁これ暗いんじゃなくてただ黒いだけみたいだな﹂
黒い空間は黒いままだった。
怖いので物は試しでメインメニューを開き松明を出して火を灯すも、
どこが天井なのかも分からない、真っ黒な世界。この状態で動くのも
鏡の中は黒で塗りつぶされた空間が広がっていた。どこが地面で
俺はキリトを無視して鏡の中に入る。
!
なんだあれ
﹂
﹁︵そう言われたら自分の姿見たくなってきた︶﹂
﹁⋮ん
?
ると黒い空間に一際黒いゼリーのような物体が2つ、宇宙空間に浮か
70
!
キリトがエリュシデータの剣先で指す方向を目を凝らして見てみ
?
ぶ水のように楕円と円の形を往復していた。それはやがて縦長にな
り、縦長から人の形になり色がつく。黒いゼリーのような物体は俺と
キリトと同じ装備をした女の俺とキリトになった。確かに女の俺は
大きな吊り目、黒のミディアムヘアーに髪留めという怖可愛い近所の
ヤンキー姉ちゃんと称されても納得できる見た目だった。
﹁なぁキリト、もしかしなくてもさ﹂
﹁あれが相手だな﹂
自分とは言え、見た目女の子の奴を斬るのはちょっと躊躇するなぁ
﹂
混戦状態になったら見分
と思っていると敵の俺とキリトの後ろから黒いゼリーのような物体
どうするんだ
が幾つも現れ、全てが俺とキリトになる。
﹁コノハがいっぱいだ﹂
﹂
﹁あれ見て第一声がそれか
けがつかないぞ
﹁あ⋮﹂
その考えはなかった。
40分後。
た。
71
!?
俺とキリトは一向に減らない自分との戦いにもう嫌気がさしてい
?
!?
﹁自分だけを相手にすれば特に問題なくないか
!?
﹁なぁキリト⋮これいつになったら終わるんだ⋮
﹂
ちょっと此処から出れるか試すか
﹁出れないだろうなぁ⋮﹂
ぞ⋮。あー腹立たしい
﹂
﹁そうだったらこいつらを倒す事がクリア条件じゃないって事になる
﹁もしかしてだけど、これ無限湧きかもしれないな⋮﹂
的疲労がもうやばい。
いう精神的疲労と長い時間休むことなく剣を振り続けるという肉体
1体1体はそこまで強くないのだが、どれだけ倒しても出てくると
?
と俺はキリ
!
渡すが全身鏡以外になにも見当たらない。
もしかしてこの全身鏡があいつらの正体なのでは
ふと浮かび、俺はもう一度全身鏡の中に入りキリトを呼ぶ。
この鏡を叩き割る
!
﹂
外に出れるから外に出ろ
わかった
﹁おいキリト
﹁ほんとか
﹂
という仮説が
るって事はあいつらを倒す方法が外にあるんじゃないかと辺りを見
トと出てきた鏡に肩から突進してみるとすんなり外に出れた。出れ
つらの相手以外の方法を試さないとやってられないわ
こういう場所は大体クリアするまで出れないとかあるがもうこい
!
!
?
﹂
で気絶させ、それを担いでこっちに来た。っておい
﹁なんで持ってきてんだ
﹁鏡の外に出しても消えないかなぁって⋮﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
!?
!?
!
﹁いやそういうことじゃなくて俺でなにをするつもりだ
﹁抱き枕⋮
﹁置いてけぇぇ
﹁俺は⋮風になる⋮
!
!!
72
!
!
!
キリトは襲いかかっていた敵の俺の剣を弾き飛ばし、ボディブロー
!?
?
﹁無駄に速ぇぇ
﹂
キリトの人知を超えた動きに撹乱され、敵の俺が鏡の外に出てし
まったが、全身鏡を叩き割ると形が崩れ消え去ったのでよしとする。
﹁おら、さっさとクリア報告しに行くぞ﹂
﹁⋮あぁ⋮﹂
意気消沈したキリトを連れて一階に上がり、執事にクリア報告をす
るとクリア報酬にルビーの指輪とサファイアの指輪を貰ったが、効果
﹂と切れた。
を見る前にアルゴにクリアしたことと多分1回きりのクエストであ
ることを言ったら﹁またカァ
﹄
?
昨日徹夜して眠いから切っていい
﹁リズ、良い物が手に入った﹂
﹃キリトぉ⋮
!
﹃ハリーハリー
﹄
﹁コノハ女性verの姿が映ってる記録結晶なんだけど﹂
?
73
!!
!!
e p i s o d e 1 0 キ バ オ ウ﹁こ ん な ん チ ー ト や
﹂
﹁怨霊の呻き﹂の詳細をアルゴに話し終え、闘技場解放クエストまでま
だまだ時間があった俺達は成功報酬の指輪の効果を確かめた。
ルビーの指輪は純愛の指輪、サファイアは誠実の指輪という名前
で、純愛の指輪の効果は誠実の指輪の装備したプレイヤーが近くにい
る時全てのステータスが上がり、誠実の指輪の効果は純愛の指輪を装
備したプレイヤーの元に任意で転移出来るといった、2人が装備して
意味を為す物だった。効果を読んだ時にキリトの隣にいるアルゴが
すごいニヤニヤしててうざかった。
後で家で装備してどれくらいステ上昇す
﹁折角手に入ったレアアイテムなんダ、装備しろヨ﹂
﹁別に今じゃなくて良くね
るか確認するし﹂
﹂
﹁⋮
﹂
指輪って左手の薬指につける物だろ﹂
﹁それは結婚指輪
だから指輪を薬指にはめようとするな
﹁間違ってないナ﹂
﹁大間違いだ
ったく⋮指輪って腕装備だよな﹂
﹁つまり
﹁﹁はぁ
﹂
﹂
俺達プレイヤーが装備品を装備する時は、ただオブジェクト化した
俺とアルゴは同時にありえないと言った声をあげた。
装備するから
﹁な ん で お 前 は 左 薬 指 に は め て て 俺 の 左 薬 指 に は め よ う と し て く る
﹁暇なんだから今確認してもいいじゃないか﹂
?
﹁多分これ、指にはめるだけで装備扱いになるぞ﹂
待て
!!
﹁装備スロットを消費しない装備って事だな﹂
?
!?
!
!!
?
!
74
!
!?
装備品を持っても装備した事にはならない。メインメニューにある
装備メニュー欄の装備スロットにセットしなければならない。そし
て装備スロットは1つの部位に1つしか装備出来ないのがこのゲー
ムの基本だ。つまり装備スロットを消費しない装備とは某ゲームで
言うインドメタシンなどのステータス上昇アイテム、いや消費しない
分それの上位互換だ。限定的とはいえデメリットのないステ上昇と
転移結晶になるこれがそうだとは思えない。
疑いの目をキリトに向けて根拠を訪ねる。
﹁なんでそう言えるんだよ﹂
﹁これ、アイテム欄に表示されてても装備メニュー欄にはないんだ。
ということは普通の装備アイテムと同じように装備出来ないだろ
それでもしかしたら指にはめたらそれで装備したことになるんじゃ
ないかって仮説。効果を発揮する条件を満たさないとあってるか分
からないけど﹂
キリトが誠実の指輪をはめた手をぐっぱしながら言う。
純愛の指輪を仕舞い、メインメニューから確かめると、キリトの言
﹂
こんなにもコノハを想っているの
!?
くるだろ﹂
﹁そんなことしない事もなくもなくなくなくなくなくないかな﹂
75
?
う通り、アイテム欄には純愛の指輪があるのに装備メニュー欄のどの
部位にも純愛の指輪はなかった。
﹂
あとまだってなんだまだって
﹁じゃあはめて試すか。とりあえずキリト、指輪交換しろ﹂
﹂
﹁俺は誠実じゃないって言うのか
に
!?
﹁まだ結婚式じゃないゾ
﹂
﹁そういう意味で言ってねぇよ
﹁なんで交換するんだ
!?
?
﹁お前に誠実の指輪を持たせたくないから﹂
?
﹁どうせお前の事だ、俺がちょっとの用事でどっか行っても転移して
!
﹁はいアウト﹂
﹁あぁ∼⋮﹂
と後ろを見るとアスナが当然のように
キリトの指から誠実の指輪を没収すると、トントンと後ろから肩を
叩かれた。
後から来たプレイヤーか
立っていて、いい笑顔で手を出して、
﹁その指輪はわたしが預かるわ﹂
﹁お前はなくても転移してるじゃねぇか﹂
﹁おっと、危ないゾキー坊﹂
絶対に必要のない奴No1の奴に渡す意味が分かんねぇよ。あと
キリトを見ろ。お前に指輪が渡った時の事を想像したのか顔が青く
なってふらついたぞ。
﹁け ど よ く こ こ に 俺 達 が い る 事 が 分 か っ た な。誰 か か ら 聞 い た の か
﹂
しっかりしロ
﹁その理由は
﹂
立ったまま気絶とか器用過ぎるゾ
﹂
所に行けるアイテムを渡したら確実に団長の胃が死ぬから。2つ目、
﹂
メリットしかないオンリーアイテムを渡すのは惜しいから。3つ目
は⋮﹂
﹁3つ目は
﹂﹂
﹂
! !?
せてもらうゾ
﹂
﹁これはアルゴ新聞に載る程のニュースダナ⋮。オレっちは先に帰ら
﹁キリトとアルゴうるせぇぞ
﹁﹁コノハがデレた︵ダト︶
﹁不本意だが、キリトが可哀想だからだ﹂
?
!
76
?
﹁3つあるな。1つ目、血盟騎士団の仕事から逃げ出しつつキリトの
?
!
たから﹂
﹁キー坊
!
﹁⋮そうか。で、指輪だが、お前にはあげれないな﹂
!
﹁この階層に来たらなんとなくキリト君がこっちにいるような気がし
?
﹂
﹂
キリト君、一緒に頑
何しに帰るか知らないがディアベルの件はどうするんだ
﹂
あれ4人じゃないと受けれないんだろ
﹁おい待て
よ
﹁アーちゃんに任せタ
﹁確かに戦力的には問題ないな﹂
﹂
流石にアスナは置いていかないでくれ
﹁特に何をするのか分からないけど任されたわ
張りましょうね
﹁待ってくれアルゴ
?
﹁⋮
﹂
なるほどね﹂
ろって言葉知ってるか
﹂
﹁ど っ ち も 違 う か ら 剣 を 抜 く な
こと
﹁わたしに死ねって言ってるの
それともキリト君を独占したいって
﹁じゃあ偶にはキリトに付きまとうのやめろよ﹂
﹁今更何を言ってるのよ。疑問の余地もなく好きよ﹂
﹁なぁアスナ、お前キリトが好きなんだよな
﹂
俺はアスナに近づきキリトに聞こえないように小声で話しかける。
消え、キリトは膝から崩れ落ちた。
キリトの泣き言に聞く耳を持たず、アルゴは砂煙をあげて森の奥へ
!
!?
!
ア ス ナ、押 し て 駄 目 な ら 引 い て み
?
﹂
!
て行き頭をハリセンで叩く。
俺は﹁タンマ﹂と言ってアスナをキリトから少し離れた場所に連れ
馬鹿みたいにテンプレツンデレの台詞を吐いた。
いでよね
﹁べ、別にアンタの事なんて好きでも何でもないんだから、勘違いしな
で何を考えてか、
アスナは膝をついているキリトの肩を叩き、キリトが顔を向けた所
?
!
?
77
!
!
!
!
!?
!
﹁痛っ
言う通りに引いてみたじゃない
﹂
!
いきなりのツンデレにキリトが﹁
﹂
﹂
﹂って頭の上に疑問符浮かべ
?
たんだろ
なんでいつもみたいに構ってこないんだろう
あれ、俺あ
?
しょ
﹂
﹁なんで分かっててあの行動に辿り着いた
﹄って思わせることで
﹂
﹂
!
﹂
?
﹁ステータス上がったか
﹁全部1割上昇したな﹂
﹂
輪を渡し、誠実の指輪をはめる。
の実験するからステータス画面見てろよ﹂と言ってキリトに純愛の指
努力の方向性が違わないように祈りながら俺は﹁おいキリト、指輪
﹁頑張るわ﹂
チャイチャするの、どっちがいい
﹁今 キ リ ト に 付 き ま と っ て 恋 人 に な れ な い の と 恋 人 に な っ て か ら イ
﹁キリト君が近くにいるのにそれは拷問よ
﹁いつものような過剰なスキンシップを控えるだけでいいんだよ﹂
﹁実際にしてみると難しいのよ﹂
?
!?
もしかして俺はあいつのことが好きなのか
い つ の 事 な ん て 好 き で も な ん で も な い の に 今 す ご く 気 に な っ て る。
?
﹁いつもはすごく構ってるのに急によそよそしくすることで﹃どうし
﹁お前ちゃんと押して駄目なら引いてみろって意味理解してるか
﹁むぅ⋮﹂
てるじゃねぇか
よ
﹁扉を引けって言ってるのにドアノブだけを引きちぎるくらいちげぇ
!
?
﹁じゃあ次は俺の番だな⋮﹂
割上昇。中々にバランスブレイカーな装備だな。
ない装備なのか。しかも純愛の指輪の上昇値が特定数値じゃなく1
ということはキリトの仮説通り、この指輪は装備スロットを消費し
?
78
?
!
!?
﹁どうしたんだコノハ
﹂
﹁これどうやって転移するんだ
﹂
﹂
﹁いつも転移する時みたいに言えばいいんじゃないか
﹁まぁ試すか。転移、キリト
﹂
いつもの転移するノリで転移先であるキリトの名前を指輪をはめ
てる手を上げて言ってみたが、指輪はうんともすんとも言わない。な
んか無駄にカッコつけてしまって恥ずかしかった。
﹂
﹁これ本当に転移出来んのか
﹂と叫ぶと転移結晶を使用した時のような光が
﹁時間までまだあるし、そうするか﹂
﹁それはまた今度にして、わたしコリニアの街を観光したいわ﹂
らいから転移が出来るかだな﹂
出来るってのは分かったな。後は結晶無効化空間で使えるか、どのく
﹁同じ層での転移、コリニアからあの洋館までの距離約2キロは転移
﹁ちゃんと転移出来たな﹂
移した。
りするコリニアの門の前、キリトから約1メートルほどのところに転
足元から全身を包み込み、光が消えた頃には大勢のプレイヤーが出入
認し、
﹁転移、キリト
20分後、キリトからコリニアに着いたとメッセージが来たのを確
戻ってもらった。
どのくらいの距離なら転移出来るか試す為に二人にはコリニアに
﹂
﹁距離の問題じゃないかしら
?
﹁そうかもしれないな﹂
?
79
!
?
?
?
!
訪れるデレ期
その頃アルゴは、
﹁﹃正妻戦争決着
﹄⋮なんか違うナァ﹂
!!
明日のアルゴ新聞の目玉記事のタイトルを考えていた。
80
!?
e p i s o d e 1 1 デ ィ ア ベ ル﹁頑 張 る ぞ み ん な
﹂
コリニアの観光で暇を潰した後、俺逹は約束の時間である5時の1
0分前に闘技場にやってきた。
﹂
入り口にあるベンチに座っていたディアベルは俺逹を見ると﹁あれ
﹂と首を傾げた。
﹁アルゴはどうしたんだい
﹂
?
トをやるんです﹂
﹁事前情報は何かありますか
﹂
﹁オレ逹は今から4人パーティでしか受けられない闘技場解放クエス
﹁ディアベルさん、わたし達は今から何をするんですか
﹁なんか知らないけど帰った。代わりにアスナが入ったから﹂
?
俺の提案に﹁どうしてかしら
﹂と射抜くような眼光のアスナが聞
﹁俺とディアベル、アスナとキリトでいいと思うぞ﹂
でそれを分断させて相手にしましょう。後は誰と誰が組むかですが﹂
﹁わたしもそう思います。恐らく敵は二体同時に現れると思いますの
にしてたら背後から攻撃される可能性がありますし﹂
﹁オレは二人で一体を相手にするのがいいと思うな。一体だけを相手
かしか決める事はないんですが﹂
二人で一体相手するか全員で一体を相手にしていくかどっちにする
﹁そうですか。なら作戦を事前に立てておきましょう。とは言っても
﹁残念ながら、二体のモンスターが夜に出るくらいしかないですね﹂
?
﹁アスナとキリトは普段の攻略の時から連携取ったりしてるが、ディ
と言ったところか。普段からそうしていればいいのに⋮。
いたが、クエストやボス攻略の時は私情を挟まないとは流石は副団長
いてくる。キリトとペアを組めるんだから文句ないだろうと思って
?
81
!
?
アベルとは取ったことないだろ
俺は何度も連携を取ったことある
し自然とこの組み合わせになるんだ﹂
﹁なるほどね。ならそれでいきましょう﹂
﹂
﹁それじゃあオレがパーティ申請するからみんなOk押してくれ。C
ancelは押さないでくれよ
全員が振りだと思ってCancelを押したのは仕方ないと思う。
クエストを受けて闘技場の中心で待つこと30分、午後6時を知ら
せる鐘の音が鳴り、闘技場のライトが点灯するのと同時に空から二つ
の物体が闘技場の司会席前に砂煙を上げて落ちてきた。
煙 が 晴 れ る と そ こ に は 棍 棒 を 背 負 っ た 赤 色 の 馬 頭 鬼 と 刺 股 を 背
負った青色の牛頭鬼が己の肉体美をマッスルポーズでこれでもかと
俺逹に見せつけていた。あれが闘技場で暴れていたモンスターで間
違いないだろう。
﹁わたしとキリト君は赤色をやるわ﹂
﹁離れて
﹂
﹂
アスナ、キリトが右側へ走るのを見て俺、ディアベルは反対の左側
82
?
?
﹁じゃあ俺とディアベルは青色か﹂
頑張ろう
﹁みんな
!
肉体美を見せ終えた二体は得物を抜きこちらに向かって走り出す。
﹂
﹁来るぞ
!
!
!!
へ走ると牛頭鬼、馬頭鬼も左右に分かれて俺逹を追いかける。ここで
二体が別れなかったらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていたがクリ
ア出来てよかった。
ある程度キリト達と距離を取った俺とディアベルは反転して足を
止めると律儀に向こうも足を止めてくれたので改めてステータスと
見た目を確認する。
﹃ブルー・カウヘッドデーモン﹄と見た目通りの名前にHPバーは2本
と少なめ。全長3メートルあるかないか、左目に黒色の眼帯、背中に
刺股を背負う為の金属製のベルトを斜め掛けし、腰にはひょうたんが
ぶら下がっている。刺股は本来捕らえる為の物だが馬頭鬼がこちら
に狙いを定めている刺股は殺傷性を持たせる為にU字の部分に鋭い
棘が付けられ、反対部分には丸い鉄球が鈍く光っていた。
﹁オレが挑発して攻撃を誘発させるから、コノハは隙を付いて攻撃し
しっかりと着地しHPがそこまで減ってない事を横目で見た俺の
頭の中に謎が浮かんだ。ディアベルの挑発で少しの間ディアベルに
83
てほしい﹂
﹁わかった。気をつけろよ﹂
ディアベルが牛頭鬼に向かってエクストラスキル﹁挑発﹂をすると、
牛頭鬼の青い顔が怒りの赤染まっていき怒号をあげる。
怒り狂った事を確かめたディアベルは牛頭鬼との距離を詰め、俺は
それを後から追いかける。牛頭鬼が刺股を振り下ろし、ディアベルが
ラージシールドで受け止めた瞬間に牛頭鬼の足元に入り、水平四連撃
﹂
ソードスキル﹁ホリゾンタル・スクエア﹂を
﹁横から鉄球来てるぞ
と鉄球が当たり、体が地面から浮かび
!
上がる。浮かび上がった体は二発目の左手攻撃で吹き飛ばされた。
左手の盾を構えるとガァァン
放つ直前にディアベルの警告を受け、ソードスキルの発動を止めて
!!
攻撃が集中する筈なのに俺は何故攻撃されたのか。もしかして挑発
の効かないモンスターなのかと考えたが挑発した時のあの反応はど
いや、それでも二度目の
う考えても挑発にかかった時のそれだ。それともディアベルへの攻
撃の中に偶々足元まで攻撃する物があった
﹁行け
﹂
﹂
﹁エア・コンタクト﹂で刺股を上に弾いて無防備な状態を作る。
ノッ ク バッ ク
と共に捌き、最後の突き攻撃に合わせて重単発振り上げソードスキル
ちょっと残念に思いながら刺股と鉄球による多段攻撃をディアベル
ということはディアベルの挑発によるタゲ絞りは不可能なのかと
﹁なるほど﹂
﹁どうやらこいつは狂化耐性が高いようで、すぐに挑発が切れたんだ﹂
か分かるか
﹁ディアベルの挑発がかかった筈なのに俺に攻撃してきたのはなんで
ル﹂で横に飛ばし、ディアベルに話しかける。
アベルを上から潰そうとする刺股を単発ソードスキル﹁ホリゾンタ
全く攻撃パターンが分からないまま攻撃するのは危険に感じ、ディ
左手攻撃は明らかに俺を狙った攻撃だった。
?
ら隙の少ないソードスキルを連続で繋げ撃つ。HPが少ないのか、そ
れとも防御力が低いのか、HPバーは4割減少し、牛頭鬼は苦しみの
鳴き声を漏らしながら仰け反った。
それを好機と見て俺は硬直状態の解放から間髪入れずに、動けない
ディアベルの横を通り抜け牛頭鬼の首に飛び込みジャッドシュヴァ
リエを突き立て、そのまま水平に回転二連撃を叩き込み後方に下がっ
ているディアベルの隣まで離脱。
ソードスキルを使用しなかったが、クリティカルヒットや部位ボー
ナスによるダメージ増加などの恩恵でHPバーはみるみる減ってい
84
?
俺の合図でディアベルが牛頭鬼の懐に滑り込み雄叫びを上げなが
!
﹂
﹂
き、1本目のHPバーが消失した。
﹁ナイス
﹁このまま削り切るぞ⋮
ジャッドシュヴァリエを構え直した時、俺とディアベルは信じられ
ない光景を見た。
牛頭鬼が腰のひょうたんの中身を飲むと消失した筈のHPバーが
半分の状態で復活したのだ。
それだけでも十分最悪なのに在ろう事か刺股の先にひょうたんの
中身をかけ、火を付けて更に殺傷性を上げてきた。
﹂
﹁ただのクエストモンスターがHP回復ギミックと属性付与はずるく
ねぇか
牛頭鬼は一番ダメージを与えた俺に炎の刺股で縦、横、縦と隙のな
い攻撃を仕掛ける。それを盾で受け止めたり流したりするが、俺の盾
はディアベルのようにガード率重視の大きな盾ではなく軽さと受け
流し易さを重視しているバックラーと言ってもいい物である為炎に
﹂
よる貫通ダメージがHPをジリジリ削る。
﹁こっちだ
盾で受け流すにも盾を装備しているのは左手、体を捻って盾で受け
だ。
ていたディアベルではなく、回復手段を潰した後ろの俺だったよう
ると予測していたが、牛頭鬼のAIが攻撃対象にしたのは視界に映っ
狂化からの復帰後、視界に映っているディアベルにそのまま攻撃す
から炎が避けきれない程の距離に迫っていた。
つけて壊す。これでもう回復は出来ないだろうと振り返ると右方向
を斬り落として奪い取り、股下を潜り抜けてひょうたんを地面に叩き
ディアベルの挑発にかかって出来た隙に牛頭鬼の腰のひょうたん
!
85
!?
!
!?
流 す か 受 け 止 め る に し て も 届 く 前 に 俺 の 体 に 届 く と 瞬 時 に 判 断 し、
ジャッドシュヴァリエで受け流しの構えを取るが、それは悪手だっ
た。刺股のU字部分の先端の折り返し部分にジャッドシュヴァリエ
が引っかかり、山形を描いて背後へ飛んで行ってしまったのだ。
武 器 の な い プ レ イ ヤ ー な ぞ 即 捻 り 潰 し て や る と 言 っ た 顔 で 振 り
﹂
切った刺股を上に持ち上げ、炎とは別の赤色の光、ソードスキルの光
が灯る。
﹁ハァァァ
ソードスキルの準備硬直で動けない牛頭鬼に、ラージシールドを外
して重量を減らし、牛頭鬼の頭部に及ぶ程跳躍したディアベルのソー
ドスキルが刺股に当たってソードスキルが相殺され、強制ソードスキ
ル中断による硬直時間に入り、ディアベルは地面にぐしゃっと落ち
た。
ディアベルが折角作ってくれたこのチャンス、無駄にしたくないの
﹂とキリトの声が聞こえた後ろへ顔を向けると緑色の物
だが武器のない今どうやって攻撃すべきか、と考えていると﹁こっち
向けコノハ
体が飛来、手を伸ばしてキャッチしたそれは牛頭鬼によって吹き飛ば
されたジャッドシュヴァリエだった。
﹂
﹁援護頼む
よりやや上に当てることで衝撃を与え、牛頭鬼の体制を崩し攻撃を無
﹁ヴォーパル・ストライク﹂を牛頭鬼の体に巻かれた金属ベルトの中心
が炎の刺股を突き出すが俺がスイッチ気味に重単発ソードスキル
大ダメージの代償に長めの硬直時間を受けているキリトに牛頭鬼
描き、HPを大幅に削る。
二刀流上下八連撃﹁ウルファング﹂が牛頭鬼の身体を縦に赤い軌跡を
鬼の顎を一瞬で打ち抜き、続けて背中からダークリパルサーを抜いて
キリトは俺を追い抜き片手剣上段突進技﹁ソニックリープ﹂で牛頭
﹂
﹁わかった
!
86
!!
!
!
理矢理中断させる。後ろから硬直時間が終了したキリトが即座に俺
と同じように金属ベルトに剣先を突き立て、倒れかかっていた牛頭鬼
の体を更に押し出し牛頭鬼に尻餅を着かせた。
俺とキリトは低い位置になった牛頭鬼の頭を同時に貫き、HPが0
になった牛頭鬼は爆散、クエストはやや危なかったが無事クリアし
た。
87
extra3 コノハ﹁休日2﹂
︻クラインの休日︼
第3層にある村の公園で、クラインは休日に必ずする幼女ウォッチ
ングをしていた。
なぜ第3層かと問われれば、最も幼女が多い場所がここだという情
報をアルゴから買ったからだ。この時のアルゴの﹁こいつは救いよう
ねぇナ﹂と言いたげな視線はクラインに新たな属性を与えかけた程恐
ろしかったとクラインは語る。
幼女の比率が高い事を確認したクラインはすぐさま住んでいた5
5 層 の 家 を 売 却、3 層 に 住 居 を 移 し、こ う し て 結 構 な 頻 度 で 幼 女
ウォッチングをしている。
ろを見てみると、そこには水色の髪の女が武装した男三人に囲まれて
いた。
﹁いいじゃねぇか、お茶くらい付き合ってくれてもよぉ﹂
どうやらタチの悪いナンパのようだ。囲まれている女の人にはわ
りぃが折角の休日に厄介事に首突っ込みたくねぇしここは圏内だか
﹂
ら死ぬことはないだろとスルーして幼女ウォッチングを再開しよう
と体を元に戻す直前、
﹁あーにゃおねえちゃんからはなれろー
88
﹁︵幼女はやっぱ最高だな。穢れを知らない無垢な笑顔は見てるだけ
で癒される。世界中の争い事はぜってぇ幼女で全て終わるな︶﹂
あの金髪の子と赤髪の子とお近づきになりたいなぁと公園で遊ん
﹂と女性の嫌が
でいる子供達を眺めていると﹁ど、どいてください
!
と体を捻って後
る声が後ろから聞こえたクラインはなんだなんだ
?
!
と幼女の声が聞こえたので瞬時に体を声の発生源に向けると、そこ
には金色の長髪に赤眼、口から八重歯を覗かせる幼女が女を囲む男の
一人の背中にポコポコという擬音が聞こえるようなパンチをしてい
た。余りの可愛さにクラインの鼻から赤い何かが垂れた。
あんな天使にポコポコされるなんて羨ましいとクラインは妬んで
と何かが切れる音ではな
﹂と苛立ちを込めて幼女の顔に平手打ちした。
いたが叩かれていた男は子供が好きではなかったのか﹁うるせぇぞ餓
鬼
それを見てクラインの頭からバキンッ
﹂
﹂
く金属製の何かが折れる音が鳴り、クラインはすっとベンチから立ち
﹂
上がり男達の元へ歩く。
﹁リコ
﹁そんな餓鬼放って置いて行こうぜ
ぶべっ
﹁そこのあんちゃん﹂
﹁んだぁ
?
!?
供達がその芸術に興味を示してツンツンし始める。
ってお前は
!?
てめぇいきなり兄者になにするんだ
!
﹁それは言い過ぎじゃねぇか
﹂
﹁それに手出したのは兄者だけだ
る。
クラインは右手をバキバキ鳴らし、無表情で男達に死刑宣告をす
﹂
﹁なぁ、こういう言葉知らねぇか
!
!?
?
﹂
幼女に手を上げるたぁ男の、いや生物の風上にも置けねぇ﹂
﹁てめぇらはやっちゃならねぇことをやっちまった。人類の宝である
﹁兄者
﹂
砂浜に頭を突っ込み一種の近代芸術と化した。周りで遊んでいた子
本気の拳をお見舞いした。殴られた男は錐揉み回転しながら公園の
クラインは幼女を殴った男の肩をポンポンと叩き振り向いた所に
?
!
!?
89
!
!
﹂﹂
﹁連帯責任っつうんだけど﹂
﹁﹁それは酷い
数秒後、砂場の芸術が3つに増え、子供達がうわぁぁ
﹁あ、あの、助けて頂きありがとうございます﹂
と喜ぶ。
﹁礼はいらねぇよ。ただのオレの憂さ晴らしだ。それよりも﹂
﹂
少女、アーニャの後ろに隠れている幼女に背丈に合わせてしゃが
む。
﹁大丈夫だったか
﹁だいじょうぶ
﹂
﹂
﹂
おにいちゃん、あーにゃをたすけてくれてありがと
﹁わたしのなまえはりこりす
みんなりこってよぶからりこってよん
﹁礼には及ばねぇよ。オレの名前はクライン、嬢ちゃんの名前は
う
?
!
﹂
んかの花の学名だっけか
﹁がくめい
﹁あ、はい﹂
﹁じゃあなリコちゃん﹂
﹂
﹁またね、くらいんおにいちゃん
﹂
良くねぇし移住したほうがいいぜ﹂
﹁なんでもねぇ。アーニャさんだっけ
?
なんだっけ
始まりの街以外はあんま治安
と額に指を置きうーんと唸るが思い出せないという
話の中にそんな名前があった気がした。
はクラインと言う名前が引っかかった。大分前にアルゴから聞いた
アーニャとリコリスが去っていくクラインを見送った後、アーニャ
!
?
?
?
90
!
!!
!
﹁リコちゃんか。オレの記憶が間違ってなけりゃリコリスってのはな
で
?
!
!
事は大したことではないのだろうと﹁帰ろっか﹂とリコリスと共に家
に向かって歩き出す。
リ ト ル・ キ ー パ ー
家に帰った後、アーニャは幼女の為に命を賭け幼女の為にフロアボ
スを倒した事があると噂される幼女の守護神の名前がクラインだっ
た事を思い出したがまさかと思って忘却の彼方に追いやった。
︻サチの休日︼
と あ る 昼 下 が り。第 6 1 層 の 主 街 区 の カ フ ェ テ ラ ス で 一 人 の お
かっぱの少女が湯気の立つ紅茶が入ったティーカップの置かれたガ
ラステーブルにほっぺをくっ付け退屈そうな表情を浮かべていた。
彼女の名前はサチ。攻略組の一つ﹁月夜の黒猫団﹂の槍使いにして
ギルドの紅一点の少女だ。
91
普段はギルドメンバーとレベリングやクエスト攻略、街の観光をし
ているのだが、サチ以外のギルドメンバー全員がそれぞれ用事が出来
てしまい、少し前に観光していた時に偶々見つけた景色の良いカフェ
テラスで暇を潰していたのだが、流石にカフェテラスで暇を潰すのに
も限度があったようではぁ⋮と溜息を吐く。
﹁やっぱりカフェテラスで1日は潰せないよ⋮﹂
﹁いつも以上にしけた顔してるな﹂
﹁女の子に向かってしけた顔なんて酷いよ﹂
視線の先にいる男、コノハをサチはむくれながら睨み、睨まれたコ
ノハは悪い悪いと平謝りしながら向かいの席に座る。勝手に座ると
は何事かと軽口を言おうと思ったがコノハの場合﹁じゃあ帰るわ﹂と
﹂
言いかねないと思ったサチは何も言わずに体をガラステーブルから
起こす。
﹁ギルドの奴らは
?
﹁ケイタは彼女のマーハとデート、テツオは52層のカジノ街でカジ
﹂
﹂
ノ、ササマルとダッカーは全層美女巡り行ったよ。そっちこそキリト
はどうしたの
﹁俺いつもキリトと居るイメージあるか
﹂
それだと風呂と寝る時も一緒に居るイメージ持って
﹁うーん、トイレ以外は一緒に居るイメージかな
﹂
﹁ちょっとまて
﹂
﹂
違うの
ねぇか
﹁え
﹁違うわ
何
﹂と壊れないか確認してから座り直す。
﹁あー、ギルドの話に近い話だった気がする﹂
﹁それで何の話をしてたんだっけ﹂
もらい﹁これ大丈夫だよね
ながら近くを通りかかったウェイトレスに代わりの椅子を用意して
サチは痛くなったお尻を摩り、周りからの視線にバツの悪い顔をし
﹁壊そうと思って壊した訳じゃないよ⋮﹂
﹁お前凄いな。店の物って耐久値無しで壊れない筈なのに壊すとは﹂
﹁うぅ⋮﹂
がボキッと折れ後ろに倒れてしまう。
われ驚いたサチが立ち上がろうとすると壊れるはずのない椅子の脚
ゲーム世界なのでやけどはしないが、現実世界と遜色ない感覚に襲
﹁あつっ﹂
注ぐ。
もうとティーカップを持ち上げるとハンドルが折れ中身が体に降り
コノハの慌て具合を楽しんだサチは﹁冗談だよ﹂と言って紅茶を飲
!?
﹁ギルドといえば、コノハとキリトは何処にも所属してないよね
?
?
92
?
?
?
?
!?
!!
?
か理由があるの
﹂
﹁なんとなくだよ。強いて言うなら自由だから
し﹂
結構美
キリトもそうだろう
﹁︵キリトの場合はコノハが無所属だからだろうなぁ︶﹂
﹁おいなんだそのニヤニヤした顔は﹂
﹂
﹁なんでもないよ。そういえばここのケーキ食べたことある
味しいんだよ
﹁あ、あのサチさん
﹂
たが、サチからは目も当てられない負のオーラが漏れ始めていた。
少しして耐久値のなくなったモンブランは霧散して光の粒になっ
落ちるのが予定だったようにサチの頭にモンブランがぶつかった。
弧を描き、狙い澄ましたようにサチに向かって落ちていき、そこに
ランが宙高く舞い上がる。
たが、ウェイトレスは何もない地面につまづき、運ばれていたモンブ
ウェイトレスはAIだしこけたりしないだろうとサチは思ってい
コノハが頼んだと思われるモンブランを運んでいるのが視界に入る。
ならわたしも頼もうかなとサチが周りを見渡すとウェイトレスが
﹁ずるくねぇよ﹂
﹁あ、ずるい﹂
モンブランを頼んできたんだよ﹂
﹁露骨に話を逸らされた気がするがいいか。実はここの席に座る前に
?
?
?
それでゲームの世界で
?
いたら上から鉢植えが落ちてくるしモンスターには優先的に狙われ
のに装備した瞬間にバグかわからないけど壊れちゃうし街を歩いて
は数値が物を言うと思って幸運が上昇する装備をいっぱい集めてた
LUCK
たことないからわかってはいたんだけどね
うで引いたくじ大凶だったなぁ⋮って言ってもわたし大凶以外引い
が掘ったか分からない落とし穴に落ちたり⋮そういえば最後に向こ
める前もよく犬のフン踏んだり車からの跳ね水が全身かかったり誰
﹁ふ、ふふ⋮なんでわたしいつもこんな目に合うのかなぁ⋮ゲーム始
?
93
?
サチぃぃぃぃ
﹂
るし⋮わたしもう疲れちゃったよコノハ⋮﹂
﹁しっかりしろサチ
ギルド﹁月夜の黒猫団﹂紅一点サチ。彼女の運はゲームシステムを
!!
狂わせる程酷いと言うのは有名で、ある人の胃を痛めつける原因の一
つでもある。
94
!
e p i s o d e 1 2 ア ル ゴ﹁イ ッ ツ シ ョ ウ タ イ ム
﹂
クエストクリアした俺達はアルゴにクリア報告の為メッセージを
送ると﹁今忙しいから明日にしてくレ﹂と返信を受けて解散。それぞ
れの自宅に帰った。いつもならキリトに泊めて泊めてと煩いアスナ
が駄々をこねなかった事に明日は嵐でも起きるのかとゲーム世界な
のに本気で心配しながら就寝した。
次の日、昼過ぎという遅くに起きた俺はすぐさま窓から外を確認す
るが心配していた嵐ではなく快晴だった事に安堵した。しかし代わ
りにダイニングに行くとテーブルの上に昼飯と思われるサンドイッ
チと﹁出かけるから一人で食べててくれ﹂と書かれたキリトからの手
紙を見つけてこんなことは初めてだと驚いた。
ようやく俺から一人立ちしたかと喜びながらキリトの作ったサン
ドイッチを口にしようと手にした時、アルゴから﹁今すぐ始まりの街
の広場に来イ。来なかったらコノハのあられもない姿を撮った写真
をアインクラッド中に流すかもしれないナ﹂という恐怖のメッセージ
が届いた俺はすぐさまサンドイッチ2つを左手に持ち、転移結晶を
使って始まりの街に転移。口にサンドイッチを詰め込みながら広場
に行くと、そこにはよく見る攻略組やソロプレイヤー、中層プレイ
﹂
と口に含んだサンドイッチを味わいながら見て
ヤーなど多種のプレイヤーが広場にある掲示板にひしめいていた。
何があったんだ
いるとその人集りからアルゴが出てきた。
﹁ぷはぁ、おそようコノノン。寝過ぎは体に悪いって知ってるカ
﹂
﹁も ぐ も ぐ ⋮ お そ よ う ア ル ゴ。急 な 胃 の 消 化 も 悪 い っ て 知 っ て る か
?
?
﹂
﹁じゃあゆっくり食べてくれば良かったじゃないカ﹂
﹁脅迫した奴が何を言ってやがる
﹁脅迫とは失礼ナ。別に来なくてもいいというニュアンスはあっただ
!?
95
!
?
ロ
﹂
﹂
﹁そんな物は一切感じなかったぞ
もしかして関係あるのか
で、俺を呼んだのとこの人集りは
A
T
それで朝の9時から掲示板の下で剣技大会の受付をしてるん
S
﹁寝起きでも勘は冴え渡ってるナァコノノン。昨日闘技場を解放した
だロ
﹂
?
﹂
?
つ人混みを掻き分け掲示板に辿り着く。
た。結局掲示板の所に行くなら変わらなくないか
ダ
と疑問に思いつ
そう言ってアルゴはそそくさ人混みに紛れて何処かへ去って行っ
から掲示板見てくレ。それじゃあナ﹂
﹁詳しいルールとか説明してやりたいんだが、オレっち運営で忙しい
まで読み、裏がないか確認してからサインする。
アルゴがコートの内側から出した﹁SAT参加表明書﹂を隅から隅
﹁ここにサインしてくレ﹂
﹁じゃあ参加しようかな﹂
は闘技場解放クエストをクリアしてくれたから無料ダヨ﹂
タ
﹁本来なら5万コルと言いたいガ、コノノンとキー坊、アスナとベル坊
﹁いやそこまで感謝しねぇよ。参加費はいくらなんだよ
と呼んでやったんダ。感謝して靴の裏を舐めるくらいして欲しいネ﹂
ンがあそこに行かなくても参加出来るようにここで受付してやろう
キー坊に聞いたらまだ寝てるって言うんで優しいオレっちがコノノ
﹁だと言うのに受付開始からいつまで経ってもコノノンが来ないから
﹁なるほど﹂
﹁今日のアルゴ新聞にSATの広告を載せたからナ﹂
どうやってSATがあることを知ったんだ
﹁だから始まりの街なのに中層プレイヤー以上が多くいるのか。けど
ダ﹂
?
集と色々なポスターが貼ってある中、真ん中にお目当ての物は大きく
掲示板にはギルド勧誘やクエストのバイト募集、素材交換や決闘募
?
96
?
!?
?
張り出されていた。
ソードアート・トーナメント
﹃75層解放記念
第二回 剣 技 大 会
開催日:二日後
開催時間:AM11:00
開催場所:75層闘技場
試合形式:初撃決着型
参加費:5万コル
ルール
①一度に持てる武器は3つまで︵一試合ごとに3つの武器の編成を
変えるのはあり︶
②武器以外のアイテム禁止
③ドーピングアイテム、スキル使用禁止﹄
97
意外とルールは3つしかないのかと思われるかもしれないが、前回
参加した時はルールなしなんでもあり︵閃光玉や煙玉による視界の奪
い合いなど︶の泥沼の戦いだったことを考えたらこれだけでもすごく
ありがたいと思える。
前回の優勝商品は50層のフロアボスのLAアイテムと200万
コルだったが、今回はなんだろうと優勝商品について書かれた場所を
探すがどこにも書かれていなかった。
﹂
﹁まだ秘密ってことか
な普段着姿のリズだった。
?
﹁当たり前よ。優勝商品が優勝商品だしね﹂
﹁よぉリズ。お前も参加するのか
﹂
後ろの人混みから現れたのはいつもの鍛冶屋の格好ではなくラフ
﹂
﹁あ、コノハじゃない
?
!
コノハはアルゴ新聞読んでないの
﹂
﹁掲示板には書かれてないけど、優勝商品は一体なんなんだ
﹁あれ
﹂
?
いたあの人が
ツンドラと思われて
!?
﹄という見出し記事を速攻で飛ばし、剣技大会の記事
﹃永遠の氷河期かと思われていたがついに解氷
と突っ込みたかったが自重して新聞を受け取る。
をオブジェクト化して俺に手渡す。教えてくれるんじゃないんかい
そう言ってリズはメインメニューをちょちょいと触り、アルゴ新聞
﹁それじゃあこのリズ様が教えてしんぜよう﹂
たらさないし﹂
﹁キリトは読んでるが俺は読んでないな。あれは俺の精神に害しかも
?
ら抜けられないこと、そして⋮
?
﹂
﹂
運営ってアルゴだよな
﹁ふーん、二回目なのに豪華な優勝商品⋮だ⋮な⋮﹂
運営が優勝者のしたい事や欲しい物を
?
﹁な、なぁリズ、リズは優勝したら何をお願いするんだ
﹁それは優勝してからのお楽しみかな
?
?
﹁運営が優勝者のしたい事や欲しい物を出来るだけ叶えるんだって﹂
﹁優勝商品が願いを叶える権利
﹂
を読む。そこには掲示板に書かれてあったことと一度参加表明した
!
リアしたのに社会的ゲームオーバーな事態にという事もあり得る。
させられてしまい、俺は正真正銘のホモとして顔が広がり、ゲームク
だ。下手したらアルゴに頼んで非合法的にゲーム世界とはいえ結婚
あとキリト、多分あいつも大会参加しているだろう。あいつも駄目
濃厚な絡みとか言いかねない。
あかん、こいつに優勝させたらあかん。下手したら俺とキリトとの
物を狙う鷹のような鋭い目だ。
素敵な笑顔で即答された。素敵とは言ったが表面上だけで目は獲
?
98
?
そしてアルゴが何故俺に直接メッセージを送ってきたのかと参加
したら辞退不可と新聞にだけ書いてあったのも今になってわかった。
それは新聞を読んでいない俺を確実に参加させ、俺がこの優勝商品を
知っての参加だと周りに思い込ませ、誰かが俺を指名して何かをさせ
そこには俺が新聞を読んで
るときに優勝商品求めて参加しているのにまさか断りはしないよな
と世論を味方につける為だったんだ
!
奴は神算鬼謀の策士か
なんか顔怖いよ
﹂
ない事を世論が知るわけないという事も計算してるだろう。
策士
﹁ど、どうしたのコノハ
?
!?
言ってアインクラッドの俺に対するホモ疑惑も払拭されるのでは
この
リズがいるんだ
?
どっちか当たったら確実に負ける。なら負けるのを祈る
?
いや無理だ。優勝とか無理。キリトがいるんだぞ
ぞ
?
いや待て、逆に俺が優勝すればリズに同人誌に俺を登場させるなと
?
!
ぞ
無理無理。じゃあ俺はキリトが優勝するのを黙って見てるだけ
二人がそう簡単に負けるわけない。キリトに至っては最強の一角だ
?
それこそただ死刑を待つようなものだ。じゃあどうすれば⋮と絶
?
じゃあな
﹂
望しているときに一つの希望が浮かんだ。
﹁俺用事が出来たから帰る
﹁あ、うん、またね﹂
!
どうすれば⋮﹂
﹁はぁ⋮今日もアスナ君はキリト君を追いかけて仕事をしない⋮一体
俺は転移結晶を使って目的の人物がいる街に転移した。
!
99
?
?
﹁話は聞きましたよ団長
﹂
﹁どこから出てきているんだいコノハ君
﹂
﹁アスナの逃走経路の一つである熊の置物からですが
﹂
﹁前から何故そこに熊の置物が置いてあったか疑問だったがアスナ君
の逃走経路だったのか⋮。後で撤去するようにクラディール君に頼
まなくては﹂
今から胃薬を買い足しに行かなくては
﹁それより聞いてくださいよ団長﹂
﹁少し後にしてくれないかな
ならないんだ﹂
?
﹁今年のSATの優勝商品が願いを叶える権利らしいんですが﹂
﹁詳しく話し給え﹂
100
?
!?
!
episode13 コノハ﹁剣技大会前編﹂
閃光のアスナ
二刀流のキリト
攻略組の有名な面々がいる中張らないなん
秘刀クライン
﹁さぁさぁ張った張った
てありえないだろ
﹂
!
だが﹂
﹁う⋮い、いや、今回こそ優勝してみせる
﹂
そう言って決勝で負けたよな。そのせいで俺の全財産吹っ飛んだ訳
﹁嘘だよ。誰がハイリスクローリターンに賭けるか。あと前回もお前
らさ﹂
﹁いやいや、賭けるんだったら俺に賭けろよコノハ。絶対優勝するか
だな。取り分少ないが取り敢えず団長に賭けようかなぁ﹂
﹁キリトと団長の倍率は1.05倍、アスナは1.2倍か。まぁ妥当
大穴に賭けるか確実に取りに行くかなどを議論している。
参加者と倍率が載っている看板が立てられ、その前でプレイヤー達は
を賭ける賭博だった。主催のテンガロンハットを被った男の横には
を楽しんでいるが、特に盛り上がっていたのはどの出場選手が勝つか
がり、たこ焼きやチョコバナナなどの露店に多くのプレイヤーが飲食
剣技大会当日、75層の闘技場の周りはお祭りかのように花火が上
になんと神聖剣ヒースクリフまで参加してるぜ
!
!
﹁よっ、サチ﹂
知り合いがいたのでその内の一人に話しかける。
の武器のメンテナンスをしていた。
控え室には多くの人がこれから始まる戦いにうずうずしたり自分
一階にある4つの選手控え室のうち第一控え室に入った。
確認した後、時間を確認すると10:42だったのでキリトと闘技場
らいか探し、2.1倍とキリトに比べたら高いが比較的良かった事を
出来るといいなと心にもない事を言いながら自分の倍率がどれく
!
101
!
!?
﹁あ、コノハにキリト﹂
﹁サチも参加したんだな﹂
﹁うん、欲しい物があったからね﹂
﹁大会に出る程なのか。何が欲しいんだ
﹂
﹁絶 対 壊 れ な い 幸 運 上 昇 装 備 か な ⋮ 今 朝 も 転 移 門 が 作 動 し な く て ね
⋮﹂
サチからどんよりした空気が漏れ始め、不幸話が長くなるのを察知
した俺とキリトは﹁ゆ、優勝出来るといいな﹂と言ってすぐその場を
そういうコノハとキリの字
﹂
と思いながら壁に寄りかかっている次の知り合
離れた。おかしい、もうちょっと楽しく話をする筈だったのにどこで
選択肢を間違えた
いに話しかけた。
﹂
前回の借りは返さないとな﹂
コノハにキリの字、お前らもやっぱ参加したか﹂
﹁よっ、クライン﹂
﹁おー
﹁当たり前だろ
﹁俺はアルゴに嵌められたんだけどな﹂
﹁そりゃご愁傷さまだな﹂
﹁クラインは優勝したら何を⋮捕まるなよ
﹂
変な言いがかりはやめろよな
﹁だってクラインって幼女ハーレム作るのが夢なんじゃ﹂
﹁違ぇよ
はなんなんだよ
﹂
クラインがほれと親指を向ける先、壁に張り付けられた巨大な電光
板にトーナメントの組み合わせが発表されていた。
102
?
!
﹁あのキリトさん、俺をチラチラ見ながら言うのやめてくれませんか
﹁俺は秘密だ﹂
﹁俺はまだ候補から絞りきれてないな﹂
?
!
!?
?
﹁なんで察したような顔で憲兵の厄介になる前提の話すんだよ
?
?
!
﹁相変わらずブレねぇなキリの字。っと、もう始まるみてぇだな﹂
?
何人出場者がいるのか数えたら68人で、俺の場所はキリトとアス
ナ、クラインとは決勝まで当たらないが代わりにリズと団長、サチと
同じブロックのシード枠の横に位置していた。俺はシード横なため
7回試合があるがまぁ仕方ない。あと正直団長にはキリトと同じブ
ロ ッ ク に い て 欲 し か っ た が 団 長 な ら 決 勝 ま で 行 っ て く れ る だ ろ う。
しかし万が一の事もあるので不安要素は出来る限り潰しておこう。
﹃それでは11時を以って、第二回剣技大会を開始します。参加者が
最大定員の64人集まりましたので第三試合まで2試合同時に行い
ます。名前を呼ばれた方は速やかに闘技場に入場してください。カ
﹂
イ選手、ロココ選手、コノハ選手、ジーニア選手、入場お願いします﹄
﹁頑張ってこいよコノハ
﹂
に入り込み一撃、試合開始から10秒余りという速さで終わらせた。
りプレイヤースキルが高くなかったためレベル差に物を言わせて懐
キルの高さが顕著に出る物だ。ジーニアスさんには申し訳ないが余
槍はリーチが長い分小回りが利き辛く、扱い辛いためプレイヤース
ん。
第一試合は同じ控え室から闘技場に入った槍使いのジーニアスさ
送る。
以下第一、二試合は特に山なし落ちなしだったのでダイジェストで
に入った。
クラインとキリトの声援を受け、俺は控え室から活気溢れる闘技場
﹁おう
﹁決勝で待ってるからな﹂
!
第二試合はシード枠の両手剣使いのタナボタさん。
103
!
タナボタさんはフロアボス攻略時によく見かける攻略組の一人で
ダメージ狙いの両手剣使いなのだが、両手剣は攻撃スピードが遅く、
片手剣との相性が悪い。隙をわざと作って振り下ろし攻撃を誘発さ
せた所を突きで勝った。
そして第三試合、次の試合の相手を見て装備を入れ替えた俺は気合
を入れて闘技場に出ると反対の控え室から禍々しい邪気と共に次の
試合相手、サチが右手に黒色の単槍を、左手には盾がくっついたよう
な形をした前腕の半分まである銀色の籠手を装備して出てきた。
まさかあのサチが、今朝も転移門が作動しなかったというバグを起
こすほどの凶運の持ち主がここまで来るとは失礼だが思いもしな
かった。
﹁まさかここまで上がってくるとは正直思わなかったぞサチ﹂
﹁ふふ⋮今日は運が良いのか、まだ突然の武器喪失が3回しか起きて
104
ないの﹂
サチは短槍をくるっと手元で回しながら微笑するが、武器喪失3
﹂
回って2回の試合で6個武器を使ったとしても半分で相当だと思う
んだが。
﹁それじゃあ始めようか
﹁あぁ﹂
代わりに貫通力はそのままに、突きからの引き戻しを早く出来る、槍
黒色の短槍。短槍というのは槍の利点の一つであるリーチを捨てた
揮される前に終わらせる為に何か策を練っている筈だ。例えばあの
サチの事だ、自身の不幸が発揮されても大丈夫なように、または発
め、サチの手元にある短槍をもう一度見る。
俺はジャッドシュヴァリエ、ではなく無名の剣をぎゅっと握りし
ントダウンが始まる。
サチから来た初撃決着モードのデュエルメッセージを受諾し、カウ
?
にはない小回りが利く物だ。
アレを装備したのは恐らく俺の戦闘スタイルであるディフェンス
&ヒットのディフェンスされた後の隙を少なくするため、もしくは短
槍自体が武器喪失を起こさないくらい耐久度が高いのだろう。
それと左手の盾付きの籠手。盾の表面が妙に丸みを帯びている事
から恐らくあれはパリィ用の装備だ。俺と同様に相手の攻撃を流す
事で生まれた隙を攻撃するといった戦法を取るつもりなのだろうか。
まぁ始まればわかるかと思考を放棄し、空中に浮かぶ数字を目の端
に入れつつサチを見る。
﹄
カウントダウンが0になり、ブザーが試合開始を告げた
﹂﹂﹂﹂
﹃WINNER Konoha
﹁﹁﹁﹁え
が驚きの声を出す。え
この場合どうなるの
?
そして観客と隣で試合を終えて控え室に戻ろうとしていた選手二人
と思ったら一回も撃ち合うことがなく俺の勝ちになり、俺とサチ、
!!
ろう⋮。
後でサチには装備出来るか分からないが幸運値が上がる装備を送
サチはそう言って邪気を増幅させながら控え室に帰っていった。
なんてね⋮ふふふ⋮﹂
﹁ふ、ふふふ⋮今日は不幸が少ないと思ったらここで大きいのが来る
言したのでコノハ選手の勝ちです、と先程運営が判断しました﹄
いないように見えたのですが、決闘システムがコノハ選手の勝利と宣
﹃え、えー、私の目にはどちらも一撃も入れてないどころか動いてすら
?
105
?
第四試合の相手は褐色肌に厳つい顔、見事なスキンヘッド、上半身
装備なしのエギルだった。
﹁エギルも参加してたのか﹂
﹁オレの筋肉を大勢の人に見せてやりたくてな﹂
そういってエギルはボディビルダーのような筋肉を惜しみなく観
客に見せつけ、観客はヒューヒューと口笛や歓声を上げて盛り上が
る。
エギルは優秀な商売人として名を知られているが他にも筋肉馬鹿
としても有名だ。
﹂と筋トレをし、ステ振りは﹁当た
ゲーム世界なのに﹁健全な筋肉には健全な精神が宿るなら、健全な
精神には健全な筋肉が伴うだろ
らなければ問題はない﹂と言って8割の振り分けポイントを筋力に振
り、武器は使う人が全くいない超近接武器であるメリケンサックを使
用している。
筋肉の素晴らしさを共有したいのか偶に筋肉の素晴らしさを客に
語る位で、基本安く物を売ってくれる気さくで良い奴だ。アスナやリ
ズ、キリトには見習ってほしい物だ。例え好きだからと言って他人に
迷惑はかけないでくれ。主に俺に。
﹂
﹁そういえば今日はメリケンサック装備してないのには何か理由があ
るのか
﹁まじかよ
﹂
いといけないという﹁絶対茅場ネタで作っただろ﹂とプレイヤー間で
量50%以下でなおかつ素手で山奥にいるフィールドボスを倒さな
などの武装無しでしか受けられない討伐クエストだ。総アイテム重
﹁素手の決闘﹂、65層にある、総アイテム重量50%以下、武器、盾
!?
106
?
﹁ああ、聞いて驚け。つい昨日、﹃素手の決闘﹄をクリアしたんだ﹂
?
て
ご
ろ
﹂
囁かれ、発見されてから二日後に超鬼畜クエストの一つに認定された
あのクエストをクリアしたと聞けば驚かない訳がない。
す
﹁装備なしと関係があるって事はクリア報酬はスキルだったのか
﹁なっ
一体何を話したんだ
﹂
﹂
﹂
﹃エギル選手、不正により失格です﹄とアナウンスが流れた。
いた大会関係者にその事を話すと運営と連絡を取り始め、数秒後に
引っかかっていた何かが確信に変わった俺は右手を上げて近くに
ニューから今回の大会のルールを確認する。
つと同時に待てよとエギルの台詞を頭の中で復唱、すぐにメインメ
それを聞いて俺はエギルにピッタリすぎるスキルだなと感想を持
性が2倍、器用さが1.5倍になるドーピングスキルだ﹂
﹁エクストラスキル﹃素手喧嘩﹄。腕、手に装備がない時に筋力、敏捷
?
・・・・・・・・
線に耐え切れずすぐに控え室に戻った。
最初の二回以外まともな試合をしていない俺は観客からの白い視
た、ただそれだけだ。
﹃ドーピングアイテム、スキル使用禁止﹄にエギルは引っかかってい
前回のようになんでもありではなくルールがある。そのうちの一つ、
今になって思い出したような顔をするエギル。そう、今回の大会は
﹁⋮あ﹂
るドーピングスキルだ﹄って。俺はその事を運営に話しただけだ﹂
?
107
!?
﹁おいおい、自分の言った事をもう忘れたのか
﹁⋮
?
!?
﹁お前こう言ったよな ﹃筋力、敏捷性が2倍、器用さが1.5倍にな
?
extra4 コノハ﹁短編集﹂
﹂
︻見えざるモノの視線︼
﹁⋮⋮
?
モンスターは倒しきったしオレら以外にもプレイヤーがいるな
﹂
でもそんなキリト君も素敵
団のユニフォームを纏ったプレイヤーが現れた。
数秒後、壁の一部がペラっと剥がれ、そこから栗色の髪に血盟騎士
た。
に伸びる廊下をじっと見た後、先を歩くコノハとクラインを追いかけ
あまり納得出来ていないような不服な顔でキリトは返事をし、後ろ
﹁あ、あぁ⋮﹂
得してないだろうし気のせいだろ。ほら、さっさと行くぞ﹂
﹁クラインの言う通りだ。アスナだとしても流石にステルス機能は習
ら見えるはずだろ
字
﹁おいおい、ここは隠れる場所のない一本道のダンジョンだぜキリの
﹁あ、いや、今視線を感じたんだけどさ﹂
﹁どうした
﹂
ロキョロ見渡し始めた。
下を歩いている時、キリトが急に動かしていた足を止め、辺りをキョ
コノハ、キリト、クラインが74層にあるダンジョンの一本道の廊
?
﹁ふぅ⋮キリト君勘が良すぎないかしら
﹂
?
いるアスナだった。
︻好み︼
108
?
?
見えないモノの視線の正体は、片手にカメラを持つ、鼻血を流して
!
﹂
﹁なぁコノノン、コノノンの好みってどんなんだヨ
﹁急にどうしたアルゴ
﹂
?
て喜ぶ奴なんていないだろうしいいか﹂
﹁︵喜ぶ奴と同居してるけどナ⋮︶それじゃあ改めて好みハ
﹂
?
気遣いが上手い
﹂
﹁おぉ、丁度喉が乾いてたんだ。ありがとなキリト。で、好みかぁ⋮。
﹁お茶いるか
﹂
﹁その一言が出た時点で十分怪しいんだが。まぁ俺の好みなんて聞い
ら安心してくレ﹂
ケートを載せるからその一環だヨ。別に怪しいことには使わないか
﹁い や、次 の 月 刊 ア ル ゴ で 一 般 男 性 の 好 み の タ イ プ に つ い て の ア ン
?
﹁そこは大多数が言うナ﹂
﹁それでいて可愛かったら文句なし
﹁なるほどナァ⋮⋮⋮﹂
﹂
よなぁ。同じゲームを一緒にやれたら嬉しいし﹂
﹁わかった。そこに置いておいてくれ。あ、趣味も同じだったらいい
﹁コノハ∼、後でこれ本棚の上に置いておいて欲しいんだけど﹂
わりに取ってあげるとかしたい﹂
﹁あと出来れば身長は俺より小さい方がいいな。高い所にある物を代
﹁フムフム﹂
人でやるのは大変だし﹂
﹁わかった。あ、家事が出来る方がいいな。俺も大体は出来るけど一
﹁洗濯物部屋に置いておくな﹂
﹁気遣いが上手いネ﹂
?
︻ハードラック︼
てアルゴは﹁もうそれキー坊じゃね
﹂と思った。
キッチンでエプロンにヘアピン装備で料理をしているキリトを見
!
?
109
?
50層にある酒場﹁呑ん呑ん亭﹂、その日の成果を自慢し合うプレイ
ヤー達が騒がしいそこで、コノハはその騒がしさをBGMに酒を飲ん
でほろ酔い状態のサチからその日あった不幸話を水を飲みながら聞
いていた。
不幸だわ⋮﹂
﹁それでね、足滑らして頭打ったの。フィールドボス攻略してる時に
よ
﹂
いけど、この世界でこんだけ不幸なら現実世界でも運が悪かったのか
﹁そりゃ運が悪かったな。現実の事を聞くのはマナー違反かもしれな
?
不幸話を何回も聞いたコノハは前々から思っていた事をサチに聞
いた。
﹁ん∼⋮﹂
サチは空になったコップを置いて考える。
﹁言い辛いなら別にいいんだけど﹂
なに
そんなレベルなの
不幸の種類が豊富なの
!?
﹂
﹂
︶﹂
私が小学校入学式の時の話なんだけどね﹂
﹁自信じゃなくて確信な所が妙に怖い
︻ハードラック②︼
?
!?
だから延期したって言った方が正
﹁俺の想像していた軽いと物差しが違う
﹁入学式がなくなったの﹂
﹁︵雨が降ってずぶ濡れになったとか
?
﹁あ、入学式自体はあったんだよ
!!
?
﹁これだったら軽いかな
!!
﹂
﹁あ、違うの。コノハにはどの程度の不幸話だったらいいかなって﹂
﹁え
!?
﹁不幸自慢だったら誰にも負けない確信がある﹂
!?
110
?
しいね﹂
﹁延期って何があったんだよ。余程の事がないと延期なんてしないだ
ろ﹂
﹁確かあれは、入学シーズンでは珍しい雨が降った日﹂
﹁︵雨は降ったんだ⋮︶﹂
﹁ぬかるみに滑って転んで怪我しないようにってお母さんが学校まで
送ってくれたんだ﹂
﹁優しいお母さんだな﹂
﹁車から降りてすぐに転んだけどね﹂
﹁うわぁまさか目の前で気遣いが一瞬で水の泡になるとはお母さんも
思いもしなかっただろうな﹂
﹂
﹁怪我はしなかったけどびしょ濡れになった私は保健室に服を乾かし
に行ったんだけどね﹂
﹁保健室が閉まってたのか
﹂
﹁保健室の前に凶器を持った男がいて人質にされたの﹂
﹁予想の斜め上をぶっ飛びやがった
しくて﹂
﹂
﹁おかしいってなんだよ
んだよ
あとお母さんもなんでまたかって顔してる
﹁この時のお母さんの顔が﹁またか﹂みたいな顔だったのは今でもおか
!?
なぁ﹂
﹂
そりゃお母さ
てか人質になって感慨深いってなんだよ
﹁小学生前から人質にされた回数が9回あったのかよ
んもまたかってなるわ
﹁じゃあコノハの不幸話聞かせてよ﹂
う∼ん⋮あ、近所の犬に足に小便かけられたことがあってな﹂
﹂
?
﹁俺の
それは運がよかった話
﹁え
!?
!?
﹁すげぇ話だった⋮。あと全然俺にとって全然軽くなかった⋮﹂
﹁それで入学式は延期になったの﹂
!!
111
?
!?
﹁こ の 時 に 人 質 に さ れ た 回 数 が 2 桁 に な っ て な ん だ か 感 慨 深 か っ た
!?
?
﹂
﹁え
?
?
︻成長︼
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁︵キリトの奴アスナが後ろにいるの気が付かないのか⋮︶﹂
112
︶を終えた俺は観客席に行き、試合を見るのに
episode14 ディアベル﹁剣技大会中編﹂
エギルとの試合︵
ベストポジションな席を取っていたクラインの隣に座って俺の試合
が始まるまでの試合を観戦する事にした。
﹁ふぅ、疲れた﹂
そう言えばお前勝ってるのか
﹂
﹁つってもオメエ最初の2試合しかまともにしてねぇじゃねぇか﹂
﹁気を張りっぱなしだったんだよ
﹂
?
現れ、カウントダウンが始まる。
団長とリズが動いたのは﹃DUEL
だった。
﹄という字が現れたのと同時
リズが指を動かし、団長も少し動かすと空中に60と大きな数字が
万能腐女子ことリズが10メートル程の距離を取って対峙していた。
マ ス ター ガー ル
には上位鉱石ミスリルをふんだんに使ったミスリルメイスを持つ
上着と同色のフレアスカートに後付けされたような肩当と胸当、右手
ンダルを装備した団長ことヒースクリフと、檜皮色のパフスリーブの
のエリュシデータと同じ魔剣である聖剣︵魔剣なのに聖剣だ︶デュラ
う赤地のサーコートに最低限の鎧、巨大な純白の聖十字の盾とキリト
クラインが顎をしゃくる先、闘技場中央には血盟騎士団団員とは違
たって感じだな。お、今からリズとやるみてぇだぞ﹂
潰しで何処から攻撃してくるか分からずなす術なくやられちまっ
﹁でっけぇ盾を使った隙のねぇ防御で攻撃を防がれて盾を使った視界
﹁そっか。どんな風に負けたんだ
﹁んや、三回戦目にヒースクリフの野郎に負けた﹂
!
?
スがぶつかった時の衝撃で砂埃が舞い上がり、相当な威力だったこと
爆発音にも似た轟音が闘技場に鳴り響き、リズ達の足元に盾とメイ
ブロウ︾を団長の盾にぶちかます。
備した方向、死角に走り右足を軸に回転し単発ソードスキル︽スロウ
団長が盾を構えた突進をしてきたのに対してリズは団長の盾を装
!
113
?
が分かる。しかし団長の盾は吹き飛ぶ事なくそこにあり続け、盾の横
から白銀の一閃がリズの額に吸い込まれるように伸びた。
リズはそれを首を動かすという最低限の動きで避け、今度は左足を
軸にして右足で地面を蹴り、体を一回転させてソードスキルを使わず
にメイスを盾にぶつけ、先程より小さい打撃音が炸裂したかと思うと
そのままいつぞやに見たような反撃を許さない高速の連続攻撃をす
る。
﹁おー、結構押してんなぁリズ。ヒースクリフもあんだけ隙のねぇ攻
撃されりゃキツイだろ﹂
﹁団長の基本戦闘スタイルは待ちだからそこまで苦でもないだろ。そ
﹂
れにこの勝負、あのパターンに入った時点でリズの負けは確定だ﹂
﹁どういう事だよ
﹁よく見てみろ﹂
俺が指さす闘技場中央ではリズの猛攻が続いているが、メイスの勢
いが衰えていくのが目に見えて分かる。クラインもそれに気付いた
が、何が起こっているのか分からないのか、説明を要求するような目
で俺を見る。
﹁リズが装備しているミスリルメイスは普通の攻撃もソードスキル並
に威力があるんだが、代わりに筋力要求値がめちゃくちゃ高い代物な
﹂
んだ。そんな物をあんな速度で振り続ければ体力なんてあっという
間になくなるだろ
﹁なるほど﹂
﹂
﹁リズもあのままラッシュを続けても抜けないのは分かってるだろう
しそろそろ大技来るんじゃないか
せ、柄頭を赤く輝かせる。重三連撃ソードスキル﹃ゲイルバースト﹄、
し、野球選手の様に振りかぶってシステムに規定モーションを認識さ
そう言った正にその時、リズはメイスを片手持ちから両手持ちに
?
114
?
?
両手持ちしたメイスを力の限り振りそのまま一回転し二発目を叩き
込み、最後にジャンプしながら振り上ろし攻撃をする、ヒットした部
位が45%の確率で欠損するメイス最上位ソードスキルが団長の盾
に放たれた。
耳を塞がないと鼓膜が破れるのではないかと思う程の殴打音が三
回連続で響くが団長の盾はリズの攻撃に不動、技後硬直時間で動けな
いリズの肩に白刃が突き刺さって試合は終わった。隣では﹁やっぱ
強ぇなぁ﹂とクラインが感心したような顔で顎に手を当てながら言
う。
﹁次の試合はっと⋮お、またすげぇ組み合わせだな﹂
﹁誰と誰⋮おぉ⋮﹂
電光板を見ると表示されていた名前はキリトとアスナだった。確
かにクラインがすげぇ組み合わせと言うのも納得できる。二人とも
プレイヤーの中でトップとも言える攻略組の中でもトッププレイ
ヤーだしどんな試合になるのか見物だな。
団 長 と リ ズ が 控 え 室 に 入 っ て す ぐ に キ リ ト と ア ス ナ が 出 て き た。
キリトは既にエリュシデータとダークリパルサーを装備し、両手をぶ
ら下げ、アスナもライベントライトを腰の鞘から抜き臨戦態勢に入っ
ていた。
キリトとアスナは二、三喋った後、キリトがエリュシデータを持っ
た右手を動かし、決闘を申し込み、アスナがそれを受諾しカウントダ
ウンが始まる。
アスナは右足を前に出し、ライベントライトを前に突き出す、フェ
ンシングのような構えをし、キリトは左足を前に半身に構え、腰を落
とし、ダークリパルサーを肩に担ぎ、エリュシデータを地面スレスレ
に下ろすという独特な構えをした。
試合開始のブザーが鳴り、先制したのはアスナの突きだった。
地面に足跡を付ける程力強い踏み込みから出された突きは流れ星
の如き光線を描いてキリトの喉元に迫るがキリトはそれを下ろして
115
いたエリュシデータを振り上げることで上に弾き、そのまま体を回転
させて肩に担いでいたダークリパルサーで薙払いをする。
アスナは体と肘を引きライベントライトを引き戻し大きく後ろに
飛躍、一回転して着地し、再度ライベントライトを構え突撃。先程の
一撃に比べれば威力は劣るが速度重視の、しかし当たれば当たり判定
は貰える程の力強い閃光の雨がキリトに降り注ぐ。
それを一つ一つキリトは弾き、受け流し、避けていくがいくつか掠
り、血の代わりに淡い赤色のドットが流れ、HPが徐々に削られてい
く。
武器を一つしか装備出来ないアスナは二つ装備出来るキリトに少
し で も 攻 勢 に 出 ら れ た ら 手 数 が 足 ら ず 下 手 し た ら 負 け ま で 繋 が る。
それを理解し、リズと同じようにラッシュをかけて反撃を与えないよ
うにしているのだろう。リズの時は団長の防御が硬いこと、使う武器
が長期戦には向いてない重量武器なこと、そしてその重量武器をス
116
ピードタイプと同じように振り続けたことがあって最後に疲労が溜
ストーカー
まり大きな隙が出来た所を一撃を入れられたが、アスナの場合普段の
行 動で身に付いた並外れた体力、敏捷メインのステ振り、盾装備無し
の相手という3点があるからラッシュは相当長い間続き、キリトが防
御し切れず当たるだろうと思っていたが、キリトの右手がぶれると同
時にアスナの手からライベントライトが天高く舞い上がり、背後の地
面に突き刺さった。キリトがダークリパルサーを突き付け、アスナの
﹂
﹁降参⋮﹂の一言で試合時間16秒という速さで試合が終わった。
﹁⋮最後の一撃見えたか
キリトvsアスナの試合の後は俺の第六試合、準々決勝だ。相手は
﹁オメエに見えなかったらオレにも見えるわきゃねぇだろ﹂
?
騎士装備で身を固め、剣身が広いのが特徴の赤黒い色の剣、バルムン
クを所持するディアベルだ。正直参加者の中でキリト、団長を除いた
ら相手にしたくないランキング第一位に輝く相手だ。あ、アスナも嫌
だ。ねちっこくHP削ってきて剣を弾き飛ばして止めさすだろうし
あいつは。
しかし当たったからには全力を尽くし、団長を決勝まで消耗させず
に送らなければ。
俺とは反対の控え室から出てきたディアベル。普段の騎士のよう
な薄青色のフルプレートと愛剣のバルムンク装備ではなく、動きやす
い銀の胸当と鎖の腰巻に鞘、左手にガントレット、右手に肉厚幅広の
﹂
両刃の長剣という剣闘士に近い装備だ。
﹁それじゃ、やろうか
デ ィ ア ベ ル か ら の 試 合 申 請 を 承 諾 し、待 ち 時 間 の 6 0 秒 の 間 に
ジャッドシュバリエから短剣に変更し、念の為にクイックチェンジの
スロットに短剣と軽量のレイピアとジャッドシュヴァリエを入れて
おく。短剣とレイピアを選んだ理由はこの世界では総アイテム重量
ではなく装備重量によって体の動きが変わるので少しでも装備重量
を減らし動きやすくする為だ。
試合が始まる5秒前、ディアベルの穏やかな目は獲物を狙う虎のよ
うな鋭い眼光に、口元は悪魔のような笑みに豹変する。
﹂と聞いてくる結構面倒な奴だ。
そう、奴は数少ないまともな人間、ではなく戦闘狂という数多い変
YA☆RA☆NA☆I☆KA
人の一人で、時折﹁殺 ら な い か
﹂と某
!
た刺突に近い攻撃を盾で流し、カウンターでディアベルの額に短剣を
りに剣を引きずりながらこちらに走る。手首を回転させ繰り出され
世紀末のならず者のような声を上げ、構えなんて知るかと言わんばか
試合開始のブザーが鳴るとディアベルは﹁ヒャッハァァァ
し前に聞いたし今度クラインになんか差し入れ持っていくか。
たら2週間は誘ってこないし。クラインとよくやってるって話を少
あ、キリトの方が面倒だな色々な意味で。ディアベルはちゃんと断っ
?
117
!
突き出す。普通なら自身の速さと俺の突き出しの速さが合わさり避
ける暇もなく額に短剣が刺さって試合終了になるはずなのだが、ディ
アベルはまるでそう来ることが分かっていたかのような超人的な反
﹂
吐
く
射神経で短剣を躱し、突進の速度を落とさずにガントレットの正拳を
ぶべっ
ロ
を
俺の鳩尾に抉るように放った。
﹁ぐぶぅっ⋮
ゲ
に伸びる砂煙を見て戦慄した。
るが当事者の俺は﹁あれ喰らってたら一撃死してるんじゃね
﹂と空
観客は分かりやすい迫力のある場面を見れて大盛り上がりしてい
﹁⋮⋮どんな威力だよ⋮﹂
散、大きな砂煙が舞い上がる。
2秒後ディアベルが俺がいた地面に着弾しそこが大きな音と共に爆
していた。思考なんて放棄して受け身を考えずに横に転がって回避、
していたと思われるディアベルが剣を振り上げて俺に目掛けて落下
不自然な影があり、その上を見ると俺が吹き飛んでいる間にジャンプ
げるがディアベルが見当たらない。ぐるりと辺りを見渡すと地面に
がる。さっきの攻撃で短剣を手放してしまったのは痛いなと顔を上
食いした後に運動したような不快感を感じながら膝を立てて立ち上
だったようだ。五体投地のような格好から四つん這いになり、腹に早
鳴らない。どうやら防具であるガントレットの一撃は攻撃判定なし
地面を転がりながら負けたなと思っていたが試合終了のブザーは
打ちの如く鳩尾に蹴りが入り体が吹き飛ぶ。
現実世界だったら大惨事になる一撃は俺の体を浮かせ、そこに追い
!?
体にかかる。俺はキリトみたいに脳筋仕様じゃなくて全体的にバラ
ちで受け止めるが、上から叩きつけられた剣の重みが余すところなく
てきた。クイックチェンジでジャッドシュヴァリエを装備し片膝立
砂煙が膨れ上がり、そこから群青色の光を纏わせた剣が垂直に降っ
?
118
!
ンスよく、少しだけ筋力と敏捷多めのステ振りだからこういう体制に
入ると形勢逆転して止めまで持っていくとか無理なんだよなぁと苦
悶の表情を浮かべながら思った。
ソードスキルの恩恵が無くなり、剣が少し軽くなったのを感じた俺
はジャッドシュヴァリエを斜めにずらしてディアベルの剣を流し横
にローリング、目の端に映った短剣を拾って戦略的撤退をする。
ちらりと後ろを見てみるとディアベルが逃げている俺を追わずに
剣を構えているのが見えた。恐らくソードスキルの発動をしようと
しているのだろう。発動しようとしているソードスキルの種類は突
進系、または追尾ダッシュ系のソードスキル、しかも走っている俺に
追いつく程の速さが出て尚且つ外した所でケアが出来る物なのだろ
う。こ こ し か 攻 勢 に 出 る 場 面 が な い と 直 感 で 感 じ た 俺 は ジ ャ ッ ド
シュヴァリエをしまい、さっき拾った短剣を装備して投擲スキルを
使ってディアベルの剣の根元に向けて投げ、外部からの攻撃による強
制キャンセルで出来るキャンセル硬直を狙い、走りながらジャッド
シュヴァリエにクイックチェンジをする準備をする。
ディアベルの剣に短剣が当たり、ソードスキルの強制キャンセルに
よ る 硬 直 時 間 が 始 ま る。即 座 に ク イ ッ ク チ ェ ン ジ で ジ ャ ッ ド シ ュ
ヴァリエに持ち替え、ディアベルの胴体を貫こうとしたが、ディアベ
ルの硬直時間が終わり、左手のガントレットに往なされた。ディアベ
ルが勝ちを確信したような目で俺を見ていたが、その目はすぐに狸に
でも化かされたかのように見開かれる。
何故なら、俺の左手にはレイピアが装備されていて、既にソードス
キル特有の輝きを帯びていたからだ。
俺はディアベルがジャッドシュヴァリエの一撃を往なし、ディアベ
ルの視覚外にジャッドシュヴァリエが入ったと同時に手放し、自由に
なった右手で左手の盾をレイピアにクイックチェンジしていたのだ。
ディアベルは剣を振るうがその剣が俺に届く前に俺の速度重視の
刺突ソードスキル﹁シューティング・スター﹂がディアベルの胸に突
き刺さり、当たり判定を確認したシステムがブザーを鳴らし、試合が
終了した。
119
﹁はぁ⋮はぁ⋮負けるとこだった⋮﹂
俺は尻餅をつき、チラリと黄色ゾーンに突入しそうな自身のHP
イ エ ロ ー・ ゾ ー ン
バーを確認した。一撃決着型の決闘の終了条件は相手に有効打を与
える以外にも対戦相手のHPバーを2分の1、つまり注意残量域にし
たら勝ちというのもある。もしあと一撃でも防御の上から威力のあ
るものを貰ってたら俺は判定負けしていただろう。
﹂
﹁いやぁ、勝ったと思ったんだけどまさかあんな二撃目が飛んでくる
なんて想像もしなかったよ
座り込んで肩で息をしている俺とは違い、試合前の落ち着いた雰囲
気でディアベルが剣を腰に吊るしてある鞘に収め手を差し伸べてき
﹂
?
たのでそれを掴んで立ち上がる。
﹁またいつか戦いたいね。あ、明日とかどうかな
﹁冗談でもやめてくれ⋮﹂
120
!
extra5 コノハ﹁短編集2﹂
︻逃走経路︼
その案件を担当して
﹁アスナ君、今日は大事な案件があるからまだ残って欲しいのだが﹂
﹁団長、今日はキリト君が夕食当番なんですよ
しまったら確実に夕食に間に合いません﹂
﹂
﹁君はいつもの通り呼ばれていないのだから別に間に合わなくても良
いだろう
もしかしたらキリト君は遠慮して呼ばなかったかもしれない
﹂
こんな所に居られません ︵キリト君の︶家に帰
﹁団長の分からず屋
扉が開かない
なら⋮﹂
!?
!?
団長の前で使いたくはなかったけど、やむを得ないわね⋮﹂
﹁それじゃあ団長、お疲れ様でした﹂
﹁⋮
﹂
そう言ってアスナは扉から離れ、部屋の中央よりやや右に立つ。
﹁くっ
スキルでは破る事は出来ないよ﹂
﹁その扉は君の為に特別に拵えた破壊不可能オブジェクトだ。ソード
﹁破壊不可能オブジェクト
﹂
セージウィンドウが現れた。
シュ﹂を迷う事なく行使するが扉には傷一つ付かず、無機質なメッ
腰からライベントライトを抜きソードスキル﹁スター・スプラッ
﹁⋮
﹁彼の家は君の家ではないだろう﹂
﹂
らせていただきます
﹁ならその遠慮を受け取って仕事し給え﹂
じゃないですか
﹁酷い
?
!
!
121
?
!
!
!
!
!?
?
アスナが独特な足踏みをするとカタンと足元に穴が開き、アスナは
敬礼しながら穴に落ちていき、その後穴は綺麗に閉じた。
それを見たヒースクリフは持っていたペンを置いて流れるように
引き出しから頭痛薬を取り出し、中身を一気飲みした。
︻神速︼
お昼、コノハとキリトが昼ご飯を食べている時、キリトは手に持っ
ていたスプーンを床に落としてしまい、スプーンの耐久値が0になっ
て砕け散った。
﹁あっ﹂
﹁あー、もう壊れたか﹂
﹁今度買いに行かないと⋮。あ、コノハ食べ終わったならそのスプー
ン貸して﹂
﹁ふざけんな﹂
コノハは立ち上がって台所に使い終わった食器を置き、新しいス
プーンをキリトに投げる。キリトはそれを受け取って﹁ありがとう
⋮﹂と少し不満気に言って食事を再開する。
﹁︵しかし、俺の使ってる食器が壊れるまでにキリトの食器は2.3回
は壊れている気がするんだが⋮︶﹂
台所で食器を洗いながらコノハはキリトを見て疑問に思っていた
が、その視線をもう少し下げてテーブルの下を見たらその疑問もすぐ
解決するだろう。
テーブルの下から垂れ下がる栗色の髪を見たら。
︻使い道︼
122
52層にあるカジノ街﹁ティーブタウン﹂。朝も昼も賑やかなこの
街は便利さ、宿の多さ、宿代の安さ、そしてアインクラッド最大のカ
ジノがあることから恐らくホームタウンにしているプレイヤーの多
さはトップ5に入るだろう。
その街の中央に座する﹁ティーブタウン﹂の象徴、カジノ﹁ゴール
ドラッシュ﹂の中にある一台のルーレットにカジノにいる3分の1程
の人が集まり大盛り上がりしていた。
何故なら、一人のプレイヤーが一点賭けを6回中4回も成功させ、
数十枚しかなかったコインを今では50万以上にまで増やしたから
だ。
ディーラーのベットスタートコールがかかり、ルーレット台に座る
プレイヤー達は手持ちのコインをベットしていく。そして注目のプ
レイヤーも黒の2一箇所に手持ちの半分のコインをベットする。
ディーラーがホイールを回し玉を投げ入れる。カランと乾いた音
123
が鳴り玉がホイールの中を転がる。
数秒後、フードを被ったプレイヤーが赤に最低限、奇数に最低限、そ
れらに当て嵌まらない、注目のプレイヤー以外のプレイヤーがベット
している場所に最低限のコインを置いていく。
ディーラーからベットストップのコールがかかる。
玉はカタンカタンと音を立て、黒の2のポケットに吸い込まれるよ
うに入った。
儲けは
?
﹂
﹁っていう感じに不幸も使い道があると思うんだけどどうだ
勿論半々で﹂
﹁⋮それ私もコノハも出禁にされるよね
﹁ちょ、無言で槍装備しないで冗談だから﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁安心しろ、お前を見捨てれば俺は助かる﹂
?
︻厨二︼
ムーンライト・ドラグレイブ
﹁月 光 龍 撃 ってカッコ良くないですか
思うが﹂
﹂
﹁ルビ振りは私のアイデンティティーです
エンドレイド
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁コノノン、この間の取材について⋮﹂
﹁じゃあ﹂
﹂
﹁やっぱりドラゴン使いとしては龍という字は入れたいですね﹂
﹁なら終焉襲来は
﹂
﹁いや、俺的には破天雷極剣とか漢字だけに統一した方が格好良いと
?
!
﹂
﹂
!
!
俺は厨二から大分前に卒業したから
124
?
﹁⋮⋮オレっち用事が出来たから帰るヨ
﹁待てアルゴ
!
episode15 ヒースクリフ﹁剣技大会後編﹂
俺とディアベルの試合が終わった後、昼休憩に入ったので俺はキリ
トとクラインと合流して昼飯を探しに屋台が立ち並ぶ闘技場の周り
﹂と笑顔で何処かに去っていった。装備を変
をぶらぶらしていた。ディアベルも誘ったのだが﹁この後ギルドメン
バーと模擬戦するから
えてないことからバーサーカー状態で戦うのだろう。ご愁傷様です
ギルドメンバーの方⋮。
﹁焼きそばたこ焼きの定番からたい焼きチョコバナナ、何故か寿司と
ほんと色々あんなぁ⋮。まるで祭りみてぇだぜ﹂
﹁お祭りと言えばお祭りだろ﹂
﹂
﹁出してる所も色々あるぞ。個人出店から始まり聖龍連合、血盟騎士
ラフィンコフィン
団にキバオウ商会。あれなんて元嗤う棺桶のメンバーじゃないか
わたしはたこ焼き買ってキリト君とあーんがしたいん
﹁色々すげぇな⋮﹂
﹁何処に行く
だけど﹂
﹂
キリトが腕組みしてくるのがうざったい。
﹁暇じゃないから剣と殺気をしまえ
﹁コノハ⋮この後暇かしら⋮﹂
?
クラインの一言でキリトが離れるとアスナから放たれていた重苦
﹁あ、あぁ⋮﹂
﹁とりあえずキリの字、コノハから離れとけ﹂
!
﹂
しい殺気は消え、アスナは少し不満気に剣を鞘に仕舞う。なんで不満
気なんぁよ。
﹁ふぅ⋮で、昼飯どうする
?
125
!
﹁ちゃんと目の前から現れてくれアスナ﹂
?
﹁俺はなんでもいいよ﹂
﹁オレは久々に焼きそば食いてぇな﹂
﹁わたしはさっきも言ったたこ焼き﹂
﹁じゃあ焼きそばとたこ焼き買うか﹂
﹂
なら人の少ない場所に
﹁つってもコノハ、焼きそばの屋台だけでも5.6は見えるが何処の
買うんだ
﹁たこ焼きも3店舗はあるわね﹂
﹁正直何処の焼きそばもたこ焼きも同じだろ
並んだ方がいいだろ﹂
﹁甘い、甘いで。砂糖に蜂蜜かけたくらい甘いでコノハ﹂
キバオウ商会のたこ焼き屋の裏からサボテンのような髪型をした
男、キバオウがちっちっちと指を振りながら現れた。どうでもいいこ
とだが砂糖に蜂蜜って単品だと甘いけど合わせても言うほど甘くな
さそうだな。
﹂
﹁確かに列の少ない屋台に並んだら時間短縮にはなる。が、味は何処
も一工夫されてて一味違うんやで、味だけに
﹁⋮けど食べ比べする程食えないし﹂
売の﹃屋台百科∼第二回剣技大会編∼﹄や
お値段たったの300コル
﹂
出
この本には今回出店して
﹁お、おぅ⋮スルーされてもうたわ⋮。そんな時こそキバオウ商会販
!
いる屋台の種類と特徴、値段、出店者が事細かに書いてあるんや
版はアルゴやから色眼鏡もなし
﹂
﹁300コルくらいなら買うか﹂
﹁まいど
!
!
!
しみにしとるで
﹂と言って次の客を探しに行った。
300コルを渡し、
﹃屋台百科﹄を受け取るとキバオウは﹁準決勝楽
!
﹁金魚すくいか。昔お祭りがあったらスグと行ったなぁ⋮﹂
﹁さて、焼きそばとたこ焼きの店はっと﹂
!
126
?
?
!
﹂
﹂
﹁へぇ、リズ似顔絵描く店出してるんだ。一回10万コルって結構取
るわね⋮儲かるのかしら
﹂
﹁お、射的なんてあるぞ。後で行ってみねぇか
﹁全員顔近ぇよ
なで大爆笑したもんだ。
てギリギリまで銃口を景品に近づけたのに当たらなかった時はみん
的をしたいと言った割に下手くそで笑ったな。大人気なく机に乗っ
0コルで10個と安かったからとても良かった。あとクラインが射
5倍になるとお得な上に美味かったし、血盟騎士団のたこ焼きは50
戻 っ て き た。元 嗤 う 棺 桶 の 焼 き そ ば は 1 0 0 コ ル プ ラ ス で 量 が 1.
べ終えた俺達は射的などの屋台を回り、試合開始5分前に闘技場に
元嗤う棺桶の屋台の焼きそばと血盟騎士団のたこ焼きを買って食
?
?
﹄
ちゃんと休めたカ
それじゃあ準決勝の組み合わせ出す
﹃アー、マイクテストマイクテスト。⋮特に問題無いナ。昼休憩はど
うだっタ
から電光板に注目
?
板に目を向ける。そこには準決勝まで勝ち上がった俺、キリト、団長
の三人の名前が表示された。⋮三人
﹁コノハが相手でも手加減しないぜ﹂
﹁俺とキリトか⋮﹂
⋮コノハは対戦準備して中央に集まって対戦準備をしてくレ﹄
用事なんていつものアレだろうけどナ。それじゃあキリトとコノノ
があるとかで辞退して準決勝は三人で行う事になったかラ。どうせ
﹃準決勝まで勝ち上がってた団長の対戦相手のプーだが、なんか用事
?
127
!?
スピーカーから聞こえるアルゴの声に、会場中のプレイヤーが電光
!
?
キリトはキメ顔で握った拳を前に出す。キメ顔にイラっとした訳
ではないが、決してないが、俺は無言でキリトの顔を抓った。
観客席からのアスナの負けろコールを受けながら、俺は今回の試合
についてどういうスタイルで挑むかを考えていた。
過去キリトと手合わせを何十とした事があるが、負け数が勝ち数の
二倍以上ある。二刀流というユニークスキルによる手数の多さとダ
メ重視のステ振りが敗因として挙げられるが、キリト自身のプレイ
ヤースキルが異常に高い事が最も強いだろう。ベータテスターとし
ての先駆があったとしてもあの異常なまでの反射神経や体の動かし
128
方が出来るのは恐らくキリトとバーサーカー状態のディアベルくら
いだろう。
俺はキリトに勝つ為にクイックチェンジや片手剣以外の武器の練
度、通常攻撃からのクイックチェンジソードスキルの連続攻撃と様々
なプレイヤースキルを身に付けたが、先のディアベル戦でこれらは見
﹂
られて対策は練られてるだろう。さて、どうしたものか。
﹁準備はいいか
30秒前、頭の中でキリトのソードスキルを軽く見直す。
40秒前、ジャッドシュヴァリエを抜き軽く振る。
50秒前、ジャッドシュヴァリエを地面に刺して軽く体を動かす。
上空に決闘開始までの60という数字が浮かび上がる。
浮かぶ決闘受諾ウインドウのOKを押す。
ディアベルの時と少し変え、
﹁大丈夫、問題ない﹂とネタで返して宙に
に 担 い だ キ リ ト が 聞 い て き た。俺 は ク イ ッ ク チ ェ ン ジ メ ニ ュ ー を
右手のダークリパルサーを地面に着け、左手のエリュシデータを肩
?
20秒前、キリトの様子を見る。アスナの試合の時と同じ構えをし
ている。
10秒前、目を閉じて深呼吸をしてリラックスをする。
5秒前、目を開いてキリトに全集中力を向ける。
3秒前、キリトが膝を軽く曲げ走り出す準備をする。
1秒前、足の裏に力を込める。
空中の数字が0になり、ブザーが鳴るかどうかの瞬間に俺とキリト
は互いに向かって走り出した。
先制されて手数で押される状況にされる前に左足を軸にした回転
斬りで仕掛ける。キリトはそれをダークリパルサーで受け止め大き
く吹き飛ぶが、感触の軽さから自分から飛んだのだろう。
キリトが着地点まで走り着地と同時に技後硬直が限りなく少ない
片手剣単発横切りソードスキル﹁スライドコンタクト﹂を放ち、反撃
の芽を潰す。
129
フェイント、当たり判定のないシールドバッシュ、体術スキルが込
められた蹴り、攻撃最中にクイックチェンジで武器の持つ手を変えた
りと変化を混ぜていく。最初は掠ったり防御に専念していたが、段々
キリトはフェイントにはかからず、シールドバッシュはバックステッ
プやサイドステップで当たらないように、蹴りには同じく蹴り、武器
の持つ手の変化はもう片方の剣で受け止めると適応していき、時折
ジャッドシュヴァリエを弾いて反撃をしてくる。一試合の中でこの
適応は異常だろ。
ダークリパルサーで蹴りと見せかけた突きのフェイントを捌かれ、
目標から逸らされ宙を裂いたジャッドシュヴァリエをエリュシデー
﹂
タの斬り上げでキリトの後ろに弾き飛ばされた。
﹁⋮っ
さを考慮した振りの速さが把握しきれず、攻撃に何処か甘い所が出て
クリパルサーを防ぐ。が、やはり使い慣れてない武器だとリーチや重
すぐさまクイックチェンジで他の剣を装備し胸元に襲い来るダー
!!
来て反撃される頻度が多くなる
らない。キリトが適応する前にこのまま押し切る
な苦悶の表情を浮かべている。今は優勢だがいつ反撃が来るか分か
を受けながらジリジリ後退していく。顔も受けるので手一杯のよう
ターンは簡単に読まれたが、槍は初めて相手にするからか、カスダメ
長 い 間 キ リ ト と は 共 に 攻 略 や 決 闘 を し て い た か ら 剣 や 短 剣 の パ
走る。
色をした、突く事より切る事を重視した槍を両手で構え、一息入れて
俺は最後の武器、長さ1メートル程で刃が炎のような波打った形と
﹁そりゃお前に隠れて練習してたからな﹂
﹁⋮
コノハが刀剣類以外の武器使うの初めて見たな﹂
け止めてキリトから距離を取る。
俺はクイックチェンジで最後の武器を装備してエリュシデータを受
こ の 武 器 は も う 少 し 後 に フ ェ イ ン ト で 出 し た か っ た が 仕 方 な い。
シデータで放ってきた。
ずダークリパルサーで守りの構えをしながら最小限の攻撃をエリュ
相手の武器が喪失したこの圧倒的有利な瞬間でもキリトは慢心せ
切られるとはやっぱこいつのスペックおかしいわ。
工房で見繕った上等な奴なんだけど、まさかこんな早く耐久値を削り
で白いエフェクトを発して折られた。今装備していたの一応リズの
数分の打ち合いでキリトの得意とする武器破壊によって刃が半ば
!
だがどちらもさせる気はない。
は予備の武器を装備するかダークリパルサーを拾いに行くかの二択
武器はエリュシデータと予備の武器だけ。お得意の二刀流をするに
キリトが拾う前に体術スキルで遠くに蹴り飛ばす。これでキリトの
ダークリパルサーをもぎ取った。地面に落ちたダークリパルサーは
刃を鍔にまで下げ、腕全体を使って槍を一回転させキリトの手から
は悪手だ。ダークリパルサーの刃の半ばで受け止められていた槍の
キリトが槍の隙間にダークリパルサーを挟み流そうとするがそれ
!
130
!
エリュシデータ1本で槍の猛攻を捌ききるのは難しいと判断した
のか、キリトは横に転がり俺から距離を取り背を向けて走り出した。
キリトはダークリパルサーを捨て予備の武器を装備するという選択
をしたようだが、背を向けるということは相手を視界から外すという
事。そしてそれは相手が何をするか分からない状態に自ら身を投じ
るという事だ。
俺 は キ リ ト の 後 ろ に 落 ち て い た ジ ャ ッ ド シ ュ ヴ ァ リ エ を 拾 わ ず、
持っていた槍を投擲スキルでキリト目掛けて放った。まさか俺が最
キリトの背中に吸い込まれるように飛んでい
後の武器を投げるとはキリトも予想外だろう。
これで俺の勝ちだ
﹁はぁぁ
掴み取るなんて誰が想像出来る
あいつやっぱりおかしいわ
!?
回避。
に素直に攻撃してくるのか
と疑問に思い大きくバックステップで
は盾で、右はジャッドシュヴァリエで受け止めようと思ったがこんな
予備の剣は左から水平に、エリュシデータは右から水平に迫る。左
秒で駆け抜けた。
俺とキリトの距離は100メートルはあったが、キリトはものの数
る。
俺は落ちているジャッドシュヴァリエを拾い上げ、迎撃の構えを取
終えると同時に俺に向かって疾走。
キリトは槍を自慢の筋力で近くの壁に突き刺し、予備の剣を装備し
!!
こちらに背を向けていたキリトが槍が当たる直前に反転して槍を
﹂
く槍を見てそう思っていた時期が俺にもありました。
!
だがキリトは俺がバックステップで回避する事も想定の内だった
していたらガラ空きになった正面に一撃が入っていただろう。
俺の髪を掠めた。あのままジャッドシュヴァリエで受け止めようと
るりと軌道を変え水平斬りから下からの垂直斬りに変わり、後退する
俺の疑問は当たったようで、右から迫っていたエリュシデータがす
?
131
!?
のか、即座にそこから前に飛び、振り上げていたエリュシデータを振
り下ろす。俺の体勢はバックステップした直後とあってもう回避を
するなんて出来ないくらい崩れている。しかしキリトも俺を追撃す
る為に飛んでいる為回避は出来ない。つまりここが最大の危機にし
て最大の好機と捉えた俺は、今のキリトでは回避、防御共に困難の刺
突ソードスキル﹁ヴォーパル・ストライク﹂を放った。
﹁惜しかったなコノハ﹂
﹁あんなのずりぃよ⋮じゃんけん完全後出しするくらいずりぃよ⋮﹂
132
試合が終わった後、試合中にクラインとアスナがいるのが見えた席
に向かい、慰めてくるクラインとふふんとドヤ顔のアスナの間に座っ
た。
あの時俺はこの世界では二段飛びといったスキルの情報を聞いた
事がない、なら空中では回避不可能、振り下ろされるエリュシデータ
より速く、防御を貫く重い一撃を叩き込めばと考え、刺突スキルの中
でも威力と速度があり、技後硬直は長いが準備時間の短い﹁ヴォーパ
ル・ストライク﹂を使った。しかしキリトはそれを回避し、技後硬直
と俺がキリトに問い詰める前にキリトが地面
で動けない俺に軽い攻撃を当てて試合は終わった。どうやって空中
から更に動けたんだ
ストライク﹂を避けたのだ。
場として利用した、二刀流だからこそ出来る二段飛びで﹁ヴォーパル・
に視線を向けさせる事で剣を刺した足元から注意を逸らし、そこを足
単純な話だ。あの捨て身のような攻撃はブラフで、エリュシデータ
を指差し、そこを見ると剣が刺さっていて俺は全てを察した。
!?
﹁コノハの不注意で負けたんだから、不貞腐れてないでキリト君の勇
姿をその目に焼き付けなさい﹂
﹁うっす﹂
癪だが、アスナの言う通り俺の不注意で負けたのは確かだ。俺はキ
リトに勝てなかった。だがこの目に焼け付けるのはキリトの敗北姿
だ。しかしそれを拝むには団長に託すしかない。団長、頼みますから
勝ってくださいお願いしますと俺は心の中で祈りながら闘技場の中
心で始まる決勝を眺める。
二刀流と神聖剣の試合は二刀流の速攻から始まった。
真正面から突っ込み、巨盾を装備した団長の直前で溜めを作り、団
長が来ると思っていた瞬間からずらす事で隙を作り、死角である盾の
方へ移動し盾の内側へ剣を滑り込ませる。が、団長はそれを盾を横に
振って弾く。
右の剣を弾かれても二刀流であるキリトには左の剣がある。盾を
振った事で空いた団長の右脇に左の剣で横一閃。しかしそれも団長
の剣によって阻まれた。
少しの間を作っては連撃を叩き込み、死角の右側に回り込んでは連
撃を叩き込みを繰り返すが、一撃たりとも団長の盾の向こう側に届く
事はなかった。
そして団長はそのルーチンに慣れてきたのか、キリトの猛攻の中で
時折反撃を織り交ぜキリトの体を掠める。
そして遂にキリトのほぼ一方的攻撃が終わりを告げる。
連撃後のサイドステップをした瞬間に団長のシールドバッシュが
キリトの胴体にもろに入り、キリトの体が2メートルは飛ぶ。もしあ
れが神聖剣のソードスキルが込められていたら終わってたんだろう
なぁと心の中で残念がると隣から腹に裏拳が飛んできた。
団長は十字盾を構え着地後のキリトに突進。シールドバッシュで
距離を詰め、先程とは違いキリトからの連撃を悠々と受け止め、時折
殆ど隙のないように見える攻撃の隙間に死角からの急所突きという
嫌らしく、しかし恐ろしいほど強力な技が披露される。これにはキリ
133
トも苦悶の表情をする。
団長はこの流れを攻め時と見たようだ。団長の剣と盾が純白の光
を帯びる。ユニークスキル﹁神聖剣﹂の発動に観客がここ一番の大盛
り上がりを見せる。
﹁神聖剣﹂、そのユニークスキルはある人はボスの一撃をもノーダメー
ジで防ぐ防御特化と言い、ある人は逆に相手に与えるダメージを飛躍
的に高める攻撃特化とも言う。しかしどちらも違う。
神聖剣は、二刀流と同じく神聖剣だけのソードスキルと、二刀流の
ように特性があるだけだ。が、その特性こそ神聖剣の真骨頂と言える
だろう。その特性とは、剣に防御判定を、盾に攻撃判定を与えるとい
うシンプルな物だ。
剣に防御判定を与えるというのは剣の耐久値の減りが少なくなる
だけだが、盾に攻撃判定を与えるという事は盾が剣と同じように武器
として使えるという、手数で有利に立っていたキリトと同じ土俵に、
いや、防御範囲が広く相手の視界潰しが出来る分団長の方が有利にな
るという事だ。
更にもう一つ、厄介な事がある。神聖剣の発動している時、剣と盾
が純白の光を帯びるのだが、神聖剣のソードスキルのエフェクト光、
その殆どが純白なのだ。つまり、ただのソードスキルなら発動タイミ
ングが分かるのだが、神聖剣のソードスキルの場合いつ発動されるの
か分からない。ただの攻撃だと思って防御したらソードスキルで一
撃貰うという事もあり得るのだ。
俺は一度距離を取って体制を整えるだろうと思っていたが、キリト
は神聖剣のエフェクト光に恐れず立ち向かった。
先程と全く同じテンポの連続攻撃からのサイドステップによる死
角移動をし始めたキリトに対し、団長はもう終わりだと言わんばかり
に少し体を後退させ、盾を水平に構えて突き出す。あれがただの攻撃
なのか神聖剣のソードスキルなのかは全く分からないが、当たれば判
定勝ちはするだろう。そしてその一撃は今までのキリトの攻撃速度
から見てキリトが避けるのは難しいタイミングと速度だ。
次の攻撃の為に前傾姿勢になっていたキリトの顔面に盾の先端が
134
迫る。
これで終わりと思いたいけどキリトの場合持ち前の反射神経でな
んとかなるんだろうなぁと思っていたら案の定キリトは前傾姿勢か
ら前に倒れこむように更に姿勢を低くする事で盾を回避した。
盾を掻い潜り、団長の懐に入ったキリトの左の剣が団長の胴に伸び
る。団長はそれを剣で真上に弾くが、先も言ったように二刀流のキリ
トは両手に剣を装備している。右の剣が右下から振り上げられる。
盾は内側に入られた為使えない。剣もキリトの剣を弾く為に振り
上げている。振り降ろせば確実にキリトに届くが一度振り上げ、振り
上げてから振り下ろす剣と振られている剣とでは分が悪い。
あぁ⋮終わったな⋮と俺は俺の運命を嘆いた。
団長とキリトの剣が互いにヒットする。
俺の目には同時に見えたが恐らくキリトの方が僅かに速いだろう
な⋮。
う、キリトは難しそうな顔をして地面を見ている。
﹁今晩の飯は俺特製麻婆グラタン作ってやるから元気出せよ﹂
﹁いや、別に落ち込んでた訳じゃ⋮﹂
﹁なら麻婆グラタンは無しで﹂
135
電光板を絶望しながら見るとそこには団長が勝者だと表示されて
いた。
いやぁあと少しだったのに残念だった
俺は一転して人生でランクインするほど喜び、アスナにコークスク
リューを打ち込まれた。
﹂
﹁い い 勝 負 だ っ た な キ リ ト
なぁ
!
めちゃくちゃにやけた顔でそう言うが、よっぽど悔しかったのだろ
﹁⋮⋮﹂
?
﹁それとこれとは話は別だろ﹂
キリトも元気出たし、
﹁はいはい、作ってやるから団長が表彰されて
るとこ見ような﹂と言って闘技場の中心に運ばれた表彰台の上にいる
団長とアルゴを見る。
﹃流石攻略組の中で頭一つ練度が高いギルドの団長、見事優勝しまし
たネ﹄
﹃負けられない理由があったからね﹄
﹃最後の場面なんてとても白熱しましたネ﹄
﹃あとコンマ少しでもキリト君が速かったら私は負けていたかもしれ
ないな﹄
﹃ホントに素晴らしい試合でしタ。それでは、早速ですが団長のお願
いを拝見した所、特に問題無いと判断しましたので団長直々にお願い
﹄
控えていた血盟騎士団員に捕まり、連行された。
136
を言ってください﹄
アルゴから優勝剣を受け取った団長は観客席にいる俺、の近くにい
るアスナを見据えて、
﹃暫くの間、アスナ君には血盟騎士団団長代理として仕事して貰い、私
﹂
は暫く休暇を貰うことにしようと思う﹄
﹁⋮え
らナ
﹁じょ、冗談じゃないわ
!
そう言ってアスナは立ち上がって逃げようとするが、いつの間にか
﹂
﹃アーちゃんが﹁嘘でしょ⋮﹂みたいな顔してるけど、拒否権はないか
キリトの隣にいるアスナの顔がどんどん青白くなっていく。
?
?
extra6 コノハ﹁過去編﹂
﹂
目を覚ませばそこは見た事ない天井だった。
﹁⋮ここどこだ
今寝てるベッドから上半身を起こして周りを見る。6畳の畳部屋
に台所、冷蔵庫、本棚、箪笥、ちゃぶ台、敷き布団を詰めた、一部の
壁には修復痕があるというボロく狭い部屋が俺の部屋なのだが、今い
る場所は床はフローリング、本棚は壁1面にあり、勉強机や小型薄型
テレビなど俺の部屋に無い物や俺の部屋より色々あるのに俺の部屋
と最初考えたが
より広い。この部屋の住人が妬ましいという感想しか浮かばない。
﹁てかなんでおれここにいるんだ
昨日酒飲み過ぎて誰か自宅に運んでくれたのか
とも考えたが俺は学生しながら4つのバイト掛け持
えめなノックが扉から鳴り、数瞬して扉が開く。そこから現れたのは
さて、これからどうするか⋮とあれこれ思考してるとこんこんと控
日で縮むなんてありえないし気のせいだろう。
部屋が広いからだろうか、俺自身が縮んだ感覚に陥る。まぁたった1
そいやとふわりとしたベッドから降りる。が、少しおかしい。この
﹁とりあえずベッドからおりよう﹂
しここに過ごしたいくらいだ。
監禁ならこんな良い部屋に監禁しないだろう。俺の部屋より上等だ
つくらいには貧乏人な為そんな事される覚えもない。そもそも拉致
ら拉致監禁か
そもそも俺は酒飲まない人間だし俺のどの友達の部屋とも違う。な
?
?
烏の濡れ羽色と称するに相応しい髪を肩まで伸ばした、二十代前半か
ら後半と思しき大和撫子だった。
137
?
?
あれ誰
え
ここに俺の着替
俺あんな美人と知り
﹁やっと起きた。もう朝食出来てるから着替えたら降りてきてね﹂
﹁あ、はい﹂
そう言って女性は扉を閉めた。え
タイプなんですが。てか着替え
と混乱したが腹が鳴る音で少し冷静なった。
合いだっけ
えあるの
?
?
?
?
﹁なんでこうなった⋮
﹂
俺、絶対縮んでる。てか若返ってる。
初から誤魔化しきれなかったが誤魔化しきれない。
色々気付く点があったがありえないと思ってきたがもう無理だ。最
高いなと思ってたし手を見た時に明らかに手が小さかったしもう
避はやめよう。ああ、気付いてたよ。起き上がって声出した時には声
があったのだが、明らかに小さい。手に取って見ると⋮という現実逃
上の方にあったら詰みだよなぁと思いながら一番下の段を開くと服
ち ゃ く ち ゃ 大 き い。俺 の 身 長 は 1 7 0 あ る の だ が そ れ よ り 大 き い。
まず着替えだよな、と箪笥に近づく。近づいて分かったが箪笥め
﹁めしくったらなんでおれここにいるのかきいてみよう﹂
?
とほっぺを抓るが痛かったから夢
?
?
﹁てんせい、もしくはひょうい
﹂
もしかして、と俺は一つの結論に辿り着く。
ではない。
ふと、これは夢なのではないか
本当に寝ただけかと更に思い出そうとするが寝た以外記憶がない。
とに涙を流しそうになった。
トして寝て⋮うん、いつも通りだ。少し1日の出来事が数秒で済むこ
額に手を置き昨日の出来事を思い出す。朝起きて大学行ってバイ
!?
138
?
だとしたら俺は死んだ事になるが死ぬ要素が一つも見当たらない。
バイトを4つ掛け持ちしてたが時間はそれぞれ2∼3時間と短いし
睡眠もちゃんと取っていたから過労死ではないだろう。貧乏と言っ
ても趣味にお金をかける程余裕が無いだけで飯はしっかりしたもの
を食べてたし衰弱死もないし、病死も大学の健康診断で元気過ぎワロ
タと言われるくらいだったからない。人付き合いも良かった方だし
うちは貧乏だから強盗に押し入られて寝てる間に殺されたとかもな
き
ば
さ
ゆ
り
いだろう。寿命は⋮数値として見れないしこれが一番ありえるだろ
うけど、22で寿命って日本人なのに早過ぎだろ⋮。
﹁まぁかんがえてもかんがえきれないか﹂
﹂
﹃朝ご飯冷めちゃうわよ﹄
﹁いまいきます
取り敢えず着替えて降りよう。
朝ご飯を食べ終え、さっき起こしに来てくれた女性、木葉早百合が
仕事の為家を出る。
どうして女性の名前を知っているかと言うと、俺の頭の中には前世
の記憶だけでなく今世の記憶があったからだ。木葉早百合を母親だ
きりつぐ
と知りちょっと残念に思った。
母親は父親、木葉桐継が勤める会社に一緒に勤めているが、俺の子
育てもある為出社時間は遅く、退社時間が早いようだ。桐継って見る
かりん
と某魔術師殺しを思い出す。
それで、俺の名前は木葉花林。女っぽい名前だが男。生まれは20
07年5月23日、血液型はO型、年齢は今年で5歳のようだ。つま
139
!
り今は2012年で、前世は2015年だったから少しだが過去に
と思ったが5歳児が
戻ったという事になるのか。てことは今の内に成長すると思われる
企業に株を投資すれば大儲け出来るんじゃね
急に株を投資とか異常だしその投資するお金はどこにあるんだよと
いうか俺全く株情報覚えてねぇよと問題多発で諦める。
そもそもここが俺の元いた世界と同じとは限らない。てことで情
報 収 集 の 為 に リ ビ ン グ に あ る テ レ ビ を 付 け る。し か し 俺 の 部 屋 に
あったテレビはどうやら教材を見る用のようで、電源を付けたがなに
も映らなかった。
本棚から地図の乗った本を探し、調べていくが特に変わった地名は
なく、ここは俺の前世の世界とは変わりないという事がわかった。結
構残念だ。
﹁かみさまとかにもあわなかったしほんとにじゅみょうでしんでたま
たまぜんせのきおくをもってうまれたってことなのかな﹂
俺は前世を少しだけ惜しんだが、まぁ裕福な家に生まれたし強くて
ニューゲーム出来るしいっかと結論付けた。
そして10年後、暑苦しい夏の休日に親父︵最初は父さんと呼んで
いたが見た目の親父感と喋り口調から親父に変えた︶とテレビのチャ
ンネル権を争っている最中、偶々映っていたチャンネルであるニュー
スが流れる。
﹃今年の冬発売予定の完全仮想空間を実現したゲーム、ソードアート・
オンラインがβテスターの手元に明日届く予定ですね﹄
140
?
ソードアート・オンライン、略称SAOは天才茅場晶彦の手によっ
て作られたゲームだが、何を思ったのか茅場はゲーム中に死んだら現
実でも死ぬというデスゲームに変貌させる。そして主人公キリトと
元
ヒロインアスナが仲間と共にクリアを目指すと言った話だったはず。
そう、俺が転生したこの世界は前世の世界ではなくSAOの世界
だったのだ。
SAOは原作は読んだ事がないが二次小説は結構読んでいたから
と
キャラの名前は覚えているのだが、この世界に転生して10年、どん
な出来事があったのかは完全に忘れた。確かフェアリー・ダンス
か別の奴が店頭に出てた気がするからSAOはクリアしたのだろう。
俺がこの世界がソードアート・オンラインと知ったのは2年前、親
父の読んでる新聞紙の裏側に茅場晶彦、VR︵バーチャルリアリティ︶
実現という記事を見てからだ。見た時飲んでいたお茶を鼻から出し
たのはいい思い出だ。
まさか俺がSAO世界に転生していたとは思わなかった。前世で
はSAOの世界の事を何度想像したか数え切れないだろう。
しかし、それは客観的に見るから盛り上がるのだ。自分には危険が
ないから心踊るのだ。もし俺があんな状況になったらキリトみたい
な行動には出れないだろう。良くて最初の街の近くでお金を稼いで
宿で寝るを繰り返してクリアを待つくらいだ。
当時はあれこれ考え悩んだが、
﹁てか買わなければいい事か﹂
という事に気付く。そう、何故かSAOをやる前提で考えていたが
そもそもやらなければいいのだ。デスゲームなのに大量の人がやる
のはデスゲームと知らないからだ。しかし俺はデスゲームになる事
を知っている為回避できる。
とか出てるんだし今はβ
141
?
せ っ か く S A O に 転 生 し た の に S A O を し な い の は 残 念 だ が 命
あっての物種だ。後にフェアリー・ダンス
?
テスター募集にハガキを送って当たる事を祈ろうと決定した。明日
全国一斉配達だが届くかなぁと思っていると、
﹂
﹁そ う い や 花 林、今 テ レ ビ で S A O っ て い う ゲ ー ム の 発 売 と か の 話
あったよな
﹁あったね﹂
唐突に背中を孫の手で掻く親父がそんな話を切り出してきた。え、
嫌な予感するんだけど。
ほら、俺ゲームとかさっ
﹁うちの会社に、てか俺にSAOのβテスターになってくれねぇかっ
﹂
て話が来たんだけどよ、お前やってくんね
ぱりだろ
セーフ
てか当選云々なくなってラッキー
俺は即座にいいよと親指を立てる。
?
そう言って親父はチャンネルをお笑い番組に変え爆笑し始める。
俺は二階の自室に戻り、SAOが出来るという興奮と誰かに自慢し
﹂
たいという欲望を抑え切れず電話で生粋のゲーマーの友達に連絡し
た。
俺SAO出来るんだ
明日発送でβテスターにまだ届いてないはずだろ
!
?
﹁なぁ聞いてくれよ
﹃どういう事だよ
﹄
!
﹂
!
もし外れたら少しさせてくれよ
﹂
﹄
?
ら俺にやってくれって
いいなぁ
!
もし当たったら一緒にしようぜ
!
﹃え
﹁いいぜ
!
!?
142
?
﹁んじゃあ明日ナーヴギアとソフト持って帰ってくるわ﹂
!
?
!
﹁うちの親父が会社からβテスター頼まれてさ、親父ゲーム苦手だか
?
﹃あ ぁ
み﹄
そ れ じ ゃ あ も し 当 選 し た ら 届 く の 明 日 だ し 切 る よ。お や す
﹁おやすみ﹂
電話を切った後、すぐベッドに入り明日が早く来ないかと思いなが
ら意識を闇に沈めた。
次の日、ゲーマーの友達、桐ヶ谷和人も当選したようで、朝一番に
電話で報告してきた。
と聞いてきた。
こ れ で 一 緒 に ゲ ー ム 出 来 る な と 喜 ぶ と 和 人 は 俺 は ど ん な キ ャ ラ
ネームでするんだ
た。
女、自分によく似たキャラの3つを作り上げどれにするか迷ってい
俺は一発で俺様キャラと見える金髪の男、電気を発しそうな茶髪の
を開始するのだ。
は最大3つまでキャラが作成でき、その中から一つを選択してゲーム
キャラは一つの機体に一つまでなのだが、キャラメイキング時点で
というか今も掛けている。
ていたのだがキャラメイキングにめちゃくちゃ時間を掛けてしまい、
俺は朝8時には親父からナーヴギアとSAOのソフトを受け取っ
だログインの準備が終わってなかった。
時刻は11時57分、サービス開始まで3分を切っていたが俺はま
ないけどまぁ俺のは教えたし向こうが見つけてくれるだろう。
もじろうかなと言って電話を切った。あいつのキャラネーム聞いて
俺は上の名前をもじったコノハですると言うとじゃあ俺も名前を
?
﹁はっちゃけて金髪男にするか、ネカマプレイするか、ほぼ現実の俺で
143
!
行くか⋮﹂
悩んでいたら残り1分、和人がいるし流石に自重しとくかとほぼ現
﹂
実の自分のキャラを選び、ベッドに横たわりゲームスタートのコール
をする。
﹁リンク・スタート
体の力が抜け、俺の意識は一瞬で途絶えた。
体の感覚が徐々に戻り、聴覚がざわざわとした賑わいを拾い始め
る。
目を開けると、そこは自分の部屋ではなく何処かの広場のような場
所で、同じような装備をした人々が大声をあげて感動していた。
さて、後は和人を探すだけだが、ヒントが名前をもじっただけなの
はきついな。
﹁あの、すみません﹂
﹁あ、はい﹂
背後から話しかけられ、振り向くとそこにはイケメンが。イケメン
死すべしと普段は思っているがここの場合キャラメイキングで外見
はどうとでもなるので気にせず返事する。
﹂
にしてもこのイケメン、和人に似てるなぁ。和人を20くらいにし
たらこうなるんじゃないか
﹁もしかしてですけど、名前木葉さんだったりしますか
?
?
144
!
﹂
間違えてたらどうしようかと思ったよ
﹁⋮⋮あ、もしかして和人
﹁あぁ、良かった
﹂
!
?
なりたいのか
﹁どうして花林は現実と同じような感じにしたんだ
﹂
われたって話は聞いた記憶があるが和人的にはやっぱこんな感じに
びたイケメンお兄さんキャラだな。現実で妹と歩いたら姉妹に間違
どうやら俺の待ち人、和人のようだ。しかし、現実とは違って大人
!
﹁よっしゃ
﹂
で、メニュー出すにはどうするんだっけ
これ
﹂
?
公の式が成り立つ。
お前が主人公だったのかよ
!!
﹂
請主の名前はキリト。つまり申請主=和人=キリト=SAOの主人
請主を見て和人に聞くとと申請主=和人と確認した。そしてその申
パーティ申請のウィンドウが現れ、OKを押そうとした時、その申
﹁それ﹂
﹁あいよ⋮ん
﹁パーティ申請したからOK頼む﹂
﹁⋮おぉ、すげぇ﹂
よ﹂
﹁こう、右手を縦に振りながらメニューって頭の中で思えば出てくる
?
?
前ではっちゃけるのも⋮あと分かりやすいように﹂
俺剣が振りたくて仕方ない
﹁なるほど。それじゃあ合流出来たことだしこれからどうする
﹁フィールド出ようぜ
!
﹁わかった。パーティ組んでフィールドで狩りしようか﹂
!
﹂
﹁いや、最初はっちゃけようかなと思ったけど流石にリアルで友達の
?
?
?
145
!
episode16
剣技大会が終わって四日後、血盟騎士団からボス部屋を発見したと
クラディールが伝えに来た。この街に来てまだ二週間未満なんだけ
どなにその速さと言うと、
﹁ヒースクリフ様の休暇を次のボスフロアクリアまでという事にした
ら、アスナ様が単騎で⋮﹂
確かまだ75層迷宮区のマッピングって3層しか終わってなかっ
たような⋮と思ったが口にはしなかった。アスナの鬼行︵奇行︶はい
つものことだ。
クラディールが去った後、俺の所にメッセージが届く。送り主はア
スナのようだ。
余談だが、なぜアスナのメッセージがキリトではなく俺の所に来た
かと言うと、キリトとアスナは大分前にフレンド登録したのだが、そ
の日から毎日10回はメッセージを送られたり、ギルドでダンジョン
攻略する時に嘘の集合場所を教えられ、そこでアスナに拘束されてし
146
﹃そういう訳だから、明日の13:00血盟騎士団本部前の広場に75
層攻略メンバーが集まるけど、12:00にキリト君と一緒に団長室
に集合してお昼ご飯はこっちで一緒に食べましょう。あ、出来たらキ
リト君の手作りがいいな﹄
﹂
⋮あいつこの部屋に盗撮カメラか何か仕込んでね
﹁これ俺はどうすればいいんだろ⋮﹂
﹁頑張ったみたいだし作ってやればいいんじゃね
﹁まぁ、別にいいか﹂
?
キリトは﹁お昼ご飯か⋮﹂と何を作るか悩みながら台所に入る。
?
まいダンジョン攻略に参加出来なかった事などがあり、流石に切れた
キリトがアスナとフレンド解除した為だ。
フレンド解除されたその日アスナは発狂して45層のフィールド
のモンスターを狩り尽くしたとかなんとかは本当にどうでもいい話
だ。
﹁はぁぁ、2日振りのキリト君の料理美味しかったわ﹂
﹂
﹁おい待て、2日前ビーフシチューが少し減ってるなぁとは思ったが
お前が食ってたのか
﹁アスナはいつも何処から浸入してるんだ⋮﹂
そんな会話をしながらボスフロア攻略集合場所である血盟騎士団
本部前の広場に来た。アスナと別れ、キリトと今回はどうするんだろ
うと話し合ってると﹁オッス﹂と気軽な挨拶でアルゴが横にぬっと現
れる。
﹁珍しいな、アルゴも参戦するなんて﹂
﹁何 が あ る か 分 か ら な い っ て 事 で オ レ っ ち は 物 資 供 給 係 と し て 参 加
ダ。もしかしたら結晶無効化空間かもしれないから結晶だけじゃな
く解毒薬とかポーションも大量に用意したゾ﹂
﹁そりゃ心強いな﹂
﹁勿論後でいつもの二割増しお代は頂くけどナ﹂
﹁そりゃ財布が心許ないな﹂
﹁油断してると持ち金なくなるゾ∼﹂
﹁やめろ。本当にそうなりかねないわ﹂
﹁っと、アーちゃんが喋るようダ﹂
147
!?
壇上に立つアスナが﹁静粛に
プレイヤー達が静まり返る。
﹂と言うとざわざわしていた広場の
﹁前回は役割分担を細かに決めましたが25層、50層とクォーター・
ポイントのボスが他層のボスと比べ強力だった事から75層ボスも
また格段の強さを持ってる事でしょう。なのでまず本隊と調査隊を
決め、ボスフロアに調査隊が入り、本隊はボスフロア扉前で待機。調
査隊には転移結晶を内部で使ってもらい、転移が出来ても出来なくて
もメッセージを送ってもらいます。万が一ボスフロア内が転移結晶
の類が使えない場合、3分経ってメッセージが来なかった場合突撃と
いう形になります﹂
調査隊はどうするのかといった声が上がり、アスナは続きを述べ
る。
﹁団長代理であるわたし、副団長補佐であるクラディールが務めます
が、最低一グループで行きたいので残り四人はこちらから選出させて
もらいます。3分とは言え少人数でボスと直接対決するので拒否し
﹂
てもらっても構いません。キリト、コノハ、クライン、ディアベル。以
上の4人に調査隊にお願いしたいのですがよろしいでしょうか
﹁いや、待ってくれないかアスナ君﹂
は準備を﹂
ります。結晶以外の回復手段を持っていない方、装備に不安のある方
﹁それでは調査隊も決まりましたので、今から2時間の準備時間を取
残り3人も特に問題ないといった表情で大丈夫と言った。
拒否はしない。
直アスナとキリトがいる時点で危険度はそこまでないと思ったから
名前を呼ばれた俺を含めた四人に周りから視線が向けられる。正
?
148
!
アスナが解散を唱えようとした時、傍に控えていた団長が手を上げ
る。珍しいな。普段は傍観の団長が意見するなんて。
﹁もし今回も今までのクォーター・ポイントと同様に強力なボスが現
れるなら、例え後陣に本隊がいても一グループだけで挑むのは危険
だ。そして今回は3回目のクォーター・ポイント。扉が一度開いたら
次開くのが中のプレイヤーが死ぬまでという事も有り得る。それな
﹂
ら情報は無くとも全員でボスに挑んだ方が生存率は高いのではない
かね
アスナは数秒考えた後、﹁⋮⋮⋮そうですね﹂と小さく溢す。
﹁先程の四人には申し訳ございませんが調査隊は無しにし、六人一グ
ループを各自で作って2時間後に集合しましょう﹂
一度プレイヤーが入ったらそのプレイヤーが死ぬまで開かない可
能性か⋮。確かに有りえないこともないな。流石団長、俺達が考えた
事ない事を考えている。
﹁コノハ、一緒に組もう﹂
﹁まぁいつも通りだな﹂
﹁オレっちも頼むヨ﹂
﹁てことは組んであと三人か⋮﹂
残りはそこで雑談してるシリカとリズ、今回はギルドメンバーとい
ない様子のクライン誘うか。
149
?
2時間後、再び広場に集まった有志達と共に回廊結晶を使ってボス
フロア前まで来た。
﹁これより75層ボスフロア攻略に入ります。再度言いますが、ボス
の行動パターンの情報が無い為、血盟騎士団が前衛で攻撃を食い止め
ます。その間に攻撃パターンをしっかり見て、柔軟に攻撃をしてくだ
さい﹂
そう言って全員が武器を装備したのを確認すると、アスナはボスの
﹂
間へと続く鉄門を押し開く。
﹁戦闘開始
全体に喝を入れるようにアスナが叫び、開き切った扉に走る。俺達
も雄叫びをあげアスナに続く。
中はコリニアの闘技場のくらいの広さのドーム状の部屋で、光源は
ないが部屋全体が絶妙な明るさがあった。
全員が入り終えると扉が勝手に閉ざされ、一番後ろに控えていた団
長が念の為に開くか試すがびくともしてない。外には今回の作戦に
は参加してない血盟騎士団員がいるが少し待っても開かない事から
恐 ら く 団 長 の 予 想 が 当 た っ て い た の だ ろ う。次 に 開 く の は ボ ス に
勝った時か俺達が全滅した時か⋮。
視線を団長からずらし、広い空間を見渡すが、何処を見ても肝心の
ボスが見当たらない。
全員で固まって中央まで来たが何処からもボスは現れない。
﹁ボスは一体どこに⋮﹂
誰かがそう呟いた時、
150
!
﹁上よ
﹂
アスナが鋭く叫び、全員が上を見る。
ドームの天頂部、そこにそいつは張り付いていた。
全長は10メートル程。人間の背骨のような体、骨が剥き出しの鋭
い脚、凶悪な形をした頭蓋骨、鎌状に尖った巨大な骨の腕⋮。まるで
百足と蟷螂にホラー要素を混ぜたようなモンスターがこちらを覗い
ていた。
天井に張り付いていたボス、
︽ザ・スカルリーパー︾は呻き声にも似
﹂
た不気味な鳴き声を発し、脚を全て大きく広げて俺達の真上に落下し
てきた。
﹁全員離れて
﹁ひっ⋮
﹂
のように揺らめく目で狙いを定めた。
ボスはギロリと最も近くにいたずんぐりとした装備の男に赤く炎
イヤーが足を取られる。
それは轟音と共に着地、地面が大きく揺れ、俺を含めた多くのプレ
アスナの声に固まっていた全員がその場を離れる。
!
た。
﹁作戦通りわたしたちが前衛を担当します
!
!
を見極めて地道に横からダメージを与えてください
﹂
無理をせず行動パターン
だがその刃は間一髪で団長の盾によって防がれ、男は事なきを得
振り上げられた鎌は男の首を刎ねるように横薙ぎに振られる。
まその場から動く事が出来ないでいる。
男はボスの見た目と死ぬかもしれない恐怖からか尻餅をついたま
!!
151
!!
アスナの号令に全員が大声で応答し、75層ボスの攻略が始まっ
た。
﹂
アルぅぅぅ
﹂
※ここからは音声のみでお送りします︵決して作者が戦闘描写を書
きたくないわけではない⋮︶
﹁掠っただけでHP6割持っていかれた
﹁あんた結構余裕あるでしょ﹂
﹁こういう奴は腹が弱いと相場では決まっている
!
﹁さーせん﹂
﹁ちょ、こっち来んなあぁぁぁぁ
﹂
﹂﹂﹂
﹁ランサーが死んだ
﹁﹁﹁この人でなし
﹂
ボスそっちのけでバグ探しするな
﹁⋮⋮か、勝手に殺すな⋮﹂
﹁そこ
﹁ちっ⋮別にいいだろぉ﹂
﹁ふ、副団長がボスの頭の上で無双してる
﹂
﹂
これさえ終わればもうあの仕事量ともお別れ
わたしは
﹁おう、ならあの疾走しているボスの懐に飛び込んでこいヨ﹂
!
!
﹂
して︻自主規制︼︻自主規制︼の︻自主規制︼よぉぉお
﹂
キリト分が切れてもうたんや
!
転移
﹂
?
た。
神聖剣によるカウンターで削り取られ、ボスは断末魔をあげて消滅し
なんやかんや約1時間の死闘︵
︶の末、最後のHPバーは団長の
﹁キリト、ここは結晶使えない場所だから諦めろ﹂
﹁転移
﹁副団長、この所仕事と迷宮区攻略でろくに寝てなかったしな﹂
﹁あ、あれあかんやつや
!
!
152
!?
終わったらすぐキリト君に︻自主規制︼
︻自主規制︼
!
!!
!
晴れて自由の身
﹁あははは
!
!!
!
!
!
!
!
今回のボスは三回目のクォーター・ポイントとあって強かったがネ
タに走る輩も出るくらいには余裕を持って倒せた。てかアスナの無
双がすごかった。まさか鎌を弾いてボスの真正面から飛び上がり縦
回転斬りしながらボスの頭上に上がってスターライト・スプラッシュ
﹂
のコンボでボスをダウンさせるとは思わなかった。細剣って打撃属
性あったっけ。
﹁コノハ、早くこのフロアから出て転移結晶で帰ろう
﹁まぁ落ち着けキリト。今ボス戦が終わったところだぞ。周りを見て
みろ﹂
キリトに周りを見るように促す。
俺とキリトを含めたほぼ全員がHPバーが黄色に染まり、肩で息を
していたり地べたに座って天井を仰いでたりして疲れを見せていた。
アスナも無双の対価か連日の疲れか剣を脇に突き刺し仰向けに寝転
がっていた。
﹂
﹁アスナも疲れて倒れてるくらい消耗する戦闘だったんだ。もう少し
休んでから出ても遅くないだろ﹂
﹁アスナが倒れてるからこそ今が逃げるチャンスなんだろ
けて剣技を放った。
何を血迷ったのか、キリトは右の剣を光らせ、向かう先、団長目掛
た。
キリトの行動に俺が何してるんだと言う直後、キリトは駆け出し
剣を持ち直して低空ダッシュの構えをし始めた。
と、そこでキリトは団長を見たまま黙り、目を見開いたかと思うと
﹁てことは団長のHP緑伝説はまだ続いてるのか⋮﹂
いから唯一のHP緑維持。神かよ﹂
場面でカウンターを決めるとは。しかも完全パリィでHP減ってな
﹁しっかし、団長やっぱりすげぇよなぁ。HPが半分切りそうだって
!
153
!
唐突に襲いかかってきたキリトに気付いた団長は驚愕の表情でそ
れを防ごうと盾を掲げガードするが、キリトの攻撃の方が早く、その
おめェなにやっ⋮て⋮﹂
剣技は盾の縁を削りながら団長の胸に突き刺さる。
﹁キリト
団長の近くにいたクラインがキリトの凶行を咎めようと強く声を
発したがその声が段々弱くなっていった。
周りの人間もキリトを問い質そうと声を出していたがクラインと
同じような反応をする。
そりゃそうだ。キリトの剣先は団長の胸の僅か手前で止まり、団長
の上にはNPCや破壊不可能の建築物などにしか存在するはずのな
い文字が浮かび上がったのだから。
︻Immortal Object︼
直訳で不死物質、所謂不死属性。俺達プレイヤーには決して浮かび
上がる筈のない文字。それがプレイヤーであるはずの団長の頭の上
にその存在を見せつけるようにあった。
﹁だ、団長⋮これは一体⋮﹂
血盟騎士団の一人が震えた声で問いかける。
しかし団長は質問者に視線を向けず、ただじっと、真鍮色の眼でキ
リトになぜわかったのかと問いかけるように見つめていた。
﹁不死属性なんてNPC以外に持つ存在はいない。ただ一つの例外を
除いて。不思議に思ってたんだ。あいつは、何処で俺達を監視してこ
の世界を調整しているのか、って。けど単純な事を忘れてたよ。どん
茅場晶彦﹂
な子供でも知ってる事さ。﹃他人のやっているRPGを傍から眺める
程つまらないことはない﹄。そうだろ
キリトがそう言うと団長はふぅ、と言って掲げていた盾を地面に着
?
154
!
ける。
﹁そうだ。君の言う通り、私は、君達をこの世界に閉じ込めた茅場晶彦
だ。付け加えればこのゲームの最終ボスでもある﹂
突きつけられた真実は、余りにも衝撃的だった。
155
episode17
団 長 の 告 白 に 全 員 の 体 が 強 張 っ た よ う に 感 じ た。そ り ゃ そ う だ。
最強のプレイヤーが、一転して最恐のボスに変わるのだ、動揺しない
訳がない。血盟騎士団員も信頼していた自分達の団長が最終ボスと
いう激白を受け止めきれなかったのか、あるいは受け止めてショック
を受けすぎたのか数名武器を落として尻餅を着いた。
団長はそんな彼等に目もくれず、そのまま話を続ける。
﹂
﹁しかし、なぜ私が茅場晶彦だとわかったのか、参考までに聞かせてく
れないか
﹁最初におかしいと思ったのは剣技大会決勝の時だ。最後、俺の攻撃
の方が速かったはずなのにあんたの方が速かった事だ﹂
﹁なるほどね。君の力に圧倒されてオーバーアシストの力を借りたと
はいえ、人として出せる範囲の攻撃速度にしたのだが、君にはわかっ
てしまったか﹂
﹁次におかしいと思ったのはあんたがアスナが仕切っている時に口を
出す事がなかったのに、今回初めて口を出した事だ。クォーター・ポ
イントに細心の注意を払っていると思ったが、この変態的に強い攻略
組にあんたは偵察の人数を増やすように言わず全員で行くようにし
た方がいいと進言した﹂
﹁流石に君達でも今回のボスは全力で当たらないと危険だと判断した
からね。しかし君達は、私の予想を大いに裏切って余裕を持ってボス
を打ち倒した。不確定因子である君も、全十種存在するユニークスキ
ルで最大の反応速度のある者に与えられ、魔王に対する勇者の役割を
担う二刀流スキルを使いこなし、私の予想を大いに超える力を見せ、
更には私の正体を見破った﹂
﹁こ う い っ た 予 想 外 の 展 開 は ネ ッ ト ワ ー ク R P G の 醍 醐 味 だ な﹂と
言ったところで血盟騎士団の一人がふらりと団長に近づく。あの男
は確か現実世界早期帰還を希望していた⋮。
156
?
なら、もっと予想
﹁てめぇ⋮よくも⋮よくもこんな所に俺たちを閉じ込めて⋮。しかも
﹂
予想外の展開もネットワークRPGの醍醐味だと
外の展開を起こしてやるよぉぉぉ
す。
﹁この場にいる全員を殺して隠蔽でもするつもりか
?
﹁そんな理不尽で死んでしまっては君達も納得しないだろう
予定よ
キリトが睨むと茅場は﹁まさか﹂と首を振ってそれを否定する。
﹂
人権利を使って麻痺状態にし終え、ウインドウからキリトに視線を移
ヒースクリフ、茅場は目の前に立つキリト以外のプレイヤーを管理
のアイテム欄から目的の物を引っ張り出す。
て、一か八かで俺はメニューウインドウを開いて今朝整頓したばかり
そのまま操作を続け、周りの人間が麻痺状態になっていくのを見
点滅している事から麻痺状態なのがわかる。
ピタリと止まり、武器を落として倒れ伏せる。HPバーの緑色の枠が
団長が左手を振って出現させたウインドウを操作すると、男の体が
﹁残念だが、予想の範囲だ﹂
を団長目掛けて振り下ろす。しかし、団長の動きの方が速かった。
男は大剣を背中の鞘から引き抜き、力の限りと言わんばかりにそれ
?
?
157
!!
り早いが、私は一足先に最上階の紅玉宮で君達の訪れるその時を待つ
ことにするよ。私が育て上げた血盟騎士団、それに追いつこうと切磋
琢磨してきた他ギルドに攻略組の君達がいればきっと辿り着けるだ
ろう。だが、その前に、私の正体を看破した君に報奨をあげないとい
けないな﹂
﹂と書かれた青色のウインドウが現れ
そう言って茅場が左手でウインドウを少し操作するとキリトの目
の前に﹁ログアウトしますか
た。
﹁君に二つの選択肢をあげよう。君だけがこの世界からログアウトす
るか、この場で私に挑むかの二つの選択肢だ。前者は君だけが確実に
ログアウト出来るが選択の機会は今回だけ。後者は不死属性を解い
た私と1対1で挑み、私に勝つ事が出来たならこの世界に囚われた全
﹂
プ レ イ ヤ ー が ロ グ ア ウ ト 出 来 る が、も し 負 け た な ら 君 だ け が 死 ぬ。
さぁ、どちらを選ぶ
﹁⋮⋮﹂
ウインドウが砕けた。
﹁あんたに挑むに決まってるだろ⋮
せない
﹂
﹂
﹁今ここで俺だけが生きて帰っても、仲間を見捨てた俺は、俺を一生許
﹁ほう、確実に助かる道を捨て、賭けに出ると言うのか﹂
!
茅場は左側に浮かぶウインドウを操作し、HPバーをキリトと同じ
ゲー ム マ ス ター
プレイヤー
赤色到達寸前の黄色の状態に調整し、不死状態の解除をする。つま
り、茅場は神の如き存在から人の身になったということだ。
158
?
キリトはすっと手を挙げ、拳を作ってNOに叩きつけ、その威力で
?
﹁そうか⋮。ならば、私は全力で君の相手をしよう﹂
!
﹂
﹁それでは始めようではないかキリト君、君の最後の闘いを﹂
﹁⋮っ
その言葉が終わる前に、キリトはその体を茅場に向けて走らせてい
た。
首元を狙った左下からの逆袈裟斬りを茅場は後ろに下がって回避、
お返しのようにキリトの額に突きを放つ。
顔を横にずらす事で避けるが側頭部に擦り、それに応じたダメージ
がHPバーに反映され、HPバーが赤色に変色する。
頭の中で危険域を知らせるアラートが死の穴に一歩近づいた事を
知らせ、キリトは背筋が強張るのを感じたが歯をくいしばり、雄叫び
をあげる事で打ち払う。
数分、もしかしたら十分超えてるかもしれない。キリトも茅場も隙
を狙って殺す勢いで剣を振るうがお互いにその剣は相手に届かず、最
初の擦りダメージ以降HPに変動がない。このまま撃ち合いが終わ
らないのでは⋮と誰かが思ったその時、状況が急変した。
先のボス戦で酷使し過ぎたのだろう。右のエリュシデータが茅場
の盾に命中した時、激音と共にエリュシデータの刃が粉々に砕け散っ
たのだ。
長年の相棒との突然の別れにキリトの思考が止まり、それに釣られ
て体の動きが止まる。すぐにはっとするがその一瞬はこの真剣勝負
では命取りだった。
﹁さらばだ、キリト君﹂
茅場の剣がきらりと光り、命を刈り取るべく突き出された。
左のダークリパルサーで迎撃するには反応するのが完全に遅い。
キリトは自身の死を覚悟し目を瞑った。
﹁何があっても最後まで諦めるな﹂
159
!
聞き慣れた声が近くから聞こえたかと思うとキリトの体が後ろに
引っ張られた。
キリトが目を開けると、見慣れた背中から白銀の剣が生えている光
景が映った。
彼に似た背中のその男のHPバーがどんどん0に近づいていく。
遠くからシリカが絶叫気味に名前を呼ぶ事でそれがコノハだとキ
リトは理解した。
コノハのHPバーが消滅し、その体が薄く輝き始める。
慟哭の思いを押さえ込むように、キリトは剣を強く握りしめ、地を
蹴り前に出る。
コノハの体が強く輝き、砕けて出来た小さな欠片を全身で受け止め
ながらキリトは茅場との距離をほぼ0にし、左手のダークリパルサー
を大きく振るう。
コノハの体が消えた先からキリトが現れた事に茅場は目を見開く
160
が、冷静にすぐに剣を引き戻しダークリパルサーを弾き飛ばす。
茅場が勝利を確信した笑みを浮かべる。
しかし、茅場の目に写るキリトの顔は悲観や絶望といった表情では
なかった。
キリトの右手が振られる。何も持っていないはずの右手が振られ
たことで茅場の視線が右手に向けられる。
そこには、コノハの愛用していた薄緑色の剣が握られていた。
﹁ ﹂
茅場が何かを呟いたが、キリトの耳にそれは届く事なく、ジャッド
シュヴァリエの一撃が茅場の体を横断し、HPを0にした。
茅場の体はコノハと同様に光を帯びて砕け散り、その後すぐに無機
コノハ⋮﹂
質なアナウンスが﹁ゲームがクリアされました﹂とアインクラッドに
いるプレイヤー達に告げる。
﹁これで⋮よかったんだよな
?
キリトはカランと地面に剣を落とし、今はいない彼にそう呟き、世
界が光に包まれていった。
目を開けると俺は沈んでいく太陽が眩しい、どこまでも続く夕焼け
空の上に立っていた。
厳密に言えば、空の上ではなく空の上に浮かぶ水晶のような透明な
板の端に立っていて、足元では太陽の光を受けて紅に染まった雲が足
早に流れている。
僅かに何かが瓦解する音が聞こえ、その方向に目を向けると、遠く
で俺達が長い間囚われていたアインクラッドが下層から一層一層剥
がれていくようにゆっくりと、しかし確実に崩れていくのが見える。
﹁中々に絶景だな﹂
不意に、背後から声が聞こえ、振り返るとそこには茅場晶彦が立っ
ていた。
血盟騎士団団長ヒースクリフの姿ではなく、くたびれた白衣に折れ
曲がったネクタイ、フレームが少し歪んだ銀縁眼鏡にボサボサ頭とい
う、いつかに見た雑誌の姿より少しやつれている茅場晶彦だ。
茅場は少しずれていた眼鏡を直し、俺の隣まで歩いてきた。
隣に来た後、そのまま沈黙してしまい、その空気に耐えきれなかっ
た俺は口を開く。
﹁⋮なぁ、あんたはなんでこんな事をしたんだ﹂
俺は恐らく、全てのプレイヤーが思っているであろう疑問を茅場に
161
ぶ つ け た。も っ と 聞 く 事 が あ っ た だ ろ う が 今 は こ れ し か 浮 か ば な
かった。
私は空に浮
茅場は右手をズボンに仕舞い、顔を上に向けた。ふわりと風が吹
き、白衣を揺らす。
﹁なぜ⋮か。君は幼い頃、色々な事を想像しなかったか
かぶ鉄の城を想像したものだよ。そして一度想像したそれは、年が
経っても消える事なく、むしろリアルに、大きく広がっていった。そ
して私は、私の持てる力全てでこの世界を作り上げた。それだけで私
は満足する筈だった。けれど、私はこのゲームに尽力しているうちに
﹂と聞いてき
見てみたくなったのだよ。この世界がどのような未来を辿るのか﹂
﹂
茅場はそう言った後﹁君が聞きたかった事はそれか
た。
﹁⋮ここで死んだら本当に現実でも死ぬのか
このゲームはただ一人を除いて誰も死ぬ事なくクリアされた。しか
もその一人も最後の最後に死んでしまった為に、もしかしたらそんな
ルールは最初からなくて、復活の碑の前で蘇生しているが確認出来な
かっただけかもしれない。俺はそんな淡い希望を持って聞いたが、次
の茅場の言葉にそれは簡単に壊された。
﹁それについては嘘偽りはない。この世界での死は現実での死だ。コ
ノハ君はその原則に従い、死んだ﹂
心臓が止まったように感じたと同時に後悔と自身への軽蔑の波が
押し寄せてくる。あの時、茅場の選択肢を蹴りみんなと協力して攻略
を続けていれば、あの時もっと俺に力があったなら、あの時無理にで
も体を動かしコノハを掴んで引っ張っていれば⋮。様々なifが頭
162
?
?
俺は、本当に聞きたい事とは違うが、それについて遠回しに聞いた。
?
の中を占めていき、十字架のように体にのしかかる。
﹁筈だった﹂
茅場が続けて言った言葉に俺はピクリと反応する。筈だった
れはどういう事だ
そ
?
﹂
﹁よかった⋮よかった⋮
﹂
茅 場 を 飲 み 込 ん だ 光 は 勢 い が 衰 え る こ と な く 空 間 を 侵 食 し て い く。
振り返ることなく茅場はそう言い残して光に飲み込まれて消えた。
おこう﹂
彼とは、また何処かで会う予感がするからまた何処かでとでも言って
﹁あぁ、言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう、キリト君。君と
る。
雲と空を白い光が飲み込んでいき、ゆっくりと此方に近づいてきてい
茅場が白衣を翻し俺に背を向けて歩き出す。茅場の歩く先にある
﹁⋮それでは、もう時間のようだ﹂
!
コノハか生きている⋮。
﹁彼は生きている、ということになる﹂
﹁つまり⋮
信号が遮断されていたのだよ﹂
く調べると外部からのハッキングによって彼の意思とも言える脳波
のだが、死んだ筈のコノハ君がオフライン状態になっていてね。詳し
﹁君に倒された後、君をここに呼ぶ為にプレイヤーリストを見ていた
?
全てを飲み込もうと近づいてきた光に俺は抗うことなく身を任せた。
163
?
﹁退いてナースさん
くんか出来るのよ
﹂
というか貴女の体は二年近く動かし
今ならまだ意識のないキリト君の匂いをくんか
﹂
﹁落ち着いてください結城さん
﹂
﹂
てなかったのにどうしてそんなに動けるんですか
﹁愛の成せる技よ
﹁愛ってそんな事出来るんですか
﹂
﹂
誰かこの人達止めてくださぁぁい
﹂
それに貴方もなんでベッ
﹁まぁまぁナースさん、そうかっかしないで。というか可愛いですね
結婚してください﹂
﹁なんで私流れるように求婚されているの
あぁもう
!
ドから起き上がれているんですか壷井さん
﹁愛の力ですよ﹂
﹂
﹁愛って言葉便利
18⋮
17⋮
﹁16⋮
﹁この筋肉馬鹿
!? !?
滴の掛かったスタンドが置かれている。外と隣がやけに騒がしいが
る。視線を天井から横に向けると血圧や血流、脳波を調べる機械に点
端には金属のスリットがあり、そこから心地の良い風が吹き出てい
正方形のパネルが並べられて出来た真っ白な天井が見えた。視界の
目を開け、久方振りの光に目が痛くなったが、それに慣れていくと
脳に伝達される。
くさい匂い、見舞いの品に置かれた果物の匂いといった多くの情報が
SAOでは得られなかったつんとした消毒液の匂い、乾いた布の日向
そんな喧騒の中、俺の意識は覚醒した。鼻で思いっきり息を吸うと
﹂
﹂
!?
﹁一日でも早く筋肉を取り戻さねぇと⋮
﹁ミルズさんは何腹筋してるんですか
!
!
!
!
!
164
!?
!?
!
!
!
!
!
!
恐らくここは病院なのだろう。
喧騒の原因をこの目で見ようと体を起こそうとするが、少し身じろ
ぎするたけで体は思うように動かない。それもそうだ、二年近く体を
動かしてないのだから筋肉は衰え凝り固まっている筈なのだから。
ちらりと見えた細くなった両手を動かす。閉じて開いてを繰り返
し掌から凝りをほぐしていく。掌が終わったら次は肘の曲げ伸ばし、
その次は肩を回し、少しずつ動かせる部位を増やしていき、上半身全
ての凝りをほぐして動かせるようにしたら脇にある寝返りによる落
下防止の柵を掴み体を起こし、頭を覆っていたヘッドギア、ナーヴギ
アを外すと、伸びに伸びきっていた髪が視界を遮る。手で髪を整え視
界を確保し、体に貼り付けられていた電極を全て取り払い、細くなっ
た太ももからつま先までぐっぐっと揉む。ピリピリとした刺激が足
から脳に伝わり、状態異常ではない痺れるという感覚を噛み締め、足
全体をほぐし終えたら足をベッドから降ろした。辺りを見てサンダ
なった程度だが、ベッドの上で筋トレをしているエギルはあの丸太の
ように太かった腕や筋肉の鎧とまで言われた体は影も形もなかった。
﹁おぉ、キリの字、ようやく目ぇ覚めたか。オメェだけ遅ぇから心配し
たぞ﹂
165
ルを発見。足を使って引き寄せ、足の裏から伝わる感覚にこそばゆい
﹂
と思いながらサンダルを履き、点滴を支えに立ち上がってカーテンを
開く。
﹁あ、キリト君
手を振らないでください外れてしまいます
!
﹂と慌てている。その慌てる看護師の隣に立っているクラインがそ
護師はそれを見て﹁あぁ
さった腕をぶんぶんと点滴が外れるくらいの勢いで振っていた。看
の、童顔の看護師に抑えられている白色の病院着のアスナが点滴の刺
右に目を向けると病室の入り口で目測150あるかないかくらい
!
の 様 子 に 鼻 血 を 出 し て い る。二 人 は あ の 世 界 の 体 格 よ り 少 し 細 く
!
﹁そうよ
﹂
もう心配で心配で他の病院からタクシー使って来ちゃった
死んじまったら現実でも死ぬってルールを。そんであいつは、最期
﹁キリの字、一番初めに聞いた唯一にして絶対のルールを忘れたのか
﹁いや、コノハは生きてる﹂
も心なしか腹筋する速度が下がった気がする。
ラインの言葉にアスナもあっ⋮と言った表情になり顔を伏せ、エギル
クラインが鼻にティッシュを詰めながら重い声でそう言った。ク
﹁⋮コノハの件は⋮その⋮残念だったな﹂
!
の最期にあっちで死んじまった⋮﹂
﹁⋮俺が少しこっちに帰ってくるのが遅かったのは、茅場と話してた
からなんだ﹂
二人の顔が驚愕に変わり、エギルも腹筋を止めて耳を傾ける。ナー
﹂と別の意味で驚愕している。が、俺は構わず話を続ける。
スさんが﹁こ、この娘、下半身に力入ってないように見えるのに全く
動かない
?
気信号は遮断されてたらしい﹂
政府かしら
?
﹂
﹁そりゃそうだな。けどアイツが何処にいるのか検討は付いてんのか
﹁それはわからない。けど、コノハが助かったならなんでもいい﹂
﹁外部からのハッキング
﹂
﹁茅場が言うには、あの時、外部からのハッキングでコノハの意思、電
!?
﹁本名は知ってるからパソコンさえあれば調べられる﹂
﹁ここで俺の出番って訳だな﹂
そう言ってエギルはベッドの下をごそごそ探り、黒いノートパソコ
ンを引きずり出した。
166
!
?
?
﹁俺と嫁さんに感謝するんだな﹂
﹁ありがとうエギルの嫁さん﹂
﹁いやそこは俺にも感謝しろよ﹂
待ってろよコノハ、いや花林。必ず会いに行くから。
当たり前だがアスナは現れた黒服の男達に元の病院に連行された。
167
extra7 竜使いとの出会い 前編
シリカはプレイヤーの中では珍しい、モンスターの飼い慣らしに成
功した、モンスターテイマーと呼ばれる存在だ。
しかもその飼い慣らしに成功したモンスターはフェザーリドラと
呼ばれる、水色の体毛に包まれたドラゴンだ。彼女は現実で飼ってい
た猫と同じ﹁ピナ﹂という名前を付けた。
ピナは滅多に出会う事が出来ない、所謂レアモンスターで、直接戦
闘力は使い魔としての域を出なかったが、代わりに幾つかの特殊能力
を身に付けていた。
その特殊能力の中にプレイヤーのHPを回復させるヒール能力が
あり、アイテムを使わない回復手段は多くのプレイヤーにとって喉か
ら手が出るほど欲しい物であり、シリカは様々なパーティやギルドか
ら勧誘を受けてきた。
﹂と言ってパーティ解除をして引き止めるリー
プレイヤーの﹁まだおばさんじゃないわよ ﹂という台詞にだけ﹁わ
﹂と反撃していた。
ついおばさんがいようともこのパーティと一緒に行動すべきだった。
しかしこの時シリカは、例え気に食わなくて化粧が濃くて香水がき
たしから見たら20代後半はおばさんです
!
!
168
数ある中でシリカは女性が一人いたパーティを選んだが、その女性
プレイヤーに不満が少しずつ溜まり、35層北部に広がる森林地帯、
通称︽迷いの森︾での冒険を切り上げる時に、女性プレイヤーの﹁ア
イテム分配だけど、あんたはそのトカゲで回復出来るし回復結晶いら
ないわよね﹂の一言に﹁あなただって槍使いの癖に前線に出ないで後
﹂と即座に反撃。売り言葉に買い言
ろでちょこまかしてただけじゃないですか。パーティの貢献度の低
いあなたの方がいらないでしょ
アイテムなんて
!
こんなおばさんといたらわたしまで老けそうなので
パーティ抜けます
いりません
フーフーと興奮した状態でシリカは﹁もういいです
の後キャットファイトが始まり、パーティメンバーに止められた後
葉の後女性からのビンタにシリカぷっつんと切れて鳩尾に頭突き、そ
?
ダーに耳を貸さずに枝分かれした道をずんずん進んで行った。女性
!
!
彼女達がいた︽迷いの森︾と呼ばれるダンジョンは、碁盤状に数百
のエリアで分割され、一つのエリアに1分留まると東西南北の隣接し
たエリアがランダムに入れ替わるという厄介な設定が施されている
為に︽迷いの森︾と呼ばれていた。森を抜けるには1分以内に次々と
エリアを踏破するか、主街区の道具屋で販売している高価な地図アイ
テムで四方の連結を確認して進んでいくしかないのだが、地図を持っ
ているのはリーダーで、制止を振り切り別れた手前戻るのも躊躇われ
るし、何よりあの年増がいるのがシリカにとって耐え難い苦痛だった
故にシリカは後ろを振り返らず森を突き進んだ。
だが、曲がりくねった小道を木の根を避けながらを突き進むという
のは思っていたより時間がかかり、北へ進んでいる筈が、エリアを超
える前に1分が経過してしまい、どことも分からない場所に飛ばされ
を繰り返し、シリカは疲労困憊してきてしまった。
やがてエリアを1分以内に抜ける事を諦め、運良くエリアが森の端
に飛ばないかなと期待して歩き始める。
時間が経ち、やがて辺りは宵闇に包まれ、モンスターが活発に動き
始め、モンスターと出会う頻度が高くなる。
レベル的には余裕なのだが、足場が悪い森の中、二対多を連戦して
いれば疲労は加速的に溜まっていく。
シリカが森最強クラスのモンスター﹃ドランクエイプ﹄3匹を相手
取り、そのうち1匹を倒した時、疲労で注意力が落ちていたシリカは
足元を張っていた木の根に足を取られ転倒してしまう。
その隙に襲い掛かるドランクエイプの頭に自身の武器である短剣
を投擲スキルで投げて倒すが、倒された1匹の後ろからもう1匹が棍
棒が振るわれる。
それはシリカの頭をヒットし、大きく吹き飛んだ体は木にぶつか
り、少しの木の葉が舞い落ちる。
運悪く状態異常﹁目眩﹂になってしまったシリカは、揺れる視界の
中、HPが4割も失われ危険域である赤色になっている事に気付く。
ドランクエイプが低い唸り声を口から漏らしながらシリカに近づ
く。
169
武器は手元にない。回復アイテムを出そうにも定まらない視点で
メニュー欄を操作する事も叶わない。
絶対絶命の中、粗雑な武器がシリカに目掛けて振り下ろされた。
ここでわたし死んじゃうんだ⋮と他人事のように思うと同時に現
実にいる父に会いたい、死にたくないと涙を零す。
その時、視界が青で埋まり、衝撃音と共に体に何かがぶつかった。
目眩が治り、飛んできた物を見ると、それは1年共に戦い、生きて
きたピナだった。
ピナのHPバーは消滅し、ピナは小さくキュルル⋮と鳴いて小さな
ポリゴンとなって砕け散り、その後に蒼い羽がふわりと落ちた。
﹁ぴ⋮ピナ⋮﹂
シリカは落ちた蒼い羽を拾い、呼びかけるも返事は返ってこない。
顔を上げると残り1匹だったドラングエイプが5匹増えて6匹に
なって逃げ場なんてないぞと言わんばかりにシリカを囲んでいた。
﹁ごめんねピナ⋮﹂
それは自身の不甲斐なさの謝罪か、せっかく助けてくれた命をその
まま散らしてしまうことに対する謝罪か。シリカは羽をぎゅっと抱
きしめそう呟いた。
ドランクエイプが一斉に襲いかかり、シリカは無残に殺されようと
したその時、木の上から真っ黒な物体が静かに降り立つ。
目を凝らして見ると黒いのは服で、落ちてきた物体は男のようだ。
男は腰にぶら下げていた鞘から美しい緑色の剣を抜き、翡翠色の残
像が残る程の速さで横に振るうと、一瞬にしてドランクエイプ達6匹
の体が上下に分断され、ポリゴン片に変わってしまった。
シリカはその光景に目を見開く。シリカは中層プレイヤーと呼ば
れる、攻略組までとは言わないがレベルを上げているプレイヤーだ。
しかも中層プレイヤーの中でもシリカは上位に位置しているのだが、
170
ドランクエイプの群れを相手取る事は出来るが一瞬で倒す事はまだ
出来ない。つまり目の前でそれを成し遂げた黒服は自分以上の力量
の持ち主だと分かる。
因みに今現在攻略組が攻略しているのは56層だが、なぜ35層に
ある迷いの森をシリカ達が探索しているのかというと、攻略組はその
名の通り攻略に専念しているため︽迷いの森︾のようなサブダンジョ
ンを全く手を付けずに行く為お宝目当てで探索していた。それ故に
ここに攻略組と思われる程の力量の持ち主がいる事に驚いたのだ。
男は振り返り、木に凭れるシリカを、シリカは振り返った男を見た。
短く切り揃えた黒髪に黒い金属が貼り付けられたような服、黒い金
属ブーツに黒い小さな盾と全身が黒に染められ、持っている剣も闇に
溶け込むような漆黒の刃で、全身が黒で統一されていた。
﹁あ、あの、助けていただいてありがとうございます﹂
171
助けてくれた人にはお礼を言いなさい。父からの言葉を思い出し
シリカは礼を言う。
男は剣を鞘に仕舞い、口を開く。
﹁礼はいらん。偶々寝てた場所が揺れ、俺の目が覚めた時、目の前で惨
事が起きようとしていた。そしてそれを防いだ。ただそれだけだ﹂
﹂
男はぶっきらぼうにそう答え、シリカは男の言い方にむっとする。
﹁わたしの名前はシリカって言います。あなたの名前は
たような顔をせず名前を告げる。
を直すだろうと考えた故の自己紹介だったのだが、男は微塵も気にし
層に名を馳せている。この男も自身の名前を聞けば少しはその態度
ピナを飼い慣らした時から﹁竜使いシリカ﹂として幅広いプレイヤー
シリカは自己紹介をするのが自然のようにそう言った。シリカは
?
﹂
﹁俺の名前はコノハ。闇に紛れる一匹狼だ﹂
﹁ぶはっ
この自己紹介にシリカは盛大に吹いた。
これがコノハとシリカの初会合であった。
172
!
extra7 竜使いとの出会い 中編
﹁す、すみません。命の恩人なのに笑っちゃって﹂
﹁いや、構わない﹂
あの後、すぐにハッとなったシリカは立ち上がって頭を下げるが、
コノハは気にした様子を見せず、降りてきた木の幹に足をかけて登ろ
と
うとする。木の上にはハンモックが吊るされてあり、寝ていたと言っ
﹂と少し上擦った声で引き止める。
ていた事と彼が木を登るという事を合わせるとまた寝るのでは
﹂
思ったシリカは﹁あの
﹁なんだ
﹂
なら最上層でレベ
?
﹁え⋮何が⋮ですか
﹁我慢するな﹂
﹂
﹁だから何を言って⋮っ
﹂
?
のだが、コノハの言葉によってその試みは打ち砕かれ、止めていた涙
シリカは少しでもピナを失った気持ちを紛らわせようとしていた
シリカの声は、コノハと話している間ずっと震えていた。
﹂
﹁⋮まぁ、な⋮それより、大丈夫か﹂
くらいの広さのダンジョンなら上にまだあるんじゃないですか
﹁けど、それでも35層にした理由が分からないんです。ここと同じ
いる﹂
ちてる事もあるからコルも貯めれる。だからここでレベリングして
にこの広大なダンジョンだと枯渇は起こりえない。その上宝箱も落
こだと集団で出てくるから1体の経験値が少なくとも数で補える上
﹁⋮確かに俺は攻略組だが、最上層だと1体にかかる時間が長い。こ
リングしたほうが経験値効率が良いと思うんですけど﹂
﹁でもコノハさんの実力なら多分攻略組ですよね
﹁レベリング。今まで仮眠していたが起こされた﹂
﹁コノハ、さんは、ここで何をしていたのですが
!
!
?
173
?
?
?
がボロボロと再度流れ始める。
﹂
﹁泣けば少しは気が晴れる﹂
﹁⋮う、うわぁぁぁん
泣きに泣き、気持ちが少し楽になったわたしにコノハさんが黒の剣
と緑の剣が刺繍されたハンカチを出し、
﹁使え﹂と言った。わたしはそ
﹂
﹂
れを受け取って腫れた目元に残った涙を拭う。
﹁少しは楽になったか
﹁はい⋮あ、ありがとうございます⋮﹂
﹁構わない。それで、これからどうするんだ
地図はちゃんと持っているのか
帰って荷物を纏めようと思います﹂
﹁一人でか
﹂
﹁今から暗くなっていきますけど、この森から出て35層の主街区に
?
?
﹂
嘩して離脱しちゃって⋮地図はそのパーティのリーダーが持ってい
ます⋮﹂
﹁ならどうやってこの森から出るつもりだ
﹁闇雲に歩いていればいつか﹂
﹁やめておけ。死ぬぞ﹂
﹁あなたには関係ないです﹂
て、少し経つと全ての模様がランダムに入れ替わる不思議な地図。そ
オブジェクト化したのは地図だった。碁盤状の模様が描いてあっ
コノハさんがメニューを操作して何かをオブジェクト化する。
はない﹂
﹁こうして顔を合わせて名前を知ってしまった以上、無関係なんて事
?
174
!!
?
﹁途中までパーティと探索してたんですけど、パーティメンバーと喧
?
﹂
れはパーティのリーダーが持っていたのと同じ、迷いの森の地図だ。
﹁貸してくれるんですか
﹂
てやる。ただし、出るのは今から3時間後だ﹂
﹁3時間後
﹁お前は今の自分の状態でこの森から出られると思うのか
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ただの偽善だ﹂
﹁⋮どうしてここまでしてくれるんですか
﹂
﹁3時間後には出発する。それまでに体力回復しておけ﹂
﹁え、でも⋮﹂
﹁寝ておけ。俺が見張っててやる﹂
コノハさんは親指をハンモックに向けて続けて言った。
らひとたまりもないと思う。
る。もし次ドランクエイプなどに集団で襲われたらピナがいないか
で、いつ死ぬかもわからないという精神的疲労が溜まりに溜まってい
なかったから回復アイテムの節約の為に体力も回復していない状態
回りモンスターを倒し続けて肉体的疲労が、回復アイテムも分配され
確かに、日が昇り始めた頃からこの森を探索、途中から一人で走り
﹂
﹁そんな事をしたら俺が帰れなくなるだろ。俺もお前と一緒に森を出
?
になる。ゆらゆらと不安定な寝床だけど、その揺れと体全体が沈む感
ございます﹂と言ってコノハさんの横から木に登り、ハンモックに横
りこの人と居た方が安全だろうと完結させたわたしは、﹁ありがとう
考えるのが難しくなるくらいの睡魔にも襲われて、一人で森を出るよ
人と居る事で安心したからか、わたしの体は重みを増していく。頭で
偽善と言い切ったコノハさんを信用していいのか分からないけど、
取り始める。
そう言ってコノハさんは座り込み、メニューを開いて誰かと連絡を
?
175
?
?
覚に、心地良さを感じながらわたしの意識は睡魔に溺れていった。
﹁起きろ﹂
その一言とハンモックの下から突かれる感触にわたしは深い眠り
から覚めた。目を開けると木々の隙間から見えていた群青色だった
空は真っ黒で、完全な夜になるくらい時間が経ったんだと思った。そ
していつも傍らにいたピナがいなくて、ほんとにいなくなったんだと
実感して心にぽっかり穴が空いたような感覚になる。
起き上がって下を見ると、コノハさんがあの宝剣を腰に戻してい
た。
﹂
どうしてですか
﹂
?
﹁出来るんですか
﹂
﹁⋮けど47層ですか⋮﹂
使い魔蘇生用のアイテムであるプネウマの花が手に入るらしい﹂
出の丘﹂の頂上に、使い魔を亡くしたビーストテイマー本人が行けば
﹁信頼出来る情報屋から手に入れた情報だと、47層の南にある﹁思い
て心配そうな顔のコノハさんに続きを求める。
みほどじゃないけどそれなりの痛みに悶絶した後、すぐに立ち上がっ
身を乗り出したためハンモックから落ちてしまう。現実世界の痛
!?
176
﹁気分はどうだ
﹁え
﹁そうか。街に帰って休憩したら47層に行くぞ﹂
﹁はい、だいぶ良くなりました﹂
?
﹁お前の相棒を蘇らせる﹂
?
わたしは中層プレイヤーの中ではかなり腕が立つ方だと思います
が、それでもレベルは48。安全マージンを考えると最低でも階層に
10足した57は欲しいところで、そのレベルになるには9も上げな
くてはなりません。一体どれだけ先になるか⋮。
﹁俺が付いて行ってやるから安心しろ﹂
コノハさんは当たり前のようにそう言いました。攻略組としての
レベリングとか迷宮区攻略はいいのか聞こうと思いましたが、1日で
も早くピナに会いたいわたしはその話を飲み込んだ。
﹂
コノハさんはハンモックを仕舞い、マップを広げて位置を確認し終
なんでわたしを抱えるんですか
えると、何故かわたしを脇に抱える。
﹁え
トが⋮
機動性のいいミニスカートを履いているから抱えられたらスカー
!?
﹂
!
﹂
﹁今 は い な い で す け ど 移 動 し た ら い る か も し れ な い じ ゃ な い で す か
﹁後ろには誰もいないから別にいいだろ﹂
﹁でもこれ後ろから見えちゃいます
﹁これが一番移動速度が速いからだ﹂
!
177
?
﹁こんな夜中にいないだろ﹂
!
﹁見られた⋮見られた⋮見られた⋮﹂
運良く出口に近い場所に居た事もあり10分という短い時間で迷
いの森から無事出ることが出来たわたしとコノハさん。しかし途中
で迷いの森を歩いていたパーティ︵しかも前に一度パーティ勧誘して
くれた顔見知り︶に当たり、わたしのスカートの中が見られたという
﹂
大事件があったのですが、コノハさんは特に気にした様子はなく脇に
抱えたままのわたしに話しかけてくる。
﹁なに落ち込んでるんだ﹂
﹁コノハさんのせいで顔見知りにスカートの中見られたんですよ
﹂
﹂と疑問符を浮かべ、コノハさん
﹁俺が悪いんじゃない。お前の運が悪いんだ﹂
﹂
﹁屁理屈捏ねないでください
﹁屁理屈もりく⋮
コノハさんの顔が急に強張る。﹁
!?
﹂
ていました。その煙は段々大きくなり、一つの人影がわたしたちに向
﹂
﹂
かってに爆走しているのがわかります。
なんの話ですか
﹁あの野郎もう売りやがったか⋮
﹁へ
﹁街に行くから掴まってろ
!
移動は初めてで慣れません。
いる35層の主街区ミーシェに立っていました。転移結晶を使った
眩しさが消え、目を開けると現在わたしが拠点とし、寝泊まりして
眩しさに目を閉じる。
を口早に唱え、転移結晶が輝き、コノハさんの足元から立ち上る光の
コノハさんは懐から転移結晶を取り出して35層の主街区の名前
ミーシェ
転移
!
?
178
!
が固まった原因があると思われる視線の先を見ると、僅かに煙が立っ
?
!?
!
!
?
﹁あの、転移結晶って高価な物じゃ﹂
風の噂で聞いた所に寄ると、転移結晶は珍しく、攻略組でも持って
る人は5人に1人位、希少な上に効果は強力な為市場価格はとんでも
ないことになっているとか。そんな物をこんな所で使って大丈夫な
のでしょうか
﹂
﹁飯食っていくか
﹁⋮はい﹂
﹂
ぐぅぅと空腹のサインを出す。
扉を開けた時に鼻腔をくすぐり、余り食べ物が入ってなかったお腹が
風見鶏亭に着くと、誰かが頼んだと思われるピザの香ばしい匂いが
点にしている。
泊費の安さ、雰囲気、そしてなによりここのチーズケーキが好きで拠
風見鶏亭。一階は大衆食堂、二階は宿屋になっていて、わたしは宿
と思い、コノハさんを風見鶏亭に案内した。
うかと気になりましたが、この場で立ち止まっていても時間の無駄だ
目は、まるで借金取りに追われているような目で、何があったんだろ
コノハさんはわたしを降ろして背後、迷いの森の方向を見る。その
﹁は、はい﹂
﹁風見鶏亭⋮聞いたことないな。降ろすから迅速に案内してくれ﹂
﹁あ、えと、 風見鶏亭って食堂の二階です﹂
は何処だ
﹁緊急だったから仕方ない。それで、シリカが寝泊まりしている宿屋
?
わたしとコノハさんは窓際の二人席に座ってウエイトレスさんに
味の男の人以外には誰もいません。
時刻は10時と遅いからか、店内にはピザを食べるちょっと太り気
コノハさんの誘いをちょっと気恥ずかしさを感じながら受ける。
?
179
?
﹂
注文した後、今後の予定について話をした。
﹁シリカは今のレベルは
﹁48です﹂
こんなに装備を﹂
いが、手持ちのコル全額を入力する。
﹁いや、金はいらない﹂
﹁でもただで受け取るなんてわたしの気持ちが⋮
﹂
わたしは何度目ともわからない感謝を言ってトレード項目に少な
﹁ありがとうございます⋮﹂
らえたら嬉しい﹂
は上等な装備だし、必要としてくれる人がいるならその人に使っても
﹁言って悪いがそれは攻略組としてはもう型遅れなんだ。だがここで
﹁いいんですか
だろうし、俺がいるから無茶をしなければなんとかなるだろう﹂
﹁これを装備すれば少なく見積もって5レベルくらいは底上げ出来る
ナイフ﹄とわたしが聞いたことのない装備名が並んでた。
される。そこには﹃フェムルドレス﹄
﹃フェムルブーツ﹄
﹃ダンシング
コノハさんがそう言うとわたしの前に半透明のシステム窓が展開
一式がまだあったな﹂
﹁てことは安全マージンが全く足りないのか⋮確かこの間拾った装備
?
コノハさんが言うのも憚れるといった顔で言う。わたしとしては
がある﹂
﹁まだ見知ったばかりでこんな事を言うのもあれだが、代わりに頼み
!
180
?
ここまでしてくれたコノハさんの頼みは聞きたいので﹁なんですか
﹂と聞く。
?
﹁色々理由があって、シリカの部屋に泊めさせて欲しい⋮﹂
﹁え﹂
流石に急展開過ぎませんか
わたしの頭はあまりの急展開に真っ白になり、少ししてから何を考
えてか﹁理由を教えてください﹂と言う。いつものわたしなら一瞬で
憲兵を呼んでいましたがコノハさんは命の恩人ですし色々理由があ
ると言うくらいです。聞かないわけにはいきません。
﹁⋮それは言えない。頼む、鎖で縛ってタンスの中にいれてその上か
ら鎖で固めてくれても構わない﹂
﹁⋮⋮わかりました﹂
コノハさんの懇願に、わたしは了承し、装備を受け取った。ご飯を
食べ終えた後、わたしは今寝泊まりしている部屋にコノハさんを案内
﹂
﹂
した。普段から部屋の中は綺麗にしていてよかった。
﹁俺はどこで寝ればいい
﹁え、と、お風呂場かタンスどちらがいいですか
﹁君が安心する方で構わない﹂
﹁それならタンスでお願いします﹂
﹁わかった﹂
コノハさんがビクゥッ
と体を震わせた。
﹁もし俺について聞いてきたら知らないって言ってくれ
コノハさんはそう言ってタンスの中に引きこもった。
﹂
をしたとても綺麗なお姉さんがいた。しかも服はあの攻略組として
わたしは一体誰だろうと覗き穴から外を見ると、そこには栗色の髪
!
181
!?
コノハさんの寝床を決めた時、コンコンと控えめなノックが鳴り、
?
?
!
有名な血盟騎士団の白と赤の騎士服だ。なぜ攻略組の方がここに
と思いながらドアを開ける。
﹁初めまして。わたしは血盟騎士団副団長を務めるアスナです﹂
﹁貴女が竜使いの
噂は前線まで届いてるわ﹂
﹁は、初めまして。シリカです﹂
ここに
密かに憧れている。しかし、多忙のはずのアスナさんが一体どうして
れでもある。かく言うわたしもアスナさんのように強くなりたいの
立って数多くの迷宮区、フロアボスを攻略した、女性プレイヤーの憧
では珍しい女性プレイヤーだと耳にした事がある。攻略組の先頭に
血盟騎士団のアスナさん。確か閃光の二つ名を持っていて、攻略組
?
を言う。
?
﹂
﹁コノハっていう男を探しているのだけれど、シリカちゃん知らない
﹁それで、アスナさんはここに何しに
﹂
ピナを想って悲しいと思ったが、悲しみは悟られないように笑顔で礼
わたしの噂が前線まで届いてたんだと嬉しい反面、その象徴である
﹁あ、ありがとうございます﹂
?
のかな
﹂
気になったわたしはアスナさんに質問してみた。
でも血盟騎士団副団長に追いかけられるってコノハさん、何
をしたのだろう
﹁アスナさんはどうしてその人を探してるんですか
そう聞いた途端ぞわっと、笑顔のはずのアスナさんから得体の知れ
?
?
?
182
?
コノハさんの事について聞いたという事は、この人から逃げていた
?
ない何かが漏れ出した。黒いもやの様な物が足元を流れるような幻
覚を見るくらい恐ろしかったです。その時のわたしはそれが何か理
﹂
解できなかったけど、後になってそれが殺気と呼ばれる物だという事
ただ会いたいだけよ
が分かった。
﹁⋮いえ
﹁それでシリカちゃん、コノハを知らないかしら
?
﹁そう⋮。こんな夜分にごめんね
協力ありがとう﹂
出すのも気がひけるので﹁知らないです﹂と恐怖で震えた声で答えた。
流石にこんな状態の人に渡すのも酷ですし、何より命の恩人を差し
﹂
力強い音が鳴るくらい握ってて会いたいだけなんてありえないです。
嘘だ。目からさっきまであった光が消えていて、手をグググ⋮って
?
捜索されているんですか
﹂
﹁けどちゃんと話してください。どうしてコノハさんは血盟騎士団に
﹁あぁ⋮ありがとう﹂
﹁行きましたよ﹂
ける。
わたしは扉を閉め、鍵を掛けてコノハさんが隠れているタンスを開
そう言ってアスナさんは次の部屋にコノハさんを探しに行った。
?
﹂
ゔぇぇって。
コノハさんは驚きの余り変な声をあげた。ゔぇぇってなんですか
﹁ゔぇぇ
﹁ちゃんと話さないと今外にいるアスナさんに突き出します﹂
﹁血盟騎士団というかアスナ個人だけどな⋮﹂
?
183
?
!?
﹁⋮わかったよ。話は3日前、俺がまだ攻略組として前線にいた時の
話だ。俺がある洞窟でレベリング兼マッピングをしていると親友、キ
﹄ってメー
リトって言うんだがな、そいつから﹃アスナから﹁わたしの部屋に来
て欲しい﹂って言われたんだけど一緒に来てくれないか
ルで来たんだ。親友の頼みだし、何よりアスナの所にそいつだけで行
かせるのは危険だと思ったからな。俺は集合場所を血盟騎士団本部
﹂
前にしてレベリングを切り上げ、50層にある血盟騎士団本部に向
かったんだ﹂
﹁どうしてアスナさんの所に一人で行くのが危険なんですか
﹁それで本部前で合流した俺逹はアスナの部屋に行ったんだが、この
でもストーカーするんですね⋮。
スナさんの凜としたイメージが音を立てて砕けた。あんな綺麗な人
血盟騎士団副団長がストーカーという話を聞いて、わたしの中のア
あったんだ﹂
﹁あ い つ は キ リ ト を ス ト ー カ ー す る く ら い 好 き で な、過 去 に も 色 々
?
﹂
﹂
うか下着姿で選んでた。入室した時に﹁いらっしゃいキリ⋮ト⋮く
ん﹂って徐々に顔が鬼になっていって⋮それからは覚えてない。命
辛々逃げ延びたと思われる俺はいつのまにかあの迷いの森に入って
たんだ﹂
﹁⋮﹂
なんというか、コノハさんを呼んだキリトさんが悪いのか、下着姿
184
?
時俺はキリトに俺がいることを伝えるよう言っておけばあんなこと
には⋮﹂
﹁な、何があったんですか
﹁⋮はい
﹁⋮部屋に入ると、アスナが着替え最中だったんだ﹂
?
﹁あいつはキリトには見られていいと思っていたんだろう。何を着よ
?
でいたアスナさんが悪いのか、はたまた予知できなかったコノハさん
が悪いのか分かりませんが、確実に言えることはコノハさんの運が悪
かったことですね。
﹁貴重品として迷いの森の地図は持っていたから困らなかったが、ア
スナから続々来る恐怖のメールから目を背ける為、アスナからの身を
隠す為に俺はあそこで3日間寝ずにレベリングしてた。経験値効率
は正直そこまでよくなかったが、何もしないよりはマシだし寝ずにレ
ベリングすれば最前線のレベリングには劣るがそれなりに経験値が
手に入るからな。けど寝ないと流石にやばいと思った3日目、木の上
にハンモックを吊って寝てた所を﹂
﹁わたしが来たんですね﹂
﹁あぁ﹂
﹂
﹂
あれを情報屋から聞いたと
のは悪いな。あれでも商売だし俺の不注意でもあるからな﹂
﹁どういう事ですか
﹁ほら、使い魔の蘇生方法を教えただろ
﹂って問いに答えちまってな。その後に﹁少
?
方なしに口止め料を払ったんだが、どうやらアスナはそれ以上の金額
ししたらアーちゃんがそっち行くと思うから注意しろヨ﹂って来て仕
きに﹁何処にいるんダ
?
?
185
これで理解した。なぜあの場にいたのか。どうして攻略組である
コノハさんが迷いの森でレベリングをしていたか。そして理由を言
えなかった理由が。
でも、なぜアスナさんはコノハさんの居場所が分かったんだろう
しょうか
﹁で も ど う し て ア ス ナ さ ん は コ ノ ハ さ ん を 見 つ け る 事 が 出 来 た ん で
はずなのに。
ノハさんのいるフロアを特定して見つけるなんて相当時間がかかる
まだ55層までしか攻略されていないとは言え、全55層の中からコ
?
﹁あぁ、それは俺が贔屓にしてる情報屋の所為だ。いや、所為って言う
?
を出したようだな﹂
﹁いくら払ったんですか
﹂
﹁20万コル﹂
﹁20
わってませんか
﹂
﹂
﹁い、いえ、これくらい⋮。さっきから思ってたんですけど、口調変
﹁まぁシリカのおかげでアスナから逃れる事が出来た。ありがとう﹂
イヤーの懐事情が気になります。
週間迷いの森で狩り続けて節約しても貯まるかどうか⋮。前線プレ
わたしの全財産がはした金に思えるくらいの金額に目が眩む。2
?
﹂
?
格を出すにはどうすればいいか。考えた結果が俺が好きだったロー
りで分かり辛い。そんなのじゃ駄目だ。なら分かりやすい強者の風
に下層に潜ったりしてるが、俺の強さは言って悪いが小手先の技ばか
思う。俺はそいつらにその恐怖を克服して勇気を持って欲しくて偶
るプレイヤーの中には死ぬ恐怖に怯えながら生きている奴もいると
らって、いつの間にか死ぬ恐怖を克服出来た。多分この世界を旅して
攻略組として今までいられたのはまわりの強さに引っ張っっても
リングをして、いつしか攻略組として前線に立っていた。そして俺が
性は変わらず付き纏うと思った俺はキリトと堅実に、けど大胆にレベ
た。周りがどれだけ強くなろうとも、自身が強くならないと死ぬ可能
かったけど、俺は死んだら死ぬって言う事実にただひたすら怖かっ
﹁そう。周りは割とログアウト出来ないという事に喜んでる馬鹿が多
﹁予想外の出来事⋮ゲームマスターによるデスゲーム宣告⋮﹂
うと思ってたんだ。けど予想外の出来事があった﹂
﹁昔から俺からロールプレイが好きでさ、このゲームをやる時もしよ
﹁どうして口調を変えてたんですか
﹁⋮あ∼、忘れてた。いや、まぁ、うん、こっちが素だから気にするな﹂
?
﹂
ルプレイで強者の風格を出そうってなってああなった﹂
﹁なるほど⋮
?
186
!?
分かったような分からないような。
﹂
﹁まぁあとは、ゲームの世界だからって調子乗ってる奴を威嚇する意
味合いもあるからな﹂
﹁調子に乗っている奴
﹂
シャワーを浴びたい気分でしたが朝にでも浴びればいいかと装備を
スの中に入れた後その上から鎖を巻きつけた。今日はとても走って
で寝ているので見られたりするのも嫌なのでコノハさんを縛り、タン
わたしはもうどうでもいい気がしないでもないですがいつも下着
ジャララと渡してきた。
コノハさんが環状の部品が線状に繋げられた物、俗に言う鎖を二つ
﹁だいぶ前に買った奴だけど使ってくれ﹂
振り返る。
コノハさんはタンスの中に帰ろうとしたときに﹁あ、忘れてた﹂と
﹁それじゃ明日は昼に47層に向かう事にして、もう寝るか﹂
﹁はい﹂
は限らない。シリカも気をつけろよ﹂
﹁まぁそれは極端な奴で、今のところいないけど、そんな奴が出ないと
﹁そんな人が⋮
るとは思わなかった、人を殺したいっていう奴だな﹂
ぬまで分からない。ならプレイヤーキルして本当に死んでもそうな
﹁そう。茅場が一方的にデスゲーム宣言したが、本当にそうなのか死
?
全て外してベッドに飛び込んだ。
187
!?
extra7 竜使いとの出会い 後編
時刻は9時。外は太陽が昇り、空は雲が無く鮮やかなスカイブルー
になっていく。
わたしはベッドから身を起こし、いつものようにピナに朝の挨拶を
しようと机の上を見たが、そこにピナの姿はなく、あぁ、そういえば
そっかと昨日の出来事を思い出す。
部屋の隅に置かれた鎖で縛られたタンスに目を向ける。その中に
は、昨日迷いの森でわたしを助けてくれたコノハさんがいる。ベッド
から降りてタンスに耳を当てると、まだ寝ているのか、すーすーと規
則的な寝息が聞こえた。
わたしはコノハさんが寝ている間にシャワーを浴び、昨日コノハさ
んから貰った装備を身に纏ってみた。
フェムルドレス、フェムルブーツ、フェムルベルト、フェムルグロー
188
ブのフェムル一式は、暗闇のような黒を基調にし、鮮やかな赤のライ
ンを所々に入れた装備だった。
特徴的な部分が2つあり、1つは片方の袖は手首まであるのに、も
う片方は肘までしかない事。もう1つはスカートの前部が膝下、後部
が脹脛まであるという変則的な長さだ。
鏡の前でくるっと回転して全体像を見る。黒や赤という暗い色は
あまり好きではなかったけど、着てみると案外いいというか、かっこ
いい気がしてきた。
次に貰った武器、ダンシングナイフを装備してオブジェクト化す
る。刃渡20cmはありそうな片刃ナイフで、持ち手の部分に道化師
が踊ってるような絵が掘られている。ダンシングというのはこれを
指しているのかな
の鞘に仕舞い、タンスをノックする。
はダンシングナイフを装備した時に腰にオブジェクト化された革製
重かったが風切り音はしっかり鳴らし、扱いきれると確かめたわたし
軽く振ってみて、前々から使っていたナイフと比べてみると、少し
?
﹁コノハさん、朝ですよ。朝ご飯食べに行きましょう﹂
タンスに耳を当てると、まだ規則的な寝息が聞こえたのでもう一度
ノックする。
﹁コノハさん、朝ですよ。起きてください﹂
﹁うぅん⋮。まだ外真っ暗だぞ⋮﹂
﹁それはコノハさんがタンスの中にいるからですよ﹂
タンスに巻かれた鎖を外し、タンスを開けると、鎖に巻かれたコノ
﹂
ハさんが眩しそうな顔でこちらを見ていた。
﹁ほら、朝ですよ
﹁あぁ⋮、そういやタンスで寝てたんだっけ俺⋮お、装備してくれた
か。似合ってるぞ﹂
﹁えへへ、ありがとうございます。あ、ここの朝ご飯は早く席を取らな
﹂
いと埋まりますから早く起きてください﹂
﹁⋮この部屋台所ある
﹂
コンロと水道くらいならありますけど﹂
﹁どうしてそんな事を聞くんですか
﹁最低限設備しかないのか﹂
﹁え
?
くないから俺が作る﹂
﹁コノハさん料理スキル取ってるんですか
す、すごい⋮﹂
﹁一応熟練度700超えだぞ﹂
﹁え
﹂
わたしも取ってますがまだ300です⋮。
?
﹂は⋮。で、一応聞くけど何食いたい
﹂
﹂
?
﹁なんだよその﹁え
﹁オムライス食べたいです
!
!?
189
?
﹁もしかしたら外にまだアスナがいるかもしれないからな。外に出た
?
?
!?
﹁おーけー、ちょっとアイテム欄見て材料あるか確かめるから鎖外し
てくれ﹂
鎖を外し、アイテム欄を確認したコノハさんは、クマのアプリコッ
トが可愛らしいエプロンを装備し、フライパンとお玉をオブジェクト
化して台所へ入っていった。
15分後、本格的なお店に置いてありそうなとろっとした卵がか
かったオムライスが2つテーブルに並んだ。美味しそう⋮とオムラ
イスを眺めているとコノハさんがケチャップと思われる赤い調味料
でオムライスの上にウサギを描いていたのでわたしもコノハさんに
お願いして猫さんを描いてもらった。
﹂
﹁それじゃ、いただきます﹂
﹁いただきます
オムライスを一口食べる。見た目通りふんわりした卵の食感、サイ
!
コロ状に切られたお肉と酸味具合が丁度良いと感じる配合をされた
﹂
ケチャップによって出来たほっこりしたチキンライス。これは⋮
今まで食べたオムライスの中で一番おいしいです
!
﹁おいしい
ありがとうございます
いたかったら食ってくれ﹂
﹁わぁ∼
﹂
!
やフィールドの話を聞いた。
立ち止まると足が飲み込まれていく沼、前後左右上下が鏡のように
なっていて道に迷うの必至な洞窟、可愛い毛玉のような生き物がいて
癒される山など、聞いていて飽きないどころかもっと聞きたいと思う
冒険談をコノハさんはしてくれた。
食後のデザートも食べ終わり、出掛ける準備が終わったわたしとコ
190
!
﹁そりゃよかった。ついでにプリン作って冷蔵庫に入れといたから食
!
ご飯を食べながらコノハさんから今まで攻略してきたダンジョン
!
ノハさんは風見鶏亭を出て転移門のある方向へ歩いていると、あの性
悪 年 増 が 視 界 に 入 っ た。し か し 一 緒 に い る の は 昨 日 ま で パ ー テ ィ
だった人達ではなく知らない人だ。
あっちの視界に入らないようにわたしはコノハさんの手を引っ張
り上手い具合に人混みに紛れやり過ごした。
この時わたしは性悪年増がこちらを見て笑っていたなんて気付き
もしなかった⋮。
ゲート広場からコノハさんと一緒に47層の主街区フローリアに
来た。
そこは無数の花々で溢れかえり、円形の広場から伸びる通路以外は
綺麗ですね
呼ばれているんだぜ﹂
﹁へぇぇ﹂
﹂
花をもう少し楽しみたい気持ちもあったが、早くピナに会いたかっ
たわたしはコノハさんに行きましょうと言ってコノハさんと歩く。
ゲート広場を出ても、コノハさんの言う通り花で埋め尽くされてい
た。
花の種類は季節関係なく数多くあり、舞い散る花びらの色も様々で
幻想的な景色だ︵ゲーム世界なので幻想と言えばそうなのだけれど︶。
﹁因みにこの層にしか咲かない花が1輪毎日ランダム配置されて、そ
れを武器強化に使えば幸運値が1上昇するらしい﹂
﹁へぇぇ﹂
191
レンガで囲まれた花壇になっていた。
﹁うわぁ⋮
!
﹁この層はフロア全体が花に包まれてて、別名︽フラワーガーデン︾と
!
そんな雑談をしていると大型の花のモンスターと初エンカウント
した。
あれ、あれぇ
﹂
うねうねとツタを動かし、花の中心にある口から粘液を垂れ流すそ
れはとても気持ち悪かった。
﹁こ、こここここ、コノハさん
足首に何かが当たる。
﹁行ってこいの字違いませんか
って、え
﹂
だから大丈夫。危険だったら助けるし逝ってこい﹂
切ればいいダメージになる。今の装備ならちょっと苦戦するくらい
﹁あぁ、あれの弱点はあの花の下あたりにあるあの白いやつな。あれ
!
タに力が入り、あっという間に天地が逆転した状態になった。
﹂
ナイフを持ってない手で下がるスカートを押さえる。
﹁み、見ないでくださいコノハさぁぁん
﹁あ、ちょうちょ﹂
﹁こっち見てないのは嬉しいけどそれはそれでなんか悔しいです
﹂
即座にナイフを取り出し切ろうとしたが、察知されたのかぐっとツ
先はあの花のモンスターに繋がっていた。
下を見ると植物のツタがぐるぐると足に巻きついてきていて、その
?
た。
背後に向くとコノハさんは珍しい色をした蝶々をぼぅっと見てい
砕け、35層のモンスターより多い経験値が入る。
くるりと回転して地面に着地と同時に花のモンスターはパリンと
入った所でソードスキルで斬り刻んだ。
体が落ちていき、コノハさんが言っていた白っぽい所が射程内に
いた手でツタを掴み、力を込めて体を起こしてツタを切った。
コノハさんが見てないのを確認したわたしはスカートを押さえて
!
!
192
!?
!?
終わったか﹂
﹁あの、コノハさん
﹁お
﹂
﹂
逆さ吊りにされたら中見えると思って
?
﹁なに
俺にパンツ見せたいの
﹂と言われた。
しかしその後花のモンスターに会う度に逆さ吊りされそうになり
﹁お願いします﹂
そうだったらツタ斬るわ﹂
﹁まぁ目を離してる間に何かあったら怖いから次から逆さ吊りにされ
﹁その考慮は嬉しいんですけど⋮﹂
の配慮だったんだが﹂
﹁いや、シリカスカートだろ
﹁どうして目を離してたんですか
?
?
闘し終えてこの階層でのレベルアップ2回目の時、わたしたちは小川
にかかった橋の先に一際高い丘を見つけた。
﹁あれが思い出の丘だ。ここからのモンスターエンカウント率はさっ
次は捕まりません
﹂
きより上がるから逆さ吊りにされないよう更に気をつけろよ﹂
﹁大丈夫です
!
ぽっかりと空いた空間に途中までのように様々な花ではなく白色の
3匹ものモンスターを倒し、高く茂った木立の連なりを越えると、
斬れるレベルになった。
わたしの逆さ吊り率も上昇し、コノハさんが逆さ吊られる前にツタを
コノハさんの言う通り、橋を越えてからエンカウント率が上昇し、
﹁その台詞を俺は何回聞いただろうか⋮﹂
!
193
!
?
10回超えた辺りから戦闘した回数を数えるのは止めましたが戦
?
﹂
花が一面に咲き、太陽の光を受けて発光しているように見えてまるで
天国にいるように感じられた。
﹁これが全部使い魔を蘇生する花なんですか
﹁いや、使い魔蘇生の花は中央にある台座に生えるらしい﹂
わたしとコノハさんは花の咲いていない道を通り、中央にある白い
石で出来た台座に辿り着く。台座の上は少しの糸のような短い草が
生えているだけでしたが、そこから芽が生え、超スピードで成長して
いき、つぼみが一際大きくなって真珠色の光を放出しながら花開い
た。
﹁これが⋮﹂
右手の指で茎を挟むとその少し下が氷のように砕け、手の中に花だ
けが残る。
﹂
﹂
左手の指で花の表面をタップすると﹁プネウマの花﹂と書かれた
ネームウインドウが開く。
はなく厳かな口調だ。
少しして、乱立した木の一つ、その後ろから1人姿を現わした。
いい加減名前で呼びなさいよあんた。でないとほんとにアタ
﹁性悪年増⋮﹂
﹁ねぇ
現れたのはわたしがパーティから離脱する原因を作った性悪年増、
194
?
おい、そこの奴、隠れてないで出てこい
﹁これでピナが蘇るんですね
﹁そうだ。⋮⋮
!
!
コノハさんが背後に向かって大声で叫ぶ。その口調は素の口調で
!
シが年増みたいな風潮広がるじゃないの﹂
?
ロザリアだった。目に痛い赤い髪に同じ色の唇、狙ったかのような臍
﹂
出し鎖帷子に細身の十字槍という装備は最後に会った時と変わりな
い。
﹁使い魔を持っていない貴女がどうしてここに
﹂
﹁偶 々 シ リ カ ち ゃ ん と 知 ら な い 男 が 街 か ら 出 て 行 く の が 見 え た か ら
ね、気になって付いて来たのさ﹂
﹁その割には随分と団体で来たな。お前合わせて8人ってとこか
コノハさんがそう言うとロザリアは目を見開いた。
ですか
﹂
﹁あ、あの、コノハさん、あの7人、どうしてカーソルがオレンジなん
の男達のカーソルは今まで見た事ないオレンジ色になっていた。
そうロザリアが言うと、他の木々の後ろから7人の男が現れる。そ
﹁へぇ、中々に索敵が高いみたいじゃない。アンタ達、出ておいで﹂
?
プレイヤーがプレイヤーを攻撃したなら、攻撃したプレイヤーのカー
ソルはオレンジになる。あの7人は誰かしらを攻撃してオレンジに
なった、つまり犯罪者という事だ﹂
﹁そういうこと。で、あんた達、この人数の犯罪者に何かされたくな
﹂
かったらそのプネウマの花を置いていきなさい﹂
﹁え
ロザリアの狙いはこのプネウマの花
シ達は誰もテイム出来てない、ならテイムしてる奴の使い魔が死んで
取りに行かせて奪うしかない。で、一番身近にいたのが﹂
195
?
﹁この世界は圏内以外だったらプレイヤー同士でも攻撃出来る。もし
?
﹁今のプネウマの花の相場は30万って結構いいのよねぇ。けどアタ
!?
!?
﹁わたし⋮﹂
﹁成 功 す れ ば 儲 け 物 程 度 で あ ん た を パ ー テ ィ か ら 離 脱 す る よ う 仕 向
け、あんたの拠点がある街で待ってたらあんたが使い魔がいない状態
で帰ってきて賭けは勝ったって思ったけど、なんでかあんた、知らな
い奴とパーティ組んでるじゃない。びっくりしたわ。まぁ、1人増え
ようとこの人数なら関係ないって思って昨日聞き耳使っていつ出る
コノハさん、宿屋って聞き耳使ったら部屋の中聞こえるんです
か調べた訳だけど﹂
﹁え
か
﹂
﹁ある程度高かったら出来る。が、まさかこの階層で聞き耳をそこま
おとなしく渡すか、無残に死ぬか、選ばせてあげる﹂
であげてる奴がいたとはな﹂
﹁で、どうするの
﹂
最初に見た時と同じような大きさと安心感を感じた。
﹁おい﹂
﹁なにかしら
﹂
﹁数を揃えたのはいい作戦だ。だが、それは俺に通用すると思うか
﹁へぇ、この人数に勝てるってこと
﹂
コノハさんはわたしを隠すように前に出る。コノハさんの背中は
﹁後ろに下がってろ﹂
﹁コノハさん⋮﹂
ばして止める。
マの花をロザリアに渡す為に近付こうとしたらコノハさんが手を伸
かったらコノハさんが危険な目に⋮。わたしは唇を噛み締め、プネウ
プ ネ ウ マ の 花 が な い と ピ ナ は 蘇 ら な い。で も だ か ら っ て 渡 さ な
?
折ってやりな
﹂
﹁言 っ て く れ る じ ゃ な い。あ ん た 達、こ の ピ ノ キ オ 野 郎 の 鼻 を へ し
﹁お前らごときなら剣も使わなくてもいい﹂
?
?
?
!
196
? !?
そう言うと男達は武器を装備し、コノハさんに襲いかかった。
1人目は曲刀を装備した軽装の男。下から喉にめがけた突きをし
たがそれをコノハさんは手元を掴み曲刀を奪い取り男を花畑に蹴飛
ばす。
2人目は片手剣の男。胴を狙った一閃を放つがジャンプしたコノ
ハさんに顎を蹴り抜かれ花畑に倒れている男の上に重ねられた。
そうしてどんどん襲撃者を蹴りや殴りで重ねていき、最後の1人も
重ね終え襲撃者の山を築いた。
とロザリアを睨むと、ロ
﹂とUターンして逃げようとしたがコノハさんがオ
最後の1人を片付けたコノハさんはギン
﹂
アタシらが悪かった
﹂
!
﹂
﹂
﹁花のモンスターの触手責め耐久で
﹁いやぁぁぁぁ
﹁楽しかったですね
﹁何が楽しかったのか⋮﹂
﹂
﹂
向けるとロザリアも許してもらえたと思ったのか笑顔になった。
わたしは涙目になってへたり込んでるロザリアに向かって笑顔を
!
﹁お前、何か言う事ないのか
﹁ご、ごめんなさい
﹁だとよ。どうするシリカ
だから許して
ブジェクト化した投げナイフでロザリアの靴と地面を縫い付けた。
ザリアは﹁ひっ
!
!
?
コノハさんはわたしに振り返って聞いてくる。
?
!
!
197
!?
!!
わたしとコノハさんはロザリアの触手責めを見た後、来た道を戻っ
ていた。
風見鶏亭に戻ったらピナを蘇らせないと
ていたんですよね
﹁まぁそうだな﹂
﹂
こない限りもう会えない⋮
コノハさんが前線に戻る。つまり、またコノハさんが下層に降りて
﹁え⋮﹂
れようかなって思ってる﹂
ないと勘が鈍りそうなんだ。だから観念してアスナに謝ってボコさ
﹁うーん、その事なんだけどさ、俺も一応攻略組だし、4日も前線に出
﹁ならまだこの層にいますよね
﹂
﹁そういえば話変わりますけど、コノハさんってアスナさんから逃げ
!
﹁また、会えますか
﹁⋮﹂
﹂
いけど、わたしの我儘でコノハさんに迷惑はかけたくない。
を、まだ見た事ない場所をコノハさんと一緒に回りたい。そう言いた
コノハさんと一緒に行きたい。コノハさんが聞かせてくれた場所
大きな存在になっていたんだ。
あぁ、いつの間にかわたしの中のコノハさんは、ピナと同じくらい
﹁そう⋮ですか⋮﹂
そう思うとピナを失った時の痛みに酷似した痛みが胸を走る。
?
コノハさんはメニューを開き、少しの操作をするとわたしの元にフ
レンド申請が来た。
198
?
?
?
﹂
﹁こうして連絡先を交換すればいつでも会えるさ﹂
﹁はい⋮
こうしてわたしとコノハさんはフレンド登録をした。
﹁見ィツケタァァァ⋮﹂
まるで地獄から冥王がもうじき死ぬ生者に呼びかけてくるような
威圧感のある響いた声がコノハさんの背後から聞こえた。
コノハさんの肩にかかった手は白魚のように白く、ピアニストのよ
﹂
うに長く美しい手だったが、今だけ何故かその手が死神のローブから
覗く白骨化した手に見えた。
付いて謝りたいのですが﹂
﹁サァ、アルゲードニ帰リマショウ
﹁あ、これ死んだ奴だ﹂
ソコデ全テ話ヲ聞クワ﹂
﹁す、すみません。そ、それで今更なのですがアスナ様に4日前の事に
?
﹂
﹁あ、あああアスナ様
?
心配シタジャナイ
﹁今マデ何処ニイタノ
?
攻略組になり、コノハさんと再会する事が出来た。
そしてそれは成功し、わたしは僅か3ヶ月で中層プレイヤーから準
わたしは様々な本を読み、試行錯誤を繰り返し、今の口調になった。
考えた結果、わたしは言葉使いを変える事にした。
心をどうやって奮い立たせるか。
強くなるには弱い心を奮い立たせて戦わないといけない。その弱い
けど生半可な強さでは届かない。コノハさんの隣に立てるくらい
た。いつかコノハさんの隣に立てるくらい強くなろうと。
コノハさんがいなくなった道の途中、わたしは強くなろうと決心し
帰っていった。
コ ノ ハ さ ん は 諦 め た よ う な 顔 で ア ス ナ さ ん の 転 移 結 晶 で 前 線 に
?
199
!
本来ならそこで終わるはずだったのですが、口調の試行錯誤をして
﹂
てかまだ年
いる間にわたしはその口調を気に入り、更にのめり込み、今のわたし
は出来たのです。
﹁どうしたシリカ
﹂
お、ロザリアじゃねぇか﹂
﹁⋮性悪年増﹂
﹂
!
﹁ちょ、シリカ
増言われるほど年取ってないわ
あんたまた懐かしいあだ名言ったわね
﹁あ、コノハさん、お疲れ様です﹂
﹁そうか
﹁⋮いや、なんでもない﹂
﹁ん
﹁⋮コノハさんは﹂
﹁そうか﹂
﹁ふん、なに、昔を懐かしんでただけの事よ﹂
?
!?
﹁あぁ、すまん、ただの戯言だ﹂
200
?
わたしは今の幸せを無くさないよう、精進し続けてます。
!?
?
extra8 鍛冶屋との出会い 前編
カーン、カーン、と工房に鉄を叩く音が鳴り響く。
あたし、リズベットは45層にある自身の工房で槌を振るってい
る。
炉の近くでの作業で顔中汗だらけになるが作業中に一度でも手を
止めれば完成する武器の質が落ちるため拭き取らずにひたすら熱さ
れたインゴットを叩く。
数分叩き、インゴットが一際輝き、剣の形になる。それを持ち上げ、
鑑定スキルで出来栄えを見るが、なんとも言えない性能の物に眉を潜
め近くの壁に立てかけ、もう一度インゴットを叩いて武器を作ってを
繰り返す。
そうしていくうちにあたしの近くの壁が武器で埋まっていき、一つ
趣味の絵も小説
の剣がカランと音を立てて倒れた時、我慢の限界で叫んだ。
ここの所良剣クラスばかり出来るわね
﹂
句を言われない程度の適当な価格が書かれた値札を付けて店頭、では
なく端に置いてある樽に乱雑に放り込む。あたしは自分が納得した
物以外はこうして店の端に適当な値段で置いている。もうこのよう
な状態が二ヶ月は続き、店頭には一つも武器が並んでいない。前まで
あたしの店は攻略組がよく来ては武器を眺めていたのだが、今では月
に三人くらい来ればいい方だ。
しかし売り上げは正直前より少し良い。その理由は鍛冶スキルを
マスターしたあたしが作る武器は例えあたしが納得いかず、攻略組に
は物足りないものでも中層プレイヤーにとってはとても良質な上に
価格も御手頃なためどれだけ量産してもすぐ売れるからだ。今では
中層プレイヤーの4割くらいはあたしのハンドメイドだと思う。
けど違う、あたしはただただ武器を作って売っていきたいんじゃな
201
﹁あぁもう
も思うようなの書けないし、これが俗に言うスランプってやつ
!
作業台から立ち上がり、立てかけていた出来立ての剣に組合から文
!?
!
い。あたしはあたしが納得いく作品を、人が最高だと称する物を作り
たいのだ。それが武器だろうと、小説だろうと、絵だろうと。
このスランプを脱するにはどうすればいいのか分からないままま
た今日も終わるかのかなとカウンターでぼぅっとしていた昼頃、ドア
につけられたベルが二人の男の来訪を知らせる。
﹁いらっしゃいませ﹂
あたしは相手の機嫌を損ねないよう挨拶をすると、女の子のような
﹂
顔の優男は軽く会釈し、少し吊り目な男は﹁どうも﹂と挨拶を返す。
﹁武器をお探しにいらしたのですか
﹁あ、うん﹂
﹁でしたらすみません、現在あるのはこちらに入ってる分しかありま
せん﹂
そう言ってさっき武器を補充した樽を指差す。
﹂
二人は剣を一本一本手に取って見ていく。
﹁これ以外には
それを聞き、優男は﹁なら﹂と背中の鞘から剣を抜いた。その剣は
漆黒と表現していいほど黒く、一目見ただけで業物だと分かり、あた
しの対抗意識を刺激した。
﹁これと同等以上の性能の武器を作って欲しいんだけど﹂
あたしはスランプで作る気はなかったが、優男から差し出された漆
黒の剣に興味を持ち、見るだけならタダだろうと思い右手で受け取っ
た途端、取り落としそうになるほどの重さが腕にかかった。
202
?
﹁すみません、諸事情により現在あるのはそこにある分だけで﹂
?
恐ろしいほどの筋力要求値だ。鍛冶屋兼戦槌使いとして筋力パラ
メーターはかなり上げているけど、これは触れそうにない。この優
男、見た目によらず中々脳筋ステ振りしてるなと思いながら剣を持ち
上げる。
持ったままでは辛いのでカウンターの上に置き、指先でクリックし
て詳細を見た。
カテゴリ︽ロングソード/ワンハンド︾、固有名︽エリュシデータ︾。
これを作り上げたのは誰かと製作者の銘を見ると︽なし︾と書かれ
ていた。つまりドロップ品だという事だ。
アインクラッドに存在する武器は鍛冶スキルで鍛え上げられた︽プ
レイヤーメイド︾とモンスターや宝箱から手に入った︽ドロップ品︾の
二つに分けられ、プレイヤーメイドの平均価格帯の品とドロップ品の
平均出現帯の品を比較すると前者の方が質は良いと言われているが、
極偶にこういう︽魔剣︾が現れることがあるとは、噂には聞いたこと
203
がある。
自然な成り行きとして、鍛冶屋はドロップ品の武器に余りいい感情
を抱かない。かく言うあたしもそうだし、このドロップ品に負けたく
なかったので、
﹁ちょっと待って﹂と言って店の奥にある自室に行く。
小説や漫画を書く作業机とベッド、一つの本棚と少し寂しい部屋の
壁に掛けられた剣を両手で取る。
この剣はあたしが作り上げた武器の中で最高傑作と自負している
物で、本当に認められる人に渡そうと思っていた物だ。しかし職人の
プライドの方が優先だ。
二人の元に戻り、持ってきた剣を優男に渡す。
優男の手で鉄製の鞘から抜かれた刀身は優男の顔を鏡のように写
し出し、吊り目の男が﹁ヒュ∼﹂と口笛を鳴らす。
﹂
﹂
優男は片手で剣を振り回し振り心地を確かめている。
﹁どう
﹁少し軽いかな
?
?
確かに、その武器はスピード系の鉱石を使っているため、あの魔剣
を振り回すこの人にとってはそうかもしれない。
﹂
優男はどうもしっくりこないといった顔で振り終えるとあたしに
視線を送る。
﹂
﹁ちょっと試してみてもいいかい
﹁試すってなにを
﹁耐久力をさ﹂
?
﹁ちょっと
﹂
!
﹁うぎゃあぁぁぁ
男の剣を肩で担いでいた。
あたしは顔を上げて優男の胸倉を掴む。吊り目の男は呆れ顔で優
時に砕けた。
不可能と分かり、がくっと項垂れ剣を落とし、剣は地面に当たると同
優男から剣の半身を奪い取り一縷の希望を信じて眺め回すが、修復
﹂
優男の剣ではなくあたしの最高傑作の。
り折れ、刃の半分が窓を割って外へ消えていった。
ぶつかりあった剣から火花が弾け、見事に刀身は真ん中からぽっき
つかり、店中を震わせるほどの衝撃音を鳴らした。
剣は物凄い速さで振り下ろされ、瞬きする間もなくあたしの剣とぶ
める。
優男の持つ白銀の剣をペールブルーのライトエフェクトが包み始
﹁まぁ、折れた時は折れた時で﹂
いくらあんたの剣でも折れちゃうわよ
したが﹁はぁ⋮﹂とため息を吐いて受ける形で構える。
渡し、あたしの剣をすっと振りかぶる。吊り目の男は何かを言おうと
そう言って優男はカウンターに置かれた自身の剣を吊り目の男に
?
!?
204
!
﹂
まさか当てた方が折れるとは思わなくて⋮﹂
﹁あ、あんたなにしてくれてんのよぉぉ
﹁ご、ごめん
!!
意味
﹂
材料さえあれ
!
﹁﹁まぁそうなるな﹂﹂
﹁二人して開き直るなぁ
い、言っておきますけどね
﹁そ、それってつまりあたしの剣が思ってたよりヤワっちかったって
﹁俺は薄々こうなるんじゃないかって思ってた﹂
!
﹁ほほう
﹂
と心の中で付け加えておく。出来なかった時はアスナ直伝
?
た。
!
﹂
﹂
﹁そこまで行ったからには全部付き合ってもらうわよ
行くところからね
﹂
﹁いいけど、その金属は俺たちが指定していいのか
﹁いいわよ
?
!
金属を取りに
その行動に頭に血が上ったあたしは優男に指を差して大声で言っ
鞘に収める。
優男は吊り目の男から剣を受け取り、あたしに見せびらかすように
﹁そりゃあぜひお願いしたいね。これがぽきぽき折れる奴をね﹂
勢いに任せたあたしの言葉に優男がにやっと笑った。
﹂
テヘペロ顔で凌げるはず。
多分
からね
ばあの黒い剣をポキポキ折れるくらいのを幾らでも鍛えれるんです
!
!?
﹁よろしく﹂
﹁なら話は決まりだ。俺の名前はキリト。後ろにいるのはコノハ﹂
!
205
!
!
﹁ふん
﹂
あたしとその二人、キリトとコノハはこうして会った。
206
!
extra8 鍛冶屋との出会い 中編
﹂
﹁で、金属の事だけど、あのクエストでいいよなコノハ
﹂
﹁そうだな。てかそのつもりで来たんだろ
﹁なんのクエスト
﹁55層で検証中のクエストの事だ﹂
﹂
?
﹁金属の手に入る条件が見つかったの
﹂
前に来たお客さんから聞いた事がある。
が何かしらの条件があるのではと調査を進めているという話を少し
た事から攻略組はそのクエストを放置して次の階層に走り、準攻略組
討伐を幾度としたが、誰一人としてその金属を手に入れる事はなかっ
明らかにレア金属の入手クエストで、数多くのプレイヤーが白竜の
り、その腹で精製して貴重な金属を溜め込んでいるとか。
依頼主である長老曰く、西の山に棲む白竜は毎日餌として水晶を齧
の討伐依頼だろう。
55層の検証中で金属関係のクエストと言えば、十中八九、西の竜
?
﹂
よ。こう見えても結構腕が立つんだから﹂
﹁そりゃ頼もしい限りだ﹂
?
コノハも作りに来たんじゃないのか
?
夫だ﹂
﹁え
﹂
﹁あぁ、元々キリトの分しか作るつもりはなかったからその点は大丈
﹁けど、もし一個しか金属が見つからなかったらどうするのよ
﹂
﹁リ ズ で い い わ よ。あ た し も あ ん た 達 を 呼 び 捨 て に す る か ら。そ う
リズベットはマスタースミスだよな
あってな。誰も検証してないようだし俺達が検証しようと思ってな。
﹁数多くある推測の中に︽マスタースミスがいないと駄目︾って奴が
?
?
そう言ってコノハは腰にぶら下げていた直剣を掲げて見せ、すぐに
207
?
﹁俺は暫くこいつで頑張れるから問題ねぇよ﹂
?
鞘に戻した。
﹁で、この後リズはなんか予定あるのか
﹁どれくらいかかるかしら
﹂
﹁なら今から行きたいんだが大丈夫か
﹂
﹂
﹁特にないわね。どうせ今日もお店にお客なんて来ないでしょうし﹂
?
﹁ぶぇっくしょん
﹂
候の事を忘れていたあたしに防寒具の準備などあるわけもなく。
し、体感温度もみるみると下がっていく。ついさっきまで55層の天
に周りは色のない世界に変わっていき、雪は風に吹かれて吹雪と化
ロアは氷雪地帯をテーマにしてたっけなぁと思い出し、数分と経たず
が、暫く歩いていると空から静かに雪が降り始め、そういえばこのフ
転移門を使って55層に移動した後、目的の村に向かっているのだ
中の札を裏返し、主街区の転移門に向かって歩き出した。
準備が終わったあたしは二人と共に外に出て、入り口にかかった営業
ポーションと食べ物の補充、愛用のメイスと予備のメイスの確認と、
メニューを開いてエプロンドレスの上から簡単な防具類を装備し、
備して来るからちょっと待ってて﹂
﹁ドラゴンを倒す時間も込みで聞いたんだけど⋮まぁわかったわ。準
﹁山自体はそこまで大きくないみたいだから、日帰りは出来ると思う﹂
?
﹁もしかしてリズ、余分の服持ってきてないのか
﹂
?
208
?
盛大にくしゃみをし、その身を寒さに震わせていた。
!!
隣を歩くキリトが心配そうな顔でそう聞いてくる。
キリトはフードと袖にファーの付いた黒のロングコートを、先頭を
歩くコノハはもこもこの耳当てに足元まで覆う黒のローブを身に
纏っていてとても暖かそうだ。一瞬剥ぎ取ってやろうかと考えたが
頭をブンブン振ってその考えを消す。
﹁55層の天候の事忘れてて⋮﹂
﹂
﹁困ったな。俺もこれしか防寒具は持ってきてないし⋮。コノハは何
かないか
﹂
﹁ねぇな。まさかあんだけ念入りに準備していた奴が防寒具を忘れる
なんて誰が思う
くと、何かを思いついたのか、
﹁そうすればいいのか﹂と言って自分が
どうしたものか⋮とキリトが自身の額をとんとんと人差し指で叩
?
いいの
﹂
着ていたコートをあたしに渡してきた。
﹁え
?
﹁は
﹂
﹂
ほらほら﹂
入れるから待てって
﹁そのローブまだ人が入る余裕あるだろ
﹁ちょっ、剥ごうとするな
!
?
それから歩くこと30分ほど、山奥の小さな村に着いたあたし達は
﹁見えてきたな﹂
被った途端にさっきまでの寒さが嘘のように無くなった。
いって言うんだからいいのよねとすぐさまコートを着てフードを
抜け、コートの裏の暖かそうな毛皮の魅力に抗えず、まぁキリトがい
を見て本当に着ていいのかなぁと悩んだけど猛烈な吹雪が体を通り
キリトは先頭を歩くコノハのコートに無理やり入れてもらい、それ
!
209
?
﹁俺はコノハの方に入れてもらうよ。コノハー、そっち入れてくれー﹂
?
?
目的の長老が住んでいそうな家に突撃、白ひげ豊かなNPCからクエ
ストを受けようと話しかけたのだが、まさかクエストを受ける前に長
老の幼少期、青年期、熟年期の苦労話があるとは思わなかった。余り
の話の長さに途中でコノハは白目を剥いて気絶し、キリトはそのコノ
ハを倒れないように支えていた。そしてようやく本題である西の龍
の話に入り、クエストを受注した時には昼だった外はオレンジに染ま
り、太陽は遠くの山の陰に隠れようとしていた。
余りの長さにコノハは長老の家から出た直後に雪の上にボサリと
うつ伏せに倒れる。
﹁なんでフラグ立てるのにこんな時間かかってんだよ⋮﹂
﹂
﹁まさかこんなにかかるなんてあたしも思わなかったわ⋮。どうする
クエストは明日にする
?
﹂
それらを難なく退け、数十分で山頂に辿り着いた。
時間帯もあり、出現するモンスターは活動的だったが、あたし達は
頂に向かって歩き出した。
コノハが立ち上がり体に付いた雪を取り払い、あたし達は改めて山
﹁うーい⋮﹂
﹁ほらコノハ、倒れてないで行こうぜ﹂
﹁それもそうね﹂
﹁こういうのは早めに終わらせた方がいいと思うんだ﹂
ぐに山頂に着くだろう。
で100メートル以上の高さはないだろうし、余程の事がない限りす
それなりの高さがあるように見えるがアインクラッドの構造的制約
キリトが指差す方向にはそう遠くない所に切り立った峰があった。
ろ
﹁うーん、でもドラゴンは夜行性って言ってたしなぁ。山ってあれだ
?
そこは巨大なクリスタルの柱が辺り一帯にあり、登り始めた月の光
210
?
が反射して虹色に輝いていてとても幻想的な景色だ。
﹁綺麗⋮﹂
﹁感動している所悪いがお目当ての龍が来たみたいだ﹂
コノハがそう言うのと同時に遠くから獰猛なドラゴンと思われる
声が地鳴りのように山頂に響き渡った。
少し離れた位置にあったクリスタルが甲高い音を立てて砕け、砕け
たクリスタルが繋がって大きな塊に変わり、そこから少しずつ形が
整っていき、姿が完成したそれは産声を上げた。
その姿はよく知られている龍とは違い、ダイヤのように光を受けて
虹色に光る鱗、ルビーのような紅色の輝きを放つ眼、象牙のような艶
を持った鉤爪、まるで芸術品のように感じられる白竜だった。
行く前にあたしの強さ確かめたじゃないの﹂
ドラゴンは自分に向かって走る二人に挨拶のように氷のブレスを
放つがキリトはその場で剣を風車のように回転させる。剣はやがて
薄緑色のエフェクトに包まれ、まるで光の円盾のように見えるそれ
﹂と言っている。
!
コノハはキリトの後
に、氷のブレスが直撃。冷気の奔流はキリトの剣のシールドから逸れ
ファイト
るように分散し、辺りを凍らせていく。コノハ
ろで﹁ファイト
!
?
211
﹁リズはそこらのクリスタルの陰で待ってろ﹂
﹁どうしてよ
﹂と言って
!
近くにあった大きめのクリスタルの陰から見守ることにした。
パターンは左右の鉤爪と氷ブレス、あと突風攻撃だから
にぐちぐち言っても仕方ないと判断し二人の背中に﹁ドラゴンの攻撃
あたしとしては色々他にも言いたい事があったが走り出した二人
出した。
そう言って二人は自身の武器を手に取りドラゴンに向かって走り
﹁すぐにカタをつけてくるから﹂
﹁あれは自分の身を自分で守れるか確かめただけだ﹂
?
ブレスが途切れると同時に二人は攻めに転じた。
キリトは回転させていた剣を地面に突き刺し、背後で待機していた
コノハの腕を掴み右足を軸にグルングルンと回転、コノハをドラゴン
目掛けて放り投げた。勢い良く投げられたコノハはかなりの速度で
ドラゴンに迫っていき、それを迎撃すべくドラゴンは鉤爪を振り下ろ
すが、コノハはそれを剣で受け止め、威力の相殺によって出来た一瞬
の停滞の間にドラゴンの足からするりと鼠のように登っていき、背中
に乗って両翼を攻撃していく。
ドラゴンはコノハを背中から落とそうと体を激しく上下させたり
回転させたりするがコノハは落ちることなく攻撃を続け、やがてダ
メージの蓄積量が限界を超えたのかドラゴンは宙から地面に落ちた。
そこにキリトも突撃、二人の攻撃でドラゴンのHPがはたから見て
清々しいほどガンガン減っていった。
ドラゴンのHPが残り2割となり、もうそろそろ終わりかなと柱の
はそれが道ですれ違う人々の会話ぐらい頭に入らなかった。
体を回転させ空を見る。
あの時なんで柱の陰から出ちゃったかなぁあたしとか、あたしの人
212
陰から出た直後、ドラゴンが最後の悪足搔きの如く空高く舞い上が
り、地面に向けて衝撃波を放った。
キリトとコノハは地面に剣を刺して耐えていたが、突然の事に対応
出来なかったあたしは突風に煽られ体が吹き飛ばされた。
地面に落ちるタイミングを知る為に視線を自分が飛んで行く先に
向けると、そこには直径数十メートルはありそうな大穴が、まるで食
事を待っている口のようにぽっかり空いていた。もう夜に差し掛か
る時間帯で、穴の中はまるで底がないかのように見える程の暗闇だ。
あたしの体はその穴に吸い込まれるように向かっていく。
﹂
﹂
﹁⋮⋮
﹁⋮
!
コノハとキリトが何かを叫んでいるが、頭の中が真っ白なあたしに
!
生ここで終わっちゃうのかなぁとか、もう少し楽しい人生送りたかっ
たなぁとか、まだ納得いく作品出来てないんだけどとか色々な事が
真っ白になった頭に浮かんでくる。
体が穴の中心近くに来て重力の影響で高度が下がっていき、穴の壁
面が見え始めた頃から段々死への実感が湧いてきて、涙が出てきた。
死にたくない、またアスナと馬鹿やりたい、もっと絵や小説を書き
たい、現実世界に帰りたい。
無意識のうちに視界が涙でぼやけ、小さくなっていく天に手を伸ば
した。
その手を誰かが掴んだ。
213
ALO編 あいつはれっきとした男だ
episode18 コノハ﹁ふざけんな
﹂
最後の奇襲を、ヒースクリフは特に危なげもなく俺の攻撃を弾き、
ガラ空きだった胴体を貫いた。
痛みはないが、硬く冷たい異物が体の中心を貫く感覚が体を支配す
る。
剣が刺さる胸元から赤いドットがゆっくりと漏れ、視界の端に僅か
にあったHPバーは消え去り、視界全体をゲームオーバーを告げる文
字が占め、ザザッ、と砂嵐のような現象が視界の所々に現れ始める。
あぁ、これがこの世界の死なのかと、痛みがないからか、死に対す
る感情は特に浮かばなかった。
砂嵐がうざったらしく、目を開けているのが鬱陶しく思った俺は目
デスゲーム
を閉じる。すると今まで生きてきた人生が走馬灯のように暗い世界
を駆け巡る。キリトとの出会い、SAO開始、アスナやクライン、色々
な︵変︶人との出会い、階層の攻略、キリトからの告h、いやそんな
物はなかったとそこだけ飛ばす。
そして一瞬で流れた走馬灯を見終わりふと、最後になんか出来る事
はないかと思い、俺はこれからも生きていく彼らの代表とも言えるキ
﹂
リトに長年の相棒ジャッドシュヴァリエを託し、意識を0と1の世界
に沈めた。
はずなのだが、
﹁どうして生きているんだ⋮
は雲がまばらに浮かぶ青空が広がり、鳩と思われる鳥が群れを成して
どこかへ飛んでいくのが見える。
︶
214
!
鳥籠のような金属の檻を見上げながら俺はそう呟く。檻の向こう
?
どういう訳か、俺の意識はまだ存在していた。︵意識というより知
識、記憶と言うべきか
?
SAOでの死は現実での死のはず。ヒースクリフ、いやもう茅場で
いいか。茅場に殺された俺はナーヴギアに電子レンジと同じ要領で
脳をパーンされたはず。もしギリギリでナーヴギアの解除に成功し
助かったのなら俺が見るべき天井はSAOを始める前に見た自室の
天井か、もしくは長いゲーム生活の為に搬送されるであろう病院の天
井のはずだ。今見上げている景色は絶対に自室の天井ではないし病
院の天井でもないだろう。もしこんな青空が素敵な檻のような病室
を採用した病院があるのなら院長になぜ作ったかと俺をここに搬送
したのかを問い詰めたい。嫌がらせにも程があるわ。
と思っている。
そしてもう一つの可能性、それは俺がまた転生したという可能性。
正直こっちが本命というかこれしかなくない
まぁた神様通さず転生かよと思いつつまぁ三度目の人生も楽しく
行きますかと起き上がり、辺りを見渡す。
俺がいた檻の中は床は大理石のような材質のなにかに、部屋の中心
に床と同じ材質と思われる一本足の円形のテーブルに3つの椅子、部
屋の端付近には茶色の本棚が一つあるだけという殺風景な場所だっ
た。唯一今座っているベッドだけが赤を基調とした何処かの宮殿に
あってもおかしくない豪華な作りのダブルサイズベッドという仕様
だ。
ベッドから立ち上がり、そこそこ広い部屋の端まで歩き籠の外を見
ると、そこには現実では見た事がない程のとてつもなく大きな木がそ
の存在を主張していた。
下を覗くと足場も何もなく、雲海が視界を遮っていることからかな
りの高度にある事が、そしてこの檻が本当に鳥籠のように天頂部分を
木の枝で吊られている事がわかった。
﹁やっと起きたのかい﹂
誰もいないはずの背後から男の声が響いたと同時に体を反転させ
腰に手をやるが、腰にジャッドシュヴァリエはなく、ただ空を掴むだ
けに終わる。長年培った経験というのは中々抜けないものだ、仕方な
215
?
い。
そこにいたのは一人の長身の男だった。
波打つ金髪に白銀の円冠、まるで貴族が着るような細かい装飾が施
された緑の長衣、そして憎らしいほど整っている顔をした男がこの檻
の入り口と思われる所の前に悠然と立っていた。
しかし俺の視線は男の有り様からすぐさま男の背後に移った。何
故なら、本来人間にはあるはずのない物、艶のある漆黒の四枚の翅が
四方向へ伸びていたからだ。
僕としては、君とは仲良くしてい
俺は睨むようにその男を見ると、男は中央に置いてある椅子に座り
肘をつく。
﹁そう警戒しないでくれないかい
きたいんだけど﹂
﹁見ず知らずの場所で見ず知らずの怪しい男と出会って警戒しない奴
なんていねぇだろ﹂
はいないんだけど。
﹂
少しの静寂に男は﹁そういえば君にはまだ僕の名前を言ってなかっ
たね﹂と両腕を広げて大袈裟な態度を見せる。
﹁須郷伸行だよ、コノハ君。いや、花林君﹂
男はニヤニヤと擬音が聞こえそうな笑みを浮かべながらそう言っ
た。
須郷伸行。その名前を俺はよく知っている。うちの親父の上司に
当たる人であり、昔からよくうちに遊びに来る眼鏡がよく似合うイケ
メンであり、俺の親父にSAOのβ版をするよう指示した人である。
216
?
﹁ここは君にとっては見ず知らずの場所かもしれないけど、君は僕の
﹂
事をよく知っているはずだよ
﹁はぁ
?
男の台詞に俺は疑問符を浮かべる。俺の知り合いにこんな虫人間
?
な、なんで貴方がここに
﹂
その事実に俺は目を見開き口を開けてしまう。
﹁須郷さん
さ﹂
﹁アルヴヘイム⋮オンライン⋮
﹂
﹁それはね、僕がこの世界、アルヴヘイム・オンラインの管理者だから
!?
つまりどういうこと
名前から察するにまたゲームに囚われている。
そこで知り合いの須郷さんに出会いアルヴヘイム・オンラインという
俺は茅場に殺された。けどまた別の世界に転生したかと思ったら
俺は今までの情報を頭の中で整理する。
?
﹂
!?
﹂
﹂
?
になってるくらいだ。
ということはこの世界にいるのもその一環か
うよ﹂と須郷さんがきっぱり言った。
﹁なんで俺の考えが分かるんですか⋮﹂
と思っていると﹁違
アルバムにある写真の1割は須郷さんにいじめられている俺の写真
らだとかではなく、単に俺をいじりに来ていると言っていいだろう。
して晩御飯にお呼ばれしたからだとか親父と仕事の話をしに来たか
前述通り須郷さんは昔からよくうちに遊びに来ていた。それは決
﹁この人やっぱり悪魔だ
﹁やっぱり君で遊ぶのは楽しいねぇ﹂
﹁なんにも変わってねぇ
﹁詳しく言うと、全て僕の計画通りということだね﹂
﹁簡単に言いすぎててなんにも分かんねぇ
﹁簡単に言うと、全て僕の計画通りということだね﹂
﹁うっす﹂
﹁あぁ、その顔はなんで自分がこの場にいるのかわかってない顔だね﹂
?
!?
!
217
!?
﹁そりゃあ長年の付き合いがあるからね、ある程度の事なら顔から推
測出来るさ﹂
﹁ならなんで俺はこの場にいるんですか。確か俺はSAOで茅場に殺
された筈なんだけど﹂
﹁その場面は僕も見ていたよ。正直焦ったね。まさか僕のハッキング
があと少しの所で君が飛び出るとは。ナーヴギアが脳を破壊する準
って須郷さんハッキングなんてしてたんですか
﹂
備期間が無かったら君は病室で鼻から脳味噌を垂らしていただろう
ね﹂
﹁表現がグロい
?
﹁そうだよ。いつ死ぬか分からない状況下から愛しの君だけを助けた
﹂
いと思うだろ
﹂
﹁⋮⋮愛しの君
ホモ
﹂
須郷さんは俺に指を差して﹁愛しの君﹂と言う。つまり
﹁え
?
﹁世間一般ではそう呼ばれるだろうね﹂
?
い や ぁ ぁ ぁ ぁ
なんで
なんでさ
な ん で さ
俺はホモに好かれるフェロモンでも出してるの
!?
ふ ざ け ん な
異性を愛する事は何でもないのに
?
るのはどうなんだ
日本はもっと性についてもグローバルに生きる
﹁結婚はまだいいさ。けど同性と付き合うだけで世間から冷遇を受け
嫌になるわけでして﹂
﹁いやまぁ、そうかもしれないですけどいざ自分がその立場になると
るのに日本では同性婚が認められていないなんてさ﹂
れ社会からは軽蔑の眼差しで見られ、外国では同性婚が認められてい
偶々好きになった相手が同性だというだけでホモやレズなどと言わ
﹁可 笑 し い 話 だ と 思 わ な い か い
!!
!?
!?
⋮親父、あんたの上司が息子を愛するホモだった件について。
?
?
!!
?
218
!!
?
!?
べきだと思うんだよ﹂
﹁ソウデスネー﹂
﹁で、話が少し変わるけど、ナーヴギア、今はアミュスフィアという後
継機だけど、それらは脳の感覚野に仮想の電子信号を送って架空空間
があたかもそこにあるかのように見せているけど、もしその枷を取り
﹂
払い脳に与える影響を操作したならどうなるかという研究を僕はし
ているんだ﹂
﹁ふーん﹂
﹁つれないなぁ﹂
﹁いや、なんで俺がここにいるのかがわからないし﹂
﹁話を聞いていくうちにわかるよ。それで、どこまで話したっけ
﹁今晩のご飯について﹂
﹂
﹁あぁ、そうそう、僕の研究についてだね﹂
﹁覚えてるじゃねぇか
﹁けどそんなの違法じゃ﹂
﹁誰がそう決めたんだい
けないと倫理的には唱えられているが法には明記されていない
に各国、各地でこの研究は進められている﹂
﹂
!
ある日大量
!
﹁てこと俺もその一人
﹂
た。結果、五百人近いSAOプレイヤーを拉致する事が出来た
﹂
のサーバーを繋げる事が出来た僕はSAOのクリアが待ち遠しかっ
﹁そういうことさ。ルーターをいじり、SAOのサーバーとこの世界
﹁それがSAOプレイヤーって訳か⋮﹂
の格好の研究資料が降って湧いてきたじゃないか
ないからこの研究は遅々と進められてきた。ところが
﹁けどそんな人体実験に協力してくれる人間なんてそんなにいる訳が
﹁⋮⋮﹂
現
確かに人体実験は危険が及ぶならしてはい
分かるわけがないんだからさ﹂
らわないとどんな事が脳内で起こっているのか脳の断面図だけじゃ
たり前だよね。脳というのは個体差があるし、自分の事を口にしても
﹁けどこの研究には多くの被験者が必要だった。それも人間のね。当
?
!
?
!
219
!
!?
﹁そうとも言えるし言えないかな。君以外のプレイヤーで実験を繰り
﹂
返し、安全かつ確実な研究結果が出た時、君に使おうと思う﹂
﹁俺の脳をいじって何をするつもりなんだ⋮
﹁もちろん、君の価値観を変えるつもりさ﹂
﹁あっ﹂
﹁おっと、もうこんな時間か。楽しい時間というのはあっという間に
過ぎるね。暇だと思ったらそこの本棚の本を読んでいればいい。ま
た数時間後には来るよ﹂
須郷はそう言って出口の格子を開け、翅を広げて巨大樹に向かって
飛んでいき、表面に作られた階段で何処かへ去っていった。
﹂
俺はそれを見送った後、反対方向の格子を掴んで思いっきり息を吸
い叫んだ。
助けてくださぁぁぁぁぁい
220
?
!!
﹁誰かぁぁぁぁ
!!
episode19 キリト﹁僅かな可能性にも縋り
たいんだ﹂
SAOから帰還して早数ヶ月。
俺は家から自転車で僅か15分で着くほどの距離にある病院に通
い詰めていた。
自転車を駐輪場に止め、受付で面会の許可を貰い、すれ違うナース
さんと挨拶を交わして目的の病室の前にたどり着く。
病室の扉には﹃木葉花林 様﹄と書かれた銀色のネームプレートを
見て目的の部屋であることを確認しスライドドアを開いた。
個室なだけあってあまり広さはないその病室の窓際に設置された
S
A
O
ベッドの上に、白衣を着たコノハが眠っている。それだけならまだい
いが、その頭には俺たちを長年仮想世界に縛り付けたナーヴギアが現
在も稼働している事を告げる三つの緑光を放っている。
﹁なぁ、いつまで寝てるんだよ。寝坊助にも程があるぜ﹂
側に置いてある椅子に座り話しかけるが、コノハは目を閉じたまま
反応を見せない。
SAOをクリアし、数多くのプレイヤーが長い眠りから覚めた中、
コノハを含め約五百人近くは今だに目を覚まさない。それを聞いた
のは俺が目覚めてから数時間後の話だ。
エギルからパソコンを借りて各病院の入院者の名簿を覗いている
時、総務省SAO対策本部を名乗る男が息を切らせて病室に駆け込ん
できた。︽総務省SAO事件対策本部︾だと男は名乗った。
その大層な肩書きを持った男は頭を下げ傍観する事しか出来なく
て す ま な い と 謝 っ て き た。し か し そ れ は 仕 方 な い 事 だ。下 手 に
ちょっかいを出して2万人の脳が焼き切れたりしたなら一体誰が責
任を取れるというのか。
しかしここで俺は喉元に骨が刺さったような僅かな違和感を感じ
221
た。
俺は彼らが尽力し、ギリギリの所でコノハを助け出したと思った
が、傍観しか出来なくてと言った。ならコノハは誰に助けられたのか
彼らがここに来たのは外からプレイヤーのステータスと座標を観
測していたらしく、レベルと位置から上位プレイヤーと思われる俺の
所に何があったかを聞きに来たようだ。
俺はそれを教える代わりに俺が知りたいこと、コノハ、木葉花林が
今どこにいるかを教える事を要求した。
男はわかったと言って携帯で何度か電話をかけ、困惑した表情でこ
う返してきた。
﹃木葉花林君は、ここからそう遠くない病院に入院しているが、彼はま
だ覚醒していない。彼だけでなく、全国で約五百人のプレイヤーが目
を覚ましてないようだ﹄
最初はサーバーの処理に伴うタイムラグかと思われていたが、つい
にこの日まで彼らは帰ってこなかった。
世間では行方不明の茅場晶彦の陰謀が継続しているのだと騒がれ
ていたが、それはないと俺は思っている。
あの時、アインクラッドが崩壊を迎えた時に見た男の顔は陰謀を働
こうといった顔ではなく、自身の世界の終わりを見守る静かな表情
だった。
絶対駄目だろと思ったけど物珍しさからか結構
﹁そういえばエギルの奴、ずっと奥さんに任せてた喫茶店をジム兼喫
茶店にしたんだぜ
繁盛してさ﹂
ある桐継さんと一人の男だった。いつも家で見る時のようなボサボ
病室の扉が開く。振り向くと、そこに立っていたのはコノハの父親で
反応しないコノハに最近あったことを話している途中でガラッと、
?
222
?
サ頭に甚平、気怠げな雰囲気ではなく、髪は整え、メガネをかけ、スー
ツの上から白衣という研究者スタイルだが、顎に蓄えられた髭だけは
変わらずだ。しかし後ろに控えている男は誰だろうか
﹁いつも見舞いありがとよカズ﹂
﹁こんにちは、お邪魔してます桐継さん﹂
﹁別にいつ来ても構わねぇよ。コイツも喜ぶだろうしな﹂
そ う 言 っ て 桐 継 さ ん は 横 に コ ノ ハ の 横 に 立 ち コ ノ ハ を 見 下 ろ す。
コノハに似た吊り目は、どことなく悲しみを。数多くのSAOプレイ
ヤーが帰って来た中、自分の息子が帰って来ていないのだ。何も思わ
ない訳がない。
﹁おっと、そういやカズは初対面だったな。コイツは俺の上司の須郷
だ﹂
自分の上司をこいつ呼ばわりするとは⋮と驚きながら紹介された
人物を見る。
﹁初めまして、須郷伸之です。君のことは桐継さんから聞いてるよ、
桐ヶ谷君﹂
﹁初めまして﹂
差し出された手に手を出して握手するが、なんだろう、初対面の人
に言うのもアレだが、笑顔が胡散臭い。
有能過ぎて羨ましい限りだ﹂
﹁コイツすげぇんだぜ。この若さでウチの会社のフルダイブ技術研究
部門の部長にしてALOの管理者だぜ
﹁ははっ、それほどでもないですよ﹂
出るわ﹂
223
?
﹁っと、そういや今日は少年ジャンプの発売日だったな。ちょっくら
?
﹁木葉さん、いい歳した大人が少年ジャンプを読んでるなんて﹂
﹁いいじゃねぇか。男ってのは何歳になっても心はガキのまんまなん
だよ。それに花林もジャンプ愛読者でな、帰ってきた時に抜けてる週
があったら気になって暴れるかもしんねぇしよ。そんじゃ、またなカ
ズ﹂
そう言って桐継さんは白衣を翻し、病室から静かに退室した。
﹂
残された俺と須郷さんは知り合いの知り合いという繋がりでしか
ないため、場の空気が重く感じる。
﹁桐ヶ谷君は、花林君と知り合って何年だい
場の空気に耐えれなくなったのか、はたまた会話をしたいと思った
のか須郷さんがその言葉を零す。
﹁私は5年かな。彼がこんなに小さい頃から僕は彼と桐継さん、と親
密な付き合いをしていたんだ﹂
そう言って懐から手帳を出し、すっと一枚の紙を出して俺に見せて
くる。それは男二人が少し目つきの悪い少年の頬を両サイドから指
で押している写真だった。
俺は最初なんでこんな写真を見せてきたんだと疑問に思ったが、そ
れは一瞬にして消え去った。何故なら、二人の男は桐継さんと須郷さ
んだと分かり、真ん中の少年はコノハの面影を残していたからだ。
﹁他にもこんな事やこんな事もあったなぁ﹂
須郷はその写真を仕舞うと川で釣りをしている企み顔のコノハと
桐継さんの写真、須郷さんと将棋を指し苦悶の表情を浮かべるコノハ
の写真と俺が知らなかったコノハの顔が映った写真を見せては仕舞
いを繰り返す。
224
?
それらを見せつけられ、俺はぐぐぐ⋮と音が鳴るほど拳を握る。
﹁それで、須郷さんはそれらの写真を見せて何が言いたいんですか
﹂
?
﹂
俺は表情と声を平静に保ちながら質問すると、手帳を懐に仕舞って
と言いたいだけだけど
眼鏡を中指でくいっとする。
﹁羨ましいだろ
﹂
﹂
?
ら僕は帰ったと伝えて欲しい﹂
﹁もしかしたら桐継さんより先に帰るかもしれないぜ
﹁いや、君は面会時間一杯までここにいるだろう﹂
?
で靴を履いていた時、携帯にメールが届いた。
送り主は筋肉至上主義のエギルだった。また筋肉自慢か
とメー
それから数日後、シャワーを浴び、コノハの見舞いに行こうと玄関
郷は病室を出て行った。
それじゃ、また何処かで。何処かで聞いた事のある台詞と共に、須
いそうな気がするよ﹂
﹁なんとなくだよ。そしてなんとなくだけど、また君とは何処かで会
﹁どうしてそう思うんだよ﹂
﹂
﹁それじゃ、僕は帰るよ。こう見えて忙しい身でね。桐継さんが来た
﹁8割本気だ
﹁まぁ2割は冗談だよ﹂
﹁性格悪いな
?
筋肉の写真じゃありませんようにと祈りながら開くと、それは筋肉
後に写真が一枚添付されていた。
ルを開くと﹃これに写ってる人物を見たら店に来てくれ﹄と書かれた
?
225
!?
!
の写真ではなく何処かの景色だった。いや、特徴のある色合いやライ
ティングからこれは現実世界ではなくポリゴン製の仮想世界だから
何かのゲームの景色が正しいか。
大樹の幹を背景に、一つの鳥籠がぶら下がり、中には本棚や机、豪
華なベッドがあるのが分かる。そしてベッドに腰掛ける人物が拡大
﹂
して見ると、その顔に俺は見覚えがあった。
﹁コノハ⋮
俺は病院に行く予定を取り下げ、病院とは真逆にあるエギルの店へ
自転車で全速力で向かった。
エギルが経営する喫茶店兼バー兼ジムは、煤けた黒い木造だ。喫茶
店兼バーの飲食部分はシックな造りで、奥に後付けされたジム部屋は
近代的なトレーニング用品が敷き詰められている。ジムに通ってい
る人曰く、シャワーも設置されていて、運動した後に軽い物を食べれ
るから素晴らしいらしい。
肩で息をしながらカランカランと乾いたベルを鳴らして入り口を
開けると、カウンターの向こうでSAO時代と変わらないぐらいの肉
体のエギルがニヤリと笑った。
俺はカウンターの椅子に座ると、エギルは﹁駆け付け一杯飲んどけ﹂
と水の入ったグラスを俺に差し出す。それをぐいっと一気飲みし、落
ち着いた俺は携帯でエギルから送られてきた写真を開きカウンター
に置く。
﹁これはどういうことなんだ﹂
そう聞くとエギルはカウンターの下から一つのゲームパッケージ
を取り出し、俺に向けて滑らせる。
それを受け止めて見ると、ファンタジーを思わせる衣装を着た男女
が飛んでいるイラストの下に︽ALfheim Online︾と書
かれていた。
226
!?
﹁アルヴヘイム・オンライン。オレたちがSAOに囚われている間に
﹂
出来たナーヴギアの後継機、アミュスフィアで出来る今話題のVRM
MOだ﹂
﹁どういったゲームなんだ
﹂
﹁アルヴヘイムは妖精の国という意味で、文字通りプレイヤーは妖精
になるらしい﹂
﹁妖精なぁ⋮。まったり系なのか
﹁いやある意味えらいハードだ﹂
しい﹂
﹁そりゃ凄いな。PK推奨ってのは
﹂
﹂
﹁確かにハードだな。けど、そんなマニア仕様でどうして人気なんだ
が、違う種族間ならキル有りだと﹂
﹁プレイヤーはキャラメイキングでいろんな妖精の種族を選びわけだ
?
SAOってとこだな。グラフィックや動きの精度もSAOに迫るら
いからな。戦闘もプレイヤーの運動能力依存、剣技なし、魔法ありの
﹁なんでもレベルが存在せず、PK推奨のプレイヤースキル重視らし
ハンドグリップで握力を鍛えながら、エギルは話す。
?
﹁飛べる
﹂
?
くてな﹂
﹁へぇ⋮⋮で、これがあの写真と何の関係が
﹁その写真はこの中で撮られた写真だ﹂
﹂
﹁妖精だから羽がある。フライト・エンジンとやらを搭載してるらし
その先は少女の背中に薄く見える羽のような物だった。
俺 の 持 つ パ ッ ケ ー ジ を ト ン ト ン と ハ ン ド グ リ ッ プ で 叩 く エ ギ ル。
?
227
?
﹁理由は飛べるからだそうだ﹂
?
﹁な
﹂
いやでも何で
そもそもこれは正規版のゲームだよな
もしかし
?
﹁⋮⋮
﹂
?
細部を見ながら直接確かめるしかないのか
と思っているとふと、開
人の空似と言うには余りにも似過ぎている。ゲームのパッケージの
もう一度写真とゲームのパッケージを見る。写真に写る人物は、他
引き延ばしたのがこれだ﹂
所で届かなかったそうだ。その時に到達した所を写真で撮った物を
式で木の枝を目指したそうだ。目論見はうまく行ったが、あと少しの
とを考える奴がいるもんで、体格順に五人が肩車して多段ロケット方
この樹の一番下の枝にすらたどり着けない。だが、どこにも馬鹿なこ
﹁いや、なんでも滞空時間ってのがあって、無限には飛べないそうだ。
﹁飛んでいけばいいじゃないか﹂
うだ﹂
イヤーの当面の目標は、この樹の上にある城に到着することなんだそ
﹁で、話の続きだが、この写真は世界樹と呼ばれる樹の上らしい。プレ
ん﹂と言う。
俺は今も来る額の痛みに恨めしい目でエギルを見ると﹁すまんすま
きの衝撃はこの男からのデコピンということになる。
コピンの放った後の形をした手をこちらに向けていた。つまりさっ
声の主を見ると、そいつは親指を曲げ、残り四指を開いた、所謂デ
﹂
び交い始めた時、額に鋭い衝撃が襲いかかってきた。
たら他人の空似の可能性も。俺の中で色々な仮説、可能性、否定が飛
?
俺は手にしているパッケージをじっと見る。この世界にコノハが
!?
﹁落ち着いたか
!?!?
発メーカーの名前に目が止まる。︿レクト・プログレス︾。何処かで聞
?
228
?
いた覚えがあるような⋮。
﹂
﹁なぁエギル、このソフト借りていいか
﹁行く気なのか
﹁おいおいそりゃねぇぜ﹂
﹂
﹁それいいな。勿論エギルの奢りでだな﹂
しようぜ﹂
﹁そうか。なら頑張れよ。もしコノハだったらウチで盛大にパーティ
﹁あぁ、僅かな可能性でも俺は縋りたいんだ﹂
?
そんな軽い会話をし、俺はエギルの店を出た。
229
?
episode20 直葉﹁お兄ちゃん﹂
玄関に綺麗に揃えて置いてある靴を見て嫌な汗が額から顎にかけ
て流れ、抑えようとしている激しい息と動悸が誰かに操られているよ
うに早まる。
行く時にはなかった少し汚れた運動靴。それがあるということは
つまり、あれが部活を終えて学校から帰ってきてるということだ。
だが、玄関のドアを開ける時に直感で嫌な気がして音を立てずに開
けたのはファインプレーだ俺。このまま音を立てずに静かに二階の
部屋に行って鍵を閉めれば
﹁おかえり、お兄ちゃん﹂
靴を脱ぎ、階段の一歩目を踏み出した時にその声はリビングの方向
﹁ゲーム⋮
﹂
る凄みを発する。やばい、これは非常にやばい。胃がキリキリする。
230
から聞こえた。
錆びついたブリキのおもちゃのようにギギギ⋮と顔を向けると、そ
こには俺の妹、直葉がまだ帰ってきてからそんなに経っていなかった
のか制服姿のままだ。笑顔でこちらに歩いてきたが、その目にハイラ
イトはない。
お兄ちゃん﹂
目の前まで来たスグはひしっと俺を抱き締める。体中にぞわっと
鳥肌が立ち、足が震える。
﹁今日は何処に行ってたの
﹂
?
﹁あ、いや、ちょっとゲームしたいんだけど﹂
﹁そうなんだ。あ、今から暇かな
﹁あ、あぁ、知り合いの所だよ。気になる事があってな﹂
?
ただでさえ怖い雰囲気を纏っていたスグがもはや殺気ではと思え
?
﹂
﹁まさかVRMMOとかじゃないよね⋮
﹂
ただの携帯ゲームだ
﹁横から眺めてる﹂
あたしに見せれない物でもするの⋮
﹂
ねぇお兄ちゃん
嘘ついたの
﹂
﹂
最近お兄ちゃん誰
あたしの事
あたしと一緒にいてく
?
﹁お兄ちゃん
ねぇ、なんで
夕飯時には帰るから
れるんじゃないの
﹁悪いスグ
!
﹂と現実から仮想世界に身を投じた。
るように﹁リンクスタート
﹁お兄ちゃん
!
﹂
お兄ちゃん
?
俺はソフトをパソコンに挿入し、ナーヴギアを被ってスグから逃げ
?
?
が揺れる。虚を突いた筈なのにすぐ追いつくとは。
階段のすぐ横にある自室に入って鍵を閉めた数瞬後、ドンドンと扉
スグが体から離れた瞬間、俺は階段を駆け上がる。
﹁わかった﹂
れ﹂
﹁そういうのじゃないけど、わかった。一緒にいるから一回離れてく
嫌いになったの
かのお見舞いばかりであたしと余り一緒にいないよね
﹁なんで⋮
﹁一人でしたいんだ﹂
﹁お兄ちゃんがしてるから詰まらなくないよ﹂
﹁多分詰まらないぞ
﹂
﹁ごめん、これ一人用なんだ﹂
﹁ならあたしもしたい﹂
﹁ま、まままさか
?
?
?
?
?
231
!
?
?
?
!
?
!
何度呼びかけてもお兄ちゃんからの返事はない。十中八九、あの
忌々しいゲーム機を被って意識をシャットアウトしたのだろう。
あたしは扉を叩くのを止め、隣の自室に入る。
ベッドと勉強机だけという閑散とした部屋だけど、隣にはお兄ちゃ
んがいると思うだけで寂しいとも思わなかった。
けどそのお兄ちゃんも茅場晶彦が起こしたSAO事件に巻き込ま
れて仮想世界に囚われ、病院に入院し、隣の部屋は二年も過ごす人の
いない空室と化した。その間あたしは不安と寂しさを感じながら過
ごした。
だからあたしは大好きなお兄ちゃんを奪った、お兄ちゃんが大好き
なVRMMOが憎い。
でも、少し気になった。お兄ちゃんが没頭するほどに好きなそれ
が。少しでもお兄ちゃんを知りたいが為に知りたくなった。
余り仲良くないがゲームに詳しいとよく聞くクラスメイトにオス
スメのゲームがないか聞いたらアルヴヘイム・オンラインを勧められ
た。
なんでも、レベル制ではなくスキル制なので時間のない学生でも身
体能力とセンスさえあればプレイできるらしい。
勧められたその日に今までお兄ちゃんとお母さんの誕生日プレゼ
ントを買う時くらいしか使わなかった貯金でゲーム機のアミュス
フィアとソフトを買い、仮想世界に飛び込んだ。
現実と遜色ない世界に驚きはしたものの、やはりそれまでで楽しい
という気持ちよりお兄ちゃんを奪ったことに対する憎さのほうが上
回っていた。
あたしはストレス発散の意味も込めて別勢力のプレイヤーをキル
した。このゲームは元々そういうものだと聞いてたし文句は言わせ
ない。
剣と剣の激しいぶつかり合い、空を飛ぶ感覚、相手が四散して出来
V R M M O
V R M M O
たポリゴンが消えていく様、これらは私が思う以上に私のストレス軽
減に大きく貢献した。
その理由は、この世界にいるこの世界を好きな人間を、この世界が
232
V R M M O
憎いあたしが殺すことで、この世界を否定出来ているような気分に
なっていたからかもしれない。
その日から、お兄ちゃんと面会出来ない夜は宿題を終わらせた後、
アミュスフィアを被り妖精の世界にストレス発散の為に潜った。
来る日も来る日も、剣を振り、魔法を唱え、敵を屠った。そしてい
つの間にかあたしは﹃疾風のリーファ﹄と同勢力には敬意を、他勢力
と言っていたがそんなの本当にどうでもよ
には畏怖を込めて呼ばれるようになっていた。クラスメイトは二つ
名が付くなんて凄いよ
かった。
そんなどうでもいいことから暫く後の事。お兄ちゃんを含めた四
人のSAOプレイヤーがいる病室、いつものようにベッドの横に備え
付けられた椅子に座り、面会時間が終わるギリギリまでいるつもりで
お兄ちゃんを見ていたら向かいのベッドから呻き声が聞こえた。
振り返ると向かいのベッドで寝ている無精髭が目立つ男が目を覚
ましていたのだ。そしてその後、その隣のベッドで寝る浅黒い肌の男
が、次はお兄ちゃんの隣のベッドの青年が、と次々に目覚めていく。
最初の人から一分と経たずに、お兄ちゃん以外の病室のプレイヤー
達全員が目を覚ました。
その事をどこから知ったのか、病室に医者二人が慌てて来て、一人
が面会中のあたしを追い出そうとした。
あたしはお兄ちゃんがもうすぐで起きるかもしれないと言うが、医
者は私の言い分なんて聞きもせず、私を病室から追い出した。
起きるかもしれないという喜びは、今日はもう面会出来ないという
ショックとぶつかり合い、心ここに在らずといった幽鬼のように外に
出た。病院の入り口でどこにそんな力があるのと思えるくらい細く
なった肢体を点滴で支える栗色の髪の女の人とすれ違った。
そして次の日、あたしはお母さんには内緒で学校を休んでお兄ちゃ
んの病院に向かった。病室に入ると、リクライニングベッドを起こし
て上半身を起こしていたお兄ちゃんが﹁ただいま、スグ﹂と昔と変わ
らない笑顔で迎えてくれた。私は﹁おかえり、お兄ちゃん﹂と涙を流
してお兄ちゃんに抱きついた。
233
!
ヒューヒューと囃し立てる無精髭の男にお兄ちゃんが一睨みして
黙らせた後、お兄ちゃんと色々話した。剣道大会で全国一位を取った
こと、生徒会副会長になったこと、そのせいで色々な部活に助っ人と
して参加していることなど。逆にお兄ちゃんは今までゲーム世界で
あったことを話してくれた。が、正直VRMMOが嫌いなあたしには
余り聞きたいとは思えない話だったけど、話している時のお兄ちゃん
は笑顔で、あたしはその笑顔を見てまぁ聞きに徹するのも悪くないか
なと思っていた。
けど、お兄ちゃんはあたしとの会話途中、その笑顔に偶に寂しいと
﹂と聞いても﹁いや、なんでもない﹂と取って付けたよ
印象付ける変化を浮かべる。
﹁どうしたの
うな笑顔で誤魔化す。あたしはならいいかとその時は深くは聞かず、
もやもやとしたなんとも言い難い奇妙な感覚を胸に抱えて最近出来
たクレープ屋さんの話をしようとした時、病室の扉を開けてお母さん
が入ってきた。心臓が止まるかと思った。私は学校を勝手に休んだ
﹂と舌を出してコツンと頭に拳をぶつけた。
事に対して怒られるかとビクビクしていたが、お母さんは﹁会社休ん
で来ちゃった
そしてカツカツとヒールを鳴らして座っている私の横に来て、﹁お
かえり﹂とお兄ちゃんに言い抱きついた。その時やっぱり親子なんだ
なぁとなんとなく思った。
一ヶ月くらいして、日常生活に支障が出ないと判断されたお兄ちゃ
んは退院した。
お母さんが家に帰ろうと車に乗った所でお兄ちゃんが﹁寄りたいと
ころがある﹂と助手席に座りカーナビである場所を目的地にした。そ
の場所は今いる場所から車で僅か十分といったところだったのでお
母さんは﹁用事は短めにね﹂とそこに走らせた。隣にお兄ちゃんが座
る予定でいたのに空席となり、寂しかった。
着いた場所は病院だった。お兄ちゃんは﹁十分以内に帰ってくる﹂
でもそれならなんでこの病院を
と
と言って病院に入り、残されたあたしとお母さんは首を捻らせた。何
処か具合でも悪いのだろうか
色々な疑問が浮かんだ。
?
?
234
?
!
その日から、お兄ちゃんはほぼ毎日その病院に通っていた。理由を
聞いても笑って誤魔化された。
毎日夕方から晩御飯までの間、お兄ちゃんはそこに行く。学校に
通っているあたしはお兄ちゃんと話せるのは放課後から夜にかけて
なのだけど、放課後は病院、夜は自室に引きこもり何かしているため
スキンシップが取れないでいた。そんな毎日が続き、もやもやが溜ま
りに溜まっていった。
あたしは少しぼーっとした後、ベッドの下からこの部屋唯一の娯楽
品であるヘッドギア、アミュスフィアを取り出して被り、ベッドの横
になる。
﹁リンクスタート﹂
この鬱憤を、このもやもやを、今日もサラマンダー領にちょっかい
をかけることで発散しよう。
235
episode21 コノハ﹁出番がない件﹂
このゲームって落下して何処とも分からない場所から始まるのか
と下半身が地面に埋まった状態で思った。
9つある種族の中から全身黒装備が初期装備のスプリガンと呼ば
れる種族を選択し、スプリガンのホームタウンと思われる街に向かっ
て落下していたのだが、激しいノイズが視界を遮ったかと思うと今の
状態に至る。
よいしょ、と腕の力で地面から下半身を引き抜き、ズボンの砂を叩
いて落とし、周りを確認する。
数多の木が天に伸びる森の中に俺は落ちてきたようだ。真上を見
上げると暗い空に満月と星が煌いている。
現在地と所持アイテムを確認すべく右手を上げ、人差し指と中指を
と焦ったがキャラメイキングの時にメニューの開き方はS
揃えて下に下げるが、メニューは開かれない。まさかさっきのあれは
バグか
︽裁縫︾と言った生活系スキルと種類は豊富でどっちに傾けてるんだ
︽片手剣︾
︽体術︾
︽武器防御︾と言った戦闘系スキル、
︽釣り︾
︽料理︾
には10を超えるだろうスキルの名前がずらりと並んでいたのだ。
まだスキル設定をしてないことから何もないと思われていたそこ
た。
れていたのだが、その下に書かれている習得スキルの数がおかしかっ
名前と種族の下には初期値と思える程の低さのHPとMPが書か
く。
続いて自身のステータスを確認するが、ここでおかしな事に気付
はあったので一応安心した。
くが、マップらしき物は存在しなかった。代わりにログアウトボタン
SAOの時とは細部が違うが似たようなメニューをタッチしてい
ドウが開かれた。
じ動作をすると、今度は軽快な電子音と共に見慣れた半透明のウィン
AOの時とは違い、左手ですると言ってたっけと思い出し、左手で同
!?
よと言われてもおかしくない一貫性のないスキルの選び方だ。
236
?
開始直後の画面のノイズ、始まる場所が違う事、なにもないはずの
スキル欄に多くあるスキル⋮。
﹁初めからゲームマスターの厄介になるのは勘弁してくれよ⋮﹂
そう愚痴りながら適当にスキル欄をタップして長い時間をかけて
上げていくはずなのにちらほらとカンストもある習熟度を確認して
いると、ふと、既視感のような物を感じた。
いや、既視感を感じるのも当然だった。何故なら、それらはSAO
﹂
ALOのソフトでSAOに来れ
で長い年月をかけてあげてきたスキルと全く同じだったからだ。
﹁一体どうなってるんだ
もしかしてここはSAOなのか
いやそれならエギルが何かしら言うはずだ。
普段なら迷わず捨てる所だったが、何故だかそれだけは捨ててはい
と思えない文字が書かれていた。
そして一つ一つを処理していくと、最後のアイテムだけは文字化け
る。
巻き込まれるのも勘弁して欲しいし、優先度はコノハが上だと割り切
たりレアドロップだったりする可能性もあるが下手に抱えてバグに
てていく。もしかしたらこれがあの時苦労して手に入れた武器だっ
発見に適当な考察を付け、とりあえずこういうのは危ないと判断し捨
スキル同様、アイテムもSAOから引き継いだのだろうかと新たな
の羅列だった。
字やアルファベット、記号などがランダムに書かれた、所謂文字化け
しかしアイテム欄が開かれたと同時に目に飛び込んで来たのは数
握してから整理しようとまだ開いていないアイテム欄を開く。
様々な憶測に頭を捻るが答えなんて思い浮かぶ訳もなく、現状を把
るのか
?
?
けないという直感が働いた俺はそのアイテム、
﹃yui│smsya﹄
をオブジェクト化した。
237
?
と指先でつつくとその行動
手のひらに現れたのは水色の結晶だった。月の光を受けて光るそ
れを見てこの世界の回復結晶か何かか
やってしまったか
メートルもの高さまで浮いた。
やばい
と思っているとガラスが砕けるよう
がキーであったかのように結晶は輝き出し、その輝きを増しながら2
?
い笑顔を見せる。
﹁お久しぶりです、キリトパパ
面に尻餅をつく。
キリトパパも元気そうでなによりです
﹁元気そうでよかったよ、ユイ﹂
﹁はい
﹂
あれ
あと少しだけキリトパパの見た目が違うような
﹁それにコノハパパはどこですか
﹁それはだな﹂
か
!
﹂
ここどこです
突然の再会に唖然としていた所にタックルで踏ん張りが利かず、地
少女、ユイは俺にタックル気味に飛びつき腰に抱きつく。
﹂
少女は閉じていた瞼をゆっくり開き、満開のヒマワリのような眩し
で立ちをした少女だった。
光が収まり、そこに立っていたのは黒い長髪に白いワンピースの出
な音を鳴らした後、ゆっくりとその光は地面に降りる。
!?
!
が起きないこと、この世界でコノハらしき人物がいることを話した。
一部スキルがソー
ユイは目を閉じてそれらを黙って聞き、俺が喋り終えると﹁なるほ
ど﹂と目を開く。
﹁けどどうしてユイは俺のアイテム欄にいたんだ
ドアート・オンラインの時のままあるし﹂
﹁キリトパパの話を聞きながらこの世界について調べたのですが、こ
?
238
!
﹁そこらへんの事情も話すよ﹂
?
?
!
俺はアインクラッドをクリアしたこと、現実世界に帰ったがコノハ
?
?
の世界は︽ソードアート・オンライン︾サーバーのコピーだと思われ
ます。なのでソードアート・オンラインで所持していたアイテムやス
﹂
キルもあっても不思議ではありません。私がキリトパパのアイテム
欄にいたのはキリトパパとコノハパパの愛の力です
﹁なるほど﹂
つまりSAO事件でアーガスが解体後、アーガスの技術を吸収した
レクトがその技術をそのまま流用し新しくVRMMOゲームを作っ
た。しかもそれを元に新たに作ったのではなく丸ごとコピーし、それ
を土台に作り上げたのだろう。そして俺のスキルの習熟度やアイテ
ムが引き継がれていた事からセーブデータのフォーマットなる物も
同じだろうと推測出来る。
前みたい
いまだに帰還しないSAOプレイヤー、コノハに似たキャラ、SA
Oをコピーした世界。益々きな臭くなってきたな。
﹂
﹁そういえばユイはこの世界ではどういう立ち位置なんだ
に管理者権限みたいなのはあるのか
?
ゲーション・ピクシー︾と呼ばれるものに分類されるようです﹂
パッとユイの体を眩しい光が包み、光が消えるとユイはちょこんと
手に乗るほどのサイズになっていた。
﹁管理者権限は剥奪されてるみたいで、コノハパパの居場所が分かり
ません。ごめんなさい⋮﹂
﹁いや、場所は分かってるからそこに案内してくれればいいよ。あ、後
任せてください
﹂
⋮あっ﹂
追いかけているようです﹂
239
!
﹁この世界だとプレイヤーをサポートする擬似人格プログラム、
︽ナビ
?
飛び方とか教えてくれてら嬉しいな﹂
﹁はい
﹁どうした
!
﹁こちらにプレイヤーが向かってきてますね。数は8、6人が2人を
?
!
﹁お、戦闘中かな
なら向かいながら飛び方を教えますね﹂
この世界の戦い方見てみたいし行ってみようぜ﹂
﹁流石キリトパパです
﹁頼んだ﹂
リーファは木が乱立する森をウネウネと撹乱するように飛び、背後
に飛ぶクラスメイトさえいなければと舌打ちをした。
いつものようにサラマンダー領にちょっかいをかけに行こうとシ
ルフ領にある宿屋から出る時、タイミング悪くクラスメイトに捕ま
り、
﹁僕も連れて行ってよ ﹂としつこく付き纏われ、折れてしまった
﹁︵羽の色的にあと一分くらい⋮一度地に降りないといけないわね︶レ
しかしその鬼ごっこももうすぐ終わりを迎えようとしていた。
から。
に今もリーファは逃げ切れないにせよ、追いつかれず倒されないのだ
きた。破格と言ったが、正直リーファに対してその人数は少ない。現
手に戦士3、魔法使い3という2人に対して破格の戦力で追いかけて
何度と暴れてきたリーファをサラマンダーは見逃す訳もなく、追っ
スメイトの首根っこを掴み、サラマンダー領から離脱した。
れ状況は一変、前線を崩せなくなったリーファは分が悪いと悟りクラ
かったから。しかし少しして、魔法を主体とする魔法使いの集団が現
最初のうちはよかった。主に接近戦を仕掛けてくる戦士しかいな
ど言ったにも関わらずだ。
場所を教えてしまったのだ。来る時にあれだけ口が酸っぱくなるほ
た時、クラスメイトが罠を踏み、近くにいたサラマンダー近衛兵に居
サラマンダー領である程度暴れ、誰かに気付かれる前に帰ろうとし
のが彼女の運の尽きだった。
!
﹂
ンコン、一回地面に降りて隠行魔法で隠れるわよ﹂
﹁だからレコンだって
!
240
!
?
スピードを落とし、地面に近づき、靴底を滑らせながら制動をかけ、
近くにある膝あたりまで伸びた草むらに飛び込み隠行魔法を唱える。
風がリーファの全身を覆う。これでリーファの姿は味方であるレ
コン以外には見えないが、高度の索敵スキル、もしくは看破魔法を使
われたらその限りではない。
﹂
やがてサラマンダーが次々と近くに降り立つ。
﹂
﹂
﹁ちっ、どこ行きやがったあの辻斬り野郎
﹁いや女郎じゃね
﹁そんなのどっちでもいいんだよ
﹂
にレコンが隠れる太樹の後ろに数匹向かっているのが見えた。
たりしてリーファの方向には奇跡的に一匹も来なかった。が、代わり
トカゲの進行方向はランダムだ。あっちに行ったりこっちに行っ
えるサラマンダーの看破魔法である。
中のプレイヤー、もしくはモンスターと接触すると爆発して場所を伝
し、赤い鱗を持ったトカゲのような生き物を数十匹生み出した。隠行
魔法使いの杖から現れた轟々と燃える炎は、上空に上がって爆発
える。
くが、そんな事彼等が知る訳もなく、魔法使いの1人が看破魔法を唱
そのままどっか行ってよ、とリーファは地面に伏しながら悪態を吐
﹁なら看破魔法を使おう﹂
﹁もしかしてここら辺で隠行魔法使ったんじゃないか
!
﹂と震えるレコンを囲む。こ
やがてレコンを覆う風に触れ、トカゲは大きく鳴き燃え上がった。
﹂
こいつ付き添いじゃねぇか﹂
﹁いたぞ
﹁あ
になる位置だった。
241
?
!
?
そう言ってサラマンダー達は﹁ひっ
!
の時のレコンの位置はサラマンダー達がリーファに背に向けるよう
!
?
リーファは殺れると判断し、草むらから音もなく立ち上がり、腰に
ぶら下がる愛剣を抜き、音を立てないよう慎重に、しかし素早い動き
でサラマンダーに迫った。
が、視界をサラマンダー達に狭め、足元への注意を疎かになってし
まい、まだ索敵している看破魔法のトカゲが木の陰から出てきたこと
に気づかなかったリーファは、それに触れてしまった。
トカゲが隠行魔法を解いてなかったリーファの存在を鳴き声と燃
え上がることで知らせ、サラマンダー達が後ろを振り返る。
リーファは構わず前進、厄介な魔法使いに狙いを定め、額に向かっ
て突きを放つ。
防御に阻まれないその突きは綺麗に魔法使いの額に突き刺さり、人
体急所補正、スピード補正などのボーナスによる大ダメージから魔法
使いは一撃でポリゴン片になった。
隣に立っていた魔法使いも突き出した剣を横に振るい、首を二度斬
り、前の魔法使いと同じ結末を迎えさせる。この間僅か二秒。
しかし二秒もあれば再起動するには十分だ。
最初に落ちた魔法使いの右隣に立っていた男がブォンと斧を振る
う。背後から迫るそれをしゃがむことで回避するが、同時に炎がリー
ファの視界を覆った。
最後の魔法使いからの攻撃を受けたリーファは炎に包まれる。炎
の厄介な所は消えない限り続く継続ダメージだ。リーファはそれを
消すべくバックステップで距離を取り、地面を転がって炎を消し、す
ぐに立ち上がり状況を確認する。
﹁︵今の一回で魔法使いを2人殺れたのはでかいけど、状況が悪いのは
変わらないわね︶﹂
相手は4人、リーファはレコンを含め2人。しかしレコンはいつの
間にか両腕を切り落とされ、剣を持てないようにされている。しかも
レコンは魔法を唱えるのが苦手だ。短い低級魔法でも唱えきるのに
五秒もかかるレベルな為もう戦力としては数えられないだろう。
242
HPはまだあるもMPは残り僅か、飛行も出来るまでまだ時間がか
かる。
この圧倒的戦力差の前にリーファはギリッ、と歯を食い縛る。
と彼女は頭の中で様々な事を考える。
逃げるにもこの人数差ではすぐに囲まれる。挑むのも以ての外。
どうする
しかしその中に投降するや挑んで負けるなどの選択肢はない。何
故なら、彼女はこの世界の住人を、この世界を愛する人を倒す事でこ
の世界を否定し、ストレスを発散しているのだ。
﹂
例え多対一という不利な場面であろうとも、負けてしまったら⋮。
﹁おわぁぁ
恐怖に身を震わせそうになった時、それはリーファとサラマンダー
達の間に落ちてきた。
243
?
!?
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