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卸売市場の現状と課題

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卸売市場の現状と課題
第1章 卸売市場の現状と課題
1.卸売市場を取り巻く環境変化
(1)消費者ニーズの変化
①消費の多様化
昭和年代の後半以降、食料消費はその量的限界だけではなく、少子高齢化、共働き世帯
や一人世帯の増加など、社会構造の変化やライフスタイルの変化に伴い、その質の面でも
大きく変化した。その基本的な傾向は、簡便化(冷凍食品、レトルト食品、ファストフー
ド)、外部化(総菜、中食、ファミレス)である。他方、その対極としてのスローフード、
環境配慮志向の存在、あるいは低価格化を基調としつつも高級化志向の浸透も見られるな
ど、消費多様化ともいえる状況がある。生鮮品についてみても、直接調理することが少な
くなり、消費者が求める食材も多様化し、冷凍食品、加工品や総菜など、食材の加工度や
用途に応じた多様な消費が見られる。その結果、飲食料費の最終消費額は、生鮮が約 2 割、
加工食品が約 5 割、外食が約 3 割を占めている。(図表 1-1 参照)
②購買方法の変化
消費者の食料品等の購入は、鮮魚店や八百屋などの専業小売店の利用が減少し、生鮮
三品や日配品、加工品や総菜等がワンストップで購入できる食料品スーパーなどが主流
となり、コンビニエンスストアやドラックストアなどでも食品の品揃えが充実してきて
いる。また、インターネットなどを利用しての全国からブランド食材や生鮮品等の直接
購入、あるいは地域の直売所の利用など、消費者の購買方法は多様化している。
③健康志向と食の安全・安心
ダイエットや生活習慣病予防などの健康志向の高まりから、さまざまな機能性食品が
開発され、食習慣を見直す考え方が浸透している。また、BSE や食品偽装、残留農薬など
の不安から、生産や流通過程においても安全・安心の確保が求められており、生産履歴
や原材料表示の適正化など、幅広い商品情報の提供も必要となっている。
図表 1-1 青果物を中心とした食料供給の全体像 (H12 年)
飲食費の最終消費額
80兆2570億円
直接消費者向け
7兆7830億円
生鮮品等
15兆790億円
(18.8%)
生鮮品(国内) 7兆7830億円 (52%)
内訳 生鮮品(輸入) 1兆3700億円 (9%)
卸売経費
小売経費
貨物経費
1兆3700億円
食用農産物等
国内生産
12兆1290億円
生鮮品輸入
3兆2100億円
加工向け
内訳 原料(国内) 4兆7650億円 (11%)
2兆9190億円
1兆1800億円
一次加工品輸入
5110億円
原料(輸入) 3兆9550億円 (10%)
資材 4兆7080億円(11%)
食品工業の加工経費
10兆5580億円 (26%)
卸売経費 7兆3920億円(18%)
小売経費 8兆6660億円 (21%)
貨物経費 1兆4220億円 (3%)
加工食品
41兆4660億円
(51.7%)
最終製品の輸入
加工品等輸入
2兆3730億円
2兆4090億円(16%)
3兆 800億円 (20%)
4360億円 (3%)
1兆5170億円
外食向け
1兆4260億円
6600億円
最終製品の輸入
外食
23兆7120億円
(29.5%)
3450億円
内訳
原料(国内) 3兆4980億円 (15%)
原料(輸入) 2兆4160億円 (11%)
資材 4兆4830億円(20%)
外食産業の販売経費
9兆9390億円 (43%)
卸売経費 1兆5910億円(7%)
小売経費
6860億円 (3%)
貨物経費
2900億円 (1%)
出典:総務省他9府省庁「産業関連表」(平成12年)を基に農林水産省が試算 一部加工
2
(2)食料品流通の状況
①生産・供給の変化
米、野菜、果実の消費減退、農業就業人口の減少や高齢化等による国内生産力の停滞、
国内漁業生産量の減少が見られる一方で、輸入が増加し食料品等の輸入依存が高まって
いる。
また、農協の合併により、産地が一層大型化し、消費者ニーズに対応した商品開発や
流通に取り組むなど、価格形成に対する発言力を強め、物流コストの削減や高値を求め
て、出荷先を選択する傾向が強まり、大消費地の大規模市場への出荷集中が進んでいる。
②小売業の構造変化
専業小売店が減少し、食料品スーパーが主流となる一方、ドラックストア等でも食品
等を扱うなど小売業態が多様化している。商業統計調査(秋田市分)では、平成 9 年と平
成 19 年を比較すると、飲食料品の小売店舗数は 1,510 店から 1,057 店に減少、年間商品
販売額は 1,398 億円から 1,106 億円に 20.9%減少、特に鮮魚小売業は 63 億から 18 億円、
野菜・果実小売業は 41 億円から 22 億円に減少している。全体のマーケットが縮小する
中で、量販店では、産地や生産者が特定できる産地直送野菜や PB 商品等の差別化やコス
トダウン、宅配等のサービス向上など、生き残りをかけた厳しい競争にあり、地元スー
パーでも県境を超えた提携・統合の動きも見られる。
注:PB 商品(スーパー等が企画販売する独自のブランド商品)
③流通チャネルの多様化
輸入食材は、外食中食、業務用等を中心に増加しているが、卸売市場では、現在でも
生鮮品が中心である。外食中食企業や量販店は、人気産地からの食材確保やコスト削減
のため、市場外からの調達を拡大してきた。近年は、IT 技術を活用した企業間取引(BtoB)
の拡大や生産者と消費者をつなぐ流通チャネルがますます多様化した。こうした過程で
卸売市場の「中抜き」が進み、市場外流通が増加、その結果、特にこの 10 数年間で卸売
市場経由率が低下している。(全国 H 元と H17 比較、
青果 82.6%→64.8%、水産 74.6%→61.3%)
図表 1-2 食品流通の主要経路
市場流通
市場外流通
(太さは流通量)
水産会社
商社
輸入
生鮮品、加工品
卸売市場
生
産
者
出
荷
団
体
等
卸
売
業
者
仲
卸
仲
卸
卸売市場
個人出荷
外
食
産
業
食大
品口
製
需
造
加要
工者
量
販
店
小売店
生産者直売など
産地直送
3
消
費
者
(3)卸売市場の状況
①卸売市場低迷の要因
1)卸売市場の歴史的な意義
かつて、卸売市場システムが最も有効であったのは、産地、生産者、流通業、小売業
共に供給や取扱量が小規模であった時代である。また、生鮮品の生産は自然条件に大き
く左右され、鮮度維持が困難で、輸送範囲には限界があった。生産者は独自の流通手段
を持たず、必然的に最寄りの卸売市場に出荷した。卸売市場では、生鮮品をセリにかけ、
合理的な価格が形成され、生鮮品は直ちに市場外に搬出され、小売店の店頭に並び、現
物取引が有効であった。そのため、生産地から消費地に至る鮮度維持を考慮し、全国に
数多くの卸売市場が設置されてきたのである。
この伝統的な卸売市場のシステムでは、生産者が出荷し、小売店が購入するのは必然
であると考えられていた。卸売業者は、委託販売で仲卸業者や買参人に販売すれば一定
の手数料を得られ、仲卸業者は、卸売業者から仕入れたものを小売店等に販売するだけ
で一定の利益が得られた。エンドユーザーである消費者の質的ニーズを考慮する必要が
なく、独自に商品を探し出すというマーケティングの視点を持ち合わせていなかったの
である。高度経済成長期以降、大都市圏への人口集中、食生活の変化、スーパー業界の
成立と拡大などに伴い、卸売市場流通は変貌をとげ、すでに述べてきたように、せり取
引、市場経由率の減少、流通業者の経営悪化などが問題となってきている。
2)現在の状況
消費の多様化が進み、生鮮品、冷凍食品、加工品など多種多様な食品が店頭に並び、
物があふれる現代は、成熟市場の段階にある。業種別の小売店が急速に減少し、食料品
スーパーなどが主流となり、業種別の流通から業態別の多品目流通に変化した。消費の
減少に伴うマーケットの縮小もあり、産地直送野菜や海外輸入など多様な仕入ルートを
活用し、PB 等の商品企画を行うなど、消費者に支持されるための熾烈な競争と同時に淘
汰が進んでいる。
鮮度維持技術が飛躍的に進歩し、生鮮品の特殊性が薄れ、全国に物流が可能となって
いる。そのため、生産者は、遠方であっても、より有利な卸売市場に出荷し、あるいは
小売店との直接取引や消費者への直接販売など、多様な販売チャネルが選択できる。同
時に産地間の競争もあり、消費者に選ばれるための生産に努力している。
また、情報化の進展に伴い、生産者、流通業者、小売店、食品加工業者、外食産業、
消費者などの間で、様々な情報提供や収集が可能となり、インターネット等を利用した
取引も拡大している。
一般の食品卸売業界においては、スーパーやコンビニエンスストア等の業態の品揃え
に応えるため、異業種卸の連携や合併等により総合化し、情報化や物流の効率化に取り
組み、生鮮品等を含めた多品目物流に対応している。
このような環境変化の中、多くの卸売市場は、多品目流通などの物流効率化に遅れ、
流通ニーズに十分対応できていない。
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②市場法改正と国の基本方針
1)市場法改正
平成 16 年 6 月の改正により、取引規制等の一部緩和が実施された。(委託手数料等は
H21 年 4 月∼)同年 10 月の国の第8次卸売市場整備基本方針では、一定規模以下の中央
卸売市場は、より柔軟な運営が可能である地方卸売市場への転換などの再編に取り組む
ことを求めているほか、卸売業者や仲卸業者の近代化の取り組み内容や目標等を示して
いる。今回の改正は、卸売市場制度の転換に関わる重要な内容を含んでいる。
<以下、第8次卸売市場整備基本方針
一部抜粋する>
・卸売業者
経営規模の拡大及び経営体質の強化を図るものとし、特に資本の充実、従業員の資質
の向上、省力化システムの導入等による生産性の向上に努めること。
・・・・・・合併や
営業権の譲受けによる統合大型化、市場を超えた卸売業者間の資本関係の構築による連
携関係の強化を図ること。
・・・・・目標年度における従業員1人当たりの取扱金額の水
準(下表)を達成することを目安とするとともに、異なる市場の卸売業者同士の統合大型
化、青果、水産物等取扱品目を異にする卸売業者同士の統合大型化、連携強化も視野に
入れた対応を行うこと。図表 1-3 卸売業者従業員 1 人当たりの取扱金額水準(H22 年度)
部類別
市場別
中央卸売市場
地方卸売市場
(水産物産地市場を除く)
青果物
卸売業者
水産物
卸売業者
花き
卸売業者
2億4000万円
3億8000万円
1億4000万円
1億円
1億6000万円
8000万円
注:この表に示す水準は、中央卸売市場については平成 14 年度、地方卸売市場については平成 13 年度の価格
水準で、経営コストの低減、取引規模の拡大を図る観点から示したものである。
・仲卸業者
仲卸業者の経営の発展を図るため、仲卸業者数の大幅な縮減を図ることを基本と
し、
・・・・・目標年度における従業員1人当たりの取扱金額の目標(下表)を目安とすす
とともに、異なる市場や取扱品目を異にする仲卸業者同士の統合大型化も視野に入れた
対応を行うこと。
図表 1-4 仲卸業者従業員 1 人当たりの取扱金額水準(H22 年度)
部類別
市場別
中央卸売市場
地方卸売市場
(水産物産地市場を除く)
青果物
仲卸業者
水産物
仲卸業者
花き
仲卸業者
1億円
1億円
5000万円
9000万円
8000万円
5000万円
注:この表に示す水準は、平成 14 年度の価格水準で、経営コストの低減、取引規模の拡大を図る観点から示した
ものである。
2)食料供給コスト縮減アクションプラン
平成 18 年 9 月、国が策定した同プランでは、食料供給コストを5年間で2割縮減する
ことにより、小売価格を低下し、消費者利益の増大を図るとともに、国内農産物の需要
拡大を期待している。卸・小売段階でのコスト縮減の重点課題は次のように示している。
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<卸売市場改革や物流効率化等による流通コストの縮減>
・ 卸売市場改革の推進(卸売市場の再編・合理化、ダイレクト物流の普及、卸売手数
料等の弾力化)
・ 物流の効率化(通い容器の普及、電子タグ等の IT 技術の活用、インターチェンジ近
隣等への物流拠点の再編、配送の共同化等)
・ 多様な流通チャネルの形成(食と農の連携強化、地産地消の推進等)
③卸売市場の動向
全国に卸売市場は 1300 余りあり、中央卸売市場は 79 である。H18.4 以降、9 市場が中
央から地方に転換し、今後、4市場が地方転換、2市場が統合廃止する。中央市場を含む
公設市場のほとんどが収支赤字にあり、市民負担の軽減や市場業者の競争力を高める観点
から、中央から地方への転換、民間の経営手法が期待できる指定管理者の導入や民営化な
どの動きが見られる。
地方卸売市場は 1,259 のうち、公設が 151、民間が 1,108 である。H6 年度と比較すると
288 市場(18.6%)減少し、統合や廃止が進んでいる。卸売業者では、市場内の合併統合の
ほか、異なる市場間でネットワーク構築や統合、資本提携も見られる。
図表 1-5 卸売市場数
中央卸売市場
地方卸売市場
設置形態
公設
公設
民設
計
市場数
79
151
1,108
1,259
備考
H20.4現在
H18.4現在
(H19.4転換した川崎南部、藤沢、三重、尼崎,H20.4に
転換した呉、下関、佐世保は含まず)
図表 1-6 中央卸売市場の主要動向 (H21.2.1 現在)
市場名
釧路
函館
室蘭
青森
盛岡
山形
福島
千葉
東京
H18.4 地方市場転換
H21.4 地方市場転換
H21年度末までに地方市場転換
動向
指定管理者
指定管理予定
指定管理予定
H15
青果卸 営業譲渡
H14.12青果卸 破産
H20.11花き民間市場開業(土地貸付)
H17.3 青果卸 廃業
H18.3 青果卸 破産
H14.10青果卸 合併
H14.10青果卸 合併
H17.4 青果卸 合併
H14.11青果卸 合併
地方転換検討
地方転換検討
(築地)
(淀橋)
(北足立)
(練馬) H13.11民営化(青果卸が開設者)
横浜
川崎
川崎
藤沢
甲府
富山
H20.12水産卸 合併
(北部)
(南部) H19.4 地方市場転換
H19.4 地方市場転換
H21.4指定管理
H23年度 地方転換予定
地方転換検討
H19.4 地方市場(水産)転換
H16.10青果卸 合併
三重県
H21.4指定管理
H21.4 地方市場(残る青果)転換
H20.1 青果仲卸4社 統合
大阪府
H20.11配送センター開業(民間に土地貸付)
尼崎
H19.4 地方市場転換
和歌山
H14.12水産卸 破産
神戸
H19.2 青果卸 合併
呉
H20.4 地方市場転換
岡山
H30年度 民営化方針(長期プラン策定)
H19.9 合同会社がネット販売開始
宇部
H18.10青果卸 買収
下関
H20.4 地方市場転換
松山
H22年度末までに 地方市場転換
北九州
H18.4 水産卸 合併
福岡
(東部)H26年度末までに
(西部)青果市場と統合廃止
佐世保 (千尽) H20.4 地方市場転換
大分
H18.4 地方市場転換
H13.12青果卸 休業
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