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ベトナム:生産から販売まで一貫した効率的な農業システム

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ベトナム:生産から販売まで一貫した効率的な農業システム
平成 26 年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業
ベトナム(生産から販売まで一貫した効率的な農業システムの現地展開事業の
実施可能性に関する調査)
報告書
平成 27 年 3 月 31 日
株式会社日本総合研究所
1
目次
第1章 調査の目的と視点 .................................................................................................... 4
1.目的 .............................................................................................................................. 4
2.調査の視点 ................................................................................................................... 6
第2章 農産物等の市場調査................................................................................................. 9
1.農産物等の市場調査 .................................................................................................... 9
1.1.農産物市場規模の算出...................................................................................... 9
1.2.将来トレンド .................................................................................................. 10
2.農産物の流通構造 .......................................................................................................11
2.1.農産物の流通構造 ............................................................................................11
2.2.主な流通事業者............................................................................................... 12
2.3.農産物流通の課題 ........................................................................................... 12
3.小売企業の農産物取扱い状況.................................................................................... 13
3.1.店頭調査.......................................................................................................... 13
3.2.小売企業ヒアリング ....................................................................................... 19
4.消費者ニーズ ............................................................................................................. 19
4.1.国内事前ヒアリング及び公開情報調査 .......................................................... 19
4.2.現地消費者ヒアリング.................................................................................... 22
5.農産物等の物流の普及状況 ....................................................................................... 23
5.1.農産物物流の概要 ........................................................................................... 23
5.3.コールドチェーンの普及状況 ......................................................................... 24
5.4.植物工場農産物への適応性 ............................................................................ 24
6.農産物の加工技術 ...................................................................................................... 25
6.1.農産物加工の現状と課題 ................................................................................ 25
6.2.現地ニーズに適した日本の農産物加工技術 ................................................... 28
第3章 法制度・商慣行調査............................................................................................... 30
1.農産物の生産・加工・流通・販売に関する法制度 ................................................... 30
1.1.農業生産・加工に関する法制度 ..................................................................... 30
1.2.農産物の物流・流通に関する法制度 .............................................................. 30
1.3.農産物の販売に関する法制度 ......................................................................... 31
2.農産物の流通・販売に関する商慣行......................................................................... 32
第4章 対象自治体の生産環境及びニーズ ......................................................................... 33
1.対象自治体における農産物生産環境......................................................................... 33
1.1.現地の農産物生産環境.................................................................................... 33
1.2.現地農業の課題............................................................................................... 34
2
1.3.候補地の概要 .................................................................................................. 36
2.課題解決に資する日本の技術.................................................................................... 38
3.課題解決の方策(日本式農業団地)......................................................................... 40
第5章 事業性の分析.......................................................................................................... 43
1.現地の生産環境を踏まえた必要なインフラ機能 ...................................................... 43
2.事業形態の検討 ......................................................................................................... 44
3.収支シミュレーション............................................................................................... 47
3.1.人工光型植物工場によるレタス栽培 .............................................................. 47
3.2.太陽光型植物工場によるトマト栽培 .............................................................. 49
3.3.カット野菜工場............................................................................................... 52
4.事業リスクの検討 ...................................................................................................... 53
第6章 事業の波及効果等の検証 ....................................................................................... 54
1.日本国内への経済波及効果 ....................................................................................... 54
2.日本からの農産物輸出と現地生産の相乗効果 .......................................................... 55
3.環境社会的側面への影響分析.................................................................................... 57
4.本事業実施に伴う省エネルギー効率......................................................................... 58
第7章 総括 ........................................................................................................................ 61
【添付資料1:ヒアリングメモ一式】 ................................................................................ 62
【添付資料2:参考文献一覧】 ........................................................................................... 63
3
第1章 調査の目的と視点
1.目的
近年、新興国の急激な経済成長に伴い、世界の農産物市場は大きく変化しつつある。ア
ジアの新興国を中心に富裕層・上位中間層を対象とした良質な市場が新たに出現し、世界
経済を牽引する成長市場として注目されている。特に、日本企業の多くが ASEAN への注
目度を高めているのは周知の通りである。
日本企業にとって従来は安価な生産基地と位置づけられていた中国、ASEAN 等の新興国
は、現在では重要度の高い成長市場へと変貌している。新興国の富裕層の目覚しい購買力
を成長源として取り込むべく、日本でも多くの産業が新興国市場での事業展開を積極的に
進めている。
ASEAN では、2015 年 12 月の経済共同体の創設により、経済統合が一層進むと見込まれ
ている。産業発展の中核エリアとして、日本企業の進出も加速している。ASEAN のなかで
も、特にメコン経済圏では、ADB の GMS 開発プログラムに基づき 520 億ドル規模の投資
が東西・南北・南部の各回廊といわれる道路網への投資が行われる予定であり、域内輸送
の効率化が進むことで経済活動の活性化が期待される。
図 1
ASEAN 諸国の実質 GDP 成長率
出典:IMF, World Economic Outlook, October 2014 より日本総研作成
そのような中、農業分野においては、2014 年 6 月に農水省を中心にグローバル・フード
バリューチェーン戦略が策定され、積極的なグローバル展開を標榜している。新興国の消
費者の旺盛な消費ニーズに応えることで、日本の農業の新たな成長源を生み出すことが期
待されている。
グローバル・フードバリューチェーン戦略では複数の重点地域が定められている。その
一つであるベトナムでは相手国政府の強い要請もあり、現地の農業の課題解決に資する、
4
新たな農業事業の立ち上げが期待されている。
図 2
グローバル・フードバリューチェーンの全体像
出典:農林水産省
今回対象とするベトナム・ホーチミン及びその近郊は、いわゆる「南部経済回廊」によ
り、タイ・バンコクやカンボジア・プノンペンといった中心都市と接続する主要都市であ
る。主要港湾を通じた日欧米市場への良好なアクセスに加え、中国、インドという巨大市
場との接続性の高さといった地政学的優位性から、 特徴的な産業発展の傾向が見られ始め
ている。
自動車・電機といったわが国でもグローバル化が先行する産業では、こうした優位性を
背景に、生産・開発・統括拠点の整備が加速しており、このようなモデルは農業・食品分
野にも適用可能と想定される。フードバリューチェーンの構築は、他産業におけるバリュ
ーチェーンの構築のトレンドも視野にいれることが有効である。
グローバル・フードバリューチェーン戦略では、ベトナムにおいて次表の通り 5 つの重
点開発課題が定められている。その中で、本調査の対象地域であるホーチミン周辺エリア
においてはコールドチェーンの構築や付加価値の高い農産物の生産の推進が目標に掲げら
れている。当該目標の達成のため、現地では日本の企業との連携や日本の技術の導入への
機運が高まっている。
以上を踏まえ、本調査は上記の政策的な視点を基に、ホーチミン周辺での農業事業に焦
点を当て、事業可能性を調査・検討した。
5
図 3
グローバルバリューチェーンの参考例(自動車・電機産業)
出典:日本総研作成
表 1
開発課題
ベトナムの重点開発課題
モデル地域
背景・取組の概要
生産性・付加価値の向上
ゲアン省
・灌漑整備、参加型水管理、農薬・肥料使用適正
化、農民組織強化
食品加工・商品開発
ラムドン省
・食品加工・観光などを含めた 6 次産業化の促進
流通改善・コールドチェーン
ハノイ・ホーチミン等 ・消費者ニーズへの対応、鮮度保持
民間投資によるコールドチェーン整備
大都市近郊
気候変動への配慮
メコンデルタ
・温室効果ガス削減・節水農業・塩水遡上対策
高度人材の育成
カントー大学等
・大学の人材育成能力向上
出典:日本総研作成
2.調査の視点
本調査では、ホーチミン及び周辺地域における農業の課題解決のため、植物工場や農業
ICT などの日本の技術・ノウハウを導入した農業(以下「日本式農業」という)の導入を
検討する。このような現地生産モデルの立ち上げにおいては、バリューチェーン全体での
価値創出もしくは価値の維持が欠かせない。他国の先行事例において、日本の技術により
優れた農産物を生産したが、加工、流通、販売等の段階での不適切な取り扱いにより価値
が棄損している事例が多く指摘されている。
6
ベトナム及び他の ASEAN 諸国で農業事業を展開している農業法人、企業等へのヒアリ
ングでは、次図に示す通り、バリューチェーンの後段の企業と十分に連携が取れず、苦戦
するケースが散見された。特に、農産物の持ち味を活かせない食品加工、輸送中の品質劣
化、乱雑な陳列等により、農産物の品質の良さが削がれていることが少なくなく、農業生
産だけでなく、バリューチェーン全体への積極的な関与、指導が求められることが示唆さ
れた。
このように、日本の農業技術・ノウハウを活かした日本式農業モデルが十分な効果を発
揮するためには、安心・安全な農業生産の導入に加え、次図の通り、コールドチェーンに
よる高度な品質保持、小売店舗での適切な品質管理と価値訴求、 バリューチェーンを包含
する独自のモニタリングとブランド管理を行うことが重要であると考えられる。
表 2
ホーチミン地域の農産物バリューチェーンの課題
出典:日本総研作成
図 4
日本式農業バリューチェーンの概要図
出典:日本総研作成
7
近年、ASEAN 地域を始め、日本の農業法人、農業企業の海外展開事例が増えている。従
来、先行的に進出、技術移転した法人・企業は、単独でバリューチェーン構築を行うこと
が一般的であった。しかし、それらの先行企業にヒアリングを行ったところ、以下のよう
な課題、問題点が確認された。

単独の農場では生産量、品目数が限られるため、販路及び売り場の確保が難しい。
(小
売店から複数品目の供給を求められる)

生産量が年間で変動するため、常設売り場が確保できない。

小口配送が中心のため、運送コストが高くなってしまう。

一企業(特に農業法人や中小企業等、海外での知名度が低い場合)のブランドでは
充分な価値訴求ができない。
以上の意見を踏まえると、特に ASEAN 地域においては、農業法人や企業が単独で農業
事業を展開するよりも、複数法人・企業が連携して、相互補完型のバリューチェーンを構
築することが有効であると考えられる。
図 5
複数農場を束ねたサプライチェーン構築
出典:日本総研作成
8
第2章 農産物等の市場調査
1.農産物等の市場調査
1.1.農産物市場規模の算出
ホーチミン近郊で植物工場等の先進的な農業事業を展開するためには、生産する品目に
関して一定規模のマーケットが必要である。ただし、経済成長が著しいホーチミンでは、
農産物のマーケット規模は必ずしも現状の水準で考える必要はなく、日本式農業が実際に
立ち上がる 3~5 年後のマーケットの規模感が重要となる。
次図の通り、ベトナムでは野菜や果物の一人当たり消費量が伸びており、特にこの 20 年
間の野菜消費量の伸びが著しい。特に近年は食の西洋化に伴う西洋野菜の消費量が伸びて
いると考えられる。
図 6
ベトナムの野菜・果物消費量(g/人/日)
出典:FAOSTAT ”Food Balance Sheet”より日本総研作成
図 7
ベトナムの野菜供給量の年次推移
出典:FAOSTAT ”Food Balance Sheet”より日本総研作成
9
このように野菜の消費量・供給量がともに伸びており、今後も人口増加(人口増加率
1.15%(2005 年~2010 年の中位推計、国連「世界人口推計報告書 2008」
)
)と経済成長(実
質 GDP 成長率は 5.4%(2013 年、ベトナム統計局))による更なる拡大が予想される。た
だし、ベトナムでは主要穀物以外の農産物に関する統計の整備が遅れており、野菜に関し
て品目ごとの市場規模や消費量等のデータを把握するのは難しい状況にある。
1.2.将来トレンド
ベトナムでは外資系小売やカフェチェーンの進出等が相次ぎ、他のアジア諸国同様の食
の西洋化が起こっている。ホーチミンでは、カフェやレストランなど高級品嗜好があり、
今後の消費伸長が想定される。外国の食文化を取り入れる風潮があり、西洋料理や日本食
等に使用する野菜の需要が拡大することが予想される。
ベトナムでは、特に、外部の食文化が多数流入しているホーチミンにおいて、過去の日
本と同様の食文化の変化が起こっており、これまで食べられなかったレタスやトマトの需
要が高まっている。例えばミニトマトに関しては、ここ数年で市場に多く流通するように
なっており、先進的な農業技術の導入を担う公的機関であるホーチミン市の農業ハイテク
パークにおける注力栽培品目となっている。また、ホーチミンでは、日本料理の人気が高
まり、日本食に特徴的な品種の需要においても高まっており、ブナシメジ、エリンギなど
のキノコ類も小売需要が高い。
一方で、現地で栽培が盛んである果物や嗜好性の高い葉菜類(ベビーリーフ等)の需要
は未だ顕在化していない。今後、段階的に海外品種の農産物も含めて植物工場栽培に適し
た商品の需要は増加することが予想される。(具体的な商品仕様は、
「3.1.店頭調査」
、
および「4.3. 消費ニーズ仮説」に記載する。
)
表 3
ベトナムに進出している外資系外食企業(2015 年 3 月時点)
店舗ブランド
Lotteria
KFC
Pizza Hut
資本
韓国
アメリカ
創業年
92
1997 年
35
68
2007 年
10
18
2
11
1997 年
BBQ Chicken
韓国
2006 年
Papa Joe
アメリカ
Spotted Cow
10
ホーチミン
41
フィリピン
Al Fresco's
ハノイ
1997 年
Jolibee
Pepperonics
店舗数
-
9
1996 年
13
1
1997 年
13
9
1998 年
1
0
N.A
0
1
Jacksons Steakhouse
2011 年
1
0
Jaspas
1999 年
2
2
5
10
Burger King
アメリカ
2012 年
Johnny Rockets
アメリカ
進出計画中
The Coffee Bean & Tea Leaf
アメリカ
2008 年
2
13
N.A
0
6
0
6
Gloria Jean’s Coffees
オーストラリ
ア
-
-
NYDC
シンガポール
N.A
Angel in US Coffee
韓国
2008 年
Illy
イタリア
N.A
1
1
Starbucks
アメリカ
2013 年
2
7
BUD’S
アメリカ
2007 年
1
12
Fanny Ice Cream
フランス
1994 年
1
4
Baskin Robbins
アメリカ
2011 年
1
21
Haagen-dazs
アメリカ
2012 年
?
2
Yogen Fruz
カナダ
N.A
2
5
DOCO Donuts & Coffee
アメリカ
N.A
4
1
Beard Papa's
アメリカ
2010 年
1
1
Tous Les Jours
韓国
2012 年
1~
2~
Paris Baguette
韓国
2012 年
1~
1~
Breed Talk
シンガポール
N.A
0
9
-
1
出典:日本総研作成
2.農産物の流通構造
2.1.農産物の流通構造
ベトナムにおける農産物・食品流通は、下図の通り、①大都市の卸市場を経由する方式
と、②産地の卸市場を経由する方式の大きく 2 種類に分けられる。このうち、公設市場や
個人商店等のシェアは 88%(2007 年時点)とされている。このほかに、企業が自営農場を
有し、市場外流通を行うケースも存在する。
日本においては、植物工場等で生産された高付加価値な農産物は、一般的には卸売市場
を介さない「市場外流通」
(小売店や外食店への直接販売等)によって販売されている。日
本では、市場外流通は中間マージン削減及び価値訴求(従来の農産物規格にとらわれない
価値の訴求)の両面で高い効果を発揮している。ホーチミン地域で日本の農業技術を生か
した現地生産を行う場合においても、付加価値の高い農産物に関して、日本と同様に市場
11
外流通による富裕層・上位中間層マーケットへのアクセスが重要な要素となると考えられ
る。
図 8
ベトナムの農産物流通構造
出典:日本総研作成
2.2.主な流通事業者
主な流通事業者は以下の通り。日系企業は現地企業に出資する形にて参画している。
表 4
企業名
サイゴンコープ
ベトナムの現地流通業者
特記事項(日本、フードバリューチェーンに関連して)
コープマート等の様々な小売店舗を展開。外資との提携も実
施。
サトラ
南部の食品流通。関連食品会社、関連商業施設、冷凍・冷蔵
(サイゴン貿易総公社)
倉庫拠点等への保持。
ハプロ
北部の食品流通。関連食品会社、関連商業施設、冷凍・冷蔵
(ハノイ貿易総公社)
倉庫拠点等への保持。
フータイ
フン・トゥイ
ファミリーマート進出時に合弁会社を設立する、伊藤忠商事
が出資する等、日系企業とも連携。
双日商事、国分株式会社が 2012 年に買収。
出典:日本総研作成
2.3.農産物流通の課題
ベトナムにおける農産物の流通においては、主に2つの課題があると考えられる。
1つは、産地、栽培方法、栽培環境などの品質を保証するためのトレーサビリティが十
12
分になされていない点である。近隣諸国から流入した野菜がブランド産地で栽培された商
品と評して販売される、VietGap 等の認証の価値が担保されていない等、優れた生産者の
商品を差別化する環境が整備されているとはいえない。2つめは、現地企業との提携なし
には、トラディショナルトレードへの流通は難しい点である。ホーチミンでは比較的モダ
ントレードの小売店舗が発達してはいるものの普及率は 20%台にとどまり、近隣地域では
依然として大多数が昔ながらの独立系店舗である。加工食品の流通では、地場の流通業者
を介したが、販売業者への情報伝達が不十分であり、店舗に並ばず販売されないというケ
ースもある。小売企業や外食企業などの最終消費地への市場外流通を行うこと、生産~販
売までのプロセスの透明性を担保すること、既存の流通構造ではないルートでの販売戦略
をたてることが重要である。
3.小売企業の農産物取扱い状況
3.1.店頭調査
3.1.1.調査方法
本調査では、日本の農業技術を活かした付加価値の高い農産物の流通チャネルと想定さ
れる、日系及び外資系のスーパーマーケットやコンビニエンスストアを中心に、ヒアリン
グ調査を行った。
調査対象の日系小売店として、コンビニエンスストアからファミリーマート、スーパー
マーケット、ハイパーマーケットからイオンモール等を選定した。加えて、日系スーパー
マーケットよりも価格帯が低い、ビッグ C 等の外資系スーパーマーケットからのヒアリン
グにより、市場の広がりを把握した。
図 9
小売店からのフードバリューチェーンの課題抽出
出典:日本総研作成
ベトナム全体におけるモダントレードの普及率は 4%とされ、ようやく市場が発生した程
度とされている。モダントレードの比率は、ホーチミンおよびハノイ等の都市部において
のみ高めになっている。中でも、ホーチミンではここ 5 年間のモダントレードの伸長が目
覚しい。共働きをしている所得中間層等の所得水準の向上により、食や買い物に対しての
13
価値観が向上している傾向にある。
西洋の消費文化に影響された消費者、とりわけ大都市に住む若者が増えたことでモダン
トレードの拡大が進んでいる。また、女性の就労の増加により、女性がより高付加価値の
食物を子供や家族に買い与える余裕が生じていると考えられる。
3.1.2.主な小売企業
ホーチミンには、現地資本のスーパーマーケットに加え、ヨーロッパ資本のスーパーマ
ーケット、米系コンビニエンスストア等、海外資本小売企業も進出している。ベトナムの
スーパーマーケットの総数は約 300 件である。また下図の通り、ハイパーマーケットの市
場規模が特に大きな伸長を見せている。
表 5
ベトナムの小売業のチャネル別売上高推移
(単位:兆ベトナムドン)
小売チャネル
2008
2009
2010
2011
2012
13.5
18.6
24.0
30.9
36.9
―コンビニエンスストア
1.3
1.7
1.0
0.8
1.1
―ハイパーマーケット
2.6
4.2
6.1
8.5
9.6
―スーパーマーケット
9.6
12.8
16.9
21.6
26.1
378.7
442.6
539.3
694.5
863.8
2.6
2.9
3.4
3.9
4.2
―小規模食料品店
130.1
148.7
175.6
216.7
258.3
―その他の小売店
246.0
291.0
360.3
473.9
601.4
392.2
461.2
563.2
725.3
900.7
モダントレード
トラディショナルトレード
―食品/飲料/タバコ 専門店
合計
出典: ユーロモニターより日本総研作成
14
表 6
ホーチミンに拠点を持つ主な小売企業
15
出典:各社 HP より日本総研作成
3.1.2.調査結果
植物工場で栽培可能である野菜(トマト・レタス等)および果物(イチゴ、メロン等)
を中心に、その価格や品種、産地、認証、規格等について店頭調査を行い、農産物の市場
流通価格や店頭ニーズ(現地でよく食べられている品種も含む)を分析した。
図 10
店頭調査に用いるマーケット調査票
出典:日本総研作成
16
表 7
ホーチミン主要小売店舗における農産物価格(2015 年 1~3 月調査実施)
品目
イオンシテ
ィマート
(ホーチミ
ン 3 区)
ビッグ・シー
(ホーチミ
ン 3 区)
イオンモー
ル・タンフー
セラドン店
(ホーチミ
ン近郊)
ブランド/産地
その他特徴
生産地
産地:ダラット
キロあたりの
店頭価格
(現地通貨)
日本円換算
(円)
フリルレタス
ベトナム
34,300
206
リーフレタス
イタリア
31,300
188
リーフレタス
(個包装)
ベトナム
28,800
173
サラダ用レタス
(個包装)
ベトナム
28,800
173
トマト
ベトナム
15,000
90
ミニトマト
(1kg ネット入り)
ベトナム
20,700
124
ミニトマト
(0.4-0.5kg トレー) ベトナム
20,700
124
ミディトマト
(完熟、500g)
ベトナム
50,000
300
パプリカ
ベトナム
20,700
124
ター菜
産地:ダラット
ベトナム
13,200
79
ミニチンゲンサイ
(個包装:6~8 把) ベトナム
13,800
414
キャベツ
ベトナム
10,900
65
ニガウリ
ベトナム
11,500
69
ブドウ
アメリカ
170,500
1,023
イチゴ
ベトナム
115,500
693
パプリカ
ベトナム
69,700
418
トマト(無農薬)
イタリア
ニガウリ
ベトナム
トマト
ベトナム
レタス(Lolo Xanh)
ベトナム
ブナシメジ
日本
エリンギ
ブルーベリー
イチゴ
アメリカ合衆国
ブランド:GAIA
産地:ダラット
42,900
257
17,400
104
5,400
32
13,400
80
94,000
564
韓国
33,167
199
ニュージーランド
99,900
599
209,900
1,259
113
生産者:ホクト
レタス(結球)
ベトナム
産地:ダラット
18,800
レタス(Lolo Xanh)
ベトナム
産地:ダラット
15,900
95
レタス(Corol)
ベトナム
産地:ダラット
25,900
155
リーフレタス
(個包装:400g/株)
ベトナム
産地:ダラット
ブランド:朝霧
64,750
389
レタス
(個包装:140g/株)
ベトナム
生産者:NKガー
デン
63,571
381
トマト
ベトナム
10,900
65
トマト
(大 4 個パック)
ベトナム
産地:ダラット
26,900
161
ミニトマト
(500g パック)
ベトナム
産地:ダラット
25,900
155
ミニトマト
(PB:500g パック)
ベトナム
25,900
155
ミディトマト
(500g パック)
ベトナム
31,900
191
産地:ダラット
17
店舗名
ファミリー
マート・スカ
イガーデン
店
品目
ブランド/産地
その他特徴
生産地
キロあたりの
店頭価格
(現地通貨)
日本円換算
(円)
空芯菜
ベトナム
18,900
113
キャベツ
ベトナム
19,500
117
ニガウリ
ベトナム
ブナシメジ
(150g パック)
日本
タモギダケ
ベトナム
イチゴ
ベトナム
イチゴ
ニュージーランド
イチゴ
アメリカ
リーフレタス
ベトナム
リーフマスタード
トマト
ミニトマト
13,900
83
132,667
796
47,600
286
産地:ダラット
99,900
599
産地:ダラット
139,900
839
ブランド:
Driscolls
449,900
2,699
産地:ダラット
ブランド:朝霧
60,000
360
ベトナム
生産者:ニコニコ
ヤサイ
45,000
270
ベトナム
洗浄済・ヘタ無し
43,333
260
ベトナム
洗浄済・ヘタ無し
46,667
280
チンゲンサイ
(個包装:4 把)
ベトナム
生産者:ニコニコ
ヤサイ
106,667
640
ミニチンゲン菜
(個包装:6~8 把)
ベトナム
75,000
450
240,000
1,440
100,000
600
50,000
300
110,000
660
生産者:ホクト
オクラ(10 本入り)
生産者:ニコニコ
ヤサイ
ベトナム
オクラ(10 本入り)
ベトナム
ミント
ベトナム
シイタケ
ベトナム
生産者:ニコニコ
ヤサイ
為替レート:1,000 ベトナムドン=6 円として算出
出典:日本総研作成
図 11.農産物の販売状況(イオンシティマート)
出典:日本総研撮影
18
3.2.小売企業ヒアリング
現地の消費者は、日系を含む外資系小売では、アッパーミドル層以上の顧客の高度なニ
ーズに応えるため、高付加価値品をラムドン省のダラットまたはホーチミン近郊のクチよ
り調達している。ダラットに拠点を置く日本の生産者(ニコニコヤサイ社、ラクエ社等)
の商品が、各店舗にて販売されており、
「高品質」
「安全」を求める顧客を中心に需要があ
る。また、現地では、家庭での調理を簡単にする調理済野菜やカット野菜、惣菜の需要が
高く、サラダバーや惣菜コーナーを設ける等、現地消費者のライフスタイルに合わせた商
品を展開しており、一方で、長距離輸送にて鮮度が十分に保たれない、食味やバリエーシ
ョンが十分でない、一次加工業者が十分におらず店舗内で加工する必要がある、価格が高
い(レタス:露地栽培レタスの2~3倍程度)ために顧客セグメントが限られる等、今後
の多店舗展開にむけては課題があり、日系の物流業者を選択する、技術指導を行う等の工
夫を行い、品質を担保している。近郊での農業生産に加え、商品開発と一次加工の機能を
持たせることで、強固なバリューチェーンを構築することが可能となる。
4.消費者ニーズ
4.1.国内事前ヒアリング及び公開情報調査
近年、ベトナムでは所得水準の向上に伴い、農産物に対するニーズや食生活スタイルに
変化が起きつつあると指摘されている。一般的に、農産物に対する消費者ニーズは経済成
長に伴い、「量的充足⇒安全性確保⇒高品質」と変遷するとされている。ベトナムの場合、
相対的に所得水準の高いホーチミンでは、消費者の農産物に対するニーズの中心は量的充
足から安全性確保へと移っており、富裕層・上位中間層を中心に高品質な農産物へのニー
ズが高まっているといえる。
次図の通り、2000 年以降、ベトナムでは特に中間層が増加しており、2020 年時点での全
世帯に占める中間層の割合は、予測値で約 60%となっている。また、ベトナム特有の消費
者事情として、越僑(海外在住のベトナム人、ベトナム系外国人)からの送金等により、
富裕層・上位中間層は給与水準を上回る購買力を有することも指摘されている。消費者の
購買力の検討においては、巨大なタンス預金により統計数字以上の購買力が存在している
点を考慮することが必要となる。
19
図 12
世帯所得層別の割合
出典:ユーロモニターデータを基に日本総研作成
表 8
世帯所得層の定義
世帯年間可処分所得
35,000 ドル以上
富裕層
アッパーミドル
15,000 以上 35,000 ドル未満
ローワーミドル
5,000 以上 15,000 ドル未満
中間層
5,000 ドル未満
低所得者層
出典:ユーロモニターデータを基に日本総研作成
図 13
ベトナムと周辺諸国の人口ボーナス期の比較
出典:国際連合資料を基に日本総研作成
20
ホーチミンでは、海外への渡航歴のある消費者や海外からの観光客が、新たな食のトレ
ンドのインフルエンサーとなっている。このような消費者や観光客の増加により、世界の
食のトレンドが徐々にホーチミンにも浸透し始めている。食事内容に加え、中食や外食の
増加を始めとした食生活の変化も起きている。
ハノイのある店が中国南部の料理であるキノコ鍋を始めたところ、たちまち人気となり、
多くの店が後を追った。次のトレンドとしてカニ鍋が注目された。また、現地の回転鍋の
「キチキチ」は、ハノイに 12 店舗、ホーチミンに 11 店舗もチェーン展開させるほどの人
気を博している。また、2014 年にホーチミンに開業した屋台形式の日本料理店がブームと
なっている。都市部の若者やビジネスマンにとって日本食は、味が良くヘルシーで、懐に
も見合っているとして人気が高い。
特に、食の西洋化に伴い野菜の消費量が増加傾向を示している点が特徴的である。現地
の消費ニーズは「鮮度重視」の段階だが、日本や欧米の過去の食に対するニーズの変遷を
踏まえると、近い将来にホーチミンにおいても健康志向や手軽さといったニーズが顕在化
すると想定される。
図 14
ベトナムの外食産業の売上推移(単位:百万ドル)
出典:JETRO 資料より作成
このように、ホーチミン近郊では消費者の農産物に対するニーズの高度化が進んでいる
が、現地で生産・販売されている農産物の品質は必ずしも高くなく、消費者のニーズは満
たされていない。
現地ヒアリングで抽出された現地産の農産物の課題を以下に整理した。
21
表 9
品目
現地産農産物の課題
課題

レタス



トマト
現地の主要産地であるダラット産のレタスは、長時間輸送のた
め傷みがはげしい。
輸入産よりも高値
色および形にばらつきが多い。
輸送による劣化への対応のため青刈りが多く、食味がさほど良
くない。
出典:日本総研作成
表 10
ベトナムでの日本の農産物に関する意識
項目
主な評価
日本食のイメージ
おいしい(57.4%)、健康によい(56.8%)、安全(45.6%)、高級感
がある(36.0%)、値段が高い(32.2%)、おしゃれ(30.2%)
日本の青果物を評
価する理由
健康によい(84.1%)、安全性が高い(69.1%)、味・風味が好き(62.8%)、
高級感がある(35.2%)、
いろいろな調理が可能(34.9%)
日本の青果物を食
べたことがない・
購入しない理由
手に入れられる場所が限られている・わからない(51.1%)、値段が
高い(51.1%)、自国産、その他の国のものの方が、品質が良さそう
(22.2%)
出典:JETRO「日本食品に関する消費者意識アンケート-ホーチミン編-」より抜粋
4.2.現地消費者ヒアリング
ベトナムの消費者は日常的に野菜を食事に使用することから、モダントレードの小売店
舗以外にもウェットマーケットも含めて購入する慣習があり、モダントレードでの顧客は、
新鮮で高品質、かつ、農薬や枯草剤の影響がないことが確認された安全な野菜を入手する
傾向が見られる。子供を持つ世帯では、殊に安全志向が強く、夕刻のイオンやビッグ・シ
ーなどの外資系小売店舗では、産地や鮮度などを注意深く確認して商品を手に取る様子が
みられる。一方で、バリエーションは十分とはいえず、ミニトマト等のように最近よく食
べられるようになった品目については品質の良いものは高価で手が出づらく、イチゴのよ
うに多くを輸入品に依存する品に至っては入手しにくい。ベビーリーフやメロンなどは、
ホテルなど限られた場所でしか消費できない等、食味のニーズが顕在化しない状況でとど
まっている。ホーチミンでは食を楽しむ習慣が根強くあり、店舗でのテストマーケティン
グを行うと、高くても食味の優れたものを選択する消費者が多くみられる。調理を簡便に
22
する生食対応の葉菜類、糖度の高いトマト、アッパーミドル層をターゲットにしたプレミ
アムフルーツ等に今後の需要が見込まれる。
5.農産物等の物流の普及状況
5.1.農産物物流の概要
ベトナムにおいては農産物物流を担う物流会社が多く存在している。小規模な物流企業
だけでなく、全国規模での物流を担う大規模な企業も存在し、日系の物流企業も現地で事
業展開している。特に、ホーチミンやハノイにおいては、ドライ品が中心ではあるものの、
ある程度の物流網が整備されていると判断できる。
ただし、農業生産が盛んな地方部を始め、道路等の交通インフラの整備が遅れており、
近代的な物流網が整っているとはいえない状況である。また、後述の通りコールドチェー
ンの普及が遅れていることも課題となっている。そのため、鮮度が重視される高品質な農
産物の輸送においては注意が必要である。
ベトナムの主な物流事業者は次表の通り。現地業者は輸出を主としたサイゴン川を介し
た水路を介した物流をおこなっている業者が多く、陸路での農産物の運送では、鴻池運輸
等の日系企業が台頭している。
表 11
企業名
ソナトラン
ジェマデプト港湾海運
ベトナムの主な物流業者(日系含む)
資本
特記事項(日本、フードバリューチェーンに関連して)
現地
倉庫事業、国際貨物事業を展開する大手企業。
現地
サイゴン川の水路を利用し、輸出を主とした物流を展
開。
日本
鴻池運輸
現地冷凍冷蔵倉庫事業者(アンファー社)を買収。
ホーチミン市内、近郊の工業団地を中心に複数拠点を
構える。
佐川急便
日本通運
日本
CFS 倉庫、保税倉庫を取得
日本
タイ、カンボジア、ベトナムの 3 都市を南部回廊、南
北回廊をつなぐ陸路での輸送を実施。
日本
ロジテム
輸出入通関、国際航空海上輸送、トラック、一般倉庫、
日清製粉グループ会社。
貨物自動車事業、倉庫、輸出入業等、ハノイおよび
ホーチミンにて展開。
出典:日本総研作成
23
5.3.コールドチェーンの普及状況
公開情報及び現地の運送事業者からのヒアリング調査の結果、ベトナムでは広範なコー
ルドチェーンはまだ普及していない状況であることが確認された。また、食品企業で自社
保有の冷凍・冷蔵車両を保有している企業は多くない。現状は、日系企業を始めとする一
部の運送事業者のみが的確に管理された冷蔵・冷凍輸送を営んでいるに留まる。
ただし、近年はスーパーマーケットを中心としたモダントレードが増加しており、日系
のコンビニエンスストアも事業拡大する等、冷蔵・冷凍での農産物・食品の輸送に対する
需要が高まっている。
農産物においては、野菜の主要生産地であるダラット市から消費地であるホーチミン市
までの物流が大きな問題となっている。ダラットからホーチミンまではトラックで 7 時間
程度の距離だが、両都市間の一部しか高速道路が整備されていない。また、高原地帯であ
るダラット市内、特に多くの農場が位置する農村エリアの道路整備状況が悪く、輸送の長
時間化に加え、振動による品質劣化が懸念される。
温度が高く農産物の鮮度劣化が早いベトナムでは、
「農業生産者⇒市場⇒中間業者(倉庫
保管)⇒小売等」の物流において、品目によってはコールドチェーン(冷蔵物流)が不可
欠となる。しかし、比較的物流網が整っているホーチミン周辺においても、コールドチェ
ーンの普及状況は十分でないと指摘されている。特に、倉庫から小売店等への物流の末端
部分においては、時にバイクで輸送されることもあり、品質劣化の一因になっている。
付加価値の高い日本式農産物の物流においてはコールドチェーンが不可欠な品目が多い
ことから、事前にコールドチェーンを有している優良な物流事業者をリストアップし、事
業立ち上げに向けてリレーションを構築していくことが重要である。
図 15
ベトナム・ホーチミンにおけるコールドチェーン構築の課題
出典:日本総研作成
5.4.植物工場農産物への適応性
現地調査により、ホーチミン市内及び周辺部においては物流網が徐々に整いつつあり、
特に日系の物流企業が現地にて事業展開していることから、適切な事業者を活用すれば植
物工場産を始めとする高品質な農産物を適切に輸送できることが判明した。一方で、地場
の物流会社の中には温度管理等が不十分な企業が少なくなく、品質劣化のトラブルが散見
24
される点に留意しなければならない。
また、物流の中継地点となる冷蔵倉庫については不足気味だと指摘されている。そのた
め、遠方の産地から農産物を輸送し、ホーチミン市内の小売・外食事業者等に個別配送す
る際には、温度管理が徹底された優良な倉庫事業者の選定が重要となる。
加えて、後述の通りホーチミン市内は輸送用のトラックに関して厳しい交通規制が設定
されている点が、配送モデルを組み立てる際の制約条件となる。
6.農産物の加工技術
6.1.農産物加工の現状と課題
近年、ベトナムでは食品加工業が急速な発展を見せている。次表の通り、乳製品、イン
スタント麺、油脂、ベーカリー等が主要商品となっている。主要商品のほとんどが日持ち
の良い乾燥商品、レトルト商品であり、コールドチェーンでの管理が必要なチルド商品に
ついては全般的に低調と考えられる。
現地の消費者ニーズの変化や食の外部化率の高まりを踏まえると、今後はチルド商品が
増加していくと想定される。植物工場等で生産する農産物は、そのまま青果物として販売
することに加え、加工した上で販売する事業も想定される。日本では、植物工場農産物の
安全性、鮮度、生菌数の少なさ等の特長を活かし、カット野菜、カップサラダ、弁当(機
内食、病院食、一般向け)等に利用されている。
表 12
ベトナムの加工食品市場規模
単位:億円
2012
2013
成長率
5,702
7,899
138.5%
ベビーフード
728
1,035
142.1%
ベーカリー
726
990
136.3%
缶詰、保存食品
98
138
141.2%
冷蔵食品
33
47
144.0%
238
316
132.8%
チョコレート
41
56
137.6%
ガム
95
125
131.2%
102
135
132.3%
1,281
1,801
140.6%
32
49
153.0%
牛乳
842
1,191
141.6%
ヨーグルト
229
324
141.9%
加工食品
菓子
キャンディー
乳製品
チーズ
25
178
236
132.2%
779
1,061
136.3%
744
1,009
135.6%
インスタントスープ
-
-
-
乾麺
11
16
144.8%
米
15
24
153.4%
冷凍食品
80
118
147.3%
アイスクリーム
61
86
141.7%
755
1,025
135.8%
チルド麺
-
-
-
冷凍麺
-
-
-
カップ麺
64
90
140.8%
680
919
135.1%
-
-
-
829
1,134
136.8%
バター
50
70
139.0%
マーガリン
12
16
134.0%
5
7
139.8%
-
-
-
762
1,041
136.7%
21
31
146.2%
558
767
137.6%
158
210
132.5%
8
11
141.3%
392
547
139.6%
ドレッシング
-
-
-
醤油
57
79
138.1%
-
-
-
缶詰
-
-
-
チルド
-
-
-
乾燥
-
-
-
インスタント
-
-
-
UHT スープ
-
-
-
236
326
138.4%
11
16
140.8%
その他
乾燥食品
インスタント麺
麺類
袋麺
スナック麺
油脂
オリーブオイル
オイルスプレッド
大豆・菜種油
惣菜
ソース、ドレッシング類
クッキングソース
漬物
テーブルソース
スープ
菓子
チップス
26
100
138
138.4%
8
12
144.4%
ナッツ
43
59
139.1%
ポップコーン
-
-
-
プレッツエル
-
-
-
コーンチップス
-
-
-
その他
74
101
137.1%
揚菓子
果物スナック
出典:ユーロモニターデータを基に日本総研作成
図 16
現地のカップサラダ・カット野菜
出典:日本総研撮影
植物工場や高度管理型温室で生産される農産物を念頭に、現地消費者がどのような加工
食品を求めているかを把握し、それに適した加工技術を選定することが重要である。イオ
ンモールを始めとする大型ショッピングモールや、ファミリーマート等のコンビニエンス
ストアが出店を開始した。また、現地系スーパーを含め、モダントレードが急拡大してい
る。
日本の小売店の拡大に合わせ、ホーチミンでは弁当・サンドイッチ、サラダ等の中食マ
ーケットが拡大傾向にある。(もともとベトナムは外食・中食比率が高い。)そのようなニ
ーズの変化の中、小売店や加工業者は鮮度や安全性の高い農産物の確保に苦戦している。
その要因として、地元農家の栽培技術が未成熟なこと、コールドチェーン等の物流面が未
発達こと等が課題として挙げられる。
物流面では、前述の通り厳しい物流規制が定められており、小型トラックで低頻度な配
送しか実施できない。鮮度維持と欠品防止のためには、ホーチミン近郊・郊外に冷蔵倉庫
や加工工場を設置し、小型トラックで直送する輸送モデルが必要となっている。そこで、
需要地近郊で高品質な農産物を生産し、鮮度が劣化しにくい短距離輸送によって小売・加
工企業等に供給するモデルが有望と考える。
27
表 13
品目
農産物の加工・物流の課題
課題
加工
日系のスーパー、コンビニエンスストア、外食チェーン等の基準を満たす加
工工場、セントラルキッチンが存在せず。(少数の比較的優良な事業者でも
レベルは高くない。)
物流
ホーチミン市内の厳しい物流規制により、日本のようなきめ細やかな商品配
送が困難。(トラックのサイズ規制など)
コールドチェーンが未整備で、輸送中に鮮度が大きく劣化。
出典:日本総研作成
6.2.現地ニーズに適した日本の農産物加工技術
現地ヒアリングの件、ホーチミン及び周辺では、カット野菜やカップサラダを始めとす
る、鮮度が重視されるチルド商品の加工に対するニーズが高いことが判明した。
日本式農業モデルを営む農業者及び加工企業の収益の確保のためには、生産した農産物
をすべて売り切る、使い切る仕組みが不可欠となる。そのためには、地域内に付加価値軸
によるカスケード構造を構築することが有効である。特に、日本式農業で生産された農産
物を主原料とする「高鮮度型商品パッケージ」と、余剰品の有効活用する「需給調整型商
品パッケージ」の 2 つの組み合わせが求められる。
表 14
加工食品のカスケード構造
出典:日本総研作成
28
図 17 食品加工のカテゴリー
出典:日本総研作成
29
第3章 法制度・商慣行調査
1.農産物の生産・加工・流通・販売に関する法制度
1.1.農業生産・加工に関する法制度
ベトナムでは農地を含む土地は国民の共有財産とされており、政府が管理している。そ
のため、農地の個人・民間企業による所有は認められない。農地を利用する際には、人民
委員会から土地使用権の供与を受けた上で営農する必要がある。
農業への外資による投資の認可期間は 50 年間とされており、70 年間までの延長が認めら
れている。外資企業等が土地使用権を取得する際には、以下の 3 パターンが主となる。
①一般の土地について、ベトナム政府と土地の賃貸契約を締結
②工業団地について、団地運営会社から土地を借地
③ベトナム企業が土地使用権を有する土地について、合弁企業を設立した上で利用
農産物に関する規制については、食品安全基本法等が挙げられる。食品安全基本法第 3
章第 10 条で残留農薬に関して、第 11 条で生鮮食品のトレーサビリティに関して規定され
ている。また、加工食品については、第 10 条で病原菌、重金属、添加物等に関して、第 12
条で安全性適合登録について規定されている。
表 15
ベトナムでの農業生産事業(施設園芸等)における主な法規制
(凡例:△促進要因
▼阻害要因)
出典:JETRO 資料より日本総合研究所作成
1.2.農産物の物流・流通に関する法制度
ホーチミン市では交通規制により大型トラックの進入が制限されている。JETRO へのヒ
30
アリングによると、積載量 2.5 トン以上または総重量 5 トン以上のトラックは 6 時から
21 時まで、積載量 2.5 トン未満または総重量 5 トン未満のトラックは 6 時から 8 時まで
と 16 時から 19 時までホーチミン市内(一部例外地域あり)の通行が禁止されている。ま
た、道幅が狭い、路盤が劣悪等の物理的な理由でトラックが侵入できない場合も少なくな
い。
そのため、大型トラックで産地や卸売市場から運び込み、市内で小型トラック積み替え
るような配送モデルを組むことができない。スーパーマーケットやコンビニエンスストア
への配送においては、郊外の倉庫から小型トラックで小ロット輸送しており、日本と比べ
て効率性は格段に低い。また、時間規制が厳しいため、日本のコンビニエンスストアのよ
うに一日 3 便の小まめな配送を行うことも難しい。
また、現地の運送事業者の中には、バイクで冷蔵・冷凍商品を配送しているケースも見
られるが、その際は発泡スチロール製の通い箱に氷を詰めて対応するという簡易的な温度
管理がなされており、品質劣化のリスクが課題となっている。
一方で、所得水準の向上と生活スタイルの変化により、一般家庭で冷蔵庫が急速に普及
している。全国平均ではいまだ 4 割程度(2010 年)だが、都市部に限れば 6 割を超えてお
り、特に所得水準の高いホーチミン市では普及率はさらに高いと想定される。近代的な小
売店の普及と合わせ、サプライチェーンの下流に位置する小売から家庭までの段階におい
ては、鮮度を重視した高品質な農産物を受け入れる素地が徐々に整いつつあると判断でき
る。
表 16
ベトナムでの冷蔵庫普及率(単位:%)
地区・年
2010 年
全国
39.7
都市部
63.8
農村部
29.2
出典:ベトナム統計総局:国民生活水準調査
1.3.農産物の販売に関する法制度
農産物の販売事業に関しては、特別奨励投資事業、および、奨励投資事業として認定さ
れたことをきっかけに、税制面での優遇を受けやすくなった。2006 年 7 月から施行された
共通投資法に基づき、政府の定める社会経済状況が困窮している地域、社会経済状況が特
に困窮している地域において事業を営む投資家には優遇措置が適用される。なお、社会経
済状況が困窮している地域(奨励投資地域)
、社会経済状況が特に困窮している地域(特別
奨励投資地域)については投資法の施行細則を定めている。前述した土地取得のみならず、
奨励投資地域に農業および、収穫後の農産物の保存への投資を行う企業においては、法人
税の優遇(10%)を受けることができる。また、農業・林業・漁業・製塩業において活動
31
している合作社についても同様の優遇がある。
経済特区におけるプロジェクトにおいては、以下のような輸入税他の優遇措置を受ける
ことができる。具体的には、特区の中に存在する農業事業者が輸入する農業機器などに対
する優遇課税が想定される。農業農村開発省のヒアリングでは、各省の人民委員会によっ
て優遇制度が異なること、さらに、ハイテクパークのような特区であると優遇や規制緩和
を受けやすいことから、候補地の選定には、各人民委員会の規定や優遇制度を把握する必
要がある。
表 17
省名
ベトナム南部における各自治体の投資奨励地域
特別困難な経済・社会条件がある地域
困難な経済・社会条件がある地域
出典:JETRO 資料
2.農産物の流通・販売に関する商慣行
ベトナムでは、外資系企業との法的手続きに精通した人材が不足しており、契約の交渉
が円滑進まないことが多く、法人設立にも 1~2 年かかることが一般的である。一方で、書
面での契約を重視する慣習があり、契約書に規定した内容に関しては比較的遵守する傾向
にある。農産物の流通においては、日毎に契約の続行や農家の経営状況等を確認すること
で、資材調達と支払いを双方に適した形式で調整しているケースもみられる。販売におい
ては、店頭の販促料金は非常に高価であり、農産物の単価では支払いが難しく実施できな
いこともある。複数企業または他産業の日系企業との共有を行う等の工夫が必要である。
32
第4章 対象自治体の生産環境及びニーズ
1.対象自治体における農産物生産環境
1.1.現地の農産物生産環境
ホーチミン市を中心とする南部地域は、熱帯気候に属している。年間を通じて気温の変
化がほとんどなく、最高気温が 30~35℃、最低気温が 22~25℃で推移する。5 月から 11
月が雨季で、12 月から 4 月が乾期となっており、雨季の間は、短時間のスコールがほぼ毎
日発生する。直射日光による日差しは非常に強いが、直射日光を遮ると比較的すごしやす
くなる。平均湿度は 75%となっている。ホーチミン近郊は台風が来ず、また温暖な気候で
降雪もないため、ハウスの骨材は日本での仕様よりも大幅に簡素化が可能である。実際、
現地では竹やプラスチックの骨材を利用している農家も多い。
上記の通り、ホーチミン及び周辺地域において農業を営む際には、高湿による病害や雨
量の変動、日照時間不足等、農産物の生産リスクを考慮する必要がある。
図 18
ベトナム主要都市の気候
出典:ベトナム統計局データ等より日本総研作成
表 18
ホーチミンの気候(年間)
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
年
平均最高気
温℃
31.6
32.9
33.9
34.6
34
32.4
32
31.8
31.3
31.2
31
30.8
32.3
日平均気温℃
26.4
27.7
29.2
30.2
29.6
28.5
28.2
28.1
27.9
27.6
26.9
26.1
28.03
平均最低気
温℃
21.1
22.5
24.4
25.8
25.2
24.6
24.3
24.3
24.4
23.9
22.8
21.4
23.7
雨量 mm
13.8
4.1
10.5
50.4
218.4
311.7
293.7
269.8
327.1
266.7
116.5
48.3
1,931
平均降雨日数
2.4
1
1.9
5.4
17.8
19
22.9
22.4
23.1
20.9
12.1
6.7
155.6
湿度%
69
68
68
70
76
80
80
81
82
83
78
73
75.7
平均月間
日照時間
244.9
248.6
272.8
231
195.3
171
179.8
173.6
162
182.9
201
223.2
2,486
出典 : World Meteorological Organisation (UN),
BBC Weather (record highs, lows, and humidity), World Climate Guide
33
1.2.現地農業の課題
経済成長著しいベトナムでは消費者の農産物に対するニーズの高度化が始まっており、
高品質な農産物の生産が求められている。
一方で、現地農家の技術水準の低さや、高温多湿な生産環境のため、高品質な農産物の
生産が難しい状況に置かれている。現地の農業における主な課題は下表の通り、農業イン
フラに起因するもの、生産技術に起因するもの、サプライチェーンに起因するもの、に大
別される。
これまでもベトナムは欧米や日本からの農業設備や農業資材の導入によってこれらの問
題解決に取り組んできた。しかし、現地の農業従事者の技術水準が高くないこと、及び当
該技術のベトナムへの適応(現地化)が不十分なことの 2 点により、必ずしも十分な成果
を残せていない状況にある。
このように、ベトナム・ホーチミン周辺における農業分野の課題解決のためには、単な
る設備・資材の導入ではなく、ノウハウ移転を伴う包括的な協力スキームが欠かせないと
考えられる。
表 19
ベトナム農業の抱える主な課題(抜粋)
出典:日本総研作成
ベトナムで農業生産を既に展開している農業法人への事前ヒアリングでは、ホーチミン
周辺における農業生産においては、高温多湿や病害虫を始め、以下のような課題が指摘さ
れている。

高温対応(光合成阻害、高温障害など)

多湿対応(病害虫リスクの増大など)

病害虫(トマトの黄化葉巻症など)

水質(汚染度、硬度など)

土壌汚染(重金属汚染など)
特に高温多湿な環境での太陽光型、太陽光併用型植物工場や温室による栽培に関しては、
34
細霧冷房やパッド&ファンなどの一般的な冷房設備が効きにくいことが大きな課題となっ
ている。
上記の生産環境においては、収量低下だけでなく、食味や栄養素等の品質面の低下も起
こっている。そのため、高品質な農産物を求める富裕層・上位中間層のニーズに充分に応
えられていない状況といえる。高温多湿な環境下で高品質な農産物を栽培する際には、環
境制御システムを駆使して農産物の栽培に最適な環境を人為的に生み出すことが可能な植
物工場が、有効な栽培手段となると考える。
表 20.野菜の生育適温ならびに限界温度
(a)果菜類
野 菜
ナス科
ウリ科
バラ科
ピーマン
ナス
トマト
温室メロン
スイカ
キュウリ
マクワ型
メロン
カボチャ
イチゴ
昼気温(℃)
最高限界
適温
35
30~25
35
28~23
35
25~20
35
30~25
35
28~23
35
28~23
夜気温(℃)
適温
最低限界
20~15
12
18~13
10
13~8
5
23~18
15
18~13
10
15~10
8
35
25~20
15~10
8
35
30
25~20
23~18
15~10
10~5
8
3
出典:熊本県資料
表 21.野菜の高温障害を起こす温度と障害
野 菜
温 度
障 害
30℃以上
花粉の機能低下
35℃
同化作用よりも呼吸作用が大きく、炭水化物の消耗が大となる
ナス
30~32.5℃以上
花粉の機能低下
キュウリ
30℃以上
花粉の機能低下
カボチャ
35℃以上
になると雌雄花の分化に異常をきたす
インゲン
30℃以上
花粉の機能低下
キャベツ
25℃以上
で発育弱く、発病多い
21℃以上
イモの形成不良
29℃
イモの形成肥大がまったく行われない
トマト
ジャガイモ
出典:熊本県資料
35
表 22.湿度と関連して発生しやすい病気
作 物
多湿下で発生
キュウリ
べと病,灰色かび病,菌核病,黒星病,つる枯れ病,褐ぱん病,はん点細菌病など
メロン
べと病,つる枯れ病など
トマト
葉かび病,はん点病,疫病,灰色かび病,輪紋病など
ナス
褐紋病,黒枯れ病,灰色かび病,菌核病,すすかび病など
ピーマン
灰色かび病など
イチゴ
灰色かび病,菌核病など
出典:熊本県資料
1.3.候補地の概要
ホーチミン郊外及び近郊の 3 ヶ所の候補地(ホーチミン、ドンナイ省、ビンズン省)に
おいて日本式農業団地を立ち上げるためには、各候補地の生産環境を詳細に把握し、日本
側が想定する農業生産手法が適応可能か判断する必要がある。特に、水や土壌などの生産
環境については、栽培手法の選択に大きな影響を与える。
本調査では、マーケット規模・成熟度、アクセス、投資家・デベロッパーの関心度合い
を踏まえ、以下の 3 ヶ所を候補地とした。下記に、各候補地の概要と開発ニーズを整理し
た。
表 23
対象自治体における農業団地開発ニーズ
候補地
概要
ホーチミン近郊で新規開発
(ドンナイ省)
ホーチミン郊外に立地し、市内より高速道路で約 20 分の距離で計画さ
れる新規ハイテクパーク。一部区画での新たな農業・食品団地開発を
検討。
ホーチミン近郊の既存団地
の隣接地に整備
(ビンズン省)
ホーチミン近郊の既存団地(住宅、工業団地)の隣接地に新たに農業・
食品団地を整備
研究開発センター、人工光型植物工場等の一部機能は既存団地内に先
行して整備
ホーチミン郊外の既存の工
業団地内に整備
(ホーチミン)
ベトナム側が既に整備済み、整備中の農業団地の中から、まとまった
区画を借地し、既存立地企業との連携も視野にいれた農業・食品団地
を整備
出典:日本総研作成
36
図 19
候補地の位置関係
出典:JETRO「ホーチミン近郊の物流・交通インフラ計画及び工業団地等」より日本総研作作成
表 24
アマタ・シティー・ロンタンの概要
項目
概要
団地/エリア名称
アマタ・シティー・ロンタン
所在地
ドンナイ省ロンタン
管理者
Amata (Vietnam) Joint Stock Company
面積
約 1,285 ヘクタール
主な用途
ハイテク企業向け工業団地、住宅や学校、病院などを含む居住区、
商業地区の3区画
現状の開発進捗
2016 年末着工見込み、マスタープラン作成中
出典:日本総研作成
37
表 25
ビンズン新都市の概要
項目
概要
団地/エリア名称
ビンズン・ガーデンシティ
所在地
ビンズオン省(ホーチミン市北)
管理者
ビンズン省人民委員会、ベカメックス東急有限会社
面積
約 4,196 ヘクタール
(うち、新都市開発面積 1,000 ヘクタール)
主な用途
省政府、ビジネス・パーク、金融センター、国際会議場、商業施設、
総合病院、住宅施設、大学、新都市交通システムなど導入予定。
現状の開発進捗
大学、省政府、国際会議場、住宅施設、商業施設など一部竣工。
ソラ・ガーデンズ(高層コンドミニアム:2015 年 2 月竣工)
EIU (大学施設:2011 年より開校)
出典:日本総研作成
表 26
農業ハイテクパークの概要
項目
概要
団地/エリア名称
アグリカルチュラル・ハイテク・パーク
所在地
ホーチミン市クチ(ホーチミンより 50km)
管理者
ホーチミン市人民委員会
面積
約 90 ヘクタール
主な用途
花、野菜、果物の施設園芸を用いた栽培、および、関連した研究開
発、輸出入・検疫管理等
現状の開発進捗
2008 年より実施。
14 社の投資(うち 1 社は日系、残りは現地企業)
。
Phase2 として 200ha の増設を開始し、2018 年に竣工の予定。
出典:日本総研作成
2.課題解決に資する日本の技術
そこで、優れた環境制御機能を有する植物工場や農業 ICT による高度管理型温室といっ
た日本の優れた農業生産技術を導入することで、現地の技術的なボトルネックを解消でき
ると考える。
その際、ボトルネック解消に要する追加コストが、現地で想定される農産物価格から逆
算した許容コスト内に収まっていることが重要である。単に日本と同じ設備・システムを
導入するのではなく、現地の生産環境やコスト幅を踏まえた現地化が欠かせない。
高温多湿な生産環境で、農業従事者の技術水準が日本よりも低いベトナムでは、日本の
38
植物工場や農業 ICT を活用して生産のボトルネックを解決することが求められる。
一方で環境制御システムにより温度・湿度・CO2 濃度等を制御することにより、投資額
や生産コストが増大するため、品質や生産効率への影響が少ない課題については、対応を
見送る等の判断も欠かせない。
図 20
投資額と事業安定性による農業生産手法のマッピング
出典:日本総研作成
植物工場の露地栽培に対するメリット、デメリットを下表に整理した。特にベトナムに
おいては、天候不順や病害虫のリスクの低減、及び作業のシステム化・マニュアル化によ
る現地での技術再現性の高さが大きなメリットとなる。
表 27
植物工場の課題解決能力及び課題
出典:日本総研作成
39
3.課題解決の方策(日本式農業団地)
ベトナムにおいても日本の個人農家や農業法人が現地進出する事例が徐々に増えている。
ただし円滑な事業立ち上げに苦戦する事例が少なくない。実際に現地進出している農業法
人からの事前ヒアリングでは、事業立ち上げの障害として、農業生産インフラの不備、サ
プライチェーン構築の難しさ等の課題が抽出された。
工業分野では、企業単独の進出ではなく、工業団地として集積しており、同様に農業も
農業団地を設けることが有効である。電力、水、廃棄物、冷蔵・冷凍倉庫等を共有インフ
ラとすることで、ベトナムでの農業事業の立ち上げのハードルを下げることが可能である。
また、複数の農業生産設備が集積したクラスターの形成により、多彩な商品ラインナッ
プを揃えたブランドの構築や、複数商品を活用した加工食品(例:カップサラダ、鍋用カ
ット野菜等)の創出といった、付加価値向上が可能となる。
日本総研では、市場へのアクセスに優れ、現地の関心度の高いホーチミン周辺を候補地
に、これまで検討を進めてきた。現地の消費ニーズと、技術再現性を踏まえると、植物工
場、施設園芸、農業 ICT を用いた露地栽培を主とした農業団地が有望と考えている。
図 21
日本式農業団地のイメージ
出典:日本総研作成
40
表 28
日本式農業団地の付加価値とアクション(例)
出典:日本総研作成
マーケット環境や物流事情を踏まえると、ホーチミン近郊という立地、現地消費ニーズ
のトレンドを踏まえ、
『地産地消型』の農業団地を立ち上げることが有望と考える。高品質、
高鮮度な農産物・加工食品を日本の技術を用いて生産し、コールドチェーンで輸送するモ
デルを実現することで、現地の消費者ニーズを捉えることが可能である。
このような植物工場事業の円滑な展開には、事業者に不足する機能を補完するサービス
事業者が不可欠となる。各農業事業者の課題解決のため、農業団地運営事業者がサービス
事業者を立ち上げ、団地内の植物工場事業者や食品加工事業者に対して有償にて農業関連
サービスの提供を行うことが求められる。これは、オランダの施設園芸産業における農業
技術コンサルティング、CO2 供給会社、公的研究機関のような農業周辺産業に類似する機
能である。
41
図 22
農業団地事業者に求められる機能
出典:日本総研作成
42
第5章 事業性の分析
1.現地の生産環境を踏まえた必要なインフラ機能
前章の技術検討を踏まえ、日本式農業団地に必要なインフラ機能(エネルギー(電気、
ガス等)、水(農業用水、上水、排水)、交通、物流(冷蔵倉庫等)
、研究開発(ラボ、検査
施設)
)を次表に整理した。
ベトナムでの事業展開を検討している本調査の協力会社、検討パートナー企業からの事
前ヒアリングでは、生産インフラとして以下の条件が提示されている。日本総研独自の視
点として、R&D センター、品質管理センター、営農管理 ICT 等も農業団地の共用インフラ
として整備することが、各事業者の収益性向上につながると考える。
表 29
植物工場事業に必要な要件 一覧
出典:日本総研作成
協力会社や検討パートナーを交えた事前検討では、日本式農業団地内で下図のようなマ
テリアルフロー(農産物、資材、廃棄物等)を想定している。
植物工場や高度管理型温室のように清浄な農業用水が必要な施設に対しては、農業団地
内に共用の水浄化施設を設けて給水することで、水コストの削減に寄与すると考える。
有機物残渣や排水等については個別の農場や工場での処理よりも、農業団地内で集約し
て処理した方が総合的な効率が向上するため、各農場、工場の収益性の向上に資すると考
える。
43
図 23
農業団地のマテリアルフロー
出典:日本総研作成
2.事業形態の検討
生産・加工において価値を創出し、適切な流通により価値を維持し、小売・外食におい
て価値を訴求する、という価値構造となる。
協力会社、検討パートナーへの事前ヒアリングを踏まえると、このようなバリューチェ
ーンにおいて、日本企業は以下の参画形態(ポジショニング)が標準形となると想定して
いる。

生産段階

農業生産においては、一定の資本力と人材を有する大企業の場合、出資規制等
を踏まえ、現地企業との合弁企業を設立し、事業展開するモデルが標準形とな
る。

資本力と人材が不足しがちな農業法人の場合、現地の農業生産企業との業務提
携に基づき技術指導とノウハウ提供を行うモデルが標準形となる。

加工段階

食品加工においては、製造技術の流出を懸念する企業が多いことから、現地製
造拠点の管理が適切に行えるように一定の出資をして事業展開するモデルが標
準形となる。

流通段階

流通においては、現地法人を設立して自ら事業展開するモデルと、現地の流通
44
企業と業務提携してノウハウ提供するモデルの双方が想定される。

販売段階

販売においては、現地法人を設立して自ら事業展開するモデルが標準的となる。
その際、現地ステークホルダーとの円滑な連携や法制度への対応のために、現
地企業との合弁形態を採ることも多くなっている。
日本式農業団地の運営者に求められる機能は多岐にわたるため、農業団地運営事業者の
傘下に、農業団地インフラ事業者及び農業団地サービス事業者を組成することが有効とな
る。このうち、農業団地インフラ事業者は、農業用水、CO2 の供給、冷蔵・冷凍倉庫の運
営等、農業分野特有の役割を担当する。また、農業団地サービス事業者は、植物工場事業
者等の立地企業に対する①販売支援、②商品開発支援、③品質モニタリング、などのサー
ビス提供を担当することが想定される。合わせて、サテライト農場に対する栽培指導・営
農管理を行い、生産された農産物を調達ことも求められる。
このように、運営事業者以外にインフラ事業者やサービス事業者を設置することで、よ
り広範な日本企業の事業機会を生み出すことができ、結果的に日本のノウハウや技術を円
滑に移転できると考えられる。
図 24
農業団地事業者の事業構造
出典:日本総研作成
45
図 25
各事業者の役割分担
出典:日本総研作成
図 26
バリューチェーンの各ステークホルダーの役割
出典:日本総研作成
46
3.収支シミュレーション
以上の各調査結果を踏まえ、現地での植物工場事業の立ち上げが期待される①人工光型
植物工場によるレタス栽培事業、②太陽光型植物工場によるトマト栽培事業、の 2 つにつ
いて、事業収支シミュレーションを実施し、事業性の分析を行った。
3.1.人工光型植物工場によるレタス栽培
3.1.1.前提条件
ベトナムにおける人工光型植物工場によるレタス栽培事業について、モデルケースにお
ける事業収支の試算を行った。冷房に関する光熱水費に関しては、断熱性の高い人工光型
植物工場では外部からの熱流入よりも光源からの発熱の影響の方が大きいため、シミュレ
ーションでは日本におけるエネルギー消費量の 15%増しと設定した。
表 30
人工光型植物工場によるレタス栽培の前提条件
① 栽培概要
項目
内容
栽培方式
人工光型植物工場
栽培品目
レタス
設置面積
備考
蛍光灯型
750 ㎡
多段栽培。栽培面積は温室 3,000 ㎡に相
当。
② 資金調達等
項目
設定条件
資金調達
全額自己資金
減価償却
建屋 20 年、設備 10 年 (定額法、残存簿価 10%)
③ 生産・販売条件
項目
生産量
歩留り
内容
備考
3,000 株/日
1 株を 100g と設定
85%
(先行事例を踏まえ) 立ち上げ時の収量低下を踏まえ、初年度
は 33.3%、2 年目は 66.6%に設定
100 円/株(小売向け)
現地のリーフレタス(コンビニ、高級ス
販売価格
ーパー向け)の価格は日本の価格水準の
(出荷価格)
65%。日本の植物工場産リーフレタスに
当該比率を乗算。
47
④ イニシャルコスト
ベトナムでの植物工場の建設費について、日本での標準的な植物工場を基に、現地の生
産環境に合わせた仕様変更及び現地のコスト条件に合わせた補正を行った。なお、コスト
補正においては、先行企業からのヒアリングに基づき日本の 8 割とした。
項目
金額(千円)
建物施設工事
76,800
空調設備工事
16,000
規模・内容
750 ㎡(敷地 1,000 ㎡)
800
炭酸ガス供給装置
48,000
光源装置
制御盤・
4,800
センサー類
栽培架台・
温度、湿度、炭酸ガス濃度、EC、pH 等コントロー
ルシステム
62,400
ベッド工事
エアシャワー
800
ルーム
電気工事
16,000
給水工事
6,400
試運転調整費
8,000
240,000
合計
⑤ ランニングコスト
ランニングコストは現地調査を基に以下の通り設定した。なお、法人税については優遇
税率が適応されると仮定し、10%とした。
項目
金額(千円)
備考
農場長 1 名(7,000 千円)+パート作業員(時給 130
人件費
10,744 円×28,800 時間) *人件費は製造業一般ワーカーの賃金
水準に基づく(出所:JETRO)
販売管理費
1,612
人件費の 15%
材料費
4,160
種子、養液等(2 円/株)+消耗品費
光熱水費
4,410
メンテナンス費
2,400
出荷経費等
17,684
電気代は日本の 40%、水道料金は日本の 80%とし
て設定
設置コストの 1%
販売価格の 15%を想定、技術指導料 5%
48
120
借地料
工業団地(120 円/㎡・年、敷地 1,000 ㎡)
出典:日本総研作成
3.1.2.試算結果
事業収支シミュレーションによる試算の結果、標準ケースでは 5 年目の税引き後利益率
が 30.4%、15 年目の IRR が 13.8%、投資回収年数は約 7 年となった。
日本での事業(補助金なし)と比べてほぼ同程度、もしくは若干良好な結果となった。
ただし、ベトナムでは金利が高い水準にあることから、単に投資事業としての視点からは、
本事業の収益性は必ずしも高くないと判断される可能性もあり得る。また、販売価格は日
系スーパーマーケット、コンビニエンスストアの価格から仮定しており、ミドル層の小売
チャネルへの販売においては設定価格の低下が予期される。
ホーチミンにおける人工光型植物工場の立ち上げのためには、建設費を始めとしたコス
ト低減と、消費者へのブランド価値訴求による高価格帯の維持の 2 点が不可欠であると考
える。
表 31
人工光型植物工場によるレタス栽培の試算結果
項目
標準ケース
税引き後利益率(5 年目)
30.4%
IRR(15 年目)
13.8%
投資回収年数
約7年
出典:日本総研作成
3.2.太陽光型植物工場によるトマト栽培
3.2.1.前提条件
ベトナムにおける太陽光型植物工場によるトマト栽培事業について、モデルケースにお
ける事業収支の試算を行った。施設仕様について、日照条件は極めて良好なため補光は設
けず、高温対応のためパッド&ファンや細霧冷房等の冷房設備を設けた。
なお、日本国内の標準仕様では加温施設が設定されているが、ベトナムでは年間を通し
て加温が不要なため、仕様から除外した。
表 32
太陽光型植物工場によるトマト栽培の前提条件
① 栽培概要
項目
内容
栽培方式
太陽光型植物工場
栽培品目
トマト
備考
補光なし
49
設置面積
10,000 ㎡
② 資金調達等
項目
設定条件
資金調達
全額自己資金
減価償却
建屋 20 年、設備 10 年 (定額法、残存簿価 10%)
③ 生産・販売条件
項目
生産量
歩留り
販売価格
内容
備考
350 トン/年
初年度は 30%、2 年目は 60%、3 年目は 90%
-
に設定
250 円/kg
(出荷価格)
④ イニシャルコスト
ベトナムでの植物工場の建設費について、日本での標準的な植物工場を基に、現地の生
産環境に合わせた仕様変更及び現地のコスト条件に合わせた補正を行った。なお、コスト
補正においては、先行企業からのヒアリングに基づき日本の 8 割とした。
項目
建物施設工事
作業所・
管理事務所
金額(千円)
規模・内容
128,000 鉄骨造、フッ素フィルム型:10,000 ㎡
11,200 軽量鉄骨造
加温施設
0
換気施設
1,600
撹拌扇
炭酸ガス供給装置
3,200
灯油焚き方式
細霧冷房装置
8,000
制御盤・
センサー類
栽培架台・
ベッド工事
3,600
(通年で加温は不要)
温度、湿度、炭酸ガス濃度、EC、pH 等コントロー
ルシステム
32,000
育苗施設
6,800
人工光育苗施設
保冷装置
2,400
保冷庫
選果機等
24,000 選果機等
50
電気工事
9,600
給水工事
16,000
試運転調整費
4,000
264,800
合計
⑤ ランニングコスト
項目
金額(千円)
備考
農場長 1 名(7,000 千円)+パート作業員(時給 130
人件費
10,250
販売管理費
1,538
人件費の 15%
材料費
8,850
消耗品費を含む
光熱水費
4,800
(事業実施地域により変動あり)
メンテナンス費
2,504
設置コストの 1%
出荷経費等
21,000
50
借地料
円×25,000 時間)
販売価格の 15%を想定、技術指導料 5%
農地(5 円/㎡・年、10,000 ㎡)
出典:日本総研作成
3.2.2.試算結果
試算の結果、
標準ケースでは 5 年目の税引き後利益率が 28.8%、15 年目の IRR が 9.8%、
投資回収年数は約 8 年となった。
日本での事業(補助金なし)と比べてほぼ同程度の結果となったが、人工光型植物工場
でのレタス栽培よりも収益性が低めとなっている。人工光型植物工場と同様に、単に投資
事業としての視点からは、本事業の収益性は必ずしも高くないと判断される可能性もあり
得る。
ホーチミンにおける太陽光型植物工場の立ち上げのためには、現地の温室や内部設備の
積極導入による建設費・メンテナンス費の低減が不可欠であると考える。また、将来的な
消費ニーズの高度化に合わせ、高糖度トマトや高機能性トマトを生産することも選択肢の
一つとなる。
表 33
太陽光型植物工場によるトマト栽培の試算結果
項目
標準ケース
税引き後利益率(5 年目)
28.8%
IRR(15 年目)
9.8%
約8年
投資回収年数
出典:日本総研作成
51
3.3.カット野菜工場
3.3.1.前提条件
ベトナムにおけるレタスのカット野菜工場の事業収支について、現地調査に基づき、以
下の通り試算した。なお、各コストは前々項の人工光型植物工場への追加費用分のみを記
載している。
表 34
人工光型植物工場によるレタス栽培の前提条件
① 栽培概要
項目
内容
加工原料
レタス
設置面積
150 ㎡
備考
② 資金調達等
項目
設定条件
資金調達
全額自己資金
減価償却
建屋 20 年、設備 10 年 (定額法、残存簿価 10%)
③ 生産・販売条件
項目
生産量
販売価格
内容
備考
3,000 株/日のレタス
全量をカット野菜に加工
175 円/株(小売向け)
(出荷価格)
① イニシャルコスト(追加分)
項目
金額(千円)
規模・内容
建物施設工事
20,000
空調設備工事
30,000 洗浄、乾燥、パッキング装置
合計
150 ㎡
50,000
② ランニングコスト(追加分)
項目
金額(千円)
人件費
6,040
販売管理費
906
備考
正社員 5,000 千円+パート作業員(時給 130 円
×8,000 時間)
人件費の 15%
52
材料費
2,000
光熱水費
1,000
メンテナンス費
5,000
18
借地料
薬剤、包装材等
電気代は日本の 40%、水道料金は日本の 80%とし
て設定
設置コストの 1%
工業団地(120 円/㎡・年、敷地 150 ㎡)
出典:日本総研作成
3.3.2.試算結果
事業収支シミュレーションによる試算の結果、標準ケースでは 5 年目の税引き後利益率
が 40.4%、15 年目の IRR が 22.98%、投資回収年数は約 5 年となった。
植物工場でのレタス栽培事業と比べ、小売価格が大幅に上昇することから収益性が高ま
ることが確認された。日本でもカット野菜工場を併設した方が収益性は高いとされており、
ベトナムでも同様の結果となった。特に現地の人件費水準が非常に安価であることが、収
益性向上に影響していると判断される。
表 35
カット野菜工場(レタス)の試算結果
項目
標準ケース
税引き後利益率(5 年目)
40.4%
IRR(15 年目)
22.9%
投資回収年数
約5年
出典:日本総研作成
4.事業リスクの検討
本調査では、日本の農業技術を用いた現地での高付加価値な農業事業について、以下の
ようなリスクに留意する必要があることが判明した。
特に法規制や土地利用については流動的な部分や曖昧な部分が多く、慎重な対応が必要
となる。また、事業計画の策定の際には、将来的な人件費やエネルギー費等の上昇を織り
込む必要がある。
53
図 27
海外展開における農産物販売の主なリスク
出典:日本総研作成
第6章 事業の波及効果等の検証
1.日本国内への経済波及効果
本調査を踏まえ、日本の農業技術をベトナムで活用して現地で高付加価値農産物を生
産・流通・加工・販売する日本式農業モデルは、一定の事業性を有していることが確認さ
れた。日本式農業の海外展開による日本国内への経済波及効果として、①海外からのキャ
ッシュイン(特にロイヤリティ収入)、②規模の経済によるコスト低減、③効率的な人材育
成、等が想定される。
日本式農業モデルにといては、日本の農業生産者や農業企業は、現地の農業生産者や農
業企業に対して技術移転とライセンス付与を行い、その対価として移転先の現地企業から
ロイヤリティを得ることが想定される。また、設備メーカーや農業システム企業において
は自社の設備やシステムの代金に、栽培に関するノウハウの対価を上乗せすることが可能
である。技術・ノウハウを活かした知的財産ビジネスという位置づけで海外展開すること
により、農業法人や農業企業の資金、人材、農地等のリソース制約に縛られず、迅速かつ
大規模な農業事業を立ち上げることが可能と考えられる。
海外での広範な事業展開は、設備調達やシステム開発の面で規模の経済によるコストダ
ウンが期待できる。日本国内のみでは年間の設置件数が限定される植物工場や農業 ICT に
関して、海外を含めて案件数を増やすことで単価提言が可能であり、それにより日本国内
の事業における収益性貢献にもつながる。加えて、海外事業での経験を踏まえた、海外製
54
の設備や部材の導入によるコスト低減も可能である。
また、海外での事業展開は、植物工場等の先進的な農業生産事業における人材育成にも
効果を発揮すると期待される。現地での植物工場等の立ち上げにおいては、日本の植物工
場事業者からリーダー級人材の派遣が想定される。日本国内で一定の知見とスキルを獲得
した社員を、現地の工場長や副工場長として派遣し、プロジェクト全体を統括する経験を
つませることで、迅速な人材育成が可能である。
図 28
日本式農業による知的財産ビジネスのモデル図
出典:日本総研作成
2.日本からの農産物輸出と現地生産の相乗効果
日本の農業技術を活かした現地生産は、日本からの農産物輸出にも好影響をもたらすこ
とが期待される。一般に、海外市場のマーケティングにおいては、現地生産の展開により
輸出と競合が発生し、輸出を停滞させてしまうことが懸念されるが、農産物の場合には、
必ずしも現地展開と輸出が競合するとは限らない。工業製品と比較して、特に最高級品に
関しては日本産と同水準の品質を海外で再現することは極めて難しい。
一方で、最高級品の一つ下のカテゴリーに位置する高品質な農産物に関しては、品目に
よっては植物工場や農業 ICT 等を活用することで日本と近い品質を現地で再現することが
可能である。つまり、日本から輸出する日本産農産物と現地で生産する日本式農産物は競
合関係ではなく、次図に示す通り、日本産農産物と日本式農産物は互いに補完関係にある
と考えられる。
日本産農産物(日本からの輸入)を取り扱う ASEAN 各国の小売店からは、日本産農産
物の輸入を阻害している要因として、以下のような点が指摘された。
①価格が高すぎる
②品目数が少なく、日本産農産物ブランドとして展開しにくい
③短期間の限定出荷(補助事業による単発の試験販売等)のため、定常的な日本産農産
物売場を設けることができない
④日本国内の産地間の連携がなく、商品を安定的に調達できない
55
これらの課題のうち、②~④については、日本産農産物に加えて、現地生産の農産物を
取り扱うことにより解決することが可能である。両者を効率的に組み合わせ、現地にて商
品の露出度を高めていくことはジャパンブランドの構築につながり、結果的に日本からの
農産物輸出の拡大にも寄与すると期待される。日本から輸出するトップブランド商品と、
現地で日本の技術を駆使して生産するセカンドブランド商品を組み合わせた事業展開が有
望となる。
図 29
日本からの輸出と現地生産の役割分担
出典:日本総研作成
図 30
ジャパンブランドの商品レイヤー
出典:日本総研作成
なお、現地で生産する品目については、日本への輸出による国内農業への悪影響(ブー
メラン効果)について慎重な検討が不可欠である。現地で生産する品目に関しては、品質
が劣化しやすく日本に輸出しにくい農産物や、日本で需要の低い農産物(現地固有の農産
物、日本と異なる特性の農産物)の生産を中心に行う必要がある。合わせて日本の農業技
術の違法な持ち出しや流用が問題となっていることから、技術流出リスクの低減に留意が
必要である。
56
3.環境社会的側面への影響分析
農業生産における環境への影響として、施肥による水質汚染や土壌汚染、土地使用によ
る森林破壊等がある。ベトナムでは経済発展および工業化が進行していることから、国お
よび自治体での環境対策が積極的に実施されている。現地に進出する日系企業には、環境
汚染対策について高度なノウハウを駆使し、現地での環境対策を牽引することが求められ
る。
植物工場および生産・加工・流通を一括して行う農業団地モデルの特長から、農産物生
産工程だけでなく、食品加工工程、消費工程も含めたフードバリューチェーン全体の環境
負荷を下げることも期待される。
① 節水効果
ベトナムでは、水利用技術等により、清浄な水が潤沢に得られない地域であることから、
植物工場での効率的な水利用、及び、農産物加工での節水が可能となると考える。生産段
階において、植物工場利用による水の再利用(98%)
、施肥による汚染および洗浄プロセス
の簡略化(ベトナム南部での栽培地では、保水性の高い赤土を使用しており、有機肥料を
施肥している)が可能となる他、加工段階における洗浄プロセスの簡略化(次亜塩素酸消
毒プロセスの回数調整等)による水使用量の低減が可能である。
②水質汚染防止・土壌汚染防止
植物工場等の水耕栽培・養液栽培では、養液を循環利用することが可能なため、土壌へ
の養液の浸透を防ぐことができ、また河川等への排水についても最小化することができる。
それにより、肥料成分による河川・湖沼・海域の水質汚染(富栄養化)や土壌汚染(特に
硝酸態窒素)を低減することが可能である。
また植物工場等の栽培手法では、通常の露地栽培に比べて農薬の使用量を抑えることが
可能であり、水質及び土壌の汚染防止に資する。
③土地の有効活用
ベトナムを始めとするアジア諸国の中には、人口増加や食生活の変化のため農産物の供
給量増加が求められており、それに伴い森林や湿地等での農地開発が進んでいる。それに
より、生態系の破壊や生物多様性の減少が問題となっている。
本事業のような植物工場等の集約的な農業生産手法を導入することにより、農地の有効
活用率を飛躍的に高めることが可能である。土地生産性の向上により農地開発の必要量を
抑えることが期待されている。
57
図 31
本調査における環境保全に関する重点項目
出典:日本総研作成
4.本事業実施に伴う省エネルギー効率
本調査では、植物工場での現地現産を行うことから、日本での露地栽培品の輸出に比べ、
資源使用量や輸送による時間や距離のロスが少ないことから、エネルギー資源および水資
源の使用を抑える効果が期待できる。
二酸化炭素排出量においては、生産段階で約 45%のもの低減があった。また、廃棄物低
減による省エネルギー効果も期待できる。ベトナムは農産物の鮮度を保つために十分なコ
ールドチェーンが発達しておらず、ホーチミン市内に輸送される野菜の主な産地であるダ
ラット(ラムドン省)やバンミソート(ダクラク省)から7-8時間の長距離輸送を実施
し、市内にて外葉を取ってクリーニングを行って包装を行う(廃棄分は、重量にて1-2
割程度にも及ぶ)
。輸出品に比べると廃棄分が多いとは言えないものの、廃棄物に関する規
定は厳しくないものの、廃棄物の再利用が十分になされていない現地においては、植物工
場による現地現産システムは大きな省エネルギー効果が期待できる。
さらに、流通段階(主に陸路)において、現地露地栽培および日本での露地栽培・輸出
の場合に比べて、陸路を用いた輸送による省エネルギー効果が期待でき、包括的に、本事
業で実施するモデルの環境効率は適していると考える。
図 32
日本式農業団地モデルにおける水使用量の違い
出典:日本総研作成
58
図 33
農産物生産のライフサイクル
電力
化石燃料
電力
化石燃料
上水
化石燃料
雨水
灌漑用水
種子
生産
(栽培)
原材料調達
流通
(輸送)
使用・維持
管理(調理)
廃棄
リサイクル
肥料
農薬
廃棄物
梱包資材
廃棄物処理
排水
排水処理
赤:本事業(植物工場栽培)の適用によって資源使用量が増加することが予想されるプロセス、
黄:本事業の適用によって資源利用の質的変化が起こることが想定されるプロセス
青:本事業の適用によって資源使用量が減少することが予想されるプロセス
出典:環境省「ウォーターフットプリント算出事例集」参照、日本総合研究所作成
表 36
項目
生産段階におけるCO2排出量の低減率
露地栽培・輸出
植物工場栽培・現地現産
(kgCO2/千円)
(本事業適用後)
種子
1.3
農薬
4.8
梱包資材等
3.0
1.3
変化量
0
(左と同等)
0
-4.8
(無農薬)
3.0
0
(左と同等)
雑費
53.9
27.7
(日本での露地)
(現地での施設栽培)
3.8
0
-3.8
0
2.8
+2.8
土地改良
3.0
0
-3.0
合計
69.8
38.8
電力
農機
農用建物
施設
-26.2
-31.0
(約 45%減)
出典:日本総研作成
59
表 37
項目
空輸
コンテナ船
(重油)
15t
トラック
(軽油)
輸送段階におけるCO2排出量の低減
露地栽培・輸出
露地栽培・現地
植物工場栽培・現地現産
kg-CO2/t
(対照)
(本事業適用後)
0
0
(輸送なし)
(輸送なし)
0
0
(輸送なし)
(輸送なし)
5,470
135
255.7
222
バリアブンタウ~
48.3
ビンズン~
ダラット~
ホーチミン間(65km)
ホーチミン間(50km)
ホーチミン間(230km)
+日本国内輸送(200km)
2t
6.46
6.46
6.46
トラック
ホーチミン市内輸送
(左と同様)
(左と同様)
(軽油)
10km と算出
(日本~ベトナム間の輸送には、レタスは空路、トマトは海路での輸送)
出典:国土交通省公開データより日本総研作成
60
第7章 総括
本調査の結果より、ホーチミン及び周辺地域では消費者の所得水準の向上と食生活スタ
イルの変化が起きており、高品質な農産物に対する需要が大きく伸びていることが分かっ
た。特に、スーパーマーケットやコンビニエンスストアといった近代的な小売店や、外食
チェーンがこの数年間で急増しており、中でも日系企業が存在感を増している。これらの
需要家の高品質な農産物に対するニーズは、日本の農業技術を活かした現地生産モデルに
とって追い風になると期待される。
他方で、ホーチミン及び周辺の気象条件やユーティリティの現状を踏まえると、施設園
芸による高品質な農産物の生産には、それを支える農業生産インフラの整備が不可欠であ
ることが判明した。ヒアリング調査によると、特に清浄な水の供給や停電に備えたバック
アップ電源等が必要と考えられるが、これらを各農家、農業企業が個別に整備するのは非
効率と考えられる。ホーチミン及び周辺地域において、日本の農業技術を活かした現地生
産モデルを円滑に立ち上げるためには、前述の通り、複数の農場、食品加工工場、倉庫等
を集積した農業団地の整備が有効と考える。
第5章の分析の通り、施設園芸によるレタス・トマト等の生産やカット野菜の生産等の
個別事業については、一定の収益性が確保できると判明した。また、日本の農業技術を導
入した農業団地の立ち上げに高い関心を示す現地のステークホルダーも確認された。
今後、農業団地を円滑に立ち上げていくためには、農業団地の運営事業者の事業可能性に
関する詳細な調査・検討が望まれる。
61
【添付資料1:ヒアリングメモ一式】
(公開版では省略)
62
【添付資料2:参考文献一覧】
63
井熊均・三輪泰史「グローバル農業ビジネス」、日刊工業新聞社、2011 年
熊本県「野菜づくりの基礎知識[野菜栽培と環境]
」
国際協力銀行「ベトナムの投資環境」、2014 年
食品産業センター「東南アジア食品市場のとらえ方と進出戦略~インドネシア・ベトナム・
ミャンマー市場を中心に」
、2013 年
食品産業センター「ベトナム食品マーケット事情調査報告書」、2009 年
日本貿易振興機構「2013 年度主要国・地域におけるコールドチェーン調査(ベトナム)」、
2014 年
日本貿易振興機構「ベトナム南部工業団地データ集」、2014 年
日本貿易振興機構「日本食品に対する海外消費者アンケート調査(ベトナム)」、2014 年
日本貿易振興機構「ホーチミン近郊の物流・交通インフラ計画及び工業団地等」
農林水産省「主要国の農業情報調査分析報告書(平成 25 年度)
」
、2014 年
農林水産省「平成 22 年度海外農業情報調査分析・国際相互理解事業 海外農業情報調査分
析(アジア)報告書」
、2011 年
農林水産消費技術センター「ベトナムにおける野菜・果実の生産加工状況」
、2014 年
ベトナム統計局「Statistical Yearbook of Vietnam」
、2014 年
ベトナム統計総局「国民生活水準調査」
Euromonitor International「オンラインデータベース」
FAO ”FAOSTAT”
IMF ”World Economic Outlook, October 2014”,2014
World Meteorological Organization (UN) “World Climate Guide”
64
(様式2)
二次利用不可リスト
報告書の題名 平成26年度エネルギー需給緩和型インフ
委託事業名 平成26年度エネルギー需給緩和型インフラ・シ
受注事業者名 株式会社日本総合研究所
頁
図表番号
タイトル
該当なし
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