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監査証拠 - 日本公認会計士協会

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監査証拠 - 日本公認会計士協会
IFAC
International
Auditing
and Assurance
Standards Board
国際監査基準 500
2003 年 10 月承認
監査証拠
Issued by the
International
Federation of
Accountants
本国際監査基準(ISA)は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)により作成された。本基準は、2003
年 10 月に承認された。
IAASB の本 ISA の承認された原文は、英語で公表される。
版権 © 2003 年 10 月国際会計士連盟(IFAC) すべての権利は IFAC が保有する。IFAC の書面によ
る事前許可なしに、電子的なもの、機械的なもの、写真複写、録音その他のいかなる形式又は手段に
よっても、本公表物を再生し、検索システムで保存し、又は伝達することは認められない。
International Federation of Accountants
545 Fifth Avenue, 14th Floor
New York, New York 10017, USA
E-mail: [email protected]
Web site: http://www.ifac.org
ISBN: 1-931949-10-7
IFAC COPYRIGHT AND ACKNOWLEDGEMENT FOR TRANSLATIONS:
Copyright © International Federation of Accountants
All standards, guidelines, discussion papers and other IFAC documents are the copyright of the International
Federation of Accountants (IFAC), 545 Fifth Avenue, 14th Floor, New York, New York, 10017, USA; tel:
1-212/286-9344, fax: 1-212/286.9570, Internet http://www.ifac.org
All rights reserved. No part of this publication may be reproduced, stored in a retrieval system, or transmitted,
in any form or by any means, electronic, mechanical, photocopying, recording or otherwise, without the prior
written permission of IFAC.
The IFAC pronouncements in this volume have been translated into Japanese by/under the supervision of The
Japanese Institute of Certified Public Accountants and are reproduced with the permission of IFAC. The
approved text of all IFAC documents is that published by IFAC in the English language.
翻訳に関する国際会計士連盟(IFAC)のコピーライト及び承認について:
Copyright © International Federation of Accountants
すべての基準、ガイドライン、ディスカッション・ペーパー及びその他の IFAC の文書に、IFAC は
コピーライトを持つ。International Federation of Accountants(IFAC), 545 Fifth Avenue, 14th Floor, New
York, New York 10017, USA; tel: 1-212/286-9344, fax: 1-212/286.9570, Website: http://www.ifac.org
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電子的、機械的、写真複製、録音、その他のいかなる形態又はいかなる方法によっても複製し、検索
システムで保存し、又は転送することは認められない。
IFAC の本公表物は、日本公認会計士協会国際委員会により日本語に翻訳されたものであり、IFAC
の許可の下に複製されている。承認されたすべての IFAC の文書の正文は、IFAC により英文で公表さ
れるものである。
国際監査基準 500
監査証拠
目次
パラグラフ
序説 ......................................................................................................................................................
1-2
監査証拠の概念 ..................................................................................................................................
3-6
十分かつ適切な監査証拠
................................................................................................................ 7-14
監査証拠の入手のための主張(Assertion)の利用 ....................................................................... 15-18
監査証拠の入手のための監査手続 .................................................................................................... 19-38
記録と文書の査閲.......................................................................................................................... 26-27
有形資産の実査..............................................................................................................................
28
観察又は立会..................................................................................................................................
29
質問 ................................................................................................................................................. 30-34
確認 .................................................................................................................................................
35
計算突合 .........................................................................................................................................
36
再実施 .............................................................................................................................................
37
分析的手続 .....................................................................................................................................
38
発効日 ...................................................................................................................................................
39
「監査証拠」に関する既存のISAは、ISA500Aに再付番される。ISA500Aは、2004年12月15日前に
開始する期間に対する財務諸表監査につき効力を存続する。
国際監査基準(ISA)は、歴史的財務情報の監査又はレビューにつき、適切な場合に適用される。
ISA には、基本原則及び必要不可欠な手続(太字で表記)が、付録を含む、説明やその他の資料とい
った関連する指針とともに含まれている。基本原則及び必要不可欠な手続は、その適用のための指
針を提供する説明やその他の資料における文脈の中で理解され、適用されるべきである。したがっ
て、基本原則及び必要不可欠な手続を理解し、適用するためには、ISA のテキスト全体を考慮する必
要がある。
ISA の性格は、その適用において、監査人が職業専門家としての判断を行使することを要求する。例
外的な状況においては、監査人は、監査の目的をより効果的に達成するために、ISA の基本原則又は
必要不可欠な手続からの乖離が必要と判断することがある。そのような状況が発生した場合、監査
人は、当該乖離の正当化を説明する用意をしなければならない。
特定の ISA の適用可能性の限界は、当該 ISA において明らかにされる。
ISA に含まれる特定の基本原則、必要不可欠な手続又は指針が公的部門の環境において適用不可能で
ある状況、若しくは、そのような環境で追加的な指針が適切である場合に、国際会計士連盟のパブ
リック・セクター委員会は、ISA の末尾にある公的部門の考慮事項(PSP)において、そのように記
述する。PSP が追加されていない場合には、当該 ISA は、公的部門における業務に対し、規定され
たとおりに適用される。
監査証拠
序説
1.
本国際監査基準(ISA)の目的は、財務諸表監査において監査証拠を構成するもの、入手すべき
監査証拠の質と量、及び監査人が監査証拠を入手するために使用する監査手続に関して、監査
基準を設定し指針を提供することにある。
2.
監査人は、監査意見の基礎となる合理的な結論を引き出すことができる十分かつ適切な監査証
拠を入手しなければならない。
監査証拠の概念
3.
「監査証拠」とは、監査意見の基礎とする結論へ到達するために監査人が利用する情報のすべ
てであり、財務諸表の基礎をなす会計記録を含む情報とその他の情報が含まれている。監査人
は、存在1するかもしれないすべての情報を処理することを期待されていない。監査証拠は、本
質的に累積的であり、監査中に実施した監査手続から入手した監査証拠が含まれているが、以
前の監査とか、顧客の受嘱・維持に対する監査事務所の品質管理手続のような、その他の情報
源から入手した監査証拠も含まれる。
4.
会計記録には、一般的に、初期記帳記録と小切手や電子的資金振替記録のような裏付け記録、
請求書、契約書、総勘定元帳と補助元帳、仕訳記入と正規の仕訳記入に反映しない財務諸表へ
のその他の修正、及び原価配分、算定計算、調整及び開示を裏付ける精算表とスプレッドシー
トのような記録が含まれている。会計記録の記入は、多くの場合、電子的様式で発生し、記録
され、処理され、報告される。さらに、会計記録は、データをシェアし、事業体の財務報告、
運営及びコンプライアンスという目的のすべての面を支える統合システムの一部でもある。
5.
経営者は、事業体の会計記録に基づいて財務諸表を作成する責任を有する。監査人は、会計記
録を検証することによって、例えば、分析とレビュー、財務報告プロセスに従った手続の再実
施、関係する種類の記録や同じ情報を適用しての調整を通じて、監査証拠を入手する。そのよ
うな監査手続の実施を通じて、監査人は、会計記録が内部的に一貫しており、財務諸表と合致
していると決定する。しかしながら、会計記録だけでは財務諸表に関する監査意見の基礎とな
る十分かつ適切な監査証拠を得られないので、監査人はその他の監査証拠を入手する。
6.
監査人が監査証拠として利用するその他の情報に含まれるものには、議事録、第三者への確認、
分析報告、競合者の比較データ(ベンチマーク実施)、統制マニュアル、質問・観察又は立会・
実査又は査閲のような監査手続から監査人が入手する情報、監査人が策定し利用できる合理的
根拠を通じて結論到達が可能なその他の情報がある。
十分かつ適切な監査証拠
7.
1
十分性は監査証拠の量の測定である。適切性は、監査証拠の質の測定、すなわち、取引種類、
勘定残高と開示及び関係する主張(Assertion)に対して裏付けを与えること、あるいは虚偽の
表示を発見することにおける、その関連性とその信頼性である。必要な監査証拠の量は、虚偽
表示リスクによって影響を受け(リスクが大きければ大きい程、より多くの監査証拠が要求さ
れる)、そして又、そのような監査証拠の質によって影響される(質が高ければ高い程、要求
パラグラフ 14 参照。
1
監査証拠
は少なくなる)。したがって、監査証拠の十分性と適切性は、相互に関係する。しかしながら、
単により多くの低い質の監査証拠を得たとしても、補われないかもしれない。
8.
与えられた一組の監査手続は、一定の主張(Assertion)に関連する監査証拠を提供するが、他
の主張(Assertion)には提供しない。例えば、期末後の受取勘定の回収に関連した記録と書類
の査閲は、実在性と評価の両方に関係する監査証拠を提供するが、期末の期間帰属の適切性に
ついては必ずしもそうではない。他方、監査人は、多くの場合、同じ主張(Assertion)に関連
する異なる情報源からの又は異なる種類の監査証拠を得ようとしている。例えば、監査人は、
貸倒引当金の評価に関係する監査証拠を入手するために、売掛金の年齢調べとその後の債権回
収を分析する。さらに、特定の主張(Assertion)に関係する監査証拠の入手、例えば、棚卸資
産の物理的実在性は、他の主張(Assertion)、例えば、棚卸資産の評価で、監査証拠の入手と
して代替されることはない。
9.
監査証拠の信頼性は、その情報源とその種類によって影響を受け、それが入手される個々の状
況に依存する。多数の種類の監査証拠の信頼性について一般化することはできるが、そのよう
な一般化は、重要な例外を条件としている。監査証拠が企業に外部から得られる場合でさえ、
入手した情報の信頼度に影響することができる状況はあり得るかもしれない。例えば、独立し
た外部の情報源から入手した監査証拠は、その情報源が周知でなければ、信頼性がない。例外
が存在することを認める一方、次のような監査証拠の信頼性についての一般化は有益である。
・
・
・
・
・
監査証拠は、企業外の独立した情報源から入手した場合に、より信頼性がある。
内部的に生成された監査証拠は、企業が課した関係統制が有効な場合に、より信頼性があ
る。
監査人が直接(例えば、統制適用の観察により)入手した監査証拠は、間接的又は推論(例
えば、統制適用について質問)によって入手する監査証拠よりも、より信頼性がある。
監査証拠は、たとえペーパー、電子的、あるいは他の媒体であろうと、文書様式で存在す
る場合に、より信頼性がある(例えば、同時に書面化された会議記録は、議論されたこと
のその後の口頭説明よりも信頼性がある)。
文書原本によって提供された監査証拠は、コピーやファクシミリによって提供された監査
証拠よりも、より信頼性がある。
10.
監査ではめったに文書での確証を含むことがなく、又、監査人は、そのような確証の専門家と
して訓練され、専門家であることが期待されている訳ではない。しかしながら、監査人は、監
査証拠として使用されるべき情報、例えば、コピー、ファクシミリ、フィルム化、デジタル化、
又はその他の電子的文書について、関連する場合、それらの準備と保存に係る統制の検討を含
めて、その信頼性を考慮する。
11.
事業体によって作成された情報を監査人が監査手続を実施するために利用する場合、監査人は
情報の正確性及び完全性に関する監査証拠を入手すべきである。監査人にとって信頼できる監
査証拠を得るために、監査手続で使う情報は十分に完全で正確である必要がある。例えば、売
上高の記録に当てはまる標準価格によって収入を監査する際に、監査人は、価格の情報の正確
性及び売上高の完全性及び正確性を考慮する。企業の情報システムによって作成された情報の
完全性及び正確性に関する監査証拠を得ることは、そのような監査証拠を得ることが監査手続
自体の不可欠な部分であるときに情報に適用された実際の監査手続と同時に実行されるかもし
れない。他の状況で、監査人は、情報の作成及びメンテナンスに対する統制のテストにより、
そのような情報の正確性及び完全性を示す監査証拠を得る可能性もある。しかしながら、いく
つかの状況で、監査人は、追加の監査手続が必要であることを決める可能性もある。例えば、
2
監査証拠
これらの追加の手続は情報の計算突合のためにコンピュータ利用監査技法(CAATs)を使用する
ことを含んでいる可能性もある。
12.
監査人が、通常、異なる情報源から、あるいは異なる種類から一貫性のある監査証拠を入手し
た場合、個々にみなされる監査証拠の形式よりは通常より多くの保証を得ることができる。さ
らに、異なる情報源から、あるいは異なる種類から監査証拠を得ることは、監査証拠の個々の
アイテムが信頼できないことを意味する可能性もある。例えば、企業の独立した情報源から入
手した確証的情報は、監査人が経営者確認書から得られた保証を増加させる。反対に、一つの
情報源から入手した監査証拠がその他から入手した証拠と一貫性がない場合には、監査人は、
それを解決するために追加監査手続が必要であると決定する。
13.
監査人は、監査証拠を入手するコストと入手する情報の有益性の関係を考慮する。しかしなが
ら、関係する困難性と費用の問題自体は、選択肢がない監査手続を省略するための妥当な基礎
ではない。
14.
監査意見の形成において、監査人は、テストのアイテムを選択したり、サンプリング・アプロ
ーチを使用して結論に到達できるので、利用可能なすべての情報を調査しない。また、監査人
は、通常、決定的であるよりも説得力のある監査証拠に信頼を置くことが必要であると認めて
いるが、合理的な保証2を得るためには、説得力のない監査証拠では満足していない。監査人は
監査意見をサポートするために、監査証拠の量及び質の評価に関して、その量の十分性及び適
切性について専門的な判断及び職業専門家としての懐疑心を使う。
監査証拠の入手における主張(Assertion)の利用
15.
経営者は、事業体の特徴と業務運営を反映する財務諸表の公正な表示に対して責任がある。適
用可能な財務報告のフレームワークに従って財務諸表が正当かつ公平である(あるいはすべて
の重要な点で適正に表示される)という表示において、経営者は、財務諸表と関連した開示の
様々な要素の認識、測定、表示及び開示について主張(Assertion)を暗黙にあるいは明示的に
行なう。
16.
監査人は、重要な虚偽表示リスク評価及びリスク評価後、監査手続の実施に対して基礎を形成
するために取引、勘定残高及び開示・表示の種類に関して主張(Assertion)の使用を十分に詳
細に行わなければならない。監査人は、生じるかもしれない異なるタイプの潜在的な虚偽の表
示を考慮し、それからリスクを評価する信頼できる監査手続を立案する際に、リスク評価に関
して主張(Assertion)を使用する。他の ISA は、監査人が主張(Assertion)レベルに監査証拠
を得ることを要求される、特定の状況について議論している。
17.
監査人は下記のカテゴリーで主張(Assertion)を使う。
(a) 監査期間中の取引種類と事象についての主張(Assertion)には以下が含まれる。
(i) 発生性−記録された取引と事象が発生し企業に関係していること。
(ii) 完全性−記録されるべきすべての取引と事象が記録されていること。
(iii) 正確性−記録された取引と事象に関係する金額他のデータが適切に記録されているこ
と。
(iv) 期間帰属−取引と事象が正しい会計期間に記録されていること。
(v) 分類−取引と事象が適当な勘定に記録されていること。
2
ISA200「財務諸表監査の目的及び一般原則」のパラグラフ 8∼12 は、財務諸表の合理的な保証の議論を
提供する。
3
監査証拠
(b) 期末の勘定残高についての主張(Assertion)には以下が含まれる。
(i) 実在性−資産、負債、及び持分が存在すること。
権利と義務−事業体は資産の権利を保持し統制しており、負債は企業の債務である
(ii)
こと。
(iii) 完全性−記録されるべきすべての資産、負債及び持分が記録されていること。
(iv) 評価と配分−資産、負債及び持分が財務諸表に適切な金額で含まれており、どのよう
な評価修正結果も適切に記録されていること。
(c) 表示と開示についての主張(Assertion)には以下が含まれる。
(i) 発生性及び権利と義務−開示した事項、取引及びその他の事項が発生し企業に関係し
ていること。
(ii) 完全性−財務諸表に含まれるべきすべての開示が含まれていること。
(iii) 分類と理解可能性−財務情報が適切に表示し、記述され、開示が透明であること。
(iv) 正確性と評価−財務とその他の情報が適正に適切な金額で開示されていること。
18.
監査人は上に記述されるような主張(Assertion)を使用するかもしれないし、上述でカバーし
たものをすべての面を違うように表現するかもしれない。例えば、監査人は勘定残高に関する
主張(Assertion)と取引に関する主張(Assertion)を組み合わせるかもしれない。別の例として、
発生性と完全性の主張(Assertion)が取引を正確な事業年度に記録することが適切であること
を含んでいるとき、取引と事象の期間帰属に関連した主張(Assertion)に分離できないかもし
れない。
監査証拠入手のための監査手続
19.
監査人は、以下のような監査手続を実施して監査意見の基礎となる合理的結論を引出すための
監査証拠を入手する。
(a) 財務諸表と主張(Assertion)レベルで重要な虚偽表示リスクを評価するために、内部統制を
含めて事業体とその環境の理解をすること(この目的のために実施する監査手続は、ISAで
「リスク評価手続」と呼称している)。
(b) 必要な場合、あるいは監査人がそうすると決めた場合、主張(Assertion)レベルで、重要な
虚偽の表示を予防し、あるいは発見し是正する統制の運用有効性を評価する手続を実施する
(この目的のために実施する監査手続は、ISAで「統制評価手続」と呼称している)。
(c) 主張(Assertion)レベルの重要な虚偽の表示を発見する(この目的のために実施する監査手
続は、ISAで「実証手続」と呼称しており、取引種類、勘定残高及び開示に関する詳細検証
手続と分析的実証手続が含まれている)。
20.
監査人は、常に、財務諸表と主張(Assertion)レベルのリスク評価に対して満足のいく基礎を
提供するリスク評価手続を実施する。リスク評価手続それ自身は、監査意見の基礎となる十分
かつ適切な監査証拠を提供しないが、統制評価手続と必要に応じた実証手続からなるリスク評
価後、監査手続によって補完される。
21.
統制評価手続は 2 つの状況において必要である。監査人のリスク評価は統制の運用状況の有効
性の仮定を含んでいるとき、監査人はリスク評価をサポートする統制評価手続を要求される。
4
監査証拠
さらに実証手続だけでは十分かつ適切な監査証拠を得られない場合に、監査人は統制の運営効
果について統制評価手続を実施することが必要となる。
22.
監査人は、重要な虚偽表示リスクの評価に対応すべき実証手続を計画し実施する。それには、
統制評価手続の結果があればそれも含める。しかしながら、監査人のリスク評価は、判断事項
であり、重要な虚偽表示リスクのすべてを識別するほど十分に的確なものではない。さらに、
経営者の統制無視リスク、人間の誤謬の可能性及びシステム変更の影響を含めて、内部統制に
は固有の限界がある。したがって、重要な取引種類、勘定残高及び開示に対する実証手続では、
常に、十分かつ適切な監査証拠の入手が要求されている。
23.
監査人は、以下のパラグラフ 26 から 38 で記述されている一つ以上の種類の監査手続を使用す
る。これらの監査手続、又はそれらの組合せは、監査人がそれらの手続を適用する状況によっ
て、リスク評価手続、統制評価手続又は実証手続として使用される。あるときは以前の監査で
入手された監査証拠は、監査人がその継続的関連性を立証する監査手続を実施する場合には、
監査証拠となる。
24.
使用されるべき監査手続の種類と時期は、ある会計データとその他の情報が、電子的様式だけ
であるいはある時点又は期間だけで利用可能であるという事実によって影響を受ける。購買注
文書、貨物引換証、請求書、及び小切手のような原始文書は、電子通信に置き換えられること
がある。例えば、企業は、電子取引又は画像処理システムを使用する。電子取引では、企業と
その顧客又は仕入先は、インターネットのような公的なネットワークに接続されたコンピュー
タを利用し、電子的に事業を行う。購買、出荷、請求、現金受領、及び現金支払の取引は、多
くの場合、当事者間で電子通信を交換することによって完結する。画像処理システムでは、文
書は、保管と参照を容易にするために走査されて電子画像に変換され、原始文書は変換後に保
存されない。電子的情報のあるものは、ある時点で存在している。しかしながら、そのような
情報は、ファイルが変更され、バックアップファイルがない場合には、特定期間後では回復で
きなくなる。企業のデータ保存方針は、監査人が検討のために情報の保存を要請すること、あ
るいは情報が利用可能な時に監査手続を実施することを監査人に要求している。
25.
情報が電子的様式の場合、監査人は CAATs を通じて、以下で記述する一定の監査手続を実施す
る。
記録と文書の査閲
26.
査閲は、内外いずれでも、ペーパー様式、電子的様式、又はその他の媒体による記録又は文書
を調査することから成っている。記録と文書の査閲は、それらの種類と資料源に依存して、そ
して内部記録と文書の場合にはそれらの作成に係る統制の有効性に依存して、その程度が変化
する信頼性の監査証拠を提供している。統制評価手続として使用される査閲の例としては、権
限付与の証拠の記録又は文書の査閲がある。
27.
ある文書、例えば、株式や長期債権のような金融商品を構成する文書は、資産の実在性の直接
の監査証拠を表すものとなる。そのような文書の実査から、所有権又は価値についての監査証
拠が必ず得られるわけではない。加えて、執行された契約書の実査からは、収益認識のような
事業体の会計方針の適用に関連する監査証拠が得られる。
有形資産の実査
28.
有形資産の実査は、資産の物的調査から成っている。有形資産の実査では、それら資産の実在
性に関する信頼できる監査証拠が得られるが、しかし、企業の権利と義務又は資産の評価に関
5
監査証拠
して必然的に監査証拠が得られるわけではない。個々の棚卸資産項目の実査では、通常、棚卸
への立会を伴っている。
観察又は立会
29.
観察又は立会は、他の者が実施しているプロセスや手続を見ることからなっている。例示には、
事業体の担当者による棚卸資産の棚卸への立会とか統制活動の実施状況の観察が含まれている。
観察又は立会では、プロセス又は手続の実施についての監査証拠が得られるが、観察又は立会
が行われた時点に限定されるとともに、観察又は立会している行為が、どのようにプロセスや
手続が実施されるかということに影響を与えるという事実によって限定される。棚卸資産の棚
卸の観察に係るこれ以上の指針としては、ISA501、「監査証拠−特定項目に対する追加的考慮
事項」を参照。
質問
30.
質問は、財務及び非財務の両方における企業内外の知識のある人々の情報を探し求めることか
らなっている。質問は、監査中に広範囲にわたって使用され、多くの場合、その他の監査手続
の実施を補完する監査手続である。質問は、公式の書面質問から非公式の口頭質問まで及んで
いる。質問への応答の評価は、質問プロセスに不可欠な部分である。
31.
質問への応答は、以前保有していなかった情報又は確証的監査証拠を監査人に情報を提供する。
あるいは、応答は、監査人が入手した他の情報とは著しく異なる情報、例えば、経営者の統制
無視の可能性に関する情報を与えてくれるかもしれない。ある場合には、質問への応答は、監
査人が追加監査手続を修正又は実施する基礎を与えてくれる。
32.
監査人は、質問に加え、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、監査手続を実施する。質
問だけでは、通常、主張(Assertion)レベルで重要な虚偽の表示を防ぐための十分な監査証拠
を提供しない。さらに、統制の運用有効性テストをするのには質問だけでは十分ではない。
33.
経営者の意図について質問する場合、質問を通じて入手した証拠の確証は、多くの場合、特に
重要であるけれども、経営者の意図の裏付けに利用可能な情報は限定されている。これらの場
合に、資産や負債に関して記述された意図を実行してきた経営者の過去の歴史の理解、経営者
の特定の経営行動の選択に対して記述された理由、及び特定の経営行動を遂行する経営者の能
力は、経営者の意図についての関連する情報を与えてくれる。
34.
ある場合には、監査人が、口頭の質問への返答を確認するために経営者からの書面による確認
書を入手する。例えば、監査人は、通常、重要な事項について他の十分かつ適切な監査証拠が
存在するとは合理的に期待することができないか、別の監査証拠が低い品質である場合、経営
者からの書面による確認書を入手する。書面による確認書に係る指針については、ISA580「経
営者の陳述」を参照。
確認
35.
確認は、特定種類の質問であり、第三者から直接的に情報又は存在する状態についての確認書
を入手するプロセスである。例えば、監査人は、債務者へ連絡をとり債権の直接確認を求める。
確認は、勘定残高とそれらの構成要素に関連して頻繁に使用されるが、これらの項目に限定さ
れる必要はない。例えば、監査人は、契約条件や企業が第三者と行った取引の確認を要請する。
確認要請は、契約が修正されなかったかどうか、もし修正されたならば、それに関連する詳細
6
監査証拠
はどのようなものかについて、質問するために行われる。確認は又、一定の条件の不在、例え
ば、収益認識に影響する「付帯契約」の不在についての監査証拠の入手にも使用されている。
確認の指針については、ISA505「外部確認」を参照。
計算突合
36.
計算突合は、文書や記録の数理的な正確性を照合することからなっている。計算突合は、情報
技術の利用を通じて、例えば、企業から電子ファイルを入手し、その入手したファイルの要約
の正確性を、CAATs を利用して照合することにより、実施することができる。
再実施
37.
再実施は、例えば、売掛金の年齢調べを再実施することのような、元来、手動的あるいは CAATs
の使用を通じたいずれであっても、企業の内部統制の部分として実施された監査人による独立
した手続又は統制の実行である。
分析的手続
38.
分析的手続は、財務及び非財務データ双方の間のあり得る関係の検討によって行う財務情報の
評価からなっている。分析的手続には、また、他の関連する情報と一貫性のない、あるいは予
測された金額から著しく逸脱した特定の変動との関係の調査が含まれている。分析的手続に関
する指針については、ISA520「分析的手続」を参照。
発効日
39.
本 ISA は、2004 年 12 月 15 日以降に開始する期間に対する財務諸表監査に対して発効する。
公的部門の考慮事項
1.
公的部門の事業体の監査に適用するとき、監査人は法的フレームワーク、及び他の適切な規則
(監査権限及び他の特別な監査の必要条件に影響する法令又は大臣の指令)を考慮する。財務諸表
に関する主張(Assertion)を行う際に、経営者は、この ISA のパラグラフ 15 の主張(Assertion)
に加えて取引と事象が立法的に適切な権威に従ったと主張(Assertion)する。
7
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