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光アクセスシステムとオペレーション
つくばフォーラム2008 ワークショップ 光アクセスシステムとオペレーション う の ひ ろ し 宇野 浩司 NTTアクセスサービスシステム研究所 プロジェクトマネージャ 利用者の増加とともに,FTTHにはより高度なサービスが求められる ようになり,一層の技術開発は急務の課題です.本稿では,光アクセス システムの開発状況として10G-EPONの技術を,特に従来のGE-PONと の共存方法を中心に紹介し,オペレーションシステムの開発状況として 業務ログを活用したビジネスプロセスの可視化・分析技術を紹介します. 本特集は,2008年10月16日に開催されました「つくばフォーラム2008」 ワークショップでの講演を基に構成したものです. アクセス網を取り巻く状況 低廉かつ広帯域,高品質なネット ワーク環境を実現するFTTHサービス いた状況です. テストを経て,NTT独自仕様のSTM ( Synchronous Transfer Mode) - 光アクセスシステム PONが商用システム化したのは1997 ■NTTにおけるPONシステムの開発 年のことです(図1). は,導入促進中であると同時に,技術 NTTが PON( Passive Optical STM-PONでは,デジタルでの双方 の面ではまだ開発途上にあります.特 Network)システムの研究開発に着 向の伝送を実現しました.STM形式 に最近では,ブロードバンドをPCだけ 手して,すでに20年以上が経過してい では,映像を多チャンネルで下り方向 でなく,TVやゲームなどいわゆるノン ます.1990年代初頭よりシステムとし に送るシステムであるSCM(SubCar- PCの機器で利用するユーザが増えてお ての開発を開始し,その後フィールド rier Multiplexing)-PONとの波長 り,こうした変化に対応するため一層 の技術開発が必要な状況です. 具体的には,より正確・迅速・低廉 なネットワークを提供するためのFTTH の管理運用技術,例えば,品質の異 なるサービスを多重化して提供すると 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 FTTH 実験・トライアル STM-PON, SCM-PON(CATV映像伝送システム) ・京阪奈 STM-PON(πシステム) 研究開発着手 システム開発開始 ・立川 ・浦安・横須賀 STM-PON(シェアドアクセスシステム) B-PON GE-PON ともにその1つひとつを監視・制御す る技術などの開発を進めています. B-PON STM-PON GE-PON なお契約数の現状ですが,FTTHの 準拠標準 NTT仕様 ITU-T G.983シリーズ勧告 IEEE 802.3ah標準 契約数は2008年度に入りADSLのそ 伝送速度 16 Mbit/s 622 Mbit/s(下り)/156 Mbit/s(上り) れを上回り,1 300万回線を超えてい ます.2006年度以降は特に,四半期 当り80万回線増というハイペースを続 けています.NTTグループ内に限定し た場合でも,フレッツ光が1 000万回 線を突破し,フレッツADSLを追い抜 10 NTT技術ジャーナル 2009.3 1.25 Gbit/s 波長多重(WDM) 上り下りの多重方法 時間圧縮多重(TCM) 転送フレーム形式 STM ATM Ethernet 商用導入年 1997 2002 2004 TCM: Time Compression Multiplexing WDM: Wavelength Division Multiplexing ATM: Asynchronous Transfer Mode 図1 NTTにおけるPONシステムの開発 特 集 多重や,STM-PONに電話も提供で となり,現在に至ります. すが,中でもNTTが積極的に進めてい きる機能を追加したSTM-PON(πシ ■GE-PONシステム る技術が,GE-PONの10倍の伝送速 ステム),ビジネスユーザ向けのSTM- GE-PONは,OLT(局側装置)と PON(シェアドアクセスシステム)な ONU(ユーザ側装置)を最大32分岐 ども開発しました. の光スプリッタを用いて接続するシス さらに仕様を国際的な標準に合わせ ながら伝送速度の高速化を図り,B (Broadband)-PON,そして現在主 流となっているGE(Gigabit Ethernet)-PONを開発しました. このように次々と進化を重ねてきた PONシステムですが,進化の過程でい くつもの困難な課題を解決してきました. 度を実現する10G-EPONシステムです (図2). 10G-EPONシステムの開発にあたっ テムであり,次のような特徴を有します. ては,次の3つが前提条件となってい ・1心光ファイバで最大1Gbit/s ます.1つは,既設の光伝送路(光ス プリッタを用いた32分岐伝送路)が利 の高速データ通信を提供 用可能であること.2番目は,既存の ・イーサネット技術を利用したシン 光アクセスシステム(GE-PON,光映 プルな装置構成 像配信システムなど)と共存できるこ ・高速インターネットアクセスとの と.そして3番目は,既存のPONシ 高い親和性 ステムからのアップグレードが容易であ 下り方向には1.49μm帯,上り方 ることです. PONシステムにおける局とユーザと 向には1.31μm帯の波長を使用してい の関係は,ちょうど講演者と聴衆の関 ます.なお,上りに関しては,光スプ つまり,従来のGE-PONユーザや光 係に似ています.講演者は会場にいる リッタで各ONUからの信号が合流す 映像配信サービスのユーザにもそのま 全員に話しかけるかたちになるので,特 る際に衝突するのを避けるため,信号 ま対応しつつ,新たに10G-EPONの 定の1人に話しかけることはできませ 送信のタイミングをOLTで制御します. 品質も提供できるような技術が要求さ ん.また2人以上の聴衆から同時には ■10G-EPONシステム れています. 質問を受けられないため,1人ずつ順 GE-PONに続く次世代PONシステ 現在,IEEE P802.3av 10G-EPON 番に話してもらわねばなりません.そ ムとしては,考えられるいくつかの方 Task Forceにおいて10G-EPON物理 してある人だけが質疑応答の時間を独 向性について検討と開発を重ねていま レイヤの標準化を検討している段階で 占することのないようにする必要があ ります.さらには大声で話す人,小声 で話す人といったボリュームの差も, 局側で調整することが必要です. (bit/s) 10 G そして, さらに局 側 から複 数 の すが,ある特定のユーザのみと通信し 伝 送 1G 速 度 たい場合には,暗号化技術もしくは該 100 M ユーザに同一の通信を行うのは容易で 当ユーザのみに信号を送ることができ るような技術が必要です. こうしたことから,当初は研究者の 10 M 1M 間でも実現が難しいと考えられていた PONの技術ですが,NTTがその実用 化に成功し,日本がリードするかたち 2000 2002 2004 2006 2008 2010 年 図2 10G-EPONシステムの研究開発 でPONシステムは世界に普及すること NTT技術ジャーナル 2009.3 11 つくばフォーラム2008 ワークショップ すが,伝送速度に関して対称型(下り 10 Gbit/s,上り10 Gbit/s)と非対称 型(下り10 Gbit/s,上り1Gbit/s) の,2つの仕様を設定しています. 既存の光伝送路上でGE-PONと10G-EPON(10G/10G, 10G/1G) とを共存させる 1G伝送信号と10G伝送信号の多重法 ・下り:1G/10G WDM多重 ・上り:1G/10G TDMA多重 両者を共存させるためには,第一に, 双方が混信しないような波長の配置を ONU #1 (10G/10G) 選定する必要があります.また第二に, 高速化により伝送特性が低下するとい う問題を解決する必要があります.こ のうち,伝送特性については,レーザ 10G-EPON ONU #1 #2 #3 #1 下り信号 #1 #2 #3 ONU #2 (10G/1G) #2 上り信号(1.31μm for 1G&10G) ダイオードやフォトダイオードを改良す OLT (10G/1G) #2 #3 #1 ることで,速度を上げても感度が落ち ないよう,具体的には10 dB程度向上 #1 #2 10G: 1.57μm 1G: 1.49μm #3 #1 #2 #3 GE-PON ONU #3 ONU (1G/1G) #3 できるような開発を進めています. ■GE-PONと10G-EPONの共存技術 図3 GE-PONと10G-EPONの共存例 既 存 の光 伝 送 路 上 でG E - P O N と 10G-EPON(10G/10Gおよび10G/ 号は1.65μmと,それぞれの波長を棲 せんでした.しかしインプットにログを 1G)を共存させるためには,信号の み分けて配置されることになります. 活用することで,システムを客観的に 多重処理に,下りと上りとで異なる域 を採用します(図3) . オペレーションシステム 評価することができます. 具体的にはまず,ビジネスプロセス 下り方向ではすべてのONUに連続 ■ビジネスプロセスの可視化・分析技術 分析機能により既存のビジネスプロセ して信号を送るため,10Gについては オペレーション技術では,コンピュー スを可視化するため,あらかじめ設定 1.57μm,1Gについては1.49μmと タの処理プロセスにおいて蓄積される した統計分析ルールに従い統計分析を それぞれ波長を分け,ONU側に設置 「業務ログ」を活用した,「ビジネスプ 行います.次に,システムに蓄積され された波長フィルタが信号を識別しま ロセス可視化・分析技術」の開発を た各種の業務ログを収集し,あらかじ す( 1 G/10G WDM多 重 ). 一 方 , 進めています.多くの情報が含まれて め設定した変換ルールに従って分析可 上り方向では1Gの信号も10Gの信号 いるシステムログはいわば宝の山であ 能なデータに整形したうえでログ分析 も1.31μmの同一波長で送りますが, り,ログを解析することでビジネスプ を行い,実際に行われた業務のプロセ OLT側で送信のタイミングを制御し, ロセスを自動的に可視化し,システム スを推定,再現します(図4) . かつ伝送速度が異なる1Gと10Gとを の分析,ひいては業務の改善までをサ 瞬時に判別しながら受信します(1G/ ポートしようというのがその趣旨です. ることなく,変換ルールを対応させる 10G TDMA多重). 従来のシステム分析といえば,システ ことで,さまざまな業務システムの分 ム設計書を読む,インタビューをする, 析ができるのもメリットの1つです. の上り信号は1.31μm,1Gの下り信 ストップウォッチで計測するなど,決 ■ビジネスプロセス推定アルゴリズム 号は1.49μm,VIDEOの下り信号は してシステマティックとはいえない手法 ビジネスプロセスの推定にあたり,特 1.55μm,10G下り信号は1.57μm, に頼っており,導き出される分析結果 に必要な情報は,業務ログに含まれる さらに保守業務に使用する保守用の信 はどうしても主観的にならざるを得ま オーダの番号と,そのオーダの実行さ したがって,信号ごとに,1G/10G 12 NTT技術ジャーナル 2009.3 分析対象の業務システムに手を加え 特 集 の連携を再現することも可能です. こうして可視化されたビジネスプロ ・分析対象の業務システムは改造不要 ・変換ルールを対応させることでさまざまな業務システムの分析が可能 セスを多面的に分析することで,想定 していない繰り返しがどこかで行われ 機能ブロック図 ていたり,予定とは異なる処理に飛ん ビジネスプロセス 分析機能 統計分析 機能 でいたりといった問題点が浮かび上がっ 統計分析 ルール てきます.本来あるべきフローと実際 に実行されているフローとを照らし合 業務システムA 業務 ログ収集・ 整形機能 業務 業務 業務 ログ ログ ログ わせ,改善可能な個所を自動抽出し, 業務履歴データベース 変換 ルール プロセス分析用 テーブル群 改善案を検討したうえで業務にフィー 統計分析用 テーブル群 ドバックして修正するという,業務改 複数システム 善サイクルの実現を目指しています. …アダプタ部 おわりに 図4 システム概要と特徴 FTTHの急速な普及に伴い,ノン PCでの利用が増えるなど,さらなる高 ・業務ログに含まれる処理の順序関係より,オーダごとにフローを推定 ・全オーダのフローを重ね合わせることで,ビジネスプロセスを再現 【業務ログ】 09:21, 09:23, 09:24, 09:30, 09:32, 09:35, 09:42, 09:51, 10:24, 10:32, 10:38, 10:42, 11:29, 処理1, 処理1, 処理2, 処理1, 処理6, 処理6, 処理3, 処理4, 処理7, 処理7, 処理6, 処理5, 処理7, 【オーダ1】 オーダ1 オーダ2 オーダ1 オーダ3 オーダ2 オーダ3 オーダ1 オーダ1 オーダ2 オーダ3 オーダ3 オーダ1 オーダ3 速 化 , 快 適 化 , 多 様 化 がF T T H の サービスに求められています.現在, 処理2 処理5 開始 処理1 処理3 処理4 処理の順序関係 開始 処理1 より, オーダごとに フローを推定 【オーダ3】 処理6 処理7 終了 開始 処理1 処理6 処理7 処理6 NTTアクセスサービスシステム研究所 終了 では,ここに紹介した10G-EPONの技 【オーダ2】 術,ビジネスプロセスの可視化をはじ めとする多くの技術の検討,開発にあ 処理7 終了 たっています.より快適なサービスの 提供の実現に向けて,これらの技術の 全オーダのフローを重ね合わせ 早期実用化を目指します. ビジネスプロセスを再現 処理2 処理5 実行時刻 処理の種類 オーダID 開始 処理1 処理3 処理4 終了 処理6 処理7 図5 ビジネスプロセス推定アルゴリズム れた時刻,および処理内容です.この さらに条件を付けることで,業務フ 3種の情報から,オーダごとに処理の ロー全体を把握することも,特定の個 順序関係を見つけ出し,フローを推定 所だけに注目することもできます.例 します.この手順で全オーダのフロー えばシステム種別の情報があれば,シ を重ね合わせることで,ビジネスプロセ ステム間の連携を,また部門や会社名 スを再現することができます(図5) . などの情報があれば,部門間,会社間 ◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 第四推進プロジェクト TEL 043-211-3073 FAX 043-211-8875 E-mail hyodo.mamoru ansl.ntt.co.jp NTT技術ジャーナル 2009.3 13