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平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 11 回 【問題 1】次の反応式を完成
平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 11 回 【問題 1】次の反応式を完成させよ。また、接触水素化における syn 付加について説明せ よ。 H3C CH3 H H3C 1) CH3 Pd/C, H2 H3C CH3 H H3C CH3 H 5% Pd-CaCO3 Pb(OCOCH3)2 CH3 2) H3C H N (Lindlar catalyst) H2 H H3C H3C 回答の指針:接触水素化(接触還元、水素添加反応とも言う。)についての問題である。 これまでに二重結合の反応性について学んできた。常に二重結合は HBr などの酸性プロト ン(H+)に対する求核付加反応から開始されてきたことを思い出そう!今回の反応は水素 (H-H)の付加反応である。教科書 10 ページで学んだように水素分子は非極性共有結合で あるため、H と H の間に分極は無い。従って、HBr などのように混ぜるだけで反応すること はあり得ない。しかしながら、遷移金属である Pd(パラジウム)、Ni(ニッケル)、Pt(白 金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)が存在した場合状況は大きく異なる。例えば、 Pd/C(パラジウムカーボン)は活性炭(C)上に Pd 金属をまぶしたものである。(活性炭 は Pd の金属表面を増やしていると理解する。反応には直接関係しない。)この Pd/C を水 素に暴露すると非極性共有結合の水素が Pd 金属表面上に付加する。この時、H-H 結合の切 断を伴う。(詳しいメカニズムは大学院レベルなので今回は割愛)Pd 金属表面に存在する H は一つが H+として働き、もう一つが H-として働くようになる。(正確にはちょっと違い ますが、理解しやすいように表現するとこうなる。)この状態で初めて二重結合からの求 核付加反応が進行する。後は HBr の付加同様、マルコフニコフ則に従ってカチオンが生じ、 そのカチオンに H-が付加する。最終的に Pd 金属は開始時の状態に戻るので、つまり、Pd は触媒として働く。(繰り返し反応に使われる。)まず、確認して欲しいのがこの反応が 固体上で反応が進行しているということである。このことが接触水素化の syn 付加の説明 の理解に繋がる。 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 11 回 H H H H H H H H Pd Pd + Pd Pd + H + 例えば、1、2−ジメチルシクロヘキセンの接触水素化について考えてみる。下図に示すよ うに H2 の付加は同一平面上からしか起こり得ない。結果としてできる化合物は cis-1,2ジメチルシクロヘキサンである。(trans-1,2-ジメチルシクロヘキサンではない!!) H3C H3C CH3 CH3 H H H H Pd H3C Pd H CH3 H3C H H H CH3 cis-1,2-dimethylcyclohexane 以上の知識をもとに、問題1−1)を考えてみる。このシクロヘキセン誘導体には嵩高い t-ブチル基が立体を持った状態でついている。Pd の固体との反応を考えた場合、t-ブチル 基と同じ側から反応する時に大きな立体障害が生じる!従って Pd は t−ブチル基の逆側か ら近づく。水素が二重結合に添加される際、シン付加であるので、結果として t-ブチル基 とメチル基はシスの関係になる。理解しておくこと!! Pd H H3C CH3 H H3C H H3C CH3 CH3 H3C CH3 CH3 CH3 CH3 H CH3 H H H Pd H H3C CH3 H H3C H Pd CH3 H H cis 問1−2)は基本的には覚えてください。Pd 触媒は塩基性条件下で被毒化されることが知 られています。(活性を落とすということ。)Lindlar 触媒(リンドラー触媒)に含まれ 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 11 回 る炭酸カルシウム(CaCO3)、酢酸鉛(Pb(OCOCH3)2、キノリンはすべて塩基性化合物で Pd の 反応性を落としています。大事なポイントは二重結合よりも三重結合の方が求核付加反応 における反応性が高いということ。(前回の小テストを見直す!)つまり、活性の弱い Pd 触媒を使えば、三重結合の還元(水素添加)は二重結合で止められます。(通常の Pd/C、 H2 の条件では三重結合は単結合まで還元されます。 ;接触水素化が2回起こる!)Lindlar 還元でできる二重結合はシス体です。理由は固体表面上で起こるからで大丈夫ですか? syn 付加です。通常、シスの二重結合はトランス体にくらべて不安定なのでこの反応は貴 重です!よく覚えておいてください。 【問題 2】次の化合物の下線部の水素を酸性度が大きい順に並べよ。また、その理由を「軌 道の S 性」という語句をキーワードに答えよ。 H 1) H H NH2 NH3 2) H N H 解答の指針;末端アルキンおよびその等価体のプロトンの酸性度に関する問題である。ま ず、プロトンの酸性度は C-H 結合が分極しているかどうかで決まってくる。 つまり、Cδ—-Hδ+であれば H+は放出されやすい。別の言い方をすると Cδ—が安定であればあ るほど H の酸性度は上がる。この考え方を基本に問題に戻ってみよう!例えば、1)では 下線部のプロトンが引き抜かれた後のアニオンの安定性がそのまま酸性度と比例する。こ の時、多重結合を持つ方が安定となる。その理由は sp 混成軌道を思い出してみれば理解で きる。その名の通り、sp3 混成軌道よりも sp 軌道の方が軌道の S 性が高い。(S 軌道の影 響力が強い)S 軌道は軌道の中で最も陽子に近いことを思い出そう。陽子は+にチャージし ているので S 性が高いということはそこに生じたアニオン(—)が陽子に近いということで ある。+と-が近くに存在すれば安定化するというのは当たり前のことですよね。ちなみに 末端アルキンから生じるアニオンをアセチリドイオンと言います。 < H < 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 11 回 H C C H ということで解答は H < N H NH2 < < 2) H H < 1) H NH3 問題2)は騙されやすいですが、窒素も炭素と同様に sp 混成を取ります。ですから理由は 同じです。ただし、窒素は3本しか置換基を持てませんから、4つ付いた場合(不対電子 に付いた場合)+に帯電します。 解答例:単結合は sp3混成軌道、二重結合は sp2混成軌道、三重結合は sp 混成軌道を持 っている。すなわち、指定されているプロトンの付いている炭素における軌道の S 性を考 えると sp 混成>sp2混成>sp3混成の順で影響力が大きくなる。S 性が大きいということ はその炭素は陽子(+)の影響を大きく受ける。プロトンが抜けた後のカルボアニオンは陽 子の影響を受けた方が電気的に安定であるため、Sp 混成軌道上のアニオンは特に安定化さ れる。 学籍番号 名前