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換価分割した場合の贈与税
川崎市中原区小杉御殿町1-868 電話 044-271-6690 Fax044-271-6686 E-mail:[email protected] URL:http://www.haratax.jp 2013 年 9 月 16 日 第 60 号 haratax 通信 換価分割した場合の贈与税、譲渡所得税の取扱い 相続後の遺産分割において、亡くなった方が所有していた不動産等を売却し、その売却代 金を相続人間で分配する「換価分割」を行うケースがあります。 換価分割の場合、実際に売却した金額で相続税を計算するのではと思われるかもしれま せんが、相続税は相続開始時の相続財産の評価額に対して行われるため、いくらで売却した かは関係なく、売却した相続財産の相続時点の相続税評価額に対して課税されることになり ます。 一方で譲渡については、相続人が相続財産を相続後に売却したものとして課税されるた め、基本的に、売却した金額のうち各相続人が取得した割合に応じて、所得税が課税される ことになります。 今月のharatax通信では、換価分割をした場合の贈与税、譲渡所得税の取扱いについて ご紹介します。 1. 換価分割のための登記と贈与税の関係 たとえば相続人が長男と二男の 2 人で、相続財産を売却したうえで売却代金を半分 ずつ相続する「換価分割」を行う場合、売却手続きなどの都合上、長男だけの名義で相 続登記をしたうえで、その代金の半分を二男に分配することがあります。 この場合、名義がない二男が代金を受領するため、二男に対して贈与税がかかるの ではないかという心配がありますが、国税庁の質疑応答事例集において、「共同相続人 のうちの 1 人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものであり、そ の代金が、分割協議(または調停の内容等)に従って実際に分配される場合には、贈与 税の課税が問題になることはありません。」としています。 遺産分割協議書に換価分割であることおよび売却代金の分配割合を明記し、その割 合のとおり分配する限りは、仮に相続人 1 人の名義にしたうえで売却しても贈与税が問 題なることはないと考えられます。 2. 換価分割をしたことによる譲渡所得 換価分割をする場合、被相続人から相続した財産を相続人が相続後に売却したものと して各相続人に譲渡所得税が課税されることになります。 譲渡所得税については、売却時までに売却代金の取得割合が確定している場合と、確 定しておらず後日分割されるものがあり、それぞれで取り扱いが異なります。 (1) 換価時に換価代金の取得割合が確定している場合 ① 換価代金を後日遺産分割の対象に含める合意をするなど特別な事情がないた め相続人が各法定相続分に応じて換価代金を取得する場合 各相続人が法定相続分で換価したものとして、所有割合(=法定相続分)に 応じて申告することになります。 これについては、法定相続分により相続登記をして譲渡した場合には、原則 として、各相続人がその不動産を法定相続分によって分割して譲渡したことに なり、その後にその不動産が遺産分割の対象にならないとの最高裁判決があ ります。 ② あらかじめ換価時までに換価代金の取得割合を定めている(分割済)場合 各相続人は換価代金の取得割合と同じ所有割合で換価したのですから、そ の譲渡所得は、換価遺産の所有割合(=換価代金の取得割合)に応じて申告 することになります。 (2) 換価時に換価代金の取得割合が確定しておらず、後日分割される場合 国税庁の質疑応答事例集に、 換価後に換価代金を分割したとしても、 (ア) 譲渡所得に対する課税はその資産が所有者の手を離れて他に移転する のを機会にこれを精算して課税するものであり、その収入すべき時期は、資産の 引き渡しがあった日によるものとされていること (イ) 相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その共有状態に ある遺産を共同相続人が換価した事実がなくなるものでないこと (ウ) 遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金であること から、 譲渡所得は換価時における換価遺産の所有割合(=法定相続分)により申告 することになります。 ただし、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全 員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は 認められます。 との記載があります。 つまり、売却時までに売却代金の取得割合が確定していない場合には法定 相続分により申告することが原則となりますが、所得税の申告期限(売却した 年の翌年 3 月 15 日)までに換価代金が分割され、相続人全員がその代金の 取得割合に応じて申告した場合には、その申告も認めますということです。 3. 譲渡所得の取扱いの問題点 換価分割の場合、とりあえず売却をし、ほかの相続財産を含めて、あとで売却代金の 取得割合を決めることが多いのではないかと思います。 この場合、売却した年分の確定申告期限までに取得割合を決めて、相続人全員でそ の取得割合のとおり確定申告することは可能ですが、申告期限までに遺産分割が間に合 わなければ、各相続人は法定相続分で確定申告しなければなりません。 つまり、最終的に売却代金をまったく受領しない相続人であっても、譲渡所得のうち法 定相続分に対応する所得税を負担しなければならないことがあるということです。 このように換価分割は、相続税だけでなく、譲渡所得税にも注意が必要です。 なお、法定相続分により申告した後に、その換価代金が分割された場合、その時点 で申告のやり直しができるのではと思われるかもしれませんが、国税庁の質疑応答事例 集によると、確定申告期限後に換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡 に異動が生じるものではないから、更正の請求はできないとされています。 4. さいごに 換価分割の場合、その相続財産の評価額で相続税が課税された後、換価についてさ らに譲渡税が課税されるのがポイントです。 この相続税と譲渡税が二重に課税されることについては、「相続税の取得費加算」に より調整するものとされていますが、譲渡と分割のタイミングによっては、この「相続税の 取得費加算」が十分に適用できず、譲渡税に多額の差が発生することが考えられます。 今回ご紹介したように、換価分割は課税関係が複雑になることがありますので、不動 産など高価な財産の換価分割を考えている場合には、税理士にも相談することをお勧め いたします。