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4年ぶりの西中国大会進出-「切磋琢磨」・「つながり」

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4年ぶりの西中国大会進出-「切磋琢磨」・「つながり」
4年ぶりの西中国大会進出
−「切磋琢磨」・「つながり」の声かけから振り返る−
広島工業大学附属中学校・広島高校
教諭 田 中 慎一郎
1.4年ぶりの西中国大会進出
対戦校から託された千羽鶴を抱え,西中国大会(広
高校軟式野球の公式戦は,9月の秋季大会
(新人戦)
島代表2校・山口代表2校のうち1校が全国大会へ
・4月の春季大会・6月の連盟会長杯・7月の全国大
出場できる)に進んだ。緊迫した試合のなかでも,
会(県予選→西中国大会→全国大会)の4つである。
彼/彼女らは,のびのびとプレーをして,野球を楽
最後の大会となる全国大会県予選を目前に,広島高校
しんだ。
軟式野球部は公式戦では1勝もしていなかった。
そんな彼/彼女らだったが,決してあきらめていな
かった。勝ちへの思いを燃やし,
精一杯プレーをした。
苦しい試合の中でも,野球を楽しむ姿勢を忘れなかっ
1
0
た。
県予選
2回戦
工大広島
国際学院
対国際学院
2対1
呉二河球場
1 2 3 4 5 6 7 8 9 1
0
0 0 0 0 0 0 0 1 0 1
1 0 0 0 0 0 0 0 0 0
初回の1点が重くのしかかる。降りしきる雨のな
対安下庄戦:「さぁ,今日も野球を楽しもう」
か,終盤,川本(3年)のタイムリーで同点に。延
長1
0回,主将片岡(3年)
の犠牲フライで勝ち越し。
県予選 代表決定戦 対広島学院 5対4 呉二河球場
1 2 3 4 5 6 7 8 9
工大広島 2 0 2 0 0 0 0 0 1
広島学院 1 0 0 0 1 0 0 0 2
西中国大会
安 下 庄
工大広島
1回戦
対安下庄
1対3
呉二河球場
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 2
0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0
1対1のまま延長戦へ。延長11回表,安下庄の攻
撃。2死1,3塁の場面。迎えるバッターは今日2
最終回,2死ランナーなしから追加点。その裏の
安打している。塁が1つ空いていた。しかし,バッ
広島学院の最後の粘りを振り切っての勝利。広島県
テリーは敬遠満塁策を取らず,バッターとの勝負を
代表校に決定。全国まであと2つ。
選択。3球目,ボールは左中間を真っ二つに破り,2
点をリードされる。なおもランナー3塁のピンチ。
4番の打球はライト方向へ。ライト世良(3年)の
ファインプレーでピンチを切り抜けた。ベンチに帰
ってきた選手は,みな笑顔だった。そして,延長11
回裏。2死満塁まで作った。一打同点,長打が出れ
ばサヨナラの場面で迎えた4番新名(3年)。ピッ
チャーの渾身のストレートを空振り三振。ゲームセ
ット。彼/彼女らの夏はこれで幕を閉じた。
野球経験のない私が監督に就任したのが昨年の春。
代表決定戦を終えて:「西中国大会で2勝して全国へ行くぞ」
生徒からは「先生,ノックうまくなったね」と励まさ
れもしながら,彼/彼女らに何を伝えることができる
かを考えてきた。広島高校野球部員には「切磋琢磨」
下の会話は,女子部員(マネージャー)の竹下(3
と「つながり」の意味を考える大人になってほしい,
年)が夏の大会直後に2年生への引継ぎを兼ねたミー
私はそのように声をかけている。
ティングで残したものである。呉二河球場で試合を終
えた選手は,翌日に備えて宿舎でミーティングを行
2.切磋琢磨―野球を楽しむとは何か−
う。それを終えて,監督はマネージャーとともにコイ
前監督の友安先生から生徒に受け継がれた言葉があ
ンランドリーに直行する。大きなビニール袋三つ分に
る。「野球ロボットになるな」である。指示待ち人間
もなる選手の洗濯物を前に,思わず「汚いねぇ」の一
ではなく,あらゆる場面で絶えず何をすべきかを考え
言が漏れた。笑顔だった。「明日も勝ってくれますよ
る大人になって欲しい。この思いを継承すべく,ミー
ね」と竹下。「監督に聞かれても分からんよ。プレー
ティングで,自分たちで何をすべきかを考えるという
するのは選手だもの」と田中。そんな彼女が次の言葉
意味を込めて「切磋琢磨」を掲げた。
を後輩に残した。
練習中,部員同士でお互いを高めあう。良いプレー
は良い,悪いプレーは悪い。野球を楽しむために厳し
田中:それでは竹下,お願いします。
い態度で練習に参加することができるチームだった。
竹下:呉の宿舎でみんなの洗濯物を洗いました。す
もちろん,学校生活全般においても,お互いを高め合
ごく汚かったです。
う姿勢は随所に見られた。練習後の家庭学習も集中し
部員:(真剣な顔つきが,ちょっと笑顔になる)
て取り組んでいた。
竹下:そのときに思ったことがあります。この洗濯
物を毎日洗ってくれるお母さんは大変だなあ
と思いました。みんなが野球をする姿をいろ
んな人がサポートしてくれています。
部員:(再び顔が引き締まる)
竹下:2年生・1年生も,苦しいときがあると思う
けど,周りの人のことを思い出して,みんな
でがんばってください。
長期休暇のたびに「後輩はがんばっとるかのぉ」と
OB・OGが顔を見せる。また,八川校長先生を始め,
多くの先生方が野球部の試合結果を気にしてくださ
対安下庄戦:思いきりの投げたボールの行方は一塁手の頭上へ
上の写真は,安下庄戦で三塁手灰本(3年)が一塁
る。竹下の言葉のなかに,たくさんの「つながり」の
中で野球ができる喜びを感じることができる。
悪送球をした場面である。思い切りのプレーをした結
果だった。この後,選手は「気持ちを切り替えていこ
4.3年生が引退して,その後
う」と笑顔で声をかけあい,この回を無失点に押さえ
新チームがスタートした。ある日の練習の後,ベン
た。今大会,たくさんのピンチがあったが,常に笑顔
チに座りいつものようにグランド整備の生徒を眺めて
でのびのびとプレーしていた。自分たちで考えて行動
いた。「3年生の抜けた穴は大きいなあ」と去年も感
する−「切磋琢磨」の姿勢が,数々のピンチを切り抜
じたことを思い出していた。そして,ふと,傍らに部
ける原動力になったと思う。
員の帽子を見つけた。何気なく手にとって鍔の裏を見
てみた。そこには先輩からの言葉とともに,「切磋琢
3.つながり―野球を通してのかかわり−
部員には出会う人すべてに挨拶をしなさいと言って
磨」の字が刻まれていた。少し汗でにじんで見えにく
くなっていた。
いる。挨拶は感謝を表現する1つの手段だ。野球は一
指導者としてまだまだ未熟な私ではあるが,たくさ
人ではできない。部員や対戦相手が必要である。ボー
んの「つながり」を感じながら,部員とともに「切磋
ルやバット,グランドもなければならない。「当たり
琢磨」していこうと思う。
前のように練習ができるのではない。私たちは多くの
「つながり」の中で練習しているのを忘れてはならな
い」と声をかけてきた。
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