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JCLAM Forum 実験動物医学シンポジウム抄録

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JCLAM Forum 実験動物医学シンポジウム抄録
 実験動物医学専門協会:The 2nd JCLAM Forum 実験動物医学シンポジウム抄録
「海外における動物愛護関連法規とRefinementへのDJCLAMの取り組み」
日時:9月22日(日)14:00∼16:00
場所:会議室2
座長:矢野一男(旭化成メディカル株式会社)
竹田三喜夫(エーザイ株式会社 筑波研究所)
1. 「諸外国の動物愛護に関する法令と透明性向上への取り組み」
池田卓也(日本チャールス・リバー株式会社)
動物福祉に対する社会的な関心の高まりや規制強化の中で「動物の愛護及び管理に関する法律
(動物愛護法)」が2012年9月に改正、公布された.この法改正の過程では、実験動物に関連した
規制強化については多くの関係者を巻き込んだ長い議論がなされたが、実験動物に関わる項目の
直接的な見なおしがされることは無かった.
一方欧米を中心とした海外では、この数年実験動物に関する諸規制が改正され、3R原則に基づ
いた実験動物福祉の実践が今まで以上に強く求められるようになってきた.そのため動物愛護を
標榜する団体だけでなく一部の実験動物関係者からも、実験動物や動物実験に関わる自主管理体
制や透明性の確保と言う観点から、欧米各国の状況と比較して日本の対応は不十分であると言う
指摘が有る.事実、日本の自主管理体制や第三者評価、あるいは動物数等の統計的な数値等に関
して公開されている情報は決して多くはない.
このような状況に関しては、今後を鑑みて現行法の枠内で欧米を中心とした諸外国並みの運用
への移行を模索したり、あるいは新法制定による規制強化などの意見や議論もある.一方これら
の新法制定を含めた規制強化に反対する意見も少なくない.しかしながら、一部の規制強化論者
や反対論者の双方には、欧米の法制度や実際の運用状況をよく理解することなく、やみくもに規
制強化や、漠然としたイメージだけで恐怖感を抱いて反対論を唱える者もある.
しかし、法規制等の強化による3R原則に基づいた実験動物福祉の実践がよりに強く求められる
流れは、日本を含め国際的に後戻りをすることはないと考える.現代社会では、多くの物事にお
いて国際的なレベルでのハーモナイゼションや標準化は避けて通れなくなってきた.しかし実験
動物福祉に関しては、各国や地域における文化的および歴史的な背景が複雑に絡む事から、工業
製品のように画一的な標準化はほとんど不可能と考える.そのような中においても、3R原則に基
づく実験動物福祉の向上に関しては、複雑な背景の違いを乗り越えてもハーモナイゼションする
ことが今や必須となって来た.そのため多くの矛盾を含みながらも、日本でも欧米と同じような
動物福祉を実践すべく諸外国の実情を正しく知り議論することが重要となってきた.
実験動物福祉に関して欧州を代表する国の一つである英国では、内務省が所管する動物(科学
処置)法(ASPA)が基軸となって、その運用はAnimals in Science Regulation Unit(ASRU)が所管
している.そしてASRUは、個人・プロジェクト・施設の3種の免許制度を査察と審査に基づいて
運用している.その概要はASRUの年次報告書に、また使用動物数は国家統計局の年次統計資料と
して公開されている.
一方米国では、実験動物と動物実験に関しては農務省(USDA)が所管する動物福祉法(AWA)
と、保健福祉省(DHHS)が所管する健康科学推進法(HREA)および公衆衛生局(PHS)の動物実験規
範(Policy)に基づいて規制されている.しかしながら、英国のような免許制度に基づく国家的な
一元管理体制ではない.基本はあくまでも機関の自主管理体制を基軸に、実験計画の承認等を各
機関の動物実験委員会(IACUC)および機関の長(IO)に多くの権限や責務を委ねている.そのた
1 め各機関は自主管理を運用している事を示す年次報告書を動植物査察局(APHIS)と実験動物福祉
局(OLAW)に提出する.一方、行政機関は年次報告書や査察を通じて間接あるいは直接的に機
関の自主管理状況を確認し、その一部を公表している.また同時に機関レベルの動物実験の実際
的な運用は、実験動物資源局(ILAR)の Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(Guide:
ガイド)およびガイドの順守を評価・認定するAAALAC Internationalが非常に大きな役割を担って
いる.
このように一口に欧米と言っても、英国と米国の2カ国でも法制度とその運用には大きな差異が
あり、概略を垣間見ただけでは容易に理解できない.それぞれの国には、我々が簡単には知り得
ない歴史や文化的背景があり、それらを基に成り立っている法制度やその運用実態を理解するこ
とは容易ではない.しかし、実験動物福祉に関しても国際化の波を受けて、種々の国際標準と言
われる基準や手法を受入れて実験動物を飼育し試験研究をしなければならない.
そのため欧米を中心とした諸外国の法制度やその運用を理解し、その利点や問題点を正しく認
識することは極めて重要である.表面的な見栄えや偏った情報を基にした中途半端な判断で、欧
米を礼賛したり、批判したり、基準や手法を拒否する事があってはならない.冷静に諸外国の事
情を理解し、国際的にも受け入れられる日本としての実験動物福祉を確立し実践する方法がある
かと考える.そのための議論の糧として、英国と米国の法制度やその運用について紹介したい.
キーワード:動物愛護、3R、法制度と運用、英国、米国
2. 「実験動物に対する三種混合麻酔の最新情報と推奨用法・用量」
1) げっ歯類における三種混合麻酔薬の麻酔効果について
桐原由美子(島根大学 総合科学研究支援センター 実験動物部門)
メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノールを混合した三種混合麻酔薬は、2007 年にケタミ
ンが麻薬指定を受けて以後、長年使用されてきたケタミンとキシラジンの混合麻酔薬に代わり、
麻薬を使用しない麻酔薬として、近年実験動物に汎用されている.三混合麻酔薬は他の注射麻酔
薬と異なり、メデトミジンの拮抗薬であるアチパメゾールの投与により容易に麻酔からの覚醒が
出来ることから、麻酔過剰状態に対する対処が出来ることも利点としてあげられる.大阪大学の
黒澤らのグループは、ICR 系マウスに三種混合麻酔薬を投与し、約 40 分程度の外科麻酔効果が得
られることを明らかにした(Kawai et al., Exp. Anim., 481-487, 2011).
私たちは近交系マウスの BALB/c、C57BL/6J 系統のマウスに三種混合麻酔薬を投与し、ICR マ
ウスと同等の外科麻酔効果が得られることを明らかにした.(Kirihara et al., Exp. Anim., 173-180,
2013).また、この外科麻酔効果は、マウスの週齡(8 週齡∼20 週齡)、および性別によっても変
わらないことを明らかにした.
三種混合麻酔薬は、三種類の薬剤を混合して作成するため、市場で商品として購入することは
出来ない.よってその有効期限は明らかではない.混合後の三種混合麻酔薬の麻酔効果の有効期
間について検討を行った.三種混合麻酔薬を作成後、4℃(冷蔵庫内)で保存すれば、8 週間は
外科麻酔効果に変化がないことが明らかになった.
私たちは、さらにパルスオキシメータを用い、マウスに三種混合麻酔薬、および他の注射麻酔
薬投与後の動脈血酸素飽和度(酸素飽和度)、呼吸数、心拍数の変化と麻酔深度についての比較検
討を行った.麻酔薬の麻酔深度と酸素飽和度は、有意な相関があり、麻酔深度が深いほど酸素飽
和度は低下することが明らかになった.心拍数、呼吸数に対する麻酔深度の影響は軽微であった.
現在、ラットにおける三種混合麻酔薬の外科麻酔効果の系統差、およびマウス、ラットにおけ
る投与経路による外科麻酔効果の相違についてのデータを収集中であり、これらの結果について
も報告を行いたい.
2 キーワード:三種混合麻酔薬、げっ歯類、パルスオキシメータ
2) 導入麻酔としての三種混合麻酔:げっ歯類の気管挿管
今野兼次郎(京都産業大学 総合生命科学部)
麻酔は実験動物に多大なる影響を及ぼすと共に、動物実験のデータをも左右する.従って、そ
の適正な方法は必要不可欠である.麻酔の主たる目的は、鎮静、鎮痛、そして筋弛緩の 3 つであ
り、実験動物に対しては主に鎮静あるいは鎮痛、および両者を得るために用いられる.
また、実験動物学は本来、ヒトへの外挿を想定した学問である.従って、実験動物に対する麻
酔も、出来るだけヒトに準じた処置を施す事が望ましいと考えられる.
全身麻酔は、局所麻酔と比較して、実験動物に対しては一般的であり、様々な処置に際して施
される.ヒトやイヌ・ネコなどの小動物臨床の現場では、簡単な外科処置を除き、基本的に外科
処置する場合には、主に人工呼吸器を用いた全身麻酔を施すが、これらを安全に行う麻酔装置や
吸入麻酔薬も開発されている.一方、動物実験の研究環境においても、吸入麻酔時に必要となる
様々な機器が開発され、徐々に普及してきている.実験動物に吸入麻酔を施す場合、face mask を
用いる場合と気管チューブを挿入する方法に大別される.前者では呼吸制御のために人工呼吸器
を用いないため、ガス交換は動物の自発呼吸に依存している.従って、イソフルラン等の吸入麻
酔薬を用いる場合には、麻酔深度が深くなると、呼吸が停止する危険性が常に付きまとう.また、
開胸手術や長時間の手術、心肺機能が劣っている動物には不向きである.一方、後者はヒトの全
身麻酔では一般的で有り、人工呼吸器を用いて術者側が呼吸をコントロールする.従って、その
ための機器や高度なノウハウが必要となるが、気管チューブにより気道が確保されており、呼吸
トラブルが少ない.また、開胸手術や長時間麻酔、心肺機能が劣っている動物にも比較的実施可
能である.そう言った環境下で、これまで小型の実験動物では、ラットにおいては気管挿管が実
施されてきた.マウスにおいても、気管チューブを挿管し、人工呼吸器を用いた吸入麻酔法が報
告されている.ただし、マウスの体サイズは、概ねラットの 1/10 であり、この体サイズが原因で、
ラットのような処置をマウスに施す事が困難であり、正確かつ安全な麻酔の器具や装置を開発す
るのが困難となり、マウスへの人工呼吸器の導入が遅れている.過去に報告されているマウスへ
の気管チューブ挿入は、比較的高度な技術や特殊な器具を要するものであり、挿管の成否に重点
を置き、動物への配慮が足りないものも見受けられた.
そして近年、マウスの吸入麻酔は外科的な処置だけでなく、MRI や CT、超音波、PET などの
イメージング解析のための長時間麻酔を目的として実施されている.
上述の問題点の改善やニーズを持たすべく、内視鏡技術を用いた実験動物への気管挿管をアシ
ストする装置が、近年発売された.内視鏡を用いるメリットは 3 つある、1 つ目は、気管挿管を
行うことにより気管切開が不要となり麻酔管理の選択肢も拡がる事から、動物に不要な苦痛を与
えなくて済む点である.2 つ目に、動物を殺す事無く、同じ個体で経過観察が可能なため、使用
動物数の削減が可能となる.そして 3 つ目は、上述の通り、気管挿管の経過や結果が目視出来る
ため、気管挿管操作による傷害の有無等も確認出来るため、術中および術後に動物に不要な苦痛
を与えなくて済む.この 3 点は、実験動物の 3R に合致し、特に 3 つ目のポイントはこれまで報告
されているマウスへの気管挿管術には欠ける.
この気管チューブ挿管時に必要となる処置が前投薬の投与である.この時の前投薬としては
様々な候補が挙げられるが、用いた薬剤が十分に代謝されない状態で吸入麻酔を行うと、それぞ
れの薬剤の効果や相互関係が不明瞭となり、好ましいとは言えない.これは、注射麻酔薬一般に
おける欠点の一例であり、注射麻酔薬は濃度コントロールが難しい事を示している.この欠点を
克服した麻酔薬が、Kawai らが 2011 年に報告した 3 種混合麻酔薬(M/M/B: 0.3/4/5)である.
今回の講演では、マウスやラットなどへの気管チューブ挿管時に、前処置薬として M/M/B:
3 0.3/4/5 を用いる方法を紹介しながら、その特徴を紹介する予定である.
キーワード:三種混合麻酔、導入麻酔、げっ歯類
3) サル類における三種混合麻酔:三種混合麻酔は外科手術に適した麻酔法か?
竹田三喜夫(エーザイ株式会社 筑波研究所)
弊社ではサル類の捕獲や小中規模手術には、塩酸ケタミン+塩酸メデトミジンによる二種混合
麻酔を用いていた.しかしケタミンは麻薬であり、使用には麻薬研究者あるいは麻薬施用者の免
許と厳重な管理が必要であり、麻薬を使用しない麻酔法が強く望まれる.そこで注目したのが、
げっ歯類で最近用いられるようになった三種混合麻酔である.サル類での三種混合麻酔について
は、2003 年に Williams らが ling-tailed lermus(ワオキツネザル)、patas monkey(パタスザル)を
用い塩酸メデトミジン 0.04 mg/kg+ミダゾラム 0.3 mg/kg+酒石酸ブトルファノール 0.4 mg/kg によ
る三種混合麻酔(以下 MMB 麻酔)ならびに麻酔拮抗剤アチパメゾールの有用性を報告している.
日本では演者が 2012 年の獣医学会においてアカゲザル、カニクイザルにおける MMB ならびに拮
抗剤の有用性ならびに心血行動態への影響を、また 2013 年の安全性薬理研究会においてサルなら
びにイヌ、ミニブタでの使用経験を報告した.MMB 麻酔は麻薬を使用しないこと、吸入麻酔器
等の高価な機器を使用しない事から簡便で有用な麻酔法であり、現在弊社では飼育ザル(カニク
イザル)のほぼ全ての麻酔処置に MMB 麻酔と拮抗剤を使用している.MMB 麻酔により皮膚切開
や器具の埋め込み操作が十分可能な麻酔深度・筋弛緩作用が得られることから、安全性薬理試験
ではテレメトリーの送信機埋め込み手術に応用している.MMB による麻酔状態は、拮抗剤の筋
注により 10 分程度で速やかに覚醒状態に回復することが本麻酔の有用な特性であり、現在は麻薬
を使用しないというメリット以上に短時間で覚醒させられるという点が有用性の主たるものとな
っている.麻薬を使用しないと言っても、ミダゾラムは法規制化合物(向精神薬)であり、使用
にあたっては十分な管理と記録が必要である.
講演では、MMB 麻酔のサルに関する使用経験を紹介するが、最近我々が経験している事例と
しては、3 歳弱の若齢個体と 5 歳以上の成熟個体では本剤の反応性が異なり、若齢個体では効き
が悪いことを経験している.げっ歯類ではマウスはラットより感受性が低いことや、明確ではな
いが系統差や投与ルートによる効果の違いもあるようであり、まだ本剤の効果については不明な
点もある.また、MMB 麻酔は極めて安全性の高い麻酔法だと考えているが、麻酔事故が皆無と
は言えないのでその点にもふれる予定である.
最後に MMB 麻酔は鎮痛剤と鎮静剤を組み合わせた麻酔法であるが、外科手術に用いる麻酔法
としてはあくまで皮膚切開や末梢血管の露出など小中規模手術に限るべきであり、心臓や脳など
開胸、開頭を伴うような大規模手術には適さない.大規模手術に対してはイソフルランやセボフ
ルラン等の吸入麻酔を用いるのが基本だと演者は考えている.最近 MMB 麻酔の普及に伴い本麻
酔法が簡便であることから、外科手術等についても万能的な麻酔法として使用できると考えてい
る先生方もいると思われるので、その点についても言及したい.
キーワード:三種混合麻酔、外科手術、サル類
4) 実験動物における三種混合麻酔の応用と限界(まとめ)
黒澤努(AAALAC International)、矢野一男(旭化成メディカル株式会社)
実験動物を麻酔するという行為のほとんどは国際的とりきめ、さらにはわが国の動物愛護法で定
められている 3Rs(Replacement、Reduction、Refinement)の実行のうちの、Refinement に基づき、
できるだけ苦痛を軽減する行為の一つである.Refinement の中心は獣医学的ケアであり、麻酔だ
けがそのすべてではないが、外科的侵襲を伴う動物実験においては最も確実に苦痛を軽減できる
4 ことから歴史的にも獣医学的ケアの中心となっている.しかし、わが国では実験動物学が動物実
験のためにあるとの考え方が支配的で、獣医学的ケアの重要性について語られることは少なった.
2010 年からの国際的な実験動物福祉の取り決めでは獣医学的ケアの重要性とその具体的方法の実
践を確実に行い、さらには監視する仕組みを整備することが規定され、わが国での獣医学的ケア
の実効体制の整備が急がれる.
動物の麻酔は苦痛の軽減のために行われる獣医学的診療行為であるから現在の麻酔学、獣医麻酔
学の知識技術を駆使して行うこととなる.とくにわが国では“できるだけ苦痛の少ない方法”と最
善を尽くすことが規定され、また国際的には経済的理由だけで、3Rs の実践を躊躇しないことが
規定されていることから、十分な知識技術を持った実験動物獣医師を配置し、またその具体的な
ケアにあたる獣医看護を担当する者を適切に配置したうえでしか外科的侵襲の伴う行為である動
物実験はしてはいけないこととなる.また、使用する機材、薬剤も経済的な原則で購入するので
はなく最善の獣医療を行うために整備されるべきものである.
現行の人の医療および獣医療においても最善の医療行為を行うため、科学的研究成果を反映した
麻酔が施行される.実験動物においてもそれらを参考にし、最善策を実験動物獣医師が関与して
策定しなければならない.唯一他の獣医療行為やヒトの診療行為と実験動物医療の違いを挙げる
ならば、研究目的をできるだけそこねないような麻酔方法の選択が必要とされる点である.しか
し、この原則も OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機
構)の新しい規程をみると、ある程度の研究目的制限を加えても、実験動物福祉を優先すること
が謳われ始めたようで、近い未来には実験動物の苦痛と研究目的達成との関係も見直しが必要と
なる可能性が高い.
外科的侵襲を伴う行為に対応する全身麻酔は、呼吸機能の管理と循環機能の管理が中心となる.
したがって用いられる器材薬剤はこれらを勘案して選択されることから、現行の実験動物の全身
麻酔は気管挿管を伴う吸入麻酔薬を用いた方法となる.さらに吸入麻酔薬の濃度を低減するため
に、またより痛みを少なくする目的で、鎮静剤、鎮痛剤が併用されることとなる.
これに対して、外科的侵襲の程度が少ない行為では、ヒトではその診療行為に対する理解が得ら
れ、協力的であるから、局所麻酔、鎮痛剤などの使用により意識を保ったまま行われるのに対し
て、実験動物ではその行為に対して協力は期待できないことから全身麻酔が必要となる.こうし
た際に選択される麻酔として注射麻酔がある.循環機能にできるだけ影響の少ない薬剤と呼吸機
能の低下をできるだけさけ、さらに覚醒を速やかに行えるような麻酔薬が必要となる.このため
には強力な鎮痛剤を併用し、苦痛に対する神経経路を特異的にブロックするような薬剤が理想的
である.ペントバルビタールナトリウムなどこれまで使われてきた麻酔薬単独でこれらを満たす
ものは開発されていない.したがって、 種々の薬剤を組みあわせることとなるが、これまで汎用
されていた塩酸ケタミンとキシラジン(あるいはメデトミジン)の組み合わせはこの目的にかな
っていたが塩酸ケタミンが麻薬指定となり、実験動物の麻酔には使いにくいものとなりその代替
法の開発が必要となった.そこで三種混合麻酔薬が開発され、アチパメゾールによる覚醒促進を
含め極めて簡易な全身麻酔を行える方法が確立した.しかし、 本法はあくまでも注射麻酔法の一
つであり、これまで知られている注射麻酔法の欠陥はそのままであるし、使用薬剤の薬効から内
臓の牽引痛などには十分対応できず、呼吸蘇生を緊急に行うことはできない.またメデトミジン
の副作用として血糖値への影響も見過ごすことはできない.さらに系統差、年齢差、性差なども
他の薬剤と同様考慮しなければならいだけでなく、3 剤それぞれについての薬効がこれらのバリ
エーションで差がでてくるので、単純ではない.三種混合麻酔はあくまでも外科的侵襲の少ない
行為に対して、厳重な麻酔管理が行われることにより安全性が増すという簡易な方法であること
を強調しておく.
キーワード:三種混合麻酔、Refinement、獣医学的ケア 5 
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