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ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?

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ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
住友信託銀行 調査月報 2009 年 6 月号
産業界の動き∼ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
健康志向の高まりや料理など用途が拡大し、近年輸入品の銘柄も豊富になる
など、国民生活に定着した感のあるミネラルウォーター。日本のミネラルウォ
ーター消費量は過去 10 年で 3 倍にも伸びた。日本の国民一人あたりのミネラ
ルウォーター消費量は欧米の諸国と比べるとまだ少ないことから成長余地は
あると考えられるが、価格競争が激化する中、足許では輸入量が初めて前年を
下回るなど、景気低迷の影響も懸念される。
1. 普及が進むミネラルウォーター
日本におけるミネラルウォーター類1 の出荷量(国内生産+輸入)は 90 年代
後半から伸びが拡大し、2007 年まで 7 年連続で増加している(図1)。健康志向
(kl)
(百万円)
図1 ミネラルウォーターの出荷推移
2,500
250
2,000
200
1,500
150
1,000
100
50
500
0
0
89
90
91
92
数量 国内生産
93
94
95
96
97
98
数量 輸入
99
00
01
02
03
金額 国内生産
04
05
06
07
08
金額 輸入
(資料)日本ミネラルウォーター協会
1
ミネラルウォーター類の種類
農林水産省のミネラルウォーター類の品質表示ガイドラインによると、ミネラルウォーター類(容器
入り飲料水)は以下の四つの品名に分類される。
ナチュラルウォーター:特定の水源から採水された地下水を原水とし、沈殿、濾過、加熱殺菌以外の
物理的・化学的処理を行わないもの
ナチュラルミネラルウォーター:ナチュラルウォーターのうち鉱化された地下水(地表から浸透し、
地下を移動中又は地下に滞留中に地層中の無機塩類が溶解した地下水をいう)を原水としたもの。ミ
ネラルウォーター類の約 80%が該当。
ミネラルウォーター:ナチュラルミネラルウォーターを原水とし、品質を安定させる目的等のために
ミネラル調整、ばっ気、複数の水源から採水したナチュラルミネラルウォーターの混合等が行われて
いるもの
ボトルドウォーター:ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター及びミネラルウォータ
ー以外の飲料可能な水
1
住友信託銀行 調査月報 2009 年 6 月号
産業界の動き∼ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
の高まりや料理への用途の拡大、さらには災害などに備えた家庭や企業、自治
体における飲料水備蓄ニーズも加わって、2006 年に前年比 28.3%と急激に伸び
た後、足許では 2007 年は+6.4%、2008 年は+0.4%と減速しているものの、2008
年度の国内生産と輸入の合計は 2,515 千キロリットルと、10 年前の 3 倍近い市
場規模に成長した。
さらに上記統計数値には含まれていないものとして、欧米では一般的な職場
や家庭に専用のサーバーを設置し、ボトルを宅配するサービスも近年伸長して
いると言われる。また、スーパーにおけるボトルドウォーターの給水サービス
が普及し、各地域の水道事業体によるオリジナルのボトルドウォーター販売も
行われるなど、実際には数値以上にミネラルウォーター、ボトルドウォーター
は国民生活に浸透してきていると考えられる。
家計調査で見ても、1 世帯あたりの飲料に対する消費支出がここ数年ほぼ横
ばいの水準で推移しているなかで、ミネラルウォーターへの支出は増加基調に
ある(表1)。
表1 1世帯あたりの品目別支出金額(総世帯)
2000
43,033
飲料
(前年比)
茶飲料
2001
42,736
(△0.7%)
4,756
(+19.8%)
3,854
(+3.8%)
10,318
(△1.5%)
2,213
(△2.2%)
3,970
(前年比)
コーヒー飲料
3,713
(前年比)
10,476
果実・野菜ジュース
(前年比)
炭酸飲料
2,263
(前年比)
ミネラルウォーター
(前年比)
(資料)家計調査(総務省 統計局)
2002
2003
43,047
42,156
(+0.7%) (△2.1%)
4,884
4,911
(+2.7%)
(+0.6%)
4,040
3,775
(+4.8%) (△6.6%)
9,717
8,600
(△5.8%) (△11.5%)
2,157
2,132
(△2.5%) (△1.2%)
2004
43,508
(+3.2%)
5,719
(+16.5%)
3,700
(△2.0%)
8,929
(+3.8%)
2,136
(+0.2%)
2005
43,570
(+0.1%)
5,439
(△4.9%)
3,742
(+1.1%)
8,406
(△5.9%)
2,220
(+3.9%)
1,985
2006
43,229
(△0.8%)
5,376
(△1.2%)
4,147
(+10.8%)
8,607
(+2.4%)
2,023
(△8.9%)
2,215
(+11.6%)
(単位:円)
2007
2008
44,395
42,833
(+2.7%) (△3.5%)
5,943
5,688
(+10.5%) (△4.3%)
4,225
4,268
(+1.9%)
(+1.0%)
8,732
7,819
(+1.5%) (△10.5%)
2,315
2,546
(+14.4%) (+10.0%)
2,458
2,315
(+11.0%) (△5.8%)
ただし、足許では景気悪化の影響からミネラルウォーターへの消費支出も
2008 年は前年比減少しており、出荷数量についても価格が相対的に高い輸入品
については 2004 年以来 4 年ぶりに出荷数量が前年度比マイナスとなるなど、
これまで順調に伸びてきたミネラルウォーターにも減速傾向が現れている。
2. 国内外で寡占化が進む業界構造
ミネラルウォーターのマーケットは国内外ともに大手企業が過半のシェアを
握っており、寡占化が進んでいる。
国内ではサントリー、キリン MC ダノン、日本コカコーラの 3 社で全体のほぼ
50%を占め、上位 3 社のシェアが徐々に高まっている。「酒類食品産業の生産・
2
住友信託銀行 調査月報 2009 年 6 月号
産業界の動き∼ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
販売シェア」
(日刊経済通信社)によると、日本でミネラルウォーターを製造・
販売する企業数は 300 社程度とされ、ミネラルウォーター類のブランド数は 320
∼330 とみられる(表2,3)。ミネラルウォーターは味による差別化が難しく、
国内メーカーのミネラルウォーターはスーパーでの特売の対象になりやすいこ
とから、価格競争が厳しい。新規参入は比較的容易であるが採算確保は難しく、
撤退をする企業も多い模様である。
海外においては、1992 年にフランスのペリエをスイスのネスレが買収するな
ど業界再編が進んでおり、日本でもなじみの深いミネラルウォーターのブラン
ドの多くは、ネスレ(ペリエ、ヴィッテル、コントレックス)、ダノン(エビア
ン、ヴォルビック)、コカコーラ、ペプシなど大手メーカーが握っている。
表2 ミネラルウォーター類の企業別販売集中度
(2006年)
順位
社名
シェア(%)
主な販売銘柄
1
サントリー
20.4
日本の天然水、ペリエ、ヴィッテル、コントレックス
2
キリンMCダノン
17.1
アルカリイオンの水、ボルヴィック
3
日本コカコーラ
12.2
森の水だより、アクアセラピーミナクア
4
ハウス食品
8.8
六甲のおいしい水
5
大塚ベバレジ
6.8
クリスタルガイザー
6
カルピス伊藤忠 *
3.0
エビアン
7
アサヒ飲料
2.7
富士山のバナジウム天然水
8
サッポロ飲料
2.4
日本名山の天然水、ヴァットヴィレール
9
財宝グループ
1.6
財宝温泉水
10
ブルボン
1.0
天然名水出羽三山の水
上位10社計
76.0
* 2008年4月に伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズに「エビアン」の独占販売権を移管
(資料)酒類食品産業の生産・販売シェア(日刊経済通信社)
表3 ミネラルウォーター類の銘柄別販売集中度
(2006年)
順位
銘柄
シェア(%)
1
日本の天然水
17.7
2
森の水だより
12.2
3
アルカリイオンの水
10.4
4
六甲のおいしい水
8.8
5
ボルヴィック
6.6
6
クリスタルガイザー
5.8
7
エビアン
3.0
8
富士山のバナジウム天然水
2.7
9
サッポロ日本名山
2.2
10
コントレックス
2.1
上位10銘柄計
71.6
(資料)酒類食品産業の生産・販売シェア(日刊経済通信社)
3
住友信託銀行 調査月報 2009 年 6 月号
産業界の動き∼ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
3. 周辺業界の動向
日本では欧米に比べて水道水の水質が良好であることから、近年ミネラルウ
ォーターの消費量が増加しているとはいえ、日本人 1 人あたりのミネラルウォ
ーター消費量は欧米先進国で最も少ない英国のさらに半分以下である(表4)。
表4 ミネラルウォーターの1人当り消費量の推移
(単位:リットル/年・人)
国
年
日本
アメリカ
カナダ
1990
1.6
33
1995
5.2
45.8
2000
8.6
67.4
2005
14.4
80.6
(資料)日本ミネラルウォーター協会
イギリス
9.0
20.3
42.3
ドイツ
6.8
13.1
21.0
35.8
90
98.1
97.2
124.6
フランス
イタリア
105
110.5
135.1
156.2
106
125.2
145.5
168.3
内閣府が実施している「水に関する世論調査」によると、水の飲み方につい
て、「水道水をそのまま飲む」が最も多く 37.5%、次いで「浄水器を設置」が
32%、
「ミネラルウォーターを購入」が 29.6%(複数回答可)となっている(図
2)。
図2 飲み水について
0.0
10.0
20.0
(複数回答) (%)
30.0
40.0
特に措置を講じずに、水
道水をそのまま飲んでい
37.5
浄水器を設置して水道
水を飲んでいる
32.0
ミネラルウォーターな
どを購入して飲んで
29.6
水道水を一度沸騰さ
せて飲んでいる
27.7
2.8
そ の 他
わ か ら な い
0.1
(資料)「水に関する世論調査」(内閣府)
浄水器の使用率は、2007 年 7 月の浄水器協会の調査によると全国平均で
34.0%となっており、前回調査(05 年度)から 5 ポイント伸びている。浄水器用
のカートリッジの出荷台数推移からも、浄水器の普及が進展していることが窺
4
住友信託銀行 調査月報 2009 年 6 月号
産業界の動き∼ミネラルウォーターは景気の壁を乗り越えられるか?
われる。
一方、各地の水道事業体でも「安全でおいしい水道水推進運動」として、水
道水の水質改善を進め、水道水から塩素を除去して作ったボトルドウォーター
を 70 以上の事業体で製造販売するなど、飲料水としての水道水の需要喚起を図
る取り組みも進められている。
4. 課題と展望
欧米と日本では水道水の水質の差、生活習慣の違いなどがあり一概には言え
ないが、健康志向や用途の拡大、さらには災害などに備えて家庭や職場での備
蓄の需要も下支えとなって、日本のミネラルウォーター市場の成長余地は多く
残されていると考えられる。
しかしながら、景気悪化の影響で米国においてはペプシコの主力ブランド「ア
クアフィーナ」の販売が急速に減少しているなど、景気動向がミネラルウォー
ターの販売に与える影響は無視できないだろう。景気低迷がさらに長引くよう
な場合には、さらなる低価格化とともに、スーパーなどの給水サービスあるい
は水道水への需要のシフトも考えられ、一時的とはいえ成長鈍化のリスクも考
えられる。
ミネラルウォーターのマーケットは業界上位への集中度が高く、前述のよう
に年平均で 17%ものペースで成長してきていることから、比較的容易に新規参
入は可能である。しかしながら、ミネラルウォーターは差別化が難しく、激し
い価格競争に晒されることから、採算が取れずに撤退する企業も多い業界構造
となっている。足許の成長鈍化は景気要因が大きく、再び成長軌道に乗る可能
性はあるものの、今後市場が成熟化してゆくにつれて業界再編の動きが加速す
る可能性は高い。
この中で各社には、安全性など品質面の管理はもちろんのこと、ブランド力
を備え、用途、価格帯など多様化する顧客のニーズに合わせた商品ラインアッ
プを持ち、価格競争に耐えうる企業体力を備えることが求められる。また、寡
占化の進んだ業界とはいえ、欧州で採水地名を冠した「スプリングウォーター」
(ナチュラルウォーター)のブランドが多く存在するように、一定の分野・地
域に特化したニッチ企業として生き残る道を選ぶことも考えられる。いずれに
しても、中長期的には成熟化するマーケットを睨み、各社は勝ち残ってゆくた
めの戦略を明確にする必要に迫られると考えられる。
(塙:[email protected])
※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を
目的としたものではありません。
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