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糖尿病と上手につきあうために - 東京女子医科大学 糖尿病センター
糖尿病と上手につきあうために ―糖尿病を正しく知る― 監修:東京女子医科大学 糖尿病センター センター長 岩本 安彦 糖尿病と上手につきあうために ―糖尿病を正しく知る― Section1 糖尿病とは? Section6 小児ヤングの糖尿病 Section2 検査と診断 Section7 糖尿病と妊娠 Section3 糖尿病の慢性合併症 Section8 日常生活指導 糖尿病神経障害 糖尿病網膜症 糖尿病腎症 糖尿病と心疾患、脳血管障害 糖尿病と足病変 糖尿病と皮膚病変 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病昏睡(高血糖昏睡) 急性感染症 低血糖 Section5 糖尿病の治療 糖尿病治療の考え方 食事療法 運動療法 経口血糖降下薬 インスリン療法 生活習慣(病)と動脈硬化症 ―糖尿病の位置づけ― 肥満のコントロール 血圧コントロール ―高血圧の予防― 脂質コントロール ―高脂血症の予防― フットケア シックデイ対策 Section9 糖尿病と上手につきあうために ダイジェスト版 監修 岩本安彦 東京女子医科大学 糖尿病センター センター長 分担監修 岩本安彦 岩崎直子 内潟安子 尾形真規子 笠原 督 北野滋彦 後藤田貴也 佐倉 宏 佐藤麻子 佐中眞由実 柴崎千絵里 新城孝道 高橋良当 中神朋子 馬場園哲也 船津英陽 三浦順之助 東京女子医科大学 糖尿病センター センター長 Section 1 Section 4 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 6 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 5 Section 5 社会法人衛生文化協会城西病院 内科 東京女子医科大学 糖尿病センター 眼科 Section 3 Section 8 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 2 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 3, 8 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 7 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 5 東京女子医科大学病院 栄養部 Section 3, 8 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 3 東京女子医科大学附属第二病院 内科 Section 5, 8 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 3 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section 3 東京女子医科大学 糖尿病センター 眼科 Section 4 東京女子医科大学 糖尿病センター 内科 Section1 糖尿病とは? 2005年3月改訂 Section1 糖尿病とは? Index ポイント 体内での糖代謝のしくみ 糖尿病とは? 日本における糖尿病の状況 日系人、日本人、米国白人の糖尿病有病率 糖尿病の病型分類 1型糖尿病と2型糖尿病の特徴 遺伝因子と環境因子のかかわり(2型糖尿病) 糖尿病が起こるメカニズム(1) 糖尿病が起こるメカニズム(2) 糖尿病の主な合併症 糖尿病の症状(1) 糖尿病の症状(2) Section1 糖尿病とは? ポイント 糖尿病とは、ブドウ糖が血液の中に増えすぎて しまう病気です。 インスリンが十分に作用しないために起こります。 糖尿病の患者さんは増え続けています。 * 国内の糖尿病患者さんは約740万人 * ‘予備軍’を含めると約1,620万人 糖尿病は4つの病型に分けられます。 1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序・疾患に よる糖尿病、妊娠糖尿病。 *厚生労働省/平成14年糖尿病実態調査より 1-1-1 Section1 糖尿病とは? ポイント 2型糖尿病は代表的な生活習慣病です。 発症には遺伝要因と環境要因が関連し、予防と治療には 生活習慣の改善が重要です。 もっとも怖いのは合併症が起こることです。 放っておけば、網膜症、腎症、神経障害、足病変、 動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)をはじめとする さまざまな合併症が起こります。 1-1-2 体内での糖代謝のしくみ Section1 糖尿病とは? 食事によって体内に取り込まれた糖質は、胃や腸で 分解されてブドウ糖となり、血液中に吸収されます。 貯蔵される エネルギー 脂肪 膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが、 ブドウ糖の細胞への取り込みを助けます。 血管 ブドウ糖 脂肪組織 グリコーゲン 貯蔵される 食物 1-2 肝臓 ブドウ糖 膵臓 グリコーゲン ブドウ糖 ブ ド ウ 糖 小腸 全身の細胞は、血液中からブドウ糖を取り込み、 エネルギー源として利用します。 インスリン 血管 貯蔵される あまったブドウ糖は、肝臓や筋肉で グリコーゲンという物質に変えられて蓄えられます。 筋肉組織 内の 糖質 ブドウ糖が不足した時は、 グリコーゲンが再びブドウ糖になって供給されます。 Section1 糖尿病とは? 糖尿病とは? インスリンが十分に作用しない 血液中にブドウ糖がたまってしまう 血糖の濃度(血糖値)が高い状態が続く 1-3 Section1 糖尿病とは? 日本における糖尿病の状況 糖尿病患者数:約740万人 *予備軍(糖尿病の可能性を否定できない人)を含めると約1,620万人 糖尿病が強く疑われる人 年代別に見る糖尿病の割合 糖尿病の可能性を否定できない人 0.8 20歳代 30歳代 20歳代 2.1 0.8 2.7 30歳代 男性 60歳代 70歳∼ 0% 14.0 17.9 13.4 21.3 10% 16.1 20% 30% 40% 女性 8.3 50歳代 4.6 10.7 0.9 4.4 40歳代 3.6 40歳代 4.4 3.4 50歳代 0.4 10.7 60歳代 11.5 70歳∼ 11.6 0% 10% 16.0 16.7 20% 30% 40% 厚生労働省/平成14年糖尿病実態調査より 1-4 Section1 日系人、日本人、米国白人の糖尿病有病率 糖尿病とは? 同じ遺伝因子をもっていても生活環境(環境因子)の 違いによって糖尿病の頻度が変わります。 0 5 10 15 日系人 (ハワイ) 18.9 % 日系人 13.7 % (ロサンゼルス) 日本人 (40歳以上) 米国白人 (24-74歳) 20% 9.1 % 6.6 % (厚生省:「糖尿病調査研究」) 1-5 Section1 糖尿病とは? 糖尿病の病型分類 糖尿病は、その成因によって 大きく4つの病型に分けられます。 病型分類 成因 1型糖尿病 おもに自己免疫により、インスリンを合成・分泌するランゲルハンス島の β細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなる。また、HLA などの遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わって発症する。 2型糖尿病 インスリン分泌の低下や、インスリン抵抗性(インスリンが効き にくい状態)をきたす複数の遺伝因子に、過食や運動不足などの 環境因子が加わって、インスリン作用不足を生じて発症する。 その他の特定の 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの、膵臓病(膵炎、膵臓 がんなど)、内分泌疾患(ホルモンの病気)、肝臓病(肝炎など)、 機序、疾患に 薬剤や化学物質によるもの、感染症などが原因で起こる糖尿病。 よるもの 妊娠糖尿病 妊娠中に発症、あるいは初めて発見された耐糖能異常。 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、11-13頁、文光堂より改変 1-6 Section1 糖尿病とは? 1型糖尿病と2型糖尿病の特徴 1型糖尿病 2型糖尿病 患者さんの割合 5%以下 90%以上 家族歴 家系内の糖尿病は2型の場合 より少ない 家系内血縁者にしばしば 糖尿病がある 発症年齢 小児∼思春期に多い 中高年でも認められる 40歳以上に多い 若年発症も増加している 体型 やせ型が多い 肥満型が多い 症状 のどの渇き、多飲、多尿など 無症状のことが多い 治療方法 インスリン注射が不可欠 食事療法と運動療法が基本 飲み薬(経口薬)やインスリン 注射を併用する場合も多い 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、13頁、文光堂より改変 1-7 Section1 糖尿病とは? 遺伝因子と環境因子のかかわり(2型糖尿病) 遺伝因子 2型糖尿病発症 近親者に糖尿病の人がいる 環境因子 過食 肥満 ストレス 運動不足 1-8 加齢 Section1 糖尿病とは? 糖尿病が起こるメカニズム(1) インスリンって何? インスリンは、血糖値を下げる働きをもつ 唯一のホルモンです。 インスリンは、膵臓の中のランゲルハンス島を 構成するβ細胞で合成・分泌されます。 血糖値が上がったことをランゲルハンス島の β細胞が感知すると、それに見合った量の インスリンをすみやかに分泌します。 1-9 Section1 糖尿病とは? 糖尿病が起こるメカニズム(2) インスリンの作用不足が起きる原因は? 1型糖尿病 1.インスリンがほとんど分泌されない ランゲルハンス島のβ細胞が何らかの原因で破壊され、 インスリンがほとんど分泌されないため、高血糖になります。 (血糖値:mg/dL) (インスリン:μU/mL) 血糖 300 200 100 インスリン 0 食事 1-10-1 時間 糖尿病が起こるメカニズム(2) Section1 糖尿病とは? インスリンの作用不足が起きる原因は? 2型糖尿病 2.インスリンの量が足りない、 または分泌されるタイミングが悪い 3.インスリンは分泌されるが、 働きが悪い(インスリン抵抗性) インスリンが十分に分泌されなかったり、分泌の タイミングが遅れるため高血糖になります。 インスリンの作用が障害されるため 高血糖になります。 (血糖値:mg/dL) (インスリン:μU/mL) (血糖値:mg/dL) (インスリン:μU/mL) 200 100 インスリン 0 食事 1-10-2 血糖 200 血糖 時間 100 インスリン 0 食事 時間 Section1 糖尿病とは? 糖尿病の主な合併症 糖尿病神経障害 糖尿病網膜症 糖尿病腎症 糖尿病足病変 動脈硬化性疾患 (冠動脈硬化症、 脳血管障害、下肢 閉塞性動脈硬化症) 1-11 動脈硬化 脳 脳血管障害 糖尿病昏睡 感染症 呼吸器 感冒・肺炎 肺結核 皮膚病 皮膚 感染症 糖尿病神経障害 神経 目 糖尿病網膜症 白内障 緑内障 心臓 冠動脈硬化症 心筋梗塞 狭心症 腎臓 糖尿病腎症 尿毒症 泌尿器 勃起障害 排尿障害 尿路感染症 膀胱炎 足 水虫 壊疽 下肢閉塞性 動脈硬化症 Section1 糖尿病とは? 糖尿病の症状(1) 典型的な自覚症状は? 初期にはほとんど自覚症状がありません。 血糖値が高い状態が持続するうちに、次のような症状が 現れます。 尿の量が多くなる(多尿) のどが渇く(口渇) 水をよく飲む(多飲) 疲れやすい、だるい よく食べるわりに体重が減る 1-12 Section1 糖尿病とは? 糖尿病の症状(2) 合併症による症状は? 糖尿病が進むと、合併症による症状が現れます。 目がかすむ、視力が低下する 足がむくむ 足がしびれる、痛い 立ちくらみがする 傷が治りにくい、化膿しやすい 1-13 Section2 検査と診断 糖尿病;42(5) 385-401, 1999 2005年3月改訂 Section2 検査と診断 Index ポイント 検査の種類 糖尿病を診断するための検査 「糖尿病型」の判定 「正常型」の判定 空腹時血糖値および75g糖負荷試験(OGTT)2時間値の判定基準(静脈血漿値) 代謝症候群(メタボリックシンドローム)の定義 代謝症候群(メタボリックシンドローム)とは 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期) 糖尿病と診断されるまでの流れ 糖尿病の状態を調べるための主な検査 合併症を調べるための主な検査 Section2 検査と診断 ポイント 糖尿病の確定診断は血糖検査によって行います。 早朝空腹時血糖値、75g糖負荷試験(OGTT)の2時間値、 随時血糖値を測定 血糖値は食事の影響などで絶えず変化するため、 確定診断をくだすためには、以下の場合を除き 血糖値の再検査を行います。 糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など)が ある場合 HbA1c≧6.5%の場合 確実な糖尿病網膜症が認められた場合 2-1-1 Section2 検査と診断 ポイント 糖尿病の状態を調べるための主な検査 グリコヘモグロビン(ヘモグロビンA1c)検査 ・・・・・・・・・過去1∼2ヵ月の血糖コントロールの良否 C-ペプチド検査・・・・・・・・・・インスリンの分泌状況 合併症を調べるための主な検査 眼底検査・・・・・・・・・・・・・・糖尿病網膜症 尿蛋白検査・微量アルブミン尿検査・・糖尿病腎症 腱反射、知覚検査・・・・・・・・・・糖尿病神経障害 心電図・・・・・・・・・・・・・・・心筋梗塞、狭心症 2-1-2 Section2 検査と診断 検査の種類 糖尿病を診断するための検査 糖尿病と診断 糖尿病の状態を 調べるための検査 2-2 合併症を調べる ための検査 Section2 検査と診断 糖尿病を診断するための検査 糖尿病の確定診断は血糖検査によって行います。 早朝空腹時血糖値: 前日の夕食をとった後、何も食べず翌朝検査した血糖値 75g糖負荷試験(OGTT)2時間値: 最低10時間絶食した空腹の状態でまず採血し、次に 75gのブドウ糖液を飲み、その2時間後に測定した血糖値 随時血糖値: 食事の影響を考えずに測定した血糖値 2-3 Section2 検査と診断 「糖尿病型」の判定 血糖検査(75gOGTT)で 75g糖負荷試験 早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上 (OGTT)で2時間値 200mg/dL以上 随時血糖値 200mg/dL以上 いずれかが認められた場合 糖尿病型と判定 (再検査を行う) 2-4 Section2 検査と診断 「正常型」の判定 1回目の血糖検査で 早朝空腹時血糖値 110mg/dL未満 75gOGTTで2時間値 140mg/dL未満 両方が認められた場合 正常型と判定 2-5 Section2 検査と診断 空腹時血糖値および75g糖負荷試験(OGTT)2時間値の判定基準(静脈血漿値) (mg/dL) 糖尿病型 空 126 腹 時 血 糖 値 境界型 糖尿病になる危険あり 早めの管理を!! 110 正常型 140 200 (mg/dL) 75g糖負荷試験(OGTT)2時間値 2-6 Section2 検査と診断 代謝症候群(メタボリックシンドローム)の定義 〈WHO基準〉 2型糖尿病、糖代謝異常、インスリン抵抗性のうち 1つ以上があり、かつ以下のうち2つ以上が認められる場合 内臓肥満、脂質代謝異常(高中性脂肪血症または低HDLコレステロール血症)、高血圧、尿中アルブミン排泄量増加 〈NCEP(National Cholesterol Education Program)基準〉 以下のうち3つ以上が認められる場合 腹囲径で診断する内臓肥満、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、高血圧、耐糖能異常 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、19頁、文光堂より改変 2-7 Section2 代謝症候群(メタボリックシンドローム)とは 検査と診断 代謝症候群(メタボリックシンドローム) とは以下のような病気をいくつか持っている 状態を言います。 満 肥 内臓 高血 動脈硬化が生じやすくなり、 命にかかわる重大な病気を 引き起こすことがあります。 圧 低HDLコレステロール血症 脂肪 性 高中 症 耐糖 血 能異 常 肥満 2-8 動脈硬化 心筋梗塞 狭心症 脳出血 脳梗塞 など Section2 検査と診断 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期) 高血糖 正常血糖 病態 (病期) 成因 (機序) 1型 2型 その他特定の型 妊娠糖尿病 2-9 正常領域 糖尿病領域 境界領域 インスリン非依存状態 インスリン依存状態 インスリン 高血糖是正 不要 に必要 生存に 必要 Section2 検査と診断 糖尿病と診断されるまでの流れ ■ 血糖検査(1回目)■ 早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上 75g糖負荷試験 (OGTT)2時間値 200mg/dL以上 いずれかがあてはまれば 有 他の条件 随時血糖値 200mg/dL以上 糖尿病型 1. 糖尿病の症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など) 2. HbA1Cが6.5%以上 3. 糖尿病網膜症 4. 過去に「糖尿病型」を示した資料(検査データ)がある場合 無 ■ 血糖再検査(2回目)■ 早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上 いずれかがあてはまれば 糖尿病として治療を開始 75g糖負荷試験 (OGTT)2時間値 200mg/dL以上 随時血糖値 200mg/dL以上 あてはまらなければ 糖尿病型として経過観察 ※血糖再検査(2回目)の場合は1回目とは違う方法で検査することが望ましいとされています。 2-10 Section2 検査と診断 糖尿病の状態を調べるための主な検査 グリコヘモグロビン検査 血液中のヘモグロビンA1c(グリコヘモグロビンの一種)の 値を調べます。過去1∼2ヵ月の血糖コントロールの 良否を知ることができます。 C-ペプチド検査 血中または尿中のC-ペプチドの量を調べます。 膵臓からのインスリンの分泌状況を知ることができます。 2-11 Section2 検査と診断 合併症を調べるための主な検査 糖尿病網膜症を調べる 眼底検査 糖尿病腎症を調べる 尿蛋白検査 微量アルブミン尿検査など 糖尿病神経障害を調べる 腱反射 知覚検査など 心筋梗塞、狭心症を調べる 心電図など 2-12 Section3 糖尿病の慢性合併症 Section3 糖尿病の慢性合併症 3-1 糖尿病神経障害 3-2 糖尿病網膜症 3-3 糖尿病腎症 3-4 糖尿病と心疾患、脳血管障害 3-5 糖尿病と足病変 3-6 糖尿病と皮膚病変 Section3-1 糖尿病神経障害 Section3 糖尿病の慢性合併症 Index ポイント 糖尿病神経障害とは なぜ神経障害が起こるか? 糖尿病神経障害の発症の仕方による分類 治療後有痛性神経障害 糖尿病神経障害の症状(1)多発末梢神経障害 糖尿病神経障害の症状(2)自律神経障害 糖尿病自立神経障害による胃アトニー(麻痺) 進行した神経障害による深刻な糖尿病神経障害 無痛覚症による火傷 糖尿病神経障害の予防と治療 Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病神経障害は、高血糖により末梢神経の 伝達作用が障害されることによって起こります。 糖尿病神経障害は、発症の仕方により大きく 分けられます。 3-1-1 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病神経障害とは 慢性の高血糖状態によって生じた神経障害で、 糖尿病以外の原因を除外して診断します。 最も早期に出現し、最も頻度の高い 糖尿病合併症です。 代表的な糖尿病神経障害である多発末梢神経 障害は両足先や足底部の知覚障害から発症し、 徐々に上方に進行します。 3-1-2 Section3 糖尿病の慢性合併症 なぜ神経障害が起こるのか? 高血糖状態による種々の代謝障害(ポリオール 代謝、糖化蛋白、 酸化ストレス)や血管障害が 相互に関連して神経障害が生じると言われています。 神経障害に限らず、糖尿病合併症は血糖 コントロールを正常に保てば発症しません。 3-1-3 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病神経障害の発症の仕方による分類 急性発症:眼筋麻痺、尺骨神経麻痺、 腓骨神経麻痺など 亜急性発症:治療後(有痛性)神経障害、 足潰瘍 慢性発症:多発末梢神経障害、自律神経障害、 筋萎縮など 3-1-4 Section3 糖尿病の慢性合併症 治療後有痛性神経障害 特徴 長期間、高血糖下に放置された糖尿病を 急に治療した1∼3ヵ月 後に亜急性に発症する 有痛性神経障害です。やせた中年男性に多く、 疼痛や電撃痛のため不眠、食欲低下、うつ状態に 陥ることがあります。 予後 平均1年で痛みはとれますが、約7割の 例で網膜症が悪化しますので、定期的な眼底 検査が必要です。 3-1-5 Section3 糖尿病の慢性合併症 痛みやしびれ 糖尿病神経障害の症状(1)多発末梢神経障害 両足先や足底部から始まり、上方に進行します。 冷感、ほてり感 足先に多く、実際の皮膚温と一致するとは限りません。 感覚鈍麻 手足の感覚が鈍くなり、進行すると無痛覚となって 危険です。 こむら返り 下腿などの一部の筋肉が突然硬直して痛み、自然軽快 します。 3-1-6 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病神経障害の症状(2)自律神経障害 自律神経障害の多くは無自覚無症状で、症状が現れたときは すでに進行していることが多くみられます。 胃腸障害 便秘や下痢、その繰り返し。 糖尿病下痢は腹痛や血便がないのが特徴です。 肛門アトニーでは便失禁がみられます。 起立性低血圧 立ち眩みや失神。無症状で気が付かないことも多い。 発汗異常 下半身の発汗低下、上半身の発汗亢進。 膀胱障害 排尿時間の延長や排尿回数の減少、排尿困難、 下腹部膨隆。 勃起障害 弱く、持続しない勃起。性欲も次第に低下し、 抑うつになります。 3-1-7 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病自律神経障害による胃アトニー(麻痺) 早朝空腹時に撮影した 腹部単純レントゲン写真です。 著しく拡張した胃袋内に 多量の食物残渣を認め、血糖 コントロールが不安定になります。 しかし、無自覚無症状であった 20歳代1型糖尿病の女性。 (糖尿病の治療マニュアル 第5版) 3-1-8 Section3 糖尿病の慢性合併症 進行した神経障害による深刻な糖尿病神経障害 無痛覚による足潰瘍や壊疽 進行した神経障害のため痛みがなく、外傷ややけどの 発見が遅れたり、気付いても放置したりして、足潰瘍や 壊疽に移行します。 無痛性心筋梗塞 胸痛や胸部圧迫感がないため心臓発作に気付かず、 手当が遅れて深刻な状態に至ります。 無自覚低血糖 頭痛や動悸、冷汗などの低血糖症状がなく、いきなり 低血糖昏睡に至ります。 3-1-9 Section3 糖尿病の慢性合併症 無痛覚症による火傷 だるまストーブの前の椅子に座り、 30分程読書していたら、 臭と煙で高度火傷に気が付いた 30歳代1型糖尿病の女性。 (糖尿病の治療マニュアル 第5版) 3-1-10 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病神経障害の予防と治療 糖尿病神経障害の発症や進行を予防するためには、 血糖コントロールと歩行運動などの下半身の運動が 重要です。 初期∼早期の神経障害は血糖コントロールで治療 できます。中期∼後期の神経障害は非可逆的なこと が多く、症状をとる対症療法が主になります。 足の感覚や皮膚の色を毎日観察し、異常があれば 診察を受けて下さい。 3-1-11 Section3-2 糖尿病網膜症 Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病網膜症とは 視覚障害者の原因疾患 糖尿病網膜症の病変 糖尿病網膜症の進行 糖尿病網膜症の発症率 正常眼底(写真) 単純網膜症(写真) 前増殖網膜症(写真) 増殖網膜症(写真) 網膜症の治療法 眼底検査を受ける目安 Index Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病網膜症は、高血糖による血管障害が原因で 起こる網膜と硝子体の障害です。 網膜症は段階を経て徐々に進行していきます。 「単純網膜症」→「前増殖網膜症」→「増殖網膜症」 病変が網膜内にとどまっている初期の段階で 適切な処置を行えば、進行を抑えられます。 血糖コントロールおよび定期的な眼底検査が重要です。 3-2-1 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病網膜症とは 糖尿病網膜症は、高血糖による血管障害が 原因で起こる網膜と硝子体の障害です。 目に起こる糖尿病合併症の中で発現頻度が高い ものです。 成人の失明原因で第1位を占める疾患です。 3-2-2 Section3 糖尿病の慢性合併症 視覚障害者の原因疾患 その他 19.8% 視神経・ 網脈絡膜萎縮 9.8% 糖尿病網膜症 18.3% 白内障 15.6% 高度近視 10.7% 緑内障 網膜色素 14.5% 変性症 12.2% 厚生省:糖尿病調査研究班 1991 3-2-3 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病網膜症の病変 単純網膜症・前増殖網膜症 増殖網膜症 けんいん 牽引性網膜剥離 網膜 角膜 はくり はくはん 白斑 しょうしたい 光 硝子体 水晶体 視神経 点状出血 はくはん 網膜内に出血・白斑が起こる 3-2-4 硝子体出血 新生血管 病変が硝子体に広がる Section3 糖尿病の慢性合併症 3-2-5 糖尿病網膜症の進行 障害の状況 自覚症状 単純網膜症 ほとんどなし 注意 ・網膜の毛細血管がもろくなる。 ・毛細血管内にできた小さなコブが破れ、 点状出血ができる。 ・血液成分がしみ出て白斑が生じる。 前増殖網膜症 ほとんどなし やや危険 ・点状出血、白斑の数が多くなる。 ・毛細血管内に大きなコブができ、 異常血管が増える。 ・網膜に血流がとどこおる領域ができる。 増殖網膜症 危険 ・新生血管ができる。 ・新生血管が破れ、硝子体出血が起きる。 ・増殖膜ができる。 ・網膜剥離が起きる。 ・大出血が起こると失明にいたる。 ・視力の極端な低下。 ・黒いものがちらつく。 ・ものがぶれて見える。 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病網膜症の発症率 70 60 網 50 膜 症 40 合 併 30 率 (%)20 単純網膜症 前増殖網膜症 10 増殖網膜症 0 0-4年 病期不明 20年以上 5-9年 10-14年 15-19年 罹病期間(糖尿病を発症してからの年数) 厚生省:糖尿病調査研究班 1991 3-2-6 Section3 糖尿病の慢性合併症 3-2-7 正常眼底 Section3 糖尿病の慢性合併症 単純網膜症 白斑 出血 3-2-8 Section3 糖尿病の慢性合併症 前増殖網膜症 白斑 出血 3-2-9 Section3 糖尿病の慢性合併症 増殖網膜症 増殖膜 硝子体出血 3-2-10 Section3 糖尿病の慢性合併症 単純網膜症 (注意) 前増殖網膜症 (やや危険) 増殖網膜症 (危険) 3-2-11 網膜症の治療法 血糖のコントロール 定期的な眼底検査 レーザーによる光凝固 血糖のコントロール 定期的な眼底検査 初期はレーザー光凝固 硝子体手術 血糖のコントロール 定期的な眼底検査 Section3 糖尿病の慢性合併症 眼底検査を受ける目安 網膜症がない場合 1年に1回 網膜症がある場合 3-2-12 単純網膜症と診断され、 点状出血や白斑が多い場合 3∼4ヵ月に1回 前増殖網膜症と診断、または レーザー治療を受けた場合 1∼2ヵ月に1回 増殖網膜症で硝子体出血が ある場合 2週間に1回 Section3-3 糖尿病腎症 Section3 糖尿病の慢性合併症 Index ポイント 糖尿病腎症とは わが国における原腎疾患別透析導入患者数 1983年以降透析導入患者の原腎疾患別生存率 腎臓の働き 腎臓の働きが悪くなると 糖尿病腎症の臨床経過 糖尿病腎症の病期分類 糖尿病腎症の病期別治療法 糖尿病腎不全の治療法 血液透析のしくみ 腹膜透析(CAPD)のしくみ Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病腎症は、毛細血管が集まっている腎臓の 糸球体という部分が高血糖により障害されることに よって起きます。 腎機能障害の程度によって第1期∼第5期までの 5つの段階に分けられます。 腎症前期、早期腎症期、顕性腎症期(前期・後期)、 腎不全期、透析療法期 定期検査による早期発見、早期治療が、進行を遅ら せる最も有効な手段です。 3-3-1 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病腎症とは 高血糖 毛細血管が集まっている腎糸球体に異常 腎臓の働きに重大な障害が生じ腎症が発症 徐々に悪化する進行性の病気。 命に直接かかわる怖い合併症。 糖尿病患者の死因の約15%を占める 。 3-3-2 Section3 糖尿病の慢性合併症 わが国における原腎疾患別透析導入患者数 日本透析医学会統計調査委員会(2002) (名) 14,000 多発性嚢胞腎 腎硬化症 糖尿病腎症 慢性糸球体腎炎 12,000 患 10,000 者 8,000 数 6,000 4,000 2,000 0 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02(年) 年 度 (社)日本透析医学会 統計調査委員会「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2002年12月31日現在)」(日本透析医学会、2003年出版、東京より改変) 3-3-3 Section3 糖尿病の慢性合併症 1983年以降透析導入患者の原腎疾患別生存率 日本透析医学会統計調査委員会(2002) 100 慢性糸球体腎炎(166,831名) 糖尿病腎症(117,389名) 腎硬化症(22,362名) 嚢胞腎(10,452名) 90 80 70 生 存 60 率 50 (%) 40 30 20 10 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 透析導入後期間(年) (社)日本透析医学会 統計調査委員会「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2002年12月31日現在)」(日本透析医学会、2003年出版、東京より改変) 3-3-4 Section3 糖尿病の慢性合併症 腎臓の働き 血液を濾過して余分な老廃物を排泄する。 体の中の水分を調節する。 電解質(Na, K, Cl, Ca, Pなど)バランスを 保つ。 血液を弱アルカリ性(pH 7.4)に保つ。 造血刺激ホルモン(エリスロポエチン)を分泌する。 骨のカルシウム量を調節するビタミンDを活性化する。 血圧を調整する。 3-3-5 Section3 糖尿病の慢性合併症 腎臓の働きが悪くなると 老廃物がたまる。 水分がたまる。 電解質のpHが酸性に傾く。 貧血を起こす。 カルシウム代謝異常の結果、 骨がもろくなる。 血圧が上昇する。 3-3-6 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病腎症の臨床経過 腎症がかなり進行するまでは自覚症状が 全くありません。 早期の段階では、ごく微量のたんぱく質が 尿に認められます。 腎機能の低下の程度が大きくなると、 たんぱく尿が認められます。 以降徐々に腎機能が低下し、腎不全・尿毒症に 至り透析療法が必要となります。 3-3-7 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病腎症の病期分類 病期 臨床的特徴 尿蛋白(アルブミン) GFR(Ccr) 第1期 (腎症前期) 正常 正常 時に高値 第2期 (早期腎症期) 微量アルブミン尿 正常 時に高値 第3期A (顕性腎症前期) 持続性蛋白尿 ほぼ正常 第3期B (顕性腎症後期) 持続性蛋白尿 低下 第4期 (腎不全期) 持続性蛋白尿 (血清クレアチニン上昇) 著明低下 第5期 (透析療法期) 透析療法中 厚生省糖尿病調査研究班報告, 1992, 1993 および日本糖尿病学会 日本腎臓病学会 糖尿病性腎症合同委員会報告, 1999 3-3-8 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病腎症の病期別治療法 第1期(腎症前期) 第2期(早期腎症期) 血糖コントロール 厳格な血糖コントロール、 降圧治療 第3期A(顕性腎症前期) 厳格な血糖コントロール、 降圧治療、蛋白制限食 第3期B(顕性腎症後期) 厳格な降圧治療、蛋白制限食 第4期(腎不全期) 厳格な降圧治療、低蛋白食、 透析療法導入 第5期(透析療法期) 透析療法(血液透析、腹膜透析) 移植 3-3-9 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病腎不全の治療法 血液透析(HD) 腹膜透析(CAPD) 腎移植 生体腎移植 死体腎移植 膵腎同時移植 3-3-10 Section3 糖尿病の慢性合併症 血液透析のしくみ 老廃物を含んだ血液 老廃物 き れ い に な っ た 血 液 ダイアライザー 透析液 供給装置 静脈 動脈 シャント 3-3-11 余分な 水分 Section3 糖尿病の慢性合併症 腹膜透析(CAPD)のしくみ =過剰な水分 =不要な老廃物 =ブドウ糖 腹腔 血液 腹 膜 透析液 カテーテル 出典:腎臓病何でもサイト バクスター株式会社 3-3-12 Section3-4 糖尿病と心疾患、脳血管障害 Section3 糖尿病の慢性合併症 Index ポイント 糖尿病と動脈硬化 糖尿病と心筋梗塞 糖尿病にみられる狭心症・心筋梗塞の特徴 糖尿病にみられる脳血管障害の特徴 動脈硬化の予防のポイント 0° Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病になると動脈硬化を 起こしやすくなります。 細小血管障害 脳血管障害 網膜症 糖尿病特有の合併症のほかに 動脈硬化症を起こしやすくなります。 動脈硬化が進むと、狭心症、 腎症 心筋梗塞などの心臓病や 神経障害 脳卒中などの脳血管障害を 引き起こします。 動脈硬化の危険をできるだけ取り除き、 合併症を未然に防ぐことが重要です。 3-4-1 大血管障害 虚血性 心疾患 閉塞性 動脈硬化症 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病 糖尿病と動脈硬化 高血圧症 高脂血症 肥満 喫煙 ストレス 冠動脈疾患の家族歴 加齢 男性45歳以上 女性55歳以上 動脈硬化の危険因子には糖尿病のほかに高血圧症、高脂血症、肥満、 加齢、喫煙、ストレス、冠動脈疾患の家族歴があげられます。 糖尿病患者さんではこれらの危険因子を重複してもっていることが多く、 動脈硬化を起こしやすくなります。 3-4-2 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病と動脈硬化 動脈硬化とは、動脈の内側の壁に 脂肪やコレステロールがたまり、 その部分の血管が狭く、 もろくなる病態です。 心臓や脳に酸素や栄養を供給する 冠動脈や脳動脈に動脈硬化が起きて 血管が詰まると、心筋梗塞や 脳梗塞など命にかかわる重大な 合併症が引き起こされます。 3-4-3 血 栓 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病と心筋梗塞 50 45 40 7 年 35 間 30 の 発 25 症 20 率 15 (%) 10 5 0 糖尿病 − 心筋梗塞の既往 − − + + − + + Haffner SM et al. NEJM (339) 229-234, 1998 3-4-4 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病にみられる狭心症・心筋梗塞の特徴 典型的な労作時狭心痛があらわれにくいため早期 発見が遅れることがあります。 冠動脈の動脈硬化が広く、発見時には広範囲の虚血が みられることが少なくありません。 非糖尿病者と比べて、生命予後や治療成績が悪くな っています。 少なくとも1年に1回は心臓の検査を受けよう 3-4-5 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病にみられる脳血管障害の特徴 糖尿病は動脈硬化を促進し、脳血管障害の 危険因子となります。特に高血圧症との 相乗効果は著明です。 脳血管の細い領域で小梗塞が多発することが 多く、半身麻痺やろれつが回らないなどの 典型的な症状が出にくいです。 無症状のまま経過し、脳CTで初めて診断 される例もあります。 3-4-6 Section3 糖尿病の慢性合併症 動脈硬化の予防のポイント 血糖コントロール、血圧コントロールをしっかり行う。 食事療法を守り、肥満に気をつける。 卵・レバーなどの食品や動物性脂肪をとりすぎない。 塩分を控える。 食物繊維を多くとる。 禁煙。 ストレスをためない。 適度な運動を心がける。 血液、血圧、心電図など定期的に検査を受ける。 3-4-7 Section3-5 糖尿病と足病変 Section3 糖尿病の慢性合併症 Index ポイント 糖尿病足病変の発生機序 糖尿病足病変の誘因 足の病変が起こりやすい場所 糖尿病壊疽 血管障害による壊疽 神経障害による壊疽 糖尿病壊疽の治療 Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病では、足にさまざまな病変が生じやすい。 悪化すると潰瘍や糖尿病壊疽を起こします。 糖尿病壊疽には、血管障害によるものと 神経障害によるものがあります。 壊疽のタイプによって治療方法は異なります。 3-5-1 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病足病変の発生機序 神経障害 循環障害 感染症 糖尿病のフットケア(医歯薬出版)より改変 3-5-2 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病足病変の誘因 1978-1992年間の足病変例 312名 不明 1% 感染症 3% 乾燥・亀裂 2% 外傷 7% 熱傷 19% 靴ずれ 69% (東京女子医科大学, 新城) 3-5-3 Section3 糖尿病の慢性合併症 足の病変が起こりやすい場所 ウオノメができやすい 指の間は とくに水虫が できやすい (足裏) 靴ずれが できやすい タコができやすい マメができやすい 3-5-4 爪真菌症に 感染することがある 深爪に注意 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病壊疽 糖尿病では、靴ずれ、火傷、外傷、水虫 などによるちょっとした傷で感染症を合併して 悪化しやすく、潰瘍や壊疽になりやすい。 血管障害から起こるものと、神経障害に よるものがあります。 3-5-5 Section3 糖尿病の慢性合併症 血管障害による壊疽 動脈硬化などで足先の血流が悪くなる 白血球や傷の回復を促す血液成分が減少する 小さな傷でも化膿しやすくなる 壊疽 3-5-6 Section3 糖尿病の慢性合併症 神経障害による壊疽 知覚神経が麻痺する 病変に気づかず傷や感染を放置してしまう 感染が悪化する 壊疽 3-5-7 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病壊疽の治療 血管障害による壊疽 末梢循環改善薬の投与 バルーン療法(狭くなった血管を広げる) バイパス手術(新たな血管を移植) 再生医療(自己白血球を虚血肢に筋肉注射) 遺伝子治療(血管増殖させる遺伝子を虚血肢に筋肉注射) 神経障害による壊疽 細菌検査を行い、必要に応じて抗菌薬を投与 病変部の安静、免荷、保護 3-5-8 Section3-6 糖尿病と皮膚病変 Section3 糖尿病の慢性合併症 Index ポイント 糖尿病に合併しやすい皮膚疾患 糖尿病浮腫性硬化症(写真) デュピュイトラン拘縮(写真) 関節運動制限(写真) 糖尿病水疱 皮膚感染症予防のポイント Section3 糖尿病の慢性合併症 ポイント 糖尿病では、高血糖、血管障害、神経障害 などが誘因となり、皮膚炎をはじめとする さまざまな皮膚病変が起こります。 皮膚病変を防ぐためには、きちんと 血糖コントロールを行うことが大原則です。 常に清潔を保つよう心がけ、小さな傷でも すぐに手当てを行って皮膚感染症を防ぎます。 3-6-1 Section3 糖尿病の慢性合併症 糖尿病に合併しやすい皮膚疾患 糖尿病浮腫性硬化症 カンジダ症 黒色棘皮症(表皮症) 帯状疱疹 デュピュイトラン拘縮 掌蹠膿胞症 足白癬・爪白癬 3-6-2 リポイド類壊死症 前脛骨部色素斑 糖尿病水疱 糖尿病壊疽 胼胝 (タコ) 蜂窩織炎 鶏眼(ウオノメ) 角化 Section3 糖尿病の慢性合併症 3-6-3 糖尿病浮腫性硬化症 Section3 糖尿病の慢性合併症 3-6-4 デュピュイトラン拘縮 Section3 糖尿病の慢性合併症 3-6-5 関節運動制限 Section3 糖尿病の慢性合併症 3-6-6 糖尿病水疱 Section3 糖尿病の慢性合併症 皮膚感染症予防のポイント 血糖コントロールをきちんと行います。 免疫システムがうまく働くよう、 抵抗力を高めます。 清潔を保ちます。 足や手の状態をチェックし、悪化させる前に 治療します。 靴ずれや小さな傷もすぐ手当てします。 3-6-7 Section4 糖尿病の急性合併症 Section4 糖尿病の急性合併症 4-1 糖尿病昏睡(高血糖昏睡) 4-2 急性感染症 4-3 低血糖 Section4-1 糖尿病昏睡(高血糖昏睡) Section4 糖尿病の急性合併症 Index ポイント 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)とは 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の誘因 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の症状 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の治療 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の予防 Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)とはインスリン作用が 極度に不足したときに生じる高血糖に伴う高度の 意識障害をいいます。 インスリン注射の中止、感染症、ストレス、過労、 暴飲暴食などが誘因となります。 全身倦怠感、口渇感、多尿、眠気、嘔気・嘔吐、 腹痛、意識障害などの症状がみられます。 4-1-1-1 Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント インスリン投与、輸液、電解質補正などによる 治療を行います。 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)を予防するためには、 普段から血糖コントロールを良好に保つ、 感染症を十分に治療する、勝手な判断でインスリン 注射を中止しないことなどが大切です。 4-1-1-2 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)とは インスリンが極度に不足すると ブドウ糖が細胞にとりこまれず、うまくエネルギーに変えられ ないので、血管内にブドウ糖が蓄積し、代わりに脂肪が分解され、 エネルギー源として利用されます 脂肪分解の結果、副産物であるケトン体が血液中に過剰に 増えて血液が酸性になります(ケトアシドーシス) 脳の機能が低下して昏睡に陥ります 4-1-2 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の誘因 インスリン注射を自分の判断で 中止したり、量を減らした場合 肺炎などの重い感染症 過労 ストレス 暴飲暴食 など 4-1-3 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の症状 全身倦怠感 嘔気・嘔吐 口渇感 腹痛 多尿 意識障害 眠気 4-1-4 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の治療 インスリン投与 輸液(脱水の補正) 電解質補正(Na、K、HCO3、Ca、Pなど) 原疾患(感染症など)の治療 合併症の予防及び治療(脳浮腫、脳梗塞、 心筋梗塞、急性腎不全など) 4-1-5 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)の予防 普段から血糖コントロールを良好に保つ。 感染症を十分に治療する。 勝手な判断でインスリン注射を中止しない。 4-1-6 Section4-2 急性感染症 Section4 糖尿病の急性合併症 Index ポイント なぜ感染症にかかりやすいのか 糖尿病と関係の深い感染症(1) 糖尿病と関係の深い感染症(2) 感染症の予防と治療 Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント 糖尿病になると、細菌やウイルスなどに対する体の 抵抗力が弱くなるため、かぜ、膀胱炎、皮膚炎など さまざまな感染症を起こしやすくなります。 予防には血糖管理と規則正しい生活が重要です。 感染症に対しては抗菌薬による治療を行います。 4-2-1 Section4 糖尿病の急性合併症 なぜ感染症にかかりやすいのか 血糖コントロールが悪いと、病原菌を撃退する 白血球の働きが 低下します。 血管障害によって血流が悪くなると、白血球が 病変部に到達しにくくなります。 神経障害を合併している場合には、ケガや感染症の 痛みに気づかずに治療が遅れます。 4-2-2 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病と関係の深い感染症(1) 呼吸器感染症:かぜ、気管支炎、肺炎、肺結核 尿路感染症:膀胱炎、腎盂腎炎 皮膚感染症:白癬菌症(水虫)、皮下膿瘍(おでき)、 毛のう炎 口腔内感染症:虫歯、歯周病 その他:胆のう炎、糖尿病壊疽 4-2-3 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病と関係の深い感染症(2) 虫歯、歯周病 肺炎、肺結核 かぜ、気管支炎 胆のう炎 腎盂腎炎 爪白癬症 おできや毛のう炎 足白癬症 4-2-4 膀胱炎 糖尿病壊疽 Section4 糖尿病の急性合併症 感染症の予防と治療 予防 血糖コントロールを良好に保つ。 治療 抗菌薬や抗ウイルス薬(インフルエンザの 場合)を投与する。 免疫システムがうまく働くよう、抵抗力を高めます。 細菌やウイルスを殺すか、数が増えないようにします。 4-2-5 Section4-3 低血糖 Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント 低血糖とは 低血糖の誘因 低血糖の症状 低血糖の対処法 無自覚低血糖とは 糖尿病カード(例) 低血糖の予防 Index Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント 低血糖とは、血糖値が正常範囲以下にまで 下がった状態をいいます。 低血糖を放置すれば昏睡に至ります。 インスリンや経口血糖降下薬が多すぎたり、 食事時間が不規則であったり、食事量が少ない 場合などに起こります。 4-3-1-1 Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント 血糖値のレベルに応じてさまざまな症状が現れ、 最終的には意識がもうろうとし、けいれん、 昏睡に至ります。 自分で気づいた場合には砂糖や糖分を含んだ ジュースを飲みます。 意識がない場合には、第三者がグルカゴンを 注射し、意識が戻らない場合は病院に運びます。 4-3-1-2 Section4 糖尿病の急性合併症 ポイント 予期せぬ事態に備え、糖尿病カードを携帯して おきます。 予防のポイントとして規則正しい食事、運動、 分食の徹底、アメ玉などの糖分の携帯などを 行います。 4-3-1-3 Section4 糖尿病の急性合併症 低血糖とは 低血糖とは、血糖値が正常範囲以下にまで 下がった状態をいいます。 放置すれば昏睡に陥ることもある危険な 状態です。 4-3-2 Section4 糖尿病の急性合併症 低血糖の誘因 インスリンや経口血糖降下薬が多すぎたり、 投与時間を守らなかった 食事時間の遅れや食事量の不足 空腹時の激しい運動 飲酒 解熱剤、鎮痛剤の服用 下痢症状 肝臓、腎臓の機能低下 4-3-3 Section4 糖尿病の急性合併症 低血糖の症状 あくび、不快感、異常な空腹感、考えがまとまらない 眠気、だるさ、吐き気、イライラ、目がちらつく、頭痛、ふるえ、 動悸、冷や汗、めまい、脈拍が速くなる、顔面蒼白 意識がもうろう、異常行動、意識喪失、けいれん、昏睡 4-3-4 Section4 糖尿病の急性合併症 低血糖の対処法 自分で気づいた場合 糖分を摂取(砂糖10∼20g)。 砂糖がなければ、糖分を含んだジュースでもかまいません。 α-グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン)を服用しているときは 砂糖をとっても効き目がすぐに現れないので必ずブドウ糖を服用してください。 意識がない場合 砂糖やジュースを口に入れると気管に入る可能性があるので 避けましょう。グルカゴン製剤を処方されている場合には、 第三者が筋肉注射します。意識が回復しなければ病院へ運びます。 4-3-5 Section4 糖尿病の急性合併症 無自覚低血糖とは 自覚症状が全く出ない低血糖発作をいいます。 前兆が無いため突然意識消失に至ることがあります。 第三者の助けを借りて適切な処置をしてもらう ためにも糖尿病カードを携帯しましょう。 4-3-6 Section4 糖尿病の急性合併症 糖尿病カード(例) 糖尿病カード見本 (表) (裏) わたしは糖尿病です I HAVE DIABETES わたしが意識不明になったり、様子がおかしいと きは、わたしの携帯している砂糖(ブドウ糖)を 食べさせるか、またはジュースなどの甘いものを 飲ませてください。 それでも回復しないときは、裏面の医療機関に電 話して、指示を受けてください。 4-3-7 氏名: 電話: 住所: 受診医療 機関名: 主治医名: カルテ番号: 電話: 治療内容: Section4 糖尿病の急性合併症 低血糖の予防 ∼重症発作を起こさないために∼ 規則正しい食事、運動療法を行います。 分食を徹底します。 低血糖症状の軽いうちに補食をします。 外出時等は糖分を携帯します。 血糖自己測定器を持っている方は、可能であれば 測定をして低くならないうちに対処します。 4-3-8 Section5 糖尿病の治療 2005年3月改訂 Section5 糖尿病の治療 5-1 糖尿病治療の考え方 5-2 食事療法 5-3 運動療法 5-4 経口血糖降下薬 5-5 インスリン療法 Section5-1 糖尿病治療の考え方 Section5 糖尿病の治療 Index ポイント 糖尿病治療の目標 糖尿病治療の基本 糖尿病の病型と薬物療法 Section5 糖尿病の治療 ポイント 糖尿病治療では、長期間にわたって良好な血糖値の コントロールを保つことが大切です。 病気について正しい知識をもち、食事療法、運動 療法、薬物療法を組み合わせて治療を行います。 適切な治療を続ければ、症状の悪化や合併症を防ぐ ことができ、健康な人と変わらない日常生活を 送れるようになります。 5-1-1 Section5 糖尿病の治療 糖尿病治療の目標 血糖値をコントロール 合併症を予防する 腎症 網膜症 神経障害 動脈硬化症 急性合併症 糖尿病昏睡 低血糖 健康な人と変わらない日常生活を送る 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、21頁、文光堂より改変 5-1-2 Section5 糖尿病の治療 糖尿病治療の基本 薬物療法 インスリン注射 経口血糖降下薬 食事療法 運動療法 糖尿病に対する 正しい知識 5-1-3 血糖値を コントロール 健康な人と 変わらない 日常生活を送る Section5 糖尿病の治療 1型糖尿病 2型糖尿病 糖尿病の病型と薬物療法 インスリン療法 膵臓からほとんどインスリンが分泌されないため、 体内で不足しているインスリンをインスリン注射によって補う 経口血糖降下薬療法 インスリン療法 5-1-4 スルホニル尿素(SU)薬 ビグアナイド(BG)薬 α-グルコシダーゼ阻害薬 チアゾリジン誘導体 速効型インスリン分泌促進薬 Section5-2 食事療法 Section5 糖尿病の治療 ポイント なぜ食事療法が必要か 食事療法の原則 BMI(Body Mass Index)とは 自分の適正体重を知る 自分の必要エネルギーを知る 労働別必要エネルギー 食事のとり方のポイント 適度な飲酒の量 栄養素の機能 食品交換表の活用 食品交換表による食品の分類 調理の工夫 外食の上手なとり方 食習慣改善のコツ Index Section5 糖尿病の治療 ポイント 食事療法は糖尿病治療の基本です。 自分の適正体重と必要なエネルギー摂取量を 把握しておくことが重要です。 5-2-1 Section5 糖尿病の治療 なぜ食事療法が必要か 食べすぎる インスリンがたくさん必要になり、かつ太る 体内に脂肪がたまる インスリンに対する感受性が低下し、十分な効果が現れない 余分なブドウ糖が血液中に残り、血糖値が上がる インスリン分泌がさらに低下し、作用も弱まる 5-2-2 Section5 糖尿病の治療 食事療法の原則 適正なエネルギー量の食事 栄養素のバランスが良い食事 規則的な食事習慣 5-2-3 Section5 糖尿病の治療 BMI(Body Mass Index)とは BMIは肥満度を判定する代表的な指標。 BMIの算出方法 体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m) 肥満度の判定 BMI 18.5未満・・・「やせ」 BMI 18.5∼25・・・ 「標準」 *BMIが22のとき、 BMI 25以上・・・・「肥満」 理想的な「適正体重」となる 肥満研究, Vol 6 No1, 2000 5-2-4 Section5 糖尿病の治療 自分の適正体重を知る 適正体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 *BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m) BMIが22で適正体重 5-2-5 Section5 糖尿病の治療 自分の必要エネルギーを知る 必要エネルギー(kcal) =適正体重(kg)×体重1kgあたりの 1日の消費エネルギー(kcal) 5-2-6 Section5 糖尿病の治療 労働別必要エネルギー(一般成人の場合・体重1kgあたり) 労働強度 職種や状態の例 1日の消費 エネルギー 軽い 高齢者、幼児がいない専業主婦、管理職、 短距離通勤の一般事務職、研究職、作家 25kcal 中くらい 育児中の主婦、外交員、 長距離通勤の一般事務職、教員、医療職、 製造業、小売店主、サービス業、輸送業 25∼30kcal やや重い 農耕作業、造園業、漁業、建築・建設業、 運搬業 30∼35kcal 農耕・牧畜・漁業の最盛期、 建築・建設作業現場、スポーツ選手 35∼40kcal 重い 5-2-7 Section5 糖尿病の治療 食事のとり方のポイント まとめ食いと夜食を避ける。 よく噛み、ゆっくり食べる。 1日3食を規則正しくとる。 腹八分目を心がける。 デザートや果物もエネルギー計算に入れる。 5-2-8 Section5 適度な飲酒の量 糖尿病の治療 お酒の種類 ウイスキー・ ブランデー 焼酎(35度) ビール 清酒 中瓶1本 500mL 1合 180mL ダブル1杯 60mL 半合 90mL グラス2杯 240mL アルコール度数 5% 15% 43% 35% 12% 純アルコール量 20g 22g 20g 25g 24g ※1日平均、純アルコール量で約20g程度が目安 (ただし、主治医の指示に従ってください) 5-2-9 ワイン 健康日本21より Section5 栄養素の機能 糖尿病の治療 三 大 栄 養 素 炭水化物 蛋白質 脂質 主要なエネルギー源となる [50∼60%*] 筋肉や血液など、体の組織をつくる [15∼20%*] エネルギー源として使われたり、 脂肪として蓄えられる [20∼25%*] ビタミン ミネラル 食物繊維 体の調子を整える 血糖値の上昇を緩やかにする *目標とされる摂取量の総エネルギーに占める割合 5-2-10 Section5 糖尿病の治療 食品交換表の活用 食品交換表では、食品を6つのグループ(表)に分類し、 それぞれに80kcalを1単位とする分量が示されている。 同じグループ(表)内の食品は、単位数を同じにすれば、 エネルギーと栄養素を変えずに交換して食べることが できる。 食品交換表を活用し、変化に富んだ献立を工夫する。 5-2-11 Section5 糖尿病の治療 食品交換表による食品の分類 おもに炭水化物を含む食品 表1 穀物(ご飯、パン、めん類)、いも類、 糖質の多い野菜と種実、豆類(大豆を除く) 果物 表2 おもに脂質を含む食品 表5 油脂、多脂性食品(生クリーム、豚ばら肉、 ベーコン、ごまなど) おもにビタミン、ミネラルや食物繊維を含む食品 表6 野菜(糖質の多い一部の野菜を除く)、 海藻、きのこ、こんにゃく おもにたんぱく質を含む食品 表3 魚介類、肉とその加工品、卵、チーズ、 大豆とその製品 調味料 みそ、砂糖、みりん、トマトケチャップなど 牛乳と乳製品(チーズを除く) 表4 日本糖尿病学会編「糖尿病食事療法のための食品交換表」第6版より 5-2-12 Section5 糖尿病の治療 調理の工夫 量を多く食べられる食品を選ぶ 低エネルギー食品を活用する 見た目のかさを増やす 料理の品数を増やす 水分の多い料理を取り入れる 旨味・酸味・香りをいかした味付けにする 5-2-13 Section5 糖尿病の治療 外食の上手なとり方 エネルギーの高い料理 多い分は残す、和食メニューが無難 栄養のバランスがとりづらい 定食を選ぶ、食品の多い料理を選ぶ 野菜が不足しがち 一品料理を追加する、その日の別の食事で調整 5-2-14 Section5 糖尿病の治療 食習慣改善のコツ できることからすぐにスタート (間食をやめる、油を控える・・・) 就寝が近い夕食は軽く、朝食はしっかり食べる つい食べすぎてしまった時、どうしても食べたい時、 連日の過食はさける 5-2-15 Section5-3 運動療法 Section5 糖尿病の治療 Index ポイント 運動の意義 運動を始める前のチェック 運動療法を禁止あるいは制限した方がよい場合 効果的な運動とは 消費したエネルギーの算出法 運動の種類別にみた1分間のエネルギー消費量 安全に運動をするためのポイント Section5 糖尿病の治療 ポイント 適度な運動により、食事療法との併用で 治療効果が高まります。 運動療法を始める前には、メディカルチェックを 受けます。 一定時間継続して運動を行うことが大切です。 有酸素運動が効果的です。 無理をせずマイペースで行います。 空腹時の運動は避けます。 5-3-1 Section5 糖尿病の治療 運動の意義 運動によりグリコーゲンが消費されるため、それを補う ために血液中のブドウ糖が筋肉内に取り込まれ、血糖値が 低下する。 インスリンの働きを活性化させる。 インスリンの分泌量を適量に抑える。 肥満を解消する。 血液の循環をよくする。 心肺機能を促進する。 ストレスを解消する。 5-3-2 Section5 糖尿病の治療 運動を始める前のチェック 血糖コントロールの状態 合併症の有無や程度 その他の疾患の有無 血圧がかなり高かったり、心電図に異常がみられる 場合には、運動を負荷した状態での検査も必要です。 5-3-3 Section5 糖尿病の治療 運動療法を禁止あるいは制限した方がよい場合 糖尿病の代謝コントロールが極端に悪い場合 増殖網膜症による新鮮な眼底出血がある場合 腎不全の状態にある場合 虚血性心疾患や心肺機能に障害のある場合 骨・関節疾患がある場合 急性感染症 糖尿病壊疽 高度の糖尿病自律神経障害 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、39頁、文光堂より改変 5-3-4 Section5 糖尿病の治療 効果的な運動とは 有酸素運動(酸素を取り入れながら行う運動) エアロビクス ウォーキング サイクリング 水泳 など 20∼30分の運動を少なくとも週に3日は行う。 食事の1∼2時間後に行うのが効果的。 5-3-5 Section5 糖尿病の治療 消費したエネルギーの算出法 消費したエネルギー量(kcal) =1分間のエネルギー消費量(kcal/kg/分) ×体重(kg)×持続時間(分)×補正係数 日本体育協会スポーツ科学委員会の資料より 5-3-6 Section5 糖尿病の治療 運動の種類別にみた1分間のエネルギー消費量 (kcal/kg/分) 散歩 歩行(60m/分) 0.0464 0.0534 ジョギング(軽い) 0.1384 体操(軽い) 0.0552 サイクリング(10km/時) 0.0800 階段昇降 0.1004 水泳(ゆっくり平泳ぎ) 0.1968 ゴルフ(平均) 0.0835 日本体育協会スポーツ科学委員会の資料より 5-3-7 Section5 糖尿病の治療 安全に運動をするためのポイント 無理をせず、それぞれの人に適した量(強度、 継続時間)で行う。 体調が悪いとき、運動中に激しい動悸や息切れ、 頭痛、めまい、吐き気などが現れたときは中止する。 なかなか疲れがとれないときは医師に相談する。 薬物療法を行っている人は運動による低血糖に 注意する。 空腹時の運動は避ける。 5-3-8 Section5-4 経口血糖降下薬 Section5 糖尿病の治療 Index ポイント 経口血糖降下薬の種類 経口血糖降下薬の作用と副作用 主な経口血糖降下薬の商品名と用法 経口血糖降下薬服用にあたっての注意点 Section5 糖尿病の治療 ポイント 経口血糖降下薬は、基本的に食事療法や 運動療法でも血糖値がコントロールできない 2型糖尿病(Section1参照)の治療に用います。 スルホニル尿素(SU)薬、ビグアナイド(BG)薬、 α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン誘導体、 速効型インスリン分泌促進薬などの種類が あります。 5-4-1 Section5 糖尿病の治療 経口血糖降下薬の種類 筋肉などに働く チアゾリジン誘導体 インスリン作用を高め 血糖値を下げる 膵臓に働く スルホニル尿素(SU)薬 速効型インスリン分泌促進薬 インスリンを出して血糖値を 下げる 肝臓などに働く ビグアナイド(BG)薬 肝臓で糖がつくられるのを 抑える一方、糖の利用を 促進する 5-4-2 腸に働く α-グルコシダーゼ阻害薬 糖質吸収を遅らせ、食後の 血糖上昇を抑制する Section5 糖尿病の治療 経口血糖降下薬の作用と副作用 種類(一般名) 原則的な 服用時間 スルホニル尿素(SU)薬 (トルブタミド、グリベンクラミド、 食前 グリクラジド、グリメピリドなど) 20-30分前 ビグアナイド(BG)薬 (メトホルミン、ブホルミン) α-グルコシダーゼ阻害薬 (アカルボース、ボグリボース) チアゾリジン誘導体 (ピオグリタゾン) 速効型インスリン分泌促進薬 (ナテグリニド、ミチグリニド) 5-4-3 食後 作用 インスリン分泌促進 低血糖 インスリン作用の増強 胃腸障害 まれに乳酸アシドーシス 食後の高血糖を改善 食直前 主な副作用 腸管での糖質の分解・吸収を 抑制 消化器症状(膨満感、放屁、便秘、下痢) 他の血糖降下薬剤との併用時、低血 糖時、ブドウ糖以外の糖類の補食では 低血糖からの回復が遅れる事がある 肝障害 食前または インスリンの作用を増強し、 浮腫、心不全、肝障害、貧血 食後 インスリン抵抗性改善 体重増加 食直前 インスリン分泌促進 低血糖 Section5 糖尿病の治療 主な経口血糖降下薬の商品名と用法 種類 一般名:商品名 医療従事者向け 用法(1日) スルホニル尿素(SU)薬 トルブタミド:ヘキストラスチノン、ジアベンなど グリクロピラミド:デアメリンS アセトヘキサミド:ジメリン クロルプロパミド:アベマイド グリクラジド:グリミクロンなど グリベンクラミド:オイグルコン、ダオニールなど グリメピリド:アマリール など 1∼2回 1∼2回 1∼2回 1回 1∼2回 1∼2回 1∼2回 ビグアナイド(BG)薬 メトホルミン:グリコラン、メルビンなど ブホルミン:ジベトスBなど 2∼3回 2∼3回 α-グルコシダーゼ阻害薬 アカルボース:グルコバイ ボグリボース:ベイスン 3回 3回 チアゾリジン誘導体 ピオグリタゾン:アクトス 1回 速効型インスリン分泌促進薬 ナテグリニド:スターシス、ファスティック ミチグリニド:グルファスト 3回 3回 5-4-4 Section5 糖尿病の治療 経口血糖降下薬服用にあたっての注意点 食事療法や運動療法をきちんと行うことが大切です。 原則として最初は1種類からはじめ、経過観察後、 効果が不十分な場合には複数の薬剤を使用します。 食事がとれないときには服用しないでください。 具合が悪いときには主治医に相談してください。 重篤な肝障害、腎障害、妊娠時などには、 インスリン療法に切り換えます。 5-4-5 Section5-5 インスリン療法 Section5 糖尿病の治療 Index ポイント インスリン療法が必要な人 インスリン製剤の種類(1) インスリン製剤の種類(2) 注射器の種類 主なインスリン注入器 インスリン皮下注射部位 インスリン療法の基本 インスリン療法の基本型(1) インスリン療法の基本型(2) インスリン療法の基本型(3) インスリン療法の基本型(4) 注射にあたっての注意(1) 注射にあたっての注意(2) インスリンの保存法 Section5 糖尿病の治療 ポイント インスリンは、主治医の指示に従い、通常、 食直前や食事の30分前などに自分で皮下に注射 します。 インスリン製剤には、効果が現れる時間と作用の 持続時間の違いによって超速効型、速効型、 混合型、中間型、持効型溶解などがあります。 注射器にはシリンジとペン型の2つのタイプが あり、現在では簡便なペン型が一般的です。 5-5-1-1 Section5 糖尿病の治療 ポイント 注射は決められた部位に正しく打ちます。 注射部位は、腹部、大腿部、上腕部、臀部など。 原則的には、注射は主治医から指示された量を、 指示された時間に打ちます。 主治医から具体的な指示を受けている場合には、 血糖値の変化に応じてインスリン注射の量を 調節することも可能です。 簡易血糖測定器を備え、家庭や職場でも血糖値をチェックする ことが望ましい。 5-5-1-2 Section5 糖尿病の治療 インスリン療法が必要な人 1型糖尿病 2型糖尿病で、食事療法、運動療法、経口薬療法の 効果が不十分な場合 2型糖尿病であっても、以下の場合には一時的に インスリン療法が必要になります。 感染症、糖尿病昏睡、外傷、手術、妊娠、腎障害、肝障害など 5-5-2 Section5 糖尿病の治療 インスリン製剤の種類(1) 注射後 0 効果が現れる時間と作用の 持続時間の違いによって いくつかの種類がある。 超速効型 速効型 混合型 中間型 持効型溶解 5-5-3 6 12 18 24 30 時間 36 Section5 糖尿病の治療 インスリン製剤の種類(2) 医療従事者向け 超速効型:ヒューマログ、ノボラピッド 速効型:ヒューマリンR、ヒューマカートR、 ノボリンR、ペンフィルRなど 混合型:ヒューマログミックス25、ヒューマログミックス50、 ヒューマリン3/7、ヒューマカート3/7、 ノボラピッド30ミックス、ノボリン30Rなど 中間型:ヒューマログN、ヒューマリンN、 ヒューマカートN、ノボリンN 持効型溶解:ランタス 5-5-4 注射器の種類 Section5 糖尿病の治療 ペン型 220 140 180 100 60 20 カートリッジタイプ シリンジ 5-5-5 ディスポーザブルタイプ(キット) Section5 糖尿病の治療 主なインスリン注入器 カートリッジタイプ ヒューマペンエルゴ ヒューマペンラグジュラ ノボペン300 ノボペン300デミ オプチペンプロ1 プレフィルド/キット(使い捨て)タイプ ヒューマカート(キット) ヒューマログ(キット) フレックスペン イノレット 5-5-6 Section5 糖尿病の治療 5-5-7 インスリン皮下注射部位 Section5 糖尿病の治療 インスリン療法の基本 健常人のインスリン分泌は、基礎インスリン 分泌と、食事によるブドウ糖やアミノ酸刺激 による追加インスリン分泌からなっている。 インスリン療法の基本は、健常人にみられる 血中インスリンの変動パターンを再現する ことにある。 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、50頁、文光堂より 5-5-8 Section5 糖尿病の治療 インスリン療法の基本型(1) 追加補充療法 超速効型あるいは速効型インスリンを毎食前投与 超速効型あるいは速効型インスリンを毎食前3回注射 注 射 注 射 超速効型 または 速効型 朝食 5-5-9 注 射 超速効型 または 速効型 昼食 超速効型 または 速効型 夕食 Section5 糖尿病の治療 インスリン療法の基本型(2) 基礎補充療法 中間型、あるいは持効型溶解インスリンを1日1∼2回投与 注射 中間型 朝食 注射 昼食 夕食 眠前 朝食 注射 昼食 夕食 注射 持効型溶解 5-5-10 朝食 眠前 注射 昼食 夕食 眠前 朝食 昼食 夕食 眠前 Section5 糖尿病の治療 インスリン療法の基本型(3) 基礎 ・ 追加補充療法-1 混合型インスリンを1日2回注射 混合型インスリンを1日2回 注射、昼食前に速効型または 超速効型インスリンを追加 イ ン ス リ ン 効 果 イ ン ス リ ン 効 果 注 射 混合型 混合型 混合型 注 射 朝食 昼食 夕食 注 射 注 射 注 射 速効型 または 超速効型 混合型 朝食 5-5-11 混合型 就寝 混合型 昼食 夕食 就寝 Section5 糖尿病の治療 インスリン療法の基本型(4) 基礎 ・ 追加補充療法-2 食前に速効型/超速効型+ 中間型または持効型溶解 インスリンを朝または眠前 注 射 注 射 速効型 または 超速効型 注 射 速効型 または 超速効型 注 射 速効型 または 超速効型 中間型/持効型溶解 朝食 持続皮下インスリン 注入法(CSII) 追加 昼食 追加 夕食 追加 持続注入 朝食 5-5-12 昼食 夕食 眠前 Section5 糖尿病の治療 注射にあたっての注意(1) 通常、食前に患者さん自身で行います。 幼児の場合には大人の家族が行います。 場合によって、血糖値の変化に応じてインスリンの 量を調節します。 簡易血糖測定器を備え、家庭や職場でも血糖値をチェックする ことが望ましい。 5-5-13 Section5 糖尿病の治療 注射にあたっての注意(2) 注射部位が硬化をきたした場合には、前回注射した 場所から3cm以上離した場所に変えます。 硬化をきたした場合には吸収が遅くなる可能性がある。 注射後はもんだりせず、1時間くらいは入浴や激しい 運動を避けましょう。 吸収が早くなる可能性がある。 5-5-14 Section5 糖尿病の治療 インスリンの保存法 インスリン製剤 インスリン製剤は冷蔵庫(2∼8℃)に 保存してください。 インスリン製剤は凍結させないこと。 ※使用中のペン型注入器は室温で保存してください。 5-5-15 Section6 小児ヤングの糖尿病 Section6 小児ヤングの糖尿病 Index ポイント 30歳未満で発見された糖尿病患者さんの年齢別病型別患者数 東京女子医科大学糖尿病センターに登録された糖尿病患者さんの比率 日本人小児糖尿病患者さんの病型の特徴 1型糖尿病患者さんの血糖コントロールと合併症罹患率 小児の糖尿病の最近の傾向 小児ヤング糖尿病患者さんの特徴 小児ヤング糖尿病が青壮年者の糖尿病と臨床上異なる点は? 小児糖尿病に対する治療の考え方 1型糖尿病児の食事療法の実際 2型糖尿病児の食事療法の実際 参考―生活活動強度別エネルギー所要量(kcal/日) これからの課題―生活習慣を見直し糖尿病を予防する― Section6 小児ヤングの糖尿病 ポイント 10歳未満で発症した糖尿病のほとんどは 1型糖尿病です。 10歳以降に発症した場合は、1型糖尿病も 2型糖尿病もあります。 合併症の進行を防ぐためには、発症直後からの 厳格な血糖コントロールが最も重要です。 最近、肥満した小児の2型糖尿病が増えています。 大人も子供も生活習慣を見直し、糖尿病の発症を 予防することが21世紀の重要な課題です。 6-1 Section6 小児ヤングの糖尿病 30歳未満で発見された糖尿病患者さんの年齢別病型別患者数 小児期・思春期の糖尿病には1型も2型もあります。 160 140 120 患 者 100 数 80 (人)60 40 20 0 1型糖尿病 (n=841) 2型糖尿病 (n=1,335) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 発見年齢(歳) (東京女子医科大学糖尿病センター 1980∼1995)大谷ら 糖尿病42:179, 1997 6-2 Section6 小児ヤングの糖尿病 東京女子医科大学糖尿病センターに登録された糖尿病患者さんの比率 9歳未満発見発症糖尿病の1型と2型の比率 2型 1.6% 1型 98.4% 9-18歳未満発見発症糖尿病の1型と2型の比率 1型 53.8% 2型 46.2% 18-30歳未満発見発症糖尿病の1型と2型の比率 1型 23.1% 2型 76.9% 31歳以上発見発症糖尿病の1型と2型の比率 2型 95-98% 1型 2-5% (1960-1999 東京女子医科大学糖尿病センター) 6-3 Section6 小児ヤングの糖尿病 6-4 日本人小児糖尿病患者さんの病型の特徴 たとえば 日本人で 5歳で糖尿病が発症したら ほとんど 1型糖尿病 たとえば 日本人で 13歳で発症したら 1型か2型か わからない たとえば アメリカ白人で 20歳で糖尿病が発症したら ほとんど 1型糖尿病 Section6 小児ヤングの糖尿病 1型糖尿病患者さんの血糖コントロールと合併症罹患率 糖尿病増殖網膜症の進展 (%) 70 60 50 累 積 40 罹 患 30 率 血糖コントロール HbA1c≧9.0% HbA1c7.0-9.0% HbA1c≦7.0% 糖尿病腎症の進展 (%) 70 60 HbA1c≧9.0% 50 HbA1c7.0-9.0% HbA1c≦7.0% 累 積 40 罹 患 30 率 20 20 10 10 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 糖尿病罹病期間(年) 血糖コントロール 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 糖尿病罹病期間(年) Yokoyama H et. al., Diabetes Res Clin Prac. 29:203, 1995 6-5 Section6 小児ヤングの糖尿病 小児の糖尿病の最近の傾向 肥満した子供の2型糖尿病が増えています 子供を肥満させてはいけない! 6-6 Section6 小児ヤングの糖尿病 小児ヤング糖尿病患者さんの特徴 自己管理が望めない年齢です。 人生の中で最も食欲の旺盛な時期です。 家族、特に両親の協力が必要です。 家族、特に両親の「子どもの糖尿病」に 対する考え方が重要です。 大人より長い人生を糖尿病とともに 生きることになります。 6-7 Section6 小児ヤングの糖尿病 小児ヤング糖尿病が青壮年者の糖尿病と臨床上異なる点は? 1型糖尿病と2型糖尿病の比率 思春期、第2反抗期、食欲の最も旺盛な時期 摂食障害が表面化する時期 女性の場合、生理不順、妊娠の問題 検尿で発見される2型糖尿病と治療意欲の持続 6-8 Section6 小児ヤングの糖尿病 小児糖尿病に対する治療の考え方 10歳未満の 糖尿病 10歳以降の 糖尿病 6-9 ほとんどが1型糖尿病 インスリン注射による厳格な 血糖コントロールが基本 1型糖尿病に対してはインスリン注射 2型糖尿病に対しては、食生活や 運動などの生活習慣の改善が基本 Section6 小児ヤングの糖尿病 1型糖尿病児の食事療法の実際 食事量や内容は、健常児と同じで、成長にともない 必要エネルギー量は増加します (生活活動強度別エネルギー所要量参照)。 食事などで大きく変動する血糖値に合わせてインスリン 注射量や回数を決め、必要に応じて追加・変更をします。 成長に応じてインスリン必要量は増大するので、 つねに十分量を投与します。 給食は普通に食べましょう。 (糖尿病食事療法のてびき第2版参照) 6-10 Section6 小児ヤングの糖尿病 2型糖尿病児の食事療法の実際 中程度以上の肥満なら、その年齢のエネルギー所要量の 90%程度、軽度肥満なら95%程度を目安とします。 しかし、極端なエネルギー制限、無理であろうと 思われる食事療法を強要しないで下さい。 実行可能な食事療法を継続し、心身の発育が正常に 営まれることが大切です。 ポイントは菓子類、嗜好飲料、清涼飲料などの摂取を 少なく、水分2L、家族ぐるみで薄い味付けを心掛けます。 給食は普通に食べましょう。 (糖尿病食事療法のてびき第2版参照) 6-11 Section6 小児ヤングの糖尿病 [参考] 生活活動強度別エネルギー所要量(kcal/日) 生活活動強度 年齢(歳) 性 I(低い) 男 女 II(やや低い) III(適度) 男 女 男 女 0∼(月) 110∼120/kg 6∼(月) 100/kg IV(高い) 男 女 1∼2 ― ― 1,050 1,050 1,200 1,200 ― ― 3∼5 ― ― 1,350 1,300 1,550 1,500 ― ― 6∼8 ― ― 1,650 1,500 1,900 1,700 ― ― 9∼11 ― ― 1,950 1,750 2,250 2,050 ― ― 12∼14 ― ― 2,200 2,000 2,550 2,300 ― ― 15∼17 2,100 1,700 2,400 1,950 2,750 2,200 3,050 2,500 18∼29 2,000 1,550 2,300 1,800 2,650 2,050 2,950 2,300 妊 娠 +350 授乳婦 +600 生活活動強度が「I(低い)」 または「II(やや低い)」に該 当する者は、日常生活活動の 内容を変えるか、または運動 を付加することによって、生 活活動強度「III(適度)」に 相当するエネルギー量を消費 することが望ましい。 食物繊維の摂取量は、成人で 20∼25g(10g/1,000kcal) とすることが望ましい。 糖質の摂取量は、総エネルギ ー比の少なくとも50%以上で あることが望ましい。 (健康・栄養情報研究会編:第6次改訂 日本人の栄養所要量―食事摂取基準, 第一出版, 東京, 1999, p11より) 6-12 Section6 小児ヤングの糖尿病 これからの課題 ∼生活習慣を見直し糖尿病を予防する∼ 子供の2型糖尿病は 子供だけの問題ではない 大人の2型糖尿病は 大人だけの問題ではない 6-13 Section7 糖尿病と妊娠 Section7 糖尿病と妊娠 Index ポイント 妊娠中の耐糖能異常 妊娠中に起きやすい母体の合併症 児におきやすい合併症 計画妊娠の目的 妊娠前管理のポイント 妊娠の許容条件 妊娠糖尿病(GDM)のスクリーニング 75g糖負荷試験(OGTT)による妊娠糖尿病の診断基準 食事療法 必要なエネルギー量 妊娠時の栄養所要量 妊娠中の血糖コントロール目標 インスリン需要量の変動(例) 正常妊娠における体重増加の因子 Section7 糖尿病と妊娠 ポイント 妊娠中の耐糖能異常には「糖尿病合併妊娠」と 「妊娠糖尿病」の2種類があります。 糖尿病合併妊娠 糖尿病のある人が妊娠した場合 妊娠糖尿病 妊娠中に発症、あるいは初めて 耐糖能異常が発見された 妊娠中には血糖が上昇しやすくなります。 胎盤から分泌される物質はインスリンの作用を弱めてしまう ためインスリン抵抗性となります。 7-1-1 Section7 糖尿病と妊娠 ポイント 先天異常を防ぐ、糖尿病合併症の悪化を防ぐ ためにも計画的な妊娠が大前提です。 妊娠中の薬物療法にはインスリンを用います。 児の合併症を防ぐために、妊娠中は正常血糖値 を目標に血糖コントロールを行います。 7-1-2 Section7 糖尿病と妊娠 妊娠中の耐糖能異常 妊娠中の耐糖能異常には以下の2種類があります。 糖尿病合併妊娠 糖尿病のある人が妊娠 (PreGDM) 妊娠糖尿病 (GDM) 妊娠中に耐糖能異常を発症または はじめて発見された場合 *GDM;Gestational Diabetes Mellitus 7-2 Section7 糖尿病と妊娠 妊娠中に起きやすい母体の合併症 糖尿病網膜症の悪化 糖尿病腎症の悪化 糖尿病ケトアシドーシス 流産 妊娠中毒症 羊水過多症 早産 7-3 Section7 糖尿病と妊娠 児におきやすい合併症 先天異常 巨大児・HFD(heavy-for-dates)児 新生児:低血糖、高ビリルビン血症、 低カルシウム血症、多血症、 呼吸障害 子宮内胎児死亡 7-4 Section7 糖尿病と妊娠 計画妊娠の目的 児の先天異常の予防 妊娠中における母体の 糖尿病合併症の悪化防止 7-5 Section7 糖尿病と妊娠 妊娠前管理のポイント 主治医から許可が出るまで避妊を行います。 血糖値のコントロールを十分に行います。 糖尿病合併症の有無を検査します。 妊娠する前に食事療法を見直します。 経口血糖降下薬を服用している場合は、インスリン注射に 変更します。 妊娠と糖尿病について十分に勉強し知識を身につけます。 血糖の自己測定を正確にマスターします。 月経が不順な時には婦人科を受診します。 7-6 Section7 糖尿病と妊娠 妊娠の許容条件 血糖コントロール HbA1c 6%以下(許容範囲 7-7 7%以下) 糖尿病網膜症 網膜症の合併なし 福田分類の良性網膜症に安定 糖尿病腎症 腎症第1期(腎症前期)または 腎症第2期(早期腎症期) Section7 糖尿病と妊娠 妊娠糖尿病(GDM)のスクリーニング 初診(妊娠初期):問診、検尿、随時血糖値測定 ・随時血糖値≧100mg/dL ・糖尿病のリスクファクターがある ・糖尿病の家族歴 ・肥満 ・35歳以上 ・妊娠糖尿病の既往歴 ・尿糖陽性 ・異常産科歴 75g糖負荷試験(OGTT) 異常認めず GDM 治療 妊娠24-28週:随時血糖値測定 ・随時血糖値≧100mg/dL ・50gGCT 1時間値≧140mg/dL 75g糖負荷試験(OGTT) GDM 治療 7-8 異常認めず 大森安惠ら 糖尿病と妊娠1: 25-29, 2001 改変 Section7 糖尿病と妊娠 75g糖負荷試験(OGTT)による妊娠糖尿病の診断基準 日本産科婦人科学会 1984年、1995年 日本糖尿病学会 1999年 第4回 International WorkshopConference on GDM 1997年 静脈血漿 静脈血漿 空腹時 ≧100mg/dL ≧95mg/dL 1時間 ≧180 ≧180 2時間 ≧150 ≧155 判定基準 以上のうち2つ以上を満たすもの 以上のうち2つ以上を満たすもの 日本糖尿病学会:糖尿病型を示すものは糖尿病として扱う 7-9 Section7 糖尿病と妊娠 食事療法 胎児の健全な発育に必要なエネルギー量の確保と 適切な栄養素配分を行います。 食後高血糖と食前の飢餓によるケトーシスを 予防する摂取時刻および摂取量の配分を 考慮します。 7-10 Section7 糖尿病と妊娠 必要なエネルギー量 標準体重×30kcal+350kcal 肥満妊婦:標準体重×30kcal 速効型インスリンを使用の場合には分食(6-7回) 妊娠中の体重増加の程度により付加エネルギー量は調節 糖尿病食事療法のてびき 第2版 日本糖尿病学会編 7-11 Section7 糖尿病と妊娠 妊娠時の栄養所要量 非妊娠時 (18∼49歳) たんぱく質所要量 妊婦 授乳婦 許容上限摂取量 55g +10g +20g 200μg +200μg +80μg 1,000μg 1,800 IU +200 IU +1,000 IU 5,000 IU ビタミンB1所要量 0.8mg +0.1mg +0.3mg ビタミンB2所要量 1.0mg +0.2mg +0.3mg ビタミンB6所要量 1.2mg +0.5mg +0.6mg ビタミンB12所要量 2.4μg +0.2μg +0.2μg ビタミンC所要量 100mg +10mg +40mg ビタミンD所要量 100 IU +200 IU +200 IU 2,000 IU カルシウム所要量 600mg +300mg +500mg 2,500mg 12mg +8mg +8mg 40mg 葉酸所要量 ビタミンA所要量 鉄所要量 100mg 糖尿病食事療法のてびき 第2版 日本糖尿病学会編 7-12 Section7 糖尿病と妊娠 妊娠中の血糖コントロール目標 血糖値 朝食前血糖値:≦100mg/dL 食後2時間血糖値:≦120mg/dL グリコアルブミン(GA):15%前後 HbA1c:5%前後 7-13 インスリン需要量の変動(例) Section7 糖尿病と妊娠 単位/日 80 1型糖尿病 2型糖尿病 70 イ ン ス リ ン 需 要 量 m±SD 60 50 40 30 20 10 0 0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40週 分娩後 妊娠週数 7-14 東京女子医科大学 糖尿病センター 正常妊娠における体重増加の因子 Section7 糖尿病と妊娠 14 A:貯蔵脂肪(母体) B:組織液 C:血液 D:子宮および乳房 E:胎児、胎盤、羊水 12 母 体 体 重 増 加 量 (kg) 10 8 A B C D 6 4 E 2 0 0 4 8 12 16 20 妊娠週数 7-15 24 28 32 36 40週 糖尿病食事療法のてびき 第2版 日本糖尿病学会編 Section8 日常生活指導 2005年3月改訂 Section8 日常生活指導 8-1 生活習慣(病)と動脈硬化症 ―糖尿病の位置づけ― 8-2 肥満のコントロール 8-3 血圧コントロール ―高血圧の予防― 8-4 脂質コントロール ―高脂血症の予防― 8-5 フットケア 8-6 シックデイ対策 Section8-1 生活習慣(病)と動脈硬化症 ―糖尿病の位置づけ― Section8 日常生活指導 Index ポイント 動脈硬化に関わる因子 肥満による糖尿病の発生機序 インスリン抵抗性と高血圧 体内における血清脂質のながれ 脂質からみた動脈硬化の成り立ち 早期発見のために 血糖コントロール指標と評価 糖尿病における動脈硬化診療ガイドライン 自分でできる簡単なチェック 尿糖測定の実際 血糖自己測定の実際 血糖自己測定がすすめられる患者さん Section8 日常生活指導 ポイント 糖尿病、高脂血症、高血圧症、肥満などがある患者さん では、動脈硬化を起こしやすくなります。 このほか、喫煙、ストレス、加齢なども動脈硬化の危険因子となります。 糖尿病は自己管理が大切です。血糖コントロールの 状態を把握するための自己チェックを行いましょう。 自分でできる主な検査としては、尿糖検査、血糖自己測定、血圧測定、体重測 定などがあります。 血糖自己測定は、主に1型糖尿病の患者さん、 2型糖尿病の患者さんのうちインスリン療法を 行っている人、妊娠中または妊娠を希望する人、 低血糖を起こしやすい人などにすすめられます。 8-1-1 動脈硬化に関わる因子 Section8 日常生活指導 虚血性心疾患 末梢閉塞性 動脈硬化症 脳血管疾患 動脈硬化 高脂血症 加 齢 糖尿病 高血圧症 8-1-2 肥 満 ストレス 喫 煙 Section8 日常生活指導 肥満による糖尿病の発生機序 摂取カロリーの増加 体重増加 インスリン受容体数の減少、受容体以後の変化 インスリン抵抗性の増大 インスリン必要量の増加 2型糖尿病 の遺伝子 膵β細胞の増殖・肥大 β細胞障害 高インスリン血症 相対的インスリン不足 2型糖尿病 8-1-3 Mordes&Rosiniより改変 Section8 日常生活指導 インスリン抵抗性と高血圧 肥満 運動不足・過食・ 食塩感受性など 環境因子 インスリン抵抗性 遺伝因子 高インスリン血症 高血圧 糖尿病 動脈硬化・虚血性心疾患 8-1-4 Section8 日常生活指導 体内における血清脂質のながれ 遊離脂肪酸 肝臓 糖 レムナント リポ蛋白 脂肪組織 筋肉 コレステロール 1. 脂質は小腸あるいは肝臓からリポ蛋白の形で末梢の筋肉に 運ばれ分解されエネルギーとして利用されたり、脂肪組織 で貯蔵されます。 小腸 2. 肝臓は小腸から運ばれる糖質やレムナントや、脂肪組織か ら運ばれる遊離脂肪酸を材料にリポ蛋白を合成します。 3. コレステロールは胆汁により小腸へ排泄されます。 8-1-5 Section8 日常生活指導 脂質からみた動脈硬化の成り立ち リポ蛋白 体内の局所で酸化 変性リポ蛋白 動脈内壁への浸潤 血管内皮細胞障害 動脈硬化 8-1-6 Section8 日常生活指導 早期発見のために 胸痛なし 呼吸困難 食欲不振 定型的狭心痛 心電図 負荷心電図 心エコー図 心筋シンチグラム 冠動脈造影 8-1-7 Section8 日常生活指導 指標 血糖コントロール指標と評価 コントロールの評価とその範囲 良 不十分 HbA1c値(%) 5.8未満 5.8∼ 6.5未満 6.5∼ 7.0未満 空腹時血糖値 80∼ 110未満 110∼ 130未満 130∼160未満 160以上 食後2時間血糖値 80∼ 140未満 140∼ 180未満 180∼220未満 220以上 (mg/dL) (mg/dL) 優 可 不良 7.0∼ 8.0未満 不可 8.0以上 日本糖尿病学会編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン. 15頁, 南江堂, 2004より引用 8-1-8 Section8 日常生活指導 糖尿病における動脈硬化診療ガイドライン 血糖コントロール 空腹時血糖値 正常化(110mg/dL未満をめざし、120mg/dL値を上限とする) HbA1c 正常化(5.8%以下をめざし、6.5%未満を上限とする) 高脂血症 B3(冠動脈疾患−) LDL-C 120mg/dL未満 HDL-C 40mg/dL以上 TG 150mg/dL未満(TC 200mg/dL未満) C(冠動脈疾患+) LDL-C 100mg/dL未満 HDL-C 40mg/dL以上 TG 150mg/dL未満(TC 180mg/dL未満) 高血圧 降圧目標 130/85mmHg(130∼139/85∼89mmHgは生活習慣改善・ 血糖コントロールで3∼6ヵ月経過観察) その他 禁煙、肥満の解消(BMI 25未満になるよう努め、22を目標とする) 日本糖尿病学会 日本動脈硬化学会ガイドライン 8-1-9 Section8 日常生活指導 自分でできる簡単なチェック 尿糖検査 血糖自己測定 血圧測定 体重測定 8-1-10 Section8 日常生活指導 尿糖測定の実際 市販の試験薬を尿に浸し、 尿に糖が出ていないかどうかを調べます。 血糖コントロールの状態を見るための目安となります。 1 コップに尿をとり、 試験紙の先端を浸す 8-1-11 2 試験紙を引き上げ、説明書に 指定された時間(数十秒)まで 試験紙の色が変化するのを待つ 3 試験紙の色と、容器に貼付 されている色調表とを見比べ、 尿糖の有無や量を判定する Section8 日常生活指導 血糖自己測定の実際 市販の測定器を使って測定します。 指先などに専用針を刺して血液を1滴しぼりだし、 センサーに吸引させて自動的に測定します。 測定にかかる時間は1分以内です。 8-1-12 Section8 日常生活指導 血糖自己測定がすすめられる患者さん 1型糖尿病の患者さん 2型糖尿病の患者さんのうちインスリン療法を 行っている人 妊娠中または妊娠を希望する人 低血糖を起こしやすい人 8-1-13 Section8-2 肥満のコントロール Section8 日常生活指導 Index ポイント 肥満とは 肥満症とは 肥満症診断のフローチャート 肥満に起因ないし関連する健康障害 体脂肪分布と糖尿病の頻度 内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満 Section8 日常生活指導 ポイント 肥満のうち、それが健康上の問題を含まない単なる 肥満を「肥満」とし、肥満による健康障害がすでに あったり、今後起こりやすい場合を「肥満症」とよ んで区別しています。 肥満には内臓脂肪型と皮下脂肪型があります。 特に内臓脂肪型肥満が糖尿病や高血圧、高脂血症と 深い関わりがあります。 8-2-1 肥満とは Section8 日常生活指導 BMI 判定 WHO基準 <18.5 やせ 低体重 ≧18.5―<25 正常 正常 ≧25―<30 肥満(1度) 前肥満 ≧30―<35 肥満(2度) 肥満(I度) ≧35―<40 肥満(3度) 肥満(II度) ≧40 肥満(4度) 肥満(III度) * BMI:Body Mass Index = 体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m) * 8-2-2 肥満研究, Vol 6 No1, 2000 Section8 日常生活指導 肥満症とは 肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、 その合併が予測される場合で、医学的に減量を 必要とする病態をいいます。 日本肥満学会肥満症診断基準検討委員会, 2000年より 8-2-3 肥満症診断のフローチャート Section8 日常生活指導 BMI≧25 あり 肥満 肥満による健康障害 または 内臓脂肪蓄積* あり 肥満症 *内臓脂肪蓄積の判定手順 なし 非肥満 スクリーニング検査 ウエスト周囲径計測 男性:85㎝≦ 女性:90㎝≦ 腹部CT検査 内臓脂肪面積100㎠≦ あり 内臓脂肪蓄積 肥満症 日本肥満学会編集委員会編 肥満, 肥満症の指導マニュアル〈第2版〉 8-2-4 Section8 日常生活指導 肥満に起因ないし関連する健康障害 2型糖尿病・耐糖能障害 脂質代謝異常 高血圧 高尿酸血症・痛風 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作 睡眠時無呼吸症候群:Pickwick症候群 脂肪肝 整形外科的疾患:変形性関節症・腰椎症 月経異常 日本肥満学会編集委員会編 肥満, 肥満症の指導マニュアル〈第2版〉 8-2-5 Section8 日常生活指導 体脂肪分布と糖尿病の頻度 18 高度肥満 16 14 糖 尿 12 病 10 の 頻 8 度 6 ( ) % 中等度肥満 非肥満 4 2 0 ≦0.72 0.73-0.76 0.77-0.80 W/H(ウエスト・ヒップ比) 8-2-6 ≧0.81 Hartz A. らを改変 Section8 日常生活指導 内臓脂肪型肥満(左)と皮下脂肪型脂肪(右) BMI:Body Mass Index W:ウエスト H:ヒップ W/H:ウエスト・ヒップ比 TFA:総脂肪面積 SFA:皮下脂肪面積 VFA:内臓脂肪面積 V/S:内臓脂肪面積/皮下脂肪面積 8-2-7 Section8-3 血圧コントロール −高血圧の予防− Section8 日常生活指導 Index ポイント 糖尿病合併高血圧の生命予後 血糖管理と血圧管理(2型糖尿病) 成人における血圧の分類 降圧目標 生活習慣病の修正項目 Section8 日常生活指導 ポイント 糖尿病に高血圧が合併している場合には、 糖尿病や高血圧がない場合や、それぞれ単独の 場合に比べて死亡率が高くなります。 糖尿病患者さんの場合には、血圧は 130/80mmHg未満を目標に治療を行います。 日常生活では、食事制限、適正体重の維持、 アルコール制限、禁煙を心がけましょう。 8-3-1 Section8 日常生活指導 糖尿病合併高血圧の生命予後 1990 - 1995年まで約8,000名の追跡調査 1.00 累 0.9 積 生 存 率 0.8 0 A A:高血圧、糖尿病ともになし B:高血圧あり C:糖尿病あり D:糖尿病合併高血圧 B C D 1000 追跡期間(日) 循環器疾患基礎調査追跡成績:NIPPON DATA90より 8-3-2 Section8 日常生活指導 血糖管理と血圧管理(2型糖尿病) 英国大規模追跡調査(UKPDS)におけるリスク低下率 血糖 血圧 強化療法群 (対 従来療法群) 厳格管理群 (対 非厳格管理群) 糖尿病関連 エンドポイント 12%(p=0.029) 24%(p=0.0046) 細小血管系 エンドポイント 25%(p=0.0099) 37%(p=0.0092) 強化療法群:HbA1c 7.0 厳格管理群:144/82mmHg 従来療法群:HbA1c 7.9 非厳格管理群:154/87mmHg (Lancet 352:837,1998 BMJ 317:703,1998より改変) 8-3-3 Section8 日常生活指導 成人における血圧の分類 高血圧治療ガイドライン2000年版 分類 8-3-4 収縮期血圧 (mmHg) 拡張期血圧 (mmHg) 至適血圧 <120 かつ <80 正常血圧 <130 かつ <85 正常高値血圧 130∼139 または 85∼89 軽症高血圧 140∼159 または 90∼99 中等症高血圧 160∼179 または 100∼109 重症高血圧 ≧180 または ≧110 収縮期高血圧 ≧140 かつ <90 Section8 日常生活指導 降圧目標 糖尿病患者さんは、年齢を問わず 130/80mmHg未満を目標に治療を行う。 腎症を合併して尿蛋白が1g/日以上の 場合は、125/75mmHg未満とする。 高血圧治療ガイドライン2000年版 8-3-5 Section8 日常生活指導 生活習慣の修正項目 食塩制限:7g/日 適正体重の維持* 外食は控えめに、満腹はさけましょう。 コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を 控えましょう。 ** 運動療法(有酸素運動) 禁煙 2 ])BMI 18∼24% *:標準体重(22×[身長(m) **:個々の合併症によるので必ず、主治医と相談してください。 高血圧治療ガイドライン2000年版 8-3-6 Section8-4 脂質コントロール ―高脂血症の予防― Section8 日常生活指導 Index ポイント 高脂血症とは 高脂血症はどのような人に多い? 高脂血症にはどのような症状がありますか? 検査でわかる血清脂質 高コレステロール血症合併糖尿病患者さんの管理基準 Section8 日常生活指導 ポイント 糖尿病患者さんでは高脂血症を合併する人が多く、 合併によって動脈硬化性疾患の発症率が高くなります。 糖尿病患者さんでは、より厳格な血清脂質の管理が 必要です。 LDLコレステロール 120mg/dL未満 HDLコレステロール 40mg/dL以上 中性脂肪 150mg/dL未満 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 8-4-1 Section8 日常生活指導 高脂血症とは 血清脂質、主にコレステロールあるいは 中性脂肪の血中レベルが基準値以上の値を示す病態 動脈硬化性疾患の原因となる 冠動脈疾患 脳血管障害等 8-4-2 Section8 日常生活指導 高脂血症はどのような人に多い? 肥満、糖尿病、お酒を飲む人、閉経後の女性 脳血管障害、冠動脈疾患を既に持っている人 家族に高脂血症患者がいる人 8-4-3 Section8 日常生活指導 高脂血症にはどのような症状がありますか? 基本的には自覚症状が現れないことが多い。 眼瞼、肘、アキレス腱に 黄色腫 脂質が沈着して肥厚します。 角膜輪 8-4-4 黒目と白目の境界が 白く濁ります。 検査でわかる血清脂質 Section8 日常生活指導 基準値 総コレステロール LDLコレステロール HDLコレステロール 中性脂肪 総コレステロール LDLコレステロール が高いと 中性脂肪 HDLコレステロール が低いと 220未満 140未満 40以上 150未満 (mg/dL) 動脈硬化に なりやすい LDLコレステロール = 総コレステロール − HDLコレステロール − 0.2 × 中性脂肪 (現在は直接測定する事が可能です) 8-4-5 動脈硬化性疾患診療ガイドライン Section8 日常生活指導 高コレステロール血症合併糖尿病患者さんの管理基準 冠動脈疾患なし LDLコレステロール HDLコレステロール 中 性 脂 肪 (総コレステロール 120mg/dL未満 40mg/dL以上 150mg/dL未満 200mg/dL未満) 冠動脈疾患あり LDLコレステロール HDLコレステロール 中 性 脂 肪 (総コレステロール 100mg/dL未満 40mg/dL以上 150mg/dL未満 180mg/dL未満) 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 8-4-6 Section8-5 フットケア Section8 日常生活指導 Index ポイント 糖尿病にみられる足病変 足病変の危険因子 足病変の予防 足の自己管理 熱傷の予防(1) 熱傷の予防(2) Section8 日常生活指導 ポイント 糖尿病患者さんの足病変は、近年急速に増加 しています。 糖尿病が原因の神経障害や血行障害のために起こる足の 外傷、潰瘍、壊疽などの病気を糖尿病足病変といいます。 足病変を予防するためには、血糖コントロール、 禁煙、適度な運動、合併症の改善のほか、 定期的に足の診察を受けることも大切です。 8-5-1 Section8 日常生活指導 糖尿病にみられる足病変 足や足趾の変形 白癬(水虫) 爪の変形、爪周囲の炎症 外傷、熱傷 蜂窩織炎 閉塞性動脈硬化症による血行障害 潰瘍、壊疽 8-5-2 Section8 日常生活指導 糖尿病の罹病年数 脂質代謝異常 年齢 末梢神経障害、自律神経障害 喫煙 網膜症による視力障害 肥満 末期腎障害 高血圧 高インスリン血症 高血糖 8-5-3 足病変の危険因子 足病変の予防 Section8 日常生活指導 血糖コントロール 禁煙 適度な運動 高血糖、高血圧、脂質代謝異常、 肥満などの改善 定期的な足の診察 8-5-4 Section8 日常生活指導 足の自己管理 毎日足をよく観察する 足を清潔に保つ 爪はまっすぐに切って、やすりをかける 深爪はしない 切り傷やすり傷を見つけたら消毒する 水疱は感染を防ぐために破らない 熱傷の予防 皮膚の乾燥やひび割れにはクリームを塗る 足に合った靴をはき、靴ずれを予防する タコ、ウオノメは勝手に削らない 8-5-5 Section8 日常生活指導 熱傷の予防(1) 家庭用暖房器具の使用に注意します。 直接熱源への接触は禁止:湯たんぽ、カイロなど 温度を40℃以下に保ちます。 寝具はあらかじめ保温しておきます。 暖房器具の連続使用を避ける:タイマーを利用 夏の砂浜、アスファルト、コンクリートの上を裸足で 歩かないようにします。 強い日射で熱くなったトタン屋根の上での作業、キューポラ、ガラス工場等 各種ボイラーを扱うような高温、高熱の作業の勤務者は一層の注意が必要です。 安全靴は熱傷対策がないため注意が必要です。 風呂は手ないし水温計で水温を計ってから入ります。 糖尿病のフットケア(医歯薬出版)から引用 8-5-6 Section8 日常生活指導 熱傷の予防(2) 砂風呂、サウナ風呂では高温の湯気が出ていることに 気がつかず熱傷を受けた例があるので、 神経障害のある人は避けるほうが好ましい。 同じ姿勢のまま熟睡して暖房器具による熱傷を起こす 例が多い。感冒時の抗ヒスタミン剤・睡眠剤の内服、 深酒、疲労時には使用に注意します。 携帯用カイロは最高温度が70℃以上になるため、 直接皮膚に接触しないようにします。 車のヒーターの使用:ドライブ中の足元の温度の 上がりすぎに注意します。 糖尿病のフットケア(医歯薬出版)から引用 8-5-7 Section8-6 シックデイ対策 Section8 日常生活指導 Index ポイント シックデイとは シックデイの病態 シックデイ対策−1型糖尿病の場合− シックデイ対策−2型糖尿病の場合− 医師へ連絡する場合のポイント Section8 日常生活指導 ポイント シックデイとは、糖尿病治療中の患者さんが、 発熱や下痢、嘔吐、精神的ストレスなどのために 通常の食事がとれなくなり、急激に代謝が乱れた 状態です。 シックデイの際には、十分な水分補給を心掛け、 糖質を主体とした消化のよいものを摂取し、 インスリン治療中の患者さんではインスリン注射の 継続、安静と保温に努めることが大切です。 8-6-1 Section8 日常生活指導 シックデイとは 糖尿病治療中の患者さんが、発熱や下痢、嘔吐、 精神的ストレスなどのために通常の食事がとれなく なり、急激に代謝が乱れた状態をシックデイと いいます。 シックデイでは、食事量が減少して低血糖を起こす こともありますが、インスリン拮抗ホルモンが増加 するためにインスリン抵抗性が強くなり、ほとんど 食事のとれない状況でも高血糖となり得ます。 8-6-2 Section8 日常生活指導 シックデイの病態 インスリン拮抗ホルモンが増加するために、 インスリン効果が減弱した状態(インスリン抵抗性) になります。 相対的なインスリン不足のために血糖や 血中ケトン体値が上昇します。 食欲不振、発熱、下痢、嘔吐を伴うことが多く、 脱水を起こしやすくなります。 8-6-3 Section8 日常生活指導 シックデイ対策−1型糖尿病の場合− 水分の補給と糖質を主体とした消化のよいものを 摂取します。 インスリン治療中の患者さんでは、食事がとれない からといって決してインスリン注射をやめては いけません。血糖値を測定しながらインスリン注射 を行いましょう。 安静と保温に努めてください。 8-6-4 Section8 日常生活指導 シックデイ対策−2型糖尿病の場合− 1型糖尿病の場合と基本的な対策は変わりません。 食事療法のみや経口血糖降下剤で治療中の場合は 血糖自己測定を行っていない場合が多いので、 血糖値の状態を尿糖検査などで確認するように しましょう。 8-6-5 Section8 日常生活指導 医師へ連絡する場合のポイント 医師へ連絡する場合には、 以下の項目を説明できるようにしておきましょう。 注意点として 8-6-6 体温 血糖値または尿糖 脈拍 インスリン注射量 呼吸数 食事の摂取量 血圧 自覚症状の変化 嘔吐や下痢が止まらず、食事が全く摂取できないときや、高熱、高血糖 が続くときには早めに主治医もしくは医療機関に連絡してください。 Section9 糖尿病と上手につきあうために ダイジェスト版 2005年3月改訂 Section9 糖尿病と上手につきあうために ダイジェスト版 9-1 糖尿病とは 9-2 糖尿病の合併症 9-3 糖尿病の治療 9-4 小児の糖尿病 妊娠と糖尿病 9-5 日常生活管理のポイント Section9-1 糖尿病とは Section9 ダイジェスト Index 糖尿病とは? 糖尿病の病型分類 糖尿病と診断されるまでの流れ Section9 ダイジェスト 糖尿病とは? インスリンが十分に作用しない 血液中にブドウ糖がたまってしまう 血糖の濃度(血糖値)が高い状態が続く 9-1-1 Section9 ダイジェスト 糖尿病の病型分類 糖尿病は、その成因によって 大きく4つの病型に分けられます。 病型分類 成因 1型糖尿病 おもに自己免疫により、インスリンを合成・分泌するランゲルハンス島の β細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなる。また、HLA などの遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わって発症する。 2型糖尿病 インスリン分泌の低下や、インスリン抵抗性(インスリンが効き にくい状態)をきたす複数の遺伝因子に、過食や運動不足などの 環境因子が加わって、インスリン作用不足を生じて発症する。 その他の特定の 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの、膵臓病(膵炎、膵臓 がんなど)、内分泌疾患(ホルモンの病気)、肝臓病(肝炎など)、 機序、疾患に 薬剤や化学物質によるもの、感染症などが原因で起こる糖尿病。 よるもの 妊娠糖尿病 妊娠中に発症、あるいは初めて発見された耐糖能異常。 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、11-13頁、文光堂より改変 9-1-2 Section9 ダイジェスト 糖尿病と診断されるまでの流れ ■ 血糖検査(1回目)■ 早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上 75g糖負荷試験 (OGTT)2時間値 200mg/dL以上 いずれかがあてはまれば 有 他の条件 随時血糖値 200mg/dL以上 糖尿病型 1. 糖尿病の症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など) 2. HbA1Cが6.5%以上 3. 糖尿病網膜症 4. 過去に「糖尿病型」を示した資料(検査データ)がある場合 無 ■ 血糖再検査(2回目)■ 早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上 いずれかがあてはまれば 糖尿病として治療を開始 75g糖負荷試験 (OGTT)2時間値 200mg/dL以上 随時血糖値 200mg/dL以上 あてはまらなければ 糖尿病型として経過観察 ※血糖再検査(2回目)の場合は1回目とは違う方法で検査することが望ましいとされています。 9-1-3 Section9-2 糖尿病の合併症 Section9 ダイジェスト Index 糖尿病の主な合併症 糖尿病神経障害とは 糖尿病網膜症の進行 糖尿病腎症とは 糖尿病と心筋梗塞 糖尿病足病変の発生機序 糖尿病に合併しやすい皮膚疾患 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)とは 糖尿病と関連の深い感染症 低血糖とは 低血糖の対処法 Section9 ダイジェスト 糖尿病の主な合併症 糖尿病神経障害 糖尿病網膜症 糖尿病腎症 糖尿病足病変 動脈硬化性疾患 (冠動脈硬化症、 脳血管障害、下肢 閉塞性動脈硬化症) 9-2-1 動脈硬化 脳 脳血管障害 糖尿病昏睡 感染症 呼吸器 感冒・肺炎 肺結核 皮膚病 皮膚 感染症 糖尿病神経障害 神経 目 糖尿病網膜症 白内障 緑内障 心臓 冠動脈硬化症 心筋梗塞 狭心症 腎臓 糖尿病腎症 尿毒症 泌尿器 勃起障害 排尿障害 尿路感染症 膀胱炎 足 水虫 壊疽 下肢閉塞性 動脈硬化症 Section9 ダイジェスト 糖尿病神経障害とは 慢性の高血糖状態によって生じた神経障害で、 糖尿病以外の原因を除外して診断します。 最も早期に出現し、最も頻度の高い 糖尿病合併症です。 代表的な糖尿病神経障害である多発末梢神経 障害は両足先や足底部の知覚障害から発症し、 徐々に上方に進行します。 9-2-2 Section9 ダイジェスト 9-2-3 糖尿病網膜症の進行 障害の状況 自覚症状 単純網膜症 ほとんどなし 注意 ・網膜の毛細血管がもろくなる。 ・毛細血管内にできた小さなコブが破れ、 点状出血ができる。 ・血液成分がしみ出て白斑が生じる。 前増殖網膜症 ほとんどなし やや危険 ・点状出血、白斑の数が多くなる。 ・毛細血管内に大きなコブができ、 異常血管が増える。 ・網膜に血流がとどこおる領域ができる。 増殖網膜症 危険 ・新生血管ができる。 ・新生血管が破れ、硝子体出血が起きる。 ・増殖膜ができる。 ・網膜剥離が起きる。 ・大出血が起こると失明にいたる。 ・視力の極端な低下。 ・黒いものがちらつく。 ・ものがぶれて見える。 Section9 ダイジェスト 糖尿病腎症とは 高血糖 毛細血管が集まっている腎糸球体に異常 腎臓の働きに重大な障害が生じ腎症が発症 徐々に悪化する進行性の病気。 命に直接かかわる怖い合併症。 糖尿病患者の死因の約15%を占める 。 9-2-4 Section9 ダイジェスト 糖尿病と心筋梗塞 50 45 40 7 年 35 間 30 の 発 25 症 20 率 15 (%) 10 5 0 糖尿病 − 心筋梗塞の既往 − − + + − + + Haffner SM et al. NEJM (339) 229-234, 1998 9-2-5 Section9 ダイジェスト 糖尿病足病変の発生機序 神経障害 循環障害 感染症 糖尿病のフットケア(医歯薬出版)より改変 9-2-6 Section9 ダイジェスト 糖尿病に合併しやすい皮膚疾患 糖尿病浮腫性硬化症 カンジダ症 黒色棘皮症(表皮症) 帯状疱疹 デュピュイトラン拘縮 掌蹠膿胞症 足白癬・爪白癬 9-2-7 リポイド類壊死症 前脛骨部色素斑 糖尿病水疱 糖尿病壊疽 胼胝 (タコ) 蜂窩織炎 鶏眼(ウオノメ) 角化 Section9 ダイジェスト 糖尿病昏睡(高血糖昏睡)とは インスリンが極度に不足すると ブドウ糖が細胞にとりこまれず、うまくエネルギーに変えられ ないので、血管内にブドウ糖が蓄積し、代わりに脂肪が分解され、 エネルギー源として利用されます 脂肪分解の結果、副産物であるケトン体が血液中に過剰に 増えて血液が酸性になります(ケトアシドーシス) 脳の機能が低下して昏睡に陥ります 9-2-8 Section9 ダイジェスト 糖尿病と関係の深い感染症 虫歯、歯周病 肺炎、肺結核 かぜ、気管支炎 胆のう炎 腎盂腎炎 爪白癬症 おできや毛のう炎 足白癬症 9-2-9 膀胱炎 糖尿病壊疽 Section9 ダイジェスト 低血糖とは インスリン製剤や経口血糖降下薬により 血糖値が下がり過ぎて起こります。 放置すれば昏睡に陥ることもある危険な 状態です。 9-2-10 Section9 ダイジェスト 低血糖の対処法 自分で気づいた場合 糖分を摂取(砂糖10∼20g)。 砂糖がなければ、糖分を含んだジュースでもかまいません。 α-グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン)を服用しているときは 砂糖をとっても効き目がすぐに現れないので必ずブドウ糖を服用してください。 意識がない場合 砂糖やジュースを口に入れると気管に入る可能性があるので 避けましょう。グルカゴン製剤を処方されている場合には、 第三者が筋肉注射します。意識が回復しなければ病院へ運びます。 9-2-11 Section9-3 糖尿病の治療 Section9 ダイジェスト Index 糖尿病治療の目標 糖尿病治療の基本 食事のとり方のポイント 効果的な運動とは 経口血糖降下薬の種類 経口血糖降下薬の作用と副作用 インスリン製剤の種類 注射器の種類 インスリン皮下注射部位 インスリン療法の基本型(1) インスリン療法の基本型(2) インスリン療法の基本型(3) インスリン療法の基本型(4) Section9 ダイジェスト 糖尿病治療の目標 血糖値をコントロール 合併症を予防する 腎症 網膜症 神経障害 動脈硬化症 急性合併症 糖尿病昏睡 低血糖 健康な人と変わらない日常生活を送る 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2004-2005、21頁、文光堂より改変 9-3-1 Section9 ダイジェスト 糖尿病治療の基本 薬物療法 インスリン注射 経口血糖降下薬 食事療法 運動療法 糖尿病に対する 正しい知識 9-3-2 血糖値を コントロール 健康な人と 変わらない 日常生活を送る Section9 ダイジェスト 食事のとり方のポイント まとめ食いと夜食を避ける。 よく噛み、ゆっくり食べる。 1日3食を規則正しくとる。 腹八分目を心がける。 デザートや果物もエネルギー計算に入れる。 9-3-3 Section9 ダイジェスト 効果的な運動とは 有酸素運動(酸素を取り入れながら行う運動) エアロビクス ウォーキング サイクリング 水泳 など 20∼30分の運動を少なくとも週に3日は行う。 食事の1∼2時間後に行うのが効果的。 9-3-4 Section9 ダイジェスト 経口血糖降下薬の種類 筋肉などに働く チアゾリジン誘導体 インスリン作用を高め 血糖値を下げる 膵臓に働く スルホニル尿素(SU)薬 速効型インスリン分泌促進薬 インスリンを出して血糖値を 下げる 肝臓などに働く ビグアナイド(BG)薬 肝臓で糖がつくられるのを 抑える一方、糖の利用を 促進する 9-3-5 腸に働く α-グルコシダーゼ阻害薬 糖質吸収を遅らせ、食後の 血糖上昇を抑制する Section9 ダイジェスト 経口血糖降下薬の作用と副作用 種類(一般名) 原則的な 服用時間 スルホニル尿素(SU)薬 (トルブタミド、グリベンクラミド、 食前 グリクラジド、グリメピリドなど) 20-30分前 ビグアナイド(BG)薬 (メトホルミン、ブホルミン) α-グルコシダーゼ阻害薬 (アカルボース、ボグリボース) チアゾリジン誘導体 (ピオグリタゾン) 速効型インスリン分泌促進薬 (ナテグリニド、ミチグリニド) 9-3-6 食後 作用 インスリン分泌促進 低血糖 インスリン作用の増強 胃腸障害 まれに乳酸アシドーシス 食後の高血糖を改善 食直前 主な副作用 腸管での糖質の分解・吸収を 抑制 消化器症状(膨満感、放屁、便秘、下痢) 他の血糖降下薬剤との併用時、低血 糖時、ブドウ糖以外の糖類の補食では 低血糖からの回復が遅れる事がある 肝障害 食前または インスリンの作用を増強し、 浮腫、心不全、肝障害、貧血 食後 インスリン抵抗性改善 体重増加 食直前 インスリン分泌促進 低血糖 Section9 ダイジェスト インスリン製剤の種類 注射後 0 効果が現れる時間と作用の 持続時間の違いによって いくつかの種類がある。 超速効型 速効型 混合型 中間型 持効型溶解 9-3-7 6 12 18 24 30 時間 36 注射器の種類 Section9 ダイジェスト ペン型 220 140 180 100 60 20 カートリッジタイプ シリンジ 9-3-8 ディスポーザブルタイプ(キット) Section9 ダイジェスト 9-3-9 インスリン皮下注射部位 Section9 ダイジェスト インスリン療法の基本型(1) 追加補充療法 超速効型あるいは速効型インスリンを毎食前投与 超速効型あるいは速効型インスリンを毎食前3回注射 注 射 注 射 超速効型 または 速効型 朝食 9-3-10 注 射 超速効型 または 速効型 昼食 超速効型 または 速効型 夕食 Section9 ダイジェスト インスリン療法の基本型(2) 基礎補充療法 中間型、あるいは持効型溶解インスリンを1日1∼2回投与 注射 中間型 朝食 注射 昼食 夕食 眠前 朝食 注射 昼食 夕食 注射 持効型溶解 9-3-11 朝食 眠前 注射 昼食 夕食 眠前 朝食 昼食 夕食 眠前 Section9 ダイジェスト インスリン療法の基本型(3) 基礎 ・ 追加補充療法-1 混合型インスリンを1日2回注射 混合型インスリンを1日2回 注射、昼食前に速効型または 超速効型インスリンを追加 イ ン ス リ ン 効 果 イ ン ス リ ン 効 果 注 射 混合型 混合型 混合型 注 射 朝食 昼食 夕食 注 射 注 射 注 射 速効型 または 超速効型 混合型 朝食 9-3-12 混合型 就寝 混合型 昼食 夕食 就寝 Section9 ダイジェスト インスリン療法の基本型(4) 基礎 ・ 追加補充療法-2 食前に速効型/超速効型+ 中間型または持効型溶解 インスリンを朝または眠前 注 射 注 射 速効型 または 超速効型 注 射 速効型 または 超速効型 注 射 速効型 または 超速効型 中間型/持効型溶解 朝食 持続皮下インスリン 注入法(CSII) 追加 昼食 追加 夕食 追加 持続注入 朝食 9-3-13 昼食 夕食 眠前 Section9-4 小児の糖尿病 妊娠と糖尿病 Section9 ダイジェスト Index 30歳未満で発見された糖尿病患者さんの年齢別病型別患者数 妊娠中に起きやすい母体の合併症 児におきやすい合併症 妊娠前管理のポイント Section9 ダイジェスト 30歳未満で発見された糖尿病患者さんの年齢別病型別患者数 小児期・思春期の糖尿病には1型も2型もあります。 160 140 120 患 者 100 数 80 (人)60 40 20 0 1型糖尿病 (n=841) 2型糖尿病 (n=1,335) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 発見年齢(歳) (東京女子医科大学糖尿病センター 1980∼1995)大谷ら 糖尿病42:179, 1997 9-4-1 Section9 ダイジェスト 妊娠中に起きやすい母体の合併症 糖尿病網膜症の悪化 糖尿病腎症の悪化 糖尿病ケトアシドーシス 流産 妊娠中毒症 羊水過多症 早産 9-4-2 Section9 ダイジェスト 児におきやすい合併症 先天異常 巨大児・HFD(heavy-for-dates)児 新生児:低血糖、高ビリルビン血症、 低カルシウム血症、多血症、 呼吸障害 子宮内胎児死亡 9-4-3 Section9 ダイジェスト 妊娠前管理のポイント 主治医から許可が出るまで避妊を行います。 血糖値のコントロールを十分に行います。 糖尿病合併症の有無を検査します。 妊娠する前に食事療法を見直します。 経口血糖降下薬を服用している場合は、インスリン注射に 変更します。 妊娠と糖尿病について十分に勉強し知識を身につけます。 血糖の自己測定を正確にマスターします。 月経が不順な時には婦人科を受診します。 9-4-4 Section9-5 日常生活管理のポイント Section9 ダイジェスト Index 動脈硬化に関わる因子 肥満とは 降圧目標 高コレステロール血症合併糖尿病患者さんの管理基準 足の自己管理 シックデイとは シックデイ対策−1型糖尿病の場合− シックデイ対策−2型糖尿病の場合− 動脈硬化に関わる因子 Section9 ダイジェスト 虚血性心疾患 末梢閉塞性 動脈硬化症 脳血管疾患 動脈硬化 高脂血症 加 齢 糖尿病 高血圧症 9-5-1 肥 満 ストレス 喫 煙 肥満とは Section9 ダイジェスト BMI 判定 WHO基準 <18.5 やせ 低体重 ≧18.5―<25 正常 正常 ≧25―<30 肥満(1度) 前肥満 ≧30―<35 肥満(2度) 肥満(I度) ≧35―<40 肥満(3度) 肥満(II度) ≧40 肥満(4度) 肥満(III度) * BMI:Body Mass Index = 体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m) * 9-5-2 肥満研究, Vol 6 No1, 2000 Section9 ダイジェスト 降圧目標 糖尿病患者さんは、年齢を問わず 130/80mmHg未満を目標に治療を行う。 腎症を合併して尿蛋白が1g/日以上の 場合は、125/75mmHg未満とする。 高血圧治療ガイドライン2000年版 9-5-3 Section9 ダイジェスト 高コレステロール血症合併糖尿病患者さんの管理基準 冠動脈疾患なし LDLコレステロール HDLコレステロール 中 性 脂 肪 (総コレステロール 120mg/dL未満 40mg/dL以上 150mg/dL未満 200mg/dL未満) 冠動脈疾患あり LDLコレステロール HDLコレステロール 中 性 脂 肪 (総コレステロール 100mg/dL未満 40mg/dL以上 150mg/dL未満 180mg/dL未満) 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 9-5-4 Section9 ダイジェスト 足の自己管理 毎日足をよく観察する 足を清潔に保つ 爪はまっすぐに切って、やすりをかける 深爪はしない 切り傷やすり傷を見つけたら消毒する 水疱は感染を防ぐために破らない 熱傷の予防 皮膚の乾燥やひび割れにはクリームを塗る 足に合った靴をはき、靴ずれを予防する タコ、ウオノメは勝手に削らない 9-5-5 Section9 ダイジェスト シックデイとは 糖尿病治療中の患者さんが、発熱や下痢、嘔吐、 精神的ストレスなどのために通常の食事がとれなく なり、急激に代謝が乱れた状態をシックデイと いいます。 シックデイでは、食事量が減少して低血糖を起こす こともありますが、インスリン拮抗ホルモンが増加 するためにインスリン抵抗性が強くなり、ほとんど 食事のとれない状況でも高血糖となり得ます。 9-5-6 Section9 ダイジェスト シックデイ対策−1型糖尿病の場合− 水分の補給と糖質を主体とした消化のよいものを 摂取します。 インスリン治療中の患者さんでは、食事がとれない からといって決してインスリン注射をやめては いけません。血糖値を測定しながらインスリン注射 を行いましょう。 安静と保温に努めてください。 9-5-7 Section9 ダイジェスト シックデイ対策−2型糖尿病の場合− 1型糖尿病の場合と基本的な対策は変わりません。 食事療法のみや経口血糖降下剤で治療中の場合は 血糖自己測定を行っていない場合が多いので、 血糖値の状態を尿糖検査などで確認するように しましょう。 9-5-8